JP4470008B2 - ターゲット材およびその製造方法、並びに酸化物超電導体薄膜 - Google Patents

ターゲット材およびその製造方法、並びに酸化物超電導体薄膜 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度で配向の揃った酸化物超電導体、およびその製造方法並びに前記酸化物超電導体から製造したターゲット材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、実用的な酸化物超電導長尺線材を引くための酸化物超電導体薄膜を製造するには、CVD法、レーザー蒸着法、反応性蒸着法、スパッタリング法、等が用いられている。このうち、スパッタリング法、レーザー蒸着法ではターゲット材にイオンまたはレーザー光を照射して、ターゲット材を構成する原子または分子を叩き出し、所望の基板上に薄膜を形成させようとするものである。
このターゲット材として用いられる酸化物超電導体は、少なくとも20mm角以上、または20mmφ以上のサイズが求められるため、焼結法、またはホットプレス焼成法で製造されるのが一般的である。
【0003】
ここで、焼結法とは、酸化物超電導体の構成元素の酸化物もしくは酸化物形成化合物(炭酸塩、硝酸塩、等)の粉末を仮焼した後、成型用バインダーを添加して成形し焼結させる方法である。ホットプレス焼成法とは前記構成元素の粉末または成形体を型に入れ、高温高圧で焼成する方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記、従来の技術には次のような問題点があることが本発明者らによって明らかにされた。
すなわち、焼結法においては成形体の成形性を向上させるため、バインダーの添加が不可欠であるが、このバインダーは焼結中に分解するため、その分解ガスによって焼結後の成形体に割れや反りが生じることがある。
【0005】
一方、ホットプレス焼成法においてはプレスの際に用いるカーボン製の型材からカーボンが融出し、焼結後の成形体に不純物として混入することがある。
また、焼結法およびホットプレス焼成法の共通の問題点として、作製されたターゲット材を用いて薄膜製造する際、原料の飛散量が安定しないため、得られた薄膜の膜厚が不均一となり、その結果、超電導特性等が不均一となることがあった。
【0006】
ここで、これらの問題点の解決策として、酸化物超電導体の単結晶をターゲット材として用いることが考えられる。しかし、前記単結晶体は結晶の成長に多大な時間を要するため、原料融液と坩堝との反応により原料融液の組成ずれが発生する。このため前記単結晶をターゲット材として必要なサイズまで成長させることは行われていなかった。
【0007】
本発明は上述の背景のもとでなされたものであり、バインダーや成形型を使用していないため、反りや割れが無く不純物濃度が低く、且つ相対密度も高いが、作製に伴う作業性やコストの点でも実用の域に達している酸化物超電導体、およびこの酸化物超電導体から作製された、スパッタの際に原料飛散量の安定性を図ることのできる酸化物超電導体のターゲット材、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、本発明者らが鋭意研究した結果、良好な超電導特性を有する薄膜を成膜するために、ターゲット材として用いられる酸化物超電導体が満たすべき要件が明らかとなった。
1.酸化物超電導体の成形体に割れや反りがあると、ターゲット材を製造することができない。よって、成形体の製造過程においてバインダーを使用しないことが好ましい。
2.酸化物超電導体の成形体中に不純物が混入していると、成膜された超電導薄膜の特性が安定しないことから、高温高圧下において型材等は使用しないしないことが好ましい。
3.ターゲット材を用いた成膜の際、原料の飛散量を安定させるためには、ターゲット材を構成する酸化物超電導体において結晶粒の粒子径は0.5mm以上に大型化し、全体の理論密度を100%としたときの相対密度は95%以上あることが好ましい。
さらに、各々の結晶粒において、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなしていること、相互のc軸の傾角は5°以下で配向していることが好ましい。
4.ターゲット材としても使用可能なサイズとして、少なくとも20mm角以上または20mmφ以上、好ましくは50mm角または50mmφ以上の酸化物超電導体を、作業性良く低コストで製造できることが好ましい。
【0009】
前記1〜3の要件を満たすためには、前記構成元素の粉末にバインダーを加え焼結する方法、または型に入れてホットプレスする方法ではなく、前記構成元素の粉末を高温で溶融させこの融液から酸化物超電導体を引き上げる方法が好ましい。
しかしここで前記単結晶体を引き上げるような工程を採ると、前述したように結晶成長に多大の時間を要するため、必要な面積を有する結晶を得ることができず、前記4.の要件を満たすことができない。
【0010】
ここで本発明者らは数々の試行錯誤を重ねた結果、画期的な酸化物超電導体の引き上げ方法に想達した。
すなわち、製造目的とする酸化物超電導体より高い融点を有し、前記目的とする酸化物超電導体融液と接触しても融解しないc軸に配向した酸化物超電導体の薄膜、厚膜、または製造目的とする酸化物超電導体と同等以上の融点を有する酸化物超電導体の溶融体、であって所望の酸化物超電導体と同様以上のサイズを有するものを基板として準備した。次に、この基板を前記融液の表面に接触させた後引き上げたところ、基板上に目的とする酸化物超電導体の単結晶粒子の集合体を生成させることができた。
こうして得られた、目的とする酸化物超電導体の単結晶粒子の集合体をターゲット材に加工したところ、前記1〜4の要件を全て満たすことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、上述の課題を解決するための第1の発明は、酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であって、95%以上の相対密度を有し、前記酸化物超電導体単結晶粒子の粒径は0.5mm以上であり、前記酸化物超電導体単結晶粒子は相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなしており、相互のc軸の傾角は5°以下であるようにならんで配向し、
ターゲット材として使用可能なサイズを有していることを特徴とする酸化物超電導体単結晶粒子の集合体である。
【0012】
第2の発明は、所望の面積を有するc軸に配向した酸化物超電導体の、薄膜、厚膜または溶融体のいずれかの表面より成長した酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であって、95%以上の相対密度を有し、前記酸化物超電導体単結晶粒子の粒径は0.5mm以上であり、前記酸化物超電導体単結晶粒子はc軸に配向し、ターゲット材として使用可能なサイズを有していることを特徴とする酸化物超電導体である。
【0013】
第2の発明は、所望の面積を有するc軸に配向した酸化物超電導体の、薄膜、厚膜または溶融体のいずれかの表面より成長した酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であって、95%以上の相対密度を有し、前記酸化物超電導体単結晶粒子の粒径は0.5mm以上であり、前記酸化物超電導体単結晶粒子において、相互のc軸の傾角は5°以下であるようにならんで配向していることを特徴とする酸化物超電導体単結晶粒子の集合体である。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体から作製したことを特徴とするターゲット材である。
【0015】
第4の発明は、第1または第2の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を構成する酸化物超電導体より高い融点を有する酸化物超電導体を含む基板を準備し、
前記基板の表面を、適宜に調製された原料融液の表面に接触させた後、引き上げることで、前記基板の表面へ第1の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を形成することを特徴とする酸化物超電導体単結晶粒子の集合体の製造方法である。
【0016】
第5の発明は、前記基板として、セラミック基板上に、酸化物超電導体を成膜したもの用いることを特徴とする第4の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体の製造方法である。
【0017】
第6の発明は、前記基板として、セラミック基板上に、第1または第2の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を構成する酸化物超電導体より高い融点を有する酸化物超電導体を成膜したものを用いることを特徴とする第4の発明に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体の製造方法である。
【0018】
第7の発明は、溶融法で製造されたREBaCuO系の材料を基板として用いて、前記基板の表面を、適宜に調製された原料融液の表面に接触させた後、引き上げることで、前記基板の表面へ酸化物超電導体単結晶粒子を形成することを特徴とする酸化物超電導体の製造方法である。
【0019】
第8の発明は、前記基板の表面を、適宜に調製された原料融液の表面に接触させた後、引き上げる際、前記融液から前記基板へ向けて1〜100℃/cmの温度勾配をもうけたことを特徴とする第4〜第7の発明のいずれかに記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体の製造方法である。
【0020】
第9の発明は、前記原料融液を調製する際、融解される原料元素と同様の元素からなる坩堝を用いることを特徴とする第4〜第8の発明のいずれかに記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体の製造方法である。
【0021】
第10の発明は、第3の発明に記載のターゲット材を用いて成膜したことを特徴とする酸化物超電導体薄膜である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図1を参照しながら説明する。
図1は、後述する実施例2において作製された酸化物超電導体ターゲット材の外観斜視図である。
図1において、酸化物超電導体ターゲット材10とは、酸化物超電導体の単結晶体1、2、3、4、…の集合体20を後述する準備された成形体30上に成長させた後、成形したものである。
まず、準備された成形体30について説明する。
準備された成形体30とは、作製目的である酸化物超電導体の単結晶体集合体20より高い融点を有し、前記酸化物超電導体の単結晶体集合体20の融液と接触しても融解しない組成を有する酸化物超電導体の成形体で、最終的に所望する酸化物超電導体と同様以上のサイズを有するものをいう。
この準備された成形体30としては、セラミック基板(MgO、YSZ、(LaAlO30.3−(SrAl0.5Ta0.530.7、Y23、SrTiO3、LaAlO3、YAlO3、LaSrAlO4、NdCaAlO4、NdGaO3、LaGaO3、LaSrGaO4等)上に酸化物超電導体を、スパッタリング法、レーザー蒸着法、ペースト法、有機酸塩法、等により成膜後、必要により焼結して得られた酸化物超電導体膜付きのセラミック基板が使用できる。
また、溶融法で製造されたREBaCuO系の材料のc軸配向面を用いることもできる。この場合、成長する結晶もc軸配性が向上するために、引き上げ速度を早めることができ、さらに前記酸化物超電導体の単結晶体集合体20の融液と同等の融点を有する材料も使用可能となる等、好ましい実施の形態である。
尚、REとはYを含む希土類元素のことである。
【0023】
前記準備された成形体30を、前記融液の表面に接触させた後引き上げる。
この際、前記準備された成形体30から前記融液への温度勾配は1〜100℃/cmとすることにより成膜速度を早く出来る点で好ましい。
さらにこの時の引き上げ速度は0.05〜10mm/hrであることが引き上げられる酸化物超電導体の均一性を保つ上で好ましい。
またこの引き上げの際、前記準備された成形体30を1〜300rpmで回転させながら引き上げることが、前記引き上げられる酸化物超電導体の均一性を保つ上で好ましい。
【0024】
尚、前記融液を調製する際、坩堝から融液中へ不純物が混入するのを防ぐために、坩堝の材質として融液中に含まれる元素と同様の元素からなる坩堝を用いることが好ましい。
また、この引き上げ方法により作製する酸化物超電導体ターゲット材中の希土類元素としては、何れの希土類元素またはこれらの混合物を用いることもできるが、Nd、Sm、Gdの何れか、またはこれらの混合物を50at%以上含むように希土類元素を選択すると、この酸化物超電導体ターゲット材を用いて製造した超電導線材の高磁場中における臨界電流密度を高めることができる。
【0025】
以上の操作により、前記準備された成形体30上に前記引き上げられた酸化物超電導体の0.5〜10mmの単結晶体1、2、3、4、…の集合体20を得ることができた。(以下「単結晶集合体20」と記す。)この単結晶集合体20をXRDで分析したところ、前記準備された成形体30上にc軸配向しており、且つ超電導特性を示さない液相成分の成長は見られなかった。
そして各々の単結晶粒において、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、このため、この単結晶集合体20の密度は、酸素がほぼ詰まった状態の酸化物超電導体の理論密度を100%としたときの相対密度において95%以上であった。
一方、単結晶集合体20において各単結晶相互のc軸の傾角は5°以下で配向していた。
【0026】
次に、この単結晶集合体20および準備された成形体30を酸化物超電導体ターゲット材1に成形加工して、スパッタリング法およびレーザー蒸着法により酸化物超電導薄膜の成膜を実施したところ、原料の飛散量は安定していた。さらに得られた酸化物超電導薄膜は均一な厚さを有し、不純物混入も見られないものであった。
【0027】
(実施例1)
原料として純度3NのBaCuO2とY2BaCuO5との粉体をモル比でY:Ba:Cu=4:36:60となるように秤量、混合し坩堝内に装填する。
坩堝にはY23製のものを用い、まず1070℃に昇温させ原料粉を融解した後、坩堝の上部が低温側となるように上下に8℃/cmの温度勾配を加え、坩堝内の融液の上部が1000℃となるまで降温させた。
【0028】
一方、準備された基板材として25mm角のMgO基板を用い、その表面にYBa2Cu37酸化物超電導体より融点の高いSmBa2Cu37-X、NdBa2Cu37-X、GdBa2Cu37-X、等のペースト剤をスプレー塗布した後、1020℃で10時間焼成したものを用いた。
前記準備された基板材を、前記融液に接触させた後、引き上げ速度0.5mm/hr、回転速度100rpmの条件で、4mm程度まで引き上げを行い、その後、引き上げ速度を10mm/hrにして融液との切り離しを行った。
その結果、前記準備された25mm角の基板面全体に渡って、厚さ約4mm、縦横0.6〜4mm角、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、相互のc軸の傾角が5°以下である、Y1Ba2Cu3x単結晶体が並んだ単結晶集合体を得ることができた。この単結晶集合体の密度を測定したところ6.23g/cm3であった。これは理論密度を6.34g/cm3としたときの相対密度で約98%に相当する。
【0029】
得られた単結晶集合体をXRDで分析したところ、前記準備された基板面に垂直な方向がc軸であるようにc軸配向していた。またさらにICPにより組成分析をおこなったところモル比でY:Ba:Cu=1.01:2.02:2.97であることが判明し、不純物も含まれていないことが確認された。
【0030】
この単結晶集合体を4枚作製し、並べて研磨し酸化物超電導体ターゲット材に加工した。そしてYSZの配向膜を中間層として成膜したハステロイテープ上に、イオンビームアシスト蒸着法によりY1Ba2Cu3x超電導薄膜の成膜を1mにわたって実施したところ、前記準備された基板材を作製するにあたり、いずれのペースト材を用いたターゲット材においても、長時間にわたり原料の飛散量が安定していた。さらに得られた超電導薄膜はほぼ均一な厚さを有し不純物混入も見られないものであった。
【0031】
このようにして得られた超電導薄膜をXRDで分析したところ、Y1Ba2Cu3xの(00n)の配向ピークが観測された。
また作製された1mのテープの両端に電流端子を接続して、77Kにおける臨界電流密度を4端子法で測定したところ、外部磁場のない状態で5×105A/cm2、外部磁場2T中で1×105A/cm2と長尺で高い臨界電流密度特性のテープ線材を得ることができた。これは原料の飛散量が安定したための効果と考えられる。
【0032】
(実施例2)
実施例1と同様にしてY23坩堝内に組成がY:Ba:Cu=4:36:60の融液を調製する。
一方、基板材の作製は以下のように行った。
まずbY23、BaCO3、CuOの各原料粉末をY:Ba:Cu=1.8:2.4:3.4になるように秤量した後、BaCO3、CuOのみを、880℃で30時間焼成してBaCuO2とCuOの仮焼粉を得た。(モル比でBaCuO2:CuO=2.4:1.0となる。)
【0033】
次に、この仮焼粉と、前記秤量しておいたY23と、0.5wt%のPt粉末(平均粒径0.01μm)とを混合した後、大気中900℃で10時間焼成を行い仮焼粉を得た。この仮焼粉をライカイ機で粉砕し、平均粒径を約2μmとし合成粉を得た。このようにして作製された合成粉を、外径53mm厚さ27mmのデイスク状にプレス成形して前駆体を作製した。
【0034】
この前駆体をY23粉末を敷いたアルミナ基板上に載せて、2ゾーン型の炉体内に設置した。
そして、炉体内の温度を、室温から50時間で1100℃に昇温した後20分保持して、前駆体を半溶融状態にした後、前駆体の上部が低温側となるように前駆体上下に5℃/cmの温度勾配を加え、前駆体の上部温度が1005℃となるまで10℃/minで降温した。
ここで予め溶融法にて作製しておいたNd1.8Ba2.4Cu3.4x組成の種結晶を、成長方向がc軸と平行になるように前駆体の上部に接触させ、前駆体の上部温度を1005℃から0.5℃/hrの速度で995℃まで降温した後、40時間温度保持し、そこからさらに925℃まで70時間かけて徐冷した。
次に、前駆体上部の温度は925℃のままで、前駆体上下の温度勾配が0℃/cmとなるように前駆体下部側を冷却し、そこから室温まで20時間で徐冷することによって前駆体の結晶化を行った。
【0035】
この前駆体の結晶を切断して断面をEPMAで観察したところ、Y1Ba2Cu37-x相中に0.1〜30μm程度のY2BaCuO5相が微細に分散していた。また、種結晶を反映して、ディスク状をした前駆体の結晶の軸方向がc軸であるように結晶全体が配向していた。
得られた前駆体の結晶を、厚さ方向がc軸となるように25mm角、厚さ5mmに加工し、これを基板材とした。
【0036】
次に、この基板材を白金線で固定し、前記、組成がY:Ba:Cu=4:36:60の融液の融液面に接触させ、引き上げ速度1mm/hr、回転速度100rpmの条件で4mm程度まで引き上げをおこなった後、引き上げ速度を10mm/hrにして融液との切り離しを行った。
その結果、前記準備された25mm角の基板面全体に渡って厚さ約4mm、縦横0.6〜4mm角、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、相互のc軸の傾角が5°以下であるように並んだY1Ba2Cu3x単結晶集合体を得ることができた。この単結晶集合体の密度を測定したところ6.22g/cm3であった。これは理論密度を6.34g/cm3としたときの相対密度で約98%に相当する。
【0037】
得られた単結晶集合体をXRDで分析したところ、前記準備された基板面に垂直な方向がc軸であるようにc軸配向していた。またICPにより組成分析をおこなったところ、モル比でY:Ba:Cu=0.99:2.01:3.00であることが判明し、不純物が含まれていないことも確認された。
【0038】
この単結晶集合体を4枚作製し、並べて研磨し酸化物超電導体ターゲット材に加工した。そしてYSZの配向膜を中間層として成膜したハステロイテープ上にイオンビームアシスト蒸着法によりY1Ba2Cu3x超電導薄膜の成膜を1mにわたって実施したところ、長時間のスパッタとなったにも拘わらず原料の飛散量は安定していた。得られた超電導薄膜はほぼ均一な膜厚を有し、不純物混入も見られないものであった。
【0039】
このようにして得られた超電導薄膜をXRDで分析したところ、Y1Ba2Cu3xの(00n)の配向ピークが観測された。また1mのテープの両端に電流端子を接続して77Kにおける臨界電流密度を4端子法で測定したところ、外部磁場のない状態で8×105A/cm2、外部磁場2T中で1.5×105A/cm2と、長尺で高い臨界電流密度特性のテープ線材を得ることができた。これは原料の飛散量が安定したための効果と考えられる。
【0040】
(実施例3)
原料として純度3NのBaCuO2とSm2BaCuO5との粉体をモル比でSm:Ba:Cu=4:36:60となるように秤量、混合し坩堝内に装填する。
坩堝にはSm23製のものを用い、まず1100℃に昇温させ原料粉を融解した後、坩堝の上部が低温側となるように上下に8℃/cmの温度勾配を加え、坩堝内の融液の上部が1050℃となるまで降温させた。
【0041】
一方、基板材の作製は以下のように行った。
Sm23、BaCO3、CuOの各原料粉末をSm:Ba:Cu=1.2:2.1:3.1になるように秤量した後、BaCO3、CuOのみを、880℃で30時間焼成してBaCuO2とCuOの仮焼粉を得た。(モル比でBaCuO2:CuO=2.1:1.0とした。) 次に、この仮焼粉と前記秤量しておいたSm23と、0.5wt%のPt粉末(平均粒径0.01μm)と、10wt%のAg粉末(平均粒径0.45μm)とをて混合し他後、大気中900℃で10時間焼成を行い仮焼粉を得た。この仮焼粉をライカイ機で粉砕し、平均粒径約2μmとし合成粉を得た。このようにして作製された合成粉を外径53mm厚さ27mmのデイスク状にプレス成形して前駆体を作製した。
【0042】
そして、予め溶融法により作製したSm1.2Ba2.1Cu3.1x組成の縦横5mm角、厚さ2mmのペレット片をアルミナ基板上に敷き、その上にこの前駆体を載せて2ゾーン型の炉体内に設置した。
そして、炉体内の温度を、室温から50時間で1100℃に昇温した後20分保持して、前駆体を半溶融状態にした後、前駆体の上部が低温側となるように上下に5℃/cmの温度勾配を加えて前駆体の上部温度が1025℃となるまで10℃/minで降温した。
ここで予め溶融法にて作製しておいたNd1.8Ba2.4Cu3.4x組成の種結晶を、成長方向がc軸と平行になるように前駆体の上部に接触させ、1025℃から0.5℃/hrの速度で1015℃まで降温した後、40時間温度保持し、そこから945℃まで70時間かけて徐冷した。
次に、前駆体上部の温度は945℃のままで、前駆体上下の温度勾配が0℃/cmとなるように下部側を冷却し、そこから室温まで20時間で徐冷することによって前駆体の結晶化を行った。
【0043】
この前駆体の結晶を切断して断面をEPMAで観察したところ、Sm1+pBa2+q(Cu1-bAgb37-x相中に0.1〜30μm程度のSm2+rBa1+s(Cu1-dAgd)O5-y相が微細に分散していた。ここで、p、q、r、s、yはそれぞれ−0.2〜0.2の値であり、xは−0.2〜0.6の値であった。また、b、dは0.0〜0.05の値であり、平均的には0.008程度であった。また、種結晶を反映して、ディスク状をした前駆体の結晶の軸方向がc軸であるように結晶全体が配向していた。
得られた結晶を厚さ方向がc軸となるように25mm角、厚さ5mmに加工し、これを基板材とした。
【0044】
次に、この基板材を白金線で固定し、前記、組成がSm:Ba:Cu=4:36:60の融液の融液面に接触させ、引き上げ速度2mm/hr、回転速度100rpmの条件で4mm程度まで引き上げを行った後、引き上げ速度を10mm/hrにして融液との切り離しを行った。
その結果、前記準備された25mmの基板面全体に渡って厚さ約4mm、縦横0.6〜4mm角、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、相互のc軸の傾角が5°以下である、Sm1Ba2Cu3x単結晶体が並んだ単結晶集合体を得ることができた。この単結晶集合体の密度を測定したところ6.65g/cm3であった。これは理論密度を6.84g/cm3としたときの相対密度で約97%に相当する。
得られた単結晶集合体をXRDで分析したところ前記準備された基板面に垂直な方向がc軸であるようにc軸配向していた。またICPにより組成分析をおこなったところモル比でSm:Ba:Cu=1.03:1.99:2.98であることが判明し、不純物が含まれていないことも確認された。
【0045】
この単結晶集合体を4枚作製し、並べて研磨し酸化物超電導体ターゲット材に加工した。そしてYSZの配向膜を中間層として成膜したハステロイテープ上にイオンビームアシスト蒸着法によりSm1Ba2Cu3x超電導薄膜の成膜を1mにわたって実施したところ、長時間のスパッタとなったにも拘わらず原料の飛散量が安定していた。得られた超電導薄膜はほぼ均一な厚さを有し、不純物混入も見られないものであった。
このようにして得られた超電導薄膜をXRDで分析したところ、Sm1Ba2Cu3xの(00n)の配向ピークが観測された。また1mのテープの両端に電流端子を接続して77Kにおける臨界電流密度を4端子法で測定したところ、外部磁場のない状態で8.5×105A/cm2、外部磁場2T中で8×105A/cm2と、長尺で高い臨界電流密度特性のテープ線材を得ることができた。これは原料の飛散量が安定したための効果と考えられる。
【0046】
(実施例4)
原料として純度3NのBaCuO2とGd2BaCuO5との粉体をモル比でGd:Ba:Cu=4:36:60となるように秤量、混合し坩堝内に装填する。
坩堝にはGd23製のものを用い、まず1100℃に昇温させ原料粉を融解した後、坩堝の上部が低温側となるように上下に8℃/cmの温度勾配を加え、坩堝内の融液の上部が1025℃となるまで降温させた。
【0047】
一方、準備された基板材として、実施例3と同様にして25mm角厚さ5mmのSm1.2Ba2.1Cu3.1x組成の基板材を作製した。
次に、この基板材を白金線で固定し、前記、組成がGd:Ba:Cu=4:36:60の融液の融液面に接触させ、引き上げ速度1.5mm/hr、回転速度100rpmの条件で4mm程度まで引き上げを行った後、引き上げ速度を10mm/hrにして融液との切り離しを行った。
その結果、前記準備された25mmの基板面全体に渡って厚さ約4mm、縦横0.6〜4mm角、相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、相互のc軸の傾角が5°以下である、Gd1Ba2Cu3x単結晶体が並んだ単結晶集合体を得ることができた。この単結晶集合体の密度を測定したところ6.87g/cm3であった。これは理論密度を6.95g/cm3としたときの相対密度で約99%に相当する。
【0048】
得られた単結晶集合体をXRDで分析したところ、前記準備された基板面に垂直な方向がc軸であるようにc軸配向していた。またICPにより組成分析をおこなったところ、モル比でGd:Ba:Cu=1.00:1.99:3.01であることが判明し、不純物が含まれていないことも確認された。
【0049】
この単結晶集合体を4枚作製し、並べて研磨して酸化物超電導体ターゲット材に加工した。そしてYSZの配向膜を中間層として成膜したハステロイテープ上にイオンビームアシスト蒸着法によりGd1Ba2Cu3x超電導薄膜の成膜を1mにわたって実施したところ、長時間のスパッタとなったにも拘わらず原料の飛散量は安定していた。得られた超電導薄膜はほぼ均一な膜厚を有し、不純物混入も見られないものであった。
このようにして得られた超電導薄膜をXRDで分析したところ、Gd1Ba2Cu3xの(00n)の配向ピークが観測された。また1mのテープの両端に電流端子を接続して77Kにおける臨界電流密度を4端子法で測定したところ、外部磁場のない状態で8.0×105A/cm2、外部磁場2T中で6×105A/cm2と、長尺で高い臨界電流密度特性のテープ線材を得ることができた。これは原料の飛散量が安定したための効果と考えられる。
【0050】
(比較例1)
原料として純度3NのY23とBaCO3とCuOとの各原料粉末をモル比でY:Ba:Cu=1:2:3になるように秤量、混合した後、920℃で20時間2回焼成して合成粉を得た。得られた合成粉を縦横50mm、厚さ3mmに成形して成形体とし、これを930℃で30時間焼成することにより酸化物超電導体ターゲット材を作製した。
このターゲット材の密度を測定したところ5.9g/cm3(理論密度を6.34g/cm3としたときの相対密度で約93%)であった。
【0051】
このターゲット材を用いて、実施例1と同様にYSZの配向膜を中間層として成膜したハステロイテープ上に、イオンビームアシスト蒸着法によりY1Ba2Cu3x超電導薄膜の成膜を1mにわたって実施した。
しかしながら、ターゲットの密度が低く、さらに結晶粒同士の結合性も不均一なために、スパッタ中の原料の飛散量が安定せず、得られた超電導薄膜の厚さは部分的に不均一なところがあった。また1mのテープの両端に電流端子を接続して77Kにおける臨界電流密度を4端子法で測定したところ、外部磁場のない状態で1×105A/cm2、外部磁場2T中で0.2×105A/cm2のテープ線材となった。
これは原料の飛散量が安定しなかったために、部分的に特性が低いところが発生し、全体として特性が低くなってしまったものと考えられる。
【0052】
【発明の効果】
バインダーや成形型を使用していないため、反りや割れが無く不純物濃度が低く且つ相対密度も高いのに加え、ターゲット材に要求されるサイズを満たす酸化物超電導体を作製した。この酸化物超電導体は酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であって、95%以上の相対密度を有し、前記酸化物超電導体単結晶粒子の粒径は0.5mm以上であり、前記酸化物超電導体単結晶粒子は相互のa軸またはb軸が、90°±5°または180°±5°の角度をなし、相互のc軸の傾角は5°以下となるように並んでc軸に配向していることを特徴とする酸化物超電導体であった。
そして、イオンビームアシスト法やスパッタ法等の薄膜製造方法の際に、この酸化物超電導体より作製したターゲット材を用いると原料飛散量の安定性が図れるという効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導体の斜視図である。
【符号の説明】
1.2.3.4.… 酸化物超電導体の単結晶体
10. 酸化物超電導体ターゲット材
20. 酸化物超電導体の単結晶体集合体
30. 準備された成形体

Claims (7)

  1. 上面が20mm角以上または20mmφ以上の面積を有するc軸に配向した酸化物超電導体の、薄膜、厚膜または溶融体のいずれかの表面より成長した酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であって、95%以上の相対密度を有し、前記酸化物超電導体単結晶粒子の粒径は0.5mm以上であり、前記酸化物超電導体単結晶粒子において、相互のc軸の傾角は5°以下であるようにならんで配向している酸化物超電導体単結晶粒子の集合体であることを特徴とするターゲット材
  2. 請求項1に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を構成する酸化物超電導体より高い融点を有する酸化物超電導体を含み、上面が20mm角以上または20mmφ以上の面積を有する基板を準備し、前記基板の表面を、適宜に調製された原料融液の表面に接触させた後、引き上げることで、前記基板の表面へ請求項1に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を形成することを特徴とするターゲット材の製造方法。
  3. 前記基板として、セラミック基板上に、酸化物超電導体を成膜したものを用いることを特徴とする請求項2に記載のターゲット材の製造方法。
  4. 前記基板として、セラミック基板上に、請求項1に記載の酸化物超電導体単結晶粒子の集合体を構成する酸化物超電導体より高い融点を有する酸化物超電導体を成膜したものを用いることを特徴とする請求項2に記載のターゲット材の製造方法。
  5. 前記基板の表面を、適宜に調製された原料融液の表面に接触させた後、引き上げる際、前記融液から前記基板へ向けて1〜100℃/cmの温度勾配をもうけたことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のターゲット材の製造方法。
  6. 前記原料融液を調製する際、融解される原料元素と同様の元素からなる坩堝を用いることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のターゲット材の製造方法。
  7. 請求項1に記載のターゲット材を用いて成膜したことを特徴とする酸化物超電導体薄膜。
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