JP4465053B2 - 食用農産物の処理装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として収穫された野菜や果実類等の食用農産物の鮮度保持および/または追熟処理する場合に用いられる食用農産物の処理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
野菜等の水分含有量の大きい食用農産物は、生産地で収穫されてから消費者の手元に届くまでの流通過程において、水分含有率(以下、含水率と称する)の低下や表面葉の褪色などによる鮮度の経時的な劣化が避けられない。殊に、レタス等の葉菜類野菜は一般的に呼吸面積及び水分蒸散面積が大きいために、光や温度・湿度など農産物の生長環境制御因子に非常に敏感である。特に、上記の生長環境制御因子の変動が大きい夏期では、生長が著しく速くて表面葉の緑度(以下、葉緑度と称する)の持続時間が短く、表面葉の黄度(以下、葉黄度と称する)が急速に進行するとともに、水分の蒸散作用に起因して水分含有率が急速に低減し、鮮度の経時的な劣化が顕著で、食用農作物商品としての、いわゆる日持ちが非常に短い。
【0003】
また、食用農産物のうち、主としてバナナ、洋ナシ等の果実類やトマト等の果菜類野菜などのように、樹上で完熟させた場合、果皮が裂けて虫の産卵被害を受けるとか、果実類特有の風味、香りが欠ける等の商品価値の低下に繋がる問題を発生する恐れがある食用農産物においては、緑熟段階で収穫し、その後、追熟処理することによって成分の充実、組織の軟化、香気の発現、変色など質的な変化を伴う熟度を進行させて人工的に完熟させる方法が採られている。
【0004】
このような収穫後の食用農産物の処理のうち、野菜等の鮮度保持手段として、従来一般には、収穫後の農産物に予冷を施したり、流通過程のうちで最も時間のかかる輸送段階で凡そ5〜10℃程度の定低温状態に保持したりするなどの保冷手段が採用されている。また、果実類や果菜類野菜等の追熟手段として、従来一般には、温度以外に最も大きな追熟因子として考えられる呼吸作用に密接に関連する炭酸ガス (CO2)およびエチレンガス (C24)の吐出量に着目して、気密室内に果実類等の食用農産物を収容し、この気密室内に処理促進剤としてのエチレンガスや追熟速度調整(抑制)剤としての炭酸ガスを供給することで、農作物自体の呼吸作用を制御して追熟処理する手段が採用されていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の如き従来一般の処理手段のうち、野菜等の鮮度保持に採用されている保冷手段の場合は、本来、通常の室温(15℃程度)では収穫後の棚持ち期間が3〜7日間程度と短くて所定の鮮度保持の効果がほとんど得られないことから、上述のように、5〜10℃程度の低い保存温度に設定し、その低温保冷状態を長時間に亘り連続的に持続するものである。そのため、食用農産物の乾燥による風味の低下が避けられないばかりでなく、特に日中の温度が高く、かつ、昼夜の温度差が大きい夏期にも所定の鮮度保持効果を発揮させるためには輸送時等において非常に大きな保冷エネルギーを必要とする問題があり、設備および経済性の面からみて好ましくない。
【0006】
一方、炭酸ガスやエチレンガスを使用する従来の追熟処理手段の場合は、大型の気密室が必要であるだけでなく、ガス圧の管理及びガス供給量の制御に高度かつ複雑な制御装置及びそのための操作等も必要となり、さらに、炭酸ガスやエチレンガスが消耗材として使用されるものであるから、大掛かりな設備を要するだけでなく、追熟処理作業に多大な手間及び労力を要し、作業性、処理能率および経済性の面からみて実用的でない。特に、エチレンガスは引火性に富んでいるため、それの使用に際しては安全性にも十分な配慮を要する。その上、温度条件が同一であっても、気密室内のガス組成が変化すると、追熟に反して追熟抑制といった逆効果を生じるという問題もあった。
【0007】
また、上記野菜等の鮮度保持のための保冷手段に代わる方法として、例えば特開平1−191669号公報に開示されているように、食品収納庫に収納された食品に高周波電磁界を作用させることで、食品を活性化して鮮度を保持する方法や、特開平3−35777号公報に開示されているように、生鮮食品を静磁場下に保存することで、その食品中に存在する微生物の育成を抑制し、かつ酵素の活性を低下させて鮮度を保持する方法なども提案されている。しかし、前者の方法では、高周波電磁界の印加に伴い含有水分の分子運動が加速されて誘導加熱が起こって食品自体が改変質されてしまうという問題があり、また、後者の方法では、流通過程においても常時あるいは長時間に亘って連続的に食品を磁場に暴露するものである。そのために、磁性体容器や磁性体包装用フィルムなどの使用が必要があって、空中の浮遊金属塵埃などを吸引して汚れやすく、それら金属塵埃自体が食品に付着し、直接口に入るなど、食品として重要な衛生面・安全面で大きな問題がある。このように、食用農産物の鮮度保持方法として十分な効果を奏するまでには至っていないばかりか、これら磁場を利用する方法は、追熟処理について全く意図されたものでない。
【0008】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、生産出荷地等で極く短時間で簡易な処理を施すだけで、葉菜類野菜等については生長を抑制し葉緑度の長時間持続及び含水率の低下防止によって鮮度保持特性を大幅に改善することができ、また、緑熟段階で収穫される果実類等については生長を促進し確実かつ能率よい追熟効果を発揮させることができ、しかも、設備的にも容易かつ経済的に実現することができる食用農産物の処理装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る食用農産物の処理装置は、収穫後の食用農産物に対して、当該食用農産物の生長軸方向またはそれにほぼ平行な方向に単発パルス状磁場を印加することが可能であり、且つ前記単発パルス状磁場の強さを磁場の中心軸上におけるピーク値で0.03〜0.5テスラとし、該単発パルス状磁場を1回当たりの印加時間を4〜50ミリ秒として前記食用農作物に対して1〜5回印加する磁場発生装置を備え、該磁場発生装置は、直流高電圧発生部と、発生された高電圧エネルギーを蓄え該エネルギーをパルス状電流として出力するパルス状電流発生部と、ここから出力されるパルス状電流の入力に伴い単発パルス状磁場を発生する磁場発生用電磁コイルとから構成されていることを特徴とするものである。なお、本発明において、「単発パルス状磁場」とは、周期性を必要としないことを意味し、また複数回加えてもよい。
【0010】
上記のような特徴を有する本発明によれば、レタス等の葉菜類野菜についてはそれの収穫後に、単発パルス状磁場という強大な磁気エネルギーを生長軸方向またはそれにほぼ平行な方向に向けて瞬間的あるいは極く短時間に亘って直接印加することで、該食用農産物の植物形態および分子構造を瞬間的に根本から変化させてその後の該食用農作物の生長を抑制し、これによって、葉緑度の長時間持続及び葉黄度の進行速度の低下が図れるだけでなく、含水率の低下を抑制して収穫時とほぼ同一水準の含水率の維持が図れ、食用農産物全体としての鮮度保持特性を大幅に改善することが可能となる。また、上記のような磁場処理を施さないものに比して同一の鮮度保持効果を得るための保存温度を高くすることが可能で、つまり、保存温度を通常の室温程度に高温化しても、従来の保冷による鮮度保持の場合と同等以上の鮮度保持効果が得られるために、流通過程などでの保冷エネルギーの大幅な節減が図れる。
【0011】
また、バナナ、洋ナシ等の果実類やトマト等の果菜類野菜については緑熟段階で収穫した後、単発パルス状磁場という強大な磁気エネルギーを生長軸方向またはそれにほぼ平行な方向に向けて瞬間的あるいは極く短時間に亘って直接印加することで、該食用農産物の追熟因子として大きなウェイトを占める呼吸作用に密接に関連する炭酸ガスやエチレンガスの吐出量を適切に制御して該食用農作物の生長を促進し、これによって、葉黄度の進行速度の上昇が図れるだけでなく、固有の風味、香りを引き出して食用農産物全体を早期に追熟させることが可能となる。また、上記のような磁場処理を施すだけでよく、大掛かりな気密室の設置および消耗材としての炭酸ガスやエチレンガスの使用が不要であり、追熟処理のための設備及び作業性を簡素にして所定の追熟効果を経済的かつ能率的に達成することができる。
【0012】
上記食用農産物の処理装置における磁場発生装置としては、直流高電圧発生部と、発生された高電圧エネルギーを蓄え該エネルギーをパルス状電流として出力するパルス状電流発生部と、ここから出力されるパルス状電流の入力に伴い単発パルス状磁場を発生する磁場発生コイルとから構成されたもの、特に、パルス状電流発生部としては、直流高電圧発生部で発生された高電圧に応じた電荷を蓄積し放電するコンデンサから構成されたコンデンサ蓄勢式磁場発生装置を用いることにより、装置全体の小型軽量化が図れるとともに、商用電源を用いて、生産出荷地から流通の末端地までの広い範囲のどこででも任意かつ手軽に所定の鮮度保持および/または追熟処理を実施することが可能である。
【0013】
また、上記食用農産物の処理装置において、上記磁場発生装置により発生される単発パルス状磁場の強さを食用農産物の生長軸上のピーク値において0.03〜0.5テスラの範囲で調整可能に構成することにより、単一の処理装置を準備するだけで、上述したような鮮度保持処理および追熟処理のいずれにも簡単に使用選択することが可能である。
【0014】
さらに、上記食用農産物の処理装置において、発生される単発パルス状磁場の磁力線が食用農産物の生長方向と同一方向に向かう状態と、生長方向とは逆方向に向かう状態とに切換え可能に構成することによって、後述の実験データからも証明されるように、被処理食用農産物の種類等に応じて磁場の印加方向を任意かつ適切に切り換えてそれぞれの処理効果を高めるべく用いることが可能である。なお、本発明において、「生長方向」とは、一般に、葉は上向きに生長し、一方、根は下向きに生長するので、葉については上向きをいい、根については下向きをいう。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は本発明に係る食用農産物の処理装置の概略構成図であり、該処理装置は大別して、単発パルス状磁場発生電源7と、円筒形で食用農産物Aをほぼ同軸上に収納保持可能な形態に構成された磁場発生コイル6と、両者6,7を電気的に断続するスイッチ8とからなる。
【0016】
図2は上記単発パルス状磁場発生電源7のブロック回路図の一例、図3はそれの具体的な回路構成図の一例である。この単発パルス状磁場発生電源7は、サイリスタによる双方向位相制御方式の入力部1aおよび絶縁トランス1bを有する電力可変型AC入力部1と、多数直列に接続された耐電圧の高い整流器(たとえばシリコン整流体のような半導体整流器)Grの接続点に一つおきに各側にコンデンサCを直列に積み重ねて最終段でnE(n:整流器及びコンデンサの数、E:入力トランス部の二次側高電圧)の直流電圧を発生させるようになされたコッククロフト・ウォルトン回路からなる直流高電圧発生回路2と、複数のコンデンサCとスイッチSWとからなるコンデンサ充放電回路3と、サイリスタSCRを用いたスイッチ回路4と、ダイオードDを用いて正の波形を出力する正クランプ回路からなるクローバー回路5とを備えている。このようなコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生電源7の使用によって、上記コイル6の中心軸上には、図4に示すような波形を持つ単一極性で、強大な磁場強度を持つ単発パルス状磁場(磁界)Puが発生されるように構成されている。
【0017】
なお、図3に示す構成のコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生電源7において、クローバー回路5を省略した場合は、図5の(a)に示すような波形の単発パルス状磁場Puを発生させることが可能であり、また、放電回路を各種工夫することにより、図5の(b)や(c),(d)に示すような波形の単発パルス状磁場Puを発生させることが可能であり、図4に示す波形の単発パルス状磁場Puに代えて図5の(a)〜(d)に示す波形の単発パルス状磁場Puを印加してもよい。
【0018】
また、上記図3に示すコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生電源7のAC入力部1においてサイリスタの位相制御による主コンデンサ3の充電電圧調整もしくは該コンデンサ3の容量をスイッチSWにより適切に切り替える等によってコイル6に発生される単発パルス状磁場の強度を調整可能としている。
【0019】
次に、上記のように構成されたコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生装置を備えた食用農産物の処理装置を用いて、収穫後のレタス等の葉菜類野菜を鮮度保持するための磁場処理方法について簡単に説明する。
図6に示すように、レタス等の葉菜類野菜Aを上記円筒形磁場発生用電磁コイル6の内部空間に、その生長軸Ac方向がコイル6の中心軸(磁場の中心軸)20と平行またはほぼ平行になるように収納し保持させる。この状態で、上記コンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生装置におけるAC入力部1に単相AC50/60Hzの位相制御された電圧を印加すると、電源7の各回路2〜5による直流高電圧の発生や充放電、クランプ等の動作及びスイッチ8を経てコイル6には図6の矢印aまたはbに示すように磁力線が束になって流れる。この磁束の流れは葉菜類野菜Aの生長軸Ac方向またはそれにほぼ平行な方向であり、食用農産物Aにはそれの生長軸Ac方向またはほぼ平行な方向で、図4もしくは図5に示したような単発パルス状磁場Puが印加されることになる。
【0020】
ここで、上記単発パルス状磁場の強さは、磁場の中心軸20上のピーク値が0.03〜0.5テスラ、好ましくは、0.05〜0.15テスラの範囲に設定し、また、コンデンサ充放電回路3におけるコンデンサ放電サイクルにより決定される単発パルス状磁場Puの単位印加時間を4〜50ミリ秒に設定している。
【0021】
以上のような磁場強さ及び単位印加時間を持つ単発パルス状磁場が一回または必要に応じて複数回印加された葉菜類野菜Aは、その植物形態および分子構造が瞬間的に根本から変化してその後の該食用農作物の生長が抑制されることになり、これによって、葉緑度が長時間持続され、かつ葉黄度の進行速度が低下されるだけでなく、水分蒸散作用による含水率の低下が抑制されて収穫時とほぼ同一水準の含水率が維持され、食用農産物全体としての鮮度を長時間に亘って保持し食用農作物商品としての日持ち(寿命)を延ばすことが可能である。
【0022】
以下、単発パルス状磁場の印加による食用農産物の鮮度保持処理に関し本発明者が行った実験例について説明する。
〔実験例1〕
実験条件;
(1)試料:グリーンリーフレタス
(2)単発パルス状磁場の印加方向:
図6の破線で示すように、磁力線が茎側から葉側または先端部へ向かう順方向a、実線で示すように、葉側または先端部から茎側への逆方向bおよび一点鎖線で示す直角方向c
(3)単発パルス状磁場の強さ:
コイルの中心軸20上のピーク値において、0.05T(テスラ)、0.1T、0.2T、0.5T、2T、0T(無処理)
(4)単発パルス状磁場の印加回数:5回
(5)保存温度:室温(15℃)
上記(1)〜(5)の条件下での処理品と無処理品との葉色特性(葉緑度及び葉黄度)の差異を検討した。
【0023】
実験結果;
葉緑度の経日変化特性は、図7の(a),(b),(c)に示す通りであり、また、葉黄度の経日変化特性は、図8の(a),(b),(c)に示す通りであった。これら葉色特性結果からみて、収穫後のグリーンリーフレタスに0.05〜0.2Tの単発パルス状磁場を生長軸方向に沿って、特に、生長方向と同一の順方向aに印加することにより、その処理品の室温(15℃)下保存の場合の棚持ち期間L1は7〜8日となり、無処理品の棚持ち期間L(5日)に比べて2〜3日延長可能であること、及び、単発パルス状磁場を生長軸に対して直角方向に印加する場合には殆ど棚持ち期間の延長が望めないことが判明した。
【0024】
〔実験例2〕
実験条件;
(1)試料:グリーンリーフレタス
(2)単発パルス状磁場の印加方向:
図6の実線で示すように、茎側から葉側または先端部へ向かう順方向
(3)単発パルス状磁場の強さ:
コイルの中心軸20上のピーク値において、0.1T、0T(無処理)
(4)単発パルス状磁場の印加回数:5回
(5)保存温度:収穫後の自然保存(5℃〜22℃)
上記(1)〜(5)の条件下での処理品と無処理品との含水率(乾重量/元の葉片重量)の差異を検討した。
【0025】
実験結果;
含水率(%)の経日変化特性は、図9に示す通りであった。この特性結果からみて、収穫後のグリーンリーフレタスに0.1Tの単発パルス状磁場を生長軸方向で生長方向と同一方向に5回印加することにより、その処理品の自然保存下で9日目の含水率は収穫初日とほぼ同じに保たれているのに対し、無処理品の9日目の含水率は7〜8%低下していることが判明した。
【0026】
また、上記のように構成されたコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生装置を備えた食用農産物の処理装置を用いて、緑熟段階で収穫されたバナナ、洋ナシ等の果実類やトマト等の果菜類野菜などの食用農産物を追熟するための磁場処理方法について簡単に説明する。
上記の鮮度保持の場合と同様に、緑熟段階で収穫された食用農産物Aを図6の上記円筒形磁場発生コイル6の内部空間に、その生長軸Ac方向がコイル6の中心軸20と平行またはほぼ平行になるように収納し保持させる。この状態で、上記コンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生装置におけるAC入力部1に単相AC50/60Hzの位相制御された電圧を印加させて、電源7の各回路2〜5による直流高電圧の発生、充電、クランプ等の動作及びスイッチ8を経てコイル6に図6の矢印aまたはbに示すように食用農産物Aの生長軸Ac方向またはそれにほぼ平行な方向で、図4もしくは図5に示したような単発パルス状磁場Puを印加する。
【0027】
ここで、上記単発パルス状磁場の強さは、磁場の中心軸20上のピーク値が0.1テスラ以上、好ましくは、0.2テスラ以上に設定し、また、上記単発パルス状磁場の単位印加時間は、上述の場合と同様に4〜50ミリ秒に設定している。
【0028】
以上のような磁場強さ及び単位印加時間を持つ単発パルス状磁場が一回または必要に応じて複数回印加された食用農産物Aは、その追熟因子として大きなウェイトを占める呼吸作用に密接に関連する炭酸ガスやエチレンガスの吐出量が適切に制御されてその生長が促進されることになり、これによって、葉黄度の進行速度の上昇が図れるだけでなく、固有の風味、香りを引き出して農産物全体を早期に追熟させることが可能である。
【0029】
以下、単発パルス状磁場の印加による食用農産物の追熟処理に関し本発明者が行った実験例について説明する。
〔実験例3〕
実験条件;
(1)〜(5)ともに実験例1と同様にし、このような条件下での処理品と無処理品との葉色特性(葉黄度)の差異を検討した。
【0030】
実験結果;
葉黄度の経日変化特性は、図8(a),(b),(c)に示す通りであり、この図8の葉黄度特性結果からみて、収穫後のグリーンリーフレタスに0.1T以上の単発パルス状磁場を生長軸Ac方向に印加することにより、室温(15℃)保存下において、処理品は無処理品に比べて棚持ち期間終了日までの生長速度が大きくて追熟効果を有すること、及び、単発パルス状磁場を生長軸Acに対して直角方向cに印加する場合には磁場強度の大きさに関係なく、処理品と無処理品の生長速度に殆ど差が生じず、追熟効果を期待することができないことが判明した。
【0031】
また、図8(a)(c)の特性図の比較からも明らかなように、単発パルス状磁場の印加方向を生長方向と同一の順方向とした場合の方が逆方向とした場合に比して生長速度がより大きく、特に、単発パルス状磁場を順方向に印加する場合の磁場の強さを0.2T以上とするときは、無処理品の棚持ち期間終了日時点での葉黄度と同等の葉黄度に達するまでの日数が1〜2日短縮され、非常に大きな追熟効果が得られることが判った。
【0032】
さらに、単発パルス状磁場を順方向に印加する場合において、磁場の強さを0.1T以下とすると、図8(c)の特性図のように、無処理品に比べて追熟効果がない結果が現れているが、この場合の磁場の強さはあくまでも試料の生長軸上のピーク値を示すものであり、コイルに対し密接状態にある試料の外周葉片部に対しては実質的に0.15T以上の磁場強さが印加され、無処理品に比べて十分な追熟効果が得られることもある。また、本実験例ではグリーンリーフレタスを試料とした場合であるが、バナナ、洋ナシ等の果実類やトマト等の果菜類野菜を試料とした実験では、磁場の強さが0.1T以上であれば、印加方向を順方向、逆方向のいずれにした場合も、無処理品に比べて十分な追熟効果が得られることを確認している。
【0033】
なお、単発パルス状磁場の印加手段としては、上記実施の形態で説明したコンデンサ蓄勢方式の単発パルス状磁場発生装置が小型軽量であるとともに、商用電源を用いてどこででも任意かつ容易に所定の磁場処理を実現可能で最も実用的、経済的である。
【0034】
また、上記実施の形態におけるコンデンサ蓄勢方式単発パルス状磁場発生装置を備えた食用農産物の処理装置においては、磁場発生用電磁コイル6として円筒形のものを使用したが、それに限らず、角柱形、角錐形、円錐形、それらの複合形、渦巻形、樽形でもよく、上下または左右に分割されたものを用いてもよい。
【0035】
また、食用農産物をケースに詰めてコンベヤにより高速搬送させながら、その食用農産物ケースに単発パルス状磁場を印加させる形態で本発明方法を実施する場合の単発パルス状磁場発生コイルとしては、(A)磁場発生コイルを複数に分割し、それら分割コイルを各コイルによる発生磁束が加算されるようにカスケード接続した分割電磁コイル方式、(B)角型もしくは円型の単一小形コイルの複数個を並列に配置するとともに、これら複数個の小形コイルをカスケード接続したマルチ電磁コイル方式、等が考えられる。
【0036】
図10(a)は上記(A)の分割電磁コイル方式を採用した単発パルス状磁場発生装置の一例である。これは、食用農産物ケースACを搬送するコンベヤ10の上下両側に円筒形のコイル2A,2Bを対向配置し、これら2つのコイルをカスケード接続するとともに、各コイル2A,2Bそれぞれに、透磁率が高く、残留磁気の大きい、かつ、渦電流の発生を低減できる電気抵抗の大きな珪素鋼板などを積層してなる継鉄11A,11Bを付設して構成したものである。このような継鉄使用の分割コイル方式の単発パルス状磁場発生装置によれば、各コイル2A,2Bの径方向の磁場勾配を低減し食用農産物ケースACの搬送方向に沿う磁場分布を平均化、安定化することができる。また、コイルの分割によって、それらコイルの冷却(空冷)面積の拡大に伴う放熱特性の改善によりコイル寿命の延長化が図れる。
【0037】
図10(b)は上記(B)のマルチ電磁コイル方式を採用した単発パルス状磁場発生装置の一例である。これは、食用農産物ケースACを搬送するコンベヤ10の上側(もしくは下側または上下両側でもよい)に複数個の小形単位コイル2C…を搬送方向及びそれに直交する方向に密接させて並列配置するとともに、これら単位コイル2C…をカスケード接続した構成のものである。このようなマルチコイル方式の単発パルス状磁場発生装置によれば、単位コイル2Cが小形である上に、各コイル2Cがカスケード接続されて発生磁束が加算されるために、高い単発パルス状磁場を得やすいとともに、各コイル2C…に対応して独立の電源を使用することで、電源の小型化も図れる。また、このマルチコイル方式の各コイル2C…それぞれに上述したような継鉄を使用し磁場分布の平均化を図ることも可能である。さらに、コイル数及び電源数を増やすことで、単発パルス状磁場の印加範囲を拡大して食用農産物ケースACの複数個を同時に磁場処理することもできる。さらにまた、複数個のコイル2C…のうち任意数のコイルのみを動作させて、磁場を部分印加することも可能である。
【0038】
また、上記各種形態の単発パルス状磁場発生装置の磁場発生コイルの発熱抑制のために、その素線材料としては、銅やアルミニウム等の電気抵抗の低い材質の丸線でも角線でもよく、さらに、ホローコンダクタのように、内部に冷却水通路を形成可能な中空導線を用いてもよい。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、収穫後の食用農産物に対して生産出荷地など任意の場所において単発パルス状磁場という強大な磁気エネルギーを生長軸方向またはそれにほぼ平行な方向に向けて瞬間的あるいは極く短時間に亘って直接印加するだけの極く簡単な磁場処理を施すことによって、レタス等の葉菜類野菜のように、直ちに食用可能な状態で収穫される農産物の場合は、それの生長を抑制して葉緑度の長時間持続及び葉黄度の進行速度の低下と共に含水率の低下を抑制し収穫時とほぼ同一水準の含水率を維持して食用農産物全体としての鮮度保持特性を大幅に改善することができるとともに、バナナ、洋ナシ等の果実類やトマト等の果菜類野菜のように、緑熟段階で収穫される食用農産物の場合は、それの追熟因子として大きなウェイトを占める呼吸作用に密接に関連する炭酸ガスやエチレンガスの吐出量を適切に制御してそれの生長を促進して葉黄度の進行速度の上昇を図ると共に固有の風味、香りを引き出して食用農産物全体として早期に追熟させることができる。その上、鮮度保持処理の場合、磁場処理を施さないものに比して保存温度を通常の室温程度に高温化しても、従来の保冷による鮮度保持の場合と同等以上の鮮度保持効果が得られるために、流通過程などでの保冷エネルギーを大幅に節減することができ、また、追熟処理の場合、大掛かりな気密室の設置および消耗材としての炭酸ガスやエチレンガスの使用が不要で、追熟処理のための設備及び作業性を簡素にして所定の追熟効果を経済的かつ能率的に達成することができるという効果を奏する。
【0040】
また、処理装置における磁場発生装置として、直流高電圧発生部で発生された高電圧エネルギーを蓄え該エネルギーを磁場発生コイルにパルス状電流として出力する形式とし、特に、パルス状電流発生部として直流高電圧発生部で発生される高電圧に応じて電荷を蓄積し放電するコンデンサを用いたコンデンサ蓄勢式磁場発生装置とすることにより、装置全体を小型軽量化できるとともに、商用電源を用いて、生産出荷地から流通の末端地までの広い範囲のどこででも任意かつ手軽に所定の鮮度保持および/または追熟処理を実施することができるという実用効果も奏する。
【0041】
また、磁場発生装置により発生される単発パルス状磁場の強さを磁場の中心軸上のピーク値において0.03〜0.5テスラの範囲で調整可能に構成することにより、単一の処理装置を準備するだけで、上述したような鮮度保持処理および追熟処理のいずれにも簡単に使用選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る食用農産物の処理装置の概略構成図である。
【図2】同上処理装置における単発パルス状磁場発生電源のブロック回路図である。
【図3】図2の具体的な回路構成図の一例である。
【図4】単発パルス状磁場の波形図である。
【図5】(a)〜(d)は単発パルス状磁場の他の波形例を示す図である。
【図6】野菜等の食用農産物を円筒形磁場発生コイルの内部空間に収納保持させた状態および磁場方向の説明図である。
【図7】(a),(b),(c)は実験例1による実験結果として得られた葉緑度の経日変化特性図である。
【図8】(a),(b),(c)は実験例1及び実験例3による実験結果として得られた葉黄度の経日変化特性図である。
【図9】実験例2による実験結果として得られた含水率の経日変化特性図である。
【図10】他の装置の例を示す断面図および斜視図である。
【符号の説明】
2 直流高電圧発生回路
3 コンデンサ充放電回路(パルス状電流発生部)
6 磁場発生コイル
7 単発パルス状磁場発生電源
A 食用農産物

Claims (3)

  1. 収穫後の食用農産物に対して、当該食用農産物の生長軸方向またはそれにほぼ平行な方向に単発パルス状磁場を印加することが可能であり、且つ前記単発パルス状磁場の強さを磁場の中心軸上におけるピーク値で0.03〜0.5テスラとし、該単発パルス状磁場を1回当たりの印加時間を4〜50ミリ秒として前記食用農作物に対して1〜5回印加する磁場発生装置を備え、該磁場発生装置は、直流高電圧発生部と、発生された高電圧エネルギーを蓄え該エネルギーをパルス状電流として出力するパルス状電流発生部と、ここから出力されるパルス状電流の入力に伴い単発パルス状磁場を発生する磁場発生用電磁コイルとから構成されており、更に、前記パルス状電流発生部は、直流高電圧発生部で発生された高電圧に応じた電荷を蓄積し放電するコンデンサから構成されている食用農産物の処理装置。
  2. 前記磁場発生用電磁コイルが、軸方向に分離された複数の分割コイルから成るものであることを特徴とする請求項1に記載の食用農作物の処理装置。
  3. 前記磁場発生用電磁コイルが、軸が互いに平行となるように並置された複数個の単一コイルから成るものであることを特徴とする請求項1に記載の食用農作物の処理装置。
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