JP4461297B2 - 環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法 - Google Patents
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Description
一般に、DCPもしくはその誘導体(以下、DCPも含めて「DCP系単量体」という。)の開環重合体は、適当な溶媒中で、DCP系単量体をメタセシス触媒系などの開環重合触媒の存在下に開環重合することに得ることができる。さらにその水素添加物は、前記開環重合体の溶液に、適当な水素添加触媒を添加して水素と反応させることにより得ることができる。(特許文献3〜6参照)
しかしながら、DCP系単量体はその分子内にオレフィン性不飽和結合を複数有するため、開環重合反応や水素添加反応中に所望しない架橋反応が進行して、有機溶剤に不溶なゲルが生成する問題がある。係るゲルが製品に含まれると、例えば、光学フィルムの異物となり、光散乱の起点や、応力がかかったときに異物を起点としてフィルムが破れるなどの重大な問題が発生するため、係るゲルの発生は可能な限り低減することが求められている。
1)環状オレフィン系単量体を含む単量体溶液を100〜200℃に加熱した後に、重合触媒を添加して開環重合する。
2)開環重合体を含む溶液を、130〜200℃に加熱したのちに、水素を供給して水素添加する。
という、従来オリゴマーやゲルの生成量がむしろ増大すると考えられ、採用されていなかった条件をあえて採用することにより、ミクロゲルも含めてゲルの生成を抑制でき、濾過工程における負荷を大幅に軽減できることを見出して本発明の完成に至った。さらに、1)と2)とを組み合わせると、効果が顕著であることを見出して本発明の完成に至った。
開環重合を、単量体を含む溶液を100〜200℃に加熱し、次いで重合触媒を添加して行い、かつ、
水素添加を、環状オレフィン系開環重合体を含む溶液を130〜200℃に加熱し、次いで水素を反応系に加えて行うことを特徴としている。
また、これらの本発明の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法では、水素添加を、環状オレフィン系開環重合体を含む溶液に少なくとも1種の酸化防止剤を該開環重合体100重量部に対して0.01〜10重量部添加し、その後130〜200℃に加熱し、次いで水素を反応系に加えて行うことが好ましい。
(式(2)中、Ruはルテニウム、Qはハロゲン原子またはR3CO2で表されるカルボン酸残基(R3は炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれ
た置換基)を示し、
TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、
ZはPR4R5R6(R4、R5、R6はそれぞれ同一もしくは異なる炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、
kは1または2であり、nは1または2であり、pは0または1〜3の整数であり、qは0または1〜3の整数である。ただし、k+n+p+qは5または6である。)
子中のオレフィン性不飽和結合に対するものであり、芳香族性不飽和結合等他の不飽和結合に対するものではない。
<環状オレフィン系単量体>
本発明において用いられる環状オレフィン系単量体としては、ノルボルネン骨格を有し開環重合することのできる環状オレフィン系化合物が挙げられ、例えば、下記一般式(1)で表されるDCP系の単量体を挙げることができる。
上記一般式(1)で表されるDCP系単量体の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が例示できるが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
・トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン(DCP)
・ペンタシクロ[8.3.0.12,9.14,7.03,8]ペンタデカ−5,12−ジエン
・ヘプタシクロ[12.3.0.12,13.14,11.16,9.03,12.05,10]イコサン−7,16−ジエン
・8−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−フェノキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−メトキシカルボニルエチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジ
エン
・8−メトキシカルボニルエチルオキシ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−メチル−9−メトキシカルボニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8,9−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8−ブロモ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
・8,9−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン
これらのうち、工業的に入手しやすく安価なトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,8−ジエン(DCP)が好適に用いられる。なお、これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
又はケイ素を含む連結基を有していてもよい置換又は非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基もしくはその他の1価の有機基を表す。あるいはR7とR8もしくはR9とR10が相
互に結合してアルキリデン基を形成していてもよく、R7とR8、R9とR10又はR8とR9
とが相互に結合して炭素環又は複素環(これらの炭素環又は複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。ただし、一般式(1)で表されるものは除く。)を形成してもよい。形成される炭素環又は複素環は芳香環でもよいし非芳香環でもよい。また、xは0または1〜3の整数、yは0または1を表すが、xが0のときはyも0である。〕
一般式(3)で表されるノルボルネン系単量体の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が例示できるが、これらの例示に限定されるものではない。
・ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(ノルボルネン)
・5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−(4−ビフェニル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェニルカルボニルオキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジフルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジクロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ヒドロキシエチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8,9−トリメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・8−メチル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・8−フェニル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・7−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ブロモ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8,9−トリクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−クロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ジクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−トリクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ヒドロキシ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−シアノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−アミノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・ペンタシクロ[7.4.0.12,5.18,11.07,12]ペンタデカ−3−エン
・ヘキサシクロ[8.4.0.12,5.17,14.19,12.08,13]ヘプタデカ−3−エン
・8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−(4−ビフェニル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フェニルカルボニルオキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,9−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−クロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ブロモ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,9−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8,9,9−テトラクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ヒドロキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−シアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−アミノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
これらの環状オレフィン系単量体のうち、ノルボルネン骨格のオレフィン性不飽和結合以外にオレフィン性不飽和結合を有さない単量体のみを用いた場合は、式(1)で表される環状オレフィン系単量体(DCP系単量体)を用いた場合と比較して、開環重合反応中や水素添加反応中にゲルが発生する頻度が極めて低いが、全くゲルが発生しないわけではなく濾過工程等において問題が生じることがある。しかしながら、本発明の方法を適用することにより、係るゲル発生に伴う問題の発生を効果的に抑制することができる。もちろん、DCP系単量体以外のノルボルネン系のジオレフィンを用いた場合においても本発明は有効でありゲル発生を顕著に抑制できる。
(式(4)中、Rは置換又は非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基を表し、zは0または1〜10の整数を表す。)
上記一般式(4)において、zの値が小さいものほど得られる水素添加物のガラス転移温度が高くなり耐熱性の点で好ましく、更に、zが0である単量体はその合成が容易である点で好ましい。また、Rは、炭素数が多いほど得られる環状オレフィン系開環重合体水素添加物の吸水(湿)性が低下する傾向にあるが、ガラス転移温度が低下する傾向もあるので、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、特にメチル基であることが好ましい。
開環重合
<重合温度>
本発明においては、上記環状オレフィン系単量体を少なくとも1種含有する単量体を用いて開環重合あるいは開環共重合をするが、係る重合において、重合触媒を添加するタイミングが重要な技術的要件となる。すなわち、単量体および溶媒を含む単量体溶液の温度が100〜200℃、好ましくは100〜150℃となった時点で重合触媒を添加することが望ましい。係る温度範囲において重合触媒を添加することで、ゲルの元となる多分岐状の重合体やミクロゲルの発生を抑制できると考えられる。このような効果は、分子内にオレフィン性不飽和結合を2つ以上有する環状オレフィン系単量体、例えばDCP系単量体を用いた場合に特に顕著である。
<重合触媒>
本発明において、環状オレフィン系単量体を含む単量体を開環重合する際には、重合触媒を用いる。本発明において、開環重合に用いられる触媒としては、公知のものが適用可能であり、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などの白金族化合物を用いることができる。また、(a)W、MoおよびReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)デミングの周期律表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えばMg、Caなど)、IIB族元素(例えばZn、Cd、Hgなど)、III A族元素(例えばB、Alなど)、IVA族元素(例えばSi、Sn、Pbなど)あるいはIVB族元素(例えばTi、Zrなど)の化合物であって、少なくとも1つの当該元素−炭素結合あるいは当該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなる触媒も、好ましく用いられる。このような(a)成分と(b)成分とからなる触媒は、さらに、触媒の活性を高めるために、後述の添加剤(c)が添加されたものであってもよい。
<重合反応溶媒>
上記重合触媒を用いて行われる開環重合反応のための溶媒としては、次の溶媒Iもしくは溶媒II、またはこれらの混合物が好ましく用いられる。
<環状オレフィン系開環重合体の分子量>
本発明における環状オレフィン系開環重合体の分子量は、所望の特性により決定されるものであり一義的に規定されるものではないが、通常、固有粘度(ηinh )は0.2〜5.0、好ましくは0.4〜1.5である。また、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の分子量としては、重量平均分子量(Mw)が通常1.0×103〜1.0×106、好ましくは5.0×103〜5.0×105であり、分子量分布が(Mw/Mn)が通常1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4である。本発明では、このような分子量の環状オレフィン系開環重合体が得られるような条件を選択して、環状オレフィン系単量体を含む単量体の開環重合反応を行うこと
が好ましい。
水素添加
<水素添加温度>
本発明では、たとえば上記のような方法で得られた環状オレフィン系開環重合体に対して水素添加を行い、環状オレフィン系開環重合体水素添加物を得る。このような水素添加では、通常、上記方法などにより製造された環状オレフィン系単量体の開環重合体を、適当な溶媒に溶解した溶液に、水素添加触媒と水素を加えて水素添加反応を行うが、本発明では、水素を加えるタイミングが重要な技術的要件となる。すなわち、環状オレフィン系重合体溶液の温度が130〜200℃、好ましくは140〜170℃となった時点で水素を加えることが望ましい。開環重合体を含む溶液の温度が130℃未満である状態で水素を加えると、水素添加反応速度が低く水素添加反応に長時間を要する他、ミクロゲルの発生が抑制できないことがある。また、水素添加時の重合体溶液温度が200℃を超える場合には、水素添加触媒が失活したり熱分解反応により低分子化したりすることがある。
<水素添加反応系の圧力>
水素添加反応系の圧力は、通常、50〜220kg/cm2、好ましくは70〜150kg/cm2 、さらに好ましくは90〜120kg/cm2 であるのが望ましい。圧力が低すぎると水素添加反応に長時間を要し生産性に問題が生じることがあり、一方、圧力を高くすると大きい反応速度が得られるが、装置として高価な耐圧装置が必要になるので経済的でない。
<水素添加触媒>
本発明において、水素添加反応に用いる水素添加触媒としては、オレフィン性不飽和結合を水素添加する際に用いられる公知の化合物が挙げられる。例えば、チタン、コバルト、ニッケルなどの有機酸塩またはアセチルアセトン塩と、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、スズなどの有機金属化合物とを組み合わせたいわゆるチグラータイプの均一系触媒、 パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムなどの貴金属を、カーボン、アルミナ、シリカアルミナ、シリカマグネシア、ケイソウ土などの担体に担持した担持型貴金属系触媒、ロジウム、レニウム、ルテニウムなどの貴金属錯体触媒などを挙げることができる。本発明では、水素添加触媒として、ルテニウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、鉄化合物、チタン化合物、クロム化合物、マンガン化合物よりなる群から選ばれる1種以上の化合物を含む触媒を用いるのが好ましい。
〔式中、Ruはルテニウム、Qはハロゲン原子またはR3CO2で表されるカルボン酸残基(R3は炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれた置換基)を示し、TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、ZはPR4R5R6(R4、R5、R6はそれぞれ同一もしくは異なる炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、kは1または2であり、nは1または2であり、pは0または1〜3の整数、qは0または1〜3の整数である。ただし、k+n+p+q=5または6である。〕
水素添加触媒の溶解度は、25℃におけるトルエンへの飽和溶解度により表すことができ、50〜0.05重量%が好ましい。この溶解度が50重量%を超えると触媒除去が難しくなり、着色されたポリマーとなる場合がある。また、0.05重量%未満だと溶媒への溶解量が少なく、触媒活性が低くなる場合がある。
<水素添加反応溶媒>
水素添加反応に用いられる溶媒としては、水素添加される環状オレフィン系開環重合体の良溶媒であって、しかもそれ自体が水素添加されないものであれば特に限定されない。具体的には、前記重合反応溶媒と同様のものを挙げることができる。水素添加反応に供される溶液中の環状オレフィン系開環重合体と溶媒との重量比は、通常、5:1〜1:20、好ましくは2:1〜1:15、更に好ましくは、1:1〜1:10であるのが望ましい。
<酸化防止剤>
本発明においては、水素添加時のゲルの発生を抑制するために、公知の酸化防止剤の存在下に、水素添加を行うことができる。すなわち、酸化防止剤として使用できる、フェノール系化合物、チオール系化合物、スルフィド系化合物、ジスルフィド系化合物、リン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を、環状オレフィン系開環重合体の溶液に、該開環重合体100重量部に対して0.01〜10重量部添加して水素添加反応を行うことができる。特に好ましいのはフェノール系化合物で、少量の添加で水素添加率を低下させることなくゲル化を抑制できる。
・フェノール系化合物
フェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、などを挙げることができる。好ましくは、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられ、特に好ましくは、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などを挙げることができる。
・チオール系化合物
チオール系化合物としては、t−ドデシルメルカプタン、ヘキシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1−メチル−2−(メチルメルカプト)ベンズイミダゾール、2−メルカプト−1−メチルベンズイミダゾール、2−メルカプト−4−メチルベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、2−メルカプト−5,6−ジメチルベンズイミダゾール、2−(メチルメルカプト)ベンズイミダゾール、1−メチル−2−(メチルメルカプト)ベンズイミダゾール、2−メルカプト−1,3−ジメチルベンズイミダゾール、メルカプト酢酸、などを挙げることができる。
・スルフィド系化合物
スルフィド系化合物としては、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,2−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,4−ビス(n−オクチルチオメチル)−6−メチルフェノール、ジラウリル3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3'−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3'−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル3,3'−チオジプロピオネート、などを挙げることができる。
・ジスルフィド系化合物
ジスルフィド系化合物としては、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド 、ビス(2−クロロフェニル)ジスルフィド 、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド 、ビス(2−ニトロフェニル)ジスルフィド、2,2'−ジチオジ安息香酸エチル、ビス(4−アセチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−カルバモイルフェニル)ジスルフィド、1,1'−ジナフチルジスルフィド、2,2'−ジナフチルジスルフィド、1,2'−ジナフチルジスルフィド、2,2'−ビス(1−クロロジナフチル)ジスルフィド、1,1'−ビス(2 −クロロナフチル)ジスルフィド 、2,2'−ビス(1 −シアノナフチル)ジスルフィド、2,2'−ビス(1−アセチルナフチル)ジスルフィド、ジラウリル−3,3'−チオジプロピオン酸エステル、などを挙げることができる。
・リン系化合物
リン系化合物としては、トリス(4−メトキシ−3,5−ジフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどを挙げることができる。
環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法
本発明に係る第一の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法では、開環重合を、単量体および溶媒を含む単量体溶液を100〜200℃、好ましくは100〜150℃に加熱して、重合触媒を添加して行う。ここで、開環重合は、上述した開環重合の方法により行うことが望ましい。本発明に係る第一の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法においては、水素添加は、環状オレフィン系樹脂を水素添加する方法として従来公知の方法を採用することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
ガラス転移温度(Tg)
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200を用いて、昇温速度を毎分20℃、窒素気流下で測定を行った。
水素添加率
核磁気共鳴分光計(NMR)はBruker社製AVANCE500を用い、測定溶媒はd−クロロホルムで1H−NMRを測定した。5.1〜5.8ppmのビニレン基、3.7ppmのメトキシ基、0.6〜2.8ppmの脂肪族プロトンの積分値より、単量体の組成を算出後、水素添加率を算出した。
固有粘度(η inh )
濃度:0.5g/100mlのクロロベンゼン溶液を調製し、30℃の条件で測定した。
分子量
東ソー株式会社製HLC−8020ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、テトラヒドロフラン(THF)溶媒で、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)を測定した。Mnは数平均分子量を表す。
濾過速度測定
ADVANTEC社製コンパクトカートリッジフィルター:MCP−HX−E10S(平均孔径2.0μm、濾過面積2000cm2)、MCP−JX−E10S(平均孔径1.0μm、濾過面積2000cm2)、MCS―020−E10SR(平均孔径0.2μm、濾過面積1800cm2)各1つをこの順に直列に繋いで、水添後のポリマー溶液を室温、窒素加圧3.0kgf/cm2で連続的に濾過し、濾過速度の経時変化を測定した。なお、これらのフィルターは、コンパクトカートリッジ用ハウジング:MTA−2000Tを用いて使用した。
[実施例1]
[実施例2]
[実施例3]
[実施例4]
[実施例5]
[比較例1]
水添後の溶液を連続的に濾過して濾過速度の経時変化を追跡した。500hr以降に濾過速度の低下が認められたが1000hrまで濾過は可能であった。
[比較例2]
[比較例3]
重合触媒投入時の液温が80℃であること以外は実施例1と同様の方法で重合体を得た。その後、水素ガスによる加圧を行う際の温度が120℃であること以外は実施例1と同様の方法で水添を行った。反応終了後多量のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た。[固有粘度(ηinh)=0.72、重量平均分子量(Mw)=10.8×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.2、ガラス転移温度(Tg)=145.5℃]。1H−NMR測定によりこの水素添加物の水素添加率を求めたところ、主鎖中のオレフィン性不飽和結合は99.9%以上水素添加されていた。
[比較例4]
重合触媒投入時の液温が80℃であること以外は実施例4と同様の方法で重合体を得た。その後、水素ガスによる加圧を行う際の温度が120℃であること以外は実施例4と同様の方法で水添を行った。反応終了後多量のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た[固有粘度(ηinh)=0.63、重量平均分子量(Mw)=9.4×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.2、ガラス転移温度(Tg)=138.0℃]。1H−NMR測定によりこの水素添加物の水素添加率を求めたところ、主鎖中のオレフィン性不飽和結合は99.9%以上水素添加されていた。
[比較例5]
重合触媒投入時の液温が80℃であること以外は実施例5と同様の方法で重合体を得た。その後、水素ガスによる加圧を行う際の温度が60℃であること以外は実施例5と同様の方法で水添を行った。反応終了後多量のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た[固有粘度(ηinh)=0.69、重量平均分子量(Mw)=9.9×104、分子量分布(Mw/Mn)=3.5]。1H−NMR測定によりこの水素添加物の水素添加率を求めたところ、主鎖中のオレフィン性不飽和結合は99.9%以上水素添加されていた。
Claims (5)
- 環状オレフィン系単量体を含む単量体を開環重合し、得られた環状オレフィン系開環重合体を水素添加して、環状オレフィン系開環重合体水素添加物を製造する方法であって、
開環重合を、単量体を含む溶液を100〜200℃に加熱し、次いで重合触媒を添加して行い、かつ、
水素添加を、環状オレフィン系開環重合体を含む溶液を130〜200℃に加熱し、次いで水素を反応系に加えて行うことを特徴とする環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法。 - 単量体が、下記式(1)で表される環状オレフィン系単量体を含むことを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法。
- 水素添加を、環状オレフィン系開環重合体を含む溶液に少なくとも1種の酸化防止剤を該開環重合体100重量部に対して0.01〜10重量部添加し、その後130〜200℃に加熱し、次いで水素を反応系に加えて行うことを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法。
- 水素添加触媒として、ルテニウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、鉄化合物、チタン化合物、バナジウム化合物、クロム化合物およびマンガン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を使用して、水素添加を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法。
- 水素添加触媒として、下記式(2)で表されるルテニウム化合物を使用して水素添加を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の環状オレフィン系開環重合体水素添加物の製造方法。
RuHkQnTpZq …(2)
(式(2)中、Ruはルテニウム、Qはハロゲン原子またはR3CO2で表されるカルボン酸残基(R3は炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれた置換基)を示し、
TはCOおよびNOから選ばれた1種以上の原子団を示し、
ZはPR4R5R6(R4、R5、R6はそれぞれ同一もしくは異なる炭素数1〜10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を示す。)を示し、
kは1または2であり、nは1または2であり、pは0または1〜3の整数であり、qは0または1〜3の整数である。ただし、k+n+p+qは5または6である。)
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