JP4459356B2 - 食品用改質デンプン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉体の流動性に優れ、かつ、揚げ物を調理する際に打粉または衣材として使用することにより種物と衣との結着性に優れた食品用改質デンプン及びその製造方法に関する。
【0002】
ここで、粉体とは、粉粒体とも称され、顆粒も含む概念であり、本発明は通常粉状であるデンプンばかりでなく、顆粒状とされたデンプンにも適用できるものである。
【0003】
【技術用語の説明】
本明細書における特定技術用語の意味は、下記の通りである。
【0004】
「水溶性タンパク質含量」…タンパク質5gに200mlの水を加え、30℃にて2時間攪拌抽出後250mlに定容してから、1500 rpmで10分間遠心分離後、グラスウール濾過して濾液の窒素をセミミクロケルダール法で測定し、タンパク質5g中の窒素量に対する比にて求められるものをいう。(「日本食品工業学会誌 第25巻第8号」p.451〜457)
「HLB」…「Hydrophile-Lipophile Balance」 の略号で、日本語では「親水親油バランス」といい、界面活性剤がもつ親水性と親油性の相対的な強さを、数量的にあらわしたもので、HLBが大きい程親水性が高くなる。
【0005】
【背景技術】
フライや天ぷら等の揚げ物用衣材には、主として小麦粉が用いられる。小麦粉は、タンパク質が吸水しグルテンを形成することによりバッター液(衣液)として適度な粘度を与え、デンプン質が衣に柔らかい食感を付与することから好適な素材として使用されている。しかし、小麦粉では種物との間に良好な衣種物結着性を得難い。
【0006】
なお、バッター(batter) とは、フライ製造において、パン粉をまぶす前に、種物を覆うように付着させて用いられるもので、小麦粉をベースとして、卵、牛乳、バター等をかき混ぜたどろどろしたペースト状のものをいう。バッターを用いる加工方式は、大衆向けコロッケ・トンカツおよび各種冷凍食品の製造など、主として業務用に利用されているものである(太田静行、湯木悦二著「フライ食品の理論と実際」p.197〜198参照)。
【0007】
上記小麦粉等の種物に対する良好な結着性の要望に応えるために、様々な食品用改質デンプンが提案されている。
【0008】
例えば、デンプンに油脂を添加して乾燥・加熱する方法(特公平5−21542号公報)や、デンプンに20wt%の油脂分を含む生大豆粉を添加して乾燥・加熱する方法(特許第2683840号公報)、デンプンに食用蛋白素材と食用油脂を添加混合して乾燥する方法(特開平1−320962号)等が提案されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの方法は、いずれも油脂分を添加することを必須としており、デンプンの粉体流動性が低下するおそれがある。油脂自体が粘着性を備えているためと推定される。
【0010】
例えばタンク内でブロッキングを起こし排出が困難になったり、空気輸送後の回収のためのバッグフィルターでの目詰まりが発生する等、食品用改質デンプンの製造段階及び小麦粉とのミックス工程で作業上の問題が発生し易い。
【0011】
本発明は、上記にかんがみて、揚げ物類を調理する際に打粉材または衣材として使用することにより衣種物結着性に優れ、しかも、原料澱粉に比して粉体流動性の低下しない若しくは向上する食品用改質デンプンを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で、▲1▼これまで脂質もしくは必要相当量の脂質を含有する食品素材をデンプンに添加処理する以外に衣の結着性は改良できないと考えられてきたことに反して、脂質を全く含まない、または、ほとんど含まない精製されたタンパク質をデンプンに添加し特定の処理をすることによって衣の揚げ物結着性が改良できること、また、▲2▼脂質を全く含まない、又は、ほとんど含まないタンパク質をデンプンに添加し特定の処理をすることにより粉体の流動性が改善されることを見出して、下記構成の食品用改質デンプン及びその製造方法に想到した。
【0013】
デンプン成分にタンパク質成分が添加されて改質されてなる食品用改質デンプンにおいて、
デンプン成分に対して、水溶性タンパク質を衣種物結着性/粉流動性改善可能な量を含み、かつ、脂質含量が水溶性蛋白質の粉流動性改善作用を阻害しない量以下となるようにタンパク質成分が添加されていることを特徴とする。
【0014】
デンプン成分にタンパク質成分が添加されて改質されてなる食品用改質デンプンは、デンプン成分が架橋デンプンを含むものであり、通常、デンプン成分100重量部に対して、水溶性タンパク質添加量:0.1〜5.0重量部かつ脂質添加量:0.05重量部未満の要件を満たすようにタンパク質成分が添加されており、さらに、
前記タンパク質成分として脂質含量6wt%以下のものを使用することにより、上記課題を解決することがより容易となる。
【0016】
当該構成において、さらに、HLB9以上の乳化剤をデンプン100重量部に対して0.025〜0.5重量部添加することにより、食品用改質デンプンの水濡れ性(水分散性)の低下を補完できて望ましい。
【0017】
本発明のデンプン成分にタンパク質成分が添加されて改質されてなる食品用改質デンプンは、結果的に、40wt%濃度のスラリー粘度0.02〜4Pa・s(20〜4000 cPs)の要件を満たすものが得られ、さらには、圧縮度の値が42%以下の要件を満たすものとなり、それぞれ、衣種物結着性及び粉体流動性が改善されたものとなる。
【0018】
本発明の食品用改質デンプンは、バッターや打ち粉などの揚げ物用衣材として好適である。
【0019】
本発明の要件を満たす食品用改質デンプンは、下記製造方法により容易に製造することができる。
【0020】
(1) デンプンを水でスラリー化して、スラリー pH 5.0〜8.0になるように調整後、脱水してデンプンケーキの調製工程、
(2) デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の水分(湿量基準含水率)25〜50wt%になるような量の水にタンパク質を分散させるタンパク質分散液の調製工程、
(3) デンプンケーキとタンパク質分散液を均一に混合した混合物を乾燥後、115〜165℃×15〜65min の条件で加熱処理する加熱処理工程、を含むことを特徴とする。
【0021】
当該食品用改質デンプンの製造方法は、デンプンのスラリー pH 6.0〜7.0とし、澱粉ケーキ/タンパク質分散液混合物の水分が35〜45wt%とし、かつ、澱粉ケーキ/タンパク質分散液混合物の加熱処理条件が、130〜150℃×30〜50min とすることにより、本発明の要件を満たす改質デンプンをより確実に製造することができる。
【0022】
【構成の詳細な説明】
本発明の上記構成(手段)について、詳細に説明する。以下の、説明で、含量、添加量を示す「%」および「部」は、特に断らない限り、それぞれ「重量%(wt%)」) および「重量部」を意味する。
【0023】
本発明でいう食品用改質デンプンとは、基本的には、デンプン成分にタンパク質成分が添加されて改質されてなる食品用改質デンプンである。そして、デンプン成分に対して、水溶性タンパク質を衣種物結着性/粉流動性改善可能な量を含み、かつ、脂質含量が水溶性蛋白質の粉流動性改善作用を阻害しない量以下となるようにタンパク質成分が添加されている。
【0024】
ここで、デンプン成分の原料としては、市販されている汎用天然デンプン、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、甘藷デンプン、サゴデンプン等を使用でき、さらには、これらの化工デンプンも使用できる。該化工デンプンとしては、例えば、酸化デンプン、酸処理デンプン、酵素処理デンプン、酢酸デンプン、リン酸デンプン、コハク酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、架橋デンプン、湿熱処理デンプン等いずれも用いることができる。
【0025】
これらの内で、1)軽い酸化処理されたコーンスターチや、2)馬鈴薯・タピオカ・小麦・コーンスターチ・ワキシーコーンスターチ・甘藷デンプン等の架橋デンプンを原料にした場合、衣種物結着性が良好でありかつ衣にソフトな食感が得られて好ましい。
【0026】
また、タンパク質成分としては、動物性、植物性を問わないが、本発明では、水溶性蛋白質含量が多くかつ脂質含量の少ないものが望ましく、卵白粉末、カゼインナトリウム、大豆蛋白、小麦グルテン等のように、各種タンパク質含有食品素材から抽出・精製されたタンパク質成分を好適に使用できる。
【0027】
ここで、タンパク質成分は、タンパク質供給成分を意味し、本発明では脂質を含む夾雑物を含むものである。
【0028】
具体的には、水溶性タンパク質含量:50%以上(望ましくは65%以上、さらに望ましくは80%以上)、脂質含量:10.0%未満(望ましくは6%未満、さらに望ましくは2%未満、最も望ましくは1%未満)のものを使用する。水溶性蛋白質含量が過少であるタンパク質成分では、水溶性蛋白質添加による本発明の効果(衣種物結着性/粉体流動性改善)を得難く、脂質含量が過多であると、本発明の粉体流動性改善効果が阻害され易い。
【0029】
これらは、単独又は複数種併用して使用することができる。併用する場合は、卵黄粉末等の脂質含量が水溶性タンパク質より多いものもタンパク質成分の一部として使用可能である。
【0030】
本発明では、通常、デンプン成分100重量部に対して、水溶性タンパク質添加量:0.05〜6.0部、脂質添加量:0.1部以下の要件を満たすようにタンパク質成分が添加されている。ここで、水溶性タンパク質添加量は、好ましくは0.1〜5.0部、より好ましくは、0.2〜4.5部である。
【0031】
また、脂質添加量は、脱脂処理した蛋白質成分を使用することにより実質的にゼロにすることが理想であるが、実際には、蛋白質成分に含有される。したがって、脂質添加量は、好ましくは0.05部以下、より好ましくは、0.04部以下とする。
【0032】
なお、バッター液用の食品改質デンプンを製造する場合においては、デンプン成分100部に対して水溶性タンパク質の添加量は1部未満でもよい。高度の粉流動性が要求されないとともに、1部未満で十分な衣種物結着性が得られ、また、商業的にも安価に提供できるためである。
【0033】
水溶性タンパク質添加量が、過少であると衣種物結着性改善効果を得難く、逆に過多であると、後述の40%濃度のスラリー粘度が高くなりすぎて、水に溶いてバッター液を調製する際、適度な粘度を得るためデンプン濃度を薄くせざるを得なくなり、結果として衣種物結着性が低下してしまう。また、脂質含量添加量がデンプン100部に対して0.1部より多いと、粉体の流動性の指標である圧縮度が大きくなり、結果的に粉体流動性が低下する。
【0034】
上記要件を満たす場合において、本発明の食品用改質デンプンは、通常、40%濃度のスラリー粘度0.02〜4Pa・s(20〜4000 cPs)で、かつ、圧縮度の値が原料澱粉に比して低下しない。該衣種物衣結着性の指標であるスラリー粘度は、望ましい範囲は、0.1〜3Pa・s(100〜3000 cPs)、さらに望ましい範囲は、0.2〜2Pa・s(200〜2000 cPs)であり、また、粉体流動性の指標である圧縮度の望ましい範囲は、40%以下であり、さらに望ましい範囲は、38%以下である。
【0035】
なお、本発明の食品用改質デンプンは、タンパク質成分を添加により、理由は不明であるがデンプン自体の水濡れ性が低下傾向となることが分かった。デンプンの水濡れ性が低下すると、デンプンを水に分散させてバッター液を調製するに際して、水面上にデンプン粉体が浮遊してしまい、均一なバッター液(懸濁液)を得難くなる。
【0036】
そこで、水濡れ性の低下を抑制するために、通常のバッター液調製等の際に添加する乳化剤とは別に、HLBの高い(通常、HLB9以上)乳化剤を、デンプンに直接的に、付着・添加させることが望ましい。
【0037】
乳化剤のHLBが高いほど水濡れ性改善効果が大きく、通常HLB9以上、望ましくは11以上、さらに望ましくは13以上とする。HLBが9未満であると、水濡れ性改善効果が得られない。
【0038】
また、乳化剤の添加量は、デンプン成分100部に対して0.025〜0.5部、望ましくは0.04〜0.4部、さらに望ましくは0.04〜0.20部とする。
【0039】
そして、上記付着・添加は、例えば、乳化剤を水に溶解若しくは分散させた後、タンパク質成分を添加混合して調製したデンプンの脱水ケーキを混合しながら直接噴霧等して行なう(実施例17・18参照)。当然、脱水ケーキを乾燥・加熱後のものに、乳化剤を直接噴霧して添加してもよい。このようにすることによって、それぞれ粉状の澱粉と乳化剤とを単に混合した場合とは異なり、乳化剤が粉状澱粉に対して溶媒和的に結合して、添加したデンプンの水濡れ性を補完するものと推定される。
【0040】
上記水濡れ性低下抑制剤としての乳化剤としては 具体的には、下記のようなものを好適に使用可能である。
【0041】
ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB:9〜16)、ジアセチル酒石酸モノグリセリド(HLB9以上)、クエン酸モノグリセリド(HLB9以上)、等のグリセリンモノエステル、
シュガーエステル(HLB9〜16)、
ソルビタンエステル(HLB9以上)、ステアロイル乳酸カルシウム(HLB9以上)等が使用可能である。
【0042】
上記において、ポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。欧米において古くから食品工業において使用されているとともに高級脂肪酸とグリセリンの重合度を適宜選択して最適なHLBのものが得易いためである。また、本発明者らは、近似HLBにおいて、シュガーエステルより水濡れ性低下の抑制効果が大きいことを確認している。
【0043】
通常、高級脂肪酸としては炭素数8〜22のものとし、グリセリンの重合度は2〜10とする。
【0044】
高級脂肪酸としては、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)等の飽和脂肪酸、さらに、オレイン酸(C18)、リノール酸(C18)、リノレン酸(C18)等の不飽和脂肪酸を好適に使用できる。
【0045】
本発明の食品用改質デンプンは、通常、下記の如く工程を経て製造することが望ましい。
【0046】
(1) デンプンを水でスラリー化して、スラリー pH 5.0〜8.0(望ましくは6.0〜7.0)になるように調整後、脱水してデンプンケーキを調製する工程。
【0047】
上記 pH 5.0〜8.0の調整は、通常、苛性ソーダや炭酸ソーダ等のアルカリにより行なう。スラリー pH が5.0より低いと、後工程での加熱処理においてデンプンが熱分解を受けて粘度低下を起こし易く、バッターとして用いた場合衣種物結着性が低下するおそれがある。スラリー pH が8.0より高いと、▲1▼アルカリによる異味・異臭があったり、▲2▼後の加熱工程における着色が激しくて、それぞれ食品素材としては問題が発生し易い。
【0048】
(2) 次に、デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の水分(湿量基準含水率)25〜50%(望ましくは35〜45%)になるような量の水溶媒にタンパク質を分散させるタンパク質分散液を調製する工程
当該水分が過少であると、デンプン成分に対するタンパク質成分の均一分散性が低下して、結果として、良好な衣種物結着性を得難い。逆に過多であると、デンプンケーキがスラリー状となって、脱水処理が必要となり、脱水処理に際して、水溶性タンパク質が流出しやすく、結果的として、やはり良好な衣種物結着性を得難い。
【0049】
(3) デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物を乾燥後、115〜165℃×15〜65min の条件で加熱処理する加熱処理する工程。
【0050】
上記加熱処理において、加熱時間は加熱温度と逆比例し、高温であれば短時間でもよいが低温であれば長時間を要する。加熱処理の条件は、望ましくは125〜155℃×25〜55min 、更に望ましくは130〜150℃×30〜50min とする。
【0051】
加熱温度が高すぎる(たとえば、165℃より高い)と又は加熱温度が下限近くでも加熱時間が長すぎると、デンプンが熱分解しやすく粘度低下が著しくて、結着作用に寄与できる粘度を維持し難くなり、結果的に揚げ物の衣種物結着性を得難くなる。逆に、加熱温度が低過ぎる(たとえば、115℃より低い)と又は加熱温度が上限近くでも加熱温度が短すぎると、タンパク質の熱変性が不十分で本発明の衣種物結着性の改善効果が十分に得難い。
【0052】
上記乾燥は、通常、熱風乾燥によるが、伝導加熱乾燥(過熱蒸気、電熱ヒータ等)、赤外線乾燥、高周波乾燥、超音波乾燥、真空乾燥、等を単独または複数組み合わせて適用可能である。乾燥方式としては、回分式(バッチ方式)・連続式を問わない。乾燥装置形態としては、棚段、流動床、ベルトコンベア等任意である。
【0053】
また、上記加熱処理も、上記乾燥手段の内、加熱乾燥方式のものを単独、または、任意に組み合わせて使用可能である。被処理物(混合物)の品温が所定の温度に達し、所定の時間の間加熱されればよいため、通常、乾燥手段として加熱方式のものを使用して、乾燥と加熱を連続的に行う。
【0054】
また、デンプンにタンパク質を混合するにあたっては、均一にタンパク質を添加混合することが必要である。例えば、タンパク質を水に溶解・分散させることにより調製したタンパク質分散液を脱水デンプンケーキにスプレーして添加し必要時間各種混合機を用いて混合するとよい。
【0055】
本発明でいう食品用改質デンプンは、単独で揚げ物用衣材として使用され高い衣種物結着性を示すが、必要に応じて、各種穀粉類、タンパク質類、増粘安定剤、乳化剤、調味料、香辛料等を加えて揚げ物用衣材とすることもできる。
【0056】
以上、揚げ物を調理する際に打粉または衣材として使用する場合を、例にとり説明したが、さらに、本発明の食品用改質デンプンは、製菓、製パン、製麺等に用いられる食品用打粉にも適用できる。本発明の食品用改質デンプンは、粉体の流動性が良好で、打粉作業性の改善に寄与する。
【0057】
餅や餅菓子、パン、麺やギョウザの皮などの製造時に、装置への付着や製品相互の付着を防止するため打粉(とり粉、手粉とも言う)が使用される。従来からこの目的のためにコーンスターチ、タピオカデンプン、馬鈴薯デンプン、サゴデンプンなどのデンプン類や米粉、小麦粉、そば粉などの穀粉類が使用されている。また、打粉には高い粉体流動性が必要とされ、この性質を改良する手段として原料デンプンを酸化処理する方法(特開平1−179658号)、デンプンや小麦粉に少なくとも1種以上の滑沢剤を配合する方法(特開平4−325062号)、塩酸や硫酸等の鉱酸を使用して原料デンプンを酸浸漬処理する方法(特開平6−133713号)等が提案されている。
【0058】
従来広く打粉として用いられる前記デンプン類や穀粉類は、粉体流動性が低いため種物への付着が不均一となり易く、また均一に散布するためには熟練を要するなど取り扱いが不便とされた。また、粉体流動性を改良するための前述の提案(特開平1−179658号、特開平6−133713号)も処理前の原料デンプンよりは改良効果が見られるものの未だ不十分である。滑沢剤を添加する方法(特開平4−325062号)では改良効果が見られるものの種物表面の乾燥を招き、さらに、滑沢剤という薬品添加が食品としての心象を悪くするなどの問題がある。本発明の目的は粉体流動性の高い作業性に優れた打粉を提供するものである。
【0059】
そして、当該食品用打粉に使用する食品用改質デンプンは、前記揚げ物用衣材に使用するものと実質的に同一物を使用する。そして、当該食品用打粉におけるデンプン原料は、馬鈴薯デンプンやサゴデンプンのようにデンプン粒子の粒径の大きなデンプンの方が、優れた流動性が得られて好ましい。また、麺類の打ち粉に使用する場合は、酸化処理や酸処理により低粘度化したデンプンを原料として用いることが、茹で湯の濁りを抑制できることが期待できて望ましい。
【0060】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに挙げ、さらに、効果を確認するために行なった試験例についても説明する。
【0061】
実施例および比較例で使用した各種タンパク質の商品名、製造販売会社名、および特性はそれぞれ下記の通りである。
【0062】
大豆タンパク質…「フジプロE」(フジピュリナプロテイン社製)、水溶性タンパク質含量:75%、脂質含量:0.3%
カゼインナトリウム…「サンラクトS−3」(太陽化学社製)、水溶性タンパク質含量:93%、脂質含量:0.1%
卵白粉末…太陽化学社製、水溶性タンパク質含量:70%、脂質含量:0.6%
卵黄粉末…太陽化学社製、水溶性タンパク質含量:2%、脂質含量:52.5%
また、各項目の試験は、下記の如く行なった。
【0063】
<衣種物結着性>
各試料100gとグアーガム(大日本製薬社製)0.7gを混合し、水150gを加えてよく攪拌し、一時間放置してバッター液とした。厚さ12mmに切ったロース肉に調製したバッター液を肉重量100部に対して25部となるように付着させ、パン粉をまぶし、175〜185℃の範囲内で2分30秒間揚げた。30分間放冷後、試作したトンカツを厚さ1cmに切り、その断面の衣と肉との結着状態を目視にて観察し、完全に結着している場合を10点満点として点数化し、全ての断面の得点の平均点を求めた。すなわち、切った断面において、肉の周囲の長さに対して、その周囲の衣が結着している部分のトータル長さを目視にて見分け、その割り合いで点数化する。点数が高い程、衣種物結着性が高い。
【0064】
<圧縮度>
パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)にて、ゆるみ見掛比重と固め見掛比重を測定し、両者の値から次に示す計算式より圧縮度を計算した。圧縮度の値が大きいほど流動性は悪くなり、ホッパーの架橋現象が強くなる。なお、ゆるみ見掛比重を測定する際に目開き710μのフルイを通す必要があるが、流動性がある程度以上悪くなると、このフルイを通すことができなくなる。その場合は測定不能と表示した。
【0065】
圧縮度(%)=100×(固め見掛比重−ゆるみ見掛比重)/固め見掛比重
<スラリー粘度>
試料100g(無水物換算)を取り、0〜5℃の冷水を加えて全重量を250gにして40%濃度のスラリーを調製し、BM型粘度計にて粘度を測定した。測定時の回転数は12rpmとし、また、測定精度向上の目的から粘度計の針ができる限り大きく振れる可及的に番手の小さいロータ(No. 1−3)を選択した。
【0066】
(1) 水溶性タンパク質の適性添加量の検討試験
<実施例1〜2・対照例2>
市販コーンスターチA(日本コーンスターチ社製:水分約13%、以下同じ)500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにて pH 6.5に調製後、遠心脱水機(国産製)で脱水して脱水ケーキを調製した。該脱水ケーキの水分は33%であった。
【0067】
別に大豆タンパク質「フジプロE」を表1の示す各量の水(デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の水分(以下、「添加後水分」)が括弧内になる量)に懸濁させタンパク質溶液を調製した。脱水したデンプンケーキを万能混合攪拌機(品川工業所製)に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。
【0068】
それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機(東京アトマイザー社製造製)で粉砕した。
【0069】
さらにそれを140℃に設定した棚式乾燥機で加熱し品温が140℃に達してから30分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置して調湿して、実施例1・2と対照例2の各試料を得た。
【0070】
<対照例3>
市販コーンスターチA500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにて pH 6.5に調整し遠心脱水機で脱水し、棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。乾燥デンプンの水分は10.5%であった。
【0071】
別に「フジプロE」と水を表1のように取り懸濁させタンパク質溶液を調製した。
【0072】
上記乾燥デンプンを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。添加後水分は44.5%であった。
【0073】
それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらにそれを140℃に設定した棚式乾燥機で加熱し品温が140℃に達してから30分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿して対照例3の試料を得た。
【0074】
<評価試験>
調製した試料4点(実施例1・2、対照例2・3)及び市販コーンスターチA(対照例1)を用いて方法衣種物結着性の評価およびスラリー粘度の測定を行なった。
【0075】
【表1】
【0076】
それらの結果を表1に示す。実施例1・2は高い衣種物結着性を示した。他方、対照例1・2は衣種物結着性が低く、対照例3は粘度が高いため、加水量を3倍にしてバッター液を調製したところ衣種物結着性が低かった。
【0077】
(2) 脂質の適性添加量の検討試験
<実施例3〜12、比較例4〜8>
カゼインナトリウム「サンラクトS−3」(太陽化学社製)と「卵黄粉末」(太陽化学社製)を表2・3のように混合して、表示の種々の脂質含量の混合タンパク質成分を調製した。
【0078】
市販コーンスターチA500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにて pH 6.5に調整し遠心脱水機で脱水した。脱水ケーキ水分は31.5%であった。この操作を繰り返し必要な量の脱水ケーキを調製した。
【0079】
別に各混合タンパク質成分を対デンプン成分100部に対して表2〜3になるような量を取り、水150mLに懸濁させてタンパク質溶液を調製した。なお、添加後水分を表2〜3に示す。
【0080】
脱水デンプンケーキ635g分を万能混合攪拌機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕し、さらに棚式乾燥機を140℃に設定して加熱し品温が140℃に達してから30分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿して実施例3〜12と対照例4〜8の各試料を得た。
【0081】
<評価試験>
各試料と未処理の市販コーンスターチ(対照例1)を用いて、方法により圧縮度を計測して粉体の流動性を評価した。流動性が原料である未処理のコーンスターチより良くなっているものを○、悪くなっているものをΧで表した。それらの結果を表4に示す。
【0082】
脂質添加量が多くなると流動性は低下した。実施例11(脂質添加量=0.0836部)では流動性が良好であったが、対照例4(脂質添加量=0.1219部)では無添加の比較例1より流動性が悪化した。
【0083】
これらから、粉体の流動性を改善するためには、水溶性タンパク質供給源であるタンパク質成分を添加することにより、タンパク質成分に夾雑物として含有される脂質の合計添加量がデンプン100部に対して約0.1部以下でなければならないことが分かった。
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
(3) 加熱温度と加熱時間の検討試験
<加熱用タンパク質/デンプン混合物の調製>
市販コーンスターチA500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにて pH 6.5に調整し遠心脱水機で脱水した。脱水ケーキの水分は33%であった。
【0088】
別に大豆タンパク質「フジプロE」2.5gを水100mLに懸濁させタンパク質溶液を調製した。この水100mLは添加後水分が41.8%になる量である。
【0089】
脱水デンプンケーキを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながら調製したタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。この操作を数回繰り返し必要分量のタンパク質/デンプン混合物を調製した。
【0090】
<加熱条件>
これを表5のような条件の温度に設定した棚式乾燥機で品温が所定の温度に達してから表示のような時間で加熱した。その後乾燥機から取り出し一晩放置して調湿して、加熱条件の異なる試料を得た。
【0091】
<評価試験>
加熱条件を変えて試作した試料16点を用いて衣種物結着性を評価して、それら結果を表5に示す。130℃にて30分間と50分間、及び、150℃にて30分間と50分間加熱したものが良好な衣種物結着性を示した。これらの結果から、加熱処理条件は、115〜165℃×15〜65min 、望ましくは125℃〜155℃×20〜60min 、さらに望ましくは130〜150℃×30〜50min であることが支持される。
【0092】
【表5】
【0093】
(4) その他実施例群(乳化剤無添加タイプ):
<実施例13>
市販コーンスターチA5kgを水7Lに懸濁させ5%NaOHaqにて pH 6.5に調製し、脱水機(国産製)で脱水して、水分33%の脱水ケーキを得た。
【0094】
別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」(太陽化学製)25gを500mLの水に懸濁させタンパク質溶液を調製した。この500mL(500g)の水は添加後水分が37.7%になるような量である。
【0095】
脱水したデンプンケーキを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加熱し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してカゼインナトリウムによる食品用改質デンプンを得た。
【0096】
<実施例14>
市販コーンスターチA5kgを水7Lに懸濁させ5%NaOHaqにて pH 6.5に調整し、脱水機(国産製)で脱水して、水分33%の脱水デンプンケーキを得た。
【0097】
別に、予めジエチルエーテルを溶剤としてソークスレー脂肪抽出により脱脂したカゼインナトリウム「サンラクトS−3」25gを500mLの水に懸濁させタンパク質溶液を調製した。この500mL(500g)の水は添加後水分が37.7%になるような量である。
【0098】
脱水デンプンケーキを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加熱し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿して脱脂したカゼインナトリウムによる食品用改質デンプンを得た。
【0099】
<実施例15>
タピオカデンプン(水分約13%)30kgを水40Lに溶解してスラリーを調製し、炭酸ナトリウム300gを加えた後、酢酸ビニル750gを加えて1時間攪拌し、10%硫酸にて pH 6.5に調整した後、これに3倍水の水を加えて脱水し水分37%の脱水ケーキを得た。
【0100】
該脱水ケーキ8kgを40℃の棚式乾燥機で10時間乾燥してアセチル化タピオカデンプン(水分:13%、置換度0.030)を得た。
【0101】
別に「卵白粉末」(太陽化学製)150gを水3Lに取り、懸濁させタンパク質溶液を調製した。この3L(3000g)の水は添加後水分が42.1%になるような量である。
【0102】
脱水ケーキの残りをリボンブレンダー(ダルトン製)に取り、回転させながらじょうろにて調製したタンパク質溶液を添加し20分間混合した。混合物を熱風解砕乾燥機に移し、温度110℃の熱風を送り40分間乾燥し、さらに150℃の熱風を送り込み品温が140℃に達してから50分間保持した。
【0103】
その後乾燥機から取り出し、一晩放置して調湿し卵白粉末による食品用改質アセチル化タピオカデンプンを得た。
【0104】
<実施例16>
タピオカデンプン(同上)30kgを水40Lに溶解させてスラリーを調製し、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )を1.5 kgを加えた後、NaOH5%aqを用いて pH 11.0に調整した。その後、オキシ塩化リン(POCl3 )3gを添加して1時間攪拌し、H2 SO4 10%aqで pH 6.5に調製した後、これに3倍水の水を加え脱水して脱水ケーキを得た。該脱水ケーキ8kgを棚式乾燥機で40℃×10hの条件で乾燥して架橋タピオカデンプン(水分13.5%)を得た。
【0105】
別に「卵白粉末」(太陽化学社製)150gを水3Lに投入し懸濁させてタンパク質懸濁液を調製した。この3L(3000g)の水は、添加後水分が42.1%になるような量である。
【0106】
脱水デンプンケーキの残りをリボンブレンダー(ダルトン社製)に投入し、回転させながら上記タンパク質懸濁液をジョウロを用いて添加しながら20min 混合した。該混合物を熱風解砕乾燥機に移し、110℃×40分間の条件で乾燥し、さらに150℃の熱風を送入し、品温が140℃に達してから50min 保持した。その後、当該乾燥機から混合物を取り出し、一晩放置して調湿し卵白粉末による食品用改質タピオカデンプンを得た。
【0107】
<実施例17>
市販馬鈴薯デンプン(水分約17%)5kgを水7.5Lに溶解させてスラリーを調製し、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )を250g加えた後、NaOH5%aqを用いてpH11.0に調整した。オキシ塩化リン(POCl3 )1gを添加して1時間攪拌し、H2 SO4 10%aqでpH6.5に調整した後、これを3倍水の水を加えて脱水して水分33%の架橋馬鈴薯デンプンの脱水ケーキを得た。
【0108】
別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」(太陽化学製)20gを500mLの水に懸濁させタンパク質溶液を調製した。この500mL(500g)の水は添加後水分が37.7%になるような量である。
【0109】
脱水したデンプンケーキを万能混合機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加熱し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してカゼインナトリウムによる食品用改質架橋馬鈴薯デンプンを得た。
【0110】
<実施例18>
市販小麦デンプン(水分約13%)5kgを水7.5Lに溶解させてスラリーを調製し、硫酸ナトリウム(Na2 SO4 )を250g加えた後、NaOH5%aqを用いてpH11.0に調整した。オキシ塩化リン(POCl3 )2gを添加して1時間攪拌し、H2 SO4 10%aqでpH6.5に調整した後、これを3倍水の水を加えて脱水して水分33%の架橋小麦デンプンの脱水ケーキを得た。
【0111】
別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」(太陽化学製)20gを500mLの水に懸濁させタンパク質溶液を調製した。この500mL(500g)の水は添加後水分が37.7%になるような量である。
【0112】
脱水したデンプンケーキを万能混合機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加熱し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してカゼインナトリウムによる食品用改質架橋小麦デンプンを得た。
【0113】
<比較例12>
水分32%に調整したコーンスターチ735.3g(無水換算500g)に大豆油を0.3g(対DS0.06%に相当)添加し万能混合攪拌機にて10分間攪拌し、それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加熱し品温が150℃に達してから50min 保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿して大豆油による食品用改質デンプンを得た。
【0114】
<評価試験>
調製したタンパク質による食品用改質デンプン4点(実施例13〜16)、油脂による食品用改質デンプン1点(対照例12)、及び、市販コーンスターチA、蛋白無添加アセチル化タピオカデンプン、市販薄力小麦粉、市販小麦デンプンを用いて、スラリー粘度と粉体の流動性を測定し、さらにバッター液を調製して衣種物結着性を評価した。なお、小麦粉の場合はグルテンによって粘度が発現するので、グアーガムは添加せずにバッター液を調製した。
【0115】
それらの結果を表6に示す。各実施例は、衣種物結着性に優れているとともに、圧縮度が低く、流動性にも優れていることが分かる。これに対して、対照例12は、衣種物結着性は改善されているものの、圧縮度が高くて、流動性が悪いことが分かる。
【0116】
【表6】
【0117】
(5) 乳化剤の適正なHLBの検討試験
<HLBの異なる乳化剤を添加した食品用改質デンプンの調製>
市販コーンスターチA500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにて、pH6.5に調製し、遠心脱水機で脱水した。脱水ケーキの水分は33%であった。
【0118】
別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」1.5gを水70mLに懸濁させタンパク質溶液を調製した。この水70mLは、添加後水分が39.4%になる量である。
【0119】
さらに、別に表8のようなHLBの異なるポリグリセリン脂肪酸エステル(阪本薬品工業社製)0.75gを水系溶媒(水または熱エタノール)30mLに溶解分散させ乳化剤溶液を調製した。この水系溶媒30mLは、添加後水分が41.8%になる量である。
【0120】
脱水澱粉ケーキを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながら調製したタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。さらに、別に調製した乳化剤溶液を1点分噴霧器にて添加混合した。乳化剤溶液が4点あるのでそれぞれ別々にこの操作を繰り返し4種の乳化剤/タンパク質/デンプン混合物を調製した。
【0121】
これを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加温し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してHLBの異なる乳化剤を添加した4種の食品用改質デンプンを得た。
【0122】
<水濡れ性の評価法>
0〜5℃の冷水200gを300mLビーカーに取り、各試料50gを加えてゆっくり攪拌し、試料の水への分散の様子を目視にて観察した。水濡れの悪い試料は水面に浮くため均一な懸濁液とするのに長時間の攪拌を要する。
【0123】
<評価結果>
上記で調製した4種の食品用改質デンプンの水濡れ性を評価した結果を表7に示す。これにより水濡れ性を改善するためには、各実施例のごとく、HLBが9以上でなければならないことが分かる。
【0124】
【表7】
【0125】
(6) 乳化剤の適性添加量の検討試験
<乳化剤添加量の異なる食品用改質デンプンの調製>
市販コーンスターチA500gを水750mLに懸濁させ、5%NaOHaqにてpH6.5に調整し遠心脱水機で脱水した。脱水ケーキの水分は33%であった。
【0126】
別に、カゼインナトリウム「サンラクトS−3」1.5g(デンプン100部に対して0.3部)と、表9の示す各量(部数)のポリグリセリン脂肪酸エステル「MCA−750」とを水100mLに懸濁させ、乳化剤/タンパク質溶液を調製した。この水100mLは添加後水分が41.8%になる量である。
【0127】
脱水デンプンケーキを万能混合攪拌機に取り、攪拌しながら調製した乳化剤/タンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。乳化剤/タンパク質溶液が5点あるのでそれぞれ別々にこの操作を繰り返し5種の乳化剤/タンパク質/デンプン混合物を調製した。
【0128】
これを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を150℃に設定して加温し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿して乳化剤の添加量の異なる食品用改質デンプンを得た。
【0129】
<水濡れ性と衣種物結着性の評価>
各試料の水濡れ性と衣種物結着性を前述の方法にしたがって評価した。
【0130】
<評価結果>
結果を表8に示す。これにより0.01部では水濡れ性改良効果が得られず、0.60部では逆に衣種物結着性に悪影響を及ぼすことが分かる。
【0131】
【表8】
【0132】
(7) 乳化剤添加の実施例
<実施例19>
市販コーンスターチA5Kgを水7Lに懸濁させてスラリーを調製し5%NaOHを加えてpH11に調整した後、次亜塩素酸ナトリウムをデンプンに対し有効塩素量として0.3%になるように加えて1時間攪拌する。その後、亜硫酸ナトリウムを加えて残存する活性塩素を除去し、10%硫酸にてpH6.5に調整した後、これに3倍量の水を加えて脱水し水分33%の脱水ケーキを得た。
【0133】
別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」15gとシュガーエステル「DKエステルF−160」(第一工業製薬社製)5gを500mLの水に懸濁させタンパク質/乳化剤溶液を調製した。この500mL(500g)の水は、添加後水分が37.7%になるような量である。
【0134】
脱水したデンプンケーキを万能混合機に取り、攪拌しながらタンパク質/乳化剤溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに棚式乾燥機を130℃に設定して加温し品温が130℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してカゼインナトリウムによる乳化剤入り食品用改質酸化コーンスターチを得た。
【0135】
本実施例の各特性を表9に示すが、各特性とも良好であることが分かる。
【0136】
【表9】
【0137】
(8) 食品用打粉に適用した場合の評価試験
<対比評価試験1>
実施例4で調製したカゼインナトリウムによる食品用改質コーンスターチを中華麺の打粉として使用した。流動性が良いため、麺線に均一に分散し外観が良好であり、麺線どうしの結着も見られなかった。
【0138】
対照として未処理の市販コーンスターチを同様に用いたところ、流動性が悪く麺線に均一に散布することが困難であるため外観も悪く、麺線どうしの付着を防止するため麺全体に打粉を付着させるには多量の打粉が必要であった。
【0139】
<対比評価試験2>
(i) 食品用改質澱粉の調製:
市販馬鈴薯デンプン5kgを水7.5Lに溶解させてスラリーを調製し、NaOH5%aqを用いてpH11.0に調整した後、次亜塩素酸ナトリウムをデンプンに対して有効塩素量として1%になるように加えて2時間攪拌する。その後、亜硫酸ナトリウムを加えて残存する活性塩素を除去し、10%硫酸にてpH6.5に調整した後、これを3倍水の水を加えて脱水して水分33%の脱水ケーキを得た。 別にカゼインナトリウム「サンラクトS−3」(太陽化学製)30gを500mLの水に懸濁させタンパク質溶液を調整した。この500mL(500g)の水は添加後水分が37.7%になるような量である。
【0140】
脱水したデンプンケーキを万能混合機に取り、攪拌しながらタンパク質溶液を噴霧器にて添加混合した。それを棚式乾燥機にて40℃で9時間乾燥して粉砕機で粉砕した。さらに、棚式乾燥機を150℃に設定して加温し品温が150℃に達してから50分間保持した。その後乾燥機から取り出し、一晩放置し調湿してカゼインナトリウムによる食品用改質酸化馬鈴薯デンプンを得た。
【0141】
(ii)評価試験:
調製した食品用改質酸化馬鈴薯デンプンを大福餅の打粉として使用したところ、流動性が良いため、大福餅表面に均一に分散し外観が良好であり、大福餅どうしの結着も見られなかった。
【0142】
対照として未処理の市販馬鈴薯デンプンを同様に用いたところ、流動性が悪いため大福餅表面に均一に付着させることが困難で、多量に付着した部分と付着量の少ない部分ができて外観の悪いものであった。また、付着量の少ない部分は大福餅どうしの結着の原因となった。
【0143】
【発明の作用・効果】
以上の如く、本発明の蛋白被覆デンプンは粉体の流動性に優れ、かつ、揚げ物用衣材として用いた場合、優れた衣種物結着性を付与する。
【0144】
なお、タンパク質を用いるデンプン質素材の製造法として、例えばタンパク質に囲まれたデンプンまたはデンプンを含む穀粉の粒を形成せしめた後、タンパク質を加熱変性することによって、餡様食品素材を製造する方法がある(特公昭48−14063号公報)。この方法は、水の存在下でデンプン粒子が崩壊され難い状態、かつ、粒状の状態を作り、デンプンの膨潤を抑制して餡様の微粒子的食感を得るものであり、餡様の食感を得るという目的としては効果を有している。しかし、当該先行文献の中で、タンパク質とデンプンの割合は、タンパク質が10〜40%であることを限度とし、タンパク質があまり少なくなると、水の存在下における加熱によるデンプンの団粒の崩壊が認められるようになり微粒子的感じが少なくなると記載されているように、この方法はタンパク質に囲まれたデンプンの団粒が加熱により崩壊しないように多量のタンパク質でデンプン質を強固に被覆するものである。
【0145】
この方法により得られたデンプン質素材は、バッターを目的とするものではなく、加熱調理の際、デンプンがタンパク質に被覆されたままの状態を維持し、デンプン同士の接着による衣の形成及び衣種物結着性の向上もしくは粉体流動性の向上を予定していない。
【0146】
また、デンプンまたはデンプンを含む穀粉の懸濁液と植物タンパク質を主成分とする食品素材の分散溶解液を混合し、100℃ないし150℃に加熱し、1分ないし15分間該温度範囲内に保持しつつ噴霧乾燥する方法がある(特公昭62−17504号公報)。これは、デンプンの膨潤及び糊化する温度を低下させ、またゲル化させたときにその保水性を向上させるものであり、目的・構成において本発明とは異なり、本発明のような衣種物結着性の向上もしくは粉体流動性の向上を予定していない。
【0147】
さらに、デンプンと酸沈殿大豆タンパク質及び水を含有する混合物を噴霧乾燥する方法があるが(特許第2682023号)、バッターミックスとした場合、バッターミックスの粘度の経時的低下の少ないデンプン質素材を提供することを目的とするものであり、目的・構成において本発明とは異なり、上記同様、本発明のような衣種物結着性の向上もしくは粉体流動性の向上を予定していない。
Claims (9)
- 揚げ物を調理する際の打粉又は衣材として使用され、デンプン成分にタンパク質成分が添加されるとともに115〜165℃×15〜65minの条件で加熱処理するデンプンを熱分解させないタンパク質熱変性処理により改質されてなる食品用改質デンプンにおいて、
前記デンプン成分が架橋デンプンを含むものであり、また、
前記デンプン成分100重量部に対して、水溶性タンパク質添加量:0.1〜5.0重量部かつ脂質添加量:0.05重量部以下の要件を満たすように前記タンパク質成分が添加されてなり、さらに、
前記タンパク質成分として脂質含量6wt%以下のものを使用することを特徴とする食品用改質デンプン。 - 前記デンプン成分100重量部に対して、水溶性タンパク質添加量:0.2〜4.5重量部かつ脂質添加量:0.04重量部以下の要件を満たすように前記タンパク質成分が添加されてなり、さらに、前記タンパク質成分として脂質含量2wt%以下のものを使用することを特徴とする請求項1記載の食品用改質デンプン。
- さらに、HLB9以上の乳化剤が前記デンプン成分100重量部に対して0.025〜0.5重量部添加されていることを特徴とする請求項1又は2記載の食品用改質デンプン。
- 40wt%濃度のスラリー粘度0.02〜4Pa・s(20〜4000 cPs)の要件を満たすものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の食品用改質デンプン。
- 圧縮度の値が原料デンプンのそれより低いことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載の食品用改質デンプン。
- 請求項1〜5のいずれか一記載の食品用改質デンプンを含有することを特徴とする揚げ物用衣材。
- 請求項1〜5のいずれか一記載の食品用改質デンプンを含有することを特徴とする食品用打粉。
- 請求項1記載の食品用改質デンプンの製造方法であって、
(1) デンプンを水でスラリー化して、スラリー pH 5.0〜8.0になるように調整後、脱水するデンプンケーキの調製工程、
(2) 後記デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の水分(湿量基準含水率)25〜50wt%になるような量の水にタンパク質を分散させるタンパク質分散液の調製工程、
(3) デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物を乾燥後、115〜165℃×15〜65min の条件で加熱処理する加熱処理工程、
を含むことを特徴とする食品用改質デンプンの製造方法。 - 前記デンプンのスラリー pH 6.0〜7.0であり、前記デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の水分が35〜45wt%であり、かつ、前記デンプンケーキ/タンパク質分散液混合物の加熱処理条件が、125〜155℃×25〜55min であることを特徴とする請求項8記載の食品用改質デンプンの製造方法。
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