JP4457439B2 - 有機化合物の微粒子の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物の微粒子の製造方法に関し、更に詳しくは、特殊な大型の容器を必要とせず、微粒子化に際して不純物の混入がなく、比較的低いエネルギーで微粒子化することができる有機化合物の微粒子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
物質を微粒子化(あるいは粉体化)すると比表面積が増大して化学的に著しく高い活性を示すことが知られている。例えば、CdSのような化合物からなる半導体超微粒子では、粒径が小さくなるに従って、バンド構造が離散、吸収端が高エネルギー側へシフトするなどの量子サイズ効果が現れることが知られている。これらの微粒子物質は、バルクとは異なる興味ある各種特性を有し、機能性材料としての応用が期待される。
【0003】
既に金属または無機化合物の微粒子については、磁性材料、半導体材料、センサー材料、焼結材料等として有用であることが知られており、これら微粒子の応用、及びその製造方法についての技術開発が進められている。
【0004】
一方、有機物質についても、微粒子化による比表面積の増大による化学的活性の向上、電子状態の変化、分散安定性の向上等、様々な興味深い特性が期待され、また、有機色素化合物の微粒子化は、顔料化技術として工業的に非常に重要である。そこで、有機化合物の微粒子化に関する技術開発が求められているが、金属あるいは無機物・セラミックスの微粒子に比べてはるかに遅れているのが現状である。
【0005】
一般には有機化合物の微粒子化法として、ボールミル等による磨砕法が公知であるが、この方法では、磨砕助剤や、磨砕に用いるボールの金属等の不純物が混入し、これらを取り除く作業が必要であるという欠点がある。また、化合物の溶液を貧溶媒中に注入して析出させることにより微細化するという方法が知られているが、溶液濃度や注入条件の細かい調整が必要であり、廃液の処理も問題となる。
【0006】
金属あるいは無機化合物の微粒子化方法として、不活性ガス雰囲気中で加熱蒸発させるガス中蒸発法が広く知られている。このガス中蒸発法によると、加熱により原子は蒸発し、これが雰囲気不活性ガスにより冷却されて凝縮することにより、空間に微粒子が生成する。不純物が混入しないこと、不活性ガスの導入圧を調整することにより微粒子サイズの制御性があることから、有効な微粒子調製法とされている。
【0007】
有機化合物についても同様の手法が適用され、特開昭62−106833号公報、特開昭63−39631号公報に開示されている。しかしながら、有機化合物は一般に熱的に不安定であるため、この方法を適用できる化合物が限定されるという欠点がある。また、不活性ガスを導入して、その圧力の調整が可能である特殊な容器を必要とする。
【0008】
また、ガス中蒸発法の改良法として、試料に高強度のレーザー光を照射して瞬間的に加熱蒸発させ、微粒子化する方法も金属など無機化合物について知られている。この方法では、試料の加熱時間が短くなり、粒径分布も狭い良好な微粒子が得られるが、有機化合物については、やはり熱安定性の問題を解決できず、種々の有機化合物に対して適用することは困難である。
【0009】
所定圧の反応容器中に原料ガスを導入し、これにレーザー光を照射して加熱し、反応あるいは焼結させて微粒子を製造する方法も知られている。この方法の場合、原料をガスで供給する必要があり、やはり有機化合物の場合には、適用可能な試料の制限が大きい。一般に、ガスを用いる方法では、他の方法に比べて、より小さい微粒子の作成が可能と考えられているが、目的の微粒子を大量に作成することは困難であり、また、生成した微粒子の回収が困難であるという欠点を有する。
【0010】
特開昭62−83055号公報には、不活性ガスを充填した密閉容器中で固形材料を回転させつつ、この表面にレーザー光を照射して該固形材料を粉砕する方法が開示されている。この方法では、不純物の混入が無く、固形材料を効率良く粉砕でき、また、粉砕されて生成した微粒子が容器中に堆積するので、その回収も容易である。しかしながら、この方法では、特別な密閉容器が必要であり、また、しばしば調製した微粒子が再凝集して粒子の融合や粗大化が起こりやすく、一度集めた微粒子を再び個々の粒子にまで完全に分散させることは困難である。
【0011】
特開平4−63203号公報には、固体試料を液層中に保持し、高密度のレーザー光を照射することにより、固体試料を蒸発、プラズマ化し、液層中で急激に冷却することによって超微粒子の懸濁液を作成させる方法が開示されている。この方法では、微粒子の凝集を抑制することができるが、試料を蒸発・プラズマ化させて微粒子化するため高強度のレーザー光を照射する必要がある。この方法を有機化合物に適用して、蒸発、プラズマ化させるために、高強度のレーザー光を照射すると、レーザーアブレーションと呼ばれる現象が起こり、化合物が分解してしまう可能性が大きい。また、これら液層中に粉砕用の固体材料を保持してレーザー光を照射する方法では、粉砕用のターゲットを駆動モーターに取り付けているため、大きな固体原料が必要となる。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、現在公知の技術の多くは、金属やセラミックスなど無機化合物の微粒子化方法として優れた利点を有するが、材料の機械的強度や熱安定性等の問題から、そのまま有機化合物へ応用することはできない。このため、従来はより微細な任意の種類の有機化合物の微粒子を製造することは極めて困難であった。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、従来法では調製が困難であった種々の有機化合物の十〜数百nmサイズの微粒子を、容易に、かつ、効率良く製造する方法を提供することにある。また、本発明が解決しようとする第2の課題は、種々の有機化合物の十〜数百nmサイズの微粒子が分散した微粒子分散液を提供することにある。さらに、本発明が解決しようとする第3の課題は、分散性が向上した微粒子の製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意努力した結果、有機化合物をその非溶媒中に分散し、この溶液にレーザー光を照射することによって該有機化合物の微粒子を製造する方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は上記課題を解決するために、平均粒径が1〜100μmの固体粒子からなる有機化合物を、当該有機化合物が溶解しない溶媒中に分散させた分散液を攪拌しながら、ここに該有機化合物の吸収波長であって、且つ前記溶媒自身は吸収しない波長のレーザー光を、前記有機化合物の粒子に局所的な温度上昇を生じさせて該粒子に熱による内部応力を誘起してクラックを発生させる強度で照射することにより、前記有機化合物の粒子を破砕することを特徴とする、有機化合物の微粒子の製造方法を提供する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法によって微粒子化可能な有機化合物としては、該化合物が波長190〜3000nmの間に光吸収を示し、常温で固体の有機化合物が挙げられる。そのような有機化合物としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレンの如き芳香族炭化化合物とその誘導体;フタロシアニン、キナクリドンの如き顔料などである。また、分散媒を選択することにより、水やアルコールに溶解性の各種色素も対象となり得る。
【0017】
本発明の製造方法を適用するに際し、溶媒中に分散させる有機化合物は、合成後の粗製粉末など、任意のサイズ・形状の粉末固体で良いが、微粒子化の効率が向上するので、予め、平均粒径1〜100μmの範囲に粉砕しておくことが好ましい。
【0018】
溶媒中に有機化合物を分散させる方法としては、分散安定剤を用いても良いが、不純物として残留する恐れがあるので、純度の高い微粒子を必要とする場合には好ましくない。本発明の製造方法では、レーザー光照射によって有機化合物の分散性を向上させることができるので、むしろ、何らかの攪拌装置を用いて、液を攪拌して達成される程度の分散状態で充分である。
【0019】
有機化合物を分散させる溶媒としては、、例えば、水、アルコール等を用いることができるが、これは、微粒子化する有機化合物が溶解しない溶媒を選択して用いれば良い。ただし、ベンゼンやトルエン等、化学構造中に芳香環を有する溶媒に分散させた場合、例えば、248nmのエキシマーレーザーを照射すると、溶媒自身がレーザー光を吸収してしまうので、好ましくない。分散溶媒の選択は、微粒子化すべき有機化合物が溶解しない溶媒で、かつ、照射するレーザー光の波長において吸収を示さないものを選択すべきである。
【0020】
非溶媒中に分散させた有機化合物に吸収波長のレーザー光を照射すると、該有機化合物の粉末が光を吸収し、光吸収部では急激に局所的な温度上昇が起こる。この光照射部の温度上昇は、レーザー光照射後瞬間的に起こり、一方、光照射部周辺の温度上昇は熱伝導によって起こるため、比較的大きな粉末原料を用いた場合には、光吸収部と光非吸収部で急峻な温度差が生じる。このため、粉末のレーザー光照射部とその周辺部に著しい内部応力が生じて固体粉末にクラックが発生し破砕が起こる。粉末がレーザー光の照射波長に強い吸収を有する場合には、光吸収は主として粉末の表面で起こり、光照射表面と内部に温度差が生じるので、この場合にも粉末に内部歪みが生じて破砕が進行する。破砕が進み、原料粉末が小さくなってレーザー光が粉末全体でほぼ均一に吸収される場合でも、粉末表面が周囲の溶媒によって冷却されるため、内部との間に温度分布が生じて応力が発生し、破砕が達成される。
【0021】
このように有機化合物の分散に用いる溶媒は、単純に分散用に用いるだけでなく、粉末の冷却、生成した微粒子の回収を容易にするほか、レーザー照射によって粉末に生じたクラックに浸透して破砕を促進する等の役割を担っている。
【0022】
以上のように本発明の微粒子の製造方法は、レーザー光照射によって溶媒中に分散した粉末内部に急激な温度差を生じさせ、その結果、内部応力を誘起して粉末を破砕し、該有機化合物の微粒子を得るという方法である。従って、照射するレーザー光は、微粒子化する粉末内部に熱による応力を生じさせる出力を有するものであれば良い。また、過剰な光強度での照射は、有機化合物の分解、劣化を引き起こすので好ましくない。
【0023】
本発明の製造方法に用いるレーザー光としては、紫外レーザー光、可視レーザー光、近赤外レーザー光及び赤外レーザー光からなる群から微粒子化する有機化合物の吸収波長に合わせて選択すればよい。紫外光レーザーとしては、例えば、エキシマーレーザー(193nm、248nm、308nm、351nm)や窒素レーザー(337nm)、YAGレーザーの3倍波及び4倍波(355nm、266nm)などが挙げられる。可視光レーザーとしては、例えば、YAGレーザーの2倍波(532nm)、Arイオンレーザー(488nm又は514nm)、、その他色素レーザーなどが挙げられる。近赤外レーザー光としては、例えば、種々の半導体レーザー、チタンサファイヤレーザー、YAGレーザー、ガラスレーザー、などが挙げられる。また、これらのレーザーと光パラメトリック発振器を用いて、紫外から赤外領域の任意の波長の光を発振させて用いても良い。
【0024】
レーザー光の照射時間は、数十フェムト〜数百ナノ秒程度の短時間パルスレーザーを繰り返し照射することが望ましい。これよりも長時間の照射は、原料粉末に溶融や熱分解等の熱損傷を与える傾向にあるので好ましくない。
【0025】
照射するレーザー光波長の選択にあたっては、例えば、「有機化合物のUV−VIS図(第2版)(UV-VIS Atlas of Organic Compounds 2nd ed)」(VCH社、1992年発行)、「JOEMハンドブック2 ダイオードレーザーに対する染料の吸収スペクトル(Absorption Spectra of Dyes for Diode Lasers JOEM Handbook 2)」(ぶんしん出版社、1990年発行)又は「芳香族化合物の蛍光スペクトルのハンドブック(第2版)(Handbook of Fluorescence Spectra of Aromatic Molecules 2nd ed.)」(アカデミック・プレス(Academic Press)社、1971年発行)などのスペクトル集を参考にすれば良い。
【0026】
【実施例】
以下、実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0027】
<実施例1>
ペリレン結晶を乳鉢上で磨砕して数μmの粉末とした後、水中に分散させ、ガラス製容器中でマグネチックスターラーを用いて攪拌しながらレーザー光(351nm、1.5J/m2、パルス幅30ns)を照射した。5Hzで50分間の照射により、〜150±100nmのペリレン微粒子が安定に分散した微粒子分散液を得た。このようにして得たペリレン微粒子の粒度分布を測定し、その結果を図2に示した。
【0028】
<実施例2>
フタロシアニンの粉末を乳鉢上で磨砕して数μmの粉末とした後、水中に分散させ、ガラス製容器中でマグネチックスターラーを用いて攪拌しながらレーザー光(351nm、〜1.5J/m2、パルス幅30ns)を照射した。5Hzで10分程度の照射により、液の色が均一な青色に変化し、フタロシアニン粒子が安定に分散した微粒子分散液を得た。
【0029】
<実施例3>
フタロシアニンの粉末を乳鉢上で磨砕して数μmの粉末とした後、水中に分散させ、ガラス製容器中でマグネチックスターラーを用いて攪拌しながらレーザー光(532nm、〜0.8J/m2、パルス幅35ns)を照射した。5Hzで10分程度の照射により、液の色が均一な青色に変化し、フタロシアニン粒子が安定に分散した微粒子分散液を得た。
【0030】
【発明の効果】
本発明の製造方法は、特殊な大型の容器を必要とせず、また、微粒子化に際して不純物の混入がなく、しかも、1.5J/m2程度の比較的低いエネルギーで微粒子化することができる。従って、本発明の製造方法によれば、簡便で効率良く、種々の種類・大きさの有機化合物の微粒子を製造することができる。また、本発明の製造方法で得られる微粒子は、凝集が少なく、分散性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた有機化合物の微粒子を製造するために用いた製造装置の断面図である。
【符号の説明】
1 レーザー光
2 有機化合物の分散液
3 ガラス容器
4 攪拌装置
5 スターラーチップ
【図2】本発明の実施例1で得たペリレン微粒子の粒径分布を示した図表である。なお、縦軸は、分率(%)を、横軸は、粒径(μm)である。

Claims (7)

  1. 平均粒径が1〜100μmの固体粒子からなる有機化合物を、当該有機化合物が溶解しない溶媒中に分散させた分散液を攪拌しながら、ここに該有機化合物の吸収波長であって、且つ前記溶媒自身は吸収しない波長のレーザー光を、前記有機化合物の粒子に局所的な温度上昇を生じさせて該粒子に熱による内部応力を誘起してクラックを発生させる強度で照射することにより、前記有機化合物の粒子を破砕することを特徴とする、有機化合物の微粒子の製造方法。
  2. 前記有機化合物が、その構造中に二重結合を有する化合物である請求項1記載の製造方法
  3. 前記有機化合物が、190〜3000nmの間に光吸収を示す化合物である請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 前記有機化合物が有機顔料である請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法。
  5. 前記溶媒が水又はアルコールである請求項1〜4の何れか1項記載の製造方法。
  6. 照射するレーザー光の波長が193〜532nmの範囲である請求項1〜5の何れか1項記載の製造方法。
  7. レーザー光を0.8J/m 以上1.5J/m 以下で照射する請求項1〜6の何れか1項記載の製造方法。
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