JP4453361B2 - 非線形光学材料製造用の原料溶液、非線形光学材料、及び非線形光学素子 - Google Patents

非線形光学材料製造用の原料溶液、非線形光学材料、及び非線形光学素子 Download PDF

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Description

本発明は、光通信、光配線、光情報処理、センサー、あるいは画像処理等の分野に適用することが可能な非線形光学材料及び非線形光学素子、及びそれらを製造するための原料溶液に関するものである。
具体的には、2次の非線形光学効果を利用した光スイッチ素子、光変調素子、波長変換素子、位相シフト素子、あるいはフォトリフラクティブ効果を利用したメモリ素子、画像処理素子、等の非線形光学素子、及びこれらに適用可能な非線形光学材料、並びにそれらの製造用の原料溶液に関するものである。
光を活用する光通信、光配線、光情報処理、センサー、あるいは画像処理等の分野において重要な波長変換素子、光変調素子、光スイッチ素子等の機能性素子の多くは、非線形光学材料、特に2次の非線形光学材料を用いることによって具現化される。2次非線形光学材料としては、これまでにニオブ酸リチウム、燐酸二水素カリウム等の無機非線形光学材料が既に実用化され、広く用いられているが、近年、これらの無機材料に対し、高い非線形光学性能、安価な材料並びに製造コスト、高い量産性等の優位性を有する有機非線形光学材料が注目され、実用化に向けての活発な研究開発が行われている。
2次非線形光学効果は、原理的に系に対称中心が存在しないことが必須要件であり、2次非線形光学材料は、非線形光学活性を有する有機化合物を対称中心の存在しない結晶構造に結晶化させた系(以下、「結晶系」と称する)と、非線形光学活性を有する有機化合物(非線形光学活性有機化合物)を高分子バインダー中に分散させ、該非線形光学活性有機化合物を何らかの手段によって配向させ対称中心を有さなくした系(以下、「分散系」と称する)とに大別される。
前記結晶系の有機非線形光学材料は、非常に高い非線形光学性能を発揮し得ることが知られているが、結晶構造の人為的な制御は現状では不可能に近く、対称中心の存在しない結晶構造が得られることは非常に稀であり、たとえ得られたとしても素子化に必要な大きな有機結晶を作製することは困難である。また、有機結晶の強度は非常に脆く素子化工程で破損してしまう等、種々の問題がある。
これに対し、前記分散系の有機非線形光学材料は、高分子バインダーにより、素子化するに当って有用な成膜性、機械的強度等の好ましい特性が付与され、実用化に向けてのポテンシャルが高く有望視されている。
分散系の有機非線形光学材料では、高分子バインダー中に非線形光学活性有機化合物が凝集せずに均一に分散され、光学的に均質透明となることが要求される。さらに、前記の通り2次の非線形光学効果を発現するには、非線形光学活性有機化合物を何らかの手段によって配向させ異方性を付与しなければならず、また機能性素子として利用するに当っては、その配向状態が、素子の製造時、動作時、及び保管時の温湿度環境にあって安定に保持されなければならない。
したがって、分散系の有機非線形光学材料に用いる非線形光学活性有機化合物としては、高い非線形光学性能に加えて、凝集性が低く高分子バインダーとの相溶性に優れることが要求される。また、分散系の有機非線形光学材料は一般に薄膜の形態にて素子化され、該薄膜の形成法としては湿式塗布法が好適に用いられる。このため、分散系の有機非線形光学材料に用いる非線形光学活性有機化合物としては、原料溶液溶剤への高い溶解性が要求される。一方、高分子バインダーとしては、高い成膜性、機械的強度等に加え、内包する非線形光学活性有機化合物の配向状態を安定に保持するための高いガラス転移温度が要求される。
また、分散系の有機非線形光学材料において、前記2次の非線形光学活性を生起させるには、上述のように非線形光学活性有機化合物を配向させる必要があるが、このための配向法としては、一般に電界ポーリング法が用いられる。該電界ポーリング法は、非線形光学材料に電界を印加し、非線形光学活性化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、非線形光学活性化合物を印加電界方向に配向させる配向法であり、一般に、電界印加時に、ガラス転移温度付近の温度にまで加熱することによって、非線形光学活性化合物の分子運動を促進させ配向を支援することが行われる。
前記非線形光学活性有機化合物としては、π共役鎖の一方の端に電子供与性基、他方の端に電子吸引性基を有する、所謂プッシュ−プル型π共役系化合物が有効であることが知られている。例えば、π共役鎖としてのアゾベンゼン構造の4位に電子供与性基としてのN−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミノ基、4’位に電子吸引性基としてニトロ基を有するDisperse Red 1 (一般にDR1と略称される)が、代表的な非線形光学活性有機化合物としてよく知られている。しかしながら、上記DR1は本質的に非線形光学性能があまり高くなく、また通常の高分子バインダーとの相溶性が低いだけでなく、昇華し易いため、乾燥時や電界ポーリング時の加熱に伴い消失してしまったり、ジアルキルアミノ基が酸化され変質してしまったりする等の問題がある。
これらの問題を解決するために、これまでに種々の非線形光学活性有機化合物が開発されてきたが、未だに全ての必要特性を同時に満足するものは見出されていない。特に、高い非線形光学性能と高いバインダー相溶性との両立は困難である。すなわち、前記プッシュ−プル型π共役系化合物においては、一般に、π共役鎖を長くする、電子吸引性基の電子吸引能を強くする、電子供与性基の電子供与能を強くする、等によって非線形光学性能が向上することが知られているが、これらは同時に分子間の凝集性を増大させ、高分子バインダーとの相溶性の低下を齎す。
例えば、下記の構造の化合物が、非常に高い非線形光学性能を有するものの、凝集性が非常に高く結晶の析出を抑えて高分子バインダー中に分子分散させた膜を得ることが非常に困難であることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。さらには、塗布溶剤として沸点の低いハロゲン系の溶剤を用いる必要があることも開示されているが、ハロゲン系の溶剤は大気環境への悪影響が大きく、実用化に当っては好ましくない。
一方、前記高分子バインダーとしては、ポリメチルメタクリレート(一般にPMMAと略称される)が最もよく検討されてきたが、PMMAのガラス転移温度は100℃程度と低く、PMMAを高分子バインダーとして用いた分散系の有機非線形光学材料の配向状態は室温でも徐々に緩和し、非線形光学性能が経時で著しく低下してしまうため、機能性素子としての実用化には耐えないことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
この問題を解決するために、PMMAに代わるバインダー高分子の探索が活発に行われ、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルフォン、ポリ環状オレフィン等のPMMAよりもガラス転移温度の高い高分子の有効性が報告されているが(例えば、特許文献1参照)、これらの高いガラス転移温度を有する高分子バインダーを用いると、電界ポーリング時に必要となる加熱温度も上がることになり、前記DR1等の非線形光学活性有機化合物が電界ポーリング時に昇華により消失してしまったり、酸化されてしまったりするという問題があった。また、これらの高いガラス転移温度を有する高分子バインダーとDR1等の非線形光学活性有機化合物との相溶性は必ずしもよくなく、非線形光学性能を高めるために非線形光学活性有機化合物を高濃度で添加すると、それらが凝集化あるいは結晶化してしまったり、また低濃度であっても加熱や経時により凝集化あるいは結晶化が起こってしまったりする問題もあった。
上述した分散系の有機非線形光学材料の問題を解決する手段として、非線形光学活性有機化合物を高分子の主鎖及び/または側鎖に導入し、非線形光学活性有機化合物自身を高分子化する方策が検討されている。
例えば、DR1構造をPMMAの側鎖に結合させた下記の構造の非線形光学活性高分子化合物が開発されている。
この非線形光学活性高分子化合物のガラス転移温度は約165℃であり、PMMAのガラス転移温度(約100℃)よりも高いガラス転移温度を有する。また、DR1はPMMA中に30質量%程度までしか結晶析出なしに分散させることができないのに対して、前記非線形光学活性高分子化合物では、その構造中のDR1骨格の濃度が82質量%に相当するにも関わらず、相分離のないクリアな膜が得られる。よって、前記非線形光学活性高分子化合物は、DR1をPMMAに分散させた分散系よりも高い非線形光学性能と高い安定性を示す。
しかしながら、嵩高い非線形光学活性構造を有するモノマーを重合させることは困難であり、たとえ重合させることができてもその重合度を制御することは困難である。そして、重合度が上がらない場合には、得られた高分子の機械的強度は低いものとなってしまう。また、一定の重合度に制御できなければ、薄膜を作製するためのコーティング液(原料溶液)を調製した場合に、合成ロット毎にその粘度が変わってしまうことになり、一定の膜厚を得ることが困難になるという問題がある。また、高分子の精製は困難であり、重合触媒等の不純物が残存してしまい、電界ポーリング時に有効な電界が掛からないという問題が生起する場合もある。したがって、非線形光学活性有機化合物を高分子の主鎖及び/または側鎖に導入する方策は、必ずしも最善の手段とは言えない。
また、前述の分散系の有機非線形光学材料の問題を解決する手段として、DR1等の非線形光学活性有機化合物に架橋性官能基を導入した架橋性非線形光学活性有機化合物を合成し、該架橋性非線形光学活性有機化合物を塗布、乾燥した後、電界ポーリングと架橋硬化を同時に行う方策(以下、「架橋硬化系」と称する)が検討されている。この方策によれば、電界ポーリングにより配向した状態が架橋硬化され固定されるため、配向状態が非常に安定なものになるという好ましい効果が得られる。また、原料の架橋性非線形光学活性有機化合物自身は低分子化合物であるため、前述の非線形光学活性高分子化合物における重合や精製に関する問題は低減される。
しかしながら、従来の非線形光学活性有機化合物は凝集性が非常に高いため、架橋性官能基を導入し架橋硬化を行おうとしても、一般に、架橋硬化の前の乾燥工程にて凝集化あるいは結晶化が起こってしまい、クリアな硬化膜が得られないという問題があった。また、原料溶液中でも架橋反応が進行し、原料溶液がゲル化してしまう、あるいは沈殿が生じてしまう等の原料溶液のポットライフ上の問題があり、これらは得られる膜の光学品質の低下や製造コストの上昇を齎していた。
Chemstry of Materials、2001年、13巻、3043〜3050頁 Chemical Reviews、1994年、94巻、1号、31〜75頁 特開平6−202177号公報
本発明は、以上のような従来技術の問題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明は、優れた安定性を有するポテンシャルの高い架橋硬化系の有機非線形光学材料に関し、凝集化や結晶化の問題を回避し、また優れた原料溶液のポットライフを有する、架橋硬化系の非線形光学材料製造用の原料溶液を提供することを目的とする。さらに本発明は、この原料溶液を活用することによって、優れた非線形光学性能と優れた安定性を有する非線形光学材料、並びに非線形光学素子を低コストにて提供することを目的とする。
本発明者等は、前記の課題を解決すべく、非線形光学活性有機化合物ならびに架橋硬化手法に関して鋭意検討を行った結果、特定の架橋性の非線形光学活性有機化合物を活用することにより、前記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、
<1> 湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、1つ以上の架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物を含み、かつ該非線形光学活性有機化合物が、下記一般式(1)で示されるプッシュ−プル型π共役系化合物であることを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液である。
上記式中、Z1〜Zは互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の架橋性官能基を有する。
<2> 湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、下記一般式(2)で示される非線形光学活性有機化合物と、必ず1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物とを、含むことを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液である。
上記式中、Z4〜Z6は互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Dは置換基を有してもよいπ共役基であり、Eは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、nはを表す。なお、Z4〜Z6、D、Eは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらは架橋性官能基を有していても有していなくてもよい。
<3> 前記一般式(1)中のAが、置換基を有してもよい、環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることを特徴とする<1>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<4> 前記一般式(2)中のEが、置換基を有してもよい、環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることを特徴とする<2>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<5> 前記一般式(1)中のZ3−Lmにおける両端に亘るπ共役系が、5個以上の不飽和結合が連なって形成されてなることを特徴とする<1>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<6> 前記一般式(2)中のZ6−Lnにおける両端に亘るπ共役系が、5個以上の不飽和結合が連なって形成されてなることを特徴とする<2>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<7> 前記架橋性官能基が、加水分解性シリル基を含むことを特徴とする<1>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<8> 前記架橋性官能基が、加水分解性シリル基を含むことを特徴とする<2>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<9> 前記非線形光学活性有機化合物を含む溶液に対して、少なくとも、固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た原料溶液から前記固体触媒を分離する触媒分離処理とを、施したことを特徴とする<7>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<10> 前記非線形光学活性有機化合物及びマトリックス形成化合物を含む溶液に対して、少なくとも、固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た原料溶液から前記固体触媒を分離する触媒分離処理とを、施したことを特徴とする<8>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<11> 前記マトリックス形成化合物が、架橋性官能基として2つ以上の加水分解性シリル基を有することを特徴とする<8>に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液である。
<12> <1>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料である。
<13> <2>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料である。
<14> <1>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子である。
<15> <2>に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子である。
<16> 1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする<14>に記載の非線形光学素子である。
<17> 1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする<15>に記載の非線形光学素子である。
本発明によれば、湿式法を用いて非線形光学材料を形成する際の作業性に優れ、且つ、それを用いて作製される非線形光学材料および非線形光学素子の非線形光学性能に優れた非線形光学材料製造用の原料溶液を提供することができる。
また、本発明によれば、優れた非線形光学性能と架橋硬化によるその高い熱安定性を兼ね備えた非線形光学材料を簡便に提供でき、さらにそれを活用することによって、安定性が高く、かつ長寿命の優れた非線形光学素子を安価に提供することができる。
以下に本発明を実施の形態に沿って詳しく説明する。
<原料溶液>
本発明の原料溶液は、第1の原料溶液及び第2の原料溶液の2つに分けられる。
本発明の第1の原料溶液は、湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、1つ以上の架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物を含み、かつ該非線形光学活性有機化合物が、下記一般式(1)で示されるプッシュ−プル型π共役系化合物であることを特徴とする。
上記式中、Z1〜Z3は互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の架橋性官能基を有する。
後述するように、上記一般式(1)で示される構造の化合物は、大きな非線形光学効果を有するものであるが、上記本発明によれば、原料溶液がゲル化したり、あるいは沈殿が生じてしまったりすることがなく、優れたポットライフを有する原料溶液が得られ、また、この原料溶液により非線形光学特性に優れた非線形光学材料を作製することができる。
本発明の第1の原料溶液には、少なくとも、1つ以上の架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物が含まれるが、上記架橋性官能基は、一般式(1)に示す化合物中のZ1〜Z3、L、Aのうちの少なくとも1つが有していればよく、またその架橋性官能基の数は、1つ以上であれば特に限定されない。
前記一般式(1)中のZ1〜Z3は、互いに独立に置換基を有してもよい芳香族基であり、合成の容易さ、化学的安定性等の点で、置換基を有してもよいフェニル基またはフェニレン基であることが好ましい。このようなトリアリールアミン構造をとることにより、化合物の耐酸化性を向上させることができ、熱劣化や光劣化が抑えられる。さらに、トリアリールアミン構造をとることにより、分子間の会合性が抑えられ非線形光学活性有機化合物の架橋膜中での分子分散性が向上し、成膜後の凝集化や結晶化を抑制することができる。また、Lは置換基を有してもよいπ共役基である。Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、化学的安定性、非線形光学性能等の点で、置換基を有してもよい環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることが好ましい。
本発明において、前記Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成していてもよい。環構造を形成しバルキーかつリジッドな構造となることで、分子間の会合性が抑えられるとともに、耐酸化性が向上する。
また、前記一般式(1)中のZ3−Lmで示される構造が、両端に亘るπ共役系が5個以上の不飽和結合が連なって形成されていることが好ましい。前述のように、プッシュ−プル型のπ共役系化合物においては、電子吸引性基と電子供与性基との間のπ共役鎖を長くすることが非線形光学性能向上の観点から望ましく、本発明における一般式(1)に示す化合物では、前記π共役系が5個以上連なっていると、特に優れた非線形光学特性が得られる。
上記π共役系は7個以上連なっていることがより好ましいが、耐酸化性、耐凝集性の確保の点から、上限は15個程度であることが好ましい。なお、本発明において、前記「π共役系が連なっている」とは、不飽和結合が結合1つおきに存在して連なっていることをいう。
前記架橋性官能基としては、それ自身で架橋するもの、二種のものが対となって架橋するもの、あるいは架橋助剤を介して架橋するもの等、如何なるものでも構わない。形成される架橋結合は、イオン結合、水素結合、配位結合、共有結合のいずれでもよいが、安定性の点で、共有結合が好ましい。
架橋性官能基の具体例としては、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシ基、エポキシ基、イソシアナート基、置換または未置換のベンゾシクロブテン基、置換または未置換のビニル基、置換または未置換ヒドロキシシリル基、置換または未置換の加水分解性シリル基、等が挙げられる。これらの中でも、置換または未置換の加水分解性シリル基が、得られる架橋硬化膜の光学品質、機械的強度、耐溶剤性、化学的安定性等の点で特に好ましい。
上記加水分解性シリル基とは、シリル基の水素の一部または全部が、アルコキシ基に代表される加水分解性基により置換されたものをいう。また、架橋性官能基として加水分解性シリル基が用いられる場合、すべての架橋性官能基が加水分解性シリル基である必要はないが、すべて加水分解性シリル基であることが好ましい。
なお、上記加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物の詳細については後述する。
これらの架橋性官能基は室温でも徐々に反応するため、それを含む非線形光学材料製造用の原料溶液のポットライフは一般に短いが、低温、暗所、乾燥状態にて保存することによって、ポットライフの向上を図ることができる。
前記一般式(1)で示される化合物であって、1つ以上の架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物の具体例としては、例えば、以下の構造のものが挙げられる。
本発明者らは、先に、特に好ましい架橋性官能基である加水分解性シリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用原料溶液に関し、ポットライフを、室温、大気下においても著しく向上させ得る技術を見出した(特願2003−77616号明細書)。
従来の加水分解性シリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用の原料溶液においては、加水分解性シリル基の加水分解ならびに重縮合を加速するために、塩酸や硫酸等の酸触媒、またはピリジンやトリエチルアミン等の塩基触媒が添加されるが、これらの均一系触媒を添加した原料溶液では、溶液中において加水分解と重縮合が同時に進行するため、短時間で溶液がゲル化してしまう、あるいは固体が沈殿してしまうといったポットライフ上の問題があった。
上記ゲル化や沈殿が起こる前に塗布を行えばクリアな膜を得ることは可能であるが、作業性が悪く製造コストのアップを余儀なくされる。また、ゲル化や沈殿が起こる前であっても重縮合が徐々に進行していることから、溶液の粘度が変化し一定の膜厚を得ることが困難になる、溶液中に微小な硬化物が生成し得られる膜の光学品質が低下する、等の問題があった。さらに、酸触媒や塩基触媒は電界ポーリング時にも残存してしまい、そのイオン伝導性によって膜に有効なポーリング電界が掛からないという問題もあった。
これらの従来の加水分解性シリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用の原料溶液に対して、前記本発明者らが見出した技術によれば、加水分解性シリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用原料溶液のポットライフを、架橋硬化性を損ねることなく、著しく改善することができる。
すなわち、架橋性官能基として加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物を含む溶液に対して、加水分解触媒として固体触媒を用い、該溶液を該固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させた後(加水分解処理)、溶液から該固体触媒を分離除去することによって(触媒分離処理)、加水分解されたシリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用の原料溶液を調製する。
また、本発明の原料溶液に関しては、前記の加水分解処理と分離処理の他に、これら2つの工程の前後及び/または同時に、他の任意の処理を加えてもよい。なお、前記加水分解処理、分離処理等の詳細については後述する。
この原料溶液は触媒を含まないため安定であり、従来の均一触媒系に比べ著しく優れたポットライフを有する。さらに、既に加水分解性シリル基が加水分解されており重縮合性のヒドロキシシリル基となっているため、水の蒸発温度(100℃)以上の温度に加熱すれば、容易に脱水縮合が起こり、架橋硬化が進行する。したがって、前記技術によれば、このように室温における優れたポットライフと、電界ポーリング時(電界ポーリングは一般に100℃以上の温度にて行われる)における高い架橋硬化性が両立される。
本発明においては、上記技術において、非線形光学活性有機化合物として前記一般式(1)で示される化合物を用いることにより、より高濃度で安定した原料溶液を作製することができ、また、この原料溶液を用いて成膜した場合にも、凝集化や結晶化が発生することなく、所望とする厚膜の非線形光学材料が安定して得られることが判明した。さらに、前記非線形光学活性有機化合物は優れた非線形光学性能を有するため、素子にした場合でも、動作電圧、サイズ等の点で、これまでにない優れた特性が示されることが明らかとなり、後述するようにその応用領域が拡大された。
また、架橋性官能基として加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物を含む溶液に対して、加水分解触媒として金属キレート触媒を添加し、加水分解性シリル基を加水分解させた後(加水分解処理)、該溶液に該金属キレート触媒の触媒能を抑制する停止剤を添加することによって(停止処理)、加水分解されたシリル基を有する架橋性非線形光学活性有機化合物を含む非線形光学材料製造用の原料溶液を調製することによっても、優れたポットライフと架橋硬化性を兼ね備えた原料溶液を得ることができる。
上記金属キレート触媒としては、非特許文献(日本化学会誌、1998年、9号、571〜579頁)に記載の金属キレート化合物;アセチルアセトン、キノリノール等のキレート剤を一つまたは二つ持つアルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、またはジルコニウムアルコキシド等が有効に用いられる。
前記停止剤としては、キレート配位力の強い多座配位子が有効であり、具体例としては、アセチルアセトン、キノリノール等が挙げられる。
なお、前記の固体触媒あるいは金属キレート触媒を用いての加水分解処理においては、加水分解反応と平行して重縮合反応も進行する場合がある。しかしながら、固体触媒を用いた場合には、該固体触媒を除去することによって、また、金属キレート触媒を用いた場合には、停止剤を添加することによって、重縮合反応を実効的に停止でき、優れたポットライフが保証される。
本発明の第2の原料溶液は、湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、下記一般式(2)で示される非線形光学活性有機化合物と、必ず1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物とを含むことを特徴とする。
上記式中、Z4〜Z6は互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Dは置換基を有してもよいπ共役基であり、Eは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、nは1を表す。なお、Z4〜Z6、D、Eは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらは架橋性官能基を有していても有していなくてもよい。
上記第2の原料溶液には、前記架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物以外に、1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物が含まれる。このマトリックス形成化合物も、前記第1の原料溶液における架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物と同様に、架橋性官能基により3次元的に架橋して膜形成に寄与するものであるが、マトリックス形成化合物は非線形光学活性有機化合物のような非線形光学活性構造を含むものでないため、非線形光学活性有機化合物と共に架橋された膜には、マトリックス形成化合物の構造により、柔軟性等の特性が付与される。
マトリックス形成化合物における架橋性官能基としては、特に制限されず、前記第1の原料溶液における架橋性官能基で述べたものと同様のものが挙げられるが、それらの中でも、置換または未置換の加水分解性シリル基が、得られる架橋硬化膜の光学品質、機械的強度、耐溶剤性、化学的安定性等の点で特に好ましい。一方、非線形光学活性有機化合物については、架橋性官能基を有さない場合がある以外は、その好ましい構造、好ましい架橋性官能基等は同様である。
なお、上記マトリックス形成化合物の詳細については後述する。
また、第2の原料溶液においては、前記のようにマトリックス形成化合物が必ず架橋性官能基を含むため、非線形光学活性有機化合物は、必ずしも架橋性官能基を有していなくてもよい。この場合には、3次元的に架橋したマトリックス形成化合物中に非線形光学活性有機化合物が分散された状態で存在することとなる。
また、前記第1の原料溶液の場合と同様、マトリックス形成化合物及び非線形光学活性有機化合物の架橋性官能基として加水分解性シリル基が用いられる場合、すべての架橋性官能基が加水分解性シリル基である必要はないが、すべて加水分解性シリル基であることが好ましい。
また、第2の原料溶液においては、前記1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物として、2つ以上の加水分解性シリル基を有するものを用いることが好ましく、さらに、前記非線形光学活性有機化合物として、1つ以上の加水分解性シリル基を有するものを用いることが、最終的な架橋膜の架橋密度を高める上で特に好ましい。
上記一般式(2)で示される非線形光学活性有機化合物とマトリックス形成化合物との混合比(非線形光学活性有機化合物/マトリックス形成化合物)は、質量比で1/99〜95/5の範囲が好ましく、20/80〜80/20の範囲がより好ましい。
また、本発明の第2の原料溶液においても、前記同様、非線形光学活性有機化合物及びマトリックス形成化合物を含む溶液に対して、少なくとも、固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た溶液から前記固体触媒を分離する触媒分離処理とを;あるいは、少なくとも、金属キレート触媒を添加し加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た原料溶液に該金属キレート触媒の触媒能を抑制する停止剤を添加する停止処理とを;施すことが、ポットライフ、架橋硬化性等の点で、特に好ましい。
以下に、本発明の第1及び第2の原料溶液に共通する主な内容である、加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物、固体触媒を用いる加水分解処理工程及び触媒分離工程、原料溶液中のその他の成分、原料溶液に用いられる溶媒、及び第2の原料溶液に用いられる加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物に分けて、順次説明する。
(加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物)
本発明において好適に用いられる加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物は、下記の一般式(3)で表される。
一般式(3)
G(−Y)j
但し、一般式(3)中、jは、1以上の整数を意味し、Gは前記一般式(1)及び一般式(2)で表される非線形光学活性有機化合物(一般式(2)で表される非線形光学活性有機化合物については架橋性官能基を有する場合)のいずれかの部位に、Yと接合するための接続手が必要に応じて導入されたものである。
この接続手は、GとYとを接合することが可能なものであれば特に限定されないが、具体的には、−Cn2n−、−C(n+1)2n−、−C(n+1)(2n-2)−、で表わされる炭化水素基(但し、nは1〜15の整数を表す);−CO−、−COO−、−NHCO−、−S−、−O−、−N=CH−、−N=N−、フェニレン基、及びこれらに置換基を導入したもの;さらにこれらを組み合わせたもの等が挙げられる。
尚、接合手の導入は、前記一般式(1)におけるZ1〜Z3、L、A、あるいは、前記一般式(2)におけるZ4〜Z6、D、Eのいずれかの部位に導入することができるが、少なくとも、非線形光学特性が損なわれないように、導入する部位と、接合手の構造と、が選択されることが好ましい。
また、一般式(3)におけるYは、下記の一般式(4)で表される。
一般式(4)
−SiRn(3-n)
但し、一般式(4)において、Rは、水素、置換または未置換のアルキル基、置換または未置換のアリール基を表す。前記アルキル基としては、特に限定されないが、炭素数1〜20のものが好ましく、1〜15がより好ましい。前記アリール基としては、芳香環数3以下のものが好ましい。
Qは、加水分解性基を表し、nは0〜2の整数を表す。
すなわち、Yは加水分解性のシリル基であり、加水分解性基であるQが加水分解してヒドロキシシリル基(シラノール基)となり、他のヒドロキシシリル基と脱水縮合して架橋マトリックスを形成する。Qとしてはアルコキシ基、アリールオキシ基、ジアルキルアミノ基、アルキルカルボキシ基、ハロゲン原子等が挙げられるが、アルコキシ基が望ましい。Yの数が多いほど架橋密度が向上し、機械的強度や安定性は向上するが、逆にポーリングによる配向を起こし難くなる。よって、jは1〜3とすることが好ましい。
また、前記加水分解性基Qの数は、1〜3個となるが、加水分解性基Qの数が3個ある場合には、加水分解性シリル基の反応性が高くなる傾向にあるために、原料溶液中で重縮合反応が進行してしまい、ポットライフが短くなってしまう場合がある。
このような場合には、加水分解性シリル基が有する加水分解性基Qの数を1個または2個にし、前記のような構造Rを代わりに導入することで反応性を抑えることによりポットライフを向上させることができる。
また、加水分解性基Qが、アルコキシ基である場合には、上記のような反応性は、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順で嵩高さが大きくなるにつれ低下するため、例えばメトキシ基でポットライフに問題があった場合に、イソプロポキシ基に変更することによってポットライフをより向上させることができる。
一般式(3)で表される加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物の具体例としては、例えば、下記のようなものが挙げられる。これらにおいて、「Me」はメチル基、「Et」はエチル基、「iPro」はイソプロピル基を各々表す。
なお、1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物と共に用いる場合には、一般式(2)で表される非線形光学活性有機化合物は、必ずしも架橋性官能基を持たなくともよいが、一つ以上の架橋性官能基を有するほうが、安定性、光学品質等の点で、好ましい。
(加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物)
本発明の第2の原料溶液に好ましく用いられる加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物は、下記の一般式(5)で表される。
一般式(5)
T(−X)i
但し、一般式(5)中、Tは、炭素数2〜20の枝分かれ、環構造、不飽和結合、ヘテロ原子を含んでもよい脂肪族炭化水素基;置換または未置換の芳香族基;置換または未置換のヘテロ原子含有芳香族基;または、それらの組み合わせから構成され、−NH−、−CO−、−O−、−S−、−Si−から選ばれる基の少なくとも1つ以上を含んでもよい。また、Xは加水分解性シリル基を表し、前記一般式(3)におけるYと同様、前記一般式(4)で表される構造と実質同一の構造を有するものである(ただし、YとXとでは、一般式(4)中のR、Q、nはそれぞれ独立である)。なお、iは1以上の整数を意味する。
本発明の第1の原料溶液には、複数の前記一般式(1)で表される加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物を併用してもよく、第2の原料溶液には、複数の前記一般式(2)で表される加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物及び複数の加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物を併用してもよい。その場合、それらの加水分解性シリル基は、全てが同じ構造のものであっても、それぞれ異なる構造のものであってもよいが、少なくとも同種の加水分解性基Qを有し、その加水分解性が同等であるほうが、複数の化合物がより均質に共架橋するため好ましい。
前記一般式(5)におけるTで表される構造は、加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物に適度な柔軟性を与えるため、これを含む本発明の原料溶液を用いて架橋硬化膜を形成する際に、架橋硬化に伴い生ずる収縮歪みを吸収してクラックの発生を防止する、未架橋で残存してしまうヒドロキシシリル基の濃度を低減する、等の好ましい効果を発揮する。この効果は、加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物に含まれる加水分解性シリル基が1つのものでも得ることができるが、Tが置換基を有してもよい炭素数が2以上の有機基であり、且つその末端に2つ以上の加水分解性シリル基を有する場合に、特に顕著となる。このような加水分解性シリル基含有マトリックス形成化合物としては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
なお、前記一般式(5)における加水分解性シリル基の数iの上限は、特に限定されないが、4以下であることが好ましい。iが4を超える場合には、形成される架橋マトリックスの柔軟性が悪くなりクラックが発生したり、未架橋で残存してしまうヒドロキシシリル基が多くなったりしてしまう、等の問題が生じる場合がある。
加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物としては、上記の例に限定されず、通常のゾルゲル法において用いられる公知の化合物も利用可能である。その例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、等を挙げることができる。
また、第1、第2の原料溶液には、必要に応じ、ヒドロキシシリル基と共架橋できる任意の成分を添加してもよい。例えば、屈折率を高める目的で、ゲルマニウム、チタン、ジルコニウム、アルミニウム等の金属アルコキシド誘導体を添加することができる。
(加水分解処理及び触媒分離処理)
本発明の原料溶液は、加水分解性シリル基を有する化合物を含む溶液に対して、下記に説明する加水分解処理及び触媒分離処理を施すことにより作製されることが好ましい。
前記加水分解性シリル基の加水分解反応を促進する触媒としては、固体触媒を使用することが好ましい。上述のように、従来、加水分解性シリル基を有する化合物を用いるゾルゲル法において、原料溶液を調製する場合には、触媒として、塩酸や酢酸等の酸触媒、ピリジンやトリエチルアミン等の塩基触媒等の、易溶性の均一系触媒が用いられていた。
これらの触媒は、加水分解のみならず、後続の重縮合反応に対しても触媒作用を示す。上記均一系触媒を用いる方法は簡便ではあるが、反応性が高く、且つ原料溶液から触媒を分離除去することができないため、触媒反応を実質的に所望のレベルで停止させることができず、原料溶液の品質を管理することが困難、ポットライフが短い、等の問題があった。
これに対し、前記固体触媒を用いた場合、固体の表面のみで加水分解反応が起こるため反応がマイルドであり、反応の進行度を調整することが容易となり、また、不要な副反応も起こり難い。さらに、濾過などの簡単な操作によって触媒を除去できるため、加水分解反応、および引き続いて起こる重縮合反応を所望のレベルで停止できるという特長がある。
この固体触媒は、前記溶液に対して不溶性を有し、かつ、加水分解性シリル基を加水分解してヒドロキシシリル基を生成するものであれば特に限定されないが、具体的には以下に示すものを挙げることができる。これらは単独で用いても、複数を組合せて用いてもよい。
固体触媒としては、例えば、アンバーライト15、アンバーライト200C、アンバーリスト15、アンバーリスト15E(以上、ローム・アンド・ハース社製)、ダウエックスMWC−1−H、ダウエックス88、ダウエックスHCR−W2(以上、ダウ・ケミカル社製)、レバチットSPC−108、レバチットSPC−118(以上、バイエル社製)、ダイヤイオンRCP−150H(三菱化学社製)、スミカイオンKC−470、デュオライトC26−C、デュオライトC−433、デュオライト−464(以上、住友化学工業社製)、ナフィオン−H(デュポン社製)、ピューロライト(エイエムピー・アイオネクス社製)、等のイオン交換樹脂;
Zr(O3PCH2CH2SO3H)2、Th(O3PCH2CH2COOH)2等のプロトン酸基を含有する化合物が表面に結合されている固体酸;スルホン酸基を有するポリオルガノシロキサン等のプロトン酸基を含有するポリオルガノシロキサン;コバルトタングステン酸、リンモリブデン酸等のヘテロポリ酸;ニオブ酸、タンタル酸、モリブデン酸等のイソポリ酸;シリカゲル、アルミナ、クロミア、ジルコニア、CaO、MgO等の単元系金属酸化物;シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ジルコニア、ゼオライト類等の複合系金属酸化物;
酸性白土、活性白土、モンモリロナイト、カオリナイト等の粘土鉱物;リン酸ジルコニア、リン酸ランタン等の金属リン酸塩;シリカゲル上に3−アミノプロピルトリエトキシシランを反応させて得られた固体等のアミノ基を含有する化合物が表面に結合されている固体塩基;アミノ変性シリコーン樹脂等のアミノ基を含有するポリオルガノシロキサン;等を挙げることができる。
前記のような固体触媒を用いて原料溶液を調製する場合には、少なくとも、前記溶液を固体触媒に接触させ加水分解を行わせる加水分解処理工程と、該加水分解処理工程を経た前記溶液を、前記固体触媒から分離する触媒分離処理工程とを施すことが必要である。
前記加水分解処理工程は、少なくとも、前記溶液と固体触媒とを一定期間接触させることにより、加水分解を行わせることが可能なものであれば特に限定されない。なお、用いる固体触媒の種類、量、形状等は、所望の成膜性や膜厚が得られるように、処理の条件(温度等)や、原料溶液中に含まれるマトリックス形成化合物及び/または非線形光学活性有機化合物に応じて選択される。また、前記触媒分離処理工程は、前記加水分解処理工程を経た溶液から固体触媒を分離除去するものであれば特に限定されない。
このような加水分解処理工程及び触媒分離処理工程における溶液と固体触媒との接触及び分離は、例えば、溶液を、固体触媒が担持された多孔質や繊維質からなる担持体中を通過させるような連続式で行うことができる。また、粒子状の固体触媒を溶液中に分散させて加水分解を行った後、固体触媒を、濾紙、濾布、メンブランフィルター、ガラスフィルター、コットンフィルター等の各種フィルターを用い、常圧、減圧または加圧下にて濾別したり、固体触媒が内壁面に塗布された反応容器中に溶液を注いで攪拌しながら一定期間放置した後、溶液を他の容器に移し替えたりするようなバッチ式によって行うこともできる。
固体触媒の使用量は、特に限定されないが、原料溶液中に含まれる加水分解性シリル基を有する化合物の合計量に対して、0.001〜20質量%の範囲が好ましく、0.01〜10質量%の範囲がより好ましい。
固体触媒に接触させて反応させる温度及び時間は、用いる固体触媒や原料溶液に含まれる成分の種類によっても異なるが、通常、0〜100℃の範囲内が好ましく、5〜70℃の範囲内がより好ましく、10〜50℃の範囲内が特に好ましい。
また、反応時間は、固体触媒と原料溶液との接触のさせ方や温度によっても異なるが、反応時間が長くなるとゲル化を生じ易くなるため、10分〜100時間の範囲内で行なうことが好ましい。
(その他の添加剤)
このようにして加水分解処理及び触媒分離処理を施した溶液を、そのまま原料溶液として使用してもよいが、さらに必要に応じて下記の各種添加剤を添加してもよい。
本発明の原料溶液には、架橋硬化を促進するための硬化触媒を添加することが望ましく、ポットライフの点から、外部からの熱や光等のエネルギー付与により触媒作用を発揮するものが特に好ましい。
前記硬化触媒としては、用いる架橋性官能基に応じて適当なものを選ぶ必要があるが、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸等のプロトン酸;アンモニア、トリエチルアミン等の塩基;ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート等の有機錫化合物;チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、アセチルアセトナトチタントリブトキシド等のチタン化合物;アセチルアセトナトジルコニウムトリブトキシド等のジルコニウム化合物;アルミニウムトリブトキシド、トリアセチルアセトナトアルミニウム、アルミニウムトリアセチルアセテート等のアルミニウム化合物;有機カルボン酸の鉄塩、マンガン塩、コバルト塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩;公知の光ラジカル発生剤;公知の熱ラジカル発生剤;公知の光酸発生剤;公知の光塩基発生剤;等が挙げられる。
特に、本発明における架橋性官能基が加水分解性シリル基である場合には、これらの中でも、原料溶液の保存安定性、触媒が残存した場合の影響の少なさ、等の点から、金属のアセチルアセトナト錯体が好ましい。この場合、アセチルアセトンをさらに添加しておくと、原料溶液の保存安定性がさらに向上する場合がある。
なお、前記硬化触媒として、塩酸、酢酸、リン酸、硫酸等のプロトン酸のような上述の均一系触媒を用いる場合には、その添加量は、加熱によって実質的な触媒反応が進行する程度の必要最小限の量に抑え、室温でのポットライフの低下を招かないようにする必要がある。
添加する硬化触媒の量は、特に限定されないが、原料溶液のポットライフ、硬化温度等の点で、原料溶液中に含まれる架橋性官能基を有する化合物の合計量に対して、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.3〜10質量%の範囲がより好ましい。
また、本発明の原料溶液には、例えば、非線形光学活性有機化合物の酸化劣化を抑制する目的で、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキノン等の公知の酸化防止剤を、非線形光学活性有機化合物の紫外線劣化を抑制する目的で、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の公知の紫外線吸収剤を添加することができる。さらに、塗布膜の表面平滑性を改善する目的で、シリコーンオイル等の公知のレベリング剤を、ポットライフを向上させるために公知の重縮合阻害剤を、架橋硬化を促進させる目的で公知の硬化助剤を、あるいは非線形光学機能以外の機能を付与するために公知の機能性材料、等を添加してもよい。
また、原料溶液の粘度を調整する(増粘させる)等の目的では、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、側鎖にアルコキシシリル基を持つ高分子化合物等の樹脂、及びこれらの共重合体、等を添加することができる。
原料溶液に用いられる溶媒としては、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えばテトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、酢酸イソプロピル)、芳香族類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、テトラヒドロナフタレン)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド)、ジメチルスルホキシド等を、単独、或いは2種以上を混合して用いることができる。
原料溶液中に含まれる溶媒の量は、特に限定されないが、少なすぎると固形物が析出しやすくなるため、原料溶液中の溶媒以外の構成成分が0.5〜30質量%の範囲となるように調整することが好ましい。
また、架橋性官能基として加水分解性シリル基を有する化合物を用いる場合には、少なくとも加水分解を行う段階において原料溶液中に水を添加する必要がある。添加する水の量は特に限定されないが、原料溶液の保存安定性や原料溶液中の有機成分の沈降や相分離を抑える観点から、前記溶液中に含まれる加水分解性シリル基をすべて加水分解するに必要な理論量に対して、30〜500mol%の範囲とすることが好ましく、50〜300mol%の範囲とすることがより好ましい。
水の量が、500mol%よりも多いと、原料溶液の保存安定性が悪くなったり、有機成分の沈殿が析出しやすくなる場合がある。なお、これらの問題は、アルコール類を混合することによって軽減される場合がある。一方、水の量が、30mol%より少ないと、加水分解性シリル基の大半が加水分解されずに残存するため、架橋硬化が進行し難くなる場合がある。
なお、添加した水は、加水分解反応を終えた後に、残存分を蒸留や吸着処理等によって除去してもよい。
<非線形光学材料>
次に、本発明の原料溶液を用いた非線形光学材料について説明する。
本発明の非線形光学材料は、前記本発明の原料溶液を用いて作製されるものであれば、その作製方法および形態は特に限定されず、例えば、鋳型に原料溶液を流し込んで架橋硬化することによりバルク状の非線形光学材料を形成したり、あるいは、板状やファイバー状等の任意の形状を有する基材表面に原料溶液を塗布し、架橋硬化させることにより膜状の非線形光学材料を形成することができる。
以下の説明においては、基板表面に原料溶液を塗布し薄膜とする場合を前提として、非線形光学材料及びその製造方法について説明する。
原料溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、浸漬塗布法、インクジェト等の公知の湿式塗布法を用いることができる。
基材表面に原料溶液を塗布した後、架橋硬化処理を行う。架橋硬化処理は、自然乾燥によって溶媒を除去し自然硬化させる方法であってもよいが、減圧乾燥等により溶媒を除去した後、原料溶液中に予め添加しておいた硬化触媒を利用して加熱や紫外線照射等を行うことによって硬化反応を生起させる方法が好ましい。
非線形光学材料において2次の非線形光学活性を誘起させるには、上述のように、何らかの配向処理を行うことによって非線形光学活性有機化合物を配向させる必要がある。
上記非線形光学活性有機化合物を配向させる配向法としては、原料溶液を、表面に配向膜を有する基板上に塗布し、該配向膜の配向性により、非線形光学材料中の非線形光学活性有機化合物の配向を誘起する方法がある。また、光ポーリング法、光アシスト電界ポーリング法、電界ポーリング法等の公知のポーリング法も有効に利用できる。これらの中でも、電界ポーリング法は、装置の簡便性、得られる配向度合いの高さ、等の点で特に好ましい。
電界ポーリング法は、非線形光学活性有機化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、非線形光学活性有機化合物を印加電界方向に配向させる配向法である。電界ポーリング法においては、一般的に、電界を印加した状態で、加熱することによって、非線形光学活性有機化合物の電界方向への配向移動を促進させ十分な配向が誘起された後、印加電界を除去する。本発明の架橋硬化系の非線形光学材料では、電界ポーリングを架橋硬化と同時、またはその前に行うことによって、電界ポーリングによって誘起される配向状態が架橋硬化によって凍結され安定なものとなる。
このように、架橋硬化前の柔軟な段階で配向処理を行い、そのまま架橋硬化することによって、配向状態を安定に保持することが可能となり、高い配向度の実現と、その安定性の両立とが達成される。但し、全く架橋硬化を行わない状態で電界ポーリングによる配向処理を行おうとすると、膜の抵抗が低すぎ、有効なポーリング電界が掛からず、低い配向度しか得られない場合がある。この問題は、電界ポーリング処理の前に部分的に架橋硬化反応を進行させておいたり、あるいは配向法として、光アシスト電界ポーリング法や光ポーリング法を用いたりすることによって回避できる。
加熱による硬化処理と電界ポーリング処理とを同時に行なう場合には、電界を印加しながら硬化反応温度まで一気に昇温してもよいが、その場合、十分な配向が起こる前に硬化反応が進行してしまい非線形光学活性有機化合物が動き難くなってしまい、有効な配向処理が行えない場合がある。
従って、上記のような場合には、電界を印加した状態で温度を徐々に連続的に昇温させる方法、あるいは、段階的に昇温させる方法が有効である。
電界ポーリング処理の際に印加する電界強度は、一定であってもよいし、連続的あるいは段階的に変化させてもよい。また、その際に周期的に変化する電界を重畳してもよい。
電界ポーリング処理における非線形光学材料への電界の印加方法としては、公知の方法を採用することができ、針状、ワイヤ状、ノコギリ歯状、板状等の電極、あるいは、これらの電極にグリッド電極を組み合わせたもの等によって非線形光学材料に放電電荷を供給する放電法や、非線形光学材料に電極対を設け電界を印加するコンタクト電極法、等を用いることができる。
上記コンタクト電極法の場合、非線形光学材料表面に直接電極を形成してもよいし、電界ポーリング処理の際のみ電極を近接あるいは接触させてもよい。膜表面に直接形成し得る電極材料としては、金、アルミニウム、ニッケル、クロム、パラジウム等の各種金属、及びこれらの合金、あるいは導電性金属酸化物や導電性高分子等を用いることができる。
膜表面に直接電極を形成する方法としては、一般的な蒸着法やスパッタリング法を用いることができる。また、膜に近接あるいは接触させる電極としては、上記と同じものや、ガラスやプラスチック等の非導電性基体表面に導電性の膜を形成したものが使用できる。
電界ポーリング処理は大気中で行うこともできるが、窒素、アルゴン等の不活性ガス中、あるいは、吸引下にて行うことが好ましい。このような環境下にて行うことによって、前記放電法においては、空気中の酸素や放電生成物等による非線形光学材料の劣化を防止できる場合があったり、また、電極法においては、高電界を印加する場合に発生する不要な火花放電を防止する効果が得られたりする。
<非線形光学素子>
以上のようにして得られる本発明の非線形光学材料は、非線形光学機能を利用する如何なる素子にも、任意の形態にて適用することが可能であり、例えば、透明基板上の薄膜として波長変換素子等に適用できる。また、導波路構造を有する電気光学素子のコア層等に適用することもできる。
以下に、本発明の好ましい適用例である、本発明の非線形光学材料から形成したコア層を有する導波路型電気光学素子について詳述する。
本発明の非線形光学素子の一つである導波路型電気光学素子の構成としては、特に制限されず、種々の構成を採ることができる。また、例えば、複数の層から構成されてなる素子においては、各層のうちの少なくとも1層が、前記本発明の原料溶液を用いて形成されていればよいが、光が伝播するコア層を本発明の原料溶液を用いて形成することが好ましい。この場合、その他の層に用いられる材料は特に制限されない。
図1〜図4に、本発明の非線形光学素子の一つである導波路型電気光学素子の構成の例を、模式断面図として示す。
前記導波路型電気光学素子は、基板表面に少なくとも下部クラッド層とコア層とを有する構成とすることが望ましく、さらに図1に示す構成のように、上部クラッド層2を設けた構成とすることが好ましい。
本発明の非線形光学材料は、導波路型電気光学素子のコア層として用いることによって、得られる素子の非線形光学性能が優れたものとなり、且つ高い安定性が保証される。さらに、本発明の非線形光学材料をコア層に用いることによって、前述の高分子系非線形光学材料において上部クラッド層を設ける場合や、後述するコア層や上部電極に対してパターニングを行う場合に、コア層が侵食されてしまうという問題が回避される。
本発明の非線形光学素子を用いた導波路型電気光学素子においては、素子を駆動するために、少なくとも本発明の非線形光学材料を含む層に電界が掛かるように電極対を設ける必要がある。電極対としては、図1に示すように、下部電極5及び上部電極1が、下部クラッド層4、コア層3、上部クラッド層2からなる導波路層を挟み込む構成が好ましい。
基板6を構成する材料としては、アルミニウム、金、鉄、ニッケル、クロム、チタン等の金属;シリコン、ガリウム−ヒ素、インジウム−燐、酸化チタン、酸化亜鉛等の半導体;ガラス等のセラミックス;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリイミド等のプラスチック;等を用いることができる。
これらの基板材料の表面には、導電性膜が形成されていてもよく、該導電性膜の材料としては、アルミニウム、金、ニッケル、クロム、チタン等の金属;酸化スズ、酸化インジウム、ITO(酸化スズ−酸化インジウム複合酸化物)等の導電性酸化物;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性高分子;等が用いられる。これらの導電性膜は、蒸着、スパッタリング等の公知の乾式成膜法や、スプレー塗布法、浸漬塗布法、電解析出法等の公知の湿式成膜法を利用して形成され、必要に応じてパターンが形成されていてもよい。なお、導電性基板、あるいは、基板上に形成された導電性膜は、電界ポーリングや素子駆動用の電極(図1等における下部電極5)として利用される。
基板6の表面には、さらに必要に応じて、その上に形成される膜と基板6との接着性を向上させるための接着層、基板表面の凹凸を平滑化するためのレベリング層、あるいはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層が形成されていてもよい。
このような層を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂等およびそれらの共重合物;ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物、シランカップリング剤等の架橋物およびそれらの共架橋物;等の公知のものを用いることができる。
前記のように、本発明の非線形光学素子は、一つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有するものとして形成することが好ましく、前記本発明の非線形光学材料を、導波路のコア層に含有させることが特に好ましい。
本発明の非線形光学材料を含有するコア層3と基板6との間には、下部クラッド層4を形成することが好ましい。この下部クラッド層4としては、コア層3よりも屈折率が低く、コア層形成の際に侵されないものであれば如何なるものでもよい。このようなものとして、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等のUV硬化性あるいは熱硬化性の樹脂;ポリイミド;SiO2等が好ましく使用される。また、本発明の非線形光学材料も用いることができる。但し、その場合、非線形光学活性有機化合物の構造、含有量等を調整して、コア層3に用いる非線形光学材料よりも屈折率を小さくする必要がある。
本発明の非線形光学材料を用いたコア層を形成した後、さらにその表面に上部クラッド層7を下部クラッド層4と同様にして形成してもよい。これにより、図1に示す、下部クラッド層/コア層/上部クラッド層という構成のスラブ型導波路が形成される。
また、コア層3を形成した後、反応性イオンエッチング(RIE)、湿式エッチング、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法により、コア層3をパターニングし、チャネル型導波路(図2)あるいはリッジ型導波路(図3)を形成することもできる。また、コア層3の一部に、UV光、電子線等をパターン化して照射することにより、照射部分の屈折率を変化させてチャネル型またはリッジ型導波路を形成することもできる。さらにまた、予め、下部クラッド層4を、反応性イオンエッチング(RIE)、湿式エッチング、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法によりパターニングしておき、その上にコア層3を形成することによって、逆リッジ型導波路を形成することもできる。
上部クラッド層2の表面には、素子を駆動するための上部電極1を、前記上部クラッド層2の所望の領域に形成することで基本的な電気光学素子を形成することができる。
前記クラッド層およびコア層3の成膜方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、浸漬塗布法、インクジェット法等の公知の塗布方法が利用できる。溶剤の除去は、自然蒸発を待ってもよいが、加熱乾燥機等で加熱する、あるいは真空乾燥機等で減圧することによって強制的に行ってもよい。
本発明の非線形光学材料などの架橋硬化性材料からクラッド層やコア層3を形成する場合、各層の形成時に加熱処理やUV処理によって完全に架橋硬化させてもよいし、他の層を積層塗布する時に侵食されない程度に架橋硬化を部分的なものに留めておいてもよい。特に、他の層を積層塗布する際にハジキ等が起こったり、両層の接着性が悪い場合には、架橋硬化を部分的に留めておくことによって、これらの問題が改善されることがある。また、下部クラッド層4の架橋硬化を部分的に留めて抵抗値を低くしておくと、コア層3を電界ポーリング処理する際に、コア層3に有効にポーリング電界が掛かり、高い配向度が得られる場合がある。
下部クラッド層4の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜2000μm程度の範囲が好ましく、1〜100μm程度の範囲とすることがより好ましい。
また、コア層3の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜500μm程度の範囲であることが好ましく、0.5〜50μm程度の範囲であることがより好ましい。
本発明の非線形光学材料によってコア層3を形成する場合、原料溶液を塗布し、溶剤を除去した後に、加熱硬化処理とポーリング処理とを同時に行なうことが望ましい。溶剤除去と硬化処理は同時に行ってもよい。ポーリング処理の方法等は、本発明の非線形光学材料において説明したものと同じ方法が適用できる。
電界ポーリング処理の場合、加熱温度は、最終段階ではコア層3がほぼ完全に架橋硬化する温度にすることが望ましく、具体的には100〜200℃の範囲内に0.1〜10時間程度保持することが望ましい。ポーリング温度を室温から最終的な温度まで段階的に上昇させる場合、各ステップの上昇温度は5〜50℃程度の範囲、各ステップの時間は5〜120分間程度が望ましく、それらは終始同じでも異なってもよい。連続的に上昇させる場合の昇温速度は、0.1〜20℃/分程度とすることが望ましく、前記の段階的に温度を上昇させるステップと組み合わせてもよい。
前記放電法では、電極、グリッド、サンプル表面の位置関係はこの順であれば任意であるが、電極とサンプル表面との距離は5〜100mm程度の範囲、グリッドとサンプル表面との最短距離は1〜30mm程度の範囲とすることが好ましい。グリッドを使用することにより放電を安定化できる場合があり、さらにサンプル表面に必要以上のイオン流が流れ込むのを防止することができるため、サンプル表面の放電生成物によるダメージを抑制する効果もある。
電界ポーリング処理の際に、電極やグリッドに印加する電圧は一定でもよいし、連続的あるいは段階的に変化させてもよく、温度上昇や下降のタイミングに合わせても合わせなくてもよい。例えば、電極に印加する電圧は1〜20kV程度の範囲、グリッドを使用する場合のグリッド電圧は0.1〜2kV程度の範囲とすることが好ましい。
また、電極法の電極に印加する電圧としては、0.1〜2kV程度の範囲とすることが好ましい。電極の極性は正負どちらでもよいが、放電法の場合には、サンプル表面側を正、すなわち正極放電にした方が放電に伴うオゾンや窒素酸化物等の発生量が少なく、サンプルへのダメージを小さくすることが可能である。
なお、温度を下げる行程まで含んだポーリングの総時間は、24時間以内程度とすることが好ましい。
ポーリングされたかどうかを確認する指標として、どれだけの非線形光学分子(一般に二色性を有する)が電場方向に配向したかを表す数値(オーダーパラメータ:φ)がある。具体的には、分子の向きがランダムになっている時の吸光度をA0、電場方向(膜厚方向)に配向させたときの吸光度をAtとした場合、φは1−(At/A0)で計算できるものである。
上記オーダーパラメータは、全ての分子が完全に配向した理想的な状態では1、完全にランダムなときは0となる数値であり、値が大きいほど全体としての分子の配向度が高いことを表わす。この値を測定することにより、どれだけ効率よくポーリングできたかが判断でき、また、その安定性なども評価できる。
上部クラッド層2としては、前記の下部クラッド層用材料と同じもの以外に、一般にポリマー導波路用として使用されている各種の熱可塑性樹脂を使用することもできる。これらの熱可塑樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ環状オレフィン等がある。架橋硬化されている本発明におけるコア層3は、配向安定性および耐溶剤性に優れているため、上部クラッド層材料およびこれを塗布する溶剤、並びに塗布方法の選択肢が非常に広いという長所がある。
コア層3の表面に上部クラッド層2を形成する場合、ポーリング処理は上部クラッド層2を形成した後でもよい。例えば、コア層3を塗布し、必要に応じて溶剤を除去したり部分的に架橋硬化した後、上部クラッド層2を形成した状態、さらには上部電極1を形成した状態で、ポーリング処理を行ってもよい。
上部クラッド層2の膜厚は、利用する光の波長やモード等に依存するが、0.1〜2000μm程度の範囲が好ましく、1〜100μm程度の範囲とすることがより好ましい。
本発明の非線形光学素子を前記のように導波路型の構成とする場合には、光を屈折率差によってコア層3に閉じ込めるために、コア層3の屈折率に比べ、クラッド層の屈折率を小さくする必要がある。コア層3とクラッド層との屈折率の差は、モード等によって異なるが、例えば、シングルモードの導波路として用いる場合には、上記コア層3とクラッド層との屈折率の差は、0.01〜30%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10%の範囲である。
上述のパターン化したUV光を照射しコア層3をパターニングする方法は、一般に、フォトブリーチング法として知られる。この場合、上記UV光源としては、(高圧)水銀ランプ、キセノンランプ、(メタル)ハロゲンランプ、ブラックライト、D2ランプ、各種レーザーなど、公知のものが使用できる。例えば、高圧水銀ランプを使用する場合、照射強度が5〜1000mW程度で1分〜200時間程度照射すればよい。パターン化の手段としてマスクパターンを使用する場合は、金属マスク法等、公知の方法をそのまま使用できる。
上記フォトブリーチング法でコア層3のパターニングを行う工程は、コア層3を塗布した後であればポーリング処理前でも可能であるが、架橋硬化及びポーリング処理の後の方が好ましい。あるいは、さらに上部クラッド層2や上部電極1を形成した後でも可能である。
前記のようにしてチャネル型導波路やリッジ型導波路を形成する際、コア層3のパターンとしては、直線型、Y分岐型、方向性結合器型、Mach−Zehnder型等の公知のデバイス構造を用いることができ、このような構成により、本発明の非線形光学素子は、光スイッチ、光変調器、位相シフト器等の公知の光情報通信用デバイスへの適用が可能である。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はそれらによって制限されるものではない。
(実施例1)
−原料溶液Aの調製−
下記組成物を十分に混合、溶解した溶液に、固体触媒としてイオン交換樹脂(アンバーリスト15E)を0.6質量部添加し、室温で撹拌して1時間反応させ(加水分解処理)、その後、メンブランフィルターでイオン交換樹脂を濾過した(触媒分離処理)。この溶液に、熱硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトナートを0.06質量部、硬化抑制剤としてアセチルアセトンを0.06質量部加え、非線形光学材料製造用の原料溶液Aを得た。
・構造式(1−1)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物:1質量部
・蒸留水:0.2質量部
・メタノール:1質量部
・テトラヒドロフラン:4質量部
・シクロヘキサノン:18質量部
得られた原料溶液Aは、直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
−非線形光学材料(架橋硬化膜A)の作製、評価−
次に、ITO膜をコートしたガラス基板(1mm厚、表面抵抗値:10Ω/□)のITO形成面に、原料溶液Aをスピンコート法により塗布し、10分間風乾した後、真空デシケータ中、室温にて12時間減圧乾燥した。これをサンプルAとした。
次に、ホットプレートの上に、前記塗布膜が上を向くようにサンプルAを設置し、加熱硬化と電界ポーリング処理とを施すことによって、本発明の非線形光学材料を作製した。なお、電界ポーリング処理は、スコロトロン電極を用いる放電法を採用し、ワイヤ電極への印加電圧を5kV、グリッド電極の印加電圧を100V、塗布膜表面とグリッド電極との距離を2mmとした。このような設定にて、電圧印加を開始後にホットプレートの温度を室温から130℃まで1時間かけて上昇させ、130℃に30分間維持し、その後約30分間で室温まで戻した後、電圧の印加を停止することにより、電界ポーリング処理と加熱硬化とを同時に行い、架橋硬化膜A(非線形光学活性化合物骨格の濃度:約60質量%)を得た。
電界ポーリング処理を施した架橋硬化膜Aは、光沢のあるクリアな膜であり、目視上の欠陥は認められなかった。また、膜厚は約0.5μmであった。
また、架橋硬化膜Aのポーリング状態の経時劣化については、作製直後のオーダーパラメーターと、10日間暗所に保管した後のオーダーパラメーターとがどちらとも0.3であり、配向緩和が全く起こっていないことが確認された。
なお、上記オーダーパラメーターは、ポーリング処理を行なわず、非線形光学活性化合物がランダムに配向している硬化膜1、及びポーリング処理により非線形光学活性化合物が膜厚方向に配向している硬化膜2の両方に対して、吸収スペクトルを分光光度計(日立製作所製、U−3000)で測定し、硬化膜1及び硬化膜2の吸収が最大になる波長λmaxから、下記式(1)により計算した。
φ=1−At/A0 ・・・ 式(1)
(但し、式(1)中、φは、オーダーパラメーターを表し、Atは、ポーリング処理した硬化膜2の波長λmaxでの吸光度を表し、A0は、ポーリング処理を施さなかった硬化膜1の波長λmaxでの吸光度を表す。)
このようにして得られた架橋硬化膜Aに、1550nmの発振波長を持つ半導体レーザー光を照射したところ、775nmの二次高調波の発生が観測でき、本発明の非線形光学材料である架橋硬化膜Aが非線形光学機能を有することが確認できた。さらに、架橋硬化膜Aを、150℃の高温環境に1時間保持した後に、再度、レーザー光を照射したところ、初期と同等の強度を有する二次高調波の発生が確認でき、本発明の非線形光学材料が高い耐熱性を有することが確認できた。
以上の評価結果を、まとめて表1に示す。
(実施例2)
−原料溶液Bの調製−
下記組成物を十分に混合、溶解した溶液に、固体触媒としてイオン交換樹脂(アンバーリスト15E)を0.6質量部添加し、室温で撹拌して1時間反応させ(加水分解処理)、その後、メンブランフィルターでイオン交換樹脂を濾過した(触媒分離処理)。この溶液に、熱硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトナートを0.06質量部、硬化抑制剤としてアセチルアセトンを0.06質量部加え、原料溶液Bを得た。
・構造式(2−1)に示す加水分解性シリル基を有しない非線形光学活性有機化合物:0.5質量部
・構造式(2−2)に示す加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物:1質量部
・蒸留水:2.5質量部
・メタノール:6質量部
・N,N−ジメチルホルムアミド:18質量部
得られた原料溶液Bは、直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
−非線形光学材料(架橋硬化膜B)の作製、評価−
次に、原料溶液Bを用い、実施例1と同様にして、本発明の非線形光学材料である架橋硬化膜B(非線形光学活性化合物骨格の濃度:約55質量%)を作製し、実施例1と同様にしてその膜特性、非線形光学性能等を評価した。
得られた各種評価結果を表1に示す。
(実施例3)
−原料溶液Cの調製−
下記組成物を十分に混合、溶解した溶液に、固体触媒としてイオン交換樹脂(アンバーリスト15E)を0.6質量部添加し(加水分解処理)、室温で撹拌して1時間反応させ、その後、メンブランフィルターでイオン交換樹脂を濾過した(触媒分離処理)。この溶液に、熱硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトナートを0.06質量部、硬化抑制剤としてアセチルアセトンを0.06質量部加え、原料溶液Cを得た。
・構造式(3−1)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物:1.5質量部
・構造式(3−2)に示す加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物:0.5質量部
・蒸留水:1.5質量部
・メタノール:6質量部
・テトラヒドロフラン:18質量部
得られた原料溶液Cは、直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
−非線形光学材料(架橋硬化膜C)の作製、評価−
次に、原料溶液Cを用い、実施例1と同様にして、本発明の非線形光学材料である架橋硬化膜C(非線形光学活性化合物骨格の濃度:約70質量%)を作製し、実施例1と同様にしてその膜特性、非線形光学性能等を評価した。
得られた各種評価結果を表1に示す。
(実施例4)
−原料溶液Dの調製−
実施例1で用いた組成物を十分に混合、溶解した溶液に、固体触媒の代わりに均一触媒として濃塩酸を0.06質量部添加し、十分に攪拌することにより、原料溶液Dを得た。
−非線形光学材料(架橋硬化膜D)の作製、評価−
次に、原料溶液Dを用い、実施例1と同様にして、本発明の非線形光学材料である架橋硬化膜D(非線形光学活性化合物骨格の濃度:約60質量%)を作製し、実施例1と同様にしてその膜特性、非線形光学性能等を評価した。なお、原料溶液Dは濃塩酸添加直後から加水分解反応と脱水縮合反応が急速に進行するために、作製した直後に、塗布を行う必要があった。
得られた各種評価結果を表1に示す。
(比較例1)
−原料溶液Eの調製−
下記組成物を十分に混合、溶解した溶液に、固体触媒としてイオン交換樹脂(アンバーリスト15E)を0.6質量部添加し、室温で撹拌して1時間反応させ、その後、メンブランフィルターでイオン交換樹脂を濾過した。この溶液に、熱硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトナートを0.06質量部、硬化抑制剤としてアセチルアセトンを0.06質量部を加え、原料溶液Eを得た。
・構造式(4−1)に示す加水分解性シリル基を有する非線形光学活性有機化合物:1.5質量部
・前記構造式(3−2)に示す加水分解性シリル基を有するマトリックス形成化合物:0.5質量部
・蒸留水:1.5質量部
・メタノール:6質量部
・テトラヒドロフラン:18質量部
得られた原料溶液Eは、直ちに密封容器に移し、塗布を行うまでの間、大気下、室温にて保管した。なお、この密封状態でのポットライフを、目視による液状態の観察から評価したところ、10日を経ても粘度変化や固形物の析出等が認められず、非常に安定であった。
−非線形光学材料(架橋硬化膜E)の作製、評価−
次に、原料溶液Eを用い、実施例1と同様にして、非線形光学材料である架橋硬化膜E(非線形光学活性化合物骨格の濃度:約60質量%)を作製し、実施例1と同様にしてその膜特性、非線形光学性能等を評価した。
得られた各種評価結果を表1に示す。
(比較例2)
前述の代表的な非線形光学活性有機化合物であるDisperse Red 1(DR1、下記に構造を示す)25質量部と、高分子バインダーとしてのポリメチルメタクリレート75質量部とを、シクロペンタノン600質量部に溶解させた溶液を、実施例1で用いたITOをコートしたガラス基板表面にスピンコート法により塗布し、100℃にて1時間乾燥させ、膜厚が0.5μmの非線形光学材料(非線形光学活性化合物の濃度:約25質量%)を作製した。
この非線形光学材料について、実施例1と同様にしてその膜特性、非線形光学性能等を評価した。なお、この系は熱可塑系であり、ポーリング時の加熱によって架橋硬化は行われない。
得られた各種評価結果を表1に示す。
(比較例3)
DR1 55質量部と、ポリメチルメタクリレート45質量部とを、シクロペンタノン600質量部に溶解させた溶液を、実施例1で用いたITOをコートしたガラス基板表面にスピンコート法により塗布し、100℃にて1時間乾燥させたところ、DR1の微結晶が全面に析出してしまい、クリアな膜は得られなかった。
なお、表1における各評価項目は、以下の基準で判定した。
− ポットライフ−
○:ポットライフが1週間以上。
△:ポットライフが1週間未満。
×:ポットライフが1時間未満。
(上記ポットライフとは、液粘度上昇や析出物がなく、均一に塗工できる状態をいう)。
−成膜性−
○:目視により、クラック、相分離、膜剥がれ等の欠陥が全く認められない。
△:目視により、何らかの欠陥が僅かに認められる。
×:目視により、何らかの欠陥が全面に認められる。
−配向安定性−
○:10日間以上暗所に保管した後のオーダーパラメーターの低下が10%未満。
×:10日間以上暗所に保管した後のオーダーパラメーターの低下が10%以上。
−非線形光学性能−
実施例1の2次高調波の発生光強度のレベルを○とし、以下のように判断した。
○:2次高調波の発生光強度が実施例1と同等以上。
△:2次高調波の発生光強度が実施例1の半分以上。
×:2次高調波の発生光強度が実施例1の半分未満。
−非線形光学性能(配向状態)の安定性−
○:150℃1時間保持後の2次高調波の発生光強度が初期と同等。
△:150℃1時間保持後の2次高調波の発生光強度が初期の半分以上。
×:150℃1時間保持後の2次高調波の発生光強度が初期の半分未満。
(実施例5)
本発明の非線形光学材料を用い、図4に示すような逆リッジ型導波路構造を有するMach−Zehnder型光変調器(非線形光学素子)を作製した。
まず、下部クラッド層4はナガセケムテックス社製エポキシ系UV硬化樹脂を用いて、厚さ5μmに形成した。この下部クラッド層4の表面に、幅4μm、深さ1μmの導波路チャネルとなる2つの溝を反応性イオンエッチングにより形成した。
この下部クラッド層4の表面に、実施例3で用いた原料溶液Cを用いて厚さ4μmのコア層3を形成し、コア層3の塗布直後に、実施例3と同様にして加熱硬化と電界ポーリング処理とを行った。上部クラッド層2は、JSR製ポリ環状オレフィン樹脂のトルエン溶液を用いて、厚さ3μmに形成した。なお、相互作用長(Interaction Length)は2cmとした。
上部電極1を形成後、得られた光変調器の電気光学性能を、1318nmのレーザ入力光に対し、上部電極1に駆動電圧を印加し、出力光強度の変調を確認する方法にて評価した。なお、駆動は、シングル駆動にて行った。その結果、駆動電圧に応じて出力光強度が変調する電気光学特性が確認できた。変調能力を示す半波電位(Half−wave Voltage)は約5Vと非常に低く、本光変調器が優れた電気光学性能を有することが確認できた。また、本光変調器を、150℃に1時間保持した後に、再度、光変調特性を評価したところ、初期と同等の特性を示し、本光変調器が非常に高い熱安定性を有することが確認できた。
(比較例4)
実施例5において、原料溶液Cの代わりに比較例1の原料溶液Eを用いてコア層3を形成した以外は実施例5と同様にして光変調器(非線形光学素子)を作製し、実施例5と同様の評価を行った。
その結果、実施例5と同様に、駆動電圧に応じて出力光強度が変調する電気光学特性が確認できた。しかしながら、その半波電位は約50Vと非常に高く、実施例5の光変調器に比べ、電気光学性能が著しく劣ることが確認できた。
(比較例5)
実施例5において、原料溶液Cの代わりに比較例2で調製した溶液を用いてコア層3を形成した以外は実施例5と同様にして光変調器を作製し、実施例5と同様の評価を行った。
その結果、実施例5と同様に、駆動電圧に応じて出力光強度が変調する電気光学特性が確認できた。しかしながら、その半波電位は100V以上と非常に高く、実施例5の光変調器に比べ、電気光学性能が著しく劣ることが確認できた。さらに、150℃に1時間保持した後に、再度、光変調特性を評価したところ、殆ど光変調特性は認められなくなり、実施例5の光変調器に比べ、電気光学性能の熱安定性が著しく劣ることが確認できた。
本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の1例を示す断面模式図である。 本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の他の1例を示す断面模式図である(チャネル型導波路構造)。 本発明の非線形光学素子である導波路型電気光学素子の構成の他の1例を示す断面模式図である(リッジ型導波路構造)。 本発明の非線形光学素子の一例である光変調器の断面模式図である。
符号の説明
1 基板
2 下部電極
3 下部クラッド層
4 コア層
5 上部クラッド層
6 上部電極

Claims (17)

  1. 湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、1つ以上の架橋性官能基を有する非線形光学活性有機化合物を含み、かつ該非線形光学活性有機化合物が、下記一般式(1)で示されるプッシュ−プル型π共役系化合物であることを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液。

    (上記式中、Z1〜Zは互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Lは置換基を有してもよいπ共役基であり、Aは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、mは1を表す。なお、Z1〜Z3、L、Aは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらのうち少なくとも1つは必ず1つ以上の架橋性官能基を有する。)
  2. 湿式法による非線形光学材料製造用の原料溶液であって、少なくとも、下記一般式(2)で示される非線形光学活性有機化合物と、必ず1つ以上の架橋性官能基を有するマトリックス形成化合物と、を含むことを特徴とする非線形光学材料製造用の原料溶液。

    (上記式中、Z4〜Z6は互いに独立に置換基を有してもよいフェニル基であり、Dは置換基を有してもよいπ共役基であり、Eは置換基を有してもよい電子吸引性基であり、nは1を表す。なお、Z4〜Z6、D、Eは、各々任意のいずれかと連結して環構造を形成してもよく、また、これらは架橋性官能基を有していても有していなくてもよい。)
  3. 前記一般式(1)中のAが、置換基を有してもよい、環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  4. 前記一般式(2)中のEが、置換基を有してもよい、環構造を含むπ共役系電子吸引性基であることを特徴とする請求項2に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  5. 前記一般式(1)中のZ3−Lmにおける両端に亘るπ共役系が、5個以上の不飽和結合が連なって形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  6. 前記一般式(2)中のZ6−Lnにおける両端に亘るπ共役系が、5個以上の不飽和結合が連なって形成されてなることを特徴とする請求項2に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  7. 前記架橋性官能基が、加水分解性シリル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  8. 前記架橋性官能基が、加水分解性シリル基を含むことを特徴とする請求項2に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  9. 前記非線形光学活性有機化合物を含む溶液に対して、少なくとも、固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た原料溶液から前記固体触媒を分離する触媒分離処理と、を施したことを特徴とする請求項7に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  10. 前記非線形光学活性有機化合物及びマトリックス形成化合物を含む溶液に対して、少なくとも、固体触媒に接触させ加水分解性シリル基を加水分解させる加水分解処理と、該加水分解処理を経た原料溶液から前記固体触媒を分離する触媒分離処理と、を施したことを特徴とする請求項8に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  11. 前記マトリックス形成化合物が、架橋性官能基として2つ以上の加水分解性シリル基を有することを特徴とする請求項8に記載の非線形光学材料製造用の原料溶液。
  12. 請求項1に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料。
  13. 請求項2に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学材料。
  14. 請求項1に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子。
  15. 請求項2に記載の原料溶液を用いて製造されることを特徴とする非線形光学素子。
  16. 1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする請求項14に記載の非線形光学素子。
  17. 1つ以上のコア層と、それを挟むクラッド層とを含む導波路構造を有することを特徴とする請求項15に記載の非線形光学素子。
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