JP4452957B2 - 熱可塑性樹脂組成物を使用したエアバッグ部を有する自動車内装部品 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物を使用したエアバッグ部を有する自動車内装部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、耐候性を有しながら、長期熱老化特性を著しく向上させた熱可塑性樹脂組成物を使用したエアバッグドアを有する自動車内装部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、エアバッグドアは、別パーツとして、インストルメントパネル(インパネ)など自動車内装部品に組み込まれていたが、部品点数が多くなるため、コストアップの要因となっていた。インパネの基材そのものに、収納エアバッグが展開する際の開口部(エアバッグドア)を一体化して成形できれば、大幅なコストダウンが期待できる。しかし、従来の素材、例えばアクリロニトリル−スチレン共重合体のガラス繊維強化樹脂(AS−G)やポリオレフィンなどでは、インパネ機材に求められる、剛性や耐熱性、耐衝撃強度などの要求と、エアバッグドアに求められる低温時の伸びや柔軟性を両立することはできなかった。また、自動車内装部は、長期間高温環境にさらされることから、それらの性能が長期熱老化後も保持しなければならないという条件も合わさねばならない。
これらの材料要求に対して、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)が着目されている。
上記PC樹脂は、優れた耐熱性、機械特性を有しているが、ノッチ感度が敏感で成形品に傷がつくと、著しく耐衝撃強度が低下する特徴がある。また、耐熱性が高すぎるため、成形温度を高く設定せざるを得ず、大型の成形品に向かないという欠点も有する。
一方、上記ABS樹脂は、成形性、耐衝撃強度、寸法性など、非常にバランスがとれた材料であり、自動車、家電、OA機器などに幅広く採用されているが、耐熱性が低いという欠点を有している。そこで、特公昭38−15225号公報では、PC樹脂と相溶性の高いABS樹脂とをブレンドすることで、ノッチつき耐衝撃強度や成形加工性、耐熱性を改良することを提案している。現在、PC樹脂/ABS樹脂のポリマーアロイ(以下「PC樹脂/ABS樹脂」ともいう)は、OA機器や車両分野で広く利用されている樹脂組成物の一つとなっている。
【0003】
また、ABS樹脂は、ブタジエンゴムを使用しているため、耐候性に劣る。特公昭51−24540号公報は、エチレン−プロピレンゴム(EPゴム)を用いたアクリロニトリル−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)とPC樹脂とをポリマーアロイ化し、耐汚染性を改良することを提案している。また、特公平1−57699号公報は、PC樹脂/AES樹脂のポリマーアロイ(以下「PC樹脂/AES樹脂」ともいう)に、ある特定の可塑剤を添加し、ウエルド強度を改良することを提案している。さらに、特公平3−40064号公報は、PC樹脂/AES樹脂のゴム量、グラフト率、分子量を最適化し、ウエルド外観や塗装性を改良することを提案している。さらに、特公平1−17501号公報は、PC樹脂とABS樹脂とAES樹脂の3者をポリマーアロイ化することにより、低温耐衝撃強度やウエルド強度、発色性を改良することを提案している。さらに、特公平4−29696号公報は、PC樹脂/AES樹脂のグラフト樹脂成分に、α−アルキルスチレンを用いることにより、造粒、成形加工時の熱分解性を改良することを提案している。さらに、特公平4−56063号公報は、PC樹脂/AES樹脂のAES樹脂の溶融粘度を最適化することにより、ウエルド強度を改良することを提案している。さらに、特公平5−79699号公報は、PC樹脂/AES樹脂のゴム量を最適化することによって、低温衝撃強さを改良することを提案している。
このように、PC樹脂/ABS樹脂や、PC樹脂/AES樹脂は、その優れた物性からさまざまな用途に展開されているが、一度成形された樹脂が、実際の使用環境で高温下に長期間さらされる場合、著しい物性の低下を示す。これは、PC樹脂の劣化に起因するものや、グラフトされる樹脂もしくは未グラフト樹脂の劣化に起因するものや、ゴムの劣化に起因するものであるが、それらについて改良を試み、それをエアバッグドアを有する自動車内装部品に応用する提案は過去になされていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、長期熱老化特性に優れ、流動性(成形加工性)が優れることから複雑な構造にも適用が可能な熱可塑性樹脂組成物を使用して得られる、エアバッグドアを有する自動車内装部品を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(I)ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種の単量体成分をグラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10〜100%であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2〜0.8dl/gであるゴム変性熱可塑性樹脂10〜45重量%、
(II) 芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を共重合して得られ、かつ、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/他のビニル系単量体の重量比が50〜90/10〜20/0〜30であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.3〜0.6dl/gである熱可塑性樹脂5〜30重量%、
(III)ポリカーボネート樹脂50〜70重量%、ならびに
(IV) 熱老化防止剤0〜2重量%〔ただし、(I)+(II)
+(III)+(IV)=100重量%〕
を主成分とし、かつ、得られる組成物全体におけるシアン化ビニル化合物含量が3〜12重量%である熱可塑性樹脂組成物(以下「熱可塑性樹脂組成物」ともいう)、
を使用したエアバッグドアを有する自動車内装部品を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる(I)ゴム変性熱可塑性樹脂は、ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種の単量体成分をグラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10〜100%であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2〜0.8dl/gである。
【0007】
(I)ゴム変性熱可塑性樹脂に用いられるゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、エチレン−プロピレン−(非共役ジエン)共重合体、エチレン−ブテン−1−(非共役ジエン)共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/オクテン共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、SEBSなどの水素添加ジエン系(ブロック、ランダム、あるいはホモ)重合体、ポリウレタンゴムおよびシリコーンゴムなどが挙げられる。なお、シリコーンゴムを用いる場合は、シリコーンゴム中にグラフト交叉剤(例えば、ビニル基を含んだものやγ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなど)を0.01〜10重量%程度使用すると、本発明の耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物が得られるため好ましい。
【0008】
ゴム質重合体としては、好ましくは、ポリブタジエン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、さらに好ましくは、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエンゴムである。ここで、用いられる非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類などが挙げられ、好ましくは5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエン類は、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
以上のゴム質重合体は、単独で用いられても、混合して用いられても、さらに複合化させて用いられてもよい。
【0009】
また、ゴム質重合体を用いる際、ゴム粒径の異なる2種以上のグラフト重合体(ゴム変性熱可塑性樹脂)を用いると、さらに耐衝撃性、物性バランスに優れた本発明の熱可塑性樹脂組成物が得られる。ゴム質重合体の好ましい粒径としては、800〜3,000オングストロームと5,000〜10,000オングストロームの2種の粒径の異なるゴム質重合体を使用することが好ましい。この場合、2種の粒径の異なるゴム質重合体の存在下でグラフト成分(ゴム変性熱可塑性樹脂)を合成しても、また、ゴム粒径の異なる2種のゴム変性熱可塑性樹脂を配合することもできる。
【0010】
なお、ゴム質重合体の分子量としては、ポリスチレン換算の重量平均分子量が好ましくは6万以上、さらに好ましくは7万以上である。6万未満では、耐衝撃性が発現せず好ましくない。また、ゴム質重合体は、3次元架橋構造をとってもかまわない。
また、(I)ゴム変性熱可塑性樹脂中のゴム質重合体の割合(仕込み組成)は、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%である。10重量%未満では、耐衝撃性が不充分となり、一方、80重量%を超えると、外観不良や成形加工性が低下し好ましくない。
【0011】
一方、(I)ゴム変性熱可塑性樹脂に用いられる単量体成分のうち、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらは1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。好ましい芳香族ビニル化合物は、スチレン、または芳香族ビニル化合物中にスチレンを50重量%以上含むものである。
単量体成分中における上記芳香族ビニル化合物の使用割合は、好ましくは60〜90重量%、さらに好ましくは65〜85重量%である。
また、シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、好ましくはアクリロニトリルである。
単量体成分中におけるシアン化ビニル化合物の使用割合は、好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは15〜35重量%である。
【0012】
さらに、共重合可能な他のビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレートなどのアクリル酸エステルや、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル;不飽和酸無水物、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸など;不飽和酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸など;マレイミド系単量体、例えば、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのα,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物などが挙げられ、好ましくはメチルメタクリレート、N−フェニルマレイミド、およびN−シクロヘキシルマレイミドである。これらの他のビニル系単量体は、1種単独で使用することも、あるいは2種以上を混合して用いることもできる。
単量体成分中における上記他のビニル系単量体の使用割合は、好ましくは30重量%以下である。
【0013】
本発明に用いられる(I)ゴム変性熱可塑性樹脂は、公知の乳化重合、溶液重合、懸濁重合などにより製造することができるが、乳化重合により製造した場合、通常、凝固剤により凝固し、得られる粉末を水洗後、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムなどの無機塩を使用するのが一般的であるが、この際、得られる(I)ゴム変性熱可塑性樹脂を(III)ポリカーボネート樹脂に配合すると、(I)成分中に残存する塩または乳化剤などにより、(III)ポリカーボネート樹脂の分子量低下を招く問題がある。したがって、凝固剤として、硫酸などの酸を使用することが望ましい。
【0014】
なお、グラフト重合時のラジカル開始剤としては、一般的なものが使用できる。具体例としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイト、t−ブチルパーオキシモノカーボネートなどが挙げられる。
ラジカル開始剤の使用量は、単量体成分に対し、通常、0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%である。
【0015】
本発明の効果を発現するためには、グラフト重合する際に、均一にグラフト反応が進むような有機過酸化物や溶媒の選択、およびゴム質重合体を乳化重合で合成し、乳化重合でグラフト重合させたり、ゴム質重合体を均一に溶解し重合を開始したり、あらかじめ溶融混練りしたものを溶液に溶解し溶液重合または塊状重合することや、再乳化したものを乳化重合または懸濁重合することなどの重合方法を工夫することで、目的の効果を得ることがきる。
【0016】
このようにして得られる上記(I)ゴム変性熱可塑性樹脂のグラフト率は、10〜100%、好ましくは30〜80%である。グラフト率が10%未満であると、樹脂とゴムとの界面接着強度が劣り、優れた耐衝撃強度が得られない。一方、100%を超えると、界面層が厚くなり、またゴム内部にグラフトした樹脂層が発達し、ゴム弾性が低下し、結果として優れた耐衝撃強度が得られなくなる。
上記グラフト率は、ゴム質重合体、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などの種類や量、さらに重合時間、重合温度などを変えることにより容易に調整することができる。
ここで、グラフト率(%)は、(I)成分中のゴム成分をx、(I)成分中のメチルエチルケトン不溶分をyとすると、下記の計算式により求められた値である。
グラフト率(%)=〔(y−x)/x〕×100
【0017】
また、本発明の(I)ゴム変性熱可塑性樹脂のメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、0.2〜0.8dl/g、好ましくは0.3〜0.7dl/gである。固有粘度〔η〕がこの範囲であると、耐衝撃性、成形加工性(流動性)に優れた本発明の熱可塑性樹脂組成物が得られる。上記固有粘度〔η〕は、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤などの種類や量、さらに重合時間、重合温度などを変えることにより、容易に制御することができる。
【0018】
以上の(I)ゴム変性熱可塑性樹脂の具体例は、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂(アクリルゴムにAS樹脂をグラフトした重合体)、ASS樹脂(シリコーンゴムにAS樹脂をグラフトした重合体)などが挙げられる。なかでも、AES樹脂、ASA樹脂、ASS樹脂が好ましく、さらに好ましくはAES樹脂である。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(I)ゴム変性熱可塑性樹脂の割合は、10〜45重量%、好ましくは20〜40重量%である。10重量%未満では、耐衝撃強度が劣り好ましくない。一方、45重量%を超えると、流動性や成形外観が損なわれ好ましくない。
【0020】
次に、本発明に用いられる(II) 熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を共重合して得られ、かつ、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/共重合可能な他のビニル系単量体の重量比が50〜90/10〜20/0〜30であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.3〜0.6dl/gである。
ここで、上記芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物や他のビニル系単量体は、(I)ゴム変性熱可塑性樹脂に用いられる単量体成分と同様である。
【0021】
本発明に用いられる(II) 熱可塑性樹脂は、公知の乳化重合、溶液重合、懸濁重合などにより製造することができるが、乳化重合によって製造した場合、通常、凝固剤により凝固し得られる粉末を水洗後、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウムなどの無機塩を使用するのが一般的であるが、この際、得られる(II) 熱可塑性樹脂を(III)ポリカーボネート樹脂に配合すると、(II) 成分中に残存する塩または乳化剤などにより、(III)ポリカーボネート樹脂の分子量の低下を招く問題がある。したがって、凝固剤として、硫酸などの酸を使用することが望ましい。
【0022】
本発明に用いられる(II) 熱可塑性樹脂は、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/他のビニル系単量体の重量比が、50〜90/10〜20/0〜30、好ましくは72〜85/15〜18/0〜10である。芳香族ビニル化合物の使用量が50重量%未満では、(III)ポリカーボネート樹脂との相溶性が低下し、耐衝撃強度や熱安定性が劣り、一方、90重量%を超えると、これもまた、(III)ポリカーボネート樹脂との相溶性が低下し、耐衝撃強度や耐薬品性が劣る。また、シアン化ビニル化合物の使用量が10重量%未満では、(III)ポリカーボネート樹脂との相溶性が著しく低下し、耐衝撃強度の低下や表層剥離などの問題を生じ、一方、20重量%を超えると、熱老化特性が低下する。すなわち、熱老化特性を著しく向上させるためには、シアン化ビニル化合物を10〜20重量%と、狭い範囲で使用することに、本発明の特徴がある。さらに、他のビニル系単量体の使用量が30重量%を超えると、(III)ポリカーボネート樹脂との相溶性が低下し、耐衝撃強度が劣る。
【0023】
また、本発明の(II) 熱可塑性樹脂の30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕は、0.3〜0.6dl/g、好ましくは0.35〜0.45dl/gである。0.3dl/g未満では、耐衝撃強度に劣り、一方、0.6dl/gを超えると、流動性が著しく低下する。
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(II) 熱可塑性樹脂の割合は、5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%である。5重量%未満では、熱老化特性が著しく低下し好ましくなく、一方、30重量%を超えると、耐衝撃強度が著しく低下する。
【0025】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる(III)ポリカーボネート樹脂脂としては、種々のジヒドロキシアリール化合物とホスゲンとの反応によって得られるもの(ホスゲン法)、あるいはジヒドロキシアリール化合物とジフェニルカーボネートとのエステル交換反応によって得られるもの(エステル交換法)が挙げられる。好ましいポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂である。代表的な芳香族ポリカーボネート樹脂としては、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAとホスゲンとの反応によって得られるポリカーボネート樹脂である。
【0026】
ここで、ポリカーボネート樹脂の原料となるジヒドロキシアリール化合物としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2′−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルスルホン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、1,1′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロペンタン、ヒドロキノン、レゾルシンなどが挙げられ、これらは、1種または2種以上で用いられる。特に好ましいものは、2,2′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAである。
【0027】
上記(III)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、さらに好ましくは17,000〜30,000、特に好ましくは18,000〜28,000である。分子量が高い方が高いノッチ付き耐衝撃性が得られるが、流動性が劣る。また、分子量の異なる2種以上のポリカーボネートを用いることもできる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(III)ポリカーボネート樹脂の割合は、50〜70重量%、好ましくは55〜65重量%である。50重量%未満では、耐熱性が劣り、一方、70重量%を超えると、流動性が著しく低下し好ましくない。
【0029】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる(IV) 熱老化防止剤としては、フェノール系、リン系、硫黄系などが挙げられ、好ましくはフェノール系、リン系および硫黄系の3種混合系である。(IV) 熱老化防止剤として、この3種混合系を用いると、長時間、高温下にさらされた時の、引張り伸び率を保持するという効果が得られる。
(IV) 熱老化防止剤のうち、フェノール系としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール誘導体、2−メチル−6−t−ブチルフェノール誘導体、オクタデシル3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、ペンタエリスリチル・テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2〔1−(2ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、2−t−ブチル−6(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレートなどが挙げられる。
【0030】
リン系としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、リン酸2水素ナトリウム、リン酸1水素2ナトリウムなどが挙げられる。
硫黄系としては、3,3′−チオビスプロピオン酸ジドデシルエステル、3,3′−チオビスプロピオン酸ジオクタデシルエステル、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルプロピオネート)、ジラウリル3,3′−チオジプロピオネートなどが挙げられる。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の(IV) 熱老化防止剤の割合は、0〜2重量%、好ましくは0〜1重量%である。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、(III)ポリカーボネート樹脂以外の樹脂〔(I)〜(II) 成分〕は、熱老化防止剤を添加することで、熱老化特性が改良されるが、ポリカーボネート樹脂は、熱老化防止剤が加水分解を促進する触媒として働くことがあり、熱老化防止剤を入れない方が劣化を抑制する傾向もある。これらの相反する効果を鑑みて、2重量%を上限として上記熱老化防止剤を添加すれば、最適な熱老化防止効果が得られる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のシアン化ビニル化合物成分の割合は、3〜12重量%、好ましくは5〜10重量%である。12重量%を超えると、熱老化特性が低下し、3重量%未満であると、ポリカーボネート樹脂との相溶性が低下し、耐衝撃強度が劣る。
上記シアン化ビニル化合物の割合は、(I)ゴム変性熱可塑性樹脂や(II) 熱可塑性樹脂中のシアン化ビニル化合物の含有量により、容易に調整することができる。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、ワラストナイト、ロックフィラー、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、ガラスフレーク、ミルドファイバー、硫酸バリウム、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛ウィスカー、チタン酸カリウムウィスカーなどの充填剤を、1種単独でまたは2種以上併用することができる。これらの充填剤を配合することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物に、剛性、高熱変形温度などを付与することができる。また、上記のタルク、炭酸カルシウムなどを配合することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物に艶消し性を付与することができる。なお、上記ガラス繊維、炭素繊維の好ましい形状は、6〜60μmの繊維径と30μm以上の繊維長を有するものが挙げられる。
【0034】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、公知の耐候剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、シリコーンオイルなどの添加剤を配合することができる。このうち、耐候剤としては、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系などが好ましい。滑剤としては、エチレンビスステアリルアミド、硬化ヒマシ油などが好ましい。着色剤としては、カーボンブラック、ベンガラなどが挙げられる。帯電防止剤としては、ポリエーテル、アルキル基を有するスルホン酸塩などが挙げられる。
【0035】
上記熱可塑性樹脂組成物は、各種押し出し機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどを用い、各成分を混練りすることにより得られる。好ましい製造方法は、二軸押し出し機を用いる方法である。各成分の混練りに関しては、一括して混練りしても、多段添加式で混練りしてもよい。
【0036】
上記熱可塑性樹脂組成物を用いて、本発明の自動車内装部品を成形するには、自動車内装部品の形状を形成した金型で構成されるキャビティ内に、上記熱可塑性樹脂組成物を射出する成形方法が適用できる。また、エアバッグ作動時に良好にエアバッグドアが展開するよう、開裂部位を薄肉に形成する必要がある。
【0037】
本発明の、エアバッグドアを有する自動車内装部品としては、インストルメントパネル、ピラー、ハンドル、座席部などが挙げられる。その一例として、図1に、エアバッグドア2を有する自動車用インストルメントパネル(インパネ)1を示す。図1において、従来は、インパネに別部品としてはめ込んでいたエアバッグドアの機能を、インパネそのものに備えたものであり、エアバッグドア2を別部品とせず、一体で成形するものである。エアバッグ本体11は、図2の断面図に示すように、エアバッグドア内部に組み込まれている。本発明のエアバッグは、衝撃を感知すると、エアバッグ11内に瞬間的にガスが送り込まれて、図3(a)の状態となり、さらに、エアバッグ11が膨らみ、エアバッグドア2からエアバッグ11が展開し、図3(b)に示す状態となる。図2に示すように、ドアには、エアバッグ11が膨らむ時に破断されるように、薄肉部15が設けられている。薄肉部15の厚さは、好ましくは、周囲の厚さの10〜40%である。これらエアバッグドアを有する自動車内装部品として、本発明の材料(熱可塑性樹脂組成物)を用いれば、エアバッグ展開時に破片が飛び散らず安全にエアバッグを膨らませることができる。しかも、この性能は長期熱老化後も性能が保持できる。
【0038】
【実施例】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに説明する。
なお、実施例および比較例中、部および%は特に断らない限り重量基準である。また、実施例および比較例中の各種評価は、次のようにして測定した値である。
【0039】
平均粒径
分散粒子の平均粒径は、あらかじめ乳化状態で合成したラテックスの粒径がそのまま樹脂中の分散粒子の粒径を示すことを電子顕微鏡で確認したので、ラテックス中の分散粒子の粒径を、光散乱法で測定した。測定機器は、大塚電子(株)製、レーザー粒径解析システムLPA−3100を用い、70回積算でキュムラント法を用い、粒径を測定した。
グラフト率
上記本文中に記載
固有粘度〔η〕
溶媒であるメチルエチルケトンにサンプルを溶解し、30℃の温度条件でウベローデ型粘度計で測定した。
【0040】
アイゾット衝撃強度
ASTM D256に準じて、下記試験片をノッチ付きで測定した。単位は、kgf・cm/cmである。
試験片;2.5×1/2×1/4インチ、ノッチ付き。
流動性(メルトフローレート)(成形加工性)
ASTM D1238に準じて測定した。測定温度は240℃、荷重は10kg、単位はg/10分である。
長期熱老化特性
ASTM D638に準ずる引っ張り破断伸び試験において、初期の破断伸びを測定し、110℃の高温環境下に、2,400時間放置したものの破断伸びを測定することによって、その破断伸びの保持率を求めた。
【0041】
エアバッグ作動性
エアバッグが作動した時に、自動車内装部品本体およびエアバッグドア部に割れが発生したり、破片が飛散しないことを良として評価した。また、割れが発生したり、破片が飛散した場合を不良として評価した。
【0042】
本実施例に用いられる各成分は、次のとおりである。
(I)成分の調製
(I−1)ABS樹脂の調製;
攪拌装置を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、不均化ロジン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエン〔JSR(株)製、#0700〕40部(固形分換算)、スチレン15部およびアクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部およびイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、ならびにジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応を続けた。その後、イオン交換水50部、不均化ロジン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部およびアクリロニトリル10部からなるインクレメント重合成分を3時間にわたって連続的に添加し重合反応を続けた。添加終了後、さらに攪拌を1時間続けたのち、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを硫酸2部で凝固し、反応生成物をよく水洗したのち、75℃で24時間乾燥し、白色粉末を得た。重合転化率は97.2%、グラフト率は75%、固有粘度は0.44dl/gであった。
【0043】
〔(I−1−a)〜(I−1−d)〕ABS樹脂の調製;
上記(I−1)ABS樹脂の製造方法と同様にして、表1に示すABS樹脂を調製した。
【0044】
【表1】
Figure 0004452957
【0045】
(I−2)AES樹脂の調製;
リボン型攪拌翼を備えた内容積10リットルのステンレス製オートクレーブに、EPDM〔JSR(株)製、EP−82〕20部、スチレン55部、アクリロニトリル25部およびトルエン100部を仕込み、攪拌後、昇温し、ゴム質重合体を完全溶解し均一溶液を得た。次いで、t−ドデシルメルカプタン0.1部とベンゾイルパーオキサイド0.5部、ジクミルパーオキサイド0.1部を添加し、95℃に一定に制御しながら攪拌回転数200rpmで重合反応を行った。反応開始後6時間目から1時間を要して120℃まで昇温し、さらに2時間反応を行って終了した。重合転化率は、97%であった。100℃まで冷却後、2,2−メチレン−ビス−4−メチル−6−ブチルフェノール0.2部を添加したのち、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し細かく砕いたのち、40mmφベント付き押し出し機(220℃、700mmHg)にて、実質的に揮発分を留去するとともに、重合体をペレット化した。グラフト率は70%、固有粘度は0.42dl/gであった。
【0046】
(I−3)ASA樹脂の調製;
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、オレイン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、アクリルゴム〔テクノポリマー(株)製、20LAR〕40部(固形分換算)、スチレン15部およびアクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部およびイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、ならびにジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応を続けた。その後、イオン交換水50部、オレイン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部およびアクリロニトリル10部からなるインクレメント重合成分を3時間にわたって連続的に添加し重合反応を続けた。添加終了後、さらに攪拌を1時間続けたのち、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを、硫酸2部で凝固し、反応生成物をよく水洗したのち、75℃で24時間乾燥し、白色粉末を得た。重合転化率は96.5%、グラフト率は55%、固有粘度は0.41dl/gであった。
【0047】
(I−4)ASS樹脂の調製;
p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン1.5部とオクタメチルシクロテトラシロキサン98.5部を混合し、これをドデシルベンゼンスルホン酸2.0部を溶解した蒸留水300部中に入れ、ホモミキサーにより3分間攪拌して乳化分散させた。この混合液を、コンデンサー、窒素導入口および攪拌機を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌混合しながら90℃で6時間加熱し、5℃で24時間冷却することで縮合反応を完了させた。得られた変性ポリオルガノシロキサンの縮合率は、92.8%であった。この変性ポリオルガノシロキサンのラテックスを、炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。得られた変性ポリオルガノシロキサンラテックスの平均粒径は、2,800オングストロームであった。
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、上記変性ポリオルガノシロキサン40部(固形分換算)、スチレン15部およびアクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン4酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート・2水和物0.2部およびイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、ならびにジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応を続けた。その後、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルヒドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部およびアクリロニトリル10部からなるインクレメント重合成分を3時間にわたって連続的に添加し重合反応を続けた。添加終了後、さらに攪拌を1時間続けたのち、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを、塩化カルシウム2部で凝固し、反応生成物をよく水洗したのち、75℃で24時間乾燥し、白色粉末を得た。重合転化率は97.2%、グラフト率は90%、固有粘度は0.47dl/gであった。
【0048】
II) 成分の調製
(II−1〜5);
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水300部、オレイン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部および表2記載の単量体を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、過硫酸カリウム0.8部、酸性亜硫酸ナトリウム0.2部を添加し、3時間反応を続けた。さらに、攪拌を1時間続けたのち、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)を0.2部添加し、反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを硫酸2部で凝固し、反応生成物をよく水洗したのち、75℃で24時間乾燥し、白色粉末を得た。
【0049】
【表2】
Figure 0004452957
【0050】
III) 成分の調製
ポリカーボネート樹脂として、三菱化学エンジニアリングプラスチック(株)製のものを使用した。
III−1;ユーピロンH2000
III−2;ノバレックス7022PJ
【0051】
IV) 成分の調製
下記の成分を使用した。
フェノール系−1;2〔1−(2ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート
フェノール系−2;4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)
リン系−1;トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト
リン系−2;リン酸2水素ナトリウム
硫黄系−1;ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)
硫黄系2;3,3′−チオビスプロピオン酸ジドデシルエステル
【0052】
II) 成分の比較材料の調製
(C−1〜4);
攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水300部、オレイン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部および表3記載の単量体を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、過硫酸カリウム0.8部、酸性亜硫酸ナトリウム0.2部を添加し、3時間反応を続けた。さらに、攪拌を1時間続けたのち、2,2−メチレン−ビス−(4−エチレン−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、反応生成物をフラスコより取り出した。反応生成物のラテックスを硫酸2部で凝固し、反応生成物を良く水洗したのち、75℃で24時間乾燥し、白色粉末を得た。
【0053】
【表3】
Figure 0004452957
【0054】
実施例1〜22、比較例1〜13(熱可塑性樹脂組成物の調製と評価)
(I)〜(II) 成分および比較のための重合体を、表4〜8に記載した割合で、250℃の温度条件で押し出し機を用い溶融混練りし、射出成形により評価サンプルを得た。表4〜6に本発明の実施例を、表7〜8に比較例を示した。
表4〜8の結果から明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、著しく優れた熱老化特性を示し、また、耐衝撃強度、流動性にも優れたものであった。すなわち、実施例1〜22に示すように、ある特定範囲のアクリロニトリル量を有する(II) 熱可塑性樹脂を使用することによって、他の物性を損なうことなく、熱老化特性に優れることが分かる。
これに対し、比較例1〜7は、本発明の(II) 熱可塑性樹脂を使用していない例である。それゆえ、熱老化特性が著しく低下している。なかでも、(II) 熱可塑性樹脂のアクリロニトリル量が著しく低い比較例5や、同樹脂の固有粘度が著しく低い比較例6は、アイゾット衝撃強度も低下しており、好ましくないことが分かる。また、(II) 熱可塑性樹脂の固有粘度が著しく高い比較例7は、流動性が低下しており好ましくない。
また、比較例8〜10は、本発明の(II) 熱可塑性樹脂を使用しているが、同樹脂や(III)ポリカーボネート樹脂の配合量が本発明の範囲外である場合である。この場合、熱老化特性に劣り、比較例8は流動性も劣り、比較例9〜10はアイゾット衝撃強度も低下する。
さらに、比較例11〜13は、熱老化防止剤のみで熱老化特性を改善しようとの試みを提示しているが、熱老化防止剤のみでは、改良効果がほとんどみられず、大量に添加しても効果はないので、このような手法で熱老化特性を改善しようという試みは好ましくないことが分かる。
【0055】
また、上記調製した熱可塑性樹脂組成物を用いて成形し、図1に示す、エアバッグドアを組み込んだ自動車用インストルメントパネル(インパネ)を得た。エアバッグ作動性の評価を、表4〜8に示す。
本発明のエアバッグドアを有する自動車内装部品(実施例1〜22)は、比較例1〜13に比べてエアバッグ作動時にインパネ本体およびエアバッグドア部共に、割れなど発生せず良好であった。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、長期熱老化特性に優れているため、本発明の成形品は、長期間高温環境下に置かれても、エアバッグの作動性に変化は見られなかった。
【0056】
【表4】
Figure 0004452957
【0057】
【表5】
Figure 0004452957
【0058】
【表6】
Figure 0004452957
【0059】
【表7】
Figure 0004452957
【0060】
【表8】
Figure 0004452957
【0061】
【発明の効果】
本発明は、長期熱老化特性に優れ、流動性(成形加工性)が優れることから複雑な構造にも適用が可能な熱可塑性樹脂組成物を使用して得られる、エアバッグドアを有する自動車内装部品である。エアバッグドアを別部品とせず、一体で成形してできるため、製品のコストダウンに貢献し、さらに、長期高温下に置かれてもエアバッグ作動性に変化がみられず、エアバッグ展開時に割れが発生せず、破片が飛び散らず、安全性にも寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエアバッグドアを有する自動車内装部品の一例としてのインパネの外観図である。
【図2】図1に示すインパネのエアバッグドアの、I−I′切断線に沿った断面図である。
【図3】(a)図1に示すインパネの、エアバッグが膨らみ、エアバッグドアが開口する直前の部分外観図である。
(b)図3(a)に示すインパネの、エアバッグドアが開口し、エアバッグが展開した部分外観図である。
【符号の説明】
1 インストルメントパネル(インパネ)
2 エアバッグドア
11 エアバッグ
15 薄肉部

Claims (5)

  1. (I)ゴム重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体の群から選ばれた少なくとも1種の単量体成分をグラフト重合して得られ、かつ、グラフト率が10〜100%であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.2〜0.8dl/gであるゴム変性熱可塑性樹脂10〜45重量%、
    (II)芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物および必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル系単量体からなる単量体成分を共重合して得られ、かつ、芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/他のビニル系単量体の重量比が50〜90/10〜20/0〜30であり、しかも、30℃におけるメチルエチルケトン可溶分の固有粘度〔η〕が0.3〜0.6dl/gである熱可塑性樹脂5〜30重量%、
    (III)ポリカーボネート樹脂50〜70重量%、ならびに
    (IV)熱老化防止剤0〜2重量%〔ただし、(I)+(II)+(III)+(IV)=100重量%〕
    を主成分とし、かつ、得られる組成物全体におけるシアン化ビニル化合物含量が3〜12重量%である熱可塑性樹脂組成物、を使用したエアバッグドアを有する自動車内装部品。
  2. (I)ゴム変性熱可塑性樹脂中のゴム質重合体の割合が10〜80重量%である請求項1記載のエアバックドアを有する自動車内装部品。
  3. (I)ゴム変性熱可塑性樹脂に用いられる単量体成分の割合が、芳香族ビニル化合物が60〜90重量%、シアン化ビニル化合物が10〜40重量%、共重合可能な他のビニル系単量体が30重量%以下(ただし、芳香族ビニル化合物+シアン化ビニル化合物+他のビニル系単量体=100重量%)である請求項1または2記載のエアバックドアを有する自動車内装部品。
  4. (IV)熱老化防止剤が、フェノール系、リン系および硫黄系の3種混合系である請求項1記載のエアバックドアを有する自動車内装部品。
  5. (II)熱可塑性樹脂に用いられる単量体成分としての芳香族ビニル化合物/シアン化ビニル化合物/他のビニル系単量体の重量比が72〜85/15〜18/0〜10である請求項1記載のエアバックドアを有する自動車内装部品。
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