以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
(1.スクロースホスホリラーゼ)
本明細書において「スクロースホスホリラーゼ」および「SP」は特に示さない限り互換可能に用いられ、スクロースホスホリラーゼ活性を有する酵素を意味する。スクロースホスホリラーゼは、EC.2.4.1.7に分類される。スクロースホスホリラーゼによって触媒される反応は、次式により示される:
スクロースホスホリラーゼは、自然界では種々の生物に含まれる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物の例としては、Streptococcus属に属する細菌(例えば、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus thermophilusおよびStreptococcus mitis)、Leuconostoc mesenteroides、Oenococcus oeni、Lactobacillus acidophilus、Bifidobacterium sp.(例えば、Bifidobacterium longumおよびBifidobacterium adolescentis)、Agrobacterium sp.(例えば、Agrobacterium vitis)、Pseudomonas sp.(例えば、Pseudomonas saccharophila)、Escherichia coli、Listeria sp.(例えば、Listeria innocuaおよびListeria monocytogenes)、Clostridium sp.、Pullularia pullulans、Acetobacter xylinum、Synecococcus sp.、Aspergillus niger、Sclerotinea escerotiorum、およびChlamydomanas sp.が挙げられる。スクロースホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
本発明の方法に用いられる第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼは、細菌由来であることが好ましく、中温菌由来であることがより好ましい。しかし、これらのスクロースホスホリラーゼは耐熱性がない。そのため、高温(例えば、約50℃〜60℃以上)では反応を充分に触媒できない。そのため、細菌由来のSPの反応至適温度に合わせて反応を約30℃〜約40℃で行うと、雑菌汚染という問題またはα−グルカンの老化という問題が生じ、α−グルカンまたはG−1−Pを効率よく生産できない。
本明細書中では、酵素がある生物に「由来する」とは、その生物から直接単離したことのみを意味するのではなく、その生物を何らかの形で利用することによりその酵素が得られることをいう。例えば、その生物から入手したその酵素をコードする遺伝子を大腸菌に導入して、その大腸菌から酵素を単離する場合も、その酵素はその生物に「由来する」という。
Streptococcus mutansの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号1に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号2に示す。Streptococcus mutansには、配列番号2とは異なるアミノ酸配列を有する天然のスクロースホスホリラーゼも公知である。配列番号2のアミノ酸配列を有するSPと、S.mutans由来のこの他のSPとはいずれも、47位のアミノ酸がトレオニンであり、62位のアミノ酸がセリンであり、77位のアミノ酸がチロシンであり、128位のアミノ酸がバリンであり、140位のアミノ酸がリジンであり、144位のアミノ酸がグルタミンであり、そして155位のアミノ酸がアスパラギンであるので、これらのスクロースホスホリラーゼはいずれも、耐熱性がほぼ同等である。本明細書中では、「天然の」スクロースホスホリラーゼは、もともとスクロースホスホリラーゼを産生する細菌から単離されたスクロースホスホリラーゼだけでなく、天然のスクロースホスホリラーゼと同じアミノ酸配列を有する、遺伝子組換えによって得られるスクロースホスホリラーゼをも包含する。
Streptococcus pneumoniaeの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号3に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号4に示す。
Streptococcus sorbinusの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号5に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号6に示す。
Leuconostoc mesenteroidesの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号7に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号8に示す。
Oenococcus oeniの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号9に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号10に示す。
Streptococcus mitisの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号11に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号12に示す。
Leuconostoc mesenteroidesの第2の天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号13に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号14に示す。
Lactobacillus acidophilusの第1の天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号15に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号16に示す。
Lactobacillus acidophilusの第2の天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号17に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号18に示す。
Listeria monocytogenesの天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を配列番号19に示し、そしてアミノ酸配列を配列番号20に示す。
これらの天然のスクロースホスホリラーゼの塩基配列およびアミノ酸配列は例示であり、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明においては、例示した配列を有するスクロースホスホリラーゼ以外にも、このような、天然に存在する改変体も耐熱化に用い得る。
本発明の方法に用いられる第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinus、Streptococcus mitis、Leuconostoc mesenteroides、Oenococcus oeni、、Lactobacillus acidophilusおよびListeria monocytogenesに由来することが好ましく、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinusまたはStreptococcus mitisに由来することがより好ましい。天然のスクロースホスホリラーゼは、Streptococcus mutansまたはLeuconostoc mesenteroidesに由来することが最も好ましい。
スクロースホスホリラーゼの遺伝子は、既知のスクロースホスホリラーゼの配列を参考にしてプライマーを設計し、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を得ようとするゲノムライブラリーを鋳型としてPCRを行うことによって得ることができる。あるいは、既知のSP遺伝子配列情報をもとに、ゲノムライブラリー作製をへることなく、化学合成により直接SP遺伝子を作製することも可能である。遺伝子の合成方法は、例えばTe’oら(FEMS Microbiological Letters、190巻、13−19頁、2000年)などに記載されている。
得られたSP遺伝子は、当業者に周知の方法で、適切なベクターに挿入できる。例えば、大腸菌用のベクターであれば、pMW118(日本ジーン株式会社製)、pUC18(タカラバイオ(株)製)、pKK233−2(Amersham−Pharmacia−Biotech製)などが使用でき、枯草菌用のベクターであれば、pUB110(American Type Culture Collectionから購入可能)、pHY300PLK(タカラバイオ(株)製)などが使用できる。
(2.スクロースホスホリラーゼの耐熱化)
本発明の方法は、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む第一の核酸分子を改変して、改変塩基配列を含む第二の核酸分子を得る工程;該第二の核酸分子を含む発現ベクターを作製する工程;該発現ベクターを細胞に導入して耐熱化スクロースホスホリラーゼを発現させる工程;および該発現された耐熱化スクロースホスホリラーゼを回収する工程を包含する。
(2.1 第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子の単離)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子もまた、本発明の範囲内にある。このような核酸分子は、本明細書の開示に基づいて、当該分野で公知の方法を用いて得ることができる。
天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は、上記のような自然界に存在する、スクロースホスホリラーゼを産生する細菌から直接単離され得る。
例えば、まず、Streptococcus mutansなどから天然のスクロースホスホリラーゼが単離される。Streptococcus mutansのスクロースホスホリラーゼについての手順を例示すると、最初に、Streptococcus mutansを適切な培地(例えば、LB培地)中に接種し、振盪させながら37℃で一晩培養する。次いで、この培養液を遠心分離して、Streptococcus mutansの菌体を収集する。得られた菌体を、20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液を得る。次いで、この菌体破砕液にスクロースを加えて、10%スクロースを含む菌体破砕液を得る。この菌体破砕液を、55℃の水浴中で30分間加熱する。加熱後、この菌体破砕液を、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−251)を用いて遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得る。得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharoseに流してスクロースホスホリラーゼを樹脂に吸着させる。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去する。続いて、300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でスクロースホスホリラーゼを溶出させ、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ酵素液とする。
通常、この段階でトリプシン処理に用い得るスクロースホスホリラーゼ含有溶液になるが、さらなる精製を必要とする場合がある。このような場合、必要に応じて、Sephacryl S−200HR(ファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画、Phenyl−TOYOPEARL 650M(東ソー社製)などを用いた疎水クロマトグラフィーによる分画を組み合わせることにより、精製Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ含有溶液を得ることができる。他の細菌種からのスクロースホスホリラーゼの精製も同様に行い得る。
このようにして得た精製スクロースホスホリラーゼをトリプシン処理して、得られるトリプシン処理断片をHPLCにより分離し、分離されたいずれかのペプチド断片のN末端のアミノ酸配列を、ペプチドシークエンサーにより同定する。次いで、同定したアミノ酸配列をもとに作製した合成オリゴヌクレオチドプローブを用いて、適切なゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより、天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子(遺伝子ともいう)を得ることができる。オリゴヌクレオチドプローブおよびDNAライブラリーを調製するための、ならびに核酸のハイブリダイゼーションによりそれらをスクリーニングするための基本的な戦略は、当業者に周知である。例えば、Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989);DNA Cloning,第IおよびII巻(D.N.Glover編 1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編 1984);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames & S.J.Higgins編 1984)を参照のこと。
あるいは、既知の種のスクロースホスホリラーゼの塩基配列に対する相同性に基づいて、この塩基配列の少なくとも一部を含む核酸プローブを用いたハイブリダイゼーションによってスクリーニングして、別種のスクロースホスホリラーゼの塩基配列を含む核酸分子を獲得することもできる。このような方法は当該分野で公知である。
あるいは、種々のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列において保存された領域に対応する縮重プライマーを作製して、PCRによってスクロースホスホリラーゼの塩基配列を獲得することも可能である。このような方法は当該分野で公知である。
ゲノムライブラリーをスクリーニングする場合、得られた核酸分子は、当業者に周知の方法を用いてサブクローニングされ得る。例えば、目的の遺伝子を含むλファージと、適切な大腸菌と、適切なヘルパーファージとを混合することにより、容易に目的の遺伝子を含有するプラスミドを得ることができる。その後、プラスミドを含有する溶液を用いて、適切な大腸菌を形質転換することにより、目的の遺伝子をサブクローニングし得る。得られた形質転換体を培養して、例えばアルカリSDS法によりプラスミドDNAを得、目的の遺伝子の塩基配列を決定し得る。塩基配列を決定する方法は、当業者に周知である。さらに、DNAフラグメントの塩基配列を基に合成されたプライマーを用い、Streptococcus mutans、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus sorbinusなどのゲノムDNAなどを鋳型に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて直接スクロースホスホリラーゼ遺伝子を増幅することもできる。
本明細書において「核酸分子」は、天然のヌクレオチドのみからなっていてもよく、非天然のヌクレオチドを含んでもよく、非天然のヌクレオチドのみからなっていてもよい。非天然のヌクレオチドの例としては、誘導体ヌクレオチド(ヌクレオチドアナログともいう)が挙げられる。「誘導体ヌクレオチド」および「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が挙げられるが、これらに限定されない。
(2.2 第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む第一の核酸分子の改変)
第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む第一の核酸分子を改変して、改変塩基配列を含む第二の核酸分子を得る。第一の核酸分子は、上記(2.1)のようにして得た、天然のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子であり得る。第一の核酸分子はまた、天然のスクロースホスホリラーゼの酵素活性と実質的に同様の酵素活性を有する、天然のスクロースホスホリラーゼに対して1もしくは数個またはそれを超えるアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子であり得る。このような、天然のスクロースホスホリラーゼに対してアミノ酸が置換および付加されたスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列の例として、配列番号23の塩基配列を示す。この塩基配列は、天然の塩基配列(すなわち、配列番号1の塩基配列)に対して、3’末端の4塩基が置換されており、さらに3’末端に18塩基が付加されている。この塩基配列によってコードされるアミノ酸配列(配列番号24のアミノ酸配列)は、天然のアミノ酸配列(すなわち、配列番号2のアミノ酸配列)に対して、C末端の2アミノ酸が置換されており、さらにC末端に6アミノ酸が付加されているが、酵素活性は、天然のスクロースホスホリラーゼと実質的に同様である。「実質的に同様の酵素活性を有する」とは、天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列に対してアミノ酸の置換、欠失もしくは付加を有するスクロースホスホリラーゼを、天然のスクロースホスホリラーゼと同一条件下で測定したときの酵素活性が、天然のスクロースホスホリラーゼの酵素活性の±20%以内であることをいう。好ましくは±10%以内、より好ましくは±5%以内である。
改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
本発明者らは、スクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列中の特定の位置のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に置換することによって、得られる改変スクロースホスホリラーゼの耐熱性が向上することを見出した。このような特定の位置は、以下のモチーフ配列のいずれかまたは配列番号2のアミノ酸配列と、比較対象のアミノ酸配列とをアライメントすることによって決定され得る:
モチーフ配列1:AVGGVHLLPFFPSTGDRGFAPIDYHEVDSAFGDWDDVKRLGEKYYLMFDFMINHIS(配列番号25);
モチーフ配列2:RPTQEDVDLIYKRKDRAPKQEIQFADGSVEHLWNTFGEEQID(配列番号26);および
モチーフ配列3:ILPEIHEHYTIQFKIADHDYYVYDFALPMVTLYSLYSG(配列番号27)。
モチーフ配列1、2および3は、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列(配列番号2)中に存在する。これらのモチーフ配列は、Streptococcus mutansのスクロースホスホリラーゼにおいて、以下の位置に存在する:モチーフ配列1:配列番号2のアミノ酸配列の34位〜89位;モチーフ配列2:配列番号2のアミノ酸配列の122位〜163位;モチーフ配列3:配列番号2のアミノ酸配列の231位〜268位。一般に、天然のスクロースホスホリラーゼは、これらのモチーフ配列またはそれらに対して高い相同性を有する配列を有する。他のスクロースホスホリラーゼについてのこれらのモチーフ配列の位置は、当業者によって容易に決定され得る。
本発明の方法においては、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼが、モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるアミノ酸残基を有するように改変される。あるいは、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼが、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置)からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、該天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有するように改変される。好ましくは、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼの、モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置)からなる群より選択される少なくとも2つの位置において、より好ましくは少なくとも3つの位置において、さらに好ましくは少なくとも4つの位置において、なお好ましくは少なくとも5つの位置において、なおさらに好ましくは少なくとも6つの位置において、特に好ましくは少なくとも7つの位置において、最も好ましくは8つ全ての位置において、上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される。
1つの実施形態では、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は少なくとも、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼの、モチーフ配列1中の14位に相当する位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置)において上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される。
1つの実施形態では、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は少なくとも、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼの、モチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置)において上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される。
1つの実施形態では、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は少なくとも、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼの、モチーフ配列2中の34位に相当する位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の155位アスパラギン(N155)に相当する位置)において上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される。
1つの実施形態では、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は少なくとも、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の以下の組み合わせの位置に相当する位置において上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される:
(1)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ(すなわち、8箇所全て);
(2)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ);
(3)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(4)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(5)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(6)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(7)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置との組合せ;
(8)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置との組合せ;
(9)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(10)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(11)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(12)モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(13)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置との組合せ;
(14)モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(15)モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(16)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(17)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(18)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(19)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置との組合せ;
(20)モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置との組合せ;
(21)モチーフ配列1中の44位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ;
(22)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置との組合せ;
(23)モチーフ配列1中の14位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置と、モチーフ配列2中の23位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置との組合せ;および
(24)モチーフ配列1中の14位に相当する位置とモチーフ配列3中の19位に相当する位置との組合せ。
別の実施形態では、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は少なくとも、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼにおいて、配列番号2のアミノ酸配列の以下の組み合わせの位置に相当する位置において上記天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるように改変される:
(1)47位トレオニン(T47)に相当する位置と、62位セリン(S62)に相当する位置と、77位チロシン(Y77)に相当する位置と、128位バリン(V128)に相当する位置と、140位リジン(K140)に相当する位置と、144位グルタミン(Q144)に相当する位置と、155位アスパラギン(N155)に相当する位置と、249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置との組合せ(すなわち、8箇所全て);
(2)47位トレオニン(T47)に相当する位置と、62位セリン(S62)に相当する位置と、77位チロシン(Y77)に相当する位置と、128位バリン(V128)に相当する位置と、144位グルタミン(Q144)に相当する位置と、155位アスパラギン(N155)に相当する位置と、249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置との組合せ);
(3)T47に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(4)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Q144に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(5)T47に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(6)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、V128に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(7)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Y77に相当する位置と、V128に相当する位置と、K140に相当する位置と、Q144に相当する位置との組合せ;
(8)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Y77に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置との組合せ;
(9)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(10)T47に相当する位置と、Y77に相当する位置と、K140に相当する位置と、Q144に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(11)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Y77に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(12)V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(13)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置との組合せ;
(14)V128に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(15)S62に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(16)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、K140に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(17)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(18)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、N155に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(19)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Y77に相当する位置と、V128に相当する位置と、Q144に相当する位置との組合せ;
(20)Y77に相当する位置と、V128に相当する位置と、N155に相当する位置との組合せ;
(21)Y77に相当する位置と、K140に相当する位置と、Q144に相当する位置と、D249に相当する位置との組合せ;
(22)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、V128に相当する位置との組合せ;
(23)T47に相当する位置と、S62に相当する位置と、Q144に相当する位置と、N155に相当する位置との組合せ;および
(24)T47に相当する位置とD249に相当する位置との組合せ。
本明細書中で用いられる「配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置」とは、対象のアミノ酸配列と配列番号2のアミノ酸配列とを相同性が最も高くなるように、必要に応じて一方の配列にギャップを挿入して並べた場合に、配列番号2の47位トレオニンと並置される位置をいう。なお、配列番号2にギャップが挿入された場合にそのギャップはアミノ酸残基の数として数えない。より好ましくは、GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントにおいて、デフォルトのスコアテーブルを用い、GAP Penalty(Peptide):Insert=−8、Extend=−3、gap Extend on top position:設定あり(チェック)、Match Mode:Local Matchの条件で配列番号2のアミノ酸配列と対象のアミノ酸配列とをアライメントした場合に、配列番号2の47位トレオニンと並置される位置をいう。アミノ酸についてのデフォルトのスコアテーブルを以下の表2に示す。
GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントは、以下のようなアルゴリズムに基づいている。このアライメントプログラムは、アライメントする対象の全ての配列について総当りで2配列のアライメントを行い(ペアワイズアライメント)、その中から共通する配列の保存割合(ペアワイズアライメントにおけるスコア)が高い組み合わせの配列について、共通の配列から仮想配列(共通部分はそのまま、一致しない部分はどちらか一方の配列を選択する)を作成する。仮想配列を構成する配列を除く全ての配列と仮想配列との総当りを同じ手順で、最後の仮想配列が作られるまで繰り返す。その後、仮想配列が作られるときのGAPの挿入およびずれの情報を、もとの配列に対して適用して全体を構成することによってマルチアライメントを完成させる。このペアワイズアライメントの計算式は以下のとおりである。
配列長がそれぞれm、nの配列a、bがあり、それぞれの配列を
と表現するとき、GAPペナルティgは次の式で表される:
−g=s(ai,φ)=s(φ,bj)。
アライメントのスコアを得るための式は以下のとおりである:
αはGAP挿入のペナルティであり、βはGAP伸長のペナルティである。E、F、Gはスコア行列であり、これを基にパス行列が作成される。
62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置、および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置についても同様に解釈される。
GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントにおいて、上記の条件で、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20を配列番号2とアライメントした。その結果、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置にはトレオニン、イソロイシン、フェニルアラニンまたはセリンが並置された。62位セリン(S62)に相当する位置には、セリン、アラニン、プロリンまたはグルタミン酸が並置された。77位チロシン(Y77)に相当する位置には、チロシン、バリン、ロイシン、ヒスチジン、セリンまたはアラニンが並置された。128位バリン(V128)に相当する位置には、バリン、イソロイシンまたはロイシンが並置された。140位リジン(K140)に相当する位置には、リジン、メチオニン、トレオニン、イソロイシン、フェニルアラニンまたはグルタミンが並置された。144位グルタミン(Q144)に相当する位置には、バリン、トレオニン、アルギニン、アスパラギン酸、リジン、セリンまたはグルタミンが並置された。155位アスパラギン(N155)に相当する位置には、アスパラギン、トレオニンまたはバリンが並置された。249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置には、アスパラギン酸、グリシン、バリンまたはグルタミン酸が並置された。このアライメントの結果を図1A〜図1Cに示す。図1A〜図1Cにおいて、「StMuSP」は、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「StPSP」は、Streptococcus pneumoniae由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「StSSP」は、Streptococcus sorbinus由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「LeuSP1」は、Leuconostoc mesenteroides由来の第1のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「LeuSP2」は、Leuconostoc mesenteroides由来の第2のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「OenSP」は、Oenococcus oeni由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「LBSP1」は、Lactobacillus acidophilus由来の第1のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「LBSP2」は、Lactobacillus acidophilus由来の第2のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。「ListSP2」は、Listeria monocytogenes由来のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列を示す。
本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマキシマムマッチングを用いて算出される。このプログラムは、解析対象となる配列データに対して、比較対照となる配列データを置き換えおよび欠損を考慮しながら、配列間で一致するアミノ酸対が最大になるように並べ替え、その際、一致(Matches)、不一致(Mismatches)、ギャップ(Gaps)についてそれぞれ得点を与え合計を算出して最小となるアライメントを出力しその際の同一性を算出する(参考文献:Takashi,K.,およびGotoh,O.1984.Sequence Relationships among Various 4.5 S RNA Spacies J.Biochem.92:1173−1177)。本明細書では配列の同一性は、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングをMatches=−1;Mismatches=1;Gaps=1;*N+=2の条件で用いて算出される。
GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングを用いて、Matches=−1;Mismatches=1;Gaps=1;*N+=2の条件で、Streptococcus mutans由来のSPのアミノ酸配列(配列番号2)、Streptococcus pneumoniae由来のSPのアミノ酸配列(配列番号4)、Streptococcus sorbinus由来のSPのアミノ酸配列(配列番号6)、Leuconostoc mesenteroides由来のSPのアミノ酸配列(配列番号8)、Oenococcus oeni由来のSPのアミノ酸配列(配列番号10)、Streptococcus mitis由来のSPのアミノ酸配列(配列番号12)、Leuconostoc mesenteroides由来のSPのアミノ酸配列(配列番号14)、Lactobacillus acidophilusの第1のSP由来のアミノ酸配列(配列番号16)、Lactobacillus acidophilusの第2のSPのアミノ酸配列(配列番号18)およびListeria monocytogenes由来のSPのアミノ酸配列(配列番号20)の間で相互にアライメントした場合に得られた同一性の値(%)を以下の表3に示す。
例えば、Streptococcus pneumoniae由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の47位であり、62位セリン(S62)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の62位であり、77位チロシン(Y77)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の77位であり、128位バリン(V128)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の128位であり、140位リジン(K140)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の140位であり、144位グルタミン(Q144)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の144位であり、155位アスパラギン(N155)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の155位であり、そして249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置は、配列番号4のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Streptococcus sorbinus由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の128位であり、140位リジン(K140)に相当する位置は、配列番号6の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号6のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の131位であり、140位リジン(K140)に相当する位置は、配列番号8の143位であり、Q144に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の147位であり、N155に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の158位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号8のアミノ酸配列の252位である。
例えば、Oenococcus oeni由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の128位であり、K140に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号10のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Streptococcus mitis由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の128位であり、K140に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号12のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Leuconostoc mesenteroides由来の第2のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の131位であり、K140に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の143位であり、Q144に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の147位であり、N155に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の158位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号14のアミノ酸配列の252位である。
例えば、Lactobacillus acidophilus由来の第1のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の128位であり、K140に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号16のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Lactobacillus acidophilus由来の第2の由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の128位であり、K140に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号18のアミノ酸配列の249位である。
例えば、Listeria monocytogenes由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の47位であり、S62に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の62位であり、Y77に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の77位であり、V128に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の128位であり、K140に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の140位であり、Q144に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の144位であり、N155に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の155位であり、そしてD249に相当する位置は、配列番号20のアミノ酸配列の249位である。
耐熱性を向上させるアミノ酸残基の位置は、481アミノ酸残基長の配列番号2とアライメントすることのみならず、上記のモチーフ配列1、2および3からなる群より選択される1以上の配列とアライメントすることによって決定され得る。配列番号2と相同性が高い(例えば、配列番号2のアミノ酸配列に対する相同性が約40%以上の)SPのアミノ酸配列(配列番号4のアミノ酸配列、配列番号6のアミノ酸配列、配列番号8のアミノ酸配列、配列番号10のアミノ酸配列、配列番号12のアミノ酸配列、配列番号14のアミノ酸配列、配列番号16のアミノ酸配列および配列番号20のアミノ酸配列)についてアライメントした限り、このようにして決定される位置は、配列番号2を用いた場合も、モチーフ配列1、2、および3を用いた場合も、同じ位置となる。
モチーフ配列1は、スクロースホスホリラーゼでよく保存されており、特に、Streptococcus属由来のスクロースホスホリラーゼでよく保存されている。配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置は、モチーフ配列1中の14位に相当する位置ということができる。
モチーフ配列2は、スクロースホスホリラーゼでよく保存されている。配列番号2のアミノ酸配列の128位バリン(V128)に相当する位置は、モチーフ配列2中の7位に相当する位置ということができる。
モチーフ配列3は、スクロースホスホリラーゼで保存されている。配列番号2のアミノ酸配列の249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置は、モチーフ配列3中の19位に相当する位置ということができる。
このように、耐熱性を向上させるアミノ酸残基の位置はまた、モチーフ配列を用いることによっても特定され得る。耐熱性を向上させるアミノ酸残基の位置は、モチーフ配列1:AVGGVHLLPFFPSTGDRGFAPIDYHEVDSAFGDWDDVKRLGEKYYLMFDFMINHIS中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2:RPTQEDVDLIYKRKDRAPKQEIQFADGSVEHLWNTFGEEQID中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3:ILPEIHEHYTIQFKIADHDYYVYDFALPMVTLYSLYSG中の19位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置であり得る。
従って、本発明の方法においては、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子は、改変核酸分子によってコードされる耐熱化スクロースホスホリラーゼが、モチーフ配列1:AVGGVHLLPFFPSTGDRGFAPIDYHEVDSAFGDWDDVKRLGEKYYLMFDFMINHIS中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2:RPTQEDVDLIYKRKDRAPKQEIQFADGSVEHLWNTFGEEQID中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3:ILPEIHEHYTIQFKIADHDYYVYDFALPMVTLYSLYSG中の19位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、該天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有するように改変されるということができる。
本明細書中では、「モチーフ配列」とは、複数のタンパク質のアミノ酸配列の間で見られる、共通または高度に保存された部分配列をいう。一般に、モチーフ配列は、特定の機能を有することが多いが、本明細書中では、そのような特定の機能を有さなくとも、複数のアミノ酸配列間で保存されていれば、モチーフ配列と呼ぶ。
「モチーフ配列1中の14位の」アミノ酸残基とは、モチーフ配列1のN末端(左端)のアミノ酸残基を1位として順番に数えたときに14番目のアミノ酸残基をいう。「モチーフ配列1中の29位」、「モチーフ配列1中の44位」、「モチーフ配列2中の7位」、「モチーフ配列2中の19位」、「モチーフ配列2中の23位」、「モチーフ配列2中の34位」、「モチーフ配列3中の19位」などについても同様である。
これらのモチーフ配列は、一般に、スクロースホスホリラーゼにおいてよく保存されている。モチーフ配列1の位置、モチーフ配列2の位置およびモチーフ配列3(前半)の位置を、図1Aに示す。モチーフ配列3(後半)の位置を図1Bに示す。
本明細書中で用いられる「モチーフ配列1:AVGGVHLLPFFPSTGDRGFAPIDYHEVDSAFGDWDDVKRLGEKYYLMFDFMINHIS中の14位に相当する位置」とは、対象のアミノ酸配列とモチーフ配列1とを相同性が最も高くなるように、ギャップを挿入せず並べた場合に、モチーフ配列1中の14位のアミノ酸残基と並置される位置をいう。より好ましくは、GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントにおいて、デフォルトのスコアテーブルを用い、GAP Penalty(Peptide):Insert=−8、Extend=−3、gap Extend on top position:設定あり(チェック)、Match Mode:Local Matchの条件でモチーフ配列1のアミノ酸配列と対象のアミノ酸配列とをアライメントした場合に、モチーフ配列1中の14位のアミノ酸残基と並置される位置をいう。
モチーフ配列1中の29位、モチーフ配列1中の44位、モチーフ配列2中の7位、モチーフ配列2中の19位、モチーフ配列2中の23位、モチーフ配列2中の34位、およびモチーフ配列3中の19位についても同様に解釈される。
GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントを上記の条件で用いて、Streptococcus mutans由来のSPのアミノ酸配列(配列番号2)に対して、Streptococcus pneumoniae由来のSPのアミノ酸配列(配列番号4)、Streptococcus sorbinus由来の第2のSPのアミノ酸配列(配列番号6)、Leuconostoc mesenteroides由来のSPのアミノ酸配列(配列番号8)、Oenococcus oeni由来のSPのアミノ酸配列(配列番号10)、Streptococcus mitis由来のSPのアミノ酸配列(配列番号12)、Leuconostoc mesenteroidesの第2のSPのアミノ酸配列(配列番号14)、Lactobacillus acidophilusの第1のSPのアミノ酸配列(配列番号16)、Lactobacillus acidophilusの第2のSPのアミノ酸配列(配列番号18)およびListeria monocytogenes由来のSPのアミノ酸配列(配列番号20)をアライメントした。
さらに、GENETYX−WIN Ver.4.0のマルチプルアライメントを上記の条件で用いて、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20を、モチーフ配列(モチーフ配列1、2または3)とアライメントした。その結果、モチーフ配列1中の14位に相当する位置にはトレオニンまたはアスパラギンが、モチーフ配列1中の29位に相当する位置にはセリン、プロリンまたはアラニンが、モチーフ配列1中の44位に相当する位置にはチロシンが、モチーフ配列2中の7位に相当する位置にはバリン、イソロイシンまたはロイシンが、モチーフ配列2中の19位に相当する位置にはリジン、メチオニン、トレオニン、イソロイシン、チロシンまたはフェニルアラニンが、モチーフ配列2中の23位に相当する位置にはグルタミン、バリン、トレオニン、リジンまたはグルタミン酸が、モチーフ配列2中の34位に相当する位置にはアスパラギンが、モチーフ配列3中の19位に相当する位置にはアスパラギン酸またはグリシンが並置された。モチーフ配列1、2および3は、配列番号2の部分配列である。
配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28および配列番号30のそれぞれについて、配列番号2の全長を用いてアライメントした結果と、モチーフ配列1、2および3を用いてアライメントした結果とを比較した。その結果、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28および配列番号30のそれぞれにおいて、配列番号2の47位に相当する位置と、モチーフ配列1中の14位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の62位に相当する位置と、モチーフ配列1中の29位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の77位に相当する位置と、モチーフ配列1中の44位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の128位に相当する位置と、モチーフ配列2中の7位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の140位に相当する位置と、モチーフ配列2中の19位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の144位に相当する位置と、モチーフ配列1中の19位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の155位に相当する位置と、モチーフ配列2中の34位に相当する位置とは、同一であった。配列番号2の249位に相当する位置と、モチーフ配列3中の19位に相当する位置とは、同一であった。このように、モチーフ配列を用いてアライメントを行っても、配列番号2のアミノ酸配列を用いた場合と同じ位置が特定されることが確認された。
配列表の配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18または配列番号20に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子は、本発明の範囲内にある。
配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17または配列番号19に示される塩基配列を含む核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子は、本発明の範囲内にある。
配列表の配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列と少なくとも40%(好ましくは少なくとも60%)の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子は、本発明の範囲内にある。
本明細書において配列(例えば、アミノ酸配列、塩基配列など)の「同一性」とは、2つの配列の間で同一のアミノ酸(塩基配列を比較する場合は塩基)の出現する程度をいう。一般に、2つのアミノ酸または塩基の配列を比較して、付加または欠失を含み得る最適な様式で整列されたこれら2つの配列を比較することによって決定される。同一性パーセントは、アミノ酸(塩基配列を比較する場合は塩基)がこの2つの配列間で同一である位置の数を決定し、比較した位置の総数で同一の位置の数を除算し、そしてこれら2つの配列間の同一性パーセントを得るために、得られた結果に100を掛けることによって算出される。
例示として、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを得るために用いられる第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列は、ある実施形態では、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18および配列番号20からなる群より選択されるアミノ酸配列(すなわち、対照アミノ酸配列)と同一、すなわち、100%同一であってもよく、別の実施形態では、このアミノ酸配列は、対照アミノ酸配列と比較してある一定の数までアミノ酸が変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のアミノ酸の欠失、保存および非保存置換を含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照アミノ酸配列のアミノ末端もしくはカルボキシ末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。アミノ酸残基の変化は、1残基ずつ点在していてもよく、数残基連続していてもよい。
同様に、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを得るために用いられる第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列をコードする塩基配列は、これらの対照アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(すなわち、対照塩基配列)と比較してある一定の数まで変化していてもよい。このような変化は、少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、トランジションおよびトランスバージョンを含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照塩基配列の5’末端もしくは3’末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。塩基の変化は、1塩基ずつ点在していてもよく、数塩基連続していてもよい。
塩基の変化は、そのコード配列において、ノンセンス、ミスセンスまたはフレームシフト変異を生じ得、このような変化をした後の塩基配列によりコードされるSPに変化をもたらし得る。
2つのアミノ酸配列を直接比較する場合、そのアミノ酸配列間でアミノ酸が、代表的には少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、さらに好ましくは少なくとも50%、特に好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることが好ましい。
第一の(例えば、天然の)酵素または核酸分子としてはまた、本明細書において具体的に記載された第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列または第一のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列(例えば、配列番号1、2など)に対して同一ではないが相同性のある配列を有するものもまた使用され得る。第一の(例えば、天然の)酵素または核酸分子に対して相同性を有するそのような酵素または核酸分子としては、例えば、GENETYX−WIN Ver.4.0のマキシマムマッチングにおいて、上記の条件で用いて比較した場合に、比較対象の配列に対して、核酸の場合、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性を有する塩基配列を含む核酸分子が挙げられ、そして酵素の場合、少なくとも約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約99%の同一性を有するアミノ酸配列を有する酵素が挙げられるがそれらに限定されない。
配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17および配列番号19からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子は、本発明の範囲内にある。配列表の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17および配列番号19からなる群より選択される塩基配列からなる核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子に対して改変を行って得られる改変塩基配列を含む核酸分子もまた、本発明の範囲内にある。当業者は、所望のスクロースホスホリラーゼ遺伝子を容易に選択することができる。
本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。具体的には、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液(0.2% BSA、0.2% Ficoll 400および0.2%ポリビニルピロリドン)、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄するという条件を用いることにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。
本発明の方法で用いられる改変核酸分子は、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子であってもよい。保存的に改変された核酸分子は特定の実施形態では、本発明の目的とする改変以外の保存的改変を有していることが好ましい。「第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列を含む核酸分子に対して保存的に改変された核酸分子」とは、第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列が、コードするアミノ酸配列と同一または本質的に同一のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子をいう。「第一のスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列がコードするアミノ酸配列と本質的に同一のアミノ酸配列」とは、第一のスクロースホスホリラーゼと本質的に同じ酵素活性を有するアミノ酸配列をいう。遺伝コードの縮重のため、機能的に同一な多数の塩基配列が任意の所定のアミノ酸配列をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、GCAコドンによってアラニンが特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたアラニンを変更することなく、GCC、GCGまたはGCUに変更され得る。同様に、複数のコドンによってコードされ得るアミノ酸に関しては、コドンによってそのアミノ酸が特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされた特定のアミノ酸を変更することなく、そのアミノ酸をコードする任意の別のコドンに変更され得る。このような塩基配列の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント変異」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての塩基配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント改変を包含する。サイレント変異は、コードする核酸が変化しない「サイレント置換」と、そもそも核酸がアミノ酸をコードしない場合を包含する。ある核酸がアミノ酸をコードする場合、サイレント変異は、サイレント置換と同義である。本明細書において「サイレント置換」とは、塩基配列において、あるアミノ酸をコードする塩基配列を、同じアミノ酸をコードする別の塩基配列に置換することをいう。遺伝コード上の縮重という現象に基づき、あるアミノ酸をコードする塩基配列が複数ある場合(例えば、グリシンなど)、このようなサイレント置換が可能である。したがって、サイレント置換により生成した塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、もとのポリペプチドと同じアミノ酸配列を有する。したがって、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼにおいて、本発明の目的とする改変(モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置;あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置において、該天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有するように置換すること)に加えて、塩基配列レベルでは、サイレント置換を含ませることも可能である。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンをコードする唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンをコードする唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列は、発現のために導入される生物におけるコドンの使用頻度にあわせて変更され得る。コドン使用頻度は、その生物において高度に発現される遺伝子での使用頻度を反映する。例えば、大腸菌において発現させることを意図する場合、公開されたコドン使用頻度表(例えば、Sharpら,Nucleic Acids Research 16 第17号,8207頁(1988))に従って大腸菌での発現のために最適にすることができる。
(2.3 発現ベクターの作製)
上記のようにして改変された塩基配列を含む核酸分子を用いて、発現ベクターが作製される。特定の核酸配列を用いて発現ベクターを作製する方法は、当業者に周知である。
本明細書において核酸分子について言及する場合、「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
本明細書において使用される「発現ベクター」とは、改変された塩基配列(すなわち、改変されたスクロースホスホリラーゼをコードする塩基配列)を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、改変された塩基配列に加えて、その発現を調節するプロモーターのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、改変された塩基配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。また、発現された酵素を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、改変された塩基配列の上流に正しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
本明細書において使用される「ターミネーター」は、タンパク質コード領域の下流に位置し、塩基配列がmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
本明細書において使用される「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、また転写頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが、1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において使用される「作動可能に連結された(る)」とは、所望の塩基配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
改変した核酸配列を、上記調節エレメントに作動可能に連結するために、目的のスクロースホスホリラーゼ遺伝子を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異誘発の導入が挙げられる。
(2.4 耐熱化スクロースホスホリラーゼの発現)
次いで、上記のようにして作製された発現ベクターを細胞に導入して耐熱化スクロースホスホリラーゼが発現される。
本明細書において酵素の「発現」とは、その酵素をコードする塩基配列が、インビボまたはインビトロで転写および翻訳されて、コードされる酵素が生産されることをいう。
発現ベクターを導入する細胞(宿主ともいう)としては、原核生物および真核生物が挙げられる。発現ベクターを導入する細胞は、スクロースホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。例えば、スクロースホスホリラーゼを高分子量のアミロースの合成に用いる場合、スクロースホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない細胞を用いることが好ましい。このような細胞の例としては、細菌、真菌などの微生物が挙げられる。より好ましい細胞の例としては、中温菌(例えば、大腸菌、枯草菌)が挙げられる。本明細書において、「中温菌」とは、生育温度が通常の温度環境にある微生物のことであり、特に生育至適温度が20℃〜40℃である微生物をいう。細胞は、微生物細胞であってもよいが、植物、動物などの細胞であってもよい。用いる細胞によっては、本発明の酵素は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。植物としては、例えば、双子葉植物、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシなどの単子葉植物が挙げられるがそれらに限定されない。イネなどの穀物は、貯蔵タンパク質を種子に蓄積する性質を持っており、貯蔵タンパク質系を用いて、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを種子に蓄積するように発現させることが可能である(特開2002−58492号明細書を参照のこと)。
本発明の方法において、発現ベクターを細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
細胞として植物の細胞を用いる場合、形質転換体を組織または植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法の例は、以下に記載される:Rogersら,Methods in Enzymology 118:627−640(1986);Tabataら,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamotoら,Nature 338:274(1989);およびMaligaら,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)。木本植物を形質転換する方法については、Molecular Biology of Woody Plants(Vol.I,II)(ed.S.Mohan Jain,Subhash C.Minocha)、Kluwer Academic Publishers、(2000)に記載されている。また、木本植物を形質転換する方法は、例えば、Plant Cell Reports(1999)19:106−110に詳細に記載されている。従って、当業者は、目的とするトランスジェニック植物に応じて上記周知方法を適宜使用して、形質転換体を再分化させることができる。このようにして得られたトランスジェニック植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような公知の方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
発現ベクターが導入されて耐熱化されたスクロースホスホリラーゼを発現する能力を獲得した細胞(形質転換細胞ともいう)を培養することにより、耐熱化されたスクロースホスホリラーゼを細胞に発現させることができる。形質転換細胞の培養条件は、使用する宿主細胞の種類、発現ベクター内の発現調節因子の種類などに応じて、適切に選択される。例えば、通常の振盪培養方法が用いられ得る。
形質転換細胞の培養に用いる培地は、使用する細胞が増殖して目的の耐熱化スクロースホスホリラーゼを発現し得るものであれば特に限定されない。培地には、炭素源、窒素源の他、無機塩、例えば、リン酸、Mg2+、Ca2+、Mn2+、Fe2+、Fe3+、Zn2+、Co2+、Ni2+、Na+、K+などの塩が必要に応じて、適宜混合して、または単独で用いられ得る。また、必要に応じて形質転換細胞の増殖、目的の耐熱化スクロースホスホリラーゼの発現に必要な各種無機物または有機物が添加され得る。
形質転換細胞を培養する温度は、用いる形質転換細胞の増殖に適するように選択され得る。通常15℃〜60℃である。形質転換細胞の培養は、耐熱化スクロースホスホリラーゼの発現のために十分な時間続行される。
誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合、誘導物質の添加、培養温度の変更、培地成分の調整などにより発現が制御され得る。例えば、ラクトース誘導性プロモーターを有する発現ベクターを使用する場合は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより発現が誘導され得る。
(2.5 耐熱化スクロースホスホリラーゼの回収)
このようにして発現された耐熱化スクロースホスホリラーゼは、次いで回収され得る。例えば、発現された耐熱化スクロースホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合、形質転換細胞を適切な条件下で培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を回収し、次いで適切な緩衝液に懸濁する。次いで超音波処理などにより細胞を破砕した後、遠心分離もしくは濾過することによって上清を得る。あるいは、発現された耐熱化スクロースホスホリラーゼが形質転換細胞外に分泌される場合、このようにして形質転換細胞を培養した後、培養物を遠心分離または濾過することによって細胞を分離して上清を得る。耐熱化スクロースホスホリラーゼが形質転換細胞内に蓄積する場合も、形質転換細胞外に分泌される場合も、このようにして得られた耐熱化スクロースホスホリラーゼ含有上清を通常の手段(例えば、塩析法、溶媒沈澱、限外濾過)を用いて濃縮し、耐熱化スクロースホスホリラーゼを含む画分を得る。この画分を濾過、あるいは遠心分離、脱塩処理などの処理を行い粗酵素液を得る。さらにこの粗酵素液を、凍結乾燥、等電点電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、晶出などの通常の酵素の精製手段を適宜組み合わせることによって、比活性が向上した粗酵素あるいは精製酵素が得られる。α−アミラーゼなどのα−グルカンを加水分解する酵素が含まれていなければ、粗酵素をそのまま、例えば、高分子量α−グルカンの製造に用い得る。
上述のようにして耐熱化スクロースホスホリラーゼを生産することにより、天然のスクロースホスホリラーゼの耐熱性を大幅に向上させることが可能となる。また、発現させた耐熱化スクロースホスホリラーゼは、その耐熱性を利用して簡便に精製され得る。簡単に述べると、耐熱化スクロースホスホリラーゼを含む細胞抽出液を60℃程度で加熱処理することにより、夾雑酵素が不溶化する。この不溶化物を遠心分離などで除去して透析処理を行うことにより、精製された耐熱化スクロースホスホリラーゼが得られる。
好ましい実施態様では、スクロースホスホリラーゼは、精製段階の任意の段階でスクロース(代表的には約4%〜約30%、好ましくは約8%〜約30%、より好ましくは約8%〜約25%)の存在下で加熱され得る。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約70℃であり、より好ましくは約55℃〜約65℃である。例えば、耐熱化S.mutans由来スクロースホスホリラーゼの場合、この温度は約50℃〜約70℃であることが好ましく、約55℃〜65℃であることがより好ましい。加熱が行われる場合、加熱時間は、反応温度を考慮して、スクロースホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には約10分間〜約90分間、より好ましくは約30分間〜約60分間である。
(3.耐熱化スクロースホスホリラーゼ)
(3.1 耐熱化スクロースホスホリラーゼの特徴)
上記のような方法によって得られた本発明の酵素は、モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置)において、該天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有し、かつ該耐熱化スクロースホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で55℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性が、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の20%以上である。
本発明の酵素は好ましくは、モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置)からなる群より選択される少なくとも2つの位置において、より好ましくは少なくとも3つの位置において、さらに好ましくは少なくとも4つの位置において、なお好ましくは少なくとも5つの位置において、殊に好ましくは少なくとも6つの位置において、特に好ましくは少なくとも7つの位置において、最も好ましくは8つ全ての位置において、天然のスクロースホスホリラーゼとは異なるアミノ酸残基を有する。例えば、配列番号2のアミノ酸配列を有するスクロースホスホリラーゼに対して、この8つ全ての位置で置換が行われたアミノ酸配列の例を配列番号22に示し、このアミノ酸配列をコードする塩基配列を配列番号21に示す。これらの置換が行われることによって、置換後のスクロースホスホリラーゼは、置換前のスクロースホスホリラーゼと比較して耐熱性の向上が見られる。本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、これらの位置でのアミノ酸残基の置換に加えて、天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含んでもよい。
天然のスクロースホスホリラーゼの上記の8つの位置は、それらの周囲のアミノ酸と一緒になって、スクロースホスホリラーゼの立体構造の中で、耐熱性に悪影響を与える立体的部分構造を形成していると考えられる。これらの位置の残基を、別のアミノ酸残基に変更することによって、耐熱性が向上する。また、これらの位置の残基は周囲のアミノ酸残基と立体構造的に相互作用しているので、そのアミノ酸残基を置換することに重要な意義がある。例えば、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼの場合は、T47の位置のTをそれ以外に置換することに重要な意義がある。また、例えば、Lactobacillus acidophilus由来のスクロースホスホリラーゼにおいては、モチーフ配列1中の14位(あるいは、T47)に相当する位置のアミノ酸はNであるが、Nを他のアミノ酸に置換することに重要な意義があり、例えば、NをTに置換すると置換後の配列はStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼに類似した配列になるが、その配列においても耐熱性の向上が見られる。
本発明の酵素においては、モチーフ配列1中の14位に相当する位置(あるいは、T47に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列1中の14位に相当する位置(あるいは、T47に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、セリンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列1中の14位に相当する位置(あるいは、T47に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、セリンまたはイソロイシンであることが特に好ましく、イソロイシンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列1中の29位に相当する位置(あるいは、S62に相当する位置におけるアミノ酸残基)は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列1中の29位に相当する位置(あるいは、S62に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、プロリンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列1中の29位に相当する位置(あるいは、S62に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、プロリン、アラニンまたはリジンであることが特に好ましく、アラニンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列1中の44位に相当する位置(あるいは、Y77に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列1中の44位に相当する位置(あるいは、Y77に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、ヒスチジンまたはトリプトファンであることが特に好ましく、ヒスチジンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列1中の44位に相当する位置(あるいは、Y77に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、ヒスチジンまたはアルギニンであることが特に好ましく、アルギニンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列2中の7位に相当する位置(あるいは、V128に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列2中の7位に相当する位置(あるいは、V128に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、ロイシンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列2中の7位に相当する位置(あるいは、V128に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、ロイシンまたはイソロイシンであることが特に好ましく、イソロイシンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列2中の19位に相当する位置(あるいは、K140に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列2中の19位に相当する位置(あるいは、K140に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、メチオニンまたはシステインであることが特に好ましく、メチオニンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列2中の19位に相当する位置(あるいは、K140に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、イソロイシン、バリンまたはチロシンであることがさらに好ましく、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、バリンまたはチロシンであることがさらに好ましく、システイン、フェニルアラニン、バリンまたはチロシンであることがさらに好ましく、フェニルアラニン、バリンまたはチロシンであることがさらに好ましく、バリンまたはチロシンであることがさらに好ましく、チロシンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列2中の23位に相当する位置(あるいは、Q144に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列2中の23位に相当する位置(あるいは、Q144に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、アルギニンまたはリジンであることが特に好ましく、アルギニンであることが最も好ましい。別の実施形態では、モチーフ配列2中の23位に相当する位置(あるいは、Q144に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、リジンまたはバリンであることが好ましく、ヒスチジン、イソロイシン、リジンまたはバリンであることがさらに好ましく、ヒスチジン、イソロイシンまたはバリンであることがさらに好ましく、ヒスチジンまたはイソロイシンであることがさらに好ましく、ヒスチジンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列2中の34位に相当する位置(あるいは、N155に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列2中の34位に相当する位置(あるいは、N155に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、セリンまたはトレオニンであることが特に好ましく、セリンであることが最も好ましい。
本発明の酵素においては、モチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、D249に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、天然のスクロースホスホリラーゼに見出されるアミノ酸残基以外のアミノ酸であり得る。モチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、D249に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、グリシンまたはアラニンであることが特に好ましく、グリシンであることが最も好ましい。モチーフ配列3中の19位に相当する位置(あるいは、D249に相当する位置)におけるアミノ酸残基は、グリシン、システイン、ヒスチジン、リジン、ロイシン、アスパラギン、プロリン、グルタミン、アルギニンまたはセリンであることがさらに好ましく、グリシン、ヒスチジンまたはアスパラギンであることがさらに好ましく、グリシンまたはアスパラギンであることがさらに好ましく、グリシンであることが最も好ましい。
本発明の方法において、耐熱化スクロースホスホリラーゼを作製するために、本発明の目的の改変(モチーフ配列1中の14位に相当する位置、29位に相当する位置、および44位に相当する位置;モチーフ配列2中の7位に相当する位置、19位に相当する位置、23位に相当する位置および34位に相当する位置;ならびにモチーフ配列3中の19位に相当する位置;からなる群より選択される少なくとも1つの位置(あるいは、配列番号2のアミノ酸配列の47位トレオニン(T47)に相当する位置、62位セリン(S62)に相当する位置、77位チロシン(Y77)に相当する位置、128位バリン(V128)に相当する位置、140位リジン(K140)に相当する位置、144位グルタミン(Q144)に相当する位置、155位アスパラギン(N155)に相当する位置および249位アスパラギン酸(D249)に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置)において、該天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有するように置換すること)に加えて、アミノ酸の置換、付加、欠失または修飾を行うことができる。
アミノ酸の置換とは、1つのアミノ酸を別の1つのアミノ酸に置き換えることをいう。得られるスクロースホスホリラーゼが、天然のスクロースホスホリラーゼの酵素活性と実質的に同様の酵素活性を有する限り、アミノ酸の置換は、任意の箇所で任意の個数行われ得る。例えば、置換は、好ましくは1〜30個行われ得、より好ましくは1〜20個行われ得、さらに好ましくは1〜10個行われ得、特に好ましくは1〜5個行われ得、最も好ましくは1〜3個行われ得る。アミノ酸の置換は、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、置換がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への置換より多くのアミノ酸残基を置換してもよい。目的の変異が行われる位置(配列番号2のアミノ酸配列のT47に相当する位置、S62に相当する位置、Y77に相当する位置、V128に相当する位置、K140に相当する位置、Q144に相当する位置、N155に相当する位置およびD249に相当する位置)の付近での置換は、耐熱性に影響を与える可能性があるのであまり好ましくない。
アミノ酸の付加とは、もとのアミノ酸配列中のどこかの位置に、1つ以上、例えば、1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。アミノ酸の付加もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。アミノ酸の付加はまた、特に、N末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への付加より多くのアミノ酸残基を付加してもよい。例えば1〜100個、より好ましくは1〜50個、さらにより好ましくは1〜30個、特に好ましくは5〜30個、最も好ましくは5〜10個のアミノ酸残基を付加してもよい。目的の変異が行われる位置の付近での付加は、耐熱性に影響を与える可能性があるのであまり好ましくない。
アミノ酸の欠失とは、もとのアミノ酸配列から1つ以上、例えば、1〜30個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を除去することをいう。アミノ酸の欠失もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、欠失がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への欠失より多くのアミノ酸残基を欠失してもよい。目的の変異が行われる位置の付近での欠失は、耐熱性に影響を与える可能性があるのであまり好ましくない。
アミノ酸修飾の例としては、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、ペプチド合成方法によって合成されてもよく、このような場合、置換または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸またはアミノ酸アナログであってもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、スクロースホスホリラーゼとしての酵素活性を有する、酵素アナログであってもよい。本明細書において使用される用語「酵素アナログ」とは、天然の酵素とは異なる化合物であるが、天然の酵素と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、酵素アナログには、もとの天然の酵素に対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。酵素アナログは、その機能(例えば、スクロースホスホリラーゼ活性)が、もとの天然の酵素の機能と実質的に同様またはそれよりも良好であるように、このような付加または置換がされている。そのような酵素アナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、酵素アナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。本明細書において「酵素」は、特に言及しない限り、この酵素アナログを包含する。
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のアミノ酸であっても、非天然アミノ酸であっても、誘導体アミノ酸であっても、アミノ酸アナログであってもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。
用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
「誘導体アミノ酸」とは、アミノ酸を誘導体化することによって得られるアミノ酸をいう。
「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
目的の改変に加えて、天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列に対して1もしくは数個またはそれを超える複数のアミノ酸の置換、付加または欠失による改変を含む耐熱化スクロースホスホリラーゼは、本発明の範囲内にある。このような、目的の改変以外のアミノ酸の改変は、好ましくは保存的改変であり、より好ましくは保存的置換である。また、天然のスクロースホスホリラーゼのN末端またはC末端へのアミノ酸の付加または欠失は、他の部分への置換、付加または欠失に比較して、スクロースホスホリラーゼの酵素活性に対する影響が少ないと考えられる。それゆえ、アミノ酸の置換、付加または欠失は、N末端またはC末端で行われることが好ましい。そのような1もしくは数個またはそれを超えるアミノ酸の置換、付加または欠失を含む耐熱化スクロースホスホリラーゼは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、当該分野において周知の方法を利用して製造され得る。例えば、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを作成するためのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。部位特異的変異誘発の手法は、当該分野では周知である。例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)を参照のこと。
本明細書において、耐熱化スクロースホスホリラーゼについて目的の改変以外に関して用いられるとき、「1もしくは数個またはそれを超える複数のアミノ酸の置換、付加または欠失」または「少なくとも1つのアミノ酸の置換、付加または欠失」とは、スクロースホスホリラーゼの酵素活性が喪失しない、好ましくはその酵素活性が基準となるもの(例えば、天然のスクロースホスホリラーゼ)と同等以上となるような程度の数の置換、付加または欠失をいう。当業者は、所望の性質を有する耐熱化スクロースホスホリラーゼを容易に選択することができる。あるいは、目的とする耐熱化スクロースホスホリラーゼを直接化学合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
このようにして作製された本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、第一の(例えば、天然の)スクロースホスホリラーゼ(好ましくは、Streptococcus mutansまたはStreptococcus pneumoniae由来のスクロースホスホリラーゼ)のアミノ酸配列に対して、好ましくは約40%、より好ましくは約45%、より好ましくは約50%、より好ましくは約55%、より好ましくは約60%、より好ましくは約65%、より好ましくは約70%、より好ましくは約75%、より好ましくは約80%、より好ましくは約85%、より好ましくは約90%、より好ましくは約95%、そして最も好ましくは約99%の同一性を有する。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
(3.2 耐熱性の評価方法)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で55℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性が、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の20%以上であることを1つの特徴とする。本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で55℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性は、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の約20%以上であることが好ましく、約30%以上であることがより好ましく、約40%以上であることがより好ましく、約50%以上であることがより好ましく、約55%以上であることがより好ましく、約60%以上であることがより好ましく、約65%以上であることがさらに好ましく、約70%以上であることがいっそう好ましく、約80%以上であることが特に好ましく、約90%以上であることが最も好ましい。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で57℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性は、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の約10%以上であることが好ましく、約20%以上であることがより好ましく、約30%以上であることがより好ましく、約40%以上であることがより好ましく、約50%以上であることがより好ましく、約55%以上であることがより好ましく、約60%以上であることがより好ましく、約65%以上であることがさらに好ましく、約70%以上であることがいっそう好ましく、約80%以上であることが特に好ましく、約90%以上であることが最も好ましい。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で60℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性は、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の約5%以上であることが好ましく、約10%以上であることがより好ましく、約15%以上であることがより好ましく、約20%以上であることがより好ましく、約25%以上であることがより好ましく、約30%以上であることがより好ましく、約35%以上であることがより好ましく、約40%以上であることがさらに好ましく、約50%以上であることがいっそう好ましく、約60%以上であることが特に好ましく、約70%以上であることが最も好ましい。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを、20%スクロースを含む20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で65℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性は、該加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性の10%以上であることがさらに好ましく、約20%以上であることがさらに好ましく、約30%以上であることがさらに好ましく、約40%以上であることがさらに好ましく、約50%以上であることがさらに好ましく、約55%以上であることがさらに好ましく、約60%以上であることがさらに好ましく、約65%以上であることがさらに好ましく、約70%以上であることがいっそう好ましく、約80%以上であることが特に好ましく、約90%以上であることが最も好ましい。なお、本明細書中でスクロースの濃度は、Weight/Volumeで、すなわち、
(スクロースの重量)×100/(溶液の容量)
で計算する。
(3.2.1 スクロースホスホリラーゼ(SP)活性測定法)
スクロースホスホリラーゼの活性単位は、当該分野で公知の任意の方法によって測定され得る。例えば、下記の実施例の1.7に記載の方法によって求められる。
(3.2.2 耐熱性の測定法)
耐熱性は、以下の手順に従って測定され得る。
(i)20%スクロースを含むかまたは含まない、2.5〜3.5U/mlの酵素液(20mM Tris緩衝液(pH7.0)中)を55℃、57℃、60℃または65℃で20分間インキュベートする。
(ii)20分後に取り出した酵素液を氷上に10分間保持して冷却する。
(iii)(ii)の酵素液について、SP活性測定法に従って37℃で酵素活性を測定する。20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で55℃で20分間加熱した後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性A後の割合は、加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの37℃における酵素活性A前から、(A後)÷(A前)×100(%)によって算出される。加熱前の耐熱化スクロースホスホリラーゼの酵素活性A前に対する加熱後の耐熱化スクロースホスホリラーゼの酵素活性A後の割合を、残存活性ともいう。
(3.3 高温条件でのアミロースの収率)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いて、高温条件でアミロースを合成し得る。本明細書中では、「高温条件でアミロースを合成し得る」とは、58.5mMスクロース、1mMマルトテトラオース、10mM無機リン酸、1U/mlのThermus aquaticus由来のα−グルカンホスホリラーゼ(以下の実施例の2.2に従って調製)および1U/mlの耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いて、50℃にて18時間インキュベートすることによってアミロースを合成したときに合成されるアミロースの収率が50%以上であることをいう。この条件でアミロース合成を行った場合、アミロースの収率は好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
(3.4 本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼの比活性)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、高温(好ましくは55℃)において高い比活性を有する。比活性とは、スクロースホスホリラーゼの重量あたりの活性(U/g)をいう。
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを5%スクロース、250mM リン酸緩衝液(pH7.0)中で55℃で15分間反応させた場合の比活性は、好ましくは少なくとも20U/mg以上であり、より好ましくは少なくとも30U/mg以上であり、さらに好ましくは少なくとも40U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも50U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも60U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも70U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも80U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも90U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも100U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも110U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも120U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも130U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも140U/mgであり、さらに好ましくは少なくとも150U/mgであり、特に好ましくは少なくとも160U/mgであり、最も好ましくは少なくとも180U/mgである。
本発明の耐熱化SP酵素は、天然のSP酵素と比較して、高温での比活性が高くかつ高温での残存活性が高いことが好ましい。
(4.本発明の酵素を用いたα−グルカンの製造方法)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、α−グルカンの製造方法において有利に用いられ得る。本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いるグルカンの製造方法は、当該分野で公知の任意のα−グルカンの製造方法であり得るが、スクロースとプライマーにスクロースホスホリラーゼとα−グルカンホスホリラーゼを同時に作用させる方法(SP−GP法ともいう)において用いることが好ましい。SP−GP法は、安価な基質を用いて直鎖状グルカンを製造できるという利点を有する。
本発明のα−グルカンの合成方法は、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼと、α−グルカンホスホリラーゼと、スクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸とを含む反応溶液を反応させて、α−グルカンを生産する工程を包含する。
本明細書中では「α−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする、糖であって、α−1,4−グルコシド結合によって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−グルカンは、直鎖状、分岐状または環状の分子であり得る。直鎖状グルカンとα−1,4−グルカンとは同義語である。直鎖状α−グルカンでは、α−1,4−グルコシド結合によってのみ糖単位の間が連結されている。α−1,6−グルコシド結合を1つ以上含むα−グルカンは、分岐状α−グルカンである。α−グルカンは、好ましくは、直鎖状の部分をある程度含む。分岐のない直鎖状α−グルカンがより好ましい。
α−グルカンは、場合によっては、分岐の数(すなわち、α−1,6−グルコシド結合の数)が少ないことが好ましい。このような場合、分岐の数は、代表的には0〜10000個、好ましくは0〜1000個、より好ましくは0〜500個、さらに好ましくは0〜100個、さらに好ましくは0〜50個、さらに好ましくは0〜25個、さらに好ましくは0個である。
本発明のα−グルカンでは、α−1,6−グルコシド結合を1としたときのα−1,6−グルコシド結合の数に対するα−1,4−グルコシド結合の数の比は、好ましくは1〜10000であり、より好ましくは10〜5000であり、さらに好ましくは50〜1000であり、さらに好ましくは100〜500である。
α−1,6−グルコシド結合は、α−グルカン中に無秩序に分布していてもよいし、均質に分布していてもよい。α−グルカン中に糖単位で5個以上の直鎖状部分ができる程度の分布であることが好ましい。
α−グルカンは、D−グルコースのみから構成されていてもよいし、α−グルカンの性質を損なわない程度に修飾された誘導体であってもよい。修飾されていないことが好ましい。
α−グルカンは、代表的には約8×103以上、好ましくは約1×104以上、より好ましくは約5×104以上、さらに好ましくは約1×105以上、さらに好ましくは約6×105以上の分子量を有する。α−グルカンは、代表的には約1×108以下、好ましくは約1×107以下、さらに好ましくは約5×106以下、さらに好ましくは約1×106以下の分子量を有する。
当業者は、本発明の製造方法で用いられる基質の量、酵素の量、反応時間などを適宜設定することによって所望の分子量のα−グルカンが得られることを容易に理解する。
生産効率の良いSP−GP法は、国際公開第02/097107号パンフレットに記載される。
本発明の製造方法では、例えば、耐熱化スクロースホスホリラーゼと、α−グルカンホスホリラーゼと、スクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸と、緩衝剤と、それを溶かしている溶媒とを主な材料として用いる。これらの材料は通常、反応開始時に全て添加されるが、反応の途中でこれらのうちの任意の材料を追加して添加してもよい。本発明の製造方法では、必要に応じて、枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を用いることができる。枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素は、目的とするα−グルカンの構造に応じて、本発明の製造方法の最初から反応溶液中に添加してもよく、途中から反応溶液中に添加してもよい。
反応開始時の溶液中に含まれるスクロースホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。スクロースホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、α−グルカンの収率が低下する場合がある。
本明細書中では、「α−グルカンホスホリラーゼ」とは、α−グルカンホスホリラーゼ活性を有する酵素を意味する。α−グルカンホスホリラーゼは、EC2.4.1.1に分類される。α−グルカンホスホリラーゼ活性とは、無機リン酸とα−1,4−グルカンとから、グルコース−1−リン酸およびα−1,4−グルカンの部分分解物とを作る反応またはその逆反応を触媒する活性をいう。α−グルカンホスホリラーゼは、ホスホリラーゼ、スターチホスホリラーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、マルトデキストリンホスホリラーゼなどと呼ばれる場合もある。α−グルカンホスホリラーゼは、加リン酸分解の逆反応であるα−1,4−グルカン合成反応をも触媒し得る。反応がどちらの方向に進むかは、基質の量に依存する。生体内では、無機リン酸の量が多いので、α−グルカンホスホリラーゼは加リン酸分解の方向に反応が進む。無機リン酸の量が少ないと、α−1,4−グルカンの合成の方向に反応が進む。
全ての既知のα−グルカンホスホリラーゼは、活性のためにピリドキサール5’−リン酸を必要とし、そして類似した触媒機構を共有するようである。異なった起源に由来する酵素は、基質の優先性および調節形態が異なっているが、全てのα−グルカンホスホリラーゼは、多数のα−グルカンホスホリラーゼを含む大きなグループに属する。この大きなグループは、細菌、酵母および動物由来のグリコーゲンホスホリラーゼ、植物由来のデンプンホスホリラーゼ、ならびに細菌由来のマルトオリゴサッカリドホスホリラーゼを含む。
α−グルカンホスホリラーゼのα−グルカン合成反応のための最小のプライマー分子はマルトテトラオースであることが報告されている。α−グルカン分解反応のために有効な最小の基質はマルトペンタオースであることも報告されている。一般に、これらは、α−グルカンホスホリラーゼに共通の特徴であると考えられていた。しかし、近年、Thermus thermophilus由来のα−グルカンホスホリラーゼおよびThermococcus litoralis由来のα−グルカンホスホリラーゼは、他のα−グルカンホスホリラーゼとは異なる基質特異性を有すると報告されている。これらのα−グルカンホスホリラーゼについては、α−グルカン合成についての最小のプライマーがマルトトリオースであり、α−グルカン分解についての最小の基質がマルトテトラオースである。
α−グルカンホスホリラーゼは、デンプンまたはグリコーゲンを貯蔵し得る種々の植物、動物および微生物中に普遍的に存在すると考えられる。
α−グルカンホスホリラーゼを産生する植物の例としては、馬鈴薯(ジャガイモともいう)、サツマイモ、ヤマイモ、サトイモ、キャッサバなどの芋類、キャベツ、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、ソラマメ、エンドウマメ、ダイズ、アズキ、ウズラマメなどの豆類、Arabidopsis thalianaなどの実験植物、柑橘類、藻類などが挙げられる。
α−グルカンホスホリラーゼを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類などが挙げられる。
α−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物の例としては、Thermus aquaticus、Bacillus stearothermophilus、E.coliなどが挙げられる。
α−グルカンホスホリラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。α−グルカンホスホリラーゼは、天然のα−グルカンホスホリラーゼであっても、天然のα−グルカンホスホリラーゼに変異を導入することによって耐熱性を向上させた耐熱化α−グルカンホスホリラーゼであってもよい。
本発明の方法に用いられるα−グルカンホスホリラーゼは、植物または動物由来であることが好ましく、植物由来であることがより好ましい。一般に、植物由来の天然のα−グルカンホスホリラーゼは、高分子量のアミロースを合成する能力を有する。しかし、これらのα−グルカンホスホリラーゼは耐熱性がない。そのため、高温(例えば、約60℃以上)では反応を触媒できない。そのため、馬鈴薯由来のSPの反応至適温度に合わせて反応を約30℃〜約40℃で行うと、雑菌汚染という問題またはα−グルカンの老化という問題が生じ、α−グルカンまたはG−1−Pを効率よく生産できない。
α−グルカンホスホリラーゼは、α−グルカンホスホリラーゼを産生する任意の生物由来であり得る。α−グルカンホスホリラーゼは、ある程度の耐熱性を有することが好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、耐熱性が高ければ高いほど好ましい。例えば、α−グルカンホスホリラーゼを20mM Tris緩衝液(pH7.0)中で60℃で10分間加熱した後のα−グルカンホスホリラーゼの37℃における酵素活性が、該加熱前のα−グルカンホスホリラーゼの37℃における酵素活性の20%以上であることが好ましい。
α−グルカンホスホリラーゼは、天然のα−グルカンホスホリラーゼであってもよく、あるいは、耐熱性を向上させるために特定の位置に変異を導入した耐熱化α−グルカンホスホリラーゼであってもよい。このような位置は、GPモチーフ配列1L:H−A−E−F−T−P−V−F−S中の4位に相当する位置もしくはGPモチーフ配列1H:H−A−Q−Y−S−P−H−F−S中の4位に相当する位置、GPモチーフ配列2:A−L−G−N−G−G−L−G中の4位に相当する位置、およびGPモチーフ配列3L:R−I−V−K−F−I−T−D−V中の7位に相当する位置もしくはGPモチーフ配列3H:R−I−V−K−L−V−N−D−V中の7位に相当する位置(あるいは、天然の馬鈴薯タイプL α−グルカンホスホリラーゼの成熟アミノ酸配列の39位フェニルアラニン(F39)に相当する位置、135位アスパラギン(N135)に相当する位置および706位トレオニン(T706)に相当する位置)からなる群より選択される少なくとも1つの位置であり得る。α−グルカンホスホリラーゼにおけるこれらの特定の位置は、SPと同様にマルチプルアライメントを用いて決定され得る。なお、GPモチーフ配列の特定の位置に相当する位置は、GENETYX−WIN Ver.4.0(株式会社ゼネティックス)のマルチプルアライメントを前述の条件で実施してもよく、マキシマムマッチングを、Matches=−1;Mismatches=1;Gaps=0;*N+=2の条件で実施してもよい。
GPモチーフ配列1Lもしくは1H中の4位、またはF39に相当する位置におけるアミノ酸残基は、脂肪族アミノ酸または複素環式アミノ酸であることが好ましく、脂肪族アミノ酸であることがより好ましく、分枝アミノ酸(すなわち、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)であることが特に好ましく、イソロイシンまたはロイシンであることが殊に好ましく、ロイシンであることが最も好ましい。
GPモチーフ配列2中の4位またはN135に相当する位置におけるアミノ酸残基は、脂肪族アミノ酸または複素環式アミノ酸であることが好ましく、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、バリンまたはチロシンであることがより好ましく、システイン、グリシン、セリンまたはバリンであることが特に好ましい。
GPモチーフ配列3Lもしくは3H中の7位またはT706に相当する位置におけるアミノ酸残基は、脂肪族アミノ酸であることが好ましく、分枝アミノ酸(すなわち、バリン、ロイシンまたはイソロイシン)または含硫アミノ酸(すなわち、システイン、シスチン、メチオニン)であることがより好ましく、システイン、イソロイシン、ロイシン、バリンまたはトリプトファンであることが特に好ましく、システイン、イソロイシン、ロイシン、またはバリンであることが特に好ましく、イソロイシンであることが最も好ましい。
α−グルカンホスホリラーゼは、これらの3つ全ての位置において改変されていることが好ましい。
α−グルカンホスホリラーゼは、馬鈴薯、サツマイモ、ソラマメ、Arabidopsis thaliana、ホウレンソウ、トウモロコシ、イネ、小麦または柑橘類に由来することが好ましく、馬鈴薯、サツマイモ、ソラマメ、Arabidopsis thaliana、ホウレンソウ、トウモロコシまたはイネに由来することがより好ましく、馬鈴薯に由来することが最も好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、タイプLのα−グルカンホスホリラーゼに由来することが好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、馬鈴薯のタイプL、L2もしくはH、サツマイモのタイプLもしくはH、ソラマメのタイプLもしくはH、Arabidopsis thalianaのタイプLもしくはH、ホウレンソウのタイプL、トウモロコシのタイプL、イネのタイプLもしくはH、小麦のタイプHまたは柑橘類のタイプHのα−グルカンホスホリラーゼに由来することが好ましく、馬鈴薯のタイプLもしくはL2、サツマイモのタイプL、ソラマメのタイプL、Arabidopsis thalianaのタイプL、ホウレンソウのタイプL、トウモロコシのタイプLまたはイネのタイプLのα−グルカンホスホリラーゼに由来することがより好ましく、馬鈴薯のタイプL α−グルカンホスホリラーゼまたはArabidopsis thalianaのタイプH α−グルカンホスホリラーゼに由来することがより好ましく、馬鈴薯のタイプL α−グルカンホスホリラーゼに由来することが最も好ましい。α−グルカンホスホリラーゼは、耐熱化されていることが好ましい。
本発明の方法で用いられるα−グルカンホスホリラーゼは、例えば、以下のようにして調製され得る。まず、α−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)を培養する。この微生物は、α−グルカンホスホリラーゼを直接生産する微生物であってもよい。また、α−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子をクローン化し、得られた遺伝子でα−グルカンホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物からα−グルカンホスホリラーゼを得てもよい。あるいは、得られた遺伝子を、上記のような特定のアミノ酸位置での改変を含むように改変した後、α−グルカンホスホリラーゼ発現に有利な微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えして組換えされた微生物を得、得られた微生物から耐熱化α−グルカンホスホリラーゼを得てもよい。例えば、馬鈴薯由来のα−グルカンホスホリラーゼ遺伝子を用いて大腸菌を遺伝子組換えすることによって得られる組換え馬鈴薯α−グルカンホスホリラーゼの調製方法は、国際公開第02/097107号パンフレットに記載される。
α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子での遺伝子組換えに用いられる微生物は、α−グルカンホスホリラーゼの発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。α−グルカンホスホリラーゼは、夾雑物としてアミラーゼを含まないことが好ましいので、アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を遺伝子組換えに用いることが好ましい。α−グルカンホスホリラーゼの遺伝子組換えのためには、大腸菌または枯草菌のような中温菌を用いることが好ましい。アミラーゼを産生しないかまたは低レベルでしか発現しない微生物(例えば、細菌、真菌など)を用いて産生されるα−グルカンホスホリラーゼは、アミラーゼを実質的に含まないため、本発明の方法での使用に好ましい。
第一の(例えば、天然の)α−グルカンホスホリラーゼをコードする遺伝子は、耐熱性に寄与する特定の位置のアミノ酸残基を変更するために、当該分野で公知の方法によって改変され得る。このような改変方法の例としては、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことが挙げられる。
クローン化した遺伝子での微生物(例えば、細菌、真菌など)の遺伝子組換えは、当業者に周知の方法に従って行われ得る。クローン化した遺伝子を用いる場合、この遺伝子を、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターに作動可能に連結することが好ましい。「作動可能に連結する」とは、プロモーターと遺伝子とが、そのプロモーターによって遺伝子の発現が調節されるように連結されることをいう。誘導性プロモーターを用いる場合、培養を、誘導条件下で行うことが好ましい。種々の誘導性プロモーターは当業者に公知である。
クローン化した遺伝子について、生産されるα−グルカンホスホリラーゼが菌体外に分泌されるように、シグナルペプチドをコードする塩基配列をこの遺伝子に連結し得る。シグナルペプチドをコードする塩基配列は当業者に公知である。
当業者は、α−グルカンホスホリラーゼを生産するために、微生物(例えば、細菌、真菌など)の培養の条件を適切に設定し得る。微生物の培養に適切な培地、各誘導性プロモーターに適切な誘導条件などは当業者に公知である。
適切な時間の培養後、α−グルカンホスホリラーゼを培養物から回収する。生産されたα−グルカンホスホリラーゼが菌体外へ分泌される場合、遠心分離によって菌体を除去すれば、上清中にα−グルカンホスホリラーゼが得られる。菌体内で生産されたα−グルカンホスホリラーゼが菌体外へ分泌されない場合、超音波処理、機械的破砕、化学的破砕などの処理によって微生物を破砕し、菌体破砕液を得る。
本発明の方法では、菌体破砕液を精製せずに用いてもよい。次いで、菌体破砕液を遠心分離して菌体の破片を除去し、上清を入手し得る。得られたこれらの上清から、本発明の酵素を、硫酸アンモニウム沈澱またはエタノール沈澱、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含む周知の方法によって回収し得る。回収された生成物は、必要に応じて精製され得る。
好ましい実施態様では、α−グルカンホスホリラーゼは、精製段階の任意の段階で加熱され得る。この加熱工程における溶液の温度は、この溶液を30分間加熱した場合に、加熱前のこの溶液に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの活性の50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約70℃であり、より好ましくは約55℃〜約65℃である。例えば、耐熱化された馬鈴薯由来タイプL α−グルカンホスホリラーゼの場合、この温度は約50℃〜約60℃であることが好ましい。加熱が行われる場合、加熱時間は、反応温度を考慮して、α−グルカンホスホリラーゼの活性を大きく損なうことがない限り、任意の時間で設定され得る。加熱時間は、代表的には約10分間〜約90分間、より好ましくは約30分間〜約60分間である。
反応開始時の溶液中に含まれるα−グルカンホスホリラーゼの量は、反応開始時の溶液中のスクロースに対して、代表的には約0.05〜1,000U/gスクロース、好ましくは約0.1〜500U/gスクロース、より好ましくは約0.5〜100U/gスクロースである。α−グルカンホスホリラーゼの重量が多すぎると、反応中に変性した酵素が凝集しやすくなる場合がある。使用量が少なすぎると、α−グルカンの収率が低下する場合がある。
スクロースは、C12H22O11で示される、分子量約342の二糖である。スクロースは、光合成能を有するあらゆる植物中に存在する。スクロースは、植物から単離されてもよいし、化学的に合成されてもよい。コストの面からみて、スクロースを植物から単離することが好ましい。スクロースを多量に含む植物の例としては、サトウキビ、サトウダイコンなどが挙げられる。サトウキビは、汁液中に約20%のスクロースを含む。サトウダイコンは、汁液中に約10〜15%のスクロースを含む。スクロースは、スクロースを含む植物の汁液から精製糖に至るいずれの精製段階のものとして提供されてもよい。
本発明の製造方法に用いられる耐熱化スクロースホスホリラーゼおよびα−グルカンホスホリラーゼはそれぞれ、精製酵素または粗酵素を問わず、固定化されたものでも反応に使用し得、反応の形式は、バッチ式でも連続式でもよい。固定化の方法としては、担体結合法、(例えば、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプセル型)が使用され得る。
プライマーの例としては、マルトオリゴ糖、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン、デキストリン、プルラン、カップリングシュガー、澱粉およびこれらの誘導体が挙げられる。
本明細書中において、無機リン酸とは、SPの反応においてリン酸基質を供与し得る物質をいう。ここでリン酸基質とは、グルコース−1−リン酸のリン酸部分(moiety)の原料となる物質をいう。スクロースホスホリラーゼによって触媒されるスクロース加リン酸分解において、無機リン酸はリン酸イオンの形態で基質として作用していると考えられる。当該分野ではこの基質を慣習的に無機リン酸というので、本明細書中でも、この基質を無機リン酸という。無機リン酸には、リン酸およびリン酸の無機塩が含まれる。通常、無機リン酸は、アルカリ金属イオンなどの陽イオンを含む水中で使用される。この場合、リン酸とリン酸塩とリン酸イオンとは平衡状態になるので、リン酸とリン酸塩とは区別をしにくい。従って、便宜上、リン酸とリン酸塩とを合わせて無機リン酸という。本発明において、無機リン酸は好ましくは、リン酸の任意の金属塩であり、より好ましくはリン酸のアルカリ金属塩である。無機リン酸の好ましい具体例としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸(H3PO4)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウムなどが挙げられる。
無機リン酸は、反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されてもよい。
無機リン酸は、例えば、ポリリン酸(例えば、ピロリン酸、三リン酸および四リン酸)のようなリン酸縮合体またはその塩を、物理的、化学的または酵素反応などによって分解したものを反応溶液に添加することによって提供され得る。
本明細書において、グルコース−1−リン酸とは、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩をいう。グルコース−1−リン酸は好ましくは、狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意の金属塩であり、より好ましくはグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)の任意のアルカリ金属塩である。グルコース−1−リン酸の好ましい具体例としては、グルコース−1−リン酸二ナトリウム、グルコース−1−リン酸二カリウム、グルコース−1−リン酸(C6H13O9P)、などが挙げられる。本明細書において、括弧書きで化学式を書いていないグルコース−1−リン酸は、広義のグルコース−1−リン酸、すなわち狭義のグルコース−1−リン酸(C6H13O9P)およびその塩を示す。
グルコース−1−リン酸は反応開始時のSP−GP反応系において、1種類のみ含有されてもよく、複数種類含有されていてもよい。
本発明のα−グルカン製造方法において、α−1,6−グルコシド結合を含有する出発材料を用いる場合などの、生成物に分岐が生じる場合には、必要に応じて、枝切り酵素を用いることができる。
本発明で用いられ得る枝切り酵素は、α−1,6−グルコシド結合を切断し得る酵素である。枝切り酵素は、アミロペクチンおよびグリコーゲンにともによく作用するイソアミラーゼ(EC 3.2.1.68)と、アミロペクチン、グリコーゲンおよびプルランに作用するα−デキストリンエンド−1,6−α−グルコシダーゼ(プルラナーゼともいう)(EC 3.2.1.41)との2つに分類される。
枝切り酵素は、微生物、細菌、および植物に存在する。枝切り酵素を産生する微生物の例としては、Saccharomyces cerevisiae、Chlamydomonas sp.が挙げられる。枝切り酵素を産生する細菌の例としては、Bacillus brevis、Bacillus acido pullulyticus、Bacillus macerans、Bacillus stearothermophilus、Bacillus circulans、Thermus aquaticus、Klebsiella pneumoniae、Thermoactinomyces thalpophilus、Thermoanaerobacter ethanolicus、Pseudomonas amyloderamosaなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、オートムギ、サトウダイコンなどが挙げられる。枝切り酵素を産生する生物はこれらに限定されない。
本発明の方法において、生成物に分岐を生じさせることが所望される場合には、必要に応じて、ブランチングエンザイムを用いることができる。
本発明で用いられ得るブランチングエンザイムは、α−1,4−グルカン鎖の一部をこのα−1,4−グルカン鎖のうちのあるグルコース残基の6位に転移して分枝を作り得る酵素である。ブランチングエンザイムは、1,4−α−グルカン分枝酵素、枝つくり酵素またはQ酵素とも呼ばれる。
ブランチングエンザイムは、微生物、動物、および植物に存在する。ブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus caldolyticus、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus coagulans、Bacillus caldovelox、Bacillus thermocatenulatus、Bacillus smithii、Bacillus megaterium、Bacillus brevis、Alkal ophillic Bacillus sp.、Streptomyces coelicolor、Aquifex aeolicus、Synechosystis sp.、E.coli、Agrobacteirum tumefaciens、Thermus aquaticus、Rhodothermus obamensis、Neurospora crassa、酵母などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する動物の例としてはヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する植物の例としては、藻類、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、ホウレンソウなどの野菜類、トウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アワなどの穀類、えんどう豆、大豆、小豆、うずら豆などの豆類などが挙げられる。ブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、4−α−グルカノトランスフェラーゼを用いることができる。
本発明で用いられ得る4−α−グルカノトランスフェラーゼは、ディスプロポーショネーティングエンザイム、D−酵素、アミロマルターゼ、不均化酵素などとも呼ばれ、マルトオリゴ糖の糖転移反応(不均一化反応)を触媒し得る酵素である。4−α−グルカノトランスフェラーゼは、供与体分子の非還元末端からグルコシル基あるいは、マルトシルもしくはマルトオリゴシルユニットを受容体分子の非還元末端に転移する酵素である。従って、酵素反応は、最初に与えられたマルトオリゴ糖の重合度の不均一化をもたらす。供与体分子と受容体分子とが同一の場合は、分子内転移が生じ、その結果、環状構造をもつ生成物が得られる。
4−α−グルカノトランスフェラーゼは、微生物および植物に存在する。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する微生物の例としては、Aquifex aeolicus、Streptococcus pneumoniae、Clostridium butylicum、Deinococcus radiodurans、Haemophilus influenzae、Mycobacterium tuberculosis、Thermococcus litralis、Thermotoga maritima、Thermotoga neapolitana、Chlamydia psittaci、Pyrococcus sp.、Dictyoglomus thermophilum、Borrelia burgdorferi、Synechosystis sp.、E.coli、Thermus aquaticusなどが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する植物の例としては、ジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモ、キャッサバなどの芋類、トウモロコシ、イネ、コムギなどの穀類、えんどう豆、大豆などの豆類などが挙げられる。4−α−グルカノトランスフェラーゼを産生する生物はこれらに限定されない。
本発明の方法において、生成物に環状構造を生じさせる場合には、必要に応じて、グリコーゲンデブランチングエンザイムを用いることができる。
本発明で用いられ得るグリコーゲンデブランチングエンザイムは、α−1,6−グルコシダーゼ活性と、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性との2種類の活性をもつ酵素である。グリコーゲンデブランチングエンザイムが持つ、4−α−グルカノトランスフェラーゼ活性により、環状構造を持つ生成物が得られる。
グリコーゲンデブランチングエンザイムは、微生物および動物に存在する。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する微生物の例としては、酵母などが挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する動物の例としては、ヒト、ウサギ、ラット、ブタなどの哺乳類が挙げられる。グリコーゲンデブランチングエンザイムを産生する生物はこれらに限定されない。
本発明の製造方法に用いる溶媒は、スクロースホスホリラーゼおよびα−グルカンホスホリラーゼの酵素活性を損なわない溶媒であれば任意の溶媒であり得る。
なお、α−グルカンを生成する反応が進行し得る限り、溶媒が本発明の製造方法に用いる材料を完全に溶解する必要はない。例えば、酵素が固体の担体上に担持されている場合には、酵素が溶媒中に溶解する必要はない。さらに、スクロースなどの反応材料も全てが溶解している必要はなく、反応が進行し得る程度の材料の一部が溶解していればよい。
代表的な溶媒は、水である。溶媒は、上記スクロースホスホリラーゼまたはα−グルカンホスホリラーゼを調製する際にスクロースホスホリラーゼまたはα−グルカンホスホリラーゼに付随して得られる細胞破砕液のうちの水分であってもよい。
スクロースホスホリラーゼと、α−グルカンホスホリラーゼと、スクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸とを含む溶液中には、スクロースホスホリラーゼとスクロースとの間の相互作用およびα−グルカンホスホリラーゼとプライマーとの間の相互作用を妨害しない限り、任意の他の物質を含み得る。このような物質の例としては、緩衝剤、スクロースホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、α−グルカンホスホリラーゼを産生する微生物(例えば、細菌、真菌など)の成分、塩類、培地成分などが挙げられる。
これらの材料の使用量は、公知であり、当業者によって適切に設定され得る。
本発明の製造方法においては、まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、スクロースホスホリラーゼと、α−グルカンホスホリラーゼと、固体状のスクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸とを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、スクロースホスホリラーゼ、α−グルカンホスホリラーゼ、スクロース、プライマー、または無機リン酸もしくはグルコース−1−リン酸をそれぞれ含む溶液を混合することによって調製してもよい。あるいは、反応溶液は、スクロースホスホリラーゼと、α−グルカンホスホリラーゼと、スクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸とのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。この反応溶液には、必要に応じて枝切り酵素、ブランチングエンザイム、4−α−グルカノトランスフェラーゼおよびグリコーゲンデブランチングエンザイムからなる群より選択される酵素を添加してもよい。
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。反応開始時の反応溶液中のスクロース濃度が約5〜約100%である場合には、反応温度は代表的には、約40℃〜約70℃の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼおよびα−グルカンホスホリラーゼの少なくとも一方、好ましくは両方の活性の約50%以上、より好ましくは約80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜約70℃であり、より好ましくは約55℃〜約70℃、さらにより好ましくは約55℃〜約65℃である。
反応時間は、反応温度、反応により生産されるα−グルカンの分子量および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。
このようにして、α−グルカンを含有する溶液が生産される。
本発明の耐熱化SPとしては、実施例4と同じ条件下で用いて55℃で反応を行った場合、天然のSPよりもアミロースの収率が高いものが好ましい。この場合のアミロースの収率は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることが最も好ましい。このような条件を満たす耐熱化SPは、実施例4と同じ条件下で反応を行い、アミロースの収率を決定することによって選択され得る。
(5.本発明の酵素を用いたグルコース−1−リン酸の合成方法)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、グルコース−1−リン酸の合成方法においても有利に用いられ得る。本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いるグルコース−1−リン酸の合成方法は、当該分野で公知の任意のグルコース−1−リン酸の合成方法であり得る。
本発明のグルコース−1−リン酸の合成方法は、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼ、スクロースおよび無機リン酸を含む反応溶液を反応させて、グルコース−1−リン酸を生産する工程を包含する。
本発明のグルコース−1−リン酸の合成方法において用いられるスクロースおよび無機リン酸の定義は、上記4と同様である。
グルコース−1−リン酸の合成方法に用いられる材料の使用量は、公知であり、当業者によって適切に設定され得る。
本発明のグルコース−1−リン酸の合成方法においては、まず、反応溶液を調製する。反応溶液は、例えば、適切な溶媒に、スクロースホスホリラーゼと、スクロースと、無機リン酸とを添加することにより調製され得る。あるいは、反応溶液は、スクロースホスホリラーゼ、スクロース、または無機リン酸をそれぞれ含む溶液を混合することによって調製してもよい。あるいは、反応溶液は、スクロースホスホリラーゼと、スクロースと、無機リン酸とのうちのいくつかの成分を含む溶液に固体状の他の成分を混合することによって調製してもよい。この反応溶液には、酵素反応を阻害しない限り、必要に応じて、pHを調整する目的で任意の緩衝剤を加えてもよい。
次いで、反応溶液を、当該分野で公知の方法によって必要に応じて加熱することにより、反応させる。反応温度は、本発明の効果が得られる限り、任意の温度であり得る。この反応工程における溶液の温度は、所定の反応時間後に反応前のこの溶液に含まれるスクロースホスホリラーゼ活性の約50%以上、より好ましくは80%以上の活性が残る温度であることが好ましい。この温度は好ましくは約50℃〜70℃であり、より好ましくは約55℃〜70℃であり、さらにより好ましくは約55℃〜65℃である。
反応時間は、反応温度および酵素の残存活性を考慮して、任意の時間で設定され得る。反応時間は、代表的には約1時間〜約100時間、より好ましくは約1時間〜約72時間、さらにより好ましくは約2時間〜約36時間、最も好ましくは約2時間〜約24時間である。
このようにして、グルコース−1−リン酸を含有する溶液が生産される。
本発明の耐熱化SPとしては、実施例5と同じ条件下で用いて55℃で反応を行った場合、天然のSPよりもグルコース−1−リン酸の収率が高いものが好ましい。この場合のグルコース−1−リン酸の収率は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましく、80%以上であることが最も好ましい。このような条件を満たす耐熱化SPは、実施例5と同じ条件下で反応を行い、グルコース−1−リン酸の収率を決定することによって選択され得る。
(6.本発明の酵素を用いたその他の製造方法)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼは、上記の製造方法以外にも、スクロースホスホリラーゼを使用する、当該分野で公知の任意の製造方法において使用され得る。このような方法は、例えば、グルコース重合体の合成方法である。この方法は、本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼと、α−グルコース−1−リン酸を基質とする第二のホスホリラーゼと、スクロースと、プライマーと、無機リン酸またはグルコース−1−リン酸とを含む反応液を反応させて、グルコース重合体を生産する工程を包含する。本明細書中では、「グルコース重合体」とは、重合体の一部にグルコース残基を含むものをいう。グルコース重合体の例としては、グルカン(例えば、α−グルカンおよびβ−1,3−グルカン)、セロビオース、セロオリゴ糖、ラミナリビオース、ラミナリオリゴ糖およびトレハロースが挙げられる。グルコース重合体がα−グルカンの場合は、上記「4.本発明の酵素を用いたα−グルカンの製造方法」に記載の通りである。
α−グルカン以外のグルコース重合体の製造方法の例としては、以下が挙げられる:例えば、セロビオースホスホリラーゼおよびセロデキストリンホスホリラーゼと組み合わせた、セロビオースおよびセロオリゴ糖の製造(特許第2815023号公報「セロビオースの製造方法」を参照のこと);ラミナリビオースホスホリラーゼおよびラミナリデキストリンホスホリラーゼと組み合わせた、ラミナリビオースおよびラミナリオリゴ糖の製造(特開平第6−343484号公報「ラミナリオリゴ糖の製造方法」を参照のこと);β−1,3−グルカンホスホリラーゼと組み合わせた、β−1,3−グルカンの製造(特開平第6−343484号公報「ラミナリオリゴ糖の製造方法」を参照のこと);トレハロースホスホリラーゼと組み合わせたトレハロースの製造(特開平7−327691「トレハロースの製造方法」を参照のこと)などに使用され得る。これらの製造方法に本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを利用することは当業者に容易に行われ得る。このような方法に本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いると、従来より高温で反応を行うことができ、生成物の収率が向上する。
(7.本発明の製造方法によって得られたα−グルカンの用途)
本発明の製造方法によって得られたα−グルカンは、グルカンについて当該分野で公知の用途に使用され得る。α−グルカンのなかでも特に、不溶性のアミロースには、食物繊維と同様の働きが予想され、健康食品への利用も期待できる。さらに、アミロースは、例えばヨウ素、脂肪酸などを分子内に包接し得る特徴を持つことから、医薬品、化粧品、サニタリー製品分野での用途が期待される。アミロースはまた、アミロースと同様の包接能力を持つシクロデキストリンおよびシクロアミロースの製造用原料に利用できる。さらに、アミロースを含有したフィルムは、汎用プラスチックに劣らない引張強度を持ち、生分解性プラスチックの素材として非常に有望である。高分子量のアミロースはまた、キラル分画に適している。このようにアミロースには、多くの用途が期待されている。
(8.本発明の合成方法によって得られたグルコース−1−リン酸の用途)
本発明の合成方法によって得られたグルコース−1−リン酸は、グルコース−1−リン酸について当該分野で公知の用途に使用され得る。グルコース−1−リン酸は、例えば、医療用抗菌剤、抗腫瘍剤(白金錯体)、心臓病の治療薬(アミン塩)、グルカン(例えば、α−1,4−グルカンまたはβ−1,3−グルカン)合成の基質、セロビオース合成の基質、セロオリゴ糖合成の基質、ラミナリビオース合成の基質、ラミナリオリゴ糖合成の基質、トレハロース合成の基質として利用されている。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
(1.測定方法および計算方法)
本発明における各種物質を、以下の測定方法によって測定した。
(1.1 グルコースの定量)
グルコースを、市販されている測定キットを用いて定量した。グルコースAR−II発色試薬(和光純薬社製)を用いて測定する。
(1.2 フルクトースの定量)
フルクトースを、市販されている測定キットを用いて定量した。F−キットD−グルコース/D−フルクトース(ロシュ社製)を用いて測定する。
(1.3 グルコース−1−リン酸の定量)
グルコース−1−リン酸を、以下の方法により定量した。300μlの測定試薬(200mM Tris−HCl(pH7.0)、3mM NADP、15mM 塩化マグネシウム、3mM EDTA、15μMグルコース−1,6−二リン酸、6μg/mlホスホグルコムターゼ、6μg/mlグルコース−6−リン酸脱水素酵素)に、適切に希釈したグルコース−1−リン酸を含む溶液600μlを加えて攪拌し、得られた反応混合物を30℃で30分間反応させる。その後、分光光度計を用いて340nmでの吸光度を測定する。濃度既知のグルコース−1−リン酸ナトリウムを用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中のグルコース−1−リン酸濃度を求める。この定量法では、グルコース−1−リン酸のみが定量され、無機リン酸の量は定量されない。
(1.4無機リン酸の定量)
無機リン酸を、リン酸イオンとして以下の方法により求めた。無機リン酸を含む溶液(200μl)に対し、800μlのモリブデン試薬(15mM モリブデン酸アンモニウム、100mM 酢酸亜鉛)を混合し、続いて200μlの568mMアスコルビン酸(pH5.0)を加えて攪拌し、得られた反応混合物を30℃で30分間反応させる。その後、分光光度計を用いて850nmでの吸光度を測定する。濃度既知の無機リン酸を用いて同様に吸光度を測定し、標準曲線を作成する。この標準曲線に試料で得られた吸光度を当てはめ、試料中の無機リン酸を求める。この定量法では、無機リン酸の量が定量され、グルコース−1−リン酸の量は定量されない。
(1.5 グルカンの収量の計算方法)
SP−GP法によりグルカンを合成した場合、出発物質として無機リン酸を用いて製造したグルカン(例えば、アミロース)の収量は、反応終了後の溶液中の、グルコース、フルクトース、およびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
この式は、以下の原理に基づく。
本発明の方法では、まず、以下の式の反応(A)が起き得る。
この反応は、スクロースホスホリラーゼにより触媒される。この反応では、スクロースと無機リン酸とが反応して、同じモル量のグルコース−1−リン酸とフルクトースとが生じる。生じたフルクトースはそれ以上他の物質と反応しないので、フルクトースのモル量を測定することによって生じたグルコース−1−リン酸のモル量がわかる。
スクロースホスホリラーゼは、上記の反応(A)の他に、以下の反応(B)のスクロースの加水分解も副反応として触媒し得る。
グルカンに取り込まれたグルコース量は以下によって計算される。
反応(B)で生成するフルクトースを考慮すると、反応Aにより生成されたフルクトースの量は、以下によって算出される:
したがって、グルカンの収量は、以下の式により求められる。
出発物質として、グルコース−1−リン酸を用いて製造したグルカンの収量は、初発のグルコース−1−リン酸の量、ならびに反応終了後の溶液中のグルコース、フルクトースおよびグルコース−1−リン酸の量から、以下の式により求められる。
この式は以下の原理に基づく。
反応溶液中では、初発のグルコース−1−リン酸に加えて、反応Aによって、グルコース−1−リン酸が生成される。つまり、初発のグルコース−1−リン酸と生成されたグルコース−1−リン酸とが、グルカンの合成に使われ得る。グルカンの合成に使われ得るグルコース−1−リン酸の量から、反応終了後に反応溶液に残存するグルコース−1−リン酸の量を差し引くことによって、反応に使用されたグルコース−1−リン酸の量、すなわち、グルカンに取り込まれたグルコースの量を算出できる。したがって、グルカンに取り込まれたグルコースの量は上記に示す式により求められる。なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
(1.6 グルカンの収率)
出発物質として無機リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
出発物質としてグルコース−1−リン酸を用いて製造した場合のグルカンの収率は、以下の式によって求められる。
なお、この式は、SP−GP反応系において出発材料として無機リン酸とグルコース−1−リン酸とを併用した場合にも適用できる。
(1.7 スクロースホスホリラーゼ活性の測定方法)
スクロースホスホリラーゼの活性単位は、例えば以下の方法によって求められる。
25μlの10%スクロースと20μlの500mM リン酸緩衝液(pH7.0)とを混合する。この混合液に、不溶性タンパク質を除去し適切に希釈した酵素液を5μl加えて攪拌し、反応系を得る。この反応系を37℃で20分間反応させた後、100℃で5分間加熱し反応を停止させる。その後、反応後の溶液中のグルコース−1−リン酸を定量する。通常は、1分間に1μmolのグルコース−1−リン酸を生成する酵素量を1単位とする。
(1.8 ホスファターゼ活性の測定方法)
ホスファターゼの活性単位は、例えば以下の方法によって求められる。20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)で適切に希釈した酵素液100μlおよび50mMグルコース−1−リン酸水溶液100μlを含む反応液を37℃で60分間保持した後、反応液中のグルコース−1−リン酸から生じた遊離の無機リン酸を定量することにより測定する。1分間に1μmolの無機リン酸を生成する酵素量を1単位とした。
(1.9 アミラーゼ活性の測定方法)
アミラーゼの活性単位は、例えば以下の方法によって求められる。20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)で適切に希釈した酵素液25μlおよび0.5%アミロース(重量平均分子量約70,000:アジノキ社製)水溶液25μlを含む反応液を37℃で60分間保持した後、1mlのヨウ素水溶液(0.1%ヨウ化カリウム、0.01%ヨウ素)を加え、660nmの吸光度を測定する。1分間に660nmの吸光度を10%低下させる酵素量を1単位とした。
(2.酵素の調製方法)
本発明の実施例で用いた各種酵素を、以下の方法によって調製した。
(2.1 スクロースホスホリラーゼの調製)
目的のスクロースホスホリラーゼ遺伝子を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1に組み込み、プラスミドpKK388−SMSPを得た。このプラスミドでは、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌TG−1(STRATAGENE社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン、1.5%寒天)プレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
得られた大腸菌を、LB液体培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン)5mlで18時間培養し、全量を別のLB液体培地1Lに植菌し、120rpmで振盪させながら37℃で6〜7時間振盪培養した。その後、IPTGを0.04mMになるようにこの培地に添加し、30℃でさらに18時間振盪培養することによってスクロースホスホリラーゼを発現させた後、培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの20mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。次いで、菌体破砕液にスクロースを加えて、20%スクロースを含む菌体破砕液を得た。この菌体破砕液を、55℃の水浴中で20分間加熱した。加熱後、遠心機(ベックマン社製、AVANTI J−251)を用いて8,500rpmにて20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。
得られた上清を、あらかじめ平衡化しておいた陰イオン交換樹脂Q−Sepharose(アマシャムファルマシア社製)に流してスクロースホスホリラーゼを樹脂に吸着させた。樹脂を、100mM塩化ナトリウムを含む緩衝液で洗浄して不純物を除去した。続いて、300mM塩化ナトリウムを含む緩衝液でスクロースホスホリラーゼを溶出させ、耐熱化スクロースホスホリラーゼ酵素液とした。次いで、あらかじめ平衡化したPhenyl−TOYOPEARL樹脂(東ソー社製)に、1.5M硫酸アンモニウムを含む上記の耐熱化スクロースホスホリラーゼ酵素液を流して吸着させた。樹脂を、1.05M硫酸アンモニウムを含む緩衝液で洗浄し不純物を除去した。続いて、0.75M硫酸アンモニウムを含む緩衝液でスクロースホスホリラーゼを溶出し、精製スクロースホスホリラーゼを得た。この段階で本発明に使用し得るグルカンホスホリラーゼ含有溶液になるが、さらなる精製を必要とする場合は、Sephacryl S−200HR(アマシャムファルマシア社製)などを用いたゲルフィルトレーションクロマトグラフィーによる分画を行なうことで精製酵素液が得られる。
得られた精製スクロースホスホリラーゼ酵素液約1μgを用いてSDS−PAGE(SDS−ポリアクリルアミド電気泳動)を行った。その結果、どの精製スクロースホスホリラーゼ酵素液についても、分子量約55,000のところに単一のバンドが認められ、他の場所にはバンドが見られなかった。このようにして、スクロースホスホリラーゼが均質に精製されたことが示された。
(2.2 組換えThermus aquaticus α−グルカンホスホリラーゼの調製方法)
Thermus aquaticus α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子(J.Appl.Glycosci.,48(1)(2001)71)を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1(CLONTECH社製)に組み込み、プラスミドpKK388−GPを得た。このプラスミドでは、α−グルカンスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。このプラスミドを、大腸菌MC1061(ファルマシア社製)に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン、1.5%寒天)プレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、α−グルカンホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がα−グルカンホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。また、得られた大腸菌がα−グルカンホスホリラーゼを発現していることを、活性測定によって確認した。
得られた大腸菌を、LB液体培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン)5mlで18時間培養し、全量を別のLB液体培地1Lに植菌し、120rpmで振盪させながら37℃で4〜5時間振盪培養した。その後、IPTGを0.01mMになるようにこの培地に添加し、37℃でさらに20時間振盪培養した。次いで、この培養液を5,000rpmにて5分間遠心分離して、大腸菌の菌体を収集した。得られた菌体を、50mlの20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)中に懸濁し、次いで超音波処理により破砕し、菌体破砕液50mlを得た。
次いで、菌体破砕液を70℃で30分間加熱した。加熱後、この菌体破砕液を8,500rpmで20分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。得られた上清を、組換えThermus aquaticus α−グルカンホスホリラーゼ溶液とした。
(実施例1:耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子の作製、スクリーニングおよび配列決定)
概略を述べると、Streptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼ遺伝子にランダム変異を導入し、ランダム変異の導入された遺伝子を大腸菌に導入して、ランダム変異の導入されたスクロースホスホリラーゼを発現させ、発現されたスクロースホスホリラーゼのうち、52.5℃で15分間加熱した後、グルカンを合成する能力を有する耐熱化スクロースホスホリラーゼを発現する大腸菌を選択し、この大腸菌から耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子を単離してその配列を決定した。
詳細には、以下の通りである。
まず、配列番号1に示す天然のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ遺伝子に対して、当業者に公知のエラープローンPCR法によりランダム変異を導入して、ランダム変異の導入されたSP遺伝子を得た。この条件では一般に、スクロースホスホリラーゼ遺伝子1つにつき、1〜2箇所のランダム変異が入る。ランダム変異の導入されたSP遺伝子を、選択マーカー遺伝子AmprおよびTetrとともにpKK388−1に組み込み、プラスミドライブラリーpKK388−SMSPを得た。このプラスミドライブラリーでは、スクロースホスホリラーゼ遺伝子を、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導性プロモーターの制御下に作動可能に連結した。
このプラスミドライブラリーを、大腸菌TG−1に、コンピテントセル法により導入した。この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン、1.5%寒天)プレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された複数(約10万個)の大腸菌を得た。
この大腸菌の各々を別々の50μg/mlアンピシリンを含むTERRIFICBROTH液体培地(GIBCO BRL社製)150μlに接種し、37℃で18時間静置養した。その後、この培養液に溶菌液(10mg/ml卵白リゾチーム、1U/mlデオキシリボヌクレアーゼ、200mM塩化マグネシウム、0.5%トライトンX−100)150μlを加えた後、−80℃で1時間凍結し、37℃で1時間溶解させ、菌体抽出液を得た。得られた菌体抽出液を、遠心機(日立社製、CT−13R)を用いて13,000rpmにて10分間遠心分離し、不溶性のタンパク質などを除去し、上清を得た。
得られた上清50μlを1.5mlのマイクロチューブに入れ、52.5℃で15分間加熱した後、速やかに氷上に移し加熱を停止した。次いで、50μlのアッセイ溶液(4%スクロース、100mMリン酸バッファー(pH7.0)、0.5mMマルトテトラオース、2U/ml馬鈴薯由来α−グルカンホスホリラーゼ)を加え混合した後、45℃で2時間インキュベートした。その後、100μlのヨウ素液(1.3%ヨウ化カリウム、0.13%ヨウ素)を加え発色させた。上清中にスクロースホスホリラーゼが存在すると、インキュベートの際にスクロースからアミロースが合成され、アミロースはヨウ素によって青色に発色するがスクロースは発色しないので、ヨウ素液で青色に呈色したものは、耐熱化スクロースホスホリラーゼを含むものである。上記の方法によりスクリーニングして、ランダム変異を有するスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含む形質転換大腸菌(約8万個)から、耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子を含む大腸菌(約100個)を得た。
上記スクリーニングにより得られた、耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子を含む大腸菌から当該分野で公知の方法に従ってプラスミドを回収し、DNAシークエンサー(ABI社製)を用いてこのプラスミド中の耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子の配列を決定した。
この耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を、天然のスクロースホスホリラーゼのアミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸配列)と比較したところ、天然のスクロースホスホリラーゼの47、62、77、128、140、144、155、および249番目にあたるアミノ酸の位置に変異が導入されており、それぞれT47→S、S62→P、Y77→H、V128→L、K140→M、Q144→R、N155→S、およびD249→Gにアミノ酸置換されていた。このように、スクロースホスホリラーゼの耐熱性向上に効果のあると思われるアミノ酸位置が8種類確認された。この中でも特に、T47→SおよびV128→Lの変異は、いわゆる保存的置換である。保存的置換と言われるような類似のアミノ酸に置換した場合でさえも耐熱化が見られることから、この位置が耐熱性に特に関係のある位置であることが推測され、そしてさらに、類似していない他のアミノ酸に置換した場合にさらなる耐熱化が見られるのではないかと期待される。また、これらの8箇所以外には耐熱性に影響のある変異が見られなかったので、他の位置の変異は、耐熱性に効果がないと考えられる。
また、T47においてS以外のアミノ酸、S62においてP以外のアミノ酸、Y77においてH以外のアミノ酸、V128においてL以外のアミノ酸、K140においてM以外のアミノ酸、Q144においてR以外のアミノ酸、N155においてS以外のアミノ酸、またはD249においてG以外のアミノ酸についても耐熱化が見られる。
(実施例2A:部位特異的変異誘発による耐熱化スクロースホスホリラーゼの作製、および耐熱性の測定)
(1)部位特異的変異誘発による耐熱化スクロースホスホリラーゼの作製
概略を述べると、上記の8種類の変異を組み合わせたライブラリーを作製した。そのライブラリーをスクリーニングし、耐熱性がさらに向上したスクロースホスホリラーゼを得た。
詳細には、実施例1と同様にして耐熱化スクロースホスホリラーゼの発現ベクターを作製した。本実施例では、実施例1で耐熱化に寄与することが判明した位置の置換を1つのみ有する耐熱化SPをコードする遺伝子と、いずれか2つ〜7つの組み合わせで有する耐熱化SPをコードする遺伝子と、8つ全てを有する耐熱化SPをコードする遺伝子とを作製した。例として、8つすべての変異(T47S、S62P、Y77H、V128L、K140K、Q144R、N155S、およびD249G)を有する耐熱化SPをコードする塩基配列を配列番号21に、そしてこの耐熱化SPのアミノ酸配列を配列番号22に示す。これらのアミノ酸置換は、当該分野で公知の部位特異的変異誘発法を使用して行われた。
このようにして得られた耐熱化SPをコードする遺伝子をそれぞれ用いて、上記実施例1と同様にpKK388−1に組み込み、プラスミドpKK388−SPMSを作製した。このプラスミドを、大腸菌TG−1に、コンピテントセル法により導入し、この大腸菌を、抗生物質アンピシリンを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%NaCl、50μg/mlアンピシリン、1.5%寒天)プレートにプレーティングして、37℃で一晩培養した。このプレート上で増殖した大腸菌を選択することにより、耐熱化スクロースホスホリラーゼ遺伝子が導入された大腸菌を得た。得られた大腸菌がスクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むことを、導入された遺伝子の配列を解析することによって確認した。このようにして、耐熱化SPを発現する大腸菌が作製できた。
得られた耐熱化スクロースホスホリラーゼを発現する大腸菌から、2.1に記載の方法により耐熱化スクロースホスホリラーゼ酵素液を調製した。
(1−2)天然のスクロースホスホリラーゼの調製
配列番号1の遺伝子を用いて、2.1に記載の方法に従って、天然のスクロースホスホリラーゼ酵素液を調製した。
(1−3)天然のスクロースホスホリラーゼのC末端に置換および付加を有するスクロースホスホリラーゼ(No.33)の調製
配列番号2のスクロースホスホリラーゼと比較して、C末端の2アミノ酸FEをSLに置換し、さらにメチオニン、イソロイシン、セリン、システイン、グルタミンおよびトレオニンをこの順序で付加したスクロースホスホリラーゼ(便宜的にNo.33と示す)酵素液を、配列番号23の遺伝子を用いて、2.1に記載の方法に従って調製した。
(1−4)変異型SPのC末端に置換および付加を有するスクロースホスホリラーゼ(No.1a、2a、3a、4a、5aおよび6a)の調製
目的の変異を有する耐熱化SP酵素のC末端にアミノ酸の置換および付加を行ない、これらの置換および付加は耐熱性への影響がないことを確認した。
詳しくは、2.1に示した方法と同様にして、表4AのNo.1、2、3、4、5または6の各々の耐熱化SP酵素のC末端の2アミノ酸(フェニルアラニン、グルタミン酸)を、それぞれロイシン、セリンに置換し、さらに6アミノ酸を、メチオニン、イソロイシン、セリン、システイン、グルタミン、トレオニンの順に付加したC末改変SP酵素液を調製し、耐熱性を測定した。
(2)種々のスクロースホスホリラーゼの耐熱性の測定
上記(1)〜(1−4)で調製された耐熱化SP酵素液または他のSP酵素液の耐熱性を測定した。測定を、以下の通りに行った。
(i)スクロースの非存在下でのSPの耐熱性
まず、各SP酵素液を37℃で2.5〜3.5U/mlになるように20mM Tris緩衝液(pH7.0)によって適切に希釈した。希釈した酵素液50μlを55℃で20分間、または、57℃で20分間、または60℃で20分間加熱した。加熱終了後直ちに氷上で10分間保持して冷却した。冷却後の酵素液の活性および加熱前の酵素液の活性を、1.7に記載のSP活性測定法に従って37℃で測定した。各酵素の耐熱性を、加熱前のスクロースホスホリラーゼの酵素活性に対する、加熱後のスクロースホスホリラーゼの酵素活性の割合(残存活性)を求めることにより測定した。
(ii)スクロースの存在下でのSPの耐熱性
まず、各SP酵素液を5.0〜7.0U/mlになるように20mM Tris緩衝液(pH7.0)によって適切に希釈した。希釈した酵素液25μlと、40%スクロース含有20mM Tris緩衝液(pH7.0)25μlとを混合した。この混合溶液50μlを65℃で20分間加熱した。加熱終了後直ちに氷上で10分間保持して冷却した。冷却後の酵素液の活性および加熱前の酵素液の活性を、1.7に記載のSP活性測定法に従って37℃で測定した。各酵素の耐熱性を、加熱前のスクロースホスホリラーゼの酵素活性に対する、加熱後のスクロースホスホリラーゼの酵素活性の割合(残存活性)を求めることにより測定した。スクロースの非存在下で55℃、57℃または60℃で加熱した場合、ならびにスクロースの存在下で65℃で加熱した場合の結果を以下の表4Aに示す。表4Aには、それぞれの変異体がどの変異を有するかについても示す。
上記の表4Aにおいて、WTとは、変異していない天然のStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼを示す。No.33の変異体は、天然のStreptococcus mutans由来のスクロースホスホリラーゼのC末端の2アミノ酸FEをSLに置換し、さらにメチオニン、イソロイシン、セリン、システイン、グルタミンおよびトレオニンをこの順序で付加したスクロースホスホリラーゼを示す。○は、その位置の変異を有することを示す。例えば、No.3の変異体は、T47S、V128L、Q144R、およびD249Gの変異を有する。なお、この表において、5%未満の活性値は、活性測定で定量されるグルコース−1−リン酸の検出限界に極めて近いため、信頼性が極めて低く、ほぼ0であるとみなせる。
なお、C末端の改変についての「○」は、480位のフェニルアラニンがロイシンに置換され、481位のグルタミン酸がセリンに置換され、メチオニン、イソロイシン、セリン、システイン、グルタミン、トレオニンがその先(482〜487位)に付加されている。
この結果、耐熱性に寄与する8箇所のアミノ酸残基は、1箇所置換されるだけでも、天然のSPと比較して耐熱性を向上させることがわかった。さらに、これら8箇所のアミノ酸残基のうちのいくつかまたはすべてが多重置換されることによって、スクロースホスホリラーゼの耐熱性がさらに向上することがわかった。
一方、C末端でのアミノ酸の置換および付加は、耐熱性にほとんど影響を与えなかった。このように、本発明の効果を阻害しない程度のアミノ酸の置換もしくは付加を行ない得ること、および本発明者らが見出した位置での置換が耐熱性に関して重要であって他の位置での置換は意味がないことがわかった。
スクロース存在下での耐熱性を測定したいずれの変異スクロースホスホリラーゼについても、スクロースが存在することによって、スクロースの非存在下と比較して耐熱性が向上した。
(実施例2B:種々のアミノ酸残基で置換された耐熱化スクロースホスホリラーゼの作製、および耐熱性の測定)
T47、S62、Y77、V128、K140、Q144、N155およびD249をそれぞれ1箇所ずつ、別のアミノ酸残基に置換するように設計したプライマーを用いたこと以外は実施例2Aと同様にして、改変体スクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むプラスミドを作製し、そして種々の改変体SP酵素液を得た。
これらの改変体GP酵素液の耐熱性について、加熱条件が、55℃で20分間であること以外は、上記実施例2A(2)(i)と同様に加熱した後、残存活性を測定した。結果を以下の表4Bに示す。
この表において、T47Sは、Streptococcus mutans由来のSPの47位のトレオニンをセリンに置換した変異体を示す。他についても同様である。WTは、Streptococcus mutans由来の天然のSPを示す。
この結果、耐熱性に寄与する8箇所のアミノ酸残基は、それぞれ、別のアミノ酸残基で置換されることにより、天然のSPと比較して耐熱性を向上させることがわかった。
(実施例2C:Leuconostoc mesenteroides由来のスクロースホスホリラーゼの耐熱化、および耐熱性の測定)
Streptococcus mutans由来のSPをコードする遺伝子の代わりにLeuconostoc mesenteroides由来のSPをコードする遺伝子(配列番号7)を用い、A62P、V128IまたはN155Sのそれぞれのアミノ酸置換となるように設計したプライマーを用いたこと以外は実施例2Aと同様にして、改変体スクロースホスホリラーゼ遺伝子を含むプラスミドを作製し、そして種々の改変体SPの酵素液を得た。天然のLeuconostoc mesenteroides由来のSPの酵素液をコントロールとして用いた。
これらの改変体SPの酵素液の耐熱性について、加熱条件が、50℃、52℃または55℃で20分間であること以外は、上記実施例2A(2)(i)と同様に加熱した後、残存活性を測定した。結果を以下の表4Cに示す。天然のLeuconostoc mesenteroides由来のSPについての結果を、WTとして示す。
A62は、配列番号2のS62に相当する位置である。V128は、配列番号2のV128に相当する位置である。N155は、N155に相当する位置である。
この結果、Leuconostoc mesenteroides由来のSPにおいても、耐熱化に寄与する位置のアミノ酸残基を別のアミノ酸残基で置換することにより、耐熱化SPが得られることがわかった。
(実施例3:耐熱化スクロースホスホリラーゼの高温での比活性)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼの55℃での比活性を調べた。
詳細には、まず、表4AにおけるNo.2、3、4、5もしくは6の各々の精製耐熱化スクロースホスホリラーゼ酵素液またはコントロールの天然(WT)のStreptococcus mutansスクロースホスホリラーゼ酵素液を37℃で1U/mlになるように20mM Tris緩衝液(pH7.0)によって適切に希釈した。希釈した酵素液の活性を、反応温度が55℃であること以外は1.7に記載のSP活性測定法に従って測定した。
一方、反応に使用した酵素液量と同じ量の酵素液中のスクロースホスホリラーゼの量を、プロテインアッセイキット(バイオラッド社製)を製造業者の指示に従って用いて測定した。測定用の検量線はIgGを用いて作成した。
このようにして得られたSPの活性(A(U/ml))とSPの重量(W(mg/ml))とから、A÷W(U/mg)によってSPの比活性を求めた。
結果を以下の表5に示す。
この結果、変異を導入することによって55℃での比活性が顕著に向上することがわかった。
(実施例4:耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いたアミロース合成)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いたアミロース合成におけるアミロースの収率を調べた。耐熱化スクロースホスホリラーゼとして、上記実施例3で調製された各種耐熱化SP(No.1〜6、25および32)を用いた。
対照として、天然のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを用いた。
アミロース合成反応を、以下の表6に記載の組成の反応系を用いて、50℃または55℃で18時間行った。
ここで、α−グルカンホスホリラーゼとして、2.2で調製した組換えThermusaquaticus由来グルカンホスホリラーゼを用いた。
この反応によって合成されたアミロースの収率を上記の「1.測定方法および計算方法」により計算した。
この方法により合成されたアミロースの収率を、以下の表7に示す。
以上のように、本発明の耐熱化SPは、高温条件下(例えば、50℃〜55℃)でアミロースを合成し得ることがわかった。本発明の耐熱化SPを用いると、野生型のSPを用いた場合と比較して約2倍〜約18倍高い収率でアミロースを合成できることがわかった。
(実施例5:耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いたグルコース−1−リン酸の合成)
本発明の耐熱化スクロースホスホリラーゼを用いたグルコース−1−リン酸の合成におけるグルコース−1−リン酸の収率を調べた。耐熱化スクロースホスホリラーゼとして、上記実施例3で調製された各種耐熱化スクロースホスホリラーゼ(No.1〜6、25および32)を用いた。対照として、天然(配列番号2)のStreptococcusmutans由来スクロースホスホリラーゼを用いた。グルコース−1−リン酸合成反応を以下の表8に記載の組成の反応系を用いて、50℃または55℃で18時間行なった。
この反応によって合成されたグルコース−1−リン酸を、上記の「1.測定方法および計算方法」に記載の方法により定量した。得られたグルコース−1−リン酸の収率を、以下の式に従って求めた。
結果を、以下の表9に示す。
以上のように、本発明の耐熱化SPは高温条件下でグルコース−1−リン酸を合成し得ることがわかった。本発明の耐熱化SPを用いると、特に55℃の反応条件では、野生型のSPを用いた場合と比較して約1.5倍〜約16倍高い収率でグルコース−1−リン酸を合成できることがわかった。
(実施例6:加熱処理による夾雑タンパク質の除去の確認)
加熱処理によって耐熱化スクロースホスホリラーゼの精製が容易にできることを以下の方法で確認した。
表4Aで示したNo.1、2、3、4および5の耐熱化スクロースホスホリラーゼを発現する大腸菌、およびコントロールとして天然(配列番号2)のStreptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼを発現する大腸菌を、それぞれ実施例2A(1)に記載の方法と同様に培養した。培養液を遠心分離することにより、菌体を回収し、菌体を緩衝液に懸濁し、超音波処理することにより、菌体抽出液を得た。この菌体抽出液にスクロースを添加して20%のスクロース濃度の混合液を得て、この混合液を65℃で20分間加熱後、遠心分離することにより不溶性のタンパク質を除去し、SP酵素液を得た。このSP酵素液の37℃における比活性を求めた。結果を表10に示す。比活性の算出に用いたタンパク量の測定を、実施例3に記載した方法と同様に行なった。また、加熱前および加熱後のSP酵素液中に含まれるホスファターゼ活性およびアミラーゼ活性を測定し、加熱前と比較してどれくらいの割合のホスファターゼ活性およびアミラーゼ活性が残存しているかを決定した。その結果を表11に示す。
耐熱化SPを含む酵素液を65℃で加熱し、変性したタンパク質を除去することにより、得られる精製酵素液の比活性が、加熱前の約3倍〜約5倍に向上した。これは、耐熱化SPは変性せず、夾雑タンパクの大部分が変性し除去されたことを示す。これに比べて天然(WT;配列番号2)のSPの比活性は約100分の1に低下した。これは夾雑タンパク質だけでなくSPタンパク質も変性していることを示す。さらに、65℃で加熱することにより、宿主菌由来のホスファターゼ活性およびアミラーゼ活性を、それぞれ加熱前の約3.0%以下および約1.0%以下にまで低下させることができた。以上のように、耐熱化SPを熱処理することによって、耐熱化SPを簡便に精製できることがわかった。
(実施例7:C末端でのアミノ酸の置換およびC末端へのアミノ酸の付加による、比活性への影響)
目的の変異以外に、SP酵素のC末端にアミノ酸の置換および付加を行ない、比活性への影響がないことを確認した。
詳しくは、配列番号23に示す塩基配列を持つDNAを用い、2.1に示した方法と同様にして配列番号24に示すアミノ酸配列をもつC末端改変SP酵素(上記実施例2A(1−3)で作製したNo.33)を調製し、比活性を測定した。
このC末端改変SP酵素および天然のSP酵素の37℃における比活性を、反応温度が37℃である以外は実施例3に記載の方法に従って測定した。結果を以下の表12に示す。この結果、C末端改変SP酵素の比活性と天然のSP酵素の比活性との間に差はほとんど認められなかった。このことから、C末端でのアミノ酸の置換およびC末端へのアミノ酸の付加は、スクロースホスホリラーゼの活性に対してほとんど影響を与えないことがわかった。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。