以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
なお、以下の説明において使用される、前進および後退、または正転および逆転は車両の進行方向や装置の装着向きに対応するものではなく、マスタシリンダが昇圧方向に作用するときに前進および正転を用い、マスタシリンダが降圧方向に作用するときに後退および逆転を用いるものである。
図1〜図6は本発明の第1実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図、図2はブレーキ液圧発生装置の非作動初期位置での左側面要部断面図、図3はブレーキ液圧発生装置の増圧ブレーキ作動位置での左側面要部断面図、図4はブレーキ液圧発生装置の非増圧ブレーキ作動位置での左側面要部断面図、図5はストロークシミュレータ特性図、図6は出力液圧特性図である。
先ず図1において、ブレーキ液圧発生装置10は、モータ110を備える差動機構90と、該差動機構90後部にブレーキ操作部材であるブレーキ操作子11に連結する入力手段30と、差動機構90の前部に樹脂等で形成されてブレーキ液を蓄えるマスタリザーバ12を上部に装着するタンデム型のマスタシリンダ60とを備えている。
電子制御装置13は、電源8および、該電源8に不具合が生じた場合において、後述するブレーキ液圧発生装置10の増圧ブレーキ作動制御を電子制御装置13が数回分行えるだけの電力を蓄える小型キャパシタ9に接続して、車両ブレーキ装置を統合的に制御可能にする。
ブレーキ操作子11の操作量はエンコーダやポテンショメータ等で構成して操作ストロークを検出する入力検出器A25、および歪みセンサ等で構成して操作荷重を検出する入力検出器B26にて検出され、それら検出値は電子制御装置13に伝達され、電子制御装置13はこの検出値を基にブレーキ液圧発生装置10に備わるモータ110の動力を制御する。
さらに、電子制御装置13にはマスタシリンダ60が発生する圧力を検出する出力検出器27の検出値やモータ110の電流検出値も伝達され、それらの値を基にブレーキ液圧発生装置10に備わるモータ110の動力のフィードバック制御が可能にされる。
また、電子制御装置13には、図示せぬ車輪速センサ、ヨーセンサ、Gセンサ等の検出値をもとにブレーキ液圧発生装置10および以下に説明するABS15を制御して車両の統合的な制御を可能に電気回路を配索する。そして、これらの車両用ブレーキ装置の異常時にはドライバに警報を発する警報装置14を備える。
マスタシリンダ60の前部出力ポート16Fと後部出力ポート16Rから出力される液圧は前部液圧路17Fおよび後部液圧路17Rに導かれ、該後部液圧路17Rの発生液圧は圧力センサで構成される出力検出器27にて検出可能にされている。
前部液圧路17FはABS15を介して左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFRに接続される。また後部液圧路17Rも、ABS15を介して左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRRに接続される。
ABS15は、前部液圧路17Fを分岐して、左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFR間に設けられる常開型電磁弁18,18と、常開型電磁弁18,18に並列に接続される一方向弁19,19と、減圧リザーバ21と、左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFRと減圧リザーバ21間に設けられる常閉型電磁弁20,20と、減圧リザーバ21から前部液圧路17F側へブレーキ液を還流するべく、ABSモータ22に駆動されるABSポンプ23を備える。
さらにABS15は、後部液圧路17Rを分岐して、左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRR間に設けられる常開型電磁弁18,18と、常開型電磁弁18,18に並列に接続される一方向弁19,19と、減圧リザーバ21と、左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRRと減圧リザーバ21間に設けられる常閉型電磁弁20,20と、減圧リザーバ21から後部液圧路17R側へブレーキ液を還流するべく、ABSモータ22に駆動されるABSポンプ23を備える。
ABS15は電子制御装置13により制御され、各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに対応した常開型電磁弁18を開くとともに常閉型電磁弁20を閉じる増圧モードと、常開型電磁弁18を閉じるとともに常閉型電磁弁20を開く減圧モードと、常開型電磁弁18および常閉型電磁弁20をともに閉じる保持モードとを切換えて制御し、これにより各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRのブレーキ液圧を状況に応じて個別で最適に制御することができる。
そして電子制御装置13は、ブレーキ液圧発生装置10およびABS15を統合的に制御するものであり、ブレーキ操作子11の操作量に応じたブレーキ液圧発生装置10の増圧ブレーキ作動制御、アンチロックブレーキ制御、ブレーキ操作子11の操作有無にかかわらずブレーキ液圧発生装置10に自動的に液圧を発生させる自動ブレーキ制御、さらに自動ブレーキ制御からABS15を制御して個別の車輪ブレーキ液圧を最適に調整してのトラクションコントロールおよびビークルスタビリティコントロールなどを行うことができる。
さらに電子制御装置13は、図示せぬ電気回生制動装置との協調にも対応することが可能であり、電気回生制動装置の制動力をドライバの所望した車両制動力から差し引いた車輪ブレーキ制動力になるようにブレーキ液圧発生装置10を増圧ブレーキ作動制御することもできるようになっている。
図2において、非作動初期位置となるブレーキ液圧発生装置10は、差動機構90と、該差動機構90の前部にはマスタシリンダ60と、差動機構90の後部には入力手段30が構成されている。
マスタシリンダ60に備える後部マスタピストン62の後端には、ハウジングA31とハウジングB61に挟持されるように構成される差動機構90に備える第1のラック軸98前端が当接されている。
マスタシリンダ60は、タンデム型のものであり、前部マスタピストン68の前進により液圧を発生する前部液圧室FPLと、後部マスタピストン62の前進により液圧を発生する後部液圧室RPLとを画成する。
ハウジングB61では、有底円筒状のシリンダ内径61aを前部および後部マスタピストン68,62が摺動自在に挿入されている。
ハウジングB61の上部には、ハウジングB61の筒内へのブレーキ液の補給が可能なように、合成樹脂から成るマスタリザーバ12(図1参照)が取り付けられブレーキ液を満たしている。
前部マスタピストン68の軸方向中間部とハウジングB61の筒内の間に常時通じてブレーキ液を補給すべく、前部マスタピストン68の軸方向中間部に開口する補給ポートFSPがハウジングB61に穿設される。
前部マスタピストン68の前部には、前部液圧室FPLに液圧を発生させるべく、シリンダ内径61aに摺接するカップ69が装着される。また前部マスタピストン68の後方側には後部液圧室RPLに発生した液圧を受圧すべく、シリンダ内径61aに摺接するカップ70が装着される。
前部マスタピストン68には、戻しばね73の付勢力により前部マスタピストン68が後退限位置に戻ったときに前部液圧室FPLとマスタリザーバ12を連通させる中心型のリリーフ弁71が設けられる。該リリーフ弁71は、前部マスタピストン68の前端弁函部に同軸に装着され、前部マスタピストン68が後退限にあるときにはリリーフ弁71を弁ばね72のばね付勢力に抗して前進位置に保持し開弁して、前部マスタピストン68の前進時には弁ばね72によるリリーフ弁71の後退動作すなわち閉弁動作を許容するようにして両端がハウジングB61に固定的に支持される開弁棒74とで開閉可能に構成される。
開弁棒74は、その両端をハウジングB61で支持されて前部マスタピストン68の長孔68a内に挿通されており、リリーフ弁71の後端が開弁棒74に当接される。
リリーフ弁71は、前部マスタピストン68が後退限に在るときには開弁棒74でリリーフ弁71が押圧されることにより開弁し、前部液圧室FPLとマスタリザーバ12を連通させてシリンダ内にブレーキ液を補給可能とする。また前部マスタピストン68が後退限から前進すると、開弁棒74が前部マスタピストン68に対して後方に相対移動することにより、リリーフ弁71が閉弁して前部液圧室FPLの圧力発生が可能になる。
後部マスタピストン62は後端をスライドブッシュ75の前端に当接し、スライドブッシュ75の後端は止め輪76に当接して、後部マスタピストン62とともにスライドブッシュ75の後退限を規制している。
後部マスタピストン62は、前方外周には後方からのみブレーキ液の流通を許容してシリンダ内径61aに摺接するカップ63と、後部マスタピストン62の後部外周にはシリンダ内径61aに液密にして摺接するカップ64とを備える。
またハウジングB61には、後部マスタピストン62が後退限位置にあるときはマスタリザーバ12と後部液圧室RPLを連通して、後部マスタピストン62の前進位置ではカップ63の通過によりマスタリザーバ12と後部液圧室RPLの連通が遮断され閉弁するリリーフポートRPと、マスタリザーバ12からカップ63とカップ64間に常時ブレーキ液の補給をおこなう補給ポートRSPとが穿設される。
前部および後部マスタピストン68,62の最大間隔を規制すべく、前部マスタピストン68後端に当接するリテーナ65と後部マスタピストン62間に縮設される戻しバネ66のセット長を、後部マスタピストン62に螺着されるリテーナガイド67が規制するようになっている。
前部マスタピストン68の戻しバネ73より後部マスタピストン62の戻しバネ66のセット荷重の方が大きく設定されており、後部マスタピストン62の後退限では前部および後部マスタピストン68,62の最大間隔をおいた位置で前部マスタピストン68の後退限も設定される。
このように構成されたマスタシリンダ60では、後部マスタピストン62が押動されると先ず後部マスタピストン62と前部マスタピストン68が同時に前進を開始して後部マスタピストン62の戻しバネ66より小さなセット荷重に設定される前部マスタピストン68の戻しバネ73をたわませる。
そして前部マスタピストン68ではリリーフ弁71が、また後部マスタピストン62ではリリーフポートRPがほぼ同時に閉弁動作をおこなう。
前記閉弁動作後は、後部マスタピストン62の進退動に応じて後部液圧室RPLおよび前部液圧室FPLとが同圧となるように前部マスタピストン68が浮動して後部マスタピストン62との相対距離を調整しながら車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに液圧を供給する。
後部マスタピストン62と前部マスタピストン68が後退限に戻ると前部マスタピストン68ではリリーフ弁71が、また後部マスタピストン62ではリリーフポートRPが開弁して後部液圧室RPLおよび前部液圧室FPLはマスタリザーバ12に連通して大気圧開放状態となる。
入力手段30は、差動機構90に備えるピニオン駆動軸91の後部円筒状内径部にストロークシミュレータSSを構成して、ピニオン駆動軸91はハウジングA31に形成される円筒状の内径部を摺動可能に挿入され、該ピニオン駆動軸91はハウジングA31の内径後部の溝部に嵌着される係止リング40に後退限を規制されている。
ピニオン駆動軸91の円筒底部には、ピニオン駆動軸91の前部に形成される上面断面がコの字状のすりわり部91a側より、差動機構90に備わる第1のラック軸98後端にバー99をもって連結される第1のラック軸98と平行に突出するオフセットロッド100が摺動自在に挿通されている。
入力伝達部材35は、後端中央部にプッシュロッド33を首振り自在に連結して、該プッシュロッド33はブレーキ操作子11(図1)に連結するヨーク32に締結めねじ34とともに螺着される。
入力伝達部材35の軸部はピニオン駆動軸91後部の内径部に摺動可能に挿入され、後退限をピニオン駆動軸91の内径後部の溝部に嵌着される係止リング41に規制され、入力伝達部材35の前端を、前記オフセットロッド100の後端に離間距離L3をもって臨ませている。
ドライバのブレーキ操作子11への入力に対応して、ブレーキ操作子11に反力とストロークを付与すべく、入力伝達部材35の前方段部とピニオン駆動軸91の円筒底部との間にはストロークシミュレータSSが構成される。
ストロークシミュレータSSは、リテーナ37が外径をピニオン駆動軸91円筒内径に摺動可能に挿入され、該リテーナ37内径には後方より入力伝達部材35の小径軸が摺動可能に挿通して、さらに前方からはピニオン駆動軸91の円筒底部を挿通しているオフセットロッド100が摺動可能に挿通している。
リテーナ37の前方段部とピニオン駆動軸91の円筒底部との間には巻きばねであるシミュレートばね38が張架され、リテーナ37の後方段部と入力伝達部材35の前方段部との間にはゴム等の弾性材からなるシミュレートラバー39が張架されている。
リテーナ37はシミュレートばね38とシミュレートラバー39の荷重がバランスした位置にあり、リテーナ37の前方段部とピニオン駆動軸91の円筒段部は離間距離L1を、リテーナ37の後端と入力伝達部材35の段部は離間距離L2を空けている。
ストロークシミュレータSSに設定される入力伝達部材35の全ストロークは、離間距離L1+L2であり、この離間距離L1+L2はシミュレートばね38およびシミュレートラバー39の許容応力を超えないように設定するものである。
ただし、図2のように差動機構90が非作動初期位置でのストロークシミュレータSSでは、オフセットロッド100の後端と入力伝達部材35の前端との離間距離L3のみ入力伝達部材35が弾性部材であるシミュレートばね38およびシミュレートラバー39を圧縮しての前進を許容する。
差動機構90は、ハウジングA31およびハウジングB61に挟持されるように構成され、第1のラック軸98と第2のラック軸95とピニオン駆動軸91とが互いの軸線を平行に進退動可能にされている。
マスタシリンダに連係する軸である、マスタシリンダ60に備える後部マスタピストン62の後端に前端を当接する第1のラック軸98は、円筒棒状の丸ラックに形成され、第1のラック軸98の軸前方をマスタシリンダ60後端に備えるスライドブッシュ75の内径部にガイドされ、第1のラック軸98外周部軸方向に形成するキー溝98bがスライドブッシュ75内径に形成するキー溝に固定的に嵌着されるキー101にはめあいして、第1のラック軸98の回動を規制してかつ軸方向への滑動を可能にしている。
さらに、第1のラック軸98後端の小径軸部98cはバー99の上部大径穴に前方より圧入されており、バー99の下部小径穴に後方より圧入されているオフセットロッド100の後方軸部はストロークシミュレータSSに備えるリテーナ37の内径部に摺動自在に挿入され、前方のスライドブッシュ75とともに第1のラック軸98を両端でガイドして軸方向への進退動を可能にしている。
モータに連係する軸である、第2のラック軸95は、第1のラック軸98と同様に丸ラックに形成され、軸前方をハウジングB61下方壁に形成される有底のガイド穴61bに挿入してかつ、ガイド穴61bの内径に形成されるキー溝に固定的に嵌着されるキー96に第2のラック軸95外周軸方向に形成されるキー溝95cがはめあいして回動を規制しながら滑動可能にされている。
第2のラック軸95後方では、ハウジングA31の下方壁穴に圧入されるガイド棒97を、第2のラック軸95後端より穿設されるガイド穴95dに挿入して、第2のラック軸95を前後両端でガイドしながら軸方向への進退動を可能にしている。
第2のラック軸95の外周下部にはラック歯95bが形成されており、該ラック歯95bに第2のラック軸95の軸線に直交して装備されるモータ110の回転軸110aに具設されるモータピニオン111が噛合いしている。
ブレーキ操作子に連係する軸である、ピニオン駆動軸91は、後方の円筒内径部に前述したストロークシミュレータSSを構成して、前部の上断面コの字状に形成するすり割り部91aの前方には、ピニオン92が軸受93とピン94とをもって自転可能に軸支されている。
ピニオン92は、第1のラック軸98の外周下部に形成されるラック歯98aと第2のラック軸95の外周上部に形成されるラック歯95aとに噛合いしている。
図2の非作動初期位置における差動機構90では、ピニオン駆動軸91は後端外周部をハウジングA31の内径部後端の溝部に嵌着される係止リング41に当接して後退限を規制され、第2のラック軸95は前端をハウジングB61に形成されるガイド穴61b底部に当接させて後退限を規制している。
ピニオン駆動軸91および第2のラック軸95を後退限に当接させる力はマスタシリンダ60に装着される戻しばね73,66の付勢力であり、自身も後部マスタピストン62より前記付勢力が伝達されて初期位置に戻されている第1のラック軸98の後端はハウジングA31の壁面にわずかなすき間を空けている。
図3では、ドライバのブレーキ操作子11の操作による入力検出器A25の操作ストローク検出値および入力検出器B26の操作荷重検出値に基づいた電子制御装置13の増圧ブレーキ作動制御により、差動機構90に装備されるモータ110に動力が発生している。
差動機構90では、ブレーキ操作子に連係する軸であるピニオン駆動軸91を後退限に規制して、モータに連係する軸である第2のラック軸95を前進させて、ピニオン92の自転によりマスタシリンダに連係する軸である第1のラック軸98を前進させており、このとき第2のラック軸95の前進量に対する第1のラック軸98の前進量は1対1となっている。
モータ110の回転軸110aに具設されるモータピニオン111が時計回りに回動して、第2のラック軸95を右に前進させて、第2のラック軸95に噛合いするピニオン92が反時計回りに自転して、第1のラック軸98を左に前進させ、後部マスタピストン62を距離L4前進させている。
いっぽう、ブレーキ操作子11と後端を連結する入力伝達部材35は、ストロークシミュレータSSを構成するシミュレートばね38およびシミュレートラバー39を圧縮しながら距離L5ストロークしている。
この増圧ブレーキ制御中にあっては、後部マスタピストン62および第1のラック軸98の前進量L4よりも、入力伝達部材35のストローク量L5のほうが小さくなるようにストロークシミュレータSSの弾性部材であるシミュレートばね38およびシミュレートラバー39の剛性が設定されている。
非作動初期位置における入力伝達部材35前端とオフセットロッド100後端との離間距離L3は、増圧ブレーキ作動制御中はさらに離間距離を大きくしている。
したがって、後部マスタピストン62に第1のラック軸98を介して連係するオフセットロッド100を入力伝達部材35が押動していないため、ブレーキ操作子11の入力はマスタシリンダ60の昇圧を補強することはできないものの、ドライバのブレーキ操作子11の操作ストローク負担を軽減でき、さらに協調回生ブレーキ制御でドライバの所望する制動力から電気回生制動力分を差し引いた車輪ブレーキ制動力になるようモータ110の動力を一定量弱めて後部マスタピストン62およびオフセットロッド100が後退しても、オフセットロッド100後端と入力伝達部材35の前端との干渉がないため、ブレーキ操作子11の入力とストロークと車両制動力は常に一定のものにできる。
なお、電子制御装置13の制御対象である出力部材の第1のラック軸98およびオフセットロッド100とは離間して入力部材である入力伝達部材35が独立してストロークするので、電子制御装置13では入力検出器A25が検出するブレーキ操作子11のストローク検出値のみをソースとした入出力制御が成立するため、ブレーキ操作子11の操作荷重を検出するために荷重センサで構成する入力検出器B26を省略することも可能である。
このブレーキ操作子11と車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRが一端切り離された、いわゆるブレーキバイワイヤ状態になることによって、協調回生ブレーキ制御の他にも種々の制御が可能になる。
例えば、車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRのすべてがABS作動モードに入っている場合には過剰なマスタシリンダ60の昇圧は必要ないはずであり、車両を統合的に制御する電子制御装置13が車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRのいずれかがABS作動を終了するまでマスタシリンダ60の液圧を下げるよう制御してもブレーキ操作子11には干渉がない。
また、緊急時に制動力を高めるようブレーキアシスト制御がされる場合においても、後部マスタピストン62の急激な前進にブレーキ操作子11は追従することなく、ドライバの操作フィーリングを向上できる。
ただし、上記のような協調回生ブレーキなどの制御の必要がない車両においては、増圧ブレーキ作動制御中のオフセットロッド100後端を入力伝達部材35前端が押動可能になるようにストロークシミュレータSSに備える弾性部材であるシミュレートばね38およびシミュレートラバー39の剛性を設定してもよい。
このような設定では、後部マスタピストン62に当接押動しているオフセットロッド100に入力伝達部材35の推力が加算されるため、オフセットロッド100に加算された推力はモータ110のオフセットロッド100および第1のラック軸98を押し出そうとする回動力のアシストになり消費電力を節約、もしくはモータ電力は維持したままでマスタシリンダ60の発生液圧をより高めることができる。
また、ストロークシミュレータSSをたわめるために一部ロスする入力伝達部材35の推力は、反力としてオフセットロッド100を押動する反力とともにブレーキ操作子11に伝達され、ストロークシミュレータSSに備えるシミュレートばね38およびシミュレートラバー39の弾性部材としての適度な反発感をも付与することができる。
図3ではブレーキ操作子11の入力に対応した増圧ブレーキ制御として説明したが、ブレーキ操作子11の操作有無に関らず図示せぬ車両のセンサの情報をもとに、電子制御装置13はモータ110を制御して自動ブレーキ制御をおこないマスタシリンダ60を昇圧することができる。
ブレーキ操作子11の操作有無に関らずブレーキ液圧発生装置10を昇圧して、前車に所定車間距離を空けるための自動ブレーキや、自動ブレーキ制御をした上でABS15を作動制御して外輪または内輪に制動力を付与するスタビリティコントロール、駆動輪に適宜制動力を付与するトラクションコントロールなどもおこなえる。
このような制御中に、ブレーキ操作子11を踏み増すことがあっても、ブレーキ操作子11はストロークシミュレータSSで予め設定された剛性により何の違和感もなく操作が開始され、マスタシリンダ60の液圧も即時ドライバの所望する液圧に制御される。
図4はブレーキ液圧発生装置10の非増圧ブレーキ作動状態を示し、モータ110の回動がなく、ドライバのブレーキ操作子11の操作力のみによるマスタシリンダ60の昇圧がおこなわれている。
モータ110の動力供給がない第2のラック軸95は後退限に規制され、ブレーキ操作子11に連係する入力伝達部材35およびピニオン駆動軸91の推力を第1のラック軸98に伝達するように作用している。
入力伝達部材35は、図2におけるオフセットロッド100後端との離間距離L3をストロークすると、入力伝達部材35前端がオフセットロッド100後端に当接して、該オフセットロッド100はバー99を介して第1のラック軸98後端に連結され、該第1のラック軸98前端を後端に当接する後部マスタピストン62に入力伝達部材35の推力を伝達している。
ピニオン駆動軸91は、前進する第1のラック軸98にピニオン92が噛合いしているため、ピニオン92を自転させながら第1のラック軸98前進量の1/2の前進量をもって追従している。
ストロークシミュレータSSでは、ストロークシミュレータSSが構成されるピニオン駆動軸91に対して第1のラック軸が2倍ストロークするため、入力伝達部材35とオフセットロッドが離間しようとするが、弾性部材であるシミュレートばね38とシミュレートラバー39が離間を補間するように圧縮する設定となっている。
このストロークシミュレータSSを圧縮する操作荷重も、ピニオン駆動軸91前方で自転しているピニオン92を介して第1のラック軸98に無駄なく伝達して、高い効率でブレーキ操作子11の入力をマスタシリンダ60の昇圧に変換している。
仮に入力伝達部材35の推力を第1のラック軸98に直接伝達させないで、入力伝達部材35の推力をピニオン92の自転のみにより第1のラック軸98に伝達する場合には推力は1/2に減じられ伝達されてしまう。
ところが、ピニオン駆動軸91に備わる入力伝達部材35の推力を直接第1のラック軸98の後端に伝達することで、ストロークシミュレータSSの圧縮にかかる推力が1/2に減じられ第1のラック軸98に伝達されるのみで、主に入力伝達部材35の推力は第1のラック軸98の後端に伝達して略1:1の伝達比にすることができる。
図5のストロークシミュレータ特性を参照して、ブレーキ液圧発生装置10の増圧ブレーキ作動制御がおこなわれているとき、ストロークシミュレータSSでは、ブレーキ操作子11の入力に対応して該ブレーキ操作子11のストロークがC0〜C1〜C2〜C3の線図になるよう作動する。
先ずブレーキ操作子11の入力を加えていくと、マスタシリンダ60の戻しばね73およびストロークシミュレータSSのシミュレートラバー39よりもばね定数が低く設定されるシミュレートばね38がセット荷重を超えて先ずたわみ始めるC0のポイントとなりストロークが立ち上がる。
さらにブレーキ操作子11の入力を加えていくと、シミュレートばね38と直列に張架されるシミュレートラバー39もたわみ始めるC1のポイントになり、シミュレートばね38とシミュレートラバー39との両者が同時にたわみはじめる。
またC0のポイントからC1のポイントへの過程ではブレーキ操作子11の操作ストロークを入力検出器A25が、荷重を入力検出器B26がそれぞれ検出して、該検出値を基に電子制御装置13がモータ110に動力を供給してピニオン駆動軸91の後退限への当接力を上げている。
さらに入力が加わり、シミュレートばね38とシミュレートラバー39との複合ばね定数にてストロークが増加していくとリテーナ37が前進限に当接する(図2のL1がゼロ)C2ポイントになる。
C2ポイントから入力伝達部材35が前進限に当接する(図2のL1およびL2がゼロ)C3ポイントまではシミュレートラバー39の単独のばね定数でストロークが増加してゆき、該シミュレートラバー39のゴム特性により非線形の線図となる。
そしてブレーキ操作子11の入力減少にともない、シミュレートラバー39のゴム材ヒステリシス特性によってC3〜C2〜C1〜C0の線図を下まわるようにブレーキ操作子11のストロークも減少する。
前記ヒステリシスはドライバの操作負担を軽減するものであり、一定踏力をブレーキ操作子11にかけている際の反発感を低減するものである。
図6の出力液圧特性を参照して、実線で示すK0〜K1〜K2〜K3〜K8はブレーキ操作子11の操作量に対応してドライバの所望する制動力になるようブレーキ液圧発生装置10を増圧ブレーキ作動制御する線図である。
破線で示すK0〜K4〜K5〜K6は車両に備わって図示せぬ回生制動装置に協調して、ドライバの所望する制動力から回生制動力分を差し引いた車輪ブレーキ液圧となるようブレーキ液圧発生装置10を増圧ブレーキ作動制御する協調回生ブレーキ作動制御の液圧線図である。
2点鎖線で示すK7〜K8はモータ110の動力がなく、ブレーキ操作子11の入力のみが後部マスタピストン62に伝達する非増圧ブレーキ作動の液圧線図である。
ドライバの所望する制動力になるよう車輪ブレーキ液圧を上げる増圧ブレーキ作動制御では、先ずブレーキ操作子11の入力を加えていくと、該ブレーキ操作子11の操作ストロークを入力検出器A25が、荷重を入力検出器B26がそれぞれ検出して、該検出値を基に電子制御装置13がモータ110に動力を供給開始するK0ポイントになる。
K0〜K1では、いわゆる液圧ジャンピングがおこなわれ車輪および駆動系の慣性力を打ち消すべく、一気に所定圧力まで車輪ブレーキ液圧を上げる。
K1〜K2ではブレーキ操作量に対して略比例的に出力液圧を上げて、K2ポイントはモータ110の動力を保持して増圧の限界となるが、該圧力は車輪ブレーキがロックする(実際にはロックの手前でABSが作動)のに充分な余裕を持って設定されている。
さらにブレーキ操作子11の入力を上げると、モータ110が第2のラック軸95を前進させてピニオン駆動軸91を後退限に押圧している力よりも、ピニオン駆動軸91が第2のラック軸95を後退させる推力が打ち勝って、第2のラック軸95が後退限に当接するまでピニオン92を逆転したのち、ピニオン駆動軸91の推力はピニオン92を正転させ、第1のラック軸98および後部マスタピストン62に伝達して、非増圧ブレーキ作動線図K7〜K8に沿って昇圧を再開するK3ポイントとなる。
協調回生ブレーキ作動制御では、K7〜K8の線図より下まわるようなモータ110への動力供給であるとピニオン駆動軸91が前進してブレーキ操作子11の操作フィーリングを損なうため、K0〜K4まで低めにジャンピングしたのちにK7〜K8線と略平行にオフセットさせて昇圧しK4〜K5となる。
K5〜K6では、通常の増圧ブレーキ作動線図K1〜K2と略平行にオフセットして昇圧させることにより、K4〜K5〜K6〜K2〜K1〜K4で囲まれる領域を電気回生ブレーキの回生制動力として電力の回生をおこなうことができる。
なお、回生電力の回収が必要なくなった場合には通常増圧ブレーキ作動線図K0〜K1〜K2〜K3に垂直移動して車輪ブレーキ液圧を増強すればよいことになる。
図7は本発明の第2実施例を示すものであり、ブレーキ液圧発生装置2010は前記第1実施例に対し、差動機構2090の構成が異なり、新規または代替となる構成部品の符号は2桁繰り上げて、第1実施例と作用が同じで形状も略同一とする構成部品には同一の符号を付すとともに説明を省略する。
差動機構2090は、後退限が規制される第1のラック軸98にブレーキ操作子11を連係して、ピニオン92より前方に延びるピニオン駆動軸91を後部マスタピストン62に当接してマスタシリンダ60に連係して、後退限が規制される第2のラック軸95には第1実施例と同様モータ110の回転軸110aに具設されるモータピニオン111が噛合いしてモータ110を連係させている。
このように構成されたブレーキ液圧発生装置2010では、第1のラック軸98と第2のラック軸95とのいずれかを一方を後退限に規制して、他方を前進させたときの前進量に対してピニオン駆動軸91の前進量は1/2となり、言い換えると推力が2倍に伝達されるため、モータ110の要求最大トルクを低減できるとともに、モータ110の動力がないときに要求されるブレーキ操作子11の操作力を低減することができる。
図8は本発明の第3実施例を示すものであり、ブレーキ液圧発生装置3010は前記第1実施例に対し、差動機構3090の構成が異なり、新規または代替となる構成部品の符号は2桁繰り上げて、第1および第2実施例と作用が同じで形状も略同一とする構成部品には同一の符号を付すとともに説明を省略する。
差動機構3090は、第1のラック軸98を後部マスタピストン62に当接してマスタシリンダ60を第1実施例とは向きを逆に連係して、ピニオン92の前方に延びるピニオン駆動軸91にモータ110の回転軸110aに具設されるモータピニオン111が噛合いするとともに後退限が規制される第3のラック軸112を連係して、第2のラック軸95にはブレーキ操作子11が連係されている。
このように構成されたブレーキ液圧発生装置3010では、モータ110の動力がないときのブレーキ操作子11の入力が伝達される第2のラック軸95の推力はマスタシリンダ60に連係される第1のラック軸98に1:1で伝達することができる。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
たとえば、上記実施例ではモータの回動をモータに連係する軸の直動に変換する手段をラックアンドピニオン機構にて説明したが、ボールねじ機構などを用いてモータに連係する軸の直動に変換する手段を備える車両用ブレーキ装置に本発明を適用してもよい。
また、上記実施例ではタンデム型のマスタシリンダを備える車両用ブレーキ装置として説明したが、マスタピストンが単一であるシングルマスタシリンダを備える車両用ブレーキ装置に本発明を適用してもよい。