JP4445444B2 - 複合耐食性に優れた船舶用鋼材および溶接構造物 - Google Patents

複合耐食性に優れた船舶用鋼材および溶接構造物 Download PDF

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Description

本発明は、船舶用鋼材および溶接構造物に関する。具体的には、原油タンカー、貨物船、貨客船、客船、軍艦において、海水、飛来塩分および原油、ガソリン、重油、灯油などの石油類と接触するタンク、容器、構造物などの鋼材および溶接構造物として好適な、複合耐食性に優れた鋼材およびこの鋼材を溶接した構造物に関するものである。
本発明では、後述する、耐すきま腐食性、耐全面腐食性、腐食の均一性などの複数の耐食性を合わせて有する(兼備する)ことを複合耐食性と規定する。
原油、ガソリン、重油、灯油等の石油類の貯蔵や輸送等のための容器等として用いられるタンク(以下、石油類タンクという)には、従来から鋼材が用いられている。これら石油類タンクの構成材として用いられた鋼材(以下、石油類タンク用鋼材またはタンク鋼材という)は、海水由来の塩分と石油由来の硫黄分(元素状硫黄分や硫化水素ガスなど)に起因して、激しい腐食を受け、早期に穴あきなどに至ってしまう場合が多い。
こうした船舶用鋼材の腐食は、例えば原油タンカーでは沈没事故といった重大な事故を招く恐れもあるため、タンク鋼材には何らかの防食手段を施す必要がある。これまで行われている防食手段としては、(a)塗装、(b)防錆・防食シート、(c)電気防食等が従来からよく知られており、実用化されている。
このうち重塗装に代表される塗装では、塗膜欠陥が存在する可能性が高く、製造工程における衝突等によって塗膜に傷が付く場合もあるため、素地鋼材が露出してしまうことが多い。このような鋼材露出部においては、局部的にかつ集中的に鋼材が腐食してしまい、内容されている石油類の早期漏洩に繋がることになる。防錆・防食シートによる鋼材の保護も、比較的効果は認められるものの、塗装の場合と同様に、シート傷部の鋼材露出部分での腐食は避けられないという問題がある。
電気防食は、海水などの導電率が高い電解質水溶液中に完全に浸漬された部位に対しては、非常に有効である。しかし、石油系液体燃料は導電率が低いため、電気防食は不向きである。すなわち、流電陽極の近傍しか防食されないため、多数の流電陽極を設置する必要があり、施工上の問題があることに加えて、防食電流分布により局所的に腐食が発生するという問題がある。また、防食用の流電陽極が異常消耗や脱落して消失した場合には、直ちに激しい腐食が進行することも問題である。また、タンク内の上甲板などの電解質水溶液がない気相部においては、防食に必要な電気回路が形成されないため、電気防食では効果がない。
上記技術の他、鋼材自体の耐食性を向上させるものとして、例えば、鋼材の化学成分を適切に調整することによって、耐局部腐食性を優れたものとした原油タンク用鋼が提案されている(特許文献1参照)。同様に、鋼材の化学成分組成、介在物および組織を適切なものとすることによって、全面腐食や局部腐食に対する抵抗を向上させた鋼材についても提案されている(特許文献2参照)。更に、同様に、鋼材の化学成分組成を適切なものとすることによって、局部腐食に対する抵抗を向上させたタンク底板用鋼材についても提案されている(特許文献3参照)。
特開2001−214236号公報(全文) 特開2003−82435号公報(全文) 特開2004−2948号公報(全文)
これらの技術では、従来に比べてある程度の耐食性は確保できるようになったといえる。しかしながら、より厳しい腐食環境下での耐食性については依然として十分なものとはいえず、更なる耐食性向上が要求されることになる。特に、異物と鋼材との接触部分、構造的な理由や防食塗膜の損傷部分等で形成される「すきま」部分における腐食(いわゆる隙間腐食)が顕著になり、タンクなどの寿命を低下させる場合がある。
したがって、石油類用鋼材には、耐すきま腐食性にも優れていることが要求されるが、これまで提案されている従来技術では、こうした隙間腐食に対する耐食性が不十分である。
また、原油タンカーのタンク内面の底板における腐食は、鋼板表面に形成されるオイルコートの欠陥部分で顕著に進行し、この欠陥部分は運航時の原油の移動や船体の変形等によって修復されたり、新たに形成されたりすると考えられる。このために、腐食箇所はある1箇所に集中することなく、鋼材のほぼ全面に亘って発生する。
したがって、石油類用鋼材には、このような局部腐食が全面に進展する特殊な腐食環境でも、耐全面腐食性や、腐食の均一性の耐食性が要求される。しかし、これまで提案されている従来技術では、こうした耐全面腐食性や、腐食の均一性に対する耐食性が不十分である。
このように、石油類用鋼材には、耐すきま腐食性、耐全面腐食性や、腐食の均一性などの複合耐食性が要求される。しかし、従来の鋼材の化学成分や組織の改善技術では、鋼材自体のこれら種々の耐食性を合わせて向上させる(兼備する)のには、限界があったのが実情である。
更に、前記従来技術において、鋼材自体の上記複合耐食性が例え良くても、大入熱溶接などによって溶接された場合、溶接継手部分のHAZ部(熱影響部)などで、上記複合耐食性に対して効く鋼材の化学成分や組織、介在物が、効かないものに、熱的に変化、変質する可能性がある。
このような場合には、溶接継手部分の複合耐食性が低下する。このため、その他の非溶接部分の複合耐食性が良くても、構造物としての信頼性に欠けることとなる。それゆえ、鋼材自体の耐食性を向上させた従来技術が、この鋼材を溶接して製作した構造物としての信頼性に欠ける点も大きな問題となる。従来の鋼材の化学成分や組織の改善技術での複合耐食性向上の限界は、このような理由によることも大きい。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、鋼材やこの鋼材を溶接した構造物自体の上記複合耐食性を持つことができる、船舶用鋼材およびこの鋼材を溶接した構造物を提供しようとするものである。
上記目的を達成するための、複合耐食性に優れた、本発明石油類用鋼材の要旨は、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、Al:0.005〜0.10%を含有し、更に、カルコゲンとしてSe、Teの1種または2種を合計で0.0005〜0.50%、およびアルカリ土類金属としてMg、Ca、Sr、Be、Ba、Raよりなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.015%、を各々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Se、Teの1種または2種と、前記Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raの1種または2種以上とを両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物を、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に20〜200個含むことである。
また、上記目的を達成するための、複合耐食性に優れた、本発明溶接構造物の要旨は、上記要旨および後述する好ましい態様の鋼材を溶接した溶接構造物であって、溶接された鋼材の母材部およびHAZ部に、Se、Teの1種または2種と、Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raの1種または2種以上とを両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である前記介在物を、溶接された鋼材の前記各部位の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に、20〜200個含むことである。
本発明に係る船舶用鋼材や、この鋼材を溶接した構造物によれば、塗装や電気防食を施さなくても、あるいは、塗装や電気防食を施しても、鋼材や鋼材を溶接した構造物自体に、優れた上記複合耐食性を有することができる。
本発明では、鋼材組織中に、カルコゲンとアルカリ土類金属とを実質的に含む上記特定の介在物を存在させる。カルコゲンとアルカリ土類金属との存在形態、即ち、カルコゲンとアルカリ土類金属とが、この介在物中で、カルコゲンとアルカリ土類金属との化合物を形成しているか、カルコゲンとアルカリ土類金属とを単に各々含むだけなのかは、現状では不明である。
ただ、鋼材組織中に、カルコゲンとアルカリ土類金属とを実質的に含む上記特定の介在物を存在させると、鋼材自体の上記複合耐食性を向上させることは事実である。
海水に起因する塩分付着と湿潤環境による腐食環境においては、腐食先端で溶解したFe2+イオンの加水分解などにより、pHは酸性域に低下している。このため、海水中の硫酸塩などに由来する硫黄分が濃縮・共存する環境での、水素イオンの還元反応が主なカソード反応となっている。また、石油系燃料と接触する鋼材では、この燃料由来の硫黄分と水素イオンとの反応が主なカソード反応となっている。
このような硫黄分と水素イオンとの反応が関わる腐食環境においては、鋼中に所定のアルカリ土類金属とカルコゲンとを含有する介在物を含有させることにより、腐食のカソード反応を大きく抑制させることができることを見出した。このような作用効果は、アルカリ土類金属とカルコゲンとを含有する介在物がカソード反応の生じる主なサイトとなり、カソード反応の過電圧を上昇させているためと考えられ、耐全面腐食性を向上させる。また、この介在物は、塗膜下やすきま部における腐食に対しても抑制効果があり、塗装耐食性や耐すきま腐食性も向上させる。したがって、鋼材や鋼材を溶接した構造物自体に、優れた上記複合耐食性を有することができる。
また、この介在物は、この介在物を有する鋼材を、大入熱溶接などによって溶接しても、この溶接継手部分のHAZ部や近傍の母材部分で、上記特定の介在物は消滅せずに(損なわれずに)残留する特性を有する。
前記した通り、鋼材自体の上記複合耐食性が良くても、大入熱溶接などによって、溶接継手部分に在る、この介在物が消滅した場合には、溶接継手部分の複合耐食性が低下する。このため、その他の非溶接部分の複合耐食性が良くても、あるいは、この非溶接部分の面積が例え大きくとも、溶接継手部分の複合耐食性が低下するために、構造物としての信頼性に欠けることとなる。
したがって、この介在物が大入熱溶接などによって溶接しても、消滅しない特性を有していることは、必然的に溶接して用いられる鋼材や、この鋼材を溶接して製作した構造物の信頼性にとって、非常に重要な意味を持つ。
この結果、本発明では、素材鋼材だけでなく、本発明鋼材を溶接して製作した構造物でも、この構造物における、溶接された鋼材の母材部およびHAZ部に、上記特定の介在物が存在して、優れた上記複合耐食性を有することができる。
(鋼材の化学成分組成)
本発明に係る鋼材では、タンクなどの構造物用としての、強度や大入熱溶接性、加工性などの基本的特性を満足させるために、C、Si、Mn、Al等の基本成分の含有量を含めて適切に調整する必要がある。このため、本発明に係る鋼材の前提としての化学成分組成は、質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、Al:0.005〜0.10%を各々含有するものとする。
その上で、前記した特定の介在物を存在させるために、上記前提としての成分組成に加えて、更に、カルコゲンとしてSe、Teの1種または2種を合計で0.0005〜0.50%、およびアルカリ土類金属としてMg、Ca、Sr、Be、Ba、Raよりなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.015%、を各々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、基本的な化学成分組成とする。
これらの成分元素および他の選択的な添加な元素の、各含有量の限定理由について、以下に説明する。なお、記載%は全て質量%の意味である。
(C:0.01〜0.30%)
Cは、材料の強度確保のために必要な元素である。石油類タンクの構造部材としての最低強度、使用する鋼材の肉厚にもよるが概ね400MPa程度、を得るためには、0.01%以上含有させる必要がある。しかし、0.30%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。こうしたことから、C含有量の範囲は0.01〜0.30%とした。尚、C含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.04%以上とするのが良い。また、C含有量の好ましい上限は0.28%であり、より好ましくは0.26%以下とするのが良い。
(Si:0.01〜2.0%)
Siは脱酸と強度確保のための必要な元素であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させると溶接性が劣化する。尚、Si含有量の好ましい下限は0.02%であり、より好ましくは0.05%以上とするのが良い。また、Si含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましくは1.60%以下とするのが良い。
(Mn:0.01〜2.0%)
MnもSiと同様に脱酸および強度確保のために必要であり、0.01%に満たないと構造部材としての最低強度を確保できない。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させると靱性が劣化する。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、より好ましくは0.10%以上とするのが良い。また、Mn含有量の好ましい上限は1.80%であり、より好ましくは1.60%以下とするのが良い。
(Al:0.005〜0.10%)
AlもSi、Mnと同様に脱酸および強度確保のために必要であり、0.005%に満たないと脱酸に効果がない。しかし、0.10%を超えて含有すると溶接性を害する。このため、Al含有量の範囲は0.005〜0.10%とした。尚、Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましくは0.015%以上とするのが良い。また、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、より好ましくは0.050%以下とするのが良い。
(Se、Te)
カルコゲンとしてのSe、Teは、鋼材組織中に、カルコゲンとアルカリ土類金属とを実質的に含む介在物を存在させ、鋼材自体の上記複合耐食性を向上させる。この介在物は、鋼材を大入熱溶接などによって溶接しても、この溶接継手部分のHAZ部や近傍の母材部分で消滅せずに残留し、鋼材や、この鋼材を溶接して製作した構造物の上記複合耐食性を向上させる。
カルコゲンには、他にO、S、Poなどがある。しかし、これらとアルカリ土類金属とを含む介在物には、Se、Teのような、鋼材自体の上記複合耐食性向上効果や、溶接継手部分に残留して構造物の上記複合耐食性を向上させる効果は無い。また、これらが鋼中に介在物として存在すると、鋼材自体の延性や靭性などの機械的特性を阻害する。しかし、Se、Teを含む介在物には、鋼材自体の機械的特性を害さずに、前記したカソード反応抑制効果があるという優れた効果を有する。
Se、Teの含有量が少な過ぎると、上記介在物ができず、鋼材や構造物の上記複合耐食性を向上できない。一方、多過ぎると、鋼材自体の機械的特性を阻害することとなる。したがって、Se、Teは、その1種または2種を合計で0.0005〜0.50%の範囲で含むものとする。
(アルカリ土類金属)
Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raは、前記Se、Teとともに、鋼材組織中に、カルコゲンとアルカリ土類金属とを実質的に含む介在物を存在させ、鋼材自体の上記複合耐食性を向上させる。
これらアルカリ土類金属の含有量が少な過ぎると、上記介在物ができず、鋼材や構造物の上記複合耐食性を向上できない。一方、多過ぎると、鋼材自体の機械的特性を阻害することとなる。したがって、これらアルカリ土類金属は、Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raよりなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.015%の範囲で含むものとする。
以下に、選択的な添加元素について説明する。本発明石油類用鋼材には、上記成分の他、必要によって、更に、下記(1)〜(4)のグループの1種類または2種類以上を含有させることも有効であり、含有させる成分の種類に応じて石油類用鋼材の特性が更に改善されることになる。
(1)Cu:0.01〜5.0%、Ni:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Ti:0.005〜0.20%、Co:0.01〜5.0%、よりなる群から選ばれる1種または2種以上。
(2)Mo:0.01〜2.0%、W:0.01〜2.0%の1種または2種。
(3)As:0.005〜0.50%、Sb:0.005〜0.50%、Sn:0.005〜0.50%の1種または2種以上。
(4)B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%、Nb:0.003〜0.50%の1種または2種以上。
(Cu、Ni、Cr、Ti、Co)
Cu、Ni、Cr、Ti、Coは、いずれも耐食性向上に有効な元素である。これらは、その1種または2種以上を含有すると、耐食性向上に大きく寄与する緻密な表面錆被膜を形成する。この効果を発揮させるために、選択的に含有させる場合には、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.01%以上、Ti:0.005%以上、Co:0.01%以上含有させる。一方、過剰に含有させると溶接性や熱間加工性が劣化する。このため、各上限をCu:5.0%、Ni:5.0%、Cr:5.0%、Ti:0.20%、Co:5.0%とする。
(Mo、W)
Mo、Wの1種または2種を含有させると、腐食の均一性を高めて局部腐食による穴あきを抑制する作用がある。特に前記Cu、Cr等と同時に含有させることによって、顕著な均一腐食性向上作用が発揮される。この効果を発揮させるために、選択的に含有させる場合には、Mo、Wを各々0.01%以上含有させる。一方、過剰に含有させると溶接性が劣化するため、Mo、Wの上限は、各々2.0%とする。
(As、Sb、Sn)
As、Sb、Snは、1種または2種以上の含有で、Cu等による錆緻密化作用やMoなどの腐食均一化作用を助長して耐食性を向上させる元素である。この効果を発揮させるために、選択的に含有させる場合には、As、Sb、Snを各々0.005%以上含有させる。一方、過剰に含有させると加工性と溶接性が劣化することから、As、Sb、Snの上限は、各々0.50%とする。
(B、V、Nb)
B、V、Nbは強度向上に有効な元素であり、船舶用などの石油類用鋼材で、適用する部位によって、より高強度化が必要な場合には、B、V、Nbを1種または2種以上含有させる。この効果を発揮させるために、選択的に含有させる場合には、Bを0.0001%以上、Vを0.01%以上、Nbを0.003%以上各々含有させる。一方、過剰に含有させると加工性と溶接性が劣化する。したがって、各々の上限は、B:0.010%、V:0.50%、Nb:0.50%とする。
本発明に係る石油類タンク用鋼材における成分は上記の通りであり、残部は鉄および不可避的不純物(例えば、P、S、O等)からなるものである。ただ、これら以外にも鋼材の特性を阻害しない程度の成分(N等)も許容できる。但し、これら許容成分は、その量が過剰になると靭性が劣化するので、0.1%以下に抑えるべきである。
(カルコゲンとアルカリ土類金属とを含む介在物)
本発明では、カルコゲンとしてSe、Teの1種または2種と、アルカリ土類金属としてMg、Ca、Sr、Be、Ba、Raの1種または2種以上とを、両方含む介在物を鋼組織中に存在させる。これとともに、この存在させる介在物の形態と含有量とを、円相当径が0.5〜5.0μmの範囲であるこの介在物を、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に20〜200個含むものと規定する。
これによって、この介在物に、前記した硫黄分と水素イオンとの反応が関わる腐食環境において、腐食のカソード反応を大きく抑制させる効果を発揮させる。この結果、耐全面腐食性、塗装耐食性や耐すきま腐食性を向上させ、鋼材や鋼材を溶接した構造物自体に、優れた複合耐食性を持たせる。
また、この介在物は、前記した通り、この介在物を有する鋼材を、大入熱溶接などによって溶接しても、この溶接継手部分のHAZ部や近傍の母材部分で、上記特定の介在物は消滅せずに残留する特性を有する。したがって、素材鋼材だけでなく、本発明鋼材を溶接して製作した構造物でも、上記特定の介在物が存在して、優れた上記複合耐食性を有することができる。
図1〜6に、鋼材を大入熱溶接した後のHAZ部およびこのHAZ部に隣接する母材の各断面組織における介在物を各々示す。図1〜3がHAZ部介在物、図4〜6が母材介在物である。各図において、(a)は介在物の400倍の走査型電子顕微鏡(SEM)観察写真 (但し、観察組織の介在物が存在する一部のみを示す) 、(b)は(a)の介在物のP1 、P2 部におけるエネルギー分散X 線分析(EDX )での元素分析結果を示すチャート図である。
即ち、本発明における介在物か否かは、試料を例えばダイヤモンドペーストにより1 μm 程度まで鏡面研磨を施したサンプル面を、400倍の走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して介在物を確認し、この介在物をエネルギー分散X線分析(EDX)で化合物の元素分析を行うことにより確認できる。
図1〜3の母材部介在物において、図1、2が本発明介在物(後述する実施例における発明例7)であり、各図1、2の(b)に示すように、介在物のP1 部における元素分析結果で、カルコゲンとしてSeと、アルカリ土類金属としてCaとを、両方含む介在物であることが分かる。これに対して、図3のHAZ部介在物は、介在物のP1 部における元素分析結果では、Tiのみしか検出されず、本発明の介在物ではなく、Ti系の介在物であることが分かる(後述する実施例における比較例2)。
図4〜6のHAZ部介在物において、図4、5が本発明介在物であり(後述する実施例における発明例7)、各図4、5の(b)に示すように、介在物のP1 部における元素分析結果で、カルコゲンとしてSeと、アルカリ土類金属としてCaとを、両方含む介在物であることが分かる。これに対して、図6のHAZ部介在物は、介在物のP1 部における元素分析結果では、Si、Mnしか検出されず、本発明の介在物ではなく、Si、Mn系の介在物であることが分かる(後述する実施例における比較例2)。
(介在物の大きさ)
本発明介在物の粒径が小さ過ぎる場合には、カソードサイトにならないため、前記カソード反応抑制効果が発現されない。逆に、本発明介在物の粒径が大きすぎると、鋼材の機械特性を害する。このような観点から、本発明介在物の平均粒径(円相当径の平均値)は0.5μmから5.0μmとする。更に好ましくは、1.0μmから4.0μmとする。
介在物の大きさ測定は、前記介在物が、本発明介在物か否かを識別した前記サンプル面を、今度は、5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM )で観察し直し、画像解析をして行う。これにより、視野内の鋼組織に存在する、識別された本発明介在物の任意の100個の円相当径を求め、その平均値を平均粒径とする。これを、鋼材の切断面1mm2 に相当する視野数だけ行って、この結果を更に平均化して、切断面1mm2 当たりの鋼組織に存在する本発明介在物の円相当径とする。
(介在物の個数)
なお、鋼材乃至溶接後の鋼組織中に存在する本発明介在物の全ての平均粒径を上記範囲とすることは現実的ではない。即ち、実際には、この範囲より逸脱する、より小さいか、より大きい介在物が必然的に生じる。このため、本発明では、前記カソード反応抑制効果を最も発揮し、かつ鋼材の機械特性を害さない、上記範囲の大きさの本発明介在物の個数を規定して、前記カソード反応抑制効果を保証する。
このために、鋼材の任意の断面1mm2 当たりの当該化合物の個数は20個から200個の範囲とし、更に好ましくは、40個から180個の範囲が推奨される。
この本発明介在物の個数が少なすぎると、カソード反応抑制効果が小さいために腐食抑制効果が不十分となる。一方、この本発明介在物の個数が多すぎると、やはり鋼材の機械特性を害する。
これら本発明介在物の個数は、前記400倍の走査型電子顕微鏡観察とエネルギー分散X線分析によって識別された本発明介在物の内、上記円相当径が規定範囲内の本発明介在物の個数を求める。これを、鋼材の切断面1mm2 に相当する視野数だけ行って、この結果を更に平均化して、切断面1mm2 当たりの鋼組織に存在する、上記円相当径が規定範囲内の本発明介在物の個数とする。
(鋼材の製造方法)
本発明の鋼材を製造するには、アルカリ土類金属とカルコゲンとからなる化合物を作成乃至購入し、適当な粒度に調整して、溶鋼に添加して、組織中に存在させることも可能である。しかし、基本的には、アルカリ土類金属とカルコゲンとを合金元素として溶鋼に添加、含有させ、連鋳法あるいは造塊法により作製されたスラブ(鋼素材)を用いて、熱間圧延を制御圧延、冷却を制御冷却で行うことが好ましい。
上記スラブを用いて熱間圧延する場合に、前記本発明の介在物要件を満足させるためには、好ましくは、制御圧延後加速冷却する。これに依らない通常の熱間圧延(高温圧延−圧延後放冷)の場合、成分的には本発明範囲を満足しても、鋼材中に、本発明の前記所定サイズの介在物が、所定個数存在し得なくなる可能性が高い。
即ち、先ず、上記した組成の溶鋼を、転炉等の通常公知の溶製法で溶製し、ついで連続鋳造法等の通常公知の鋳造法で所定寸法のスラブとする。
この鋼素材を、均一な整粒オーステナイト組織にするために950〜1250℃の範囲に加熱する。この加熱後、カルコゲンとアルカリ土類金属とを実質的に含む上記特定の介在物を分解させないために、オーステナイト未再結晶域における累積圧下率を30%以上、圧延終了温度(圧延仕上温度)を650〜800℃とする熱間圧延(制御圧延)を施す。なお、本発明におけるオーステナイト未再結晶温度域は、概ね650〜950℃の範囲である。
この制御圧延では、圧延中のオーステナイト再結晶を抑制する効果もある。また、オーステナイト結晶粒界の面積を増大させ、オーステナイト粒内に歪エネルギーを蓄積させることができる。これにより、オーステナイト粒界およびオーステナイト粒内からのベイナイト変態を促進させることができる効果もある。
この熱間圧延後、圧延終了温度から室温までの温度域を、直接焼入れなど、10〜100℃/秒程度の範囲から選択される速度で急冷する。このような急冷しない場合、カルコゲンとアルカリ土類金属とを含む介在物が粗大化する可能性が高い。このため、円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物を、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に20〜200個含むことができなくなる可能性が高い。
この熱間圧延後の冷却は、ベイナイト組織分率が70%以上の鋼組織にすることができ、所望の強度、靱性を確保する効果もある。本発明では、上記冷却処理の後、さらに焼戻し処理を施すことができる。
(鋼材の表面処理)
本発明鋼材や構造物は、本発明介在物が、大入熱溶接などによって溶接しても、この溶接継手部分のHAZ部や近傍の母材部分で残留するため、基本的には、塗装を施さなくても鋼材自体が優れた耐食性を発揮するものである。
ただ、さすがに溶接の溶着部のみでは、本発明介在物も消滅しやすく、残留することが難しい。このため、この溶着部の保護のために、表面処理を行なう態様も好ましい。
表面処理としては、鋼板に施される通常の亜鉛めっきや塗装、これらの組み合わせなどが選択される。例えば、実施例に示すタールエポキシ樹脂塗料、あるいは、それ以外の代表される重防食塗装、ジンクリッチペイント、ショッププライマー、電気防食などの他の防食方法と併用することも可能である。また、防錆・防食シートとの併用も可能である。こうした防食塗装を施した場合には、後記実施例に示すように塗装膜自体の耐食性(塗装耐食性)も良好なものとなる。
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
(鋼材)
表1に示す1〜34の化学成分組成の鋼材を転炉で溶製し、連続鋳造および制御圧延−制御冷却(TMCP熱延方法)の共通の条件により、表2に示す1〜37の各種鋼板を製作した。即ち、鋼素材を1100℃の範囲に加熱後、オーステナイト未再結晶域における累積圧下率を70%、圧延終了温度(圧延仕上温度)を700℃とする熱間圧延(制御圧延)を施した。この熱間圧延後、圧延終了温度から室温までの温度域を直接焼入れし、約80℃/秒の冷却速度で急冷し、その後焼戻し処理を施し、板厚30mmの厚鋼板を製作した。
但し、表2に示す比較例35〜37のみは、鋼素材を1100℃の範囲に加熱後、オーステナイト未再結晶域における累積圧下率が20%であり、圧延終了温度(圧延仕上温度)が900℃とする、通常の熱間圧延を施した。そして、この熱間圧延後、圧延終了温度から室温までの温度域を空冷した。冷却速度は約1℃/秒であった。なお、表2には、対応する表1の鋼板番号も、鋼Noとして記載する。
これら表2に示す1〜37の各鋼板母材の引張、衝撃特性を測定した結果、比較例10、12以外は、発明例、比較例とも、全て、YS:460〜520MPa、TS:610〜670、破面遷移温度( vTrs ):−80〜−100℃の範囲であり、船舶用鋼材としての必要な引張、衝撃特性を満足していた。
比較例10は、表1の鋼板10のCa量が規定値より多いために破面遷移温度が−80℃以上となり、比較例12は、表1の鋼板12のSeが規定値より多いためYSが460MPaを下回っていた。したがって、これらは船舶用鋼材としては好ましいとは言えない機械特性であった。
(1) 引張特性
各厚鋼板の板厚中心部から、JIS 4 号引張試験片を採取して引張試験を実施し、降伏強さ(0.2 %耐力)および引張強さを測定した。
(2) 母材靱性
各厚鋼板の板厚中心部から、JIS 4 号衝撃試験片を採取し.シャルピー試験を実施して母材の脆性破面遷移温度(vTrs) を求めた。
(供試材)
前記各厚鋼板同士(表面研削をして25mm厚さとしたもの)を、入熱量100KJ/mmのエレクトロスラグ溶接により、突き合わせ、中央部を横断する接合部(溶着部)を有する100×100mmの大きさの溶接継手を、各々作製した。
そして、これら溶接継手のHAZ部(接合部から5〜10mm離れた部分)と母材部(接合部から20mm離れた部分)の鋼断面中央部における介在物を各々調査した。即ち、この鋼断面中央部における組織中のカルコゲンとアルカリ土類金属とを両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物の前記切断面1mm2 当たりの鋼組織中の個数を、前記した測定方法により調査した。なお、上記母材部の介在物の存在状態は、溶接前の鋼材(鋼板)の介在物の存在状態をも表す。これらの結果を表2に示す。
そして、これら溶接継手または前記厚鋼板を用いて、下記試験片A、試験片Bおよび試験片Cとした試験片を作成して、各々5個ずつ用い、下記の腐食試験に供した。
試験片Aは、上記の溶接継手(100×100mm)において、HAZ部(接合部から5〜10mm離れた部分)や母材部(HAZ部より外縁部)を除き、この溶着部(幅4mm)にのみ、幅6mm、平均厚さ250μmのタールエポキシ樹脂塗装(下塗り:ジンクリッチプライマー)を施した。
試験片Bは、上記の厚鋼板を切断し、表面研削をして25mm厚さとした小試験片(20×20mm)を作製して、この小試験片4個を上記試験片A上に、互いに20mm間隔、試験片縁部Aから20mm間隔で載置し、小試験片と試験片Aとの間に、微小なすきま部を形成した試験片を作製した。そして、小試験片の中心に10mmφの孔を開け、基材側(大試験片側)にねじ孔を開けて、両者をM8プラスチック製ねじで固定した。
試験片Cは、上記の溶接継手(100×100mm)に、平均厚さ250μmのタールエポキシ樹脂塗装(下塗り:ジンクリッチプライマー)を全面に施した試験片を作製した。そして、防食のための塗膜に傷が付いて素地の鋼材が露出した場合の腐食進展度合いを調べるために、試験片の片面に、鋼素地まで達するカット傷(長さ:300mm、幅:約0.5mm)を、カッターナイフで中央部を交点とする×点状に形成した。
まず船舶が曝される海洋環境を模擬して、海水噴霧試験と恒温恒湿試験の繰り返しによる複合サイクル腐食試験を行った。海水噴霧試験では、水平から60°の角度で傾けて供試材(各試験片A〜C)を試験槽内に設置し、35℃の人工海水(塩水)を霧状に噴霧させた。塩水の噴霧は常時連続して行った。このとき試験槽内において、水平に設置した面積80cm2 の円形皿に1時間当たりに1.5±0.3mLの人工海水が任意の位置で採取されるような噴霧量に予め調整した。恒温恒湿試験は、温度:60℃、湿度:95%に調整した試験槽内に、供試材を水平から60°の角度で傾けて設置して行った。海水噴霧試験:4時間、恒温恒湿試験:4時間を1サイクルとして、これらを交互に行って、供試材を腐食させた。トータルの試験時間は6ヶ月間とした。
(1)試験片Aについては、試験前後の重量変化を平均板厚減少量D-ave(mm)に換算し、試験片5個の平均値を算出して、各供試材の全面腐食性を評価した。また、触針式三次元形状測定装置を用いて試験片Aの最大侵食深さD-max(mm)を求め、平均板厚減少量[D-ave(mm)]で規格化して(即ち、D-max/D-aveを算出して)、腐食均一性を評価した。尚、試験後の重量測定および板厚測定は、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法[JIS K8284]により鉄錆等の腐食生成物を除去してから行った。
(2)試験片Bについては、すきま部(接触面)の目視観察を行ってすきま腐食発生の有無を調べ、すきま腐食が認められる場合には、上記陰極電解法により腐食生成物を除去し、触針式三次元形状測定装置を用いて最大すきま腐食深さD-crev(mm)を測定した。
(3)塗装処理を施した試験片C(カット傷付き)については、試験後にカット傷を形成した面における塗膜膨れ面積の比率(膨れ面積率)を測定した。膨れ面積率は格子点法(格子間隔1mm)によって求めた。即ち、膨れの認められた格子点の数を全格子点数で除したものを膨れ面積率と定義して、試験片5個の平均値を求めた。また、カット傷に垂直方向の塗膜膨れ幅をノギスで測定し、試験片5個の最大値を最大膨れ幅と定義した。
これら、耐全面腐食性(D-ave)、腐食均一性(D-max/D-ave)、耐すきま腐食性(D-crev)、塗装耐食性(膨れ面積率および最大膨れ幅)の評価基準は表4に示す通りである。
(腐食試験結果)
これらの腐食試験結果を表2に示す。各発明例は、化学成分組成が本発明範囲を満足し、かつ好ましい制御圧延−制御冷却により製造されている。このため、大入熱溶接継ぎ手においても、カルコゲンとアルカリ土類の元素と両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物を、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に20〜200個含んでいる。
この結果、各発明例は、表2の通り、石油類用鋼材としての、耐全面腐食性、腐食均一性、耐すきま腐食性に優れている。
これに対して、各比較例は、化学成分組成、特に、カルコゲンとアルカリ土類の元素量が本発明範囲から外れる。また、化学成分組成が本発明範囲を満足しても、通常の熱間圧延により製造されている。このため、大入熱溶接継ぎ手においても、カルコゲンとアルカリ土類の元素と両方含む介在物が粗大化し、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの、円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物の個数が少な過ぎる。
この結果、各比較例は、耐全面腐食性はやや改善しているが、腐食均一性や耐すきま腐食性などでは改善効果が認められず、石油類用鋼材の耐食性としては不十分である。
(実船暴露試験)
更に、前記溶接継手または前記厚鋼板を用いて、下記試験片D、試験片Eおよび試験片Fとした試験片を作成して、各々5個ずつ用い、実船暴露試験に供した。
試験片Dは、前記試験片Aと同様に、上記の溶接継手において、HAZ部(接合部から5〜10mm離れた部分)や母材部(HAZ部より外縁部)を除き、この溶着部(幅4mm)にのみ、幅6mm、平均厚さ250μmのタールエポキシ樹脂塗装(下塗り:ジンクリッチプライマー)を施した。但し、溶接継手の大きさは300×300mmとした。
試験片Eは、前記試験片Bと同様に、上記の厚鋼板を切断し、表面研削をして25mm厚さとした小試験片(60×60mm)を作製して、この小試験片4個を上記試験片D上に、互いに60mm間隔、試験片縁部Aから60mm間隔で載置し、小試験片と試験片Dとの間に、微小なすきま部を形成した試験片を作製した。そして、小試験片の中心に10mmφの孔を開け、基材側(大試験片側)にねじ孔を開けて、両者をM8プラスチック製ねじで固定した。
試験片Cは、上記の溶接継手(大きさは300×300mm)に、平均厚さ250μmのタールエポキシ樹脂塗装(下塗り:ジンクリッチプライマー)を全面に施した試験片を作製した。そして、防食のための塗膜に傷が付いて素地の鋼材が露出した場合の腐食進展度合いを調べるために、試験片の片面に、鋼素地まで達するカット傷(長さ:300mm、幅:約0.5mm)を、カッターナイフで中央部を交点とする×点状に形成した。
(実船暴露試験)
各試験片D〜Fを、VLCC原油タンカーの内面の底板および上甲板裏に取り付けて、半年間の通常運航の後、各供試材の腐食状況を調査した。底板および甲板裏には、試験片D、EおよびFをそれぞれ10個ずつ暴露した。
試験後の試験片Dについては、クエン酸水素二アンモニウム水溶液中での陰極電解法(JIS K8284)により鉄錆等の腐食生成物の除去を行った。また、試験片Eについても、すきま形成用の小試験片を取り外し、同様の方法で腐食生成物の除去を行った。
(1)試験片Dについては、試験前後の重量変化を平均板厚減少量D-ave(mm)に換算し、試験片10個の平均値を算出して、各供試材の全面腐食性を評価した。また、触針式三次元形状測定装置を用いて試験片Dの最大侵食深さD-max(mm)を求め、平均板厚減少量[D-ave(mm)]で規格化して(即ち、D-max/D-aveを算出して)、腐食均一性を評価した。
(2)試験片Eについては、触針式三次元形状測定装置を用いて大試験片側のすきま腐食深さを測定し、試験片10個の最大値を最大すきま腐食深さD-crev(mm)とした。
(3)塗装処理を施した試験片F(カット傷付き)については、カット傷に垂直方向の塗膜膨れ幅(mm))をノギスで測定し、試験片10個の最大値を最大膨れ幅と定義した。
これらの耐全面腐食性(平均板減少量:D-ave)、腐食均一性(D-max/D-ave)、耐すきま腐食性(D-crev)、塗装耐食性(最大膨れ幅)の評価基準は表4に示す通りである。
(腐食試験結果)
腐食試験結果を表3に示す。各発明例は、上記した表2の模擬腐食試験結果と同様に、この実船暴露試験における、耐全面腐食性、腐食均一性、耐すきま腐食性、塗装耐食性に優れている。したがって、石油類用鋼材や溶接構造物としての優れた複合耐食性が裏付けられる。
これに対して、各比較例は、上記した表2の模擬腐食試験結果と同様に、この実船暴露試験における、耐全面腐食性、腐食均一性、耐すきま腐食性、塗装耐食性が劣っている。したがって、石油類用鋼材や溶接構造物としての優れた複合耐食性を有するための本発明要件の臨界的な意義が裏付けられる。
Figure 0004445444
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本発明に係る石油類用鋼材は、鋼材としても、大入熱溶接された溶接継手としても、優れた複合耐食性を有することができる。この結果、原油タンカー、石油類貯蔵設備、石油類輸送機などの石油類タンクの構成材料として好適に用いることができ、石油類タンクの耐食性の向上による耐久性の向上が図れる。
鋼材を大入熱溶接した後のHAZ部の断面組織における介在物を示す図面代用写真である。 鋼材を大入熱溶接した後のHAZ部の断面組織における介在物を示す図面代用写真である。 鋼材を大入熱溶接した後のHAZ部の断面組織における介在物を示す図面代用写真である。 鋼材を大入熱溶接した後の母材の各断面組織における介在物を示す図面代用写真である。 鋼材を大入熱溶接した後の母材の各断面組織における介在物を示す図面代用写真である。 鋼材を大入熱溶接した後の母材の各断面組織における介在物を示す図面代用写真である。

Claims (7)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.30%、Si:0.01〜2.0%、Mn:0.01〜2.0%、Al:0.005〜0.10%を含有し、更に、カルコゲンとしてSe、Teの1種または2種を合計で0.0005〜0.50%、およびアルカリ土類金属としてMg、Ca、Sr、Be、Ba、Raよりなる群から選ばれる1種または2種以上を合計で0.0005〜0.015%、を各々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、前記Se、Teの1種または2種と、前記Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raの1種または2種以上とを両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物を、鋼材の任意の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に20〜200個含むことを特徴とする複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  2. 更に、質量%で、Cu:0.01〜5.0%、Ni:0.01〜5.0%、Cr:0.01〜5.0%、Ti:0.005〜0.20%、Co:0.01〜5.0%、よりなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1記載の複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  3. 更に、質量%で、Mo:0.01〜2.0%、W:0.01〜2.0%の1種または2種を含有する請求項1または2に記載の複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  4. 更に、質量%で、As:0.005〜0.50%、Sb:0.005〜0.50%、Sn:0.005〜0.50%の1種または2種以上を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  5. 更に、質量%で、B:0.0001〜0.010%、V:0.01〜0.50%、Nb:0.003〜0.50%の1種または2種以上を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  6. 原油タンカーのタンク用素材として用いられる請求項1乃至4のいずれかに記載の複合耐食性に優れた船舶用鋼材。
  7. 請求項1乃至6のいずれかに記載の鋼材を溶接した溶接構造物であって、溶接された鋼材の母材部およびHAZ部に、Se、Teの1種または2種と、Mg、Ca、Sr、Be、Ba、Raの1種または2種以上とを両方含み、かつ円相当径が0.5〜5.0μmの範囲である介在物を、溶接された鋼材の前記各部位の切断面1mm2 当たりの鋼組織中に、20〜200個含むことを特徴とする複合耐食性に優れた溶接構造物。
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