JP4443668B2 - 繊維構造物及びその加工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アレルギー症状を和らげる消炎性と抗菌性とを併せ持つと共に、風合がソフトで肌への刺激が低く、しかもこれらの性能の洗濯耐久性に優れた衣料用繊維構造物及びその加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来から、肌に刺激の少ない繊維構造物としては、綿100%の洗いざらしが最も有効であるとされており、最近では、アトピー性皮膚炎の患者、アレルギー症状の人、肌の荒れやすい人、更にはベビー用途等に抗菌性を付与した繊維構造物、又は肌に刺激のある化学物質をできるだけ使用しない繊維構造物の開発が望まれていた。
【0003】
また古来から、消炎性を有する化合物として甘草エキスの抽出成分であるグリチルリチン酸、グリチルレチン酸、及びこれらの誘導体が知られている。これらの化合物は抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗腫瘍作用、解毒作用、肝機能改善作用、及び脱コレステロール作用などを有すると共に、毒性が無く、高い皮膚安全性を有しており、諸疾患の治療及び予防として、例えば医療内服薬、注射、点眼剤、湿疹、及びかぶれ等の皮膚治療薬などに広く利用されている。
【0004】
この場合、繊維構造物に抗菌性を付与する方法としては、例えば特開平8−134778号公報には、キトサンとグリチルリチン酸ジカリウム及びヤシ油脂肪酸加水分解コラーゲントリエタノールアミンで処理した抗菌防臭効果を有する繊維製品の加工方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、この方法では、特殊な加工剤及び加工方法が必要となり、一般的なものではなかった。
【0006】
一方、アレルギー症状を和らげる消炎性を有する繊維構造物は、特に、最近増加しているアトピー性皮膚炎患者用衣料として、その開発が望まれていた。
【0007】
このため、特開平10−131043号公報には、繊維構造物の少なくとも繊維表面に、グリチルリチン酸化合物及びグリチルレチン酸化合物から選ばれた少とも1種の成分を含む薬剤が固着されている抗アトピー性繊維構造物が開示されており、上記薬剤をそのままの状態又はマイクロカプセル化された状態で、合成樹脂バインダーにより布帛等の繊維構造物に固着させるものである。
【0008】
しかしながら、上記方法では、マイクロカプセル化に手間がかかると共に、マイクロカプセル化しない場合には、湿式分散した組成物の粒子が大きいと合成樹脂バインダーがこれら粒子を繊維に保留密着させる能力が十分でないため、洗濯耐久性が不十分となる。また、合成樹脂バインダー成分にはアレルギー作用があり、アトピーを増大させるおそれがあり、抗アトピー用衣料としては不向きなものである。
【0009】
また、上記方法では、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリルなどの合成繊維においては、一定の洗濯耐久性が得られるが、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、テンセル(商品名)、リヨセル(商品名)等の再生セルロース繊維、及びこれらと合成繊維とを混用した綿/ポリエステル、綿/スパンデックス、レーヨン/ポリエステル繊維等の混紡繊維などのセルロース系繊維からなる繊維構造物に対しては、洗濯耐久性が極めて得られにくく、しかも肌触りが悪く、粗悪な風合になるという欠点がある。
【0010】
また、特公昭51−36399号公報には、塩化ベンザルコニウム若しくはクロルヘキシジングルコネート、グリチルリチン酸若しくはその塩及び/またはグリチルレチン酸若しくはその塩とを含浸せしめた殺菌効果及びかぶれ防止効果のある繊維製品が開示されており、沈殿防止のためにメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びポリエチレングリコールなどの水溶性非イオン系高分子化合物を安定剤として添加した水溶液を用いて噴霧含浸させる方法が好ましいとされている。
【0011】
しかしながら、この方法では有効成分と繊維構造物との固着が不十分であり、洗濯耐久性が劣る上に、ソフトな風合、肌にやさしい繊維製品が得られないという問題があった。
【0012】
このようにアレルギー症状を和らげる消炎性及び抗菌性を有すると共に、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、テンセル(商品名)、リヨセル(商品名)等の再生セルロース繊維、及びこれらと合成繊維とを混用した綿/ポリエステル、綿/スパンデックス、レーヨン/ポリエステル繊維等の混紡繊維などのセルロース系繊維からなる繊維構造物に対して、優れた洗濯耐久性を有し、ソフトな風合、肌にやさしい繊維構造物の開発が切望されていた。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、アレルギー疾患を和らげる消炎性及び抗菌性を有すると共に、優れた洗濯耐久性を備え、しかも風合がソフトであり、肌にやさしい衣料用繊維構造物、及びその加工方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物(以下、「グリチルレチン酸化合物」と略記する)を動植物油に溶解し、界面活性剤にて乳化してなる乳化分散液を繊維構造物に付与した後、140〜180℃で熱処理することにより、特に、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、テンセル(商品名)、リヨセル(商品名)等の再生セルロース繊維、及びこれらと合成繊維とを混用した綿/ポリエステル、綿/スパンデックス、レーヨン/ポリエステル繊維等の混紡繊維などのセルロース系繊維からなる繊維構造物であっても、グリチルレチン酸化合物が固着して、アレルギー疾患を和らげる優れた消炎性及び抗菌性を有すると共に、これら優れた性能が繰り返し洗濯を行っても長期に亘り維持し得、しかも風合がソフトで、肌にやさしい繊維構造物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
本発明の加工が施されたセルロース系繊維からなる繊維構造物を用いた繊維製品は、特にアトピー性皮膚炎の患者、アレルギー症状の人、肌の荒れやすい人が直接肌を接する肌着、ランジェリー、寝具寝装品、シーツ、パジャマ、タオル、手袋、オムツ等の介護用品などに最適なものであることは勿論、消炎性に加えて抗菌性にも優れているため、ベビー用衣料、免疫力の低下している高齢者用衣料、病気療養中の患者用衣料などにも広く適用できるものである。
【0016】
なお、本発明の繊維構造物の加工方法により、セルロース系繊維からなる繊維構造物が優れた洗濯耐久性を有する理由は定かではないが、グリチルレチン酸化合物が動植物油に包含された状態で繊維に付与され、更に140〜180℃の熱処理を施すことにより、動植物油が熱体膨張を起こし、綿、レーヨン等の比較的粗大なセルロース系繊維の非結晶領域を満たすと共に、グリチルレチン酸化合物の末端鎖状分子が分子レベルで複雑に絡み合ってブロック化されることにより、これらが相俟って、グリチルレチン酸化合物がセルロース系繊維の非結晶領域に狭閉塞され、繊維中からグリチルレチン酸化合物が極めて脱落し難くなり、優れた洗濯耐久性を奏するものと推測される。このことは綿、レーヨン等のセルロース系繊維に比べて非結晶領域が狭小であるポリエステル、ナイロン等の合成繊維では本発明の加工方法を施しても洗濯耐久性が得られないことからも推測される。
【0017】
従って、本発明は、
第1に、グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物を、スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油に溶解し、界面活性剤で乳化してなる乳化分散液をセルロース系繊維に付与した後、140〜180℃で熱処理することにより得られ、上記グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物と、上記スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油と、上記界面活性剤とが上記セルロース系繊維に固着されてなる衣料用繊維構造物、及び
第2に、グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物を、スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油に溶解し、界面活性剤で乳化してなる乳化分散液を、セルロース系繊維構造物に付与した後、140〜180℃で熱処理することを特徴とする衣料用繊維構造物の加工方法
を提供する。
【0018】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の繊維構造物は、グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物と、動植物油と、界面活性剤とが繊維構造物に固着されてなるものである。
【0019】
ここで、本発明のグリチルレチン酸化合物としては、甘草より得られるグリチルリチン酸のアグリコンであるグリチルレチン酸の誘導体であるグリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物が用いられる。
【0020】
具体的には、グリチルレチン酸と炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和の高級アルコール、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノールアルコール等とのエステル化合物、又はグリチルレチン酸と炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和の高級脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等とのエステル化合物が挙げられ、特に下記一般式で示されるものが好ましい。
【0021】
【化1】
(但し、式中、R1は水酸基、又は炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和の高級アルコールのエステル残基、R2は水素原子、又は炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和の高級脂肪酸のエステル残基を示す。なお、R1が水酸基、R2が水素原子を同時に満たすことはない。)
【0022】
上記式中、R1は、水酸基、又は炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和の高級アルコールのエステル残基、例えばCH3(CH2)10O−、CH3(CH2)12O−、CH3(CH2)14O−、CH3(CH2)16O−、CH3(CH2)18O−、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7O−、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6O−、CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6O−などが挙げられる。
【0023】
また、R2は水素原子、又は炭素数10以上、好ましくは12〜20の飽和又は不飽和高級脂肪酸のエステル残基、例えばCH3(CH2)10CO−、CH3(CH2)12CO−、CH3(CH2)14CO−、CH3(CH2)16CO−、CH3(CH2)18CO−、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7CO−、CH3(CH2)4(CH=CHCH2)2(CH2)6CO−、CH3CH2(CH=CHCH2)3(CH2)6CO−などが挙げられる。
【0024】
このようなグリチルレチン酸化合物としては、例えばグリチルレチン酸ステアリル、グリチルレチン酸パルミチル、グリチルレチン酸セチロイル、3−ステアリン酸グリチルレチニル、3−ラウリン酸グリチルレチニル、3−パルミチン酸グリチルレチニルなどが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも特にグリチルレチン酸ステアリルが後述する動植物油との混合溶解性の点から好ましい。
【0025】
上記グリチルレチン酸化合物を混合溶解するための動植物油としては、多くのものを用いることができる。その一例を示せば、動物油としてはスクワラン、イワシ油、ラード油等が挙げられる。植物油としては麻実油、綿実油、ひまし油、硬化ひまし油、からし油、とうもろこし油、大豆油、コメハイガ油、桐油、オリーブ油、シソ油、パーム油、ヤシ油、えの油、ナタネ油、ヒマワリ油、あまに油、ホホバ油等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
これら動植物油の主成分はオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、イワシ酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸等の不飽和及び飽和高級脂肪酸などである。なお、リノール酸、リノレン酸、イワシ酸などは繊維に付着した場合、長期間放置すると酸化重合等により臭気を発生したり、変色を起こす恐れがあるので、水素添加により飽和脂肪酸としたものを用いることが好ましい。
【0027】
この場合、動植物油自体がアレルギー性皮膚疾患に有効に作用する動植物油を用いることが本発明の目的を達成する上で好ましく、中でも皮膚保湿性を有するスクワラン、ホホバ油等、免疫調節性を有するシソ油、オリーブ油等を用いることが好ましい。
【0028】
また、動植物油は、元来、繊維の肌触りを優雅にする柔軟性能、及び平滑性能を有しているため、グリチルレチン酸化合物と併用することにより、消炎性に加えて、一段とソフトな風合、肌触りを繊維構造物に付与できるものである。
【0029】
上記界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤など、いずれも市販品を使用することができるが、中でも皮膚疾患の発生のない、又は軽微な化粧品原料基準に収載された界面活性剤が好ましく、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、サポニン、オリゴ配糖体、リン脂質系バイオサーファクタント、アシルペプチド系バイオサーファクタント、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリリン酸ナトリウム、モノオレイン酸ソルビタン、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸エチレングリコール、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドなどの界面活性剤が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の繊維構造物は、上記グリチルレチン酸化合物と、動植物油と、界面活性剤とを含む乳化分散液を水、好ましくは精製水で希釈調整し、これを繊維構造物に付与した後、熱処理することにより、グリチルレチン酸化合物と、動植物油と、界面活性剤とが繊維構造物に固着されてなるものである。
【0031】
この場合、上記乳化分散液中のグリチルレチン酸化合物と動植物油と界面活性剤との混合割合は、特に制限されないが、重量比でグリチルレチン酸化合物:動植物油:界面活性剤=1〜10:1〜30:1〜15であることが好ましく、より好ましくは1〜10:15〜25:5〜8である。上記混合割合範囲を外れると消炎性、抗菌性が十分発揮されなかったり、乳化分散物の分散性、繊維構造物への固着性が損なわれる場合がある。
【0032】
上記繊維構造物の素材としては、セルロース系繊維からなるものが好ましく、このセルロース系繊維としては、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、テンセル(商品名)、リヨセル(商品名)等の再生セルロース繊維、アセテート等の半合成繊維、及びこれら繊維と羊毛、絹等の天然繊維又はポリエステル等の合成繊維とを混用した綿/羊毛、綿/ポリエステル、綿/スパンデックス、レーヨン/ポリエステル繊維等の混紡繊維等からなるものが挙げられる。これらセルロース系繊維の中でも、上記綿等の天然繊維、又はレーヨン等の再生セルロース繊維が好ましく、特に綿等の天然繊維が好ましく、最も好ましいのは綿である。また、繊維構造物としては、上記素材からなる綿、糸、織編物、不織布等及びこれらの縫製品などが挙げられる。
【0033】
本発明において、グリチルレチン酸化合物の繊維構造物への固着量は、0.01重量%以上、好ましくは0.05〜2重量%、より好ましくは0.1〜1重量%である。グリチルレチン酸化合物の繊維構造物への固着量が0.01重量%未満では、洗濯耐久性のある消炎性、抗菌性を発揮し得なくなる場合があり、一方、多すぎると、炎症やアレルギーに対する効果がそれ以上配合量に比例して上昇することはなく、却って繊維の風合を損なう場合がある。
【0034】
本発明の乳化分散液には、上記以外の任意成分として、通常用いられる配合剤、例えばアルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類などを配合することができる。なお、任意成分はこれらに限定されるものではない。
【0035】
なお、本発明では、必要に応じて、セルロース繊維の非結晶領域に狭閉鎖されなかったグリチルレチン酸化合物の固着、及び混紡繊維として用いるポリエステル、ナイロン等の合成繊維上にもグリチルレチン酸化合物を固着させることを目的として、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン系樹脂等の造膜性の合成樹脂バインダーを併用することもできるが、本発明によれば、合成樹脂バインダーの使用量は極めて少量でその目的を達成し得、これによるアレルギーは生じないものである。
【0036】
次に、本発明の繊維構造物の加工方法は、グリチルレチン酸化合物を動植物油に溶解し、界面活性剤で乳化してなる乳化分散液を繊維構造物に付与した後、140〜180℃で熱処理するものである。
【0037】
上記乳化分散液の作製方法は、特に制限されず、例えばグリチルレチン酸化合物、動植物油及び界面活性剤をホモミキサー等で攪拌し、均一化し、必要に応じて昇温し、次いで、水を添加し、攪拌することにより得ることができる。
【0038】
この場合、乳化分散液は、まず、高濃度乳化分散液を作製し、これを水で随時調製して使用することができる。また、高濃度乳化分散液を経ずに直接使用濃度の乳化分散液を作製してもよいが、乳化分散液の保存、管理上、高濃度乳化分散液を経る方法の方が好ましい。
【0039】
上記乳化分散液に繊維構造物を浸漬し、マングル又は遠心脱水機で絞り、その後、乾燥する。この場合、絞り率は、最終的に繊維構造物に固着させるグリチルレチン酸化合物の量に応じて適宜調整することができる。また、乾燥は、次の熱処理工程の前にできるだけ水分を除去しておくために行うものであり、通常の乾燥条件を採用することができる。
【0040】
次に、熱処理を行う。この熱処理は繊維構造物にグリチルレチン酸化合物を固着させ、優れた洗濯耐久性を付与するために行うものであり、140℃〜180℃で20秒〜5分、特に140℃〜160℃で40秒〜3分の条件で行うことが好ましい。熱処理条件が上記範囲を下回るとグリチルレチン酸化合物の繊維への固着が不十分となり、洗濯耐久性が劣る。一方、上記範囲を上回ると繊維構造物の強度低下と乳化分散液が変色し、これにより繊維構造物が着色してしまう。
【0041】
本発明の加工方法により得られるセルロース系繊維からなる繊維構造物は、アレルギー性皮膚炎等の消炎効果を有効に発揮させるため、直接肌に接する繊維製品に用いることが好ましく、例えば肌着類、ランジェリー、寝具寝装品、シーツ、パジャマ、タオル、手袋、帽子、包帯、ガーゼ、オムツ等の介護用品などに好適なものである。また、本発明の繊維構造物は、優れた消炎性と抗菌性とを兼ね備えているので、ベビー用衣料、免疫力の低下している高齢者用衣料、病気療養中の患者用衣料等にも広く適用できるものである。
【0042】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
グリチルレチン酸ステアリル(商品名シーオー・グレチノール;丸善製薬社製)40g、ホホバ油200g、ポリオキシエチレン(13モル)セチールエーテル(商品名ニューコール;日本乳化剤社製)48g、ホスファチジルコリン(商品名:テックコリン、テックケム研究所製)10g、ヤシ油脂肪酸ソルビタン(商品名イオネット;三洋化成社製)4g、ポリオキシエチレン(75モル)ポリオキシプロピレン(35モル)エーテル(商品名ニューポール;三洋化成社製)8gを容器に秤量し、ホモミキサー1000rpm攪拌下で85℃に昇温し、均一にした後、内容物を80〜90℃に保温しながら、70℃精製水80gを10分かけて滴下し、ホモミキサー3500rpmにて1時間高速攪拌した。保温を止めて60℃温水200gを10分かけて滴下し、更に、ホモミキサー500rpm攪拌下で、40℃温水410gを10分かけて投入し、ホモミキサーの攪拌を止めて冷却することにより、乳白色乳化物1000gを得た。得られた乳化物75gに精製水925gを加え、この調整した液に綿100%ダブルニットを絞り率92%でパッドドライ100℃×5分、更に、熱処理150℃×2分行い、実施例1の処理布を得た。
【0044】
[実施例2]
グリチルレチン酸ステアリル(同上)60g、オリーブ油200g、酸化ポリエチレンワックス(商品名ハイワックス;三井石油化学社製)4g、ポリオキシエチレン(14モル)オレイル・セチルエーテル(商品名エマルミン;三洋化成社製)43g、モノステアリン酸ソルビタン(商品名イオネット;三洋化成社製)8gを実施例1と同様に精製水を加えて、ホモミキサーで攪拌処理し、乳白色乳化物1000gを得た。得られた乳化物50gに精製水950gを加え、この調整した液を用いて綿100%ダブルニットに実施例1と同様の処理を行い、実施例2の処理布を得た。
【0045】
[比較例1]
グリチルレチン酸ステアリル(同上)60g、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(商品名ペポール;東邦ケミカル社製)3g、ポリオキシエチレン(10モル)オクチルフェノールエーテル(商品名エマルミン;三洋化成社製)8g、ポリオキシエチレン(40モル)ノニルフェノールエーテル硫酸ナトリウム塩アクティブ45%(三洋化成社製)8g、精製水921gを容器に秤量し、ホモミキサー1000rpm攪拌下で1時間仮分散した。その後、ボールミルで8時間湿式粉砕分散することにより、乳白色分散物1000gを得た。この分散物50gを精製水950gで調整した液を用いて綿100%ダブルニットに実施例1と同様の処理を行い、比較例1の処理布を得た。
【0046】
[比較例2]
上記比較例1で得られた分散物60g、バインダーとしてポリアクリルウレタンブロックイソシアネートアクティブ35%(商品名テックコート;京絹化成社製)50g、有機錫系触媒アクティブ14%(商品名テックコート;京絹化成社製)5g、精製水931.3gで調整した液を用いて綿100%ダブルニットに実施例1と同様の処理を行い、比較例2の処理布を得た。
【0047】
[比較例3]
ブチルアクリレート及びメタメチルアクリレートを主体にしたソープレスポリアクリルエマルジョンアクティブ35%(商品名KCレジン;京絹化成社製)956g、ポリオキシエチレン(40モル)ノニルフェノールエーテル硫酸ナトリウム塩アクティブ45%(三洋化成社製)4g、グリチルレチン酸ステアリル(同上)40gを羽根式攪拌機500rpmで1時間攪拌混合し、白色分散物1,000gを得た。得られた分散物75gを精製水925gで調整した液を用いて綿100%ダブルニットに実施例1と同様の処理を行い、比較例3の処理布を得た。
【0048】
[比較例4]
精製水のみにて綿100%ダブルニットに実施例1と同様の処理を行い、比較例4の処理布を得た。
【0049】
次に、実施例1,2、比較例1〜4の処理布を下記方法により洗濯耐久性、処理布中のグリチルレチン酸ステアリル量を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
洗濯耐久性試験
JIS−0217−103法に準じて、洗濯1回、5回、10回を行い、洗濯後の風合いを下記基準により判定した。
<風合評価基準>
◎:処理しない布より柔軟性を強く感じる。
○:処理しない布より柔軟性を感じる。
□:処理しない布とほぼ同じ風合い。
△:処理しない布より硬さを感じる。
×:処理しない布より硬さを強く感じる。
【0051】
繊維中に存在するグリチルレチン酸ステアリルの測定方法
実施例1,2、比較例1〜4で得られた布を各々細かく裁断し、その約2gを精密に秤量した。これにクロロホルムを各80ml加えて3回繰り返し抽出し、その後、クロロホルムをエバポレーターで蒸発させて乾固物を得た。得られた乾固物に下記高速液体クロマトグラフィー用移動層溶媒20mlを加えて溶解し、メンブランフィルターでろ過した後、正確に25mlとした。
この液を高速液体クロマトグラフィー装置(日本分光社製)を用いて、下記高速液体クロマトグラフィー測定条件で繊維中に存在するグリチルレチン酸ステアリル量を測定した。また、未洗濯、各洗濯後の布中のグリチルレチン酸ステアリル量をそれぞれ測定し、未洗濯の布を100%とした時の各洗濯後のグリチルレチン酸ステアリル量の残存率を算出した。
<高速液体クロマトグラフィー測定条件>
移動層溶媒 メタノール:エタノール=8:2
カラム:逆相系オクタデシルシリル化シリカゲルカラム(4.6mm×250mm、10μ)
温度:40℃
流速:2ml/min
検出:紫外線吸収波長254nm
【0052】
【表1】
表1の結果から、実施例1,2の乳化物を用いて処理された布は、比較例1〜4に比べて洗濯耐久性に優れているのみならず、風合いが極めて優れていること、また、グリチルレチン酸ステアリルの繊維中の含有量及びその残存率の結果からアレルギー性皮膚炎等に対する消炎効果が期待できるものである。
【0053】
[実施例3]
実施例2で作成した乳化物40gを精製水960gで調整した液に、綿100%ニットフライスを絞り率100%でパッドドライ100℃×5分、更に、熱処理150℃×2分行って実施例3の処理布を得た。
【0054】
実施例3のニット繊維について、下記カラギーニン エデマ メソッド(Carrageenin Edema Method)により抗炎症作用試験を行った。結果を表2に示す。
【0055】
抗炎症作用試験法
ウイスター系雄性ラット110g前後を20匹購入し、1週間予備飼育後、体重を測定し、1群6匹の3群に分けた。そして、右足踵の容積を足容積測定装置(TK−105 室町機械社製)で測定した。次に、起炎剤(1%カラギーニン)の投与2時間前に試料の布を3×6cmに裁断し、スクワラン200μlを浸透させた後、右足踵に塗布(巻き付け)し、その上からサージカルテープで軽く縛って固定した。
試料塗布開始から2時間後、固定した布を取り除き、予め生理食塩水を用いて溶解した1%カラギーニン(Carrageenin;和光純薬社製)溶液を、ラット1匹当たり0.1ml右足踵に投与し、投与後1,2,3,4及び5時間後の右足踵容積を測定し、下記式より浮腫率、抑制率を求めた。
浮腫率(%)={(B−A)/A}×100
A:起炎剤投与前の右足踵容積
B:起炎剤投与後の右足踵容積
抑制率(%)={(C−D)/C}×100
C:コントロールの浮腫率
D:実施例3の浮腫率
【0056】
【表2】
**:99%で有意差あり(Significant at 99%)
表2の結果から、無処理品をコントロールとした場合、急性炎症の発症が最高となる投与後時間である3時間目で比較すると、実施例3ではコントロールと比較して約17%の急性炎症に対する抑制作用があり、消炎効果の有効性が認められた。
【0057】
[実施例4]
実施例2で作成した乳化物27gを精製水973gで調整した液に綿100%ブロード生地を絞り率100%でパッドドライ100℃×5分、更に、熱処理160℃×1.5分行い、実施例4の処理布を得た。
【0058】
次に、実施例4及び実施例3の綿ブロード生地について未洗濯、洗濯10回後、洗濯30回後、及び洗濯50回後のそれぞれの抗菌性を、JIS L1902定量試験法により評価した。結果を表3に示す。
【0059】
<抗菌性評価方法>
供試菌:黄色ぶどう状球菌(Staphylococcus aureus IF012732)
試験片重量:0.4g
静菌活性値=(未加工布の18時間培養後の生菌数の常用対数値)−(実施例3又は4の18時間培養後の生菌数の常用対数値)
なお、抗菌性は静菌活性値が2.2以上を「抗菌性有り」と判定した。
<洗濯方法>
JIS L 1042 103法(JAFET標準洗剤使用)
【0060】
【表3】
表3の結果から、実施例3,4は洗濯50回後でも高い抗菌性を有しており、優れた洗濯耐久性を有することが確認できた。
【0061】
また、実施例4で作成した処理布を用いて、皮膚刺激性を下記方法により評価した。結果を表4に示す。
【0062】
皮膚刺激性
日本産業皮膚衛生協会の河合法による半開方式パッチテストによる皮膚貼付試験を行った。
【0063】
【表4】
表4の結果から、実施例4の処理布は、皮膚刺激性が非常に低いことが認められた。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、グリチルレチン酸化合物が繊維構造物に固着して、アレルギー疾患を和らげる優れた消炎性及び抗菌性を有すると共に、これら優れた性能が繰り返し洗濯を行っても長期に亘り維持し得、しかも風合がソフトであり、肌にやさしい繊維構造物が得られるものである。
また、本発明の繊維構造物によれば、肌着、ランジェリー、寝具寝装品、シーツ、パジャマ、タオル、手袋等を初め、あらゆるセルロース系繊維からなる繊維製品に対してアレルギー症状を和らげる消炎性と抗菌性を付与することができ、しかも風合もソフトであり、これらの性能の洗濯耐久性に優れた繊維製品を提供することができるものである。
Claims (4)
- グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物を、スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油に溶解し、界面活性剤で乳化してなる乳化分散液をセルロース系繊維に付与した後、140〜180℃で熱処理することにより得られ、上記グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物と、上記スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油と、上記界面活性剤とが上記セルロース系繊維に固着されてなる衣料用繊維構造物。
- セルロース系繊維が綿であることを特徴とする請求項1記載の衣料用繊維構造物。
- グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物の繊維構造物への固着量が0.01〜2重量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の衣料用繊維構造物。
- グリチルレチン酸の高級アルコールエステル化合物及び/又はグリチルレチン酸の高級脂肪酸エステル化合物を、スクワラン、ホホバ油、シソ油及びオリーブ油から選ばれる動植物油に溶解し、界面活性剤で乳化してなる乳化分散液を、セルロース系繊維構造物に付与した後、140〜180℃で熱処理することを特徴とする衣料用繊維構造物の加工方法。
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