電子写真技術を利用して画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(以下、電子写真装置とも称する)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などとして多用されている。電子写真装置では、以下のような各プロセスを経て画像を形成する。まず、装置に備わる電子写真感光体(以下、単に感光体とも称する)の表面を帯電手段で予め定める電位(以下、基準帯電電位と称する)に帯電させ、露光手段で画像情報に応じた露光を施す。露光によって形成された静電潜像を現像手段で現像してトナー像を形成する。形成されたトナー像を転写手段で転写材に転写させ、定着手段で定着する。これによって、原稿の画像情報に対応する画像が転写材に形成される。
電子写真装置は、その現像方式によって、正転現像方式と反転現像方式とに大別される。正転現像方式では、感光体の未露光部分に感光体の帯電極性と逆極性のトナーを付着させて静電潜像を現像する。反転現像方式では、感光体の露光部分に感光体の帯電極性と同極性のトナーを付着させて静電潜像を現像する。
従来から、複写機では正転現像方式が主に用いられ、レーザプリンタなどのプリンタ、ファクシミリ装置などでは反転現像方式が主に用いられている。また、近年急速に普及し始めているデジタル方式の複写機では、プリンタなどと同様に反転現像方式が主流となっている。このような反転現象方式の電子写真装置では、感光体表面に形成されたトナー像は、放電転写器、転写ロールなどの転写手段で、記録用紙などの転写材にトナーの帯電極性と逆極性の電荷を与えることによって、転写材に転写される。
図8は、転写ロールを用いて転写を行なう場合の転写動作の様子を模式的に示す図である。感光体ドラム61を負に帯電し、静電潜像を反転現像方式で現像して画像を形成する場合には、感光体ドラム61は、高圧電源64から負のバイアス電圧が印加された帯電器62によって、その表面が一様に負に帯電される。次いで、感光体ドラム61の表面が図示しない露光装置によって露光され、感光体ドラム61の表面に静電潜像が形成される。この静電潜像は、図示しない現像装置によって現像されてトナー像になる。現像の際には、負に帯電したトナーが感光体ドラム61の表面に供給される。負に帯電したトナーは、感光体ドラム61の未露光部である負帯電領域では静電反発力を受けて感光体ドラム61の表面に吸着されないけれども、露光によって負電荷が放電された領域では、静電反発力を受けず、感光体ドラム61の表面に付着する。
感光体ドラム61の表面に形成されたトナー像は、転写ロール63によって転写材である記録用紙(以下、単に用紙とも称する)66に転写される。転写の際、転写ロール63には、感光体ドラム61の帯電極性と逆極性の正のバイアス電圧がバイアス電源65から印加されている。感光体ドラム61の表面に付着した負帯電トナーは、転写ロール63の正電位による静電力で転写ロール63側に引かれて用紙66に転写される。用紙66に転写されたトナー像は、図示しない定着器に搬送されて加熱され、用紙66に定着される。
用紙66の両面に画像を形成する場合には、以上の帯電、露光、現像、転写の各プロセスを経て用紙66の一方の表面に画像を形成させた後、再度、同じプロセスを経て用紙66の他方の表面に画像を形成させる。このとき、図8に示すように、転写ロール63などの接触式の転写手段(以下、接触転写手段とも称する)を備える画像形成装置では、用紙66の端部にトナーが付着して用紙66の端部が汚れる、端部かぶりと呼ばれる現象が生じる場合がある。この現象は、複数枚の用紙66の両面に連続して画像を形成する場合に顕著に発生する。以下、端部かぶりの発生機構について説明する。
図9は、端部かぶりの発生する様子を模式的に示す図である。図9では、1枚目の用紙66(以下、P1と称する)の表面P1a、2枚目の用紙66(以下、P2と称する)の表面P2a、1枚目の用紙P1の裏面P1b、2枚目の用紙P2の裏面P2b、3枚目の用紙66(以下、P3と称する)の表面P3aの順に、トナー像を転写させて画像を形成させる場合を示す。
用紙66の転写ロール63の回転軸に平行な方向における幅W1が、転写ロール63の回転軸方向の幅W2よりも小さい場合、感光体ドラム61には、転写ロール63の回転軸方向端部と直接接触する端部領域A1と、転写ロール63との間に用紙66が介在する内部領域B1とが生じる。この端部領域A1と内部領域B1とでは、転写ロール63から感光体ドラム61に注入される正電荷の量が異なる。この注入量は、用紙66の電気抵抗値によっても異なる。
ここで、1枚目の用紙P1(66)の表面P1aへの転写から1枚目の用紙P1の裏面P1bへの転写までは転写ロール63に対する用紙66の搬送位置が一致し、2枚目の用紙P2の裏面P2bへの転写の際に、転写ロール63に対して用紙66(P2)が転写ロール63の回転軸に平行な方向にずれて搬送される場合を考える。
図10(a)は、1枚目の用紙P1の表面P1aに対する転写動作の様子を模式的に示す図である。図10(b)は、1枚目の用紙P1の表面P1aへの転写後に再度感光体ドラム61を帯電させた際の感光体ドラム61の回転軸方向における表面電位分布を模式的に示す図である。
1枚目の用紙P1(66)の表面P1aにトナー像を転写する際、用紙66にはまだ画像が形成されていないので、用紙66の電気抵抗値は、1枚目の用紙P1の裏面P1bにトナー像を転写する際のようにすでにトナー像が転写されて加熱によって定着された用紙66に再度トナー像を転写する場合よりも小さい。このため、1枚目の用紙P1の裏面P1bに対する転写動作の際に比べ、用紙66と感光体ドラム61との電気抵抗値の差は小さい。したがって、転写ロール63からの正電荷は、感光体ドラム61の転写ロール63と直接接触する端部領域A1と、転写ロール63との間に用紙66が介在する内部領域B1とにほぼ等しく流入する。すなわち、感光体ドラム61の転写ロール63と直接接触する端部領域A1の転写ロール63からの正電荷による表面電位の低下量は小さい。
この状態で感光体ドラム61を帯電器62で負側に再度帯電すると、感光体ドラム61の表面は、転写ロール63からの正電荷注入の影響をほとんど受けず、図10(b)に示すように、予め定められる基準帯電電位V0にほぼ均一に帯電される。
2枚目の用紙P2の表面P2aに対する転写の際も同様に、感光体ドラム61の端部領域A1の表面電位低下量は小さいので、1枚目の用紙P1の裏面P1bに対する画像形成時には、感光体ドラム61の表面は基準帯電電位V0にほぼ均一に帯電される。
図11(a)は、1枚目の用紙P1の裏面P1bに対する転写動作の様子を模式的に示す図である。図11(b)は、1枚目の用紙P1の裏面P1bへの転写後に再度感光体ドラム61を帯電させた際の感光体ドラム61の回転軸方向における表面電位分布を模式的に示す図である。
1枚目の用紙P1の裏面P1bに対して転写を行なう際、1枚目の用紙P1の表面P1aにはすでにトナー像が定着処理されているので、1枚目の用紙P1は、定着時の加熱で乾燥し、表面P1aへの転写時に比べて電気抵抗値が高くなっている。このため、転写ロール63に印加されたバイアス電圧による正電荷は、電気抵抗値が上昇している用紙66には注入されにくい。したがって、転写時には、転写ロール63との間に用紙66が介在する感光体ドラム61の内部領域B1よりも、転写ロール63と直接接触する端部領域A1に正電荷が多量に流入する。また、用紙66の電気抵抗値の増加による転写不良を抑えるために転写ロール63に印加するバイアス電圧を高くする必要があり、このことによっても感光体ドラム61の端部領域A1に流入する正電荷の量が増加する。
このため、感光体ドラム61を帯電器62によって負側に再度帯電すると、感光体ドラム61の端部領域A1は、転写ロール63との接触による電位低下の影響を受け、図11(b)に示すように他の部分よりも表面電位が落込む。すなわち、感光体ドラム61の内部領域B1の再帯電後における表面電位(以下、帯電電位と称する)V01は基準帯電電位V0とほぼ等しくなるけれども、端部領域A1の帯電電位V02は、基準帯電電位V0と等しくならず、内部領域B1の帯電電位V01よりもその絶対値が小さくなる。
このように不均一に帯電された感光体ドラム61を露光して静電潜像を形成すると、現像工程において、露光部だけでなく感光体ドラム61の端部領域A1にもトナーが付着する。この端部領域A1に付着したトナーは、転写時に端部領域A1に供給される用紙66に転写され、これが端部かぶりとなる。このため、前述の図9に示すように、用紙66の搬送経路上には、用紙66に端部かぶりが発生する可能性のある領域である、かぶり発生部A2が生じる。
したがって、2枚目の用紙P2の裏面P2bに対する転写時に、2枚目の用紙P2が転写ロール63の回転軸に平行な方向にずれて搬送されると、感光体ドラム61の端部領域A1に付着したトナーが2枚目の用紙P2の裏面P2b端部に転写され、A3で示す領域に端部かぶりとして現れる。
図12は、図9に示す感光体ドラム61の端部領域A1の表面電位の時間変化を示すタイミングチャートである。図12に示すように、感光体ドラム61の端部領域A1の表面電位は、1枚目の用紙P1の裏面P1bに対する転写処理時t1の正電荷注入の影響を受ける。この影響によって、2枚目の用紙P2の裏面P2bに画像を形成するために時刻t2で帯電処理を行なった後の端部領域A1の帯電電位V02は、内部領域B1の帯電電位V01とは異なり、基準帯電電位V0(たとえば、マイナス(−)650V)よりも絶対値の小さい値(たとえば、マイナス(−)550V)になる。
すなわち、感光体ドラム61の端部領域A1の帯電電位V02は、前回の画像形成時である1枚目の用紙P1の裏面P1bに対する画像形成時よりもその絶対値が低下し、参照符67で示される現像バイアス電圧による現像電位との電位差が小さくなる。現像に使用されるトナーは、粒径分布を有し、その帯電量も分布を有するので、トナー中には現像バイアス電圧による現像電位を超える帯電量、すなわち現像電位よりもその絶対値が大きい帯電量を有するトナーが含まれる。したがって、前述のように端部領域A1の帯電電位V02と現像電位との電位差が小さくなると、端部領域A1の帯電電位V02を超える帯電量を有するトナーが発生し、端部領域A1に付着する。このため、2枚目の用紙P2の裏面P2bに対する画像形成時には、斜線で示されるかぶり発生領域A3’が生じ、前述の図9に示す2枚目の用紙P2の裏面P2bの領域A3に端部かぶりが発生する。
この端部かぶりの発生を防止するために、以下のような技術が提案されている。たとえば、先行用紙と後続用紙との間隔、すなわち図9に示す1枚目の用紙P1と2枚目の用紙P2との間隔Dを感光体ドラムの周長Lよりも長くする技術が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に開示の技術では、先行用紙と後続用紙との間隔を感光体ドラムの周長よりも長くするために用紙の送り間隔を広くする必要があるので、1枚の用紙に画像を形成するのに要する時間が長くなり、画像形成効率(ジョブ効率)が低下するという問題がある。
また、別の先行技術では、両面画像形成モードが設定されている場合に、裏面画像形成時の接触帯電手段への印加電圧の絶対値を表面画像形成時よりも大きくすることが提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、帯電手段への印加電圧を大きくすると、感光体の帯電電位の絶対値が大きくなるので、二成分現像剤の場合には、感光体表面の電荷とキャリアとのクーロン引力が大きくなり、キャリア上がりが発生するという問題が生じる。ここで、キャリア上がりとは、感光体表面の電荷とキャリアとのクーロン引力によって現像時にキャリアが感光体表面に付着する現象のことである。
特許文献2には、このキャリア上がりを防止するために、裏面画像形成時に、帯電手段への印加電圧だけでなく、現像手段への印加電圧(現像バイアス電圧)の絶対値を表面画像形成時よりも大きくすることが提案されている。しかしながら、このことによって感光体の露光部の表面電位と現像バイアス電圧による現像電位との電位差が大きくなるので、感光体表面へのトナーの付着量が増加し、画像濃度が濃くなるという別の問題が生じる。
さらに別の先行技術では、両面画像形成モードが設定されている場合に、感光体の裏面画像に対応するトナー像を形成すべき箇所のみ、除電することが提案されている。しかしながら、この技術では、除電するために感光体を繰返し露光する必要があるので、この露光によって感光体が光劣化し、早期に画像の品質が低下するおそれがある。
また、これらの先行技術では、用紙搬送手段、帯電手段、現像手段などの各プロセス機構を制御するための機構が新たに必要となるので、画像形成装置の製造原価が高くなるという問題もある。
このように、帯電手段、現像手段などの各プロセス機構によって端部かぶりの発生を防止しようとすると種々の問題が生じる。
特開平9−251245号公報(第4頁,第2図)
特開平10−239919号公報(第5−6頁,第6−7図)
図1は、本発明の実施の一形態である画像形成装置1の構成を簡略化して示す配置側面図である。画像形成装置1は、画像読取部21と、画像形成部22と、画像読取部21および画像形成部22などの装置内の各部の動作を制御する図示しない制御部と、図示しないモード設定手段とを含んで構成される。
本実施の形態の画像形成装置1は、転写材である記録用紙(以下、単に用紙とも称する)23の片方または両方の表面に画像を形成することのできる両面画像形成装置である。使用者は、モード設定手段によって、記録用紙23の片面に画像を形成する片面画像形成モードおよび記録用紙23の両面に画像を形成する両面画像形成モードのいずれかのモードを設定して画像形成を行なわせることができる。なお、本実施の形態では、複数枚の記録用紙23の両面に連続して画像を形成する場合には、前述の図9に示す場合と同様に、1枚目の用紙の表面P1a、2枚目の用紙の表面P2a、1枚目の用紙の裏面P1b、2枚目の用紙の裏面P2bの順に画像を形成する。
画像読取部21は、原稿が載置される原稿載置台24と、原稿載置台24上に載置される原稿の画像情報を読取るスキャナユニット25とを含む。画像読取部21で読取られた原稿の画像情報は、図示しない画像処理部に転送され、デジタルの電気信号に変換するデジタル化処理などの予め定められる画像処理が施された後、図示しないメモリ部に記憶される。画像処理部は、制御部からの出力指示に応じて、メモリ部から画像情報を読出し、画像形成部22に転送する。
画像形成部22は、記録用紙23を収容する給紙トレイ26と、記録用紙23を搬送する反転搬送手段である用紙搬送手段27と、電子写真プロセス部28とを含む。電子写真プロセス部28は、後述する図2に示す感光層14が特定のイオン化ポテンシャルを有する感光体2、帯電手段である帯電器29、反転現像手段である現像装置30、接触転写手段である転写ロール31、クリーニング装置32、除電手段である除電ランプ33、露光手段である露光装置34および定着手段である定着装置35を備える。
感光体2は、円筒状であって装置本体に回転可能に支持される。帯電器29、現像装置30、転写ロール31、クリーニング装置32および除電ランプ33は、感光体2の周囲に、感光体2の回転方向上流側から下流側に向かってこの順序で設けられる。転写ロール31は、感光体2に当接するように設けられる。転写ロール31は、感光体2の回転軸線と平行な軸線まわりに回転可能に装置本体に支持される。定着装置35は、感光体2よりも記録用紙23の搬送方向下流側に設けられる。帯電器29は、たとえばスコロトロン方式の帯電器で実現される。なお感光体2の形状は、本実施の形態では円筒状であるけれども、これに限定されることなく、円柱状、板状または無端ベルト状などであってもよい。
画像形成装置1では、たとえば以下のようにして画像を形成する。まず、感光体2の表面を帯電器29によって帯電した後、露光装置34によって露光し、静電潜像を形成する。形成された静電潜像を現像装置30によって現像し、感光体2の表面にトナー像を形成させる。このとき、現像装置30は、感光体2に対して、帯電器29によって付与される感光体2の帯電極性と同極性に帯電されたトナーを供給することによって静電潜像を可視化(現像)する。
また、露光装置34による感光体2への露光と同期して、給紙トレイ26中の記録用紙23が送出しロール36によって搬送路37に送出され、経路AおよびBを通って感光体2と転写ロール31との当接部に送給される。感光体2の表面に形成されたトナー像は、転写ロール31によって記録用紙23に転写される。このとき、転写ロール31は、記録用紙23に対して、トナーの帯電極性と逆極性の電荷を付与することによってトナー像を記録用紙23に転写させる。このため、転写ロール31には、トナーの帯電極性と逆極性、すなわち感光体2を帯電させるために帯電器29に印加される電圧と逆極性のバイアス電圧が印加される。
たとえば、帯電器29に負のバイアス電圧が印加され、感光体2が負に帯電される場合には、現像装置30から負に帯電されたトナーが供給されてトナー像が形成され、正のバイアス電圧が印加された転写ロール31によって記録用紙23に転写される。
トナー像が転写された記録用紙23は、経路Cを通って定着装置35に供給され、定着装置35にて加熱されてトナー像が定着される。また、トナー像の転写後の感光体2は、その表面に残留するトナーがクリーニング装置32によって除去された後、除電ランプ33から照射される除電光によって残留電荷が除荷される。モード設定手段によって両面画像形成モードが設定されている場合には、感光体2は再度帯電され、露光および現像の工程を経てその表面にトナー像が形成される。
定着装置35にてトナー像が定着された記録用紙23は、モード設定手段によって片面画像形成モードが設定される場合には、経路Hを通って画像形成装置1の外部に排出される。
また、モード設定手段によって両面画像形成モードが設定されている場合には、トナー像が定着された記録用紙23は、トナー像が定着された面(以下、第1面と称する)の反対側の表面(以下、第2面と称する)に画像を形成するべく、第2面が感光体2に当接するように、用紙搬送手段27によって経路D、E、F、GおよびBの順に搬送される。これによって、記録用紙23は、その表裏が反転されて感光体2と転写ロール31との当接部に供給され、第2面にトナー像が転写される。第2面にトナー像が転写された記録用紙23は、経路Cを通って定着装置35に搬送され、定着処理を受ける。このようにして両面に画像が形成された記録用紙23は、経路Hを通って画像形成装置1の外部に排出される。
図2は、図1に示す画像形成装置1に備わる感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。感光体2は、導電性材料から成る円筒状の導電性支持体11と、導電性支持体11の外周面上に積層される層であって電荷発生物質を含有する電荷発生層12と、電荷発生層12の上にさらに積層される層であって電荷輸送物質を含有する電荷輸送層13とを含む。電荷発生層12と電荷輸送層13とは、感光層14を構成する。すなわち、感光体2は、積層型感光体である。
導電性支持体11は、感光体2の電極としての役割を果たすとともに他の各層12,13の支持部材としても機能する。なお導電性支持体11の形状は、本実施の形態では円筒状であるけれども、これに限定されることなく、感光体2の形状に応じて、円柱状、板状、薄膜シート状、無端ベルト状などの種々の形状から適宜選択される。
導電性支持体11を構成する導電性材料としては、たとえばアルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、クロム、モリブデン、バナジウム、インジウム、チタン、金、白金などの金属単体、アルミニウム合金、真鍮、ステンレス鋼などの合金を用いることができる。またこれらの金属材料に限定されることなく、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルム、紙または金属フィルムなどの表面に、アルミニウム、アルミニウム合金、酸化錫、金、酸化インジウムなどの導電性材料を蒸着もしくは塗布したもの、導電性粒子を含有するプラスチックもしくは紙、または導電性ポリマーを含有するプラスチックなどを用いることもできる。これらの導電性材料は、導電性支持体11の形状に応じて、円筒状、円柱状、薄膜シート状などに加工されて使用される。
導電性支持体11上に設けられる感光層14は、そのイオン化ポテンシャル(Ip)が、関係式(1)
Ip≧5.50eV …(1)
を満足するように、すなわちIpが5.50eV以上になるように設計される。
前述のように、図1に示す本実施の形態の画像形成装置1において画像を形成する際には、転写ロール31に対して、帯電器29によって付与される感光体2の帯電極性とは逆の極性のバイアス電圧が印加される。このため、記録用紙23の転写ロール31の回転軸に平行な方向における幅W1が、転写ロール31の回転軸方向の幅W2よりも小さい場合には、転写時に転写ロール31の端部と直接接触する部分(以下、端部領域A1と称する)の感光体2に帯電器29による帯電極性と逆の極性の電荷が多量に注入される。したがって、転写ロール31による転写後に再度感光体2を帯電すると、転写ロール31と直接接触していた端部領域A1の表面電位の絶対値が、記録用紙23を介して転写ロール31と接していた部分(以下、内部領域B1と称する)の表面電位の絶対値よりも小さくなる。
これは、いわゆる感光体へのメモリ効果が原因であると推察される。感光体へのメモリ効果とは、転写時などに感光体に注入された電荷が感光体内部に蓄積され、その電荷が、注入された際と逆向きの電界が発生した際に感光体表面に移動してくる現象のことである。
たとえば、転写時に転写ロール31に正のバイアス電圧が印加される場合、転写ロール31と直接接触する端部領域A1の感光体2表面に正のコロナイオンが付着する。これによって、感光体2表面すなわち感光層14表面に存在する電荷輸送物質がイオン化され、カチオン状態となる。カチオン状態になった電荷輸送物質は、正電荷として感光層14の表面から内部へと移動し、感光層14の内部に蓄積される。このとき、転写ロール31と直接接触する端部領域A1の感光層14では、転写ロール13から多量の正電荷が注入され、内部に蓄積される。このため、端部領域A1では、帯電工程にて負に帯電される際に、正電荷が転写時とは逆向きの電界によって感光体2表面に輸送され、感光体2表面の電荷が中和されるので、転写ロール31からの正電荷の注入量が少ない内部領域B1よりも表面電位の絶対値が小さくなる。このメモリ効果の影響が大きくなり、帯電時の端部領域A1の表面電位と内部領域B1の表面電位との差が大きくなると、記録用紙23に端部かぶりが発生することになる。
メモリ効果の影響は、転写時に感光層14に注入される電荷の量が多いほど大きくなる。したがって、本実施形態のように感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)を5.50eV以上にすることによってメモリ効果の影響を低減し、端部かぶりの発生を防止することができる。
図3は感光層のIpが5.50eV未満である感光体(以下、感光体Aと称する)の転写直後および再帯電後の表面電位分布を模式的に示す図であり、図4は感光層のIpが5.50eV以上である感光体(以下、感光体Bと称する)の転写直後および再帯電後の表面電位分布を模式的に示す図である。図3(a)および図4(a)には、1枚目の用紙の裏面P1bに対する転写直後の各感光体の表面電位分布を示し、図3(b)および図4(b)には、転写後に2枚目の用紙の裏面P2bに画像を形成するために各感光体を再帯電したときの各感光体の表面電位分布を示す。なお、図3および図4では、各感光体の帯電後の表面電位として予め定められる電位(以下、基準帯電電位と称する)V0をマイナス(−)650Vとする。
図3(a)に示すように、感光体Aの場合、転写ロール31との間に記録用紙23が介在する内部領域B1の転写動作直後の表面電位VAB1は、たとえばマイナス(−)400Vとなる。また、転写ロール31と直接接触する端部領域A1の表面電位VAA1は、たとえばマイナス(−)250Vとなり、その絶対値が内部領域B1の表面電位VAB1よりも小さくなる(|VAA1|<|VAB1|)。この状態で感光体Aを再帯電すると、図3(b)に示すように、内部領域B1の再帯電後における表面電位(以下、帯電電位と称する)V01Aは、基準帯電電位V0(−650V)とほぼ等しくなる。しかしながら、端部領域A1の帯電電位V02Aは、たとえばマイナス(−)570Vとなり、その絶対値が基準帯電電位V0よりも小さくなる(|V02A|<|V0|)。
すなわち、感光体Aを用いた場合には、帯電の際に、転写による除電を受けた端部領域A1の帯電電位V02Aの落込みが大きく、端部領域A1の帯電電位V02Aと内部領域B1の帯電電位V01Aとの差が、かぶりが発生し始める電位差(ここでは、たとえば80V程度)以上になる。このため、前述の図9に示すように、2枚目の用紙の裏面P2bに端部かぶりが発生する。
これに対し、感光体Bの場合には、図4(a)に示すように、転写ロール31との間に記録用紙23が介在する内部領域B1の転写動作直後の表面電位VBB1は、感光体Aの場合と同様にたとえば−400Vとなる。一方、転写ロール31と直接接触する端部領域A1の表面電位VBA1は、たとえばマイナス(−)300Vとなり、その絶対値が感光体Aの場合における転写後の端部領域A1の表面電位VAA1の絶対値よりも大きくなる(|VBA1|>|VAA1|)。すなわち、感光体Bでは、転写ロール31から感光体2の端部領域A1に注入される電荷の量が少なく、メモリ効果の影響が小さい。これは、感光体Aに比べ、感光体Bの感光層のIpが大きく、電荷が注入されにくいためであると推察される。
この感光体Bを再帯電すると、内部領域B1の帯電電位V01Bは、図4(b)に示すように、感光体Aの場合と同様に基準帯電電位V0(−650V)にほぼ等しくなるけれども、端部領域A1の帯電電位V02Bは、たとえば−620Vとなり、感光体Aの場合における端部領域A1の帯電電位V02Aよりもその絶対値が大きくなる(|V02B|>|V02A|)。このため、端部領域A1の帯電電位V02Bと内部領域B1の帯電電位V01Bとの差は小さく、かぶりの発生する電位差(たとえば80V程度)以上にはならないので、端部かぶりは発生しない。
すなわち、本実施形態のように、感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)が5.50eV以上である感光体2を用いることによって、転写時の電荷注入の影響を受けにくくし、転写による除電を受けた部分の帯電電位の落込みを小さくすることができるので、転写材に現れる端部かぶりなどのメモリ効果の影響を低減または取除くことができる。したがって、本実施の形態のように複数枚の記録用紙23の両面に連続して画像を形成する場合であっても、端部かぶりが発生しない画像形成装置1を実現することができる。
一方、感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)が5.50eV未満であると、前述の図3に示す感光体Aの場合のように端部かぶりが発生するだけでなく、感光体表面が酸化されやすくなり、感光体特性が劣化しやすいという問題も生じる。
なお、感光層14のIpは、5.50eV以上、6.00eV以下であることが好ましい。感光層14のIpが6.00eVを超えると、感光体2の感度が低下する可能性があり、また繰返し使用されることによって残留電位が上昇するおそれもある。
感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)は、感光層14を構成する各層12,13に含まれる電荷輸送物質、電荷発生物質、バインダ樹脂などの各材料の種類など、特に電荷輸送物質の種類を適宜選択することによって調整することができる。たとえば、後述する一般式(2)で表されるエナミン化合物などの特定の電荷輸送物質を用いることによって、Ipが5.50eV以上の感光層14を実現することができる。
感光層14を構成する電荷発生層12は、照射される光を吸収することによって電荷を発生する電荷発生物質を含有する。電荷発生物質としては、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、キナクリドンおよびアントラキノンなどの多環キノン系顔料、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンおよびハロゲン化無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクエアリウム色素、アズレニウム色素、チアピリリウム色素、ならびにカルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料などが挙げられる。
特に優れた電荷発生能力を有する顔料としては、無金属フタロシアニン顔料、オキソチタニウムフタロシアニン顔料、フローレン環またはフルオレノン環を有するビスアゾ顔料、芳香族アミンからなるビスアゾ顔料およびトリスアゾ顔料が挙げられる。これらの顔料を用いることによって、優れた感度を示す感光体2が実現される。さらにオキソチタニウムフタロシアニンのうち、Cu−Kα特性X線(波長:0.154nm(1.54Å))に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角2θ(誤差:2θ±0.2°)27.3°に回折ピークを示す結晶型を有するものは、一層優れた感度を示す感光体2を実現することができるので、より好ましい。なお、本明細書において、ブラッグ角2θとは、入射X線と回折X線との成す角度のことであり、いわゆる回折角を表す。
これらの電荷発生物質は、粒子などの形態で用いられる。これらの電荷発生物質は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
電荷発生層12には、結着性を向上させるために、バインダ樹脂が含有されてもよい。バインダ樹脂としては、結合剤として使用される公知の合成樹脂を用いることができ、たとえば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
また電荷発生層12には、必要に応じて、塗布性を改善するためのレベリング剤、酸化防止剤、増感剤などの各種添加剤を添加してもよい。
電荷発生層12は、たとえば、適当な溶剤に、電荷発生物質の適量、ならびに必要に応じてバインダ樹脂およびレベリング剤などの添加剤の適量を加え、ボールミル、サンドグラインダ、ペイントシェーカ、超音波分散機などによって粉砕しながら分散させて電荷発生層用塗布液を調製し、得られた塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって形成することができる。
電荷発生層用塗布液に使用される溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられ、これらの中でもケトン類、エーテル類が好適に用いられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、垂直リング法、浸漬塗布法などを用いることができる。また、本実施の形態とは異なるけれども、導電性支持体11がシート状である場合には、ベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティング、スピンコータなどによって電荷発生層用塗布液を塗布することもできる。
電荷発生層12の膜厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。電荷発生層12の膜厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感度が低下する可能性がある。電荷発生層12の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層12内部での電荷移動が感光体2表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下する可能性がある。
電荷発生層12上に設けられる電荷輸送層13は、電荷発生層12に含まれる電荷発生物質が発生した電荷を受入れ、これを輸送する能力を有する電荷輸送物質と、電荷輸送物質を結着させるバインダ樹脂とを含んで構成することができる。電荷輸送物質としては、エナミン化合物、トリフェニルアミン化合物などのトリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、ブタジエン化合物、ジアミン化合物、インドール誘導体などのインドール化合物、インドリン化合物、アミノスチルベン誘導体、スチルベン誘導体などのスチルベン化合物、ジスチルベン化合物、スチリル化合物、多環芳香族化合物、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ベンジジン誘導体などが挙げられる。また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、たとえばポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリ(1−ビニルピレン)およびポリ(9−ビニルアントラセン)なども挙げられる。これらの電荷輸送物質は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が併用されてもよい。
これらの電荷輸送物質は、感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)が前記関係式(1)を満足するように、すなわち5.50eV以上になるように適宜選択して用いられる。たとえば、一般式(2)
で表されるエナミン化合物を用いることによって、感光層14のイオン化ポテンシャル(Ip)を5.50eV以上にすることができる。
前記一般式(2)において、Ar1およびAr2はそれぞれ、置換基を有してもよいアリール基または置換基を有していもよい複素環基を示す。該アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、アントリル基、ピレニル基などの環数1〜4のアリール基などが挙げられ、これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基などの環数1または2のアリール基が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
これらのアリール基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)、トリフルオロメチル基、モノフルオロエチル基などのハロアルキル基(好ましくは炭素数1〜5のハロアルキル基)、2−プロペニル基、スチリル基などのアルケニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、メチルアミノ基、エチルアミノ基などのモノアルキルアミノ基(好ましくは炭素数1〜4のモノアルキルアミノ基)、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基などのジアルキルアミノ基(好ましくは炭素数2〜8のジアルキルアミノ基)、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子、チエニル基などの複素環基(好ましくは異項原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む5員もしくは6員の単環式複素環基)、フェノキシ基などのアリールオキシ基、フェニルチオ基などのアリールチオ基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基が好ましい。
これらの置換基を有するアリール基としては、トリル基、メトキシフェニル基、フェノキシフェニル基、p−(フェニルチオ)フェニル基、p−スチリルフェニル基などが挙げられる。また、これらの置換基の結合するアリール基がフェニル基である場合、これらの置換基は、p−トリル基、p−メトキシフェニル基などのように、フェニル基のパラ位に置換することが好ましい。また、これらの置換基は、これらが結合するアリール基とともに1価の縮合環基を形成してもよい。該1価の縮合環基としては、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基などが挙げられる。
Ar1およびAr2で示される複素環基としては、フリル基、チエニル基、チアゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、カルバゾリル基などの、異項原子として酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子など、好ましくは酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む単環式または縮合環式複素環基などが挙げられる。これらの中でも、5員または6員の単環式複素環基、環数1〜4の縮合環式複素環基が好ましい。ここで、縮合環式複素環基とは、単環式の複素環同士が縮合してなる縮合環から生じる1価基および芳香環と複素環とが縮合してなる縮合環から生じる1価基のことである。
これらの複素環基が有してもよい置換基としては、前述のアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。その中でも、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基が好ましい。置換基を有する複素環基としては、N−メチルインドリル基、N−エチルカルバゾリル基などが挙げられる。
前記一般式(2)において、Ar3は置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアルキル基を示す。
Ar3で示される各基の具体例としては、以下のものが挙げられる。アリール基および複素環基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基および複素環基と同様のものが挙げられる。これらの各基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
また、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1−ナフチルメチル基、1−ナフチルエチル基などの、アルキル部分の炭素数が1〜4のアラルキル基などが挙げられる。これらの中でも、アリール部分がフェニル基であるものが好ましく、アリール部分がベンジル基であるものが特に好ましい。これらのアラルキル基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられ、その中でも、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基が好ましい。置換基を有するアラルキル基としては、p−メトキシベンジル基などが挙げられる。
また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などの炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルキル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基などの炭素数5〜8のシクロアルキル基などが挙げられ、これらの中でも炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が好ましい。これらのアルキル基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられ、その中でも、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、異項原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む5員または6員の単環式複素環基が好ましい。置換基を有するアルキル基としては、たとえばトリフルオロメチル基、フルオロメチル基などのハロアルキル基、1−メトキシエチル基などのアルコキシアルキル基、2−チエニルメチル基、2−チエニルエチル基などのチエニルアルキル基などが挙げられる。
前記一般式(2)において、Ar4およびAr5はそれぞれ、水素原子、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアルキル基を示す。ただし、Ar4およびAr5の少なくともいずれか一方は水素原子以外の基である。
Ar4およびAr5で示される各基の具体例としては、以下のものが挙げられる。アリール基および複素環基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基および複素環基と同様のものが挙げられる。また、アラルキル基およびアルキル基としては、Ar3で示されるアラルキル基およびアルキル基と同様のものが挙げられる。これらの各基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
前記一般式(2)において、基=CAr4Ar5が結合する炭素原子には、基=CAr4Ar5の代わりに、2価の芳香環基または2価の複素環基が結合していてもよい。該2価の芳香環基としては、1−インダニリデン基、1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフチリデン基などの、環数2または3の2価の縮合環式芳香環基などが挙げられる。また、2価の複素環基としては、ベンゾスベロニリデン基、9−キサンテニリデン基などの、異項原子として酸素原子、窒素原子、硫黄原子、セレン原子またはテルル原子など、好ましくは酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む環数2または3の2価の縮合環式複素環基などが挙げられる。2価の複素環基に含まれる窒素原子は、水素原子とともにイミノ基を形成していてもよく、またアルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)とともにN−アルキルイミノ基を形成していてもよい。また、2価の芳香環基および複素環基は、環構造中にメチレン基、エチレン基、メチルメチレン基などのアルキレン基、ビニレン基、プロペニレン基などのアルケニレン基、オキシメチレン基(化学式:−O−CH2−)などのヘテロアルキレン基、チオビニレン基(化学式:−S−CH=CH−)などのヘテロアルケニレン基などの2価基を含んでいてもよい。
前記一般式(2)において、R1は水素原子、ハロゲン原子または置換基を有してもよいアルキル基を示す。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられ、これらの中でもフッ素原子、塩素原子が好ましい。また、アルキル基としては、Ar3で示されるアルキル基と同様のものが挙げられる。これらのアルキル基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
前記一般式(2)において、R2、R3およびR4はそれぞれ、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基または置換基を有してもよいアラルキル基を示す。R2、R3およびR4で示されるアルキル基およびアラルキル基としては、Ar3で示されるアルキル基およびアラルキル基と同様のものが挙げられる。また、アリール基および複素環基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基および複素環基と同様のものが挙げられる。これらの各基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
前記一般式(2)において、nは0〜3の整数を示す。ただし、nが0のとき、Ar3は置換基を有してもよい複素環基である。また、nが2または3のとき、複数個のR2は同一でもよくまたは異なっていてもよく、また複数個のR3は同一でもよくまたは異なっていてもよい。
前記一般式(2)において、R5は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいジアルキルアミノ基または置換基を有してもよいアリール基を示す。
R5で示される各基の具体例としては、以下のものが挙げられる。ハロゲン原子としては、R1で示されるハロゲン原子と同様のものが挙げられ、これらの中でもフッ素原子、塩素原子が好ましい。アルキル基としては、Ar3で示されるアルキル基と同様のものが挙げられ、その中でも炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状アルキル基が好ましい。アリール基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基と同様のものが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基などの炭素数1〜4の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルコキシ基などが挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基などの炭素数2〜8の対称ジアルキルアミノ基、エチルメチルアミノ基、イソプロピルエチルアミノ基などの炭素数2〜8の非対称ジアルキルアミノ基などが挙げられる。
これらの各基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。これらの置換基がジアルキルアミノ基に結合する場合、これらの置換基は、ジアルキルアミノ基のアルキル部分に置換し、置換基を有するジアルキルアミノ基としては、ビス(2−クロロエチル)アミノ基、2−クロロエチルメチルアミノ基などが挙げられる。
前記一般式(2)において、lは1〜6の整数を示す。ただし、lが2以上のとき、複数個のR5は同一でもよくまたは異なっていてもよく、またこれらが結合するナフチレン基とともに2価の縮合環基を形成していてもよい。該2価の縮合環基としては、1,2,3,4−テトラヒドロ−9,10−アントリレン基などが挙げられる。
電荷輸送物質として一般式(2)で表されるエナミン化合物を用いた場合には、イオン化ポテンシャル(Ip)が5.50eV以上の感光層14を実現することができるだけでなく、以下のような効果がある。たとえば、感度、応答性、帯電性などの電気特性および耐久性に特に優れ、高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても、繰返し使用されても画質の低下を引起すことのない感光体2を実現することができる。さらに、この良好な電気特性を周囲の環境、たとえば温度または湿度が変化した場合であっても維持することができる。
一般式(2)で表されるエナミン化合物の中でも、端部かぶりの防止に優れた効果を発揮する化合物としては、前記一般式(2)において、
Ar1およびAr2がそれぞれ置換基としてハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基およびアリール基から選ばれる1種もしくは2種以上を有してもよいアリール基、または異項原子として窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む単環式もしくは縮合環式複素環基であり、
Ar3が置換基としてハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、アリール基、フェノキシ基およびフェニルチオ基から選ばれる1種もしくは2種以上を有してもよいアリール基、置換基としてアルキル基、アルコキシ基もしくはアリール基を有してもよくかつ異項原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む単環式もしくは縮合環式複素環基、ベンジル基または炭素数5〜7のシクロアルキル基であり、
R1が水素原子、ハロゲン原子または置換基としてハロゲン原子を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基であり、
R2およびR3の一方が水素原子であり、他方が水素原子、チエニル基、ベンジル基または置換基としてハロゲン原子および炭素数1〜4のアルコキシ基から選ばれる1種もしくは2種以上を有してもよい炭素数1〜4のアルキル基であり、
R4が水素原子、炭素数1〜4のアルキル基またはフェニル基であるものが挙げられる。
これらの化合物のうち、より好ましい化合物としては、一般式(2a)
で表されるエナミン化合物が挙げられる。
前記一般式(2a)において、Ar4、Ar5、R5およびlは一般式(2)における定義と同義である。また、mは1または2を示す。
前記一般式(2a)において、R6、R7およびR8はそれぞれ、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいジアルキルアミノ基または置換基を有してもよいアリール基を示す。R6、R7およびR8で示される各基の具体例としては、前記一般式(2)においてR5で示される各基と同様のものが挙げられる。また、これらの各基が有してもよい置換基としては、Ar1およびAr2で示されるアリール基の有してもよい置換基と同様のものが挙げられる。
また、前記一般式(2a)において、i、jおよびkはそれぞれ1〜5の整数を示す。ただし、iが2以上のとき、複数個のR6は同一でもよくまたは異なっていてもよく、またこれらが結合するフェニル基とともに1価の縮合環基を形成していてもよい。また、jが2以上のとき、複数個のR7は同一でもよくまたは異なっていてもよく、またこれらが結合するフェニル基とともに1価の縮合環基を形成していてもよい。また、kが2以上のとき、複数個のR8は同一でもよくまたは異なっていてもよく、またこれらが結合するフェニル基とともに1価の縮合環基を形成していてもよい。該1価の縮合環基としては、5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基などが挙げられる。
前記一般式(2a)で表されるエナミン化合物のうち、端部かぶりの防止に特に有効な化合物としては、前記一般式(2a)において、
Ar
4が水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アルキル部分の炭素数が1〜4であるチエニルアルキル基または置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基もしくは炭素数2〜8のジアルキルアミノ基を有してもよいフェニル基であり、
かつAr
5が置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、フェニルチオ基、フェノキシ基もしくはスチリル基を有していもよいアリール基、異項原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む単環式もしくは縮合環式複素環基、ベンジル基またはアルキル部分の炭素数が1〜4のチエニルアルキル基であるか、
または基=CAr
4Ar
5が結合する炭素原子に、基=CAr
4Ar
5の代わりに、2価の縮合環式芳香環基もしくは置換基として炭素数1〜4のアルキル基を有してもよくかつ異項原子として酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1種を含む縮合環式複素環基が結合しており、
R
5、R
6およびR
7がそれぞれ水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
R
8が水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数2〜8のジアルキルアミノ基であるもの(以下、エナミン化合物2a’と称する)が挙げられる。その中でも、一般式(2b)
で表されるエナミン化合物が特に好ましい。
前記一般式(2b)において、mは一般式(2a)における定義と同義である。R8aは炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などの炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。また、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基などの炭素数1〜4の直鎖状アルコキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルコキシ基などが挙げられる。
一般式(2a)で表されるエナミン化合物、エナミン化合物2a’および一般式(2b)で表されるエナミン化合物、特に一般式(2b)で表されるエナミン化合物は、端部かぶりの防止に特に有効であるとともに、合成が容易で合成収率が高く、比較的安価に製造することができる。したがって、一般式(2a)で表されるエナミン化合物、より好ましくはエナミン化合物2a’、さらに好ましくは一般式(2b)で表されるエナミン化合物を用いることによって、端部かぶりの発生をより確実に防止し、画質を向上させることができる。また、感光体2の製造原価を低減し、画像形成装置1の製造原価を低減することができる。
一般式(2)で表されるエナミン化合物の具体例としては、たとえば以下の表1〜表32に示す例示化合物No.1〜No.220を挙げることができるけれども、一般式(2)で表されるエナミン化合物は、これらに限定されるものではない。なお、表1〜表32では、各例示化合物を一般式(2)の各基に対応する基で表している。たとえば、表1に示す例示化合物No.1は、下記構造式(2c)で表されるエナミン化合物である。
ただし、一般式(2)において、基=CAr4Ar5が結合する炭素原子に、基=CAr4Ar5の代わりに2価の芳香環基または複素環基が結合している化合物を例示する場合には、これらの2価基をAr4の欄からAr5の欄にわたって記載する。また一般式(2)においてnが2または3のエナミン化合物のうち、複数個のR2で示される基が同一であり、かつ複数個のR3で示される基が同一であるものを例示する場合には、R2およびR3をそれぞれ1個示す。
一般式(2)で表されるエナミン化合物は、たとえば以下のようにして製造することができる。まず、下記一般式(5)で表されるアルデヒド化合物またはケトン化合物と、下記一般式(6)で表される2級アミン化合物との脱水縮合反応を行うことによって、下記一般式(7)で表されるエナミン中間体を製造する。
(式中、Ar
1、Ar
2およびR
1は一般式(2)における定義と同義である。)
(式中、Ar
3、R
5およびlは一般式(2)における定義と同義である。)
(式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3、R
1、R
5およびlは一般式(2)における定義と同義である。)
この脱水縮合反応は、たとえば以下のようにして行う。適当な溶媒に、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物またはケトン化合物と、一般式(6)で表される2級アミン化合物とを略等モル量ずつ加えて溶解させ、溶液を調製する。使用される溶媒としては、トルエン、キシレン、クロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ブタノールなどのアルコール類およびジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類などを挙げることができる。調製された溶液中に、触媒、たとえばp−トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、ピリジニュウム−p−トルエンスルホン酸などの酸触媒を加え、たとえば加熱下で反応させる。触媒の添加量は、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物またはケトン化合物に対して、10分の1(1/10)〜1000分の1(1/1000)モル当量であることが好ましく、より好ましくは25分の1(1/25)〜500分の1(1/500)モル当量であり、さらに好ましくは50分の1(1/50)〜200分の1(1/200)モル当量である。反応中、水が副成し反応を妨げるので、生成した水を溶媒と共沸させて系外に取除くことが好ましい。以上のようにして、一般式(7)で表されるエナミン中間体を高収率で製造することができる。
次に、一般式(7)で表されるエナミン中間体をアシル化することによって下記一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体を製造する。
(式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3、R
1、R
5およびlは一般式(2)における定義と同義である。R
11は一般式(2)においてR
2またはR
4で示される基を示す。)
たとえば、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体のうち、R11が水素原子であるエナミン−アルデヒド中間体は、一般式(7)で表されるエナミン中間体をフィルスマイヤー反応でホルミル化することによって製造することができる。
フィルスマイヤー反応は、たとえば以下のようにして行う。適当な溶媒中に、オキシ塩化リンと、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−N−フェニルホルムアミドまたはN,N−ジフェニルホルムアミドとを加え、フィルスマイヤー試薬を調製する。このとき使用される溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられる。フィルスマイヤー試薬1.0〜1.3モル当量が調製された溶液中に、一般式(7)で表されるエナミン中間体1.0モル当量を加え、たとえば60〜110℃の加熱下で2〜8時間撹拌して反応させる。反応終了後、1〜8規定(N)のアルカリ性水溶液で加水分解を行う。加水分解に用いられるアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。以上のようにして、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体のうち、R11が水素原子であるエナミン−アルデヒド中間体を高収率で製造することができる。
また、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体のうち、R11が水素原子以外の基であるエナミン−ケト中間体は、一般式(7)で表されるエナミン中間体をフリーデル−クラフトアシル化反応でアシル化することによって製造することができる。
このフリーデル−クラフトアシル化反応は、たとえば以下のようにして行う。適当な溶媒中に、ルイス酸1.0〜1.2モル当量と下記一般式(9)で表されるハロゲン化アシル1.0モル当量とを加え、0.5〜1時間程度撹拌してフリーデル−クラフトアシル化試薬を調製する。このとき使用される溶媒としては、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。ルイス酸としては、塩化アルミニウム、塩化スズ、塩化亜鉛などが挙げられる。
(式中、R
11は一般式(8)における定義と同義である。X
1は、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を示す。)
フリーデル−クラフトアシル化試薬1.0〜1.3モル当量が調製された溶液中に、一般式(7)で表されるエナミン中間体1.0モル当量を加え、たとえばマイナス(−)40〜80℃で2〜8時間撹拌して反応させる。反応終了後、1〜8規定(N)のアルカリ性水溶液で加水分解を行う。加水分解に用いられるアルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などが挙げられる。以上のようにして、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体のうち、R11が水素原子以外の基であるエナミン−ケト中間体を高収率で製造することができる。
なお、一般式(2)においてn=0のエナミン化合物を製造する場合には、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体として、R11=R4の化合物を製造する。また、一般式(2)においてn=1〜3のエナミン化合物を製造する場合には、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体として、R11=R2の化合物を製造する。
次いで、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体と、下記一般式(10a)または(10b)で表されるウィッティッヒ(Wittig)試薬とを塩基性条件下で反応させるウィッティッヒ−ホルナー(Wittig−Horner)反応を行うことによって、一般式(2)で表されるエナミン化合物を製造することができる。
(式中、Ar
4およびAr
5は一般式(2)における定義と同義である。R
12はアルキル基またはアリール基を示す。)
(式中、Ar
4、Ar
5、R
2、R
3、R
4およびnは一般式(2)における定義と同義である。ただし、nは0でない。R
13はアルキル基またはアリール基を示す。)
一般式(10a)および(10b)で表されるウィッティッヒ試薬は、一般式(2)におけるnの値に応じて適宜選択されて使用される。たとえば、一般式(2)においてn=0のエナミン化合物を製造する場合には、一般式(10a)で表されるウィッティッヒ試薬が用いられる。また、一般式(2)においてn=1〜3のエナミン化合物を製造する場合には、一般式(10b)で表されるウィッティッヒ試薬が用いられる。
前記一般式(10a)および(11b)において、R12およびR13で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基などの炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、イソプロピル基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基などの環数1または2のアリール基などが挙げられる。
一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体と一般式(10a)または(10b)で表されるウィッティッヒ試薬とのウィッティッヒ−ホルナー反応は、たとえば以下のようにして行う。適当な溶媒中に、一般式(8)で表されるエナミン−カルボニル中間体1.0モル当量と、一般式(10a)または(10b)で表されるウィッティッヒ試薬1.0〜1.20モル当量と、金属アルコキシド塩基1.0〜1.5モル当量とを加え、たとえば室温または30〜60℃の加熱下で2〜8時間撹拌して反応させる。このとき使用される溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。金属アルコキシド塩基としては、カリウムt−ブトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウムメトキサイドなどが挙げられる。
以上のようにして、一般式(2)で表されるエナミン化合物を高収率で製造することができる。なお、一般式(2)で表されるエナミン化合物は、通常の分離手段、たとえば溶媒抽出法、再結晶法またはカラムクロマトグラフィーなどによって反応混合物から容易に単離精製でき、高純度のものとして得ることができる。
以上に述べた一般式(2)で表されるエナミン化合物以外の電荷輸送物質で、前述の関係式(1)を満足するイオン化ポテンシャル(Ip)を有する感光層14を実現可能な電荷輸送物質としては、一般式(3)
で表されるトリフェニルアミン化合物、構造式(4)
で表されるエナミン化合物が挙げられる。
前記一般式(3)において、R9およびR10はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基などの炭素数1〜4の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4の分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。
これらの化合物を用いることによって、感光層14のIpを5.50eV以上とし、端部かぶりの発生を防止することができる。なお、一般式(2)で表されるエナミン化合物、一般式(3)で表されるトリフェニルアミン化合物および構造式(4)で表されるエナミン化合物は併用されてもよい。
電荷輸送層13は、以上に述べた電荷輸送物質をバインダ樹脂で結着させることによって形成することができる。電荷輸送層13のバインダ樹脂としては、電荷輸送物質との相溶性に優れるものが好適に用いられる。このようなバインダ樹脂としては、たとえばポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびこれらを構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、フェノール樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂も挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、また2種以上が混合されて使用されてもよい。
これらの中でも、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド、特にポリカーボネート樹脂は、電荷輸送物質、特に一般式(2)で表されるエナミン化合物、一般式(3)で表されるトリフェニルアミン化合物および構造式(4)で表されるエナミン化合物との相溶性に特に優れるので好適に用いられる。これらの樹脂を用いることによって、電荷輸送物質が均一に分散された電荷輸送層13を実現することができるので、感光体2の回転軸方向各所における感光層14のIpを均一にし、端部かぶりの発生をより確実に防止することができる。また、これらの樹脂は、体積抵抗率が10
13Ω・cm以上であって電気絶縁性に優れており、また皮膜性および電位特性などにも優れているので、このような点からも好適に用いられる。
本発明において用いる電荷輸送物質を結着させるバインダ樹脂は、下記構造式(I)
で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂Aと、下記構造式(II)
で表される繰り返し単位を有するポリカーボネート樹脂Bとからなる。
電荷輸送層13において、電荷輸送物質の重量(M)に対するバインダ樹脂の重量(B)の比率(B/M)は、1.6以上、2.5以下であることが好ましい。前記比率B/Mを1.6〜2.5の範囲に選択することによって、優れた耐刷性を有する電荷輸送層13を実現することができるので、感光体2の機械的耐久性を向上させることができる。特に、電荷輸送物質として前述の一般式(2)で表されるエナミン化合物を用いる場合に、前記比率B/Mを1.6〜2.5の範囲に選択することによって、特に優れた感度、応答性および耐刷性を有する感光体2を実現することができる。
前記比率B/Mが2.5を超え、バインダ樹脂の比率が大幅に高くなると、電荷輸送層13の耐刷性が一層向上し、感光体2の機械的耐久性は向上するけれども、結果として電荷輸送物質の比率が低下するので、感光体2の感度および応答性が低下するおそれがある。また電荷輸送層13を浸漬塗布法によって形成する場合に前記比率B/Mが2.5を超えると、塗布液の粘度が増大して塗布速度が低下し、生産性が著しく悪くなるおそれがある。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層13に白濁が発生する可能性がある。
一方、前記比率B/Mが1.6未満であり、バインダ樹脂の比率が大幅に低くなると、応答性は向上するけれども、電荷輸送層13の耐刷性が低下して感光層14の膜減り量が増加し、感光体2の帯電性が低下するおそれがある。
また、電荷輸送層13には、本発明の好ましい特性を損なわない範囲内で、可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
レベリング剤は、電荷輸送層13の成膜性、可撓性、塗布性などを向上させることを目的として添加される。レベリング剤としては、シリコーンオイル類、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーまたはオリゴマーなどを使用することができる。これらのレベリング剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、0.0001〜1重量部の範囲内で使用されることが好ましい。
電荷輸送層13は、たとえば、適当な溶媒中に、前述の電荷輸送物質およびバインダ樹脂の適量、ならびに必要に応じてレベリング剤、可塑剤などの添加剤の適量を加え、溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、得られた塗布液を電荷発生層12上に塗布することによって形成することができる。
電荷輸送層用塗布液に使用される溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタンなどの脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられ、これらの中でも、エーテル類、特にテトラヒドロフランが好適に用いられる。これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が混合されて使用されてもよい。
電荷輸送層用塗布液の調製方法としては、電荷輸送物質およびバインダ樹脂、ならびに必要に応じて前述の添加剤を計量し、これらを同時に溶剤に溶解または分散させる方法を用いてもよいけれども、まず電荷輸送物質を溶剤に溶解または分散させ、次いでバインダ樹脂および必要に応じて前述の添加剤を投入し、溶解または分散させる方法を用いる方がより好ましい。この方法を用いることによって、バインダ樹脂中への電荷輸送物質の分散性を向上させ、電荷輸送層13中における電荷輸送物質の潜在的かつ局所的な結晶化を抑制することができるので、感光体2の回転軸方向各所において感光層14のIpを均一にすることができ、端部かぶりの発生をより確実に防ぐことができる。また、初期感度、繰返し使用における電位安定性および画像特性などを一層良好にすることができる。
電荷輸送層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、垂直リング法、浸漬塗布法などを用いることができる。なお、前記比率B/Mが2.5を超える場合には、浸漬塗布法を用いて塗布液を塗布することが困難であるので、アプリケータまたはスプレイなどを用いて塗布液を塗布することが好ましい。また、本実施の形態とは異なるけれども、導電性支持体11がシート状である場合には、ベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティング、スピンコータなどを用いて電荷輸送層用塗布液を塗布することができる。
電荷輸送層13の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下である。電荷輸送層13の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下する可能性がある。電荷輸送層13の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
感光層14は、以上のようにして形成される電荷発生層12と電荷輸送層13とが積層されて成る積層構造を有する。このように感光層14を複数の層から成る積層型にすることによって、単一の層で構成される単層型に比べ、感光層14を構成する材料の選択およびその組合せの自由度が増すので、前記関係式(1)を満足するイオン化ポテンシャル(Ip)を有する感光層14を容易に実現することができる。また、感光体2の感度、応答性などの電気特性を損なうことなく、感光層14のIpを前記関係式(1)を満足する値にすることができる。
本実施の形態の画像形成装置1に備わる感光体は、以上の構成に限定されるものではなく、感光層のイオン化ポテンシャル(Ip)が前記関係式(1)を満足するものであれば、他の異なる構成であってもよい。たとえば、図5〜図7に示す感光体3〜5であってもよい。
図5は、本実施形態の画像形成装置1に備わる感光体の他の例である感光体3の構成を簡略化して示す部分断面図である。図5に示す感光体3は、図2に示す感光体2に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。電子写真感光体3において注目すべきは、導電性支持体11と感光層14との間に、中間層15が設けられていることである。
前述のように、画像形成装置1では、露光によって表面電位の絶対値を減少させた部分の感光体表面にトナーを付着させてトナー像を形成させる反転現像方式で画像を形成する。このため、露光以外の要因で感光体の表面電位の絶対値が減少すると、白地となるべき部分にトナーが付着する、いわゆるかぶりが発生する。画像のかぶりとしては、前述の端部かぶりが挙げられるけれども、これ以外に、黒ぽちと呼ばれる微小な黒点が形成される現象も挙げられる。この黒ぽちは、導電性支持体11から感光層14に電荷が注入され、転写ロール31から電荷が注入される場合と同様に、感光層14の帯電性が低下し、露光される部分以外で表面電位の絶対値が減少することが原因であると考えられる。
感光体2では、導電性支持体11と感光層14とが直接接しているので、導電性支持体11から感光層14に電荷が注入され、黒ぽちが発生する可能性がある。これに対し、感光体3では、導電性支持体11と感光層14との間に中間層15が設けられているので、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入を防止することができる。したがって、感光体3では、導電性支持体11からの電荷の注入による感光層14の帯電性の低下およびそれに伴う表面電位の絶対値の低下を抑えることができるので、端部かぶりだけでなく、黒ぽちの発生を防ぐことができ、画質を向上させることができる。
また、感光体3のように中間層15を設けることによって、導電性支持体11表面の欠陥を被覆して均一な表面を得ることができるので、感光層14の成膜性を高めることもできる。また、中間層15が導電性支持体11と感光層14とを接着する接着剤として機能するので、感光層14の導電性支持体11からの剥離を抑えることもできる。
中間層15としては、アルミニウム陽極酸化被膜、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどから成る無機層、各種有機材料で構成される有機層などが用いられる。これらの中でも、有機層が好適に用いられる。
中間層15として用いられる有機層を構成する有機材料としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド樹脂などの樹脂などが挙げられる。またカゼイン、セルロース類、ゼラチン、デンプンなども挙げられる。これらの中でも、ポリアミド樹脂が好適に用いられる。ポリアミド樹脂が好適に用いられるのは、ポリアミド樹脂が、中間層15上に感光層14を塗布によって形成する際に塗布液の溶剤として好適に用いられるケトン類、エーテル類などの溶媒に対して溶解および膨潤などを起こさないこと、導電性支持体11との接着性に優れること、可撓性を有することなどの理由による。ポリアミド樹脂のうち、特に好ましいものとしては、アルコール可溶性ナイロン樹脂が挙げられる。アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、たとえば6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、N−アルコキシメチル変性ナイロン、N−アルコキシエチル変性ナイロンなどの、ナイロンを化学的に変性させたものなどが挙げられる。
有機層で構成される中間層15には、無機顔料として、アルミニウム、銅、錫、亜鉛、チタンなどの金属、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの金属酸化物などの導電性または半導電性の粒子を含有させることが好ましく、酸化チタン粒子を含有させることが特に好ましい。中間層15に含有される酸化チタンとしては、非晶質のものを用いてもよく、アナターゼ型、ルチル型などの特定の結晶型を有するものを用いてもよく、またこれらを2種以上混合して用いてもよい。酸化チタン粒子の表面は、酸化アルミニウム(化学式:Al2O3)、二酸化ジルコニウム(化学式:ZrO2)などの金属酸化物で被覆されていることが好ましい。
有機層で構成される中間層15は、たとえば、適当な溶媒中に、前述の樹脂などの有機材料の適量、および必要に応じて前述の酸化チタンなどの無機顔料の適量を加え、ボールミル、ダイノーミルまたは超音波発振機などの分散機を用いて分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって形成することができる。
中間層用塗布液の溶剤としては特に制限されず、公知の有機溶媒を使用することができる。ただし、有機層を構成する有機材料としてアルコール可溶性ナイロン樹脂を用いる場合には、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶剤を用いることが好ましく、これらのアルコール系溶剤に、アルコール系以外の溶剤、たとえばジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどのエーテル類などを混合して用いることがより好ましい。
アルコール系溶剤とアルコール系以外の溶剤との混合系溶剤を用いることによって、酸化チタンなどの無機顔料の分散性が改善され、塗布液の保存安定性が向上される。また塗布液の再生が可能になる。また中間層用塗布液中に導電性支持体11を浸漬して中間層15を塗布形成する際に、中間層15の塗布欠陥や塗布むらを防止することができるので、中間層15の表面に感光層14を均一に塗布形成することができ、膜欠陥の無い非常に優れた画像特性を有する感光体3を得ることができる。
中間層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、垂直リング法、浸漬塗布法などを用いることができる。また、本実施の形態とは異なるけれども、導電性支持体11がシート状である場合には、ベーカアプリケータ、バーコータ、キャスティング、スピンコータなどによって中間層用塗布液を塗布することもできる。
図6は、本実施形態の画像形成装置1に備わる感光体のさらに他の例である感光体4の構成を簡略化して示す部分断面図である。図6に示す感光体4は、図2に示す感光体2に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。電子写真感光体4において注目すべきは、電荷発生物質と電荷輸送物質とが単一の層から成る感光層141に含有されていること、すなわち感光体4が単層型感光体であることである。
単層型感光体4を用いることによって、オゾン発生の少ない正帯電型の画像形成装置1を実現することができる。また、単層型感光体4は、塗布されるべき感光層141が一層のみであるので、前述の感光体2,3などの積層型感光体に比べ、製造原価および歩留が優れている。
感光層141のイオン化ポテンシャル(Ip)は、図2に示す感光体2に設けられる感光層14と同様に、前記関係式(1)を満足するように設計される。感光層141のIpは、感光層14と同様に、感光層141に含まれる電荷輸送物質、電荷発生物質、バインダ樹脂などの各材料の種類などを適宜選択することによって調整することができる。
電荷輸送物質としては、前述の一般式(2)で表されるエナミン化合物、一般式(3)で表されるトリフェニルアミン化合物および構造式(4)で表されるエナミン化合物から選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、感光層141における電荷輸送物質の重量(M’)に対するバインダ樹脂の重量(B’)の比率(B’/M’)は、感光体2の電荷輸送層13における前記比率B/Mと同様に、1.6以上、2.5以下であることが好ましい。これによって、感光体2と同様に、感光層141の耐刷性を向上させ、感光体4の機械的耐久性を向上させることができる。
感光層141は、図2に示す感光体2に設けられる電荷輸送層13と同様の方法で形成することができる。たとえば、前述の電荷発生物質、電荷輸送物質およびバインダ樹脂の適量、ならびに必要に応じて前述の添加剤の適量を、前述の電荷輸送層用塗布液と同様の適当な溶剤に溶解または分散させて感光層用塗布液を調製し、この感光層用塗布液を浸漬塗布法などで導電性支持体11の表面に塗布することによって、感光層141を形成することができる。
図7は、本実施形態の画像形成装置1に備わる感光体のさらに他の例である感光体5の構成を簡略化して示す部分断面図である。図7に示す感光体5は、図5に示す感光体3および図6に示す感光体4に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。本実施の形態の画像形成装置1に備わる感光体は、図7に示す感光体5のように、感光層として図6に示す感光体4と同様の単層型の感光層141を備え、さらに図5に示す感光体3と同様に導電性支持体11と感光層141との間に中間層15を有していてもよい。
[製造例]
以下の製造例において、各化合物の同定は、液体クロマトグラフィー−質量分析法(
Liquid Chromatography−Mass Spectrometry;略称LC−MS)および核磁気共鳴(
Nuclear Magnetic Resonance;略称NMR)分析法で行なった。
(製造例1)例示化合物No.1の製造
トルエン100mLに、下記構造式(11)で表されるN−(p−トリル)−α−ナフチルアミン23.3g(1.0モル当量)と、下記構造式(12)で表されるジフェニルアセトアルデヒド20.6g(1.05モル当量)と、DL−10−カンファースルホン酸0.23g(0.01モル当量)とを加えて加熱し、副生した水をトルエンと共沸させて系外に取除きながら、6時間撹拌して反応させた。反応終了後、反応溶液を10分の1(1/10)程度に濃縮し、激しく撹拌されているヘキサン100mL中に徐々に滴下し、結晶を生成させた。生成した結晶を濾別し、冷エタノールで洗浄することによって、下記構造式(13)で表されるエナミン中間体36.2gを淡黄色粉末として得た(収率88%)。
次いで、無水N,N−ジメチルホルムアミド(略称DMF)100mL中に、氷冷下、オキシ塩化リン9.2g(1.2モル当量)を徐々に加え、約30分間攪拌してフィルスマイヤー試薬を調製した。この溶液中に、前述のようにして得られた構造式(13)で表されるエナミン中間体20.6g(1.0モル当量)を氷冷下で徐々に加えた。その後、反応溶液を80℃まで徐々に加熱し、80℃を保つように加熱しながら3時間攪拌して反応させた。反応終了後、この反応溶液を放冷し、冷やした4規定(4N)−水酸化ナトリウム水溶液800mL中に徐々に加え、沈殿を生じさせた。生じた沈殿を濾別し、充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶媒で再結晶することによって、下記構造式(14)で表されるエナミン−アルデヒド中間体20.4gを黄色粉末として得た(収率93%)。
次いで、得られた構造式(14)で表されるエナミン−アルデヒド中間体8.8g(1.0モル当量)と、下記構造式(15)で表されるジエチルシンナミルホスホネート6.1g(1.2モル当量)とを、無水DMF80mLに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド2.8g(1.25モル当量)を室温で徐々に加えた。
その後、反応溶液を50℃まで加熱し、50℃を保つように加熱しながら5時間撹拌して反応させた。反応溶液を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、目的化合物である表1に示す例示化合物No.1のエナミン化合物10.1gを黄色結晶として得た(収率94%)。
得られた化合物をLC−MSで分析したところ、例示化合物No.1のエナミン化合物(分子量の計算値:539.26)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが540.5に観測された。また、得られた化合物の重クロロホルム(化学式:CDCl3)中におけるNMRスペクトルを測定したところ、例示化合物No.1のエナミン化合物の構造を支持するスペクトルが得られた。
(製造例2)例示化合物No.61の製造
製造例1において、構造式(11)で表されるN−(p−トリル)−α−ナフチルアミン23.3g(1.0モル当量)に代えて、N−(p−メトキシフェニル)−α−ナフチルアミン4.9g(1.0モル当量)を用い、各反応に使用する試薬の量を試薬と基質との当量関係が製造例1で使用した試薬と基質との当量関係と同じになるように変更する以外は、製造例1と同様にして、脱水縮合反応によるエナミン中間体の製造(収率:94%)およびフィルスマイヤー反応によるエナミン−アルデヒド中間体の製造(収率:85%)を行い、さらにウィッティッヒ−ホーナー反応を行うことによって、目的化合物である表9に示す例示化合物No.61のエナミン化合物7.9gを黄色粉末として得た(収率92%;三段階収率73.5%)。
得られた化合物をLC−MSで分析したところ、例示化合物No.61のエナミン化合物(分子量の計算値:555.26)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが556.7に観測された。また、得られた化合物のCDCl3中におけるNMRスペクトルを測定したところ、例示化合物No.61のエナミン化合物の構造を支持するスペクトルが得られた。
(製造例3)例示化合物No.46の製造
製造例1と同様にして、構造式(14)で表されるエナミン−アルデヒド中間体を製造した。次いで、得られた構造式(14)で表されるエナミン−アルデヒド中間体2.0g(1.0モル当量)と、下記構造式(16)で表されるウィッティッヒ試薬1.53g(1.2モル当量)とを、無水DMF15mLに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド0.71g(1.25モル当量)を室温で徐々に加えた。
その後、反応溶液を50℃まで加熱し、50℃を保つように加熱しながら5時間撹拌して反応させた。反応溶液を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、目的化合物である表7に示す例示化合物No.46のエナミン化合物2.37gを黄色結晶として得た(収率92%)。
得られた化合物をLC−MSで分析したところ、例示化合物No.46のエナミン化合物(分子量の計算値:565.28)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが566.4に観測された。また、得られた化合物のCDCl3中におけるNMRスペクトルを測定したところ、例示化合物No.46のエナミン化合物の構造を支持するスペクトルが得られた。
(製造例4)例示化合物No.106の製造
製造例1において、構造式(11)で表されるN−(p−トリル)−α−ナフチルアミンに代えて、N−(p−メトキシフェニル)−α−ナフチルアミンを用いること以外は、製造例1と同様にして脱水縮合反応およびフィルスマイヤー反応を行ない、下記構造式(17)で表されるエナミン−アルデヒド中間体を製造した。
次いで、製造例3において、構造式(14)で表されるエナミン−アルデヒド中間体に代えて、前述のようにして得られた構造式(17)で表されるエナミン−アルデヒド中間体を用いること以外は、製造例3と同様にしてウィッティッヒ−ホーナー反応を行ない、目的化合物である表16に示す例示化合物No.106のエナミン化合物を黄色結晶として得た(三段階収率72%)。
得られた化合物をLC−MSで分析したところ、例示化合物No.106のエナミン化合物(分子量の計算値:581.28)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが582.4に観測された。また、得られた化合物のCDCl3中におけるNMRスペクトルを測定したところ、例示化合物No.106のエナミン化合物の構造を支持するスペクトルが得られた。
[実施例]
(実施例1)
酸化チタン(商品名:TTO−D1、石原産業株式会社製)7重量部と共重合ナイロン樹脂(商品名:CM8000、東レ株式会社製)13重量部とを、メタノール159重量部と1,3−ジオキソラン106重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層用塗布液を調製した。得られた塗布液を塗布槽に満たし、直径30mm、長手方向の長さ340mmのアルミニウム製円筒状導電性支持体を前記塗布槽に浸漬した後引上げ、自然乾燥して膜厚1μmの中間層を前記導電性支持体上に形成した。
次いで、オキソチタニウムフタロシアニン1重量部と、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBMS、積水化学工業株式会社製)1重量部とを、メチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液を調製した。得られた塗布液を先に形成した中間層と同様の浸漬塗布法によって中間層上に塗布した後、自然乾燥し、膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
次いで、電荷輸送物質として表1に示す例示化合物No.1のエナミン化合物100重量部と、バインダ樹脂として下記構造式(I)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量38,000)90重量部および下記構造式(II)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量21,500)90重量部と、シリコーンオイル(商品名:SH200、東レダウコーニング・シリコーン株式会社製)0.02重量部とを混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分23重量%の電荷輸送層用塗布液を調製した。得られた塗布液を前述の中間層と同様の浸漬塗布法によって電荷発生層上に塗布した後、温度130℃で1時間乾燥し、膜厚27μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、実施例1の電子写真感光体を作製した。
(実施例2)
電荷輸送層の形成に際し、例示化合物No.1のエナミン化合物に代えて、表16に示す例示化合物No.106のエナミン化合物を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2の電子写真感光体を作製した。
(実施例3)
電荷輸送層の形成に際し、例示化合物No.1のエナミン化合物に代えて、下記構造式(20)で表されるトリフェニルアミン化合物を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例3の電子写真感光体を作製した。
(実施例4)
電荷輸送層の形成に際し、例示化合物No.1のエナミン化合物に代えて、前述の構造式(4)
で表されるエナミン化合物を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例4の電子写真感光体を作製した。
(実施例5)
電荷輸送層の形成に際し、前述の構造式(18)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂の配合量を120重量部に変更し、構造式(19)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂の配合量を120重量部に変更する以外は実施例1と同様にして、実施例5の電子写真感光体を作製した。
(実施例6)
電荷輸送層の形成に際し、例示化合物No.1に代えて、例示化合物No.106のエナミン化合物を用いるとともに、前述の構造式(18)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂の配合量を120重量部に変更し、構造式(19)で表される繰返し単位を有するポリカーボネート樹脂の配合量を120重量部に変更する以外は実施例1と同様にして、実施例6の電子写真感光体を作製した。
(比較例1)
電荷輸送層の形成に際し、例示化合物No.1のエナミン化合物に代えて、下記構造式(21)で表されるブタジエン化合物を用いる以外は実施例1と同様にして、比較例1の電子写真感光体を作製した。
以上のように、実施例1〜6および比較例1の各感光体作製において、電荷輸送層用塗布液に含まれる電荷輸送物質の種類およびバインダ樹脂の配合量を変化させることによって、感光層のイオン化ポテンシャル(Ip)が所望の値になるように調整した。これらの実施例1〜6および比較例1の各感光体における感光層のIpは、表面分析装置(型番:AC−1、理研計器株式会社製)を用いて測定した。測定結果を表33に示す。
[評価1]
以上のようにして作製した実施例1〜6および比較例1の各感光体を画像形成装置にそれぞれ搭載し、以下のようにして特性を評価した。画像形成装置には、反転現像方式で画像を形成する市販の複写機(機種名:AR−450M、シャープ株式会社製)を用いた。なお、複写機AR−450Mは、帯電、露光、現像、転写の各プロセスを経て転写材の一方の表面に対する画像形成を行なった後、再度、同じプロセスを経て転写材の他方の表面に対する画像形成を行なう両面画像形成モードで画像を形成することのできる複写機である。また、複写機AR−450Mにおいて両面画像形成モードで画像を形成する際には、前述の図9に示すように、1枚目の用紙の表面、2枚面の用紙の表面、1枚目の用紙の裏面、2枚目の用紙の裏面の順に転写が行なわれる。
前述の複写機AR−450Mから現像装置を取外し、代わりに現像部位に表面電位計(商品名:Model344、トレック(Trek)社製)を設け、温度:25℃、相対湿度:65%の常温/常湿(N/N:Normal Temperature/Normal Humidity)環境下において、2枚の記録用紙の表裏両面に対して連続して画像を形成させた。この画像形成過程において、2枚目の記録用紙の裏面に画像を形成するために転写後の感光体を再帯電した後に、転写ロールとの間に用紙が介在していた部分(以下、通紙部と称する)の感光体の帯電電位V01[−V]および転写ロールと直接接触していた部分(以下、非通紙部と称する)の感光体の帯電電位V02[−V]を測定した。また、測定された通紙部の帯電電位V01と非通紙部の帯電電位V02との差の絶対値(|V01−V02|)を電位低下量ΔV0[V]として求めた。
また、前述の複写機AR−450Mを用い、表裏両面に所定のパターンの画像が形成されたテスト画像を2枚の記録用紙に連続して複写する複写試験を行ない、2枚目の用紙の裏面に形成された画像を評価用画像とした。評価用画像を目視によって観察し、端部かぶりおよび画像部への画像欠陥の発生の有無を判断し、画質を評価した。画質の評価基準は以下のようである。
◎:非常に良好。端部かぶりおよび画像部への画像欠陥のいずれも発生していない。
○:良好。端部かぶりは発生しておらず、画像部に画像欠陥が若干発生しているけれども実使用上問題ない程度である。
×:不良。端部かぶりが発生。
以上の測定結果および評価結果を表33に示す。
実施例1〜6と比較例1との比較から、感光層のイオン化ポテンシャルが5.50eV以上である実施例1〜6の感光体は、感光層のイオン化ポテンシャルが5.50eV未満である比較例1の感光体に比べ、電位低下量ΔV0が小さく、通紙部の帯電電位V01と非通紙部の帯電電位V02との差が小さいことが判った。また、実施例1〜6の感光体を用いると、複写試験によって2枚の記録用紙の表裏両面に連続して画像を形成する場合にも、2枚目の用紙の裏面には端部かぶりが発生しないことが判った。
また、実施例1、2、5および6の結果から、電荷輸送物質として一般式(2)で表されるエナミン化合物を用いた実施例1、2、5および6の感光体を用いると、帯電むらなどの画像欠陥が抑えられ、良好な画質の画像が得られることが判った。これは、実施例1、2、5および6の感光体では、他の電荷輸送物質を用いた実施例3および4の感光体に比べて電位低下量ΔV0が小さいので、感光体の2回転目以降の電位低下量ΔV0の急激な増加が防止され、帯電むらが軽減されたためであると推察される。
[評価2]
実施例1〜6および比較例1の各感光体を画像形成装置にそれぞれ搭載して画像形成動作を行なわせ、電気特性および耐刷性を以下のようにして評価した。画像形成装置には、前述の市販の複写機AR−450Mをプロセススピード(感光体の回転周速)が130mm/秒になるように改造して得た試験用複写機を用いた。
まず、試験用複写機から現像装置を取外し、代わりに現像部位に表面電位計(商品名:Model344、トレック(Trek)社製)を設けた。この複写機を用い、温度:25℃、相対湿度:65%の常温/常湿(N/N)環境下において、白べた原稿を複写した時の感光体の表面電位を帯電電位V0[−V]として測定し、黒べた原稿を複写した時の感光体の表面電位を残留電位VL[−V]として測定し、初期の電気特性を評価した。電気特性は、帯電電位V0の絶対値が大きいほど帯電性に優れると評価し、残留電位VLの絶対値が小さいほど応答性に優れると評価した。なお、感光体の表面電位は、評価1の通紙部に相当する部分で測定した。
次に、表面電位計を取出して再び現像装置を搭載し、片面画像形成モードを指定して、所定のパターンの画像が形成されたテスト画像を日本工業規格(略称JIS)A4判用紙5万枚に複写させた。5万枚の複写後、再び現像装置を取出して現像部位に前述の表面電位計を設け、初期と同様にして帯電電位V0および残留電位VLを測定し、5万枚の複写後の電気特性を評価した。
次に、搭載した各感光体を取出して感光層の膜厚d1を測定し、この値(d1)を作製時の感光層の膜厚d0から差引いた値(d0−d1)を膜減り量Δdとして求めた。耐刷性は、膜減り量Δdが小さいほど優れると評価とした。なお、膜厚の測定は、膜厚測定システム(商品名:MCPD−1100、大塚電子株式会社製)で行なった。
以上の評価結果を表34に示す。
実施例1,2と実施例3,4との比較から、電荷輸送物質として一般式(2)で表されるエナミン化合物を用いた実施例1および2の感光体は、他の電荷輸送物質を用いた実施例3および4の感光体に比べ、残留電位VLの絶対値が小さく、応答性に優れていることが判った。また、実施例1および2の感光体は、5万枚の複写の前後における残留電位VLの変化量が小さく、感光層が磨耗した場合であっても、充分に高い応答性を示すことが判った。
また、実施例1,2と実施例5,6との比較から、一般式(2)で表されるエナミン化合物を用いることによって、残留電位VLの絶対値を大幅に上昇させることなく、バインダ樹脂の比率を高め、耐刷性を向上させることができることが判った。
以上のように、感光層のイオン化ポテンシャル(Ip)が5.50eV以上の感光体を用いることによって、反転現像方式の画像形成装置における端部かぶりの発生を防止することができた。