JP4439120B2 - 新生血管特異的ペプチド - Google Patents

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Description

技 術 分 野
本発明は、新生血管に選択的に帰巣するペプチド分子、より詳しくは例えば癌組織の新生血管内皮細胞に対するリガンドとして機能し、分子医薬として有用であり、標的組織に選択的に薬物送達を可能とするドラッグ デリバリー システム(DDS)製剤に応用可能であり、癌治療効果の向上に寄与できる、新生血管特異的ペプチドに関する。
背 景 技 術
癌化学療法を困難にしている一因としては、投与された薬物が標的とする癌組織のみならず正常組織まで殺傷し、副作用を引き起こすことが挙げられる。かかる副作用の軽減や、抗癌剤の薬効の向上を実現するものとして、癌治療の分野においては、ドラッグ デリバリー システム(DDS:Drug Delivery System)が注目を集めている。
癌を標的とした上記DDSは、パッシブターゲティングによるものと、アクティブターゲティングによるものの2種類に大別される。新生血管は既存の血管に比べて血管透過性が亢進しているため、長期血中滞留型の製剤は、徐々に癌組織に集積する。その性質を利用したターゲティングが、パッシブターゲティングであり、欧米では既にリポソームを用いたパッシブターゲティング製剤が、カポジ肉腫の治療に使用されている。一方、アクティブターゲティング製剤は、癌細胞やその周辺組織に高発現する蛋白などの細胞表面マーカーに結合する抗体やその他のリガンドにて薬剤を修飾し、正常組織に有害な影響を与えず、癌組織に積極的且つ選択的に薬剤を送達できるように設計した製剤である。
また、現在の癌治療分野においては、血管新生が注目されている。この血管新生とは、癌が成長する過程において、癌の成長に伴って癌組織内部の血管も同時に発達することをいう。即ち、癌細胞の活発な増殖、癌組織の成長、転移が起こるためには、栄養分、酸素の供給、代謝老廃物の排泄を行う器官である血管が新たに構築されることが重要であり、この点で、癌組織の成長は、血管新生に大きく依存しているといえる。
この血管新生を抑制すれば、癌組織の成長、転移を抑制できると考えられ、このことから、新生血管を標的とした癌の治療法、特に新生血管を標的とするアクティブターゲティング製剤(DDS製剤)の開発が当業界で所望されている。
発 明 の 開 示
上記癌組織の新生血管内皮細胞に対してリガンドとなる物質を同定、単離、提供できれば、これはDDS製剤への応用および癌治療効果の更なる向上が期待できる。本発明は、かかる新たなリガンドを提供することを目的としている。また本発明は、血管新生を抑制する物質を提供することをも目的としている。
本発明者らは、上記目的より鋭意研究を重ねる過程において以下の知見を得た。即ちまず本発明者らは、チャンバーリング法(Folkman,J.,et al.,J.Exp.Med.,133,275−288(1971))により、マウス背部に腫瘍新生血管を誘導形成させた後、ファージのコートタンパク質pIII遺伝子にランダムなDNAを挿入して、ファージ外殻表面にランダムな15アミノ酸配列のペプチドを発現し得るように構築したランダムペプチドディスプレイファージを上記マウスに投与し、その後、該マウスを液体窒素で凍結し、新生血管のできた皮膚を切り取り、蛋白分解酵素阻害剤含有培養液中にてホモジナイズし、洗浄・遠心分離後、新生血管からファージを回収し、これを大腸菌に感染させて大量培養し、分離、精製して、新生血管内皮に集積したリガンドとなるペプチド発現ファージを得た。かくして得られた複数個のファージについて、それらの発現するペプチドの配列決定を行った。
ついで、新生血管に親和性の高いペプチド発現ファージを選択するために、上記で得られた各ファージを、癌細胞を移植した担癌マウスの尾静脈内に投与し、上記と同様にマウスを液体窒素で凍結し、癌組織を切除摘出し、得られた材料からファージを分離精製し、大腸菌に感染させ、培養した。そして、ファージのコロニー形成単位を選別前のファージをコントロールとして測定し、新生血管に対する親和性を、癌組織100mgあたりにおける、尾静脈内に投与したファージ数に対する集積ファージ数の比として算出し、かくして、新生血管に対する親和性の高いリガンドとしての候補ペプチドを得た。
更に、本発明者らは、上記ペプチド、上記ペプチドのデンドリマー(dendrimer)、上記ペプチドの部分ペプチドなどを合成し、これらが実際に抗腫瘍効果を奏することを確認すると共に、上記ペプチド、特にTrp−Arg−Pro配列およびPro−Arg−Pro配列を含むペプチドで修飾したリポソームの腫瘍内分布がコントロールに比べて有意に高いことを確認した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
本発明によれば、新生血管に選択的に帰巣し、以下の(a)および(b)のいずれかである新生血管特異的ペプチドが提供される。
(a)配列番号1から11で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマー、
(b)上記(a)に示されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ新生血管に親和性を有するペプチドまたはそのデンドリマー。
特に、本発明によれば、配列番号1から11で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーである上記新生血管特異的ペプチド;より好ましくは、配列番号1、5および6で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーである上記新生血管特異的ペプチド;配列番号1〜11で示されるアミノ酸配列のペプチドの同一または異なる複数個を含むデンドリマーである上記新生血管特異的ペプチド;配列番号12〜17で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーである上記新生血管特異的ペプチド;および配列番号19、21、23〜25および28〜32で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーである上記新生血管特異的ペプチドが提供される。
また、本発明によれば、癌組織、例えば肉腫またはメラノーマに形成される新生血管に選択的に帰巣するペプチドである上記新生血管特異的ペプチドが提供される。
更に、本発明によれば、上記新生血管特異的ペプチドの少なくとも1種、好ましくは、配列番号1、5、6、13〜17、19、21、23〜25および28〜32で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーの少なくとも1種を有効成分とし、これを製剤担体と共に含有する制癌組成物および癌転移抑制組成物が提供される。
更に、本発明によれば、上記新生血管特異的ペプチドの少なくとも1種、好ましくは、配列番号15〜17で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーの少なくとも1種と、抗癌剤または癌転移抑制剤とを有効成分とし、これを製剤担体と共に含有するリポソーム製剤が提供される。
更に、本発明によれば、上記新生血管特異的ペプチドの少なくとも1種の有効量を患者に投与する抗癌および癌転移抑制方法、特に配列番号1、5、6、13〜17、19、21、23〜25および28〜32で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーの少なくとも1種の有効量を患者に投与する制癌および癌転移抑制方法が提供される。
更に、本発明によれば、上記リポソーム製剤、好ましくは、配列番号15〜17で示されるアミノ酸配列のいずれかを有するペプチドまたはそのデンドリマーの少なくとも1種と、抗癌剤または癌転移抑制剤とを有効成分とし、これを製剤担体と共に含有するリポソーム製剤を患者に投与する制癌および癌転移抑制方法が提供される。
以下、本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸等の略号による表示は、IUPAC、IUBの規定、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
本発明新生血管特異的ペプチドの具体例としては、後述する実施例に示される方法により得られる配列番号1から11に示されるアミノ酸配列を有するものを例示できる。
以下、本発明新生血管特異的ペプチドの同定および新生血管への親和性につき詳述する。
本発明新生血管特異的ペプチドの同定には、分子ライブラリーのスクリーニング手法を採用でき、上記ライブラリーとしては、例えばファージディスプレイライブラリーを好ましく例示できる。かかるライブラリーは、市販のものを用いることができる。該ライブラリー中のランダムペプチドディスプレイファージは、標的とする分子または細胞に特異的に結合するペプチドを同定するために、特定の標的分子または目的の細胞を用いてインビトロでスクリーニングされ得る多数のペプチドを発現するのに利用される。該ライブラリーを用いるスクリーニングは、種々の細胞表面レセプターと特異的に結合するリガンドや種々の抗体を同定するために使用される。これらファージディスプレイライブラリーの作成方法およびインビトロスクリーニング法については、スコットおよびスミスの方法が参照される(Scott,J.M.and Smith,G.P.,Science,249,386−390(1990);Smith,G.P.and Scott,J.K.,Methods in Enzymology,217,228−257(1993))。
本発明の新生血管に帰巣し得る分子としての新生血管特異的ペプチドの同定のために、より好ましく使用される方法としては、例えば特表平10−502674号公報(対応米国特許第5622699号)に記載された、ルオスラーティらの器官または組織に帰巣する分子を同定する方法が例示できる。該方法は潜在的な器官帰巣分子のライブラリーをスクリーニングするインビボパニングを用いることにより1、2または3の選択された器官または組織に特異的に帰巣する分子を同定する方法であり、次の如くして実施できる。
即ち、まず、公知のファージライブラリーにランダムDNAを導入した後、得られるファージライブラリーの希釈混合物を、例えばマウスの尾静脈に投与し、1〜4分後に、マウスを液体窒素中で急速凍結する。ファージを回収するために、死体を解凍し、所望の器官または組織を採取し、蛋白分解酵素阻害剤を含む培養液中にてホモジナイズし、得られた試料を1%ウシ血清アルブミンを含有する氷冷培養液で数回洗浄後、大腸菌に感染させる。ファージで感染された大腸菌をテトラサイクリンを含有する培地中で数時間培養後、テトラサイクリンを含有する寒天プレートにプレコートし、回収されたファージを含むコロニーを更に適当な培地中で培養して、ファージを分離・精製する。そして2回目以降のバイオパニングを行う。この2回目以降のインビボパニングは、上記で得られたファージを用いて上記と同様にして行い得る。かくして、所望の選択されたファージによって発現されたペプチドをコードするDNAを得ることができる。得られるDNAを配列決定することにより、所望の器官または組織に帰巣する分子を同定することができる。
上記DNAの配列決定は、当業界で公知の方法により容易に行い得、例えばジデオキシ法〔Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463−5467(1977)〕やマキサム−ギルバート法〔Method in Enzymology,65,499(1980)〕等により行うことができる。かかる塩基配列の決定は、市販のシークエンスキット等を用いても容易に行い得る。
また、器官または組織に帰巣する分子の親和性を検出する方法としては、例えば次の方法を採用することができる。即ち、前記器官または組織に特異的に帰巣する分子を同定する方法において、得られた器官または組織特異的ペプチド発現ファージおよび選別前のファージを実験動物の尾静脈内に投与し、前記と同様の方法でファージのコロニー形成単位を測定し、例えば標的器官または組織100mg当たりにおける尾静脈内投与したファージ数に対する集積ファージ数の比を評価することにより、所望の器官または組織に帰巣する分子の親和性を検出することができる。
その他、例えば競合法によって、標的器官または組織帰巣ペプチドの一つを選択し、該ペプチドを合成し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した後、前記合成ペプチドと同一のペプチドを発現するファージを含む幾つかの標的器官または組織帰巣ペプチドファージの標的器官または組織への帰巣における影響を、合成ペプチドとの同時投与によって調べることにより、ペプチドの帰巣特異性を確認することができる(特表平10−502674号:米国特許第6522699号参照)。
上記新生血管特異的ペプチドの同定および新生血管への親和性の検出法の詳細は、後記実施例に示すとおりである。後記実施例に示されるマウスにおいてインビボパニングを用いて同定された本発明新生血管特異的ペプチドは、ヒトまたは他の哺乳動物種における癌の新生血管組織と結合し得る。また、マウスにおいて増殖された新生血管形成に存在する標的分子と結合する本発明ペプチドは、ヒトまたは他の哺乳動物体における癌の新生血管形成における対応する標的分子と結合し得る。更に、本発明ペプチドは、インビトロで患者から得られたサンプルと特異的に結合し得る。これらのことより、本発明ペプチドがヒト患者の対応する分子と結合する能力を有することが確認できる。
癌組織内血管の形成は、増殖を支持する新しい血管の連続形成が起こることにより特徴づけられ、この点で一般的な組織学的血管の形成とは区別されている(Folkman,Nat.Med.,,27−31(1995);Rak,Anticancer Drugs,,3−18(1995))。従って、インビボパニングによって同定された新生血管に特異的に帰巣する本発明ペプチドは、癌に対する新生血管形成の抑制因子として使用し得る。
一方、新生血管に特異的に帰巣する本発明ペプチドは、正常で健全な器官または組織に対しては、有害作用を及ぼす可能性が低い。
また、本発明ペプチドは、癌細胞ではなく新生血管に帰巣することから、制癌剤のような薬剤耐性を獲得する可能性が低いと考えられる。
更に新生血管に特異的に帰巣する本発明ペプチドは、炎症性組織、再生または傷害組織に存在するような他のタイプの新生血管系を標的としても使用し得る。また、子宮組織においても新生血管形成が生じているので、本発明ペプチドは、かかる子宮組織との結合性をも有すると考えられ、子宮筋腫等の疾患に影響力を及ぼすことが予想できる。
上記の如くして同定、確認された本発明ペプチドは、配列番号1から11で特定されるものであり、これらはいずれも新生血管に帰巣する性質を有することにより特徴づけられる。
本発明ペプチドには、上記配列番号1から11で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの他に、該アミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加により改変されたアミノ酸配列からなり且つ新生血管に親和性を有するペプチド、即ち新生血管に帰巣する性質を有するペプチドが包含される。
ここで、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付力」の程度およびそれらの位置などは、改変された蛋白質が、配列番号1から11で示されるアミノ酸配列からなる新生血管特異的ペプチドと同様の性質を有する同効物であれば特に制限されない。上記アミノ酸配列の改変(変異)などは、天然において、例えば突然変異や翻訳後の修飾などにより生じることもあるが、天然由来の遺伝子に基づいて人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変・変異の原因および手段などを問わず、上記特性を有する全ての改変ペプチドを包含する。
また本発明ペプチドには、上記配列番号1から11で示されるアミノ酸配列を有するペプチドの相同物も包含される。該相同物には、配列番号1から11に示されるアミノ酸配列のペプチドと同一活性を有する、哺乳動物の蛋白質、例えばヒト、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマや、ラット、ウサギなどのげっ歯類動物の蛋白質も包含される。
上記改変されたアミノ酸配列を有する本発明ペプチドの例としては、例えば配列番号1、5および6で示される配列中に一部重複して存在する配列、例えば、Pro−Arg−ProおよびTrp−Arg−Proを残存させ、その他のアミノ酸配列部分のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したり、欠失させたり、他のアミノ酸残基を付加したものや、配列番号2に示すアミノ酸配列において、2番目および8番目のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したものや、配列番号11において4〜11番目のアミノ酸配列部分のみを残存させ、他を欠失させたものを例示できる。
上記アミノ酸配列の一部を改変させた本発明ペプチドの具体例としては、例えば配列番号19に示される12アミノ酸残基からなるもの;配列番号12〜14および21に示される8アミノ酸残基からなるもの;配列番号15〜17および23〜25に示す5アミノ酸残基からなるもの;配列番号28〜31に示される4アミノ酸残基からなるもの;および配列番号32に示される3アミノ酸残基(Trp−Arg−Pro)からなるものなどを例示できる。
より詳しくは、例えば配列番号12に示すものは、配列番号11において4〜11番目のアミノ酸配列部分のみを残存させたものである。配列番号13に示すものは、配列番号5に示す15アミノ酸配列の内、N末端より8アミノ酸配列を残存させ、残りの7つのアミノ酸残基を欠失させたものである。配列番号14に示すものは、配列番号6に示すアミノ酸配列のN末端より7つのアミノ酸残基を欠失させた8アミノ酸配列からなるものである。配列番号15に示すものは、配列番号5に示すアミノ酸配列の2〜6アミノ酸配列からなるものである。配列番号16に示すものは、配列番号6の9〜13アミノ酸配列からなるものである。また、配列番号17に示すものは、配列番号1に示すアミノ酸配列の1〜4アミノ酸配列のN末端にAlaを付加したものである。
また、本発明ペプチド中、少なくとも2つのシステイン残基を有するペプチド、例えば配列番号11で示されるアミノ酸配列のペプチドは、自発的に環状化すると考えられ、このような環状ペプチドは、線状形態で存在する場合においても活性を有する場合があるので、該ペプチド内のひとつまたは両方のシステイン残基は、本発明のペプチドの帰巣特性に著しい影響を与えることなく、欠失させることができる。かかる現象は、例えばコイビーネンらの報告(Koivunen,et al.,J.Biol.Chem.,268,20205−20210(1993))に支持される。上記欠失されたアミノ酸配列を有するペプチドの具体例は、配列番号12に示すとおりである。このような一部欠失されたアミノ酸配列を有するペプチドも、これが上記新生血管帰巣特性を有する限り本発明に包含される。
以下、本明細書において、「新生血管特異的ペプチド」乃至「本発明ペプチド」なる語には、上述した配列番号1〜11のアミノ酸配列を基準として、その一部アミノ酸配列が欠失した部分ペプチドなどの改変されたアミノ酸配列を有するペプチドも含めるものとする。
本発明に係る新生血管特異的ペプチドには、また、上記配列番号1から11で示されるアミノ酸配列を有するペプチドや該アミノ酸配列を改変され且つ新生血管に帰巣する性質を有するペプチドと共に、これらペプチドのデンドリマーが包含される。
ここで、デンドリマーなる語は、一定の組成と分子量を有する球形乃至他の三次元構造の巨大分子として知られており、また多抗原性ペプチド(multiple antigen peptide:MAP)としても知られている。その合成は、例えば複数個の機能基を有する化学構造核から出発して、各機能基に化学構造核が有すると同一の機能基を複数個その末端に有する枝(繰り返し単位)を結合させ、更に末端の機能基に順次同一の繰り返し単位を導入することにより実施できる。その詳細は特表昭60−500295号公報、特開昭63−99233号公報、特開平3−263431号公報、米国特許第4507466号明細書、同第4568737号明細書、ポリマージャーナル(Polymer Journal)第17巻第117頁(1985)、アンゲバンテヘルミー(Tomalia,et al.,Angewandte Chem.Int.Engl.)第29巻第138−175頁(1990)、マクロモレキュールズ(Macromolecures)第25巻第3247頁(1992)等に記載されている。
上記のようにデンドリマーは、その樹枝状形状から星形の立体配置を有する球状の外観を呈する開始部分となる核構造、開始核に放射状に結合した繰り返し単位で構成される内部層(世代)および各分岐の最も外側の末端に結合した活性化官能基よりなる外表面を有している。デンドリマーの大きさ、形態および反応性は、開始核部分、デンドリマーを製造する際に決定される世代の数および各世代に用いられる繰り返し単位を選択することによって調節することが可能である。 異なる大きさのデンドリマーは、利用される世代の数を増やすことによって容易に得ることが可能であり、その製造は、例えば米国特許第4694064号明細書の記載を参考にすることができる。ここで、窒素原子を開始部分となる核構造部分とし、核構造部分に結合する−CHCHCONHCHCH−構造からなる繰り返し単位、そして各分枝の最も外側の末端のアミノ基に結合した活性化官能基として、例えば配列番号1〜17からなる本発明血管新生特異的ペプチドを構成成分とするデンドリマー、あるいは後記実施例に示される、リジン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸を核構造部分とし、核構造部分に直説結合する繰り返し単位を同様に前記アミノ酸とし、活性化官能基として配列番号1〜17から選ばれるアミノ酸配列の本発明血管新生特異的ペプチドまたは配列番号19、21、23〜25および28〜32から選ばれるアミノ酸配列の本発明血管新生特異的ペプチドを有するデンドリマーを例示することができる。
前記窒素原子を開始部分とるデンドリマーは、例えば米国ポリサイエンス社(Polysciences,Inc.,400 Vally Road,Warrington,PA,18976,U.S.A.)から市販されているものを用い、後記の固相合成法を用いて本発明血管新生特異的ペプチドを各分枝の最も外側の末端に結合したデンドリマーを製造することができる。同様にリジンを開始部分となる核構造部分とし、核構造部分に直説結合するアミノ酸を同じくリジンからなる繰り返し単位、そして後記の固相合成法を用いて本発明血管新生特異的ペプチドを各分枝の最も外側の末端に結合したデンドリマーを製造することができる。このデンドリマーには渡辺化学工業社製のFmoc−Lys−Lys−Lys−βAla−Alko樹脂を用いることができる。また、上記において、各分枝の最も外側の末端に結合する本発明血管新生特異的ペプチドの一部に変えて、もしくは核構造部分に結合させる形で、抗癌活性を有する構成成分を結合させたデンドリマーを製造することもできる。
上記各デンドリマーは、例えば以下の如くして合成することができる。即ち、固相ペプチド合成用の樹脂に、スペーサーを介してまたは介さずに2つのアミノ基を同一のまたは同一でない保護基で保護したα,ω−ジアミノ酸を繰り返し単位として、その繰り返し単位の縮合と保護基の除去を繰り返すことによりデンドリマーを得ることができる。
ここで、固相ペプチド合成用の樹脂としては、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリスチレンポリエチレングリコール樹脂などの末端にクロロメチル基、4−(ヒドロキシメチル)フェノキシ基、4−((α−2’,4’−ジメトキシフェニル)−9−フルオレニルメトキシカルボニルアミノメチル)フェノキシ基などを有する通常のペプチド合成に用いられる樹脂を使用することができる。
スペーサーとしては1個または複数個のアミノ酸を挙げることができる。α,ω−ジアミノ酸としてはリジン、オルニチン、1,4−ジアミノ絡酸、1,3−ジアミノプロピオン酸などが挙げられる。保護基としてはBoc基、Fmoc基、Z基などが挙げられる。したがって機能基としてはアミノ基、カルボキシル基、水酸基などが挙げられる。枝数としては、繰り返し単位の縮合と保護基の除去をn回繰り返すことにより2nとなる。具体的には2〜16の数が挙げられる。
かかるデンドリマーの精製は通常の技術、例えばセファクリールS−300(ファルマシア社製)などのマトリックスでのサイズ排除可能な樹脂を用いたクロマトグラフィー操作などにより実施できる。
かくして得られるデンドリマーペプチドは、その枝部分に存在する本発明血管新生特異的ペプチドが、その本来の血管新生に選択的に帰巣し、血管新生抑制作用を奏し、かくして所望の制癌効果および癌転移抑制効果を奏し得るのである。しかも該デンドリマーペプチドは、その内部に制癌作用を有する公知の薬剤を包み込んで投与すれば、標的とする血管新生部分にだけ該薬剤を作用させることができ、より副作用の少ない薬剤とすることができる利点がある。
上記デンドリマーペプチドにおいて、その枝部分に存在させる本発明血管新生特異的ペプチドは、各枝共、同一のペプチドである必要はなく、異なるアミノ酸配列のペプチドを複数個組み合わせたものであってもよい。その例としては、例えば配列番号1、配列番号5、配列番号6のアミノ酸配列のペプチドを、或いは配列番号1〜11に示される15アミノ酸配列のペプチド、配列番号12〜14および21に示される8アミノ酸配列のペプチド、配列番号15〜17および23〜25に示される5アミノ酸配列のペプチド、配列番号28〜31に示される4アミノ酸配列、および配列番号32に示される3アミノ酸配列のそれぞれを、別の枝部分に結合させたものを例示できる。このようなデンドリマーは、投与対象における血中および組織中での安定性、結合された分子の比活性等を向上させることができる。
本発明新生血管特異的ペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明新生血管特異的ペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等およびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
尚、上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸及至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチドおよび最終的に得られる本発明新生血管特異的ペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
かくして得られる本発明の新生血管特異的ポリペプチドは、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
上記により得られる本発明新生血管特異的ペプチド(そのデンドリマーを含む、以下同じ)は、新生血管に特異的に帰巣する作用を有しており、それら自身で新生血管形成抑制剤として有用である。また、本発明新生血管特異的ペプチドは、癌組織の新生血管に特異的に帰巣する作用を有するため、癌組織に対するリガンドとして、例えば癌化学療法剤のような抗癌剤などの薬物と結合させて用いることができる。
ここで、対象とする各種癌疾患としては、例えば、黒色腫、大腸癌、卵巣癌、肝癌、乳癌、脳腫瘍、腎癌、膵臓癌、子宮頸癌、食道癌、肺癌、胃癌などを例示できる。
また、本発明新生血管特異的ペプチドと結合させて用いることのできる薬物としての抗癌剤または抗癌活性成分としては、5−フルオロウラシル(5−FU)を代表として、以下の各種の癌化学療法剤を例示することができる。即ち、アルキル化剤、例えばシクロホスファミド、メルファラン、ラニムスチン、イホスファミド、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシドなど;代謝拮抗剤、例えば6−メルカプトプリン、リボシド、エノシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスフェホート、テガフール、5−FU、ドキシフルウリジン、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリンなど;抗腫瘍性抗生物質製剤、例えばアクチノマイシンD、塩酸アクラルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸プレオマイシン、ジノスタチンスチマラマー、硫酸ブレオマイシン、マイトマイシンC、ネオカルチノスタチン、硫酸ペプロマイシンなど;抗腫瘍性植物成分製剤、例えばエトポシド、、塩酸イリノテカン、ドセタキセル水和物、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンブラスチン、パクリタキセル、その他、アセグラトン、ウベニメクス、シスプラチン、シゾフィラン、ソブゾキサン、クレスチン、クエン酸トレミフェン、酢酸メドロキシプロゲステロン、クエン酸タモキシフェン、カルボプラチン、塩酸ファドロゾール水和物、塩酸プロカルバジン、塩酸ミトキサントロン、L−アスパラギナーゼ、トレチノイン、ネダブラチン、ピシバニール、フルタミド、ペントスタチン、ポルフィマーナトリウム、レシチンナンなと。
また、抗腫瘍活性を有するサイトカインとしては、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−1、IL−2、IL−12、TNF、TGF−β、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチンなどが例示される。抗体または抗体断片としては、抗VEGF抗体、抗FGF抗体、抗HGF抗体I抗L−8抗体などの癌の増殖・促進に関連する因子に対する抗体またはそれらの抗体断片を例示できる。
このように、本発明の新生血管特異的ペプチドは、これに制癌剤や抗癌活性を有するサイトカインなどの活性薬物を結合させるかまたは修飾させてリポソーム製剤にするなどの、DDS製剤を作成することができ、かかる製剤は癌に対するアクティブターゲティングを行うことができる。
本発明新生血管特異的ペプチドを抗癌活性を有するサイトカイン等の蛋白質と結合させる場合、かかる結合物は、遺伝子組換え技術に従い、本発明ペプチドと上記サイトカイン等との融合蛋白質として発現させることができる。かかる融合蛋白質の製造および発現は、この分野で周知慣用の技術に従うことができる。即ち、融合蛋白質は、通常の遺伝子組換え技術(例えば、Science,224,1431(1984);Biochem.Biophys.Res.Comm.,130,692(1985);Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,80.5990(1983)など参照)に従って調製できる。また融合蛋白質の製造および発現に際しては、大野らの方法「タンパク実験プロトコール1機能解析編、細胞工学別冊、実験プロトコールシリーズ、1997年、秀潤社」を参考にすることができる。
得られた組換え融合蛋白質は、所望により、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作〔「生化学データーブックII」、1175−1259頁、第1版第1刷、1980年6月23日株式会社東京化学同人発行;
Biochemistry,25(25),8274−8277(1986);Eur.J.Biochem.,163,313−321(1987)等参照〕により分離、精製できる。該方法としては、具体的には例えば通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せ等を例示できる。特に好ましい上記方法としては、所望の蛋白質を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィーを例示できる。
また、本発明新生血管特異的ペプチドを、物理的、化学的または生物学的な物質と結合させてリガンドとして利用する場合、該物理的、化学的または生物学的な物質は、前記癌化学療法剤(抗癌剤等)を含有し得る室のあるマイクロデバイスのような薬物送達系物質であることもできる。かかる薬物送達系物質の例としては、例えばリポソーム、透過性若しくは半透過性の膜を含有するマイクロカプセル、他の室を有するマイクロデバイスなどの生物学的物質を挙げることができる。これらは、一般に非毒性で、好ましくは生分解性であるのがよい。
上記抗癌剤等の薬物を含有し得る種々の薬物送達系物質を本発明ペプチドと結合させる方法は、この分野において周知であり、具体的には、例えばハロウらやヘルマンソン(Harlow and Lane,Antibodies:A laboratory manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988):Hermanson,Bioconjugate Techniques,Academic Press(1996))の方法を挙げることができる。
以下、上記薬物送達系物質と本発明ペプチドとの結合による製剤の具体例としてのリポソーム製剤につき詳述する。
リポソーム製剤は、酸性リン脂質を膜構成成分とするか或いは中性リン脂質と酸性リン脂質とを膜構成成分とするリポソームに、本発明ペプチドを保持させることにより得られる。
ここで、膜構成成分としての酸性リン脂質としては、通常の酸性リン脂質より狭義に定義され、より具体的にはジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、卵黄ホスファチジルグリセロール(卵黄PG)、水添卵黄ホスファチジルグリセロール等の天然または合成ホスファチジルグリセロール類(PG)およびジラウロイルホスファチジルイノシトール(DLPI)、ジミリストイルホスファチジルイノシトール(DMPI)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジオレオイルホスファチジルイノシトール(DOPI)、大豆ホスファチジルイノシトール(大豆PI)、水添大豆ホスファチジルイノシトール等の天然または合成ホスファチジルイノシトール類(PI)を示す。これらは一種単独でまたは二種以上混合して使用できる。
また、中性リン脂質としては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、パルミトイルステアリイルホスファチジルコリン(PSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等の天然または合成ホスファチジルコリン類(PC)、大豆ホスファチジルエタノールアミン、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、水添大豆ホスファチジルエタノールアミン、水添卵黄ホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(MPPE)、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PSPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)等の天然または合成ホスファチジルエタノールアミン類(PE)等を例示できる。これらは一種単独でまたは二種以上混合して使用することができる。
上記リポソーム膜は、上記酸性リン脂質を単独で構成成分として用いるかまたは上記中性リン脂質と酸性リン脂質とを併用して常法に従い形成される。ここで酸性リン脂質の併用割合は、リポソーム膜構成成分中に約0.1〜100モル%程度、好ましくは約1〜90モル%、より好ましくは約10〜50モル%程度とするのがよい。
上記リポソームの調製に当たっては、更に例えばコレステロールなどを添加することができる。このコレステロールの添加によればリン脂質の流動性を調製して、リポソームの調製をより簡便なものとすることができる。該コレステロールは通常リン脂質に対して等量まで、好ましくは0.5〜1倍等量の量で添加配合されるのが好ましい。
リポソーム分散液中の有効成分と酸性リン脂質との配合割合は、有効成分に対して酸性リン脂質が約0.5〜100当量程度、好ましくは約1〜60当量程度、より好ましくは約1.5〜20当量程度とされるのがよい。
また、本発明のペプチド修飾に用いられるペプチドの全脂質中のモル%は、数モル%から数十モル%程度、好ましくは5〜10モル%程度までのモル%、通常は5モル%程度でもあってもよい。後記実施例4に示されるように本発明ペプチドそれ自体に抗癌活性がある場合は、5〜40モル%程度であってもよい。尚、水溶性の抗癌剤または抗癌活性を有する物質の場合は、リポソーム内水層に封入するので、10%から90%の効率で封入されることとなる、対照的に脂溶性の抗癌剤または抗癌活性を有する物質の場合は、リポソーム膜内に所望の有効成分を封入する場合は、100%近くの高い封入効率で行うことが可能である。
次に、上記リポソームの製造法を説明する。該リポソームを製造するに当っては、種々の公知の方法を用いることができる。例えばリポソーム膜構成成分をクロロホルム等の有機溶媒に溶解後、溶媒を減圧留去してリピッドフィルムを形成させ、これに薬物を溶解した水相を添加し脂質の相転移温度以上に加温し、ボルテックス、ホモジナイズ等の処理によりリポソーム分散液を調製する。また、粉末状リポソーム膜構成成分を相転移温度以上に加温し、薬物水溶液と混合撹拌することにより、リポソーム分散液を調製することもできる。尚、添加する薬物水溶液は薬物が溶けている限り任意のものを使用でき、添加する薬物水溶液の量も任意に増減できる。
このようにして得られたリポソームの分散液は必要に応じて限外濾過膜法、例えばポリカーボネート製メンブランフィルターを用いて粒径分布をコントロールすることも可能である。透析膜を用いて濃縮することも可能である。
また、このリポソーム分散液には、製剤設計上必要な添加剤として、防腐剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤、吸収促進剤等の各種の公知物質を適宜配合することができ、また必要に応じてこれらの添加物を含む液または水で希釈することもできる。上記添加剤の具体例としては、防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロヘキシジン、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン等)、チメロサール等の真菌および細菌に有効な防腐剤を、等張化剤としてはD−マンニトール、D−ソルビトール、D−キシリトール、グリセリン、ブドウ糖、マネトース、蔗糖、プロピレングリコール等の多価アルコール類や塩化ナトリウム等の電解質類を、また安定化剤としてはトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)、システイン等をそれぞれ例示できる。
上記リポソーム分散液の具体例は、例えば後記実施例5、7および8に示されている。
更に、本発明新生血管特異的ペプチドは、その有する癌の新生血管特異的に帰巣する作用を利用して、これらに放射性化合物、蛍光物質、酵素、ビオチン、造影剤などを結合させて、癌に対するアクティブターゲティングを実施することにより、癌の診断剤等として利用することができる。
また、本発明新生血管特異的ペプチドは、これらに脂肪酸(ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸等)、アルキル基、コレステリル基等を結合させて、これらを含むリポソーム、脂質乳剤とし、これらと共に制癌剤や抗癌活性を有するサイトカインなどを含む医薬組成物として癌に対するアクティブターゲティングを行うこともできる。上記リポソーム製剤の製造についての詳細は、例えばウッドレら(Long Circulating Liposomes:old drugs,New therapeutics.,M.C.Woodle,G.Storm,Eds:Springer−Verlag Berlin(1998))の文献に記載されている。また、上記脂質乳剤と共に制癌剤や抗癌活性を有するサイトカインなどを含む医薬組成物の製造についての詳細は、ナンバらの文献(Liposomal applications to cancer therapy,Y.Namba,N.Oku,J.Bioact.Compat.Polymers,,158−177(1993))に記載されている。
更に、本発明新生血管特異的ペプチドは、これらに各種脂肪酸、アルキル基、コレステリル基等を結合させて、これらを含むリポソーム、脂質乳剤とし、これらに癌造影のために放射性化合物、造影剤などを更に結合させて、癌に対するアクティブターゲティングを行うことによって、癌の診断剤としても利用することができる。これらは即ち癌の存在を同定する癌診断剤となり得る。かかる診断剤の利用によれば、特に他の方法では検出されないかもしれない、初期性腫瘍並びに転移性病巣を同定できる利点がある。従って、本発明は癌の診断方法、特に初期性癌並びに転移性病巣を同定する診断方法をも提供するものである。
かくして癌の存在が同定されることにより、本発明の別の実施態様において、新生血管特異的ペプチドは、癌に対して薬剤を帰巣させるために抗癌剤、例えば癌化学療法剤と結合され得るか、または例えば癌化学療法剤または他の抗癌性因子を含有するマイクロデバイスと結合され得、かくして癌または癌細胞の選択的殺傷を可能なものとする一方、正常組織または正常細胞には影響を少なくするという所望のアクティブターゲティングを実施可能とする。この点で、本発明は癌および癌転移の治療および転移抑制方法をも提供するものである。
本発明の新生血管抑制剤乃至癌治療組成物は、有効成分としての新生血管特異的ペプチドまたはこれと他の抗癌剤などとの複合体と共に、薬学的に許容される担体を含有する製剤組成物として患者に投与される。
ここで、用いられる薬学的に許容される担体は、当該分野において周知されており、調製される製剤組成物の形態に応じて適宜選択できる。例えば、組成物が水溶液形態に調製される場合、上記担体としては水または生理学的緩衝液を利用できる。また、組成物が適当な溶液形態に調製される場合、上記担体としては、例えば、グリコール、グリセロール、オリーブ油のような注入可能な有機エステルなどを使用できる。
更に有効成分として上記複合体を利用する場合、上記担体としては、例えば複合体の吸収を安定化または増加させるように作用する化合物を使用することもできる。かかる化合物としては、例えば、グルコース、スクロースまたはデキストランのような炭水化物、アスコルビン酸またはグルタチオンのような抗酸化剤、キレート剤、低分子タンパク質或いはアルブミンのような安定化剤乃至賦形剤を例示することができる。
本発明の新生血管抑制剤または癌治療組成物(製剤)中に含まれる有効成分の量は、広範囲から選択することができ特に制限されるものではない。通常、本発明新生血管特異的ペプチドを単独で有効成分とする場合には、これは製剤中に約0.00001〜70重量%、好ましくは約0.0001〜5重量%含有される量の範囲から選択されるのが望ましい。また、上記製剤の投与量も、特に限定されず、所望の治療効果、投与方法(投写経路)、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲から適宜選択することができる。一般に、該投与量は、患者1日当たり体重1kg当たり、約0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲から選ばれるのがよい。該製剤は1日当たり1回投与に限らず、数回に分けて投与することができる。
また、本発明新生血管特異的ペプチドを制癌剤および癌転移抑制剤と共に用いて調製される本発明の新生血管抑制剤または癌治療組成物の投与量は、本発明新生血管特異的ペプチドと結合させて用いられる、例えば所望の制癌効果を有するための癌化学療法剤(薬物)の量に依存して適宜決定することができる。例えばこの種の臨床利用に際して、制癌剤有効成分として一般に使用される5−フルオロウラシル(5−FU)を用いる場合、該5−FUは通常1日当たり約0.1mg/kg〜50mg/kg程度投与される。これと結合させて利用される本発明新生血管特異的ペプチドの量は、自ずと明らかであり、かかる量が本発明ペプチドの有効量とされ得ることは当業者であれば容易に理解できる。しかも、本発明の医薬組成物は、癌の新生血管に特異的に帰巣する作用を有する特徴があることを考慮すれば、癌化学療法剤の投与量は、従来使用の臨床用量よりもかなり少なくても、有効に奏効するであろうことが予測される。
上記したように、本発明新生血管特異的ポリペプチドは、これらに癌造影のために、放射性化合物、造影剤などを結合させて診断剤として、癌に対するアクティブターゲティングを実施することができる。また本発明新生血管特異的ポリペプチドは、人体から単離された細胞、組織、器官、それらの一部分における新生血管形成の存在を検出するために、使用することができる。かかる使用によれば、上記新生血管が癌により形成されたものであるため、結果として、人体から単離された試料中の癌の存在を検出することができる。上記ヒト試料は、例えば生検によって得られる組織切片乃至標本、組織培養中に存在するかまたは適応された細胞であることができる。また、上記ヒト試料は、ホモジナイゼーションによって処理されたものであってもよく、これが好ましい。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例を挙げるが本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1 新生血管特異的ペプチドの同定
(1)ファージディスプレイライブラリーの調製
ニシ、サヤらの報告(Nishi T.,Saya H.,et al.,FEBS Lett,399,237−240(1996))に従って、ファージのコートタンパク質pIII遺伝子に15残基のランダムなアミノ酸配列ペプチドをコードするランダムDNAを挿入して、ファージ外殻表面にランダムな15残基のアミノ酸配列ペプチドを発現できる、所望のファージディスプレイライブラリーを構築した。
上記で構築されたファージディスプレイライブラリーの特徴は、スコットら(Scott,J.K.and Smith,G.P.,Science,249,386−390(1990))により報告されている。
(2)新生血管の形成
新生血管特異的ペプチド発現ファージの標的となる腫瘍新生血管を、インビボで誘導するためにチャンバーリング法(Folkman,J.,et al.,J.Exp.Med.,133,275−288(1971))を採用した。
ここでチャンバーリング法は、インビボで腫瘍新生血管の誘導を起こすために確立された手法の一つであり、リングの中に癌細胞を封入し、動物皮下に移植することで皮膚に新生血管の誘導を起こさせるものである。リングのフィルターは細胞を透過させず、液性因子のみを透過させる性質があるため、この手法によれば、動物の組織に癌が転移することなく、また、免疫細胞による癌細胞への傷害もなく、新生血管形成を誘導することができる。
この手法につき詳述すれば、まずリング(外径14mm、内径10mm、高さ2mm、養鯉用0.2mlのミリポアリングPR0001401、ミリポア社製)の中に、B16BL6メラノーマ細胞(Dr.G.L.Nicolson(Institute for Molecular Medicine Irvine,CA)より入手、Cancer Res.,57,3612−3619(1997);FEBS Lett.,427,286−290(1998)等参照)の細胞浮遊液(1x10個/0.18ml)を、チャンバーリング当たり0.18mlとなる量で注入口より注射器で注入し、ナイロン棒(ミリポア社製)にて注入口を封鎖した。ついで、上記リングを5週令のC57BL/6雄性マウスの背部に移植し、マウスの背部皮膚に新生血管を形成させた。
(3)新生血管特異的ペプチドディスプレイファージの選別(バイオパニング)
チャンバーリング移植5日後にマウスをネンブタール(0.2ml腹腔内投与)で麻酔し、上記(1)で得られたランダムペプチドディスプレイファージ(1x1011コロニー形成単位)を0.2ml尾静脈内に投与した。投与4分後、マウスを液体窒素中に凍結させた。ドライヤーで凍結させたマウスを融解後、新生血管の形成された皮膚を切り取り、その重量を測定した。
ついで、得られた皮膚をミンチし、タンパク分解酵素阻害剤である1mMフェニルメチルスルフォニルフルオライド(シグマ社製)を含むダルベッコ修飾イーグル培養溶液(A)(日水製薬(株)製、カタログ番号:Code05915)1mlを加え、氷中でホモジナイズした。ついでエッペンドルフチューブ中に移し、1%ウシ血清アルブミン(インタージーン社製)を含む氷冷の前記(A)培養液(BSA 0.1g+100mM PI,100μl+DMEM 10ml)で3回洗浄した。洗浄は遠心器を用い12000回転/分で行った。
遠心後上清を除き、新生血管から回収されたファージを大腸菌K91KAN(カナマイシン耐性株:熊本大学・腫瘍医学講座、佐谷秀幸教授より分与されたものを使用)に感染させた。60分間静置の後、0.2μg/mlテトラサイクリン(シグマ社製)を含むNZY培地(10g NZアミンA:和光純薬社製:Code;541−00241)、5gビール酵母エキス(商品名:エビオス、アサヒビール社製)および5gNaClを精製水1Lに溶解し、5N NaOHを1ml加え、pH7.5に調製し、オートクレーブ滅菌したのち、室温保存したものを使用)を10ml加え、37℃で180〜200回転/分で60分間インキュベートした。
次いで、線画培養した大腸菌K91KANの1コロニーをかき取り、カナマイシン(和光純薬社製、最終濃度100μg/ml)を含むNZY培地5mlに懸濁し、37℃で180〜200回転/分で一晩インキュベートした。さらにこの培養液100μlをカナマイシンを含むNZY培地10mlに懸濁し、37℃で180〜200回転/分で4時間インキュベートした。4時間培養後、培養液を10倍希釈した試料が600nmの吸光度で0.1〜0.2を示すことを確認し(細胞数が5x10cell/ml)、30分間静置後、ファージを分離・精製し、2回目以降のバイオパニングに用いた。
上記操作を5回繰り返して、新生血管に集積する所望のペプチド発現ファージを得た。上記バイオパニング操作の結果を表1に示す。
Figure 0004439120
表1は、1〜5回目のバイオパニングによって得られたファージの回収率を示す。表に示されるように尾静脈より投与されたファージ数に対する新生血管部位に集積したファージ数の比を%で示したファージ回収率は、バイオパニングの回数が増加する度に上がっていることが分り、このことから新生血管内皮細胞に特異的に結合するペプチドを発現しているファージが回収されていることが確認された。
(4)新生血管特異的ペプチドの配列決定
上記(3)で得られたファージから、15個のファージについて、発現しているペプチドの配列決定を以下のとおり行った。
即ち、4回目のバイオパニングの後のタイター測定で得られたプレート上のコロニーをそれぞれ50コロニーずつ、無作為に拾い上げ、新しいNZYプレートに、植菌し直し、一晩37℃にて培養し、これをマスタープレートとして4℃で保存した。
マスタープレートのコロニーを各々20mlのNZY培地(20μg/mlテトラサイクリン含有)の入った50ml遠心チューブに懸濁し、37℃で一晩200回転/分で振盪培養した。
ついで3000回転/分、10分間遠心分離を行った後、上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、12000回転/分で10分間遠心分離し、大腸菌を除菌した。更に上清をオーク・リッジ遠心チューブに移し、3mlのポリエチレングリコール(PEG6000:ナカライデスク社製)/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃に4時間静置した。12000回転/分で10分間遠心分離し、ファージを沈殿させた。ついで上清を除去し、沈殿したファージを1mlのTBS(トリス緩衝塩溶液)に懸濁させた。1.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、15000回転/分で10分間遠心分離し、不溶性物質を除去後、上清を別のエッペンドルフ・チューブに移し、150μlのポリエチレングリコール/NaClを加え、よく撹拌した後、4℃に1時間静置した。次いで15000回転/分で10分間遠心分離し、ファージを再沈殿させた。ついで上清を除去し、沈殿したファージを200μlのTBSで再度懸濁した。15000回転/分で10分間遠心分離し、不溶性物質を沈殿させた後、該沈澱物を0.5mlのエッペンドルフ・チューブに移し、ファージクローンを4℃で保存した。
上記で得られたファージクローンよりのDNAの抽出は、1.5mlのエッペンドルフ・チューブにファージクローン100μlに対してTBS100μlおよびTE飽和フェノール(ニッポジーン社製)200μlを加えて、10分間激しく撹拌後、15000回転/分で10分間遠心分離した。次いで、上清(水相)200μlに対してTE飽和フェノール200μlおよびクロロホルム200μlを加えて、前記と同様に10分間激しく撹拌後、15000回転/分で10分間遠心分離した。更に、上清(水相)150μlに対してTE250μl、3M酢酸ナトリウム40μl、20mg/mlグリコーゲン(ベーリンガー・マインハイム社製)1μlおよびエタノール1mlを加えて、1.5mlのエッペンドルフ・チューブにて−20℃で、一時間放置した後、15000回転/分で10分間遠心分離した。上清を取り除き、1mlの80%エタノール(−20℃)を緩やかに加えて、15000回転/分で10分間遠心分離し残存する塩を除いた。上清を除去後、チューブ内の水分を蒸発させ、沈殿しているDNAを10μlの滅菌蒸留水に溶解し、4℃にて保存した。かくして得られた個々のファージDNAをペプチドの配列決定のために使用した。
ファージDNAによりコードされるペプチドの配列決定は、ジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci.,USA.,74,5463−5467(1977))により、アマシャム社のTHERMO配列キット(Amersham Life Sciene,Code;US79765,Lot番号;201503)を用いて機器の使用説明書に従い実施した。DNAの伸長反応は、96℃、30秒、45℃、15秒、60℃、4分を1サイクルとして、30サイクル行い、DNAの配列は、ABI社製のDNAシーケンサー(ABI PRISMTM377DNAシーケンサー)を用いて行った。
かくして決定された新生血管特異的ペプチドのアミノ酸配列を表2に、1文字アミノ酸表記で示す。
Figure 0004439120
上記表2に示されるように15個のうち、ファージ番号1のペプチド配列を発現しているファージは5個あった。また、ファージ番号2〜11で示されるペプチド配列を発現しているファージはそれぞれ1個ずつあった。
(5)新生血管特異的ペプチド発現ファージの親和性試験−1
B16BL6メラノーマ細胞(1x10個)を5週令のC57BL/6雄性マウスの左腹部に移植し、担癌マウスを作製した。癌移植10日後(固形癌の直径が約1cm位になったとき)に担癌マウスを上記(3)と同様にネンブタール(0.2ml腹腔内投与)で麻酔し、上記(4)で得られ、配列決定されたNo.1〜No.11のペプチド発現ファージおよび尾静脈投与前のファージのそれぞれ(1×1011コロニー形成単位)を0.2mlずつ尾静脈内に投与した。投与4分後、マウスを液体窒素中に凍結させた。ドライヤーで凍結させたマウスを融解後、腫瘍部位を切除し、該重量を測定した。
得られた腫瘍をミンチし、上記(3)と同様にしてファージを大腸菌に感染させた後、培養した。その後、癌組織内に集積したファージのコロニー形成単位を同様に測定した。
得られた結果(回収率%)を、癌組織100mg当たりにおける、尾静脈内に投与したファージ数に対する集積ファージ数の百分率比で下記表3に示す。また表3には、新生血管特異的ペプチドディスプレイファージの癌組織への親和性を、選別前のファージの回収率を1としたときの各ペプチド発現ファージの結合倍率にて併記する。
Figure 0004439120
該表より、ファージ番号No.5、No.6、No.1、No.2、No.3の順で癌組織への親和性が高いことがわかる。
(6)新生血管特異的ペプチド発現ファージの親和性試験−2
マウスの系統を変えたとき、および腫瘍の株を変えたときにおいても、上記(5)で選別されたペプチド発現ファージが新生血管に特異的接着を示すかどうかを以下のとおり試験した。
即ち、Meth A肉腫細胞(1×10個)を5週令のBALB/c雄性マウスの左腹部に移植し、担癌マウスを作製した。以下、上記(5)の方法と同じ方法で試験を行った。
その結果を表3と同様にして、下記表4に示す。
Figure 0004439120
該表より、ファージ番号No.1、No.5、No.6の順で癌組織への親和性が高いことがわかる。
このように異なる種の腫瘍に対しても、多少の親和性の増減はあるもののファージ番号No.1、No.5およびNo.6は、新生血管を形成する癌組織に対して高い親和性を示すことが明らかになった。
実施例2 本発明ペプチドの固相合成
全自動ペプチド合成機(ACT357、アドバンストケムテック社製)を使用し、同社のプログラムに従い、Fmoc/NMP,HOBt法〔Fmoc:9−フルオレニルメトキシカルボニル、NMP:N−メチルピロリドン、HOBt:1−ヒドロキシペンゾトリアゾール〕による各ペプチドの固相合成を以下のとおり実施した。
即ちまずC端フリー(OH)のペプチドを製造した。これらは配列番号1〜12に示されるアミノ酸配列に従って、C端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸−Alko樹脂0.25mmolに、C端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を順次、合成プログラムに従い伸長反応させた。
またC端アミドの各ペプチドは、Fmoc−NH−SAL樹脂0.25mmolにC端アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を合成プログラムに従い縮合反応させ、その後、C端より2番目以降の各アミノ酸に相当するFmoc−アミノ酸を順次縮合反応させて鎖伸長を行った。
各反応終了後、プログラムに従って、N端Fmoc基の脱保護反応を行った。
かくして得られた各ペプチド樹脂をポリプロピレン製のミニカラム(アシスト社製)に回収し、メタノール洗浄後、真空で乾燥し、以下の操作に付してペプチドを樹脂から切り出し、側鎖の脱保護反応を行った。即ち、各樹脂にリエージェントK(Reagent K,82.5% TFA,5%フェノール,5% HO,5%チオアニソール(Thioanisole),2.5%エタンジチオール)2mlを加え、ミニカラム中で60分間反応させた。
次いで、反応液を冷ジエチルエーテル8ml中に滴下して反応を停止させ、同時にペプチドを沈殿させた。更に、ミニカラムをTFA2mlにて洗浄し、冷ジエチルエーテル5mlを追加し、遠心し、沈殿をジエチルエーテル10mlで4回洗浄後、約5mlの50%アセトニトリルでペプチドを可溶化し、凍結乾燥した。更に可溶化と凍結乾燥操作を2回繰り返して、所望の粗凍結乾燥品を得た。
これをオクタデシルカラム(直径20X250mm,YMC社製)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分画し、所望のペプチドを単離した。
尚、上記において用いた樹脂およびアミノ酸誘導体は、いずれも渡辺化学工業社製のものである。
かくして単離された各ペプチドの同定を、アミノ酸配列分析およびマススペクトロメトリーによる分子量測定により行った。
実施例3 合成ペプチドを用いた競合阻害実験
(1)ペプチドの合成
前記実施例1で得られた試験結果から、新生血管部位および癌組織への親和性の高い3種のペプチドにおける共通配列に着目し、XRP構造を含む、配列番号1、5および6のペプチドに加えて、更に、配列番号13〜16に示すアミノ酸配列の各ペプチドを、実施例2に示すペプチド固相合成法に従って合成した。尚、以下の実施例においては、特に明示しない限り、本発明ペプチドとしては、かくして得られたC端アミド構造のペプチドを利用した。
(2)各ファージと15残基の合成ペプチドの競合阻害実験
実施例1(5)と同様の方法で、配列番号1、5および6に示すアミノ酸配列の合成ペプチドとNo.1、No.5およびNo.6ファージを同時に投与した。尚、各ペプチドの合成は、実施例2に従った。
即ち、B16BL6黒色腫(1×10個)を5週齢のC57BL/6マウス(日本SLC社製)に移植10日後、麻酔下に担癌マウスに上記各合成ペプチド0.25μmolと各ファージ(1x10コロニー形成単位)の混合液0.2mlずつをそれぞれ尾静脈内に投与し、癌組織内に集積したファージのコロニー形成単位を同様に測定した。
また、コントロールとして合成ペプチドを含まないファージ溶液(1×10コロニー形成単位)を投与した群を設けた。
コロニー形成により、癌組織内の新生血管に集積したファージ数を算出し、合成ペプチドを同時に投与していないペプチド発現ファージの腫瘍集積率を基準値として、各合成ペプチドによるファージの集積阻害を評価した。
その結果を表5に示す。
Figure 0004439120
上記表より以下のことが判る。即ち、共通のアミノ酸配列(WRP)を有する合成ペプチド(配列番号5および6)は、No.5およびNo.6のファージに対して交差的に阻害活性を示し、新生血管部位に対する親和性に上記共通配列WRPが重要であることを示唆した。
一方、No.1ファージの腫瘍集積は、いずれの合成ペプチドによっても同程度阻害された。
(3)各ファージと8残基または5残基の合成ペプチドの競合阻害実験
上記(2)と同様の方法により、合成ペプチド(配列番号5および6)に代えて、上記(2)で得られた4つの短鎖ペプチド(配列番号13〜16)を用いて、これら各合成ペプチドと各ファージとを投与して、癌組織内に集積したファージのコロニー形成単位を同様に測定し、短鎖合成ペプチドによるファージの集積阻害を評価した。コントロールとして合成ペプチドを含まないファージ溶液(1×10コロニー形成単位)を投与した群を設けた。
その結果を図1および図2に示す。
各図において、縦軸はファージ集積%を、横軸はファージNo.を示す。図1中、白抜き棒は、合成ペプチド無投与のファージのみ投与群(コントロール群)を、斜線を付した棒は配列番号13に示す短鎖合成ペプチド投与群を、また黒塗り棒は配列番号14に示す短鎖合成ペプチド投与群を、それぞれ示す。
図1より、配列番号5と配列番号6に示すアミノ酸配列の合成ペプチドの共通配列であるWRPを含む8残基の短鎖合成ペプチド(配列番号13および14)は、それぞれに対応する15残基のペプチド発現ファージの腫瘍集積を抑制した。その阻害活性は15残基の合成ペプチドを用いたものを上回るものであった。また、両者が交差反応性を示したことから、共通配列WRPの重要性が示唆され、更に短鎖化することも可能と考えられる。
また、図2中、白抜き棒は合成ペプチド無投与のファージのみ投与群(コントロール群)を、黒塗り棒は配列番号15に示す短鎖合成ペプチド投与群(ファージNo.5使用の場合)を、また斜線を付した棒は配列番号16に示す短鎖合成ペプチド投与群(ファージNo.6使用の場合)を、それぞれ示す。
該図2から、更に短鎖化された配列番号15および16に示すペプチド(5残基)の場合も、共通配列WRPを有し、それぞれに対応する15残基のペプチド発現ファージの腫瘍集積を同様に抑制することが判る。
実施例4 腫瘍増殖抑制作用1
(1)デンドリマーペプチドの合成
ペプチドの腫瘍増殖抑制作用を検討するに際して、投与されるペプチドの安定性および活性の増強の見込まれる多抗原性ペプチド(multiple antigen peptide:MAP)、即ちデンドリマーペプチドを用いて検討した。デンドリマーペプチドの合成は、Fmoc−MAP−Alko樹脂を用いることにより、実施例2に示される固相合成と同一の方法にて実施した。また、デンドリマーペプチド合成のための樹脂としては、Fmoc−Lys−Lys−Lys−βAla−Alko樹脂(Fmoc−MAP−Alko樹脂、渡辺化学工業社製)を用いた。
合成ペプチドとして、配列番号1、5および6に示すアミノ酸配列のもの(実施例2で得たもの)をそれぞれ用いて得られたデンドリマーの構造は、アミノ酸残基を一文字表示により示せば、それぞれ以下の通りである。
〈デンドリマーペプチド〉
(1)配列番号1のペプチドのデンドリマーペプチド:
(PRPGAPLAGSWPGTS)−Lys−Lys−Lys−βAla
(2)配列番号5のペプチドのデンドリマーペプチド:
(DRWRPALPVVLFPLH)−Lys−Lys−Lys−βAla
(3)配列番号6のペプチドのデンドリマーペプチド:
(ASSSYPLIHWRPWAR)−Lys−Lys−Lys−βAla
(2)デンドリマーペプチドの血管新生抑制効果
Meth A肉腫細胞(5×10細胞/ml)を5週齢雄性BALB/cマウス(日本SLC社製)の左腹側部に0.2ml皮下投与して固形癌担癌マウスを作成した。上記肉腫移植6〜10日後、担癌マウスに移植後癌の直径が4mmに到達した日を1日目とし、1〜11日目にコントロールとして蒸留水(D.W.)を、また上記(1)〜(3)の各デンドリマーペプチドを、それぞれ20mg/kg/日連日皮下投与した(各群4匹のマウスを用いた)。
各デンドリマーペプチドの抗腫瘍効果は、移植6日後から腫瘍増殖、副作用の一指標として体重変化および生存日数を調べると共に、癌の短径および長径を測定し、以下に示す式に従って癌容積を算出した。該計算式により算出される癌容積は、癌を摘出して量った癌重量ときわめて高い相関性を示す(r=0.980)。
癌容積=0.4×a×b(a:長径 b:短径)
その結果を図3に示す。
図3において縦軸は癌容積(cm)を、横軸は日数(日)を示し、図中(1)は上記(1)のデンドリマーペプチド投与群を、(2)は上記(2)のデンドリマーペプチド投与群を、(3)は上記(3)のデンドリマーペプチド投与群を、(4)は蒸留水投与群をそれぞれ示す。
図3より、蒸留水の投与と比較して、配列番号1、5および6に示すアミノ酸配列ペプチドのデンドリマーペプチドの投与によれば、著しい腫瘍増殖抑制作用が奏されることが明らかとなった。この結果より、配列番号1、5および6に示すアミノ酸配列のペプチドは、デンドリマーペプチドの形態で、優れた腫瘍増殖抑制効果を奏することが確認された。
実施例5 ペプチド修飾リポソームの体内分布
本発明血管新生特異的ペプチド、特にWRP配列およびPRP配列を含むペプチドで修飾したリポソームは、その体内分布が腫瘍の新生血管および/または腫瘍周辺部位に特異的であれば、所望の抗癌剤や抗癌活性を有するサイトカインなどを含む医薬組成物として癌に対するアクティブターゲティングを行うことが可能なDDS製剤とすることができる。
そこで、本例では、WRP配列およびPRP配列を含む5残基からなるペプチドのN末端にステアリン酸を結合させて、リポソーム化して調製したリポソームが標的とする腫瘍に集積するか否かを検討した。
(1)リポソーム分散液の調製
リポソーム分散液の調製のために本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチド、配列番号15:配列番号5の部分ペプチド、配列番号16:配列番号6の部分ペプチドおよび配列番号17:配列番号1の部分ペプチドのN端にAlaを付加したもの)のステアリン酸誘導体を実施例2の方法で合成した。
次いで、脂質DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン:日本精化株式会社製)、コレステロール(シグマ社製)および上記3種の本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチドのステアリン酸誘導体)のそれぞれを、モル比が10:5:4となる割合で含むクロロホルム溶液を調製した。
即ち、75μlの100mM DSPC、37.5μlのコレステロール、30μlの本発明ペプチドおよび[オレート−1−14C]標識コレステロールオレート(555KBq:アマシャム社製)を加えて、モル比が10:5:4となる割合で含むクロロホルム溶液を調製した。次いで前記調製液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで減圧条件下にクロロホルムを除去して脂質薄膜を調製した。さらに減圧下にクロロホルムを完全に除去し、乾燥させた。60分間真空乾燥した後、0.3Mグルコースで水和した(DSPC濃度;5.0mM)。
通常、ここで、0.3Mグルコースの代わりに、有効成分としてグリセリンなどで等張化した5−FU、ドクソルビシンなどの抗癌物質や抗腫瘍活性成分を添加するのであり、抗腫瘍活性成分として特定DNA断片を含むプラスミドあるいは蛋白質の場合は、ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩液(PBS)−Mg,Ca含有液などを添加して調製するか、あるいはリポソーム調製後にリモートローディング法によりアドリアマイシンなどの抗癌剤を封入するのであるが、本発明の新生血管特異的ペプチドはそれ自体、実施例3に示されるように抗腫瘍効果を有するので、以下のように、続く調製ステップでは、抗癌物質や抗腫瘍活性成分は加えないこことした。
上記調製液について、凍結と70℃加温による融解を3回繰り返した後、調製液を温浴型の超音波処理装置(商品名:ULTRASONIK250:ラボスコ株式会社製)にて10分間超音波処理して撹拌を行った。次いでエクストルーダー(ライペックス社製)にて、100nmの孔径を持つポリカーボネート膜(ヌクリポアポリカーボネート:コースター社製)を3回通過させ、目的とする本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチド)のN末端にステアリン酸が結合した分子を含むリポソーム(分散液)を得た。このものにおいて部分ペプチドはリポソームの表面を修飾する形となっている。
かくして、DSPC、コレステロールおよび本発明新生血管特異的ペプチド(3種の部分ペプチド、配列番号15:RWRPA、配列番号16:HWRPWおよび配列番号17:APRPG)を1.5ml中に7.5μモル、3.75μモルおよび3μモルとなるようにそれぞれ有するリポソーム分散液を得た。
(2)担癌マウスのリポソームの体内分布
Meth A肉腫細胞(1×10個/0.2ml)を5週齢のBALB/cマウスの腹側皮下に移植し、固形腫瘍を形成させた。10日後、麻酔下で担癌マウスに上記(1)で調製した3種のリポソーム分散液0.2ml/マウスずつを尾静脈内に投与し、マウスの癌組織、各臓器への体内分布を調べた。尚、コントロールとして、合成ペプチドを含まないリポソーム分散液を投与した。試験した担癌マウスは、各群2〜3匹であった。
被検液投与後、3時間後に担癌マウスを脱血後、頸椎脱臼にて屠殺した後、解剖し、血液、癌組織、心臓、肺、肝臓、脾臓および腎臓の各臓器を採取した。各臓器重量を測定した。血液はエッペンドルフチューブに移し、3000rpm、5分間で遠心分離後、得られた血清50μlをバイアル瓶に保存した。また、各臓器は100mg程度になるように切断し、同様にバイアル瓶に入れ、臓器の重量を測定後保存した(各臓器は2ヶ所より取得した)。次いでバイアル瓶の中の各臓器をミンチし、1mlの組織溶解液(ソルバブル:NEN Research Productions社製)を加えた後、50℃インキュベーター(パーソナルDX:タイテック株式会社製)で一晩放置した。翌日、消泡剤としてイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製)を0.5ml添加した後、脱色剤として過酸化水素を0.5ml加え、数時間放置した。
その後、シンチレーター(ハイオニックフロー:パッカード・バイオサイエンス社製)を10ml添加し、よくバイアル瓶を振盪し、さらに一晩放置した。被検物を液体シンチレーションカウンター(LSC−3100:アロカ社製)で、腫瘍組織を含む各臓器におけるペプチドで修飾されたリポソームの生体分布測定した。なお、測定はブランクおよびリポソーム50μlにシンチレーター(ハイオニックフロー:パッカード・バイオサイエンス社製)10mlを加えたものを各2本用意した。
その結果を図4に示す。該図において、数値は腫瘍組織100mg中における投与したペプチド修飾リポソームの回収量(%投与量)を示す。
図から分かるように、本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチド、配列番号15:配列番号5の部分ペプチド;RWRPA、配列番号16:配列番号6の部分ペプチド;HWRPWおよび配列番号17:配列番号1の部分ペプチド;APRPG)で修飾されたリポソームの腫瘍内分布は、いずれもコントロールに比べて、有意に高いことを示した(図中、★印はコントロールに対して有意(p<0.05)を示す)。
また、これら本発明血管新生特異的ペプチドにて修飾されたリポソームは、かかるペプチドで修飾していないリポソーム(コントロール、ペプチド無添加)と比較して、血中滞留性が上昇する傾向を示すことも明らかとなった。
尚、上記各ペプチドの他の臓器への分布に関しては、全体的にはコントロールと類似した傾向を示し、膵臓、肺および肝臓においては、若干低下する傾向が認められた。この傾向は特に配列番号17のペプチドで顕著であった。
実施例6 腫瘍増殖抑制作用2
(1)配列番号1のペプチドのデンドリマーの腫瘍増殖抑制作用についての用量依存性効果の検討
実施例4の(1)で合成された配列番号1のペプチドのデンドリマーペプチドの10mg/kg×2/日および20mg/kg×2/日と、配列番号1の配列を任意の配列に入れ変えたペプチドのデンドリマーペプチド(配列番号18)の20mg/kg×2/日およびコントロールとして蒸留水(DW)のそれぞれを、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後1−10日まで皮下投与し、腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群4〜6匹である。得られた結果を図3と同様にして図5(縦軸:腫瘍容量(cm)、横軸:腫瘍細胞移植後日数(日))に示す。
図中、白抜丸印は、デンドリマーペプチドの10mg/kg×2/日群、黒丸印は、デンドリマーペプチドの20mg/kg×2/日群、白抜き四角印は、任意に配列を入れ変えたペプチドのデンドリマーペプチドの20mg/kg×2/日群および黒四角印は、蒸留水投与群をそれぞれ示す。
図5より、配列番号1の配列を任意の配列に入れ変えたペプチドのデンドリマーペプチド投与群および蒸留水投与群に比較して、配列番号1のデンドリマーペプチド投与群は、用量依存的に腫瘍増殖抑制作用を示すことが分かる。
(2)配列番号1に関連する短鎖ペプチドの腫瘍増殖抑制効果の検討
この試験では、下記表6に示されるアミノ酸配列の、配列番号1の部分配列またはその部分配列を含む3種の短鎖ペプチドを実施例2の方法に準じたペプチドの固相合成法により合成して使用した。
Figure 0004439120
合成した3種の各短鎖ペプチドおよびコントロールとして生理食塩水のそれぞれを実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後1−10日まで皮下投与し、腫瘍増殖抑制作用を検討した。得られた結果を、図3と同様にして図6に示す。
図中、白抜丸印は生理食塩水投与群、黒丸印は配列番号19のペプチド投与群、白抜き四角印は配列番号17のペプチド投与群および黒四角印は配列番号20のペプチド投与群をそれぞれ示す。
図6より、配列番号1の配列の前半部にあるPRPを含むペプチドの投与群(配列番号19のペプチド投与群および配列番号17のペプチド投与群)において、腫瘍の増殖抑制傾向が確認された。
(3)配列番号5に関連する短鎖ペプチドの腫瘍増殖抑制効果の検討
下記表7に示される、配列番号5の全配列を有するペプチド、配列番号5の2種の部分配列を有するペプチド(配列番号13のペプチドおよび配列番号21のペプチド)および配列番号5の配列を任意の配列に入れ換えたペプチド(配列番号22)を、それぞれ実施例2の方法に準じたペプチドの固相合成法により合成して、試験に供した。
Figure 0004439120
上記で合成した各ペプチドのそれぞれ20mg/kg/日またはコントロールとしての蒸留水(DW)を、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後4−9日まで皮下投与し、腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群3〜5匹である。結果を図3と同様にして図7に示す。
図中、白抜丸印は蒸留水投与群、黒丸は配列番号5のペプチド投与群、白抜き四角印は配列番号22のペプチド投与群(比較群、配列番号5の任意配列の15残基のペプチド投与群)、黒四角印は配列番号13のペプチド投与群および白抜き三角印は配列番号21のペプチド投与群をそれぞれ示す。
図7より、配列番号5の全配列のペプチド並びに前半部および後半部の各短鎖ペプチドはいずれも腫瘍増殖抑制作用を有することが確認された。
(4)配列番号5のペプチドに関連する短鎖ペプチド(5残基)の腫瘍増殖抑制効果の検討
上記(3)の結果から、腫瘍増殖抑制効果の活性に影響を与えるペプチド配列をさらに検討するために、下記表8に示される、配列番号5の3種の部分配列を実施例2の方法に準じたペプチドの固相合成により合成して、本試験に供した。
Figure 0004439120
上記で合成した各ペプチドのそれぞれ20mg/kg/日またはコントロールとして生理食塩水を、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後1−10日まで皮下投与して腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群4〜5匹である。結果を図3と同様にして図8に示す。
図中、白抜丸印は配列番号23のペプチド投与群、黒丸は配列番号24のペプチド投与群、白抜き四角印は配列番号25のペプチド投与群および黒四角印は生理食塩水投与群をそれぞれ示す。
図8より、配列番号5の11−15位の5残基の短鎖ペプチドにおいても抗腫瘍活性があることが確認された。
(5)配列番号6のペプチドに関連する短鎖ペプチドの腫瘍増殖抑制効果の検討
上記(3)と同様に、配列番号6のペプチドに関連する短鎖ペプチドの腫瘍増殖抑制効果に影響を与えるペプチド配列を検討するために、下記表9に示される、配列番号6のペプチド、その3種の部分配列(配列番号26、14および16)および配列番号6の配列を任意に入れ換えた配列の比較ペプチド(配列番号27)を、実施例2の方法に準じたペプチド固相合成法により合成して、本試験に用いた。
Figure 0004439120
上記で合成した各ペプチドのそれぞれ20mg/kg/日またはコントロールとして蒸留水を、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後1−10日まで皮下投与して腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群5〜6匹である。結果を図3と同様にして図9に示す。
図中、白抜丸印は蒸留水投与群、黒丸印は配列番号6のペプチド投与群、白抜き四角印は配列番号26のペプチド投与群、黒四角印は配列番号14のペプチド投与群、白抜き三角印は配列番号16のペプチド投与群および黒三角印は配列番号27のペプチド投与群をそれぞれ示す。
図9より、WRP配列を含む配列の短鎖ペプチドにおいて抗腫瘍活性があることが確認された。
(6)WRP配列を含む短鎖ペプチドおよびWRP配列を1残基置換した配列を含む短鎖ペプチドの腫瘍増殖抑制効果の検討
上記(5)の結果から、さらにWRP配列の抗腫瘍活性に対する重要性を検討するために、下記表10に示す配列番号5由来、配列番号6由来および配列番号5と6の両者の配列由来の3〜4残基のWRP配列を含むペプチドおよびWRP配列中の各アミノ酸残基をそれぞれアラニン(A:Ala)で置換した5残基ペプチドを、実施例2の方法に準じたペプチドの固相合成により合成して、本試験に供した。
Figure 0004439120
上記で合成した各ペプチドのそれぞれ20mg/kg/日またはコントロールとして蒸留水または生理食塩水のそれぞれを、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後1−10日まで皮下投与し、腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群5〜6匹である。結果を図3と同様にして、図10(配列番号28〜32の各ペプチドの結果)および図11(配列番号33〜35の各ペプチドの結果)に示す。
図10中、白抜菱形印は配列番号32のペプチド投与群、黒丸は蒸留水投与群、白抜き四角印は配列番号28のペプチド投与群、黒四角印は配列番号29のペプチド投与群、白抜き三角印は配列番号30のペプチド投与群および黒三角印は配列番号31のペプチド投与群をそれぞれ示す。
図より、WRP配列を含む各配列の短鎖ペプチドは、抗腫瘍活性を有することが確認され、その抗腫瘍活性の強さは、配列番号28のペプチド=配列番号29のペプチド>配列番号30のペプチド=配列番号31のペプチド>配列番号32のペプチドであることが判明した。
また、図11中、白抜丸印は生理食塩水投与群、黒丸は配列番号33のペプチド投与群、白抜き四角印は配列番号34のペプチド投与群および黒四角印は配列番号35のペプチド投与群をそれぞれ示す。
図11より、WRP配列を含まない配列を有する短鎖ペプチドにおいては、抗腫瘍活性は認められないことが判った。
以上の結果から、抗腫瘍活性を有するためにはWRP配列が重要であり、該WRP配列を含む少なくとも4〜5残基以上の配列からなる短鎖ペプチドが抗腫瘍活性を有することが確認された。
実施例7 ペプチド修飾リポソームの検討
(1) ペプチド修飾リポソームによる腫瘍増殖抑制効果の検討
実施例5の(1)に準じて配列番号15、16および17の配列を有する各ペプチド修飾リポソームを調製し、それらの腫瘍増殖抑制作用を検討した。但し、各ペプチド修飾リポソームの調製の際、〔オレート−1−14C〕標識コレステロールオレートの添加は行わなかった。
上記で作成した各ペプチド修飾リポソーム分散液のそれぞれ20mg/kg/日またはコントロールとして生理食塩水およびコントロールリポソーム(ペプチド無添加)のそれぞれを、実施例4の(2)の方法に準じて、腫瘍細胞移植後4、6および8日目の3回、皮下投与して、各ペプチド修飾リポソームの腫瘍増殖抑制作用を検討した。実験に供したマウスは各群5匹である。結果を図3と同様にして図12に示す。
図中、白抜菱形印はコントロールリポソーム投与群、白抜四角印は生理食塩水投与群、白抜丸印は配列番号17のペプチド修飾リポソーム投与群、白抜き三角印は配列番号15のペプチド修飾リポソーム投与群および黒四角印は配列番号16のペプチド修飾リポソーム投与群をそれぞれ示す。
図12より、抗腫瘍効果の高さは、配列番号15のペプチド修飾リポソーム>配列番号16のペプチド修飾リポソーム>配列番号17のペプチド修飾リポソームの順であることが判った。また図12より、WRP配列を含む配列の短鎖ペプチドが抗腫瘍活性のより強いことが確認された。
(2)ペプチド修飾リポソームにおけるペプチド組成の腫瘍組織親和性への影響
実施例5のペプチド修飾リポソームの体内分布試験の結果から、配列番号17の配列を有するペプチドで修飾されたリポソームが最も腫瘍特異的であったことから、このペプチドのリポソーム中のモル比を変化させて、腫瘍に対する特異性の変化を検討した。
即ち、実施例5の(1)に準じてリポソーム分散液を調製した。その際、脂質DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン:日本精化株式会社製)、コレステロール(シグマ社製)および本発明新生血管特異的ペプチド(配列番号17:配列番号1の部分ペプチドのN端にAlaを付加したもの)のステアリン酸誘導体のモル比が10:5:2(PRP−20という)、10:5:1(PRP−10という)、10:5:0.5(PRP−5という)および10:5:0(コントロールリポソーム、対照という)となる割合をそれぞれ採用した。リポソームの濃度はDSPCが5mMとなるようにし、サイズは100nmに調製した。
続いて、実施例5の(2)に準じて、上記で調製された各リポソームの腫瘍組織への親和性を検討した。試験した担癌マウスは各群2〜3匹である。
その結果を、図4と同様にして図13(縦軸:%投与量/100mg組織、横軸:各供試リポソーム)に示す。
図13から、本発明リポソーム製剤の有効成分のひとつである新生血管特異的ペプチドの量を少なくとも5モル%にまで低下させても、所望の腫瘍への親和性には影響しないことが判明した。
(3)ペプチド修飾リポソームの血清中安定性の検討
上記(2)で調製したペプチド修飾リポソームを用いて、それらの血清中での安定性を以下の通り凝集度を測定することにより検討した。
即ち、各リポソーム分散液0.15ml、未非働化ウシ胎児血清(JRHバイオサイエンス社製)0.75mlおよび0.3Mグルコース溶液0.6mlの混合液を調製した。コントロールとして、リポソーム分散液0.15mlおよび0.3Mグルコース溶液1.35mlの混合液を調製した。上記の混合液をそれぞれ37℃で30分間インキュベートし、450nmにおける吸光度を測定した(ベックマン社製、DU−70スペクトロメーター使用)。
かくして求めた測定値より各リポソーム分散液の凝集度を下式に従い算出した。
凝集度=血清存在下450nmにおける吸光度(リポソーム分散液の濁度)/血清非存在下(0.3Mグルコース溶液中)450nmにおける吸光度(リポソーム分散液の濁度)
得られた血清中安定性(凝集度)の結果を、図14(縦軸:凝集度、横軸:各供試リポソーム)に示す。
図14から、本発明のリポソーム製剤の血清中の安定性は、本発明のリポソーム製剤の有効成分のひとつである新生血管特異的ペプチドの量が少なくとも10モル%以下においては凝集に影響しないことが確認された。
実施例8 新生血管特異的ペプチドと抗癌剤とを有効成分として含有するリポソーム製剤による抗腫瘍効果の検討
実施例7の(2)で得た本発明ペプチド修飾リポソームの腫瘍組織に対する親和性への影響試験の結果を基に、5モル%の配列列番号17のペプチドを含むペプチド修飾リポソームに、抗癌剤として知られているアドリアマイシンを封入した下記リポソームについてその抗腫瘍効果を検討した。
(1)アドリアマイシン(ADR)封入ペプチド修飾リポソームの調製
リポソーム溶液の調製のために本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチド、配列番号17:配列番号1の部分ペプチドのN端にAlaを付加したもの)のステアリン酸誘導体を実施例2の方法で合成した。
次いで、脂質DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン:日本精化株式会社製)、コレステロール(シグマ社製)および上記の本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチドのステアリン酸誘導体)を、モル比が10:5:0.5となる割合で含むクロロホルム溶液を調製した。即ち、400μlの100mM DSPC、200μlの100mMコレステロールおよび100μlの20mM本発明ペプチドを加えて、モル比が10:5:0.5となる割合で含むクロロホルム溶液を調製した。次いで前記調製液をナス型フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターで減圧条件下にクロロホルムを除去して脂質薄膜を調製した。さらに減圧下にクロロホルムを完全に除去して乾燥させた。60分間真空乾燥した後、1mlの0.3Mクエン酸溶液(pH4.0)で水和した(DSPC濃度;40mM)。
上記調製液について、凍結と70℃加温による融解を3回繰り返した後、調製液を温浴型の超音波処理装置(商品名:ULTRASONIK250:ラボスコ株式会社製)にて10分間超音波処理して攪拌を行った。次いでエクストルーダー(ライペックス社製)にて、100nmの孔径を持つポリカーボネート膜(ヌクレオポアポリカーボネート:コースター社製)を3回通過させ、目的とする本発明新生血管特異的ペプチド(部分ペプチド)のN末端にステアリン酸が結合した分子を含むリポソーム(分散液)を得た。このものにおいて部分ペプチドはリポソームの表面を修飾する形となっている。
リポソーム分散液に0.5M炭酸ナトリウム溶液を加え、リポソーム外水相のpHを7.5に調整した。次いで20mM HEPES緩衝液で希釈し、全量2.0mlとした。さらに、10mg/mlアドリアマイシン(シグマ社製)溶液を0.58ml加え、60℃で1時間インキュベーションし、リポソーム内水層にアドリアマイシンを封入した。
上記調製液を5分間遠心(日立工機社製、CS120EX;100,000g)してリポソームを沈殿させ、封入されなかったアドリアマイシンを含む上清を除去した。沈殿を1mlの0.3Mグルコース溶液で再分散し、以下に記述した定量法によりアドリアマイシン内封量を算出した。次いで、アドリアマイシンが1.1mg/ml(10mg/kg)となるように希釈し、アドリアマイシンを封入した本発明新生血管特異的リポソーム(分散液)を得た。
かくして、DSPC、コレステロールおよび本発明新生血管特異的ペプチド(配列番号17)を5.5ml中に40μM、20μMおよび2μMとなるようにそれぞれ有するリポソーム(分散液)を得た(DSPC濃度;7.3mM)。
(2)アドリアマイシンの定量
(a)アドリアマイシン量の検量線の作成
0μl、100μl、200μlおよび400μlの0.2mg/mlアドリアマイシン溶液、900μl、800μl、700μlおよび500μlの0.3Mグルコース溶液および100μlの10%還元トライトンX−100(reduced Triton X−100,アルドリッチ社製)をそれぞれ混合後、480nmにおける吸光度を測定し(ベックマン社製、DU−70スペクトロメーター)、検量線を得た。
(b)リポソーム内水層のアドリアマイシンの定量
10μlのリポソーム分散液、100μlの10%還元トライトンX−100および890μlの0.3Mグルコース溶液を混合後、60℃にて加温し、480nmにおける吸光度を測定した。
かくして求めた測定値および検量線よりアドリアマイシンのリポソーム内水層への封入率を算出したところ、90%以上の内封率であった。
(3)アドリアマイシン封入本発明ペプチド修飾リポソームの抗腫瘍効果
Meth A肉腫細胞(1×10細胞/マウス)を5週齢雄性BALB/cマウス(日本SLC社製)の左腹側部に皮下投与して固形癌担癌マウスを作成した。移植した日をDay1とし、6、9および12日目に溶媒コントロールとして、0.3Mグルコース溶液(溶媒)、アドリアマイシン(ADR)封入コントロールリポソーム(本発明の新生血管特異的ペプチドを含まない抗癌剤が封入されたリポソーム)、抗癌剤のADRが15mg/kg(マウス)となるように0.3Mグルコースに溶解したフリーADR溶液および上記(1)で調製したADRを封入した本発明血管新生特異的ペプチド修飾リポソームのそれぞれを尾静脈内に投与した。試験に供した担癌マウスは各群5匹とした。
投与した各薬物の抗腫瘍効果は、腫瘍移植5日後から腫瘍増殖の一指標としての腫瘍容積、副作用の一指標としてのマウス体重変化および生存日数を、実施例4の(2)と同様にして調べることにより評価した。
結果を図15に示す。
図中、縦軸は腫瘍容積を、横軸に腫瘍移植後の日数を示す。また図中、(1)は溶媒投与群、(2)はADR封入コントロールリポソーム投与群、(3)はフリーADR溶液投与群および(4)はADRを封入した本発明新生血管特異的ペプチド修飾リポソーム投与群をそれぞれ示す。
図15から分かるように、リポソームに封入されなかったフリーのアドリアマイシン(ADR)溶液を投与した群(群(3))では、6、9および12日の3回の投与によりマウスが全例死亡したのに対して、リポソームに封入されたアドリアマイシンの投与群(群(2))では、マウスの死亡は回避された。また、アドリアマイシンを封入した本発明新生血管特異的ペプチド修飾リポソームの投与群(群(4))では、移植された腫瘍の増殖が著しく抑制されることが判った。
この結果より、本発明の新生血管特異的ペプチドを有効成分として含むペプチド修飾リポソームに抗癌剤を封入したリポソーム製剤では、封入された抗癌剤の副作用が軽減され且つ腫瘍増殖抑制効果が著しく増強されることが確認された。
産業上の利用可能性
本発明によれば、新規な新生血管特異的ペプチドが提供され、該新生血管特異的ペプチドの利用によれば、癌組織の新生血管内皮細胞のリガンドとしての分子医薬として、標的組織に選択的に薬物送達を可能とするDDS製剤への応用が可能であり、癌治療効果の向上に寄与する癌診断剤、癌診断方法、癌治療方法等の提供が可能となる。
【配列表】
Figure 0004439120
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【図面の簡単な説明】
図1は、実施例3(3)に従う各ファージと8残基合成ペプチドの競合阻害実験結果を示す棒グラフである。
図2は、実施例3(3)に従う各ファージと5残基合成ペプチドの競合阻害実験結果を示す棒グラフである。
図3は、実施例4(2)に示すデンドリマーペプチドの血管新生抑制効果を示すグラフである。
図4は、実施例5(2)に示す担癌マウスのリポソーム溶液の体内分布を示すグラフである。
図5は、実施例6の(1)に示すデンドリマーペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図6は、実施例6の(2)に示す本発明ペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図7は、実施例6の(3)に示す本発明ペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図8は、実施例6の(4)に示す本発明ペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図9は、実施例6の(5)に示す本発明ペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図10および図11は、実施例6の(6)に示す本発明ペプチドの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図12は、実施例7の(1)に示す本発明ペプチド修飾リポソームの腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。
図13は、実施例7の(2)に示す本発明ペプチド修飾リポソームの腫瘍組織に対する親和性を示すグラフである。
図14は、実施例7の(3)に示す本発明ペプチド修飾リポソームの血中安定性を示すグラフである。
図15は、実施例8に従う本発明新生血管特異的ペプチドと抗癌剤とを有効成分として含有するリポソームの抗腫瘍効果を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 配列番号1、5、6、13〜17、19、21、24および28〜32で示されるアミノ酸配列のいずれかからなるペプチドまたはそのデンドリマ
  2. 癌組織に形成される新生血管に選択的に帰巣する、請求項1に記載のペプチドまたはそのデンドリマー
  3. 癌が肉腫またはメラノーマである請求項に記載のペプチドまたはそのデンドリマー
  4. 請求項またはに記載のペプチドおよびそのデンドリマーの少なくとも1種を有効成分として、製剤担体と共に含有する制癌組成物および癌転移抑制組成物。
  5. 請求項またはに記載のペプチドおよびそのデンドリマーの少なくとも1種と抗癌剤または癌転移抑制剤とを有効成分として、製剤担体と共に含有するリポソーム製剤。
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