JP4430371B2 - ルテニウム錯体、それを用いた色素増感酸化物半導体電極および色素増感太陽電池 - Google Patents
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Description
一方、新しいタイプの太陽電池として特許第2664194号明細書(特許文献1)、国際公開第WO94/05025号パンフレット(特許文献2)に金属錯体の光誘起電子移動を応用した光電気化学色素増感太陽電池が開示されている。
これらの色素増感太陽電池は、酸化物電極、対電極、およびそれらの電極間に挟持された電解質層とから構成される。光電変換材料である半導体電極において、酸化物電極の表面には、可視光領域に吸収スペクトルを有する光増感色素としてビピリジンルテニウム錯体が吸着されている。
これらの電池において、半導体電極に光を照射すると、この電極側で電子が発生し、該電子は電気回路を通って対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中のイオンによって運ばれ、半導体電極にもどる。このような過程が繰返されて電気エネルギーが取出される。しかしながら、一般的にビピリジンルテニウム錯体を用いた色素増感太陽電池のセルは、分光感度範囲が結晶シリコン系太陽電池よりも狭いため、高変換効率が得られにくい現状である。
分光感度範囲を広くし、長波長光を利用するため、特開2003−212851号公報(特許文献3)には、テルピリジンジケトナートRu錯体を用いる色素増感太陽電池が開示されている。
しかしながら、テルピリジンジケトナートRu錯体を用いる色素増感太陽電池のセルは、長波長光に感度を示すが、効率的に光電流を取出せないため、低い変換効率に留まっている。また、色素増感太陽電池において高い光電変換効率を得るためには、色素内部で光による励起された電子を効率よく半導体へ注入し、また、電解質から色素へ効率的に電子を移動する必要がある。そのため、色素の最低空軌道のエネルギー準位と酸化物半導体のフェルミ準位、最高電子被占軌道エネルギー準位と電解質の酸化還元電位とのマッチングは非常に重要である。しかしながら、特開第2003−212851号公報(特許文献3)に開示されたテルピリジンジケトナートRu錯体では最高電子被占軌道のエネルギー準位が高すぎて、電解質から色素へ効率的に電子を移動しにくいため、変換効率が低くなるという問題がある。
RuLL'X (I)
[(式中、Lは分子中にインターロック基であるカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基のうちの少なくとも1つを含み、かつそれぞれの結合基がアルカリ金属または四級アンモニウムイオンと塩を形成してもよい2,2':6',2''−テルピリジン誘導体であり、L'は一般式(a):
で表され、トリフルオロアセチルフルオロフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)、トリフルオロアセチルシアノフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)またはトリフルオロアセチルヘキシルフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)からなる化合物であるルテニウム錯体が提供される。ここで、インターロック基とは、色素を半導体表面へ吸着・固定する機能をもつ官能基のことを指す。
また、ルテニウム錯体を用いた色素増感酸化物半導体電極および色素増感太陽電池によれば、分子内に含むカルボキシル基等によって半導体表面に効果的に吸着することができ、幅広い吸収領域をもつことにより、高い光電変換効率を達成することが可能となった。また、ルテニウム錯体のジケトナートにフェニル基、または種々の置換基を有するフェニル基を導入することにより、最高電子被占軌道エネルギー準位を調整できるため、電解質の酸化還元電位とのエネルギー準位をマッチングしやすくなることによっても、光電変換効率が向上できる。
RuLL'X (I)
[(式中、Lは分子中にインターロック基であるカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基のうちの少なくとも1つを含み、かつそれぞれの結合基がアルカリ金属または四級アンモニウムイオンと塩を形成してもよい2,2':6',2''−テルピリジン誘導体であり、L'は一般式(a):
このような本発明のルテニウム錯体は、色素増感型太陽電池の酸化物半導体電極を修飾する増感剤として用いることができる。
なお、本明細書において、「色素」または「増感色素」と称するときは、「金属錯体」または「ルテニウム錯体」を意味するものとする。
アルキル基としては炭素数1〜6の直鎖状又は分枝状低級アルキル基が好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。なお、本発明において、「低級」とは特に指示がなければ、炭素原子1〜6個を有する基を意味するものとする。
アルコキシアルキル基としては低級アルコキシアルキル基が好ましく、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、メトキシエチル、メトキシメチル、メトキシプロピル等が挙げられる。
アミノアルキル基としては低級アミノアルキル基が好ましく、例えばアミノメチル、アミノエチル、アミノプロピル、アミノブチル、アミノペンチル等が挙げられる。
パーフルオロアルキル基としては低級パーフルオロアルキル基が好ましく、例えばパーフルオロメチル、パーフルオロエチル、パーフルオロプロピル、パーフルオロブチル、パーフルオロペンチル等が挙げられる。
ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
アルキルアミノ基としては低級アルキルアミノ基が好ましく、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、プロピルアミノ等が挙げられる。
アルコキシ基としては低級アルコキシ基が好ましく、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ等が挙げられる。
中でも、R1が炭素数1〜3であるパーフルオロアルキル基であり、R2が水素原子であり、R3 がフッ素原子、シアノ基またはアルキル基であるルテニウム錯体が好ましい。
より具体的に本発明のルテニウム錯体としては、トリフルオロアセチルフルオロフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)、トリフルオロアセチルシアノフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)またはトリフルオロアセチルヘキシルフェニルケトナート チオシアナート (4,4',4"−トリカルボキシ−2,2',2",6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)からなる化合物を特に好ましいものとして挙げることができる。
(A)と(B)との反応は、例えば、(A)のジクロロメタン溶液に、(B)のエタノール溶液を加え、70〜90℃、2〜4時間で行うことができる。なお、この反応において、ジクロロメタン以外には、エタノール、メタノール、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができ、またエタノール以外には、メタノール、DMF等を用いることができる。
本発明において、上記(B)との反応に用いられる4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジン(A)は、公知物質であり、例えばJ.Am.Chem.Soc.1123(2001)1613.が参照される。また、それによって得られたテルピリジン誘導体との反応に用いられる一般式(a)のジケトナートにおいて、R1、R2、R3が例えば上記表1に示す官能基又は原子である化合物は、例えばJoseph C. Sloop, Carl L. Bumgardner, W. David Loehle、J. of Fluorine Chemistry 118 (2002) 135-147に記載の方法に従って合成することができる。
(イ)テルピリジン誘導体とジケトナートをメタノール溶液へ溶解し、反応混合物を80〜100℃、6〜8時間で還流し、溶媒を除去する。なお、上記メタノール溶液以外には、DMF等を用いることができる。
(ロ)得られた固体生成物を不活性ガス雰囲気中でジメチルホルムアミド(DMF)へ溶解し、さらに、ナトリウムチオシアナート水溶液を加え、この溶液を110〜120℃、 6〜8時間で還流する。なお上記ナトリウムチオシアナート水溶液以外には、カリウムチオシアナート、アンモニウムチオシアナート等を用いることができる。
(ハ)還流後の溶液に、トリエチルアミンと純水を加え、さらに100〜120℃、18〜24時間で還流する。
(ニ)この反応混合物を冷却し、溶媒を除去する。
(ホ)得られた固形物を水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、硝酸を加えることにより生成する沈殿物を濾過し乾燥させることにより、目的生成物を得る。なお、水酸化ナトリウム水溶液以外には、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等を用いることができる。また、上記硝酸以外には、塩酸、硫酸等を用いることができる。
(ヘ)その後、得られた生成物を精製する。
本発明の色素増感太陽電池は、導電性支持体上に、前記色素増感酸化物半導体電極と、キャリア輸送層と、対電極とが順次積層されて構成され、色素増感酸化物半導体電極には、上述のルテニウム錯体が担持されている。
本発明で用いられる導電性支持体としては、金属のように支持体自体が導電性を有するもの、またその表面に導電層を有するガラス、プラスチック等の支持体を利用することができる。後者の場合、導電層の好ましい導電材料としては、金、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム等の金属、導電性カーボン、もしくはインジウム錫複合酸化物、酸化錫にフッ素をドープしたもの等が挙げられ、これらの導電材料を用いて導電層を支持体上に常法によって形成することができる。これらの導電層の膜厚は0、02〜5μm程度が好ましい。導電性支持体としては表面抵抗が低い程良く、表面抵抗は40Ω/□以下であることが好ましい。導電性支持体を受光面とする場合、透明であることが好ましい。また、導電性支持体の膜厚は、光電変換効層(光電極)に適当な強度を付与することができるものであれば特に限定されない。これらの点及び機械的な強度を考慮にいれると、酸化錫にフッ素をドープしたものからなる導電層をソーダ石灰フロートガラスからなる透明性基板上に積層したものは代表的な支持体としてあげられる。
またコスト面、フレキシブル面等を考慮にいれると、透明ポリマーシート上に上記導電層を設けたものを用いたものでもよい。透明ポリマーシートとしては、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC),ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂等があげられる。
また、透明導電性基板の抵抗をさげるために金属リード線を加えてもよい。金属リード線の材質としては、白金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ニッケル等がこのましい。金属リード線は透明基板にスパッタ、蒸着等で設置し、その上に酸化錫、ITO等の透明導電膜を設けてもよい。なお、この場合、金属リード線を設けることにより、入射光量の若干の低下を招くので注意が必要である。
本発明における色素増感酸化物半導体電極は、通常、導電性支持体上に酸化物半導体層を形成し、これに上述した本発明のルテニウム錯体である有機色素を吸着させることにより得られる。
酸化物半導体層を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法が挙げられる。具体的には、次のいずれかの方法を用いることができる。
(1)酸化物半導体の微粒子を含有する懸濁液を導電性支持体上に塗布し、乾燥および
焼成して酸化物半導体層を形成する方法。
(2)所望の原料ガスを用いたCVD法およびMOCVD法などにより、導電性支持体
上に酸化物半導体層を形成する方法。
(3)原料固体を用いたPVD法、蒸着法、スパッタリング法などにより、導電性支持
体上に酸化物半導体層を形成する方法。
(4)ゾルゲル法、電気化学的な酸化還元反応を利用した方法などにより、導電性支持
体上に酸化物半導体層を形成する方法。
その中でも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ニオブが好ましく、酸化チタンがより好ましい。
また、本発明における酸化物半導体としては、上記のものから1種または2種以上を選択することができる。
また、これらの酸化物半導体は、単結晶、多結晶のいずれでも良いが、安定性、結晶成長の困難さ、製造コスト等の観点から、多結晶の方が好ましい。特に微粉末(ナノからマイクロスケール)の多結晶半導体がより好ましい。また、2種類以上の粒子サイズの異なる粒子を混合して用いてもよい。この場合、各粒子の材料は同一でも異なっていてもよい。異なる粒子サイズの平均粒径の比率は10倍以上の差がある方が良く、粒径の大きいもの(例えば100〜500nm)は、入射光の光捕捉率を上げる目的で、粒径の小さいもの(例えば5〜50nm)は、吸着点をより多くし色素吸着を良くする目的で混合して用いてもよい。特に半導体化合物が異なる場合、吸着作用の強い半導体の方を小粒径にした方が効果的である。
アナターゼ型とルチル型の2種類の結晶は、その製法や熱履歴によりいずれの形もとりうるが、これらの混合体が一般的である。特に、本発明の有機色素の増感に関しては、アナターゼ型の含有率の高いものが好ましく、その割合は80%以上が好ましい。なお、アナターゼ型はルチル型より光吸収の長波端波長が短く、紫外光による光電変換の低下を起こす度合いが小さい。
さらに、酸化物半導体層を色素溶液へ浸漬する方法または酸化物半導体層に色素溶液を塗布する方法では、浸漬または塗布の工程の後、適宜乾燥を行なってもよい。このような方法により酸化物半導体に吸着された増感色素は、光エネルギーにより電子を酸化物半導体に送る光増感剤として機能する。
上記のことから、未吸着の有機色素を洗浄により速やかに除去するのが好ましい。洗浄溶剤としては、有機色素の溶解性が比較的低く、かつ比較的乾燥しやすい、アセトンなどの溶剤が好ましい。また、洗浄は加熱状態で行うのが好ましい。
また、洗浄により余分な色素を除去した後、色素の吸着状態をより安定にするために、酸化物半導体微粒子の表面を有機塩基性化合物で処理して、未反応色素の除去を促進させてもよい。有機塩基性化合物としては、ピリジン、キノリンなどの誘導体が挙げられる。これら化合物が液体の場合にはそのまま用いてもよいが、固体の場合には溶剤、好ましくは増感色素溶液と同一の溶剤に溶解して用いてもよい。
キャリア輸送層は、電子、ホール、イオンを輸送できる導電性材料から構成される。例えば、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミンなどのホール輸送材料;テトラニトロフロレノンなどの電子輸送材料;ポリチオフェン、ポリピロールなどの導電性ポリマー;液体電解質、高分子電解質などのイオン導電体;ヨウ化銅、チオシアン酸銅などの無機P型半導体が挙げられる。
上記の導電性材料の中でもイオン導電体が好ましく、酸化還元性電解質を含む液体電解質が特に好ましい。このような酸化還元性電解質としては、一般に、電池や太陽電池などにおいて使用することができるものであれば特に限定されない。具体的には、I-/I3-系、Br2-/Br3-系、Fe2+/Fe3+系、キノン/ハイドロキノン系等の酸化還元種を含有させたものを挙げることができる。例えば、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI2)などの金属ヨウ化物とヨウ素(I2)の組み合わせ、テトラエチルアンモニウムアイオダイド(TEAI)、テトラプロピルアンモニウムアイオダイド(TPAI)、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)、テトラヘキシルアンモニウムアイオダイド(THAI)などのテトラアルキルアンモニウム塩とヨウ素の組み合わせ、および臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr2)などの金属臭化物と臭素の組み合わせが好ましく、これらの中でも、LiIとI2の組み合わせが特に好ましい。
また、液体電解質中の電解質濃度は、0.1〜1.5モル/リットルの範囲が好ましく、0.1〜0.7モル/リットルの範囲が特に好ましい。
前記の固体中に酸化還元種を含有させるには、例えば、高分子化合物となるモノマーと酸化還元種との共存下で重合する方法、高分子化合物などの固体を必要に応じて溶媒に溶解し、次いで、前記の酸化還元種を加える方法等を用いることができる。酸化還元種の含有量は、必要とするイオン伝導性能に応じて、適宜選定することができる。
また色素増感酸化物半導体電極との接触を防止するために、スぺーサーを用いることも必要になってくる。これらスぺーサーとしてはポリエチレン等の高分子フイルムが用いられる。このフイルムの膜厚は10〜50μm程度が適当である。
対電極は、色素増感酸化物半導体電極とともに一対の電極を構成し得るものであり、導電膜に形成することができる。この導電膜は透明でもよいし、不透明であってもよく、例えば、N型またはP型の元素半導体(例えば、シリコン、ゲルマニウム等)、または化合物半導体(例えば、GaAs、InP、ZnSe、CsS等);金、白金、銀、銅、アルミニウム等の金属;チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属;ITO、SnO2、CuI、ZnO等の透明導電材料からなる膜が挙げられる。これらの導電膜は、常法によって形成され、その膜厚は0.1〜5μm程度が適当である。なお、対電極は、色素増感太陽電池を支持し得る支持基板または保護層上に形成されていることが好ましい。支持基板や保護層は、色素増感太陽電池の基板として使用することができる透明又は不透明の基板等を使用することができる。具体的には、スパッタ、塩化白金酸の熱分解、電着などの方法によって導電膜が被覆された支持基板上に白金膜を形成させたもの等が挙げられる。この場合の白金膜の膜厚は、1〜1000nm程度が挙げられる。
本発明のルテニウム錯体を合成するにあたって、その骨格を成すテルピリジン誘導体であるトリクロロ (4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジン) ルテニウム(原子価2)錯体の合成では、まず、4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジン(0.40g)のジクロロメタン溶液(120mL)をルテニウム三塩化物(0.26g)のエタノール溶液(100mL)に加え、反応混合物を2時間還流し、20mlになるまで濃縮した。次に、沈殿した錯体を集め、未反応のルテニウム三塩化物を取り除くためにエタノールで洗浄することにより、目的生成物0.491gを収率80%で得た。
なお、4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジンは、J.Am.Chem.Soc.1123(2001)1613.に記載の方法により予め合成しておいたものを用いた。
ジケトナート(配位子)として、4-(4-シアノフェニル)-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(CNtfac)(式(a)および表1の1d参照)を、Joseph C. Sloop, Carl L. Bumgardner, W. David Loehle、J. of Fluorine Chemistry 118 (2002) 135-147に記載の方法に従って合成した。以下、このCNtfacの合成過程を、下記の反応式(d)を参照しながら説明する。
まず、丸底フラスコに、ジメチルエーテル50mLを入れて撹拌し、その中へ、60mmolのナトリウムメトキシドをゆっくり加えた。その後、60mmolのトリフルオロメチル-エチル-アセテート(d1)8.52gを撹拌しながらゆっくり滴下した。5分後、60mmolの4-シアノフェニル-メチルケトン(d2)8.71g(アルドリッチ製)を滴下し、塩化カルシウムの入った乾燥管付きのフラスコ中で室温にて一夜撹拌した。得られた溶液をエバポレーターで減圧しながら乾燥させ、固体残留物を30mLの1M硫酸に溶解した。溶液からエーテルにて化合物を抽出し、硫酸マグネシウムを用いて化合物を含む有機溶媒層から水を除去した。溶媒を減圧下にて取り除き、生成物を蒸留法により目的生成物(d3)を得た。なお、蒸留法に替えて再結晶法を用いてもよい。
上記(1)のトリクロロ (4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジン) ルテニウム(II)錯体(300mg、0.5mmol)のメタノール溶液(100mL)へ
、上記(2)のCNtfacとトリエチルアミン(0.5mL)を加え、該反応混合物を8時間還流し、溶媒をエバポレーターにて除去した。得られた固体生成物を窒素雰囲気中で30mLのジメチルホルムアミド(DMF)へ溶解し、さらに、5mLのナトリウムチオシアナート水溶液(300mg、3.7mmol、アルドリッチ製)を加えた。該溶液を8時間還流した後、ターピリジン配位子のエステルを加水分解するために、10mLのトリエチルアミンを加え、さらに24時間以上還流した。この反応混合物を冷却し、溶媒をエバポレーターにて除去した。得られた固形物を0.1M水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、0.1M硝酸を加えることにより生成する沈殿物を濾過し乾燥させることにより、目的生成物であるトリフルオロアセチルシアノフェニルケトナート チオシアナート (4,4’,4”−トリカルボキシ−2,2’,2”,6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2) (式(b)および表1の1d参照)0.23gを得た。その後、得られた生成物をカラムクロマトグラフィー(充填材:Sephadex LH−20、溶離剤:純水)にて精製し、0.15gを得た。
化合物(1d):C30H16F3N5O8RuS:トリフルオロアセチルシアノフェニルケトナート チオシアナート (4,4’,4”−トリカルボキシ−2,2’,2”,6−テルピリジン)ルテニウム(原子価2)
収率:40%
計算値:C, 47.12; H, 2.11; N, 9.16;
実験値: C, 47.00; H, 2.02; N, 9.10;
MS(ESIMS):m/z: 253.8 (M-3H)3-, 381.3(M-2H)2-, 763.6 (M-1H)
4-フェニル-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(tfac)(表1の1a参照)、4-(4-クロロフェニル)-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(Cltfac)(表1の1b参照)、4-(4-フルオロフェニル)-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(Ftfac)(表1の1c参照)、4-(4-ニトロフェニル-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(表1の1e参照)、4-(4-ヘキシルフェニル)-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(表1の1f参照)、4-(4-メトキシフェニル)-1,1,1-トリフルオロ-2,4-ブタンジオン(表1の1g参照)を、それぞれJoseph C. Sloop, Carl L. Bumgardner, W. David Loehle、J. of Fluorine Chemistry 118 (2002) 135-147に記載の方法に従って合成した。
その後、1a、1b、1c、1e、1fおよび1gの官能基をもつ各化合物(ジケトナート)と、上記実施例1(1)で合成したテルピリジン誘導体であるトリクロロ (4,4,4-トリメトキシカルボニル-2,2:6,2-テルピリジン) ルテニウム(原子価2)錯体とを用いて、上記実施例1(3)と同様の方法によって目的とするルテニウム錯体をそれぞれ合成し、精製した。
各ルテニウム錯体の分析結果を下記に示した。
収率:45%
計算値:C, 47.09; H, 2.32; N, 7.58
実験値:C, 46.97; H, 2.42; N, 7.68
MS(ESIMS):m/z: 245.7 (M-3H)3-, 369.0 (M-2H)2-, , 739.0 (M-1H)
収率:40%
計算値:C, 45.00; H, 2.08; N, 7.24
実験値:C, 44.80; H, 2.01; N, 7.15
MS(ESIMS):m/z: 257.0 (M-3H)3-, 385.9 (M-2H)2-, 772.9 (M-1H)
収率:45%
計算値:C, 45.98; H, 2.13; N, 7.40
実験値:C, 45.75; H, 2.23; N, 7.35
MS(ESIMS):m/z: 251.6 (M-3H)3-, 378.0 (M-2H)2-, 756.9 (M-1H)
収率:35%
計算値:C, 44.39; H, 2.06; N, 8.93
実験値:C, 44.25; H, 2.02; N, 8.82
MS(ESIMS):m/z:260.6 (M-3H)3-, 391.5 (M-2H)2-, 783.9 (M-1H)
収率:45%
計算値:C, 51.03; H, 3.55; N, 6.80
実験値:: C, 50.77; H, 3.50; N, 6.72
MS(ESIMS):m/z: 273.7 (M-3H)3-, 411.0 (M-2H)2-, 823.1 (M-1H)
収率:40%
計算値:C, 46.82; H, 2.49; N, 7.28
実験値:C, 46.52; H, 2.43; N, 7.34
MS(ESIMS):m/z: 255.7 (M-3H)3-, 383.9 (M-2H)2-, 768.9 (M-1H)
まず、テトラブチルアンモニウムチオシアナート水溶液 を入れたフラスコを複数用意し、(Htctpy)(ジケトナート)ルテニウム(原子価2)錯体として上記製造例2で合成した各化合物(式(b)および表1の1a〜1g参照)0.4gを各フラスコに加え、テトラブチルアンモニウム水酸化物溶液を加えてそれぞれ溶かした。該溶液をそれぞれ濾過し、0.1M硝酸を加えて各濾液のpHを3.5まで下げた。得られた各濾過物を恒温槽を用いて15時間5℃で冷却し、ついで室温と同じになるまで25℃に保たれた恒温槽を用いて加温した。その後、得られた各沈殿物を吸引濾過し乾燥させることで、目的の生成物(式dおよび表2の2a〜2g参照)0.24gを得た。
色素として下記の一般式(e)の色素を用いた以外は、実施例1と同様にして色素増感太陽電池を調製した。
なお、この式(e)の色素は、特開2003-212851号公報に記載の合成過程により製造された。
得られた色素増感太陽電池に、100W/m2 の強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射したところ、短絡電流21.2mA/cm2、開放電圧0.71V、FF0.70、光電変換効率(η)10.5%が得られた。この色素増感太陽電池の800nmにおける量子効率は、44%であった。
得られた色素増感太陽電池に、100W/m2 の強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射したところ、短絡電流21.0mA/cm2、開放電圧0.72V、FF0.70、光電変換効率(η)10.6%が得られた。この色素増感太陽電池の800nmにおける量子効率は、42%であった。
得られた色素増感太陽電池に、100W/m2 の強度の光(AM1.5ソーラーシミュレータ)を照射したところ、短絡電流20.4mA/cm2、開放電圧0.73V、FF0.70、光電変換効率(η)10.4%が得られた。この色素増感太陽電池の800nmにおける量子効率は、45%であった。
Claims (3)
- 一般式(I):
RuLL'X (I)
[(式中、Lは分子中にインターロック基であるカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸基のうちの少なくとも1つを含み、かつそれぞれの結合基がアルカリ金属または四級アンモニウムイオンと塩を形成してもよい2,2':6',2''−テルピリジン誘導体であり、L'は一般式(a):
- 請求項1に記載のルテニウム錯体が酸化物半導体に吸着されてなる色素増感酸化物半導体電極。
- 導電性支持体上に、請求項2に記載の色素増感酸化物半導体電極と、キャリア輸送層と、対電極とが順次積層されてなる色素増感太陽電池。
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