〔第1実施形態〕
以下、図1〜図3を用いて、本発明に係る乗員腰部拘束装置の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印INは車両幅方向内側を示している。
図3には、フロントシート10に着座した乗員の三点式シートベルト装置12の装着状態が側面視で描かれている。この図に示されるように、車両用シートとしてのフロントシート10は、乗員が着座するシートクッション14と、シートクッション14の後端部に傾倒可能に設けられ乗員の背もたれとなるシートバック16と、シートバック16の上端部に高さ調節可能に設けられ乗員の頭部を支持するヘッドレスト18とによって構成されている。車体フロア20の所定位置には左右一対のシートトラック(シートスライドレール)22が配設されており、かかるシートトラック22に後述するシートクッションフレーム38がスライド可能に支持されている。
また、フロントシート10には、乗員保護装置として位置付けられる三点式のシートベルト装置12が配設されている。シートベルト装置12は、乗員拘束用のウエビング24を備えている。ウエビング24の一端部はセンタピラー26の下端部付近に配設されたウエビング巻取装置28のスプールに係止されており、又ウエビング24の他端部は車体フロア20に固定された図示しないアンカプレートに係止されている。さらに、ウエビング24の中間部はセンタピラー26の上部に設けられたショルダアンカ(スリップジョイント)30に挿通自在に支持されている。また、ウエビング24の中間部(ショルダアンカ30とアンカプレートの間)には、高強度部材であるタングプレート32が挿通されている。タングプレート32はシートクッション14の側方に立設状態で配置されたバックル装置34に係合及び離脱可能とされており、タングプレート32をバックル装置34に係合させることにより、乗員は、アンカプレートからタングプレート32までの部分をラップ側のウエビング24Aとし、タングプレート32からショルダアンカ30までの部分をショルダ側のウエビング24Bとする三点式のシートベルト装置12の装着状態となることができる。
ここで、図1には、上述したフロントシート10に装備された本実施形態の要部に係る乗員腰部拘束装置36の概略構成が側面図で示されている。
この図に示されるように、上記シートクッション14内には、骨格部材として機能するシートクッションフレーム38が配設されている。シートクッションフレーム38は、複数部品を一体化することにより構成されており、平面視では車両後方側が開放されたコ字状に形成されている。シートクッションフレーム38の左右一対のサイドフレーム40は車両前後方向に沿って延在されており、その後端部40A間にはリクライニングロッドが掛け渡されている。
上記シートクッションフレーム38における左右のサイドフレーム40の前端部間には、乗員の乗り心地性を考慮してシートパン42が掛け渡されている。シートパン42の幅方向中間部には、後方下側へ向けて傾斜する傾斜面44Aを底面とする凹部44が形成されている。さらに、シートパン42の縦断面形状は下方側が開放された略コ字状に形成されており、左右のサイドフレーム40に沿って車両前後方向にスライド可能に被嵌されている。
また、上記シートクッションフレーム38の前部下側には、側面視でブーメラン形状に形成された乗員腰部拘束手段の中核を成す拘束部材48が支軸50回りに揺動可能に配置されている。支軸50はシート幅方向を軸方向として配置されており、その両端部は左右のサイドフレーム40に軸支されている。なお、支軸50の軸方向の端部は、サイドフレーム40に直接軸支されていてもよいし、サイドフレーム40にブラケットを取付けてブラケットに軸支させるようにしてもよい。
拘束部材48は支軸50より車両前方側に位置する干渉部48Aと、支軸50より車両後方側に位置する押し上げ部48Bとを備えている。干渉部48Aの回転軌跡上には、シートパン42に形成された凹部44の傾斜面44Aが位置されている。さらに、支軸50には一端部が干渉部48A又は押し上げ部48Bに係止されかつ他端部が支軸50又はシートクッションフレーム38に係止された捩じりコイルスプリング等の図示しない付勢手段が巻装されており、図1において拘束部材48を支軸50回りに時計方向に回転付勢している。従って、通常の車両走行時においては、付勢手段の付勢力によって干渉部48Aが凹部44の傾斜面44Aの裏面に当接(干渉)した状態で保持されている。この状態のときには、拘束部材48の押し上げ部48Bは側面視でサイドフレーム40の下縁付近に位置しており、シートクッション14の前後方向略中間部の裏面側にてシートクッション14から離間した状態で保持されている。
また、図2に示されるように、上記拘束部材48の押し上げ部48Bの先端部は、車両衝突時に乗員腰上部60A及び乗員腰下部60Bから成る乗員腰部60が車両前方側へ慣性移動した際に、当該乗員腰部60の回転中心Oよりもシート後方側の位置でシートクッション14を押し上げるように配置されている。
(本実施形態の作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
図1に示されるように、通常の車両走行時には、乗員腰部60が車両前方側へ慣性移動することはないので、シートパン42もシートクッションフレーム38の前端部の初期位置に保持されている。従って、拘束部材48は、図示しない付勢手段の付勢力によって干渉部48Aが傾斜面44Aの裏面に当接した状態で保持されている。つまり、拘束部材48の干渉部48Aにシートクッション14を介して乗員腰下部60Bが実質的に干渉することはない。このため、拘束部材48の押し上げ部48Bが、支軸50回りにシート上方側へ回転変位することもない。その結果、通常の車両走行時におけるフロントシート10への乗員の乗り心地性能は良好に維持される。
一方、この状態から車両衝突時になると、乗員腰部60は車両前方側へ慣性移動するため、乗員腰下部60Bはシートクッション14に沈み込もうとする。このため、乗員腰下部60Bがシートクッション14及びシートパン42の凹部44を介して拘束部材48の干渉部48Aに実質的に干渉する(換言すれば、干渉部48Aは車両衝突時における乗員腰下部60Bの移動軌跡上に配置されている)。これにより、シートパン42は、車両前方側への押圧力を受けて左右のサイドフレーム40にガイドされながら車両前方側へ所定ストロークだけスライドする。この過程で、干渉部48Aが凹部44の傾斜面44Aの裏面によって押圧されるので、拘束部材48は図示しない付勢手段の付勢力に抗して支軸50回りに図2の反時計方向へ回転(揺動)される。その結果、押し上げ部48Bが支軸50回りにシート上方側へ回転変位され、シートクッション14の支軸50よりもシート後方側の部分14Aが押し上げられて(このときの押し上げ力を図2に矢印Pで示す)、その部分14A(乗員腰下部60Bの下方に位置するシートクッション14)の剛性が高められる。従って、乗員腰下部60Bとシートクッション14との接触面に作用する車両後方側への摩擦力(拘束力)F2が増大する。
一方、乗員は三点式のシートベルト装置12のウエビング24によってフロントシート10に拘束されており、ラップ側のウエビング24Aによって乗員腰上部60Aは車両後方側斜め下方への拘束力F1を受けている。従って、乗員腰部60に対する拘束力が上下でバランス良く得られ、乗員腰部60がシートクッション14に潜り込む方向への回転Mが抑制される。
さらに、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置36の場合、押し上げ部48Bによるシートクッション14の押し上げ力Pが乗員腰部60の潜り込み方向への回転Mをキャンセルする方向に作用する。従って、車両衝突時に乗員腰部60がフロントシート10のシートクッション14に潜り込むサブマリン現象をより効果的に抑止することができる。
加えて、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置36の場合、シートクッション14の前部下側に拘束部材48が配設されているので、シートクッションフレーム38のサイドフレーム40には拘束部材48を含む乗員腰部拘束手段の設置スペースを要しない。従って、従来構造に比し、構造的にはかなり簡素な構造にすることが可能である。
以上を総括すると、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置36によれば、簡素な構造で、サブマリン現象の発生防止による乗員の拘束性能向上とフロントシート10のシートクッション14への乗員の乗り心地性能向上とを両立させることができる。
特に、この乗員腰部拘束装置36では、拘束部材48の押し上げ部48Bが、前方移動した乗員腰部60の回転中心Oよりもシート後方側の位置にてシートクッション14に押し上げ力Pを付与するので、乗員腰部60がその回転中心Oを軸としてシートクッション14へ潜り込もうとする回転力Mをキャンセルする効果が顕著に現れる。よって、サブマリン現象をより一層効果的に抑止することができる。
なお、本実施形態では、乗員腰下部60Bが沈み込もうとした際にシートパン42を車両前方側へ所定ストロークだけ移動させ、その移動を利用して拘束部材48の干渉部48Aに車両前方側への荷重を入力する構成を採ったが、これに限らず、シートパン42に依存することなく、シートクッション14を介してダイレクトに拘束部材48の干渉部48Aを車両前方側へ押圧する構成を採ってもよい。
また、本実施形態では、左右のサイドフレーム40の中間に単体のある程度の幅方向寸法を有する拘束部材48を設置したが、これに限らず、例えば、拘束部材を複数個で構成(複数個に分割)し、左右のサイドフレーム40の間に左右2個又は左右及び中央の合計3個から成る拘束部材を配置する構成を採ってもよい。
さらに、本実施形態では、拘束部材48の押し上げ部48Bがシートクッション14の支軸50よりも後方側に位置する部分14Aをシート上方側へ押し上げる構成を採ったが、これに限らず、押し上げ部48Bが、前方移動した乗員腰部60の回転中心Oの直下(付近)を押し上げる構成にしてもそれなりの効果は得られる。
また、本実施形態では、拘束部材48が側面視でブーメラン形状に形成されていたが、これに限らず、拘束部材48の後端部を車両後方側へ屈曲させて、シートクッション14の押し上げ時に拘束部材とシートクッション14との接触面積を増加させる構成を採ってもよい。
〔第2実施形態〕
以下、図4〜図6を用いて、第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。また、この第2実施形態は本発明には含まれない参考例とする。
図4には、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置70の全体構成が斜視図で示されている。この図に示されるように、この第2実施形態に係る乗員腰部拘束装置70では、シートクッションフレーム38の左右のサイドフレーム40間に乗員腰部拘束手段としてのベルト72が掛け渡されている。ベルト72の両端部には取付金具74がそれぞれ取り付けられており、更にその取付金具74がピン76でサイドフレーム40に相対回転可能に取り付けられている。また、ベルト72は、シートクッション14の前部内側を横断するように、表皮の内側に配置されたクッション材(ウレタンフォーム等の樹脂材)の内部に弛んだ状態で挿通されている。
(作用・効果)
上記構成の乗員腰部拘束装置70によれば、図5に示されるように、通常の車両走行時には、乗員腰下部60Bが車両前方側へ慣性移動することはないので、ベルト72はシートクッション14の内部に弛んだ状態で保持されており、ベルト72には張力が発生していない。従って、通常の車両走行時におけるフロントシート10への乗員の乗り心地性能は良好に維持される。
一方、この状態から車両衝突時になり、図6に示されるように、乗員腰部60がシートクッション14に潜り込もうとすると、乗員腰下部60Bからクッション材を介してベルト72に車両前方側への押圧力が作用する。このため、ベルト72に張力が発生し、かかる張力によって乗員腰下部60Bの前方移動が制限される。従って、乗員腰下部60Bはそれ以上車両前方側へ移動することはなく、乗員腰下部60Bには車両後方側への拘束力F2が作用する。一方、前述したようにラップ側のウエビング24Aによって乗員腰上部60Aは車両後方側斜め下方への拘束力F1を受けている。従って、乗員腰部60に対する拘束力が上下でバランス良く得られ、乗員腰部60がシートクッション14に潜り込む方向への回転Mが抑制される。
さらに、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置70では、ベルト72によって乗員腰部拘束手段が構成されているため、シートクッションフレーム38のサイドフレーム40側にはベルト72の配索経路と取付金具74の可動スペースを確保するだけでよく、設置スペースを殆ど要しない。しかも、ベルト72はシートクッション14のクッション材の内部を横断するように掛け渡されるので、シートクッション14の下方側にも乗員腰部拘束手段の設置スペースは不要である。従って、従来構造に比し、構造的にはかなり簡素な構造にすることが可能である。
以上から、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置70によっても、前述した第1実施形態に係る乗員腰部拘束装置36と同様に、簡素な構造で、サブマリン現象の発生防止による乗員の拘束性能向上とフロントシート10のシートクッション14への乗員の乗り心地性能向上とを両立させることができる。
また、前記の如く、本実施形態では、乗員腰部拘束手段をベルト72で構成したので、大半の車種のフロントシート10に適用することができると共に、フロントシート10ひいては車両全体の軽量化に資することができかつ既存のフロントシート10に対する設計変更が僅かで済む。
さらに、車両衝突時に乗員腰下部60Bのシートクッション14への潜り込み方向の移動を受けてベルト72に車両前方側への荷重が作用すると、ベルト72の取付金具74は荷重の作用する方向へ相対回転する。このため、荷重の伝達が円滑になる。その結果、本実施形態によれば、車両衝突時に乗員腰部60の前方移動によって作用する荷重を効率良く車体フロアへ逃がすことができる。
なお、本実施形態では、乗員腰部拘束手段としてベルト72を用いたが、これに限らず、ワイヤ等を用いることも可能である。
また、本実施形態では、ベルト72の両端部をサイドフレーム40の外側面に固定したが、サイドフレームの内側面に固定する構成を採ってもよい。
また、本実施形態では、ベルト72の両端部をサイドフレーム40の外側面に固定したが、これに限らず、シートクッションフレーム38と一体に移動する支持部材(例えば、アッパレール78の上縁側に設けられたブラケット等の一体又は別体の取付部等)に固定してもよい。
〔第3実施形態〕
以下、図7及び図8を用いて、第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。また、この第3実施形態は、本発明には含まれない参考例とする。
図7及び図8には、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置80の全体構成が側面図で示されている。なお、図7には乗員腰部拘束装置80の作動前の状態が示されており、図8には乗員腰部拘束装置80の作動後の状態が示されている。これらの図に示されるように、この第3実施形態に係る乗員腰部拘束装置80では、シートクッションフレーム38の左右のサイドフレーム40間に乗員腰部拘束手段としてのエアベルト82が掛け渡されている。エアベルト82の途中部分には所定容量の膨張部82Aが形成されている。さらに、エアベルト82は、シートクッション14の前部内側を横断するように、クッション材の内部に配索されており、当該クッション材の内部に膨張部82Aが配置されている。
また、エアベルト82の先端部は、第2実施形態で説明した取付金具及びピンによってサイドフレーム40の外側面に相対回転可能に取り付けられている。さらに、エアベルト82の基端部は、ガス供給手段として把握されるインフレータ84の先端部に接続されている。インフレータ84は反対側のサイドフレーム40の外側面に図示しないブラケットを介して固定されている。なお、インフレータ84は、図示しない衝突検出センサによって前面衝突したことが検出された場合に、図示しない制御手段によって所定の電流がインフレータ84の点火装置に通電されることにより作動して、所定量のガスを発生するようになっている。
(作用・効果)
上記構成の乗員腰部拘束装置80によれば、図7に示されるように、通常の車両走行時には、乗員腰下部60Bが車両前方側へ慣性移動することはなく、インフレータ84も作動することはない。従って、エアベルト82の膨張部82Aは袋状の布を潰したような状態でシートクッション14の内部に保持される。よって、通常の車両走行時におけるフロントシート10への乗員の乗り心地性能は良好に維持される。
一方、この状態から車両衝突時になると、図8に示されるように、図示しない制御手段によってインフレータ84の点火装置に所定の電流が通電される。このため、インフレータ84が作動して所定量のガスが発生し、エアベルト82内へ供給される。これにより、シートクッション14のクッション材の内部を横断するように掛け渡された膨張部82Aが膨張し、シートクッション14のクッション材が厚さ方向に圧縮される。その結果、乗員腰下部60Bの下方に位置するシートクッション14のクッション材の剛性が高められる。従って、乗員腰下部60Bとシートクッション14との接触面に作用する車両後方側への摩擦力が増大する。一方、ラップ側のウエビング24Aによって乗員腰上部60Aは車両後方側斜め下方への拘束力を受けている。従って、乗員腰部60に対する拘束力が上下でバランス良く得られ、乗員腰部60がシートクッション14に潜り込む方向への回転が抑制される。
さらに、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置80では、膨張部82Aが膨張する際の膨張力が乗員腰部60の潜り込み方向への回転をキャンセルする方向に作用する。従って、車両衝突時に乗員腰部60がフロントシート10のシートクッション14に潜り込むサブマリン現象をより効果的に抑止することができる。
加えて、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置80の場合、通常の車両走行時においてはエアベルト82の膨張部82Aは袋状の形態でシートクッション14の前部内側に通されているので、従来構造に比し、構造的にはかなり簡素な構造にすることが可能である。また、エアベルト82の膨張部82Aは前述したベルト状部材と殆ど同じ形態になるので、軽量化及びコンパクト化が図られる。補足すると、インフレータ84を使うので駆動源を要する構成となるが、エアベルト82の膨張部82Aを膨張させる程度であればガス容量は少なくて済むため、小型のインフレータを使用することができ、軽量化及びコンパクト化が損なわれることはない。
以上から、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置80によっても、前述した第1実施形態に係る乗員腰部拘束装置36と同様に、簡素な構造で、サブマリン現象の発生防止による乗員の拘束性能向上とフロントシート10のシートクッション14への乗員の乗り心地性能向上とを両立させることができる。
また、本実施形態では、エアベルト82の膨張部82Aを膨張させるために専用の小型のインフレータ84を設定したが、シートベルト装置12のウエビング24がエアベルトで構成されている場合には、そのエアベルトの駆動源となるインフレータを共用してガスの一部がエアベルト82に導かれるようにしてもよい。その場合には、サブマリン現象抑止対策としては実質的にはエアベルト82のみを新設したのと同様になるので、第2実施形態のベルトタイプと同様程度シンプルな構成にすることができる。
〔第4実施形態〕
以下、図9を用いて、第4実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。また、この第4実施形態は、本発明には含まれない参考例とする。
図9には、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置90の全体構成が斜視図で示されている。この図に示されるように、この第4実施形態に係る乗員腰部拘束装置90では、シートクッションフレーム38の左右のサイドフレーム40間に乗員腰部拘束手段としてのウエビング巻取装置92のウエビング94が掛け渡されている。具体的に説明すると、一方のサイドフレーム40の内側にウエビング巻取装置92のフレーム96がボルト・ナット等の図示しない固定手段によって固定されている。また、ウエビング巻取装置92の図示しない巻取軸から引き出されたウエビング94の端部94Aは、ピン98で反対側のサイドフレーム40の外側面に固定されている。
ウエビング巻取装置92のフレーム96の一方の側部には図示しないぜんまいばねが収容されている。ぜんばいばねの内端はフレーム96に回転自在に軸支された巻取軸の軸端に係止されており、又ぜんまいばねの外端はぜんまいばねを収容するカバーに係止されている。これにより、巻取軸は、常時ウエビング巻取回転方向へ回転付勢されている。
一方、フレーム96の他方の側部には、イナーシャロック機構100が配設されている。イナーシャロック機構100の一例について概説すると、イナーシャロック機構100は慣性体として機能するボール(又は振り子)と、このボールが載置される台座と、台座の上端部に揺動可能に支持されると共にボールの上に載置された状態で配置されかつ先端部に係合爪が形成されたロックレバーと、を含んで構成された図示しない加速度センサを備えている。ロックレバーの係合爪の上方側には、巻取軸と同軸的に配置されかつ巻取軸に対して相対回転可能に取り付けられたロック輪が配置されている。ロック輪の外周部にはロックレバーの係合爪と係合可能なロック歯が形成されており、更にロック輪の片面にはロック輪の半径方向外側へ移動可能に保持された複数のロックプレートが装着されており、これらのロックプレートの先端部に形成されたロック歯に対向するかたちで内歯ラチェットホイール等のラチェットが配置されている。
(作用・効果)
上記構成の乗員腰部拘束装置90によれば、通常の車両走行時には、ウエビング巻取装置92のイナーシャロック機構100は作動しないので(即ち、ボールが慣性力によって台座上を転動することはないので)、ウエビング94は巻取りも引出しも可能な状態にあり、適度にテンションが張られた状態を維持する。従って、通常の車両走行時におけるフロントシート10への乗員の乗り心地性能は良好に維持される。
一方、この状態から車両衝突時になると、乗員腰下部60Bがシートクッション14内へ沈み込もうとする。このため、ウエビング94にテンションが発生するが、車両が衝突した際に作用する慣性力によってイナーシャロック機構100が作動する。すなわち、加速度センサのボールが台座上を転動してロックレバーを支軸回りに揺動させる。これにより、ロックレバーの先端部の係合爪がロック輪のロック歯に係合し、ロック輪のウエビング引出方向回転を停止させる。ロック輪のウエビング引出方向回転が停止されると、巻取軸とロック輪との間に相対回転が生じ、これにより複数のロックプレートが半径方向外側へ径方向移動する。従って、ロックプレートの先端部のロック爪が内歯ラチェットホイールのロック爪に係合され、ウエビング94のそれ以上の引出しが阻止される。つまり、乗員腰部拘束装置90はロック状態となる。従って、ウエビング巻取装置92からウエビング94が引き出されることはなく、乗員腰下部60Bの下方に位置するシートクッション14の剛性が高められる。従って、乗員腰下部60Bとシートクッション14との接触面に作用する車両後方側への摩擦力が増大する。一方、乗員はラップ側のウエビング24Aによって乗員腰上部60Aは車両後方側斜め下方への拘束力を受けている。従って、乗員腰部60に対する拘束力が上下でバランス良く得られ、乗員腰部60がシートクッション14に潜り込む方向への回転が抑制される。
加えて、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置90の場合、設置スペースとしては基本的にはELR式のウエビング巻取装置92を設置するためのスペースのみを確保すればよいので、従来構造に比し、構造的にはかなり簡素な構造にすることが可能である。
以上から、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置90によっても、前述した第1実施形態に係る乗員腰部拘束装置36と同様に、簡素な構造で、サブマリン現象の発生防止による乗員の拘束性能向上とフロントシート10のシートクッション14への乗員の乗り心地性能向上とを両立させることができる。
さらに、本実施形態に係る乗員腰部拘束装置90では、車両衝突時にウエビング巻取装置92のイナーシャロック機構100が瞬時に作動してウエビング94の引出方向移動を阻止するので、車両衝突時からイナーシャロック機構100が作動するまでの応答性が早い。その結果、本実施形態によれば、極めて迅速にサブマリン現象の発生を抑止することができる。
なお、上述した各実施形態では、フロントシート10に対して本発明を適用したが、これに限らず、3列シートのセカンドシート等の車両用シートに対しても本発明は適用可能である。