JP4414023B2 - 関節炎関連メラノトランスフェリンの測定方法および試薬 - Google Patents
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Description
【従来の技術】
関節炎
関節の内側は軟骨と滑液により関節腔が形成され、軟骨下には骨、滑膜外には関節包、骨、筋肉、腱、靱帯などがある。関節は運動により常に機械的刺激を受けているので炎症を惹起しやすい。関節に生じた炎症を総称して「関節炎」という(南山堂 医学大辞典18版, 第385頁、1998年,株式会社 南山堂)。
【0002】
i)骨関節炎
関節炎のうち「骨関節炎(osteoarthorosis:OA)」は、変形性関節症とも呼ばれ、関節に慢性の退行性変化および増殖性変化が同時に起こり、関節の形態が変化する疾患である。一次性変形性関節症と二次性変形性関節症に大別される。前者は主に中年以降にみられ、80%は女性である。老化現象に加え、力学的ストレスが加わって発症する。後者が若年層にもみられ、関節の外傷、形態異常、疾患、代謝異常など明らかな原因に有するものに続発して生じるものである。病理学的には、関節軟骨は次第に摩耗、あるいは欠損し、骨が露出するようになる。一方、血管の増生を伴って軟骨の肥大増殖、骨棘形成をみる。その他滑膜の増生、関節包の肥厚、萎縮、遊離体の出現などがみられる。症状としては、関節のこわばり、次第に運動痛、関節可動域制限、関節の腫脹をみる。運動開始時に疼痛や軋轢音を伴うことがある。X線像では骨棘形成、関節裂隙の狭小化、あるいは消失、関節軟骨下骨の硬化、嚢胞形成などが認められる。治療としては、理学療法、運動療法、装具療法、薬物療法などが保存的に行われる。病変が進行し、著しい機能障害を示すものに対しては手術療法が行われている(南山堂 医学大辞典18版,第1926頁,同上)
ii)リウマチ性関節炎
「リウマチ性関節炎(rheumatoid arthritis:RA)」は、慢性関節リウマチとも呼ばれ、原因不明の慢性関節炎を特徴とする疾患である。男女比は1:4で女性に多く、好発年齢は30歳ないし50歳である。我が国の罹病率は全人口の0.3%ないし0.5%と推定されている。発病原因は不明であるが、多因子性の遺伝的素因、特にHLA−D4との関連、およびウイルス感染が着目されている。関節炎はすべて滑膜関節に起こり、多発性、対称性の傾向を示す。初期には滑膜の炎症性腫脹のみであるが、進行すると軟骨、骨の破壊が起こり、関節は変形、脱臼し、また、骨性剛直により可動性を失う。特に手指、足趾は変形しやすく、中手指節間関節部での尺側変位、指のスワンネック変形、ボタン穴変形、趾では外反母趾などが特徴的である。朝起床時に関節が動きにくい、こわばった感じは「朝のこわばり」といって診断上も、治療効果をみる上でも重要な症状である。関節以外では、血管炎、心膜炎、皮下結節、肺繊維症などを伴うものがあり、血管炎を伴う型には結節性多発動脈炎様の予後不良例があって、悪性関節リウマチといわれる。
【0003】
臨床検査においては、リウマチ因子が70%ないし80%の高率に検出されるほか、赤沈値亢進、CRP陽性、軽度の貧血、血小板増加、血清補体高値などが認められる。滑膜組織所見は、非特異的慢性滑膜炎ある。
【0004】
治療としては、抗炎症薬と寛解導入薬による内科的治療、整形外科的治療、リハビリテーション治療等を組み合わせて行われている(南山堂 医学大辞典18版,第2019頁,同上)。
【0005】
iii)外傷性関節損傷
関節炎のうち、生体外からの機械的又は物理的刺激に基づく関節損傷を「外傷性関節損傷(ACL)」という。より詳細には、交通事故等により機械的若しくは物理的に関節が壊れ軟骨組織も破壊された状態であって、軟骨組織の構成タンパク質が一過的に関節液中に湿潤している状態をいう。
関節炎の診断
従来より、関節炎の診断は主に、関節での損傷および摩耗をレントゲン検査による造影法にて確認することによって行われている。しかしながら、レントゲン検査にて関節の軟骨組織破壊および損傷が写し出される時期は、関節炎症状がかなり進行・悪化した後期においてわかるのみであった。従って関節炎の早期における発見・治療という点からは問題であった。
【0006】
また、リウマチ性関節炎は、アメリカリウマチ学会の診断基準が広く使用されている。具体的には、前述した朝のこわばり、多発性対称性関節炎、皮下結節、手の関節X線所見等の7項目からなり、4項目以上該当すればリウマチ性関節炎と診断される。当該基準に基づく診断方法も、簡便性および関節炎の早期発見の観点からは必ずしも十分ではない。
【0007】
一方、関節の軟骨組織に存在するタンパク質として、ラミニン、オステオネクチン等の数種の細胞外マトリックスタンパク質が見出されている。ラミニンは基底膜の主要構成成分である糖タンパク質であり、上皮細胞を結合組織に接着させる働きのほかに、神経細胞の突起伸長促進作用を有する。また、オステオネクチンは、骨の非コラーゲン性タンパク質の約1/4を占める酸性リン酸化糖タンパク質である。骨の有機基質から発見されたが、その後骨組織以外の軟組織でも広く発現することが明らかとなっている(生化学辞典 第3版 第1464頁および第251頁 98年10月)。中村ら(ARTHRITIS&REUMATISM Vol.39,No.4,1996,p.539−551)は、ヒト関節液中のオステオネクチンの濃度がリウマチ性関節炎と関連していることを示唆している。しかしながら、中村らの文献には、オステオネクチンの場合リウマチ性関節炎では高値を示すが骨関節炎の診断には不向きであると記載されており、また、その他の関節炎との関係も不明である。
【0008】
このように、本発明前は広く関節炎の示標となるマーカーは存在せず、骨関節炎、リウマチ性関節炎および外傷性関節損傷を識別ことも不可能であった。
メラノトランスフェリン
一方、「メラノトランスフェリン」(以下、「MTF」と言う」)は、腫瘍関連抗原「p97」としてヒトのメラノーマ細胞より同定されたタンパク質である(ブラウンら,1980,J.Biol.Chem.255,p.4980−4983;ジポルドら,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,77,p.6114−6118;ウッドバーグら,1980,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,77,p.2183−2187)。MTF抗原は、正常および腫瘍の組織中における発現に関して広く研究されており、大部分のヒトメラノーマ細胞に存在することが知られている(ブラウンら,1981,J.Immunol.127,p.539−546;ブラウンら,1981,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,78,p.539−543;ガーリックスら,1982,Int.J.Cancer,29,p.511−515)。よって、ヒト臨床実験における腫瘍の診断像出に対する標的として使用されている(ラーソンら,1983,J.Clin.Invest.,72,p.2101−2114)。
【0009】
さらに、MTFは肝細胞(サイオットら,Liver,Vol.9(1989),p.110−119)、胎児の小腸上皮細胞(ダニエルソンら,J.Cell Biol.,Vol.131(1995),p.939−950)および脳(ローゼンバーガーら,Brain Research 712(1996)p.117−121)でも発現していることが報告されている。
【0010】
また近年、MTFが鉄の脳細胞への取り込みに関与していることが示唆され、MTFの濃度がアルツハイマー病患者で正常人よりも数倍高いことが見出された。当該結果に基づきMTF濃度を測定することによりアルツハイマーを診断する診断薬が開発されつつある(日経バイオテク 1999.3.29 第11頁)。
【0011】
カワモトら(Eur.J.Biochem.,1998,Sep.15,256(3),p.503−509)は、ウサギMTFタンパク質のウサギ軟骨細胞表面上での発現を報告している。しかしながら、ヒト軟骨細胞上でのMTFタンパク質の発現も、関節液中でのMTFタンパク質の存在も開示していない。その他、本発明前は関節に関連する組織および体液でのMTFの存在は報告されておらず、また関節炎とMTFとの関係も知られていなかった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、関節炎に関連するメラノトランスフェリンの測定方法を提供することを目的とする。本発明の測定方法は、
i)生体試料中のメラノトランスフェリン濃度を測定し;そして
ii)生体試料中のメラノトランスフェリン濃度が、対照の非関節炎生体試料と比較して有意に高い場合に関節炎であると判断する
ことを含む。
【0013】
本発明の方法は、その一態様において、関節液中のメラノトランスフェリン濃度が約2ng/ml以上の場合、あるいは血清中のメラノトランスフェリン濃度が約5ng/ml以上の場合には関節炎であると判断する
ことを含む。
【0014】
本発明の方法はまた、その一態様において、関節液中のメラノトランスフェリン濃度が約2ng/ml以上の場合には、リウマチ性関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷のうちの何れかの関節炎であると判断し、さらに約8ng/ml以上の場合には、リウマチ性関節炎または外傷性関節損傷であると判断し、さらにまた、約25ng/ml以上の場合にはリウマチ性関節炎であると判断することを含む。
【0015】
本発明の方法はさらに、その一態様において、メラノトランスフェリンに特異的な抗体を用いたサンドイッチ型イムノアッセイによって生体試料中のメラノトランスフェリン濃度を測定することを含む。
【0016】
本発明は、さらに、メラノトランスフェリンに特異的な抗体を含む、上記メラノトランスフェリンの測定方法に使用する試薬を提供することを目的とする。
本発明は、さらにまた、上記試薬を適当な容器に含む、メラノトランスフェリン測定用キットを提供することを目的とする。
【0017】
【課題が解決するための手段】
本発明者らは上記問題の解決を目的として鋭意研究に努めた結果、MTFの濃度が関節炎と関連することを見出し、本発明を想到した。具体的には、本発明により、MTFが広く関節炎の示標となりうること、さらに、骨関節炎、リウマチ性関節炎および外傷性関節損傷を識別も可能であることが初めて明らかとなった。
【0018】
具体的には、本発明は関節炎に関連するMTFの測定方法であって、MTFの生体試料中の濃度が、対照の非関節炎生体試料と比較して有意に高い場合に関節炎であると判断する、ことを含む前記測定法法に関する。
MTF
本発明における「MTF」は、前述したようにヒトメラノーマ細胞に最初に同定された腫瘍関連抗原である。単量体細胞表面シアロ糖タンパク質であり、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)により測定して約97,000ダルトンの見かけ分子量(MW)を有するタンパク質である。MTFタンパク質は鉄を結合させるトランスフェリン・ファミリーに属するタンパク質の1種で細胞の取り込みに働いている分子と考えられている。より詳細には、MTFタンパク質のアミノ酸配列はトランスフェリンと相同であり、トランスフェリンと同様に鉄を結合する(ブラウンら,1982,Nature,London,296,p.171−173)。体細胞ハイブリッド分析およびin situハイブリッド形成法により、MTF遺伝子はトランスフェリンおよびトランスフェリンの遺伝子と同様に染色体領域3q21ないし3q29上に配置されることが示されている(プロウマンら,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,p.2752−2756)。
【0019】
本明細書に参考文献として援用する特開平8−280390号および特開平9−135692号は、ヒトのMTFの遺伝子配列および推定アミノ酸配列を開示している。本明細書の配列番号1には、ヒトMTFのアミノ酸酸配列(718)をコード塩基配列とともに記載した。
測定方法
本発明の測定方法においては、生体試料内のMTFを公知の任意の方法を用いて測定してよい。
【0020】
好ましくはMTFタンパク質は、免疫学的測定方法を用いて測定することができる。免疫学的測定方法は、抗体が抗原を特異的に認識する抗原抗体反応に基づいて抗原や抗体の検出を行う方法である。免疫学的測定方法においては検出方法として非常に多種の標識、例えば、酵素、放射性トレーサー、化学発光あるいは蛍光物質、金属原子、ゾル、ラテックス及びバクテリオファージが適用可能である。
【0021】
免疫学的測定方法の中でも、酵素を使用する酵素免疫測定法(EIA)は経済性・利便性から特に優れたものとして広く使用されるに至っている。酵素免疫測定法についての優れた論評が、Tijssen P,“Practice and theory of enzyme immunoassays” in Laboratory techniques in biochemistry and molecular biology, Elsevier Amsterdam New York, Oxford ISBN 0−7204−4200−1(1990)に記載されている。
【0022】
本発明において、抗原、抗体の作製、及び免疫化学的測定法は特に限定されず公知のものを使用できる。尚、これらの調製は公知の方法、例えば続生化学実験講座、免疫生化学研究法(日本生化学会編)等に記載の方法に従って行うことができる。以下、本発明のにおける抗原、抗体の作製、及び免疫化学的測定法の態様を例示的に説明する。
【0023】
i)抗体の作製
本発明の測定方法に用いるポリクローナル抗体は、常法により作製することができる。
【0024】
先ず、MTF免疫原を調製する。例えば、先ず、ヒト軟骨培養細胞から膜分画を調製後、GPIアンカー特異的に作用するホスホリパーゼCにて膜結合成分を可溶化する。次いで、可溶化成分をMTF結合性レクチン固定化ゲルに装填し、MTFをレクチンゲルに吸着させる。pHの変化、塩濃度の変化または特果糖(例えば、固定化レクチンがコンカナバリンAの場合には、α−メチルマンノピラノシド)を利用することにより、レクチンゲルに吸着した糖タンパク質分画を溶出する。次いで、所望により、イオン交換カラムクロマトグラフィーおよびゲル濾過クロマトマトグラフィー等に供してMTF抗原を精製することができる。あるいは、既知の抗MTFモノクローナル抗体(例えば、L235(寄託番号ATCC No8446−HB)等)を利用したアフィニティークロマトグラフィーを用いてMTF抗原を調製してもよい。免疫原は特に限定されず、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物由来のもの、例えばウサギ、を使用可能である。好ましくはヒト由来である。
【0025】
あるいは、特開平8−280390号および特開平9−135692号等に開示されたMTF遺伝子の塩基配列に基づいて、MTF遺伝子をクローニングし、公知の遺伝子工学技術を用いてMTFタンパク質を発現させてもよい。
【0026】
上述のように得られたMTF免疫原をリン酸ナトリウム緩衝液(以下、「PBS」と言う)に溶解し、フロイント完全アジュバント又は不完全アジュバント、あるいはミョウバン等の補助剤と混合したものを、免疫用抗原として動物に免疫することによって得ることができる。免疫される動物としては当該分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等を挙げることができる。
【0027】
免疫の際の投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。免疫は1回又は適当な間隔で、好ましくは1週間ないし5週間の問隔で複数回行うことができる。
【0028】
免疫した動物から血液を採取し、そこから分離した血清を用い、MTFと反応するポリクローナル抗体の存在を評価することができる。
さらに、公知の方法により本発明のモノクローナル抗体を作製することができる。
【0029】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、少なくとも下記のような作業工程が必要である。
(a)免疫用抗原MTFの調製
(b)動物への免疫
(c)血液の採取、アッセイ、及び抗体産生細胞の調製
(d)ミエローマ細胞の調製
(e)抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合とハイブリドーマの選択的培養
(f)目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングと細胞クローニング
(g)ハイブリドーマの培養又は動物へのハイブリドーマの移植によるモノクローナル抗体の調製
(h)調製されたモノクローナル抗体の反応性の測定等
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するための常法は、例えば、ハイブリドーマ テクニックス(Hybridoma Techniques),コールド スプリング ハーバー ラボラトリーズ(Cold Spring Harbor Laboratory,1980年版)、細胞組織化学(山下修二ら、日本組織細胞化学会編;学際企画、1986年)に記載されている。
【0030】
以下、本発明のMTFに対するモノクローナル抗体の作製方法を説明するが、これに制限されないことは当業者によって明らかであろう。
(a)−(b)の工程は、ポリクローナル抗体に関して記述した方法とほぼ同様の方法によって行うことができる。
【0031】
(c)の工程における抗体産生細胞はリンパ球であり、これは一般には脾臓、胸腺、リンパ節、末梢血液又はこれらの組み合わせから得ることができるが脾細胞が最も一般的に用いられる。従って、最終免疫後、抗体産生が確認されたマウスより抗体産生細胞が存在する部位、例えば脾臓を摘出し、脾細胞を調製する。
【0032】
(d)の工程に用いることのできるミエローマ細胞としては、例えば、Balb/cマウス由来骨髄腫細胞株のP3/X63−Ag8(X63)(Nature,256,495−497(1975))、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)(Current Topics.in Microbiology and Immunology,81, 1−7(1987))、P3/NSI−1−Ag 4−1(NS−1)(Eur.J.Immunol.,6,511−519(1976))、Sp2/0−Ag14(Sp2/0)(Nature, 276,269−270(1978))、FO(J.Immuno.Meth.,35, 1−21(1980))、MPC−11、X63.653、S194等の骨髄腫株化細胞、あるいはラット由来の210.RCY3.Ag 1.2.3.(Y3)(Nature, 277,131−133,(1979))等を使用できる。
【0033】
上述したミエローマ細胞をウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)で継代培養し、融合当日に約1×106以上の細胞数を確保する。
【0034】
(e)の工程の細胞融合は公知の方法、例えばミルスタイン(Milstein)らの方法(Methods in Enzymology,73,3(1981))等に準じて行うことができる。現在最も一般的に行われているのはポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法である。PEG法については、例えば、細胞組織化学、山下修二ら(上述)に記載されている。別の融合方法としては、電気処理(電気融合)による方法を採用することもできる(大河内悦子ら、実験医学 5.1315−19、1987)。その他の方法を適宜採用することもできる。また、細胞の使用比率も公知の方法と同様でよく、例えばミエローマ細胞に対して脾細胞を3倍から10倍程度用いればよい。
【0035】
脾細胞とミエローマ細胞とが融合し、抗体分泌能及び増殖能を獲得したハイブリドーマ群の選択は、例えば、ミエローマ細胞株としてヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損株を使用した場合、例えば上述のDMEMやIMDMにヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを添加して調製したHAT培地の使用により行うことができる。
【0036】
(f)の工程では、選択されたハイブリドーマ群を含む培養上清の一部をとり、例えば後述するELISA法により、MTFに対する抗体活性を測定する。
さらに、測定によりMTFに反応する抗体を産生することが判明したハイブリドーマの細胞クローニングを行う。この細胞クローニング法としては、限界希釈により1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈する方法「限界希釈法」;軟寒天培地上に撒きコロニーをとる方法;マイクロマニピュレーターによって1個の細胞を取り出す方法;セルソーターによって1個の細胞を分離する「ソータークローン法」等が挙げられる。限界希釈法が簡単であり、よく用いられる。
【0037】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によりクローニングを1−4回繰り返して安定して抗体価の得られたものを、抗MTFモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。ハイブリドーマを培養する培地としては、例えば、ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM又はIMDM等が用いられる。ハイブリドーマの培養は、例えば二酸化炭素濃度5−7%程度及び37℃(100%湿度の恒温器中)で培養するのが好ましい。
【0038】
(g)の工程で抗体を調製するための大量培養は、フォローファイバー型の培養装置等によって行われる。又は、同系統のマウス(例えば、上述のBalb/c)あるいはNu/Nuマウスの腹腔内でハイブリドーマを増殖させ、腹水液より抗体を調製することも可能である。
【0039】
これらにより得られた培養上清液あるいは腹水液を抗MTFモノクローナル抗体として使用することできるが、さらに透析、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲル濾過、凍結乾燥等を行い、抗体画分を集め精製することにより抗MTFモノクローナル抗体を得ることができる。さらに、精製が必要な場合には、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの慣用されている方法を組合わせることにより実施できる。
【0040】
以上のようにして得られた抗MTFモノクローナル抗体は、例えば後述するELISA法などの公知の方法を使用して、サブクラス、抗体価等を決定することができる。
【0041】
本発明おいては、本明細書の実施例において後述するように、新たな抗MTFモノクローナル抗体として47−4Eおよび8−9Cを得た。実施例1の表1に示すように、47−4Eおよび8−9CはMTFに類似するトランスフェリンには全く交差反応性を有しない、MTFに非常に特異性の高いモノクローナル抗体である。また、抗MTFモノクローナル抗体は本発明前より公知であり、アメリカンタイプカルチャーコレクションに寄託されているL235(寄託番号ATCC No.8446−HB)等も使用可能である。
【0042】
また、前述したカワモトらの論文(Eur.J.Biochem.,1998)は、ウサギMTFに対する抗血清を開示している。このような抗血清も、例えばウサギを対象とする本発明の測定方法において使用可能である。
抗体による生体試料中のMTFの測定
本発明で使用する抗体によるMTFの測定法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Engvall,E.,Methods in Enzymol.,70,419−439(1980))、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の一般に抗原の検出に使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)が挙げられる。
【0043】
MTFの測定は、例えば各種ELISA法のうち例えば間接競合ELISA法により、以下のような手順により行うことができる。
(a)まず、固相化用抗原であるMTF抗原を担体に固相化する。
【0044】
(b)固相化用抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な物質、例えばタンパク質によりブロッキングする。
(c)これに各種濃度のMTFを含む生体試料及び抗体を加え、抗MTF抗体を前記固相化抗原及びMTFに競合的に反応させて、固相化抗原−抗体複合体及び、MTF−抗体複合体を生成させる。
【0045】
(d)固相化抗原−抗体複合体の量を測定することにより、予め作成した検量線から生体試料中のMTFの量を決定することができる。
(a)工程において、固相化用抗原を固相化する担体としては、特別な制限はなく、ELISA法において常用されるものをいずれも使用することができる。例えば、ポリスチレン製の96ウェルのマイクロタイタープレートが挙げられる。
【0046】
固相化用抗原を担体に固相化させるには、例えば、固相化用抗原を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液としては公知のものが使用でき、例えば、リン酸緩衝液を挙げることができる。緩衝液中の抗原の濃度は広い範囲から選択できるが、通常0.01μg/mlから100μg/ml程度、好ましくは0.05μg/mlから10μg/mlが適している。また、担体として96ウェルのマイクロタイタープレートを使用する場合には、300μl/ウェル以下で20μl/ウェルから150μl/ウェル程度が望ましい。更に、インキュベーションの条件にも特に制限はないが、通常4℃程度で一晩インキュベーションが適している。
【0047】
(b)工程のブロッキングは、抗原を固相化した担体において、MTF部分以外に後で添加する抗体が吸着され得る部分が存在する場合があり、もっぱらそれを防ぐ目的で行われる。ブロッキング剤として、例えば、BSAやスキムミルク溶液を使用できる。あるいは、ブロックエース(「Block‐Ace」、大日本製薬社製、コードNo.UK−25B)等のブロッキング剤として市販されているものを使用することもできる。具体的には、限定されるわけではないが、例えば抗原を固相化した部分にブロッキング剤を含む緩衝液[例えば、1%BSAと60mM NaClを添加した85mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)]を適量加え、約4℃で、1時間ないし5時間インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、例えば、PBSを用いることができる。
【0048】
次いで(c)工程において、MTFを含む生体試料と抗体を固相化抗原と接触させ、抗体を固相化抗原及びMTFと反応させることにより、固相化抗原−抗体複合体及びMTF−抗体複合体が生成する。
【0049】
MTFを含む生体試料としては、特に限定されず関節液の他に血清等も使用可能である。後述する実施例4(図3)に示すように、関節液中のMTF濃度は血清中のMTF濃度に相関関係を有する。よって、本発明の測定方法においては関節液を用いるのが好ましいが、血清、血液、リンパ球等の他の生体試料も使用可能である。生体試料の由来は特に限定されず、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物由来のもの、例えばウサギ、を使用可能である。好ましくはヒト由来である。
【0050】
抗体としては、第一抗体として本発明のMTFに対する抗体を加え、更に第二抗体として標識酵素を結合した第一抗体に対する抗体を順次加えて反応させる。
第一抗体は緩衝液に溶解して添加する。限定されるわけではないが、反応は、10℃から40℃、好ましくは約25℃で約1時間行えばよい。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗原に結合しなかった第一抗体を除去する。洗浄液としては、例えば、PBSを用いることができる。
【0051】
次いで第二抗体を添加する。例えば第一抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素等の標識物質を結合した抗マウス−ヤギ抗体を用いるのが適当である。標識物質としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」と言う)、アルカリフォスファターゼ等の酵素を用いることができる。あるいは、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質などを用いてもよい。担体に結合した第一抗体に好ましくは最終吸光度が4以下、より好ましくは0.5−3.0となるように希釈した第二抗体を反応させるのが望ましい。希釈には緩衝液を用いる。限定されるわけではないが、反応は室温で約1時間行い、反応後、緩衝液で洗浄する。以上の反応により、第二抗体が第一抗体に結合する。また、標識した第一抗体を用いてもよく、その場合、第二抗体は不要である。あるいは、第一抗体をビオチン化させておき、第二抗体の代わりに標識したストレプトアビジンを加えてもよい。
【0052】
次いで(d)工程において担体に結合した第二抗体の標識物質と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を測定することによって検量線からMTFの量を算出することができる。
【0053】
第二抗体に結合する酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素、並びに3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン又はo−フェニレンジアミン(以下、「OPD」と言う)を含む発色基質溶液を使用することができる。限定されるわけではないが、発色基質溶液を加え室温で約10分間反応させた後、1Nの硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を測定する。OPDを使用する場合、492nmの吸光度を測定する。一方、第二抗体に結合する酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、1NのNaOH溶液を加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を測定する方法が適している。
【0054】
MTFを添加しない反応溶液の吸光度に対して、それらを添加して抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のMTFを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のMTFの濃度を算出できる。
【0055】
あるいはMTFの測定は、例えば以下に述べるような直接競合ELISA法によって行うこともできる。
(a)まず、抗MTFモノクローナル抗体を、担体に固相化する。
【0056】
(b)抗体が固相化されていない担体表面を抗原と無関係な物質、例えばタンパク質により、ブロッキングする。
(c)上記工程とは別に、各種濃度のMTFを含む生体試料に、MTF免疫原と酵素を結合させた酵素結合MTFを加えた混合物を調製する。
【0057】
(d)上記混合物を上記抗体固相化担体と反応させる。
(e)固相化抗体−酵素結合MTF複合体の量を測定することにより、あらかじめ作成した検量線から試料中のMTFの量を決定する。
【0058】
(a)工程においてモノクローナル抗体を固相化する担体としては、特別な制限はなくELISA法において常用されるものを用いることができ、例えば96ウェルのマイクロタイタープレートが挙げられる。モノクローナル抗体の固相化は、例えばモノクローナル抗体を含む緩衝液を担体上にのせ、インキュベートすることによって行える。緩衝液の組成・濃度は前述の間接競合ELISA法と同様のものを採用できる。
【0059】
(b)工程のブロッキングは、抗体を固相化した担体において、後に添加する試料中のMTF並びに酵素結合MTFが、抗原抗体反応とは無関係に吸着される部分が存在する場合があるので、それを防ぐ目的で行う。ブロッキング剤及びその方法は、前述の間接競合ELISA法と同様のものを使用できる。
【0060】
(c)工程において用いる酵素結合MTFの調製は、MTFを酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。例えば、前述した活性化エステル法を採用することができる。調製した酵素結合MTFは、MTFを含む試料と混合する。
【0061】
(d)工程においてMTFを含む試料及び酵素結合MTFを抗体固相化担体に接触させ、MTFと酵素結合MTFとの競合阻害反応により、これらと固相化抗体との複合体が生成する。MTFを含む試料は適当な緩衝液で希釈して使用する。限定されるわけではないが、反応は例えば、室温でおよそ1時間行う。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合MTFを除去する。洗浄液は、例えばPBSを使用することができる。
【0062】
さらに、(e)工程において酵素結合MTFの酵素に反応する発色基質溶液を前述の間接競合ELISA法と同様に加え、吸光度を測定することにより検量線からMTFの量を算出することができる。
【0063】
さらにまた、限定されるわけではないが、本発明の方法では好ましくはサンドイッチ法を用いることができる。サンドイッチ法は、「2抗体法」とも呼ばれる非競合型のイムノアッセイである。サンドイッチ法は、抗原上の重複していないエピトープに対する2種の異なる抗体により抗原を測定することを特徴とする(生化学事典 第3版 第599頁 1998年10月)。
【0064】
(a)まず、第一の抗MTFモノクローナル抗体を、担体に固相化する。
(b)抗体が固相化されていない担体表面を抗原と無関係な物質、例えばタンパク質により、ブロッキングする。
【0065】
(c)MTFを含む生体試料を上記抗体固相化担体と反応させる。
(d)標識した第二の抗MTFモノクローナル抗体を添加し、反応させる。
(e)固相化第一抗MTFモノクローナル抗体−MTF−標識第二抗MTFモノクローナル抗体複合体の量を測定することにより、あらかじめ作成した検量線から試料中のMTFの量を決定する。
【0066】
(e)工程においては、標識第2モノクローナル抗体の酵素に反応する発色基質溶液を前述のELISA法と同様に加え、吸光度を測定することにより検量線からMTFの量を算出することができる。あるいは、第二抗体をビオチン化させておき、更に標識したストレプトアビジンを加えてビオチン−アビジン結合体を生じさせ、アビジンに結合した標識酵素を発色させてもよい。
【0067】
サンドイッチ法においては、(a)工程において用いる担体に固相化させる第一のモノクローナル抗体と、(e)工程において加える第二のモノクローナル抗体とは異なるエピトープを認識することを特徴とする。このため抗原検出の特異性と感度を高めることが可能である。限定されるわけではないが、好ましくは、本発明において得られた抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9Cを用いることができる。抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9Cを用いたサンドイッチ法の場合、約1ng/mlないし約80ng/ml、好ましくは約3ng/mlないし60ng/mlの濃度でMTFの測定が可能である(実施例2、図1)。
【0068】
MTFは細胞膜タンパク質として局在し、鉄結合能およびレクチン結合能等を有することが報告されている(ローゼンバーガーら,Brain Research 712(1996),p.117−121等)。よって、2種類の抗体を用いたサンドイッチ型イムノアッセイの他にも、レクチン−抗体のサンドイッチ型アッセイも可能である。さらに、例えば57Fe、58Fe等の放射性同位元素で標識した鉄−抗体を用いたサンドイッチ型アッセイも可能である。さらに、本発明はイムノアッセイに限定されず、生体試料中のMTF濃度を測定可能な方法であれば適用可能である。
関節炎
本発明の測定方法は、MTFの生体試料中の濃度が、対照の非関節炎生体試料と比較して有意に高い場合に関節炎であると判断する。本発明の測定方法によって、種々の関節炎を病む複数の生体試料中のMTF濃度を測定すると、いずれも関節炎とは無関係な陰性対照の生体試料中と比較してMTF濃度が有意に高い。例えば、後述する実施例3(図2)では、関節液中のMTF濃度が、陰性対照群(半月晩損傷疾患)に対し、骨関節炎で約5倍、リウマチ性関節炎で約10倍、外傷性関節損傷で約7倍上昇した。
【0069】
限定されるわけではないが、本発明の測定方法においては、関節液のMTF濃度が約2ng/ml以上の場合に関節炎であると判断する。また、実施例4(図3)に示すように血清のMTF濃度は関節液の場合と相関関係にあり、相関係数は0.694であり、血清MTF=関節液MTF×0.664+1.71の関係式が成り立つ。よって、血清の場合には、約5ng/ml以上の場合に関節炎であると判断する。
【0070】
本発明の測定方法により判断可能な関節炎は特に限定されず、リウマチ関節炎、骨関節炎、外傷性関節損傷、感染性関節炎、結合組織疾患に伴う関節炎等公知の任意の関節炎が対象となる。好ましくは、リウマチ性関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷が対象となる。
【0071】
さらに、本発明の測定方法においてはリウマチ関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷の3種の関節炎の識別が可能である。具体的には、関節液中のMTF濃度が約2ng/ml以上の場合には、リウマチ性関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷のうちの何れかの関節炎であると判断し、さらに約8ng/ml以上の場合には、リウマチ性関節炎または外傷性関節損傷であると判断し、さらにまた、約25ng/ml以上の場合にはリウマチ性関節炎であると判断する。そして約2ng/ml以下の場合に関節炎に罹患していないと判断する。
【0072】
本発明の測定方法をさらに他の関節炎に関するデータ、例えば上述したようなレントゲンデータ、リウマチ診断基準、オステオネクチン分布データ等、と組み合わせることにより、関節炎の判断並びにリウマチ関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷の3種の関節炎の識別がより容易、確実にすることが可能である。
【0073】
なお、本発明は、MTFと関節炎との関係を初めて見出し、関節炎の早期診断・発見を可能にしたものである。よって、本発明に基づき、生体試料中のMTFのタンパク質濃度のみならず、遺伝子発現も関節炎と関連付けられると考えられる。即ち、生体試料中のMTFのmRNAを、例えばPCR等の核酸増幅技術を用いることによって増幅し、対照の非関節炎由来の試料と比較することが可能である。
MTF測定用試薬およびキット
本発明はさらに、上述したMTF測定方法に使用するための試薬を提供する。本発明の試薬は、MTFを測定し、関節炎を診断するために用いられる。さらに、本発明の試薬によりリウマチ関節炎、骨関節炎および外傷性関節炎の3種の関節炎の識別が可能である。
【0074】
本発明の試薬はMTF濃度を測定するためのMTFに特異的な抗体を含むことを特徴とする。MTFに特異的な抗体は、好ましくはモノクローナル抗体であり、より好ましくは、本発明の実施例1によって得られた抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9Cである。
【0075】
本発明はまた、上記試薬を適当な容器に含むキットを提供する。MTFに特異的な抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。限定されるわけではないが、本発明のキットは、例えば、抗MTFモノクローナル抗体を10μg/mlないし1,000μg/mlの濃度で含む溶液を10μlないし10mlの単位で容器に含むものである。
【0076】
本発明のキットは、さらに、抗体固相用プレート、発色基質溶液、標準標識抗体、あるいはビオチン標識抗体およびストレプトアビジン若しくはアビジン標識酵素の組み合わせ、標準抗原液等のイムノアッセイに必要な試薬を含んでいてもよい。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
【実施例】
実施例1 MTFに対するモノクローナル抗体の作製
ヒト軟骨培養細胞から膜分画を調製後、GPIリンカーに特異的に作用するホスホリパーゼCを用いてMTFを含む膜結合成分を可溶化した。
【0078】
次いで可溶化膜結合成分を、ヒトMTFに特異的なモノクローナル抗体L235(ATCC No.8446−HB)を固定化したセルロファインゲルを用いたイムノアフィニティークロマトグラフィーに装填し、クロマトグラフィーにヒトMTFを特異的に結合させた。0.1Mグリシン塩酸バッファー(pH2.4)を溶出分画として用い、MTFを溶出させた。
【0079】
精製MTFの10μgを免疫用抗原としてフロイド完全アジュバントとともにBalb/cマウスに腹腔内注射した。その後、追加免疫として皮下注射を繰り返し行った。マウス抗血清のMTFに対する抗体価の上昇を、MTF固相化マイクロタイタープレートを用いた間接競合ELISA法にて確認した。次いで、抗体産生細胞とマウスのミエローマ細胞(xAg8/6.5.3)との細胞融合を行い、同様なMTFに対する間接競合ELISA法による抗体価の測定に基づき、MTFに特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を2株取得した(47−4Eおよび8−9C)。
【0080】
取得した抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9CのMTFの異なる供給源に対する特異性を、免疫用抗原の供給源である軟骨培養細胞由来のMTFと、メラノーマ細胞由来のMTFの各々に対する特異性を比較することによって調べた。陰性対照としてヒト血清由来のトランスフェリンを用いた。結果を表1示す。
【0081】
【表1】
表1に示されるように本願発明の抗MTFモノクローナル抗体は、測定対象化合物のMTFの供給源に関係なく、MTFに特異的であることが明らかとなった。
実施例2 サンドイッチ型エンザイムイムノアッセイを用いたMTFの測定
実施例1で得られた2種の抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9を用いたサンドイッチ型エンザイムイムノアッセイ(2抗体法)よりMTFを測定した。
a)1次抗体(抗MTFモノクローナル抗体8−9C)の固相プレートの作製
b)固相プレートのブロッキング
c)MTF抗原の添加および反応
d)2次抗体(ビオチン化抗MTFモノクローナル抗体47−3E)の添加および反応
e)アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンの添加
f)p−ニトロフェニルリン酸溶液の添加
g)発色反応の停止
各操作の間には、0.1% Tween20を含むPBSでの洗浄操作を行った。
【0082】
具体的には、先ず実施例1で得た抗MTFモノクローナル抗体8−9Cを30μg/mlの濃度で100μlずつ分注し、4℃で1晩感作させて、マイクロプレートにコーティングした。さらに、1%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)および0.15M NaClを含む20mMリン酸バッファー(pH7.4)を用いて固相プレートをブロッキングしてアッセイ用のプレートを作製した。
【0083】
次に、実施例1で調製した0ないし100μg/mlのMTF抗原を100μlずつ各ウェルに入れ、室温で2時間反応させた。
反応後、0.1% Tween20を含むPBSでの洗浄し、2次抗体として2.5μg/mlのビオチン化抗MTFモノクローナル抗体47−3Eを加えた。反応は、室温で2時間行った。次いで、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを、0.5U/mlの濃度で添加した、同様に室温で2時間反応させた。反応終了後、0.1% Tween20を含むPBSでの洗浄し、発色基質溶液としてp−ニトロフェニルリン酸溶液(バイオテックス ラボラトリー社製、米国)を添加した。発色反応を室温で30分間行った後、1N NaOHを加えることにより停止した。
【0084】
プレートリーダーにて415nmにおかる吸光度を計測し、発色の度合いを測定した。メラノトランスフェリン標準液を用いて作成した較正曲線を図1に示す。図1に示すように、本発明の測定方法により、抗MTFモノクローナル抗体47−4Eおよび8−9Cを用いたサンドイッチ法の場合、約1ng/mlないし約80ng/mlの濃度でMTFの測定が可能である。
実施例3 抗MTF抗体を用いた関節液中のMTFの測定
実施例2のサンドイッチ型エンザイムイムノアッセイの手順に従い、関節炎患者の関節液中のMTF濃度を測定した。
【0085】
具体的には、関節炎患者として骨関節炎(OA)26例、リューマチ性関節炎(RA)46例および外傷性関節損傷(ACL)15例を対象とした。さらに、半月板損傷2例を陰性対照として測定した。結果を図2に示す。
【0086】
図2より、骨関節炎、リューマチ性関節炎、外傷性関節損傷のすべての関節炎において、対照の半月板損傷と比較して、関節液中のMTF濃度が有意に高いことが示された。よって、関節液中のMTF濃度は関節炎を早期に発見・診断する上で有用であることが明らかとなった。
【0087】
さらに、骨関節炎、リューマチ性関節炎、外傷性関節損傷の各関節炎ではMTF濃度の分布に有意に差があることが判明した。具体的には、骨関節炎(OA)では、MTF濃度の分布が平均約3.15ng/ml(SD±2.79)であり、最高値は約8ng/mlであった。リューマチ性関節炎(RA)では、平均約11.30ng/ml(SD±11.82)であり、最高値は約52ng/mlであった。そして、外傷性関節損傷(ACL)では平均約9.88ng/ml(SD±5.29)であり、最高値は約25ng/mlであった。これに対し、陰性対照の半月板損傷では平均約1.14ng/ml(SD±1.21)であった。
実施例4 血清MTF濃度と関節液MTF濃度の相関関係
骨関節炎26例、リューマチ性関節炎46例および外傷性間接損傷15例の患者につき関節液とともに血清を採取した。血清中のMTF濃度を測定し、関節液中のMTF濃度と比較した。
【0088】
結果を図3に示す。図3に示すように血清中のMTF濃度と関節液中のMTF濃度との間に正の相関性があることが見出された。詳細には、血清中のMTF濃度と関節液中のMTF濃度の相関係数は約0.694であり、血清MTF=関節液MTF×0.664+1.71の関係式が成り立つ。
【0089】
【効果】
本発明により、MTFと関節炎との関係が明らかとなった。本発明のMTF測定方法によって生体試料中のMTF濃度を測定することにより、広く関節炎を簡便、迅速、安価に発見・診断することが可能となった。
【0090】
本発明はさらに、MTF濃度は3種の関節炎、骨関節炎、リューマチ性関節炎、外傷性関節損傷において、有意に差があることを見出し、三者の識別を初めて可能にした。
【0091】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のサンドイッチ型エンザイムイムノアッセイによるメラノトランスフェリン標準液の較正曲線を示す。
【図2】図2は、本発明のサンドイッチ型エンザイムイムノアッセイによる各種関節炎患者由来の関節液中のMTF濃度を示す。
【図3】図3は、本発明のサンドイッチ型エンザイムイムノアッセイによる関節液中のMTF濃度と血清中のMTF濃度との相関を示す。
Claims (6)
- リウマチ性関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷のうちの何れかの関節炎に関連するメラノトランスフェリンの測定方法であって
i)関節液中のメラノトランスフェリン濃度を測定し;そして
ii)関節液中のメラノトランスフェリン濃度が2ng/ml以上であることを、リウマチ性関節炎、骨関節炎および外傷性関節損傷のうちの何れかの関節炎の指標とし、さらに8ng/ml以上であることを、リウマチ性関節炎または外傷性関節損傷の指標とし、さらにまた、25ng/ml以上であることをリウマチ性関節炎の指標とする、
ことを含む前記方法。 - メラノトランスフェリンに特異的な抗体を用いたサンドイッチ型イムノアッセイによって関節液中のメラノトランスフェリン濃度を測定することを含む、請求項1に記載の測定方法。
- メラノトランスフェリンに特異的な抗体を含む、請求項1または2に記載の測定方法に使用するための試薬。
- メラノトランスフェリンに特異的な抗体が標識されている、請求項3に記載の試薬。
- 請求項3または4に記載の試薬を容器に含む、メラノトランスフェリン測定用キット。
- 抗体固相用プレート、発色基質試薬または標識抗体をさらに含む、請求項5に記載のキット。
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