JP4412882B2 - 電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体、それを用いた電解コンデンサ及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体およびそれを用いた電解コンデンサとその製造方法に関するものであり、その電解質はイオン伝導型のものである。
【0002】
【従来の技術】
電解コンデンサは、陰極と、化成により形成される誘電体酸化皮膜を有する陽極とで、電解質を挟持した構成を有する。電解質のタイプは液体あるいは固体でイオン伝導性のタイプと、固体で電子伝導性のタイプがある。液体でイオン伝導性のタイプは、電解質として電解液を用いるものである。電解液の場合は、誘電体酸化皮膜に相当深い欠陥部が生じていても、陽陰極間に高い修復電圧を印加することができ、すなわち酸化皮膜の再形成を目的とする高い化成電圧を印加することができ、それにより、欠陥部を容易に修復することができる。高い修復電圧を印加できるというのは、高い電圧を印加しても火花が発生しない、すなわち火花電圧が高いということである。
【0003】
しかしながら、電解液を陽陰極間に保持するためには、電解液で充分満たされるとともに、陽極と陰極とを充分隔離するセパレータが必要である。その条件を満たすセパレータ材料として、坪量、すなわち密度と厚みの積、が充分大きい紙あるいは不織布を用いることが必要になる。電解液そのものは比較的高いイオン伝導度を有し、電解液そのものの抵抗(ESR:等価直列抵抗)は比較的小さいが、坪量の大きなセパレータのために、セパレータ・電解液複合体の抵抗が大きくなる。すなわち、電解コンデンサとしての抵抗損失のうち、電解液そのものによる抵抗損失は比較的小さくすることができるが、セパレータのために全体としての抵抗損失が大きくなってしまう。また、そもそも液体を用いるため、漏液、デバイスへの実装、加工性などの点でも短所がある。
【0004】
そこで、従来より電解液の固体化が検討されている。固体の電解質を用いるタイプでは、液体を用いるがゆえの短所はない。そのうち、固体で電子伝導性のタイプの一例は、上記の電解液の替わりに、電解質として、例えばポリピロールを用い、セパレータとしてポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの多孔質樹脂を用いるものである。電子伝導を用いるがゆえに、その抵抗は小さく、電解コンデンサとしての抵抗損失が小さいという特長を有する。しかしながら、この固体電子伝導性タイプの場合は、誘電体酸化皮膜に欠陥部が生じていても、高い修復電圧を印加することによる充分なる修復が困難である。それは、このタイプの場合、比較的低い修復電圧の印加でも火花が発生してしまう。すなわち、酸化皮膜修復機能をほとんど有さないものである。
【0005】
一方、固体でイオン伝導性のタイプのものとしては、無機系と高分子系のものがある。無機系のものは、イオン伝導率が高いという特長を有するが、重く、柔軟性に欠け、成形性が悪いという短所を有する。
固体で高分子系のタイプ、すなわちイオン伝導性高分子は、無機系の電解質に比べ、イオン伝導率がはるかに小さいが、軽量で柔軟性、成形性等の機械的性能の面で優れているので注目を集めている。従来提案されているイオン伝導性高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)とリチウム塩の複合体(イオン伝導率:100℃で〜10-4S/cm、polymer,14,586(1973))、トリオール型ポリエチレンオキシドのジイソシアネート架橋物ポリマーと金属塩との複合体(イオン伝導率:30℃で10-5S/cm、特開昭62−48716号公報)、ポリメタクリル酸オリゴオキシエチレン−メタクリル酸アルカリ金属塩共重合体の対イオン固定イオン伝導性高分子(イオン伝導率:室温で10-7S/cm、Polymer Re−prints Japan,35,583(1986))、単官能および多官能アクリロイル変性ポリアルキレンオキシドとアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属塩との混合物(イオン伝導率:25℃で10-3S/cm、特開平8―295711号公報)等が報告されている。
また、実際に電解コンデンサに適用したイオン伝導性高分子の例としては、溶媒と電解質塩に加えて熱変性高分子および/またはセルロース誘導体からなり、前記溶媒が分子量200以下の多価アルコール化合物を含み、前記熱変成高分子が卵白タンパク質および/またはβ−1,3−グルカンを含むイオン伝導性高分子(イオン伝導度:室温で10-3S/cm、特開平5−55088号公報)が報告されている。
【0006】
しかしながら、これらのイオン伝導性高分子のうち、ある種類では、室温におけるイオン伝導度が低いため、電解コンデンサに適用した場合、抵抗損失が大きく十分な特性が得られない。また、別の種類では、電解液と同等のイオン伝導度を有していても、高分子の耐熱性が低くなる場合がある。さらに、金属塩を使用しているため高温環境中ショートを起こしたり、十分な特性が得られないという短所がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決するもので、室温におけるイオン伝導度が高く耐熱性も高く、かつ、電解コンデンサを構成したときアルミニウムなどの電極箔と反応せず、成形性ならびに長寿命化の点で優れた電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体を提供することにある。
本発明の他の目的は、同高分子電解質複合体を用いた電解コンデンサを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体は、電解質と、アクリル系誘導体の共重合体を含むアクリル系高分子とを具備する複合体である。
前記電解質は極性溶媒と、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1つ以上の溶質とからなる。
前記共重合体は、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第1モノマーと、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第2モノマーとの重合体である。ここで、アクリル系誘導体の末端の水酸基としては、狭義の水酸基だけではなく、カルボキシル基、リン酸基、ジヒドロキシル基など、末端に水酸基を有するものを含む。
【0009】
前記アクリル系誘導体の共重合体は、共重合体マトリックスを構成し、前記電解質が前記共重合体マトリックスに取り込まれていることが好ましい。
また、前記溶質は、カチオンとしての金属塩を含んでいないことが好ましい。特に、前記溶質は、前記無機酸および前記有機酸のアンモニウム塩、アミン塩およびアミジン塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩を具備することが好ましい。
【0010】
前記単官能モノマー群は、後述の式(1)〜式(3)で表されるアクリル系誘導体からなり、前記多官能モノマー群は、後述の式(4)〜式(9)で表されるアクリル系誘導体からなる。
さらに、前記第1モノマーと前記第2モノマーとの重量比が、100:3〜3:100の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは100:10〜10:100の範囲である。
また、前記溶質と前記アクリル系誘導体の共重合体の合計重量中、同共重合体の含有量が5〜50wt%の範囲であることが好ましい。
【0011】
本発明の電解コンデンサは、陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に挟持され電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体を含むセパレータとを具備しており、前記電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体は、電解質と、アクリル系誘導体の共重合体を含むアクリル系高分子とを具備し、前記電解質は、極性溶媒と、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩の少なくとも1つからなる溶質とを具備し、前記共重合体は、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第1モノマーと、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第2モノマーとの重合体となるように構成されている。
また、前記セパレータの材料は、多孔質樹脂フィルムまたは不織布であることが好ましい。
さらに、前記セパレータの空孔率は、10〜90%の範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明の電解コンデンサの製造方法は、形成工程と作製工程と硬化工程とを具備する。
形成工程では、陽極箔と陰極箔とその間に挟持されたセパレータを具備するコンデンサ前駆体を形成する。作製工程では、前記コンデンサ前駆体に高分子電解質複合体原液を含浸させて電解コンデンサ原素子を作製する。硬化工程では、前記電解コンデンサ原素子の中の前記高分子電解質複合体原液を硬化する。
前記高分子電解質複合体原液は、電解質溶液と第1モノマーと第2モノマーとを具備する混合液である。電解質溶液は、極性溶媒と溶質とを具備している。溶質は、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩の少なくとも1つからなる。第1モノマーは、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる。第2モノマーは、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる。
前記硬化工程により前記第1モノマーと前記第2モノマーとが共重合して共重合マトリックスが形成されるとともに、前記電解質溶液が実質的にゲル状の電解コンデンサ駆動用電解質となって前記共重合体マトリックスの中に取り込まれる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明するとともに、実施例を用いて、より具体的に説明するが、本発明はこれら説明した内容のみに限定されるものではない。
図1は、本発明の一実施形態による電解コンデンサの主要な構成要素を示す斜視図である。図1に示すように、例えばアルミニウムからなる陽極としての陽極箔1と、同じく例えばアルミニウムからなる陰極としての陰極箔2とで、後述する高分子電解質複合体を含有するセパレータ3a、3bを挟持させて対向するように巻き取ったものが、コンデンサ素子の基本構成である。陽極箔1と陰極箔2のそれぞれには、引き出しリード4a、4bが接続されている。
【0014】
このコンデンサ素子の製造方法を具体的に説明する。
まず、陽極箔1と陰極箔2との間にセパレータ3a、3bを挟持させて対向するように巻き取ることによりコンデンサ前駆体を形成する。このコンデンサ前駆体に、後述する電解質溶液と液状の高分子材料を具備する高分子電解質複合体用原液を含浸させることにより、電解コンデンサ原素子を作製する。
その後、図示していないが、例えばアルミニウム製のケースの中に、前記電解コンデンサ原素子を封入し、その後、ゴムあるいはフェノール樹脂などの封止材で前記ケースを封止する。その封止工程の前後に、加熱などにより、前記高分子電解質複合体用原液を硬化させる。これらの工程により、本発明の実施形態としての電解コンデンサが製造される。
さて、前記電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体原液は、電解質溶液と、後述する液状の高分子材料との混合液である。前記硬化工程により、前記高分子材料が硬化して、高分子マトリックスが形成されるとともに、前記電解質溶液がゲル状の電解質となって、前記高分子マトリックスの中に取り込まれる。
【0015】
さて、本発明の最大のポイントである高分子電解質複合体、すなわち高分子と電解質とが複合したものの実施形態について、以下に詳述する。
本発明の電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体は、電解質と、アクリル系誘導体の共重合体を含むアクリル系高分子とからなる複合体である。
ここで、本発明において、アクリル系誘導体とは次式:
H2C=C(R)C(=O)−
(ただし、RはHまたは炭素数1〜5のアルキル基を示す。)
で示される基を有する化合物の誘導体である。
【0016】
前記電解質は極性溶媒と、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1つ以上の溶質とからなる。前記共重合体は、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第1モノマーと、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第2モノマーとの重合体である。
【0017】
前記単官能モノマー群としては、以下に示す式(1)〜式(3)で表されるアクリル系誘導体群、前記多官能モノマー群としては、式(4)〜式(9)で表されるアクリル系誘導体群を用いることが適している。但し、AO 1 がオキシエチレン基であり、かつnが1である単官能単量体(1)は、多官能単量体(7)又は多官能単量体(8)のみと重合するものとする。
【0018】
【化10】
【0019】
〔式中、R1はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を示す。AO1はオキシエチレン基、オキシエチレン基とオキシプロピレン基との共重合体であるポリオキシアルキレン基またはオキシエチレン基とオキシテトラメチレン基との共重合体であるポリオキシアルキレン基を示す。nは1〜200である。〕
【0020】
【化11】
【0022】
【化12】
【0024】
【化13】
【0025】
〔式中、R3はHまたは炭素数1〜3のアルキル基を示す。AO2はオキシエチレン基、オキシエチレンとオキシプロピレンとの共重合体であるポリオキシアルキレン基またはオキシエチレン基とオキシブチレン基との共重合体であるポリオキシアルキレン基を示す。mは1〜200である。〕
【0026】
【化14】
【0028】
【化15】
【0030】
【化16】
【0039】
【化17】
【0043】
【化18】
【0044】
〔式中、lは1または2を示す。〕
【0045】
これら式(1)〜式(3)の単官能モノマーは、末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有している。ここで、水酸基という表現は、狭義の水酸基だけではなく、カルボキシル基、リン酸基、ジヒドロキシル基など、末端に水酸基を有するものを含む意味で使用している。また式(4)〜式(9)の多官能モノマーは、重合性の不飽和二重結合を複数有している。
【0046】
前記第1モノマー(単官能モノマー)と、前記第2モノマー(多官能モノマー)とは、加熱するか、または紫外線(UV)もしくは電子線(EB)を照射することによりラジカル重合反応を起こさせ、架橋、共重合させて共重合体マトリックスを形成させることができる。それと同時に無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質と極性溶媒とを具備した電解質がその共重合体マトリックス中に取り込まれるようにすることができる。これにより、常温におけるイオン伝導度が高いものを得ることができる。
また、前記多官能モノマーのアクリル系誘導体を、ジアクリル酸エステルをもつ化合物とすることで、3次元架橋構造を形成することが容易となり、前記単官能モノマーのアクリル酸エステルのみの単独重合に比べ、共重合体マトリックスの骨格をより安定に維持することができる。その結果、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質を溶かし込んだ極性溶媒を具備した電解質を共重合体マトリックス中により安定に保持することができる。
【0047】
前記単官能モノマーのアクリル酸エステルのように分子の末端に親水基を有するアクリル酸エステルを用いることで、溶媒との親和性が向上し、架橋してできたマトリックス内に無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質を溶かし込んだ極性溶媒を取り込みやすくするものである。
また、前記多官能モノマーのアクリル系誘導体のように官能基を有した架橋構造、または多鎖型の架橋構造を有することで溶媒との親和性および架橋密度を上げることができ、電解質の含有量を向上することができる。
また、リン酸基を有する架橋構造のアクリル系誘導体を用いることで、電解コンデンサの陽極箔および陰極箔への共重合マトリックスの吸着を促し、アクリル系誘導体の共重合体マトリックスを含む駆動用電解質の密着性を高め、箔との接触抵抗を低減できるものである。これにより、更に高いイオン伝導度を実現でき、かつ共重合マトリックスが物理的極間距離を維持するため、電解コンデンサに適用した時ショートしにくいという優れた特性を示すものである。
【0048】
なお、式(1)で表される構造において、AO1はオキシエチレン基(以下、EOと称す)とオキシプロピレン基(以下、POと称す)、オキシブチレン基(以下、BOと称す)又はオキシテトラメチレン基(以下、TMOと称す)との共重合体である。また、式(4)で表される構造において、AO2はEOとPO又はBOとの共重合体である。すなわち、架橋物としてのポリオキシアルキレン基のマトリックスが形成されれば良い。この中で、同マトリックスに、より多くの電解液成分を取り込むという観点から、用いる電解液の成分中の極性溶媒あるいは溶質の種類に応じて、同電解液成分と同マトリックスとの親和性が高くなるように重合対象のオキシアルキレン基を選択すれば良い。また、2種以上のオキシアルキレン基を含むポリオキシアルキレン基は、ブロック状に付加したもの、ランダム状に付加したものがあり、特に限定するものではない。
【0049】
また、共重合マトリックス中に無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩のいずれか1種以上の溶質を溶かし込んだ極性溶媒を含有した駆動用電解質の状態は、基本的には実質的にゲル状となる。ここで実質的にゲル状という意味は、少なくとも相当部分がゲルになっているという意味であり、一部は固体あるいは高粘性液体等の状態になっていることも可能であり、全体が完全にゲル状になっているものに限定されるものではない。
すなわち、本実施形態においては、実質的にゲル状の電解質が、基本的に高分子、すなわち共重合マトリックスにより保持されるものである。したがって、電解コンデンサを作製する際に用いるセパレータは、電解液などの自己保持機能を有しない電解質を、直接保持する機能を有する必要がない。したがって、セパレータに求められる機能は、基本的に、陽極と陰極とを隔離する機能が主である。つまり、セパレータの材料としては、従来電解液を保持するために通常用いられた紙あるいは不織布に限定する必要はなく、もっと坪量の小さい、すなわち抵抗の小さい材料を用いることができる。したがって、本実施形態の高分子電解質複合体−セパレータ構成は、電解質だけの抵抗を考えれば、従来の電解液−セパレータ構成における電解液の場合の方がイオン伝導性が高く抵抗が低いが、セパレータを含めて考えれば、全体としての抵抗を小さくすることができる。またさらに、従来のポリピロールなどの固体電解質の場合と比較すると、電解質は実質的にゲル状であるため、陽極酸化皮膜の修復のために、従来の固体電解質の場合よりも高い化成電圧を印加することができる。
【0050】
上記極性溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン、水、ポリオキシアルキレンポリオール類、アミド類、アルコール類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類、カーボネート類、ラクトン類、イミダゾリジノン類、ピロリドン類のうちの1種あるいは2種以上を併用して極性溶媒として用いることができる。
上記の溶媒のうち「類」として記載したものの具体例を以下記載する。
ポリオキシアルキレンポリオール類としては、分子量200以下のポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリオキシエチレン・オキシプロピレングリコールならびに、これら2種以上の併用等がある。
アミド類としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン等がある。
【0051】
アルコール類としては、メタノール、エタノール等がある。
エーテル類としては、メチラール、1,2−ジメトキシタエン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン等がある。
ニトリル類としては、アセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等がある。
フラン類としては、2,5−ジメトキシテトラヒドロフラン等がある。
スルホラン類としては、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等がある。
【0052】
カーボネート類としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、スチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、またはメチルエチルカーボネート等がある。
ラクトン類には、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、3−メチル−1,3−オキサジリジン−2−オン、3−エチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン等がある。
イミダゾリジノン類としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等がある。
【0053】
上記の極性溶媒のうちでは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、水、ラクトン類、アルコール類、カーボネート類、エーテル類、ニトリル類およびフラン類が好ましい。
また、上記無機酸および有機酸としては、ポリカルボン酸類(2〜4価)、モノカルボン酸類を用いることができ、さらに、ほう酸、りん酸、けいタングステン酸、けいモリブデン酸、りんタングステン酸、りんモリブデン酸等も用いることができる。
そのうち、ポリカルボン酸類としては、脂肪族ポリカルボン酸類、芳香族ポリカルボン酸類、脂環式ポリカルボン酸類、これらのポリカルボン酸類のアルキル(炭素数1〜3)もしくはニトロ置換体、例えばシトラコン酸、ジメチルマレイン酸、ニトロフタル酸(3−ニトロフタル酸、4−ニトロフタル酸)を用いることができ、さらにチオプロピオン酸などの硫黄含有ポリカルボン酸類を用いることができる。
【0054】
上記脂肪族ポリカルボン酸類としては:飽和ポリカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸、1,7−オクタンジカルボン酸、7−メチル−7−メトキシカルボニル−1,9−デカンジカルボン酸、7,9−ジメチル−7,9−ジメトキシカルボニル−1,11−ドデカンジカルボン酸、7,8−ジメチル−7,8−ジメトキシカルボニル−1,14−テトラデカンジカルボン酸;および不飽和ポリカルボン酸、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸を用いることができる。
上記芳香族ポリカルボン酸類としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸を用いることができる。
【0055】
上記脂環式ポリカルボン酸類としては、例えばテトラヒドロフタル酸(シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸等)、ヘキサヒドロフタル酸を用いることができる。
上記のモノカルボン酸類には、脂肪族モノカルボン酸類(炭素数1〜30)、芳香族モノカルボン酸類、オキシカルボン酸類を用いることができる。
上記脂肪族モノカルボン酸としては:飽和モノカルボン酸、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リンゴ酸、酒石酸;不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸を用いることができる。
上記芳香族モノカルボン酸類としては、例えば安息香酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、ケイ皮酸,ナフトエ酸を用いることができる。
上記オキシカルボン酸類としては、例えばサリチル酸、マンデル酸、レゾルシン酸等を用いることができる。
【0056】
次に、上記無機酸もしくは有機酸の塩としては、アンモニウム塩、アミン塩またはアミジン塩が適している。そのうち、アンモニウム塩についてはここでは例示を省略する。アミン塩を構成するアミンとしては、1級アミン(メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、エチレンジアミン等)、2級アミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、ジエタノールアミン等)、3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリフェニルアミン、トリエタノールアミン等)、4級アミン(テトラメチルアミン、テトラエチルアミン、テトラプロピルアミン等)を用いることができる。アミジン塩としては、アルキル置換アミジン基を有する化合物および同化合物の4級化物を用いることができる。例えば、炭素数1〜11のアルキル基またはアリールアルキル基で4級化されたイミダゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、脂環式アミジン化合物を用いることができる。
具体的には、アルキル置換アミジン基を有する化合物の4級化物には、1−メチル1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7、1−メチル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウム、1,2−ジメチル−3−エチル−イミダゾリニウム、1,3,4−トリメチル−2−エチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−ヘプチルイミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−(−3’ヘプチル)イミダゾリニウム、1,3−ジメチル−2−ドデシルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチル−1,4,5,6−テトラヒドロピリミジウム、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−メチル−3−エチル−イミダゾリニウム、1,3−ジメチルベンゾイミダゾリニウムなどがあり、これらから選ばれる1種以上を用いることができる。これらの材料においては、カチオンとして金属塩を用いていないために、電解コンデンサに適用した場合、耐ショート性を向上させつつ、すなわち、ショートが起きにくくしつつ、高いイオン伝導度を引き出すことができるという作用効果が得られる。
【0057】
次に、前記第1モノマーと前記第2モノマーの混合比は、重量比で100:3〜3:100であることが好ましい。この重量比の上限・下限を越えると共重合マトリックスを形成することが困難になる。さらに、好ましくは100:10〜10:100である。これにより、マトリックスの骨格維持がより安定するものであり、その効果をより効率良く引き出すことができるという作用効果が得られる。
さらに、前記溶質と前記アクリル系誘導体の共重合体とを合わせた重量中、前記アクリル系誘導体の共重合体の含有量が5〜50wt%であることが好ましい。同共重合体の含有量が5wt%より少ないと架橋物のマトリックスを形成できず、硬化ができない。また、含有量が50wt%以上になると、マトリックス中に取り込める電解液の絶対量が減るため、イオン伝導度が大幅に低下し十分な特性を引き出すことができないためである。
【0058】
上記のような本実施形態に基づく高分子電解質複合体を電解コンデンサ駆動用要素として含むセパレータを、陽極箔と陰極箔に挟持させて作製した電解コンデンサは、高温度の環境下でも長時間安定した性能を維持することができる。同高分子電解質複合体は、例えばアルミニウムあるいはカーボンの電極箔と反応することもなく、成形性ならびに長寿命化の点で優れたコンデンサを提供することができる。
本実施形態の電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体を用いた場合、セパレータに高分子マトリックスが網目状に張り巡らされるため、コンデンサの電極間の距離を物理的に保つことができる。また、そのために、耐圧の安定性が向上し、従来では適用できなかった中高圧のコンデンサにも坪量の低いセパレータの使用を可能にし、良好な特性の引き出しが可能となる。
【0059】
ここで、セパレータとして用いることができる材料の例としては、マニラ紙、クラフト紙、Hemp紙、不織布、およびこれらの混抄材料がある。さらに好ましいセパレータ材料は、多孔性樹脂フィルムおよび不織布である。それは、空孔率を制御しやすいためである。
前記セパレータの空孔率は、10〜90%の範囲であることが好ましい。特に、セパレータの材料として多孔質樹脂フィルムまたは不織布を用いた場合にその効果が顕著である。すなわち、従来の電解液またはイオン伝導性高分子では、10〜90%の範囲内で、多孔質樹脂フィルムもしくは不織布の種類によってはショートを引き起こしていたのに対し、本実施形態のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体を用いた場合、多孔質樹脂フィルムあるいは不織布に高分子マトリックスが網目状に張り巡らされ、その中に溶質の溶け込んだ極性溶媒のゲルを含有するため、電解コンデンサの電極間の距離を物理的に保つことができる。そのため耐圧を安定に保つことができるとともに、良好な特性の引き出しを可能にすることができる。なお、セパレータの空孔率が前記好ましい範囲以外の場合は、ショートを引き起こしやすくなったり、誘電損失(tanδ)が大きくなり過ぎたりする。
特に、これらの材料を使用することにより、コンデンサ内のセパレータの占める抵抗分を大きく下げることが可能となるため、低ESR(等価直列抵抗)化、低インピーダンス化に効果の大きいものである。
【0060】
なお、前記多孔質樹脂フィルムまたは不織布としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、塩化ビニル樹脂、ビニルカルバゾール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、アニリン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、キシレン樹脂、シリコン樹脂あるいはフラン樹脂を用いることができる。
以下に、実施例を用いて本実施形態を具現した例を説明するとともに、それらと比較するために、比較例をいくつか示して具体的に説明する。
【0061】
【実施例】
以下、具体的な実施例について詳細に説明をする。
(実施例1〜6、参考例1〜4および比較例1〜2)
実施例1〜6の高分子電解質複合体、参考例1〜4の高分子電解質複合体および比較のため比較例1〜2の固体電解質を作製した。すなわち合計12種類の電解質を作製した。それらの構成材料、組成および特性の測定結果を表1に示す。なお、表1において、式(1)と式(4)のアクリル系誘導体としては、表2および表3に示すものを用いた。実施例1〜6、参考例1〜4の高分子電解質複合体および比較例1と2の各電解質は次のようにして作製した。
【0062】
表1に示す実施例1の4つの構成材料、すなわち極性溶媒としてのエチレングリコールと、溶質としてのマレイン酸2アンモニウムと、第1モノマーとして式(2)においてR 1 =メチル基、n=1の化合物と、第2モノマーとして式(5)においてR 3 =メチル基の化合物とを表1に示す配合比(組成)で混合し、電解質原液を作製した。この電解質原液20gをシャーレに入れ、蓋をした後、所定の温度と時間で、加熱し硬化させることにより、実施例1の電解質を作製した。なお、加熱硬化後の電解質中の水分が2wt%になるように調整した。このようにして作製した実施例1の電解質のイオン伝導度をインピーダンスアナライザーにより測定したところ3.2mS/cmであった。
【0063】
実施例1の電解質の火花発生電圧を次のようにして測定した。すなわち、まず、上記と同様にして電解質原液を所定量作製し、密閉瓶に入れた。その電解質原液の中に、2cm×5cmの寸法で、所定厚さのアルミニウム陽極箔とアルミニウム陰極箔とを、1cm間隔を保たせて浸漬し、両電極箔を固定した状態で前記密閉瓶を封止した。この密閉瓶を所定の温度と時間で加熱することにより、前記電解質原液を硬化させた。その状態で、両電極箔の間に電圧を印加し、徐々にその電圧を高めていくことにより、火花発生電圧、すなわち両電極間に火花が発生し始める電圧を測定した。なお、前記陽極箔は、アルミニウム箔に、酸性水溶液溶液中でエッチング処理をした後、所定の電圧印加の下で、ほう酸水溶液中で陽極酸化させ、表裏両面上に所定厚さの酸化アルミニウム製誘電体皮膜を形成させることにより作製した。その測定の結果、火花発生電圧は458Vであった。
【0064】
実施例1の電解質作製方法と同じ方法で、実施例2〜6、参考例1〜4および比較例1と2の電解質を作製した。すなわち、表1に示す構成材料と組成とを有する各電解質原液20gを上記と同様にして加熱硬化させて各電解質を作製するとともに、加熱硬化後の各電解質中の水分が2wt%になるように調整した。得られた各電解質のイオン伝導度をインピーダンスアナライザーで測定した。さらに、得られた各電解質の火花発生電圧を、上記と同じ密閉瓶を用いる火花発生電圧測定方法で測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
表1に示された結果から、実施例1〜6の電解質は、比較例1および2と比較して、イオン伝導度は多少低下するものもあるが、火花発生電圧が向上していることがわかる。すなわち、ショートをし難くするというショート性改善効果が認められる。
【0069】
〔電解コンデンサの特性〕
表1に示す実施例1〜3および5並びに比較例1と2の構成材料を用いてアルミニウム電解コンデンサを各電解質毎に20個作製し、初期特性を測定するとともに寿命試験を行った。まず実施例1と同様にして、実施例1の電解質原液を調製した。一方、100μm厚のアルミニウム箔を用意し、酸性水溶液中でエッチング処理をした後、600Vの電圧印加の下で、ほう酸水溶液中で陽極酸化させることにより、同アルミニウム箔の表裏両面上に酸化アルミニウムの誘電体酸化皮膜を形成した。この工程により、所定の厚さの誘電体皮膜を有する陽極箔を形成した。この陽極箔と22μm厚のアルミニウム製の陰極箔との間に、セパレータとしての60μm厚のクラフト紙(坪量が35g/m2)を挟持させて、両電極箔が対向するように所定回巻き取るとともに、前記陽極箔と前記陰極箔とにそれぞれリードを電気的に接続した。こうしてコンデンサ前駆体を作製した。
【0070】
この電解コンデンサ前駆体に、上記で得られた実施例1の電解質原液の所定量を含浸して、電解コンデンサ原素子を作製した。この原素子を所定のアルミニウム製のケースに入れ、封口部材で同ケースを封止した。その後、この原素子を有するケースを加熱し、原素子内部の電解質原液を硬化させた。この作製方法で、実施例1の電解質を含む電解コンデンサを20個作製した。このとき、20個の電解コンデンサのすべてが定格400WV470μFになるように、上記箔−セパレータ巻き取り回数等を調整した。得られた電解コンデンサを425Vの電圧印加下で1時間エージングした。
また、実施例1と同様にして、実施例2、3、5および比較例1〜2の電解質原液を調製し、上記の電解コンデンサ作製方法と同じ方法で、それぞれ20個の電解コンデンサを作製した。
【0071】
実施例1〜3、5及び比較例1〜2の電解コンデンサの初期特性および105℃リップル重畳DC負荷試験による5000時間の時点における特性を測定した。ここで、tanδ(誘電損失)、LC(漏れ電流)および容量は、日本工業規格のJIS−C−5102に基づく測定法で測定した。また、リップル負荷試験の方法としては、DC電圧に60Hzのリップル電流を重畳させて、定格電圧になるように前記DC電圧を設定して、所定の温度(ここでは105℃)で特性の変化を調べる方法を用いた。
結果を表4に示す。表4に示す数値は20個の電解コンデンサの平均値である。例えば、実施例1の20個の電解コンデンサは、初期のtanδ(誘電損失)が4.5%、LC(漏れ電流)が25μA、105℃リップル負荷試験5000時間の時点における、△C(容量変化率)が−0.8%、tanδが7.2%、LCが13μAで、外観異常は20個のどれにも認められなかった。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示す結果から、固体電解質を用いた比較例1および2は、それぞれ20個のすべてについて、エージング中にショートが発生し、正常な電解コンデンサが作製できなかった。これに対し、実施例1〜3、5の電解コンデンサは、初期特性が安定し、105℃リップル負荷試験5000時間後でもショートかつ開弁等の不具合も発生していないことがわかる。これにより、本実施形態のアクリル系誘導体からなる共重合体マトリックスを含む電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体が耐熱性に優れていることが判る。
【0074】
(実施例7〜9、参考例5〜10および比較例3〜5)
表5に示す実施例7〜9の高分子電解質複合体、参考例5〜10の高分子電解質複合体、比較のため比較例3の固体電解質ならびに比較例4および比較例5の電解液を調製した。すなわち、合計12種類の電解質を作製した。それらの構成材料、組成および特性の測定結果を表5に示す。なお、表5に示すように、実施例1〜6と同様に、式(1)と式(4)のアクリル系誘導体の例として表2および表3に示したものを本実施例でも用いた。
【0075】
実施例7〜9、参考例5〜10および比較例3〜5の各電解質を、実施例1と同様に、表5に示す構成材料を表5に示す配合比で混合して電解質原液を調製し、この電解質原液20gをシャーレに入れて蓋をした後、所定の温度と時間で硬化させることにより作製した。なお、実施例7〜9、参考例5〜6および比較例3は、実施例1と同様に加熱硬化後の電解質中の水分を2wt%に調整した。一方、ほう酸系材料を含む参考例7〜10および比較例4と5は、電解質中の水分を25wt%に調整した。こうして作製した12個の電解質のイオン伝導度および火花発生電圧を、実施例1と同じ方法で測定した。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】
【0077】
表5に示す結果から、実施例7〜9の電解質は、比較例3、4および5と比較して、同一溶媒および同一溶質を用いた比較例と比べて、火花発生電圧が大幅に向上していることがわかる。
【0078】
〔電解コンデンサの特性〕
実施例7〜8、参考例7〜10および比較例3〜5の電解質を含むアルミニウム電解コンデンサを、それぞれ20個作製し、初期特性の測定および寿命試験を行った。
表6に示す実施例7〜8および比較例3の電解質を含む各電解コンデンサは、セパレータとしてクラフト紙に代えてマニラ紙を用いてその坪量を変更し、陽極酸化のための印加電圧を600Vから300Vに変更し、かつそれに対応して、電解コンデンサの定格を400WV470μFから160WV330μFに変更する以外は、実施例1の電解質を含むコンデンサの作製方法と同様にして作製した。坪量とは、密度と厚みの積である。
【0079】
表7に示す参考例7〜10および比較例4〜5の電解質を含む各電解コンデンサは、セパレータとしてクラフト紙に代えて40μm厚で空孔率および種類の異なる多孔質樹脂フィルムを用い、かつ、各電解コンデンの定格を400WV470μFから400WV330μFに変更する以外は、実施例1の電解質を含むコンデンサの作製方法と同様にして作製した。空孔率は〔1−(セパレータの密度/同セパレータ材料の真密度)〕×100(%)の値で定義している。
【0080】
こうして作製した各電解コンデンサの初期特性およびDC負荷試験による5000時間の時点における特性を測定した。ここで、tanδ(誘電損失)、LC(漏れ電流)および容量は、日本工業規格のJIS−C−5102に基づく測定法で測定した。なお、表6の場合のDC負荷試験は125℃の温度に設定し、表7の場合のDC負荷試験は95℃の温度に設定して、上記105℃のリップル重畳DC負荷試験と同様な方法で、ただしリップルを重畳せず定格のDC電圧を印加する負荷試験を実施した。結果を表6および表7に示す。表6および表7に示す数値は各20個の平均値である。表7に示すように、例えば参考例7の電解質を含む電解コンデンサは、空孔率40%のポリエチレン樹脂フィルムのセパレータを用いた場合、初期のtanδ(誘電損失)が4.1%、LC(漏れ電流)が24μAで、95℃DC負荷試験5000時間の時点において、△C(容量変化率)が−0.6%、tanδが6.7%、LCが9μAで、外観異常は20個のどれにも認められなかった。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
表6および表7の結果から、実施例7〜8および参考例7〜10のアルミ電解コンデンサは、各比較例と比べて電解コンデンサ駆動用電解質の電気的な特性は同等であったが、高温中でのDC負荷試験では、坪量の小さいセパレータと固体電解質を組み合わせた比較例3および空孔率25%の多孔質樹脂セパレータと電解液を組み合わせた比較例4は全数ショートが発生したのに対し、各実施例のものは非常に安定であり、歴然とした差があることが判る。また、空孔率25%のクラフト紙セパレータと電解液を組み合わせた比較例5はショートこそ発生しないが負荷試験前後の特性変化率が著しく大きくなっているのに対し、本実施形態の各実施例は試験後も安定な特性を保っているのが示される。
【0084】
さらに、表7から、多孔質樹脂フィルムを用いたセパレータの空孔率が10〜90%の範囲では、各特性が好ましい数値を示すが、10%未満あるいは90%超のものでは、電解コンデンサがショートしたり、あるいはtanδの数値が大きくなり過ぎることがわかる。なお、ここでは具体的には示していないが、多孔質樹脂フィルムの替わりに不織布を用いた場合でも、多孔質樹脂フィルムの場合と同様に、空孔率が10〜90%の範囲で、各特性が好ましい数値を示すことを確認した。
【0085】
これらの結果より、式(1)〜式(3)で表されるアクリル系誘導体の末端に水酸基を有する化合物を少なくとも1つ有する第1モノマーと、式(4)〜式(9)で表されるアクリル系誘導体化合物を少なくとも1つ有する第2モノマーとからなる共重合体マトリックスを含む駆動用電解質は、従来の電解液に比べてイオン伝導度は低下するものの、坪量の低いセパレータや空孔率の高いセパレータを使用することにより、tanδ、ESRおよびインピーダンスを十分に低くすることができるものである。
【0086】
また、表6および表7に示した効果をより明確なものにするために、表7の参考例7(空孔率40%のポリエチレン樹脂製セパレータを使用)と、比較例5のアルミ電解コンデンサについて、上記の試験終了後、分解し、陰極箔の容量と外観を調査した。その結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
表8から明らかなように、比較例5の試験後の陰極箔においては、初期容量比が1/2以下まで減少し、かつ表面が黒色に変色しているのに対して、参考例7の陰極箔では、容量変化はほとんど観察されず、変色も見られなかった。
【0089】
以上のように、本実施形態に基づく電解コンデンサ駆動用電解質は、高温環境下においても陰極箔表面を保護できる特性を有することが確認され、高温で長寿命の安定性を有するアルミ電解コンデンサを供給することができる。
【0090】
最後に、本実施形態の駆動用電解質(表4の実施例1)と比較例(比較例4)の電解コンデンサにおける電極箔への化成能力を比較した。化成能力の比較のためには、各電解コンデンサの陽陰極間に2mA/10cm2の定電流の電圧を印加した。その電圧印加により陽極箔における化成が始まり、その化成が続いている間は陽陰極間の電圧、すなわち修復電圧が上昇し、誘電体酸化皮膜の耐圧まで修復電圧は上昇した。その後、火花が発生し始めるとその電圧はふらつき始めた。その結果を図2に示す。本実施形態の駆動用電解質を用いた場合、比較例と比べて100V以上の高い修復電圧、すなわち高い化成能力を有することがわかる。これはより高温環境下でも耐ショート性の向上を図ることができることを意味し、坪量の低いセパレータや多孔質樹脂フィルムを用いても優れた寿命特性を実現できることがわかる。
なお、図2において、参考例11〜13の駆動用電解質は、次の組成の構成材料を用い、実施例と同様にして作製したものである。
【表9】
【0091】
なお、前記実施例では示さなかったが、定格4〜100WVの電解コンデンサに前記の本実施形態の駆動用電解質を用いた場合でも、前記の各種実施例で得られた効果と同様の効果を期待することができることも確認した。
【0092】
【発明の効果】
以上のように本発明は、電解質と、アクリル系誘導体の共重合体を含むアクリル系高分子とを具備し、前記電解質は極性溶媒と、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩の少なくとも1つからなる溶質とを具備し、前記共重合体は、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第1モノマーと、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能モノマー群の中の少なくとも1つからなる第2モノマーとの重合体である共重合体マトリックスを含むコンデンサ駆動用電解質を用いた構成とすることにより、従来の駆動用電解液と比べて漏液や耐熱性の面で良好な特性を有し、また従来の駆動用イオン伝導性高分子と比べて金属塩を用いないことなどにより耐ショート性の大幅な向上を示すものであり、工業的価値の大なるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態に基づく電解コンデンサの主要な構成要素を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施例および一比較例に基づく電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体を用いた場合の電極箔を修復するための化成能力の相違を示すグラフである。
【符号の説明】
1 陽極箔
2 陰極箔
3a、3b セパレータ
4a、4b リード
Claims (9)
- 電解質と、アクリル系誘導体の共重合体を含むアクリル系高分子とを具備し、
前記電解質は極性溶媒と、無機酸もしくは有機酸またはこれらの塩の少なくとも1つからなる溶質とからなり、
前記共重合体は、アクリル系誘導体で末端に水酸基を有し重合性の不飽和二重結合を1つ有する単官能単量体群の中の少なくとも1つからなる第1単量体と、アクリル系誘導体で重合性の不飽和二重結合を複数有する多官能単量体群の中の少なくとも1つからなる第2単量体との重合体であり、
前記単官能単量体群が以下の式(1)〜式(3)で表されるアクリル系誘導体からなり、かつ前記多官能単量体群が以下の式(4)〜式(9)で表されるアクリル系誘導体からなり、
AO 1 がオキシエチレン基であり、かつnが1である単官能単量体(1)は、多官能単量体(7)又は多官能単量体(8)のみと重合するコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 前記アクリル系誘導体の共重合体が共重合体マトリックスを構成し、前記電解質が前記共重合体マトリックスに取り込まれている請求項1記載のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 前記溶質が、カチオンとしての金属塩を含んでいない請求項1記載のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 前記溶質が、前記無機酸および前記有機酸のアンモニウム塩、アミン塩およびアミジン塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの塩である請求項3記載のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 前記第1単量体と前記第2単量体との重量比が、100:3〜3:100の範囲である請求項1記載のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 前記溶質と前記アクリル系誘導体の共重合体の合計重量中、同共重合体の含有量が5〜50wt%の範囲である請求項1記載のコンデンサ駆動用高分子電解質複合体。
- 陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に挟持され、請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用高分子電解質複合体を含むセパレータとを具備した電解コンデンサ。
- 前記セパレータが多孔質樹脂フィルムまたは不織布である請求項7記載の電解コンデンサ。
- 前記セパレータの空孔率が10〜90%の範囲である請求項7記載の電解コンデンサ。
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