従って、本発明の目的は、内燃機関が定常運転状態にある場合において燃料の性状を精度良く取得できる内燃機関の燃料性状取得装置を提供することにある。
近年、燃焼効率の向上、低燃費化、機関始動時の始動性の確保等のために、吸気弁よりも上流の吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁(以下、「ポート噴射弁」と称呼する。)と、燃焼室内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁(以下、「筒内噴射弁」と称呼する。)とを共に備えた内燃機関が開発されてきている(例えば、特開2004−60474号等を参照。)。
以下、このように、気筒毎に筒内噴射弁とポート噴射弁の2つの燃料噴射弁を備えたシステムを「デュアルインジェクションシステム」と呼ぶ。また、筒内噴射弁から噴射される燃料量を「筒内噴射量」と呼び、ポート噴射弁から噴射される燃料量を「ポート噴射量」と呼ぶことにする。
本発明に係る燃料性状取得装置は、係るデュアルインジェクションシステム、即ち、吸気弁よりも上流の吸気通路に燃料を噴射するポート噴射手段(ポート噴射弁)と、燃焼室内に燃料を噴射する筒内噴射手段(筒内噴射弁)とを備え、且つ、排気通路に配設された排ガスの空燃比を検出する空燃比センサを備えた内燃機関に適用される。
上記本発明に係る燃料性状取得装置は、噴射割合決定手段と、噴射量決定手段と、燃料性状取得手段とを備える。以下、各手段の作用について順に説明する。
噴射割合決定手段は、ポート噴射量と筒内噴射量の和である総噴射量に対する筒内噴射量の割合である噴射割合を内燃機関の運転状態に基づいて決定する。ここにいう「運転状態」としては、例えば、機関の運転速度(エンジン回転速度)、燃焼室に吸入される空気量(筒内吸入空気量)、機関の冷却水の温度(冷却水温)等が挙げられる。これにより、後述する燃料性状取得条件が成立していない場合(通常の場合)において噴射割合が時々刻々と変化し得る機関の運転状態に応じた値に決定されていく。
噴射量決定手段は、前記噴射割合決定手段により決定される噴射割合に基づいてポート噴射量と筒内噴射量とを決定する。噴射量決定手段は、例えば、ポート噴射量と筒内噴射量の和が、機関の運転状態(筒内吸入空気量)と目標空燃比とに基づいて取得され得る同機関に供給される混合気の空燃比を同目標空燃比に一致させるために噴射すべき燃料量(後述する基本燃料噴射量)と一致するように前記決定された噴射割合に基づいて同ポート噴射量と同筒内噴射量とを決定する。
また、噴射量決定手段は、空燃比センサの出力に基づいて空燃比フィードバック制御が実行される場合、同空燃比フィードバック制御による燃料噴射量の補正を更に考慮してポート噴射量と筒内噴射量とを決定する。更には、噴射量決定手段は、ポート噴射により吸気通路構成部材に付着する燃料量(燃料付着量)が考慮される場合、同燃料付着量を更に考慮してポート噴射量を決定する。
この噴射量決定手段は、前記内燃機関が定常運転状態にあって且つ前記噴射割合が予め定められた第1の噴射割合に維持された状態から、前記総噴射量を変更することなく一定に維持しながら前記噴射割合を前記第1の噴射割合とは異なる予め定められた第2の噴射割合に変更・維持するように構成されている。より具体的には、噴射量決定手段は、所定の燃料性状取得条件の成立を条件に、前記噴射割合決定手段により決定される噴射割合にかかわらず、先ず、前記噴射割合が予め定められた第1の噴射割合に維持されるように前記ポート噴射量と前記筒内噴射量とを決定し、前記内燃機関が定常運転状態にあって且つ前記噴射割合が前記第1の噴射割合に維持された状態から、前記総噴射量を変更することなく一定に維持しながら前記噴射割合が前記第1の噴射割合とは異なる予め定められた第2の噴射割合に変更・維持されるように構成されている。
「燃料性状取得条件」は、例えば、暖機運転が完了した後(完全暖機後)において機関が定常運転状態にある場合(例えば、筒内吸入空気量の変動幅、機関の運転速度の変動幅等が所定の微小基準値未満である場合)に成立する。これによると、例えば、燃料性状取得条件が成立した場合、先ず、機関の運転状態にかかわらず、噴射割合が予め定められた第1の噴射割合(定数)に原則的に強制的に維持させられる。
続いて、内燃機関が定常運転状態にあって且つ噴射割合が第1の噴射割合に維持された状態にて、噴射割合が予め定められた第1の噴射割合とは異なる予め定められた第2の噴射割合(定数)に強制的に維持させられる。噴射量決定手段は、後述する燃料性状取得手段による燃料性状の取得が完了すると、再び、前記噴射割合決定手段により決定される運転状態に応じた噴射割合に基づいて、ポート噴射量と筒内噴射量とを決定していく。
燃料性状取得手段は、噴射割合が第2の噴射割合に変更された時点(以下、「噴射割合変更時点」とも称呼する。)以降における前記空燃比センサの出力に基づいて前記燃料の性状を取得する。以下、この燃料性状取得手段による燃料性状の取得原理について説明する。
一般に、燃料はその温度が高くなるほど蒸発し易くなる(従って、燃料付着が発生し難くなる)。また、温度に対する燃料の蒸留特性(蒸発率)は、同燃料の性状(重質度)に大きく依存し、燃料の重質度が高いほど同燃料は蒸発し難くなる(従って、燃料付着が発生し易くなる)。
従って、例えば、完全暖機後であって比較的温度の高い筒内に燃料が噴射される場合、一般に、その燃料の重質度にかかわらず燃料付着が殆ど発生しない。一方、完全暖機後であっても比較的温度の低い吸気通路に燃料が噴射される場合、燃料付着が発生し得、その燃料の重質度が高いほど吸気通路構成部材への燃料付着量が大きくなる。
換言すれば、機関が或る(定常)運転状態にある場合における吸気通路構成部材への燃料付着量は燃料の重質度に依存し、同重質度が高いほど大きくなる。更には、機関が定常運転状態にある場合における吸気通路構成部材への燃料付着量はポート噴射量に依存し、ポート噴射量が大きいほど大きくなる。
以上のことを踏まえた上で、機関が或る定常運転状態にあって(例えば、筒内吸入空気量及びエンジン回転速度(従って、基本燃料噴射量)、冷却水温等が略一定に維持されていて)噴射割合が予め定められた第1の噴射割合に維持された状態から、ポート噴射量と筒内噴射量の和(以下、「総噴射量」と称呼する。)を変更することなく噴射割合が同第1の噴射割合とは異なる予め定められた第2の噴射割合に変更・維持される場合を考える。
この場合、噴射割合が第1の噴射割合から第2の噴射割合に変更されることでポート噴射量が第1の噴射割合に対応する量から第2の噴射割合に対応する量に変化する。この結果、吸気通路構成部材への燃料付着量も、変化前のポート噴射量に対応する量から変化後のポート噴射量に対応する量まで変化する。この場合での燃料付着量の変化量は燃料の重質度に依存し、同重質度が高いほど大きくなる。
ここで、上述のように吸気通路構成部材への燃料付着量が変化している間、吸気ポートから筒内に流入する燃料量(以下、「筒内流入燃料量」と称呼する。即ち、筒内の燃焼に寄与し得る燃料量)は、ポート噴射量と異なる量となる。このことは、吸気通路構成部材への燃料付着量が変化している間、混合気の空燃比(従って、排気空燃比)が、同燃料付着量の変化量に応じた程度だけ乱れる(荒れる)ことを意味する。
他方、上述したように、燃料の重質度にかかわらず筒内噴射による燃料付着は殆ど発生しないから、筒内噴射量は、燃料の重質度にかかわらずその全量が燃焼に寄与し得る。従って、噴射割合が第1の噴射割合から第2の噴射割合に変更されることで筒内噴射量が変化しても、筒内噴射量の変化のみに起因して排気空燃比が乱れることはない。
以上のことから、機関が定常運転状態にあって噴射割合が第1の噴射割合に維持された状態から同噴射割合が第2の噴射割合に変更されると、その時点(噴射割合変更時点)以降、ポート噴射量の変化により発生する吸気通路構成部材への燃料付着量の一時的な変化に起因して、排気空燃比が同燃料付着量の変化量に応じた程度だけ乱れる。ここで、上述したように、この燃料付着量の変化量は燃料の重質度に依存する。即ち、排気空燃比が乱れる程度は、燃料の重質度により決定され得、同重質度が高いほど大きくなる。従って、この排気空燃比が乱れる程度を計測することで燃料の性状を取得することができる。
上記燃料性状取得手段は係る原理を利用している。即ち、予め、機関が定常運転状態にあって噴射割合が第1の噴射割合に維持された状態から同噴射割合が第2の噴射割合に変更された時点以降における排気空燃比の乱れる程度を計測する実験を機関の運転状態(筒内吸入空気量、エンジン回転速度、冷却水温等)、及び燃料の重質度を種々変更しながら繰り返し行っておくことにより、上記燃料性状取得手段は、機関が定常運転状態(例えば、筒内吸入空気量、エンジン回転速度、冷却水温等が略一定に維持されている状態)にある場合において、噴射噴射割合変更時点以降における空燃比センサの出力に基づいて燃料の重質度(従って、燃料の性状)を取得することができる。
具体的には、前記燃料性状取得手段は、噴射割合変更時点以降における空燃比センサの出力に基づいて燃料の性状に応じて変化する燃料性状指標値を取得し、同取得された燃料性状指標値と所定の燃料性状指標値基準値との比較結果に基づいて前記燃料の性状を取得するように構成される。
「燃料性状指標値」は、排気空燃比が乱れる程度を表す値であって燃料の性状に応じて変化する値である。燃料性状指標値の例については後述する。「燃料性状指標値基準値」は、性状が既知である燃料(例えば、重質成分のみからなる燃料(重質燃料)、或いは、軽質成分のみからなる燃料(軽質燃料))が使用された場合における燃料性状指標値であって予め実験等により取得された値である。係る燃料性状指標値基準値と現時点で取得された燃料性状指標値とを比較することにより現時点での燃料の性状を取得することができる。
このように、燃料性状指標値を取得し、同取得された燃料性状指標値と所定の燃料性状指標値基準値との比較結果に基づいて燃料の性状を取得する場合、本発明に係る燃料性状取得装置は、前記機関の運転状態と目標空燃比とに基づいて同機関に供給される混合気の空燃比を同目標空燃比に一致させるために噴射すべき燃料量である基本燃料噴射量を取得する基本燃料噴射量取得手段を備え、前記噴射量決定手段は、前記噴射割合が前記第1の噴射割合になるように前記ポート噴射量と前記筒内噴射量とが決定されている間、並びに同噴射割合が前記第2の噴射割合になるように同ポート噴射量と同筒内噴射量とが決定されている間、前記総噴射量が前記基本燃料噴射量と一致するように同ポート噴射量と同筒内噴射量とを決定するように構成されることが好適である。
基本燃料噴射量取得手段は、例えば、機関の運転状態(例えば、エンジン回転速度、吸気通路を通過する吸入空気流量等)と筒内吸入空気量との関係を規定するテーブルと、実際の機関の運転状態とに基づいて筒内吸入空気量を取得するとともに、同取得した筒内吸入空気量を目標空燃比で除することで基本燃料噴射量を取得する。
これによれば、噴射割合が第1の噴射割合に維持されている間、並びに同噴射割合が第2の噴射割合に維持されている間であって機関が定常運転状態に維持されている間(吸気通路構成部材への燃料付着量が一定となっている間)、基本燃料噴射量の燃料が燃焼に寄与し得、この結果、混合気の空燃比(従って、排気空燃比)が目標空燃比に収束し得る。
従って、吸気通路構成部材への燃料付着量が第1の噴射割合に対応する量で一定となっている噴射割合変更時点の直前での排気空燃比は、目標空燃比に収束し得る。更には、噴射割合変更時点以降における排気空燃比は、吸気通路構成部材への燃料付着量の変化による上記排気空燃比の乱れにより一時的に目標空燃比から偏移し、その後、同燃料付着量が第2の噴射割合に対応する量で一定となった時点以降において、再び、同目標空燃比に収束し得る。
従って、排気空燃比が乱れる程度を、目標空燃比という簡易、且つ明確な比較対象を利用して正確に取得することができる。この結果、排気空燃比が乱れる程度を表す値である「燃料性状指標値」が正確に取得され得るから、燃料の性状がより正確に取得され得る。
この場合における「燃料性状指標値」として、例えば、噴射割合変更時点以降、空燃比センサの出力に基づく排ガスの検出空燃比が目標空燃比に収束するまでの間における、同検出空燃比の同目標空燃比からの偏差に相当する値の時間積分値が使用され得る。この場合、係る時間積分値は、燃料の重質度が高いほど大きくなる。
また、「燃料性状指標値」として、噴射割合変更時点以降、空燃比センサの出力に基づく排ガスの検出空燃比が目標空燃比に収束するまでに要する時間が使用され得る。この場合、係る時間は、燃料の重質度が高いほど長くなる。
更には、「燃料性状指標値」として、噴射割合変更時点以降、空燃比センサの出力に基づく排ガスの検出空燃比が目標空燃比に収束するまでの間における、同検出空燃比の同目標空燃比からの偏差の最大値が使用され得る。この場合、係る偏差の最大値は、燃料の重質度が高いほど大きくなる。
なお、燃料性状取得条件成立時点において噴射割合を前記噴射割合決定手段により決定されていた任意の噴射割合から第1の噴射割合に変更することにより、同時点以降において吸気通路構成部材への燃料付着量は同任意の噴射割合に対応する量から同第1の噴射割合に対応する量まで変化し得る。従って、上記燃料性状取得条件が成立した時点から噴射割合変更時点までの期間である所定の期間は、燃料性状取得条件成立時点以降において吸気通路構成部材への燃料付着量が第1の噴射割合に対応する量に収束するまでに要する期間以上に設定されることが好ましい。これにより、噴射割合変更時点の直前での排気空燃比がより確実に目標空燃比に収束し得るようになる。
また、第1の噴射割合と第2の噴射割合は、より遠い割合に設定されるほど好ましい。第1の噴射割合と第2の噴射割合がより遠い割合であるほど、噴射割合変更時点の前後でのポート噴射量の変化量が大きくなり、噴射割合変更時点直後での吸気通路構成部材への燃料付着量の変化量、従って、排気空燃比の乱れの程度が大きくなる。この結果、燃料性状指標値基準値と現時点で取得された燃料性状指標値との比較がより正確に実行され得、これにより、現時点での燃料の性状が更に一層正確に取得され得るようになる。
具体的には、例えば、第1の噴射割合を「0」(ポート噴射量の割合を100%)(筒内噴射量の割合を0%)に、第2の噴射割合を「1」(ポート噴射量の割合を0%)(筒内噴射量の割合を100%)に設定すること、或いは、第1の噴射割合を「1」(ポート噴射量の割合を0%)(筒内噴射量の割合を100%)に、第2の噴射割合を「0」(ポート噴射量の割合を100%)(筒内噴射量の割合を0%)に設定することが好ましい。
以下、本発明による内燃機関の燃料性状取得装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る燃料性状取得装置をデュアルインジェクションシステムを備えた火花点火式多気筒(4気筒)内燃機関10に適用したシステムの概略構成を示している。
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース、及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20にガソリン混合気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排気ガスを外部に放出するための排気系統50とを含んでいる。
シリンダブロック部20は、シリンダ21、ピストン22、コンロッド23、及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21とピストン22のヘッドは、シリンダヘッド部30とともに燃焼室25を形成している。
シリンダヘッド部30は、燃焼室25に連通した吸気ポート31、吸気ポート31を開閉する吸気弁32、吸気弁32を駆動するインテークカムシャフトを含むとともに同インテークカムシャフトの位相角を連続的に変更する可変吸気タイミング装置33、可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、燃焼室25に連通した排気ポート34、排気ポート34を開閉する排気弁35、排気弁35を駆動するエキゾーストカムシャフト36、点火プラグ37、点火プラグ37に与える高電圧を発生するイグニッションコイルを含むイグナイタ38、燃料を吸気ポート31内に噴射するポート噴射弁39P、燃料を燃焼室25内に直接噴射する筒内噴射弁39Cを備えている。
吸気系統40は、吸気ポート31に連通し同吸気ポート31とともに吸気通路を形成するインテークマニホールドを含む吸気管41、吸気管41の端部に設けられたエアフィルタ42、吸気管41内にあって吸気通路の開口断面積を可変とするスロットル弁43、及びスロットル弁駆動手段を構成するDCモータからなるスロットル弁アクチュエータ43aを備えている。
排気系統50は、排気ポート34に連通したエキゾーストマニホールド51、エキゾーストマニホールド51(実際には、各排気ポート34に連通したそれぞれのエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に接続されたエキゾーストパイプ(排気管)52、エキゾーストパイプ52に配設(介装)された上流側の三元触媒53(上流側触媒コンバータ、又はスタート・キャタリティック・コンバータとも云うが、以下「第1触媒53」と称呼する。)、及びこの第1触媒53の下流のエキゾーストパイプ52に配設(介装)された下流側の三元触媒54(車両のフロア下方に配設されるため、アンダ・フロア・キャタリティック・コンバータとも云うが、以下「第2触媒54」と称呼する。)を備えている。排気ポート34、エキゾーストマニホールド51、及びエキゾーストパイプ52は、排気通路を構成している。
一方、このシステムは、熱線式エアフローメータ61、スロットルポジションセンサ62、カムポジションセンサ63、クランクポジションセンサ64、水温センサ65、第1触媒53の上流の排気通路(本例では、上記各々のエキゾーストマニホールド51が集合した集合部)に配設された空燃比センサ66(以下、「上流側空燃比センサ66」と称呼する。)、第1触媒53の下流であって第2触媒54の上流の排気通路に配設された空燃比センサ67(以下、「下流側空燃比センサ67」と称呼する。)、及びアクセル開度センサ68を備えている。
熱線式エアフローメータ61は、吸気管41を流れる吸入空気の単位時間あたりの質量流量に応じた電圧Vgを出力するようになっている。係るエアフローメータ61の出力Vgと、計測された吸入空気流量Gaとの関係は、図2に示したとおりである。スロットルポジションセンサ62は、スロットル弁43の開度を検出し、スロットル弁開度TAを表す信号を出力するようになっている。
カムポジションセンサ63は、インテークカムシャフトが90°回転する毎に(即ち、クランク軸24が180°回転する毎に)一つのパルスを有する信号(G2信号)を発生するようになっている。この信号は、吸気弁32の開閉タイミングVTをも表す。
クランクポジションセンサ64は、クランク軸24が10°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度NEを表す。水温センサ65は、内燃機関10の冷却水の温度を検出し、冷却水温THWを表す信号を出力するようになっている。
上流側空燃比センサ66、及び下流側空燃比センサ67は共に、排ガスの空燃比に応じた電流を出力し、この電流に応じた電圧を出力するようになっている。以下、上流側空燃比センサ66の出力に基づいて検出される排ガスの空燃比を排気空燃比abyfと称呼する。アクセル開度センサ68は、運転者によって操作されるアクセルペダル81の操作量を検出し、同アクセルペダル81の操作量Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置70は、互いにバスで接続されたCPU71、CPU71が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、及び定数等を予め記憶したROM72、CPU71が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM73、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM74、並びにADコンバータを含むインターフェース75等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース75は、前記センサ61〜68に接続され、CPU71にセンサ61〜68からの信号を供給するとともに、同CPU71の指示に応じて可変吸気タイミング装置33のアクチュエータ33a、イグナイタ38、ポート噴射弁39P、筒内噴射弁39C、及びスロットル弁アクチュエータ43aに駆動信号を送出するようになっている。
次に、上記のように構成された燃料性状取得装置(以下、「本装置」と云うこともある。)による燃料の性状(具体的には、後述する重質度Kh)を取得する方法について説明する。
(ポート噴射量fip、及び筒内噴射量ficの決定方法の概要)
このようなデュアルインジェクションシステムにおいては、ポート噴射弁39Pによるポート噴射量fipと筒内噴射弁39Cによる筒内噴射量ficの噴射割合(以下、この噴射割合として、筒内噴射割合R(= fic/(fip+fic))を使用する。)を、エンジン回転速度NE、冷却水温THW等の機関の運転状態に応じて変更することが好ましい。
このため、本装置は、機関の運転状態と、最適な筒内噴射割合との関係を規定するテーブルをROM72内に格納している。また、本装置は、後述するように得られる筒内吸入空気量Mcと目標空燃比abyfr(原則的に、理論空燃比stoich)とから、機関に供給される混合気の空燃比を目標空燃比abyfrに一致させるために噴射すべき燃料量である基本燃料噴射量Fbaseを求める。
そして、本装置は、後述する燃料性状取得制御が実行されていないとき(以下、この状態を「通常モード(mode=0)」と称呼することもある。)、このテーブルと現時点での機関の運転状態とに基づいて最適な筒内噴射割合R1求め、上記求めた基本燃料噴射量Fbaseと、筒内噴射割合R1と、後述する吸気通路構成部材への燃料付着についての燃料挙動モデル(の逆モデル)等に基づいてポート噴射量fip、及び筒内噴射量ficを決定していく。
このように、燃料性状取得制御が実行されていないとき、筒内噴射割合Rは、エンジン回転速度NE、冷却水温THW等の機関の運転状態に応じて時々刻々と変更されていく。一方、燃料性状取得制御が実行されているとき、本装置は、後述するように、筒内噴射割合Rを、機関の運転状態にかかわらず強制的に予め定められた特定の値に固定する。以上が、ポート噴射量fip、及び筒内噴射量ficの決定方法の概要である。
(燃料性状の取得方法の概要)
以下、本装置による燃料の性状(重質度Kh)を取得する方法について説明する。一般に、図3に概念的に示したように、ポート噴射弁39Pから噴射された燃料は、その一部が吸気管41(吸気ポート31)、及び吸気弁32からなる吸気通路構成部材に付着する。以下、吸気ポート31の内壁面に付着している燃料を「ポート付着燃料」、吸気弁32の傘部に付着している燃料を「バルブ付着燃料」、ポート付着燃料の量を「ポート燃料付着量fwp」、バルブ付着燃料の量を「バルブ燃料付着量fwv」と称呼することがある。また、ポート燃料付着量fwp、及びバルブ燃料付着量fwvを燃料付着量fwと総称する。
図4は、或る定められた圧力下における燃料の蒸留特性(温度と蒸発率との関係)を、重質燃料の場合(破線)と軽質燃料の場合(実線)とで比較しながら示した図である。燃料の重質の程度(重質度)が高くなるほど、その燃料の蒸留特性は、破線で示した重質燃料の特性に近づく。
図4から理解できるように、燃料の性状(重質燃料であるか軽質燃料であるか、重質度)にかかわらず、燃料の温度が高くなるほどその蒸発率が大きくなる(従って、燃料付着が発生し難くなる)。なお、この傾向は、後述する燃料挙動モデルにて使用される吸気通路構成部材への付着率(Rp,Rv)、及び残留率(Pp,Pv)が温度(具体的には、冷却水温THW)が高いほどより小さい値に設定されることに対応している。
また、燃料の蒸留特性は、燃料の重質度に大きく依存し、燃料の重質度が高いほど同一の温度に対するその蒸発率は小さくなる(従って、燃料付着が発生し易くなる)。なお、この傾向は、後述する上記吸気通路構成部材への付着率(Rp,Rv)、及び残留率(Pp,Pv)が燃料の重質度が高いほどより大きい値に設定されることに対応している。
また、完全暖機後における筒内の(燃焼前の、例えば、吸気行程中の)温度は比較的高くなっている。この温度下では、燃料の重質度にかかわらず、その蒸発率が十分に大きくなるから燃料付着が発生し難い(図4における点Aを参照)。即ち、完全暖機後において筒内噴射弁39Cから筒内に燃料が噴射される場合、その燃料の重質度にかかわらず燃料付着が発生しない。
一方、完全暖機後であっても吸気通路の温度は比較的低いままである。この温度下では燃料付着が発生し得る。具体的には、軽質燃料の場合、その蒸発率が十分に大きくなるから燃料付着が発生し難い一方(図4における点Bを参照)、重質燃料の場合、その蒸発率が小さくなるから燃料付着が発生し易い(図4における点Cを参照)。即ち、完全暖機後においてポート噴射弁39Pから吸気ポート31に燃料が噴射される場合、その燃料の重質度が高いほど吸気通路構成部材への燃料付着量が大きくなる。
以上のことから、機関が定常運転状態にある場合、同一のポート噴射量fipに対する吸気通路構成部材への燃料付着量は燃料の重質度に依存し、同重質度が高いほど大きくなる。また、機関が定常運転状態にある場合、吸気通路構成部材への燃料付着量fwはポート噴射量fipに依存し、ポート噴射量fipが大きいほど大きくなり、ポート噴射量fipが「0」のときは「0」になる。
いま、機関が或る定常運転状態(筒内吸入空気量Mc及びエンジン回転速度NEが略一定に維持されて基本燃料噴射量Fbaseが「fi0」に維持されている状態)にあって総噴射量sumfi(=fip+fic)が「fi0」、筒内噴射割合Rが「0」(第1の噴射割合)に維持されている状態から、総噴射量sumfiを「fi0」に維持したまま筒内噴射割合Rを「1」(第2の噴射割合)に変更・維持する場合を考える。
この場合、筒内噴射割合Rが「0」から「1」に変更されることでポート噴射量fipが「fi0」から「0」に変化する(筒内噴射量ficが「0」から「fi0」に変化する)。この結果、吸気通路構成部材への燃料付着量fwも、ポート噴射量fip(=fi0)及び燃料の重質度に対応して決定される或る値「fw1」から「0」まで減少する。上述のごとく、この或る値「fw1」は燃料の重質度が高いほど大きくなるから、この場合の燃料付着量fwの減少量(=fw1)は燃料の重質度に依存し、同重質度が高いほど大きくなる。
上述のように吸気通路構成部材への燃料付着量fwが値「fw1」から「0」まで減少している間、吸気行程において吸気通路構成部材へ付着していた燃料は同吸気通路構成部材から離脱して順次筒内に流入することになる。即ち、この間、総噴射量sumfiが基本燃料噴射量Fbase(=fi0)に維持されている(具体的には、fip=0,fic=fi0に維持されている)にもかかわらず、筒内には、筒内噴射量fic(=fi0)に燃料付着量fwの減少による筒内への流入分を加えた量の燃料が供給されることになる。
加えて、上述したように、完全暖機後においては燃料の重質度にかかわらず筒内での燃料付着は発生しないから、筒内に供給された燃料は、その重質度にかかわらず全量が燃焼に寄与し得る。
以上のことから、吸気通路構成部材への燃料付着量fwが値「fw1」から「0」まで減少している間、混合気の空燃比(従って、排気空燃比abyf)が、燃料付着量の減少量fw1に応じた程度だけ目標空燃比stoichに対してリッチ側に乱れる(荒れる)。ここで、上述したように、この燃料付着量の減少量fw1は燃料の重質度が高いほど大きくなるから、排気空燃比abyfが乱れる程度も燃料の重質度が高いほど大きくなる。即ち、この排気空燃比abyfが乱れる程度を計測することで燃料の重質度を取得することができる。
本装置は、係る原理を利用して燃料の重質度を取得するための燃料性状取得制御を実行する。以下、係る燃料性状取得制御による燃料の重質度の取得方法について図5を参照しながら説明する。この燃料性状取得制御は、後述する燃料性状取得条件が成立した時点から開始される。
図5は、完全暖機後であって基本燃料噴射量Fbaseが「fi0」で一定となる定常運転状態に機関が維持されている場合であって時刻t1にて燃料性状取得条件が成立した場合における、(a)筒内噴射割合R、(b)総噴射量sumfi、及び(c)排気空燃比abyfの変化を示したタイムチャートである。図5(c)において実線は軽質燃料の場合に対応し、破線は重質燃料の場合に対応し、一点鎖線は現時点での実際の燃料の場合に対応する。
先ず、時刻t1以前(即ち、通常モード)では、筒内噴射割合Rは、現時点での(定常)運転状態に応じてテーブル検索にて決定される上述した最適な筒内噴射割合R1(一定)に維持されている。また、総噴射量sumfiが「fi0」に維持されている。従って、ポート噴射量fipが値「fi0・(1−R1)」で一定となっているから吸気通路構成部材への燃料付着量fwがポート噴射量fip(=fi0・(1−R1))及び燃料の重質度に対応して決定される値「fw2」で一定となっている。即ち、ポート噴射量fipと吸気行程において筒内に流入する燃料量とが一致する。この結果、筒内には、総噴射量sumfi(=fi0)と等しい量の燃料が供給されるから、時刻t1以前では、排気空燃比abyfが目標空燃比stoichで一定となっている。
この状態にて燃料性状取得条件が成立する時刻t1になると、本装置は、燃料性状取得制御を開始し、先ず、総噴射量sumfiを「fi0」に維持したまま筒内噴射割合RをR1から「0」に変更する(即ち、ポート噴射量fipを、値「fi0・(1−R1)」から「fi0」に変更し、筒内噴射量ficを、値「fi0・R1」から「0」に変更する)。以下、このように筒内噴射割合Rが「0」に固定されている状態を第1モード(mode=1)と称呼する。
これにより、時刻t1の直後において吸気通路構成部材への燃料付着量fwが、上記値「fw2」からポート噴射量fip(=fi0)及び燃料の重質度に対応して決定される上記値「fw1」まで短期間に亘って増加する。即ち、係る短期間に亘る吸気行程において筒内には、総噴射量sumfiが基本燃料噴射量Fbase(=fi0)に維持されている(具体的には、fip=fi0,fic=0に維持されている)にもかかわらず、ポート噴射量fip(=fi0)から燃料付着量fwの増加に相当する分を減じた量の燃料が供給されることになる。従って、時刻t1の直後の短期間において混合気の空燃比(従って、排気空燃比abyf)は、燃料付着量fwの増加量(fw1-fw2)に応じた程度だけ目標空燃比stoichに対してリーン側に乱れる(荒れる)(図5(c)を参照)。燃料付着量fwが値「fw1」に収束した後は、排気空燃比abyfは目標空燃比stoichに収束する。
続いて、時刻t1から期間tAが経過して時刻t2になると、本装置は、総噴射量sumfiを「fi0」に維持したまま筒内噴射割合Rを「0」から「1」に変更する(即ち、ポート噴射量fipを、値「fi0」から「0」に変更し、筒内噴射量ficを、「0」から「fi0」に変更する)。以下、このように筒内噴射割合Rが「1」に固定されている状態を第2モード(mode=2)と称呼する。なお、上記期間tAは、燃料付着量fwが値「fw2」から値「fw1」に収束するまでに要する時間よりも十分に長い時間である。
これにより、時刻t2以降において、上述したように、吸気通路構成部材への燃料付着量fwが上記値「fw1」から「0」に減少することに起因して、時刻t2の時点で目標空燃比stoichに収束していた排気空燃比abyfが燃料付着量の減少量fw1に応じた程度だけ目標空燃比stoichに対して一時的にリッチ側に乱れる(荒れる)。燃料付着量fwが値「0」に収束した後は、排気空燃比abyfは目標空燃比atoichに再び収束する。
ここで、上述したように、この燃料付着量の減少量fw1は燃料の重質度が高いほど大きくなるから、図5(c)に示したように、排気空燃比abyfが乱れる程度も燃料の重質度が高いほど大きくなる。本例では、排気空燃比abyfが乱れる程度を表す値(燃料性状指標値)として、排気空燃比abyfが時刻t2以降において目標空燃比stoichから偏移している間における排気空燃比abyfの目標空燃比stoichからの偏差ΔAFの時間積分値(以下、「空燃比偏移面積」と称呼する。)を採用する。
加えて、本例では、図5(c)に示したように、軽質燃料についての空燃比偏移面積をSL、重質燃料についての空燃比偏移面積をSH、今回の燃料性状取得制御により計測された現時点での実際の燃料についての空燃比偏移面積をSAとしたとき(SL<SH,SL≦SA≦SH)、取得される対象である現時点での実際の燃料の重質度Khを下記(1)式にて定義する。
Kh=(SA−SL)/(SH−SL) ・・・(1)
このように定義される燃料の重質度Khは、重質度Kh=0のときに現時点での燃料が軽質燃料であり、重質度Kh=1のときに現時点での燃料が重質燃料であり、重質度Khが大きくなるほど現時点での燃料の性状が重質燃料のものにより近くなることを意味している。
なお、係る空燃比偏移面積は、機関の運転状態(例えば、筒内吸入空気量Mc、エンジン回転速度NE、冷却水温THW等)にも依存して変化する。従って、本装置は、機関の運転状態と空燃比偏移面積SL,SHとの関係を規定するテーブルを予めROM72内に格納している。このテーブルは、或る定常運転状態に対応する軽質燃料、及び重質燃料についての空燃比偏移面積SL,SHを計測する実験を運転状態を種々変更しながら繰り返し行うことにより作製され得る。
そして、本装置は、現時点での機関の運転状態と、このテーブルとから軽質燃料、及び重質燃料についての空燃比偏移面積SL,SHを求め、これらの値と、今回の上記燃料性状取得制御により計測された現時点での実際の燃料についての空燃比偏移面積SAと、上記(1)式とに基づいて、現時点での実際の燃料の重質度Khを取得する。以上が、本発明による燃料性状取得制御による燃料の重質度の取得方法についての概要である。
(燃料挙動モデル)
次に、上記燃料性状取得制御が実行されていない場合(通常モード)において本装置がポート噴射量fipを求めるために使用する燃料挙動(付着)モデルについて説明する。
先に図3を参照しながら説明したように、ポート噴射弁39Pから噴射された燃料は、その一部が吸気ポート31、及び吸気弁32に付着する。ここで、吸気ポート31に付着するポート付着燃料の挙動は、吸気弁32に付着するバルブ付着燃料の挙動と大きく相違することが判っている。
換言すると、一般に、燃料挙動モデルで使用される燃料の付着率と残留率は、ポート付着燃料に対するものとバルブ付着燃料に対するものとで大きく相違する。従って、本装置は、燃料挙動モデルを、ポート付着燃料についてのモデルと、バルブ付着燃料についてのモデルとで独立させ、付着率及び残留率をそれぞれに対して設定することにより、ポート燃料付着量fwpとバルブ燃料付着量fwvとを分けて求める。
より具体的に述べると、ポート噴射される気筒に着目した図6に示したように、fipをポート噴射弁39Pから今回の吸気行程に対して噴射される燃料の量であるポート噴射量、fwp(fwp(k-1))を前回の吸気行程後であって今回の吸気行程直前において吸気ポート31に既に付着しているポート燃料付着量、Ppを上記ポート燃料付着量fwp(k-1)のうち吸気ポート31に付着したまま残留するポート付着燃料の割合(ポート付着燃料の残留率)、Rpを上記ポート噴射量fipのうち吸気ポート31へ付着する燃料の割合(ポート付着燃料の付着率)とすると、上記ポート燃料付着量fwp(k-1)のうち吸気ポート31に残留するポート付着燃料の量はPp・fwp(k-1)となり、ポート噴射量fipの燃料のうち吸気ポート31に新たに付着する燃料の量はRp・fipとなる。従って、今回の吸気行程後であって次回の吸気行程直前において吸気ポート31に付着するポート燃料付着量fwp(k)について下記(2)式が成立する。漸化式である下記(2)式は、ポート付着燃料についての燃料挙動モデルを記述したものである。
fwp(k)=Pp・fwp(k-1)+Rp・fip ・・・(2)
同様に、fwv(fwv(k-1))を前回の吸気行程後であって今回の吸気行程直前において吸気弁32に既に付着しているバルブ燃料付着量、Pvを上記バルブ燃料付着量fwv(k-1)のうち吸気弁32に付着したまま残留するバルブ付着燃料の割合(バルブ付着燃料の残留率)、Rvを上記ポート噴射量fipのうち吸気弁32へ付着する燃料の割合(バルブ付着燃料の付着率)とすると、上記バルブ燃料付着量fwv(k-1)のうち吸気弁32に残留するバルブ付着燃料の量はPv・fwv(k-1)となり、ポート噴射量fipの燃料のうち吸気弁32に新たに付着する燃料の量はRv・fipとなる。従って、今回の吸気行程後であって次回の吸気行程直前において吸気弁32に付着するバルブ燃料付着量fwv(k)について下記(3)式が成立する。漸化式である下記(3)式は、バルブ付着燃料についての燃料挙動モデルを記述したものである。
fwv(k)=Pv・fwv(k-1)+Rv・fip ・・・(3)
ところで、上記(2)式、又は上記(3)式にて使用される上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、冷却水温THWに加え、機関の他の運転状態(例えば、筒内吸入空気量Mc、エンジン回転速度NE、吸気弁32の開閉タイミングVT等)に強く依存することが判っている。特に、上述したように、燃料の温度が高くなるほどその蒸発率が大きくなることに伴って(図4を参照)、上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、冷却水温THWが高いほどより小さい値となる傾向がある。
加えて、上述したように、燃料の重質度が高くなるほど同一の温度に対するその蒸発率が小さくなることに伴って(図4を参照)、上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、燃料の重質度が高いほどより大きい値となる傾向がある。
従って、上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、冷却水温THW、上記他の運転状態に加えて燃料の重質度を引数とした予め作製されたテーブルを利用して決定され得る。しかしながら、これら全ての要素を引数とする上記Pp,Pv,Rp,及びRvを決定するためのテーブルを作製するためには、膨大な数の組み合わせに対応する膨大な数の適合実験を行う必要があり、適合を行う際の労力が多大となる。
そこで、本装置は、少しでも適合の際の労力を軽減するため、軽質燃料(上記(1)式における重質度Kh=0となる燃料)のみを使用した適合実験を通して作製された、軽質燃料についての上記Pp,Pv,Rp,及びRvを決定するためのテーブルのみを使用する。即ち、このテーブルの引数は、冷却水温THW、及び上記他の運転状態のみとなり、燃料の重質度が引数から除外される。このテーブルにより決定される軽質燃料についての上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、上述したように、引数である冷却水温THWが高いほどより小さい値となる。
更に、本装置は、以下の手法により、このテーブルにより決定される軽質燃料についての上記Pp,Pv,Rp,及びRvを、現時点での実際の燃料の重質度に対応する値に補正する。図7は、先に説明した図4と同様、或る定められた圧力下における燃料の蒸留特性を、重質燃料の場合(破線)と軽質燃料の場合(実線)とで比較しながら示している。
ここで、図7に示したように、軽質燃料の蒸発率が50%となる温度(軽質燃料の50%留出温度)をT50L、重質燃料の蒸発率が50%となる温度(重質燃料の50%留出温度)をT50Hと定義すると、T50L,T50H(共に、定数)は、予め実験等を通して求めることができる。本装置は、下記(4)式にて温度補正量ΔTを定義するとともに、下記(5)式にて制御用温度Tsを定義する。下記(4)式において、Khは上記(1)式に従って取得される現時点での実際の燃料の重質度であり、下記(5)式において、THWは現時点での実際の冷却水温である。
ΔT=(T50H−T50L)・Kh ・・・(4)
Ts=THW−ΔT ・・・(5)
これにより、温度補正量ΔTは、重質度Kh(0≦Kh≦1)が大きくなるほど大きくなる(図7を参照)。この結果、制御用温度Tsは、重質度Khが大きくなるほど現時点での実際の冷却水温THWに対してより低い温度となる。
そして、本装置は、上記Pp,Pv,Rp,及びRvを決定する際、上記テーブルの引数である冷却水温THWとして、冷却水温THWの値そのものに代えて上記(5)式にて算出される制御用温度Tsの値を使用する。これにより、上記テーブルにより決定される軽質燃料についての上記Pp,Pv,Rp,及びRvは、冷却水温THWの値そのものを引数として使用した場合に得られる値に対して重質度Khに対応する分だけ小さい値となる。即ち、上記Pp,Pv,Rp,及びRvが、現時点での実際の燃料の重質度Khに対応する値に補正される。
本装置は、このようにして決定される上記Pp,Pv,Rp,及びRvと、燃料挙動モデルを表す漸化式である上記(2)式、(3)式を使用して、ポート燃料付着量fwp(k)とバルブ燃料付着量fwv(k)とを吸気行程毎、且つ気筒毎に更新していく。
また、本装置は、上記燃料性状取得制御が実行されていないとき、上記最適な筒内噴射割合R1と、基本燃料噴射量Fbaseとを使用して、筒内噴射量ficを下記(6)式に従って求めるとともに、吸気行程において筒内に流入する燃料量が下記(7)式にて求められる必要ポート流入燃料量Fcと一致するように、後述する上記燃料挙動モデルの逆モデルを使用してポート噴射量fipを求める。このように、ポート燃料付着量fwp、及びバルブ燃料付着量fwvを考慮することで、筒内に供給される総燃料量が基本燃料噴射量Fbaseと一致し得、この結果、上記燃料性状取得制御が実行されていないときにおいて、空燃比を目標空燃比stoichに一致させることができる。
fic=Fbase・R1 ・・・(6)
Fc=Fbase・(1−R1) ・・・(7)
以下、燃料挙動モデルの逆モデルについて説明する。この燃料挙動モデルの逆モデルは、ポート噴射された燃料のうち吸気ポート31や吸気弁32に付着することなく筒内に流入する燃料の量、及び吸気ポート31や吸気弁32に付着していた燃料のうち筒内に流入する燃料の量を考慮して、上記(7)式にて算出される必要ポート流入燃料量Fcの燃料を気筒に流入させるために必要とされるポート噴射量fipを算出するモデルである。
上記(2)式、及び上記(3)式により既に求められている、燃料噴射気筒の前回の吸気行程後であって今回の吸気行程直前において吸気ポート31及び吸気弁32にそれぞれ付着している燃料付着量であるポート燃料付着量fwp(k-1)及びバルブ燃料付着量fwv(k-1)、並びに、上述のように制御用温度Tsを利用して決定される上記Pp,Pv,Rp,及びRvをそれぞれ使用すると、今回の吸気行程に対してポート噴射量fipの燃料を噴射したと仮定した場合に筒内に流入する燃料量Finは、下記(8)式で表される(図6を参照)。
Fin=(1−Rp−Rv)・fip+(1−Pp)・fwp(k−1)+(1−Pv)・fwv(k−1) ・・・(8)
従って、今回の吸気行程において上記(7)式にて算出される必要ポート流入燃料量Fcが筒内に流入するために必要なポート噴射量fipは、上記(8)式において上記燃料量Finを同必要ポート流入燃料量Fcと置き換えた式をポート噴射量fipについて解くことで求めることができる。その計算結果は(9)式の通りとなる。この(9)式が、燃料挙動モデルの逆モデルを数式化したものであって、本装置は、(9)式に従ってポート噴射量fipを求める。以上が、ポート噴射量fipを求めるために使用される燃料挙動モデル、及び燃料挙動モデルの逆モデルの概要である。
fip=(Fc−(1−Pp)・fwp(k−1)−(1−Pv)・fwv(k−1))/(1−Rp−Rv)・・・(9)
(実際の作動)
次に、電気制御装置70の実際の作動について、図8〜図11に示したフローチャートを参照しながら説明する。
CPU71は、図8にフローチャートにより示した筒内噴射量fic、ポート噴射量fipの計算、及び燃料噴射の指示を行うルーチンを、各気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、BTDC90°CA)となる毎に、気筒毎に、繰り返し実行するようになっている。この図8のルーチンの実行により、噴射割合決定手段、及び噴射量決定手段の機能が達成される。
従って、任意の気筒のクランク角度が前記所定クランク角度になると、CPU71はステップ800から処理を開始してステップ805に進み、エアフローメータ61が計測している吸入空気流量Gaと、クランクポジションセンサ64の出力に基づいて得られるエンジン回転速度NEと、Ga,NEを引数とするテーブルMapMcとに基づいて吸気行程を迎える気筒の吸入空気量である筒内吸入空気量Mcを求める。
次に、CPU71はステップ810に進み、上記求めた筒内吸入空気流量Mcを現時点での目標空燃比abyfr(=stoich)で除した値に係数αを乗じることで、機関の空燃比を目標空燃比stoichとするための基本燃料噴射量Fbaseを求める。係数αは、上流側空燃比センサ66、及び下流側空燃比センサ67の出力に基づく空燃比フィードバック制御等により適宜変更される係数である。
次いで、CPU71はステップ815に進み、変数modeの値が「0」であるか否か(即ち、通常モードであるか否か)を判定する。いま、現時点では、燃料性状取得制御が実行されておらず、従って、通常モードであるものとすると、CPU71はステップ815にて「Yes」と判定してステップ820に進み、エンジン回転速度NEと、上記求めた筒内吸入空気量Mcと、水温センサ65から得られる冷却水温THWと、NE,Mc,THWを引数とするテーブルMapRとに基づいて最適な筒内噴射割合R1を求める。
続いて、CPU71はステップ825に進んで、上記求めた基本燃料噴射量Fbaseと、上記求めた筒内噴射割合R1と、上記(6)式とに基づいて筒内噴射量ficを求め、続くステップ830にて同基本燃料噴射量Fbaseと、同筒内噴射割合R1と、上記(7)式とに基づいて必要ポート流入燃料量Fcを求める。
次に、CPU71はステップ835に進み、後述するルーチンにより算出されている最新の温度補正量ΔTと、現時点での冷却水温THWと、上記(5)式とに基づいて制御用温度Tsを求める。
続いて、CPU71は、ステップ840に進み、上記求めた制御用温度Tsと、エンジン回転速度NEと、上記求めた筒内吸入空気量Mcと、カムポジションセンサ63の出力から得られる吸気弁の開閉タイミングVTと、Ts,NE,Mc,VTを引数とするテーブルMapRp,MapRv,MapPp,MapPvとに基づいて、ポート付着燃料の付着率Rp、バルブ付着燃料の付着率Rv、ポート付着燃料の残留率Pp、及びバルブ付着燃料の残留率Pvをそれぞれ決定する。これにより、上記求めたPp,Pv,Rp,及びRvは、現時点での燃料の実際の重質度Khに対応する正確な値に算出され得る。
次いで、CPU71はステップ845に進み、上記求めた必要ポート流入燃料量Fcと、上記求めたPp,Pv,Rp,及びRvと、ポート燃料付着量fwp(k-1)と、バルブ燃料付着量fwv(k-1)と、上記(9)式とに基づいてポート噴射量fipを求める。ポート燃料付着量fwp(k-1)、及びバルブ燃料付着量fwv(k-1)としては、前回の本ルーチン実行時において後述するステップ850にて既に更新されている最新値fwp(k),fwv(k)をそれぞれ使用する。
即ち、CPU71はステップ850に進むと、上記求めたPp,Pv,Rp,及びRvと、ポート燃料付着量fwp(k-1)と、バルブ燃料付着量fwv(k-1)と、上記(2)式及び上記(3)式とに基づいてポート燃料付着量fwp(k)、及びバルブ燃料付着量fwv(k)を更新する。ポート燃料付着量fwp(k-1)、及びバルブ燃料付着量fwv(k-1)としては、ステップ845と同様、前回の本ルーチン実行時において既に更新されている最新値fwp(k),fwv(k)をそれぞれ使用する。
そして、CPU71はステップ880に進み、上記求めた筒内噴射量ficの燃料を所定の時期に噴射するための指示を吸気行程を迎える気筒の筒内噴射弁39Cに対して行い、且つ上記求めたポート噴射量fipの燃料を所定の時期に噴射するための指示を同一の気筒のポート噴射弁39Pに対して行った後、ステップ895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
以上により、通常モードにおいて、筒内に供給される総燃料量が基本燃料噴射量Fbaseと一致するように、且つ、実際の筒内噴射割合R(=fic/(fic+fip))が上記筒内噴射割合R1の近傍の値になるように、筒内噴射量fic、及びポート噴射量fipが決定されるとともに、筒内噴射量fic、及びポート噴射量fipの燃料が吸気行程を迎える同一の気筒に対してそれぞれ噴射される。
また、CPU71は、図9にフローチャートにより示した燃料性状取得開始判定を行うためのルーチンをプログラム実行間隔時間Δt(例えば、8msec)の経過毎に、繰り返し実行するようになっている。
従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで変数modeの値が「0」であるか否か(即ち、通常モードであるか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
現時点は、通常モード(mode=0)であるから、CPU71はステップ905にて「Yes」と判定してステップ910に進み、燃料性状取得条件が成立しているか否かを判定する。この燃料性状取得条件は、例えば、機関が定常運転状態(具体的には、エンジン回転速度NE、吸入空気流量Ga等の変動幅が所定の微小値未満である状態)にあって、機関が完全暖機状態にあって、前回の燃料性状取得制御の終了時点から所定時間が経過している場合等に成立する。
いま、燃料性状取得条件が成立していないものとすると、CPU71はステップ910にて「No」と判定してステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU71は、燃料性状取得条件が成立しない限りにおいて、ステップ910に進む毎に「No」と判定する。また、この場合、変数modeの値は「0」に維持されるから、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、図8のステップ815に進む毎に「Yes」と判定する。この結果、上述した通常モードにおける筒内噴射量fic、及びポート噴射量fipが決定されていく。
次に、この状態にて燃料性状取得条件が成立した場合(図5の時刻t1を参照)について説明する。この場合、CPU71はステップ910に進んだとき「Yes」と判定してステップ915に進み、変数modeの値を「0」から「1」に変更し、続くステップ920にてカウンタNの値を「0」にリセットした後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
ここで、カウンタNの値は、燃料性状取得条件が成立した時点からの経過時間を表す。これにより、変数modeの値が「1」になるから、CPU71はステップ905に進んだとき「No」と判定してステップ995に直ちに進むようになる。
また、これにより、変数modeの値が「1」になるから、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、図8のステップ815に進んだとき「No」と判定してステップ855に進むようになり、同ステップ855にて変数modeの値が「1」であるか否かを判定する。
先のステップ915の処理により現時点では変数modeの値が「1」になっているから、CPU71はステップ855にて「Yes」と判定してステップ860に進み、筒内噴射割合Rを「0」に設定する。
続いて、CPU71はステップ865に進んで、ステップ810にて求めている基本燃料噴射量Fbaseと、上記求めた筒内噴射割合Rと、上記(6)式に相当する式とに基づいて筒内噴射量fic(=0)を求め、続くステップ870にて、同基本燃料噴射量Fbaseと、同筒内噴射割合Rと、上記(7)式に相当する式とに基づいてポート噴射量fip(=Fbase)を求める。
そして、CPU71は上述したステップ880に進む。これにより、燃料性状取得制御が開始され、総噴射量sumfiを基本燃料噴射量Fbaseに維持しつつ筒内噴射量Rを「0」に固定する第1モードが開始される。以降、変数modeの値が「1」に維持されている限りにおいて、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、図8のステップ855に進む毎に「Yes」と判定する。これにより、上述した第1モードにおける筒内噴射量fic(=0)、及びポート噴射量fip(=Fbase)が決定されていく。
また、CPU71は、図10にフローチャートにより示した第1モードの処理を行うためのルーチンをプログラム実行間隔時間Δt(例えば、8msec)の経過毎に、繰り返し実行するようになっている。
従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで変数modeの値が「1」であるか否か(即ち、第1モードであるか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ1095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、先のステップ915の実行により、変数modeの値が「0」から「1」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t1を参照)、CPU71はステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進むようになり、同ステップ1010にてカウンタNの値(現時点では「0」)を「1」だけ増大させる。
続いて、CPU71はステップ1015に進み、カウンタNの値が基準値N1と等しくなったか否かを判定する。ここで、基準値N1は、上述した期間tA(図5を参照)に相当する値である。即ち、ステップ1015では、期間tAが経過したか否かが判定される。
現時点は第1モードが開始された直後であって、カウンタNの値は基準値N1よりも小さい。従って、CPU71はステップ1015にて「No」と判定してステップ1095に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU71は、カウンタNの値が基準値N1に達しない限りにおいて(即ち、第1モードが開始された時点から期間tAが経過しない限りにおいて)、ステップ1015に進む毎に「No」と判定する。これにより、カウンタNの値が更新されていく。
次に、この状態にて上記期間tAが経過した場合(図5の時刻t2を参照)について説明する。この場合、カウンタNの値が基準値N1と等しくなるから、CPU71はステップ1015に進んだとき「Yes」と判定してステップ1020に進むようになり、同ステップ1020にて変数modeの値を「1」から「2」へ変更し、続くステップ1025にて空燃比偏移面積SAの計算準備のため変数SAの値を「0」に初期化して、ステップ1095に進み、本ルーチンを一旦終了する。
これにより、変数modeの値が「2」になるから、CPU71はステップ1005に進んだとき「No」と判定してステップ1095に直ちに進むようになる。
また、これにより、変数modeの値が「2」になるから、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、図8のステップ815、及びステップ855に進んだとき共に「No」と判定してステップ875に進むようになり、同ステップ875にて筒内噴射割合Rを「1」に設定する。
続いて、CPU71は上述したステップ865、870、880の処理を順に実行する。これにより、第1モードに代えて、総噴射量sumfiを基本燃料噴射量Fbaseに維持しつつ筒内噴射量Rを「1」に固定する第2モードが開始される。以降、変数modeの値が「2」に維持されている限りにおいて、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、図8のステップ855に進む毎に「No」と判定する。これにより、第2モードにおける筒内噴射量fic(=Fbase)、及びポート噴射量fip(=0)が決定されていく。
また、CPU71は、図11にフローチャートにより示した第2モードの処理を行うためのルーチンをプログラム実行間隔時間Δt(例えば、8msec)の経過毎に、繰り返し実行するようになっている。この図11のルーチンの実行により、燃料性状取得手段の機能が達成される。
従って、所定のタイミングになると、CPU71はステップ1100から処理を開始し、ステップ1105に進んで変数modeの値が「2」であるか否か(即ち、第2モードであるか否か)を判定し、「No」と判定する場合、ステップ1195に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
いま、先のステップ1020の実行により、変数modeの値が「1」から「2」に変更された直後であるものとすると(図5の時刻t2を参照)、CPU71はステップ1105にて「Yes」と判定してステップ1110に進むようになり、同ステップ1110にて目標空燃比abyfr(=stoich)から上流側空燃比センサ66により検出される排気空燃比abyfを減じることで、排気空燃比abyfの目標空燃比stoichからの偏差ΔAFを求める。
次に、CPU71はステップ1115に進み、その時点での変数SAの値(現時点では、「0」)に、上記偏差ΔAFと上記プログラム実行間隔時間Δtの積を加えて、変数SAを更新する。これにより、偏差ΔSAの時間積分値が求められていく。
続いて、CPU71はステップ1120に進み、上記求めた偏差ΔAFが微小値ΔAFthよりも大きい値から同微小値ΔAFthよりも小さい値に変化したか否か(即ち、排気空燃比abyfが目標空燃比stoichに収束したか否か)を判定する。
現時点は第2モードが開始された直後である。従って、CPU71はステップ1120にて「No」と判定してステップ1195に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、排気空燃比abyfが目標空燃比stoichに収束しない限りにおいて、CPU71はステップ1120に進む毎に「No」と判定する。これにより、上記変数SAが更新されていき、従って、偏差ΔSAの時間積分値が更新されていく。
次に、この状態にて、排気空燃比abyfが目標空燃比stoichに収束した場合について説明する。この場合、CPU71はステップ1120に進んだとき「Yes」と判定してステップ1125に進むようになり、同ステップ1125にて変数modeの値を「2」から「0」に変更する。なお、ステップ1115にて更新されているこの時点での変数SAの値が現時点での実際の燃料についての空燃比偏移面積SAを表す。
続いて、CPU71はステップ1130に進み、現時点での冷却水温THWと、先のステップ805にて計算されている筒内吸入空気量Mcと、現時点でのエンジン回転速度NEと、THW,Mc,NEを引数とするテーブルMapSH,MapSLとに基づいて重質燃料についての空燃比偏移面積SH、及び軽質燃料についての空燃比偏移面積SLを求める。
次いで、CPU71はステップ1135に進んで、上記求めた(更新された)実際の燃料についての空燃比偏移面積SAと、上記求めた重質燃料についての空燃比偏移面積SH及び軽質燃料についての空燃比偏移面積SLと、上記(1)式とに基づいて現時点での実際の燃料の重質度Khを求める。
次に、CPU71はステップ1140に進み、上記求めた重質度Khと、上記(4)式とに基づいて温度補正量ΔTを求め、続くステップ1145にてこの温度補正量ΔTの値をバックアップRAM74に記憶する。このバックアップRAM74に記憶された温度補正量ΔTは上述した図8のステップ835にて制御用温度Tsを求めるために使用される。
このように、温度補正量ΔTをバックアップRAM74に記憶することで、次回の機関の始動時の直後から上記Pp,Pv,Rp,及びRvが実際の燃料の重質度Khに対応する値に補正され得、この結果、次回の始動直後からポート噴射量fipが適切な値に設定され得る。
続いて、CPU71はステップ1150に進み、ポート燃料付着量fwp(k)と、バルブ燃料付着量fwv(k)とを共に「0」に初期化する。これは、第2モード終了時点での実際のポート燃料付着量fwp、及びバルブ燃料付着量fwvが共に「0」になっていることに対応する処理である。そして、CPU71はステップ1195に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以降、CPU71は、変数modeの値が「0」になっているから、ステップ1105に進む毎に「No」と判定するようになる。また、これにより、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU71は、ステップ815に進んだとき再び「Yes」と判定するようになる。この結果、上述した通常モードが再開され、同通常モードにおける筒内噴射量fic、及びポート噴射量fipが決定されていく。
なお、上述した図11のステップ1150の処理により、通常モードが再開された直後において図8のステップ845、850にて使用されるポート燃料付着量fwp(k-1)、及びバルブ燃料付着量fwv(k-1)は共に「0」となる。これにより、通常モードが再開された時点での燃料挙動モデルによるポート燃料付着量fwp、及びバルブ燃料付着量fwvの推定誤差をなくすことができる。
また、変数modeの値が「0」になっているから、図9のルーチンを繰り返し実行しているCPU71はステップ905にて「Yes」と判定するようになり、続くステップ910に進む毎に、燃料性状取得条件が再び成立しているか否かをモニタするようになる。そして、燃料性状取得条件が成立すると、CPU71は、燃料性状取得制御を再び実行して、新たな重質度Khを求めるとともに(ステップ1135)、新たな温度補正量ΔTを求め、バックアップRAM74に記憶される温度補正量ΔTの値を更新する(ステップ1140、1145)。
以上、説明したように、本発明による内燃機関の燃料性状取得装置の実施形態は、筒内噴射弁39Cとポート噴射弁39Pの2つの燃料噴射弁を気筒毎に備えたデュアルインジェクションシステムを備えた内燃機関に適用される。上記実施形態によれば、機関が定常運転状態にある場合において、総噴射量sumfi(ポート噴射量fip+筒内噴射量fic)を排気空燃比abyfを目標空燃比stoichに一致させるための燃料量である基本燃料噴射量Fbaseに維持したまま、筒内噴射割合R(=fic/(fic+fip))を、所定期間tAだけ強制的に「0」に固定し、その後、強制的に「1」に変更する。
そして、筒内噴射割合Rが「1」に変更された直後において発生する排気空燃比abyfの乱れの程度(空燃比偏移面積SA)が燃料の重質度に依存することを利用して燃料の重質度Kh(燃料性状)を取得する。このように、上記実施形態によれば、内燃機関が定常運転状態にある場合において、筒内噴射割合Rを所定のパターンに変更するのみで燃料の性状を精度良く取得することができる。
また、上記実施形態によれば、上記燃料性状取得制御が実行されていない場合において、上記取得した燃料の重質度Khに基づいて、ポート噴射量fipを求めるための燃料挙動モデルにおいて使用されるポート付着燃料の残留率等(上記Pp,Pv,Rp,及びRv。機関制御パラメータ)が補正される。これにより、上記Pp,Pv,Rp,及びRvが現時点での実際の燃料の重質度Khに対応した値に設定されるから、筒内に供給される総燃料量を基本燃料噴射量Fbaseと一致させるために必要なポート噴射量fipがより一層正確に算出され得る。
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態において、排気空燃比abyfの乱れの程度を表す値として空燃比偏移面積(=∫(ΔAF・Δt))を使用しているが、第2モード開始時点(図5の時刻t2を参照)から排気空燃比abyfが目標空燃比stoichに収束するまでに要する時間を採用してもよい。また、第2モード開始時点から排気空燃比abyfが目標空燃比stoichに収束するまでにおける排気空燃比abyfの目標空燃比stoichからの偏差ΔAFの最大値を使用してもよい。
また、上記実施形態においては、燃料の重質の程度に応じて連続的に変化する(決定される)燃料の重質度Kh(0≦Kh≦1)そのものを燃料性状として取得しているが、重質度Khが所定の閾値よりも小さいときに軽質燃料、同閾値以上のときに重質燃料と判定し、係る判定結果を燃料性状として取得してもよい。
また、上記実施形態においては、筒内噴射割合Rを第1モードで「0」に、第2モードで「1」に固定しているが、筒内噴射割合Rを第1モードで「1」に、第2モードで「0」に固定してもよい。この場合、第2モード直後において、吸気通路構成部材への燃料付着量fwが「0」から上記値「fw1」に増加することに起因して、第2モードの直後において排気空燃比abyfが燃料付着量の増加量fw1に応じた程度だけ目標空燃比stoichに対して一時的にリーン側に乱れる(荒れる)。燃料付着量fwが値「fw1」に収束した後は、排気空燃比abyfは目標空燃比stoichに再び収束する。
この場合における燃料付着量の増加量fw1も燃料の重質度が高いほど大きくなるから、排気空燃比abyfがリーン側に乱れる程度も燃料の重質度が高いほど大きくなる。従って、これによっても、排気空燃比abyfがリーン側に乱れる程度を計測することで燃料の重質度(性状)を取得することができる。
また、上記実施形態においては、筒内噴射割合Rを第1モードで「0」に、第2モードで「1」に固定しているが、筒内噴射割合Rを第1モードで任意の値RA(例えば、0.7)に、第2モードで値RAと異なる任意の値RB(例えば、0.3)に固定してもよい(RA≠RB 0≦RA,RB≦1)。この場合、値RAと値RBがより離れているほど、第2モード開始時点の前後でのポート噴射量fipの変化量が大きくなり、第2モード開始直後での吸気通路構成部材への燃料付着量の変化量、従って、排気空燃比abyfの乱れの程度が大きくなる。この結果、燃料の重質度の相違に対する排気空燃比abyfの乱れの程度の差が大きくなるから、燃料の性状が一層正確に取得され得るようになる。
また、上記実施形態においては、取得した燃料の重質度Khに基づいて決定される機関制御パラメータとして、ポート噴射量fipを求めるための燃料挙動モデルにおいて使用されるポート付着燃料の残留率等(上記Pp,Pv,Rp,及びRv)が採用されているが、点火プラグ37の点火時期を採用してもよい。この場合、例えば、点火時期を軽質燃料を用いて適合しておき、同適合結果に基づいて得られる(例えば、テーブル検索により得られる)軽質燃料用の点火時期を、取得した燃料の重質度Khが大きいほどより進角側に補正すればよい。
また、上記実施形態においては、燃料性状取得制御実行中に亘って、ポート噴射量fipを決定するにあたり燃料付着量fwが考慮されていないが、第1モード実行中においては燃料付着量fwを考慮して、ポート噴射量fipを、筒内に供給される総燃料量を基本燃料噴射量Fbaseと一致させるために噴射すべき燃料量に設定してもよい。これにより、第1モード開始直後における排気空燃比abyfの乱れの発生を防止することができる。
また、上記実施形態においては、ポート噴射量fipを決定するために使用される燃料挙動モデルを、吸気ポートに付着するポート付着燃料についてのモデルと、吸気弁に付着するバルブ付着燃料についてのモデルの2つのモデルで構築しているが、燃料挙動モデルを、吸気ポートと吸気弁からなる吸気通路構成部材に付着する燃料についての1つのモデルで構築してもよい。
また、上記実施形態においては、燃料性状取得制御が実行されていない場合において、ポート噴射量fipを決定するために吸気通路構成部材への燃料付着量fwを考慮しているが、同燃料付着を考慮しなくてもよい。この場合、図8のステップ830にて算出される必要ポート流入燃料量Fcの値そのものがポート噴射量fipとして使用される。
また、上記実施形態においては、噴射割合(筒内噴射割合R)を機関の(定常)運転状態に基づいて決定されている値から予め定められた第1の噴射割合(R=0)に変更した後、同第1の噴射割合とは異なる予め定められた第2の噴射割合(R=1)に切換え、噴射割合が同第2の噴射割合に切換えられた時点以降における空燃比センサ出力に基づいて燃料性状を取得するように構成されているが、噴射割合を機関の(定常)運転状態に基づいて決定されている値から予め定められた所定の噴射割合に一回だけ変更し、噴射割合が同所定の噴射割合に変更された時点以降における空燃比センサ出力に基づいて燃料性状を取得するように構成されてもよい。
この場合、噴射割合が上記所定の噴射割合に変更される直前での噴射割合に応じて上記実際の燃料についての空燃比偏移面積SAが変化する。従って、燃料性状の取得に使用される上記重質燃料についての空燃比偏移面積SH、及び軽質燃料についての空燃比偏移面積SLも噴射割合が上記所定の噴射割合に変更される直前での噴射割合に応じて変更する必要がある。
このためには、上記重質燃料についての空燃比偏移面積SH、及び軽質燃料についての空燃比偏移面積SLを求めるためのテーブルを作製する際に、それらの引数として、現時点での冷却水温THWと、筒内吸入空気量Mcと、現時点でのエンジン回転速度NEとに加え、噴射割合が上記所定の噴射割合に変更される直前での噴射割合をも加えることが必要である。
10…火花点火式多気筒内燃機関、20…シリンダブロック部(エンジン本体部)、25…燃焼室、31…吸気ポート、32…吸気弁、39C…筒内噴射弁、39P…ポート噴射弁、41…吸気管、66…上流側空燃比センサ、70…電気制御装置、71…CPU