JP4410238B2 - 保存中の吸湿潮解性が改善された乾燥エキス - Google Patents
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しかしながら、乾燥エキスは大変吸湿しやすく、保存中に容易に固結、あるいは潮解してしまうという特徴を持ち合わせている。例えば、乾燥エキスが配合された粉末調味料は、保存中の吸湿によりベタつきを生じ、その後軟化、収縮、固結等の外観変化を起こすとともに、流動性、溶解性の低下等の物性変化、さらに褐変反応等の進行による色、味、風味の劣化を引き起こす。すなわち、乾燥エキスの吸湿固結や潮解は、それを配合している商品の価値に大きな影響をもたらす。調味料業界ならびに加工食品業界では、商品の物性や保存性確保の制約から、乾燥エキスの使用量に制限を設けざるを得ないこともあることから、乾燥エキスの耐吸湿潮解性を確保する技術の開発が待たれている。
しかしながら、これらは、吸湿性物質と高分子多糖類素材を単に混合しているだけであることから、吸湿性物質が潮解、固結に至るまでの時間が遅くなるだけの効果であり、根本的に吸湿性物質の吸湿潮解性を改質させる手法ではなかった。
しかしながら、いずれも期待する効果を得るためには粉末化基材の配合比率を相対的に高くしなければならず、吸湿性物質本来の味、風味に著しい変化をきたしたり、溶解性を低下させるという問題があって、吸湿性物質の改質手段として効率的なものではなかった。
また、本発明は、エキス素材の配合を必要とする調味料や食品において、エキス素材の使用量を制限されることなく、吸湿に伴う製品の品質低下を抑制することを目的とするものである。
また、同条件下における平衡水分値が高くても、粉体流動性が安息角90°以上、すなわち粉体としての流動性を失っている場合には、この傾向は当てはまらないことを明らかにした。
さらに、本発明者らは、乾燥エキスに複合されている高分子素材について、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が20%以上であることが、過剰な量の食用高分子素材を必要とすることなく、乾燥エキスの耐吸湿性を効率的に向上させている要因であることを突き止めた。
本発明者らは、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載の乾燥エキスを用いた、粉末状、顆粒状あるいは固形状の、調味料又は加工食品を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、寒天及び/又はカラギーナンからなり、かつ、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材と、エキス素材とを、均一混合すると共に、前記均一混合操作の前後いずれかにおいて、前記食用高分子素材を水和あるいは溶解させるための操作を行い、次いで乾燥させて、前記食用高分子素材を固形分質量比率10〜90%の範囲で含有させたことを特徴とする乾燥エキスの製造方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、乾燥後の乾燥エキスの水分含量を20質量%以下とする、請求項3記載の製造方法を提供するものである。
請求項1に係る本発明は、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と複合された状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキスを提供するものである。
また、本発明における食用高分子素材は、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満であるという条件を満たすことが必要である。
本発明において「水分値」とは、試料3gを、70℃、30mmHg以下の減圧条件下にて5時間乾燥させたときの質量減少率で定義している。なお、本発明において「平衡水分値」とは、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態における水分値を指す。
なお、本発明においては、簡易的な安息角の測定手段として、所定の大きさ(直径53mm、高さ84mm)の円柱状の容器に、20gの試料を入れて蓋をし、これを横に倒して、30rpm程度の回転速度で円周方向に回転させた時に、安定して認められる限界傾斜角を測定する方法を採用している。
この「複合操作」とは、均一混合操作と、その後に行なわれる乾燥操作とを含むものである。
この均一混合操作において、食用高分子素材の水和状態もしくは溶解状態が不十分である場合、具体的には、例えば、エキス素材と食用高分子素材とが単に混合されただけの場合や、乾燥前の静置状態において沈殿物を生じる場合などには、本発明の目的を達成することができない。
また、本発明の均一混合操作では、食用高分子素材の水和あるいは溶解を促進するために、適宜加水や加熱処理等を施すことが可能である。具体的な操作手段は、用いる食用高分子素材の種類に応じて適宜設定すれば良い。
また、例えば、食用高分子素材として非即溶タイプの一般的な寒天を用いる場合は、80〜110℃、好ましくは微沸騰状態(100℃程度)に達温するまで加熱し、その後10秒〜50分間、好ましくは3〜5分間保温することにより、水和あるいは溶解させることができる。
食用高分子素材としてカラギーナンを用いる場合は、例えば、50〜110℃、好ましくは70〜90℃に達温するまで加熱することにより、水和あるいは溶解させることができる。
ここで、エキス素材と食用高分子素材とを均一に混合するための操作方法は特に限定されず、例えば、ホモジナイザーやミキサー等で混合撹拌する方法が挙げられる。
なお、上記の均一混合操作で得られた混合物は、直ちに次の乾燥操作を施すこともできるし、常法により濃縮あるいは精製した後に乾燥操作を施すことも可能である。
上記の乾燥操作により得られた乾燥エキスはそのままでも使用できるが、粉砕等により粉末状、微粉状等としての使用も可能である。
したがって、本発明において使用する食用高分子素材を選定するにあたっては、上記した乾燥エキスの製造工程をエキス素材抜きで行って得られた乾燥高分子素材について、その平衡水分値を測定するのが好ましい。
なお、食用高分子素材の粉体流動性(安息角)についても、平衡水分値と同様に上記の複合操作によって受ける影響が大きいことから、乾燥エキスの製造工程をエキス素材抜きで行って得られた乾燥高分子素材について、その安息角を測定するのが好ましい。
そのため、食用高分子素材の配合比率は、乾燥エキスの固形分換算で10〜90%(w/w)の範囲である必要がある。さらに好ましい配合比率については、出来上がりの乾燥エキスに求める耐吸湿潮解性に応じて適宜設定できる。
また、例えば、エキス素材としてビーフオニオンとオニオンエキスの等量ミックスを、食用高分子素材としてカラギーナンを使用する場合において、流動限界Awを0.7以上確保したい場合には、カラギーナンの配合比率(固形分換算)は40〜90%、好ましくは50〜70%(いずれもw/w)とすれば良い。
上記エキスの例としては、畜肉、魚肉、鶏ガラ、魚介類、野菜類及び果実類から抽出された少なくとも1種類以上のものが挙げられる。
ここで畜肉としては、例えば牛肉、豚肉、鶏肉などを挙げることができ、また、魚肉としては、例えば鰹、鮪、鰯などの肉を挙げることができる。鶏ガラとしては、例えば廃鶏ガラ、ブロイラーガラなどを挙げることができ、魚介類としては、例えばアワビ、ホタテ、アサリ、カキ、エビ、イカなどを挙げることができる。また、野菜類としては、例えばタマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キャベツなどを挙げることができ、果実類としてはリンゴ、バナナ、パイン等を挙げることができる。
また、エキスの抽出に用いる野菜類および果実類は、そのままでも、或いは予め粉砕しても構わず、特に形状に制限はない。これら野菜類および果実類としては、予め加熱等の処理を行い、ペースト状にしたものを用いることもできる。さらに、エキスの味覚調整のため、砂糖、乳糖、ブドウ糖、果糖、異性化糖などの糖類を添加することも可能である。
寒天には、その原料、製法により種々の特性を持つものが知られているが、一般に、寒天のゼリー強度が高いほど、温度24℃、相対湿度75%の環境下における平衡水分値が高くなり、乾燥エキスの耐吸湿性改善効果も高くなる傾向にある。
なお、近年、加熱操作が必要なく、水や温水に溶解する即溶タイプの寒天素材が多々開発されているが、本発明においてこれらを活用することは、エキス素材との複合操作をより簡便化できる見地から非常に有効である。
本発明の乾燥エキスは、通常の保管・流通環境下において、例えば流動限界Awが0.7以上を示すなど、粉体流動性を維持しており、吸湿潮解性が大幅に改善されているため、特に、保存中の吸湿等による品質の劣化が大きな課題となっている粉末状、顆粒状あるいは固形状の調味料や加工食品に使用すると効果的である。このような加工食品の具体例としては、スープ、ソース、ブイヨン、ルー等が挙げられる。
本発明の乾燥エキスを用いて調味料、加工食品等を製造する方法については、常法により行えばよい。例えば、本発明の乾燥エキスをその他の原料と一緒に混合、造粒、打錠等することにより、粉状、顆粒状、キューブ状の調味料あるいは加工食品を製造することができる。
固形分濃度50質量%のビーフエキス(BERTIN LTDA)1質量部ならびに固形分濃度50質量%のオニオンエキス(大洋エーアンドエフ)1質量部を混合し、固形分濃度50質量%のエキスミックスを得た。
また、表1に示す市販の各種食用高分子素材(寒天、カラギーナン、ゼラチン、ペクチン、馬鈴薯澱粉、小麦粉、デキストリン)を減圧乾燥し、水分1質量%以下の各種乾燥高分子素材を得た。なお、寒天(ウルトラ寒天UP37K/伊那食品工業)は、温水溶解性を持つ即溶性寒天である。
次に、エキスミックス2質量部、各種乾燥高分子素材1質量部および水17質量部を混合し、各種乾燥高分子素材を水和あるいは溶解させるための必要最低限の加熱処理(条件は表1に示す。)を施した。これを凍結乾燥に供し、水分1質量%以下の各種乾燥改質エキスを得た。さらに、これを粉砕操作に供し、目開き1.0mmのメッシュパスの各種乾燥改質エキスサンプルを得た。なお、各種サンプルにおけるエキスと食用高分子素材との固形分質量換算での配合比率は1:1である。
なお、上記のエキスミックスを単独で上記と同様の凍結乾燥操作ならびに粉砕操作に供して得られた粉末をコントロールサンプルとした。
所定の大きさ(直径53mm、高さ84mm)の円柱状の容器に、各々のサンプル20gを入れ、これを温度24℃、相対湿度60〜80%の範囲に設定した恒温恒湿槽(LH21-11P / ナガノサイエンス社)に保管した。経時的に容器を振って吸湿度合いの均質化を図りながら、各サンプルの安息角の挙動を追跡した。サンプルの安息角が90°を超えた時点で水分活性(Aw)測定装置(ノバシーナTH500 / 日本シイベルヘグナー)に供し、流動限界Awを測定した。
コントロールならびに各種乾燥改質エキスサンプルの流動限界Awについて、表1に示した。
なお、平衡水分値は、試料3gを、70℃、30mmHg以下の減圧条件下にて5時間乾燥させたときの質量減少率(%)で表した。
また、安息角の測定は、直径53mm、高さ84mmの円柱状の容器に、20gの試料を入れて蓋をし、これを横に倒して30rpm程度の回転速度で円周方向に回転させた時に、安定して認められる限界傾斜角を測定して安息角(°)とした。
特に、各種の寒天やカラギーナンを使用した場合には、乾燥改質エキスサンプル中の食用高分子素材の配合比率が50質量%以下であった場合でも、流動限界Aw0.70以上という極めて高い耐吸湿性潮解性を確保できることが明らかとなった。
一方で、ゼラチンや各種澱粉など平衡水分値が20%以下の食用高分子素材や、一部のデキストリン等のように粉体としての流動性を失ってしまう(安息角90°以上である)食用高分子素材を用いた場合は、期待するほどの耐吸湿潮解性改善効果は得られないことが明らかとなった。
実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて、撹拌しながらこれを加熱した。沸騰状態に達してから3分間保持した後、これを凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルA(本発明品/ 適正複合品)とした。
次に、実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて混合・撹拌し、加熱処理により水和あるいは溶解させることなく、凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルB(複合不完全品 / 単純混合品)とした。
また、実施例1で調製したエキスミックス2質量部に対し、水分1質量%以下まで乾燥させた寒天(S6 / 伊那食品工業)1質量部ならびに水30質量部を加えて、撹拌しながらこれを加熱した。沸騰状態に達してから60分間保持した後、これを凍結乾燥して水分1質量%以下とし、さらに粉砕に供することにより、目開き1.0mmのメッシュパスの乾燥改質エキスサンプルC(寒天平衡水分値20%未達品)とした。
したがって、本発明品と同じ食用高分子素材を使用した場合でも、エキスミックスとの複合のさせ方が異なった場合、すなわち、ただ単純に混ぜ合わせただけの場合や、過度の加熱処理等によって本来発揮すべき高分子素材の機能を消失させてしまった場合には、耐吸湿潮解性向上の効果が得られない、もしくは著しく小さくなることが明らかとなった。
従って、本発明は、調味料や加工食品の分野を含む食品産業界において有効に利用されることが期待される。
Claims (4)
- 寒天及び/又はカラギーナンからなり、かつ、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材が、エキス素材と、前記食用高分子素材の水和あるいは溶解操作を含む均一混合操作及び引き続いての乾燥操作がなされた状態で、固形分質量比率10〜90%の範囲で含有されていることを特徴とする乾燥エキス。
- 請求項1に記載の乾燥エキスを用いた、粉末状、顆粒状あるいは固形状の、調味料又は加工食品。
- 寒天及び/又はカラギーナンからなり、かつ、温度24℃、相対湿度75%環境下での平衡状態において、水分値が20%以上であり、かつ、粉体流動性が安息角90°未満である食用高分子素材と、エキス素材とを、均一混合すると共に、前記均一混合操作の前後いずれかにおいて、前記食用高分子素材を水和あるいは溶解させるための操作を行い、次いで乾燥させて、前記食用高分子素材を固形分質量比率10〜90%の範囲で含有させたことを特徴とする乾燥エキスの製造方法。
- 乾燥後の乾燥エキスの水分含量を20質量%以下とする、請求項3記載の製造方法。
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