JP4409511B2 - クロマトグラフィー用分離剤及びその製造方法 - Google Patents
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Description
こうした、多糖類誘導体を担体に担持させて用いたクロマトグラフィー用分離剤は、高い光学異性体の分離能を有しており、分析用に用いられるのみならず、各種医薬品の製造等、光学異性体の大量分取用としても用いられている。
しかし、上記従来の多糖類誘導体を用いたクロマトグラフィー用分離剤は、多糖類誘導体が担体に対して物理的な吸着によって担持されているだけであるため、溶出溶媒の種類によっては多糖類誘導体がその溶出溶媒に溶解し、使用不能となることもある。
特に、光学異性体の大量分取のためには、分離前の原料を高濃度に溶出溶媒に溶解させる必要があり、そうしたことが可能な溶出溶媒は、一般に多糖類誘導体の溶解度も大きいため、問題となっていた。
また、多糖類誘導体の機械的強度も小さいため、特にHPLC用として用いた場合には、その圧力に耐えられないことも問題となっていた。
これらの不具合を防止するため、多糖類誘導体を担体の表面に化学結合させ、溶出溶媒による多糖類誘導体の溶出を防ぐとともに、その機械的強度を高めることも試みられている。
例えば特開平4−202141号公報には、多糖類の水酸基にエステル結合やウレタン結合を介してビニル基を導入した多糖類誘導体とビニル基を化学結合させた担体との間で共重合を行い、多糖類誘導体を担体に化学結合させたクロマトグラフィー用分離剤が記載されている。
また、本発明者らにあっても、先に特公平7−30122号公報において、イソシアネート化合物を介して多糖類誘導体をシリカゲルに化学結合させ、溶出溶媒による多糖類誘導体の溶出を防止するクロマトグラフィー用分離剤を提案している。
さらに、本発明者らは、特開平11−171800号公報において、セルロース誘導体を担持したシリカゲル上でスチレン及びジビニルベンゼンを共重合させて3次元網目構造とすることにより、溶出溶媒によるセルロース誘導体の溶出を防止することを提案している。
しかし、上記公報に記載のクロマトグラフィー用分離剤によっても、担体に固定化された多糖類誘導体の溶出溶媒による溶出を完全に防止することはできなかった。
この点、本発明者らは、さらに特開2002−148247号公報において、あらかじめ多糖類誘導体に重合性の不飽和基を導入しておくとともに、シランカップリング剤を介して2−メタクリロイロキシエチル基が導入されたシリカゲルを用意し、これらを共重合によって化学結合させることにより、シリカゲルに対して固定化率の高いクロマトグラフィー用分離剤を提案している。
このクロマトグラフィー用分離剤によれば、多糖類誘導体の溶出溶媒による溶出をほぼ完全に防止することが可能であるとともに、その光学異性体の分離能も優れたものとなる。さらに、その機械的強度も大きなものとなる。
しかし、上記公報に記載のクロマトグラフィー用分離剤では、光学異性体の分離に寄与するために必要なキラリティーを有するのは多糖類誘導体のみであり、キラリティーを有さないシリカゲル等の担体は、光学異性体の分離に直接的に寄与するものではない。このため、クロマトグラフィー用分離剤をカラムに充填した場合において一度に光学分割できる量は、シリカゲル等の担体が占めている分だけ少なくなってしまう。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、多糖類から誘導された多糖類誘導体を用いるクロマトグラフィー用分離剤において、前記多糖類誘導体は、前記多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基同士が架橋分子を介して架橋されており、該多糖類に存在する該水酸基の内の架橋されていない水酸基は修飾分子によって修飾された構造とされており、該多糖類誘導体は担体に担持されていないことを特徴とする。
また本発明は、多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基に保護基を導入する保護基導入工程と、該保護基が導入された多糖類に残存する水酸基に修飾分子を修飾する修飾工程と、導入された保護基を脱離させて水酸基を再生させる脱離工程と、再生された該水酸基同士を架橋分子によって架橋する架橋工程とを含むクロマトグラフィー用分離剤の製造方法を提供する。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤では、多糖類誘導体が架橋分子によって架橋されているため、その3次元網目構造によって耐溶媒性が格段に向上する。このため、従来の多糖類誘導体を用いたクロマトグラフィー用分離剤では使用することができなかったクロロホルム、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の溶出溶媒も使用可能となる。
また、このクロマトグラフィー用分離剤では、担体を全く使用しておらず、光学異性体の分離に直接的に寄与する多糖類誘導体から成り立っている。このため、カラム中に充填できる多糖類誘導体の量を多くすることが可能となり、一度に光学分割できる量も多くなる。
しかも、多糖類誘導体は架橋により、その機械的強度も飛躍的に大きくされているため、HPLC用分離剤として使用したとしても、その圧力に十分耐えることができる。
図2は、実施例1のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図3は、実施例1のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図4は、実施例3のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図5は、実施例3のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図6は、比較例1のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図7は、比較例1のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図8は、実施例4における架橋後のビーズAの走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図9は、実施例4における架橋後のビーズBの走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図10は、実施例4のカラムAと比較例1のクロマトグラフィー用分離剤を充填したカラムとを用い、一回当たりの注入される2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノール(9)のラセミ体の量を変えて光学分割を行ったときのクロマトグラフを示す図である。
図11は、ポロジェンにポリスチレンを用いた実施例5のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図12は、ポロジェンにポリメチルメタクリレートを用いた実施例6のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
図13は、ポロジェンにポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを用いた実施例7のクロマトグラフィー用分離剤の走査型電子顕微鏡による二次電子像(写真)である。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、HPLC用に限られるものではなく、超臨界流体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、キャピラリークロマトグラフィー等、他のクロマトグラフィー用としても用いることができる。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤の原料となる多糖類としては、天然多糖類、合成多糖類及び天然物変性多糖類のいずれも問わず、キラリティーを有するものであれば用いることができる。そのなかでも結合様式が規則正しいものは、より光学異性体の分離能力を高めることが可能となり、好適である。
このような多糖類の代表としてセルロースが挙げられるが、その他に、アミロース、キシラン、キトサン、キチン、マンナン、イヌリン、カードラン、デンプン、デキストラン、アミロペクチン、ブスツラン、グルカン、ガラクタン、レバン、ブルラン、アガロース、アルギン酸等があり、また、アミロースを含有するデンプンも用いることが可能である。それらの中でも、高純度の多糖類として容易に入手することのできるセルロース、アミロース、キシラン、キトサン、キチン、マンナン、イヌリン、カードラン等が好ましく、特にセルロース、アミロースが有利に用いられることとなる。
また、これらの多糖類の数平均重合度(1分子中に含まれるピラノース環あるいはフラノース環の平均数)は、5以上、好ましくは10以上であり、取り扱いの容易さ等の点から、一般に3,000以下であることが望ましい。
架橋分子による架橋はピラノース環又はフラノース環の6位の水酸基同士で行われていることが好ましい。発明者らの試験結果によれば、これらの6位の水酸基部分は、光学異性体の分離能にそれほど影響を与えないことが分かっており、この部位を利用して架橋しても、光学異性体の分離能力が低下することはない。また、6位の水酸基は活性に富むため、架橋分子による架橋反応を容易に行うことができる。
ところで、本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、上記のような多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基同士が架橋剤を介して架橋されているのであるが、架橋剤としては水酸基同士を架橋することが可能ならば、いかなる化合物をも使用することができる。
このような架橋剤としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の1分子に複数のイソシアナート基を有する分子の他、ジカルボン酸やそのハライド、アミド、エステル等を用いることができる。
また、多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基に塩化アクリロイル、塩化メタクリロイル、塩化ビニルベンゾイル等の不飽和酸ハロゲン化物や、ビニルフェニルイソシアナート等の不飽和イソシアナート類によって重合可能な不飽和基を導入しておき、さらに、スチレン、ジビニルベンゼン、イソプレン等の不飽和炭化水素モノマーや、(メタ)アクリル酸誘導体類等と共重合させることによって架橋させることもできる(特開2002−148247号公報参照)。
以上のような架橋剤の中でも、1分子に複数のイソシアナート基を有する化合物は容易に架橋反応が進行するとともに、反応段数も少なく、好適である。
また、多糖類に存在する水酸基の内の架橋されていない水酸基を修飾するための修飾分子としては特に限定はなく、イソシアン酸誘導体、カルボン酸、エステル、酸ハライド、酸アミド、ハロゲン化物、エポキシ化合物、アルデヒド、アルコール等、水酸基を修飾できる化合物であればよい。それらの化合物の中でも、フェニルイソシアナート等の1分子に1つのイソシアナート基を有する化合物が好ましい。こうであれば、水酸基の修飾を簡単な反応操作で、収率よく行うことができる。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、ビーズ形状とされていることが好ましい。こうであれば、カラムに充填したときの充填率を高めることができ、ひいては、光学異性体の分離能力を高いものとすることができる。
本発明において「ビーズ形状」とは、ほぼ球状又は球状の形状であり、例えば20個程度のクロマトグラフィー用分離剤の粒子の最長直径と最短直径とを測定したときに、最長直径と最短直径との比の平均値が1.0〜5.0、好ましくは1.0〜2.0、より好ましくは1.0〜1.3となる形状である。
また、本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、カラムに充填したときの充填率を高め、光学異性体の分離能力を高める観点から、粒径が1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましく、3〜20μmであることがより一層好ましい。クロマトグラフィー用分離剤の粒径は、例えば分級によって調整することが可能である。
また、本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、空孔を有することが、クロマトグラフィー用分離剤の表面積を大きくし、光学異性体の分離能力を高める観点から好ましい。
また、本発明において、クロマトグラフィー用分離剤の粒子形状や粒径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影されたクロマトグラフィー用分離剤の画像から求めることが可能である。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、次のようにして製造することができる。すなわち、本発明のクロマトグラフィー用分離剤の第1の製造方法は、多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基に保護基を導入する保護基導入工程と、該保護基が導入された多糖類に残存する水酸基に修飾分子を修飾する修飾工程と、導入された保護基を脱離させて水酸基を再生させる脱離工程と、再生された該水酸基同士を架橋分子によって架橋する架橋工程とを有することを特徴とする。
こうして保護基導入工程によって保護基を導入することにより、所定の水酸基に確実に修飾分子及び架橋分子を結合させることが可能となる。
保護基導入工程において導入される保護基は、修飾工程において水酸基を修飾する修飾分子よりも容易に水酸基から脱離させることが可能な基であれば特に限定されない。このような保護基を水酸基に導入するための化合物には、例えば修飾分子を用いることができる。保護基を導入するための化合物は、例えば保護や修飾の対象となる水酸基の反応性や前記化合物の水酸基に対する反応性に基づいて決定することができる。
水酸基への保護基の導入、修飾分子による水酸基の修飾、及び架橋分子による水酸基同士の架橋は、水酸基と反応させる化合物の種類に応じた公知の適当な反応によって行うことができる。また脱離工程における前記保護基の水酸基からの脱離は、特に限定されず、例えば酸やアルカリによる加水分解等の公知の方法によって行うことができる。
なお、架橋工程においては、再生された水酸基のすべてを架橋分子によって架橋することも可能ではあるが、部分的に架橋することもできる。この場合、残った水酸基は、修飾工程と同様の操作によって修飾することが好ましい。
本発明では、前述した工程に加えて、前記脱離工程において水酸基を再生させた再生多糖類誘導体を溶媒に溶解する工程と、得られた再生多糖類誘導体溶液にポロジェンを分散させる工程と、ポロジェンを分散させた前記再生多糖類誘導体溶液を所望の形状に維持しながら前記溶媒を除去して所望の形状の再生多糖類誘導体を形成する工程と、形成された再生多糖類誘導体を、ポロジェンを溶解する洗浄溶媒で洗浄する工程と、をさらに含むことにより、空孔を有するクロマトグラフィー用分離剤を製造することができる。
前記ポロジェンは、前記再生多糖類誘導体溶液中に分散可能な固体の化合物であって、多糖類誘導体とは別に溶かすことができる固体の化合物である。このようなポロジェンには、種々の有機化合物及び無機化合物を用いることが可能であるが、再生多糖類誘導体溶液中への分散性や、後述するビーズ形成時の再生多糖類誘導体溶液の液滴の安定性等の観点から、有機化合物を用いることが好ましい。このような有機化合物には、ポリスチレン等の種々のポリマーを用いることができる。
前記再生多糖類誘導体溶液に用いられる溶媒は、脱離工程において水酸基を再生させた前記再生多糖類誘導体を溶解できる溶媒であれば良い。前記再生多糖類誘導体溶液は、例えば所望の形状の容器に収容することや、後述するビーズの形成のように、液滴を形成する等の種々の方法によって、所望の形状に維持することができる。またポロジェンを分散させた前記再生多糖類誘導体溶液をカラム管に収容しても良い。前記再生多糖類誘導体溶液からの溶媒の除去は、加熱や減圧、及びこれら両方によって行うことができる。
所望の形状に形成された再生多糖類誘導体からポロジェンを溶解する洗浄溶媒には、ポロジェンを溶解する溶媒であれば良いが、多糖類誘導体を溶解せずにポロジェンのみを溶解する溶媒が好ましく、多糖類誘導体よりもポロジェンに対する溶解性が高い溶媒がより好ましく、ポロジェンのみを溶解する溶媒であることがより一層好ましい。このような洗浄溶媒は、多糖類誘導体及びポロジェンの種類やこれらに対する溶媒の溶解性等に応じて、公知の溶媒の中から選ぶことができる。
また、架橋工程は、修飾工程において水酸基を再生させた再生多糖類誘導体を溶媒に溶解して再生多糖類誘導体溶液とし、界面活性剤の溶液中に該再生多糖類誘導体溶液を滴下し、さらに攪拌することによってビーズ形状の再生多糖類誘導体とするビーズ形成工程と、ビーズ形状の再生多糖類誘導体に架橋分子を架橋してビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤とするビーズ架橋工程とからなることが好ましい。発明者らの試験結果によれば、こうした方法によってビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤を容易に製造することができる。
前記ビーズ形成工程において前記再生多糖類誘導体溶液に用いられる溶媒は、脱離工程において水酸基を再生させた前記再生多糖類誘導体を溶解できる溶媒であれば良い。この溶媒が前記界面活性剤の溶液に溶解する場合では、本発明では、界面活性剤の溶液に対して非溶性又は難溶性の助溶媒をさらに用いて前記再生多糖類誘導体溶液とすることができる。前記助溶媒を含有していても良い前記再生多糖類誘導体溶液を前記界面活性剤の溶液に滴下することによって、前記界面活性剤の溶液中に前記再生多糖類誘導体溶液の液滴を形成することができ、さらに再生多糖類誘導体溶液から溶媒(及び/又は助溶媒)を留去させることによって、ビーズ形状の多糖類誘導体を形成することができる。
前記界面活性剤は、前記界面活性剤の溶液中に形成される前記再生多糖類誘導体溶液の液滴を安定して存在させることができる化合物であれば特に限定されない。このような界面活性剤には、例えばアニオン界面活性剤を用いることができる。
なお、前記ビーズ架橋工程は、前記架橋工程と同様に行うことができる。
本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、次のようにして製造することもできる。すなわち、本発明のクロマトグラフィー用分離剤の第2の製造方法は、多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基同士を架橋分子によって架橋する架橋工程と、該架橋分子によって架橋された多糖類に残存する水酸基に修飾分子を修飾する修飾工程とを有することを特徴とする。
この方法によれば、保護基をわざわざ導入する必要がなく、工程数を減らすことができる。このため、製造コストの低廉化を図ることができる。また。ビーズ形状の多糖類は市販されており、この市販のビーズ形状の多糖類を用いて、ビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤を安価かつ大量に供給することができる。
また、本発明では、一分子中に複数のイソシアナート基を有する化合物のように、多糖類又は多糖類誘導体の水酸基に対して結合する架橋部位を一分子中に複数有する化合物を前記架橋工程において架橋剤に用いる場合では、架橋後の多糖類又は多糖類誘導体におけるフリーの前記架橋部位を修飾する工程をさらに含むことが可能である。このような工程によれば、光学分割時において、前記フリーの架橋部位と光学異性体との相互作用を抑制することが可能となる。
前記架橋部位の修飾は、架橋部位と相互作用を呈すると思われる光学分割の対象となる光学異性体に応じて異なるが、通常は極性の低い置換基を用いて行うことが好ましく、また前記架橋部位に対する立体障害性を高める観点から嵩高い置換基を用いて行うことが好ましい。このような置換基としては、例えばt−ブチル基やトリチル基等の分岐構造を有する炭化水素基が挙げられる。このような置換基による前記架橋部位の修飾は、前述した保護基導入工程や修飾工程等と同様に、例えば縮合反応等の公知の適当な反応によって行うことができる。
また、本発明では、前記ビーズ形成工程において、前記再生多糖類誘導体溶液にポロジェンを分散させ、ポロジェンを含有する前記再生多糖類誘導体溶液を前記界面活性剤の溶液に滴下して、ポロジェンを含有するビーズ形状の再生多糖類誘導体(ポロジェン含有ビーズ)を形成し、このポロジェン含有ビーズを前記洗浄溶媒で洗浄し、ポロジェン含有ビーズのポロジェンを溶解することによって、クロマトグラフィー用分離剤を製造することも可能である。
このような操作によれば、ビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤に多数の空孔を形成することが可能となり、クロマトグラフィー用分離剤の表面積を増やし、又は調整することが可能となる。これにより光学分割能の増加や調整を図ることができる。
なお、ポロジェンを用いる場合、ポロジェンの溶解は、前記所望の形状のクロマトグラフィー用分離剤を製造する場合では架橋工程の前でも良いし後でも良く、またビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤を製造する場合ではビーズ架橋工程の前でも良いし後でも良い。
以下、本発明を具体化した実施例1〜7を説明する。
<保護基導入工程>
まず保護基導入工程として、式(1)に示すように、6位の水酸基のトリチル化を行った。
すなわち、乾燥させたセルロース13g(86mmol)に塩化リチウム 9.2gと乾燥N,N’−ジメチルアセトアミド135mlを加え、窒素雰囲気下、100℃で137時間膨潤させた後、トリフェニルメチルクロライド50g(180mmol)とピリジン200mlとを加え、100℃で28時間反応させた。ピリジン可溶部をメタノール中に滴下して不溶部を回収した後、真空乾燥を行い、グルコース環の6位の水酸基がトリチル化されたセルロース誘導体を得た。
<修飾工程>
次に、こうしてトリチル化されたセルロース誘導体に対し、式(2)に示すように、残存する水酸基のカルバモイル化を行った。
すなわち、保護基導入工程によって6位の水酸基がトリチル化されたセルロース誘導体17gをピリジン160mlに溶かし、窒素雰囲気下で3,5−ジメチルフェニルイソシアナート19g(128mmol)を加え80℃で20時間反応させた。反応溶液をサンプリングして赤外吸収スペクトルを測定し、溶液中の未反応のイソシアナートの存在を確認した後、反応溶液をメタノールに滴下して不溶物を回収し、真空乾燥して、セルロース 2,3−ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバモイル)−6−O−トリチルセルロース28gを得た。
<脱離工程>
さらに、こうして水酸基がカルバモイル化されたセルロース誘導体から、式(3)に示すようにトリチル基を脱離させた。
すなわち、修飾工程によって得られた2,3−ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバモイル)−6−O−トリチルセルロースを1%HCl/メタノール500ml中で24時間攪拌して脱保護を行って、6位を水酸基に戻した。その後、反応液をガラスフィルターでろ過しながらメタノールで洗浄し、真空乾燥を行い、セルロース 2,3−ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)20gを得た。
但し、6位の水酸基の存在率を1H NMRスペクトルから算出したところ63%程度であり、残りは3,5−ジメチルフェニルイソシアナートによってカルバメート化されていた。以下この誘導体を「OD(6−OH)−63」と略す。
<ビーズ形成工程>
こうして得られたOD(6−OH)−63をテトラヒドロフランに溶解させ、さらに少量のヘプタノールを加えた。次に、この溶液をラウリル硫酸ナトリウムの水溶液へ、6枚羽根型のスクリューが取り付けられたディスパーザーで前記水溶液を攪拌しながら滴下した。滴下終了後、前記水溶液が入った容器を収容した水浴の温度を室温から75℃まで上昇させてテトラヒドロフランを留去させ、生成したビーズを吸引ろ過で回収し、水とエタノールで洗浄した。洗浄後、真空乾燥を行い、OD(6−OH)−63からなるビーズを得た。なお、容器にはビーカーを使用した。こうしてOD(6−OH)−63からなるビーズ
を製造した結果を表1に示す。
<ビーズ架橋工程>
そして、脱離工程において再生させた水酸基に対して、式(4)に示すように架橋反応を行った。
すなわち、乾燥させたOD(6−OH)−63からなるビーズ0.91gに窒素雰囲気下でトルエン10mlを加え、80℃で3時間加熱してビーズを膨潤させた後、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート0.13g(0.52mmol)を加えて6時間反応させた。少量のビーズをサンプリングしてテトラヒドロフランに不溶となったことを確認した後、過剰量の3,5−ジメチルフェニルイソシアナート0.5g(3.4mmol)を加え14時間反応させた。IR測定によって未反応のイソシアナートが存在することを確認した後、吸引ろ過をしてビーズを回収し、吸引しながら温めたメタノールで洗浄し、生成した尿素を除去した。IRによって尿素が存在しないことを確認した後、真空乾燥して6位の水酸基が30%架橋された実施例1のビーズ0.88gを得た。
すなわち、市販のセルロースビーズ(チッソ株式会社、商品名「Cellflow C−25」)1.0g(6.3mmol)に塩化リチウム0.68gとN,N’−ジメチルアセトアミド10mlを加え、窒素雰囲気下、80℃で60時間膨潤させたのち、ピリジン10mlと4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート0.47g(1.9mmol)を加えてゲル化させた。さらにピリジン10mlを加え、3,5−ジメチルフェニルイソシアナート3.8g(26mmol)を加えて22時間反応させた。IRにより未反応のイソシアナートが存在することを確認した後、吸引ろ過しながら温めたメタノールで洗浄し、ビーズを回収した。このビーズを真空乾燥して6位の水酸基が30%架橋された実施例3のビーズ1.5gを得た。
(比較例1)
比較例1のクロマトグラフィー用分離剤は、セルロースの3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体をシリカゲル上に担持させたものであり、以下のようにして製造した。すなわち、多孔性シリカゲル(粒形7μm、孔径100nm)を乾燥後、ベンゼン中、80℃触媒量のピリジンの存在下、3−アミノプロピルトリエトキシシランと反応させた後、これをメタノール、アセトン、ヘキサンで洗浄し、さらに乾燥させた。こうしてアミノプロピル基で修飾されたシリカゲル3gに、セルロース トリス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)のテトラヒドロフラン溶液(0.75g/10ml)を少量ずつ添加しながらふりまぜた後、溶媒のテトラヒドロフランを減圧下で留去することで、セルロースの3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体をシリカゲル上に担持させた比較例1のクロマトグラフィー用分離剤を得た。
評 価
(光学分割試験1)
実施例1〜3のクロマトグラフィー用分離剤について、篩分によって3μm〜15μmの粒径のものを分取し、長さ25cm、内径0.2cmのステンレス−スチール製のカラムにスラリー法を用いて充填した。充填にあたっては、分取した実施例1〜3のクロマトグラフィー用分離剤をヘキサン/流動パラフィン(2/1)30mlに分散させ、溶媒としてヘキサン/2−プロパノール(9/1)を用い、充填圧力は50kg/cm2(4.9MPa)とした。
なお、実施例1については、充填圧力を100kg/cm2(9.8MPa)としたカラムも作製した。
また、比較例1のクロマトグラフィー用分離剤についても、同様のカラムを用い同様の操作で充填した。ただし、充填圧力は始めの数分を400kg/cm2とし、その後100kg/cm2とした。
また、比較例1のクロマトグラフィー用分離剤は、長さ25cm、内径0.46cm及び、長さ25cm、内径0.2cmのステンレス−スチール製のカラムにスラリー法を用いて充填した。
上記の操作で得られた実施例1〜3及び比較例1のクロマトグラフィー用分離剤を充填したカラムを用い、以下の構造式1から10に示す10種類のラセミ体について光学分割試験を行った。
溶離液はヘキサン/2−プロパノール=9/1とし、流速は実施例1〜3では0.2ml/minとし、比較例1では内径0.46cmのカラムでは0.5ml/minとし、内径0.2cmのカラムでは0.1ml/minとした。UV検出器と旋光検出器とを併用して検出を行った。理論段数Nはベンゼンのピークから求め、溶離液がカラムを通過する時間t0は1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンの溶出時間から求めた。なお、充填前後のビーズのSEM観察では、充填時の加圧によるビーズの変形などは見られなかった。結果を表2に示す。
表2中のK1’は容量比を示し、αは分離係数を示す。かっこの中の符号は先に溶出したエナンチオマーの旋光性を示す。表2から、実施例1〜3の容量比k1’は、比較例1のk1’と比べて2.5倍〜3倍であることが分かる。これは、実施例1〜3のクロマトグラフィー用分離剤は、担体を使用していないことによるものと考えられる。したがって、実施例1〜3のクロマトグラフィー用分離剤は、1度に
よりたくさんの量の光学分割を行うことが可能であると推定される。
また、理論段数の測定結果を表3に示す。
この表から分かるように、充填圧力50kg/cm2で実施例1のクロマトグラフィー用分離剤を充填したカラムにおいて、比較例1の理論段数を上回った。
(光学分割試験2)
長さ25cm、内径0.2cmのステンレス−スチール製のカラムを用い、50kg/cm2の充填圧力で充填した実施例1のクロマトグラフィー用分離剤及び比較例1のクロマトグラフィー用分離剤について、光学異性体をワンショットで分離できる最大量を求めた。
すなわち、2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノールのラセミ体を溶離液と同じ組成の溶媒に溶かして10mg/ml、40mg/ml、50mg/mlの濃度の溶液を調製する。これらの溶液を用いて光学分割を行い、得られたチャートにおいて2つのエナンチオマーのピークが重なった時のラセミ体の量を、そのカラムが分割できる最大量とした。結果を図1に示す。
図1から分かるように、比較例1の内径0.2cmのカラムを用いた場合では、6mgまでしか分離ができなかったのに対し、実施例1では8mgまで、ほぼ完全に分離することができた。
(走査型電子顕微鏡による観察)
実施例1、3及び比較例1について、走査型電子顕微鏡による写真撮影を行った。その結果、図2〜図7に示すように、実施例1及び実施例3のクロマトグラフィー用分離剤は、比較例1のそれと同様、ビーズ形状とされていることが分かった。
まずビーズの材料として、後にジイソシアナートを用いて架橋させるために、6位に水酸基を残したセルロースの3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体、OD(6−OH)を合成した。
乾燥させたセルロース10g(62mmol)に塩化リチウム15gと脱水N,N’−ジメチルアセトアミド150mlを加え、窒素雰囲気下、80℃で27時間膨潤させた後、トリフェニルメチルクロライド32g(114mmol)とピリジン150mlとを加え、80℃で24時間反応させた。ピリジン可溶部をメタノール中に滴下して不溶部として回収した後、真空乾燥を行った。
得られた誘導体は、グルコース環の6位の水酸基が完全にトリチル化されていなかったため、再度この誘導体に、塩化リチウム15gと脱水N,N’−ジメチルアセトアミド150mlを加え、窒素雰囲気下、80℃で24時間膨潤させた後、トリフェニルメチルクロライド17g(62mmol)とピリジン150mlとを加え、80℃で24時間反応させた。ピリジン可溶部をメタノール中に滴下して不溶部を回収した後、真空乾燥を行い、グルコース環の6位の水酸基がトリチル化されたセルロース誘導体を得た。
次に、得られた誘導体21gをピリジン190mlに溶かし、窒素雰囲気下で3,5−ジメチルフェニルイソシアナート22g(150mmol)を加え80℃で30時間反応させた。反応溶液をサンプリングして赤外吸収スペクトルを測定し、溶液中の未反応のイソシアナートの存在を確認した後、反応溶液をメタノールに滴下して不溶物を回収し、セルロース 2,3−ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバモイル)−6−O−トリチルセルロースを得た。
次に、この誘導体を、1%HCl/メタノール1,500ml中で24時間攪拌して脱保護を行って、6位を水酸基に戻した。メタノールで洗浄後、真空乾燥を行い、目的のセルロース 2,3−ビス(3,5−ジメチルフェニルカルバメート)を24g得た。
OD(6−OH)−25の合成
次に、得られた誘導体のうち、10g(22mmol)をピリジン65mlに溶かし、窒素雰囲気下で3,5−ジメチルフェニルイソシアナート2.5g(1.7mmol)を加え80℃で18時間反応させた。反応溶液をメタノールに滴下して不溶物を回収し、真空乾燥を行った。反応前の誘導体と3,5−ジメチルフェニルイソシアナートとの仕込み比より、グルコース環の6位の水酸基が25%程度残っていることになり、以下この誘導体をOD(6−OH)−25とする。
(b)OD(6−OH)−25ビーズの調製
0.25gのOD(6−OH)−25をテトラヒドロフラン/ヘプタノール(2/1,v/v)混合溶媒30mlに溶かした。0.2%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液500mlが入った容器を収容している水浴の温度を75℃にあげ、0.2%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液500mlをディスパーザーで、シャフト回転数1100rpmで攪拌しながら、前記OD(6−OH)−25の溶液を前記水溶液に滴下した。滴下後も水浴の温度を75℃に保ち、テトラヒドロフランを留去させ、生成したビーズを吸引ろ過で回収し、水とエタノールで洗浄した。洗浄後、真空乾燥を行い、OD(6−OH)−25のビーズを得た。このときビーズの収率はおよそ87%であった。この操作を繰り返したものを、20μmのフィルターで分別することで、粒径3〜10μm程度のビーズを回収した。
ディスパーザーのシャフトには6枚羽根型を、また容器には1リットルビーカーを用いた。得られたビーズについて走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。
(c)OD(6−OH)−25ビーズのジイソシアナートによる架橋
得られたOD(6−OH)−25ビーズに強度を持たせるために、6位の水酸基と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナートを反応させて、ビーズ内で架橋を行った。
架橋ビーズの調製(カラムA用)
乾燥させたOD(6−OH)−25ビーズ1.83gに窒素雰囲気下でトルエン20mlを加え、80℃で4時間加熱してビーズを膨潤させた後、過剰量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート0.3g(1.2mmol)を加えて80℃で24時間反応させた。上澄み液を液体IRで測定して未反応のイソシアナートの存在を確認し、また少量のビーズをサンプリングしてテトラヒドロフランに不溶となったことを確認した後、吸引ろ過をしてビーズを回収し、過剰のイソシアナートから生成した尿素を取り除くため、吸引しながら温めたメタノールで洗浄した。ビーズを固体IRにより測定し、尿素が存在しないことを確認した後、真空乾燥して6位の水酸基を25%架橋したビーズ(以下ビーズAとする)1.83gを得た。
架橋ビーズの調製(カラムB用)
乾燥させたOD(6−OH)−25ビーズ1.0gに窒素雰囲気下でトルエン11mlを加え、80℃で4.5時間加熱してビーズを膨潤させた後、過剰量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート0.14g(0.56mmol)を加えて80℃で15時間反応させた。上澄み液を液体IRで測定して未反応のイソシアナートの存在を確認し、また少量のビーズをサンプリングしてテトラヒドロフランに不溶となったことを確認した後、残りのイソシアナートを修飾するため、過剰量のtert−ブタノール10mlを加え3時間反応させた。
上澄み液を液体IRで測定してイソシアナートの存在がなくなったことを確認した後、吸引ろ過をしてビーズを回収し、イソシアナートとtert−ブタノールから生成した尿素を取り除くため、吸引しながら温めたメタノールで洗浄した。ビーズを固体IRにより測定し、尿素が存在しないことを確認し、真空乾燥して6位の水酸基を25%架橋したビーズ(以下ビーズBとする)1.0gを得た。
ビーズAの調製とは異なり、ビーズBの調製では、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナートの二つのイソシアナートのうち一方だけしか誘導体と反応していないものを、嵩高いアルコールで修飾するために、tert−ブタノールで処理した。このことによりビーズBとラセミ体の光学分割に関与する相互作用が、余分な相互作用に邪魔されず、より効果的に働くと期待される。
OD(6−OH)−25ビーズの観察
反応前後のビーズA、BのSEM観察では、反応前後でのビーズの大きさや表面の状態には変化がないことがわかった。架橋後のビーズA、BのSEM画像を図8、図9に示す。
(d)ビーズのカラムへの充填
得られた二種のビーズA、Bを粒径分別した後に、ヘキサン/流動パラフィン(2/1)30mlに分散させ、ヘキサン/2−プロパノール(9/1)を溶離液に用いて、HPLC用ポンプで圧力を3〜30kg/cm2かけ、長さ25cm、内径0.2cmのステンレス−スチール製のカラムにスラリー法により充填した。それぞれカラムA、Bとする。
カラムへ充填されたビーズの観察
各カラム中に含まれるビーズの質量と、表面積、理論段数(N)、充填時間を以下の表4に示す。なお。充填前後のビーズをSEMで観察したところ、充填時の加圧によるビーズの変形などは見られなかった。
(e)光学分割能の評価
上記の操作で得られた2種のビーズのカラムを用いて、先に示した構造式1〜10の10種のラセミ体の光学分割を行った。溶離液にはヘキサン/2−プロパノール=9/1を用いて、流速は0.1ml/minとし、UV検出器と旋光検出器を用いてピークの検出、同定を行った。なお、理論段数Nはベンゼンのピークから求め、また溶離液がカラムを素通りする時間t0は1,3,5−トリ−tert−ブチルベンゼンの溶出時間から求めた。
光学分割能の評価の結果
カラムA、Bによる先に示したラセミ体の光学分割の結果を表5に示す。また比較のため、3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体をシリカゲル上に担持した充填剤(比較例1)による光学分割の結果も合わせて載せた。表中の値は容量比k1’と分離係数αで、かっこの中の符号は先に溶出したエナンチオマーの旋光性である。
カラムAとカラムBの結果を比較すると、カラムBは誘導体が多く充填されているにも関わらず、容量比k1’が全体的に小さくなり、分離係数αが全体的に大きくなった。これは、カラムBがtert−ブタノールで処理されており、ラセミ体の分離を邪魔する相互作用がなくなったためであると考えられる。
また、全てのビーズカラムの溶出順序については通常の担持型と同じであった。容量比k1’については、シリカゲルに担持したものと比べて2.5〜4倍大きくなる結果が得られた。これは、シリカゲルを用いないことでよりたくさんのセルロース誘導体をカラム中に導入することができたためであると考えられ、一度によりたくさんのラセミ体を分割可能であることが期待される。
(f)2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノールの大量分 割
ビーズを充填したカラムには、従来のシリカゲル担持型の同サイズのカラムと比較してカラム中により多くの多糖類誘導体が存在しており、シリカゲル担持型カラムよりも一度に分割可能なラセミ体の量が多いことが期待される。そこでカラムAと、シリカゲル担持型カラムを用いて、一度に分割可能なラセミ体 2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノール(9)について調べた。
この際、このラセミ体を溶離液と同じ組成の溶媒に溶かして調製した120mg/mlの溶液を用いて光学分割を行った。カラムには長さ25cm、内径0.2cmのカラムを用い、溶離液にはヘキサン/2−プロパノール(9/1)を用い、溶離液の流速は、シリカゲル担持型カラムでは0.20ml/minとし、カラムAでは0.15ml/minとした。得られたチャートにおいて二つのエナンチオマーのピークが重なった時のラセミ体の量を、そのカラムが分割できる最大量とした。
2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノールの大量分割の結 果
ラセミ体 2,2,2−トリフルオロ−1−(9−アンスリル)エタノールの大量分割を行った結果をそれぞれ図10に示す。測定波長は271nmとした。その結果、担持型では6mg、カラムAでは20mgを打ち込んだところで二つのピークが重なった。
セルロース誘導体ビーズを調製する際に、セルロース誘導体のTHF/1−ヘプタノール混合溶液に、ポロジェンとしてポリマーを添加し、これをラウリル硫酸ナトリウム水溶液に攪拌しながら滴下、その後加熱によりTHFを留去し、得られたビーズをポロジェンに用いたポリマーを溶解する溶媒で洗浄してポロジェンを洗い流したところ、ビーズ内に空孔が認められた。空孔の数や大きさは、用いるポロジェンの種類や濃度により変化した。
6位の一部に水酸基を有するセルロース 3,5−ジメチルフェニルカルバメート25mgをテトラヒドロフラン/ヘプタノール(2/1,v/v)混合溶媒3mlに溶かし、そこへポロジェンに用いるポリマーをセルロース誘導体に対して約20質量%の割合で溶かした。0.2%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液100mlが入った容器を収容した水浴の温度を75℃にあげ、0.2%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液100mlをディスパーザーで、シャフト回転数1100rpmで攪拌しながら、前記OD(6−OH)−25の溶液を前記水溶液に滴下した。
滴下後も水浴の温度を75℃に保ち、テトラヒドロフランを留去させ、生成したビーズを吸引ろ過で回収し、水、エタノール、そしてポロジェンのみを溶解する溶媒で洗浄した。洗浄後、真空乾燥を行い、粒径3〜12μm程度の空孔を有するセルロース誘導体ビーズを得た。
ディスパーザーのシャフトには、6枚羽根型を、また容器には200ミリリットルビーカーを用いた。また、ポロジェンにはポリスチレン(PSt、分子量:17,000、Mw/Mn:1.03)、ポリメチルメタクリレート(PMMA、分子量:42,000、Mw/Mn:1.40)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM、分子量:28,000、Mw/Mn:1.85)を用いた。
得られたビーズについて走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。得られたビーズのSEM画像を図11〜13に示す。
また、本発明のクロマトグラフィー用分離剤は、担体を使用していないことから、カラム中に充填できる多糖類誘導体の量を多くすることができ、一度に光学分割できる量を多くすることができ、例えば光学異性体の工業的な製造における生産性をより一層高めることができる。
Claims (2)
- 多糖類に存在する水酸基の内の一部の水酸基に保護基を導入する保護基導入工程と、
該保護基が導入された多糖類に残存する水酸基に修飾分子を修飾する修飾工程と、
導入された保護基を脱離させて水酸基を再生させる脱離工程と、
再生された該水酸基同士を、多糖類誘導体の水酸基に対して結合する架橋部位を一分子中に複数有する架橋分子によって架橋する架橋工程と、
架橋後の多糖類誘導体におけるフリーの前記架橋部位を、分岐構造を有する炭化水素基を用いて修飾する工程を有し、
架橋工程は、
脱離工程において水酸基を再生させた再生多糖類誘導体を溶媒に溶解して再生多糖類誘導体溶液とし、界面活性剤の溶液中に該再生多糖類誘導体溶液を滴下しさらに攪拌することによってビーズ形状の再生多糖類誘導体とするビーズ形成工程と、
ビーズ形状の再生多糖類誘導体に架橋分子を架橋してビーズ形状のクロマトグラフィー用分離剤とするビーズ架橋工程とからなることを特徴とする、多糖類誘導体が担体に担持されていないクロマトグラフィー用分離剤の製造方法。 - ビーズ形成工程における前記再生多糖類誘導体溶液にポロジェンを分散させ、
前記ビーズ形状の再生多糖類誘導体を、ポロジェンを溶解する洗浄溶媒で洗浄する工程をさらに含むことを請求項1記載のクロマトグラフィー用分離剤の製造方法。
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