本発明の光制御素子の実施の形態を説明する。
第1の実施形態を図1および図2に基づいて説明する。
図1は、本発明のスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図1において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はフォトニック結晶の孔としてのホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。図1におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図1中の左側がこの薄膜1内において相対的に高屈折率となり、図1中の右側は同じく相対的に低屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。この薄膜1の屈折率分布は、フォトニック結晶に設けたホール2が存在しない欠陥導波路3を導波する導波光4の導波路方向に対して、薄膜1とホール2との材料に基づく屈折率または実効的屈折率差が連続的に変化するような屈折率分布となるように構成されている。
なお、図中、高屈折率と低屈折率とは濃淡変化で示す。高屈折率の部分は濃淡を濃くして示し、低屈折率の部分は濃淡を薄くして示す(以下、同様)。
図2は、図1に示したスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子の側面の一例を模式的に示したものである。図2において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、5は基板であり、6はアンダークラッド層である。図2において、ホール2は薄膜1内に垂直に円柱状に設けられており、その上部は開口している。アンダークラッド層6は、薄膜1よりも屈折率が低い材料から構成されて薄膜1がコア層となる導波層となっており、またこのアンダークラッド層6の下に基板5が設けられている。図2のフォトニック結晶の側面構造は、薄膜1が屈折率分布を有する以外は従来のスラブ型2次元フォトニック結晶と同様の構成であり、この従来の微細加工により技術を用いてスラブ型2次元フォトニック結晶の形状自体を形成することは可能である。
以下、本実施の形態のフォトニック結晶からなる光制御素子が、光を制御できる作用を有することを説明する。最初に、従来のフォトニック結晶の光制御作用に関して説明する。フォトニック結晶は、一般的には、屈折率が光の波長オーダで一定の周期性を有する構成からなる材料において、フォトニックバンドギャップと呼ばれるフォトンが存在しない領域を有していることで知られている。図3は、欠陥のない一般的なフォトニック結晶の周期性のある配列を説明するものであり、図3(a)は、フォトニック結晶の構成を特徴づける実空間におけるホールの周期とホール径を模式的に示した図であり、図3(b)は、図3(a)の実空間における周期に対応する波数空間の関係を示した図である。図3(a)において、フォトニック結晶のホールの周期は、図3(a)中のaであり、ホール径は半径rで示される。このとき、図3(a)の実空間での周期性を有する配列は3回回転対称であり、後述する図4の波数空間においても3回回転対称の6角形構造を有するブリルアンゾーン8を形成する。このブリルアンゾーン8においては、ホールが近接して直線を形成する方向がΓ−K方向、このΓ−K方向の中間の方向がΓ−M方向と表記される。
図4は、図3に示す欠陥のないフォトニック結晶内を伝播可能な光のバンドを示したフォトニック結晶のバンド図であり、図4において、横軸はΓ−K方向およびΓ−M方向に対応した波数ベクトルkである。図4においては、2次元フォトニック結晶として図3(a)の三角配列を用い、薄膜の屈折率3.0、ホールの屈折率1.0、r/a値=0.30として、2次元平面波展開法により計算した。縦軸は光の周波数ωを規格化した規格化周波数ωNである。波数ベクトルは周期構造中の光の伝播特性に対応したものであり、規格化周波数は伝播させる光の周波数を規格化したものであり、真空中の光速をcとして、この規格化周波数ωN=ωa/2πcで示され、単位は無次元である。これは、波長をλとして、a/λと同じであり、波長と周期との比として考えてよい。このとき、図4に示すように、規格化周波数ωNが0.25から0.3近傍で、バンドがいずれの波数においても存在しない領域9が存在し、この領域をフォトニックバンドギャップと呼ぶ。
このフォトニックバンドギャップに対応する周波数の光を所定の方向で入射しても反射されるのみで、反射用途以外の光制御素子として利用することはできない。しかしながら、このフォトニックバンドギャップを有するフォトニック結晶中の周期性に欠陥構造を設けることにより、この欠陥に対応した伝播モードとなるバンドがフォトニックバンドギャップ中に生じ、このバンドに対応した周波数の光を所定の欠陥に対して適切に入射せしめることにより、光制御素子として利用することができる。この欠陥がホールの欠陥からなる場合を、点欠陥、複数の連続した欠陥からなる場合を線欠陥とよばれている。フォトニック結晶に線欠陥を設けた場合には、この線欠陥内を特定の周波数の光が導波する欠陥導波路とよばれる導波路が形成される場合がある。この欠陥導波路は、元のフォトニックバンドギャップ内にバンドを有しており、通常の全反射に基づく導波路とは非常に異なる、種々のフォトニック結晶特有の光伝播特性を有する。
図5は、欠陥導波路を有するフォトニック結晶により生じるバンドを説明する模式図である。欠陥導波路を有するフォトニック結晶のバンド図の一部を説明のために拡大したものである。フォトニック結晶としては、図4と同様の構成を用い、単純な一列の線欠陥による欠陥導波路のバンド図を2次元平面波展開法により計算した。その他は、図4と全く同様である。ただし、横軸として波数ベクトルを規格化した規格化波数を用い、その単位は〔2π/a〕であり、ブリルアンゾーンの折り返しにより、所定の波数ベクトル方向に対する最大値は1の半分の0.5に規格化されている。図5においては、規格化周波数ωNが0.25から0.3近傍のフォトニックバンドギャップの中に、2つのバンドが現れる。この2つのバンドとも、フォトニック結晶内を欠陥導波路に沿ってのみ光を導波することができるバンドを示し、所定の周波数の光に対して規格化周波数ωNを求め、このωNから水平線を引いた場合にこの2つのバンドと交点を有する場合に、所定の周波数は欠陥導波路内を導波することができる。また、空気中およびアンダークラッドとなるSiO2 での光の伝播状態として、それぞれの空気およびSiO2 のライトラインとして示している。
このとき、欠陥導波路を導波する光は、通常の導波路や真空中とは非常に異なった導波の振る舞いを示し、例えばその伝播速度は、光の群速度Vgとして示されるが、このVgはバンドの1次微分値に対応しているため、光の周波数に対して群速度が大きく異なりかつその値が小さいことがわかる。空気中を伝播するバンドは、図中の空気ライトコーンと呼ばれる傾きは1のバンドで示されており、傾き1が空気中つまりはほぼ真空中の光の伝播速度に対応する。一方、図5に示す下の方のバンド(M0)おいては、規格化波数(以下、単に波数と表記する)が0.4近傍において、その1次微分値である傾きの絶対値が0.1以下であり、逆に真空中よりも10倍以上も光の伝播速度が遅くできることになる。もとの構成材料の屈折率は3.0であり、バルク状態での元の材料の光の伝播速度が真空中の3倍であるので、結果として3倍以上も光の伝播速度を遅くでき、このため群速度遅延のための光制御素子としての利用ができることになる。さらに規格化波数0.5付近においては、真空中に対して数十倍以上もの光伝播速度の遅延も可能である。また、また、光の周波数に対応してバンドの傾きが大きく変化するので、光の周波数に対する分散が非常に大きく、場合により周波数分散つまりは波長分散を増大させるための光制御素子利用することができる。
しかしながら、このような従来のフォトニック結晶による光制御素子を遅延素子は、上述のように波長分散はフォトニック結晶構造と周波数から一義的に決定された一定値であり、実用的には非常に使用しにくい。また、群速度が遅い欠陥導波路は、その欠陥導波路への外部からの光の反射率が非常に大きく、光利用効率が低くなってしまう。図1に示す本発明の第1の実施形態は、従来の屈折率が光の波長オーダで一定の周期性を有する構成からなるフォトニック結晶とは全く異なり、導波方向に対して屈折率の波長オーダでの周期性を有していない新規のフォトニック結晶を用いた光制御素子として案出したものである。
より具体的には、本発明の第1の実施形態に用いたフォトニック結晶としては、屈折率分布を有する材料からなる薄膜を用い、この薄膜にホールを形成することにより屈折率分布型のスラブ型2次元フォトニック結晶を構成したものであり、さらにこの屈折率分布型のフォトニック結晶に線欠陥からなる欠陥導波路を形成したものである。このとき、ホール自体の相対位置座標は、従来のフォトニック結晶と同様の周期性を有する三角配列として設けている。また、この欠陥導波路を伝播する導波光の導波方向に対してのみ、上記薄膜の屈折率が連続的に減少するような屈折率分布で薄膜を形成してある。これにより、光が導波する導波方向に対して、ホールを充填している空気と薄膜との屈折率差が徐々に連続的に減少していくので、この導波方向に対する屈折率の波長オーダでの周期性を欠如せしめている。より詳細には、周期に相当する隣接するホール中心間の光路長が、ホール間に存在する薄膜の屈折率が徐々に減少することにより一定値ではなく徐々に減少しており、光学的な周期性を有するとは言えない。ここでの周期性の欠如とは、フォトニック結晶に点欠陥構造や線欠陥構造ないしは部分的に歪み構造を設けた場合の従来の欠陥としての周期性の欠如とは異なり、特定の領域全体が屈折率の周期性を欠如していることをいう。この本発明の屈折率分布型の薄膜中に多数のホールを有する構造は、従来フォトニック結晶と同様のフォトニックバンドギャップおよびその中に存在する欠陥導波路に対応したバンドを有していることをFDTDを用いたシミュレーションにより見出し、フォトニック結晶との一つとすることができ、屈折率分布型フォトニック結晶であるといえる。
本発明に用いた屈折率分布型フォトニック結晶は、一定の物性値を有していない材料分野における傾斜材料に相当し、一定の光学的な物性値を有しておらず、物性値が光の導波方向に対して連続的に変化する。この屈折率分布型フォトニック結晶の特徴を利用して、本発明は、従来の物性値の一定なフォトニック結晶とは異なる分散制御や群速度制御さらには透過/反射率制御を行うフォトニック結晶からなる光制御素子を実現したものである。その屈折率分布を制御することにより、特定の周波数に対する導波光のバンドを、導波していきながらシフトすることができるようになる。これにより、大きな群速度遅延効果とその波長分散制御効果とを有する小型低損失の光制御素子を提供することができる。
本発明においては、欠陥導波路を導波させる導波光4に対しては、導波光の周波数に対して、フォトニック結晶のバンドで決定される導波状態が導波しながら変化するので欠陥導波路内で群速度を変化させることができ、この結果として分散状態を制御することができる。入射光の有する周波数の幅に対して、屈折率分布型フォトニック結晶内の欠陥導波路両端でのバンドを変化させられることに対応した周波数の幅を、十分に大きくなるように屈折率分布を構成する。これにより、周波数の差による群速度の差を、もとの周波数に直接に対応した群速度差以上に大きくしたりすることができる。
また、本発明においては、欠陥導波路を導波させる導波光4に対しては、導波光の周波数に対して、フォトニック結晶のバンドで決定される導波状態が導波しながら変化するので、欠陥導波路内で群速度を変化させることができる。図1においては、入射側での光の群速度は大きく、出射側での光の群速度は小さい。これを利用して、図1とは別の図示はしていないが2つの異なる群速度特性を有するフォトニック結晶に対して、群速度を一致させた高光利用効率の結合素子として屈折率分布型フォトニック結晶をからなる光制御素子を用いることもできる。
また、本発明においては、フォトニック結晶の群速度遅延による光遅延効果を有する光制御素子を形成する場合に、フォトニック結晶への光の入射結合効率を大きく向上して、高い光利用効率の光制御素子を実現することができる。これは、群速度を非常に小さくした従来のフォトニック結晶が1次元フォトニック結晶であるDBR構造と同様で本質的に反射率が高いことに対して、本発明の光制御素子では、入射する場合の群速度は大きいために反射を低減することができ、かつ導波しながら群速度を連続的に小さくしているので、反射率が小さいにもかかわらず小さい群速度での導波状態を実現することができる。
また、本発明の連続的に変化する屈折率差とは、フォトニック結晶の構成として必須な高屈折率部分と低屈折率部分との材料に基づく屈折率差または実効屈折率差である。ここでの実効屈折率とは、導波路や薄膜素子に適用されている、光が材料だけではなく構造にも影響されて実際に作用を受ける度合として定義されている屈折率を意味する。例えば、波長オーダの薄膜は膜厚を薄くすることで実効屈折率が、バルク状態の材料本来の屈折率よりも小さくなる。また、薄膜に波長の1/10以下の大きさの微小空気構造を設けても実効屈折率は小さくなる。実効屈折率差は、材料変化によって生じる屈折率差、構造変化により生じる屈折率差、そして材料変化と構造変化が複合されて生じる屈折率差のことを総称して実効屈折率差としている。ホール部分に誘電体が充填されており、薄膜1の屈折率は一定で、このホールを形成する材料の屈折率が連続的に変化して実効屈折率差が連続的に変化したり、薄膜1とホールの両方の材料の屈折率が変化して実効屈折率差が連続的に変化したりする場合も非常に有効である。また、導波路方向にのみ実効屈折率が連続的に変化することに限定されるわけではなく、導波路以外の方向に対しても実効屈折率が連続的または段階的に変化させる構成を組み合わせることも効果的である。
また、本発明は、ホール構造のスラブ型2次元フォトニック結晶を用いた光制御素子にその効果が限定されるわけではなく、ピラー型のスラブ型2次元フォトニック結晶における欠陥導波路、さらには3次元フォトニック結晶構造における欠陥導波路についても同様に、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を有し、これを用いた光制御素子としての効果も非常に大きい。
本発明の第2の実施形態を図6および図7(a)に基づいて説明する。第1の実施形態と同一部分は同一符号で示し説明も省略する(以下、同様)。図6は、本発明の第2の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図6において、10は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。図6におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜10は、図6中の左側がこの薄膜10内において相対的に低屈折率となり図6中の右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。この薄膜10の屈折率分布は、フォトニック結晶に設けたホールの存在しない欠陥導波路3を導波する導波光4の導波路方向に対して、薄膜1とホール2との実効的屈折率差が連続的に減少するような屈折率分布となるように構成されている。
図6に示すように、本発明は屈折率を導波光が導波する進行方向に対して薄膜の屈折率を減少させる場合に限定されるわけではなく、図6においては、欠陥導波路に入射した光は、フォトニック結晶を実効的屈折率差が連続的に減少しており、これにより欠陥導波路に対応したバンドが同じ波数に対しては周波数が小さい方向へと、欠陥導波路を導波させながらシフトさせることができる。これを利用して、導波させながら群速度を大きくする群速度制御ができるようになる。また、バンドが周波数の小さい方へシフトさせることにより、空気やアンダークラッド層となるSiO2 のライトラインに対するバンド状態を変化させることにより、スラブ型2次元フォトニック結晶からの発散する光を制御することもできる。
図7(a)は、本発明の第2の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子の実効屈折率差を模式的に示した図であり、図7(a)においては、横軸は欠陥導波路方向の空間的な相対位置座標であり、縦軸は実効屈折率差である。図7(a)の線14が示すように、1次関数的に実効屈折率差が減少している。
本発明の第3の実施形態を図7(b)に基づいて説明する。図7(b)右は、本発明の第3の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子の実効屈折率差を模式的に示した図であり、図7(b)においては、横軸は欠陥導波路方向の空間的な相対位置座標であり、縦軸は実効屈折率差である。図7(b)の曲線15が示すように、非線形関数的に実効屈折率差が増加している。非線形関数的に実効屈折率差を変化させることにより、より高精度に群速度の制御ができるようになる。
図7(a)又は(b)に示すような特性を実現するような屈折率分布を有する材料としては、基板と垂直方向に材料を薄膜形成したり、特定元素を基板端面から拡散させたり、光または電磁波により屈折率の変化する材料に対して光または電磁波の照射量を変化させたり、イオン注入により注入量を変化させたり、バルクとして屈折率分布を有する無機材料または有機材料をスライスおよび研磨して薄膜にしたりすることによって実現できる。また、薄膜1の実効屈折率が変化すればよいので、この薄膜1の材料としての屈折率を変化させるだけではなく、アンダークラッド層等の周辺部材の屈折率を変化させることも効果的である。さらに、屈折率を一定値として用いる必要はなく、電気光学効果や非線形光学効果や温度変化等により外部からの信号によりまたは自律的にアクティブに屈折率を変化させることにより、分散制御や群速度制御をすることは非常に効果的ある。
また、本発明の光制御素子は、光メモリデバイス、光変調器、光遅延素子、光分散補償素子、光増幅素子、光コンピューティング素子、光波長変換素子、磁気―光情報変換素子、光受光素子、光バイオ素子等に用いることで、その性能を飛躍的に向上させることができ、また超小型化を実現できる。さらには、これらの素子を用いた、光メモリシステム、光メモリシステム、光通信システム、オフィス内光データ伝送システム、機器内光伝送システム、チップ内光伝送システム、光増幅システム、光コンピューティングシステム、光波長変システム等のシステムに用いることにより、その性能を飛躍的に向上すると同時に超小型化を実現できる。
本発明の第4の実施形態を図8に基づいて説明する。図8は、本発明の第4の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図8において、10は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。図8に示すフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜10と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜10は、図8中の左側がこの薄膜10内において相対的に低屈折率となり右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。この薄膜10の屈折率分布は、フォトニック結晶に設けたホールの存在しない欠陥導波路3を導波する導波光4の導波路方向に対して、薄膜1とホール2との実効的屈折率差が段階的に減少するような屈折率分布となるように構成されている。これは、薄膜10が材料組成の異なる複数の材料により構成され、かつこの材料の屈折率が段階的に減少することにより実現される。また、図8では、模式的に8ステップの場合を示しているが、このステップ数は、この数に限定されるものではない。
図8において、実効屈折率差の段階的な変化とは、フォトニック結晶として一定のバンドを有しない状態である。
バンドは導波方向に沿って連続的に変化している。これは微視的に屈折率が一定の微小領域により薄膜が構成され、この微小領域の屈折率が微小な増加または微小な減少が生じるように隣接して配列され、かつこれらの連続した3つ以上の配列により、薄膜の段階的な屈折率の増加または減少を生じせしめるものである。このとき、屈折率の一定となる微小領域は、導波方向にそって連続的にバンドが変化していく状態となるように十分に小さい領域とすることが重要である。この微小領域の導波方向の長さ、小さければ小さいほど好ましく、光の波長の1/2以下の長さであることが特に好ましい。この微小領域からなる屈折率変化により、構成材料の屈折率制御が簡単となり、より作製の容易な光制御素子を提供することができるようになる。
また、この微小領域の導波方向の長さが、光の波長程度またはその数倍程度の長さであっても、段階的に減少または増加を数個の領域に渡って繰り返す場合にも、フォトニック結晶のバンドがほぼ連続的に変化していき、微小領域が波長以下の小さい場合と類似の効果が得られる場合には、この微小領域の導波方向の長さが大きくてもよい。
本発明の第5の実施形態を図9なし図11に基づいて説明する。図9は、本発明の第5の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図9中、A、B、C、Dは、光伝播方向の相対位置を示す。図9において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光であり、16はこの導波光4の反射光であり、17a,17b,17cは、3つの異なる周波数の光の反射を行う領域の代表位置を模式的に示したものである。図9におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図9中の左側がこの薄膜1内において相対的に高屈折率となり右側は同じく相対的に低屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。この薄膜1の屈折率分布は、フォトニック結晶に設けたホールの存在しない欠陥導波路3を導波する導波光4の導波路方向に対して、薄膜1とホール2との実効的屈折率差が連続的に変化するような屈折率分布となるように構成されている。
このとき、薄膜1は、欠陥導波路を導波させる光の波長に対して、欠陥導波路に対応したバンドのバンド端が存在する場所があるように、その実効屈折率差を十分に大きくして屈折率分布型フォトニック結晶を構成させる。これにより、左から欠陥導波路に入射した所定の波長帯域を有する導波光は、図9に示すように、それぞれの周波数毎にバンド端に対応するフォトニック結晶の位置において、導波光4の群速度Vgが略0となるので、導波光4に対しては反射状態となり、この導波光4は導波光16になる。この群速度Vgが略0の状態とは光の局在を意味し、これは光が停滞している状態であり理想的な光遅延効果である。つまり導波光の反射位置は、この群速度Vgがゼロの場合であり、図9においては、周波数の3つの異なる周波数を欠陥導波路に入射させた場合の構成図であり、位置B、C、Dにおいて、それぞれの周波数での群速度0による反射が、17a、17b、17cに示すようにそれぞれの周波数に対応して実効することができる。
これにより、図4における光制御素子は、この群速度Vgが略0の状態のある構成を用い、さらにこの状態へと群速度を連続的に小さくしながら実現しているので、超小型の光遅延効果を有するフォトニック結晶からなる光制御素子を実現することができる。これは、広い波長に対して均一な光の局在および反射がおこることを利用するものであり、屈折率分布の状態とその導波させる距離を適切に設定することにより、反射型としてではあるが非常に大きな分散制御や群遅延量制御素子としても用いることができる。より具体的には、10から100μm程度の非常に小さい短距離で、ps〜数10psオーダの光遅延を得ることができる。また、psレベルで光を実質的に止めることもできる。
図10は、本発明の第5の実施形態を説明するためのバンド図である。図10のバンド図は、屈折率分布型のフォトニック結晶の導波路方向に対して特定の位置に対応するバンド図を模式的に示したものである。屈折率分布型フォトニック結晶は、導波方向の周期性を欠如したフォトニック結晶であり、一定のフォトニックバンドギャップを有していないが、従来のフォトニック結晶と同様にフォトニックバンドギャップとその中の欠陥構造によるバンドを有しているので、導波方向に沿った位置それぞれに対応したフォトニックバンドギャップがあるとして扱ってもよい。図10においては、20は、屈折率分布型フォトニック結晶の特定の位置での欠陥導波路に対応したバンドであり、21は、バンド20に対して相対的に図示した欠陥導波路を導波させる光の周波数帯域であり、これは導波させる光の波長帯域に対応する。図10において、この光の周波数帯域21に対しては、図9に示すフォトニック結晶構成においては、そのフォトニックバンドギャップ内にバンド端を有している状態となる。
図11は、本発明の第5の実施形態となる図9および図10のバンド図を示す屈折率分布型フォトニック結晶の光の伝播特性を説明するため、このフォトニック結晶内における導波方向でのバンド図の変化として図9と同様の理由のもとに示すものである。図11において、18a、18b、18cは、欠陥導波路を導波させる光の周波数帯域から上限、下限および中央値として3つの周波数を選んだものであり、19a、19b、19c、19dは、フォトニック結晶の伝播方向によるバンドを示すものであり連続的な屈折率差の減少に従いシフトしており、20a、20b、20cはバンド端での光の折り返し効果を模式的に示すものである。
図11において、周波数の低い順に、B、CおよびDの順で、欠陥導波路を伝播する光が19の欠陥導波路のバンド端と順次、重なるようになる。図9中のB、C、Dの位置は、図11中のB、C、Dの位置に対応している。これにより、光はこのバンド端と重なった状態で群素度がほぼゼロとなり、〜数psレベルの実質的な光の停滞状態を実現することもでき、この後に、最初の導波方向に対して反射された状態となり、導波光16となって入射と逆の方向へ導波するような構成にするこができる。このとき、本発明のフォトニック結晶からなる光制御素子は、光の停滞状態も利用することができる非常に大きな分散制御と群速度制御を有する光制御素子を提供することができる。
本発明の第6の実施形態を図12(a)に基づいて説明する。図12中の(a)は、本発明の第6の実施形態であり、本発明による大きな分散制御と群速度遅延効果を示すグラフである。図12中の(a)は、図9に示される屈折率分布型フォトニック結晶の光制御素子として、薄膜1の有効屈折率差分布が入射位置に相当する部分で屈折率値が2.963であり、この屈折率値は線形で連続的に減少されており、バンド端付近の屈折率値で2.800である構造を有している。このときの、屈折率差分布のある欠陥導波路長は30μmである。また、ホールの周期a値は0.39μmであり、ホールの径は直径2r値で0.39μmである。図12中の(a)は、この構造を有する光制御素子に対して、欠陥導波路のバンド端を有する周波数で、約300fsの短パルス入射せしめた場合の光の伝播状態を示している。図の横軸はフォトニック結晶中の短パルスの入射位置を基準とした相対座標であり、縦軸は電界強度である。また、導波路に入射させた光の周波数は、波長として1.55μmである。このときの短パルス光の幅は半値全幅FWHMで266fsであり、伝播する群速度に対応した相対位置座標として横軸方向の幅でこのパルスの幅が示され、この幅により分散量を知ることができる。本発明の光制御素子による光の伝播特性は、FDTDシミュレーションを用いた数値計算により求めた。
図12中の(a)において、短パルス光は広がった波長帯域を有しており波長分散つまりは周波数分散の影響を大きく受けやすいにも拘らず、本発明の光制御素子を用いた場合には、入射266fsに対して、反射280fsと、短パルスが時間領域でほとんど広がっていない。これは大きい周波数分散を有する従来のフォトニック結晶では実現できなかった超低分散としての分散制御効果を示している。このような超低分散にもかかわらず、30μmという非常に小さな領域における光の伝播時間が、欠陥導波路の往復で3.46psであり、真空中および空気中の光群速度に対して30倍以上、シングルモード光ファイバでの光の群速度に対しても20倍以上と非常に大きい群速度の低減効果を有することが見出され、大きな分散制御と群速度遅延効果を示す超小型の光制御素子を提供することができる。
本発明の第7の実施形態を図12(b)に基づいて説明する。図12中の(b)は、本発明の第7の実施形態であり、本発明による大きな分散制御と群速度遅延効果を示すものである。図12中の(b)は、図9に示される屈折率分布型フォトニック結晶の光制御素子として、薄膜1の有効屈折率分布が入射位置に相当する部分で屈折率値が2.963であり、この屈折率値は線形で連続的に減少されており、バンド端付近の屈折率値で2.800である構造を有している。このときの、屈折率差分布のある欠陥導波路長は70μmである。また、ホールの周期a値は0.39μmであり、ホールの径は直径2r値で0.39μmである。図12中の(b)は、この構造を有する光制御素子に対して、欠陥導波路のバンド端を有する周波数で、約300fsの短パルス入射せしめた場合の光の伝播状態を示している。より具体的には、導波路に入射させた光の周波数は、波長として1.55μmであり、このときの短パルス光の幅は266fsである。本発明の光制御素子による光の伝播特性は、FDTDシミュレーションを用いた数値計算により求めた。
図12中の(b)において、短パルス光は広がった波長帯域を有しているが、本発明の光制御素子を用いた場合には、入射266fsに対して、反射はFWHMで871fsであり、短パルスが時間領域で600fs拡大しており、1ps以下のfsレベルという非常に高精度な状態で短パルス波形の形をきれいなまま拡大する分散を発現できた。しかも、フォトニック結晶の屈折率分布としてはその屈折率差は図12中の(a)と同様であり、30μmであった伝播距離を70μmとして屈折率の変化を2倍程度に小さくすることで、40μmという小さい距離の差での分散量の制御であることがわかる。また、このときの70μmにおける光の伝播時間が、欠陥導波路の往復で7.06psであり、小さな群速度は維持されていた。これにより大きな分散制御と群速度遅延効果を示す超小型の光制御素子を提供することができることがわかる。
本発明の第8の実施形態を図13に基づいて説明する。図13は、本発明の第8の実施形態となるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子の側面の一例を模式的に示したものである。図13において、13は実効屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、5は基板であり、6はアンダークラッド層である。図13において、ホールは薄膜内に垂直に円柱状に設けられており、その上部は開口している。アンダークラッド層は、薄膜1よりも屈折率の低い材料から構成されて薄膜1がコア層となる導波層なっており、またこのアンダークラッド層の下に基板5が設けられている。この薄膜自体は均一材料で作られており、かつその厚さは図13中の左側が厚く、図13中の右側が薄くなっており、厚さが徐々に連続的に変化していることにより実効屈折率を変化させている。これにより、欠陥導波路の導波方向に図11に示すような一定ではないバンドを有するようになる。これにより、屈折率が単一の組成材料であるにも拘らず、実効屈折率差が変化する構成を実現することができるようになり、屈折率分布型フォトニック結晶による光制御素子の作製が非常に容易になる。図13においては、この薄膜の厚さの制御は、基板に対する平行度を制御して行ったCMP技術により実現されており、またこのときの面粗さとしては0.2nm以内の粗さ精度で作製できる。このとき、複雑な微細加工を用いていないので、この点でも、屈折率分布型フォトニック結晶による光制御素子の作製を非常に容易になる。
また、本発明は、その実効屈折率は薄膜の膜厚のみの構造パラメータによって変化させることに限定されるわけではなく、光の波長に対して1/8以下となるような非常に小さい形状の空気ホールまたは空気スリット等により実効屈折率を下げることもできる。また、これらは厚さを均一にして成膜した薄膜を用いることができるので、これもまた、屈折率分布型フォトニック結晶による光制御素子の作製が非常に容易になる。また、本発明における構造パラメータの変化としては、薄膜1の形状に限定されるわけではなく、アンダークラッド層の形状を変化させたり、オーバクラッド層を設けてこの形状を変化させたりすることにより実現したりすることも効果的である。
本発明の第9の実施形態を図14に基づいて説明する。図14は、本発明の第9の実施形態を示したものであり、屈折率分布型フォトニック結晶を用いた光制御素子を模式的に示した図である。図14において、屈折率分布型フォトニック結晶は、連続的な屈折率差の変化を有するものの、その1次微分の値により3つの領域に形式的に分割することができる。この3つの領域は、それぞれ、図14中の21a、21b、21cであり、1次微分が0となる部分を境に、屈折率差減少部分の21a,21c、および屈折率差増加部分になる21bである。図14のフォトニック結晶を用いた光制御素子においては、一つの波数において、非常に多くの群速度状態および分散状態を用いることができるので、より広帯域の波長に対して大きな分散制御効果と群速度遅延効果を有する光制御素子を実現することができる。また、群速度が0付近の領域を繰り返すことにより、非常に長い時間の遅延効果を低反射率かつ超小型の光制御素子で実現することができるようになる。
本発明の第10の実施形態を図15に基づいて説明する。図15は、本発明の第10の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。フォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図15中の左側がこの薄膜1内において相対的に低屈折率となり右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
図15中のホール自体の相対位置座標が従来のフォトニック結晶と同様の周期性を有する三角配列としていて設けられており、これは図1に示す本発明の構成と同様であるが、図15においては、欠陥導波路を挟んでこれらの配列が傾いており、欠陥導波路を境にホールの配列が歪んでいる。これにより、欠陥導波路の幅を導波方向に沿って連続的に変化することができ、薄膜1の屈折率の連続的な変化と複合することにより、欠陥導波路のバンドをより大きく制御することができ、分散制御と群速度制御をより高精度に行うことができるようになる。
本発明の第11の実施形態を図16に基づいて説明する。図16は、本発明の第11の実施形態であり、格子配列の歪みが導波方向に沿って段階的に変化する場合の光制御素子を模式的に示した構成図である。図16において、欠陥導波路近傍でのホールの配列が、図16中の右上部分において、一列のみ欠陥導波路に沿って段階的にシフトしている。図16においても、図15と同様に、欠陥導波路の幅を導波方向に沿って連続的に変化することができ、薄膜1の屈折率の連続的な変化と複合することにより、欠陥導波路のバンドをより大きく制御することができ、分散制御と群速度制御をより高精度に行うことができるようになる。
本発明の第12の実施形態を図17に基づいて説明する。図17は、本発明の第12の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図17において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。図17におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図17中の左側がこの薄膜1内において相対的に低屈折率となり、右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
このとき、図17中、ホールの径が導波路方向に沿って徐々に増加しており、これによって欠陥導波路のバンドを導波方向に沿って変化することができ、薄膜1の屈折率の連続的な変化と複合することにより、欠陥導波路のバンドをより大きく制御することができ、分散制御と群速度制御をより高精度に行うことができるようになる。このとき、図17の構成は、ホール自体の相対位置座標は図1のフォトニック結晶と同様の周期性を有する三角配列としていて設けているので、レジストを用いた場合には同じマスクを用いて紫外線露光量のみを変化することによりフォトリソ等を行ったり、座標位置はそのままでEB露光量を変換させたりすることで、容易に作製できるようになる。
本発明の第13の実施形態を図18に基づいて説明する。図18は、本発明の第13の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図18において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光である。フォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図18の左側がこの薄膜1内において相対的に低屈折率となり、右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
このとき、図18の導波方向に沿ってホール間の距離のみが導波路方向に沿って徐々に増加しており、これによって欠陥導波路のバンドを導波方向に沿って変化することができ、薄膜1の屈折率の連続的な変化と複合することにより、欠陥導波路のバンドをより大きく制御することができ、分散制御と群速度制御をより高精度に行うことができるようになる。このとき、図18の構成は、ホール自体の径は同じで、相対位置座標のみが徐々に変化しているので、紫外線露光量やEB露光量はそのままであるので露光条件を一定にすることができ、この状態で導波路方向のみの相対露光位置を正確に制御できるアライメント装置を組み合わせることにより、容易に図18の構成を作製できるようになる。
本発明の第14の実施形態を図19に基づいて説明する。図19は、本発明の第14の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路導波する導波光であり、図19におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜1と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図19中の左側がこの薄膜1内において相対的に低屈折率となり、右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなり、これらは本発明の第1の実施形態と同様である。さらに、図19においては、21a,21b,21c(以下、a,b,cに区別をしない場合には省略する)は、点欠陥導波路であり、45は点欠陥からの発散光であり、44は欠陥導波路3から点欠陥導波路に一部の光が結合した後に欠陥導波路を導波する導波光を示す。
このとき、図19において、欠陥導波路を導波する導波光のうち、特定の周波数の光が点欠陥に結合され、この点欠陥に結合された光はスラブ型2次元フォトニック結晶から上下方向に発散する。これは、導波光に対して、欠陥導波路から点欠陥へと光配線があるがごとく接続されることを意味し、この意味で光を結合される点欠陥は光を接続されてなる欠陥構造である接続欠陥構造の一つであるといえる。さらに、図19においては、欠陥導波路の導波方向に沿って屈折率差が連続的に変化するので、欠陥導波路によるバンドが連続的に変化すると同時に、点欠陥に対応するバンドも点欠陥の位置に対応して変化しており、これらを適切に設計することにより、光の周波数によって結合効率の異なる接続欠陥構造とすることができ、光の合分波効果を有する光制御素子を実現したり、逆に広い周波数低域の光を取り出したりすることもできる。この点欠陥からの導波光の発散は、欠陥導波路3と点欠陥とのバンドの重なりにおいて説明される。特定の周波数において2つのバンドに重なりが生じ、かつ、これらの欠陥同士が十分に近接しておりフォトニックバンドギャップの影響が小さく相互作用を生じることができるならば、この周波数の導波光が共振されて光が接続されることになる。この点欠陥では、光をスラブ型2次元フォトニック結晶内で分散制御したり群速度遅延を行った素子に対してその光を取り出してこれを受光器で測定したりすることにより、導波光の波長や強度を測定するために用いる光制御素子として用いることができる。
本発明の第15の実施形態を図20に基づいて説明する。第20図は、本発明の第15の実施形態であり、図19の点欠陥の代わりに、複数のホールが存在しない大きな欠陥構造22を有し、ここから発散光23が生ずる。この場合においては、フォトニックバンドギャップによる閉じ込めが弱くなることによって、広い波長帯域の導波光をスラブ型2次元フォトニック結晶から発散させることができる。欠陥構造は、点欠陥に限定されるわけではなく、ホールが存在しない場合やホールの歪みが大きい場合など、もとの欠陥導波路のバンドとことなるバンドを有し、これらのバンド間で光を結合可能であればよい。
本発明の第16の実施形態を図21に基づいて説明する。図21は、本発明の第16の実施形態であり、図19の点欠陥の代わりに3つの点欠陥が連続して連なった欠陥構造24および元の欠陥導波路3とは別の欠陥構造としての接続欠陥導波路27を有する。25は欠陥構造24に共振している光であり、27は欠陥構造である欠陥導波路27を導波している光である。元の屈折率分布型欠陥導波路3を伝播する導波光4は、一旦欠陥構造24に結合され共振している光25となり、この結合された光25は、再度、別の欠陥構造である接続欠陥導波路26に結合して導波光27となり、光接続することができる。このとき、欠陥故造24は、中間的な接続場所として提供される中間接続欠陥構造であり、この中間接続欠陥構造を設けることより、この中間接続欠陥導波路27のバンド特性に対応した光の周波数や群速度遅延や分散に対応した光を選択して接続することができる。この中間的な接続場所への光の接続を経由して、この選択的に接続した光をもとの屈折率分布型欠陥導波路3とは異なるフォトニック結晶欠陥構造を有する欠陥導波路7へ結合させている。この中間的な場所での光25を再びフォトニック結晶内を導波させることができる。これにより、大きな分散制御効果と群速度遅延効果により光を制御すると同時に、光の周波数に対する選択制御をしたりした上で、この光をフォトニック結晶内で再度利用することにより、複合機能を有する小型の光制御素子を実現することができる。実際の中間接続欠陥構造は、元の屈折率分布型欠陥導波路3とこれとは別のフォトニック結晶欠陥構造を有する欠陥導波路27の2つにより共振されるので、これら2つの欠陥導波路を含めた構造として最適化設計をすることが好ましい。
本発明の第17の実施形態を図22に基づいて説明する。図22は、本発明の第17の実施形態であり、図21の3つの点欠陥が連続して連なった欠陥構造24の代わりに2つ孤立した点欠陥28が存在する。この2つの孤立した点欠陥は、結合欠陥となり、この点欠陥で共振している光30はさらに元の屈折率分布型欠陥導波路3とこれとは別のフォトニック結晶欠陥構造を有する欠陥導波路29に結合して導波光31としてフォトニック結晶内を伝播させることができる。図22は、中間的な欠陥構造が複数ある場合であり、中間的な欠陥構造は1つに限定されるわけではなく2つ以上あってもよいし、複数個の中間接続欠陥構造が互いに独立して作用してもよいし、図22のように複合して作用してもよい。また、欠陥構造は、点欠陥構造に限定されるわけではなく、通常の線欠陥からなる欠陥導波ことも波長帯域を広げる上で非常に効果的である。
本発明の第18の実施形態を図23に基づいて説明する。図23は、本発明の第18の実施形態であり、接続欠陥構造が線欠陥よりなる接続欠陥導波路32である。図23において、33はそれぞれの欠陥導波路に元の屈折率分布型欠陥導波路3から結合されて、導波光33として導波することで光がそれぞれの接続欠陥導波路に接続され、これによりフォトニック結晶内を伝播させることができる。これにより、大きな分散制御効果と群速度遅延効果により光を制御すると同時に、この光をフォトニック結晶内を再度伝播させて他の光制御素子と複合させた光集積素子の小型化を実現したりすることができる。さらに、複数の接続欠陥導波路を用いることにより、これにより、光の周波数に対する選択制御をしたりすることができるようになる。
本発明の第19の実施形態を図24に基づいて説明する。図24は、本発明の第19の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、34は屈折率分布を有する薄膜であり、35は屈折率分布を有しない薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光であり、フォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜34および薄膜35と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜34は、図の左側がこの薄膜34内において相対的に低屈折率となり右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
図24においては、接続欠陥構造が線欠陥よりなる接続欠陥導波路36であり、37はそれぞれの欠陥導波路に元の屈折率分布型欠陥導波路3から結合されて、導波光37として導波することで光がそれぞれの接続欠陥導波路に接続され、これによりフォトニック結晶内を伝播させることができる。このとき、図24に示すように、接続欠陥導波路を通常の屈折率分布型ではない欠陥導波路で構成してもよい。この場合においても、既に屈折率分布型欠陥導波路が、光の周波数に対してその相対位置により特異な特性を有するようにできるので、接続欠陥導波路に対して光の周波数に対する選択制御をしたりした上で、この光をフォトニック結晶内で再度利用することができ、複数の光制御機能を集積せしめた集積素子の超小型化に非常に有効である。
本発明の第20の実施形態を図25に基づいて説明する。図25は、本発明の第20の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図25においては、34は屈折率分布を有する薄膜であり、35は屈折率分布を有しない薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波を導波する導波光であり、フォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜34および薄膜35と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜34は、図の左側がこの薄膜34内において相対的に低屈折率となり右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
図25においては、接続欠陥構造が線欠陥よりなる接続欠陥導波路38であり、この接続欠陥導波路38が元の屈折率分布型欠陥導波路3と方向性結合器となる形状に構成されている。これにより、元の屈折率分布型欠陥導波路3の導波光4は、接続欠陥導波路39に接続され、方向性結合器として高効率で結合された導波光39となって、方向としては直進する方向に導波光が伝播する透過型の高光利用効率の光制御素子を提供することができる。これにより、導波光39の電界強度つまり光量を大きくできるので、ノイズに強い信頼性の高い光制御素子を実現することができる。
さらに、図25に示すように、接続欠陥導波路を通常の屈折率分布型ではない欠陥導波路で構成しているので、元の屈折率分布型欠陥導波路が光の周波数に対してその相対位置により異なるバンドを有しており、もう一方の欠陥導波路が一定のバンドを有しており、方向性結合器は導波方向に対して大きい波長に対応した結合効率の制御ができ、波長選択性を向上することができる。
本発明の第21の実施形態を図26に基づいて説明する。図26は、本発明の第21の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、図26においては、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4は欠陥導波路を導波する導波光であり、図26におけるフォトニック結晶は、高屈折率の材料からなる薄膜と低屈折率の材料となるホール2とから構成され、さらに薄膜1は、図26中の左側がこの薄膜1内において相対的に低屈折率となり、右側は同じく相対的に高屈折率となる屈折率分布を有する材料からなる。
図26においては、接続欠陥構造が屈折率分布型フォトニック結晶内に設けられた線欠陥よりなる屈折率分布型接続欠陥導波路40であり、この接続欠陥導波路40が元の屈折率分布型欠陥導波路3と方向性結合器となる形状に構成されている。これにより、元の屈折率分布型欠陥導波路3の導波光4は、接続欠陥導波路40に接続され、方向性結合器として高効率で結合された導波光41となって、方向としては直進する方向に導波光が伝播する透過型の高光利用効率の光制御素子を提供することができる。
また、図26においては、図25の場合と異なり、両方の欠陥導波路が屈折率分布型欠陥導波路であるので、両方の欠陥導波路とも光の周波数に対してその相対位置によりバンドを最適に制御することができ、これにより方向性結合器の波長依存性を低減して、広帯域の方向性結合器を実現することもできる。図26の42a,42b,42cに示す下向き矢印は、ほぼ同一の屈折率分布を有する屈折率分布型欠陥導波路を用いて方向性結合器を構成した場合の結合の状況を模式的に示すものであり、波長に対応して結合する場所をかえることにより、より広い波長帯域において高効率の光結合を実現することができるようになる。波長に対する結合距離の補正を屈折率分布により最適化することは、さらに広帯域化するためには好ましい。
本発明の第22の実施形態を図27に基づいて説明する。図27は、本発明の第22の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、図27においては、接続欠陥導波路がリング形状欠陥導波路43である。屈折率分布型欠陥導波路の周波数に対する特性が導波方向に対して変化することに加えて、このリング導波路の周回自体の共振効果で、この構造において結合された導波光44はより高精度の波長選択的な方向性結合を行うことができるようになり、またリング共振器に光が周回するにつれて実効的な光結合効率もより向上することができるようになる。
本発明の第23の実施形態を図28および図30に基づいて説明する。図28は、本発明の第23の実施形態でありあるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、図28においては、45および44は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、47および46は欠陥導波路であり、49および51はこの欠陥導波路を導波する導波光である。また、欠陥導波路47および46は、中央部にフォトニック結晶を構成するホール2よりも微小なホール48および50を有している。そして、屈折率分布を有する薄膜45と薄膜44とではその屈折率の分布状態が異なり、どちらも図28中の右の方が低屈折率ではあるものの、下の薄膜44の方がより低屈折率となるように形成している。また、52a、52b、52cの矢印は、互いに異なる3つの周波数における方向性結合器による結合の位置を模式的に示したものである。
図28における光制御素子は、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を有しながらも、双方光伝播する光の分離素子の不要な透過型の利用のしやすい光制御素子を実現することができる。以下にこの原理について説明する。図28では、2つ屈折率分布型欠陥導波路により方向性結合器が構成されている。このとき、欠陥導波路として中央に微小なホール48および50を有しており、この場合の構成としては、バンドとして負の分散を有するバンドと、正の分散を有するバンドの2種類の異なるバンドとなる構成にした。説明のために2種類の異なるバンドを正の勾配のバンドおよび負の勾配のバンドとする。このとき、2つのバンド端は離れているので、2つのバンド端が一致するように、その構造に加えて屈折率分布を最適にした。これは、図28における薄膜45と薄膜44の屈折率分布により実現することができる。より具体的には、相対的に下に位置する正の勾配を有するバンドの位置が上にシフトするように薄膜44の屈折率を小さくし、相対的に上に位置する負の勾配を有するバンドの位置が下にシフトするように薄膜45の屈折率を大きくした。この屈折率の最適化は、バンド端がある図右側の屈折率に主に着目して行うことができる。これにより、2つの異なる屈折率分布型欠陥導波路のバンドが、バンド端近傍で一致することができた。
図30は、バンド端近傍の光に対して屈折率分布型欠陥導波路を伝播させた場合の光の伝播状態を模式的に示すものである。屈折率分布型フォトニック結晶は、その周期性の欠如により一定のバンド構造を有してはいないが、説明のため導波方向に対しての所定の位置における屈折率がほぼ一定値であるとした場合の位置によって異なるバンドを用いる。図30において、A〜Dは、それぞれ図28のA〜Dの位置におけるバンドであり、前述のように上下対称のバンドが、バンド端を一致させている状態にある。屈折率分布型フォトニック結晶においては、周波数が一定であっても欠陥導波路を導波している間にバンド自体が変化することにより、その伝播特性が大きく変わる。
図30の実線で示した周波数の場合には、AおよびBでは負の勾配のバンドに従って光が導波するが、このとき勾配が変化することからAの群速度よりもBの群速度が小さい、つまり光が徐々にゆっくりと伝播するように変化していくことがわかる。そして、Cでは、この光はバンド端に達し、このときの群速度としてはほぼ0であり、光が局在化する。これと同時にこのバンド端では、正の勾配と負の勾配のバンドは波数と周波数が一致するので、方向性結合が生じる。この後、D、Eと光が進行するにつれてその群速度が増加する。つまり、最初に一方の導波路を伝播してきた光は、その進行速度を小さくしながらバンド端に達し、光の停滞状態が生じながらもう一方の導波路に移る。この移った光はバンド端付近の低群速度の影響で進行速度は小さいが、やがてその進行速度を大きくしていきながら伝播していくことがわかる。また、図30の破線で示した上下も、バンド端に達する位置は異なるものの、BまたはDとそれぞれ異なるものの、実線の場合と同様に伝播していくことが、バンド図よりわかる。
屈折率変調型欠陥導波路の2つの異なるバンドにおいて、バンド端近傍で重なりを生じることは方向性結合の効率を大きくする上で好ましく、バンド端で一致させることが特に好ましい。これにより、高い光利用効率を実現することができる。また、このときの2つの異なるバンドとして、負の勾配と正の勾配のバンドを用いる場合に超低分散光制御をするためには、バンド端に対して上下略対称であることが好ましく、対称的に一致することが特に好ましい。一致することにより、線形な屈折率分布欠陥導波路の場合に、波長分散を完全に解消することもが見出された。また、一致していなくとも、略上下対称としながらバンド形状を最適化することにより、実質的に超低分散とすることもできる。ここでの略とは、バンド端近傍で特定波数に対して規格化周波数として0.003以内の一致が好ましく、より好ましくは0.001以内の一致であり、規格化波数0.4においては、0.005以内の一致が好ましく、より好ましくは0.002以内の一致である。
これらにより、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を得ながらも、透過型である利用しやすい光制御素子を提供することができる。さらに、バンド端に対して上下対称とすることにより超低分散の光制御素子を提供することもできる。また、図28においては、2つの異なる屈折率分布型線欠陥導波路において、正と負の異なる勾配のバンドを有するフォトニック結晶構成に対して、それぞれの屈折率分布を異ならせて最適化することにより、バンド端を位置させ、かつバンド端に対して略上下対称のバンドを実現している。このため、それぞれのホールの配列は共通であり、作製のしやすいフォトニック結晶からなる光制御素子を提供することができる。また、図28に示す欠陥導波路の中に微小なホールを設けた構成に限定されるわけではなく、正の勾配と負の勾配との2種類の勾配が現れるフォトニック結晶の構成であれば同様に上下対象のバンドを構成できる。
本発明の第24の実施形態を図29に基づいて説明する。図29は、本発明の第24の実施形態でありあるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、図29においては、53は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、54および55は欠陥導波路であり、49および51はこの欠陥導波路を導波する導波光である。また、欠陥導波路55は、中央部にフォトニック結晶を構成するホール2よりも微小なホール56を有している。また、52a、52b、52cの矢印は、互いに異なる3つの周波数における方向性結合器による結合の位置を模式的に示したものである。
図29における光制御素子は、図28における光制御素子と同様に、バンド端を一致させ、かつバンド端に対して上下対称な形状のバンドを実現できるので、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を有しながらも、双方光伝播する光の分離素子の不要な透過型の利用のしやすい光制御素子を実現することができる。図29では、欠陥導波路55のみが中央に微小なホール56を有しており、この場合の構成としては、バンドとして負の分散を有するバンドと、正の分散を有するバンドの2種類の異なるバンドを有している。説明のために2種類の異なるバンドを正の勾配のバンドおよび負の勾配のバンドとする。このとき、2つのバンド端は離れている。一方、単純な屈折利分布型欠陥導波路54は、正の勾配のバンドは存在しないが負の勾配のバンド端が存在する。このため、その構造に加えて屈折率分布を最適することにより、屈折利分布型欠陥導波路54における負の勾配のバンドと欠陥導波路55における正の勾配のバンド端とが一致するようにして、かつ、このバンド端に対して2つのバンドが上下略対称となるようにする。これにより、図28と同様に、図29の構成においても、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を得ながらも、透過型である利用しやすい光制御素子を提供することができる。さらに、バンド端に対して上下対称とすることにより超低分散の光制御素子を提供することもできる。
本発明の第25の実施形態を図31および図32に基づいて説明する。図31は、本発明の第25の実施形態でありあるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図31において、1は屈折率分布を有する薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、57および58は欠陥導波路であり、4および59はこの欠陥導波路を導波する導波光である。また、60a、60b、60cの矢印は、互いに異なる3つの周波数における方向性結合器による結合の位置を模式的に示したものである。
図31における光制御素子は、大きな分散制御効果と群速度遅延効果を有しながらも、双方光伝播する光の分離素子の不要な入出射導波路の異なる反射型の利用のしやすい光制御素子を実現することができる。以下にこの原理について説明する。図31では、2つ屈折率分布型欠陥導波路により方向性結合器が構成されている。このとき、2つの欠陥導波路をほぼ同一の構成としているので、そのバンドはほぼ同じである。このとき、この異なる2つの屈折率分布型欠陥導波路のバンドが、バンド端近傍で一致することは容易に可能である。また、バンド端のみならず、バンド全体をほぼ一致させることも容易に可能であり、このような光制御素子を構成する。
図31は、このバンド端近傍の光に対して屈折率分布型欠陥導波路を伝播させた場合の光の伝播状態を模式的に示すものである。屈折率分布型フォトニック結晶は、その周期性の欠如により一定のバンド構造を有してはいないが、説明のため導波方向に対しての所定の位置における屈折率がほぼ一定値であるとした場合の位置によって異なるバンドを用いる。図31において、A〜Dは、それぞれ図28のA〜Dの位置におけるバンドであり、前述のように上下対称のバンドが、バンド端を一致させている状態にある。屈折率分布型フォトニック結晶においては、周波数が一定であっても欠陥導波路を導波している間にバンド自体が変化することにより、その伝播特性が大きくかわる。
図32の実線で示した周波数の場合には、AおよびBでは負の勾配のバンドに従って光が導波するが、このとき勾配が変化することからAの群速度よりもBの群速度が小さい、つまり光が徐々にゆっくりと伝播するように変化していくことがわかる。そして、Cでは、この光はバンド端に達し、このときの群速度としてはほぼ0であり、光が局在化する。これと同時にこのバンド端では、正の勾配と負の勾配のバンドは波数と周波数が一致するので、方向性結合が生じる。この後、光は逆方向に進行し、Dではなく矢印で示されるよう再びBの状態になる。Bへと光が逆方向に進行するにつれてその群速度が増加する。つまり、最初に一方の導波路を伝播してきた光は、その進行速度を小さくしながらバンド端に達し、光の停滞状態が生じながらもう一方の導波路に移る。この移った光はバンド端付近の低群速度の影響で進行速度は小さいが、やがてその進行速度を大きくしていきながら伝播していくことがわかる。また、図30の破線で示した上下も、バンド端に達する位置は異なるものの、BまたはDとそれぞれ異なるものの、実線の場合と同様に伝播していくことが、バンド図よりわかる。
本発明においては、超分散としての群速度遅延を行うのではなく、広く分散制御をするためとしては、屈折率分布型欠陥導波路のバンドがバンド端近傍で重なっていればよく、図32に示すようにバンドがほぼ一致して重なっている必要はない。また、方向性結合器による結合の結合効率を大きくするために、フォトニック結晶の構成を非対称性にして、バンドを一致させない部分を設けることも効果的である。
屈折率変調型欠陥導波路の2つの異なるバンドにおいて、バンド端近傍で重なりを生じることは方向性結合の効率を大きくする上で好ましく、バンド端で一致させることが特に好ましい。これにより、高い光利用効率を実現することができる。また、このときの2つの異なるバンドとして、負の勾配となる2つのバンドを用いる場合に超低分散光制御をするためには、バンド端付近を基準に略一致した形状であることが好ましく、一致していることが特に好ましい。一致することにより、線形な屈折率分布欠陥導波路の場合に、波長分散を完全に解消することもが見出された。また、一致していなくとも、略一致させるようなバンド形状とすることにより、実質的に超低分散とすることもできる。ここでの略とは、バンド端近傍で特定波数に対して規格化周波数として0.003以内の一致が好ましく、より好ましくは0.001以内の一致であり、規格化波数0.4においては、0.005以内の一致が好ましく、より好ましくは0.002以内の一致である。
本発明の第26の実施形態を図33に基づいて説明する。図33は、本発明の第26の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図である。図33においては、1は屈折率分布を有する薄膜であり、61は屈折率が均一な薄膜であり、2はホールであり、3は欠陥導波路であり、4および62は欠陥導波路であり、4、16、63および64はこの欠陥導波路を導波する導波光である。また、17a、17b、17cの矢印は、互いに異なる3つの周波数における方向性結合器による結合の位置を模式的に示したものである。また、図33において、64は、図4と同じバンド端を利用する周波数に対して有する屈折率分布型欠陥導波であり、65は従来の屈折率差が均一の欠陥導波路である。本発明の光制御素子は、屈折率分布型欠陥導波路と単純な欠陥導波路を組み合わせることにより実現される。
図33におけるこの光制御素子は、大きな分散制御効果と群速度遅延効果をより高精度に制御する光制御素子を実現することができ、この原理を以下に説明する。屈折率分布型欠陥導波は、超低分散で短パルスの遅延量を制御したり、その分散量を高精度に制御したりすることができるが、遅延量と分散を同時に高精度に制御することは難しい。しかし、外部にべつの分散と遅延を与える分散と遅延の傾向が異なる光制御素子を補正素子として付加することにより、遅延量と分散量を同時に高精度に制御できるようになることを見出した。このような分散補償素子の補正素子としては、チャープ型グレーティングや光ファイバを用いることができ非常に効果的である。さらに、小型高性能の補正形素子としては、屈折率一定の材料からなるフォトニック結晶による欠陥導波路が最適であった。これは、屈折率が均一の通常のフォトニック結晶欠陥導波路の分散特性と群速度遅延特性が、他の補正素子と比べると、図1、図9、図28、図31等で示す屈折率分布型欠陥導波路と非常に類似しており、正および負の分散補償、さらには高次の分散補償を用いた補正可能であったことによる。また、これらの組み合わせ方は、端面結合に限定されるものではなく、光ファイバやレンズにより光結合させて用いても良い。また、後補償に限定されるものでもない、補正効果を考慮して前補償や両方の補償を組み合わせてもよい。これらにより、パルスを変形させることなく群遅延を与えることができる。また、図28における屈折率分布型欠陥導波路の上下のバンドが非対称な場合においても、入射側に分散を調整する補正素子を直結することにより超低分散を実現できる。また、あらかじめ積極的に、上下のバンドが非対称にしておいて、補正素子と組み合わせることにより、所定の値の群速度遅延量と分散量を得ることも可能である。さらには、これらの補正素子および屈折率分布型欠陥導波路を、電気光学効果や非線形光学効果や温度変化により外部から制御することにより、アクティブ素子として用いることも非常に効果的である。
本発明の第27の実施形態を図12(c)に基づいて説明する。図12中の(c)は、本発明の第27の実施形態であり、本発明による大きな分散制御と群速度遅延効果を示すものである。図12中の(c)は、図33に示される屈折率分布型フォトニック結晶と通常の屈折率が一定のフォトニック結晶による補正素子とからなる光制御素子である。薄膜1の有効屈折率分布は補正素子からの入射位置に相当する部分で屈折率値が2.963であり、この屈折率値は線形で連続的に減少されており、バンド端付近の屈折率値で2.800である構造を有している。このときの、屈折率差分布のある欠陥導波路長は40μmである。また、ホールの周期a値は0.39μmであり、ホールの径は直径2r値で0.39μmである。薄膜61の屈折率値は2.963であり、この屈折率値が一定となる構造を有している。このときの、屈折率一定の欠陥導波路長は40μmである。
図12中の(c)は、この構造を有する光制御素子に対して、屈折率分布型欠陥導波路のバンド端を有する周波数で、約300fsの短パルス入射せしめた場合の光の伝播状態を示している。図の横軸はフォトニック結晶中の短パルスの入射位置を基準とした相対座標であり、縦軸は電界強度である。また、導波路に入射させた光の周波数は、波長として1.55μmである。このときの短パルス光の幅は半値全幅FWHMで266fsであり、伝播する群速度に対応した相対位置座標として横軸方向の幅でこのパルスの幅が示され、この幅により分散量を知ることができる。本発明の光制御素子による光の伝播特性は、FDTDシミュレーションを用いた数値計算により求めた。
図12中の(c)において、短パルス光は広がった波長帯域を有しており波長分散つまりは周波数分散の影響を大きく受けやすいにも拘らず、本発明の光制御素子を用いた場合には、入射266fsに対して、補正素子を透過させると一旦分散量が460fsと増加するが、この後に屈折率分布型欠陥導波路により300fsと、短パルスが時間領域でほとんど広がっていない。さらに、再度補正素子を透過させると390fsと若干にパルスが広がる。このときの、補正素子を含む光制御素子全体での往復で6.10psであり、図12中の(b)に示したような、単に屈折率分布型欠陥導波路を用いた場合よりも、群速度遅延をより大きくしてかつ分散を小さくすることが同時に可能なことが見出され、非常に大きな分散制御と群速度遅延効果を高精度に補正できる超小型の光制御素子を提供することができることがわかった。本発明は、補正素子を往復させることに限定されるものではなく、往路のみ補正素子を用いて、より大きい分散制御特性を発現させることも効果的である。
本発明の第28の実施形態を図12(d)に基づいて説明する。図12中の(d)は、本発明の第28の実施形態であり、本発明による大きな分散制御と群速度遅延効果を示すものである。図12中の(d)は、図33に示される屈折率分布型フォトニック結晶と通常の屈折率が一定のフォトニック結晶による補正素子とからなる光制御素子である。薄膜1の有効屈折率分布は補正素子からの入射位置に相当する部分で屈折率値が2.963であり、この屈折率値は線形で連続的に減少されており、バンド端付近の屈折率値で2.800である構造を有している。このときの、屈折率差分布のある欠陥導波路長は80μmである。また、ホールの周期a値は0.39μmであり、ホールの径は直径2r値で0.39μmである。薄膜61の屈折率値は2.963であり、この屈折率値が一定となる構造を有している。このときの、屈折率一定の欠陥導波路長は40μmである。10psの非常に多いな遅延に対して、屈折率一定の欠陥導波路と、屈折率分布欠陥導波路長を組み合わせたものである。他は、図12中の(c)と同様である。
図12中の(d)において、短パルス光は広がった波長帯域を有しており波長分散つまりは周波数分散の影響を大きく受けやすいにも拘らず、本発明の光制御素子を用いた場合には、入射266fsに対して、補正素子を透過させると一旦分散量が560fsと増加するが、この後に屈折率分布型欠陥導波路により若干に圧縮され、再度補正素子を透過させると300fsと若干に元と同程度となる。このときの、補正素子を含む光制御素子全体での往復で10.20psであり、図12中の(c)よりも屈折率分布型欠陥導波路部分を長くしたにも拘らず、大きな分散制御と群速度遅延効果を高精度に補正できる超小型の光制御素子を提供することができることがわかった。
本発明の第29の実施形態を図34に基づいて説明する。図34は、本発明の第29の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子を模式的に示した構成図であり、図33に示す補正素子を有する光学制御素子に対して、この補正素子部分に、波長帯域測定手段、分散補正量決定手段、温度制御手段からなる分散補償補正量可変手段69を設けたものであり、66は光制御素子への入射光であり、67はこの一部を分岐して分散補償補正量可変手段69の波長帯域測定手段に伝送する手段であり、68は光制御素子からの出射光である。
図34において、分散補償補正量可変手段69は、光学制御素子への入射波長を検出し、このデータに応じて分散補正量決定手段が分散補正量を決定し、このデータに対応して温度制御手段が補正素子の温度制御を行う。これにより、波長が変動しても常に良好な分散制御と遅延時間制御を行うことができる。波長帯域測定手段に加えて入射光の分散測定手段を設けて、適切な分散制御を行うことも効果的である。この補正素子を制御する手段は、温度制御手段に限定されるものではなく、電気光学効果、磁気光学効果、非線形光学効果その他種々の屈折率や導波路中の電磁界強度を変化させる手段を用いることができる。これにより、より一層に高精度に分散制御と群速度制御をできるようになる。
本発明の第30の実施形態を図35に基づいて説明する。図35は、本発明の第30の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子であり、図9に示した屈折率分布型欠陥導波路を非線形材料により形成し、これを用いて構成した光―光変調機能を有する光制御素子を構成し模式的に示したものである。図示はしていないが、膜厚を制御することにより、屈折率分布を設けている。図35においては、71として連続光からなる光を光制御素子へ入射させ、通常はバンド端により反射され72として出射している。このときに、ほぼ周波数が71と同様で若干に高い光からなるパルス光70を光制御素子へ入射させる。この71の光はバンド端に近い光であるので、群速度が非常に遅延され非線形効果が増大される。また、連続光として入射している71はバンド端で光が停滞しており、この場合も非線形光学効果が増大されているがパルス光の方の光強度を大きくしておくことが好ましい。そして、パルス光が入射され、この光により、連続光71に対応したバンドが屈折率が増加して下がると、バンド端による反射がなくなり、連続光71がパルス光として出射される。これにより、一種の光―光スイッチもしくは光変調器が実現できる。
この非線形材料からなる屈折率分布型欠陥導波路は、上記のバンド端を用いた光変調器または光スイッチに限定されるわけではなく、波長変換、光スイッチ、四光波混合、光変調、光メモリ、光遅延素子等の非線形光学効果を利用した素子に使用することにより、その光学定数を群速度遅延により2〜4桁以上向上でき、性能の飛躍的向上を実現できる。
本発明の第31の実施形態を図36に基づいて説明する。図36は、本発明の第31の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子であり、図9に示した屈折率分布型欠陥導波路を電気光学材料により形成し、これを用いて構成した電気―光変調機能を有する光制御素子を構成しこれを模式的に示したものである。図示はしていないが、膜厚を制御することによりピラー構造の高さが連続的に変化しており、屈折率分布を設けている。77は電気光学結晶からなり、76および78は絶縁誘電体、75,79は電極であり、80は基板である。左から入射した連続光は、欠陥導波路内のバンド端により反射されている。このとき、上限の電極間に電圧を印加することにより、バンド端を下げることによりバンド端反射をなくして、連続光を光変調することができる。
この電気光学材料からなる屈折率分布型欠陥導波路は、上記のバンド端を用いた光変調器に限定されるわけではなく、波長変換、光スイッチ、光変調、光メモリ、光遅延素子等の電気光学効果を利用した素子に使用することにより、その光学定数を群速度遅延により超小型を実現でき、その性能の飛躍的向上を実現できる。
本発明の第32の実施形態を図37に基づいて説明する。図37は、本発明の第32の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子であり、図9に示した屈折率分布型欠陥導波路を磁気光学材料により形成し、これを用いて構成した磁気―光変調機能を有する光制御素子を構成しこれを模式的に示したものである。図示はしていないが、膜厚を制御することによりピラー構造の高さが連続的に変化しており、屈折率分布を設けている。81は磁気光学結晶からなり、74は高周波信号印加手段でり、73は磁界発生手段である。左から入射した連続光71は、欠陥導波路内のバンド端により反射され72となって出射されている。このとき、高周波信号印加手段74からの電圧に基づいて磁界発生手段73が磁界を発生することにより、偏光回転が生じ、フォトニック結晶中に存在できなくなった光が光の停滞している素子右側から相対的に強く発散的に放出される。これにより、磁気―光変調機能を有する光制御素子を構成できる。
この磁気光学材料からなる屈折率分布型欠陥導波路は、上記のバンド端を用いた光変調器に限定されるわけではなく、波長変換、光スイッチ、光変調、光メモリ、光遅延素子等の磁気光学効果を利用した素子に使用することにより、その光学定数を群速度遅延により超小型を実現でき、その性能の飛躍的向上を実現できる。
本発明の第33の実施形態を図38に基づいて説明する。図38は、本発明の第33の実施形態であるスラブ型2次元フォトニック結晶からなる光制御素子であり、図9に示した屈折率分布型欠陥導波路を形成したものである。図示はしていないが、膜厚を制御することによりピラー構造の高さが連続的に変化しており、屈折率分布を設けている。また、図38において、分散補償量可変手段73は、光学制御素子への入射波長を検出し、このデータに応じて分散補償量決定手段が分散補償量を決定し、このデータに対応して温度制御手段が光制御素子の温度制御を行う。これにより、波長が変動しても常に良好な分散制御と遅延時間制御を行うことができる。波長帯域測定手段に加えて入射光の分散測定手段を設けて、適切な分散制御を行うことも効果的である。また、温度制御を反射率や透過率の制御に用いることにより、超小型のアッテネータを実現することもできる。