本発明を詳細に説明する。
前記式(1)で示される化合物はC.I.Direct Yellow 86であり、布染色用染料、インクジェット記録用染料として販売されている。
前記式(2)で示される化合物はC.I.Direct Yellow 132であり、布または紙染色用染料、インクジェット記録用染料として販売されている。
本発明の染料水溶液に含有される式(1)及び(2)の染料は陰イオン(Cl-、SO4 2-等)の含有量が少ないもの、例えば染料水溶液中に1質量%以下のものが好ましい。
無機塩の含有量は、例えばCl-及びSO4 2-はイオンクロマトグラフ法にて測定される。
本発明の染料水溶液用に、陰イオン含量の少ない色素とするには、式(1)及び(2)の染料を、例えば逆浸透膜による通常の方法又は乾燥品あるいはウェットケーキ、好ましくはウェットケーキを、溶媒中、例えば含水低級アルコール好ましくはメタノール及び水の混合溶媒中で撹拌処理し、次いで濾過、乾燥する方法で脱塩処理すればよい。
本発明の染料水溶液は、式(1)の染料、水、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール及びグリセリンからなる群から選択される1種類の水溶性有機溶剤、式(2)の染料とから調製されたものであり、必要に応じて防腐防黴剤を含有してもよい。用いうる防腐防黴剤としては後述する本発明のインクに用いうる防腐防黴剤と同じものが挙げられる。また、染料水溶液のpHは5〜10が好ましい。
染料水溶液のpHは例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などを用いて調整される。
本発明の染料水溶液は、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリンから選択される水溶性有機溶剤を少なくとも1種類含有する。その総含有量は本発明の染料水溶液中、通常1〜15質量%、好ましくは5〜10質量%である。
本発明の染料水溶液は、式(2)の染料を0.01〜1.0質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%含有する。含有量が0.01質量%以下であると室温及び低温(0℃)での長時間放置において結晶析出しやすくなり、1.0質量%以上であると色相や耐光性、耐湿性等、C.I.Direct Yellow 86の品質に影響を及ぼす。
本発明の染料水溶液を製造するにあたり、各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。染料水溶液を調製するにあたり、用いる水はイオン交換水または蒸留水など不純物が少ない物が好ましい。さらに、得られた染料水溶液は必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよい。
本発明のインクは、本発明の染料水溶液単独若しくは少なくとも1種類の染料を併用し、インク中に含有する全染料分が通常1〜5質量%になるように、水または、水及び水溶性有機溶剤を添加することによって得られる。本発明の染料水溶液と併用しうる染料としてはイエロー染料であってもいいし、本発明の染料水溶液がブラックの調色染料として使用される場合は、例えば、ブラック染料やブラウン染料、バイオレット染料であってもいい。同じくグリーンとして使用される場合は例えば、グリーン染料、シアン染料、ブルー染料であってもいいし、更にオレンジとして使用される場合は例えばマゼンタ染料やレッド染料やオレンジ染料であってもいい。
本発明の染料水溶液と併用しうる染料の具体例としては、カラーインデックスから、C.I.Direct Black 17、19、22、32、38、51、62、71、108、146、154、168、C.I.Direct Yellow 12、24、26、27、28、33、34、39、44、58、87、98、100、120、130、132、142、173、C.I.Direct Red 1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243、C.I.Direct Blue 6、22、25、71、78、86、87、90、106、199、C.I.Direct Orange 34、39、44、46、60、C.I.Direct Violet 47、48、C.I.Direct Blown 109、C.I.Direct Green 59等の直接染料、C.I.Acid Black 2、7、24、26、31、52、63、112、118、168、172、208、C.I.Acid Yellow 3、11、17、19、23、25、29、38、42、49、59、61、71、72、C.I.Acid Red 1、6、8、32、37、51、52、80、82、85、87、92、94、115、180、249、254、256、289、315、317、C.I.Acid Blue 9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、249、254、279、C.I.Acid Orange 7、19、C.I.Acid Violet 49等の酸性染料、C.I.Reactive Black 1、5、8、13、14、23、31、34、39、C.I.Reactive Yellow 2、3、13、15、17、18、23、24、37、42、57、58、64、75、76、77、79、81、84、85、87、88、91、92、93、95、102、111、115、116、130、131、132、133、135、137、139、140、142、143、144、145、146、147、148、151、162、163、C.I.Reactive Red 3、13、16、21、22、23、24、29、31、33、35、45、49、55、63、85、106、109、111、112、113、114、118、126、128、130、131、141、151、170、171、174、176、177、183、184、186、187、188、190、193、194、195、196、200、201、202、204、206、218、221、C.I.Reactive Blue 2、3、5、8、10、13、14、15、18、19、21、25、27、28、38、39、40、41、49、52、63、71、72、74、75、77、78、79、89、100、101、104、105、119、122、147、153、158、160、162、166、169、170、171、172、173、174、176、179、184、190、191、194、195、198、204、211、216、217、C.I.Reactive Orange 5、7、11、12、13、15、16、35、45、46、56、62、70、72、74、82、84、87、91、92、93、95、97、99、C.I.Reactive Violet 1、4、5、6、22、24、33、36、38、C.I.Reactive Green 5、8、12、15、19、23、C.I.Reactive Blown 2、7、8、9、11、16、17、18、21、24、26、31、32、33等の反応性染料、C.I.Basic Black 2、C.I.Basic Red 1、2、9、12、13、14、27、C.I.Basic Blue 1、3、5、7、9、24、25、26、28、29、C.I.Basic Violet 7、14、27、C.I.Food Black 1、2、C.I.Food Yellow 1、4、5、C.I.Food Red 2、3、7、14、52、87、94、105、C.I.Food Blue 1、2等が挙げられる。
本発明のインクは、本発明の染料水溶液に、水、必要に応じて水溶性有機溶剤を本発明の効果を害しない範囲内において添加して調製される。水溶性有機溶剤は、染料溶解剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、粘度調整剤、浸透促進剤、表面張力調整剤、消泡剤等として使用される。その他インク調製剤としては、例えば、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、粘度調整剤、染料溶解剤、褪色防止剤、乳化安定剤、表面張力調整剤、消泡剤、分散剤、分散安定剤、等の公知の添加剤が挙げられる。本発明のインク中、水溶性有機溶剤の含有量は通常60質量%以下、好ましくは10〜50質量%であり、インク調製剤は0〜20質量%、好ましくは0〜15質量%用いるのが良い。
本発明のインクで使用しうる水溶性有機溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のC1〜C4アルカノール、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN,N−ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジン−2−オンまたは1,3−ジメチルヘキサヒドロピリミド−2−オン等の複素環式ケトン、アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−2−ヒドロキシペンタン−4−オン等のケトンまたはケトアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル、エチレングリコール、1,2−または1,3−プロピレングリコール、1,2−または1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の(C2〜C6)アルキレン単位を有するモノマー、オリゴマーまたはポリアルキレングリコールまたはチオグリコール、グリセリン、ヘキサン−1,2,6−トリオール等のポリオール(トリオール)、エチレングリコールモノメチルエーテルまたはエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル又はトリエチレングリコールモノメチルエーテル又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールの(C1〜C4)アルキルエーテル、γーブチロラクトンまたはジメチルスルホキシド等があげられる。
上記のうち好ましいものは、イソプロパノール、グリセリン、モノ、ジまたはトリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドンであり、より好ましくはイソプロパノール、グリセリン、ジエチレングリコール、2−ピロリドンである。これらの水溶性有機溶剤は、単独もしくは混合して用いられる。
防腐防黴剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、N−ハロアルキルチオ系、ベンツチアゾール系、ニトチリル系、ピリジン系、8−オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオシキド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられ、ピリジンオシキド系化合物としては、例えば2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウムが挙げられ、無機塩系化合物としては、例えば無水酢酸ソーダが挙げられ、イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンマグネシウムクロライド、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤としてソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム、等(例えば、アベシア社製プロクセルGXL(S)、プロクセルXL−2(S)等)があげられる。
pH調整剤は、インクの保存安定性を向上させる目的で、インクのpHを通常6.0〜11.0の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、水酸化アンモニウム、あるいは炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。
キレート試薬としては、例えばエチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどがあげられる。防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライトなどがあげられる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物、スチルベン系化合物、又はベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に、水溶性高分子化合物があげられ、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等があげられる。
染料溶解剤としては、例えば尿素、ε−カプロラクタム、エチレンカーボネート等があげられる。
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
表面張力調整剤としては、界面活性剤があげられ、例えばアニオン界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などがあげられる。アニオン界面活性剤としてはアルキルスリホカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N−アシルアミノ酸およびその塩、N−アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリルスルホン塩酸、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸ジオクチルスルホ琥珀酸塩などが挙げられる。カチオン界面活性剤としては2−ビニルピリジン誘導体、ポリ4−ビニルピリジン誘導体などがある。両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシンその他イミダゾリン誘導体などがある。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアリルキルアルキルエーテル等のエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレートなどのエステル系、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどのアセチレングリコール系(例えば、日信化学社製サーフィノール(登録商標)104E、104PG50、82、465、オルフィンSTG等)、等が挙げられる。これらのインク調製剤は、単独もしくは混合して用いられる。なお、本発明のインクの表面張力は通常25〜70mN/m、より好ましくは25〜60mN/mである。また本発明のインクの粘度は30mPa・s以下が好ましい。更に20mPa・s以下に調整することがより好ましい。
消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物が必要に応じて用いられる。
本発明のインクを製造するにあたり、各薬剤を溶解させる順序には特に制限はない。インクを調製するにあたり、用いる水はイオン交換水または蒸留水など不純物が少ない物が好ましい。さらに、得られたインクは必要に応じメンブランフィルターなどを用いて精密濾過を行って夾雑物を除いてもよく、インクジェットプリンタ用のインクとして使用する場合は精密濾過を行うことが特に好ましい。精密濾過を行うフィルターの孔径は通常1ミクロン〜0.1ミクロン、好ましくは、0.8ミクロン〜0.2ミクロンである。
本発明のインクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクとのインクセットとしても使用される。更にはより高精細な画像を形成する為に、ライトマゼンタインク、ブルーインク、グリーンインク、オレンジインク、ダークイエローインク、グレーインク等と併用したインクセットとしても使用される。
マゼンタインクの色素としては、種々のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類残基、ナフトール類残基、アニリン類残基などを有するアリールもしくはヘテロアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン系、アントラキノン系、アントラピリドン系などのようなキノン染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環染料等を挙げることができる。好ましくはアントラキノン系染料である。
シアンインクの色素としては、種々のものを使用することが出来る。例えばフタロシアニン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノンなどのようなキノン染料などを挙げることができる。好ましくはフタロシアニン染料であり、更に好ましくは銅フタロシアニン染料である。
前記の各色素は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。適用できるブラック色素としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
本発明のインクは、印捺、複写、マーキング、筆記、製図、スタンピング、または記録法、特にインクジェット印捺法における使用に適する。
本発明のインクジェット記録方法は、前記の方法で作製されたインクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、インクジェット専用紙、光沢紙、光沢フィルム、電子写真共用紙、繊維や布(セルロース、ナイロン、羊毛等)、ガラス、金属、陶磁器、皮革等に画像を形成する。
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり、耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを被記録材に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても,後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も被記録材中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。
以下に、本発明のインクを用いてインクジェットプリントをするのに用いられる被記録材(特に記録紙及び記録フィルム)について説明する。記録紙及び記録フィルムにおける支持体は、通常、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等からなり、必要に応じて顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/m2が好ましい。支持体には、そのままインク受容層及びバックコート層を設けてもよいし、デンプン、ポリビニルアルコール等でサイズプレスやアンカーコート層を設けた後、インク受容層及びバックコー卜層を設けてもよい。更に支持体には、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置により平坦化処理を行ってもよい。本発明では支持体として、両面をポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン及びそれらのコポリマー)でラミネートした紙及びプラスチックフィルムがより好ましく用いられる。ポリオレフィン中に、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例えば、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
支持体上に設けられるインク受容層には、顔料や水性バインダーが含有されていてもよい。顔料としては、白色顔料が好ましく、白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の白色無機顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。インク受容層に含有される白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能であるが、特に含水珪酸を使用することが好ましい。
インク受容層に含有される水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。本発明においては、これらの中でも特にポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。インク受容層は、顔料及び水性結着剤の他に媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有することができる。
インク受容層中に添加する媒染剤は、例えばポリマー媒染剤が用いられる。
耐水化剤は、画像の耐水化に有効であり、これらの耐水化剤としては、特にカチオン樹脂が好ましい。このようなカチオン樹脂としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、カチオンポリアクリルアミド、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらのカチオン樹脂の中で特にポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンが好適である。これらのカチオン樹脂の含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%であることが好ましい。
耐光性向上剤としては、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、ヒンダートアミン系酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中で硫酸亜鉛が好適である。
界面活性剤は、塗布助剤、剥離性改良剤、スベリ性改良剤あるいは帯電防止剤として機能する。界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物の例には、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれる。その他のインク受容層に添加される添加剤としては、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、マット剤、硬膜剤等が挙げられる。なお、インク受容層は1層でも2層でもよい。
記録紙及び記録フィルムには、バックコート層を設けることもでき、この層に添加可能な成分としては、白色顔料、水性バインダー、その他の成分が挙げられる。バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬べーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント,ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
バックコート層に含有される水性バインダーとしては、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸法安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
これら記録紙及び記録フィルムは、一般的にインクジェット専用紙、光沢紙又は光沢フィルムと呼ばれており、例えばピクトリコ(旭硝子(株)製)、カラーBJペーパー、高品位専用紙、カラーBJフォトフィルムシート、スーパーフォトペーパー、プロフェッショナルフォトペーパー(いずれもキャノン(株)製)、カラーイメージジェット用紙(シャープ(株)製)、PM写真用紙、スーパーファイン専用光沢フィルム(いずれもエプソン(株)製)、ピクタファイン(日立マクセル(株)製)等として市販されている。特に、本発明のインクを用いたインクジェット記録方法においては、被記録材として支持体上に白色無機顔料粒子を含有するインク受像層を有する記録紙及び記録フィルムに特に有効に機能する。なお、普通紙にも利用できることはもちろんである。
本発明のインクを用いてジェット記録方法で被記録材に記録するには、例えば本発明のインクを含有する容器をインクジェットプリンタの所定位置にセットし、通常の方法で、被記録材に記録すればよい。インクジェットプリンタとしては、例えば機械的振動を利用したピエゾ方式のプリンタや加熱により生ずる泡を利用したバブルジェット(登録商標)方式のプリンタ等があげられる。
本発明のインクは貯蔵中に沈澱、分離することがない。また、本発明のインクをインクジェット印捺において使用した場合、噴射器(インクヘッド)を閉塞することもない。本発明のインクは連続式インクジェットプリンタによる比較的長い時間一定の再循環下またはオンデマンド式インクジェットプリンタによる断続的な使用においても、物理的性質の変化を起こさない。
本発明の染料水溶液は、経時安定性が良好であり、更に0℃という低温でも結晶析出及び水溶液上下間で粘度勾配を与えず安定に存在する。
以下に本発明を更に実施例により具体的に説明する。尚、本文中「部」及び「%」とあるのは、特別の記載のない限り質量基準である。
参考例1(染料の精製)
本発明に用いる式(1)の染料はKayaset Yellow J−005(日本化薬社製)を用い、式(2)の染料はKayaset Yellow J−GX(日本化薬社製)を用いた。各々逆浸透膜(帝人(株)社製)を用いて脱塩処理を行い陰イオンの含有量を少なくした。式(1)及び(2)の陰イオン含有量を以下に示す。
式(1)染料(乾燥品)の陰イオン含有量(Cl-:100ppm以下、SO4 2-:100ppm以下)
式(2)染料(乾燥品)の陰イオン含有量(Cl-:100ppm以下、SO4 2-:100ppm以下)
実施例1
(染料水溶液の調製)
式(1)の染料を7〜10質量%、条件1:2−ピロリドン(以後2Pと略す)、N−メチル−2−ピロリドン(以後NMPと略す)、トリエチレングリコール(以後TEGと略す)、ジエチレングリコール(以後DEGと略す)、エチレングリコール(以後EGと略す)、グリセリン(以後GLと略す)の少なくとも1種類を含有し、条件2:式(2)の染料を0.01〜1.0質量%含有するようにサンプルを作製した。水はイオン交換水を用い、pHは苛性ソーダを用いてpH7±1に調整した。サンプルはそれぞれ、No.1〜No.13とした。No.1〜No.13のすべてのサンプルは0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行ない、不溶物の除去を行った。
比較例
次に比較例として、条件1及び条件2の両方若しくはどちらかを満たさないサンプルを作製した。また式(2)の染料の代わりに、式(1)と構造が類似した下記式(3)染料、式(2)に類似した下記式(4)染料を用いたサンプルも作製した。式(3)はDirect Yellow 50(ATUL社製)を逆浸透膜(帝人(株)社製)を用いて脱塩処理を行い無機物の含有量を少なくした。式(4)の染料は、特許文献3の実施例1に記載の方法で合成し、逆浸透膜(帝人(株)社製)を用いて脱塩処理を行い陰イオンの含有量を少なくした。
式(3)染料(乾燥品)の陰イオン含有量(Cl-:100ppm以下、SO4 2-:100ppm以下)
式(4)染料(乾燥品)の陰イオン含有量(Cl-:100ppm以下、SO4 2-:100ppm以下)
比較例のサンプルはそれぞれ、No.A〜No.Pとした。尚、No.A〜No.Pのすべてのサンプルは0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行ない、不溶物の除去を行った。
(0℃放置試験)
実施例1で得られたNo.1〜No.13の各染料水溶液を、キャップ付き試験管に入れ、0℃に設定した冷蔵庫に放置し、沈殿の析出の有無を肉眼で判断し、評価を行った。評価は1ヶ月以上沈殿析出が確認されない場合は○、確認された場合は×で表わし、確認された場合は何日後に確認されたかも表す。結果を表1に示す。
同様に比較例1で得られたNo.A〜No.Pの各染料水溶液を用いて、前記と同様にして0℃放置試験を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、条件1:2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリンのうちの少なくとも1種類含有し、かつ条件2:0.1〜1.0質量%の式(2)の染料を含有するという条件を満たすことによって0℃における放置で安定であることがわかる。条件1及び条件2の両方若しくはどちらかを満たさないサンプルや式(2)の染料から、式(3)、式(4)に変更したサンプルは0℃放置で沈殿析出が起こる。この結果から条件1及び条件2を共に満たすことによって式(1)のC.I.Direct Yellow 86が低温(0℃)で安定に存在することがわかる。
実施例2
(インクジェットプリント評価)
(A)インクの調製
下記組成の液体を調製し、0.45μmのメンブランフィルターで濾過する事により各インクジェット用水性インク組成物を得た。また水はイオン交換水を使用した。尚、インク組成物のpHがpH=9、総量100部になるように水、苛性ソーダを加えた。
表2
No.5の染料水溶液(実施例1) 20.0部
水+苛性ソーダ 60.9部
グリセリン 5.0部
尿素 5.0部
N−メチル−2−ピロリドン 4.0部
IPA 3.0部
ブチルカルビトール 2.0部
サーフィノール104PG50(界面活性剤 日信化学社製) 0.1部
計 100.0部
(B)インクジェットプリント
インクジェットプリンタ(商品名 キヤノン社製 BJ S630)を用いて、PM写真用紙KA420PSK(エプソン社製)にインクジェット記録を行った。
比較例2
No.5の染料水溶液の代わりに、No.Cの染料水溶液を用いる以外は実施例3と同様にインクを調製し、インクジェット記録を行った。
比較例3
No.5の染料水溶液の代わりに、式(2)の染料の10%染料水溶液を用いる以外は実施例3と同様にインクを調製し、インクジェット記録を行った。
比較例4
No.5の染料水溶液の代わりに、No.Cの染料水溶液を15部、式(2)の染料の10%染料水溶液を5部用いる以外は実施例3と同様にインクを調製し、インクジェット記録を行った。(特許文献2の実施例A5に相当)
比較例5
No.5の染料水溶液の代わりに、No.Cの染料水溶液を5部、式(2)の染料の10%染料水溶液を15部用いる以外は実施例3と同様にインクを調製し、インクジェット記録を行った。(特許文献2の実施例A1に相当)
各々のインクの印刷物の耐湿性試験結果を表3に示す。
(C)記録画像の評価
耐湿性試験
PM写真用紙の試験片を恒温恒湿器(応用技研産業(株)製)を用いて60℃、90%RHで20時間放置し、試験前後の染料のにじみを目視により判定した。
○ 染料のにじみがない。
△ 染料のにじみが観測される。
× 染料のにじみが大きい。
表3
耐湿性(にじみ評価)
実施例2 ○
比較例2 ○
比較例3 ×
比較例4 △
比較例5 ×
比較例2は色素成分としては式(1)の化合物単独、比較例3は色素成分としては式(2)の化合物単独である。
表3から、比較例2は染料のにじみが全くなく、比較例3は染料のにじみが大きいことがわかる。また、比較例4及び5は染料のにじみがあることがわかる。一方、実施例2は、にじみが確認されず、比較例2と同じ評価結果になった。このことから本発明のインクは、式(2)の化合物を含有するが、式(2)の耐湿性が不良である性質をひきずらないことが確認された。
以上のことから本発明の染料水溶液は低温(0℃)安定性に優れ、インクジェット用インクに適した染料水溶液であることがわかる。