JP4393841B2 - 積層型誘電素子及びその製造方法 - Google Patents
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Description
このような積層型誘電素子を製造する方法は、通常下記のような複数の工程にて行われる。
次に、脱脂後の積層体を加熱炉内にて還元条件下で加熱することにより上記電極ペースト材料中の金属酸化物を還元し、導電性を有する金属電極層にする(電極還元工程)。その後、積層体を焼成してセラミック材料を緻密化し、最終的な積層型誘電素子を得る(焼成工程)。
例えばCu酸化物を含有してなる導電ペーストと、PZT系材料よりなるセラミック材料とを用いて作製する場合を考えると、上記電極還元工程においては、化学平衡論的なCu酸化物の還元反応(2CuxO⇔2xCu+O2)と、水素ガスによる反応速度論的なCu酸化物の還元反応(CuxO+H2⇒xCu+H2O)とが共存する。
そして、このようなデラミネーションの発生は、ヤング率及び絶縁抵抗等の積層誘電体素子の重要な特性を低下させてしまう。
鉛酸化物を含む金属酸化物よりなるセラミック材料をシート状に成形してなるセラミックグリーンシートの少なくとも一方の面に、卑金属酸化物を含有してなる卑金属電極用ペースト材料を塗布する電極印刷工程と、
上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する圧着工程と、
上記積層体を雰囲気ガスの流通下にて加熱炉内で加熱し、上記卑金属電極用ペースト材料を還元して卑金属電極層とする電極還元工程と、
上記積層体を焼成する焼成工程とを有し、
上記電極還元工程においては、上記卑金属電極層中に含まれる卑金属酸化物の残存量が20wt%以下であり、かつ上記卑金属電極層の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量が、30atomic%以下となるように上記卑金属電極用ペースト材料を還元し、
上記電極還元工程における上記雰囲気ガスは、上記卑金属電極用ペースト材料を還元する還元ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素を含有し、
上記電極還元工程においては、昇温速度200℃/h以下で加熱を開始し、続いて300℃〜400℃の最高保持温度にて0.5〜15時間保持し、その後炉冷し、90℃以下の温度にて上記積層体を上記加熱炉内より取り出し、かつ加熱を開始してから上記加熱炉内より上記積層体を取り出すときまでの上記雰囲気ガス中の酸素の分圧を1×10 -23.9 〜1×10 -22 atmにし、
上記電極還元工程における酸素流量f O (ml/min)と水素流量f H (ml/min)とは、上記雰囲気ガスを構成する各ガスの流量の合計量を全流量F(ml/min)とするとき、酸素流量f O =A×水素流量f H /全流量F−B(但し、20≦A≦24、12≦B≦16、8≦A−B≦8.22)の関係を有していることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法にある(請求項1)。
上記卑金属酸化物の残存量が20wt%を超える場合には,残存した卑金属酸化物が上記セラミック材料中に含まれる,鉛酸化物を含有する金属酸化物と反応し,液相の共晶物質を形成してしまうおそれがある。その結果,焼成工程後の上記積層体の絶縁抵抗が低下し,また,デラミネーションが発生するおそれがある。
上記範囲内におけるセラミック材料から遊離する鉛の量が30atomic%を超える場合には,遊離した鉛と上記卑金属電極層中の卑金属とが反応し,卑金属電解層が溶融してしまうおそれがある。そのため,卑金属電極層の導電性が損なわれるとともに,液相の形成によりデラミネーションが発生するおそれがある。
鉛酸化物を含む金属酸化物よりなるセラミック材料をシート状に成形してなるセラミックグリーンシートの少なくとも一方の面に、卑金属酸化物を含有してなる卑金属電極用ペースト材料を塗布する電極印刷工程と、
上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する圧着工程と、
上記積層体を雰囲気ガスの流通下にて加熱炉内で加熱し、上記卑金属電極用ペースト材料を還元して卑金属電極層とする電極還元工程と、
上記積層体を焼成する焼成工程とを有し、
上記電極還元工程においては、上記卑金属電極層中に含まれる卑金属酸化物の残存量をM(wt%)(ただし、残存量Mは、薄膜X線回折法で定量した値である)、
かつ上記卑金属電極層の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量をN(atomic%)(ただし、鉛の量Nは、上記卑金属電極層の表面から5000Åの範囲をX線光電子分光法により定量した値である)とすると、
上記M(wt%)とN(atomic%)との間には、
N=C×M+D、0≦M<20なる関係が成立し(ただし、C及びDはM及びNに依存しない値であり、それぞれ−1.5≦C<−1.0、30≦D<36の範囲にある。)、
上記電極還元工程における上記雰囲気ガスは、上記卑金属電極用ペースト材料を還元する還元ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素を含有し、
上記電極還元工程においては、昇温速度200℃/h以下で加熱を開始し、続いて300℃〜400℃の最高保持温度にて0.5〜15時間保持し、その後炉冷し、90℃以下の温度にて上記積層体を上記加熱炉内より取り出し、かつ加熱を開始してから上記加熱炉内より上記積層体を取り出すときまでの上記雰囲気ガス中の酸素の分圧を1×10 -23.9 〜1×10 -22 atmにし、
上記電極還元工程における酸素流量f O (ml/min)と水素流量f H (ml/min)とは、上記雰囲気ガスを構成する各ガスの流量の合計量を全流量F(ml/min)とするとき、酸素流量f O =A×水素流量f H /全流量F−B(但し、20≦A≦24、12≦B≦16、8≦A−B≦8.22)の関係を有していることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法にある(請求項2)。
更に、上記残存量Nは、薄膜X線回折法にて定量した値であり、上記鉛の量Mは、X線光電子分光法にて定量した値である。薄膜X線回折法に用いる測定器具として、(株)島津製作所製XRD6100等を使用することができる。また、X線光電子分光法に用いる測定器具として、VGシステムズジャパン(株)製の測定器を使用することができる。
上記卑金属酸化物の残存量が20wt%以上である場合には、残存した卑金属酸化物が上記セラミック材料中に含まれる、鉛酸化物を含有する金属酸化物と反応し、液相の共晶物質を形成してしまうおそれがある。その結果、焼成工程後の上記積層体の絶縁抵抗が低下し、また、デラミネーションが発生するおそれがある。
上記範囲内におけるセラミック材料から遊離する鉛の量がC×N+D(atomic%)と等しくなくなった場合は、遊離した鉛と上記卑金属電極層中の卑金属とが反応し、卑金属電解層が溶融してしまうおそれがある。そのため、卑金属電極層の導電性が損なわれるとともに、液相の形成によりデラミネーションが発生するおそれがある。
そのため、上記積層型誘電素子は、上記誘電セラミック層と上記卑金属電極層との間にデラミネーションがほとんどなく、ヤング率や絶縁抵抗が高く高品質である。
上記第1の発明において、上記セラミック材料としては、PZT系材料が好ましい。
この場合には、PZT系材料が有する優れた圧電及び誘電特性を利用して、高性能の積層型セラミックコンデンサ及び積層型圧電アクチュエータ等に利用できる積層型誘電素子を作製することができる。
H2+1/2O2⇔H2O (1)
そのため、安定した酸素分圧を実現できる。それ故、上記電極還元工程において、上記卑金属電極層中に含まれる卑金属酸化物の残存量が20wt%以下であり、かつ上記卑金属電極層の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量を30atomic%以下とすることが容易になる。
なお、上記炉冷とは、加熱を停止した後も処理材を炉内に保持し、その処理材を自然放冷よりも緩やかに徐冷することである。
一方、1×10-23.9atm未満の場合には、上記卑金属電極用ペースト材料中の卑金属酸化物が還元されると同時に、上記セラミック材料中の鉛を含む金属酸化物までもが還元され、過剰の鉛が遊離するおそれがある。この遊離した鉛は、上記卑金属電極層中の例えば銅等の卑金属と反応し、卑金属電極層を溶融させるおそれがある。
一方、400℃を超える場合には、セラミック材料から遊離した鉛と卑金属電極層の金属とが反応して卑金属電極層を溶融してしまうおそれがある。
一方、15時間を超える場合には、上記電極還元工程中にセラミック材料が還元され、セラミック材料が有する圧電性及び誘電性などの性質が損なわれてしまうおそれがある。
この場合には、上記電極還元工程において、上記セラミック材料が過剰に還元されることを防止することができると共に、その一方で、上記卑金属電極用ペースト材料を充分に還元させることができる。
0.0012≦H≦0.0018(H:mol/min)
0.0002≦W≦0.001(W:mol/min)
これにより、鉛酸化物を含む誘電材料を用いた積層体が、水素により還元されて鉛を析出する現象を最小限に抑制でき、かつ卑金属電極層中の卑金属酸化物を還元することができる。
仮にHが0.0012未満である場合は、卑金属電極層中の卑金属酸化物を還元に要する時間が長くなるという問題が生じるおそれがあり、Hが0.0018より大である場合は、誘電材料が水素により還元されて鉛を析出する量が多くなり、焼成中に卑金属電極層と反応して電極層を形成できなくなるという問題が生じるおそれがある。
29000≦h≦31000(h:mol/min)
これにより、鉛酸化物を含む誘電材料を用いた積層体の卑金属電極層が焼成中に卑金属電極層と反応することなく、かつ卑金属電極層中の卑金属酸化物が残存量を最低限として焼成中に卑金属酸化物が誘電材料と反応する量を最小限とすることが可能になる。
仮にhが、29000未満である場合は、卑金属電極層中に未還元の卑金属酸化物が20wt%以上残存するという問題が生じるおそれがある。
hが31000より大である場合は、誘電材料より誘電材料が水素により還元されて鉛を析出する量が卑金属電極層の表面から5000Å以内における鉛量が30atomic%を超え焼成中に卑金属電極層と反応して電極層を形成できなくなるおそれがある。
この場合には、上記電極還元工程において、充分に上記卑金属電極用ペースト材料を還元することができると共に、充分な導電性を有する卑金属電極層を作製することができる。また、この場合には、上記電極還元工程を行うときに、上記セラミック材料をほとんど還元させることなく、その一方で、上記卑金属電極用ペースト材料は、充分に還元させることができる。
一方、14μmを超える場合には、上記電極還元工程において、上記卑金属電極用ペースト材料が還元されにくくなり、残留した卑金属酸化物がセラミック材料中の金属酸化物と液相を形成し、デラミネーションを発生してしまうおそれがある。
この場合には、製造工程が簡便化し、上記積層型誘電素子を簡単に製造することができる。
これにより、有機物を除去し、電極還元及び還元焼成を可能にすることができる。
次に、第1の発明の実施例にかかる、積層型誘電素子の製造方法につき、図1〜図9を用いて説明する。
本例においては、図1に示すごとく、誘電セラミック層12と、卑金属からなる卑金属電極層13とを交互に積層した積層型誘電素子1を製造する。
そして、本例の製造方法は、後述するごとく、電極印刷工程と、圧着工程と、脱脂工程と、電極還元工程と、焼成工程とを有する。
また、上記圧着工程は、上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する工程である。
また、脱脂工程は、上記積層体を脱脂する工程である。
また、上記焼成工程は、上記積層体を焼成する工程である。
まず、以下のようにしてセラミック材料を作製する。
酸化鉛と酸化タングステンとをそれぞれ83.5mol%と16.5mol%ずつ秤量し乾式混合した後、500℃にて2時間焼成することにより、酸化鉛と酸化タングステンの一部を反応させた助剤酸化物粉(化学式:Pb0.835W0.165O1.33)を作製した。次に、この助剤酸化物粉を媒体攪拌ミルにより微粒化し乾燥して反応性を高めた。
まず、以下のようにして卑金属電極用ペースト材料を作製する。
上記卑金属電極用ペースト材料の作製にあたっては、まず上記卑金属電極用ペースト材料の固形分を準備する。固形分の組成としては、上記卑金属酸化物としてのCuO粉(比表面積10〜15m2/g、高純度化学社製)が28wt%、Cu粉(平均粒子径0.5μm以下、三菱マテリアル株式会社製)が56.6wt%、及び上記誘電体仮焼成粉と同じ組成であり粒子径20μm以下に造粒してなる共粉が15wt%である。
なお、この10個のユニット25のうち1個は、セラミックグリーンシート22を積層する際に、卑金属電極用ペースト材料を印刷していないセラミックグリーンシートを1枚準備し、最上段にこのペースト材料を印刷していないセラミックグリーンシートを積層したものである。
続いて、上記積層体27を気体循環式脱脂炉中に入れ、図6に示すような温度設定にて積層体27を加熱し、脱脂を行った。図6は、横軸は経過時間(h)をとり、縦軸に積層体近傍の温度(℃)をとり、温度パターンP1を示したものである。
この電極還元工程は、図7に示すような加熱炉3によって行われる。
図7に示すごとく、上記加熱炉3は、上記積層体27を載置して加熱を行う炉室30と、該炉室30に差し込まれた炉内酸素分圧センサ315及びこのセンサ315からの検出値を得る炉内酸素分圧計316を有し、上記炉室30にAr−H2(或いはAr−CO)、CO2、O2をそれぞれ導入するための各マスフローコントローラー311、312、313及び該マスフローコントローラー311、312、313から炉室30への流路を適宜切り替える電磁弁314を設けた流路31を有する。
そして、炉室30の酸素分圧の制御は炉外酸素分圧センサ317及び分圧計318及び炉内酸素分圧センサ315及び分圧計316により行う。
一方、炉内酸素分圧センサ315はジルコニアO2センサであるがヒーターを内蔵せず、焼成炉3の炉室の温度が400〜500℃程度以上に加熱されたときに炉室30の酸素分圧が計測可能になる。そのため、この焼成炉においては、炉外酸素分圧センサ317は炉内温度が炉内酸素分圧センサ315の測定温度範囲から外れているときに用いた。
このようにして、上記卑金属電極用ペースト材料中に含まれるCuOをCuに還元し、卑金属電極層とした。
この焼成工程においては、上記加熱炉3の炉室30内に上記電極還元工程終了後の上記積層体27を載置し、昇温速度300℃/hにて加熱を開始し、最高保持温度970℃にて2時間加熱した。このとき、雰囲気ガスとしては、CO2(ベースガス)と、不活性ガスとしてのArと還元ガスとしてのCOとからなるAr−CO(CO濃度は10体積%)と、酸素分圧を調整するためのO2(酸化ガス)をそれぞれ一定の流量で炉室30内に導入した。このときのCO2及びAr−CO流量は、それぞれ5000ml/min及び150ml/minであり、O2の流量は、2〜8ml/minの範囲とした。
一方、600℃以上からは酸素分圧の制御を炉内酸素分圧センサ315及び分圧計316に切り替えて行った。切り替え時の炉内酸素分圧センサ315の指示値は10-10〜10-14atmであった。切り替え後から最高保持温度までは、酸素分圧を直線的に上昇させ、最高保持温度では酸素分圧10-6.0〜10-8.0atmの範囲に保持して雰囲気制御を行った。
このようにして積層体27を焼成し、図1に示すごとく本例にかかる、積層型誘電素子1を得た。これを試料E1とした。
そして、これら各試料E1〜E4、及び試料C1〜C3を作製する際に、電極還元工程終了後の試料をそれぞれ別途準備し、これらを試料E1a〜E2a及び試料C1a〜C3aとした。
また、試料C1〜試料C3は、上記の式の範囲から外れた酸素流量にて作製したものである。
この結果、図16及び図17に示すごとき、卑金属電極層に含まれる成分のX線回折スペクトルを得た。このスペクトルより、卑金属電極層に含まれている成分は、共粉である誘電セラミックス材料及び電極還元工程で還元された導電成分であるCu、及び未還元のCu酸化物であるCu2Oと稀にCuOが検出されたことが分かった。
この結果からCu酸化物残存量をコランダム比より求め、このCu酸化物残存量からCu還元量(wt%)を求めた。
なお、図16がスペクトルを示す線図であり、図17は、図16におけるピーク位置を示す線図である。
また、範囲970〜920eV及び範囲150〜130eVについて更に精密にスキャンして、CuとPbの原子割合を測定し、それぞれ図19、図20に結果を記載した。
この検出結果からCu検出ピーク面積に対するPb検出ピーク面積の比を求め、Pb発生量(atmic%)を算出した。なお、上記卑金属電極層とセラミックグリーンシートとは接しているため、分析結果に干渉が起こるおそれがある。これを回避するため、予め卑金属電極層表面を約30秒間Arにてエッチングした。
さらに、上記と同様の作業をE2a〜E4a及びC1a〜C3aに対して実施した。
図10は、横軸がCu還元量(wt%)を、縦軸がPb生成量(atmic%)を示す。
また、試料C3aは、鉛の生成量が低いレベルに抑えられている反面、卑金属電極用ペースト材料が充分に還元されておらず、Cu還元量は80wt%を下回っている。
3について、その内部のCu分布を明らかにするために、X線マイクロアナライザーの一種であるEPMA(Electron probe microanalyser)にて、試料E1及び試料C3のCu分布を調べた。
その結果を図11(試料E1)及び図12(試料C3)に示す。なお、同図中、又は後述する図15、図23及び図24において、Cu又はO原子の分布は、5種類のハッチングパターンにて、その分布量の大小を表現している。ハッチングパターンの種類は各図の右下の四角内に示してあり、一番上のハッチングパターンが最も分布量が大きい部分を示し、上から順に分布量は小さくなる。
また、この試料C3においては、図13に示すごとく、積層型誘電素子1内部に大きなデラミネーション9が発生していた。そして、このデラミネーション9は、上記卑金属電極層13と、誘電セラミック層12とがその界面で剥離して開口部95を生じていた。
デラミネーションにより発生した開口部であり、下の部分が誘電セラミック層12である。右側の図は、開口部95の上側を観察した結果である。なお、図14の左側の図は、比較のためデラミネーション9が発生していない正常な部分を観察した結果である。
さらに、SEMにて観察した部分と同じ部分におけるCu分布の様子を図15に示す。
なお、図15の真ん中及び右側の図に示した斜め実線は、誘電セラミック層12と開口部95との境界部のおよその位置を示すものである。
(静電容量)
静電容量は、インピーダンスアナライザーを用い、温度条件を室温とし、測定周波数1kHzにて測定した。その結果を表1に示す。
絶縁抵抗は、室温で150Vの電圧を印可し、印可してから2分後抵抗を絶縁抵抗計を用いて測定した。その結果を表1に示す。
一方、試料C1〜試料C3は、静電容量が900μF未満と小さかった。また、試料C3及び試料4は絶縁抵抗が非常に小さく、いずれも13MΩ以下であった。
本例では、上記電極印刷工程における、卑金属電極用ペースト材料を塗布する厚み、及び上記電極還元工程における、雰囲気ガスの制御条件を変えて実施例1と同様な積層型誘電素子を作製し、静電容量及び絶縁抵抗及び歩留まりを測定した。
歩留まりは、各試料と同条件で同様の試料を40個作製して、このうちデラミネーションの発生したものを不良品として歩留まりを算出した。
その結果を表2に示す。
また、比較のため、実施例1で得られた試料E1についても、静電容量、絶縁抵抗、及び歩留まりを測定し、その結果を表2に示した。
一方、試料C5〜試料C16においては、静電容量や絶縁抵抗が悪化した。
特に、試料C14〜試料C16のように、印刷厚が16μmを超えるものについては、デラミネーションが多発し、歩留まりが悪かった。これは、電極還元工程において、上記卑金属電極用ペースト材料が還元されにくくなり、残留Cu酸化物が誘電セラミック層に拡散するためであると考えられる。
一方、上記試料C5〜C16は、上記卑金属電極層13中に含まれる卑金属酸化物の残存量が20wt%を超えるものや、上記卑金属電極層13の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量が、30atomic%を超えるものであった。
次に、第2の発明の実施例にかかる、積層型誘電素子の製造方法につき、説明する。
本例においては、図22に示すごとく、誘電セラミック層62と卑金属からなる卑金属電極層63とを交互に積層した積層型誘電素子6を製造する。
そして、本例の製造方法は、後述するごとく、電極印刷工程と、圧着工程と、脱脂工程と、電極還元工程と、焼成工程とを有する。
また、上記圧着工程は、上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する工程である。
また、脱脂工程は、上記積層体を脱脂する工程である。
また、上記焼成工程は、上記積層体を焼成する工程である。
また、上記電極還元工程における上記加熱は、上記卑金属電極用ペースト材料中の上記卑金属と上記セラミックグリーンシート中の少なくとも1つの金属との共晶点付近の温度を最高保持温度としておこない、かつ該最高保持温度における上記還元ガスは、上記雰囲気ガス中に0.2〜0.3体積%含まれる。
まず、以下のようにして卑金属電極用ペースト材料を作製する。
平均粒径0.5μmの略球形のCu粉をプレスし、板状にした板状Cu粉と、平均粒径1〜2μmの略球形のCuO粉とを準備した。
また、実施例1のセラミック材料と同様の材質からPb量を2atomic%だけ減らして得られる材料よりなる共材を準備した。
このベース材料に、上記のように予め準備していたCuO粉(平均粒径1〜2μm、略球形)と、板状Cu粉(平均粒径0.5μm、略球形)と、共材とを下記の表3に示す割合で添加し、混練し、卑金属電極用ペースト材料を作製した。
そして、この積層体を実施例1と同様にして脱脂した。
本例の電極還元工程は、図7に示すごとく、実施例1と同様の加熱炉3を用いて行った。本例においては、上記セラミックグリーンシートがその組成物中に鉛を含有し、上記卑金属電極用ペースト材料が銅を含有してなるため、鉛と銅との共晶点である326℃付近を最高保持温度に設定し、12時間加熱した。
なお、上記電極還元工程における酸素分圧は、最高保持温度において10-23.8atmとなるように設定した。
本例においては、上記積層体の焼成は、焼成温度950℃で4時間、雰囲気ガスの流通下にて行った。このとき、上記雰囲気ガスとしては、上記電極還元工程と同様に、Ar−H2(還元ガス)とO2(酸化ガス)とを用いたが、本例では、誘電セラミック層が還元されないような雰囲気に調整して行った。なお、焼成の際の酸素分圧は、温度950℃において約10-6になるように設定した。
このようにして、図22に示すごとく、誘電セラミック層62と卑金属からなる卑金属電極層63とを交互に積層した積層型誘電素子6を作製した。これを試料X1とした。
その結果をそれぞれ図23(試料X1)及び図24(試料Y1)に示す。
一方、試料Y1においては、図24より知られるごとく、Cuが分布する卑金属電極層63にもOが分布している。即ち、試料Y1は、試料X1に比べて卑金属電極用ペースト材料の還元度合いが極度に低いことがわかる。
このように、本例の製造方法によれば、デラミネーションがなく、高品質な積層型誘電素子を製造することができる。
本例では、実施例3の電極還元工程における、温度及び雰囲気ガス条件を変更して、実施例3と同様の積層型誘電素子を作製する。
まず、実施例3と同様にして、2mmの積層体を6個作製し、さらに、実施例3と同様に脱脂をおこなった。
続いて、この脱脂済みの6個の積層体に、実施例3と同様にして、電極還元工程及び焼成工程を施し、積層型誘電素子を作製した。
以下、Cu酸化物の残留率及び共晶物質の形成率の測定方法をにつき、説明する。
焼成後の上記積層型誘電素子(試料X2〜X5、試料Y1及び試料Y2)を誘電セラミック層と卑金属電極層との界面で剥がし、卑金属電極層の膜をテープに貼り取り、X線回折装置(株式会社島津製作所製のXRD−6100)により計測する。計測は、簡易定量計算(同定された化合物でコランダム比をもっているものに対して計算をおこなうもの)により行い、その結果をCu量とCu酸化物量の比率として得た。
このようにして、Cu酸化物の残留率を測定し、その結果を表4に示す。
上記Cu酸化物の残留率の計測と同様に、上記卑金属電極層の膜をテープで貼り取った後、誘電セラミック層側を上記X線回折装置を用いて、計測する。計測は、上記簡易定量計算により行い、その結果をCu6PbO8量とPb酸化物量の比率として得た。
このようにして、共晶物質(Cu6PbO8等)の形成率を測定し、その結果を表4に示す。
なお、表4において、上記Cu酸化物の残留率及び共晶物質の形成率は、いずれも原子の個数の比率(atomic%)で表示してある。
一方、試料Y1は、卑金属電極層中のCu酸化物形成率が非常に高く、PbとCuとの共晶物質の形成率も大きくなっている。また、試料Y2においても、共晶物質の形成率が大きかった。
以下、これらの結果について検討する。
ここで、試料Y1は、0.2%という低いH2ガス比率の条件下で作製したものである。このような低い水素ガス濃度を用いると、上記電極還元工程において卑金属電極用ペースト材料は充分に還元されず、表4に示すごとくCu酸化物が残留してしまう。さらに、残留したCuO等のCu酸化物は、電極還元工程後に行われる焼成工程において、誘電セラミック層中のPbOと共晶物質を形成する。その結果、表4に示すごとく共晶物質の形成率も高くなってしまう。
このように、共晶物質の形成は、電極還元工程において、還元条件を厳しくしても弱くしてもおこると考えられる。そして表4より知られるごとく、上記電極還元工程において、上記雰囲気ガス中のH2ガスの比率は、0.2%より多く、3.0%より小さくなるように設定することが好ましいのがわかる。
そして、表4の結果をH2ガスの線密度の観点から検討すると、上記電極還元工程における、上記雰囲気ガス中のH2ガスの線密度は、0.0376cm/minより多く、0.564cm/minより少ない範囲に設定することが好ましいのがわかる。
本例は、上記実施例4において検討した、雰囲気ガス中の水素ガスの好ましい比率の範囲についてさらに検討した例である。
まず、上記実施例3及び実施例4と同様にして、2mmの積層体を2個作製し、さらにこれらの脱脂を行った。
次に、この脱脂済みの2個の積層体に、実施例3及び4と同様にして、電極還元工程及び焼成工程を施し、積層型誘電素子を作製する。
その結果を上記の表4に示す。
なお、表4中にあるH2ガスの線密度の算出方法は、上記実施例4と同様であり、雰囲気ガス中に含まれる微量の酸素ガスの流量は考慮せずに算出した。
上記実施例4においては、好ましいH2ガスの線密度の範囲として、下限を0.0376cm/min、上限を0.564cm/minとしたが、本例の試料X6及び試料X7は、この範囲を逸脱する線密度のH2ガスにて作製されたものである。それにもかかわらず、試料X6及び試料X7のCu酸化物及び共晶物質の形成率が表4に示すごとく低く抑えられているのは、雰囲気ガス中のH2比率が、上述のように0.2より多く、3.0より少ないという範囲に設定されているからである。
本例は、上記水素ガスの線密度の好ましい範囲についてさらに検討した例である。
まず、上記実施例5と同様にして、2mmの積層体を2個作製し、さらにこれらの脱脂を行った。
次に、この脱脂済みの2個の積層体に、実施例5と同様にして、電極還元工程及び焼成工程を施し、積層型誘電素子を作製する。
その結果を上記の表4に示す。
なお、表4中にあるH2ガスの線密度の算出方法は、上記実施例4と同様であり、雰囲気ガス中に含まれる微量の酸素ガスの流量は考慮せずに算出した。
そして、実施例5及び実施例6の結果より、上記電極還元工程においては、雰囲気ガス中の水素ガスの比率を、0.2%を越え、3%未満の範囲とするか、又は雰囲気ガス中の水素ガスの線密度を0.0376cm/minより多く、0.564cm/minより少ない範囲に設定することが重要であることがわかる。
本例では、上記電極還元工程における、加熱温度を検討する。
まず、本例においては、電極還元工程における上記最高保持温度を310℃、加熱時間を12時間として、他は実施例6における上記試料X9と同様の作製方法及び条件にて積層型誘電素子を作製した。これを試料Y3とした。
また、上記試料Y3と電極還元工程における上記最高保持温度だけが異なる条件で同様の積層型誘電素子を作製した。これを試料Y4とした。なお。試料Y4においては、上記最高保持温度は340℃とした。
その結果、上記試料Y3は、卑金属電極層中にCu酸化物がほぼ100%残存していた。
また、試料Y4を目視により観察すると、上記電極還元工程後にはすでに卑金属電極層が消失しており、誘電セラミック層だけが積層された状態になっていた。
12 誘電セラミック層
13 卑金属電極層
Claims (8)
- 組成中に鉛を含有する誘電セラミック層と、卑金属としての銅からなる卑金属電極層とを交互に積層した積層型誘電素子を製造する方法において、
鉛酸化物を含む金属酸化物よりなるセラミック材料をシート状に成形してなるセラミックグリーンシートの少なくとも一方の面に、卑金属酸化物を含有してなる卑金属電極用ペースト材料を塗布する電極印刷工程と、
上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する圧着工程と、
上記積層体を雰囲気ガスの流通下にて加熱炉内で加熱し、上記卑金属電極用ペースト材料を還元して卑金属電極層とする電極還元工程と、
上記積層体を焼成する焼成工程とを有し、
上記電極還元工程においては、上記卑金属電極層中に含まれる卑金属酸化物の残存量が20wt%以下であり、かつ上記卑金属電極層の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量が、30atomic%以下となるように上記卑金属電極用ペースト材料を還元し、
上記電極還元工程における上記雰囲気ガスは、上記卑金属電極用ペースト材料を還元する還元ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素を含有し、
上記電極還元工程においては、昇温速度200℃/h以下で加熱を開始し、続いて300℃〜400℃の最高保持温度にて0.5〜15時間保持し、その後炉冷し、90℃以下の温度にて上記積層体を上記加熱炉内より取り出し、かつ加熱を開始してから上記加熱炉内より上記積層体を取り出すときまでの上記雰囲気ガス中の酸素の分圧を1×10 -23.9 〜1×10 -22 atmにし、
上記電極還元工程における酸素流量f O (ml/min)と水素流量f H (ml/min)とは、上記雰囲気ガスを構成する各ガスの流量の合計量を全流量F(ml/min)とするとき、酸素流量f O =A×水素流量f H /全流量F−B(但し、20≦A≦24、12≦B≦16、8≦A−B≦8.22)の関係を有していることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。 - 組成中に鉛を含有する誘電セラミック層と、卑金属としての銅からなる卑金属電極層とを交互に積層した積層型誘電素子を製造する方法において、
鉛酸化物を含む金属酸化物よりなるセラミック材料をシート状に成形してなるセラミックグリーンシートの少なくとも一方の面に、卑金属酸化物を含有してなる卑金属電極用ペースト材料を塗布する電極印刷工程と、
上記卑金属電極用ペースト材料が塗布されたセラミックグリーンシートを積層し圧着して積層体を作製する圧着工程と、
上記積層体を雰囲気ガスの流通下にて加熱炉内で加熱し、上記卑金属電極用ペースト材料を還元して卑金属電極層とする電極還元工程と、
上記積層体を焼成する焼成工程とを有し、
上記電極還元工程においては、上記卑金属電極層中に含まれる卑金属酸化物の残存量をM(wt%)(ただし、残存量Mは、薄膜X線回折法で定量した値である)、
かつ上記卑金属電極層の表面から5000Å以内における、上記セラミック材料から遊離した鉛の量をN(atomic%)(ただし、鉛の量Nは、上記卑金属電極層の表面から5000Åの範囲をX線光電子分光法により定量した値である)とすると、
上記M(wt%)とN(atomic%)との間には、
N=C×M+D、0≦M<20なる関係が成立し(ただし、C及びDはM及びNに依存しない値であり、それぞれ−1.5≦C<−1.0、30≦D<36の範囲にある。)、
上記電極還元工程における上記雰囲気ガスは、上記卑金属電極用ペースト材料を還元する還元ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素を含有し、
上記電極還元工程においては、昇温速度200℃/h以下で加熱を開始し、続いて300℃〜400℃の最高保持温度にて0.5〜15時間保持し、その後炉冷し、90℃以下の温度にて上記積層体を上記加熱炉内より取り出し、かつ加熱を開始してから上記加熱炉内より上記積層体を取り出すときまでの上記雰囲気ガス中の酸素の分圧を1×10 -23.9 〜1×10 -22 atmにし、
上記電極還元工程における酸素流量f O (ml/min)と水素流量f H (ml/min)とは、上記雰囲気ガスを構成する各ガスの流量の合計量を全流量F(ml/min)とするとき、酸素流量f O =A×水素流量f H /全流量F−B(但し、20≦A≦24、12≦B≦16、8≦A−B≦8.22)の関係を有していることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。 - 請求項1又は2において、上記電極還元工程で最高温度に保持される際、水素と酸素とが反応して生成する水のモル流量をW、残存する余剰の水素のモル流量をHとすると、両者の値は下記の範囲内にあることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。
0.0012≦H≦0.0018(H:mol/min)
0.0002≦W≦0.001(W:mol/min) - 請求項1〜3のいずれか1項において、上記電極還元工程で、最高温度に保持される際、保持時間における水素モル流量の積分値hは、下記の範囲内にあることを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。
29000≦h≦31000(h:mol/min) - 請求項1〜4のいずれか1項において、上記電極印刷工程においては、上記卑金属電極用ペースト材料を厚み2〜14μmにて塗布することを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項において、上記電極還元工程と上記焼成工程とは1回の加熱で同時に行うことを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項において、上記圧着工程後、積層体に含まれる有機物を除去する脱脂工程を行うことを特徴とする積層型誘電素子の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法によって作製されることを特徴とする積層型誘電素子。
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