JP4392597B2 - ポリイミド系樹脂水分散体及びその製造方法 - Google Patents

ポリイミド系樹脂水分散体及びその製造方法 Download PDF

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Description

近年、環境問題から環境ホルモンや排出溶剤の規制の動きがあり、これに対応して塗料、インキ、コーテイング剤や接着剤では非溶剤系や無溶剤系への要望が強くなってきている。本発明はポリアミドイミド系樹脂の水系分散体及びその製造方法に関し、環境負荷の少ない塗料、インキ、コーテイング剤や接着剤に関するものである。
高分子の水分散体としては、古くからゴムラテックスから始まり、合成高分子分野でもアクリル酸エステル系やスチレン系等のビニル系高分子分野での懸濁重合、エマルジョン重合などで広く知られ、応用されてきた。これらのビニル系ポリマーの水分散体は製造も容易なため安価で、強靭な塗膜を形成し密着性などにも優れるが、耐熱性や耐薬品性が本質的に不足しているためその用途が限られていた。縮合重合系では例えば特許文献1〜4等に見られるように不飽和共重合ポリエステルの水分散体が知られている。このポリエステル系水分散体は密着性等優れた特性を発揮するが、耐熱性や耐薬品性が悪く、また不飽和基を含有するため副反応として架橋が生じたりするため反応の制御が困難で、生産性が悪いなどの欠点があった。
また、ポリアミドイミド樹脂では特許文献5、6に記載されるように、スルホン酸基を導入した水分散体が知られているが、塗膜の耐水性が不十分であるとか分散体の安定性が悪い等の欠点を有していた。
特公昭61−57874号公報 特開昭59−223374号公報 特開昭62−225510号公報 特開平3−294322号公報 特開平5−255504号公報 特開平9−40778号公報
本発明は塗膜の耐水性や分散安定性に優れ、耐熱性、耐薬品性に優れたポリイミド系樹脂の水分散体を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明に到達した。即ち、本発明は以下のポリアミドイミド系樹脂水分散体及びその製造方法に関する。
(1)親水性基含有ラジカル重合性単量体をグラフト重合したポリイミド系樹脂が、水または水/有機溶剤中に分散されているポリイミド系樹脂水分散体。
(2)ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド樹脂である(1)に記載のポリイミド系樹脂水分散体。
(3)ポリイミド系樹脂がアミン成分として、イソホロン及び/またはジシクロヘキシルメタン残基を有する(1)または(2)に記載のポリイミド系樹脂水分散体。
(4)ポリイミド系樹脂が酸成分として、シクロヘキサン残基を有する(1)〜(3)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体。
(5)親水性基がカルボキシル基であり、グラフト重合体中のカルボキシル基の一部が塩基性化合物で中和されている(1)〜(4)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体。
(6)重合性不飽和基含有ジカルボン酸を0.5〜20モル%共重合したポリイミド系樹脂とカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体とを、水溶性の有機溶剤中で反応させてグラフト重合体を得た後、該グラフト重合体を塩基性化合物で中和せしめて水または水/有機溶剤の混合液中に分散せしめるポリイミド系樹脂分散体の製造方法。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体を用いた塗料。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体を用いたコーテイング剤。
(9)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体を用いたインキ。
(10)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体を用いた接着剤。
(11)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体を基材上に塗布、乾燥した塗膜。
本発明のポリイミド系樹脂水分散体は、グラフト重合体が自己乳化性を有するため、乳化剤や分散剤を用いることなく水系媒体中に高い含有量で、微少粒子径で、かつ安定に分散すること、また室温付近での乾燥や自然乾燥で形成された皮膜が、水や水分散体含有液中に再び分散させることができる再分散性を示すこと、更にポリイミド系樹脂本来の耐熱性や耐薬品性を示すなどの特徴を有する。
このため、コーテイング剤、塗料、インク等に利用された場合耐水性、耐薬品性、耐熱性に優れた塗膜を形成させる。
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明におけるポリイミド系樹脂とはポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を表すものである。このうち、以下に挙げる重合や分散体の製造安定性の観点からポリアミドイミド樹脂が好ましい。
本発明で用いるポリイミド系樹脂は、ポリイミド系樹脂に親水性基含有ラジカル重合性単量体がグラフト重合されたものである。該ポリイミド系樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いる場合は一般にトリメリット酸無水物とジイソシアネートを主原料として、通常N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性極性溶剤中、加熱、攪拌することで製造することができる。
ポリアミドイミド樹脂の製造に用いられる酸成分としては、上記トリメリット酸及びこれの無水物、塩化物の他にピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂肪族、脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられ、これらの中では反応性、耐熱性、接着性などの点からトリメリット酸無水物が最も好ましく、その一部をジカルボキシポリ(アクリロニトリルーブタジエン)、ダイマー酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等で置き換えるのが好ましい。特にシクロヘキサン残基を有するものが、安定な水分散体を得る点で好ましい。これら好ましい成分は全酸成分を100モル%としたとき、20モル%以上含まれるものが好ましい。より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上である。
ポリアミドイミド樹脂の製造に用いられるジアミン(ジイソシアネート)としてはエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメエタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネートが挙げられ、これらの中では溶解性、透明性の点からイソホロンジアミン(ジイソシアネート)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン(ジイソシアネート)が好ましい。これら成分は全アミン成分を100モル%としたときに30モル%以上であることが好ましく、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
本発明に用いるポリイミド系樹脂は前記酸成分、アミン(ジイソシアネート)成分以外にジオール成分を共重合することができる。ジオール成分としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエステルジオール、カーボネートジオール等が挙げられ、これらの中では溶解性、接着性の点からポリエステルジオールが好ましい。
本発明におけるポリイミド系樹脂に親水性基含有ラジカル重合性単量体をグラフトさせるために、ポリイミド系樹脂中にラジカル重合性成分を共重合又は変成させることがグラフト効率を高める上で好ましい。これらの共重合単量体としては、フマル酸、マレイン酸等の重合性不飽和基含有ジカルボン酸が挙げられる。その共重合量は酸成分中0.5〜20モル%であることが好ましい。変成剤としてはアクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、イタコン酸、グリシジルメタクリレート、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、無水マレイン酸等が挙げられ、これらの中では共重合単量体としてはフマル酸が、変成剤としてはグリシジルメタクリレートが反応性等の点で好ましい。
本発明のおけるポリイミド系樹脂はN,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶剤中、60℃〜200℃に加熱しながら攪拌することによって製造することができる。また、反応を促進するためにフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属類、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等のアミン類やジブチル錫ジラウレート等の触媒を用いることができる。
このようにして製造されたポリイミド系樹脂は、本発明の用途からガラス転移温度は50℃以上、好ましくは80℃以上であり、対数粘度は0.1dl/g以上、好ましくは0.2dl/g以上である。ガラス転移温度の上限は350℃未満、対数粘度の上限は1.6dl/g未満が好ましい。ガラス転移温度が50℃未満ではポリイミド系樹脂本来の耐熱性が悪くなり、対数粘度が0.1g/dl未満では塗膜が脆くなることがあるからである。
次に、本発明においてポリイミド系樹脂はラジカル重合性単量体でグラフト重合される。このグラフト重合は前記ポリイミド系樹脂の重合溶液中で行うことができるが、前記重合溶液を他の溶剤に変えて用いることが好ましい。前記ポリイミド系重合溶液を他の溶剤に変える場合、前記ポリイミド系樹脂重合溶液を水やアルコール等ポリイミド系樹脂と混和しない溶剤中に投入して固化させ、洗浄、乾燥した樹脂を他の溶剤に溶解して用いられる。これらの溶剤としてはメタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、カルビトール等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類等の1種又は2種以上の混合溶剤を用いることができる。これらのうち、ポリイミド系樹脂の良溶剤を用いることが、安定な水分散体を得るために好ましい。良溶剤であるとはポリイミド系樹脂を5重量%濃度で溶解した溶液を25℃で3日間放置しても何ら変化のないものを指す。
本発明の水分散体が最終的に溶剤を全く含まない、完全水系にする場合、上記溶剤は沸点が100℃以下であるか、水と共沸する溶剤が好ましく、例えば、前記溶剤のうち、メタノール、エタノール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の単独又は二種以上の混合溶剤が好ましい。
ポリイミド系樹脂にグラフトさせるラジカル重合性単量体としては、親水性基を有するか、後で親水性基に変化させることができる基を有するラジカル重合性単量体とその他のラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。親水性基としてはカルボキシル基、水酸基、燐酸基、亜燐酸基、スルホン酸基、アミド基、第四級アンモニウム塩等を挙げることができ、親水性基に変化させることができる基としては、酸無水物基、グリシジル基、クロル基などを挙げることができる。これらの親水性基のうち、酸価を変化させて水分散性をコントロールすることが容易であるという観点からカルボキシル基が好ましく、カルボキシル基を有するか、カルボキシル基を発生する基を有するラジカル重合性単量体を用いることが好ましい。
このようなカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、等の他に水性アルカリ媒体に接してカルボン酸を発生するマレイン酸無水物などが挙げることができ、これらの中から1種または2種以上を組み合わせて選択できる。最も望ましいのは、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸無水物である。
本発明においては、前記カルボキシル基含有ラジカル重合性単量体の他に、カルボキシル基を含有しないラジカル重合性単量体を合わせて使用するのが通常である。これらカルボキシル基を含有しないラジカル重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸のエステルとしてアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等、更にアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、N−ビニルピロリドン、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン等を例示することができる。これらのカルボキシル基を含有しない単量体は、本発明のグラフト重合効率を円滑に行うために有効であり、前記単量体の中から1種または数種を選んで用いることができる。
親水性基含有単量体とカルボキシル基を含有しない単量体との比率は、重量比で95/5〜5/95の範囲であり、好ましくは90/10〜10/90であるが、グラフト反応生成物の酸価を考慮して決定することが必要である。
本発明のポリイミド系樹脂のグラフト重合体の中和される前の酸価は600〜4000eq/106gであることが望ましく、更に望ましくは700〜3000eq/106g、最も望ましくは800〜2500eq/106gである。酸価が600eq/106g以下では水分散化を行ったとき、粒子の小さな分散体を得ることが困難で、分散安定性が低下する傾向がある。また、酸価が4000eq/106g以上では塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
ポリイミド系樹脂のグラフト重合体は、前記、ポリイミド系樹脂中の不飽和二重結合に、ラジカル重合性単量体をグラフト重合させることによって効率的に得られる。
本発明では、ポリイミド系樹脂を有機溶剤に溶解させた溶液に、ラジカル開始剤とラジカル重合性単量体を加えて加熱、攪拌することで得られる。ラジカル開始剤とラジカル重合性単量体は同時に添加してグラフト重合を行っても良いし、別々に添加しても構わない。また、ラジカル重合性単量体は時間をかけて滴下しながら添加しても構わない。
更に実施の態様を説明すると、本発明ではまず、ポリイミド系樹脂の重合溶液又は再溶解した溶液を調整する。この場合、使用する溶剤として好ましいのは前記のように、沸点が100℃以下、または水と共沸する溶剤であり、固形分濃度は20〜70%が好ましい。該ポリイミド系樹脂溶液にラジカル重合開始剤とラジカル重合性単量体を加えて加熱、攪拌を行う。ラジカル重合性単量体の添加量は、全固形分中、5〜60%、好ましくは7〜45%、更に好ましくは10〜40%である。ラジカル重合性単量体の添加量が60%を超えると耐水性や加工性、ポリイミド系樹脂本来の耐熱性が損なわれ、5%以下では良好な水分散体が得られにくくなる。
本発明に用いられるラジカル重合開始剤としては、特に制限はなく、有機過酸化物や有機アゾ化合物が用いられ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等を例示することができる。これらのラジカル重合開始剤の使用量は、ラジカル重合性単量体に対して0.2%以上、好ましくは0.5%以上必要である。
ポリイミド系樹脂溶液にラジカル重合開始剤と親水性基含有ラジカル重合性単量体及び親水性基を含有しないラジカル重合性単量体とを含む溶液は通常、50〜120℃で攪拌しながらグラフト重合される。
本発明におけるポリイミド系樹脂グラフト重合体は、所望のポリイミド系樹脂−ラジカル重合性単量体混合物間のグラフト重合体の他に、ポリイミド系樹脂単体やグラフト重合されなかったラジカル重合性単量体自身の重合体も含まれるが、本発明の目的である水系分散体を得ることに支障がない範囲でこれらの非グラフト重合体が含まれるものをも意味する。
本発明のポリイミド系樹脂のグラフト重合体は、塩基性化合物で中和することが好ましく、中和することによって容易に平均粒子径が500nm以下の微粒子に水分散化する事が可能になる。塩基性化合物としては、塗膜形成時や硬化剤配合による焼き付け硬化時に気散する化合物が好ましい。これらの塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミン類等が効果的である。望ましい化合物の例としては、トリエチルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N−メチル−N,N―ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等を挙げることができる。
塩基性化合物は、グラフト重合体中に含まれるカルボキシル基含有量に応じて、少なくとも部分中和、もしくは完全中和によって水分散体のpH値が5.0〜9.0の範囲にあるように使用するのが望ましい。
水分散化の方法としては、グラフト重合体中に含まれる有機溶剤を減圧エクストルーダー等により、予め除いた固形物を溶融状態で塩基性化合物を含有する水中に投じて加熱、攪拌して製造することも可能であるが、最も好適にはグラフト反応が終了した時点で直ちに塩基性化合物を含む水を投入して、更に加熱、攪拌を継続して水系分散体を得る方法が望ましい。前記のように、ポリイミド系樹脂溶液の有機溶剤が、沸点100℃以下の場合や水と共沸する場合は系中の有機溶剤の一部又は全部を蒸留により取り除くことが可能である。
本発明で得られるポリイミド系樹脂の水系分散体は、レーザー光散乱法で測定される平均粒子径は500nm以下であり、半透明〜乳白色の外観を呈する。本発明の水分散体の粒子径は重合条件などにより変化するが、これらの粒子径は10nm〜500nmが好適であり、分散安定性の点からは400nm以下、好ましくは300nm以下である。500nmを超えると造膜時に表面光沢の低下が見られる。
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体は、ポリイミド系樹脂成分が凝集状態でコア部として存在し、その周りを水溶性の塩基性化合物で中和されたカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体からなる重合体がシェル部分として包み込んだ構造になっているため、通常の水分散体に用いられる乳化剤や保護コロイドが必要でなく、且つ乾燥塗膜の水への再分散性に優れる。
本発明のポリイミド系樹脂水系分散体は、塗料、インキ、コーテイング剤、接着剤などのビヒクルとして、或いは、繊維、フィルム、紙などの加工材として用いられる。また、本発明の水系分散体はそのままでも使用できるが、架橋剤を配合することで更に高度の耐水性、密着性、耐熱性を付与することができる。架橋剤としてはフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、アミノ樹脂、多官能エポキシ樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、多官能ブロックイソシアネート化合物等を挙げることができる。
また、本発明の水系分散体には必要に応じて顔料、染料、消泡剤、帯電防止剤やレベリング剤なども配合することができる。
以下実施例で本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例で何ら制限されるものではない。尚、実施例に記載される特性は以下の方法で測定されたものである。
1.対数粘度
ポリマー0.5gをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)100mlに溶解した溶 液を25℃でウベローデ粘度管を用いて測定した。
2.ガラス転移温度
アイテ計測制御(株)社製、動的粘弾性測定装置を用いて、貯蔵弾性率の変曲点から 求めた。
3.水分散体粒子径
Coulter社製レーザー光散乱粒度分布計(Coulter ModelN4) を用い、固形分0.1%のイオン交換水溶液を用いて測定した。
4.溶液粘度
東京計器(株)製BL型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
5.密着力
セロハンテープを用いた碁盤目剥離法で評価して下記基準に従ってランク付けした。
○:剥離面積が20%以下
△:剥離面積が21〜50%
×:剥離面積が50%以上
6.保存安定性
水分散体を40℃で60日静置した後の外観変化を観察した。
○:外観変化せず沈降が見られない。
△:外観変化しないが一部沈降が見られる
×:水分散体が分離して、沈降が見られる
7.酸価
中和処理前の固形樹脂1gをN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、その溶液を用い て、フェノールフタレインを指示薬にしてKOHで滴定し、樹脂106g当たりのカ ルボキシル基当量を求めた。
8.耐薬品性
アルミニウム板に3〜5μ塗布し、280℃で20秒間焼き付けした板を40℃に保 ったキシレン中に24時間浸漬した後の外観を観察した。
○:外観変化無し
△:一部剥離が見られる
×:外観が著しく変化または殆ど剥離が発生している
9.耐水性
ポリアミドイミド水分散体にポリアミドイミド樹脂固形100部に対して、メラミン 樹脂(スミマールM30W:住友化学工業(株)製)25部とパラトルエンスルホン 酸0.25部を配合した溶液をアルミニウム板に3〜5μm塗布し、280℃で20 秒間焼き付けした板を沸騰水中、2時間処理した後の外観を観察した。
○:外観変化無し
△:一部剥離が見られる
×:外観が著しく変化または殆どが剥離している
<ポリアミドイミド系樹脂Aの合成>
冷却器、窒素導入管、攪拌機を備えたフラスコに、トリメリット酸無水物(TMA)0.9モル、フマル酸0.1モル、イソホロンジイソシアネート(IPDI)1.02モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み、180℃で5時間反応させた後、冷却しながらN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加え、固形分濃度が25%となるように希釈した。この溶液を水中に投入しろ別、乾燥して白色固形樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.35dl/g、ガラス転移温度は277℃であった。更にこの溶液を固形分濃度が25%となるようにテトラヒドロフランに溶解した。
<ポリアミドイミド樹脂Bの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA0.45モル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸0.45モル、フマル酸0.1モル、フッ化カリウム0.02モル、IPDI1.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み、180℃で3時間反応させた後、冷却しながらNMPを加え固形分濃度が20%となるように希釈した。この溶液を水中に投入してろ別、乾燥して白色固形樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.53dl/g、ガラス転移温度は235℃であった。更に、この固形樹脂を固形分が25%となるようにトルエンとエタノールの等重量混合溶剤に溶解した。
<ポリアミドイミド樹脂Cの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA0.15モル、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸0.15モル、ダイマー酸0.6モル、マレイン酸0.1モルとIPDI1.02モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み180℃で3時間反応させた後、冷却しながら固形分濃度が25%となるようにNMPで希釈した。この溶液を水中に投入し、ろ別乾燥して白色固形樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.35dl/g、ガラス転移温度は85℃であった。更にこの固形樹脂を固形分濃度が25%となるようにトルエンとエタノールの等重量混合溶剤に溶解した。
<ポリアミドイミドDの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA0.65モル、バイロン220(東洋紡績(株)製分子量2000のポリエステルジオール)0.3モル、フマル酸0.5モルとIPDI1.02モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み、180℃で5時間反応させた後、冷却しながら固形分濃度が25%となるようにNMPで希釈した。この溶液を水中に投入し、ろ別乾燥して白色固形樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.38dl/g、ガラス転移温度は125℃であった。更にこの固形樹脂を固形分濃度が25%となるようにテトラヒドロフランに溶解した。
<ポリアミドイミド樹脂Eの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA1モル、IPDI1.03モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み、120℃で1時間、180℃で3時間反応させた後、固形分濃度が20%となるようにNMPを加えて100℃まで冷却した。この溶液にグリシジルメタクリレートを固形分に対して15%となるように加えて、100℃で3時間反応させた。この溶液を水中に投入し、ろ別乾燥して白色固体樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.33dl/g、ガラス転移温度は255℃であった。この固形樹脂を固形分濃度が25%となるようにテトラヒドロフランに溶解した。
<ポリアミドイミド樹脂Fの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA1モル、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート1モルを固形分濃度が20%となるようにNMPと共に仕込み、120℃で1時間、180℃で3時間反応させた。得られたポリマーの対数粘度は0.80dl/gであった。
<ポリアミドイミド樹脂Gの合成>
前記と同じ装置を用いて、TMA1モル、IPDI1.02モル、フッ化カリウム0.02モルを固形分濃度が50%となるようにγ−ブチロラクトンと共に仕込み、180℃で5時間反応させた後、冷却しながら固形分濃度が20%となるようにNMPで希釈した。この溶液を水中に投入し、ろ別乾燥して白色固体樹脂を得た。このポリアミドイミド樹脂の対数粘度は0.55dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。この白色固形樹脂を固形分濃度が25%となるようにテトラヒドロフランに溶解した。
[実施例1]
攪拌機、温度計、還流装置及び滴下装置を備えた反応容器に、ポリアミドイミド樹脂A溶液を250g計量投入し溶液温度を60℃にした。その後、容器にアクリル酸10.67g、アクリル酸エチル6g、アゾビスイソブチロニトリル1g、1−オクタンチオールエステル化合物0.3gをテトラヒドロフラン20gに溶解した混合溶液を0.2ml/分の速度で滴下し、2時間攪拌を続けた。これらの容器にトリエチルアミン22.45g、イソプロピルアルコール50gを加えて更に1時間攪拌を行った後、水150gを徐々に加えて水分散体を得た。この反応溶液の温度を85℃にしてポリアミドイミド溶液の溶剤及び、過剰のトリエチルアミンを除去した。生成した水分散体は乳白色の安定な液体であった。これらの水分散体を60℃で8時間真空乾燥した固形分の酸価を測定した。また、アルミニウム板に膜厚が3〜5μm塗布、100℃で5分乾燥した後、280℃で20秒焼き付けした塗膜の密着性を測定した結果を表1に示した。
[実施例2〜5]
実施例1のポリアミドイミド樹脂Aをポリアミドイミド樹脂B〜Eに変えた以外は、実施例1と同様な方法により水分散体を得た。結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例1と同じ装置を用いて、ポリアミドイミド樹脂A250gを投入し、60℃に昇温した反応容器にアクリル酸10.67g、アクリル酸エチル6g、グリシジルメタクリレート0.75g、アゾビスイソブチロニトリル1g、1−オクタンチオールエステル化物0.3gを20gのテトラヒドロフランに溶解した溶液を0.2ml/分の速度で滴下して約2時間反応させた。この反応溶液にトリエチルアミン22.45g、イソプロピルアルコール50gを投入した後、水150gを徐々に加えて水分散体を得た。この反応溶液を85℃に昇温してポリアミドイミド樹脂の溶剤、イソプロピルアルコール及び過剰のトリエチルアミンを除去して完全水分散体を得た。この樹脂の酸価及び塗膜特性を実施例1と同じ方法で測定した結果を表1に示した。
[実施例7、8]
ポリアミドイミド樹脂A及びBを用いて作成した水分散液A及びBに住友化学工業(株)社製スミマールM30Wとパラトルエンスルホン酸を各々ポリアミドイミド樹脂固形分100部に対して、25部と0.25部を加え、実施例1と同じ方法で塗膜特性を評価した。結果を表1に示す。
[比較例1、2]
実施例1と同じ装置及び原料を用いて、ポリアミドイミド樹脂FとGにアクリル酸とアクリル酸エチルをグラフトさせることを試みた。ポリアミドイミド樹脂Fを用いた場合は、グラフト反応中に溶液が濁り、水を加えた時点でポリマーが析出してグラフト反応が実質的に行われなかった。また、ポリアミドイミド樹脂Gを用いた場合はグラフト反応が正常に進行していないためか、一部沈殿を生じ、正常な水分散体を得ることができなかった。評価を行なったが粒子径が大きく、保存安定性、アルミ板への密着性が不十分であった。
Figure 0004392597
本発明は、親水性基含有不飽和化合物がグラフトされたポリイミド系樹脂の水分散体に関するものであり、ポリイミド系樹脂本来の耐熱性や耐薬品性を損なわず、耐水性、金属への密着性、保存安定性に優れた塗料、コーテイング剤、接着剤などに有用な水分散体を提供するものである。

Claims (8)

  1. 重合性不飽和基含有ジカルボン酸を0.5〜20モル%共重合したポリイミド系樹脂とカルボキシル基含有ラジカル重合性単量体を含むラジカル重合性単量体とを、水溶性の有機溶剤中で反応させてグラフト重合体を得た後、該グラフト重合体を塩基性化合物で中和せしめて水または水/有機溶剤の混合液中に分散せしめるポリイミド系樹脂水分散体の製造方法。
  2. ポリイミド系樹脂がポリアミドイミド樹脂である請求項1に記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法。
  3. ポリイミド系樹脂がアミン成分として、イソホロン及び/またはジシクロヘキシルメタン残基を有する請求項1または2に記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法。
  4. ポリイミド系樹脂が酸成分として、シクロヘキサン残基を有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法により得られるポリイミド系樹脂水分散体を用いた塗料。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法により得られるポリイミド系樹脂水分散体を用いたコーテイング剤。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法により得られるポリイミド系樹脂水分散体を用いたインキ。
  8. 請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド系樹脂水分散体の製造方法により得られるポリイミド系樹脂水分散体を基材上に塗布、乾燥した塗膜。
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