JP4388676B2 - 継目無管製造用工具及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は継目無管製造工程で使用される穿孔、延伸用工具とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
継目無鋼管の製造方法の一つとしてマンネスマン・プラグミル方式がある。本方式は所定温度に加熱された丸鋼片(ビレット)を高温度下で穿孔圧延機(ピアサー)によって穿孔圧延して中空素管とする穿孔工程と、該中空素管をエロンゲータとプラグミルを使用して管軸方向に延伸、拡管させる延伸拡管工程とからなっている。従って、これらの圧延工程では、管内面側を圧延するために耐熱性、耐摩耗性、耐熱衝撃性に優れた内面圧延用工具(プラグ、マンドレル等)が必要となる。
【0003】
従来、内面圧延用工具、特に穿孔圧延用工具(ピアサープラグ)としては1Ni3Cr鋼,熱間工具鋼SKD62等を素材としてプラグ表面に熱処理によってスケール層を生成させて圧延材との焼き付き防止を図った工具が使用されていた。しかし、穿孔圧延ではビレットをロールで回転させながらビレット端部にピアサープラグを押し当てて穿孔圧延を行うことで中空素管を製造するため、プラグ先端は1100℃以上の高温に晒されるため上記した材料ではプラグの高温強度が十分でない。また、高Cr鋼等の熱間変形抵抗の高い鋼を穿孔圧延する場合はプラグ先端部に炭素鋼に比較して高い面圧がかかるためプラグ表面に生成させたスケール層が容易に摩耗、損傷し、焼き付きが発生してプラグ先端部が溶損変形する等の問題があった。
【0004】
これらの問題を解決することを目的とした技術が特公昭63−58905号公報、特開平7−60314号公報に開示されている。
【0005】
これらのうち、特公昭63−58905号公報に記載の技術はNi,CrをベースにW,Co,Mo等を添加し、更にプラグ表面に酸化皮膜を生成させて高温強度を向上させたものであるが、13Cr鋼やステンレス鋼等の圧延では顕著な工具寿命の延長効果は得られていない。特開平7−60314号公報に記載の技術は0.25%C,3%Cr,1%Ni鋼をベースとしてプラグ表面スケールの緻密化、プラグ表面層の軟化抑制、圧延後のプラグ急冷時の割れ防止を目的としてNi、Mn添加量の増大、Mo、W量の抑制を図るとともに、1000ミクロンまでの酸化スケール層を生成させたものであるが、厚いスケール層の形成はスケール層内に空孔や偏析部を生じて母材とスケール層界面の密着性が低下し、かえってスケール層が剥離しやすくなるため工具寿命の延長効果は得られていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような従来技術の問題に鑑みなされたもので、13Cr鋼やステンレス鋼等の高合金鋼を穿孔圧延する際に優れた耐熱性、耐摩耗性、耐スケール剥離性を示す継目無管製造用工具及びその製造方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は以下に示す第一、第二の発明によって解決される。
【0008】
第一の発明は、mass%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.3〜1%、Ni:0.5〜3%、Cr:0.3〜1%、Mo:1〜3%、W:2〜4%、Co:2〜5%、Nb:0.2〜0.7%、Ti:0.05〜0.2%、sol.Al:0.02〜0.2%を含有し、残部実質的にFeからなり、表層に厚さ1000ミクロン超えの酸化スケール層を有することを特徴とする継目無管製造用工具である。
【0009】
第二の発明は、第一の発明に記載の工具成形体を酸化雰囲気中で、1050℃を超え、1150℃以下の加熱温度で4時間以上加熱保持後、600℃以下の温度まで徐冷し、その後放冷することを特徴とする継目無管製造用工具の製造方法である。
【0010】
尚、これらの手段において、「残部が実質的にFeである」とは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは継目無管製造用工具、主にプラグ表面に生成される酸化スケール層が工具と圧延材との間に潤滑及び断熱効果をもたらし、工具の焼付きを防止する効果があること、さらに酸化スケール層を厚くするほど工具の耐用度が向上することに着目し、特に酸化スケールの生成に大きく関与する元素であるSiとCoに関して検討を行い本発明をなしたものである。
【0013】
Siは母材の酸化抵抗を増大させて酸化スケールの成長を抑制する元素であり、0.3mass%を超えて添加すると偏析してファイヤライトのような低融点化合物を多数生成し、酸化スケール層中で低融点化合物が選択的に溶融するために酸化スケール層と母材との密着性を低下させる。従って、低Si化は酸化スケール層の厚みを増大させ、さらに密着性を向上させる効果があること、一方、Coは母材の高温強度を向上させると共に、スケール付け熱処理後も内層スケール中に残留し、母材とスケールの耐剥離性を向上させる効果をもつことを見いだした。
【0014】
従って、Si添加量を下げることで酸化スケールの成長を促進し、さらにCoを添加することで酸化スケール層の密着性を向上させることにより、緻密で厚く耐剥離性に優れた酸化スケール層の生成が可能となる。
【0015】
酸化スケール層は一般に内層スケールと外層スケールに分けられる。一般的に外層スケールはポーラスなスケールであり、内層スケールは複合酸化物型の緻密なスケールとなっている。工具表層に生成される酸化スケールの厚さが1000ミクロン以下であると十分な厚さの内層スケールが生成されず、工具の耐用度の向上が十分に図れない。そのため、工具表層に生成される酸化スケール層の厚さは1000ミクロン超えであることが好ましい。
【0016】
即ち、Si、Coの添加量を制御することにより、母材の高温強度を向上させるとともに、耐摩耗性と耐剥離性に優れた酸化スケール層を工具表面に厚く生成させることができ、これにより工具寿命の大幅な延長が可能となる。又、本発明は、鋼組成を以下に示す範囲とすることにより、特にマンネスマンプラグミル圧延で製造する高合金鋼管の内表面の品質向上と製造コストの低減を可能とする耐用度の優れた継目無鋼管製造用工具を提供することができる。
【0017】
従って、Si、Coの添加量は以下とする。尚、以下の記載において成分%はmass%を意味する。
【0018】
Siは脱酸材としての効果があるが0.1%未満では脱酸効果が得られないこと、0.3%超えではスケールの成長を阻害し且つ、低融点化合物が偏析しスケールの耐剥離性を劣化させるのでSi添加量は0.1%以上0.3%以下とする。
【0019】
Coは母材の高温強度を向上させると共に、スケール付け熱処理後も内層スケール中に残留し、母材とスケールの耐剥離性を向上させる効果をもつ。添加量が2%未満ではその効果が小さく、5%を超えて添加してもコスト上昇に見合う高温強度、耐剥離性の向上が期待できない。従って、Co添加量は2%以上、5%以下とする。
【0020】
次に、その他の成分の限定理由について述べる。
【0021】
Cは高温強度を高めるために添加されるが0.1%未満ではその効果が小さく、0.4%を超えると使用中に割れが発生し易くなり工具寿命を低下させる原因となる。従って、C添加量は0.1%以上、0.4%以下とする。
【0022】
Mnは高温強度を高めるとともに、靭性の低下を抑制する効果がある。しかし、0.3%未満ではその効果が小さく、1%を超えるとその効果が減少する。従って、Mn添加量は0.3%以上1%以下とする。また、上記観点からして、より好ましくは0.4%以上、0.6%以下である。
【0023】
Niは酸化スケール中に未酸化状態で残留し、スケールと母材の密着性を向上させるとともに、高温域での靭性劣化を抑制して高温強度を向上させる。しかし、0.5%未満ではその効果が低く、3%を超えるとコスト高となる。従って、Ni添加量は0.5%以上、3%以下とする。
【0024】
Crは密着性、断熱性に優れた酸化スケールを生成し、かつ高温強度を向上させる効果がある。しかし、0.3%未満ではその効果が小さく、1%を超えると酸化スケールが成長しにくくなる。従って、Cr添加量は0.3%以上、1%以下とする。
【0025】
Moは鋼の高温強度の向上に有効な元素であり、またスケール中に残存することでスケールの強度を上昇させるとともに母材とのスケールの密着性を上昇させる効果をもつ元素である。添加量が1%未満ではその効果が小さく、3%を超えると工具の使用中に割れが発生し易くなり、またスケールの生成も抑制されるために工具寿命の低下の原因となる。従って、Mo添加量は1%以上、3%以下とする。
【0026】
Wも鋼の高温強度の向上に有効な元素であり、またスケール中に残存することでスケールの強度を上昇させるとともに母材とのスケールの密着性を上昇させる効果をもつ。添加量が2%未満ではその効果が小さく、4%を超えると工具の使用中に割れが発生し易くなり、またスケールの生成も抑制されるために工具寿命の低下の原因となる。従って、W添加量は2%以上、4%以下とする。
【0027】
Nbは鋼の高温強度の向上に有効な元素であるが、0.2%未満ではその効果が小さく、0.7%を超えるとその効果が低減する。従って、Nb添加量は0.2%以上、0.7%以下とする。
【0028】
Tiも鋼の高温強度の向上に有効な元素であるが、0.05%未満ではその効果が小さく、0.2%を超えるとその効果が低減する。従って、Ti添加量は0.05%以上、0.2%以下とする。
【0029】
sol.Alは脱酸元素であり鋼の延性、靭性を確保するうえで必要な元素である。本発明はSi添加量が少ないのでSiによる脱酸効果が低く、sol.Alが0.02%未満では脱酸不良を発生しガス欠陥の発生原因となる。一方、0.2%を超えて添加してもその効果が飽和し、逆に、延性、靭性の低下を生じる。従って、sol.Al添加量は0.02%以上、0.2%以下とする。
【0030】
次に、工具表面への酸化スケール生成のための好ましい熱処理条件について述べる。
【0031】
工具表面への酸化スケール生成のための熱処理条件としては、1050℃を超え、1150℃以下の加熱温度範囲で4時間以上加熱保持することが好ましい。
【0032】
加熱保持温度が1150℃を超えるとポーラスな酸化スケール層となりやすいので加熱温度は1150℃以下とするのがよい。一方、加熱温度が1050℃以下では酸化スケール層の生成に長時間を要するので加熱温度は1050℃超えとするのがよい。
【0033】
更には、緻密で1000ミクロン超えの厚い酸化スケール層を生成するには加熱炉内の酸素濃度も制御することが好ましい。基本的に酸化スケール層の生成を目的とするので加熱炉内の雰囲気は酸化雰囲気であればよいが、加熱炉内の酸素濃度が高過ぎるとポーラスな酸化スケール層を生成し易いので、加熱炉内の酸素濃度は10%以下とするのが望ましい。
【0034】
【実施例】
以下に本発明の具体的実施例について説明する。
(実施例1)
表1に示す成分組成の鋼を500kg高周波誘導加熱炉により大気溶解し、最大直径105mmのピアサープラグを鋳造した。該鋳造ピアサープラグは被圧延材と接触する部分を機械切削により仕上げ加工した後、水蒸気酸化雰囲気中でスケール付け熱処理を行い13Cr継目無鋼管の熱間圧延に供した。
【0035】
ピアサープラグ表面のスケール層厚みの測定は、供試ピアサープラグと同一成分の試験材を供試ピアサープラグと同時に熱処理をし、この試験材のスケール層厚みの測定を行うことにより行った。
【0036】
ピアサープラグ表面への酸化スケール付け熱処理は、炉内を水蒸気雰囲気として、加熱温度を900〜1250℃まで変化させるとともに加熱保持時間も2〜6時間に変化させて加熱処理を行つた後600℃まで徐冷しその後大気放冷した。
【0037】
13Cr継目無鋼管の熱間圧延は直径170mm、長さ3280mmの丸鋼片を穿孔圧延機(ピアサー)にて穿孔し、直径174mm、肉厚30mm、長さ5700mmの中空素管を製造した。
【0038】
ピアサープラグの寿命は1パス毎のピアサープラグ頭部または、胴部の変形の有無、焼き付きによるピアサープラグ表層部の損傷の有無、ピアサープラグ割損の有無によりピアサープラグを使用出来なくなった時の圧延パス回数で評価した。
【0039】
表2に、熱処理条件、スケール厚み、使用可能パス回数、耐用度を示す。No.1〜9が本発明であり、No.10〜20が比較例である。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
比較例であるNo.10はC及びMo添加量が高過ぎて穿孔圧延中にピアサープラグが割損し使用不能となった。No.11,12はCoを添加しなかったためスケール層がポーラス化し耐剥離性が低下し、1パス当たりのスケール層の消耗が激しくピアサープラグに焼付が発生して耐用度が低下した。No.13はSi添加量が高過ぎてスケール層の密着性が劣化し、1パス当たりのスケール層の消耗が激しくピアサープラグに焼付が発生して耐用度が低下した。No.14はSi及びsol.Al添加量が低く、溶鋼の脱酸不足により鋳造品にガス欠陥が発生し製品を採取できなかった。No.15は加熱保持時間が短くスケール層の生成が十分でなく、ピアサープラグに焼付が発生して耐用度が低下した。No.16,17は加熱温度が低くスケール層の生成が十分でなく、ピアサープラグに焼付が発生して耐用度が低下した。No.18,19は加熱温度が高過ぎスケール層の緻密性が低下し、スケール層の消耗が激しくピアサープラグに焼付が発生して使用可能パス回数は低い値となった。No.20はTiが添加されていないためにピアサープラグの高温強度が低下し、更には、加熱温度も低くスケール層の生成も十分でなく、耐用度が激減した。
【0043】
一方、本発明例であるNo.1〜No.9は本発明の範囲を全て満足するのでスケール層の厚さも1000ミクロン超えが得られ使用可能パス回数が飛躍的に向上している。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、耐熱性、耐摩耗性、耐スケール剥離性に優れているので緻密且つ潤滑性能に優れた1000ミクロン超えのスケール層厚さを保持した工具が得られるので、13Cr鋼やステンレス鋼等の高合金継目無鋼管を穿孔圧延する継目無鋼管製造用工具(ピアサープラグ、エロンゲータープラグ等)に使用可能である。
Claims (2)
- mass%で、C:0.1〜0.4%、Si:0.1〜0.3%、Mn:0.3〜1%、Ni:0.5〜3%、Cr:0.3〜1%、Mo:1〜3%、W:2〜4%、Co:2〜5%、Nb:0.2〜0.7%、Ti:0.05〜0.2%、sol.Al:0.02〜0.2%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、表層に厚さ1000ミクロン超えの酸化スケール層を有することを特徴とする継目無管製造用工具。
- 請求項1に記載の成分組成を有する工具成形体を、酸化雰囲気中で、1050℃を超え、1150℃以下の加熱温度で4時間以上加熱保持後、600℃以下の温度まで徐冷し、その後放冷することを特徴とする継目無管製造用工具の製造方法。
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