JP4165058B2 - 穿孔圧延用工具およびその製造方法 - Google Patents

穿孔圧延用工具およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、継目無鋼管の製造に係り、とくに継目無鋼管の穿孔圧延に使用するプラグ等の穿孔圧延用工具の耐久性向上に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、継目無鋼管の製造方法として、マンネスマン式製管法が広く実施されている。この方法は、所定の温度に加熱された圧延素材(丸鋼材)を、まず、穿孔圧延機による穿孔圧延工程を経て中空素材としたのち、エロンゲータ、プラグミル、またはマンドレルミル等の延伸圧延機により肉厚を減少し、さらに必要に応じ再加熱したのち、絞り圧延機あるいはその他の成形機により、主として外径を減じ所定の寸法の継目無鋼管を得る方法である。
【0003】
穿孔圧延機としては、2本の傾斜ロールと穿孔用プラグおよび2個のガイドシュウを組み合わせた、いわゆるマンネスマンピアサ、3本の傾斜ロールと穿孔用プラグを組み合わせた、いわゆる3ロールピアサ、あるいは2本の孔型ロールと穿孔用プラグを組み合わせた、いわゆるプレスロールピアサが知られている。
このような穿孔圧延機による穿孔圧延工程では、プラグは、高温の圧延素材や中空素材との絶え間ない接触により、高温、高負荷の環境下に長時間晒され、摩耗、溶損等を生じやすい。このため、従来から、穿孔用プラグに高温でのスケール処理を施し、プラグ表面に数十〜数百μm 厚の酸化スケール被膜を形成させて、プラグの損耗を防止していた。
【0004】
しかしながら、最近では、熱間変形抵抗が高く、しかも表面に酸化スケールが形成されにくい、13Cr鋼や、ステンレス鋼等の高合金鋼製継目無鋼管の需要が増加しており、これら高合金鋼の素材を穿孔圧延すると、プラグ表面の酸化スケール被膜の消耗が激しく、とくにプラグ先端部の変形や焼付きを伴う損傷が早期に多発し、プラグコストの増加や、生産性の低下等を招いていた。このため、プラグ組成の変更、あるいは酸化スケール被膜形成のための熱処理条件の改良等が提案されてきた。
【0005】
例えば、特公昭59-9628 号公報には、COガス5%未満を含む酸化性の炉内雰囲気中で、焼入れ処理、焼きなまし処理、または固溶体化処理を施す塑性加工装置用被摺動部品の熱処理方法が提案されている。この方法によれば、内部酸化被膜を厚くかつ均一にでき、酸化被膜と地金との密着性が向上するとしている。
また、特開昭59-9154 号公報には、C:0.20〜0.50%、Si:0.10〜2.0 %、Mn:0.30〜2.0 %、Cr:1.0 〜6.0 %、Ni:1.0 〜6.0 %、Mo:0.50〜5.0 %、 Nb:0.20〜1.5 %を含有する鋳造合金より成形後、酸化雰囲気中において、900 〜1250℃の温度範囲の加熱処理を施す継目無鋼管製造用工具材料の製造方法が提案されている。しかし、特開昭59-9154 号公報に記載された技術では、13Cr鋼のような高合金鋼を穿孔圧延すると早期に工具が損傷し焼付きが発生するという問題があった。
【0006】
また、特開昭63-69948号公報には、C:0.26〜0.35%、Si:0.10〜1.0 %、Mn:0.20〜2.00%、Cr:2.00〜4.00%、Ni:0.50〜2.00%、Nb:0.10〜0.50%、さらに、W:0.50〜2.00%、Co:0.50〜2.00%、V:0.10〜0.50%のうちの1種または2種以上を含有する鋳造合金に、酸化雰囲気中において、800 〜1100℃の温度範囲の加熱保持後、450 ℃まで30℃/h以下の速度で冷却する熱処理を施す継目無鋼管製造用工具材料の製造方法が提案されている。しかし、特開昭63-69948号公報に記載された技術では、13Cr鋼のような高合金鋼を圧延すると早期に工具が損傷し焼付きが発生し、工具寿命が短いという問題があった。
【0007】
また、特開平8-193241号公報には、加熱炉の炉内酸素分圧を工具の加熱温度との関係で所定の低い範囲内に調整した雰囲気内で、900 〜1050℃で2〜15時間保持し、その後800 〜500 ℃まで冷却し空冷するウスタイト生成処理を1回以上行い、さらに400 〜500 ℃で1時間以上保持するマグネタイト生成処理を行う、熱間加工用工具の製造方法が提案されている。しかし、特開平8-193241号公報に記載された技術では、一定レベルの寿命向上効果は得られるが、炉内酸素分圧を10-17 〜10 -12atm に調整するという厳しい雰囲気制御が必要であり、プラグ製造コストの増加とプラグ生産性が低下するうえ、13Cr鋼のような高合金鋼を圧延すると、早期に工具が損傷し、工具寿命が短いという問題があった。
【0008】
また、特開平10-5821 号公報には、低合金鋼で形成されたプラグ素材を酸化性雰囲気中で、1050〜1250℃に加熱した後、同じ酸化性雰囲気中で素材のAc3変態温度とAc1変態温度の間の温度で保持する継目無鋼管製造用プラグの熱処理方法が提案されている。これにより、プラグ表面にスケール層が形成され、穿孔時のプラグ寿命が向上するとしている。しかし、この方法で製造されたプラグを、13Cr鋼のような高合金鋼を圧延する過酷な圧延に供すると、スケール層が早期に剥離し、工具が損傷し工具寿命が短いという問題があった。
【0009】
また、特開平11-179407 号公報には、C:0.1 〜0.4 %、Si:0.1 〜3 %、Mn:0.20〜2 %、Cr:0.5 〜5 %、Ni:0.5 〜10%、Cu:0.05〜5 %、Mo:0.5 〜5 %、W:0.5 〜5 %、Co:0.5 〜5 %、Ti:0.015 〜1%、sol.Al:0.01〜0.1 %を含有し、かつ{7(Co%)−10(C%)−(Ni%)}が0〜18を満足する範囲とする組成を有し、スケール付け熱処理を施されてなる継目無鋼管製造用工具が提案されている。しかし、特開平11-179407 号公報に記載された工具によっても、最近の過酷な13Cr鋼穿孔圧延においては十分なプラグ寿命を確保できなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
最近では、13Cr鋼やステンレス鋼等の高合金鋼製継目無鋼管の需要増加に伴い、更なるプラグ等穿孔圧延用工具の長寿命化が要望されている。
本発明は、このような状況に鑑み、プラグ等の継目無鋼管穿孔圧延用工具の更なる工具寿命延長が安定して可能な、穿孔圧延用工具の製造方法を提案することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、雰囲気制御が不要である、生産性の高いガス燃焼炉や電気炉等の一般炉を使用して、長寿命の穿孔圧延用工具を安定して生産できる方法について、鋭意検討した。その結果、工具素材の組成を特定範囲に限定したうえで、加熱温度と、加熱後の冷却条件を特定範囲に制御し、合金元素の不均一拡散を生起させる第1の熱処理と、地鉄とスケール層との界面にネット状のスケール層を生じさせる第2の熱処理とからなる2回の熱処理を施すことにより、スケール層と地鉄との密着性が改善され工具寿命が顕著に向上することを見いだした。
【0012】
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.05〜0.7 %、Si:0.1 〜1.5 %、Mn:0.1 〜1.5 %、Ni:0.5 〜3.0 %、Cr:0.1 〜1.5 %、Mo:0.2 〜3 %、W:0.2 〜3 %、Co:0.5 〜5 %、Al:0.01〜0.05%を含み、さらに、Nb:0.1 〜1.5 %、V:0.1 〜1.5 %、Ti:0.05〜0.11%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼製穿孔圧延用工具を素材とし、 該素材に、900 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 650〜800 ℃の温度域を 100℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む第1段熱処理と、さらに引き続き850 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 800〜850 ℃の温度域を30℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む第2段熱処理とを施し、表面にスケール層を形成することを特徴とする耐久性に優れた穿孔圧延用工具の製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、特定組成を有する鋼製穿孔圧延用工具を素材とし、該素材に第1段と第2段の2段階熱処理を施し、地鉄とスケール層との界面に選択酸化を誘引させ、地鉄とスケールが複雑に絡み合う極めて密着性に優れたネット状のスケール層を形成することに特徴がある。
【0015】
まず、鋼製穿孔圧延用工具の組成限定理由について説明する。以下、組成に関する質量%は、単に%で記す。
C:0.05〜0.7 %
Cは、固溶して材料の強度を増加させ、あるいは炭化物を形成して材料の高温強度の低下を抑制する元素であり、本発明では0.05%以上の含有を必要とする。一方、0.7 %を超えて含有すると、高温強度の低下が著しくなり、またスケール層中に気泡が増加する。このため、Cは0.05〜0.7 %の範囲に限定した。なお、好ましくは0.05〜 0.5%である。
【0016】
Si:0.1 〜1.5 %
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して基地を強化するとともに、選択酸化を助長し密着性に富む酸化スケールの生成を促進させる元素であり、本発明では、0.1 %以上の含有を必要とするが、1.5 %を超えて含有すると、スケール層を脆弱にし工具寿命を劣化させる。このため、Siは0.1 〜1.5 %に限定した。なお、ネット状スケール層をより緻密化するためにはSiは 0.1〜 1.0%とすることが好ましい。
【0017】
Mn:0.1 〜1.5 %
Mnは、高温強度を増加させる元素であり、本発明では0.1 %以上の含有を必要とするが、1.5 %を超えて含有すると、スケール層の成長を阻害する。このため、Mnは0.1 〜1.5 %に限定した。なお、好ましくは 0.1〜 1.0%である。
Ni:0.5 〜3.0 %
Niは、固溶して材料の強度、靭性を向上させるとともに、Feより酸化しにくいため選択酸化部近傍の地鉄に濃化し、地鉄の一様な酸化を抑制し、ネット状のスケール層形成を助長する効果を有する元素であり、本発明では0.5 %以上含有させる。一方、3.0 %を超えて含有すると地鉄とスケールの界面に過剰に濃化し、選択酸化を抑制する。このため、Niは0.5 〜3.0 %の範囲に限定した。
【0018】
Cr:0.1 〜1.5 %
Crは、基地中に固溶し、また炭化物を形成して高温強度を増加させる。また、Crは、Cr酸化物を形成し、スケールの耐熱性を向上させるという効果もある。本発明では0.1 %以上の含有を必要とするが、1.5 %を超えて含有すると、Feの酸化を抑制しネット状スケール層の成長を阻害する。このため、Crは0.1 〜1.5 %に限定した。なお、好ましくは 0.1〜 1.0%である。
【0019】
Mo:0.2 〜3 %
Moは、ミクロ偏析を形成し、選択酸化を誘引しネット状スケール層を形成させる重要な元素である。また、Mo酸化物は 650℃以上の温度で昇華を開始し、酸化反応に係るO2 、H2 、H2O 、CO、CO2 の経路を形成して選択酸化および脱炭層の成長を促進する。このような効果は 0.2%以上の含有で認められるが、3%を超えて含有すると、ミクロ偏析が粗くなり、ネット状スケール層を粗くするとともに、融点を下げて工具の溶損を助長する。このため、Moは0.2 〜3 %に限定した。
【0020】
W:0.2 〜3 %
Wは、炭化物を形成して高温強度を増加させるとともに、選択酸化を助長しネット状スケール層の形成を促進させる元素であり、本発明では0.2 %以上含有させる。一方、3%を超えて含有すると、スケール層の成長が阻害される。このため、Wは0.2 〜3 %に限定した。
【0021】
Co: 0.5〜5%
Coは、基地に固溶して高温強度を増加させ、さらに、Feより酸化しにくいため、選択酸化部近傍の地鉄に濃化し、地鉄の一様な酸化を抑制し、密着性に富むネット状スケール層の形成を促進する元素であり、本発明では0.5 %以上の含有を必要とする。一方、5%を超えて含有すると、地鉄とスケールの界面に過剰に濃化し、選択酸化を抑制する。このため、Coは0.5 〜5 %に限定した。
【0022】
Al:0.01〜0.05%
Alは、脱酸剤として作用し、このような効果は0.01%以上の含有で認められるが、0.05%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し清浄度が低下する。このため、Alは0.01〜0.05%の範囲に限定した。
Nb:0.1 〜1.5 %、V:0.1 〜1.5 %、Ti:0.05〜0.11%のうちの1種または2種以上
Nb、V、Tiはいずれも、炭化物、窒化物あるいは炭窒化物を形成し、基地を強化する元素であり、選択して含有できる。このような効果は、それぞれ、Nb:0.1 %以上、V:0.1 %以上、Ti:0.05%以上の含有で認められる。 一方、Nb:1.5 %、V:1.5 %、Ti:0.11%を超えて含有すると、工具の割損が起こりやすくなる。このため、Nb:0.1 〜1.5 %、V:0.1 〜1.5 %、Ti:0.05〜0.11%の範囲にそれぞれ限定した。なお、Nbは、Moのミクロ偏析を助長し、ネット状スケール層の形成を促進するという効果も有する。
【0023】
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Cu: 0.2%以下が許容できる。
本発明の穿孔圧延用工具は、上記した組成の穿孔圧延用工具の表面層に、スケール層を有する工具である。本発明では、スケール層は、地鉄との界面が複雑に絡み合ったネット状スケール層とする。
【0024】
このネット状スケール層は地鉄との界面が選択酸化により、図1(a)に示すように、不均一となり、凹凸の激しい、入り組んだ界面となった状態をいうものとする。凹凸の激しい、入り組んだ界面を有するネット状スケール層を生成させることにより、ネット状スケール層近傍の地鉄にNi、Coが濃化し、スケールと地鉄とのなじみが良くなることとも合せて、スケール層の密着性が著しく向上し、穿孔圧延工具の工具寿命が顕著に向上するのである。なお、比較のために、図1(b)に、内部選択酸化が生じていない、滑らかな地鉄/スケール層界面の例を示す。
【0025】
このような凹凸の激しい、入り組んだ界面を有するネット状スケール層を生成させるために、本発明では、工具組成を上記したような特定範囲としたうえで、合金元素の不均一拡散と地鉄/スケール界面での不揃い、不均一な酸化(選択酸化)を安定して促進させる熱処理を施す。
不揃い、不均一な酸化(選択酸化)を促進させるためには、まず、工具組成を上記したような組成に調整する。本発明では、Feより酸化しにくいCo、Niと、Feより酸化しやすいMo、Siとを、共存させる。また、MoとWは、安定な酸化膜を破壊し、不揃い、不均一な酸化(内部選択酸化)を助長させる。これらの元素は、基地に固溶する飽和濃度や原子サイズおよび炭素との親和力の違いから、地鉄基地中に不均一に拡散する。特にMoは、著しくミクロ偏析し複雑な選択酸化の駆動力となる。
【0026】
このような合金元素を共存させたうえ、後述するような熱処理を施すことにより、含有する合金元素の不均一な拡散とそれに伴うミクロ偏析が誘起される。このミクロ偏析により不均一な酸化(内部選択酸化)が誘発され、地鉄との境界部が凹凸の激しい、入り組んだ界面を有するネット状スケール層が成長する。
つぎに、上記したようなネット状スケール層を形成するための熱処理について説明する。本発明では、第1段と第2段の2段熱処理を行う。なお、これら2段の熱処理の雰囲気はいずれも特に限定されないが、酸化性または脱炭性とすることが好ましい。
【0027】
第1段熱処理は、素材中に含まれる合金元素を不均一に拡散させることを主目的として実施される。第1段熱処理は、上記した組成の鋼製穿孔圧延用工具を素材とし、 該素材に、900 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 650〜800 ℃の温度域を 100℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む熱処理である。
素材を900 〜1100℃に加熱した後、少なくとも 650〜 800℃の温度範囲を100 ℃/h以下の冷却速度で冷却することにより、基地中に固溶された合金元素が温度と冷却速度に応じて拡散し、炭化物として析出分散したり、結晶粒界近傍に濃縮したりして、素材中にミクロ偏析を発生させる。この合金元素のミクロ偏析の存在により、その後の熱処理により、スケール層/地鉄界面で不均一な酸化(選択酸化)が誘発され、凹凸の激しい、入り組んだ界面を有する、上記したようなネット状スケール層が形成されやすくなる。なお、加熱保持時間は、0.5 〜6hとすることが好ましい。保持時間が、0.5 h未満では、十分な合金元素の固溶化が達成できない。 一方、6hを超える保持は、工具寿命に影響しない酸化スケール量が多くなるうえ、生産性が低下する。
【0028】
加熱温度が、1100℃を超えるとスケール生成速度が過大となり、緻密なスケール層の形成が阻害される。一方、加熱温度が900 ℃未満では、合金元素の固溶が促進されず、その後の熱処理による所望の合金元素のミクロ偏析を達成できない。
また、 650〜800 ℃の温度域での冷却速度が、 100℃/hを超えると、基地中に固溶した合金元素のミクロ偏析の生成が不十分となり、所望のネット状スケール層が形成されない。なお、冷却速度が5℃/h未満では、効果が飽和するとともに冷却速度が遅すぎて、生産性が低下するため、5℃/h以上とすることが好ましい。
【0029】
また、650 ℃未満の温度域での冷却速度を、上記したような冷却速度で制御しても合金元素の不均一拡散やミクロ偏析はほとんど進行しないため、特に限定されないが、上記した冷却速度で冷却しても何ら問題はない。また、 800℃を超える温度域での冷却速度は、工具寿命に大きな影響を及ぼさないため、特に限定されないが、上記した冷却速度で冷却しても何ら問題はない。
【0030】
なお、第1段熱処理だけでも、工具を保護する酸化スケールが形成されるが、工具寿命を著しく延長するネット状スケール層の形成は認められない。しかし、第1段熱処理で生成した酸化スケールは、第2段熱処理における酸化スケール形成に影響し、第2段熱処理での酸化スケール形成をマイルドなスケール成長とし、形成される酸化スケールの欠陥を少なくする制御作用を有する。
【0031】
第2段熱処理は、第1段熱処理で形成された酸化スケール層に加えて、さらに選択酸化を促進し、地鉄/スケール界面の不揃い、不均一化を助長し、工具寿命の長寿命化に効果のあるネット状スケール層を確実に成長させることを目的として実施される。第2段熱処理は、上記第1段熱処理に引き続き、さらに850 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 800〜850 ℃の温度域を30℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む熱処理である。
【0032】
第1段熱処理を施された素材を、さらに800 ℃〜1000℃に加熱後、少なくとも 800〜 850℃の温度域を30℃/h以下の冷却速度で冷却する。これにより、凹凸の激しい、複雑に入り組んだ、地鉄(母材)/スケール層界面 (境界部)を有するネット状スケール層が確実に成長するようになる。なお、冷却中に素材の一部にオーステナイトからフェライトが変態生成するが、オーステナイト (γ)とフェライト (α)との酸化速度の相違や、その後の冷却による温度低下に伴うγーα変態の進行により、一部のネット状スケールがさらに成長する場合もある。なお、加熱保持時間は、6h以下とすることが好ましい。6hを超える保持は、工具寿命に影響しない酸化スケール量が多くなるうえ、生産性が低下する。
【0033】
850 ℃を超える温度域では、地鉄(母材)/スケール層界面 (境界部)は一様に酸化して、滑らかな界面を形成しながらスケールが成長するため、850 ℃を超える温度域で冷却速度を制御し徐冷しても工具寿命にほとんど影響しないスケール層の厚みが増加するだけである。また、800 ℃未満で冷却速度を制御しても、ネット状スケール層の成長は進行せず、工具寿命に大きな影響を及ぼさない。このため、800 ℃未満での冷却速度は特に限定する必要はないが、上記した冷却速度で冷却しても何ら問題はない。
【0034】
また、 800〜 850℃の温度域の冷却速度が30℃/hを超える場合には、ネット状スケール層の成長が認められない。また、冷却速度が3℃/h未満では、ネット状スケール層の成長は飽和し、熱処理時間が長くなりすぎ生産性が低下する。このため、冷却速度は3℃/h以上とすることが好ましい。
なお、800 〜 850℃の温度範囲の特定の一定温度あるいは、750 〜 900℃の範囲の特定の一定温度で保持しても、凹凸の激しい、複雑に入り組んだ、地鉄(母材)/スケール層界面 (境界部)を有するネット状スケール層の成長は認められない。
【0035】
なお、上記した2段の熱処理を行ったのち、さらに、加熱温度:900 ℃以下の熱処理を追加しても何ら問題はない。この場合、800 〜850 ℃の温度域の冷却速度を30℃/h以下とすることが、ネット状スケール層形成の観点から好ましい。また、加熱温度を400 〜500 ℃とする熱処理を追加すれば、スケール層中のFeO がFe3O4 に変態し、スケール層の密着性がさらに向上する。
【0036】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成の鋼を溶製し、鋳型に鋳造したのち、一部を機械研削で仕上げ加工して、鋼製穿孔圧延用工具(ピアーサプラグ:最大外径 142mm)とした。このピアーサプラグを素材として、該素材に、一般的な天然ガス燃焼炉(雰囲気制御なし)を用いて、図2に示す2段の熱処理(熱処理条件No.1)を行い、素材表面にスケール層を形成(スケール付け)した。表面層に形成されたスケール層の構造について断面の組織観察を行い、本発明でいうネット状スケール層形成の有無を確認した。なお、本発明でいうネット状スケール層とは、スケール層の地鉄側界面に形成され、地鉄とスケール層とが、凹凸の激しい、複雑に絡み合う入り組んだ境界部を有するスケール層である。
【0037】
これら得られたピアーサプラグ (以下、プラグともいう)を用いて、13%Cr鋼製ビレット(直径 175mmφ×長さ2m)の穿孔圧延を行った。ビレット1本を穿孔圧延する毎にプラグの表面検査を行った。溶損や焼付きあるいはえぐれ等が発生して寿命と判定されるまでに圧延した圧延本数をプラグ寿命として、プラグの耐久性を評価した。なお、同一水準各4個のプラグについて、各々のプラグ寿命を求め、それらの平均値を算出し、小数点以下を四捨五入して整数値に丸めた値を、各水準のプラグ寿命とした。
【0038】
得られた結果を表2に示す。
【0039】
【表1】
Figure 0004165058
【0040】
【表2】
Figure 0004165058
【0041】
本発明例はいずれも、厳しい穿孔圧延条件となる13Cr鋼継目無鋼管の穿孔圧延においても、圧延本数12〜17本とプラグ寿命が長寿命化していることがわかる。本発明範囲を外れる比較例はいずれも、圧延本数が2〜5本でありプラグ寿命が短い。
(実施例2)
表3に示す組成の鋼を溶製し、実施例1と同様に鋳型に鋳造したのち、一部を機械研削で仕上げ加工して、鋼製穿孔圧延用工具(ピアーサプラグ:最大外径 142mm)とした。このピアーサプラグを素材として、該素材に、一般的な天然ガス燃焼炉(雰囲気制御なし)を用いて、図2に示す各条件で第1段熱処理および第2段熱処理を行い、素材表面にスケール層を形成(スケール付け)した。表面層に形成されたスケール層の構造について断面の組織観察を行い、本発明でいうネット状スケール層の形成の有無を確認した。
【0042】
これら得られたピアーサプラグ (以下、プラグともいう)を用いて、13%Cr鋼製ビレット(直径 175mmφ×長さ2m)の穿孔圧延を行い、実施例 1と同様に、寿命と判定されるまでに圧延した圧延本数をプラグ寿命として、工具の耐久性を評価した。なお、同一水準各4個の工具についてそれぞれ工具寿命を測定し、その平均値を工具寿命とした。
【0043】
得られた結果を表4に示す。
【0044】
【表3】
Figure 0004165058
【0045】
【表4】
Figure 0004165058
【0046】
本発明例はいずれも、厳しい穿孔圧延条件となる13Cr鋼継目無鋼管の穿孔圧延においても、圧延本数14〜16本と工具寿命が長寿命化していることがわかる。本発明範囲を外れる比較例はいずれも、圧延本数が1〜5本であり工具寿命が短い。
【0047】
【発明の効果】
以上、詳述したように、本発明によれば、プラグ等の継目無鋼管穿孔圧延用工具の更なる工具寿命延長が安定して可能となり、継目無鋼管の内面性状が向上するとともに、高合金鋼やステンレス鋼などの熱間変形抵抗が高く、焼付きが生じやすい材料の穿孔圧延の生産性が顕著に向上し、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、雰囲気調整の必要がなく、汎用の熱処理炉を使用でき、製造性が向上し、製造コストが低減するという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】スケール層と地鉄との界面形状を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例に用いた熱処理条件 (熱処理パターン)を示す説明図である。

Claims (1)

  1. 質量%で、
    C:0.05〜0.7 %、 Si:0.1 〜1.5 %、
    Mn:0.1 〜1.5 %、 Ni:0.5 〜3.0 %、
    Cr:0.1 〜1.5 %、 Mo:0.2 〜3 %、
    W:0.2 〜3 %、 Co:0.5 〜5 %、
    Al:0.01〜0.05%
    を含み、さらに、Nb:0.1 〜1.5 %、V:0.1 〜1.5 %、Ti:0.05〜0.11%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼製穿孔圧延用工具を素材とし、 該素材に、900 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 650〜800 ℃の温度域を100 ℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む第1段熱処理と、さらに引き続き850 〜1100℃に加熱したのち、少なくとも 800〜850 ℃の温度域を30℃/h以下の冷却速度で冷却する工程を含む第2段熱処理とを施し、表面にスケール層を形成することを特徴とする耐久性に優れた穿孔圧延用工具の製造方法
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