JP2986829B2 - 転動疲労寿命に優れた軸受用素材の製造方法 - Google Patents

転動疲労寿命に優れた軸受用素材の製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) この発明は、自動車、その他産業機械等に用いられる
転がり軸受の素材として好適な、優れた転動疲労寿命特
性を有する軸受用素材の製造方法に関するものである。
(従来の技術) 従来、軸受用鋼としては、機械構造用炭素鋼、機械構
造用合金鋼および鋼炭素クロム軸受鋼などが使用されて
いる。
このうち高炭素クロム軸受鋼は、玉軸受、ころ軸受と
して自動車、産業機械等に最も多く使用されている。こ
の鋼は、1wt%(以下単に%で示す)程度の炭素と0.9〜
1.6%程度のクロムが添加されており、連続鋳造時、特
に鋳片軸心部においてマクロ偏析(以下中心偏析と称
す)ならびに共晶炭化物が生成し、切断、打ち抜き時に
おける割れ発生を増大させると共に転動疲労寿命特性を
劣化させることから、素材中心部を打ち抜いて廃材とす
るか、造塊法または長時間の拡散処理の実施により共晶
炭化物の消散を図ってから用いられていた。このため生
産性や素材歩留りの低下を避けることができなかった。
このような弊害をもたらす中心偏析および共晶炭化物
は、連続鋳造の場合、凝固先端部の凝固収縮のほか、凝
固シェルのバルジングなどによって生じる空隙の真空吸
引力が加わり、凝固先端部にC,Cr等の濃化溶鋼成分が吸
い込まれることによって形成されたもので、製品加工時
の熱処理により、大型の共晶炭化物または球状化炭化物
の残留、残留オーステナイト量の増大およびこれらミク
ロ組織の不均一などが生じて、転動疲労寿命を低下させ
る。
その防止策としては、例えば2次冷却帯域における電
磁撹拌等が試みられたが、セミミクロ偏析を軽減するま
でには至らず、また大型の共晶炭化物の消散には効果が
無い。
その他、凝固末期に一対のロールを用いて大圧下を施
すいわゆるインラインリダクション法{鉄と鋼 第60年
(1974)第7号875〜884頁}の適用も試みられたが、未
凝固層の大きい鋳片領域における圧下が不十分だと、凝
固界面に割れが発生し、逆に圧下が十分すぎる場合には
鋳片の厚み方向中心部に強い負偏析が生じるなどの問題
があった。
この点につき、特開昭49−121738号公報では、鋳片の
凝固先端部付近でロール対による軽圧下を施し、該部分
の凝固収縮量を圧下により補償する方法が、また特開昭
52−54625号公報では、鍛造金型を用いて鋳片の凝固完
了点近傍を大圧下する方法が、それぞれ提案されてい
る。
しかしながらロールによる軽圧下の場合には、複数対
のロールによる数mm/mの圧下を施したとしても、ロール
ピッチ間で生じる凝固収縮やバルジングを十分に防止す
ることができず、また圧下位置が適切でなければかえっ
て中心偏析が悪化するといった問題があった。
他方、鍛造金型を用いて鋳片の凝固完了点近傍を大圧
下する場合は、インラインリダグション法の如きロール
による大圧下に比べて凝固界面が割れにくく、また負偏
析さらにはセミマクロ偏析をも飛躍的に改善できること
が明らかになってはいるけれども、依然として未凝固層
の大きい鋳片領域での圧下が不十分であると凝固界面に
割れが発生し、逆に圧下が十分すぎると鋳片の中心部に
強い負偏析を生じる不利があり、さらには未凝固厚の小
さい領域を圧下してもその効果が得られないことから、
最適な圧下条件を模索しているのが現状である。
(発明が解決しようとする課題) この発明は、上記技術の問題点を有利に解決するもの
で、成分調整に併せ、連鋳条件に工夫を加えることによ
り、高温長時間の均質化焼鈍を必要とすることなしに、
従来の高炭素クロム軸受鋼と同等以上の優れた転動疲労
寿命を有しかつ生産性の高い軸受用素材の有利な製造方
法を提案することを目的とする。
(課題を解決するための手段) すなわちこの発明は、 C :0.60〜1.50wt%、 Si:0.15〜2.00wt%、 Mn:0.15〜2.50wt%、 Cr:0.05〜1.00wt%および Mo:0.50超〜1.50wt% を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼
を、連続鋳造し、鋳片内部が凝固を完了するクレータエ
ンド近傍にて圧下率5%以上の鍛圧加工を施し、ついで
熱間圧延を施すことからなる転動疲労寿命に優れた軸受
用素材の製造方法(第1発明)である。
またこの発明は、溶鋼の成分組成が、 C :0.60〜1.50wt%、 Si:0.15〜2.00wt%、 Mn:0.15〜2.50wt%、 Cr:0.05〜1.00wt%および Mo:0.50超〜1.50wt% を含み、さらに V :0.05〜0.50wt%、 Nb:0.05〜0.50wt%、 W :0.05〜0.50wt%、 Ni:0.10〜2.00wt%および Cu:0.05〜1.00wt% のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部は
Feおよび不可避的不純物の組成になる転動疲労寿命に優
れた軸受用素材の製造方法(第2発明)である。
(作 用) まずこの発明において、素材の成分組成を上記の範囲
に限定した理由について説明する。
C:0.60〜1.50% Cは、基地に固溶することによって、強度、耐摩耗性
ひいては転動疲労寿命特性を向上させる有用元素であ
る。しかしながらあまりに多すぎると巨大炭化物が生成
し、かえって転動疲労寿命を劣化させるだけでなく、さ
らにその消散のため長時間の拡散焼鈍が必要となり生産
性の低下を招く。そこで上記の点を勘案してC量は0.60
〜1.50%の範囲で添加するものとした。
Si:0.15〜2.00% Siは、鋼の溶製時脱酸剤として作用するほか、基地に
固溶し焼戻しによる硬度低下を抑制して転動疲労寿命を
向上させる有用元素である。しかしながらあまりに多す
ぎると被削性ならびに鍛造性を劣化させるので、Siは0.
15〜2.00%の範囲で添加するものとした。
Mn:0.15〜2.50% Mnは、鋼の焼入れ性を向上させることにより、基地靭
性の向上、ひいては鋼材の転動疲労寿命の向上に有効に
寄与する。しかしながら多すぎると被削性ならびに鍛造
性を劣化させるので、Mnは0.15〜2.50%の範囲で添加す
るものとした。
Cr:0.05〜1.00% Crは、焼入れ性を向上させ基地の強度および靭性を高
めると共に、炭化物の形成を助長し耐摩耗性を向上させ
るのに有効である。かかる効果は、0.05%以上で顕著に
なるのでこの値を下限とする。しかしながら1.00%を超
えると耐摩耗性および切削性が劣化し、また添加コスト
が上昇する。さらに鋳造時共晶炭化物を生成して、転動
疲労寿命を低下させるばかりでなく、この悪影響を解消
するために、高温、長時間の均質化処理が必要となる。
よって、1.00%を上限とした。
Mo:0.50超〜1.50% Moは、焼入性を高めるだけでなく、強い固溶強化、析
出硬化機能を有することから、強度ならびに転動疲労寿
命の向上に有効に寄与する。しかしながら多すぎると切
削性を劣化させると共に、添加コストの上昇を招く。よ
ってMoは0.50超〜1.50%き範囲で添加するものとした。
この発明では、上記した基本成分の他、必要に応じ
て、V,Nb,W,NiおよびCuのうちから選んだ1種または2
種以上を、強度向上成分として以下に述べる範囲で添加
することができる。
V,Nb,W:0.05〜0.50% V,NbおよびWはそれぞれ、高温で安定した炭化物を形
成し、転動疲労寿命特性を向上させる。しかし、多すぎ
ると焼戻後の硬度が低下し、かえって転動疲労寿命特性
を劣化させる。よって、V,NbおよびWはそれぞれ、0.05
〜0.50%の範囲で添加するものとした。
Ni:0.10〜2.00% Niは、焼入れ性の向上に寄与するだけでなく、焼戻し
後の硬度低下を抑制させることから、強度および転動疲
労寿命の向上に有用な元素である。しかしながらあまり
に多すぎると、残留γが多量に生成し焼戻し後の鋼材硬
度を低下させる。よってNiは0.10〜2.00%の範囲で添加
するものとした。
Cu:0.05〜1.00% Cuは、Niと同様、焼入れ性の向上に寄与するだけでな
く、焼戻し後の硬度低下を抑制させることから、強度お
よび転動疲労寿命の向上に有用な元素である。しかしな
がら含有量が多すぎる場合には鍛造性の劣化を招く。よ
ってCuは0.05〜1.00%の範囲で添加するものとした。
なおその他、酸素量低減および介在物形態制御を目的
としてAl,Ca,Na,K,MgおよびZrのうちから選んだ1種ま
たは2種以上を、また被削性向上を目的としてS,Ca,Pb,
B,BiおよびREMのうちから選んだ1種または2種以上
を、さらに熱間強度向上を目的としてPおよびNのうち
から選んだ1種または2種を、またさらに脱炭低減を目
的としてSbをそれぞれ少量添加することもできる。
さて上述したような好適成分組成に調整した溶鋼を、
連続鋳造して鋳片とするが、この発明では、得られた連
続鋳造鋳片の内部溶鋼が凝固完了するクレータエンド近
傍にて圧下率:5%以上の鍛圧加工を施すことが肝要であ
り、かくして鋳片中心部における偏析の生成を防止する
のである。
ここに、上記の如き鍛圧加工によって、鋳片中心に相
当する位置での偏析が改善される理由は、次のとおりと
考えられる。
すなわち内部溶鋼の凝固末期には、大型の非金属介在
物を含んだ合金元素濃度の高い溶鋼がクレータエンド近
傍に存在するため、このまま凝固すると非金属介在物の
残存ならびに中心編析が生じるわけであるが、凝固前に
鍛圧加工を施すと、かような非金属介在物を含む濃化溶
鋼は上方に押し出されるため、中心部の非金属介在物量
ならびに合金元素量はさほど上昇することはなく、その
結果、中心部における転動疲労寿命特性は向上する。
そして上記したとおり中心偏析や共晶炭化物が効果的
に抑制される結果、従来均熱炉を用いて行われていた拡
散焼鈍処理時間が大幅に短縮されるのである。
第1図に、C:1.01%、Si:0.80%、Mn:0.45%、Cr:0.2
5%およびMo:0.80%を含有する組成になる溶鋼の連続鋳
造に際し、連続鋳造中に種々の圧下率で鍛圧加工を行っ
て得た鋳片、および鍛圧加工を行わない従来法により得
られた鋳片をそれぞれ、2時間の拡散焼鈍後、棒鋼圧延
により65mmφ棒鋼とし、中心部(棒鋼の中心が試験片の
表面にくるように試験片を採取)およびD/4部(棒鋼の
表面と中心の中間の位置であり、このD/4部が試験片の
表面にくるように試験片を採取)における転動疲労寿命
特性について調べた結果を示す。
なお、転動疲労寿命試験は、円筒型転動疲労寿命試験
機を用い、ヘルツ最大接触応力600kg/mm2、繰り返し応
力数46240cpmの条件で行い、試験結果はワイブル分布に
従うものと仮定して確率紙上にまとめ、従来法により得
られた鍛圧加工なしで2時間拡散焼鈍材の中心部のL10
寿命(累積破損確率が10%のときの、はく離までの応力
負荷回数)を1として、相対的に評価した。
同図より明らかなように、棒鋼中心部材の転動疲労寿
命特性は、圧下率が5%以上の鍛圧加工を施すことによ
って、かかる鍛圧加工を施さない従来法の5倍以上に向
上した。
従ってこの発明では、鍛圧加工による圧下率につき、
5%以上の範囲に限定したのである。とはいえ圧下率が
60%を超えると圧延後の素材精度が低下するという問題
が生じるので、圧下率は60%以下とするのが好ましい。
(実施例) 第1表に示す化学成分になる種々の溶鋼を、転炉→連
続鍛造法により、第2表に示す条件下に処理して鋳片と
した。
ついで均熱炉について、1240℃、2hまたは20hの均質
化処理を施したのち、65mmφ棒鋼に熱間圧延後、球状化
焼鈍処理を行い、D/4部および中心部(棒鋼の中心が試
験片の表面にくるように採取)より転動疲労寿命試験片
を採取し、焼入れ、焼戻し後、転動疲労寿命試験を実施
した。
転動疲労寿命試験は、円筒型転動疲労寿命試験機を用
い、ヘルツ最大接触応力600kgf/mm2、繰り返し応力数46
240cpmの条件で行い、試験結果はワイブル分布に従うも
のと仮定して確率紙上にまとめ、鋼材No.1の20h拡散焼
鈍処理材のD/4部のL10寿命(累積破損確率が10%のとき
の、はく離までの応力負荷回数)を1として、相対的に
評価した。
得られた結果を第2表に併記する。
第2表より明らかなように、成分組成範囲および鍛圧
加工における圧下率がこの発明の適正範囲を満足するも
のはいずれも、転動疲労寿命特性は鋼材No.1の20h拡散
焼鈍処理材(従来材)に比べて格段に向上している。
(発明の効果) かくしてこの発明によれば、高温長時間の均質化焼鈍
を施す必要なしに、従来の鋼材よりも優れた転動疲労寿
命を有する軸受用素材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、鍛圧加工における圧下率と転動疲労寿命特性
との関係を示したグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−199308(JP,A) 特開 平3−199309(JP,A) 特開 平3−254339(JP,A) 特開 平3−254341(JP,A) 特開 平3−254342(JP,A) 特開 平3−258445(JP,A) 特開 平1−218738(JP,A) 特開 昭61−162253(JP,A) 特開 昭63−268548(JP,A) 特開 昭63−183765(JP,A) 特開 昭60−121054(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) B23K 11/128 350 B23K 11/00 C21D 8/00 C22C 38/00 301 C22C 38/22

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C :0.60〜1.50wt%、 Si:0.15〜2.00wt%、 Mn:0.15〜2.50wt%、 Cr:0.05〜1.00wt%および Mo:0.50超〜1.50wt% を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる溶鋼
    を、連続鋳造し、鋳片内部が凝固を完了するクレータエ
    ンド近傍にて圧下率5%以上の鍛圧加工を施し、ついで
    熱間圧延を施すことを特徴とする転動疲労寿命に優れた
    軸受用素材の製造方法。
  2. 【請求項2】溶鋼の成分組成が、 C :0.60〜1.50wt%、 Si:0.15〜2.00wt%、 Mn:0.15〜2.50wt%、 Cr:0.05〜1.00wt%および Mo:0.50超〜1.50wt% を含み、さらに V :0.05〜0.50wt%、 Nb:0.05〜0.50wt%、 W :0.05〜0.50wt%、 Ni:0.10〜2.00wt%および Cu:0.05〜1.00wt% のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、残部は
    Feおよび不可避的不純物の組成になる請求項1記載の軸
    受用素材の製造方法。
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