JP4381132B2 - アミノヒドロキシ芳香族カルボン酸の生産に関与する遺伝子およびアミノヒドロキシ安息香酸類の製造方法 - Google Patents

アミノヒドロキシ芳香族カルボン酸の生産に関与する遺伝子およびアミノヒドロキシ安息香酸類の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、3−アミノ−4−アミノヒドロキシ芳香族カルボン酸類の生合成に関連する蛋白質並びに該蛋白質をコードする遺伝子に主に関する。また、該遺伝子を用いて、3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類を製造する方法に関する。
また、本発明はアミノヒドロキシ安息香酸類の製造方法に関する。さらに詳しくは、染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体や、高性能耐熱性高分子ABポリベンゾオキサゾール(AB−PBO)のモノマー(ABモノマー)として有用なアミノヒドロキシ安息香酸類を簡便安価に製造する方法に関する。
なお、本明細書において「ABモノマー」とは、酸基(Acid)と塩基(Base)を有するモノマ−化合物をいい、それを重合することにより得られたポリマ−をABポリマ−という。
従来、染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体やABポリベンゾオキサゾールのモノマーや種々の医薬品中間体として有用であるアミノヒドロキシ安息香酸類の製造方法としては、アミノヒドロキシ安息香酸類が3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の場合、原料である4−ヒドロキシ安息香酸やそのエステルを硝酸でニトロ化して3−ニトロ−4−ヒドロキシ安息香酸やその誘導体とし、その後、該中間体のニトロ基をパラジウムカーボンなどの還元剤で還元し、リン酸塩として単離する方法(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、電極還元する方法(例えば、特許文献3参照)などが知られている。また原料として4−ハロ安息香酸やそのエステルをもちいた場合、硝酸でニトロ化して3−ニトロ−4−クロロ安息香酸を得た後、ハロ基をアルカリ金属水酸化物で処理して3−ニトロ−4−ヒドロキシ安息香酸としこれを還元する方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の異性体であり同じくABポリベンゾオキサゾール(PBO)のモノマーとして有用である4−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸も、3−ヒドロキシ安息香酸やそのエステルをもちいて同様に製造することができる。例えば原料である3−ヒドロキシ安息香酸やそのエステルを硝酸でニトロ化して3−ニトロ−4−ヒドロキシ安息香酸やその誘導体とし、その後、該中間体のニトロ基をハイドロサルファイトナトリウムなどの還元剤で還元し、塩酸塩として単離する方法(例えば、非特許文献1参照)が知られている。
しかしながら、これらの方法ではいずれもニトロ化の際に生成するポリニトロ化物の危険性を回避するため、また生成物の純度を向上させるために単離、精製などの反応操作が数段階におよびコスト高になるという問題がある。また異性体生成による収率の大幅な低下といった問題点もある。
アミノヒドロキシ安息香酸類が2−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の場合、m−アミノフェノールをKHCO3、NaHCO3等の炭酸水素塩と水溶液中で反応させる方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。しかしながらアルカリ性条件下で行われるこの反応においては、2−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸が不安定であるという問題がある。また構造異性体であるp−アミノサリチル酸も生成してしまうことなどから収率が低いため、効率的な製造方法であるとは言えない。
また、アミノヒドロキシ芳香族カルボン酸類中の不純物の存在は、高分子量かつ曵糸性のあるABポリベンゾオキサゾールのポリリン酸ドープの製造を妨げることが知られている。
ポリベンゾオキサゾール類は、高強度の特性を有する剛性ポリマーとしてよく知られている。しかし、その化学触媒を用いた製造方法では危険な触媒を用いた過激な反応であり、しかもABモノマー前駆体の純度の高い安価な製造方法がないことが、これらポリマーの実用化を遅らせている原因となっている。
ABモノマーの3−ヒドロキシアントラニル酸(HAA)(別に2−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸として知られている)は、放線菌の培養により製造されることが知られている。しかし、これを重合したポリマーの直線性が低く物性としては必ずしも満足のいくものではない(例えば、特許文献6参照)。さらに、その培養方法においては4−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸を微生物により直接製造するのではなく2,3−ジヒドロキシー3−アントラニル酸を培養により得て、それを化学的に変換することにより製造するものである。したがって、環境低負荷型プロセスとして完成されたものではない。
一方、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸は公知の化合物であるが、ポリマーの直線性が4−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸のポリマーに比べて高く物性に優れたポリマーが得られる。
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸について、各種の化学合成が報告されている。これらの合成は多ステップの方法であるので非常にコストがかかり、製造に適した方法とは言えない。
化学的合成法に比べて生合成による物質生産はいくつかの利点が挙げられる。これらの利点としては、安価で再生可能な原料の使用、温和な反応条件下で合成が可能であることであり、環境低負荷型プロセスとして地球環境に対して優しい製造方法と言える。微生物等の生合成によってアミノヒドロキシ安息香酸類が生産されることが知られている。例えば、放線菌が3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生合成することが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、この3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸は弱酸性からアルカリ性付近において不安定であるため、培養液中で酸化されダイマー化しやすく、収率が低くなるという問題がある。また、2−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸(別に3−ヒドロキシアントラニル酸として知られている)も放線菌の培養により得られることが知られている(例えば、特許文献6参照)。この場合は培養によって2−アミノ−3−ヒドロキシ安息香酸が直接生産されるのではなく、2,3−ジヒドロキシー3−アントラニル酸を培養により得て、それをパラジウムカーボン触媒により脱水素反応させることにより製造するものである。ここで使用されるパラジウムカーボン触媒は高価であり、しかも反応を効率的に行うには多くの触媒量が必要となることから、安価な製造プロセスであるとは言えない。
米国特許4959492 米国特許5068384 米国特許4764263 特公平8−11745号公報 特開2002−308839号公報 特開平7−309946号公報 今井ら、マクロモレキュラーケミー83巻、179頁、1965年 Yongfu Li et.al Tetrahedron Letters、41、p5181−5185(2000)
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸などのアミノヒドロキシ安息香酸酸類を簡便安価に製造する方法を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を生合成により製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決することを主な目的として鋭意検討を重ねた。その結果、3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類の生合成に関与する遺伝子を見出した。更に、該遺伝子を組み込んだ組換えベクターを用いて形質転換した微生物を用いて、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生産する方法を見出した。
さらに本発明者らは、前記形質転換体を用いて3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を生合成する過程で副生するAc-AHBA類を脱アセチル化処理することによって3,4-AHBA類を製造できることを見いだし、本発明を完成するにいたった。
すなわち本発明は、以下の発明を提供するものである。
項1. 配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子。
項2. 配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質。
項3. 項1記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
項4. 項3記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
項5. 配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子。
項6. 配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質。
項7. 項5記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
項8. 項7記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
項9. 項3に記載の組換えベクター又は項7に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
項10. 項3に記載の組換えベクター及び項7に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
項11. 項1に記載の遺伝子及び項5に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
項12. 項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
項13. 項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
項14. 項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理することを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
項15. 項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理する工程と、該反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる工程と、該多孔性吸着剤によって不純物が除去された溶液を晶析または沈殿させる工程からなることを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
項16. 項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理する工程と、該反応処理液を多孔性吸着剤に接触させた後、該多孔性吸着剤に極性有機溶媒を接触させて3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を優先的に溶離させ、該溶離液を晶析または沈殿させることを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
項17. 多孔性吸着剤が活性炭、芳香族系合成吸着剤から選ばれる少なくとも1種以上の疎水性の多孔性吸着剤であることを特徴とする項15ないし16記載の方法。
項18. 3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理した後、該処理液に酸類を加える工程を含むことを特徴とする項14ないし16記載の方法。
項19. 脱アセチル化処理が酸類を含む水溶液中で加熱処理することを特徴とする項14ないし16記載の方法。
項20. 酸類が塩酸、リン酸、硫酸、硝酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする項18ないし19記載の方法。
項21. 3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類がアミノヒドロキシ安息香酸の塩化合物であることを特徴とする項18ないし20記載の方法。
本発明によって、染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体やABポリベンゾオキサゾールのモノマーとして有用であるアミノヒドロキシ安息香酸類を簡便安価に製造することができる。よって、例えば、本発明によって得られた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を重合することでポリベンゾオキサゾール(PBO)が得られ、これにより高強度、高弾性率、高耐熱性を有するPBO繊維やPBOフィルムなどを安価に提供することが可能となり、産業上の発展に益すること大である。また、原料であるAc-AHBA類を生合成によって製造することが可能であることから、本発明の方法は環境低負荷型のプロセスとなり、地球環境に対して優しい製造方法である。
また、本発明により生産される3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類は、種々の医薬品中間体としても有用に用いることができる。
さらに、本発明の遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いることにより、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の生産量の増加が期待できる。
本発明は、3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類の生合成に関連する遺伝子、該遺伝子のコードする蛋白質、該遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターによって形質転換した形質転換体、また該形質転換体を用いて3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類を製造する方法に係るものである。
本発明における3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類には、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(以下、「3,4-AHBA」と略すことがある)並びにその誘導体およびその塩が含まれる。誘導体としては、例えば、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸のアミノ基がアセチル化された3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸などが挙げられる。塩としては、カルボン酸のアルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム)塩などの塩基塩および塩酸塩、硫酸塩、硝酸鉛、リン酸塩などの酸付加塩が例示される。
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子
本発明の遺伝子は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成に関与する遺伝子である。換言すると、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類(以下、「Ac-AHBA類」と略すことがある)の生合成を回復、付与、促進又は調節する機能を有する遺伝子である。
具体的には、本発明の遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子である。または、配列番号3で表される塩基配列又は配列番号3で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを有する遺伝子である。
本発明における「ストリンジェントな条件下」とは、例えば配列番号1又は3に記載の塩基配列によりコードされる3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質と同等の活性を有するタンパク質をコードする塩基配列のみが該特定配列とハイブリット(いわゆる特異的ハイブリット)を形成し、同等の活性を有しないタンパク質をコードする塩基配列は該特定配列とハイブリット(いわゆる非特異的ハイブリット)を形成しない条件を意味する。
当業者は、ハイブリダイゼーション反応および洗浄時の温度や、ハイブリダイゼーション反応液および洗浄液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。具体的には、6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)または6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ、さらに42℃で0.5×SSCにより洗浄する条件が挙げられる。ハイブリダイゼーションによって得られるDNAは、配列番号1又は3に記載の塩基配列により表わされるDNAと通常高い相同性を有する。ここで、高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
但し、これらの条件は、本発明のストリンジェントな条件の1例として挙げられるのものであって、これらに限定されるものではない。
本発明の遺伝子には、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関与するタンパク質、換言すると、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成を回復、付与、促進又は調節する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も含まれる。具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連蛋白質もしくは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質をコードする遺伝子などが含まれる。
配列番号3で表される塩基配列又は配列番号3で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含む本発明の遺伝子は、アミノ基をもったC4化合物(例えばアスパラギン酸)とC3あるいはC4化合物との炭素―炭素結合反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードする遺伝子と考えられる。
また、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAを含む本発明の遺伝子は、C4化合物とC3あるいはC4化合物との炭素−炭素結合反応を触媒する酵素活性を有する前記蛋白質により合成された、C7化合物の環化あるいはC8化合物の脱炭酸を伴った環化を触媒する酵素活性を有する蛋白質をコードする遺伝子と考えられる。C7化合物の環化あるいはC8化合物の脱炭酸を伴った環化とは、炭素1個からなる官能基、例えばカルボキシル基が、ベンゼン環に付加しているような形での環化を意味する。
本発明の遺伝子においては、塩基配列に修飾が加えられているものも含まれる。例えば、polyAテールや5’、3’末端の非翻訳領域が「欠失」されたものでもよいし、アミノ酸を欠失するような範囲で塩基が「欠失」されたものでもよい。また、フレームシフトが起こらない範囲で塩基が「置換」されたものでもよい。また、アミノ酸が付加されるような範囲で塩基が「付加」されたものでもよい。但し、そのような修飾があっても、3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類の生合成を回復、付与、促進又は調節する活性を有するタンパク質をコードするものであることが必要である。このような改変された塩基配列は、例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等によって、特定の部位のアミノ酸が置換、削除、挿入、付加されるように本発明の遺伝子の塩基配列を改変することによって得られる。
本発明の遺伝子は、適当な微生物、例えば、ストレプトマイセス・グリセウスのグリキサゾン非生産のUV変異株を取得し、グリキサゾン類縁体生産を回復させるDNA断片をショットガンクローニングすることで得られる。
ここでいう、グリキサゾンは
Figure 0004381132
で表される構造単位をもっている。
また、配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列に基づいて作製したプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)や、又は配列番号1または配列番号3に記載の塩基配列に基づいて作製したプローブを用いたサザンもしくはノーザンハイブリダイゼーションなどを利用して、放線菌などの生物から取得することもできる。
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連蛋白質
本発明のタンパク質は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関与するタンパク質であって、換言すると、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成を回復、付与、促進又は調節する活性を有するタンパク質である。
本発明の蛋白質とは、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関与する活性を有するタンパク質である。もしくは、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関与する活性を有するタンパク質である。
配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質は、アミノ基をもったC4化合物(例えばアスパラギン酸)とC3あるいはC4化合物との炭素―炭素結合反応を触媒する酵素活性を有する蛋白質と考えられる。
配列番号2記載のアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質は、C4化合物とC3あるいはC4化合物との炭素−炭素結合反応を触媒する酵素活性を有する前記蛋白質により合成された、C7化合物の環化あるいはC8化合物の脱炭酸を伴った環化を触媒する酵素活性を有する蛋白質と考えられる。C7化合物の環化あるいはC8化合物の脱炭酸を伴った環化とは、炭素1個からなる官能基、例えばカルボキシル基が、ベンゼン環に付加しているような形での環化を意味する。
配列番号2又は配列番号4に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するとは、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関連する活性、具体的には、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成を回復、付与、促進又は調節する活性を失わない程度の変異が導入されていることを意味する。このような変異は、自然界において生じるほかに、人為的な変異も含む。人為的な変異法としては、例えば、部位特異的変異法(Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, 6487-6500, 1982)等が挙げられる。変異したアミノ酸の数は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関連する活性を失わない限り、その個数は制限されないが、通常は20アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
変異を導入したタンパク質が3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成に関連する活性を有しているか否かは、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成経路を有する天然の野生株、又は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生合成経路が阻止された又は消失した微生物に、本発明のタンパク質又は該タンパク質をコードする遺伝子を投与し、それら微生物が3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類または3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類代謝産物の生産性を増強又は回復しているか否かなどを調べることによって判定できる。
本発明の蛋白質は、例えば、配列番号2又は配列番号4に記載のアミノ酸配列又はその一部をコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、該ベクターで適切な宿主細胞を形質転換し、形質転換体を培地中で培養することにより、培地または細胞破砕液から必要に応じて精製することで得ることができる。
組換えベクター
本発明の遺伝子を、発現ベクターであるプラスミドに導入することによって、本発明の組換えベクターを得ることができる。
具体的には、配列番号1で表される塩基配列又はその相補配列又はこれらの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子、又は、配列番号3で表される塩基配列又はその相補配列又はこれらの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を、適当なプラスミドに導入する。
又は、配列番号1で表される塩基配列又はその相補配列又はこれらの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子と、配列番号3で表される塩基配列又はその相補配列又はこれらの塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子とを共に適当なプラスミドに導入する。
発現ベクターとしては、放線菌由来のプラスミド、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来プラスミド等を利用することが出来る。
放線菌由来のプラスミドとしては、例えば、pIJ702が挙げられる。大腸菌由来のプラスミドとしては、例えば、pBR322,pBR325,pUC18,pUC118が挙げられる。枯草菌由来のプラスミドとしては、例えば、pUB110,pTP5,pC194が挙げられる。酵母由来プラスミドとしては、例えば、pSH19,pSH15が挙げられる。
発現ベクターには、所望により当該技術分野で公知の、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン等を付加することができる。また、必要に応じて、本発明の遺伝子がコードする蛋白質を他の蛋白質との融合蛋白質として発現させることも可能である。他の蛋白質としては、例えば、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインA等が挙げられる。このような融合蛋白質は、プロテアーゼを使用して切断し、それぞれの蛋白質に分離することが出来る。
形質転換体
本発明の組換えベクターを適当な宿主細胞に導入して、該宿主細胞の形質転換を行うことによって、本発明の形質転換体を得ることができる。
宿主細胞としては、例えば、放線菌、大腸菌、酵母、枯草菌等が挙げられる。これらの中でも放線菌が好ましく、特にストレプトマイセス・グリセウスが好ましい。
宿主細胞の形質転換は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことが出来る。例えば、以下に記載の文献を参照することが出来る。Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69巻,2110(1972); Gene,17巻,107(1982);Molecular & General Genetics,168巻,111(1979);Methods in Enzymology,194巻,182−187(1991);Proc. Natl. Acad. Sci. USA),75巻,1929(1978);細胞工学別冊8 新 細胞工学実験プロトコール.263−267(1995)(秀潤社発行);及び Virology,52巻,456(1973)。
形質転換体を培養するための培地には、該宿主細胞が生育する培地であれば特に制限はなく、当該技術分野で公知の方法に従って培養することが出来る。例えば、グルコース、シュークロースなどの糖類を炭素源として、アンモニウム塩や硝酸塩などの無機窒素源、あるいは酵母エキス、マルツエキスなどの有機窒素源、さらに各種無機塩やビタミン類などを含有した培養液で好気的、または嫌気的に1日から1ヶ月程度培養を行えばよい。
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者は3,4-AHBAが培養液中で変換され、Ac-AHBAとAPOCに変換されると考えている(図1)。図1に示されるように、3,4-AHBAとAc-AHBAの合計量は、3〜4日後に最大となり、5日以上培養するとAPOCの量が増大し、Ac-AHBAが減少するため、3,4-AHBAとAc-AHBAの合計量は減少することになる。従って、形質転換体の培養は、3〜5日程度、より好ましくは3〜4日程度が3,4-AHBAとAc-AHBAの合計量を最大にするために好ましい。
また、図2に示されるように、酸素供給速度にも最適地が存在し、培地への酸素供給速度を調節することで、3,4-AHBAとAc-AHBAの合計量を増大させることができる。
また、下記の表1に示されるように、形質転換体の培養培地としては、TCAサイクルのオキザロ酢酸の供給量を増大する成分を含む培地が好ましく、より好ましくはアスパラギン培地、グルタミン酸培地、フマル酸培地、特に好ましくはフマル酸培地である。
Figure 0004381132
3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類の製造方法
本発明の遺伝子を適切な発現ベクターに組み込んで組換えベクターとし、該組換えベクターで適切な宿主細胞を形質転換し、次いで該形質転換体を培養し、培地中で生産される3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類を回収することによって、3−アミノ−4−ヒドロキシ芳香族カルボン酸類を製造することができる。
具体的には、配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を導入した組換えベクター、及び/又は、配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を導入した組換えベクターを用いて、適当な微生物、例えば、放線菌を形質転換し、該形質転換された微生物を、適当な培地中で培養して、該微生物が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することによって、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を製造される。
本発明の3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法には、配列番号1に基づく塩基配列を有する遺伝子を含有する組換えベクターと配列番号3に基づく塩基配列を有する遺伝子を含有する組換えベクターを単独で用いて3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を製造する方法も含まれるが、該2つのベクターを併用して用いることが、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産性が格段に向上する点で特に好ましい。
具体的には、配列番号1で表される塩基配列又はその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を導入した組換えベクターと、配列番号3で表される塩基配列又はその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子を導入した組換えベクターの、両方のベクターを用いて形質転換を行った微生物を適当な培地中で培養して、該微生物が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法が好ましい。
また、本発明の3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法においては、配列番号1に基づく塩基配列を有する遺伝子と配列番号3に基づく塩基配列を有する遺伝子とを共に含有する組換えベクターを用いる方法も含まれる。
具体的には、配列番号1で表される塩基配列又はその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子と、配列番号3で表される塩基配列又はその相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する遺伝子の両方の遺伝子を導入した組み換えベクターを用いて、形質転換を行った微生物を適当な培地中で培養して、該微生物が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を製造する方法が好ましい。
本発明において、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子を含有する組換えベクターにより形質転換される宿主細胞としては、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成経路を有する野生株でもよく、 3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成経路が天然又は人為的に阻止され、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産性が減弱又は消失した微生物を用いても良い。
本発明の方法を、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成経路を有する野生株に適用した場合には、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類又はその代謝産物の生産性を増強させることができる。
また、本発明の方法を、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産性が減弱又は消失した微生物に適用した場合には、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類又はその代謝産物の生産性を回復又は付与することができる。
微生物の種類は、特に限定されず、放線菌、大腸菌、酵母、枯草菌等が考えられるが、これらの中でも放線菌が好ましい。
さらに、本発明は、上記形質転換体の培養により得られた3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を加水分解することにより3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を得る方法を提供する。原料となる3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類は、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を含んでいてもよい。
本発明における脱アセチル化とは、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類(Ac-AHBA類)のN-アセチル基を脱離させる反応のことをいう。使用される塩基としては、Ac-AHBA類の脱アセチル化反応が進行するものであれば特に限定はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムなどの強塩基を用いることが、脱アセチル化の反応性を高めることができるという点で好ましい。これらの塩基は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種類以上を組み合わせて使用してもよい。塩基の使用量は、Ac-AHBA類の脱アセチル化反応が進行する量であれば特に限定はないが、原料であるAc-AHBA類の0.5〜100モル倍、好ましくは0.8〜10モル倍、さらに好ましくは1〜5モル倍である。一方、脱アセチル化反応に用いられる酸類としては、Ac-AHBA類の脱アセチル化反応が進行するのものであれば特に限定はないが、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの強酸を用いることが脱アセチル化の反応性を高めることができるという点で好ましい。これらの酸類は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種類以上を組み合わせて使用してもよい。酸類の使用量は、Ac-AHBA類の脱アセチル化反応が進行する量であれば特に限定はないが、原料であるAc-AHBA類の0.5〜100モル倍、好ましくは0.8〜10モル倍、さらに好ましくは1〜5モル倍である。
塩基または酸を用いたAc-AHBA類の脱アセチル化反応は、通常、空気雰囲気中、常圧で撹拌しながら行われる。反応温度は脱アセチル化が進行する温度であれば特に限定はないが10〜100℃、好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは60〜100℃である。また反応時間は、脱アセチル化が進行する時間であれば特に限定はないが、0.01〜100時間、好ましくは0.05〜10時間、さらに好ましくは0.1〜5時間である。通常、原料であるAc-AHBA類は塩基性水溶液または酸性水溶液に対する溶解性が低いが、脱アセチル化が進み3,4--AHBAが生成してくると、塩基性水溶液または酸性水溶液に対する溶解性が向上してくるので、この溶解度の変化が反応進行の目安の一つになる。
本発明において、Ac-AHBA類が塩基を用いて脱アセチル化された場合には、酸化的にダイマー化されやすいなど構造的に不安定であるという問題がある。そのため、脱アセチル化処理した後、該処理液に酸類を加えることによって3,4--AHBA類のアミノ基を該酸類と反応させ、塩化合物として安定化させることが好ましい。ここで使用される酸類としては、Ac-AHBA類の塩を形成するものであれば特に限定はないが、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸などの強酸を用いることが好ましい。また、使用される酸類の量は、Ac-AHBA類の塩を形成するのに十分な量であれば特に限定はないが、脱アセチル化反応に要した塩基およびAc-AHBA類の総量に対して、0.5〜100モル倍、好ましくは0.8〜50モル倍、さらに好ましくは1〜10モル倍である。
本発明において使用される多孔性吸着剤とは、表面積の大きな多孔質の固型吸着剤であり、具体的には、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、ボーキサイト、マグネシア、活性白度、アクリル系合成吸着剤等に代表される親水性吸着剤、木炭、骨炭、活性炭、芳香族系合成吸着剤等に代表される疎水性吸着剤を挙げることができる。本発明においては、不純物を吸着することよってAc-AHBA類の純度を向上できるものであれば特に限定なく使用でき、また、Ac-AHBA類が脱アセチル化された3,4-AHBA類が吸着されてしまうものであっても特に限定なく使用できる。ただし、本発明において多孔性吸着剤によって吸着される不純物とは、主として生化学的合成の過程において生産される芳香族系化合物が多く含まれているので、本発明においてはこれらの化合物が吸着しやすい活性炭や芳香族系合成吸着剤に代表される疎水性吸着剤が好ましく用いられる。これら疎水性吸着剤は単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用しても構わない。
活性炭が使用される場合には、その原料としては特に限定はなく、例えば木粉、ヤシ殻などの植物原料、無煙炭、石油ピッチ、コークス等の石炭、石油系原料、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などの合成樹脂系原料などが挙げられる。また活性炭の形状としては粉末状、粒状、繊維状、フィルターやカートリッジ状の二次加工品等があるが特に限定はなく適宜取り扱いやすいものを選択すればよい。また、活性炭の比表面積は特に限定はないが、液体窒素温度条件下の窒素吸着によるBET比表面積が300〜3,000m2/g、好ましくは500〜2,500m2/gのものである。さらに活性炭の細孔においても特に限定されるものではないが、その平均細孔径については通常0.1〜150nm、好ましくは1〜100nm、その平均細孔容積については通常0.01〜2.0ml/g、好ましくは0.02〜1.0ml/gである。
一方、芳香族系合成吸着剤が使用される場合には、その原料としては特に限定はないが、例えば1)無置換基型の芳香族系樹脂、2)疎水性置換基を有する芳香族系樹脂、3)無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂等の多孔性樹脂が使用できる。具体的化合物としては、例えばスチレン‐ジビニルベンゼン系樹脂等が挙げられる。このような合成吸着剤は市販されており、1)無置換基型の芳香族系樹脂としては、例えばダイアイオンHP−20、ダイアイオンHP−21など(以上、いずれも商品名、三菱化学株式会社製)、アンバーライトXAD−4、アンバーライトXAD−2000など(以上、いずれも商品名、株式会社オルガノ製)など、2)疎水性置換基を有する芳香族系樹脂としては、例えばセパビーズSP−205、セパビーズSP−206、セパビーズSP−207など(いずれも商品名、三菱化学株式会社製)、アンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−8など(以上、いずれも商品名、株式会社オルガノ製)など、3)無置換基型に特殊処理を施した芳香族系樹脂としては、例えばセパビーズSP−825、セパビーズSP−850など(いずれも商品名、三菱化学株式会社製)などを挙げることができる。本発明において使用される市販の合成吸着剤は上記に限定されるものではない。
本発明において、Ac-AHBA類を脱アセチル化処理した反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる方法としては、該反応処理液中に多孔性吸着剤を投入し反応処理液中で撹拌しながら両者を接触するバッチ法でも良いし、多孔性吸着剤をカラム等に詰め、該カラムに反応処理液を通過させることによって両者を接触させるカラム法でも良い。上記反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる圧力としては、常圧〜50気圧下で実施でき、処理温度は、前記反応処理液の凝固点よりも高く沸点よりも低い温度であれば特に限定はないが、0〜80℃、好ましくは0〜60℃、さらに好ましくは0〜40℃である。また、上記反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる時間としては、不純物が多孔性吸着剤に十分に吸着される時間であれば特に限定はないが、通常、0.01分間〜100時間、好ましくは0.1分間〜24時間である。また、本発明に用いる多孔性吸着剤の使用量は特に限定されるものではなく、脱アセチル化反応に供したAc-AHBA類に含まれている不純物の含有量に応じて、さらにはその他の諸条件に応じて使用量を設定すればよい。通常、処理する溶液中の固形分量の0.001〜100重量倍が用いられるが、好ましくは0.1〜10重量倍とするのが良い。
前述したようにAc-AHBA類を脱アセチル化処理した反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる目的は、不純物を多孔性吸着剤に吸着せしめ、3,4-AHBA類の純度を向上させることにあるが、不純物と同時に目的生成物である3,4--AHBA類も該多孔性吸着剤に少なからず吸着されてしまう場合がある。そこでAc-AHBA類を脱アセチル化処理した反応処理液を接触させた後、該多孔性吸着剤に極性有機溶媒を接触させ、該多孔性吸着剤から3,4--AHBA類を脱着し、極性有機溶媒中に溶離させることでも3,4--AHBA類を単離、回収することが可能である。本発明において使用される極性有機溶媒とは高い誘電率をもつ極性分子からなる有機溶媒のことをいい、上記したように、多孔性吸着剤から3,4--AHBA類を脱着し、極性有機溶媒中に3,4--AHBA類を溶離させることができるものであれば特に限定されることなく使用できる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ピリジン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等を挙げることができる。これら極性有機溶媒は単独で使用しても構わないし、2種類以上を所望の配合比で組み合わせて使用しても構わない。上記極性有機溶媒を多孔性吸着剤に接触させる圧力としては常圧〜50気圧下で実施でき、処理温度としては使用する極性有機溶媒が液体状態を維持できる温度であって、しかも3,4--AHBA類を脱着し極性有機溶媒中に溶出せしめる温度であれば特に限定はない。例えば使用する極性有機溶媒がメタノールの場合であれば、通常、0〜60℃、好ましくは10〜50℃である。また、上記極性有機溶媒を多孔性吸着剤に接触させる時間としては、3,4--AHBA類を脱着し、十分に極性有機溶媒中に溶出せしめることができる時間であれば特に限定はないが、通常、0.01分間〜100時間、好ましくは0.1分間〜24時間である。また、本発明に用いる極性有機溶媒の使用量は特に限定されるものでははく、3,4--AHBA類を脱着し、十分に極性有機溶媒中に溶出せしめることができる量を諸条件に応じて設定すればよい。通常、多孔性吸着剤量の0.001〜1000重量倍が用いられるが、好ましくは0.1〜100重量倍とするのが良い。
本発明における晶析または沈殿化とは、目的物質が溶解している溶媒を蒸発させて濃縮したり、あるいは温度を下げたり、あるいは目的物質が溶解している溶媒に貧溶媒を加えたりすることによって、飽和溶解度よりも濃度高くすることにより結晶または沈殿を生じさせる操作のことを言い、従来公知の方法を含め特に限定されるものではない。また生成した結晶または沈殿は、沈降、濾過、遠心分離などによって分離することができる。
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
まず、以下にAc-AHBA類の生化学的合成法による生産と単離について説明する。
なお、特に言及しない限り、「部」と「%」は、各々「重量部」と「重量%」を意味する。
実施例1
(1)グリキサゾン非生産のUV変異株の取得
約3x106のストレプトマイセス・グリセウスの胞子を10 mlの10%グリセロールに懸濁し、直径9 cmの滅菌したガラスシャーレに入れた。長さ5 cmの細い鉄線をスターラーバーとし、マグネチックスターラーにより撹拌しつつ30 cm上空よりUVランプを50秒照射し、生存率0.5%で変異処理を行った。変異処理した胞子をYMPD寒天培地(酵母エキス0.2%、肉エキス0.2%、ペプトン0.4%、食塩0.5%、MgSO4・7H2O 0.2%、ブドウ糖1%、寒天2% pH7.2)にプレーティングし、28℃で5-7日培養した。
このうち正常に胞子形成を行う約5300個のコロニーを滅菌した爪楊枝を用いてグリキサゾン生産寒天培地(ブドウ糖0.9%、L-アスパラギン0.9%、硫安0.2%、食塩0.01%、K2SO4 0.005%、MgSO4・7H2O 0.002%、CaCl2・2H2O 0.001%、微量金属塩溶液1%[40 mg ZnCl2, 200 mg FeCl3・6H2O, 10 mg CuCl2・2H2O, 10 mg MnCl2・4H2O, 10 mg Na2B4O7・10H2O, 10 mg (NH4)6Mo7O24・2H2O / l]、10 mM Trizma base、寒天2% pH7.2)に植菌し、28℃で3-4日培養した。グリキサゾンは黄色を呈するため、グリキサゾン生産寒天培地上では視覚的にグリキサゾン非生産変異株を選択できる。約10数株の候補株について詳細に検討し、生育・形態分化ならびにストレプトマイシン生産に異常のないグリキサゾン非生産変異株を1株取得し、M31株と命名した。
(2)ショットガンクローニングによるグリキサゾン生合成遺伝子群の取得
ストレプトマイセス・グリセウス野生株(IFO13350株)の染色体DNAを制限酵素Sau3AIで部分消化し、6-10 kbの断片をアガロースゲル電気泳動により回収した。このDNA断片群と制限酵素BglIIで消化後アルカリフォスファターゼ処理により5'末端の脱リン酸を行った放線菌ベクターpIJ702とをライゲーションした。この染色体DNAライブラリーをM31株に導入して約6000個の形質転換株を得た。
これらの形質転換体のうち2600株をグリキサゾン生産寒天培地上に植菌し28℃で3-4日培養することによって、黄色色素生産能が回復した形質転換体2株を得た。これら2株よりプラスミドDNAを回収し制限酵素処理を行った結果、それぞれ約12 kb、約7.5 kbの挿入断片をもつことが明らかになった。また、制限酵素地図より両者は共通の配列を含んでいることが示された。約7.5 kbの挿入断片をもつプラスミド(pAYP20)よりプローブを調製し、サザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションを含む一般的な手法により、その周辺のDNA断片をクローニングし、計約26 kbのグリキサゾン生合成遺伝子群を含むDNA断片を取得した。
(3)griHおよびgriIの遺伝子解析
取得したグリキサゾン生合成遺伝子群を含むDNA断片の塩基配列をダイデオキシ法(Messing,Methods in Enzynol.,101、20−78、1983)により決定した。配列解析および転写解析等によって、グリキサゾン生合成に関与すると推定される12種の遺伝子が同定され、そのうちの2つの遺伝子をgriHとgriIと命名した。
(4)griHおよびgriIの発現ベクターの構築および形質転換
griIとgriHを含むBglII-SphI3.4 kb 断片を放線菌高コピーベクターpIJ702上のmelCプロモーターの下流のBglII-SphI間に挿入したプラスミドpAYP25を構築した。すなわちgriIとgriHを含むBglII-SphI3.4 kb 断片とBglIIとSphIで消化したpIJ702をライゲーションし、M31株にプロトプラスト法により導入した。得られた形質転換体よりプラスミドを回収し、制限酵素処理によりプラスミド構築が正しいことを確認した。pAYP25においてはmelCプロモーターによってgriIおよびgriHの転写が引き起こされる。
pAYP25を保持するM31株を100 mlのYMPD液体培地(プラスミド保持のため10 ug / mlのチオストレプトンを含む)で30℃2日間前培養し、遠心により集めた菌体をSMM液体培地(ブドウ糖0.9%、L-アスパラギン0.9%、硫安0.2%、食塩0.01%、KH2PO4 0.034%、K2SO4 0.005%、MgSO4・7H2O 0.002%、CaCl2・2H2O 0.001%、微量金属塩溶液1%[40 mg ZnCl2, 200 mg FeCl3・6H2O, 10 mg CuCl2・2H2O, 10 mg MnCl2・4H2O, 10 mg Na2B4O7・10H2O, 10 mg (NH4)6Mo7O24・2H2O / l]、10 mM Trizma base、pH7.2)を用いて2-3回洗浄したのち、100 mlのSMM液体培地に懸濁した。すりガラス製のホモジナイザーにより菌糸を十分に裁断したのち、1ml分の菌体を新たな100 mlのSMM液体培地に植菌し、30℃で3-5日間振とう培養した。本培養上清にはグリキサゾンの生合成前駆体である3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(約0.3 g/培養1リットル)、および、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸がほぼ同量生産された。
(5)アセチルアミノヒドロキシ安息香酸類の単離・粗精製
上記、SMM液体培地(100ml)による培養を10本行い合計1000mlの培養液を得た。この培養液を遠心分離し、菌体を沈殿させることによって培養液上清を得た。これに濃塩酸を加えpHを2.5に調整した後、生じた不溶物を遠心分離によって取り除いた。この遠心上清を5gの活性炭粒子(カラムクロマト用)を詰めたカラムに平均速度15ml/分の速度で通した。pH2.5の水溶液で該活性炭カラムを洗浄したのち、500mlの酢酸エチル/メタノール(=1:1)混合溶媒を該活性炭カラムに通し、活性炭に吸着した3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を脱着・溶離させた。この溶出液をロータリーエバポレーターによって濃縮、乾固し、0.41gの乾固物を得た。次いでこの乾固物に水1mlを加えて分散したのち、水不溶性物を遠心分離によって回収した。この水溶性物質を取り除く操作を数回繰り返した後、水不溶性物を減圧乾燥することによって3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の粗精製物を0.23g得た。
実施例2:3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の精製
実施例1(4)で述べたpAYP25を保持するM31株の培養液を8 umのメンブレンフィルターで濾過し培養上清を得た。培養上清2 lを中性条件で酢酸エチル2 lと混合し、酢酸エチル層と水層を分離した。次に、この水層に塩酸を加えpH2.5にしてから再び酢酸エチル2 lと混合し、酢酸エチル層と水層を分離した(1))。酢酸エチル層には3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸が、水層には3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸が含まれる。
(3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の精製)
混和している酢酸エチルをロータリーエバポレーターにより除去した1)の水層を凍結乾燥した。得られた固形物を200 mlの水に溶かし、Sep-Pak Vac35cc C18 Cartridgeカラムに供し、非吸着画分および水溶出画分を計900 mlを得た。これを凍結乾燥し得られる固形物約5 gのうち約1 gを水に溶かし、Capcell Pak C18カラムを用いたHPLCにより3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を分取した。溶出には0-12%アセトニトリル(0.1% TFA)のリニアグラジエント(流速4 ml / min, 時間15分)を用いた。溶出画分を凍結乾燥し、3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の白色粉末8.0 mgを得た。
(3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の精製)
1)の酢酸エチル層をロータリーエバポレーターにより濃縮乾固した。得られた固形物約3 gのうち約200 mgを20 mlのDMSOに溶解した。水180 mlを加えて10倍に希釈した後、Sep-Pak Vac35cc C18 Cartridgeカラムに吸着させ、20%アセトニトリル溶出画分200 mlを得た。混和しているアセトニトリルをロータリーエバポレーターにより除去したのち凍結乾燥して得られる固形物を3 mlのDMSOに溶かし、Capcell Pak C18カラムを用いたHPLCにより3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を分取した。溶出には10-100%アセトニトリル(0.1% TFA)のリニアグラジエント(流速4 ml / min, 時間20分)を用いた。溶出画分を凍結乾燥し、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の白色粉末40 mgを得た。
実施例3:3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の確認
(3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸)
実施例2の方法に従い精製した3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸について低分解能ESI-MS測定を行い、m/z 154の(M+H)+イオンが検出された。さらに高分解能ESI-MS測定を行い、m/z 154.0510の(M+H)+イオンが検出され、分子式C7H8NO3が誤差0.6 mDaで算出された。また、プロトンおよびカーボンNMRにより以下の結果が得られ、本化合物が3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸であることが確認された。H-NMR (D2O):( 7.83 (1H, d, J2,6=2Hz, H-2), 6.98(1H, d, J5,6=9Hz, H-5), 7.83 (1H, dd, J2,6=2Hz, J5,6=9Hz, H-6), 13C-NMR (D2O):( 126.45 (C1), 119.11 (C2), 132.83 (C3), 155.42 (C4), 116.80 (C5), 122.78 (C6), 170.21 (-COOH).
(3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸)
実施例2の方法に従い精製した3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸について低分解能ESI-MS測定を行い、m/z 196の(M+H)+イオンが検出された。さらに高分解能ESI-MS測定を行い、m/z 196.0596の(M+H)+イオンが検出され、分子式C9H10NO4が誤差1.4 mDaで算出された。また、プロトンおよびカーボンNMRにより以下の結果が得られ、本化合物が3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸であることが確認された。H-NMR (DMSO-d6):( 8.43 (1H, d, J2,6=2Hz, H-2), 6.92(1H, d, J5,6=8.5Hz, H-5), 7.56 (1H, dd, J2,6=2Hz, J5,6=8.5Hz, H-6), 12.46 (1H, br, -COOH), 2.10(3H, s, -COCH 3), 10.69(1H,s, -NH-), 9.30(1H, s, -OH), 13C-NMR (DMSO-d6): ( 121.37 (C1), 123.75 (C2), 126.24 (C3), 151.99 (C4), 115.12 (C5), 126.47 (C6), 167.25 (-COOH), 169.11(-COCH3), 23.76 (-COCH3)。
実施例4:griHおよびgriIの発現ベクターの構築およびストレプトマイセス・リビダンス野生株の形質転換
実施例1(4)で作製したプラスミドpAYP25をストレプトマイセス・リビダンス野生株にプロトプラスト法により導入した。pAYP25を保持するストレプトマイセス・リビダンス株を100 mlのYMPD液体培地(プラスミド保持のため10 μg / mlのチオストレプトンを含む)で30度2日間前培養し、遠心により集めた菌体をSMM液体培地(ブドウ糖0.9%、L-アスパラギン0.9%、硫安0.2%、食塩0.01%、KH2PO4 0.034%、K2SO4 0.005%、MgSO4・7H2O 0.002%、CaCl2・2H2O 0.001%、微量金属塩溶液1%[40 mg ZnCl2, 200 mg FeCl3・6H2O, 10 mg CuCl2・2H2O, 10 mg MnCl2・4H2O, 10 mg Na2B4O7・10H2O, 10 mg (NH4)6Mo7O24・2H2O / l]、10 mM Trizma base、pH7.2)を用いて2-3回洗浄したのち、100 mlのSMM液体培地に懸濁した。すりガラス製のホモゲナイザーにより菌糸を十分に裁断したのち、1ml分の菌体を新たな100 mlのSMM液体培地に植菌し、30度で3-5日間振とう培養した。
本培養上清にはグリキサゾンの生合成前駆体である3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸が生産された(約0.05g / 培養1リットル)。また、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸もほぼ同量生産された。
実施例5
攪拌器、温度計および冷却管を装備した反応フラスコに実施例1(5)で得られた0.20gの3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の粗精製物と1規定の塩酸を3.0ml入れ、98℃加熱還流下、2時間撹拌した。反応終了後、反応処理液は薄い褐色を示していた。反応液を室温まで冷却したのち該反応液に活性炭粉末0.15gを入れた。室温で30分間、活性炭粉末を撹拌した後、該活性炭粉末をフィルター濾過することによって無色の上清を回収した。回収した上清をロータリーエバポレーターによって約半分量まで濃縮したのち、10mlのアセトニトリルを加えて晶析させた。この晶析した化合物を遠心分離によって回収し、減圧乾燥を行って白色結晶の3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の塩酸塩を得た。収量0.13g(収率65%)。
実施例6
実施例5において、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸粗精製物を塩酸で脱アセチル化した反応処理液に活性炭粉末0.15gを接触させた後、該活性炭粉末をフィルター濾過することによって得られた該活性炭粉末を数回水洗した。次いで遠心によって水分を除去し、該活性炭粉末にアセトニトリル10mlを加えて十分に撹拌した。その後フィルター濾過することによって活性炭に吸着していた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を含む溶出液を得た。次いでこの溶出液をロータリーエバポレーターによって濃縮し、着色不純物をわずかに含有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の塩酸塩を析出させた。収量0.065g(収率32.5%)。
実施例7
攪拌器、温度計および冷却管を装備した反応フラスコに実施例1(5)と同様にして得られた0.21gの3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の粗精製物と2規定の水酸化ナトリウムを2.0ml入れ、98℃加熱還流下、3時間撹拌した。反応終了後、反応処理液は薄い黒褐色を示していた。反応液を室温まで冷却したのち該反応液に活性炭粉末0.2gを入れた。室温で30分間、活性炭粉末を撹拌した後、該活性炭をフィルター濾過することよって無色の上清を回収した。回収した上清をロータリーエバポレーターによって約1/3量まで濃縮したのち、10mlのアセトニトリルを加えて晶析させた。この晶析した化合物を遠心分離によって回収し、減圧乾燥を行って白色粉末の3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を得た。収量0.09g(収率42.8%)。
実施例8
攪拌器、温度計および冷却管を装備した反応フラスコに実施例1(5)と同様にして得られた0.20gの3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の粗精製物と2規定の水酸化ナトリウムを2.0ml入れ、98℃加熱還流下、3時間撹拌した。反応終了後、反応処理液は薄い黒褐色を示していた。反応液を室温まで冷却したのち1規定の塩酸を4.0mlを加えた。次いで該反応液に活性炭粉末0.2gを入れた。室温で30分間、活性炭粉末を撹拌した後、該活性炭粉末をフィルター濾過することによって得られた該活性炭粉末を数回水洗した。次いで遠心によって水分を除去し、該活性炭粉末にアセトニトリル10mlを加えて十分に撹拌した。その後フィルター濾過することによって活性炭に吸着していた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を含む溶出液を得た。この溶出液をロータリーエバポレーターによって約1/3量まで濃縮したのち、10mlのアセトニトリルを加えて晶析させた。この晶析した化合物を遠心分離によって回収し、減圧乾燥を行って白色結晶の3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の塩酸塩を得た。収量0.08g(収率40.0%)。
本発明の方法によって、環境低負荷型プロセスでしかも簡便安価に染料、農薬、医薬品その他有機合成品の中間体やABポリベンゾオキサゾールのモノマーとして有用であるアミノヒドロキシ安息香酸類を製造することができると、有用な染料、農薬や医薬品が安価に提供することが可能になる。さらに、本発明によって得られた3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を重合することでポリベンゾオキサゾール(PBO)が得られ、これにより高強度、高弾性率、高耐熱性を有するP1BO繊維やPBOフィルムなどを安価に提供することが可能となり、産業上の発展に益すること大である。
3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4-AHBA)の生産性向上の検討結果(各成分の経時変化)を示す。 3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸(3,4-AHBA)の生産性向上の検討結果(酸素供給速度の生産性に及ぼす影響)を示す。

Claims (21)

  1. 配列番号1で表される塩基配列、又は配列番号1で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子。
  2. 配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質。
  3. 請求項1記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  4. 請求項3記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
  5. 配列番号3で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成遺伝子。
  6. 配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類生合成関連タンパク質。
  7. 請求項5記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  8. 請求項7記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
  9. 請求項3に記載の組換えベクター又は請求項7に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
  10. 請求項3に記載の組換えベクター及び請求項7に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
  11. 請求項1に記載の遺伝子及び請求項5に記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
  12. 請求項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体。
  13. 請求項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して、該形質転換体が生産する3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を回収することを含む3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の生産方法。
  14. 請求項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理することを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
  15. 請求項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理する工程と、該反応処理液を多孔性吸着剤に接触させる工程と、該多孔性吸着剤によって不純物が除去された溶液を晶析または沈殿させる工程からなることを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類の製造方法。
  16. 請求項11に記載の組換えベクターで形質転換させた形質転換体を適当な培地中で培養して3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸を得、3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理する工程と、該反応処理液を多孔性吸着剤に接触させた後、該多孔性吸着剤に極性有機溶媒を接触させて3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を優先的に溶離させ、該溶離液を晶析または沈殿させることを特徴とする3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸の製造方法。
  17. 多孔性吸着剤が活性炭、芳香族系合成吸着剤から選ばれる少なくとも1種以上の疎水性の多孔性吸着剤であることを特徴とする請求項15ないし16記載の方法。
  18. 3−アセチルアミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類を脱アセチル化処理した後、該処理液に酸類を加える工程を含むことを特徴とする請求項14ないし16記載の方法。
  19. 脱アセチル化処理が酸類を含む水溶液中で加熱処理することを特徴とする請求項14ないし16記載の方法。
  20. 酸類が塩酸、リン酸、硫酸、硝酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項18ないし19記載の方法。
  21. 3−アミノ−4−ヒドロキシ安息香酸類がアミノヒドロキシ安息香酸の塩化合物であることを特徴とする請求項18ないし20記載の方法。
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