しかし、特許文献1の繊維束の開繊装置は、流体通流開繊機構で均一な開繊を行なうために、繊維束が巻かれた巻体から、繊維束を一方向へ走行させる際に、一方向供給装置で繊維束に張力を与えながら回転ローラの回転速度を変えて、繊維束に一定の初期張力を与えて送り出す必要がある。このため、一方向供給装置で繊維束に張力を与えるのに、垂直方向に上下動する錘式のローラ駆動手段を用いていた。
錘式のローラ駆動手段は、上下位置をリミットセンサーでそれぞれ検出して、ローラ駆動手段が上方にあることをリミットセンサーで検出したときはモータの回転速度を速くして繊維束の送り量を多くし、ローラ駆動手段が下方にあることをリミットセンサーで検出したときはモータの回転速度を遅くして繊維束の送り量を少なくするように、モータの回転数の制御をしなければならず、センサーや回転数制御装置が必要であった。モータとしても、回転数が自由に変更できるように高価なサーボモータを使用しなければならなかった。
繊維束を高速で走行させた場合、ローラ駆動手段の上下移動に対して、リミットセンサーの反応が遅いとローラ駆動手段の移動に対してセンサーが追従できず、繊維束に一定の張力を与えて送り出すことができないことがあり、リミットセンサーの追従性を上げるために高価な部品並びに精度のある設定をしなければならなかった。
開繊装置は、実際は、一本の繊維束を開繊するだけでなく、複数の繊維束を並列にして各々に一方向供給装置を設けて同時に複数本の繊維束を開繊して一つの開繊束シートを製作する。一本の繊維束に対する一方向供給装置でも、ローラ駆動手段にモータやセンサー、モータの回転数制御が必要で、組み立て時の調整やコストがかかるといった問題があるのに、複数の繊維束を同時に開繊して一定の幅の開繊束シートを得るためには、これに加えて、各々の繊維束を同一の回転速度で走行させないと均一な幅と厚みの開繊束シートが得られない。このため、繊維束毎に回転速度の調節をしなければならず、各ローラ駆動手段の位置情報で回転スピードを変更するために各々に専用のモータが必要となる。さらに、モータ並びにリミットセンサーや回転数制御装置が各繊維束毎に必要となり、組付け作業に時間がかかり、低コスト化を図れなかった。
本発明は、簡素化された構造で、繊維束を含む糸状部材に一定の張力を与えて送り出す糸状部材の供給装置を提供することを目的とする。
糸状部材の供給装置に係る請求項1の発明は、糸状部材を巻装した巻体と、前記巻体から引出される糸状部材の引出し方向に前後に離間して配設され、前記糸状部材を上下で挟み込む2組の回転ローラと、前記2組の回転ローラ間の糸状部材に一端が支持された揺動自在なアームであって、前記糸状部材の張力に応じた揺動角を取るアームと、前記アームに連結されるとともに前記2組の回転ローラのうち前段側の回転ローラの外周面に圧接しモータにより回転する摩擦駆動面を有し、前記アームの揺動と連動して前記回転ローラに対する前記摩擦駆動面の圧接力を増減させ前記糸状部材の張力を一定にするローラ駆動手段とを具備する。
糸状部材の張力が増大してその撓みが少なくなると、ローラ駆動手段の摩擦駆動面をして回転ローラとの圧接を強める方向にアームが揺動して回転ローラをより速く回転させる。糸状部材の張力が減少してその撓みが大きくなると、摩擦駆動面をして回転ローラとの圧接を弱める方向にアームが揺動して回転ローラをより遅く回転させる。回転ローラは摩擦駆動面との摩擦抵抗により回転させられるので、圧接状態が強い場合は滑りがないので摩擦駆動面の回転スピードがそのまま伝達されて回転するが、圧接状態が弱い場合は滑りが起って回転ローラの回転が遅くなる。後段側の回転ローラから送り出される糸状部材は、さらに後段側の引っ張り用駆動ローラで引っ張られているが、前段の回転ローラの回転が糸状部材の張力増大で速くなると、その分だけ糸状部材の送り量が増大して当該張力増大を相殺する。この反対に、前段の回転ローラの回転が糸状部材の張力減少で遅くなると、その分だけ糸状部材の送り量が減少して当該張力減少を相殺する。このため、後段側の回転ローラから送り出される糸状部材は常に一定の張力を与えられて走行することになる。
巻体から糸状部材を引出して供給する際、巻体には糸状部材が層状に巻装されているので、巻体の1回転で引出される糸状部材の長さは、巻き始めと巻き終わりで大きく異なる。巻体の1回転で引出される長さの違いは、結局、2組の回転ローラ間の糸状部材の撓みとして現れるので、上述と同様アームが糸状部材の撓みに追従して揺動し、ローラ駆動手段が動作するので、後段の回転ローラからは一定の張力と送り出し量で糸状部材を供給することができる。
また、複数の巻体から糸状部材を並列的に同時供給する場合には、糸状部材毎に2組の回転ローラ、アーム、ローラ駆動手段を備えることで、ローラ駆動手段の複数の摩擦駆動面を一つのグループとして、グループ毎に摩擦駆動面を回転させるモータを連結部材で連結することができる。
複数の糸状部材を供給する場合には、糸状部材毎の撓み状態をそれぞれのアームで検出して、それぞれの糸状部材の撓み状態にあわせてローラ駆動手段の摩擦駆動面と回転ローラの圧接により、回転ローラの回転速度の調節が行えるので、後段の回転ローラから送り出される糸状部材を一定の張力で送り出すことができる。また、摩擦駆動面と回転ローラとの圧接力の大小により糸状部材の送り出し量を制御するので、摩擦駆動面の回転は一定速でよく、複数の摩擦駆動面を一つのグループとして定速の共通モータを用いることができるので、モータの数を糸状部材毎に設ける必要がなく、駆動モータの回転数の制御も不要となる。グループとは糸状部材全てを1つのグループとすることも含まれる。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記アームの一部に、前記摩擦駆動面の圧接力を調節するバランスウェートを取付けたことを特徴とする。これにより、後段の回転ローラから送り出される糸状部材の張力を簡単かつ正確に増減調節することができる。
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記ローラ駆動手段が、モータにより回転する駆動プーリ、従動プーリ、及び、駆動プーリと従動プーリとの間に掛け渡されたベルトで構成され、前記ベルトが前段側の回転ローラの外周面に圧接する摩擦駆動面を構成することを特徴とする。
糸状部材の微小な張力変動があるとアームが振動して摩擦駆動面と回転ローラとの圧接力が不安定になるおそれがあるが、摩擦駆動面にベルトを使用することによりアームの振動を吸収して前記圧接力を安定にする作用がある。
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記糸状部材を挟む上下の回転ローラのうち、前記ローラ駆動手段の摩擦駆動面が圧接する側の回転ローラを他方の回転ローラよりも大径にして前記回転ローラの駆動力を増大させたことを特徴とする。これにより、ローラ駆動手段に使用するモータの定格の選択範囲を広げることができる。
開繊装置に係る請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかの糸状部材の供給装置と、糸状部材を幅広く薄い状態に開繊する開繊機構を順番に配設したことを特徴とする。
糸状部材の供給装置から送り出される糸状部材の撓みが少ないと(張力大)、ローラ駆動手段の摩擦駆動面をして回転ローラとの圧接を強める方向にアームが揺動して回転ローラをより速く回転させる。糸状部材の撓みが大きいと(張力小)、摩擦駆動面をして回転ローラとの圧接を弱める方向にアームが揺動して回転ローラをより遅く回転させる。回転ローラは摩擦駆動面との摩擦抵抗により回転させられるので、圧接状態が強い場合は滑りがないので摩擦駆動面の回転スピードがそのまま伝達されて回転するが、圧接状態が弱い場合は滑りが起って回転ローラの回転が遅くなる。その結果、後段側の回転ローラから送り出される糸状部材は一定の張力を与えられて走行することになる。よって、安定した開繊が実施でき、繊維束の開繊幅や厚みを均一にできる。
請求項6の発明は、請求項5の発明において、開繊機構として、糸状部材に対して直角方向の振動を与えることにより張力の繰り返し変動を発生させる張力変動発生機構と、糸状部材に流体を当てて開繊する流体通流開繊機構を順番に配設したものである。一定の張力で供給される糸状部材に張力変動発生機構で張力の変動を付与するので、後段の流体通流開繊機構における糸状部材の撓曲を一定にできる。
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記糸状部材の供給装置と張力変動発生機構との間に、弾性部材を介して糸状部材に当接して糸状部材の張力の繰返し変動を緩和する縦振動緩和機構を設けたことを特徴とする。後段の張力変動発生機構で与える糸状部材の張力変動は2組の回転ローラ間に遡ろうとするが、縦振動緩和機構により張力変動が緩和されるため、アームが糸状部材の上で踊って摩擦駆動面と回転ローラとの圧接力を不安定にするのを防止する。
請求項8の発明は、請求項6の発明において、流体通流開繊機構として、流送される糸状部材幅方向に流体通流を形成するために設置される両壁を流送される糸状部材幅方向に自在にスライドする機構を設けたものである。このことにより、開繊幅が自由に設定でき、1本から複数本の開繊に対応できる。
本発明の糸状部材には、繊維束の他、布、シート、リボン等が含まれる。糸状部材は、ボビン、チーズ、コーンなどの巻体に層状に巻き付け、巻体から引張って連続的に引出されるものであればよい。なお、この発明では糸状部材としての繊維束が開繊の対象となる。
繊維束としては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの強化繊維束や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂からなる繊維を引き揃えた集束物、つまり熱可塑性樹脂繊維束などである。そして、加撚された繊維束は連続した開繊が実施できないため、無撚もしくは撚りを戻した解撚の繊維束を用いることが連続した開繊に望ましい。
本発明の糸状部材の供給装置は、2組の回転ローラ間の糸状部材の撓みに追従してアームが揺動し、このアームの揺動角に応じて回転ローラと摩擦駆動面との圧接力を調整して糸状部材の張力を一定にすることができる。したがって、従来のダンサーローラによる張力一定化装置のようなローラの上下位置を検出するセンサーが不要となり、配線やセンサー位置の調節といった組立て工数の削減とコストダウンが図れる。さらに、糸状部材を回転ローラと摩擦駆動面との摩擦力で送り出せるので、摩擦駆動面の回転は一定速でよいので、従来のような高価なサーボモータを用いる必要が無くなり、その結果、サーボモータの回転数を変更する回転数制御装置も不要となる。
また、本発明の開繊装置は、上述の糸状部材供給装置を採用することにより、糸状部材の開繊幅や厚みを均一に安定させた高品位の開繊シートを得ることができる。
以下、糸状部材の供給装置及び開繊装置の実施の形態1を、図1〜図10を参照して説明する。この実施の形態1は、糸状部材としての炭素繊維束を開繊して、開繊束シートを製作するものである。
図1及び図2に示す開繊装置1において、図中左側から右側へ繊維束ないし糸状部材2が走行するので、左側を前段側、右側を後段側として説明する。繊維束2を巻装した巻体3を最前段として、糸状部材の供給装置4、張力変動発生機構5、流体通流開繊機構6が順次後段側に向かって配置されている。
巻体3は、ボビン、チーズ、コーン等の巻体に繊維束2を巻装したもので、巻体3が一方向へ回転することにより繊維束2が引出されるように設置されている。
糸状部材の供給装置4は、2組の回転ローラ7,8と、アーム9と、ローラ駆動手段10とから構成されている。
2組の回転ローラ7,8はそれぞれ上下一対の回転ローラ7a,7b、8a,8bからなり、糸状部材の引出し方向に前後に離間して配置され、上下の回転ローラ7a,7b、8a,8b間に繊維束2を挟んでいる。前段の回転ローラ7は、図1に矢印で示すように、下側の回転ローラ7bが時計方向に回転し、上側の回転ローラ7aが反時計方向へ回転する。また、後段側の回転ローラ8は、図1に示すように、下側の回転ローラ8bが時計方向に回転し、上側の回転ローラ8aが一方向回転クラッチ8c(図2参照)により反時計方向へのみ回転する。回転ローラ7,8の回転軸7c,7d、8d,8eは、図1に示すように、後段の回転ローラ8の軸8d,8eが前段の回転ローラ7の軸7c,7dよりも上下方向で下方に配置されている。
前記巻体3と前段の回転ローラ7との間には、引出された繊維束2を幅方向で所定位置に支持する回転可能な幅方向位置決めローラ11が設けられている。幅方向位置決めローラ11の高さは、前段の回転ローラ7a,7bが繊維束2を挟持する高さと一致させている。
前後の回転ローラ7,8の間には繊維束2の下面と当接して回転する支持ローラ12が回転自在に軸支されている。支持ローラ12の軸12aは、前段の回転ローラ7aの軸7cよりも上方に位置させて、アーム9が当接して揺動しやすくしている。
アーム9は、前段の回転ローラ7と支持ローラ12との間で、揺動自在に軸9aで支持されている。アーム9は軸9aの後段側において繊維束2と当接するようになっており、繊維束2の上面と当接する受圧回転ローラ13がアーム9に軸13aで回転自在に取付けられている。
受圧回転ローラ13とは反対側、すなわちアーム9の前段側端部には、バランスウェート14がアーム9の長手方向の位置をねじにより調節可能に取付けられている。このバランスウェート14は、受圧回転ローラ13が繊維束2へ押しつけられる当接力(又はベルト18と回転ローラ7aとの圧接力)を調節するもので、バランスウェート14を軸9aに接近させたり遠ざけたりして、テコの原理を用いて当接力を調節する。受圧回転ローラ13は、繊維束2に傷を付けないように回転自在にしている。
ローラ駆動手段10は、図1〜図5に示すように、駆動モータ15により回転させられる駆動プーリ16と、従動プーリ17と、両プーリ16,17間に掛け渡されたベルト18とから構成されている。ベルト18が前段の上側の回転ローラ7aと圧接することにより、摩擦力で回転ローラ7aを反時計方向に回転させて、巻体3より繊維束2を引出すようにしている。このベルト18が回転ローラ7aとの圧接による摩擦駆動面となる。摩擦駆動面はベルト18に限らず、回転ローラ7aに弾性的と圧接できる回転体(ローラなど)であってもよい。前記バランスウェート14によりベルト18と回転ローラ7aとの圧接力も調節される。
駆動プーリ16と、従動プーリ17は、アーム9に取付けられている。駆動プーリ16はアーム9の軸9aと同軸に取付けられており、アーム9が駆動モータ15の回転軸の回りに揺動するように軸支されている。アーム9を軸支する軸9aは、駆動モータ15の回転軸で共用することができる。従動プーリ17は、アーム9のバランスウェート14側に軸17aで回転自在に取付けられている。糸状部材の供給装置4により与えられる初期張力は、炭素繊維束12Kの場合は40〜400g、炭素繊維束6Kの場合は20〜200g程度でよい。
支持ローラ12と後段の回転ローラ8の間には、図1に示すように縦振動緩和機構19が設けられている。縦振動緩和機構19は、上下方向かつ凸面を前段側に向けて弧状に延びた板ばね20の下端側に、繊維束2の上面と当接する振動緩和用回転ローラ21を回転自在に軸支したものである。板ばね20の固定端20a(振動緩和用回転ローラ21と反対側)は、振動緩和用回転ローラ21よりもやや後段側に位置しており、ばね力で振動緩和用回転ローラ21を繊維束2の上面に押しつけている。
糸状部材の供給装置4の後段側に設けられた張力変動発生機構5は、図1,図2に示すように、クランクモータ22の回転をクランク23で上下運動に変換してロッド24を上下動させ、これにより繊維束2に上下方向の振動(「横振動」という。以下同じ。)を与え、ひいては繊維束2に長手方向の振動(「縦振動」という。以下同じ。)を発生させるものである。張力変動発生機構5が繊維束2を上下に振動させる際、糸状部材の供給装置4からは一定張力の繊維束2が供給されるので、繊維束2の縦振動における緊張時と弛緩時の張力を一定にすることができる。クランクモータ22は、具体的には、350rpmで押下ストロークを10mmに設定している。この押下ストロークは10mmにこだわるものではなく、繊維束2の種類によって調整すればよい。出願人の実験では、炭素繊維束の場合、クランクモータ22が200〜400rpmで、押下ストロークが2〜10mmで最適な開繊束シートを得ることができた。
張力変動発生機構5の後段側に設けられた流体通流開繊機構6は、図1,図2,図6で示すように、上面に空気吸引用の開口25を有し流体通流部として機能する箱状の吸引型風洞26を有している。開口25は例えば幅方向寸法を40mm、走行方向寸法を30mmの大きさで形成する。開口25内には、繊維束2を一定レベルで支持できるように、表面がなし地仕上げされたガイドローラ27が前後方向に多数設けられている。繊維束2はガイドローラ27の上面側と下面側を交互に潜って千鳥走行する。風洞26の下方には流体吸入ポンプ28が接続されており、適宜に流量調節バルブ29を調整して当該流体吸入ポンプ28を作動させれば開口25に必要な流速の吸引気流が発生する。
吸引気流は、繊維束2がない状態で例えば20m/secの気流になるように設定する。また、吸引気流を、繊維束2のサイジング剤を帯熱柔軟化させるために120〜200℃の温風とすることもできる。この吸引気流の速さも繊維束2の種類により変わり、この20m/secにこだわるものではない。出願人の実験によれば6〜30m/sec範囲内であれば大きな問題がなかった。また、開口25には風洞26の空気吸引開口の大きさ(横幅)を調整する一対の規制部材30が幅方向に摺動自在にねじ31で取付けられている。規制部材30は、図6のように、繊維束2の開繊されたシートの側面端部が当接するように前後方向へ延びた面30aと、気流が流れる下方向へ延びた面30bとを有している。前後方向へ延びた面30aは、製作する開繊束シートの厚みよりも若干厚みを有している。図示例では流体通流開繊機構6の前段側に張力変動発生機構5を配置しているが、張力変動発生機構5を流体通流開繊機構6の後段側に配置しても、糸状部材の縦振動は遡上伝播するため、前段側の流体通流開繊機構6内の繊維束2にも緊張と弛緩を交互連続的に発生させることができる。
流体通流開繊機構6の後段側には、図1,図2に示すように、開繊されたシートを挟持して引っ張り出せるように、モータ32で回転させられる一対の駆動ローラ33が設けられている。駆動ローラ33の後工程としては、繊維シートをボビンやリールに巻き取る工程や、繊維シートに樹脂などのマトリクスを含浸させるプリプレグ加工工程を設置することができる。この駆動ローラ33で開繊束シートは10m/minの速さで引っ張り出されていく。
糸状部材ないし繊維束2の供給装置4及び開繊装置1は前述の如く構成され、繊維束2は供給装置4と駆動ローラ33とによって前段側から後段側へと走行させられる。
糸状部材の供給装置4により巻体3から繊維束2が引出されて後段側へ走行するとき、回転ローラ7、8間での糸状部材2の張力変動がローラ駆動手段10によって均一化される。すなわち、回転ローラ7と支持ローラ12との間の繊維束2の張力は、巻体3の巻装径の減少変化や繊維束2自体の性状によって影響をうけるが、張力が増大して撓みが少なくなろうとすると、この撓みの減少に対応して直ちにアーム9が図1中反時計方向へ揺動してベルト18と回転ローラ7aとの圧接力が強くなる。これにより、ベルト18と回転ローラ7a間に滑りが無くなり、回転ローラ7aにベルト18の回転速度ないし周回速度が直接的に伝達され、回転ローラ7から繊維束2を送り出すスピードが早くなる。
この反対に、回転ローラ7と支持ローラ12との間で繊維束2の張力が低下して撓みが多くなろうとすると、この撓みの増大に対応して直ちにアーム9が図1中時計方向へ揺動してベルト18と回転ローラ7aとの圧接力が弱くなり、ベルト18と回転ローラ7a間に滑りが生じる。これにより、回転ローラ7aの回転数が低下し、繊維束2を送り出すスピードが遅くなる。このようにして、回転ローラ7、8間での糸状部材2の張力変動がローラ駆動手段10によって均一化され、繊維束2に一定の張力が付与される。
張力変動発生機構5のロッド24が繊維束2を押し下げると、回転ローラ8から繊維束2を引出そうとする力が強く働く。この動作に伴って、回転ローラ7と支持ローラ12の間で繊維束2の撓みが少ない状態になるが、この撓みの減少に対応してアーム9が図1中反時計方向へ揺動してベルト18と回転ローラ7aとの圧接力が強くなる。これにより、ベルト18と回転ローラ7a間に滑りが無くなり、回転ローラ7aにベルト18の回転速度ないし周回速度が直接的に伝達され、回転ローラ7から繊維束2を送り出すスピードが早くなる。また、張力変動発生機構5のロッド24が上昇すると、回転ローラ8から引出そうとする力が弱くなる。この動作に伴って、繊維束2が回転ローラ7で早く送り出されていたので、回転ローラ7と支持ローラ12の間では撓みが多くなり、アーム9が図1中時計方向へ揺動して、ベルト18と回転ローラ7aとの圧接力が弱くなり、ベルト18と回転ローラ7aに滑りが生じて、回転ローラ7aの回転が少なくなり、繊維束2を送り出すスピードが遅くなって、繊維束2に初期張力を与える。
張力を一定にされて支持ローラ12を通過した繊維束2は、その後、振動緩和用ローラ21と後段側回転ローラ8とを経由して、張力変動発生機構5に至る。この張力変動発生機構5で繊維束2に上下方向の振動(横振動)が付与される。張力変動発生機構5の繊維束2は、前段側を回転ローラ8で挟まれ、後段側をガイドローラ27で挟まれている。このため、繊維束2にはその横振動によって縦振動も発生し、この縦振動による張力変動たる緊張と弛緩が交互連続的に繰り返されることにより、後段側の流体通流開繊機構6内の繊維束2にその緊張と弛緩を伝播する。
この際、繊維束2の縦振動は回転ローラ8を越えてその前段側にも遡上伝搬するが、回転ローラ8の前段側には、縦振動緩和機構19の板ばね20と振動緩和用ローラ21が配置されているので、支持ローラ12と回転ローラ8との間で板ばね20のばね力により繊維束2の緊張と弛緩による張力変動ないし縦振動を吸収する。
特に、振動緩和用回転ローラ21は繊維束2の縦振動に伴い板ばね20の屈伸に伴う上下移動をするだけでなく、板ばね20のしなりにより前段側と後段側との間を往復スイング移動する。このような振動緩和用回転ローラ21の二次元的移動により、回転ローラ8を越えて前段側に遡上伝搬しようとする繊維束2の縦振動が効率的に緩和される。
次に、流体通流開繊機構6による開繊作用を説明する。この流体通流開繊機構6内では、繊維束2がガイドローラ27を千鳥状ないし蛇行状に通過するが、繊維束2が張力変動発生機構5の作用で緊張から弛緩へと移行する時に、ガイドローラ27の下側に位置する繊維束2が下方へ撓曲し、この撓曲箇所に図1中上方から下方へ垂直に吸引気流が作用する。このように弛緩状態に移行する繊維束2に空気が直角に流通することにより、繊維束2が流体の通過方向へ引かれるようにして撓曲し、幅方向に開繊し易い状態になるとともに、繊維束2中へ気流が通過することによって開繊が行なわれる。
この反対に、繊維束2が弛緩から緊張へと移行するとき、繊維束2はその開繊幅をほぼ維持した状態で、かつ、繊維束2をより真直な状態に引き揃えながら、流体通流部における繊維束の撓み量を小さくさせる。開繊された繊維束2は開繊シートの幅が規制部材30の面30aによって制限されるので、開繊シート全体が同じ幅で同じ厚みになるように開繊することができる。繊維束2が高張力タイプである場合、繊維シートの両側部を規制部材30の面30aに沿わせて移動させるので毛羽が発生しにくい。規制部材30は、開口25の前後方向一杯の長さがある方が毛羽の発生が少なくてすむ。また、規制部材30の面30bによって開繊に必要な空気吸引量を必要最小限にすることができるので、吸引気流を有効に活用できる。
本発明の開繊装置1を使用することにより、例えば、弾性率230Gpaの炭素繊維束12K(単糸直径7μm、12000本)を原糸状態5mmから、幅20mmや幅25mmに開繊することができた。弾性率294Gpaの炭素繊維束24K(単糸直径5μm、24000本)を原糸状態7mmから、幅25mmに開繊することができた。ガラス繊維束(単糸直径14μm、4000本)を原糸状態5mmから、幅20mmに開繊することができた。アラミド繊維束(単糸直径12μm、1000本)を原糸状態1mmから、幅5mmに開繊することができた。アラミド繊維束(単糸直径12μm、2000本)を原糸状態2mmから、幅10mmに開繊することができた。
次に、繊維束の供給装置4の変形例として、ベルトと回転ローラとの回転伝達性能を改善した例を図7〜図9を参照して説明すると、この変形例は、回転ローラ7aを、大径で幅広の第一回転ローラ7aaと、小径の第二回転ローラ7abとで構成し、これらを同軸上で回転するように一体もしくは別体で形成したものである。大径の第一回転ローラ7aaとベルト18が圧接し、小径の第二回転ローラ7abと回転ローラ7bとの間に繊維束2を挟持する。
ベルト18と接触する第一回転ローラ7aaの外径が大きくかつ幅広であれば、繊維束2を送り出す回転ローラ7abを回転させやすくなる。第一回転ローラ7aaを特に幅広とせずに大径にしただけでも、回転モーメントの増大により、回転ローラ7abを回転させやすくなる。なお、ベルト18の張り方によっても伝達力が変わるが、必要に応じで張り方を決定すればよい。
前述の実施の形態1では、アーム9にローラ駆動手段10の駆動プーリ16と従動プーリ17を設けたが、要はベルト18が揺動することにより回転ローラ7aへの圧接力が変化すればよいので、その変形例を図10を参照して説明する。
図10は、駆動プーリ16をアーム9とは別体に取付けた場合である。すなわち、駆動プーリ16を取付ける駆動モータ15を、アーム9の軸9aよりも繊維束2に近い固定側に固定的に配置する。駆動モータ15の回転軸15aに駆動プーリ16を取付けるとともに、駆動モータ15の回転軸15aに、ベルト18と重なるように延在した小アーム(図示省略)を回転自在に軸支する。この小アームに、従動プーリ17の軸17aを支持するとともに、軸17aをアーム15の長手方向に形成した長孔15bに挿入する。この構成では、駆動プーリ16が固定側で支持されているので、アーム9の小さな揺動力でベルト18を回転ローラ7aの外周面に圧着させることができる。
また、縦振動緩和機構19の変形例として、図11に示すように、圧縮ばね120の上端側を固定側に固定し、下端側に繊維束2の上面と当接するローラ121を上下動可能に設ける構成や、この圧縮ばね120に代えて、ローラ121を引張ばねで下方に附勢する構成も可能である。
次に、実施の形態2を図12,図13を参照して説明する。この実施の形態2は、実施の形態1に比べて、巻体3を6個使用し、6本の繊維束2をそれぞれ開繊して一つの繊維シートを製作するものである。実施の形態1と同一構成のものは同一符号を付けて重複説明を省略する。
開繊装置51は、繊維束2が巻装された巻体3を多数設けた巻体群52を最前段として、糸状部材の供給装置群53と、張力変動発生機構5と、流体通流開繊機構6が順次後段側に向かって配置されている。
巻体群52は、6個の巻体3,3,3・・・を前後3段で上下2列に並べ、左右の繊維束2が交差しないように配置している。各繊維束2,2,2・・・を、前段側から後段側に配置した上下一対の案内ローラ54,55,56の各間に順次挟持し、後段側の案内ローラ56で、図13のように平面視並列に等間隔に配置している。繊維束2として炭素繊維束12Kを用いた場合は、例えば20mm間隔になるように案内ローラ56で調節する。炭素繊維束のフィラメント数が少ない場合は、開繊幅が短くなるので、例えば6Kであれば10mm程度がよい。巻体3の数や繊維束2の間隔は、使用する繊維束2の種類や、製作したい繊維シートの幅、厚みによって決定されるもので、6個の巻体3や10mm,20mmの間隔に限定されるものでない。
糸状部材の供給装置群53は、繊維束2毎に、実施の形態1と同様に前段側から後段側に順次位置決めローラ11、前段側の回転ローラ7(7a,7b)、回転軸7c,7d、アーム9、バランスウェート14、ローラ駆動手段10の駆動プーリ16、従動プーリ17、ベルト18、支持ローラ12、回転ローラ8(8a,8b)、回転軸8d,8e、一方向回転クラッチ8cが設けられている。そして、支持ローラ12と回転ローラ8の間の繊維束2に当接するように縦振動緩和機構19の板ばね20、振動緩和用回転ローラ21、板ばねの固定端20aが設けられている。
アーム9が上下3列で左右2行になるように各々配置されている。左右のアーム9,9は同一の軸9aで回動自在に軸支されている。ローラ駆動手段10は、図12、図13に示すように、定速駆動の駆動モータ18を有し、駆動モータ18と上下3本の軸9aとをベルト57,58で連結している。この構成によれば、単一の定速駆動モータ18により6本の糸状部材2を一定張力で供給することができる。糸状部材2の本数は、6本以上でも可能であることは勿論である。
一定の張力が与えられて後段の回転ローラ8から送り出された繊維束2は、繊維束2の走行方向を横切る案内ローラ59により並列で等間隔に揃え直された後に、張力変動発生機構5のロッド24の先端に設けられた水平ロッド24aで、6本の繊維束2に同時に上下の振動が与えられる。これにより、同じ大きさの横振動とそれに伴う縦振動を全ての繊維束2に付与することができる。繊維束2の縦振動は、後段の流体通流開繊機構6で風洞26の開口25内に並列に送られた繊維束2に伝播し、前述したように開繊作用を促進する。開口25では、並列に並んだ繊維束2の最外側が規制部材30の面30aと当接させられて開繊シート全体の幅寸法と厚みを決めることができる。
実験によれば、流体通流開繊機構7の開口27の幅方向の寸法を320mm長くするだけで、実施の形態1と同じ繊維束2である炭素繊維束12Kの場合、幅320mm、厚み0.04mmの繊維シートを得ることができた。繊維束数が少なく高弾性率の炭素繊維束6Kを用いた場合、幅は幾分狭いけれども均一な幅と厚みの繊維シートに開繊することができた。
流体通流開繊機構7の後段側の駆動ローラ35により一定の速度で送り出される繊維シートは、ボビンやリールに巻き取る工程や、繊維シートに樹脂などのマトリクスを含浸させるプリプレグ加工工程を設置することができる。このように、複数の巻体3に対して糸状部材の供給装置4を採用した場合、一本の繊維束2に採用した上述の実施の形態1に加えて、以下の作用効果を奏することができる。
従来であれば、複数の巻体から繊維束をそれぞれ引出して走行させるのに、それぞれの繊維束毎に張力一定化用のダンサーロールを配設するとともに、ダンサーロールの高さ位置検出用のリミットセンサー、高価なサーボモータ及びモータの速度制御装置等が必要であった。これに対して、本発明は定速の安価な汎用モータを使用することができ、かつ高さセンサーやモータ速度制御装置が不要となるので、開繊装置全体としてのコストを削減できる。
また、複数の巻体3から繊維束2を引出す時に、各巻体3の巻装径が異なっていても、繊維束2毎にアーム9の揺動で一定の張力を与えて回転ローラ8から送り出すことができる。このことで、後段側において、繊維束2を並列に配設して同時に張力変動発生機構5の水平ロッド24aで付与する同一の横振動で同一の縦振動を発生させることができ、後段側での吸引気流で同レベルの開繊をすることが可能となる。これにより、開繊シートの幅と厚みを均一にした高品位の開繊シートを簡単低コストで製作することができる。