以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
図1は、本発明に係る開繊装置に関する概略平面図(図1A)及び概略側面図(図1B)である。この装置例では、繊維束Tmを給糸する給糸部1、給糸された繊維束Tmを案内する案内部2、搬送される繊維束Tmを開繊する開繊処理部3、搬送される繊維束Tmの一部を接触部材により押し込んで緊張状態とした後接触部材を離間させて一時的に弛緩させる変動動作を行う変動付与部4、及び、開繊された開繊糸シートTsを挟持して引き込む搬送部5を備えている。
長繊維を複数本集束した繊維束Tmは、ボビン形式の給糸体11に巻き付けられており、搬送部5により開繊糸シートTsが所定の搬送速度で引き込まれていくに伴い、給糸体11が回転して繊維束Tmが繰り出されていくようになっている。繰り出された繊維束Tmは、後述するように、案内部2の案内ロール21、開繊処理部3のガイドロール31及び変動付与部4のガイドロール41といった案内部材に案内されて搬送される。こうした案内部材により繊維束Tmの搬送経路が規定され、繊維束Tmを案内部材に張設した方向が搬送方向となる。この例では、搬送方向は、図1Bにおいて左右方向に直線状に設定される。繊維束Tmの実際の走行状態では、後述するように、一部の箇所では撓みながら走行するようになり、繊維束Tmの走行方向は、搬送方向に対して変動するようになる。また、搬送速度は、搬送部5により開繊糸シートTsを引き込む速度であり、後述するように、繊維束Tmの実際の走行速度は、変動付与部4の動作により局所的及び瞬間的に搬送速度よりも速くなったり遅くなったりして変動する。
繊維束Tmに用いられる繊維材料としては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの高強度繊維からなる強化繊維束、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性の合成繊維を引き揃えた熱可塑性樹脂繊維束等が挙げられる。繊維束の集束本数は、例えば、炭素繊維束では12000本から24000本が主に用いられるが、本発明では24000本を超える集束本数(例えば、48000本)の繊維束を用いることもできる。
給糸体11から繰り出される繊維束Tmは、案内部2の案内ロール21により所定方向の引き出し方向に向かって引き出されていく。
引き出された繊維束Tmは、搬送経路に配置された開繊処理部3を通過する。開繊処理部3は、搬送方向に配列された一対のガイドロール31により繊維束Tmを支持する。ガイドロール31の間には、風洞管32が設けられており、風洞管32の上方開口部がガイドロール31の間に所定幅で形成されている。風洞管32の下側には流量調整バルブ33及び吸気ポンプ34が取り付けられており、吸気ポンプ34を作動させて風洞管32内の空気を吸引することで、ガイドロール31の間の上方開口部において吸引による下降気流が発生する。そのため、この例では、ガイドロール31の間が流体の通過領域に設定されている。
ガイドロール31の間を搬送中の繊維束Tmに対して吸引気流が通過すると、繊維束Tmが気流の流速により撓んだ状態になる。撓んだ状態の繊維束Tmの繊維の間を気流が通り抜ける際に繊維を繊維束Tmの幅方向に移動させる力が働き、繊維束Tmが開繊されるようになる。こうした開繊作用は公知である。この例では、気流を用いて開繊処理を行っているが、水等の液体を流体として用いて開繊処理を行うこともできる。
風洞管32の上方開口部の両側には搬送方向に沿って一対のガイド部材35が取り付けられており、ガイドロール31の間を搬送中の繊維束Tmに吸引気流が通過することで開繊が行われる場合にガイド部材35により開繊幅が規定されるようになる。
ガイド部材35は、風洞管32の上方開口部を矩形状に形成して開口部の側壁をそのまま利用してもよい。また、風洞管32の内部に針金等を複数本立設してガイド部材として用いることもできる。
開繊された繊維束Tmは、搬送経路に配置された変動付与部4を通過する。変動付与部4は、搬送方向に配列された一対のガイドロール41により繊維束Tmを支持する。ガイドロール41の間には、接触部材42が配置されている。接触部材42は、搬送される繊維束Tmに対してガイドロール41とは反対側に配置されており、開繊された繊維束Tmの幅方向の全幅にわたって接触可能な長さに設定されている。図2は、接触部材42に関する外観斜視図である。接触部材42は、所定の厚みを有する板状体に形成されており、長手方向に設定される中心軸Oに沿って支持軸42bが両側に突設している。そして、中心軸Oと所定間隔を置いて平行に設定された両側端の辺部に一対の接触面42aが形成されている。接触面42aは、曲面状に形成されており、中心軸Oと直交する方向の切断面では円弧状に形成されている。
接触部材42の支持軸42bの一方は回動自在に軸支され、他方には駆動モータ43が接続固定されている。そして、駆動モータ43の駆動軸と接触部材42の中心軸が一致するように接続されている。駆動モータ43を回転駆動することで、接触部材42が中心軸を中心に回動するようになる。この場合、一対のガイドロール41に繊維束を張設した方向が搬送方向となり(図1Bでは左右方向)、接触部材42は、繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動するように回動していく。そのため、接触部材42の回動動作により、両側端の接触面42aが交互にガイドロール41の間で繊維束Tmを押し込んで緊張状態になるように作用する。
図3は、接触部材42の回動動作に関する説明図である。まず、接触部材42の接触面42aが繊維束Tmに接触していない状態では、繊維束Tmはガイドロール41により搬送方向に案内されて平面に近い状態(図では側面図のため直線状となる)で搬送される。この例では、繊維束Tmは左から右方向に向かって搬送方向に搬送されている。接触部材42は、反時計回りに回動しており、接触部材42の一方の接触面が繊維束Tmの上面に接触するようになる(図3(a))。図3(a)の状態から接触部材42がさらに回動して、接触面42aが繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動して繊維束Tmを押し込んでいく(図3(b))。繊維束Tmに接触面42aが接触する瞬間では、接触面42aの回動方向と繊維束Tmの実際の走行方向との間の角度は90度より小さい角度となっている。そのため、繊維束Tmに接触部材42が接触する瞬間のダメージを小さくすることができる。
この例では、接触部材42の回動速度は、接触面42aの先端部における周速度が繊維束Tmの実際の走行速度よりも大きくなるように設定されている。そのため、接触面42aは繊維束Tmに沿ってその表面をなでるように接触し、ずれながら回動するようになる。したがって、接触面42aは、繊維束Tmに対して接触しながら移動するようになる。その際に、繊維束Tmを押し込みながら回動するため、繊維束Tmが主に上流側から引き込まれるようになり、接触面42aの回動に伴う押し込みによりガイドロール41の間の繊維束Tmの長さがガイドロール41の間の間隔よりも長くなった緊張状態となる。
接触部材42の回動により接触面42aが繊維束Tmに対して次第に深く押し込まれていき、繊維束Tmを最も深く押し込んだ緊張状態となる(図3(c))。この状態では、ガイドロール41の間に押し込まれた繊維束Tmの長さが最も長くなる。繊維束Tmに対して接触面42aを接触させながら搬送方向と傾斜する方向に移動して繊維束Tmを最も深く押し込んだ状態となるまでに接触面42aは繊維束Tmに対してなでるように接触しながら回動しており、従来技術のように繊維束Tmに対して搬送方向と直交方向に接触部材を直線移動させる変動動作に比べて、繊維束Tmに接触する間に与えるダメージを格段に小さくすることができる。
繊維束Tmを最も深く押し込んだ緊張状態から接触部材42がさらに回動して接触面42aが上方に向かって回動するようになり、接触面42aが繊維束Tmから離間するようになる(図3(d))。すなわち、接触面42aの上下方向の上昇速度に対して繊維束Tmが押し込まれた状態から元の平面状態に戻る速度が遅い場合に、接触面42aは繊維束Tmから離間するようになる。
接触面42aが繊維束Tmから離間すると、繊維束Tmは押し込まれた状態から元の平面状態に戻ろうとするが、接触面42aが離間した瞬間、ガイドロール41の間の繊維束Tmは押し込まれた状態でガイドロール41の間の間隔よりも長い状態となっている。そのため、押し込まれた状態が解消するまで短時間の間繊維束Tmは一時的に弛緩した状態となる。
こうして生じた繊維束Tmの一時的な弛緩状態は、開繊処理部3で開繊される繊維束Tmの張力を一時的に低下させる。そのため、繊維束Tmに対して接触部材42を上述したような接触及び離間させる変動動作を繰り返すことで、接触部材42が繊維束Tmから離間した瞬間(繊維束Tmが弛緩した状態)のたびに、開繊処理部3の流体の通過領域において繊維束Tmが流体の通過方向に大きく撓むようになる。したがって、流体の通過による繊維束Tmの開繊処理を効率よく行うことができる。
このように、接触部材42の先端部の接触面42aのみを繊維束Tmに接触させて押し込んだ後接触部材42を繊維束Tmから離間させることで、接触部材42が離間した瞬間に開繊処理部3において繊維束Tmが大きく撓んで良好な開繊処理を行うことが可能となる。
開繊処理を高速化する場合、開繊処理部3において繊維束Tmの通過時間が短くなるため、開繊効率を高める必要がある。開繊処理部3では、繊維束Tmに流体が作用して撓んだ状態となっている時に繊維束Tmに加わる張力をなるべく低くすることで、開繊効率を高めることができる。
繊維束Tmの開繊処理部3における通過時間t(分)は、繊維束Tmの搬送速度をV(m/分)とし、開繊処理部3の風洞管の搬送方向の長さをW(m)とすれば、次の式で求められる。
t=W/V
そして、繊維束Tmの任意の箇所が開繊処理部3内を搬送される際に少なくとも1回の変動動作を受けて接触部材の接触面が繊維束Tmから離間する状態を作ることによって、繊維束Tmの任意の箇所の張力が低下して繊維束Tm全体がムラなく開繊処理されて開繊効率を高めることができる。繊維束Tmの任意の箇所が少なくとも1回の変動動作を受けるための変動動作の回数n(回/分)は、次の式で求められる。
n=1/t=V/W
したがって、繊維束Tmの搬送速度を大きくして開繊処理を高速化する場合、単位時間当りの変動動作の回数を増加させて開繊効率を高める必要がある。なお、繊維束Tmが複数の開繊処理部3を通過しながら搬送される場合には、繊維束Tmの任意の箇所がいずれかの開繊処理部3内を搬送中に少なくとも1回の変動動作を受けるようにすれば、繊維束Tm全体が満遍なく変動動作を受けながら開繊処理されるようになる。
本実施形態では、駆動モータ43による回転駆動により接触部材42を回動させるようにしているので、繊維束Tmの搬送速度を大きくする場合には接触部材42を高速で回動させて単位時間当りの変動動作の回数を増加させればよく、開繊処理の高速化にも容易に対応することができる。接触部材42を高速で回動させても繊維束Tmに接触する際に与えるダメージを小さくすることができ、安定した変動動作を行うことができる。
なお、図3(d)に示すように、一方の接触面42aが離間した後他方の接触面42aが繊維束Tmに接触するようになるが、接触部材42の回動速度が大きい場合に繊維束Tmが元の張設した状態に戻る前に接触面42aが接触するようになる。この場合でも繊維束Tmに対して接触面42aが接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動するようになるので、同様の変動動作を行うことができ、接触部材42の回動速度の高速化にも十分対応することが可能である。そして、接触部材42の接触面42aが繊維束Tmに接触する瞬間の接触面42aの移動方向と繊維束Tmの走行方向との間の角度は、繊維束Tmが張設した状態(図3(a))よりもさらに小さい角度となって、接触部材42が接触する瞬間に繊維束Tmに与えるダメージをさらに小さくする。
また、繊維束を開繊する幅を拡げる場合に、開繊幅に合わせて接触部材42の長さを長く設定する必要があるが、接触部材42の長さが長くなっても安定して変動動作を行うことが可能で、開繊処理の生産効率を向上させることができる。
そして、繊維束Tmに対して接触部材を接触させながら搬送方向と傾斜する方向に移動させるので、従来のような搬送方向と直交する方向に接触部材を直線移動させる変動動作の場合に比べて繊維束Tmに与える衝撃力が小さくなり、繊維束の繊維切れや蛇行が生じにくくなって高品質の繊維シートを得ることができる。すなわち、変動動作により開繊処理を効率よく行うためには、変動動作の際にガイドローラ41の間に引き込む繊維束Tmの量が重要となり、そのため、接触部材により繊維束Tmを押し込む深さを繊維束Tmの引き込み量に合わせて深くする必要がある。接触部材を搬送方向と傾斜する方向に移動させて所定の深さまで繊維束Tmを押し込む場合、接触部材を搬送方向と直交する方向に直線移動させて同じ深さまで押し込む場合に比べて繊維束Tmに与えるダメージを格段に小さくすることが可能で、変動動作を高速化した場合にその違いが顕著になる。
また、繊維束Tmに対して接触面42aを接触させながら移動させて繊維束Tmから離間するまでの間に繊維束Tmの表面をなでるように接触するため、繊維束Tmに接触する長さが、従来技術のように搬送方向と直交する方向に直線移動させる場合に比べて長く設定することができる。接触部材42が繊維束Tmに対して接触した状態では、接触面42aが繊維束Tmの表面に圧接し、繊維束Tm中の繊維が表面から浮き出ている場合等に繊維間に繊維を押し込んで繊維を均一に配列するように作用する。そのため、接触部材42の接触する繊維束の長さが長くなることで、繊維束Tmの繊維が引き揃えられて分散性を向上させることができる。
この場合、繊維束Tmに対して接触面42aが接触しながら移動する際に、少なくとも搬送方向と傾斜する方向に移動することで、繊維束Tmを少ないダメージで押し込むことができる。なお、「少なくとも搬送方向と傾斜する方向に移動する」とは、繊維束Tmを押し込む期間内の全ての期間又は一部の期間に接触面42aの移動方向が搬送方向と傾斜する方向になることを意味する。
なお、以上説明した例では、接触部材42が繊維束Tmに接触する瞬間に、繊維束Tmの走行方向と接触部材42の回動方向が同じ方向となっているが、接触部材42の回動方向が繊維束Tmの走行方向と反対方向になっていても繊維束Tmを一時的に弛緩状態とすることができる。接触部材42が繊維束Tmの走行方向とは反対方向に回動して接触する場合、繊維束Tmに対して接触部材42が接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動して繊維束Tmを押し込んでなでるように回動する。
繊維束は、通常複数本の繊維を集束してサイジング剤等で固着されており、サイジング剤等の性質及び付着量により繊維がばらけにくくなる場合がある。サイジング剤等の固着力を弱めるために繊維束を加熱する方法があるが、上述したように接触部材を繊維束に接触させてなでるように押し込むと、繊維束内で各繊維が強制的に移動して固着力を弱めることができる。特に、接触部材を繊維束の走行方向と反対方向に回動させてなでるように接触させると、繊維への接触抵抗が大きくなって固着力を弱める作用が大きくなり、繊維束がさらにばらけやすくなる。しかし、繊維束の走行方向と反対方向に接触部材を回動させて接触させると、繊維が切れたり毛羽立ちが生じやすくなるため、こうした繊維に対する影響が生じない程度に接触部材の回動速度を調整することが重要である。
また、接触部材42の形状は、接触面42aが繊維束Tmを押し込んでなでるように移動できる形状であればよく、特に限定されない。図4は、接触部材42の変形例に関する断面図である。図4(a)では、片側のみ接触面42aが形成されており、接触部材42が1回転する間に変動動作を1回行うことができる。図4(b)では、接触部材42の中心から3つの方向に突出部が形成され、各突出部の先端部にそれぞれ3つの接触面42aが等間隔で配置されており、接触部材42が1回転する間に変動動作を3回行うことができる。図4(c)では、接触部材42の中心から4つの方向に突出部が形成され、各突出部の先端部にそれぞれ4つの接触面42aが等間隔で配置されており、接触部材42が1回転する間に変動動作を4回行うことができる。図4(d)では、両側端の接触面42aが円弧状に膨出した形状に形成され、接触面42aの表面積が大きくなっている。この場合には、図1に示す接触部材42と同様に、接触部材42が1回転する間に変動動作を2回行うことができる。このように接触部材に1つ以上の接触面を形成して接触部材を取り付けた支持軸を回転させることで、接触面が繊維束を押し込むようになる。なお、接触部材42の接触面42aの部分を回転ローラのように摩擦抵抗の少ない可動部分で構成することもできる。
接触部材に形成される接触面は、上述した例のように等間隔に配置せずに不規則な間隔に配置することもできる。接触面の間の間隔が長くなるように設定されている場合には、接触面の離間している時間が長くなって開繊処理部での繊維束に加わる張力が低下して開繊効率が低下する。一方、接触面の間の間隔が短くなるように設定されている場合には、接触時間が長くなって繊維束の緊張状態が長くなり、繊維束の繊維同士を固着するサイズ剤の分離作用が大きくなって繊維の均一分散性を向上させる。したがって、接触部材の接触面の間隔を異ならせることで、開繊効率及び均一分散性を向上させながら両者を最適化することが可能となる。また、接触面を等間隔に配置した場合でも接触部材の回転速度を調整することで、接触面が繊維束に接触するタイミングを制御することができ、不規則な間隔に配置する場合と同様の効果を得られる。
上述した例では、接触面42aの断面形状が円弧状に形成されているが、円弧状以外の曲面形状に形成してもよく、特に限定されない。例えば、断面形状が楕円形状のように、繊維束Tmに密着してなでる際に繊維束Tmに与えるダメージを小さくできる形状であればよい。接触面42aは、繊維にダメージを与えないように、例えば、梨地メッキ処理加工されていることが望ましい。また、接触部材42の長手方向の断面では、接触面42aは直線状となっているが、繊維束Tmに接触可能な形状であれば直線以外でもよい。例えば、外側に向かって膨らんだ曲線状に形成してもよい。
また、上述した例では、接触部材42の接触面42aの繊維束Tmに対する移動動作は、駆動モータの回転駆動による回動動作であるが、繊維束Tmに対して接触部材を接触させながら少なくとも搬送方向と傾斜する方向に移動させて繊維束Tmを押し込むことができればよく、回動動作に限定されない。例えば、繊維束Tmの搬送方向に揺動するように接触部材42を往復動させながら繊維束Tmを押し込んで接触及び離間させるようにしてもよい。また、接触部材42が直進移動する場合でも、直進方向が搬送方向と傾斜する方向であれば、直進移動は、繊維束Tmを押し込む搬送方向と直交方向の移動と繊維束Tmに接触しながら移動する搬送方向の移動を含むものとなって、上述した回動動作と同様の作用効果を奏することができる。なお、繊維束Tmに対して接触部材42を接触させながら移動させる場合、接触部材42及び繊維束Tmが互いに接触して相対的に移動するように動作すればよい。
また、接触部材42を、図5に示すように、繊維束Tmの搬送方向Hに対して交差するように斜め方向に配置することで、接触面42aの回動方向が繊維束Tmに対して斜め方向になる。そのため、繊維束Tmを幅方向に拡げるように作用して開繊処理を促進するようになる。図5(a)では、1つの接触部材42を斜め方向に設定して繊維束Tmを幅方向の一方の側に拡げるように作用しているが、図5(b)に示すように、2つの接触部材42をそれぞれ異なる方向に設定することで、繊維束Tmを幅方向の両方の側に拡げるように作用するようになる。
以上説明したように、変動付与部4は、ガイドロール41のように変動付与領域を設定する設定手段と、繊維束Tmに接触する接触面が形成された接触部材と、駆動モータ43のように接触部材を移動させる駆動手段とを備え、搬送される繊維束Tmに対して接触部材を接触させながら少なくとも搬送方向と傾斜する方向に移動させて繊維束Tmの一部を押し込んで緊張状態とした後緊張状態の繊維束Tmから接触部材を離間させて繊維束Tmを一時的に弛緩状態とする変動動作を行う。
繊維束Tmは、開繊処理部3及び変動付与部4により開繊されて繊維が均一に分散した厚みの薄い繊維シートTsに形成される。繊維シートTsは、搬送部5の引取りロール51により挟持されて搬送される。引取りロール51は、引取りモータ52により回転駆動されて繊維シートTsを引き込んで搬送する。そのため、繊維束Tmの搬送速度は引取りモータ52の回転速度により調整することができる。引取りロール51により搬出された繊維シートTsは、図示せぬ巻取り装置により巻き取られるか、そのまま樹脂含浸装置等に搬入されてプリプレグシートに加工される。
図1では、変動付与部4を開繊処理部3と搬送部5との間の繊維束Tmの搬送経路に配置しているが、図6Aに示すように、開繊処理部3に対して搬送経路の上流側に配置することもできる。また、図6Bに示すように、開繊処理部3のガイドロール31の間に接触部材42を配置して変動動作を行うようにすることもできる。この場合、開繊処理部3の中に変動付与部が配置される。
なお、開繊処理部3では、流体の通過により繊維束Tmが撓んだ状態となっているが、搬送方向は一対のガイドロール31に繊維束Tmが張設した方向に設定されるため、接触部材42は、図1に示す例と同様に、繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動するようになる。そして、繊維束Tmが撓んで走行しているため、接触部材42の接触面42aが繊維束Tmに接触する瞬間では接触面42aは繊維束Tmの走行方向にほぼ沿うように接触し、繊維束Tmに接触ながら移動して繊維束Tmを押し込んで緊張状態とするようになり、接触部材42が繊維束Tmに接触する間には、ほとんどダメージを与えることがない。
図7は、開繊装置の変形例に関する概略側面図である。なお、図1に示す装置例と同一の部分については同一の符号を付しており、その部分の説明は省略する。この装置例では、開繊処理部3の風洞管32の上方開口部内に撓みロール36が設けられている。ガイドロール31の上側を通る繊維束Tmは、撓みロール36の下側を通るように搬送される。撓みロール36は、ガイドロール31よりも下方に位置決めされており、ガイドロール31の間を通過する繊維束Tmは撓みロール36により常に湾曲した状態に設定される。そのため、繊維束Tmが変動付与部4による変動動作で開繊処理の際に直線状になることがなく、繊維束の開繊幅が収縮するのを防止できる。
また、この装置例では、開繊処理部3に対応して熱風を繊維束Tmに吹き付けて加熱する加熱機構61が設けられている。開繊される繊維束Tmを加熱することで、繊維束Tmに付着したサイジング剤を軟化させることができる。そのため、繊維が容易に解きほぐされるようになり、開繊処理の際に繊維が均一に分散されるようになる。
図8は、開繊装置の別の変形例に関する概略側面図である。なお、図1に示す装置例と同一の部分については同一の符号を付しており、その部分の説明は省略する。この装置例では、開繊処理部3においてガイドロール31が3本設けられており、ガイドロール31の間にはそれぞれ撓みロール36及び接触部材42が設けられている。したがって、開繊処理部3では繊維束Tmが2回撓んだ状態に形成されて開繊が行われるとともに、接触部材42の回動による変動動作が行われて効率よく開繊が行われる。
図9は、開繊装置のさらに別の変形例に関する概略平面図(図9A)及び概略側面図(図9B)である。この装置例では、繊維束Tmの搬送経路に沿って3箇所に開繊処理部3が配置されている。各開繊処理部3に対応して加熱機構61が設けられている。上流側の2個所の開繊処理部3には、ガイドロール31の間に撓みロール36が配置されており、下流側の開繊処理部3には、ガイドロール31の間に接触部材42が配置されている。なお、この例では、隣接する開繊処理部3は所定間隔を置いて配置されているが、隣接する2つのガイドロール31を1つのガイドロール31で兼用することで、開繊処理部3を連続して配置することもできる。
風洞管32の上方開口部の両側には搬送方向に沿って一対のガイド部材35が取り付けられており、ガイドロール31の間を搬送中の繊維束Tmに吸引気流が通過することで開繊が行われる場合にガイド部材35により開繊幅が規定されるようになる。
ガイド部材35は、風洞管32の上方開口部を矩形状に形成して開口部の側壁をそのまま利用してもよい。また、風洞管32の内部に針金等を複数本立設してガイド部材として用いることもできる。
各開繊処理部3のガイド部材35により規定される開繊幅は、上流側から下流側にいくにしたがって順次幅広となるように設定されている。このように開繊幅を設定することで、繊維束Tmを徐々に開繊して拡げていくことができ、幅広で繊維が均一に分散した開繊処理を無理なく行うことができる。特に、太繊度の繊維束を開繊処理する場合には、複数個所に開繊処理部を設置して徐々に開繊幅を拡げていくことで、繊維分散性の優れた幅広の開繊処理を行うことができる。
図10は、開繊装置のさらに別の変形例に関する概略平面図(図10A)及び概略側面図(図10B)である。この装置例では、図9と同様に、繊維束Tmの搬送経路に沿って3箇所に開繊処理部3が配置されている。各開繊処理部3に対応して加熱機構61が設けられており、各開繊処理部3の開繊幅は、上流側から下流側にいくにしたがって順次幅広となるように設定されている。そして、各開繊処理部3には、ガイドロール31の間に接触部材42が配置されている。各開繊処理部3に対応して接触部材42を配置しているので、各開繊処理部3において繊維束Tmの十分な撓み量が確保される。
接触部材42の支持軸42bにはそれぞれ駆動プーリ44が固定されており、各駆動プーリ44は駆動伝達ベルト45を介して駆動モータ43と連結している。駆動モータ43を回転駆動することで、各駆動プーリ44が回転して接触部材42が同期して回動動作を行うようになる。このように、1つの駆動モータにより複数の接触部材を回動させることができるので、装置構成を簡略化して装置コストを軽減することが可能となる。
上述した装置例では、駆動伝達ベルトを用いているが、駆動伝達チェーンを用いてもよい。また、複数の接触部材を同期して回動させているが、接触部材の回動タイミングを異ならせることも容易に行うことができ、繊維束の種類、繊度、本数等の特性や開繊幅に応じて回動タイミングを調整して最適なタイミングで変動動作を行うことが可能となる。例えば、複数の接触部材をほぼ同時に繊維束に接触させながら押し込むことで、各開繊処理部で繊維束の十分な撓み量が確保できるが、繊維束の張力変動が大きくなって繊維切れ等が発生する場合がある。こうした場合には、接触部材の回動タイミングをずらすことで、繊維束の張力変動を抑えながら繊維束の撓み量を確保するように設定することができる。
図11は、本発明に係る開繊装置の別の実施形態に関する概略側面図(図11A)及び概略平面図(図11B)である。この装置例では、複数の繊維束Tmを並行して開繊することで複数の繊維シートTsを同時に形成することができる。
この例では、給糸体11に給糸モータ12が取り付けられており、給糸モータ12を回転駆動することで給糸体11からの繰り出し量を調整することができる。給糸体11から繰り出される繊維束Tmは、所定位置に回転可能に支持された案内ロール21により所定方向の引き出し方向に向かって引き出されていく。引き出された繊維束Tmは、送りロール22及び支持ロール23に挟持されて所定の送り量で送給される。繊維束Tmの送り量は、送りロール22を回転させる送給モータ24の回転動作を制御して調整される。
送りロール22により送給された繊維束Tmは、繊維束Tmの搬送方向に所定間隔を空けて配列された一対の支持ロール25に支持されて搬送される。支持ロール25の間には、張力安定ロール26が昇降可能に設けられており、繊維束Tmは支持ロール25の上側から張力安定ロール26の下側に回り込むようにセットされる。そして、支持ロール25の間を通過する繊維束Tmの長さが変化するとそれに対応して張力安定ロール26が昇降するようになる。張力安定ロール26の昇降動作は、上限位置検知センサ27及び下限位置検知センサ28により検知される。
張力安定ロール26が上昇して上限位置検知センサ27が張力安定ロール26を検知すると、繊維束Tmの送り量を増加させ、また、張力安定ロール26が下降して下限位置検知センサ28が張力安定ロール26を検知すると、繊維束Tmの送り量を減少させている。
こうして、上限位置検知センサ27及び下限位置検知センサ28からの検知信号に基づいて張力安定ロール26が所定範囲に位置するように繊維束Tmの送り量を調整して、繊維束Tmの張力を張力安定ロール26の自重で安定させるようにしている。
張力安定ロール26の下流側において、繊維束Tmの振動を減少する機構として、一対の支持ロール201及びテンションロール202が設けられている。テンションロール202は、一対の支持ロール201の間に配列されて、支持ロール201の下側を通る繊維束Tmがテンションロール202の上側を通るように設定されている。そして、テンションロール202を上方に移動するように付勢する付勢部材203が設けられており、テンションロール202が上方に付勢されている。こうした構成で変動付与部により生じる繊維束Tmの振動を減少するようにしている。
支持ロール201の下流側には、ニップロール204が設けられており、繊維束Tmはニップロール204に挟持されて開繊部に搬送されていく。ニップロール204は、図示せぬ一方向クラッチが取り付けられており、繊維束Tmを送り出す方向のみ回転し引き戻す方向には回転しないようになっている。
各給糸体11から繰り出された繊維束Tmは、所定の張力が付与され、それぞれニップロール204を通って送り出されて案内ロール205により整列ロール206に向かって搬送される。整列ロール206は、搬送された複数の繊維束Tmを同一平面に等間隔に配列されるように整列して複数の繊維束Tmを搬出する。
所定範囲の張力に設定された繊維束Tmは、搬送方向に配列された複数の開繊処理部を通過する。各開繊処理部は、搬送方向に配列された一対のガイドロール31により繊維束Tmを支持する。ガイドロール31の間には、風洞管32が設けられており、風洞管32の上方開口部がガイドロール31の間に所定幅で形成されている。風洞管32の下側には流量調整バルブ33及び吸気ポンプ34が取り付けられており、吸気ポンプ34を作動させて風洞管32内の空気を吸引することで、ガイドロール31の間の上方開口部において吸引による下降気流が発生する。
ガイドロール31の間を搬送中の繊維束Tmに対して吸引気流が通過すると、繊維束Tmが気流の流速により撓んだ状態になる。撓んだ状態の繊維束Tmの繊維の間を気流が通り抜ける際に繊維を繊維束Tmの幅方向に移動させる力が働き、繊維束Tmが開繊されるようになる。こうした開繊作用は公知である。
開繊処理部の下流側には、変動付与部が配置されている。変動付与部では、搬送方向に配列された一対のガイドロール41により開繊された複数の繊維束Tmを全幅にわたって支持する。ガイドロール41の間には、接触部材42が配置されている。接触部材42は、搬送される繊維束Tmに対してガイドロール41とは反対側に配置されており、開繊された複数の繊維束Tmの全幅にわたって接触可能な長さに設定されている。接触部材42は、図1において説明した接触部材と同様の形状に形成されて両側端に一対の接触面を備えている。そして、駆動モータ43の回転駆動により回動し、接触部材42の一対の接触面が交互に繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動し、繊維束Tmの表面をなでるように回動して繊維束Tmをガイドロール41の間に押し込んで緊張状態にする。接触面がさらに上方に向かって回動して緊張状態の繊維束Tmから接触面が離間する瞬間に繊維束Tmが一時的に弛緩した状態となる。その際に、開繊処理部における繊維束Tmが流体の通過方向に大きく撓んだ状態となって、開繊処理の効率を向上させることができる。
繊維束Tmは、変動付与部による変動動作を繰り返し受けながら開繊処理部により複数回にわたり開繊されて、繊維が均一に分散した厚みの薄い繊維シートTsに形成される。繊維シートTsは、引取りロール51により挟持されて搬送される。引取りロール51は、引取りモータ52により回転駆動されて繊維シートTsを引き込んで繊維シートTsを搬送する。引取りロール51により搬出された繊維シートTsは、図示せぬ巻取り装置により巻き取られるか、そのまま樹脂含浸装置等に搬入されてプリプレグシートに加工される。
図12は、接触部材42に関する斜視図である。接触部材42は、繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向と傾斜する方向に移動して押し込む接触部42c及び開繊された繊維束Tmを所定幅に設定する幅規制部42dを備えている。図13は、接触部材42の一部に関する分解斜視図である。接触部42cは、図1において説明した接触部材と同様の形状に形成されており、両側端に一対の接触面が形成されている。幅規制部42dは、所定の厚みを有する円板状に形成されており、支持軸42bに沿う方向に接触部42cの両側に接するように配置されている。
接触部材42が支持軸42bを中心に回動した場合、繊維束Tmは、両側を幅規制部42dにより規制されながら搬送され、搬送中に接触部42cにより変動動作を繰り返し受けるようになる。
図14は、本発明に係る開繊装置の別の実施形態に関する概略側面図(図14A)及び概略平面図(図14B)である。なお、図11に示す装置例と同一の部分については同一の符号を付しており、その部分の説明は省略する。
この装置例では、搬出された複数の繊維束Tmは、図11に示す装置例と同様に3つの開繊処理部において開繊されるが、最下流側の開繊処理部は複数の繊維束Tmを一括して開繊が行われるように全幅にわたって上方開口部が形成されている。また、上流側の2つの開繊処理部には、ガイドロール31の間に撓みロール36が配置されており、最下流側の開繊処理部には、ガイドロール31の間に接触部材42が配置されている。
上流側の2つの開繊処理部では、風洞管32の上方開口部の両側には搬送方向に沿って一対のガイド部材35が取り付けられており、図9において説明したように、2つの開繊処理部のガイド部材35により規定される開繊幅は、上流側から下流側にいくにしたがって順次幅広となるように設定されている。このように開繊幅を設定することで、繊維束Tmを徐々に開繊して拡げていくことができ、幅広で繊維が均一に分散した開繊処理を無理なく行うことができる。
こうして開繊処理された繊維束は、最下流側の開繊処理部において一括して接触部材42による変動動作を受けるようになる。各開繊処理部に対応して加熱機構61が設けられており、開繊処理される繊維束を加熱して繊維が容易に解きほぐされるようにしている。
開繊処理部の下流側には、繊維シートTsの繊維に対して幅方向に摺接する幅方向変動付与部が設けられている。幅方向変動付与部は、繊維シートTsの上側に全幅にわたって配列された一対のボウバー(bow bar)71を有し、繊維シートTsの下側に支持ロール72が配列されている。ボウバー71はクランク機構74に連結されており、クランク機構74をクランクモータ73により駆動することで、ボウバー71を繊維シートTsの幅方向に進退移動させる。ボウバー71が進退移動して繊維シートTsの繊維に摺接することで、繊維同士が付着した部分を柔かく解きほぐして繊維シートTs全体を繊維が均一に分散した一枚のシート状態に仕上げることができる。
幅方向に変動処理された繊維シートTsは、引取りロール51により挟持されて搬送される。引取りロール51は、引取りモータ52により回転駆動されて繊維シートTsを引き込んで繊維シートTsを搬送する。引取りロール51により搬出された繊維シートTsは、図示せぬ巻取り装置により巻き取られるか、そのまま樹脂含浸装置等に搬入されてプリプレグシートに加工される。
図15は、図14に示す開繊装置の変形例に関する概略側面図(図15A)及び概略平面図(図15B)である。なお、図14に示す装置例と同一の部分については同一の符号を付しており、その部分の説明は省略する。
この装置例では、3つの開繊処理部において、ガイドロール31の間にそれぞれ接触部材421、422及び423が配置されている。各接触部材は、図10に示す装置例と同様に駆動伝達ベルト424を介して駆動モータ43に連結されており、駆動モータ43の回転駆動により同期して回動するようになっている。
最上流側の開繊処理部に配置された接触部材421は、接触部421cの間に幅広の幅規制部421dが配設されており、次の開繊処理部に配置された接触部材422は、接触部422cの間に幅狭の幅規制部422dが配設されている。そのため、繊維束Tmの開繊幅は、図14に示す装置例と同様に上流側から下流側にいくにしたがって順次幅広になるように設定されている。
各開繊処理部において接触部材により変動付与することで、開繊処理を効率よく行うことができる。また、最下流側の開繊処理部では、一括して接触部材による変動動作を受けた後幅方向変動付与部による変動動作を受けて幅方向に一体化した繊維シートTsに仕上げることができる。
[実施例1]
図6に示すように開繊処理部に接触部材を配置して、図7に示す加熱機構を設けた装置構成で実施した。繊維束として、炭素繊維束(三菱レイヨン株式会社製、パイロフィルTR50S-15K;繊維直径約7μm、集束本数15000本)を使用した。繊維束の元幅は約6mmであった。
開繊処理部における装置構成は、図16に示す寸法を以下の通り設定した。
接触部材42;長さL1=30mm、幅W1=12mm
接触面42a;断面形状の曲率半径R1=6mm
ガイドロール31;外径R2=12mm
風洞管32;搬送方向の長さW2=30mm
接触部材42の中心軸Oとガイドロール31の最上点との間の高低差D1=3mm
接触部材42の中心軸Oとガイドロール31の中心軸との間の間隔D2=21mm
ガイドロール31の中心軸の間の間隔D3=42mm
接触面42aの回動時の最下点とガイドロール31の最上点との間の高低差D4=12mm
加熱機構による加熱温度は100℃に設定し、風洞管32の吸引空気流の流速は、繊維束のない状態で20m/秒とした。風洞管32の開繊幅は24mmに設定した。繊維束の初期張力を150gに設定し、搬送速度30m/分で搬送した。接触部材の回転数は、800rpmに設定し、毎分1600回の変動動作を行うようにした。この場合、風洞管32の繊維束の通過時間は、30mm/30m=0.001分となり、変動動作の回数を1000回/分以上に設定することで、繊維束全体をムラなく開繊処理することができる。
ここで、開繊された繊維束の幅及び厚さの測定は、開繊された繊維束を力の加わっていない自然状態にして測定する。開繊幅は最小1mmまで測定できる長さ計を用いて測定し、厚さはJIS B 7502(国際規格ISO 3611に対応)に規定する最小表示量0.001mmの外側マイクロメータによって測定する。
開繊糸シートの幅及び厚さの測定は、開繊の連続安定性を確認するため複数箇所を測定し、この例では1mおきに10箇所の測定を行う。なお、厚さについては、測定する箇所において幅方向の一端から他端までを外側マイクロメータによって測定し、幅方向の厚さのばらつきを測定する。例えば、開繊糸シート幅を外側マイクロメータの測定面直径で除した値(割り切れない場合は小数点下1桁を切り上げた値)aを用いて、測定する箇所の幅方向の一端から他端までを値aで均等に分割した間隔で測定位置を設定して厚さを測定する。
以上のように設定して開繊処理を行ったところ、繊維束は均一に分散した繊維シートに仕上げることができた。開繊の連続性を確認するため、1m毎に10箇所で開繊幅及び厚みの測定を行った。開繊幅は22mm〜24mmの範囲にあり、平均開繊幅は約23.5mmであった。平均開繊幅に対し、−6.4%〜2.1%のばらつきがあった。厚さは0.032mm〜0.040mmの範囲にあり、平均厚さは0.035mmであった。平均厚さに対し、−0.003mm〜0.005mmのばらつきがあった。
[実施例2]
図9A及び図9Bに示す開繊装置で、最も上流側の風洞管32及び撓みロール36を取り外し、上流側に風洞管32及び撓みロール36を有する第1開繊処理部及び下流側に風洞管32及び接触部材42を有する第2開繊処理部を備えた装置を用いた。実施例1と同様に炭素繊維束を使用し、第1開繊処理部は、実施例1と同様の風洞管を使用して開繊幅を24mmに設定し、搬送方向の中央(風洞管の搬送方向の長さの中心でガイドロール31と同一の高さの位置)に撓みロール(外径12mm)を配置した。第2開繊処理部は、実施例1と同様のものを使用して開繊幅を48mmに設定した。第1開繊処理部と第2開繊処理部との間の間隔を30mmに設定した。
加熱温度、風洞管の空気流の流速、繊維束の初期張力及び搬送速度、接触部材の回転数は実施例1と同一の値に設定して開繊処理を行った。
以上のように設定して開繊処理を行ったところ、繊維束は均一に分散した繊維シートに仕上げることができた。開繊の連続性を確認するため、1m毎に10箇所で開繊幅及び厚みの測定を行った。開繊幅は44mm〜48mmの範囲にあり、平均開繊幅は約46.5mmであった。平均開繊幅に対し、−5.4%〜3.2%のばらつきがあった。厚さは0.020mm〜0.028mmの範囲にあり、平均厚さは0.023mmであった。平均厚さに対し、−0.003mm〜0.005mmのばらつきがあった。
[実施例3]
図10A及び図10Bに示す開繊装置で、上流側から第1開繊処理部、第2開繊処理部及び第3開繊処理部とし、各開繊処理部は実施例1と同様のものを用いた。開繊幅は、第1開繊処理部が40mm幅、第2開繊処理部が60mm幅、第3開繊処理部が80mm幅に設定し、各開繊処理部の間の間隔を50mmに設定した。繊維束として、炭素繊維束(SGL社製、繊維直径約7μm、集束本数50000本)を使用した。繊維束の元幅は約15mmであった。
加熱温度風洞管の空気流の流速及び繊維束の初期張力を実施例と同一の値に設定し、搬送速度を20m/分、接触部材の回転数を700rpmに設定して毎分1400回の変動動作を行うようにした。この場合、風洞管の繊維束の通過時間は、30mm/20m=0.0015分となり、変動動作の回数を667回/分以上に設定することで、繊維束全体をムラなく開繊処理することができる。なお、第1〜第3開繊処理部に設置された接触部材は同期させた回転を行った。
以上のように設定して開繊処理を行ったところ、繊維束は均一に分散した繊維シートに仕上げることができた。開繊の連続性を確認するため、1m毎に10箇所で開繊幅及び厚みの測定を行った。開繊幅は72mm〜80mmの範囲にあり、平均開繊幅は約77.5mmであった。平均開繊幅に対し、−7.1%〜3.2%のばらつきがあった。厚さは0.031mm〜0.043mmの範囲にあり、平均厚さは0.038mmであった。平均厚さに対し、−0.007mm〜0.005mmのばらつきがあった。
[実施例4]
図15A及び図15Bに示す開繊装置で、2つの開繊処理部を配置し、上流側から第1開繊処理部及び第2開繊処理部とし、各開繊処理部は実施例1と同様のものを用いた。開繊幅は、第1開繊処理部の接触部材の幅が20mm、第2開繊処理部の接触部材の幅が40mmに設定し、2つの開繊処理部の間の間隔を50mmに設定した。第2開繊処理部の接触部材の回動動作は、第1開繊処理部の接触部材の回動動作に対して45度だけ回動角度が遅れるように設定した。また、第1開繊処理部の接触部材は、図12に示す構造のものを用い、接触部42cの幅は20mm、幅規制部42dの幅は20mmとした。幅方向変動付与部では、外径25mmのボウバーをストローク5mm、振動回数500rpmで変動動作させた。繊維束として、炭素繊維束(東レ株式会社製;トレカT700SC−24K、繊維直径約7μm、集束本数24000本)を8本使用した。繊維束の元幅は約12mmであった。
加熱温度、風洞管の空気流の流速、繊維束の初期張力は実施例1と同一の値に設定し、繊維束の搬送速度を20m/分、接触部材の回転数を800rpmに設定して毎分1600回の変動動作を行うようにした。
以上のように設定して開繊処理を行ったところ、繊維束は均一に分散した幅320mmの繊維シートに仕上げることができた。開繊の連続性を確認するため、8本中1本の繊維シートを取り出し、1m毎に10箇所で開繊幅及び厚みの測定を行った。開繊幅は36mm〜42mmの範囲にあり、平均開繊幅は約39.5mmであった。平均開繊幅に対し、−8.9%〜6.3%のばらつきがあった。厚さは0.032mm〜0.040mmの範囲にあり、平均厚さは0.037mmであった。平均厚さに対し、−0.005mm〜0.003mmのばらつきがあった。