JP4360696B2 - バクテリアを用いた硫化銅鉱からの銅浸出方法 - Google Patents

バクテリアを用いた硫化銅鉱からの銅浸出方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、バクテリアを用いた硫化銅鉱の浸出方法に関する、更に詳細にはバクテリアを含む浸出液中の酸化還元電位を一定域に保つことにより銅の浸出速度の向上を図る浸出方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
低品位鉱石から有価金属を回収する場合、経済的見地から対象鉱物を酸等により浸出して回収する方法を採用することが一般的である。浸出にはインシチュリーチング法(in-site leaching )、ヒープリーチング法(heap leaching )、バットリーチング法(vat leaching)、撹拌リーチング法(agitation leaching)等があり、対象鉱に対し適切であり、最も経済的であると考えられる方法が採用される。インシチュリーチング法は採掘跡あるいは鉱床中に直接浸出液を散布する方法である。ダンプリーチング法(dump leaching )あるいはヒープリーチング法は採掘鉱を粉砕後、浸出液と混合・撹拌して浸出する方法である。低品位銅鉱の浸出処理ではダンプリーチング法やヒープリーチング法を採用するこことが一般的である。この場合酸化銅鉱の硫酸浸出のでは浸出日数が1〜2ケ月で約90%の銅浸出率を得ることができる。しかし、硫化銅鉱では浸出日数1年で初生銅鉱(黄銅鉱等)では銅浸出率は30%以下であり、二次硫化銅鉱(輝銅鉱、銅藍)では40%程度であり、低浸出速度のため経済的な処理ができない。
【0003】
このため、硫化銅鉱浸出に関して、バクテリアを用いる方法が採用されている。バクテリア浸出に用いられるバクテリア種はTiobacillusferrooxidans(鉄酸化細菌)、Tiobacillus tiooxidans(硫黄酸化細菌)等が知られている。各種バクテリア種にも地域性があり、鉱種により特定の場所で採取したバクテリアのみが有効である場合が多い。バクテリアによる銅鉱物の浸出原理には直接浸出および間接浸出の2機構が存在すると考えられている。直接浸出はバクテリアが直接銅鉱の酸化に寄与するものである((1)式参照)。間接浸出はバクテリアが鉱石中の黄鉄鉱等の鉄源を酸化して3価の鉄イオンを生成し、この3価鉄イオンが銅浸出に寄与して3価の鉄イオンは銅浸出後に2価の鉄イオンに還元され、この2価の鉄イオンはバクテリアにより再び3価の鉄イオンに酸化されることにより浸出サイクルが繰返される((2)、(3)式参照)。実際には両者を区別して考えることは困難で同時進行的に作用しているものと考えられている。
【0004】
なお、直接浸出(輝銅鉱)の場合は以下の反応式によって表すことができる。
【0005】
【数1】
Figure 0004360696
また、間接浸出(輝銅鉱)の場合は以下の式によって表すことができる。
【0006】
【数2】
Figure 0004360696
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記バクテリアを使用する従来方法では初生銅鉱の浸出率向上はさほど顕著ではないという問題がある。これらの浸出条件の適正値は鉱種、鉱物の形状、保存状態、母岩の性状、自然環境等により異なるという問題がある。その他に、バクテリアによる銅鉱石浸出方法にかかわる主要因は、バクテリア数、浸出温度、浸出pH、浸出液量、酸素供給量がある。
【0008】
このため、本発明の目的は、上記問題を鑑みてなされたものであり、現在採用されている硫化銅鉱のバクテリア浸出法に関する銅浸出速度に関与する要因を検証し、さらに浸出速度を高める方法を提供することを課題としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述した課題について主に、輝銅鉱を含有する鉱石を用い鋭意研究した結果、発明した結果、発明者らは次のような方法を開発した。
【0010】
請求項1に記載の発明は、バクテリアを用いた輝銅鉱の酸性浸出液による浸出方法において、前記酸性浸出液には浸出貴液から銅を回収した後液を繰り返し使用し、後液の酸化還元電位を測定し、後液に酸化剤を添加することにより、酸性浸出液の銀−塩化銀電極を基準とする酸化還元電位を550〜750mVに調整した、鉄濃度が5g/L以上であって、3価鉄と2価鉄の比率(Fe 3+ /Fe 2+ )が50以上の酸性浸出液により浸出し、酸性浸出液中には鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌の双方又はいずれか一方のバクテリア数を10 個/mL以上含むことを特徴とする銅浸出方法である。
【0011】
更に、請求項2に記載の発明は、前記酸性浸出液に鉄イオンを含む溶液または鉄粉を添加することを特徴とする請求項1に記載の銅浸出方法であり、請求項3に記載の発明は、前記酸性浸出液中のバクテリアは、鉱石中に含まれる鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌の双方又はいずれか一方のバクテリアを利用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅浸出方法である。
【0015】
本発明は、銅浸出に利用する鉄(Fe)イオンによってほぼ支配される酸化還元電位及びバクテリア濃度を積極的に制御することによって目的金属Cuの浸出時間を短縮することを可能にする方法を提供するものである。
【0016】
本発明は上記構成にすることによって以下のように作用する。鉄酸化細菌はFe2+をFe3+に酸化し、一方硫黄酸化細菌はS、H2 S等を酸化すると同時にFe2+をFe3+に酸化する。両バクテリアともこの酸化によって生命維持のエネルギーを得ている。この酸性浸出液中のFe3+を利用して銅のイオン化を促進することを可能にすることができる。また、銅が溶液に溶出するためには溶液の酸化還元電位を高くする必要がある。酸化還元電位は溶出のための駆動力となるものである。この時、Fe3+/Fe2+比率と酸性浸出液の酸化還元電位との間は次の(4)式によって概ね表すことができる。
【0017】
【数3】
Figure 0004360696
E:酸化還元電位
a:イオン濃度
不純物である他のイオンの影響を除いて考えると、酸化還元電位はFe3+/Fe2+比率に支配されるためこの比率を高めることが重要になる。従って、酸性浸出液中のFe3+量を多くし、更にFe3+/Fe2+比率を高く保つことにより銅の浸出を促進することができる。このためバクテリアによる酸化及び積極的に酸化剤を添加することにより、Fe3+量と酸化還元電位を制御することによりFe3+/Fe2+比率を一定に保つことを可能にするものである。
【0018】
本発明で使用される酸性浸出液は、硫酸、硝酸、塩酸を使用することができる。しかし、銅鉱石中に硫黄が含まれるため硫酸浸出が特に好ましい。また、バクテリヤとしては、鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌等を用いる。両バクテリアとも一般に鉱山の廃液等の環境下で成育している独立栄養細菌であり、ATCC(American Type Culture Collection)に登録されている。また、鉱内水中に成育するバクテリアを培養して使用することができる。これによって、特定鉱種に有効なバクテリヤを利用できるからである。バクテリアは銅の浸出によって生じた酸性浸出液中のFe2+をFe3+に酸化して反応に関与するFe3+をその場で増加させることによって酸化還元電位を一定値に保ち銅浸出を促進するものである。一方、酸性浸出液中のFe3+は銅鉱石中のCuを酸化してCu2+にして酸性浸出液中に溶出させる。この時、CuはFe3+を還元してFe2+とする還元剤として作用する。この循環により銅浸出工程が遂行される。
【0019】
また、酸性浸出液中に酸素、空気を取り入れてもよい。バクテリアの活性化を図ることができ、また浸出の反応に必要な酸素を供給するためである。空気の他に純酸素、オゾン等を流してもよい。
【0020】
更に、上記以外に酸化剤を適宜使用することができる。酸化剤としては、酸化窒素、過酸化水素水、過マンガン酸カリウム、空気、オゾン等を挙げることができるが、状況に応じた経済性を考慮して酸化剤を選択することが望ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の銅浸出方法について図1を参照して具体的に説明する。
【0022】
硫化銅鉱石2を充填したカラム装置(円筒)1の上部から酸性浸出液を散布する。酸性浸出液は硫化銅鉱石2を浸出しながらカラム装置1の下部までながれ浸出液受槽3に溜められる。酸性浸出液は一部はセメンテーションによって沈殿銅として回収され、また一部は定量ポンプ4により電位調整槽5に移送される。ここで、酸性浸出液の調整を行った後定量ポンプ4により再度カラム装置1に散布される。なお、酸性浸出液の流れは矢印によって示されている。このとき、充填する硫化銅鉱石2の粒度が小さい場合は前もって団鉱化処理を施すことができる。これによって浸出開始後の酸性浸出液の詰まり、短絡を防止することができる。さらに、この処置を施すことで酸性浸出液はカラム装置1内の硫化銅鉱石2中を均一に流すことができる。
【0023】
この硫化銅鉱石2を充填したカラム装置1内に酸性浸出液をカラム装置1の断面積及び時間当たり10〜20Lになるように定容量ポンプ4等を用いて流す。このとき、酸性浸出液は硫化銅鉱石2の断面に均一に散布する。散布された酸性浸出液はカラム装置1内の鉱石2中を銅を浸出しながら流れ、カラム装置1の最下部から流出する。次いで、流出した液を浸出液受槽3に受ける。また、電位調整槽5中の酸性浸出液の酸化還元電位を測定し、この電位が550〜750mV(AgCl)に達していない場合は、必要に応じて酸化剤を添加し液の酸化還元電位を調整する。浸出に用いる酸性浸出液は、硫酸による酸性の液である。硫酸濃度10g/L程度(pH1〜2)が好ましく、鉄濃度は5〜10g/L程度が好ましい。温度は20〜30℃程度が好ましい。また、カラム装置1の外側に微細孔を開けて銅浸出の反応中のカラム装置1内に空気を取り入れることができる。
【0024】
また、酸性浸出液を浸出液受槽3で一定量をサンプリングし、硫酸(H2 SO4 )、鉄(Fe3+、Fe2+)、銅(Cu2+)、また、酸性浸出液の酸化還元電位およびpHを同時に測定して分析した。分析後の酸性浸出液の酸化還元電位は電位調整槽に酸化剤として試薬過酸化水素水(30%溶液)を添加すること等によってコントロールを行い所定の性能に維持した。
【0025】
ここで用いるバクテリアは鉄酸化細菌を主とした鉱内水を9K培地で培養し、培養液を遠心分離器で濃縮した後、更に鉄イオン(Fe2+)のない9K培地に目的金属の含有した鉱石を混合して増殖した細菌を徐々に鉱石に慣らしながら増殖後所定の濃度にした。なお、鉱内水は少なくとも鉄(Fe)を含む鉱山の廃液、好ましくは対象鉱石の鉱山排水が望ましい。バクテリアの濃度は血球計算盤に所定量のサンプル液を取り、液中のバクテリア数を顕微鏡下で数え、全体のバクテリア数に換算した。
【0026】
【実施例】
次に表1により本発明の実施例、比較例の説明をする。
【0027】
(実施例1)
輝銅鉱を主とした鉱石中の銅品位4.78%の硫化銅鉱石2を図1に示すカラム装置1に充填し、浸出液として硫酸濃度10g/L、Fe3+濃度5g/Lとし、バクテリア濃度108 個/mLになるように添加して酸性浸出液とした。次に、この酸性浸出液を定量ポンプ4によりカラム装置1断面積当たり10L/m2 ・hrでカラム装置1内に散布した。カラム装置1に散布された酸性浸出液はカラム装置1最下部から流出し、これを浸出後に浸出液受槽3に回収し一定量サンプリングし、硫酸、鉄、銅の分析を行った。また、実施中は前記酸性浸出液の酸化還元電位、及びpHを測定した。前記酸性浸出液の酸化還元電位は酸化剤の添加によるコントロールを行い、600mVとなるように調整した。用いた酸化剤は試薬過酸化水素水(30%溶液)である。
【0028】
なお、酸化剤を添加し酸化還元電位の調整を行うことにより酸性浸出液中の鉄はほとんど全量Fe3+になった。
【0029】
(比較例1)従来の方法で、酸性浸出液としては硫酸濃度5g/Lとし、酸化還元電位の調整は行わなかった以外は実施例1と同様にした。
【0030】
(比較例2)鉄を添加せず、更に酸化還元電位の調整を行わなかった以外は実施例1と同様にした。
【0031】
酸化還元電位の調整を行わなかったため、ほとんど全量Fe2+であった。
【0032】
本発明の実施例1は比較例1と比較し短い日数で高い銅の浸出率が得られた。また、比較例2と比べても銅浸出率が高いことがわかる。
【0033】
また、図2〜図5にて実施例1と比較例1の銅浸出日数に対する状況を説明する。浸出日数と銅浸出率の関係を図2に示す。
【0034】
従来の方法では浸出日数213日で銅浸出率84.5%であるが本発明法によると浸出日数68日で銅浸出率88〜91%になった。浸出日数および銅浸出率を向上させることができた。
【0035】
また、この時の浸出液後液の電位の変化について同様に浸出日数と電位の関係を図3に示す。
【0036】
当初、浸出後の後液であり電位が低くなっているが、これは銅浸出によってFe2+が増加しているためである。初期段階の設定した酸化還元電位と定常状態の差が大きいことによって急激に銅が浸出されていることが解る。これによって、初期の段階から液の酸化還元電位を550〜750mV(AgCl)に調整維持することで通常の鉄酸化細菌による浸出よりも浸出期間が短くなることがわかる。
【0037】
また、図4に示すように本発明法による浸出では液中のFe3+/Fe2+比率も早期に上昇しており、鉄酸化細菌によって未反応のFe3+が増加していることがわかる。このFe3+/Fe2+比率が50倍以上になっていれば、図2と併せて考察すると銅浸出が維持されていることが解る。
【0038】
また、図5の様に浸出中のバクテリア濃度について本発明法と従来法を比較すると浸出後に急激に変化するものではなく、当初から一定濃度が必要なことが解る。従って、浸出液中に106個/mL以上を維持すれば良いことがわかる。
【0039】
【表1】
Figure 0004360696
実施例1と比較例1、2を比較することによって明らかに本発明である実施例1による銅浸出は浸出率が増加し、浸出日数が減少していることがわかる。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の輝銅鉱のバクテリア浸出法に比べ、浸出日数の大幅な短縮が可能となる。この浸出日数を低減し、さらには粗鉱中に混入する初生硫化銅鉱の浸出率を向上させることができ、これにより浸出設備の建設費低減および操業費の低減が可能となるとともに対象鉱量の増加が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に伴う処理工程図を示す模式図である。
【図2】浸出日数と銅浸出率を示すグラフである。
【図3】浸出日数と液酸化還元電位(AgCl)の変化を示すグラフである。
【図4】浸出日数と鉄イオンの比率(Fe3+/Fe2+比率)の変化を示すグラフである。
【図5】浸出日数とバクテリア濃度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 カラム装置
2 硫化銅鉱石
3 浸出液受槽
4 定量ポンプ
5 電位調整槽

Claims (3)

  1. バクテリアを用いた輝銅鉱の酸性浸出液による浸出方法において、前記酸性浸出液には浸出貴液から銅を回収した後液を繰り返し使用し、後液の酸化還元電位を測定し、後液に酸化剤を添加することにより、酸性浸出液の銀−塩化銀電極を基準とする酸化還元電位を550〜750mVに調整した、鉄濃度が5g/L以上であって、3価鉄と2価鉄の比率(Fe 3+ /Fe 2+ )が50以上の酸性浸出液により浸出し、酸性浸出液中には鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌の双方又はいずれか一方のバクテリア数を10 個/mL以上含むことを特徴とする銅浸出方法。
  2. 前記酸性浸出液に鉄イオンを含む溶液または鉄粉を添加することを特徴とする請求項1に記載の銅浸出方法。
  3. 前記酸性浸出液中のバクテリアは、鉱石中に含まれる鉄酸化細菌及び硫黄酸化細菌の双方又はいずれか一方のバクテリアを利用することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅浸出方法。
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