以下、本発明の一実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る車両の操舵装置を概略的に示している。
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を前記運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離したステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端には減速機構を内蔵した反力発生用の操舵反力用電動モータ13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、操舵ハンドル11の操舵操作に対して反力を付与する。
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置されたラックバー21を備えている。このラックバー21の両端部には、タイロッド22a,22bおよびナックルアーム23a,23bを介して、左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、ラックバー21の軸線方向の変位により左右に転舵される。ラックバー21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた第1転舵用電動モータ24および第2転舵用電動モータ25が設けられている。第1転舵用電動モータ24および第2転舵用電動モータ25の回転は、それぞれねじ送り機構26,27により減速されるとともにラックバー21の軸線方向の変位に変換される。
また、転舵装置20は、第3転舵用電動モータ31も有している。この第3転舵用電動モータ31の回転は、減速ギヤ32を介してピニオンギヤ33に伝達される。ピニオンギヤ33はラックバー21に設けたラック歯21aに噛み合っており、第3転舵用電動モータ31の回転によりラックバー21が軸線方向に変位する。これらの第1ないし第3転舵用電動モータ24、25,31は駆動電流に比例した回転トルクをそれぞれ発生するもので、同じ大きさの駆動電流を流すことにより左右前輪FW1,FW2に対してほぼ同じ転舵力を付与するように構成されている。
次に、操舵反力用電動モータ13および第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の回転を制御する電気制御装置40について説明する。電気制御装置40は、操舵角センサ41、軸力センサ42、および第1ないし第3回転角センサ43,44,45を備えている。操舵角センサ41は、操舵入力軸12に組み付けられて、操舵ハンドル11の中立位置からの回転角を検出してハンドル操舵角θhとして出力する。なお、ハンドル操舵角θhは、中立位置を「0」とし、右方向の角度を正の値で、左方向の角度を負の値で表す。軸力センサ42は、ラックバー21に組み付けられて、左右前輪FW1,FW2の転舵時にラックバー21に作用する軸力Fを検出して出力する。なお、この軸力Fは、左右前輪FW1,FW2を右方向に転舵する際に作用する軸力を正で表し、左右前輪FW1,FW2を左方向に転舵する際に作用する軸力を負で表す。第1ないし第3回転角センサ43,44,45は、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31にそれぞれ組み付けられ、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の基準位置からの第1ないし第3回転角θm1,θm2,θm3をそれぞれ検出する。なお、これらの第1ないし第3回転角θm1,θm2,θm3も、中立位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵に対応した方向の回転角を正の値で、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵に対応した方向の回転角を負の値で表す。
また、電気制御装置40は、操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)46および第1ないし第3転舵用電子制御ユニット(以下、第1ないし第3転舵用ECUという)47,48,49を備えている。操舵反力用ECU46には、操舵角センサ41が接続されている。第1転舵用ECU47には、操舵角センサ41、軸力センサ42および第1回転角センサ43が接続されている。第2転舵用ECU48には、操舵角センサ41、軸力センサ42および第2回転角センサ44が接続されている。第3転舵用ECU48には、操舵角センサ41、軸力センサ42および第3回転角センサ45が接続されている。
これらのECU46〜49は、それぞれCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とする。操舵反力用ECU46は、ROMに記憶した図2の操舵反力制御プログラムを実行して、駆動回路51を介して操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。第1ないし第3転舵用ECU47〜49は、ROMに記憶した図3〜図5の第1ないし第3転舵制御プログラムをそれぞれ実行して、駆動回路52〜54を介して第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31をそれぞれ駆動制御する。
駆動回路51〜54は、ECU46〜49によりそれぞれ制御されて、電動モータ13,24,25,31を駆動制御する。これらの駆動回路51〜54内には、電動モータ13,24,25,31に流れる駆動電流ih,i1,i2,i3をそれぞれ検出する駆動電流センサ51a〜54aがそれぞれ設けられていて、駆動電流センサ51a〜54aによって検出された駆動電流ih,i1,i2,i3はECU46〜49にそれぞれ供給される。
次に、上記のように構成した実施形態の動作を説明する。イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により、操舵反力用ECU46は、図2の操舵反力制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。この操舵反力プログラムの実行はステップS10にて開始され、操舵反力用ECU46は、ステップS11にて操舵角センサ41によって検出されたハンドル操舵角θhを入力する。
次に、操舵反力用ECU46は、目標操舵反力テーブルを参照して、前記入力したハンドル操舵角θhに対応する目標操舵反力を計算する。この目標操舵反力テーブルは、図6に示すように、ハンドル操舵角θhの増加に従って増加する目標操舵反力を記憶している。なお、目標操舵反力テーブルを用いるのに代えて、ハンドル操舵角θhと目標操舵反力との関係を予め定めた関数を用意しておいて、同関数を用いて前記入力したハンドル操舵角θhに対応する目標操舵反力を計算するようにしてもよい。また、車速センサ、ヨーレートセンサ、横加速度センサなどを設けて、前記各センサによって検出された車速、ヨーレート、横加速度などに応じて前記計算した目標操舵反力を補正してもよい。
前記目標操舵反力の計算後、操舵反力用ECU46は、ステップS13にて、駆動回路51との協働により、駆動電流センサ51aによって検出された駆動電流ihをフィードバックして、前記目標操舵反力に対応した駆動電流を操舵反力用電動モータ13に流す。そして、ステップS14にて、この操舵反力制御プログラムの実行を一旦終了する。操舵反力用電動モータ13は操舵入力軸12を介して操舵ハンドル11に前記計算した目標操舵反力に等しい操舵反力を付与する。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して、操舵ハンドル11の操舵角θに応じた反力トルクが付与され、運転者は、この操舵反力を感じながら、操舵ハンドル11を回動操作できる。
一方、第1転舵用ECU47は、前記操舵反力制御プログラムの実行に並行して、図3の第1転舵制御プログラムの実行を所定の短時間ごとに繰り返し実行する。第1転舵制御プログラムの実行は図3のステップS20にて開始され、第1転舵用ECU47は、ステップS21にて、操舵角センサ41および回転角センサ43によって検出されたハンドル操舵角θhおよびモータ回転角θm1をそれぞれ入力する。
次に、第1転舵用ECU47は、ステップS22にて、モータ回転角θm1に比例定数を乗算することにより、モータ回転角θm1に対応して比例変化する左右前輪FW1,FW2の実転舵角δ1を計算する。そして、第1転舵用ECU47は、ステップS23にて前記入力したハンドル操舵角θhおよび前記計算した実転舵角δ1をそれぞれ時間微分して、操舵角速度θv1(=dθh/dt)および転舵角速度δv1(=dδ1/dt)をそれぞれ計算する。なお、これらの操舵角速度θv1および転舵角速度δv1の演算処理においては、前回の第1転舵制御プログラムの実行時に入力されたハンドル操舵角θvおよび前回の第1転舵制御プログラムの実行時に計算された実転舵角δ1も利用される。
前記ステップS23の処理後、第1転舵用ECU47は、ステップS24,S25にて、操舵角速度θv1および転舵角速度δv1が所定の正の微小値ΔθvおよびΔδv以上であるかを判定する。これらのステップS24,S25の判定処理は、操舵ハンドル11の回動操作が停止し、かつ左右前輪FW1,FW2の転舵が停止している場合には、操舵角速度θv1および転舵角速度δv1が共にほぼ「0」になることに鑑み、左右前輪FW1,FW2の転舵(すなわち転舵角の変更)が停止しているか、言い換えれば操舵ハンドル11が中立位置に維持またはある舵角に保舵されているかを判定するものである。
いま、左右前輪FW1,FW2の転舵が停止していなければ、操舵角速度θv1が微小値Δθv以上であり、または転舵角速度δv1が微小値Δδv以上であり、第1転舵用ECU47はステップS24またはS25にて「Yes」と判定して、プログラムをステップS26以降に進める。ステップS26においては、中断フラグSTFを“0”に設定する。この中断フラグSTFは、“1”により後述する駆動電流の減少制御中であることを表し、“0”によりその他の状態を表す。
このステップS26の処理後、第1転舵用ECU47は、ステップS27にて、ROM内に予め用意された目標転舵角テーブルを参照して、前記入力したハンドル操舵角θhに対応する目標転舵角δ*を計算する。この目標転舵角テーブルは、図7に示すように、ハンドル操舵角θhの増加に従って増加する目標転舵角δ*を記憶している。なお、目標転舵角テーブルを用いるのに代えて、ハンドル操舵角θhと目標転舵角δ*との関係を予め定めた関数を用意しておいて、同関数を用いて前記入力したハンドル操舵角θhに対応する目標転舵角δ*を計算するようにしてもよい。また、車速、ヨーレート、横加速度などに応じて前記計算した目標転舵角δ*を補正するようにしてもよい。
前記目標転舵角δ*の計算後、第1転舵用ECU47は、ステップS28にて、駆動回路52との協働により、駆動電流センサ52aによって検出された駆動電流i1をフィードバックして、目標転舵角δ*から実転舵角δ1を減算した差分値δ*−δ1に比例した駆動電流Ic(=k・(δ*−δ1))を第1転舵用電動モータ24に流す。なお、kは、予め決められた比例定数である。そして、ステップS37にて、この第1転舵制御プログラムの実行を一旦終了する。これにより、第1転舵用電動モータ24は前記差分値δ*−δ1が「0」となるように駆動制御され、その回転により、ねじ送り機構26を介してラックバー21を軸線方向に駆動する。そして、ラックバー21の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*に向かって転舵される。その結果、左右前輪FW1,FW2は、操舵ハンドル11の回動操作に応じて転舵され、車両は左右に旋回される。
一方、第2転舵用ECU48も、前記操舵反力制御プログラムの実行に並行して、図4の第2転舵制御プログラムの実行を所定の短時間ごとにそれぞれ繰り返し実行する。第2転舵制御プログラムの実行は図4のステップS40にて開始され、第2転舵用ECR48は、上記図3のステップS21〜28と同様な図4のステップS41〜S48の処理により、操舵ハンドル11の回動操作に応じて左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵制御する。
ただし、この場合には、ステップS41の処理により、回転角センサ43によって検出された第1転舵用電動モータ24の回転角θm1に代えて、回転角センサ44によって検出された第2転舵用電動モータ25の回転角θm2が入力される。そして、ステップS42,S43の処理により、この回転角θm2を用いて、上記実転舵角δ1および転舵角速度δv1に代わる実転舵角δ2および転舵角速度δv2(=dδ2/dt)が計算されるとともに、操舵角速度θv2(=dθh/dt)も上記操舵角速度θv1とは独立して計算される。また、ステップS44,S45,S48の処理においては、操舵角速度θv2、転舵角速度δv2および実転舵角δ2を用いて演算処理が実行され、第2転舵用電動モータ25には駆動電流Ic(=k・(δ*−δ2))が流される。さらに、ステップS46の処理によって、“0”に設定される中断フラグSTFも前記図3の中断フラグSTFとは独立している。
さらに、第3転舵用ECU48も、前記操舵反力制御プログラムの実行に並行して、図5の第3転舵制御プログラムの実行を所定の短時間ごとにそれぞれ繰り返し実行する。第3転舵制御プログラムの実行は図4のステップS60にて開始され、第3転舵用ECR49は、上記図3のステップS21,S22,S27,S28と同様な図5のステップS61〜S64の処理により、操舵ハンドル11の回動操作に応じて左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵制御する。そして、ステップS65にて、この第3転舵制御プログラムの実行を終了する。
ただし、この場合には、ステップS61の処理により、回転角センサ43によって検出された第1転舵用電動モータ24の回転角θm1に代えて、回転角センサ45によって検出された第3転舵用電動モータ31の回転角θm3が入力される。そして、ステップS62の処理により、この回転角θm3を用いて、上記実転舵角δ1に代わる実転舵角δ3が計算される。また、ステップS64の処理においては、実転舵角δ3を用いて演算処理が実行され、第3転舵用電動モータ31には駆動電流Ic(=k・(δ*−δ3))が流される。
このような第1ないし第3転舵制御プログラムの実行により、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31は、ほぼ均等な回転トルクにより共同して左右前輪FW1,FW2を転舵制御し、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵制御する。この左右前輪FW1,FW2の転舵制御時には、ラックバー21に作用する第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31による力F1,F2,F3に、左右前輪FW1,FW2にて入力されてナックルアーム23a,23bおよび対ロッド22a,22bを介してラックバー21に加わる外力Foutを加えた4つの力F1,F2,F3,Foutが下記式1の関係を満足した状態で、左右前輪FW1,FW2の転舵は目標転舵角δ*の極近傍で停止する。
F1+F2+F3+F4=0 …式1
しかし、第1ないし第3電動モータ24,25,31のモータ回転角θm1,θm2,θm3に基づいて第1ないし第3転舵用ECR47〜49によってそれぞれ独立して計算される実転舵角δ1,δ2、δ3は、ほぼ一致するが、電動モータ24,25,31および回転角センサ43,44,45の組付け誤差、第1ないし第3転舵用ECR47〜49の演算誤差などにより僅かに異なる値を示す。このため、ラックバー21に作用する第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31による力F1,F2,F3が対抗した状態で、左右前輪FW1,FW2の転舵が停止されていることがある。
この現象を具体例を上げて説明する。図9(A)は、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*(目標位置)の近傍まで転舵された状態で、ラックバー21に作用する第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31による力F1,F2,F3が、F1=+2kN,F2=+3kN、F3=−4kNであり、外力FoutがFout=−1kである場合を示している。なお、これらの力F1,F2,F3,Foutは、正の値により左右前輪FW1,FW2を右方向に転舵しようとする力を表し、負の値により左右前輪FW1,FW2を左方向の転舵しようとする力を表す。また、M1,M2,M3は、第1ないし第3転舵制御プログラムにて計算されている第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の実転舵角δ1,δ2,δ3に対応している。
このように左右前輪FW1,FW2の転舵が停止している状態は、前述のように、第1転舵用ECU47による図3のステップS24,S25の処理により検出されるとともに、第2転舵用ECU48による図4のステップS44,S45の処理により検出される。すなわち、この左右前輪FW1,FW2の転舵停止状態では、第1転舵用ECU47は、ステップS24,25にてそれぞれ「No」と判定して、プログラムをステップS29以降に進める。ステップS29においては、前記ステップS26の処理によって“0”に設定されている中断フラグSTFに基づいて「No」と判定される。そして、第1転舵用ECU47は、ステップS30にて軸力センサ42から検出軸力Fを入力し、ステップS31にて軸力Fの絶対値|F|に比例する1つの電動モータ当たりの正のモータ電流Ioを計算する。そして、ステップS32にて、中断フラグSTFを“1”に設定しておくとともに、左右前輪FW1,FW2の転舵停止開始時の実転舵角δ1を停止時転舵角δ10として設定しておく。
このモータ電流Ioは軸力Fとの関係において定められており、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31に同じ大きさのモータ電流Ioを同じ方向にそれぞれ流した場合に、ラックバー21に軸力Fが作用するように定められている。すなわち、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31は同じ出力特性に設計されているので、図8に示すように、軸力Fを得るために必要な第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の同一方向の転舵のための駆動電流の合計電流の3分の1が、1つの電動モータ当たりのモータ電流Ioとなるように定められている。したがって、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31がラックバー21に作用する外力Foutに対して同一方向に駆動力を発生していることを想定すれば、このモータ電流Ioは、軸力Fが発生しているときに、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31に流れている最小電流に相当することが理解できる。そして、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*の極近傍まで転舵された状態では、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31は前述のように互い対抗した方向にラックバー21を駆動することがあるので、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31のいずれかにはモータ電流Ioよりも大きな駆動電流が流れているのが通常である。
前記ステップS32の処理後、第1転舵用ECU47は、ステップS33にて、前回の第1転舵制御プログラムの実行時のステップS28の処理によって計算した駆動電流Ic(=k・(δ*−δ1))が前記モータ電流Ioに所定の正の微小値ΔIoを加算した値Io+ΔIo以上であるかを判定する。なお、ここで微小値ΔIoを加算する理由は、前述のように、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*の極近傍まで転舵された状態では、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31のいずれかにモータ電流Ioよりも大きな駆動電流が流れていることを考慮したものである。
そして、駆動電流Ic(=k・(δ*−δ1))が前記加算値Io+ΔIo以上であれば、第1転舵用ECU47は、ステップS33にて「Yes」と判定し、プログラムをステップS34に進める。ステップS34においては、実転舵角δ1と停止時転舵角δ10との差|δ1−δ10|が所定量Δδ以下であるかを判定する。そして、前記差|δ1−δ10|が所定量Δδ以下であれば、第1転舵用ECU47は、ステップS34にて「Yes」と判定し、プログラムをステップS35に進める。
ステップS35においては、第1転舵用ECU47は、前記駆動電流Icを下記式2を用いて更新する。
Ic=Ic−sign(Ic)・ΔIc …式2
なお、関数sign(x)は、変数xが負であるとき「−1」となり、変数xが「0」でるあるとき「0」となり、変数xが正であるとき「1」となる関数である。また、ΔIcは所定の正の微小値である。この式2の演算により、駆動電流Icが正であれば、駆動電流Icは駆動電流値Ic−ΔIcに更新される。また、駆動電流Icが負であれば、駆動電流Icは駆動電流値Ic+ΔIcに更新される。したがって、駆動電流Icの絶対値|Ic|は減少制御される。
このステップS35の処理後、第1転舵用ECU47は、ステップS36にて、駆動回路52との協働により、駆動電流センサ52aによって検出された駆動電流i1をフィードバックして、前記更新した駆動電流Icを第1転舵用電動モータ24に流す。そして、ステップS37にてこの第1転舵制御プログラムの実行を終了する。
次に、第1転舵制御プログラムが実行された場合も、左右前輪FW1,FW2がほぼ転舵停止状態にあって、操舵角速度θv1が微小値Δθv未満、かつ転舵角速度δv1が微小値Δδv未満である限り、ステップS24,25における共に「No」との判定のもとにステップS29以降の処理が実行される。しかし、中断フラグSTFは前回のステップS32の処理により“1”に設定されているので、以降、第1転舵用ECU47は、ステップS29にて「Yes」と判定して、プログラムをステップS33に直接進める。これにより、1モータ当たりのモータ電流Ioは、前回のステップS31の処理によって計算された値に維持される。そして、前回のステップS35の処理によって更新された駆動電流Icが前記加算値Io+ΔIo以上であり、制御後の実転舵角δと停止時転舵角δ10との差|δ−δ10|が所定量Δδ以下である限り、ステップS33,S34にてそれぞれ「Yes」と判定され、ステップS35,S36の処理により、第1転舵用電動モータ24の駆動電流Icの絶対値|Ic|が微小値ΔIcずつ徐々に減少制御されるとともに、同更新された駆動電流Icが第1転舵用電動モータ24に流される。
一方、この状態では、第2転舵用ECU48も、ステップS44,45にて「No」とそれぞれ判定して、前記ステップS29〜S36の処理と同様なステップS49〜S56の処理により、第2転舵用電動モータ25の駆動電流Icの絶対値|Ic|が微小値ΔIcずつ徐々に減少制御されるとともに、同更新された駆動電流Icが第2転舵用電動モータ25に流される。ただし、この場合には、前記ステップS48の処理によって計算された駆動電流Icの絶対値|Ic|が微小値ΔIcずつ徐々に減少制御される。
このような第1および第2転舵用ECU47,48による駆動電流Icの減少制御によって第1および第2電動モータ24,25に流れる駆動電流i1,i2が減少すると、第1および第2電動モータ24,25によるラックバー21を軸線方向に駆動しようとする力F1,F2が変化する。この変化により、前述した第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31によるラックバー21の駆動力F1,F2,F3およびラックバー21に対して作用する外力Foutのバランスが崩れて、左右前輪FW1,FW2の転舵角も極僅かに変化する。このとき、第3転舵用ECU49は、前述した図5のステップS60〜S65からなる第3転舵制御プログラムを繰り返し実行し続けており、目標転舵角δ*と実転舵角δとの差δ*―δに比例した駆動電流Ic(=k・(δ*―δ3))を第3電動モータ31に流している。したがって、前記力F1,F2,F3,Foutのバランスが崩れてラックバー21が極僅かに変位すると、第3転舵用ECU49が第3電動モータ31に流れる駆動電流Icを自動的に変更して、前記力F1,F2,F3,Foutのバランスが取れた位置で、左右前輪FW1,FW2の転舵を停止する。これにより、左右前輪FW1,FW2は、これらの力F1,F2,F3,Foutのバランスの取れる位置まで極僅かに転舵される。
このことを、具体例をあげて説明する。左右前輪FW1,FW2の転舵が停止したとき、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の実転舵角δ1,δ2,δ3が図9(A)のM1,M2,M3であったとする。そして、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流の減少制御により、第1および第2転舵用電動モータ24,25がラックバー21に付与する力F1、F2は1kNずつ減少制御されて、それぞれ+1kN,+2kNになったとする。このとき、外力Foutは−1kNであるので、力のバランス上、第3転舵用電動モータ31がラックバー21に付与する力F3は−2kNになる。そして、第3転舵用電動モータ31は、目標転舵角δ*と実転舵角δ3の差分値に比例する駆動電流k・(δ*−δ3)で駆動制御されるので、ラックバー21は左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵に対応した方向に変位し、第3転舵用電動モータ31の実転舵角δ3は図9(B)のM3の位置まで移動する。これにより、第1および第2転舵用電動モータ24,25の実転舵角δ1,δ2は図9(B)のM1,M2の位置まで移動する。
そして、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流の減少制御により、第1および第2転舵用電動モータ24,25の各駆動電流Icの絶対値|Ic|が加算値Io+ΔIo未満になるか、または制御後の実転舵角δと停止時転舵角δ10との差|δ−δ10|が所定量Δδよりも大きくなると、第1転舵用ECU47はステップS33またはS34にて「No」と判定し、ステップS35,S36の処理を実行しなくなる。また、第2転舵用ECU48は、ステップS53またはS54にて「No」と判定し、ステップS55,S56の処理を実行しなくなる。
一方、このような第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流の減少制御中、操舵ハンドル11が回動操作され、または外力により左右前輪FW1,FW2の転舵角が変化すると、前記図3のステップS23にて計算される操舵角速度θv1の絶対値|θv1|または転舵角速度δv1の絶対値|δv1|が大きくなる。したがって、第1転舵用ECU47は、ステップS24またはS25にて「Yes」と判定して、ステップS27,S28の処理によりハンドル操舵角θhに応じた左右前輪FW1,FW2の転舵を再開する。また、前記図4のステップS43にて計算される操舵角速度θv2の絶対値|θv2|または転舵角速度δv2の絶対値|δv2|も大きくなる。したがって、第2転舵用ECU48は、ステップS44またはS45にて「Yes」と判定して、ステップS47,S48の処理によりハンドル操舵角θhに応じた左右前輪FW1,FW2の転舵を再開する。第3転舵用ECU49は、前述した図5の転舵制御プログラムを繰り返し実行し続けて、操舵ハンドル11の回動操作に応じて左右前輪FW1,FW2を転舵し続ける。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、上記ステップS27,S28,S47,S48,S63,S64の目標転舵角δ*と実転舵角δ1,δ2,δ3の差に応じた駆動電流Icによる転舵制御により、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*の極近傍まで転舵され、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31による転舵力および左右前輪FW1,FW2から入力される外力が釣り合った状態になって左右前輪FW1,FW2の転舵が停止する。この停止状態がステップS23〜S25,S43〜S45の処理によって検出されると、前記ステップS27,S28,S47,S48による第1および第2転舵用電動モータ24,25の転舵制御が中断され、ステップS29〜S36,S49〜S56の処理により、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流Icがそれぞれ減少制御される。一方、第3転舵用電動モータ31は、前述したステップS63,64の目標転舵角δ*と実転舵角δ3の差に応じた駆動電流Icによる転舵制御を続行している。そして、第3転舵用電動モータ31には、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31の転舵力および外力が釣り合うような駆動電流が流されるようになるので、第3転舵用電動モータ31の駆動電流も減少し、無駄な電力消費をなくすことができる。特に、このような制御は、第1ないし第3転舵用ECU46〜48が、情報交換を互いに行わずに、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31をそれぞれ独立に作動制御している場合に有効である。
また、上記実施形態においては、ステップS33,S34,S53,S54の処理により、前記減少制御された第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流Icの絶対値|Ic|が微小値Io+ΔIo未満になったこと、または左右前輪FW1,FW2の実転舵角δ1,δ2の変化の絶対値|δ1−δ10|,|δ2−δ20|が微小転舵角Δδよりも大きくなったことが検出される。そして、これらの検出がなされるまで、ステップS35,S36,S55,S56の処理により、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流Icが時間経過に従って徐々に微小値ΔIcずつ減少制御される。その結果、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流Icおよび左右前輪FW1,FW2の実転舵角δ1,δ2を確認しながら、第1および第2転舵用電動モータ24,25の駆動電流Icが減少制御されるので、最終的に第1および第2転舵用電動モータ24,25に流れる駆動電流Icの大きさを適当な値に制御できる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
上記実施形態においては、第1および第2転舵用電動モータ24,25について駆動電流Icの減少制御処理を行い、第3転舵用電動モータ31について駆動電流Icの減少制御処理を行わないようにした。しかし、これに代えて、第1および第3転舵用電動モータ24,31または第2および第3転舵用電動モータ25,31について駆動電流Icの減少制御処理を行い、残りの1つの電動モータについては駆動電流Icの減少制御処理を行わないようにしてもよい。さらに、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31のうちのいずれか1つの電動モータについて駆動電流Icの減少制御処理を行い、残りの2つの電動モータについては駆動電流Icの減少制御処理を行わないようにしてもよい。これらの場合、駆動電流Icの減少制御処理を行う電動モータの作動を、図3の第1転舵制御プログラムおよび図4の第2転舵制御プログラムと同様な転舵制御プログラムにより制御すればよい。また、駆動電流Icの減少制御処理を行わない電動モータの作動を、図5の第3転舵制御プログラムと同様な転舵制御プログラムにより制御すればよい。
また、上記実施形態では、第1ないし第3転舵用電動モータ24,25,31を用いて左右前輪FW1,FW2を転舵制御するステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置に本発明を適用した。しかし、2以上の電動モータによって左右前輪FW1,FW2を転舵制御するステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置であれば、本発明は適用される。例えば、2つの電動モータによって左右前輪FW1,FW2を転舵制御するステアバイワイヤ方式の車両の操舵装置にも、本発明は適用される。この場合、いずれか一方の電動モータの作動を図3の第1転舵制御プログラムおよび図4の第2転舵制御プログラムと同様な転舵制御プログラムにより制御して、同電動モータの駆動電流Icの減少制御を行うようにする。そして、他方の電動モータの作動を、図5の第3転舵制御プログラムと同様な転舵制御プログラムにより制御して、駆動電流Icの減少制御処理を行わないようにすればよい。
さらに、上記実施形態においては、車両を操舵するために回動操作される操舵ハンドル11を用いるようにした。しかし、これに代えて、例えば、直線的に変位するジョイスティックタイプの操舵ハンドルを用いてもよいし、その他、運転者によって操作されるとともに車両に対する操舵を指示できるものであれば、いかなるものを用いてもよい。
FW1,FW2…前輪、10…操舵操作装置、11…操舵ハンドル、13…操舵反力用電動モータ、20…転舵装置、21…ラックバー、24,25,31…転舵用電動モータ、41…操舵角センサ、42…軸力センサ、43〜45…回転角センサ、46…操舵反力用ECU、47〜49…転舵用ECU。