本発明は、内燃機関のオイル循環装置であって、特にオイルポンプによってクランク室に溜まったエンジンオイルを吸引してオイルタンクに強制的に送給し、別に設けられた吐出ポンプによりオイルタンク内のエンジンオイルを内燃機関内に圧送して供給するドライサンプ方式の内燃機関のオイル循環装置に関する。
このドライサンプ方式の内燃機関のオイル循環装置は、エンジン内の各摺動部の潤滑に用いられた後にクランク室底部のオイルパンに溜まったエンジンオイルを、オイルポンプで吸引してクランク室外に別設置されたオイルタンクへ排出する。そして、このオイルタンクにエンジンオイルを一時的に貯留し、その後に別の吐出ポンプによって、オイルタンク内のエンジンオイルをエンジン内の各摺動部に再度供給する。
このようなドライサンプ方式のオイル循環装置を採用すれば、オイルパンに溜まったエンジンオイルの量を減らすことができるので、クランク軸などの回転部分(以下「クランク軸など」という)とオイルパンに溜まったエンジンオイルとの接触が抑制でき、オイルミストも少なくなる。従って、これらエンジンオイルあるいはオイルとクランク軸などとの接触抵抗による内燃機関の出力損失を抑えることができる。
しかし、このようなドライサンプ方式のオイル循環装置を採用したとしても、車輌の加減速時には、クランク室内のオイルの流れが不規則になり、オイルミストが多く発生し、このオイルとクランク軸などとの接触抵抗による内燃機関の出力損失が増加する可能性がある。これに対して車輌の加減速時には、オイルポンプのオイル吸引排出能力を高める技術などが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
しかし、クランク室に溜まったエンジンオイル及びオイルとクランク軸などとの接触抵抗により内燃機関の出力損失が増加することは、上記の車輌の加減速時以外にも考えられ、車輌の加減速にのみ対応してオイル吸引排出能力を高めるのでは、車輌の多様な運転状況に対応して内燃機関の出力損失を最低限に抑えることはできない。
特開平6−42325号公報
特開平6−346712号公報
本発明の目的とするところは、クランク室に溜まったエンジンオイルとクランク軸などが接触することを抑制でき、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大することを抑制できる技術を提供することである。
上記目的を達成するための本発明は、車輌の加減速以外の種々の車輌の状態、例えばクランク室に溜まったエンジンオイルの液面の状態に基づいて前記オイルポンプによるエンジンオイル吸引量を制御することを最大の特徴とする。
より詳しくは、内燃機関のクランク室に溜まったエンジンオイルを吸引して循環させるオイルポンプと、前記クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の状態を推定する液面状態推定手段と、前記液面状態推定手段が検出したオイル液面の状態に基づいて前記オイルポンプによるオイル吸引量を制御する吸引制御手段と、を備えることを特徴とする
すなわち、内燃機関のクランク室に溜まったエンジンオイルの液面の状態を推定する液面状態推定手段を備え、エンジンオイルがクランク室内のクランク軸などに接触するおそれがある液面状態であると推定された場合に、前記オイルポンプによるオイル吸引量を増加し、クランク室に溜まったエンジンオイルを吸引してエンジンオイルの液面を下げる。このことによりエンジンオイルがクランク軸などに接触することを防止し、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大することを抑制できる。
また、これによれば、前記オイルポンプのオイル吸引量を、必要な時にだけ増加するので、燃費が向上するとともにエネルギーの無駄を抑制することができる。
例えば、本発明においては、前記液面状態推定手段は、前記クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の前記クランク室に対する傾きを推定し、前記吸引制御手段は、推定された前記エンジンオイルの液面の傾きが所定値より大きくなるときに、前記オイルポンプの回転数を上昇させるとよい。
ここで、前記クランク室に溜まったエンジンオイルの液面が前記クランク室に対して大きく傾くと、クランク室内の液面の片側の高さが上昇し、それとは逆側の高さは下降することになる。従って、液面の高さが上昇した部位においてエンジンオイルとクランク軸などの接触が生じ、内燃機関の出力損失が増加するおそれが生じる。また、エンジンオイルの液面の傾きが極端に大きく傾いた場合には、液面の高さが下降する側において、前記クランク室の底面が露出し、前記オイルポンプによりエンジンオイルを吸引する吸入口が一部露出する場合がある。この場合は、オイルポンプによるエンジンオイルの吸引効率が極端に悪くなるおそれがある。
従って、液面状態推定手段が、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面のクランク室に対する傾きを推定し、エンジンオイルの液面の傾きが所定値より大きくなるときには、オイルポンプの回転数を上昇することによって、エンジンオイルの液面の全体高さを下降させる。
ここで、エンジンオイルの液面の傾きの所定値とは、まず第1の所定値としてはエンジンオイルの液面が傾くことによって、液面が上昇した部位において、エンジンオイルとクランク軸などが接触するおそれが生じる傾きを意味する。第2の所定値は、エンジンオイルの液面が極端に傾くことによって、オイルポンプによりエンジンオイルを吸引する吸入口が露出を始める角度を意味する。従って、吸引制御手段は、エンジンオイルの液面の傾きを推定し、推定した傾きが第1の所定値を超えたときにオイルポンプの回転数を上昇させ、推定した傾きが第2の所定値を超えたときには、オイルポンプの回転数を更に上昇させるように制御するのがよい。
このことにより、エンジンオイルの液面の傾きによりエンジンオイルとクランク軸などが接触し、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大する不具合をより確実に防止することができ、エンジンオイルの液面が極端に傾いたときにエンジンオイル吸入口が一部露出することにより、オイルポンプの吸引効率が悪化した場合でも、エンジンオイルを充分に吸引することができる。
前記液面状態推定手段としては、前記内燃機関を搭載した車輌の旋回運動のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサを利用したものを例示することができる。ここで、車輌が旋回運動を行ったときには、そのヨーレイトが大きいほど、クランク室に溜まったエンジンオイルに作用する遠心力が大きくなるので、エンジンオイルの液面の傾きが大きくなる。従って、ヨーレイトセンサにより車輌の旋回運動のヨーレイトを検出し、この車輌のヨー
レイトの大きさからエンジンオイルの液面の傾きを推定することができる。
また、前記液面状態推定手段としては、前記内燃機関を搭載した車輌の傾きを検出する傾きセンサを利用したものを例示することができる。この傾きセンサによって車輌そのものの傾きを検出することができ、また、静止状態では、エンジンオイルの液面は水平と考えられるので、これらの情報よりクランク室に対するエンジンオイルの液面の傾きを推定することができる。
また、本発明においては、液面状態推定手段は、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の揺れを推定し、吸引制御手段は、推定されたエンジンオイルの液面の揺れの大きさが所定値より大きくなるときに、オイルポンプの回転数を上昇させるようにするとよい。
ここで、車輌の振動などにより、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面が揺れる場合、液面が静止している場合と比較し、エンジンオイルがクランク軸などと接触する可能性が高い。また、車輌の振動が大きいほど、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の揺れも大きくなり、エンジンオイルがクランク軸と接触する可能性が高くなる。従って、エンジンオイルの液面の揺れが所定値より大きくなるときに、オイルポンプの回転数を上昇させることにより、オイルの液面高さを全体的に低くし、車輌の振動などにより、エンジンオイルとクランク軸などとの接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大することを抑制することができる。なお、ここにおいて、エンジンオイルの液面の揺れの大きさとは、例えば、エンジンオイルの液面の高さが最高の場所と、最低の場所との高さの差で定義することができる。
また、この場合の液面状態推定手段は、内燃機関を搭載した車両の振動加速度を検出する加速度センサを有するようにするとよい。そして、車輌の振動加速度と、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の揺れの大きさとの関係を予め実験的に求めてマップ化することにより、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の揺れを正確に推定することができる。
また、本発明においては、内燃機関を搭載した車輌が悪路を走行中であることを検出する悪路判定手段を有することとしてもよい。一般的に、車輌内でABS制御や、エアバック装置などの乗員保護装置を制御するため、上記の加速度センサからの振動加速度信号のパターンによって車輌が悪路走行中であることを判定する悪路判定ロジックが採用されている場合があるが、本発明においても、この悪路判定ロジックを利用して、クランク室のエンジンオイルの液面の揺れを推定してもよい。このことにより、簡単且つ正確に、クランク室のエンジンオイルの液面の揺れを推定することができる。
また、本発明においては、液面状態推定手段は、内燃機関の回転数を検出することによって、内燃機関の回転数の減少時に上昇する、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の高さを推定し、吸引制御手段は、推定された前記オイル液面の高さが所定値以下のときは、オイルポンプの回転数を、内燃機関の回転数と連動させて変化させ、推定されたオイル液面の高さが所定値よりも高いときは、所定時間、前記オイルポンプの回転数を維持した後、前記オイルポンプの回転数を、前記内燃機関の回転数と連動させて変化させるように制御するとよい。
ここで、一般的に、ドライサンプ方式のオイル循環装置において、内燃機関の各部にエンジンオイルを供給する吐出ポンプは、内燃機関の回転に同期して動いているため、内燃機関の回転数が高いときには多くのエンジンオイルを吐出し、内燃機関の回転数が低いときには吐出用ポンプの吐出量も少なくなる。このため、通常、オイルポンプの回転数も、
内燃機関の回転数に伴って変化するように制御されている。しかし、吐出ポンプから内燃機関の各部に供給されたエンジンオイルが、クランク室内の底部に溜まるまでには時間差がある。これにより内燃機関の回転数が減少したときに、同じようにオイルポンプの回転数を減少させたのでは、一時的にクランク室には通常より多くのエンジンオイルが溜まり、エンジンオイルの液面の高さが高くなる。その結果、エンジンオイルとクランク軸などとが接触し、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大するおそれがある。
従って、前記液面状態検出手段は、内燃機関の回転数を検出することによって、その回転数の減少時に上昇する、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の高さを推定し、吸引制御手段は、推定されたエンジンオイルの液面の高さが所定値より高いときには、所定時間は、オイルポンプの回転数を減少させることをせず、オイルポンプの回転数を維持する。そして、実際にクランク室に溜まるエンジンオイルの量が減少したときに、オイルポンプの回転数も減少させるようにする。
これにより、内燃機関の回転数が減少したときに、吐出ポンプによるエンジンオイルの吐出量の変化と、実際にクランク室に溜まるエンジンオイルの量の変化との時間差によって、クランク室に溜まったエンジンオイルの液面の高さが上昇することにより、エンジンオイルとクランク軸などと接触し、その接触抵抗によって内燃機関の出力損失が増大することを抑制できる。
また、本発明においては、内燃機関のクランク室に溜まったエンジンオイルを吸引して循環させるオイルポンプと、内燃機関の始動予定が発生したことを車輌の操作状態から検出する始動予定検出手段と、始動予定検出手段が内燃機関の始動予定を検出したときに、オイルポンプの作動を開始させる吸引開始手段と、を備えるようにするとよい。
すなわち、実際に内燃機関が始動する前であって、始動予定検出手段が、内燃機関の始動予定が発生したことを検出したときに、オイルポンプを作動させることにより、内燃機関の停止中にクランク室に溜まったエンジンオイルを吸引する。このことにより、内燃機関の始動時に、クランク軸などと、エンジンオイルとが接触し、その接触抵抗により、内燃機関の始動性が悪化することを抑制できる。
これにより、特に冷間始動時における内燃機関の始動性を向上させることが可能となり、この状況での始動能力を確保するために定格が決められているスタータモータやモータゼネレータを小型化することができる。
なお、上記の始動予定検出手段が、内燃機関の始動予定を検出する方法としては、車輌のイグニッションスイッチがONすることをもって内燃機関の始動予定の発生を検出する方法や、車輌のドアロックが解除されたことをもって内燃機関の始動予定の発生を検出する方法を例示することができる。これらの方法により、内燃機関の始動予定を高い確率で検出することができ、無駄にオイルポンプを作動させることなく、内燃機関の始動性を向上させることができる。
また、本発明においては、内燃機関のクランク室に溜まったエンジンオイルを吸引して循環させるオイルポンプと、
内燃機関の所定箇所にオイルを供給する吐出ポンプと、
オイルポンプが吸引したエンジンオイルをオイルタンクを介して吐出ポンプに供給するオイル通路と、
クランク室に溜まったエンジンオイルを直接吐出ポンプに供給するバイパス路と、
オイル通路から吐出ポンプへエンジンオイルを供給するか、バイパス路から吐出ポンプへオイルを供給するかを切り換える切換弁と、
オイルポンプの作動の異常を検出する作動異常検出手段と、
オイルポンプの正常作動時には、オイル通路から吐出ポンプへエンジンオイルを供給するように切換弁を作動させ、作動異常検出手段が、オイルポンプの作動の異常を検出した場合は、オイルポンプの作動を停止するとともに、バイパス路から前記吐出ポンプへエンジンオイルを供給するように切換弁を作動させるオイル流路切換手段と、
を備えるようにするとよい。
すなわち、オイルポンプの故障時には、オイル流路切換手段は、オイルポンプの作動を停止し、クランク室に溜まったエンジンオイルをバイパス路を用いて直接吐出ポンプに接続し、暫定的に吐出ポンプにオイルポンプの役割を兼ねさせるものである。
ここで、作動異常検出手段がオイルポンプの作動の異常を検出する方法としては、オイルポンプへの供給電流をモニターしておき、その電流値が所定範囲を外れた場合にオイルポンプの作動が異常であると判断する方法を例示することができる。これは、オイルポンプのモータが正常に回転していなければ、逆起電力が発生しなくなることにより、印加電圧に対する消費電流値が増加すること及び、前記モータに断線などが発生した場合には、消費電流が減少することを利用したものである。また、オイルポンプのモータにエンコーダなどの回転センサを設けることにより、オイルポンプの正常動作をモニターしてもよい。
こうすれば、オイルポンプの故障時にも、吐出ポンプにより、クランク室に溜まったエンジンオイルを吸引することができ、エンジンオイルとクランク軸などが接触し、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大することをより確実に防止することができる。
なお、上記で説明したオイルポンプは、電動式ポンプとするとよい。こうすれば、簡単な構成で、オイルポンプを内燃機関の回転とは独立に制御することができ、上記で説明した手段と組み合わせることにより、少ない電力で充分なオイル吸引性能を発揮することができ、結果として、車輌の燃費を向上させることができる。
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
本発明にあっては、クランク室に溜まったエンジンオイルとクランク軸などが接触することを抑制でき、その接触抵抗により内燃機関の出力損失が増大することを抑制できる。
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を例示的に詳しく説明する。
図1は本発明が適用される内燃機関1及びそのオイル循環系及び制御系の構成を示す概略図である。図1において、内燃機関1は、いわゆるドライサンプ方式によるエンジンオイルの潤滑方式を採用したエンジンである。内燃機関1において、エンジンオイルの供給を受けるブロックとして、動弁系ブロック3とピストン・クランク系ブロック4とがある。動弁系ブロック3においては、内燃機関1に同期して回転する図示しないカムシャフトと、該カムシャフトに設けられたカムが備えられており、該カムが、やはり図示しない吸気弁および排気弁を押圧することにより、内燃機関1の吸排気動作が行われる。この場合、前述のカムと吸気弁及び排気弁は高速で摺動動作を行うので、吐出ポンプ11から吐出されるエンジンオイルの供給を受ける必要がある。
また、内燃機関1のピストン、クランクブロック4には、図示しないシリンダ、ピストン、クランク軸などが備えられており、シリンダ内の燃焼によるピストンの往復運動をクランク軸の回転運動に変換している。これらの各要素は高速で運動するため、吐出用ポンプ10から吐出されるエンジンオイルの供給を受ける必要がある。
上記した、内燃機関1の動弁系ブロック3またはピストン・クランク系ブロック4に供給されたエンジンオイルは、それぞれのブロックにおいて摺動部分の潤滑に用いられた後、クランク室5の底面に溜まるようになっている。なお、ここで、吐出ポンプ11は、内燃機関1におけるクランク軸の回転と同期した回転によってエンジンオイルをエンジン本体の上記ブロックに吐出する。従って、吐出ポンプ11から内燃機関1の各部へのエンジンオイルの供給量は、内燃機関1の回転数に連動して変化する。
クランク室5に溜まったエンジンオイル6は、オイルポンプ9の動作による吸引力により、クランク室5の底面に設けられた吸入口7から吸引され、オイル通路8を介してオイルポンプ9まで吸引される。そして、オイルポンプ9を通過した後は、そのままエンジンオイルを一時的に貯留しておくためのオイルタンク10まで圧送される。なお、本実施例におけるオイルポンプ9としては、内燃機関1の回転とは独立して電気的に制御される電気式ポンプが採用されている。
オイルタンク10に一時的に貯留されたエンジンオイルは、吐出ポンプ11によってオイル通路8を介して吸引され、さらにこの吐出ポンプ11により内燃機関1の上記各ブロックに供給される。上記のようなプロセスによってエンジンオイルは、内燃機関1に循環するようになっている。
また、内燃機関1には、これを制御するための電子制御ユニットであるECU(Electronic Control Unit)20が併設されている。このECU20は、図示しないCPUの他、後述する各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御するユニットである。
ECU20には、内燃機関1の運転状態を検出する種々のセンサが電気配線を介して接続され、それらの出力信号がECU20に入力されるようになっている。この種々のセンサとしては、本発明に係る車輌の旋回運動の角速度を検出するヨーレイトセンサ30、車輌の振動加速度を検出する加速度センサ31、内燃機関1の回転数を検出するクランクポジションセンサ32、車輌の運転席でキー・インされたことを検出するイグニッションSW33などがある。一方、ECU20には、本実施例に係るオイルポンプ9などが電気配線を介して接続され、ECU20からの指令によってオイルポンプ9が回転し、さらにその回転数を変化させることができるようになっている。
次に、本実施例におけるエンジンオイルの潤滑の方法について説明する。本実施例においては、内燃機関1が搭載されている車輌の旋回運動の角速度を検出するヨーレイトセンサ30を用い、ヨーレイトセンサ30が検出した旋回運動の角速度から、前記クランク室5内におけるエンジンオイル6の液面の傾きを推定し、エンジンオイル6の液面の傾きに応じて、オイルポンプ9の回転数を変更する制御を行っている。
ここで、内燃機関1の運転中に、内燃機関1を搭載した車輌が旋回運動をすると、クランク室5の底面に溜まっているエンジンオイル6は遠心力によって、クランク室5内で、前記旋回運動の外周側に寄せられる。従って、エンジンオイル6の液面については、前記
旋回運動の外周側が高く、内周側が低い状態で傾く。その結果、前記旋回運動における外周側の、エンジンオイル6が高くなった部分で、エンジンオイル6の液面とクランク軸などが接触し、その接触抵抗によって、内燃機関1の出力損失が増大するおそれが生じる。
また、内燃機関1を搭載した車輌がさらに大きな速度で旋回運動し、クランク室5に溜まったエンジンオイル6の液面の傾きがさらに大きくなると、クランク室5の底面が露出することにより図1における吸入口7が露出し、オイルポンプ9の吸入効率が下がるおそれがある。
本実施例におけるオイルポンプ9の制御は上記不具合を解決するためのものであって、クランク室5に溜まったエンジンオイル6の液面の傾きが所定角以上に大きくなると推定された場合には、オイルポンプ9の回転数を増加し、全体の液面高さを低くする。また、吸入口7が露出することによりオイルポンプ9の吸引効率が悪化すると推定される場合には、オイルポンプ9の回転数をさらに増加し、そのような場合でも充分なエンジンオイル6を吸引できるようにした。
なお、ヨーレイトセンサ30とは、例えば、振動状態にある振動片がその振動の方向と直交する軸の回りに回転するとコリオリの力が作用し、このコリオリの力が角速度に依存していることを利用して、振動片の旋回運動の角速度を求めるものである。この技術については、公知であるので詳細な説明は省略する。
図2を用いて、本実施例におけるエンジンオイルの循環の方法について詳しく説明する。図2は、本実施例におけるオイルポンプ制御ルーチンを示すフローチャートである。このルーチンは、ECU20内のROMに記憶されたプログラムであり、内燃機関1の作動中の所定期間毎に実行される。なお、本ルーチン実行時のオイルポンプ9の回転数はR1であるとする。
本ルーチンが実行されると、まず、S101において、車輌のヨーレイトが取得される。実際には、前述のヨーレイトセンサ30の出力信号を検出することによってヨーレイトが取得される。S101の処理が終了するとS102に進む。
S102においては、エンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きが推定される。具体的には、S101で取得された車輌のヨーレイトの値と、そのヨーレイトでの旋回運動によって生じるエンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きとの関係を予め実験的に求めたうえでマップ化しておき、該マップから、S101において取得された車輌のヨーレイトの値に対応するエンジンオイル6の液面の傾きの値を読み出すことによって推定する。S102の処理が終わるとS103に進む。
S103においては、S102で推定されたエンジンオイルの傾きが所定値θ1より大きいかどうかが判断される。ここで所定値θ1は、オイルポンプ9の回転数がR1である場合に、エンジンオイル6とクランク軸などが接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大するおそれが生じる液面角度として実験的に求められた値である。なお、マージンを見込んで、上記の実験的に求められた角度よりも小さな液面角度をθ1として設定してもよい。
S103において、エンジンオイル6の液面の傾きがθ1以下であると判断された場合にはエンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれはないと判断されるので、S107に進みオイルポンプ9の回転数は通常運転時の回転数として設定されたR1に設定される。一方、S103においてエンジンオイル6の液面の傾きがθ1より大きいと判断された場合にはエンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれがあると判断されるの
で、S104に進む。
S104においては、S102で推定されたエンジンオイル6の液面の傾きが所定値θ2より大きいかどうかが判断される。ここで所定値θ2は、オイルポンプ9の回転数がR1である場合に、クランク室5の底面に配置された吸入口7が露出することにより、オイルポンプ9の吸入効率が悪化するおそれが生じる液面角度として実験的に求められた値である。なお、マージンを見込んで、上記の実験的に求められた角度よりも小さな液面角度をθ2として設定してもよい。また、θ2は、θ1より大きい値に設定される。
S104において、エンジンオイル6の液面の傾きがθ2以下であると判断された場合には、結局、エンジンオイル6がクランク軸などと接触して、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大するおそれはあるが、クランク室5の底面に配置された吸入口7が露出することにより、オイルポンプ9の吸入効率が悪化するおそれはないと判断されるので、S105に進み、オイルポンプ9の回転数はR2と設定される。
ここで、R2は、通常運転時の回転数として設定されたR1よりは大きな回転数であり、オイルポンプ9をこの回転数R2で回転することにより、エンジンオイル6の液面の高さを減少させることができる。
次に、S104においてエンジンオイル6の液面の傾きがθ2より大きいと判断された場合にはクランク室5の底面に配置された吸入口7が露出することにより、オイルポンプ9の吸入効率が悪化するおそれがあると判断されるので、S107に進み、オイルポンプ9の回転数は、R2よりも更に高速のR3と設定される。ここで、オイルポンプ9をこの回転数R3で回転することにより、吸入口7が露出することにより、オイルポンプ9の吸入効率が悪化したとしても、充分にエンジンオイル6の液面の高さを減少させることができる。
そして、S105からS107の処理において、オイルポンプ9の回転数が適宜決定されると本ルーチンは一旦終了する。
以上、説明したように、本実施例においてはヨーレイトセンサ30を用いて、車輌のヨーレイトを取得し、それによってエンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きを推定している。そして、推定されたエンジンオイル6の液面の傾きの値によって、最適なオイルポンプ9の回転数を決定している。従って、エンジンオイル6がクランク軸などに接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大することを効果的に抑制することができる。また、エンジンオイル6の液面の傾き角が小さく、エンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれがない場合には、オイルポンプ9の回転数を増加させないため、無駄な電力消費を抑制することができる。
なお、本実施例における液面状態推定手段は、ヨーレイトセンサ30及び、車輌のヨーレイトの値と、そのヨーレイトの値に対して生じるエンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きとの関係を示すマップを記憶したROMを備えたECU20を含んで構成される。また、本実施例における吸引制御手段は、上記のオイルポンプ制御ルーチンを実行するECU20を含んで構成される。
また、本実施例においては、車輌が旋回運動をしたときの、エンジンオイル6の液面の傾きについて着目し、ヨーレイトセンサ30によってエンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きを推定したが、車輌が坂道を走行している場合などにおける、エンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きについて着目した場合は、車輌の傾きを直接検知する傾きセンサの出力をもとにエンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きを推定し、オイルポンプ9の回転数を決定してもよい。また、ヨーレイトセンサ30の出
力及び、傾きセンサの出力の両方より、エンジンオイル6の液面のクランク室5に対する傾きを推定し、オイルポンプ9の回転数を決定するようにしてもよい。
また、本実施例における液面状態推定手段は、エンジンオイル6の液面の傾きではなく、エンジンオイル6の液面の揺れの大きさを推定し、エンジンオイル6の液面の揺れの大きさによってオイルポンプ9の回転数を制御してもよい。
すなわち、エンジンオイル6の液面が傾いた場合と同様、エンジンオイル6の液面が揺れることにより、エンジンオイル6とクランク軸などが接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大するおそれがあるからである。この場合は、車輌に設けられ、車輌の振動加速度を検出する加速度センサ31から得られる出力信号によって、エンジンオイル6の液面の揺れを推定すればよい。
図3を用いて、エンジンオイル6の液面の傾きではなく、エンジンオイル6の液面の揺れの大きさを推定し、推定された揺れの大きさによってオイルポンプ9の回転数を制御する場合のオイルポンプ制御ルーチンについて簡単に説明する。なお、本ルーチンの実行時におけるオイルポンプ9の回転数はR1であるとする。
本ルーチンでは、図2で説明した場合と異なり、S301において、車輌の振動加速度が取得される。具体的には、加速度センサ31の出力信号を検出することによって取得される。なお、ここでいう振動加速度は、例えば、車輌の上下方向にかかる振動により発生する加速度を意味している。
S302においては、エンジンオイル6の液面の揺れが推定される。具体的には、車輌の振動加速度信号の値と、その値に対して生じるエンジンオイル6の液面の揺れとの関係を予め実験的に求めたうえでマップ化しておき、該マップから、S301において取得された車輌の振動加速度の値に対応するエンジンオイル6の液面の揺れの値を読み出すことによって推定する。
S303においては、S302で推定されたエンジンオイル6の液面の揺れが所定値A1より大きいかどうかが判断される。ここで所定値A1は、オイルポンプ9の回転数がR1である場合に、エンジンオイル6とクランク軸などが接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大するおそれが生じる揺れの値として実験的に求められた値である。なお、マージンを見込んで、上記の実験的に求められた値よりも小さな揺れの値をA1として設定してもよい。
S303において、エンジンオイル6の液面の揺れがA1以下であると判断された場合にはエンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれはないと判断されるので、S305に進み、オイルポンプ9の回転数はR1と設定される。一方、S303においてエンジンオイル6の液面の揺れがA1より大きいと判断された場合にはエンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれがあると判断され、S304に進み、オイルポンプ9の回転数は、R1よりも高速のR4と設定される。
S304またはS305の処理において、オイルポンプ9の回転数が適宜決定されると本ルーチンを一旦終了する。
以上のように、この例では、加速度センサ31を用いて、車輌の振動加速度を取得し、それによってエンジンオイル6の液面の揺れを推定し、推定されたエンジンオイル6の液面の揺れの値によって、最適なオイルポンプ9の回転数を決定している。従って、エンジンオイル6がクランク軸などに接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増
大することを効果的に抑制することができる。また、エンジンオイル6の液面の揺れが小さく、エンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれがない場合には、オイルポンプ9の回転数を増加させないため、無駄な電力を消費することがない。
なお、加速度センサ31の出力からエンジンオイル6の液面の揺れを推定するにあたって、この車輌が、車輌内でABS制御や、エアバック装置などの乗員保護装置を制御するため、上記の加速度センサ31からの振動加速度信号のパターンによって車輌が悪路走行中であることを判定する悪路判定ロジックを採用している場合には、当該悪路判定ロジックで悪路走行中と判定された場合に、オイルポンプ9の回転数を増加させるような制御にしてもよい。
次に本発明における実施例2について説明する。ここでは、内燃機関1及び、そのオイル循環系及び制御系のハード構成は、実施例1と同じである。本実施例においては、ギア変更などにより内燃機関1の回転数が減少した場合に、その回転数の変化を検出することにより、クランク室5に溜まったエンジンオイル6の液面の高さを推定し、推定したエンジンオイル6の液面の高さに基づいてオイルポンプ9の回転数を制御する例について説明する。
ここで、前述のように、吐出ポンプ11の回転数は、内燃機関1の回転数に連動しているため、内燃機関1の回転数が減少すると、吐出ポンプ11からのエンジンオイル吐出量も減少する。一般的にこの場合は、エンジンオイルの循環量そのものが減少するので、オイルポンプ9の回転数も、それに併せて減少させるのがよい。
しかし、吐出ポンプ11から吐出されたエンジンオイルが、内燃機関1の各ブロックで摺動部分の潤滑に用いられた後、クランク室5の底面に溜まるまでには時間差がある。従って、この場合にオイルポンプ9の回転数も、内燃機関1の回転数と同様に減少させたとすると、一時的に通常より多くのエンジンオイル6がクランク室5の底面に溜まることになる。これにより、エンジンオイル6の液面が一時的に上昇し、クランク軸などと接触するおそれが生じる。本実施例はこのことによる内燃機関1の出力損失の増大を抑制するための制御である。
内燃機関1の回転数の減少から、エンジンオイル6の液面の高さを推定し、その高さまで、エンジンオイル6の液面が上昇した場合にエンジンオイル6とクランク軸が接触すると判断された場合には、オイルポンプ9の回転数を、内燃機関1の回転数と同様に減少させるのではなく、所定時間、オイルポンプ9の回転数を維持した後、内燃機関1の回転数に対応する回転数まで減少させる制御について、図4を用いて説明する。
図4は、本実施例に係るオイルポンプ制御ルーチンを示すフローチャートである。本ルーチンでは、ECU20のROMに記憶されたプログラムであり、内燃機関1の作動中に所定時間毎に実行される。
本ルーチンが実行されると、まずS401において、車輌のエンジン回転数が取得される。具体的には、内燃機関1のクランク軸が回転して所定角度に到達するとパルス信号を発生するクランクポジションセンサ32からの信号を検出することによって車輌のエンジン回転数が取得される。次に、S402において車輌のエンジン回転数の変化を算出する。具体的には、所定回数だけ前に本ルーチンが実行されたときにS401において取得されたエンジン回転数と、今回の実行におけるS401で取得されたエンジン回転数との差を、所定回数前に本ルーチンが実行された時間と、今回本ルーチンが実行された時間との時間差で除することによりエンジン回転数の変化が算出される。
S403においては、エンジン回転数が変化することに伴って変化する、クランク室5に溜まるエンジンオイル6の液面の高さが推定される。具体的には、車輌のエンジン回転数の変化の値と、その変化の値に対して生じるエンジンオイル6の液面高さの変化との関係を予め実験的に求めたうえでマップ化しておき、該マップから、S402において取得されたエンジン回転数の変化に対応するエンジンオイル6の液面高さの変化の値を読み出すことによって推定する。
S404においては、S403で推定されたエンジンオイル6の液面の高さが所定値H1より大きいかどうかが判断される。ここで所定値H1は、エンジンオイル6とクランク軸などが接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大するおそれが生じるエンジンオイル6の液面の高さとして実験的に求められた値である。なお、マージンを見込んで、上記の実験的に求められた高さよりも低い液面高さをH1として設定してもよい。
S404において、エンジンオイル6の液面の高さがH1以下であると判断された場合にはエンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれはないと判断されるので、S407に進み、オイルポンプ9の回転数はエンジン回転数の変化と連動させて変化される。一方、S404においてエンジンオイル6の液面の高さがH1より高くなると判断された場合には、オイルポンプ9の回転数を通常どおりエンジン回転数と連動させて変化させると、エンジンオイル6がクランク軸などと接触するおそれがあると判断されるので、所定時間、オイルポンプ9の回転数を維持するためにS405に進む。
S405においては、オイルポンプ9の回転数を維持させる時間を計測するためにタイマスタートする。そして、S406においては、S405においてタイマスタートさせた後の経過時間である回転数維持時間がt0より大きいかどうかが判断される。ここでt0の値は、吐出ポンプ11から吐出されたエンジンオイルが、内燃機関1の各部を通過したのち、クランク室5の底面に溜まるまでに要する時間より長い時間として設定された時間である。ここで、回転数維持時間がt0以下であると判断された場合は、再びS406の処理の前まで戻り、再度、回転数維持時間がt0より長いかどうかが判断される。そして、回転数維持時間がt0より長いと判断されるまでこの処理が繰り返される。
S406で、回転数維持時間がt0より長いと判断された場合には、ここにおいて、オイルポンプ9の回転数を、S401で取得したエンジン回転数に対応する回転数まで変化させても、エンジンオイル6の液面の高さは、H1より高くならないと判断されるので、S407に進む。
S407においては、オイルポンプ9に供給する電流値を下げることにより、オイルポンプ9の回転数を、S401で取得したエンジン回転数に対応する回転数まで変化させる。そして、S408において回転数維持時間を計測するタイマをリセットしたうえで、本ルーチンを終了する。
以上、説明したように本実施例においては、エンジン回転数の減少から、その直後のエンジンオイル6の液面の高さを推定し、推定された高さが所定値以上である場合には、オイルポンプ9の回転数を所定時間維持した後、内燃機関1の回転数に対応する回転数までオイルポンプ9の回転数を減少させているので、ギア変更などによってエンジン回転数が減少するときに、吐出ポンプ11から吐出されたオイルがクランク室5の底面に溜まるまでの時間差により、クランク室5に溜まるエンジンオイル6の液面の高さが高くなり、クランク軸などと接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増大することを抑制することができる。
なお、本実施例における液面状態推定手段は、エンジン回転数を取得するクランクポジションセンサ32、取得されたエンジン回転数の値からエンジン回転数の変化を算出し、エンジンオイル6の液面の高さを推定するECU20を含んで構成される。また、吸引制御手段は、時間t0の間、オイルポンプ9の回転数を維持したのち、エンジン回転数に対応する回転数まで変化させるオイルポンプ制御ルーチンのS405からS408の処理を実行するECU20を含んで構成される。
次に本発明における実施例3について説明する。ここでも、内燃機関1及び、そのオイル循環系及び制御系のハード構成は、実施例1と同じである。本実施例においては、車輌のイグニッションSW33がONされたことをもって、内燃機関1が始動することを予想し、内燃機関1が始動する前にオイルポンプ9を作動させ、内燃機関1の停止状態でクランク室5に溜まっているエンジンオイル6を吸引することにより、内燃機関1の始動性を向上させる例について説明する。
図5には、本実施例に係るオイルポンプ制御ルーチンを示す。本ルーチンは、内燃機関1の停止中に所定時間毎に実行されるルーチンである。本ルーチンが実行されるとまずS501において、イグニッションSW33がONされているかどうかが判断される。
S501において、イグニッションSW33がOFFされていると判断された場合には、内燃機関1の始動予定はないと判断されるのでS503に進み、オイルポンプ9がONしている場合はOFFし、OFFしている場合はOFF状態を継続する。一方、S501においてイグニッションSW33がONされていると判断された場合には、内燃機関1の始動予定が発生したと判断されるのでS502に進み、オイルポンプ9がOFFしている場合はONし、ONしている場合はON状態を継続する。
S502またはS503の処理が終わると、S504に進み、内燃機関1が始動したかどうかが判断される。ここで、内燃機関1がまだ始動していない場合には、さらに内燃機関1の始動予定の存否を判断するためにS501の処理の前に戻る。S504において、内燃機関1が始動した判断された場合には、本ルーチン以外のルーチンでの処理を開始するために本ルーチンを終了する。
以上、説明したように、本ルーチンにおいては、イグニッションSW33がONされたことによって内燃機関1の始動予定が発生したことを検出し、内燃機関1が実際に始動する前にオイルポンプ9の作動を開始している。従って、実際に内燃機関1が始動する際に、クランク室5に溜まったエンジンオイル6を吸引できるので、内燃機関1の始動性を向上させることができる。この結果、始動能力確保のために定格が定められるスタータモータまたはモータゼネレータを小型化できるという効果もある。
なお、本実施例における始動予定検出手段は、イグニッションSW33及び、上記オイルポンプ制御ルーチンを実行するECU20を含んで構成される。また、本実施例における吸引開始手段は、上記オイルポンプ制御ルーチンを実行するECU20を含んで構成される。
次に本発明における実施例4について説明する。ここで、内燃機関1及び、そのオイル循環系及び制御系のハード構成は、実施例1と異なる構成についてのみ説明し、実施例1と同じ構成には実施例1と同様の符号を付し、説明は省略する。本実施例においては、オイルポンプ9の作動異常時においてオイルポンプ9の作動を停止し、一時的に吐出ポンプ
11に、オイルポンプ9の役割を兼ねさせる制御について説明する。
図6に、本実施例における内燃機関1及び、そのオイル循環系及び制御系の概略構成図を示す。本実施例における構成が実施例1から実施例4で説明した構成と異なる点は、オイルポンプ9の作動異常時に、クランク室5に溜まったエンジンオイル6を吐出ポンプ11で直接吸引するためのストレーナ14及びバイパス路13を備え、そして、オイルポンプ9の正常作動時には、吐出ポンプ11にオイル通路8からエンジンオイルを供給し、オイルポンプ9の作動異常時には、吐出ポンプ11にバイパス路13からエンジンオイルを供給するようにエンジンオイルの循環経路を制御する電磁弁12を備えたことである。
図7に、本実施例におけるオイルポンプ作動異常時制御ルーチンについてのフローチャートを示す。本ルーチンは、オイルポンプ9の作動時に所定時間毎に実行されるルーチンである。
本ルーチンが実行されると、S701においてオイルポンプ9への供給電流が検出される。ここで、オイルポンプ9が正常に動作していれば、オイルポンプ9内のモータが正常に回転しているため、逆起電力が発生し、オイルポンプ9に印加している電圧に対して所定値以下の電流しか流れない。一方、オイルポンプ9のモータが何らかの理由で回転していない場合は、逆起電力が発生しないため、印加電圧に対して、オイルポンプ9内のモータの端子抵抗に対応した電流がそのまま流れてしまう。また、オイルポンプ9のモータが断線などを起こしている場合には、電流値が低くなる。従って、オイルポンプ9に供給される電流値を検出することで、その動作異常を検出することができる。
次に、S702において、オイルポンプ9の作動が正常かどうかが判断される。具体的には、S701で検出された供給電流が所定範囲に入っているか、すなわち、オイルポンプ9のモータが断線もしておらず、所定回転数で回転しているかどうかが判断される。ここで、オイルポンプ9の作動が正常であると判断された場合には、S703に進み、電磁弁12はオイル通路8側が開放、バイパス路13が閉鎖されるように作動される。
この場合は、オイルポンプ9の作動は正常であるので、クランク室5に溜まったエンジンオイル6は、オイルポンプ9に吸引され、オイル通路8及びオイルタンク10を経由して吐出ポンプ11に供給される。
一方、S702においてオイルポンプ9の作動が異常であると判断された場合には、S704に進みオイルポンプ9を停止する。次にS705に進み、電磁弁12を作動させて、オイル通路8側を閉鎖し、バイパス路13側を開放する。このことにより、クランク室5に溜まったエンジンオイル6は、吐出ポンプ11の作動によってストレーナ14から吸引され、バイパス路13を経由して吐出ポンプ11に直接供給される。
S703またはS705の処理が終わると本ルーチンを終了する。
以上、説明したように本実施例においては、オイルポンプ9の作動異常を検出して、作動異常があった場合には、オイルポンプ9を停止し、電磁弁12を作動させて、クランク室5に溜まったエンジンオイル6を直接吐出ポンプ11で吸引するようにしている。従って、オイルポンプ9の故障時においても、クランク室5に溜まったエンジンオイル6の液面が上昇することによってクランク軸などと接触し、その接触抵抗によって内燃機関1の出力損失が増加することをより確実に防止することができる。
本実施例において、作動異常検出手段は、上記のオイルポンプ作動異常時制御ルーチンの処理S701及びS702を実行するECU20を含んで構成される。また、本実施例
において、オイル流路切換手段は、上記のオイルポンプ作動異常時制御ルーチンの処理S703からS705を実行するECU20を含んで構成される。
なお、本実施例においては、オイルポンプ9の作動が正常かどうかを判断するために、オイルポンプ9への供給電流の値を検出したが、例えばオイルポンプ9のモータに、その回転に対応したパルス信号を出力するエンコーダを設けておき、そのエンコーダからの出力信号によってオイルポンプ9の作動が正常かどうかを判断するなどの方法をとってもよい。
本発明の実施例1が適用される内燃機関及びそのオイル循環系及び制御系の概略構成を示す概略図である。
本発明の実施例1におけるオイルポンプ制御ルーチンを示すフローチャートである。
本発明の実施例1におけるオイルポンプ制御ルーチンの別の例を示すフローチャートである。
本発明の実施例2におけるオイルポンプ制御ルーチンを示すフローチャートである。
本発明の実施例3におけるオイルポンプ制御ルーチンを示すフローチャートである。
本発明の実施例4が適用される内燃機関及びそのオイル循環系及び制御系の概略構成を示す概略図である。
本発明の実施例4におけるオイルポンプ作動異常時制御ルーチンを示すフローチャートである。
符号の説明
1・・・内燃機関
3・・・エンジンの動弁系ブロック
4・・・エンジンのピストン・クランク系ブロック
5・・・クランク室
6・・・クランク室に溜まったエンジンオイル
7・・・吸入口
8・・・オイル通路
9・・・オイルポンプ
10・・オイルタンク
11・・吐出ポンプ
12・・電磁弁
13・・バイパス路
14・・ストレーナ
20・・ECU
30・・ヨーレイトセンサ
31・・加速度センサ
32・・クランクポジションセンサ
33・・イグニッションSW