JP4344785B2 - ほぐれの改良された穀類加工食品、その製造法およびほぐれ改良剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術の分野】
この発明は、ほぐれの改良された穀類加工食品、その製造法およびその製造法で用いられるほぐれ改良剤に関するものである。
さらに詳細には、この発明は、経時変化などによる穀類加工食品の表面が互いに付着するのが防止され、ほぐれの極めて良好な穀類加工食品、その製造法およびその製造法で用いられるほぐれ改良剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
穀類加工食品、特に麺類は、麺線表面の離水および糊化された澱粉の粘着性により麺線が互いに付着し、全体が塊状に固着してほぐれが悪くなる。麺線どうしの付着を防止する方法は、麺の種類により異なり、生麺の場合にはカットされた麺線に直接、澱粉(打ち粉)をふりかける方法が採られている。しかしながら、打ち粉を使用した生麺は製品の外観が見劣りし、かつ、カビが生えやすく、腐敗しやすいという欠点があった。
【0003】
また、茹で麺や蒸し麺、ロングライフ麺(LL麺)などの場合には、仕上がった麺に食用油脂を噴霧する方法が採られている。しかしながら、油が含まれていると食感に悪影響のある麺、例えばうどんやそばなどには、この方法は適していない。その上、麺にコーティングされる油脂は薄層であるため、高水分下において極めて酸化されやすく、特に常温での流通時間が長いLL麺においては、酸化された油脂が異臭を発するなど、麺類の商品価値を著しく損なう欠点があった。
【0004】
そのほか、麺類などのほぐれを改良する方法として、ポリグリセリン脂肪酸エステルを単独で、あるいは他の食品用乳化剤とともに練り込む方法(特公昭60−102139号公報)、難消化性デキストリンおよびペクチンを含有する穀類加工食品用ほぐれ改良剤(特開平9−75022号公報)、原料澱粉の一部を、乳化剤と澱粉とを緊密に混合し、一定の条件下で加熱して得られる湿熱処理澱粉で置換する方法(特開平10−84894号公報)、エステル化率が40%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを麺類に噴霧、浸漬、塗布、練り込み等で添加する方法(特開平10−309169号公報)などが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法によっても十分に満足できる効果が得られ難い。また、近年、食品の品質改良剤などの添加剤としては、食品衛生上安全なもの、できれば天然由来のものが望まれており、その添加量もできるだけ少なくてすむものが望まれている。
【0006】
従来、リパーゼは原料粉中に含まれる油脂に作用してグリセリンと脂肪酸とに分解し、この分解により生じたグリセリンが麺のベタつきや脂肪酸による食味の劣化など、麺質の低下を引き起こすものと考えられていた。
一方、リパーゼとリポキシゲナーゼとの併用(特開平11−299440号公報)、あるいはリパーゼと油脂類との併用(特開平5−292908号公報、特開平6−113771号公報および特開平9−70269号公報)による、良好な食感および食味を呈する麺類の製造方法も提案されているが、リパーゼ単独による麺類のほぐれ改良効果は知られていなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、上記のような従来技術の有する問題点を解決し、穀類加工食品の外観、食味および食感を損なうことなく、穀類加工食品の表面どうしの付着を防止して、ほぐれの改良された穀類加工食品を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明の発明者らは、穀類加工食品のほぐれ改良について鋭意研究の結果、意外なことに、リパーゼを単独で、しかも極めて少量添加するだけで、ほぐれが著しく向上し、食味および食感の良好な穀類加工食品が得られることを見出し、この発明を完成するに到った。
このような優れた効果が得られるメカニズムは定かでないが、原料粉中に含まれる油脂成分のうち、穀類加工食品の表面に存在する油脂成分にのみリパーゼが作用することによるものと考えられる。
【0009】
かくして、この発明によれば、原料粉1g当たり0.05〜0.7単位のリパーゼを添加したことを特徴とするほぐれの改良された穀類加工食品(但し、パスタを除く)およびその製造方法が提供される。
また、この発明によれば、上記の製造方法で使用される、原料粉1g当たり0.05単位以上1単位未満のリパーゼを有効成分として含有することを特徴とする穀類加工食品(但し、パスタを除く)のほぐれ改良剤が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
この発明における穀類加工食品としては、例えば、中華麺、うどん、きしめん、素麺、冷や麦、そば、スパゲッティのように細長く成形した麺類、マカロニのように任意の形状に成形したもの、餃子やシュウマイの皮などが挙げられる。そして、穀類加工食品が麺類である場合、その形態は、生麺、茹で麺、蒸し麺、ロングライフ麺(LL麺)、即席麺、冷凍麺、乾麺などのいずれであってもよい。
【0011】
この発明における穀類加工食品は、原料粉1g当たり0.05〜1単位のリパーゼを添加し、水とともに混練し、所望の形状に成形して得られる。
この発明における原料粉は、製造されるべき穀類加工食品の種類に応じて、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、そば粉あるいはそれらの混合粉などから適宜選択される。
【0012】
原料粉に添加されるリパーゼは、脂質に作用してそのエステル結合を加水分解してグリセリンと脂肪酸とに分解する酵素で、酵母からの生産が工業的に成立しており、入手も容易である。この発明では、例えば、天野エンザイム株式会社製のリパーゼA「アマノ」6、リパーゼR「アマノ」、リパーゼM「アマノ」10、リパーゼF「アマノ」、リパーゼAY「アマノ」30、ニューラーゼF(いずれも商品名)、田辺製薬株式会社製のタリパーゼ(商品名)などを好適に用いることができる。
【0013】
リパーゼの添加割合は、原料粉1g当たり0.05〜1単位、好ましくは0.2〜0.7単位である。
リパーゼの添加割合が1単位を超えると、穀類加工食品の表面にベタつきが生じて品質が低下し、また食味も損なわれるので好ましくない。また、リパーゼの添加割合が0.05単位より少ないと、十分なほぐれ改良効果が得られ難いため好ましくない。
【0014】
この発明におけるリパーゼの力価測定は、JIS K0601「工業用リパーゼの活性度測定方法」に準拠して行うことができる。
【0015】
この発明の穀類加工食品の製造に際しては、リパーゼのほかに、通常の添加剤、例えば、増粘多糖類、食物繊維、カルシウム、穀物蛋白質部分分解物、グルテン、卵白、食塩、酸化防止剤、防腐剤、色素、香料等を適宜加えてもよい。これらの添加剤のうち、増粘多糖類、穀物蛋白質部分分解物、グルテンおよび卵白を用いると、穀類加工食品の食感が良好となって好ましい。
【0016】
増粘多糖類は、通常の食品の製造に使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、キサンタンガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、タマリンドガム、カードラン、寒天等が挙げられ、中でもアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、キサンタンガムが特に好ましい。
増粘多糖類の添加割合は、原料粉100g当たり0.001〜0.05g、好ましくは0.01〜0.03gである。
【0017】
食物繊維には、水溶性食物繊維と水不溶性食物繊維があるが、水不溶性食物繊維が好ましい。例えば、マンナン、セルロース等が挙げられる。
食物繊維の添加割合は、原料粉100g当たり0.001〜0.05g、好ましくは0.01〜0.03gである。
【0018】
カルシウムは、わずかでも解離してカルシウムイオンとなる化合物で、通常の食品の製造に使用されるものであれば、特に限定されない。例えば、乳清カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
カルシウムの添加割合は、原料粉100g当たり0.0005〜0.025g、好ましくは0.001〜0.015gである。
【0019】
この発明の穀類加工食品は、通常の方法により製造することができる。すなわち、原料粉と所望により加えられる任意の添加剤をまず混合し、これに所定量のリパーゼを溶解した水溶液を加えて混練し、所望の形状に成形することにより製造することができる。
なお、任意の添加剤のうち、水溶性のものは原料粉と混合すべき水に予め溶解して用いてもよい。
【0020】
【実施例】
この発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、この発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、実施例で用いられているリパーゼA〜Dはそれぞれ次のものを指す。
リパーゼA:タリパーゼ(10000単位/g)、(商品名、田辺製薬株式会社製)
リパーゼB:リパーゼM「アマノ」10(10000単位/g)、(商品名、天野エンザイム株式会社製)
リパーゼC:リパーゼC「アマノ」6(60000単位/g)、(商品名、天野エンザイム株式会社製)
リパーゼD:リパーゼR「アマノ」(900単位/g)、(商品名、天野エンザイム株式会社製)
以下、実施例中に記載のリパーゼA〜Dの力価は、原料粉1g当たりの数値である。
【0021】
実施例1
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
リパーゼA 0.001g(0.1単位/g)
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
かん粉および食塩を溶解した水溶液にリパーゼAを加え、これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加えた。得られた混合物をよく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0022】
実施例2
リパーゼAの量を0.002g(0.2単位/g)に変えた以外は、実施例1と同様にして中華麺を製造した。
実施例3
リパーゼAの量を0.005g(0.5単位/g)に変えた以外は、実施例1と同様にして中華麺を製造した。
実施例4
リパーゼAの量を0.007g(0.7単位/g)に変えた以外は、実施例1と同様にして中華麺を製造した。
【0023】
実施例5
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
リパーゼB 0.001g(0.1単位/g)
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
かん粉および食塩を溶解した水溶液にリパーゼBを加え、これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加えた。得られた混合物をよく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0024】
実施例6
リパーゼBの量を0.002g(0.2単位/g)に変えた以外は、実施例5と同様にして中華麺を製造した。
実施例7
リパーゼBの量を0.005g(0.5単位/g)に変えた以外は、実施例5と同様にして中華麺を製造した。
実施例8
リパーゼBの量を0.007g(0.7単位/g)に変えた以外は、実施例5と同様にして中華麺を製造した。
【0025】
実施例9
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
リパーゼC 0.00083g(0.5単位/g)
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
かん粉および食塩を溶解した水溶液にリパーゼCを加え、これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加えた。得られた混合物をよく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0026】
実施例10
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
リパーゼD 0.056g(0.5単位/g)
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
かん粉および食塩を溶解した水溶液にリパーゼDを加え、これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加えた。得られた混合物をよく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0027】
比較例1
実施例1のリパーゼAを除いた以外は、実施例1と同様にして中華麺を製造した。
比較例2
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
ホスホリパーゼ 1.5g
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
かん粉および食塩を溶解した水溶液にホスホリパーゼ(商品名:レシターゼ(10000単位/ml)、ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社製)を加えた。これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加え、よく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0028】
比較例3
小麦粉 80g
澱粉(特等) 20g
ほぐれ改良剤 1g
水 37g
かん粉 0.2g
食塩 2g
有効成分としてグリセリン脂肪酸エステル56%を含有するほぐれ改良剤(商品名:ニュー麺エマルジー、理研ビタミン株式会社製)を、かん粉および食塩を溶解した水溶液に加えた。これを小麦粉および澱粉を混合した粉原料に加え、よく混練し、常法に従ってロール厚1mm、#20角刃で切り出して中華麺を製造した。
【0029】
試験例1(湯中でのほぐれ評価試験)
実施例1〜10および比較例1および2で得られた中華麺を長さ18cmに切断したもの各20gを、3分間蒸した後、水冷し、密封して冷蔵庫で一晩放置した。1リットルのビーカーに50℃の湯を600ml入れ、これに一晩放置した各中華麺を入れてスターラーで攪拌し、ほぐれ状態を目視で確認した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
なお、上記の評価は次の基準によった。
極めて良好:スターラーで1分間攪拌後、麺のほぼ全体がほぐれている。
良 好:スターラーで1分間攪拌後、麺のほぼ半分がほぐれている。
悪 い:スターラーで1分間攪拌しても、麺がほとんどほぐれていない。
【0032】
試験例2(ホットプレート上でのほぐれ評価試験)
実施例3,5,9、10および比較例3で得られた中華麺を長さ18cmに切断したもの各20gを、3分間蒸した後、水冷し、密封して冷蔵庫で一晩放置した。200℃に熱したホットプレート上に、一晩放置した各中華麺を置き、ほぐしながら2分間加熱して、ほぐれ状態を目視で確認した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
なお、上記の評価は次の基準によった。
極めて良好:2分間で麺のほぼ全体がほぐれている。
良 好:2分間で麺の半分以上がほぐれている。
やや良好 :2分間で麺の半分以下がほぐれている。
【0035】
実施例11
中力小麦粉 100g
リパーゼB 0.004g(0.4単位/g)
アルギン酸 0.01g
水 35g
塩 3g
食塩を溶解した水溶液にリパーゼBを加え、これを中力小麦粉およびアルギン酸(商品名:ダックアシッドX−2787、株式会社紀文フードケミファ製)を混合した粉原料に加えた。得られた混合物をよく混練し、常法に従ってロール厚2.2mm、#12角刃で切り出してうどんを製造した。
【0036】
実施例12
中力小麦粉 100g
リパーゼB 0.004g(0.4単位/g)
マンナン 0.01g
水 35g
塩 3g
アルギン酸をマンナン(商品名:アイレス、株式会社アイレス製)に変えた以外は、実施例11と同様にしてうどんを製造した。
【0037】
実施例13
中力小麦粉 100g
リパーゼB 0.004g(0.4単位/g)
乳清カルシウム 0.005g
水 35g
塩 3g
アルギン酸を乳清カルシウム(商品名:乳清カルシウム、明治製菓株式会社製)に変えた以外は、実施例11と同様にしてうどんを製造した。
【0038】
実施例14
中力小麦粉 100g
リパーゼB 0.004g(0.4単位/g)
アルギン酸 0.01g
乳清カルシウム 0.005g
水 35g
塩 3g
乳清カルシウムをさらに添加した以外は、実施例11と同様にしてうどんを製造した。
【0039】
実施例15
中力小麦粉 100g
リパーゼB 0.004g(0.4単位/g)
マンナン 0.01g
乳清カルシウム 0.005g
水 35g
塩 3g
乳清カルシウムをさらに添加した以外は、実施例12と同様にしてうどんを製造した。
【0040】
試験例3(うどんの湯中でのほぐれ評価試験)
実施例11〜15で得られたうどんを長さ30cmに切断したもの各40gを熱湯で18分間茹でた後、30秒間水洗し、水切りした後、密封して冷蔵庫で一晩放置した。1リットルのビーカーに熱湯を400ml入れ、これに一晩放置しておいた各うどんを入れてスターラーで攪拌し、ほぐれ状態を目視で観察した。その結果を表3に示す。なお、ほぐれ評価の基準は試験例1と同様である。
【0041】
【表3】
【0042】
【発明の効果】
本発明の穀類加工食品では、天然由来のリパーゼをごく少量添加することにより、外観、食味および食感が損なわれないで、ほぐれが著しく改良されている。
Claims (6)
- 原料粉1g当たり0.05〜0.7単位のリパーゼを添加したことを特徴とするほぐれの改良された穀類加工食品(但し、パスタを除く)。
- さらに増粘多糖類、食物繊維および解離してカルシウムイオンとなる化合物から選ばれた少なくとも1種を添加したことを特徴とする請求項1に記載のほぐれの改良された穀類加工食品。
- 原料粉1g当たり0.05〜0.7単位のリパーゼを加え、水とともに混練し、成形することを特徴とするほぐれの改良された穀類加工食品(但し、パスタを除く)の製造法。
- さらに増粘多糖類、食物繊維および解離してカルシウムイオンとなる化合物から選ばれた少なくとも1種を加えることを特徴とする請求項3に記載のほぐれの改良された穀類加工食品の製造法。
- 原料粉1g当たり0.05単位以上1単位未満のリパーゼを有効成分として含有することを特徴とする穀類加工食品(但し、パスタを除く)のほぐれ改良剤。
- さらに増粘多糖類、食物繊維および解離してカルシウムイオンとなる化合物から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする請求項5に記載の穀類加工食品のほぐれ改良剤。
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