JP4343879B2 - 切削加工方法 - Google Patents

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Description

本発明は、曲率半径が小さい被加工物あるいは曲率半径が一定でない自由曲面を持つ被加工物を切削加工する場合に、良好な加工精度と加工時間の短縮を図るための切削加工方法及び切削加工装置に関するものである。
従来、図16に示すように、被加工物1の長手方向を母線方向(X方向)、短手方向を子線方向(Y方向)として、母線方向と子線方向の曲率半径が異なるトーリック形状等の光学部品あるいはその成形用の金型を切削加工する場合、ダイヤモンドチップ2aとシャンク2bとからなる切削工具2をバイトホルダ3に取付け、主軸4により切削工具2を回転させる。この際、ダイヤモンドチップの先端半径は被加工物の子線の曲率半径より小さく、また切削工具の旋回半径R1は被加工物の母線の曲率半径R2より小さくする必要がある。この状態で、子線方向に切削工具と被加工物を相対的に移動させることにより、微小な1ライン分をフライカット加工した後、母線方向に送りピッチPで移動させ、これを繰り返すことにより、全面を切削加工する。
また一方では、加工精度を向上させる場合に、切削工具を強制的に振動させる振動切削加工法が用いられる。この方式では、工具刃先の発熱抑制、構成刃先の形成阻止、切削抵抗の低減ができ、これによりびびり振動を抑制することも可能である。特に図17に示す様な、主分力方向(X方向)と背分力方向(Z方向)に切削工具を2次元的に振動させるとともに、両者の振動に90°前後の位相差を与える楕円振動切削は、切削抵抗を低減させる効果が大きい。この様な振動切削方式においても、被加工物と切削工具を上記のフライカット方式と同様に相対運動させることにより、全面を切削加工することができる。なお、1aは未加工面、1bは目標加工面である。
特開平7−68401号公報
しかしながら、近年光学部品の形状に対する様々な要求が出てきており、特に製品のコンパクト化に伴い、曲率半径の小さな光学部品が要求されるようになってきた。また、光学部品の形状に対する様々な要求も出てきており、自由曲面を採用することにより、部品点数の削減や光学性能の向上が可能であるため、曲率半径が数mmから数十mmまで変化するような光学部品が要求されるようになってきた。このため、フライカット方式において切削工具の旋回半径を小さくする必要がでてきたが、曲率半径が10mm以下になるような加工をするには、切削工具を主軸に固定するためのバイトホルダの突き出し部3aの径を被加工物との干渉を避けるため細くする必要があり、切削抵抗によりびびりやすくなり、表面粗さが数十nmレベルの高精度な加工は実質的にできなくなる。
一方、切削工具を2次元的に振動させる楕円振動切削は、振動振幅が数μm〜数十μmであり、曲率半径に関する限り充分に対応可能である。しかし、振動切削の今までの適用例は、平面加工や旋削加工に適用したものだけであり、これらの加工においては、被加工物と切削工具のなす角を一定のまま加工しており、光学式の関係を満足する曲面を加工する場合は、被加工物の加工面の法線方向が変化する。そのため、今までのように被加工物と切削工具のなす角を一定のまま上記の曲面の加工に適用すると、図17のように、切削工具の先端を被加工物の目標加工面1bに沿って移動させても、楕円運動で加工された軌跡を結ぶと1cのような形状になり、形状誤差が生じてしまう。この形状誤差は、被加工物の傾斜角度の変化の度合いと切削工具の楕円軌跡の形状により決まるが、数μmオーダーとなり高精度な加工は期待できない。
また、楕円振動切削では、実際の量産にあたり図10のように、工具刃先を楕円運動させ子線方向に移動させ、1ライン加工後に母線方向にピッチPだけ送る方式をとるが、工具の軌跡の曲率半径が非常に小さいため、数十nmの表面粗さを得ようとすると、送りピッチPが数μmと小さくなって加工時間が膨大になり、実質的に量産は不可能である。
例えば、平面を円運動による振動切削で加工する場合の理論表面粗さRthは、Rth=f2/8r(f=送りピッチP、r=工具振動軌跡の半径)として求められ、Rthが20nmで、rが5μmである場合、fは0.89μmとなり、母線が100mmであると、100mm/0.89μm=112360回、母線方向に送る必要があり、1ラインの加工に5秒かかると、加工時間は全体で156時間である。
さらに楕円振動切削の例として、特開平7−68401号公報に開示されているように切削方向である楕円運動の方向に切削工具と被加工物を相対的に送る方法が知られている。しかしながら、特開平7−68401号公報に開示されている方法を光学式の関係から決定される曲面の鏡面加工に適用すると、フライカット加工方法で加工する場合の2倍以上の時間がかかる。なぜならば、この方法では、上記のように、楕円運動の方向に切削工具と被加工物を相対的に送るため、往復加工を行おうとすると、往路と復路とでアップカットとダウンカットを用いる必要がある。しかし、アップカットとダウンカットでは加工面の状態に違いが発生するので、高精度な鏡面加工を必要とする場合、往復加工ができない。
アップカットとダウンカットによる加工面の仕上げ状態の違いは、以下のような原理により生ずる。ダウンカットの場合、背分力方向(切り込み方向)の速度が切削方向の速度より速く、工具の進入角が直角に近い。これに対して、アップカットの場合、切削が進んでいる方向から工具が進入することにより、切削方向の速度が背分力方向の速度より速くなり、工具の進入角を寝かせることができる。また、切削が進んでいる方向と切削が進んでいない方向からの加工になるので、切り屑の排出状態も異なり、切削仕上げ面の状態が異なる。このように、往復加工を行うと、切削仕上げ面の状態が加工ライン毎に交互に違うため、規則性があり、光学特性に影響を与えることになる。アップカットとダウンカットの工具進入角の違いは、図6に示すA点とB点の違いであり、それらの点の工具軌跡からわかるように、点Aの方が進入角が寝ている。
以上述べたように、曲率半径が10mm以下の部分ともっと大きな部分が混在するような被加工物を加工しようとすると、従来のフライカット方式ではびびり等により良好な表面粗さを得ることができず、また楕円振動切削方式では加工時間が大幅にかかってしまい、良好な表面粗さを短時間で得る実用的な加工法がなかった。
従って、本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な表面粗さを短時間で得ることができる切削加工方法及び装置及び光学素子及び光学素子の成形用金型を提供することである。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わる切削加工方法は、切削工具と被加工物とを相対的に主分力方向と背分力方向とに振動させながら前記被加工物を切削加工するための切削加工方法において、前記被加工物の加工面の曲率の変化に伴って、前記切削工具の主分力方向の振動の振幅と位相、及び前記切削工具の背分力方向の振動の振幅と位相とを制御することにより前記切削工具の先端の楕円運動の軌跡を前記被加工物の曲率に合わせて変化させることを特徴とする。
また、この発明に係わる切削加工方法において、主分力方向の最大ストローク(L)を長直径とする楕円形状で、前記被加工物の曲率半径と合致する楕円形状における短直径(H)を求め、前記最大ストローク(L)を主分力方向の振幅とし、前記短直径(H)を背分力方向の振幅とすることを特徴とする。
本発明によれば、良好な表面粗さを短時間で得ることが可能となる。
以下、本発明の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の振動切削加工装置の第1の実施形態の構成を示す図である。図中左側の機構図は切削加工装置の正面図を示しており、右側の機構図は左側の機構図を右側から見た側面図を示している。
図1において、2aはダイヤモンドチップであり、子線方向(Y方向)は円弧状である。5aは切削工具2を主分力方向に振動させるための圧電素子であり、5bは背分力方向に振動させれるための圧電素子である。圧電素子5a,5bの一端はそれぞれ、ベース部材6に弾性ヒンジ6a、6bを介して接着固定されている。また、圧電素子5a,5bの他端は弾性ヒンジ6c、6dを介して振動伝達部材6eに接着固定されている。ベース部材6と振動伝達部材6eはもともと同一部材であり、平板を放電加工により、ベース部(ベース部材6)、ヒンジ部(ヒンジ6a,6b,6c,6d)、圧電素子挿入部(ヒンジ6aと6cの間、及びヒンジ6bと6dの間)、振動伝達部(振動伝達部材6e)として構成したものである。また、主分力方向の変位を拡大するための拡大機構を構成するため、弾性ヒンジ6f、6gが設けられている。
ここで、主分力方向の変位を拡大するための拡大機構の動作について説明する。
図7(a)は、初期状態を示す図である。この状態で、駆動制御装置7により圧電素子5aに通電し変位させると、ヒンジ6a側は変位せず、ヒンジ6c側が移動し、図7(b)に示す状態となる。即ちヒンジ6c部が作用点、ヒンジ6f部が支点となるてこが形成され、切削工具の先端は距離l1とl2の比率で圧電素子の変位が拡大されてS1で示す量だけ移動する。この際ヒンジ6a、6c、6f、6gには圧縮力あるいは引っ張り力と曲げモーメント、ヒンジ6b、6dには主に曲げモーメントがかかるが、弾性ヒンジは圧縮、引張りには剛で、回転モーメントに対しては柔であるため、圧電素子変位方向の変位伝達ロスや、剛性ヒンジを曲げることによる圧電素子の発生力の損失はほとんどなく、変位量の減少は僅かである。同様に、圧電素子5bに通電し変位させるとヒンジ6b側は変位せず、ヒンジ6d側が移動し、図7(c)の状態になる。この際、圧電素子の変位を減少させる力は主にヒンジ6a、6c、6f、6gに加わる曲げモーメントであるが、これも変位量減少に対する影響は微小である。この図7(b)、図7(c)の状態を重ね合わせることにより、楕円運動(回転運動)を行う。
圧電素子5a,5bは150V通電して30μm変位するようなものである。これに駆動制御装置7により75V±55V程度通電し、約20μmの変位を得る。定格電圧をフルにかける場合よりも寿命を伸ばすことができる。2個の圧電素子5a,5bに駆動制御装置7により、位相差が90°のsin波電圧を加えると、l1とl2の比率に応じた切削工具2の先端の長楕円形状の軌跡が得られる。振動の周波数は高い方が、振動切削としての効果は高く、加工能率も高いが、駆動制御装置7の許容電流、圧電素子の寿命、振動伝達部材6eの共振周波数等を考慮して500Hz以下が適当である。
ベース部材6はスペーサ8に固定され、更にスペーサは割り出し盤9に固定されている。割り出し盤9は回転部のロータ9aと、固定部のハウジング9bとからなり、ロータ9aはDCブラシレス等のモータで駆動され、回転角はエンコーダで検出される。割り出し盤9は上下に移動するZスライダ10に搭載されている。被加工物は雇い11により、水平面内を移動するXYスライダ12に固定されている。XYスライダ12、及びZスライダ10は、静圧軸受けで支持され、リニアモータで駆動され、レーザ測長器で位置検出される高精度スライダである。
以上のような構成において、NC装置13内の加工プログラムに、被加工物の母線形状、子線形状、割り出し盤9の回転中心から切削工具2(ダイヤモンドチップ2a)の先端までの距離、切削工具2(ダイヤモンドチップ2a)の子線方向の曲率半径を入力して、被加工物の形状を加工するためのNCデータを作成する。同期信号作成部からは一定クロック間隔で、加工プログラムで作成したNCデータが演算制御部に送られ、ここからXYスライダ、Zスライダ、割り出し軸(ロータ9a)に割り振られた指令値がサーボコントローラ14に送られる。演算制御部での各軸(X、Y、Z、およびロータ)への割り振りは、図2に示すように、切削工具2(ダイヤモンドチップ2a)の先端の楕円軌跡の背分力方向の軸が、母線形状の法線方向と一致するという条件のもとで計算される。また、子線方向においても、切削工具2と被加工物1の当たり点における子線形状の法線方向と切削工具2(ダイヤモンドチップ2a)の円弧の半径方向が一致するという条件も加味されている。サーボコントローラ14から、各リニアモータ及び回転モータに指令位置まで移動させるための電流が与えられ、各軸の位置をレーザ測長器及びエンコーダで検出し、位置検出部がこれを演算制御部に伝え、指令との誤差をゼロにするようなサーボ系が組まれている。
実際の加工手順を図4及び図5を参照して説明すると、切削工具2を常に楕円振動させた状態で、被加工物1の母線方向(X方向)端部b1に対して光学式の関係に当てはまる延長線上a1の点に被加工物1と切削工具2を相対移動させ、子線方向(Y方向)に加工送りし(切削工具と被加工物とをY方向への移動が主になるように相対移動させ)、1ライン分の加工を行う。実際の工具経路は図4のL1であり、a1→b1→c1→d1→e1になり、切削工具の背分力方向が加工面の法線方向に一致するとともにZ方向に変化する面形状であるため、形状に追従するような工具軌跡を満足するためには、X、Z方向にも移動しながら1ラインの加工を行う。その後、母線方向に点e1→e2に移動する送りピッチ分の移動と切削工具の回転割り出しを行う回転軸9により法線角の移動を行い、また子線方向に加工送りを行う(e2→d2→c2→b2→a2)。この動作を繰り返すことにより被加工物1の全面が加工され、結果として目標加工面が得られる。このような加工により、装置移動精度と同等の0.1μmレベルの高い形状精度を得ることができる。
また、この加工手順を、被加工物の側面図である図2を参照して説明すると、切削工具2を常に楕円振動させた状態で、点b1から子線方向(Y方向)に加工送りし、1ライン分の加工を行う。その後、母線方向に送りピッチp1分移動させ、また子線方向に加工送りを行う。この動作を繰り返すことにより被加工物1の全面が加工され、結果として目標加工面1bが得られる。この様な加工により、装置移動精度と同等の0.1μmレベルの高い形状精度を得ることができる。 しかしながら、この様な加工法で、光学部品の型として必要な数十nmレベルの表面粗さを得るには、母線方向送りピッチを非常に細かくする必要があり加工時間が長くなってしまう。例えば、楕円振動の振動振幅が20μmで、母線形状が平面として理論表面粗さ50nmを得る場合、送りピッチは6μmと非常に小さい。そこで、図1に示したように、テコの原理を用いた拡大機構により、主分力方向変位を拡大すると、工具先端の楕円形状も図3に示すように主分力方向に拡大される。理論表面粗さを同一にするという条件において、P1とP2の比率はl1とl2の比率にほぼ比例する。
したがって、圧電素子5aの変位を拡大機構により4倍に拡大すると、P2はP1の4倍にでき、この結果加工時間を1/4にすることができる。ただし、拡大率をあまり大きくすると、振動伝達部材6eが長くなりこの部材の剛性が低下して、楕円振動の振動数と共振して振動の軌跡が不安定になるため、この問題が起きない拡大率である必要がある。また、圧電素子5bの変位を減少させると、楕円がより潰れた形状になり、切削領域の楕円の曲率半径が大きくなるため、送りピッチP2を拡大でき加工時間を短縮できる。背分力方向の振幅の減少比率の平方根にほぼ反比例して送りピッチを拡大できる。例えば、圧電素子5bの振幅を20μmから5μmに減少させると、送りを約2倍にできる。
なお、工具先端の変位拡大機構に関してさらに説明する。
フライカット加工の理論表面粗さは次式で決定される。
理論表面粗さRy=P2/(8×R)
P:母線方向の送りピッチ
R:工具回転軸から工具刃先までの長さ
この式より、
P=√(Ry×8×R)
となる。
フライカット加工の鏡面加工では、Ry=50nm、R=10〜50mm程度を使用しており、Pは63.2μm〜141.1μmになる。
これに対して、振動切削を用いたときの表面粗さと送りピッチは、図6に示すように、工具軌跡が加工面に転写されることから、図中のRy1が表面粗さで、Lが送りピッチとなる。このため、加工時間を現実的なもの且つフライカットより優位にするためには、Lを長くする必要がある。また、実際に市販されているPZTなどの大きさとストロークを考えると、ストローク15μm、長さ20mmであり、取り付けを考慮した大きさから考えると、ストローク45μm程度が限界と考えられ、変位の拡大機構が必要である。
なお、上記の実施形態では、切削工具に楕円振動を与えていたが、相対的に被加工物が振動してもよく、主分力方向の拡大機構も被加工物側に設置されていてもよい。さらに、楕円運動の背分力方向と母線形状の法線方向を一致させるための回転割り出し機構がXYスライダ側にあってもよい。また、圧電素子の機能は磁歪素子によっても果たすことができる。
以上説明したように、上記の第1の実施形態によれば、切削工具の先端を楕円形状に振動させながら、切削工具の振動の軌跡である楕円の背分力方向の軸が、被加工物の加工面の法線方向を常に向くように運動させるとともに、圧電素子等によって得られる楕円振動の主分力方向の振動振幅を拡大機構により拡大することにより、曲率半径の小さな被加工物のフライカット加工において、非常に高い形状精度を得られるとともに、理論表面粗さを劣化させることなく送りピッチを増加させられるため、加工時間を短縮できる。
(第2の実施形態)
図8は、本発明の振動切削加工装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
被加工物101は、母線方向(X方向)の曲率半径が最小数百μmから最大無限大すなわち平面まで変化するような形状である。102aはダイヤモンドバイトであり、子線方向(Y方向)は円弧状であり被加工物全域における子線曲率半径の最小値よりも小さな曲率半径を持っている。105aは切削工具を主分力方向(X方向)に振動させるための圧電素子であり、105bは背分力方向(Z方向)に振動させるための圧電素子である。圧電素子の一端はそれぞれ、ベース部材106に弾性ヒンジ106a,106bを介して接着固定されている。また、圧電素子の他端は弾性ヒンジ106c,106dを介して振動伝達部材106eに接着固定されている。ベース部材106と振動伝達部材106eはもともと同一部材であり、平板を放電加工することにより、ベース部、ヒンジ部、圧電素子挿入部、振動伝達部として構成したものである。また、主分力方向の変位を拡大するための拡大機構を構成するため弾性ヒンジ106f,106gが設けられている。
この状態で、PZT駆動制御装置107aにより圧電素子105aに通電し変位させると、ヒンジ106a側は変位せず、ヒンジ106c側が移動する。これによりヒンジ106c部が作用点、ヒンジ106f部が支点となるてこが形成され、切削工具102の先端は距離l1とl2の比率で圧電素子105aの変位が拡大されて移動する。この際ヒンジ106a,106c,106f,106gには圧縮力或いは引張り力と曲げモーメント、ヒンジ106b,106dには主に曲げモーメントがかかるが、弾性ヒンジは圧縮、引張りには剛で、回転モーメントに対しては柔であるため、圧電素子105aの変位方向の変位伝達ロスや、剛性ヒンジを曲げることによる圧電素子105aの発生力の損失はほとんどなく、変位量の減少は僅かである。同様に、PZT駆動制御装置107bにより圧電素子105bに通電し変位させるとヒンジ106b側は変位せず、ヒンジ106d側が移動する。この際、圧電素子の変位を減少させる力は主にヒンジ106a,106c,106f,106gに加わる曲げモーメントであるが、これも変位量減少に対する影響は微小である。
圧電素子105a,105bは150V通電して30μm変位するようなものである。これに駆動制御装置107a,107bにより75V±55V程度通電し、約20μmの変位を得る。定格電圧をフルにかけるより寿命を伸ばすことができる。2個の圧電素子105a,105bにPZT駆動制御装置107a,107bにより、位相差が90度のsin波電圧を加えると、l1とl2の比率に応じた切削工具先端の楕円形状の軌跡が得られる。振動伝達部材106eをあまり長くするとこの部材の剛性が低下して、楕円振動の振動数と共振して振動の軌跡が不安定になるため、この問題が起きない拡大率である必要がある。
l1が10mmとすると、l2が50mm程度が適当と考えられるため、主分力方向ストロークは100μmとなる。振動の周波数は高い方が、振動切削としての効果は高く加工能率も高いが、PZT駆動制御装置107a,107bの許容電流、圧電素子105a,105bの寿命、振動伝達部材106eの共振周波数等を考慮して500Hz以下が適当である。一般的には、超音波振動周波数の10kHZ〜40kHzを使用するが、これは振動子或いは構造体の共振を利用して振動振幅を拡大するもので、共振状態のため切削抵抗やバイトと被加工物の接触等による共振状態の系変化により振動振幅が変化しやすく、バイト軌跡が意図したものからずれ、形状精度が劣化する可能性があるため、共振状態を使用しない構成とした。
ベース部材106はスペーサ108に固定され、更にスペーサ108は割り出し盤109に固定されている。割り出し盤109は回転部のロータ109aと、固定部のハウジング109bとからなり、ロータ109aはDCブラシレス等のモータで駆動され、回転角はエンコーダで検出される。割り出し盤109は上下に移動するZスライダ110に搭載されている。被加工物は雇い111により、水平面内を移動するXYスライダ112に固定されている。XYスライダ112は、静圧軸受けで支持され、リニアモータで駆動され、レーザ測長器で位置検出される高精度スライダである。
以上のような構成において、バイトを主分力方向と背分力方向に振動させながら子線方向に連続的に送り、1ライン加工後母線方向に送りピッチP分だけ送り、以上の動作を繰り返して全域を加工する。
このような運動をさせるために、NC装置113内の加工プログラム作成部に、被加工物101の母線形状、子線形状、割り出し盤109の回転中心から切削工具102の先端までの距離、切削工具102の子線方向の曲率半径を入力して、被加工物の形状を加工するためのNCデータを作成する。
同期信号作成部からは一定クロック間隔で、加工プログラムで作成したNCデータが演算制御部に送られ、ここから2個の圧電素子105a,105b及びX、Y、Z、割り出し軸に割り振られた指令値がそれぞれのPZT駆動制御装置107a,107bとサーボコントローラ114に送られる。
演算制御部でのPZT駆動制御装置107a,107bへの指令値は、母線の曲率変化に対応させるように、主分力方向に振動する圧電素子105aと背分力方向に振動する圧電素子105bの変位量と両者の位相を算出している。PZT駆動制御装置107a,107bは与えられた指令値をsin波形状の電圧に増幅し、圧電素子105a,105bに与える。これにより、図9のように被加工物の曲率半径が101c,101d,101eと変化しても、バイト先端軌跡形状を被加工物の曲率半径に合わせて102c,102d,102eと変化させることができる。
具体的には、母線方向の送りピッチが最大になることを条件とする軌跡計算をする。図10により説明すれば、主分力方向のストロークLは変位拡大機構により最大100μmであり、そのうち80%のストロークを形状創生に使用するものとし、バイト先端の最下点P1と加工開始点P2、加工終了点P3で母線形状と一致する楕円の短直径Hを求め、バイト先端軌跡形状102fとなるようPZT駆動制御装置107a,107bに指令する。
例えば、母線曲率半径が0.4mmではH=10.00μmである。この場合の圧電素子105a,105bに与える電圧波形は図11のようになる。曲率半径が1mmではH=4.00μm、曲率半径10mmではH=0.40μmとHが減少するが、背分力方向のストロークが減少すると切り粉の排出性が低下するなどして振動切削の利点が損なわれる。このため母線曲率半径が0.4mmより大きな場合は、図12のバイト軌跡102gのようにH=10μmとなるよう加工終了点P3以降は楕円の軌跡より大きく変位させ、その後圧電素子105bに一定電圧を与え、侵入動作を開始し加工開始点P2まで大きく変位させその後は楕円軌道用の電圧を与えることとする。この際の圧電素子への電圧波形は図13のようになる。
曲率半径が拡大機構の腕の長さl2の50mmより大きな場合は、主分力方向のみ最大振動振幅を与え、背分力方向には加工中振動させず非加工時は同様にH=10μmとなるような指令を与える。すなわち、曲率半径が50mmより大きな場合は、バイト旋回半径は常に50mmとなり、非加工時は10μmだけ背分力方向に逃げている。また曲率半径が0.2mm以下では、主分力方向ストロークを最大にすると、背分力方向ストロークが20μmでは不足するため、背分力方向ストローク20μmを固定し、主分力方向ストロークを減少させていく。さらに曲率半径が0.01mm以下では主分力方向ストロークも背分力方向ストロークも曲率半径の2倍の値を取るものとする。
以上をまとめると、母線曲率半径により、主分力方向及び背分力方向の圧電素子のストロークを図14のように指令することになる。
演算制御部からのX、Y、Z、割り出し軸への指令値は、母線曲率半径に応じて母線送りピッチPが主分力方向ストロークの0.8倍になるように計算される。これによりどの様な母線曲率半径であっても常に最大の送りピッチが得られ加工時間の短縮が可能になる。また演算制御部からの指令値は切削工具の先端の楕円軌跡の背分力方向の軸が、母線形状の法線方向と一致するという条件のもとで計算され、更に子線方向においても、切削工具と被加工物の当たり点における子線形状の法線方向と切削工具の円弧の半径方向が一致するという条件も加味されている。
各PZT駆動制御装置107a,107bからは、バイト先端を楕円運動させるため変位指令に見合った電圧が圧電素子に印加され、サーボコントローラからは、各リニアモータ及び回転モータに指令位置まで移動させるための電流が与えられ、各軸の位置をレーザ測長器及びエンコーダで検出し、位置検出部がこれを演算制御部に伝え、指令との誤差をゼロにするようなサーボ系が組まれている。
上記のような構成によれば、図9において、例えば101c部分の曲率半径が5mm、101d部分の曲率半径が100mm、101e部分の曲率半径が0.1mmで、母線の長さが約100mmであるような母線曲率半径変化が大きくサイズも大きな被加工物に対し、理論表面粗さを20nmに設定しても、2〜3時間程度で加工することができる。
この方式の加工では、母線形状を楕円で近似しているので本来の形状からの形状誤差が生じるが、この量は例えば曲率半径1mmでは50nm、曲率半径10mmでは5nmと形状誤差としてはほとんど無視できるオーダーである。さらに形状誤差を少なくする場合には、演算制御部で母線曲率半径に応じたsin波形の歪み率を計算し、PZT駆動制御装置107a,107bにおいて波形を歪ませる回路を加えればよい。
以上の実施形態では、主に母線形状が凹の場合について説明したが、平面及び凸形状の場合には、バイト旋回半径を50mmとした動きをさせ、母線送りピッチは旋回半径50mmと母線曲率半径と要求される理論表面粗さから算出すればよい。
また、子線方向に1ライン分連続約に加工し、母線方向にあるピッチ分送る方式について説明したが、母線方向に1ライン分連続的に加工し、子線方向にピッチ送りする加工もできる。この場合は、母線加工中にバイト先端軌跡を連続的に変化するようPZT駆動制御装置に指令する。
また、図15のような複数の自由曲面が連続している形状においても、従来は101fの部分で分割して加工する必要があったが、第2の実施形態によれば1fにおいて0.1mm程度の曲率半径を付けることにより、1個の被加工物として連続的に加工可能であり、部品コスト低減、段取り・加工の時間短縮、複数部品の位置合わせ誤差による形状精度劣化の防止が可能となった。
これらの振動切削装置と加工法によって、レーザービームプリンターのスキャナ光学系に使用されるトーリックレンズやヘッドマウントディスプレイ用プリズム等の自由曲面形状の光学素子を高精度に短時間で切削加工することができる。光学プラスチック材料であれば直接切削することができ、ガラス材料でも切り込みが数μm以下であれば加工できる。
また量産用のリン青銅や真鍮、鋼材や超硬材にニッケル系切削層を付けた金型を加工できるので、これらを用いたプラスチック成形やガラス成形により、自由曲面光学素子の量産が可能である。さらにこれら光学素子により、光学部品点数削減、光学性能向上ができ、製品の小型、高性能、コストダウンができる。
以上説明したように、主分力方向の変位が最大100μm程度とれる振動切削装置と4軸NC装置を用い、バイト先端の軌跡が被加工物の曲率半径に近くなるよう、背分力方向の振動振幅と主分力方向の振動振幅と両者の位相を制御することにより、従来実質的に製作できなかった数mm以下の曲率半径を持つ自由曲面光学素子を数十nmの良好な表面粗さと、量産において実用上問題ない数時間程度の時間で、プラスチックやガラスあるいはその金型において製作が可能になり、さらに曲率半径が数μmから平面まで、そして凹から凸まで変化するような自由曲面形状の素子も加工可能となる。
本発明の第1の実施形態の振動切削加工装置の構成を示す図である。 加工形状の生成状態を示す図である。 加工形状の生成状態及び送り拡大状態を示す図である。 被加工物の加工状態を示す図である。 図4の側面図である。 切削工具の刃先の軌跡を示す図である。 切削工具の主分力方向の変位を拡大する動作を示す図である。 本発明の振動切削装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。 バイト先端軌跡の変化を示す図である。 バイト先端軌跡の詳細を示す図である。 圧電素子への印加電圧を示す図である。 母線曲率半径が大きな場合のバイト先端軌跡の詳細を示す図である。 図12における圧電素子への印加電圧を示す図である。 母線曲率半径と圧電素子の変位量の関係を示す図である。 母線曲率半径が不連続に変化する被加工物を示す図である。 従来のフライカット加工方式を示す図である。 従来の振動切削による加工形状生成状態を示す図である。
符号の説明
1 被加工物
2 切削工具
5a,5b 圧電素子
6a,6b,6c,6d,6g,6f 弾性ヒンジ
6e 振動伝達部材
7 駆動制御装置
9 割り出し盤
13 NC装置
14 サーボコントローラ

Claims (2)

  1. 切削工具と被加工物とを相対的に主分力方向と背分力方向とに振動させながら前記被加工物を切削加工するための切削加工方法において、
    前記被加工物の加工面の曲率の変化に伴って、前記切削工具の主分力方向の振動の振幅と位相、及び前記切削工具の背分力方向の振動の振幅と位相とを制御することにより前記切削工具の先端の楕円運動の軌跡を前記被加工物の曲率に合わせて変化させることを特徴とする切削加工方法。
  2. 主分力方向の最大ストローク(L)を長直径とする楕円形状で、前記被加工物の曲率半径と合致する楕円形状における短直径(H)を求め、前記最大ストローク(L)を主分力方向の振幅とし、前記短直径(H)を背分力方向の振幅とすることを特徴とする請求項1記載の切削加工方法。
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