JP4761679B2 - 非円形加工機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、加工物を加工する加工機、より詳細には、加工物を非円形体に加工する加工機に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関、例えば自動車、航空機その他の装置に採用されている内燃機関において使用されているピストンの断面形状は、一般には円形断面を有していると言われているが、より詳細には、燃焼工程において発生する高熱によるピストン及び/又はシリンダー内部の熱変形や、シリンダ内部を摺動するピストンを締め付ける際に発生する締め付け変形等を考慮して、ピストンの断面形状は真円ではなく、僅かに楕円形状に形成されていることは知られている。しかしながら、その変形度合いは僅かで、例えば、自動車用ピストンにおいては長径と短径との差は約0.1mm程度である。そして、このピストンの外周面の加工は、これまでは通常、倣い旋盤により行なわれている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このピストンを加工する際の倣い旋盤の主軸の回転数は、一般には600rpm〜800rpm程度であり、このように比較的低い回転数に設定するのは、倣い旋盤作業において触針が確実にマスターモデルをトレースするためであり、主軸の回転数が高回転になると、触針がマスターモデルから離れてしまい、高精度に加工することが難しくなる。その結果、これまでの倣い旋盤作業における非円形体加工は、その作業効率が大きく制限されていた。
【0004】
更に、今日の高速往復運動をもたらす起動装置において、例えばそこで使用されるピストンの断面形状は、従来の楕円形状のみならず、楕円成分に更に高次の非円形成分を加えた、より高度な断面形状を有するピストン形状の実現化が望まれている。しかし、公知の倣い旋盤作業においてはその様な複雑な形状のピストン加工はマスターモデルが複雑になるため、ほとんど出来ないか又は非常に困難である。そのため、これまでそのような要求を満たすべく電気・油圧制御による加工機、電磁力と圧電素子の駆動による加工機、さらにはリニアモーターを利用した加工機、等が開発されているが、何れも所望の非円形成分の加工を高速かつ高精度な状態で実現するまでには至っていない。
【0005】
本発明の目的は、共振現象を利用して、任意の形状の非円形体を高速かつ高精度に加工することができる加工機を提供することである。
【0006】
本発明は、加工機本体と、この加工機本体に回転自在に支持された主軸と、前記主軸に取付けられた加工物取付け手段と、前記主軸の軸線に実質上平行な第1の方向及びこの第1の方向に対して実質上垂直な第2の方向に移動自在に前記加工機本体に支持された移動テーブルと、前記移動テーブルに弾性手段を介して支持された加工工具と、前記弾性手段を振動させるための加振手段と、前記加振手段を加振制御するための制御系と、を具備し、
前記制御系は、前記主軸の回転数に同期した駆動制御信号を加振手段に送給し、前記加振手段は、前記駆動制御信号に基づいて前記弾性手段を加振し、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持し、この共振状態の前記加工工具が前記加工物取付け手段に取付けられた加工物に非円形加工を施すことを特徴とする非円形加工機である。
【0007】
本発明に従えば、加工工具は弾性手段を介して移動テーブルに支持され、制御系は加振手段を加振制御し、加振手段は弾性手段を介して加工工具を共振状態に保持し、このような共振状態において加工工具が加工物に加工を施す。このとき、制御系は主軸の回転数に同期した駆動制御信号、例えば主軸の一回転当たり2回又は3回以上の所定回数加振するための駆動信号を生成し、この駆動制御信号に基づいて加振手段が弾性手段を加振するので、加工物の周方向の第1特定部位においては、加工工具が加工物に近接する方向に幾分突出して作用するようになり、また加工物の周方向の上記特定部位とは異なる他の第2特定部位においては、加工工具が加工物から離隔する方向に幾分後退して作用するようになり、従って、加工物を所望の非円形形状、例えば楕円形等に加工することができる。また、このような加工では、倣い旋盤のように触針を用いてマスタシリンダーをトレースする必要はなく、それ故に、高速で加工することが加工となり、加工効率を高めることができる。尚、加振手段としては、圧電素子、磁歪素子等を用いることができる。
【0008】
また、本発明では、前記加振手段が前記弾性手段を加振する圧電素子から構成され、前記圧電素子に印加される電圧によって前記弾性手段が加振され、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持することを特徴とする。
【0009】
本発明に従えば、加振手段が圧電素子から構成されるので、圧電素子に電圧を印加することによって、弾性手段を共振させて加工工具を共振状態に保持することができ、比較的簡単な構成でもって加工物を非円形状に加工することができる。
【0010】
また、本発明では、前記弾性手段は、一対の板ばねから構成され、前記一対の板ばねの長手方向中間部間に、前記加振手段による加振運動を増幅するための質量体が取り付けられ、前記質量体に前記加工工具が装着されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に従えば、弾性手段は一対の板ばねから構成され、かかる一対の板ばねの長手方向中間部に質量体、例えばブロック状の部材が装着され、この質量体に加工工具が装着されているので、共振状態における変位を一対の板ばね及び質量体により拡大することができ、この拡大変位機能を利用して加工物を所望形状の非円形状に加工することができる。
【0012】
また、本発明では、前記加工機本体は加工物を切削加工するための旋盤本体であり、前記加工物取付け手段は加工物を着脱自在に保持するためのチャック手段であり、前記加工工具は加工物を切削加工するための切削工具であり、前記加振手段は前記主軸の一回転当たり複数回の割合で前記弾性手段を加振し、これによって、加工物の外径が非円形になるように切削加工されることを特徴とする。
【0013】
本発明に従えば、加工機本体が旋盤本体であり、加工物取付け手段がチャック手段であり、また加工工具が切削工具であるので、通常の旋盤、例えばNC旋盤を用いて加工物を非円形状に加工することができる。
【0014】
また、本発明では、前記弾性手段が前記加工工具を支持するためのばね手段から構成されていることを特徴とする。
本発明に従えば、弾性手段がばね手段、例えば板ばねから構成されているので、簡単な構成でもって加工工具を共振させることができる。
【0015】
更に、本発明は、加工機本体と、前記加工機本体の作動を制御する制御系と、により構成される非円形体を加工する加工機であって、
前記加工機本体は、前記加工機本体に回転自在に支持された主軸と、この主軸と一体的に回転駆動し、前記加工物を着脱自在に保持するチャック手段と、前記主軸の軸線と実質上平行な第1の方向及びこの第1の方向に対して実質的に垂直な第2の方向に移動可能に支持された移動テーブルと、前記移動テーブルに装着され、前記加工物を切削加工するための加工工具と、を有しており、
前記加工工具は、前記移動テーブルに弾性手段及び質量体を介して支持され、前記弾性手段は加振手段によって増幅振動するように構成されており、
前記制御系は、前記加工工具の位置を測定するための位置測定手段と、切削加工条件を予め設定するための加工条件設定手段と、前記加振手段を駆動するための駆動手段と、を有しており、
前記制御系は、前記加工条件設定手段からの設定信号及び前記位置測定手段からの測定信号に基づいて駆動制御信号を生成し、前記駆動手段は、前記駆動制御信号に基づいて前記加振手段を加振し、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持し、この共振状態の前記加工工具が前記チャック手段に取付けられた加工物に非円形加工を施すことを特徴とする非円形加工機である。
【0016】
本発明に従えば、加工物を加工する加工工具は、移動テーブルに弾性手段及び質量体を介して支持され、弾性手段は加振手段によって増幅振動するように構成されているので、加工工具は、増幅振動状態、即ち共振振動状態において加工物を加工し、加工物を非円形状の所望形状に加工すことができる。また、位置測定手段は加工工具の位置を測定し、制御系は加工条件設定手段により設定された加工条件と位置測定手段により測定した位置に基づいて駆動制御信号を生成し、駆動手段はこの駆動制御信号に基づいて加振手段を駆動するので、加工物を高精度に加工することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う非円形加工機の一実施形態について説明する。図1は、本発明に従う非円形加工機の一例としてのNC旋盤の一実施形態を簡略的に示す正面図であり、図2は、図1のNC旋盤の加工工具及びその近傍を簡略的に示す斜視図である。
【0018】
図1において、図示のNC旋盤は、加工機本体としての旋盤本体2を備え、この旋盤本体2が例えば工場の床面に設置される。旋盤本体2の一端部(図1において右端部)には主軸部4が設けられ、この主軸部4内に主軸(図示せず)が回転自在に支持されている。この主軸には、加工物取付け手段としてのチャック手段6が取り付けられ、このチャック手段6は主軸と一体的に所定方向に回転される。例えば切削加工を施す加工物7は、このチャック手段6に着脱自在に取り付けられる。
【0019】
旋盤本体2には、移動テーブル機構8が設けられている。この移動テーブル機構8は、往復テーブル12及び移動テーブル16を備え、往復テーブル12が主軸(図示せず)の軸線に実質上平行である第1の方向(図1において左右方向)に延びる第1の案内機構10に移動自在に支持され、また移動テーブル16が上記第1の方向に対して実質上垂直である第2の方向(図1において紙面に垂直な方向)に延びる第2の案内機構14に移動自在に支持されている。このように構成されているので、移動テーブル16は上記第1及び第2の方向に移動自在に旋盤本体2に支持されている。
【0020】
この実施形態では、加工物7を加工するための加工工具18、例えば切削工具は、この移動テーブル16に取り付けられる。図2をも参照して更に説明すると、移動テーブル16の上面には工具支持体20が固定され、この工具支持体20に弾性手段22を介して加工工具18が取り付けられている。工具支持体20は、移動テーブル16に取り付けられる下支持部材24と、この下取付部材24の上方に配置された上取付部材26と、これら取付部材24,26を接続する接続部材27とから構成されている。弾性手段22はばね手段、この実施形態では一対の板ばね28,30から構成され、一対の板ばね28,30の長手方向(図2において上下方向)の中間部には、これら板ばね28,30を挟むように質量体32,34が取り付けられている。質量体32,34はブロック状の部材から構成され、それらの一方34の先端部外面に加工工具18が取り付けられている。
【0021】
この工具支持体20には、更に、一対の板ばね28,30を加振するための加振手段36と、加工工具18の位置を測定するための位置測定手段38が設けられている。この形態では、加振手段36は圧電素子40から構成され、この圧電素子40が工具支持体20の下取付部材24の内面に取り付けられ、その出力部が一方の板ばね30に作用するように構成されている。また、位置測定手段38は例えばレーザ変位計42から構成され、このレーザ変位計42が接続部材28の内面に取り付けられている。このように構成されているので、圧電素子40の出力部を短時間の周期でもって伸張させることによって、その出力部が板ばね30に作用し、これによって一対の板ばね28,30を加振することができる。また、レーザ変位計42は、例えば質量体32(又は質量体34、板ばね28、加工工具18)に向けてレーザ光を投射し、そして質量体32(又は質量体34、板ばね28、加工工具18)からの反射レーザ光を受光し、このようにして質量体32(又は質量体34、板ばね28、加工工具18)の位置(即ち加工工具18の位置)を計測する。尚、実施形態では、圧電素子40によって板ばね30を加振しているが、他方の板ばね28を加振するようにしてもよく、或いは双方の板ばね28,30を同時に加振するようにしてもよい。また、加振手段36としては、磁歪素子等の他の素子を用いるようにしてもよい。また、位置測定手段38は静電容量型非接触変位計等を使用してもよい。
【0022】
一般に、圧電素子40は電圧が供給された時に供給された電圧にほぼ比例してその出力部が伸張して変位するが、圧電素子を単体で使用した場合にはその変位量が一般に50μm以下であり、更に圧電素子40には予荷重が必要であるため、この圧電素子40自体に切削工具18を取付けて動作させたときには、その変位量は大きくても10μm程度であり、加工工具18を充分に移動させることができない。これに対し、上述したように、弾性手段22(この形態では一対の板ばね28,30)を介して加工工具18を取り付け、この弾性手段22を加振手段36(この形態では圧電素子42)によって加振して加工工具18を共振状態に保持したときには、一対の板ばね28,30の増幅作用によって加工工具18の変位を拡大することができ、後述するように加工物7を所望の非円形状に加工することができる。
【0023】
図3は、図2に示す工具支持構造体の各周波数におけるコンプライアンス(μm/N)及び位相角度を示したもの、即ち伝達関数を有限要素解析にて予測したものである。
【0024】
上述の予測を基に、NC旋盤の主軸にロータリーエンコーダ(図示せず)を取付け、このロータリーエンコーダーから送られてくる回転角度情報を基礎として工作物、即ち加工物7の回転に同期し且つ共振周波数付近になるように圧電素子40に変位データを与えることにより、加工工具18は共振して変位が拡大されることが実験的にも確認できた。このとき、加工工具18(例えば切削工具)の運動が主軸(図示せず)の一回転当たりに2波長の正弦波に支配されるようにすれば、加工される加工物7の断面形状は楕円形状となる。更に、加工工具18の位置測定に、例えば分解能0.1μm程度のレーザ変位計42を使用し、このレーザ計測計42によって加工工具18の取付部位の位置を測定してフィードバック制御することにより一層高精度の非円形加工が実現することが出来る。
【0025】
このような加工工具18の位置測定によるフィードバック制御を行うために、更に、次のように構成されている。再び図2を参照して、工具支持体20に関連して制御系52が設けられている。図示の制御系52は、加工物7の加工条件等を予め設定するための制御手段54、信号変換手段58及び差動増幅回路60を備えている。制御手段54は、例えばパソコン56から構成され、パソコン56の入力手段、例えばキーボード57、マウス等によって加工条件が入力され、パソコン56からの加工条件等のデジタル信号が信号変換手段58によってアナログ信号へ変換され、かく変換されたアナログ信号が差動増幅回路60の一方の入力部に送給される。この差動増幅回路60の他方の入力部には、レーザ計測計42からの位置計測信号が入力される。差動増幅回路60は、信号変換手段58からの信号及びレーザ計測計42からの計測信号に基づいて駆動制御信号を出力し、かかる駆動制御信号が、加振手段36としての圧電素子40を駆動するための駆動回路62(駆動手段を構成する)に送給され、駆動回路62はかかる駆動制御信号に基づいて駆動信号を生成し、この駆動信号によって圧電素子40が加振される。
【0026】
このようなNC旋盤では、圧電素子40に上述したようにして駆動信号が送られ、この圧電素子40の変位によって一対の板ばね28,30に振動が加えられ、板ばね28,30、質量体32,34及び加工工具18が矢印で示す方向(図2において左右方向)に共振状態に保持される。この共振状態において加工工具18によって加工物7を加工すると、例えば図2に示す位置、即ち加工工具18が図2において最も右方へ移動した近接位置(加工工具18が加工物7に最も近接する位置)においては、加工工具18が加工物7を幾分大きく加工し、従って、加工物7は、周方向におけるその部位が短径部となるように加工される。一方、加工工具18が図2において最も左方に移動した離隔位置(加工工具18が加工物7から最も離隔する位置)においては、加工工具18が加工物7を加工する加工量が幾分少なくなり、従って、加工物7は、周方向におけるその部位が長径部となるように加工される。
【0027】
このように加工するので、加工物7の回転数、即ちNC旋盤の主軸(図示せず)に同期して加工工具18を共振状態に保持し、この共振状態において、加工工具18が図2に示す近接位置から上記離隔位置に移動するときには、加工物7の回動に伴って加工工具18による加工量が少しずつ少なくなり、従って、加工物7は、その径が漸増されるように加工されるのに対し、加工工具18が上記離間位置から上記近接位置に移動するときには、加工物7の回転に伴って加工工具18による加工量が少しずつ多くなり、従って、加工物7は、その径が漸減されるように加工される。このようなことから、例えば、加工物7の1回転当たり加工工具18を2回振動させる、換言すると加工物7の1回転当たり圧電素子40によって2回加振することによって、主軸(図示せず)の特定角度位置及びこのこの特定角度位置から180度回動した角度位置において加工工具18が上記近接位置に位置し、また上記特定角度位置から90度回動した角度位置及びこの角度位置から180度回動した角度位置において加工工具18が上記離間位置に位置するようになる。従って、このように設定した場合、加工物7を楕円形状に加工すことができる。
【0028】
このような共振状態における加工中、レーザ計測計42が質量体32の位置を逐次計測し、その計測データが差動増幅回路60に送給され、差動増幅回路60はこの測定データ及び制御手段56からの加工条件の信号に基づいて、圧電素子40を駆動制御するための駆動制御信号を生成するので、高精度に加工工具18の軌跡を制御することができ、加工物7を所望形状に一層高精度に加工することができる。
【0029】
図4は、図1及び図2に示すNC旋盤を用いて周波数測定を行なった結果を示している。この周波数測定結果から、加工工具18が46.5Hzで共振していることが分かる。このことは、加工物7を例えば楕円形状に加工するためにはNC旋盤の主軸回転数に換算すると、1395rpmに相当する。これは、従来の倣い旋盤方式に比較して約2倍の回転数に相当し、従来に比して高速で楕円形状に切削加工することができることが分かる。また、図4から、近接する周波数付近には共振モードが存在しないことから、この付近の周波数により加振を行なえば、加工工具18の運動はほとんど正弦波状態にて運動することが予想される。更に、この周波数付近以外の指令値に対しては加工工具18は共振時の10%程度の運動が得られることが明らかとなった。
【0030】
また、図1及び図2に示すNC旋盤を用いてオープン制御による非円形加工実験を行なった。理想的には無負荷時の振幅が切削時の振幅と一致することが望ましいが、実際には周期的な切削力の変動が加工工具18の振動に影響を与える。そこで、加工物7の最終的な加工形状である楕円の長径寸法、短径寸法及び振幅に関する目標値を制御手段54(パソコン56)によって設定し、設定した切削条件でもって切削加工を行なった。これは、長径寸法を形成する振幅から短径寸法を形成する振幅を引いた振幅になるように正弦波状の目標値を設定して加工工具18の振動を制御するためである。制御手段54を構成しているパソコン56のメモリ(図示せず)へ予め保存されている形状データをパソコン56のアナログ電圧出力ポートを介して電圧を出力し、加振手段36としての圧電素子40に制御信号を送った。これにより圧電素子40が一対の板ばね28,30を介して加工工具18を共振周波数で振動し、こうして加工工具18は最大の振動変位を発生した。
【0031】
圧電素子40には常に正の電圧を与えるのが望ましい。それは圧電素子40自体は、電圧を印加していない状態から伸び縮みするのではなく、電圧を印加したときにのみその電圧の強さに比例して伸張するようにするためであり、このように制御することによって、加工工具18は、圧電素子40を常に伸張させて加振されるようになり、圧電素子40へオフセット電圧を印加して、この圧電素子40をある所定の基準位置へ設定するようにする。そこで、基本となる目標値と振幅の(1/2)の値とをオフセット電圧として設定し、圧電素子40が常に伸びる方向への運動となるような電圧を印加するのである。
【0032】
図5は圧電素子40に供給電圧2Vを与えた場合におけるパソコンからの目標値(破線)と実加工時における加工工具18の変位量(実線)をNC旋盤の主軸回転角度で計測したものであり、図6は両者の角度変化に基づく軌跡誤差を示したものである。
【0033】
これらより目標値と実際の加工工具の変位の最大誤差は約±2μmとなり、良好な楕円切削が実現できた。
また、図7は供給電圧と加工工具の最大変位量との関係を示したものである。これより、400μm程度まで圧電素子40への供給電圧の増加に対する加工工具18の変位振幅は比例的に増大することが分かる。
【0034】
次に、NC旋盤の主軸へ取付けたロータリーエンコーダ(図示せず)を利用し、このロータリーエンコーダから送られてくる回転角度情報を基に加工物7の回転に(1/2)倍の周期に同期して共振している加工工具18付近の変位データからレーザ変位計42による現在値データを上述したようにフィードバック制御しながら加工物7を加工した。その結果は、左記の図5と図6及び図7と同様に、図8と図9及び図10に示す通りであり、図8は、目標値に対する加工作業中の加工工具18の応答状態を示し、図9は、目標値に対する角度変化に基づく軌跡誤差を示している。図8から、加工工具18の変位は目標とする正弦波状となっていることが分かり、また最大切込み深さが138μmのとき、楕円形状は長径と短径との差がその約2倍の272μmとなるが、上述したフィードバック制御を行なうことにより、図9に示すように、加工後の形状誤差がオープン制御の場合とほぼ同一の±2.5μm以内になっていることが分かる。
【0035】
更に、図10は、フィードバック制御時における供給電圧に対する加工工具18の振幅を示している。図10から明らかなとおり、圧電素子40への供給電圧にほぼ比例して加工工具18の振幅も増加していることが分かる。また、図11は、同様にフィードバック制御時における供給電圧に対する加工物7の形状誤差を示している。図11に示す通り、このNC旋盤においては何れの切込み作業においても、ほぼ±2.5μmの形状誤差内にて加工物7の加工を行うことができた。
【0036】
以上、本発明に従う非円形加工機の一実施形態をNC旋盤に適用して説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、その他の加工機、例えば中ぐり盤等に適用することができ、中ぐり盤に適用した場合には、楕円形状の穴加工を行うことができる。
【0037】
また、例えば、上述した実施形態では、加工工具18を主軸の1回転当たり2回振動(1周期が1/2回転となる)させて加工物7を楕円形状に加工しているが、これに限定されることなく、主軸1回転当たり3回振動(1周期が1/3回転となる)させるようにしてもよく、或いは主軸1回転当たり4回以上振動させるようにしてもよい。
【0038】
【発明の効果】
本発明の請求項1の非円形加工機によれば、加振手段は主軸の回転数に同期して弾性手段を介して加工工具を共振状態に保持し、このような共振状態において加工工具が加工物に加工を施すので、加工物の周方向の第1特定部位においては、加工工具が加工物に近接する方向に幾分突出して作用するようになり、また加工物の周方向の上記特定部位とは異なる他の第2特定部位においては、加工工具が加工物から離隔する方向に幾分後退して作用するようになり、従って、加工物を所望の非円形形状、例えば楕円形等に加工することができる。
【0039】
また、本発明の請求項2の非円形加工機によれば、加振手段が圧電素子から構成されるので、圧電素子に電圧を印加することによって、弾性手段を共振させて加工工具を共振状態に保持することができ、比較的簡単な構成でもって加工物を非円形状に加工することができる。
【0040】
また、本発明の請求項3の非円形加工機によれば、弾性手段に質量体が装着され、この質量体に加工工具が装着されているので、共振状態における変位を質量体により拡大することができ、この拡大変位機能を利用して加工物を所望形状の非円形状に加工することができる。
また、本発明の請求項4の非円形加工機によれば、通常の旋盤、例えばNC旋盤を用いて加工物を非円形状に加工することができる。
【0041】
また、本発明の請求項5の非円形加工機によれば、弾性手段が、ばね手段から構成されているので、簡単な構成でもって加工工具を共振させることができる。
【0042】
更に、本発明の請求項6の非円形加工機によれば、位置測定手段は加工工具の位置を測定し、加工条件設定手段により設定された加工条件と位置測定手段により測定した位置に基づいて駆動手段が加振手段を駆動するので、加工物を高精度に非円形加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う非円形加工機の一例としてのNC旋盤の一実施形態を簡略的に示す正面図である。
【図2】図1のNC旋盤の加工工具及びその近傍を簡略的に示す斜視図である。
【図3】図1のNC旋盤における加工工具の共振周波数とそのときの加工工具の変位拡大の状態を有限要素解析により予測し、コンプライアンス及び位相角度にて示している図である。
【図4】図1のNC旋盤における加工工具の周波数解析を行なった結果を示す図である。
【図5】図1のNC旋盤において、オープン制御による目標値(圧電素子への供給電圧)と加工工具の振幅との関係を示す図である。
【図6】図1のNC旋盤において、オープン制御における目標値に対する角度変化に基づく加工工具の軌跡誤差を示す図である。
【図7】図1のNC旋盤において、オープン制御による圧電素子への供給電圧と加工工具の振幅との関係を示す図である。
【図8】フィードバック制御時における圧電素子への供給電圧の目標値と加工工具の振幅との関係を示す図である。
【図9】フィードバック制御時における目標値に対する角度変化に基づく加工工具の軌跡誤差を示す図である。
【図10】フィードバック制御時における目標値(圧電素子への供給電圧)に対する加工工具の振幅を示す図である。
【図11】フィードバック制御時における目標値(圧電素子への供給電圧)に対する加工物の加工後の形状誤差を示す図である。
【符号の説明】
2 旋盤本体
4 主軸部
6 チャック手段
7 加工物
8 移動テーブル機構
16 移動テーブル
18 加工工具
20 工具支持体
22 弾性手段
28,30 板ばね
32,34 質量体
36 加振手段
38 位置測定手段
40 圧電素子
42 レーザ変位計
54 制御手段
60 作動増幅回路
62 駆動回路
Claims (6)
- 加工機本体と、この加工機本体に回転自在に支持された主軸と、前記主軸に取付けられた加工物取付け手段と、前記主軸の軸線に実質上平行な第1の方向及びこの第1の方向に対して実質上垂直な第2の方向に移動自在に前記加工機本体に支持された移動テーブルと、前記移動テーブルに弾性手段を介して支持された加工工具と、前記弾性手段を振動させるための加振手段と、前記加振手段を加振制御するための制御系と、を具備し、
前記制御系は、前記主軸の回転数に同期した駆動制御信号を加振手段に送給し、前記加振手段は、前記駆動制御信号に基づいて前記弾性手段を加振し、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持し、この共振状態の前記加工工具が前記加工物取付け手段に取付けられた加工物に非円形加工を施すことを特徴とする非円形加工機。 - 前記加振手段が前記弾性手段を加振する圧電素子から構成され、前記圧電素子に印加される電圧によって前記弾性手段が加振され、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持することを特徴とする請求項1に記載の非円形加工機。
- 前記弾性手段は、一対の板ばねから構成され、前記一対の板ばねの長手方向中間部間に、前記加振手段による加振運動を増幅するための質量体が取り付けられ、前記質量体に前記加工工具が装着されていることを特徴とする請求項2記載の非円形加工機。
- 前記加工機本体は加工物を切削加工するための旋盤本体であり、前記加工物取付け手段は加工物を着脱自在に保持するためのチャック手段であり、前記加工工具は加工物を切削加工するための切削工具であり、前記加振手段は前記主軸の一回転当たり複数回の割合で前記弾性手段を加振し、これによって、加工物の外径が非円形になるように切削加工されることを特徴とする請求項2又は3に記載の非円形加工機。
- 前記弾性手段が前記加工工具を支持するばね手段から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の非円形加工機。
- 加工機本体と、前記加工機本体の作動を制御する制御系と、により構成される非円形体を加工する加工機であって、
前記加工機本体は、前記加工機本体に回転自在に支持された主軸と、この主軸と一体的に回転駆動し、前記加工物を着脱自在に保持するチャック手段と、前記主軸の軸線と実質上平行な第1の方向及びこの第1の方向に対して実質的に垂直な第2の方向に移動可能に支持された移動テーブルと、前記移動テーブルに装着され、前記加工物を切削加工するための加工工具と、を有しており、
前記加工工具は、前記移動テーブルに弾性手段及び質量体を介して支持され、前記弾性手段は加振手段によって増幅振動するように構成されており、
前記制御系は、前記加工工具の位置を測定するための位置測定手段と、切削加工条件を予め設定するための加工条件設定手段と、前記加振手段を駆動するための駆動手段と、を有しており、
前記制御系は、前記加工条件設定手段からの設定信号及び前記位置測定手段からの測定信号に基づいて駆動制御信号を生成し、前記駆動手段は、前記駆動制御信号に基づいて前記加振手段を加振し、これによって、前記弾性手段が共振して前記加工工具を共振状態に保持し、この共振状態の前記加工工具が前記チャック手段に取付けられた加工物に非円形加工を施すことを特徴とする非円形加工機。
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