JP4342071B2 - 新規なヒドロシリル化触媒及びその製造方法 - Google Patents

新規なヒドロシリル化触媒及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の水素化珪素化合物(加水分解性シラン化合物)とアルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を有する化合物とのヒドロシリル化反応を促進するコロイド状の触媒に関するものであり、更に詳しくは、長時間に渡り活性を維持することが可能なコロイド状の触媒および調製方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
SiH基を有する水素化珪素化合物が、アルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)に付加する反応は、一般にヒドロシリル化反応とよばれている。ヒドロシリル化反応には、第8族金属を含む触媒が反応促進に有効であり、特に白金を含む触媒に高性能なものが多い。
【0003】
この反応を利用する技術分野で知られている主要な問題点として、反応中に触媒の活性が低下する等の理由により、反応途中でヒドロシリル化反応の速度が低下したり、あるいは反応が停止することが挙げられる。
【0004】
また、第8族金属を含む触媒を用いるヒドロシリル化反応においては、微妙な操作条件の違いにより反応速度が大きく変化してしまう為、生成物の物性が安定しないと言う問題が生じる場合がある。この原因は、第8族金属を含む触媒を用いる場合のヒドロシリル化反応の反応メカニズムにある。従来は、この種のヒドロシリル化反応は均一触媒系の反応と考えられて来た。しかし、最近の研究により錯体とSi−H基を有する水素化珪素化合物とが反応することにより生成する第8族金属のコロイド粒子が本質的な触媒であることが解ってきた(Lewis,J. American Chemical Soc.,1990,112,5998)。更に詳しく説明すると、コロイド粒子の生成反応は、第8族金属の錯体、若しくは金属塩とSiH基を有する水素化珪素化合物の混合比、濃度、雰囲気の酸素濃度等により大きく異なる為、ヒドロシリル化反応の系内に第8族金属の錯体触媒をそのまま添加しても十分な活性を有する第8族金属のコロイド粒子が生成しない場合がある。
【0005】
また、反応速度の低下や不安定化の弊害は、反応に要する時間が長くなるばかりでなく、副反応の割合が相対的に増大して所望のヒドロシリル化反応の選択性が低下することにもつながる。
【0006】
高価な第8族金属触媒の添加量を増やすことにより反応を加速することは可能であるが、反応速度の不安定化を解決することは困難であるし、反応生成物中に残留する触媒量が増えるためその後の利用にとって好ましくない場合もある。特に高分子化合物のヒドロシリル化反応の場合は、触媒由来の黒色粉末を除去することが困難であるため、製品が黒く濁ってしまうという問題がある。
【0007】
また、ヒドロシリル化反応を促進する為の物質を添加する方法もある。反応を促進する有効な物質についても、アセチレンアルコール類(特開平8−231563)、不飽和の第二及び第三アルコール類(特開平8−291181)、第三アルコール類(特開平8−333373)、不飽和ケトン類(特開平8−208838)、エン−イン不飽和化合物(特開平9−25281)、硫黄化合物(特開平11−080167)等を添加する方法が知られている。しかし、これらの添加剤をヒドロシリル化反応の反応系に添加すると最終製品中に添加剤が残留してしまい、好ましくない。また、反応速度の不安定化を解決することもできない。
【0008】
最も有効な方法の一つとしては、先に述べたヒドロシリル化反応の触媒のメカニズムを利用し、予め作製した第8族金属のコロイド溶液を触媒として用いる方法がある。公知の技術としては、白金の錯体や塩化物にエトキシシランを添加して作成した第8族金属のコロイド溶液を、オクテンやトリメチルビニルシラン等の低分子ビニル化合物とトリエトキシシランやトリヘキシルシランのヒドロシリル化反応に使用すること(特公平5−3343、L.N.Lewis:Organometallics,1990,9,621、およびL.N.Lewis: J. American Chemical Soc.,1986,108,7228)がある。この方法では、触媒に添加する物質はヒドロシリル化反応に用いる一方の物質(水素化珪素類)と同一である為、最終製品中に不純物として残留せず有効である。特に、白金錯体と水素化珪素の混合比が、白金1モルに対して水素化珪素中のSiH基6〜50モルである場合に得られる白金コロイド溶液の触媒活性が高い。
【0009】
しかしながら、上記の手法で得られたコロイド溶液は保存安定性が悪いという問題がある。特に、触媒活性が高くなる混合比で得られるコロイド溶液ほど、保存安定性が悪くなると言う致命的な欠陥がある。例えば、白金錯体中の白金1モルに対して水素化珪素中のSiH基が10モルの混合比で白金コロイド溶液を得ると1時間以内に白金コロイド粒子が凝集してしまい、触媒活性が消滅してしまう。白金錯体と反応性を持たない非プロトン性の溶媒等で希釈しても、凝集を防ぐことはできない。それどころか、希釈することにより凝集が助長される場合がある。また、界面活性剤等の添加剤を用いて、コロイド溶液を安定化させることも可能と考えられるが、最終製品中に不純物として残留する為、好ましくない。
【0010】
この様な安定性が悪いコロイド溶液の触媒を工業的な生産に利用しようとする場合、生産直前に触媒の調製をする必要があり、生産管理上の不便を伴う。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
ヒドロシリル化反応における反応速度は、反応物質や反応条件に影響されるが、特にアルケニル基を有する化合物が高分子化合物である場合、不飽和基濃度が低い場合、反応液の粘性が高い場合、末端オレフィンよりも活性が低い内部オレフィンの反応をおこなう場合、酸素が反応系内に供給され難い場合、あるいは反応原料や溶媒に反応阻害物質が含まれる場合などに、触媒活性の低下が起こりやすい。アルケニル基含有高分子化合物はアルケニル基含有低分子体と比較すると粘度が高く、全体量に対するアルケニル基の濃度が低い為、ヒドロシリル化反応の進行が遅い。
【0012】
反応活性が低下する系では、生産性が低下するのみではなく、反応時間を長くすると、副反応物が多く生成する傾向がある。化合物に加水分解性シリル基を導入するヒドロシリル化反応の反応収率が低下すれば、最終的には架橋点密度が低下して、架橋体の強度が低下してしまう。
【0013】
反応収率を上げるためには高価な貴金属触媒や加水分解性シラン化合物を多量に用いる方法もあるが、経済的に好ましくない。また、前述の如くヒドロシリル化反応を促進する物質を添加する方法もあるが、結果的には製品中に不純物が混入することになり好ましくない。更に、最も有効な触媒の一つであると考えられる白金コロイド溶液の触媒も安定性に問題があり、工業的生産において不便を伴う。
【0014】
この様に、ヒドロシリル化反応により加水分解性シリル基をアルケニル基含有化合物に導入して得られる化合物は、産業上重要な物質であるにもかかわらず、反応速度を安定的に向上させる為の触媒が少なく、その開発が望まれている。これを解決するために提案されている白金コロイド溶液の触媒は保存安定性に問題があると言う欠点を有していた。
【0015】
即ち、本発明の目的は、ヒドロシリル化反応を効果的に進行させ、且つ安定的な活性を有し、取り扱いが容易な触媒を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが鋭意検討をおこなった結果、第8族金属の錯体や金属塩などの物質に特定の構造を有する水素化珪素化合物を添加して中間生成物を得、更に特定の構造を有する水素化珪素化合物を特定量添加することにより、触媒活性が高く、保存安定性が高く、取り扱いが容易な触媒が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0017】
即ち、本発明の第1は、(A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と、
(B)一般式(1):RabcSi (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、aが2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Xはハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、bが2以上の場合Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a及びbは同一又は異なって0〜3の整数を表す。cは1〜3の整数を表す。ただしa+b+c=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得、更に得られた中間生成物に、
(C)一般式(2): R’a'X’b'c'Si (2)
(式中、R’は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a’が2以上の場合R’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X’はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b’が2以上の場合X’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a’及びb’は同一又は異なって0〜3の整数を表す。c’は1〜3の整数を表す。ただしa’+b’+c’=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物を、
(B)と(C)に含まれるSiH基のモル数の合計が(A)に含まれる第8族金属のモル数の60倍を越える値に成る割合に添加して得ることを特徴とする触媒の製造方法に関する。
【0018】
好ましい実施態様としては、(A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩が、0価若しくは2価の白金を含む錯体である前記に記載の触媒の製造方法に関する。
【0019】
更に好ましい実施態様としては、(A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩が、塩化白金酸、塩化白金酸と、アルコール、アルデヒド、あるいはケトンからなる群から選択されるいずれか1以上との錯体化合物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体、およびこれらの物質を(A)第8族金属を含む錯体と反応しない溶媒に希釈したものより選ばれる1種類又は2種類以上の混合物である前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0020】
更に好ましい実施態様としては、(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物及び(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物が、メチルジクロロシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシランより選ばれる化合物の1種類又は2種類以上の組み合わせである前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0021】
更に好ましい実施態様としては、(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物及び(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物が同一の化合物である前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0022】
更に好ましい実施態様としては、(A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得る際の(B)中のSiH基のモル数が(A)中の第8族金属のモル数の5〜50倍である前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0023】
更に好ましい実施態様としては、(B)と(C)に含まれるSiH基のモル数の合計が(A)に含まれる第8族金属のモル数の60〜500倍である前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0024】
更に好ましい実施態様としては、(A)第8族金属を含む化合物と(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得る際に、反応系内に酸素原子を供給することができる物質を共存させる前記いずれかに記載の触媒の製造方法に関する。
【0025】
本発明の第2は、前記いずれか記載の触媒の製造方法により得られる触媒に関する。
【0026】
本発明の第3は、前記記載の触媒を用いて、
(D)一般式(3): R’’a''X’’b''c''Si (3)
(式中、R’’は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a’’が2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X’’はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b’’が2以上の場合X’’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a’’は0〜3の整数を表す。b’’及びc’’は同一又は異なって1〜3の整数を表す。a’’+b’’+c’’=4となる。)で表される水素化珪素化合物と、
(E)アルケニル基を含有する化合物とのヒドロシリル化反応方法に関する。
【0027】
好ましい実施態様としては、触媒の添加量が、化合物(E)中のアルケニル基のモル数に対して、第8金属のモル数が10-6倍〜10-3倍の値である前記記載の反応方法に関する。
【0028】
更に好ましい実施態様としては、(E)アルケニル基を含有する化合物が、ポリイソブチレン、ポリアクリル、ポリブテン、水添ポリブテン、ポリプロピレンオキサイド、オルガノシロキサンからなる群より選ばれるいずれか1以上の有機重合体である前記いずれか記載の反応方法に関する。
【0029】
更に好ましい実施態様としては、(E)アルケニル基を含有する化合物が、分子量500〜300000であり、且つ一分子中に平均1.2個以上のアルケニル基を含有する有機重合体である前記いずれか記載の反応方法に関する。
【0030】
更に好ましい実施態様としては、(D)一般式(3)で示される水素化珪素化合物が、(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物、(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物の一方若しくは両方と同一の化合物である前記記載の反応方法に関する。
【0031】
更に好ましい実施態様としては、前記いずれかに記載の中間生成物に(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物を添加するのと同時若しくは添加した後に、(D)一般式(3)で示される水素化珪素化合物を予め混合し、得られた混合物と(E)アルケニル基を含有する化合物との間でヒドロシリル化反応を行う事により得られる前記いずれかに記載の反応方法に関する。
【0032】
更に好ましい実施態様としては、ヒドロシリル化反応を実施する際に、反応容器内に窒素やアルゴン等の不活性ガスを充填し、反応系と共存する気相部の酸素濃度を水素化珪素化合物の爆発限界以下にする前記いずれかに記載の反応方法に関する。
【0033】
【発明の実施の形態】
本発明を実施する具体的な態様について詳しく説明する。
【0034】
本発明で使用される第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩は、通常、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、プラチナ(白金)を有するものであり、これらの第8族金属の金属塩または有機化合物との錯体として用いられる。具体的には、CoH2[Si(OC253](PPh33、 Ni(PPh34、Ni(CO)2(PPh32、 RhCl(PPh33、Rh2Cl2(C242、RhCl(CO)(PPh32、RhH(CO)(PPh32、RhCl3・xH2O、Pd(PPh34、 Pd(PPh32、PdCl2(PPh32、(PPh32PdO2、 RuH2(PCH34、RuCl2(PCH34、RuH2(PPh34、RuCl2(PPh34 、Ir(CO)Cl(PPh32、IrCO(H)(PPh33、IrHCl(SiR3)(PPh32、[IrCl(COE)22、[IrCl(COD)22、(但し、xは0以上の任意の数であり、COEはcis−cycloocten、CODは1,5−cyclooctadieneである。)、0価若しくは2価の白金を含む錯体等が挙げられるが、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体などの白金化合物、白金−オレフィン錯体[例えばPt(CH2=CH22(PPh3)、Pt(CH2=CH22Cl2]、白金−アセチルアセトナート錯体、白金−ビニルシロキサン錯体[Pt{(vinyl)Me2SiOSiMe2(vinyl)}、Pt{Me(vinyl)SiO}4]、白金−ホスフィン錯体[Ph(PPh34、Pt(PBu34]、白金−ホスファイト錯体[Pt{P(OPh)34]、Pt(COD)2,(COD)PtCl2等の0価若しくは2価の白金を含む錯体が好ましい。また米国特許第3220972号に記載された白金−アルコラート触媒も好ましい。さらに米国特許第3516946号に記載された塩化白金−オレフィン複合体も有効である。特に、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アセチルアセトナート錯体、白金−ビニルシロキサン錯体は、比較的反応活性が高いコロイド溶液の触媒が得られる為、より好ましい。
【0035】
これらの第8族金属の錯体または金属塩は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また本発明においては、第8族金属の錯体または金属塩を第8族金属を含む錯体と反応しない1種又は2種以上の溶媒に溶解し希釈した混合物を使用することにより、取扱を容易にすることが好ましい。好ましい溶媒として、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、あるいはハロゲン化炭化水素、エーテル類、エステル類等を挙げることができる。
【0036】
本発明における一般式(1)、(2)、および(3)で表される水素化珪素化合物としては、従来公知の化合物を特に制限無く用いることが出来るが、具体的には例えば、トリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルクロロシラン、トリメチルシロキシジクロロシランなどのハロゲン化シラン類、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、メトキシジメチルシラン、ジメトキシフェニルシラン、1,3,3,5,5,7,7−ヘプタメチル−1,1−ジメトキシテトラシロキサンなどのアルコキシシラン類、メチルジアセトキシシラン、トリメチルシロキシメチルアセトキシシランなどのアシロキシシラン類、ジメチルシラン、トリメチルシロキシメチルシラン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンなどの分子中にSi−H結合を2個以上有するハイドロシラン類、メチルジ(イソプロペニルオキシ)シランなどのアルケニルオキシシラン類などが挙げられ、これらの中では、メチルジクロロシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等が好ましい。これらの水素化珪素化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明において一般式(1): RabcSi (1)
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、aが2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Xはハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、bが2以上の場合Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a及びbは同一又は異なって0〜3の整数を表す。cは1〜3の整数を表す。ただしa+b+c=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物、
一般式(2): R’a'X’b'c'Si (2)
(式中、R’は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a’が2以上の場合R’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X’はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b’が2以上の場合X’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a’及びb’は同一又は異なって0〜3の整数を表す。c’は1〜3の整数を表す。ただしa’+b’+c’=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物、
および一般式(3) R’’a''X’’b''c''Si (3)
(式中、R’’は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a’’が2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X’’はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b’’が2以上の場合X’’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a’’は0〜3の整数を表す。b’’及びc’’は同一又は異なって1〜3の整数を表す。a’’+b’’+c’’=4となる。)で表される水素化珪素化合物は、それぞれ異なるものを用いても良いし、同一の物質を使用しても良い。異なる水素化珪素化合物を使用することにより、シリル化反応後の物性の改善等の特別な効果が得られる場合には、その目的に会わせた水素化珪素化合物を使用すれば良い。特にそのような効果が期待されない場合には、一般式(1)、(2)、および(3)で表される水素化珪素化合物には、工業的な生産性や不純物の問題を考えると同一のものを用いた方が好ましい。
【0038】
本発明における水素化珪素化合物の役割を説明する。
【0039】
水素化珪素化合物が一般式(1)で表される場合の水素化珪素化合物の役割は、第8族金属の錯体の配位子を除去したり、酸化状態にある第8族金属を還元したりして、第8族金属そのもの若しくは第8族金属を含む化合物を触媒活性の高いコロイド粒子として析出させることにある。一方、水素化珪素化合物が一般式(2)で表される場合の水素化珪素化合物の役割は、析出した第8族金属のコロイド粒子の粒子成長や凝集を防止し、安定化することにある。この安定化のメカニズムについては明らかではない。更に、水素化珪素化合物が一般式(3)で表される場合の水素化珪素化合物の役割は、アルケニル基を有する化合物とのヒドロシリル化反応を経て、加水分解性のシリル基を有する化合物を得るための原料である。
【0040】
第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で表される水素化珪素化合物の混合比は、第8族金属のモル数と一般式(1)で表される水素化珪素に含まれるSiH基のモル数の比で決定するとよい。なぜならば、SiH基が第8族金属の錯体に配位している配位子と反応したり、第8族金属塩中の第8族金属を還元したりすることにより、第8族金属がコロイド粒子として析出するからである。即ち、混合比は第8族金属のモル数に対して、一般式(1)で表される水素化珪素化合物が5〜50倍であることが好ましい。水素化珪素化合物の混合比が5倍未満の場合には、全ての第8族金属が析出するのに量的に不足しがちである。また水素化珪素化合物の混合比が50倍を越える場合には、水素化珪素化合物が第8族金属のコロイド粒子を安定化させる役割(一般式(2)で表される水素化珪素化合物の役割)も果たしてしまう場合があり、コロイド粒子が十分な大きさに成長する前に安定化してしまう場合がある為、望みの活性が得られにくい。
【0041】
第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で表される水素化珪素化合物を混合して中間生成物を得る工程に対する酸素原子の影響は必ずしも明らかではない。しかし、第8族金属の中間生成物が生成する過程において、酸素原子が第8族金属に対する配位子として働き、コロイド粒子安定化すると共に触媒活性を向上させると考えられる(Lewis,J.Am.Chem.Soc.1990,112,p5008)。特に酸素原子を供給できる物質を共存させる操作を行わなくても、系内に溶存している酸素分子等の働きにより中間生成物を得ることはできるが、より確実に活性の高い触媒を得るためには、第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で表される水素化珪素化合物の混合は、反応系内に酸素原子を供給することができる物質を共存させて行うことが好ましい。例えば、混合装置の気相部に酸素や空気を導入して攪拌したり、混合溶液内に酸素や空気をバブリングするような操作をすることが好ましく、ナフトキノンやベンゾキノン等の物質を反応系内に添加することも好ましい。
【0042】
第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で表される水素化珪素化合物との上記混合により中間生成物が得られる。
【0043】
この中間生成物とは、黒色から濃茶色の液体であり、第8族金属そのもの若しくは第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩が微粒子状態で分散したコロイド溶液である。触媒活性の高い中間生成物を長時間保持すると、分散している微粒子が巨大化したり、凝集する為、触媒活性を失ってしまう。
【0044】
次に、得られた中間生成物に、一般式(2)で表される水素化珪素化合物を更に添加することが必要である。一般式(2)で表される水素化珪素化合物の添加量は、一般式(1)で表される水素化珪素化合物と一般式(2)で表される水素化珪素化合物に含まれるSiH基のモル数の合計が第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩に含まれる第8族金属のモル数の60倍を越える値にすることが必要である。
【0045】
即ち、一般式(1)で表される水素化珪素化合物は、一般式(2)で表される水素化珪素化合物と同様にコロイド粒子を安定化させる物質としても働くから、一般式(2)で表される水素化珪素化合物の添加量は、第8族金属のモル数と一般式(1)で表される水素化珪素化合物と一般式(2)で表される水素化珪素化合物の両方に含まれるSiH基のモル数の比で決定すると良い。最適な混合比は、第8族金属のモル数対して、一般式(1)で表される水素化珪素化合物と一般式(2)で表される水素化珪素化合物の両方に含まれるSiH基のモル数が60倍を越える値である。更に言えば、コロイド溶液の安定化を確実にするには、SiH基のモル数が100倍以上であることが好ましい。但し、あまり水素化珪素化合物を添加しすぎると経済的に無駄になるので、500倍以下であることがより好ましい。
【0046】
また第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で表される水素化珪素を混合してから、一般式(2)で表される水素化珪素を添加するまでの時間も重要である。この時間が短すぎると、コロイド粒子が十分に粒子成長せず、望む触媒活性を得ることができない。逆に、時間が長すぎるとコロイド粒子が凝集したり、巨大化し、沈殿する為、触媒活性が無くなってしまう。最適な時間は、第8族金属と一般式(1)で表される水素化珪素のモル比に左右される。モル比が小さい場合には、コロイドの粒子成長が早い為、早く一般式(2)で表される水素化珪素を添加しなければならず、モル比が大きい場合には、コロイドの粒子成長が遅い為、長時間放置した後に一般式(2)で表される水素化珪素を添加しなければならない。最適な時間の決定方法は、コロイド溶液の中間生成物の色彩により大まかに知ることができる。即ち、コロイド溶液の中間生成物が黒色から濃焦げ茶色になった時点で一般式(2)で示される水素化珪素化合物を添加すると最も活性が高い触媒を得ることが出きる。一方、コロイド溶液の中間生成物の色が黄色、燈色、薄茶色の段階で一般式(2)で示される水素化珪素化合物を添加すると触媒の活性が低く、コロイド粒子の凝集体や浮遊物が発生してから一般式(2)で示される水素化珪素化合物を添加すると触媒の活性が消滅してしまう。
【0047】
第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と一般式(1)で示される水素化珪素化合物の混合方法は、任意の方法で良い。一般式(1)で示される水素化珪素化合物は通常は室温で液体であるので、粉体状もしくは固体状の第8族金属を含む触媒を一般式(1)で示される水素化珪素化合物に直接添加して攪拌しても良い。また、第8族金属を含む錯体若しくは金属塩を、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒、あるいはハロゲン化炭化水素、エーテル類、エステル類等の第8族金属を含む錯体と反応しない1種又は2種以上の溶媒に溶解しておき、第8族金属を含む錯体又は金属塩の溶液を一般式(1)で示される水素化珪素化合物の液体に混合することも出来る。この方法は取り扱いが容易で好ましい。
【0048】
本発明の触媒の重要な用途としては、
(D)一般式(3): R’’a''X’’b''c''Si (3)
(式中、R’’は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a’’が2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X’’はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b’’が2以上の場合X’’はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a’’は0〜3の整数を表す。b’’及びc’’は同一又は異なって1〜3の整数を表す。a’’+b’’+c’’=4となる。)で表される水素化珪素化合物と、(E)アルケニル基を含有する化合物とのヒドロシリル化反応方法がある。
【0049】
アルケニル基を含有する化合物とは、炭素−炭素不飽和結合を有する化合物であり、具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、オクテン等のアルファオレフィン、あるいはシクロヘキセン、トランス−2−ヘキセンや、ブタジエン、デカジエン、又はアリルトリメチルシラン等のアルケニル基を含有する低分子化合物、例えば有機珪素系主鎖、炭化水素系主鎖、ハロゲン化炭化水素系主鎖、飽和炭化水素系主鎖、ポリアクリル系主鎖、ポリエーテル系主鎖、ポリエステル系主鎖、ポリアミド系主鎖、ポリイミド系主鎖等を主鎖成分とするアルケニル基を有する高分子化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
アルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を有する高分子化合物のうち特に好ましいものとしては、アルケニル基を末端に有するポリオルガノシロキサン、ポリプロピレンオキサイドおよびポリイソブチレンを挙げることができる。また、アルケニル基を末端に有するポリアクリル、ポリブテン、水添ポリブテン等でも良い。アルケニル基を末端に有するポリイソブチレンは、例えば末端に塩素を有するポリイソブチレンと、アリルトリメチルシラン(特開昭63−105005)またはジエン類(特開平4−288309)との反応により得ることができる。
【0051】
特にアルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を含有する化合物が高分子化合物の場合にはヒドロシリル化反応の進行が遅いため、本発明の触媒を用いると有効である。
【0052】
本発明で言うアルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を含有する化合物は高分子化合物である方が、ヒドロシリル化反応後に得られるシリル化物が高強度の縮合物を形成する為、好ましい。特に、ポリスチレンゲルカラムを用いたGPC測定による得られる数平均分子量が500以上のものが好ましい。但し、分子量が大きすぎると粘度が高すぎ攪拌などの操作が全くできなくなるし、例えヒドロシリル化反応が成功したにしても、得られる物質には縮合反応により架橋硬化する物質としての価値が全くなくなる。したがって、本発明で言うアルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を含有する高分子化合物の数平均分子量は300000以下であることが好ましい。
【0053】
また、アルケニル基を有する化合物をヒドロシリル化して得られる加水分解性シリル基含有の化合物中が1分子中に平均1.0個以上の加水分解性シリル基を有すれは、宿合反応により高強度の架橋体を形成することができる。したがって、本発明で用いるアルケニル基を有する化合物も1分子中に平均1.0個以上のアルケニル基を有することが好ましく、1.2個以上のアルケニル基を含有することがより好ましく、1.4個以上のアルケニル基を含有することが更に好ましい。
【0054】
本発明のヒドロシリル化反応は無溶媒系でも、溶媒存在下でもおこなうことができる。ヒドロシリル化反応の溶媒としては、通常、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、エステル類を用いることができるが、ヘプタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることが好ましい。特にアルケニル基(炭素−炭素不飽和結合)を含有する高分子化合物のヒドロシリル化をおこなう場合は、高分子化合物が固体あるいは高粘度の液体であることが多いので、反応系の粘度を低下させるために溶媒を用いることが有効な場合がある。
【0055】
本発明においては、高分子化合物のヒドロシリル化反応の際の反応溶媒として、可塑剤を用いることもできる(可塑剤とは、高分子製品中に添加される液状の物質である)。アルケニル基を含有する高分子化合物の数平均分子量が500〜300000である場合には、たとえば分子量200〜800のパラフィン系可塑剤を反応溶媒に用いることが好ましい。このような可塑剤として、例えばパラフィン50〜90%、ナフテン10〜50%、アロマ約1%の組成比の混合物などを挙げることができる。 このような可塑剤としては、具体的には、ポリブテン、水添ポリブテン、α−メチルスチレンオリゴマー、ビフェニル、トリフェニル、トリアリールジメタン、アルキレントリフェニル、液状ポリブタジエン、水添液状ポリブタジエン、アルキルジフェニル等の炭化水素系化合物、BAA−15(大八化学)、P−103、W320(大日本インキ)、PN−150(アデカアーガス)などのアジピン酸エステル化合物、TOTM、TITM(新日本理化)、W−700(大日本インキ)、などのトリメリット酸エステル系化合物、NS−100、NM−26、NP−24、PS−32、PW−32、PX−32(出光興産)などの石油系プロセスオイル類、アルケン−68(日石油洗剤)、BF−1000(アデカアーガス)、KE−828(荒川化学)、DOTP(新日本理化)などが好ましく、加熱減量が小さいといった点で、アルケン−68、PS−32、PW−32、PX−32、DOTP、NS−100、TOTMなどが特に好ましいが必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0056】
本発明のヒドロシリル化反応においては、中間生成物に一般式(2)で表される水素化珪素化合物を添加するのと同時若しくは添加した後に、一般式(3)で示される水素化珪素化合物を予め混合し、得られた混合物とアルケニル基を含有する化合物との間でヒドロシリル化反応を行うことができる。更に、前記の方法には、一般式(2)で示される水素化珪素化合物を添加する工程を経ず、一般式(3)で示される水素化珪素化合物に中間生成物を直接混合し、得られた混合物とアルケニル基を含有する化合物との間でヒドロシリル化反応を行うことも含む。この場合は、一般式(3)で示される水素化珪素化合物は一般式(2)で示される水素化珪素化合物の役割も担うものである。
【0057】
本発明の触媒の使用量には特に制限はないが、通常、アルケニル基1モルに対して第8族金属を10-1から10-8モル使用し、10-3から10-6モルの範囲で使用することが好ましい。触媒の量が10-8モルより少ない場合は、ヒドロシリル化反応が十分に進行しないことがある。また触媒の量が10-1モルより多いと、原料コストの増大や、触媒残さの混入により製品の着色や透明度の低下などの問題が発生しやすい。
【0058】
本発明において、ヒドロシリル化反応をおこなう際の反応器気相部は、窒素やヘリウム、アルゴン等の不活性ガスのみから成ってもよいし、酸素等が存在してもよい。ヒドロシリル化反応をおこなう際には、可燃性物質取り扱いの安全性の観点からは、反応器気相部は窒素やヘリウム、アルゴン等の不活性ガスの存在下で実施することが良い。ところが、反応器気相部を窒素やヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで置換して高分子化合物のヒドロシリル化反応をおこなった場合には、反応速度が低下したり、反応の進行が途中で停止するという問題がある。したがって、反応系と共存する気相部の酸素濃度を水素化珪素化合物の爆発限界以下に設定することにより、安全にヒドロシリル化反応をおこなうことが有効である。反応器気相部の酸素濃度の下限は、特に制約を受けるものではないが、酸素濃度が極端に低い場合には反応速度が低下するため、反応時間が増加し、生産性の低下や設備の増大を招くことなどを考慮すると、少なくとも0.1%以上、より好ましくは1%以上であることが要求される。
【0059】
さらに本発明で気相部に酸素を導入する場合には、反応溶媒や可塑剤が酸素により酸化されることを抑えるために、酸化防止剤の存在下でヒドロシリル化反応をおこなうことができる。酸化防止剤としては、ラジカル連鎖禁止剤の機能を有するフェノール系酸化防止剤、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス{メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタンなどを用いることができる。同様のラジカル連鎖禁止剤としてアミン系酸化防止剤、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミンなどを用いることも出来るがこれらに限定されるものではない。
【0060】
本発明のヒドロシリル化反応温度は、通常、30℃以上200℃以下であり、好ましくは、50℃以上120℃以下に設定することができる。
【0061】
【実施例】
次に本発明の方法の実施例をあげて具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.0147gを添加した後に軽く振とうして密閉し、5分間放置したものをコロイド溶液の中間生成物とした。色は黒色に近い焦げ茶色であった。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は10.5モルであった。本コロイド溶液の中間生成物にジメトキシメチルシランを0.6514g添加し、振とうした物を反応触媒1とした。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基の合計のモル数は、481モルであった。
【0062】
次に主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続し、発泡が完全に収まった後に、反応容器内に乾燥空気を導入した。次に、室温で20時間放置した反応触媒1を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加した。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0063】
各サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0064】
結果を表1に示す。
(実施例2)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.0412gを添加した後に軽く振とうして密閉し、60分間放置したものをコロイド溶液の中間生成物とした。色は黒色に近い焦げ茶色であった。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は29.3モルであった。本コロイド溶液の中間生成物にジメトキシメチルシランを0.380g添加し、振とうした物を反応触媒2とした。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基の合計のモル数は、300モルであった。
【0065】
次に主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続し、発泡が完全に収まった後に、反応容器内に乾燥空気を導入した。次に、室温で24時間放置した反応触媒2を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加した。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0066】
各サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0067】
結果を表1に示す。
(実施例3)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.0703gを添加した後に軽く振とうして密閉し、60分間放置したものをコロイド溶液の中間生成物とした。色は黒色に近い焦げ茶色であった。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は50モルであった。本コロイド溶液の中間生成物にジメトキシメチルシランを0.0681g添加し、振とうした物を反応触媒3とした。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基の合計のモル数は、97モルであった。
【0068】
次に主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続し、発泡が完全に収まった後に、反応容器内に乾燥空気を導入した。次に、室温で23時間放置した反応触媒3を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加した。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0069】
各サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0070】
結果を表1に示す。
(比較例1)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.0159gを混合した後に軽く振とうして密閉し、1時間放置したものを比較触媒1とした。色は黒色に近い焦げ茶色であったが、混合後10分程度で液面に細かな浮遊物が発生し、1時間後には沈殿物が発生した。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は11.3モルであった。
【0071】
実施例1で使用した主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続して発泡が完全に収まった後、反応容器内に乾燥空気を導入した。比較触媒1を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加した。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0072】
サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0073】
結果を表1に示す。
(比較例2)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.441gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.789gを混合した後に軽く振とうして密閉し、1時間放置したものを比較触媒2とした。色は薄い黄色であった。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は500モルであった。
【0074】
実施例1で使用した主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続して発泡が完全に収まった後に、反応容器内に乾燥空気を導入した。室温で20時間放置した比較触媒2を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加する。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0075】
サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0076】
結果を表1に示す。
(比較例3)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.430gを入れ、ジメトキシメチルシラン0.141gを混合した後に軽く振とうして密閉し、1時間放置したものを比較触媒3とした。色は薄い黄色であった。この場合の白金1モルに対するジメトキシメチルシランのSiH基のモル数は100モルであった。
【0077】
実施例1で使用した主鎖が直鎖状のポリプロピレンオキサイドであり、主鎖の両末端にアルケニル基(CH2=CH−CH(CH3)−)を有する数平均分子量が25000の高分子化合物70gを500mlの硝子製反応容器に入れ、90℃に加熱した後、25rpmで攪拌しながら真空ポンプで脱揮した。このとき、高分子化合物中に含有される酸素や有機物が蒸発し、高分子化合物が発泡した。脱揮を30分間継続して発泡が完全に収まった後に、反応容器内に乾燥空気を導入した。室温で20時間放置した比較触媒3を白金量換算で0.21mgになる量を添加した後、密閉して300rpmで10分間攪拌した。密閉状態を保ったまま、ジメトキシメチルシランを1.38g添加する。攪拌を継続しながら、6時間経過後に反応物をサンプリングした。
【0078】
サンプルのシリル化率を評価するために、1H−NMRを用いて高分子化合物中のアルケニル基の残存率を測定した。また目視で保存安定性を確認した。
【0079】
結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
Figure 0004342071
表1の結果より、本発明の反応触媒1、反応触媒2、反応触媒3は、20時間以上にわたり放置したにもかかわらず、高い反応活性を有しており、アルケニル基末端の殆どをヒドロシリル化したことがわかった。一方、比較触媒1は1時間程度の間放置しただけでも、コロイド粒子が沈殿し、殆ど反応活性を有していないことがわかった。また、比較触媒2および比較触媒3は、一週間以上安定であるが、白金ビニルシロキサン中の白金とジメトキシメチルシランの最終的な混合比が反応触媒1、反応触媒3と同程度であるにもかかわらず、十分な反応性を得られなかった。即ち、本発明のように、水素化珪素化合物をコロイド粒子の生成段階とコロイド粒子の安定化段階で最適な量を段階的に添加することにより、反応活性と安定性が高いヒドロシリル化反応用触媒が得られることが示された。
(実施例4〜8)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、白金1モルに対してSiH基のモル数が表2に示す量に相当するジメトキシメチルシランを添加(初期添加時)し、コロイド溶液の反応中間生成物を得た。更にジメトキシメチルシランを表2に示す量に相当する添加(追加添加時)した後のコロイド溶液の安定性を目視で確認した。
結果を表2に示す。
(比較例4〜6)
50mlの硝子容器に白金ビニルシロキサン錯体のキシレン溶液(白金濃度が0.6wt%)0.43gを入れ、白金1モルに対してSiH基のモル数が表2に示す量に相当するジメトキシメチルシランを添加(初期添加時)した場合に発生したコロイド溶液の安定性を目視で確認した。
結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
Figure 0004342071
表2の結果より、第8族金属のコロイド溶液は保存安定性が悪いが、コロイド溶液が凝集する前に水素化珪素化合物を更に添加することにより、コロイド溶液の安定性が改善されることがわかった。
【0082】
【発明の効果】
本発明のヒドロシリル化反応用触媒は、従来の白金コロイド溶液の触媒と比較して保存安定性に優れている。本発明では、ヒドロシリル化反応に必要な第8族金属の錯体もしくは金属塩以外と水素化珪素化合物以外の添加物を使用しないため、ヒドロシリル化触媒の活性と安定性を向上させる為に製品純度を低下させる心配がない。

Claims (8)

  1. (A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩が、0価若しくは2価の白金を含む錯体であって、該第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と、
    (B)一般式(1):RabcSi (1)
    (式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、aが2以上の場合Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Xはハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、bが2以上の場合Xはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a及びbは同一又は異なって0〜3の整数を表す。cは1〜3の整数を表す。ただしa+b+c=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得、更に得られた中間生成物に、
    (C)一般式(2): R'a'X'b'c'Si (2)
    (式中、R'は炭素数1〜20のアルキル基、アリール基またはトリオルガノシロキシ基であり、a'が2以上の場合R'はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。X'はハロゲン、アルコキシ基、アシロキシ基または水酸基を表し、b'が2以上の場合X'はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。a'及びb'は同一又は異なって0〜3の整数を表す。c'は1〜3の整数を表す。ただしa'+b'+c'=4を満たす。)で表される水素化珪素化合物を(B)と(C)に含まれるSiH基のモル数の合計が(A)に含まれる第8族金属のモル数の60倍を越える値に成る割合に添加して得ることを特徴とする触媒の製造方法。
  2. (A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩が、塩化白金酸、塩化白金酸と、アルコール、アルデヒド、あるいはケトンからなる群から選択されるいずれか1以上との錯体化合物、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、白金−ホスフィン錯体、白金−ホスファイト錯体、およびこれらの物質を(A)第8族金属を含む錯体と反応しない溶媒に希釈したものより選ばれる1種類又は2種類以上の混合物である請求項に記載の触媒の製造方法。
  3. (B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物及び(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物が、メチルジクロロシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシランより選ばれる化合物の1種類又は2種類以上の組み合わせである請求項1または2に記載の触媒の製造方法。
  4. (B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物及び(C)一般式(2)で表される水素化珪素化合物が同一の化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  5. (A)第8族金属を含む錯体及び/又は金属塩と(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得る際の(B)中のSiH基のモル数が(A)中の第8族金属のモル数の5〜50倍である請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  6. (B)と(C)に含まれるSiH基のモル数の合計が(A)に含まれる第8族金属のモル数の60〜500倍である請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  7. (A)第8族金属を含む化合物と(B)一般式(1)で表される水素化珪素化合物とを混合して中間生成物を得る際に、反応系内に酸素原子を供給することができる物質を共存させる請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の触媒の製造方法により得られるヒドロシリル化反応を促進する触媒。
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