本発明は、光伝送媒体同士、または光伝送媒体と光学部品とを接続した光学接続構造、およびそれを形成する光学接続方法に関するものである。
光ファイバの接続方法としては、光ファイバ同士、あるいは光ファイバを挿入したフェルール同士を突き合わせることにより、物理的に接続する方法が一般的によく用いられている。その場合の例として、メカニカルスプライス、光コネクタ等が挙げられるが、一般に永久接続の場合はメカニカルスプライスが、また着脱が頻繁に行われる場合には光コネクタが有効であり、広く利用されている。両者ともに光ファイバ端面に、軸方向の押圧力をかけることによって物理的な接続をさせるが、光コネクタ接続の場合は、一般的には光ファイバが脆くて弱いために、光ファイバをフェルールに挿入して保護し、それにより光ファイバの端面の物理的接触を可能としている。
この物理的な接続において、光ファイバの端面形状は、接続特性に大きく影響する。例えば、端面の角度のずれや端面形状が荒れていたりすると、突き合わせた光ファイバ端部間に空気が入ることにより、接続端面でフレネル反射が大きくなる為、接続損失が大きくなるという問題がある。
これを改良する方法として、これまで様々な研究がなされている。その一つとして、例えば光ファイバの端面あるいは光ファイバの端面とフェルールを高度に研磨処理をする方法が挙げられる。しかしながら、研磨処理には多大な時間と経費が必要であり、汎用的に行われる接続方法としては問題があり、その改善が大きな課題となっていた。
さらに、研磨工程を必要とせずに、カットしたままの状態の光ファイバを接続する方法が検討されている。その一つとして、光ファイバの接続端面に光ファイバのコアと同等、あるいは近似した屈折率を有する液状またはグリース状の屈折率整合剤を介在させて接続する方法が提案されている。この方法は、屈折率整合剤を光ファイバ端面に塗布し、光ファイバを突き合わせるものであり、それによって、接続端面への空気の侵入を防ぎ、空気によって生じるフレネル反射を回避し、接続損失を低減するものである。しかしながら、この方法では、一般には屈折率整合剤として、シリコーン系やパラフィン系の液状或いはグリース状のものが使用されているために、非常に小さな面積である光ファイバ端面に一定量の屈折率整合剤を塗布することが困難である。そしてもしも屈折率整合剤が過剰に塗布されると、接続部周囲の汚染や、それによる埃などの付着が問題となる。さらに、この方法に用いる屈折率整合剤は一般的に流れ易い性質を有しているために、接続部から流出し、光学的な安定性を得ることが困難となる。さらにまた、液状またはグリース状の屈折率整合剤を使用して光ファイバを着脱可能にすると、着脱毎に屈折率整合剤の拭き取りや再度一定量塗布する作業が必要になるために多大な時間がかかり、作業効率が悪いという問題があった。
これに対し、固体の屈折率整合部材を用いる方法が検討されている。例えば、光ファイバの端面に屈折率整合部材として、透明な整合剤フィルムを接着層、粘着材層を介さずに直接密着するように取りつけた構造のもの(特許文献1)、または、光ファイバのコアの接続端部にコアの屈折率と近似した屈折率を有する柔軟な光透過体或いは弾性体を介在させた構造のもの(特許文献2)が提案されている。しかしながら、前者は整合材フィルムに密着させるための光ファイバの押圧力の調節が難しく、過剰な押圧力がかかると光ファイバに割れや欠けが起こる可能性があった。また後者においても、弾性体の弾性力のみでは十分な密着性を得ることができず、結果的に過剰な押圧力がかかる恐れがあった。さらに両者は、光ファイバの接続時の固定状態が維持されないため、屈折率整合部材の機械的あるいは熱的な要因による膨張、収縮による影響を受けやすく、常に安定した接続形態を保つことは困難であった。
さらに、光ファイバの接続部に片面に粘着材が塗布された誘電体膜を貼り付ける方法が提案されている(特許文献3)。この方法によれば、誘電体膜の片面が粘着性を有するために片側の光ファイバとの密着性及び保持力を上げることができるが、他方の面の密着力が十分でなく、上記と同様に光ファイバが破損する恐れがあった。また粘着材層と誘電体膜との2層構造であるために、各層の界面の間でも反射が起きるため、接続損失が起きてしまうという問題があった。さらに粘着材層が薄膜であるために、粘着材層表面の強度は弱く、突き合わせた光ファイバの端面や、そのバリによって傷が付き易いという問題があった。
また、従来用いられている液状またはグリース状の屈折率整合剤および固体の屈折率整合部材では、光ファイバ接続時の固定状態が維持されないため、機械的或いは熱的な要因によって、膨張、収縮により、影響を受けやすく、常に安定した接続形態を保つことは困難であった。具体的には、機械的振動や膨張収縮により、光ファイバの間隔が微小に変化するため、液状またはグリース状の屈折率整合剤を用いた場合は、屈折率整合剤がその間隙から流れ出してしまうことがあった。また、固体の屈折率整合部材を用いた場合は、屈折率整合部材と光ファイバ端面間が容易に離れてしまうため、ファイバ間の間隙に空気が入りこみ、気泡が介在して、光学特性を不良にする恐れがあった。
特許第2676705号公報
特開2001−324641号公報
特開昭55−153912号公報
以上のごとく、現状の光ファイバに押圧をかけて光ファイバ端面同士を突き当て接続する方法及び液状またはグリース状の屈折率整合剤や固体の屈折率整合部材を用いる方法においては、上記のような問題が発生している。これらの問題を解決すべく、様々な提案がなされているが、本発明は、これら従来の提案よりも簡単な構造で、光ファイバを密着した状態で保持し、さらに簡便に装着、着脱ができ、光学安定性に優れた接続を可能とする光学接続構造及び光学接続方法を提供することを目的とするものである。
本発明者等は、検討の結果、固形の粘着性接続部材を用いることにより、光ファイバ等の光伝送媒体同士あるいは光伝送媒体と光学部品との光学接続を非常に簡単に行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の光学接続構造は、互いに対向する光伝送媒体の端面間、または光伝送媒体の端面と光学部品との間に、屈折率整合性を有する固形の粘着性接続部材が単一層の状態で密着して介在する光学接続構造であって、互いに対向する光伝送媒体の端面間、または光伝送媒体の端面と光学部品との間にある粘着性接続部材の周辺にある粘着性接続部材が、光伝送媒体の突き出し量に見合って変形することができる一定の空間を有し、前記粘着性接続部材と接触する前記光伝送媒体の端面の中心から該粘着性接続部材の周縁部までの距離の最小値Dと、該光伝送媒体の半径Rとが、2R<D≦60Rの関係を満たし、互いに対向する光伝送媒体の端面間、または光伝送媒体の端面と光学部品との間にある粘着性接続部材の周辺にある粘着性接続部材が、光伝送媒体の突き出し量に見合って変形し、前記光伝送媒体が、多心の光ファイバであることを特徴とする。
本発明において、粘着性接続部材の接続部における接続後の厚み、すなわち光伝送媒体の端面間、または光伝送媒体の端面と光学部品との間に介在する粘着性接続部材の厚みが、50μm以下であることが好ましい。また、上記粘着性接続部材の粘着保持距離が10μm以上であることが好ましい。また、上記粘着性接続部材は、シリコーン樹脂またはアクリル樹脂から構成されるのが好ましい。
また、前記粘着性接続部材は、その周縁部が支持部材によって支持されていてもよい。
さらに本発明の光学接続構造は、前記粘着性接続部材が接続用整列部材の溝に担持されていてもよい。さらに、前記光伝送媒体は多心の光ファイバであってもよい。
本発明の光学接続方法は、光伝送媒体および光学部品と屈折率整合性を有する固形の粘着性接続部材を用いて、該光伝送媒体の端面同士または該光伝送媒体の端面と光学部品を接続する方法であって、互いに対向する光伝送媒体の端面間、または光伝送媒体の端面と光学部品との間にある粘着性接続部材の周辺にある粘着性接続部材が、光伝送媒体の突き出し量に見合って変形することができる一定の空間を持つように、粘着性接続部材を配置する工程と、一方の光伝送媒体の端面を粘着性接続部材に密着するまで移動する工程と、該一方の光伝送媒体の端面を、前記粘着性接続部材が変形をともなって他方の該光伝送媒体または光学部品に密着するまでさらに移動する工程、とからなり、前記粘着性接続部材と接触する前記光伝送媒体の端面の中心から該粘着性接続部材の周縁部までの距離の最小値Dと、該光伝送媒体の半径Rとが、2R<D≦60Rの関係を満たし、前記光伝送媒体が、多心の光ファイバであることを特徴とする。
本発明の光学接続方法において、一方の光伝送媒体の端面を粘着性接続部材に密着するまで移動する工程と、該一方の光伝送媒体の端面を、前記粘着性接続部材が変形をともなって他方の該光伝送媒体もしくは光学部品に接触するまでさらに移動する工程が、連続的であっても、断続的であっても、いずれでも構わない。
まず、本発明の光学接続構造を説明する。本発明で用いられる光伝送媒体としては、上記で示した光ファイバのほかに光導波路などがあげられるが、その種類は特に限定されず、光を伝送するものであれば如何なるものでもよい。また、光ファイバも何等限定されるものではなく、その用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、石英、プラスチック等の材料からなる光ファイバを用いることができ、ホーリーファイバにも利用可能である。また、光導波路としては、ポリイミド光導波路、PMMA光導波路、エポキシ光導波路などが利用される。さらに、使用する2つの光伝送媒体の種類が異なっていても固形の粘着性接続部材の濡れ性により密着することができるので、安定して接続させることが可能である。また、異なる外径の光伝送媒体であっても、コア径が同じであれば、本発明を適用することができる。なお、光ファイバの本数、光導波路の枚数も何等限定されるものではなく、複数本の光ファイバよりなる光ファイバテープ心線を用いることもできる。
本発明において光伝送媒体と光学接続される光学部品としては、光学レンズ、フィルタなどがあげられ、その種類に関しては特に限定されるものではない。光学レンズは、例えば両凸、両凹、凹凸、平凸、非球面等の各種形状のものや、コリメートレンズ、ロッドレンズなどがあげられ、フィルタとしては、例えば一般光通信用フィルタのほか、多層膜フィルタやポリイミドフィルタ等があげられる。
本発明に用いる固形の粘着性接続部材は、光伝送媒体または光学部品に接触したときに、適度なタック性を伴って、光伝送媒体の端面に密着する部材であればよい。好ましくは、光伝送媒体との間で脱着性を有し、凝集破壊せず、取り外した光伝送媒体に付着しない粘着性材料が使用される。具体的には、高分子材料、例えばアクリル系、エポキシ系、ビニル系、シリコーン系、ゴム系、ウレタン系、メタクリル系、ナイロン系、ビスフェノール系、ジオール系、ポリイミド系、フッ素化エポキシ系、フッ素化アクリル系等の各種粘着材を使用することができる。それらの中でも、耐環境性、接着性、その他の面から、シリコーン系およびアクリル系粘着材が特に好ましく使用される。また架橋剤、添加剤、軟化剤、粘着調整剤、下塗り剤等により任意に接着力・濡れ性を調節してよく、耐水性や耐熱性を付加してもよい。なお、材料によっては多孔構造となることもあるが、接続時に粘着性接続部材に適当な押圧力を加えることにより、粘着性接続部材を圧縮すれば、空気をなくすこともでき、光損失に影響を与えない。
本発明に用いるシリコーン系粘着材とは、主鎖の骨格がSi−O−Si結合(シロキサン結合)からなる粘着材を意味し、シリコーンゴムまたはシリコーンレジンで構成される。それらは、有機溶剤の溶解した状態で塗布して固化または成膜される。シリコーンゴムの主ポリマーは、直鎖状のポリジメチルシロキサンであって、メチル基の一部をフェニル基やビニル基に置換したものも含まれる。また、シリコーンレジンは複雑な三次元構造を持った分子量3000〜1万程度のものが使用され、ゴム系粘着材における接着付与樹脂の役目をする。なお、シリコーン系粘着材には、架橋剤、軟化剤、粘着調整剤、その他の添加剤を添加して、接着力、濡れ性を調節したり、耐水性、耐熱性を付与してもよい。
シリコーン系粘着材は、耐熱保持力が優れ、高温、低温環境下でも接着力が優れていると言う特徴を有している。そのためシリコーン系粘着材を2つの光伝送媒体の間または光伝送媒体と光学部品の間に密着して介在させた光学接続構造においては、高温環境下(〜250℃)、或いは低温環境下(〜−50℃)においても接続部の密着が維持され、常に安定した接続状態を保つことができる。また、高温を履歴した後でも硬化したり黄変したりせず、被着体より良好に剥離することができる。また、シリコーン系粘着材は、電気絶縁性、耐薬品性、耐候性、耐水性に優れており、広範囲な材料、例えば、フッ素樹脂で作製されたプラスチック光フィアバや、クラッド層がフッ素樹脂でコーティングされた光ファイバ等に対しても密着させることができる。また、光導波路や光学部品についても、フッ素ポリイミド等のフッ素樹脂ベースのものに対しても粘着性を示すので、有効に使用することができる。
本発明に用いるアクリル系粘着材とは、その基本構造がアクリル酸の炭素数2〜12のアルキルエステルまたはメタクリル酸の炭素数4〜12のアルキルエステルを主モノマーとして構成されたポリマーを意味する。具体的には、例えば、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル類、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸のアルキルエステル類等があげられる。また、これらの主モノマーと共重合するモノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、スチレン等があげられる。
また、光伝送媒体に密着させるために必要な凝集力を与えるために、アクリル系粘着材には架橋構造を持たせることができる。そのためには、アクリル酸、メタクリル酸ヒドロキシエチル、グリシジルメタクリレート等の官能基を有するモノマーを少量共重合させればよい。これらの組成と比率を調整することによって、粘着性、凝集性、タック性などの物性を容易に変化させることができる。官能基を有するモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸等の多価カルボン酸、およびこれらの酸無水物等のカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のヒドロキシル基含有モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド等のアミノ基含有モノマー等があげられる。
アクリル系粘着材には、製造時に溶媒として水を用いるエマルジョン系粘着材と、有機溶剤を用いるソルベント系粘着材とがあるが、本発明においては、ソルベント系粘着材を用いるのが好ましい。ソルベント系粘着材は耐水性に優れ、透明な粘着材被膜が形成されるからである。ソルベント系粘着材は、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサン等のケトン類等の有機溶剤中でモノマーをラジカル重合させたり、または乳化剤の存在下でモノマーの乳化水分散体を乳化重合させたりすることによって合成される。
光学接続部品は、光が接続部を通過することが重要であるので、アクリル系粘着材は透明性に優れた材料であることが必要であり、使用する波長、すなわち、可視光および近赤外領域における光透過率が85%以上であることが好ましい。アクリル系粘着材は、架橋剤や硬化剤を調整することによって、比較的容易に透明性を出すことができる材料である。より好ましくは、使用する波長における光透過率が90%以上のものである。
アクリル系粘着材は、ガラスやプラスチック等に対して良好に密着するとともに、耐水性、耐薬品性にも優れている。これを2つの光伝送媒体の間または光伝送媒体と光学部品の間に介在させた光学接続構造においては、接続部の密着を保持し、常に安定した接続状態を保つことができる。また、0℃〜80℃の温度範囲で優れた接着力を有するため、通常の外気温環境下で問題なく使用できる。また、耐候性にも優れており、ゴム系の粘着材に発生し易い紫外線劣化が起こり難いために、使用中に硬化したり黄変したりすることがなく、被着体から良好に剥離することができる。さらに、安価であるという利点も有している。
本発明における粘着性接続部材はシート状であるが、その形状は、特に限定せず、接続部の周囲の環境や仕様に合わせて適宜選択すればよい。例えば、円形状、楕円形状、四角形状、三角形状などの形状を有していてもよい。また、粘着性接続部材のサイズについても限定せず、仕様に合わせて適宜選択して用いればよい。
本発明に用いる固形の粘着性接続部材は、光伝送媒体相互間で、及び光伝送媒体と光学部品の間で屈折率整合性を有していることが必要である。この場合の屈折率整合性とは、粘着性接続部材の屈折率と光伝送媒体及び光学部品との屈折率との近似の程度をいう。本発明に用いる粘着性接続部材の屈折率は、光伝送媒体及び光学部品の屈折率に近いものであれば特に限定されないが、フレネル反射の回避による伝送損失の面からそれらの屈折率の差が、±0.1以内であることが好ましく、±0.05以内であるものが特に好ましく使用される。なお、光伝送媒体と光学部品の屈折率の差が大きい場合には、光伝送媒体と光学部品の屈折率の平均値と粘着性接続部材の屈折率が上記の範囲内であることが好ましい。
本発明に用いる粘着性接続部材はシート状であるために、光ファイバ端面同士の間隔を均一に、かつ狭くできるので光損失を低減することができる。
光伝送媒体の端面同士あるいは光伝送媒体と光学部品が突き合わされる前の粘着性接続部材の初期の厚さについては、突き合わせ時の押圧力に依存するため、適宜最適化した上で、厚みを決定するのがよいが、その厚みtは1μm≦t≦150μmの範囲であることが好ましい。粘着性接続部材の厚みが1μmより薄くなると取り扱い性が非常に困難になり、また柔軟性が維持できなくなるために、光伝送媒体の突き当てにより光伝送媒体あるいは光学部品の破損を引き起こす可能性が高くなってしまう。逆に150μm以上であると、光伝送媒体を突き当てることによって、粘着性接続部材を変形させた場合でも、対向する光伝送媒体の端面同士の間隔、あるいは光伝送媒体と光学部品との間隔が開きすぎてしまうために、光損失が大きくなってしまう。より好ましくは、5μm≦t≦100μmである。
また、光ファイバ端面同士または光伝送媒体と光学部品が接続された後の粘着性接続部材の厚みは、突き合わせ時の押圧力に依存するが、50μm以下であるのが好ましく、より好ましくは5μm以上、30μm以下である。突き合わされた後の厚みが50μmより大きいと、突き合わされた光ファイバ間隔が大きすぎるために光損失が増大し、光伝送用の接続構造として適さない場合がある。このことは、光ファイバ以外の光伝送媒体を用いた場合でも、また、光伝送媒体と光学部品との間でも同様である。
本発明において、粘着性接続部材は、前記したように振動等の外的要因により、光ファイバの間隔の伸縮が起きても粘着力により光ファイバ端面同士の間で保持されるのが好ましい。光ファイバの間隔は数μm程度の範囲で変化するため、その範囲の変化に対応できるものであればよく、したがって、粘着保持距離は10μm以上であることが好ましい。なお、粘着保持距離の測定方法については、図10〜12を参照して後記する。
粘着性接続部材の交換は、例えばその表面に埃、あるいは塵が付着したなどの場合に適宜行えばよい。また、交換前の異物混入を防ぐために、粘着性接続部材の片面あるいは両面に保護フィルムを貼り付けておいても良い。なお、光伝送媒体先端部を粘着性接続部材に数回押し当てたり、こすったりすることにより、光伝送媒体端部に付着したゴミや塵を粘着材に付着させた後、粘着性接続部材を交換すれば、光伝送媒体の清掃手段としても利用できる。
本発明の光学接続構造においては、固形の粘着性接続部材が単一の層構造であるため、構造が簡単であり、光の反射が起きることがなく、かつ粘着性接続部材の濡れ性と接着力により光伝送媒体の端面を容易に密着させ、保持することができる。また、液状の屈折率整合剤で見られるような、ホーリーファイバ空孔部への屈折率整合剤の浸入と、それによる光ファイバ伝送特性への悪影響については、粘着性接続部材では全く認められない。また、粘着性接続部材を、光伝送媒体端面のみに密着させることができるので、周囲を汚染することなく、周囲から汚染を受けることもない。さらに本発明に用いる固形の粘着性接続部材は、粘着性を有し、光伝送媒体の端面に貼着するため、粘着性接続部材を保持する特別の支持手段や構造物を新たに設ける必要がなく、省スペース化が図れる。また、粘着性接続部材は粘着性で柔軟に内部変形するために、光伝送媒体端部間に空気が入りにくくなり、研磨工程を必要とせずに低損失で接続が可能であり、かつ粘着性接続部材の復元力により複数回繰り返して光学接続を行うことができる。
また、粘着性接続部材は、シート状であるために、接続部周囲に流れ広がることによる汚染や、埃の付着が起きにくくなり取り扱い性が向上する。また、光ファイバ端面同士の間隔を均一に、かつ狭くできるので光損失を低減することができる。また、光伝送媒体の軸方向に伸びながら平面から波状に変形させることができるので、光伝送媒体に過剰な押圧力がかかり難くなり、光伝送媒体が破損することがない。さらにまた、多心の光ファイバテープの接続であっても簡単に接続することができる。すなわち、粘着性接続部材が、複数の光ファイバのそれぞれに対して、突き当てに応じて変形するので、光ファイバの突き出し量にばらつきがあった場合でも、光ファイバが破損することがなく、安定した光学接続を行うことができる。また、レンズやフィルタを光ファイバと接続する場合には、最小面積で密着させることができるために、粘着性接続部材を容易に剥がすことができ、作業性が向上する。
次に、本発明の光学接続構造の実施態様について、図面を参照して説明する。図1は本発明の接続構造の最も基本的な例を示す平面図であり、光伝送媒体として光ファイバが用いられている。図1において、光ファイバ1aと光ファイバ1bの接続端面間に、粘着性接続部材2が貼着した状態で介在している。2本の光ファイバ1a及び1bは粘着性接続部材2を介して突き合わされ、それによりそれら光ファイバが光学的に接続された接続構造になっている。なお、2本の光ファイバ1a、1bは、先端より数十mmの部分の被覆が除去され、そして先端がカットされている。
粘着性接続部材2は、シート状に構成されており、極めて簡単な構造である。したがって、この1層構造の粘着性接続部材を用いることによって、光反射が起きることなく接続することができるので、低損失な接続を行うことができる。また、光ファイバの端面やバリによって粘着性接続部材に傷が付きにくくなる。さらに、この表面が濡れ性を有することにより、突き合わされる2つの光ファイバの端面に容易に密着することができ、かつその接着力により、光ファイバとの密着性を保持し、同時に屈折率整合性を有しているため、良好な光学接続をすることができる。その上、表面の濡れ性及び接着力があるために、過剰な押圧を加える必要がなく、よって光ファイバの割れや折れが起こる恐れもない。さらに粘着材の特性として再剥離性を有するために、複数回着脱を行っても、繰り返し使用することができる。
図2は本発明の光学接続構造の他の一例を示す平面図であり、光ファイバ1aと光ファイバ1bの接続端面が、シート状粘着性接続部材2を介して突き合わされ、それによりシート状粘着性接続部材2が変形している状態を示している。上記のように粘着性接続部材2は、その膜厚がある程度厚い場合でも、2本の光ファイバ間で内部変形させて2本の光ファイバを近接させることができる。したがって、粘着性接続部材の膜厚を厚くすることができ、その取り扱いが非常に簡便になる。また、突き合わされる2本の光ファイバの端面の角度のずれや形状が変形していても、粘着性接続部材が光ファイバの端面に密着しながら変形するため、光ファイバ端部間に空気が入りにくくなり、高精度の研磨技術を用いなくても低損失な光学接続を実現できる。また、光ファイバに振動、あるいは熱的な形状変化があっても、光ファイバを安定して接続させることができる。さらに、粘着性接続部材は、その表面が柔軟性を有するために、突き合わせた時における光ファイバ端面の破損がなく、光学接続時の取り扱い性が極めて良好である。さらにまた、粘着性接続部材はその柔軟性により元の状態に復元することができるため、粘着性接続部材を複数回使用して、光ファイバの光学接続構造からの脱着を繰り返すことが可能になる。
図3(a)〜(c)は本発明の他の一例の光学接続構造を形成する光学接続方法の工程図である。端部を被覆除去し、カットした光ファイバ1a、1b及び粘着性接続部材2は一定の間隔を置いて設置されており、粘着性接続部材2の両端は、図示されていないその他の構成部材により位置が固定されている(図3(a))。一方の光ファイバ1aの端面を粘着性接続部材に接触させるまで移動させる(図3(b))。次に、光ファイバ1aをさらに粘着性接続部材を変形させながら、他方の光ファイバ1bに接触させるまで移動させる(図3(c))。それによって、光ファイバ1a、1bが機械的に光学接続された光学接続構造が形成される。この場合、光ファイバを突き合わせる前の粘着性接続部材の位置に対して、光ファイバの端面が異なる位置において突き合わされるため、粘着性接続部材2は平面から波状に変形する。
上記の場合、粘着性接続部材が光ファイバの軸方向に伸びながら変形するので、光ファイバに過剰な押圧力がかかりにくくなり、光ファイバの破損を防ぐことができる。また、一方の光ファイバを固定しておき、他方の光ファイバを、上記のように移動させるため、微妙な精度を要する光ファイバの位置合わせが不要となり、実用上、より信頼性のある光学接続構造の形成が可能になる。また、光ファイバの接続を解除した場合は、粘着性接続部材が柔軟性を有しているため、形状も変形前の形状に戻り、再度同じ粘着性接続部材を使用することができる。したがって、粘着性接続部材が接続される光ファイバの接触部の周辺領域に、一定の間隔または空間が存在すれば、粘着性接続部材が柔軟に伸びながら平面形状から波形形状に変形することが可能となるので、光ファイバの着脱を反復して行うことが可能になる。なお、この場合の変形とは、粘着性接続部材自体が伸びながら変形することを意味するが、図2のような内部に凹むように圧縮されて変形してもよい。
図4は、本発明の光学接続構造における、光ファイバ1と粘着性接続部材2の接続部分を光ファイバの軸に対して垂直の方向からみた平面図である。図4において、Dは、光伝送媒体(光ファイバ1)と粘着性接続部材2が接する面20の中心21、すなわち、光伝送媒体の端面の中心から粘着性接続部材2の周縁部22までの距離の最小値であり、Rは光伝送媒体の半径である。粘着性接続部材が上記のように変形するには、Dの値とRの値が、R<D≦60Rの関係を満たすことが望ましい。
図5(a)〜(e)は、種々の形状の粘着性接続部材2に対するDの値を説明する図であり、光ファイバの軸方向から見た平面図である。図中20は光伝送媒体と粘着性接続部材が接する面、21はその面の中心、22は粘着性接続部材2の周縁部を示している。図5(e)のように多心の光伝送媒体を用いた場合は、Dは近接する光伝送媒体の端部の接触位置と光ファイバ中心との最短距離を意味する。ただし、後述する支持部材によって支持された場合や、何らかの固定部材でシート状粘着性接続部材を固定した場合は、Dの値は、支持部材、あるいは固定部材が接触する部分を除いた部分の周縁部と光ファイバ中心との最短距離を示す。
図5(a)〜(e)に示すように、粘着性接続部材周辺に一定の空間を持たせることにより、粘着性接続部材が光ファイバを密着させた状態でも、自由度を持ち、柔軟に変形することができる。Dの値が60Rより大きい場合は、光ファイバの突き出しにより、粘着性接続部材の変形量が大きくなり、全体的にたるみやしわが生じ、それにより粘着性接続部材が破れる恐れがあるため、安定的な接続をすることができなくなる。また、光ファイバを取り外したときの粘着性接続部材の復元力も弱くなるため、再使用できなくなる。また、DがRと等しい場合は、光ファイバを突き合わせたときに粘着性接続部材が密着するが、粘着性接続部材を波状に変形させることができない。さらにDがRより小さい場合は光ファイバ表面全体に粘着性接続部材が密着しないために、空気に接触し、光損失が増大する。また、Dの範囲は2R≦D≦30Rとするのがより好ましい。なお、光伝送媒体が光ファイバのような円柱状でなく、導波路のような四角柱状であるときは、導波路断面の長方形の対角線の半分の長さをRの値として用いればよい。
本発明において、シート状粘着性接続部材を固定するための手段は、特に限定されるものではないが、図1ないし図3に示す光学接続構造の場合、シート状粘着性接続部材は常に固定された状態で使用されることが好ましく、例えば、以下に示すような支持部材を用いるのが好ましい。図6(a)〜(f)は、本発明の光学接続構造に用いる粘着性接続部材の周縁部が種々の支持部材によって支持された状態を示す斜視図である。支持部材4は粘着性接続部材2を把持でき、かつ少なくともその両端を固定できればよく、その形状は図6(a)のように両端を把持した簡易的な形状であったり、図6(b)のような3方向を固定したコの字形状であったりしてもかまわないが、上下左右方向を安定して把持できる図6(c)、図6(d)のような窓型形状であることがより好ましい。また、光ファイバを固定する接続用整列部材に対して容易に安定した装着が可能なように、図6(e)のようなラッチ部61を設けるなどの工夫を施しても構わない。さらに、支持部材を構成する部材の個数についても限定せず、安定化するために図6(f)のように2つの支持枠41a、41bにより粘着性接続部材を挟み込んだ構造であっても構わない。なお、支持部材のサイズについては特に限定せず、使用環境および仕様に応じて適宜選択して用いればよい。また、支持部材の材料に関しても、金属類、プラスチック材料、ゴム材料など適宜選択して用いればよい。このように支持部材を用い、粘着性接続部材を保持して固定することによって、粘着性接続部材が柔軟に変形することができる。また、粘着性接続部材を枠状の支持部材によって固定した場合は、粘着性接続部材の設置作業において、粘着性接続部材に接触することなく取り扱うことが可能となるため、粘着性接続部材表面の汚染や塵などの付着を防止することができる。したがって、粘着性接続部材の交換も容易に行うことができる。
図7(a)〜(b)は、接続用整列部材を用いて光学接続構造を形成する光学接続方法の一例の工程図である。その構成は2つの光ファイバ1a、1b、接続用整列部材5、支持部材4により支持された粘着性接続部材2からなる。接続用整列部材5は、中央にスリット51を設けた溝50を有し、溝50を挟んだ両側に、光ファイバ素線または光ファイバ心線を挿入するための1対の貫通孔52a、52bを有している。光ファイバの接続工程においては、貫通孔に対して垂直になるように粘着性接続部材2を前記スリット51に挿入する。次に前記接続用整列部材5の貫通孔52a、52bに、先端を被覆除去しカットした光ファイバ心線1a、1bを挿入し(図7(a))、片方の光ファイバ1aの端部を粘着性接続部材2に押し当てることにより、粘着性接続部材2を他方の光ファイバ1bに突き合わせ(図7(b))、そしてこの状態を維持するために光ファイバ1bを固定する。上記のように接続用整列部材を用いることにより、光ファイバ同士の位置合わせを容易に行うことができる。また、接続用整列部材の溝内に粘着性接続部材を挿入することにより、粘着性接続部材を接続用整列部材内に収納することができ、取り扱い性と埃・塵の付着防止効果を向上させることができる。
前記接続用整列部材による光ファイバの位置合わせ手段および方法は、光ファイバ端面が同軸上で位置合わせされればよく、特に限定されない。図7に示すように貫通孔を用いて光ファイバを挿入したり、あるいはV溝などの整列溝の上に光ファイバを載置してもよい。また、接続用整列部材のサイズは、特に限定されるものではなく、光ファイバの種類または本数によって適宜選択すればよく、その形状も特に限定されるものではない。例えば、半円柱状、直方体状等の形状が挙げられる。さらに貫通孔の構造及び形状も特に限定されるものではなく、V溝基板を用いて、例えばガラスなどの平板を上から押さえ込み、その囲まれた溝を貫通孔としてもよく、この場合、光ファイバの載置を上部から行うことが可能となる。また、例えばMTコネクタフェルールなどの既存の部材も、前記接続用整列部材として用いてもよい。さらに接続用整列部材を構成する材料も特に限定されるものではないが、例えばポリアセタール樹脂のような摩擦係数が小さい材料や熱変形しにくいなどの機械特性が良好な材料、ステンレス鋼、三フッ化エチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂などの腐食しない材料、もしくは化学物質や溶剤に対して反応性が小さい材料であることが好ましい。
また前記接続用整列部材は多数の部材からなっていてもよく、例えば粘着性接続部材を挿入する溝を有する部材と、貫通孔を有する部材とを組み合わせた構造であってもかまわない。また、貫通孔を有する部材にガイドピン穴などを設けて部材同士を正確に位置合わせできるように加工を施してもかまわない。さらに、貫通孔先端を光ファイバの載置をしやすくするためにコーン状にするなどの加工を施してもよい。前記接続用整列部材に設けられた粘着性接続部材用の溝は、該接続部材を挿入し、固定できればよく、その形状や位置、数については特に限定されない。
図8(a)〜(c)は、光ファイバと光学部品とを用いて光学接続構造を形成する光学接続方法の一例を示す工程図である。すなわち、端部を被覆除去し、カットした光ファイバ1と光学レンズ6とを粘着性接続部材2を用いて光学的に接続する方法を示している。粘着性接続部材2と光ファイバ1及び光学レンズ6は一定の間隔で設置されており、粘着性接続部材2は張られた状態で固定されている(図8(a))。一方の光ファイバ1の端部を粘着性接続部材2に密着させるまで移動させ(図8(b))、次に、光ファイバ1をさらに粘着性接続部材2を変形させながら光学レンズ6に接触させるまで移動させる(図8(c))。それによって、光ファイバ1と光学レンズ6とが機械的に光学接続した接続構造が形成される。本発明によれば、図8に示すように、光学レンズなどの中央部より外周部に向けて段階的あるいは連続的に厚みが薄くなるような凸形状の部材であっても、容易に光学接続を行なうことができる。また、上記方法によれば、光学部品を固定した状態で安定な接続を保持することができる。なお、粘着性接続部材は光学レンズに貼り付けることなく、光ファイバの先端面積分だけ光学レンズに接触するようにするとよく、そうすることで容易に粘着性接続部材を光学レンズから剥がすことができる。
図9は、本発明の多心接続の光学接続構造の一例を示す平面図である。この光学接続構造は、複数本の光ファイバ1a〜1d、接続用整列部材5、粘着性接続部材2から構成され、光ファイバとしては先端を被覆除去した後カットした4心の光ファイバテープ心線7a、7bが用いられている。光ファイバ接続用整列部材5は、その中央にスリット51を設けた溝50を有し、溝50を挟んだ両側に同軸の一対の貫通孔52を有し、この貫通孔52は並列に一定間隔で4個並べられている。テープ心線、7a、7b中の4本の光ファイバは貫通孔52にそれぞれ挿入され、並列しながら粘着性接続部材2を挟んで、お互い突き合わさっている。この実施例に示すように、本発明では、一枚の粘着性接続部材を用いて複数本の光ファイバ及び光学部品に対して一括接続することができる。また、光ファイバの先端部の突き出し量のばらつきによる光損失が問題になっているが、本発明では、粘着性接続部材が柔軟に変形することができるために、粘着性接続部材が光ファイバの突き出し量に見合って変形することができるため、接続時における光ファイバ、あるいは接続用整列部材の破壊が起こることがなく、安定して光学接続を行うことができる。
なお、本発明でいう粘着性接続部材が波状に変形するとは、図3(c)、図7(b)、図8(c)および図9に示す形状を称し、光ファイバの端面を粘着性接続部材の表面に接合する際に生じる起伏を伴った変形を意味する。図9についていえば、当該変形により接続の前後で光ファイバの端面の位置が変動し、対向する光ファイバの端面との密着性が保持される。
本発明において、粘着性接続部材の粘着保持距離は、前記したように10μm以上であることが好ましいが、粘着性接続部材の粘着保持距離は、23±1℃、湿度45%の条件下で次のようにして測定した値である。
図10は粘着保持距離の測定方法を説明するための説明図であり、図11は、粘着性接続部材を貼着した状態のMTフェルールの斜視図であり、図12は図10の光ファイバの接続部分の拡大図である。図10に示すように、MTフェルール30a(白山製作所製、8心、材質PPS)の端面に、厚さ50μmの粘着層を設けた厚さ100μmのプラスチックフィルム32(32a、32b)(サイズ0.5mm×7mm)を貫通孔31a、31bの上下にそれぞれ貼り付け、その2つのフィルムの中央を繋ぐようにシート状の粘着性接続部材2(サイズ2mm×3mm×厚さ25μm)を貼り付けた(図11)。そしてMTフェルール30bをMTフェルール30aの端面に向き合わせて配置し、ガイドピン33a、33bを介して位置合わせし、MTフェルール30aとMTフェルール30bの端面間隔を1mmにして固定した(図10(a))。
次に、フェルール30aの貫通孔に、先端の被覆を除去し、クリーブした光ファイバ1a(クラッド径125μm、シングルモードファイバ、古河電工製)を挿入し、光ファイバの端面を粘着性接続部材に接触させ、(図10(b))さらに、接触した位置から250μm突き出した位置で光ファイバ1aを固定した(図10(c))。
もう一方のMTフェルール30bの貫通孔に同種の光ファイバ1bを挿入し、光ファイバ1bの端面を粘着性接続部材に接触するまで移動させた。この接触位置を原点Gとする。さらに、原点Gと光ファイバ1bの端面との間隔が10μmになる位置まで光ファイバ1bを移動させた(矢印方向)後、光ファイバ1bをその状態で2秒間保持した(図10(d)12図(a))。
その後、光ファイバ1bを矢印方向に10μm/secの速度で徐々に戻し(図10(e))コアから粘着性接続部材が剥れるまで光ファイバ1bを移動させた。そして、コアから粘着性接続部材が剥れた位置と原点Gとの間の距離を計測し、この距離Hを粘着保持距離とした(12図(b))。
以下、本発明の光学接続構造および光学接続方法を実施例によって説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
n−ブチルアクリレート/メチルアクリレート/アクリル酸/2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体(配合比=82/15/2.7/0.3)からなるアクリル系樹脂の30%酢酸エチル溶液100部に、コロネートL(日本ポリウレタン工業社製、トリメチロールプロパンのトリレンジイソシアネートアダクト)1.0部を配合して混合した。得られたアクリル系粘着材塗布液を、離型材を塗布した厚さ50μmのPETフィルムの一面に、乾燥後の膜厚が100μmになるように塗工してアクリル系粘着材層を製膜し、プラスチックフィルムより剥離してシート状粘着性接続部材を作製した。なお、このときにアクリル系粘着材について、分光光度計にて1300〜1320nmの波長領域における光透過率を測定したところ、93.5%であった。また、アクリル系粘着材の屈折率をアツベ屈折率計で測定したところ、1.465であった。
上記のようにして得られたシート状粘着性接続部材を用い、図13に示すようにして光学接続構造を形成した。先ず、V溝を有する2個の整列部材8a、8b(サイズ5mm×10mm)のV溝断面を光学顕微鏡で位置合わせし、次いでガラス基板9に設けた0.05mmのスリット91から0.2mmの位置にV溝端部を合わせ、整列部材をガラス基板9に接着剤で固定した。その後、上記シート状粘着性接続部材2を、ガラス基板のスリットに挿入して、ガラス基板表面に垂直に配置した。その後、両方の整列部材8a、8bのV溝内に光ファイバ1a、1bを配置した。光ファイバとしては、石英光ファイバ心線(古河電工社製、径250μm、シングルモード)を用い、被覆を端部から25mmだけ、ファイバストリッパーで除去し、光ファイバ素線をむき出しにし、端部より10mmのところで光ファイバ素線をファイバカッターでカットしたものを用いた。光ファイバ1bをV溝に沿わせて平行移動させ、光学顕微鏡で観察しながら光ファイバ素線の端部が整列部材から外れた適当な位置にくるまで移動させた後、光ファイバ1bを平面板12bと整列部材8bで挟み込み、UV接着剤で整列部材上に固定した(図13(a))。次いでもう一方の光ファイバ素線1aをシート状粘着性接続部材2に密着するまで移動し(図13(b))、更に光ファイバ素線1aを、その端面に密着したシート状粘着性接合部材が光ファイバ1bとに突き合わされるまで光学接続部材を押し付けた。突き合わされた後のシート状粘着性接合部材の厚みは10μmであった。その後、光ファイバ1aを平面板12aと整列部材8aで挟み込み、光ファイバ固定ジグ14で固定した(図13(c))。
なお、本実施例においては、R=62.5μm、D=1.5mmであり、D=24Rであった。接続した光ファイバの接続損失を1300nmの波長で測定したところ、0.2dB以下であり、また反射減衰量を測定したところ、50.3dBと良好な光学特性を示した。さらに−25℃から70℃、500回の温度サイクル試験を行ったところ、光損失変動は0.2dB以下であり、また光学接続を脱離後に粘着性接続部材を観察したところ、外観上の異常は認められなかった。
上記のようにシート状の粘着性接続部材は、極めて簡単な1層構造であるため、反射が起きることなく低損失な接続を行うことができた。また、屈折率整合性を持ちながら、粘着性接続部材の濡れ性により容易に光ファイバの端部に密着し、かつその接着力により、適当な押圧力で光ファイバと粘着性接続部材との密着性を保持することができた。また粘着性接続部材は柔軟であるため、光ファイバ端面が破損することなく、極めて良好な取り扱い性で光学接続を行うことができた。また、粘着性接続部材は変形しやすいため、光ファイバ端部と粘着性接続部材間には、高精度の軸方向位置合わせ手段を必要としなくてもよく、作業性を向上させることができた。また、光ファイバの位置合わせをするV溝基板に粘着性接続部材を接触させる必要がなく、その粘着性接続部材を容易に交換して再接続することもできた。なお、本実施例において100回の着脱試験を行い、光ファイバの接続損失を測定したところ、光損失変動は0.2dB以下であり、同じ粘着性接続部材を用いて、常に安定した出力を維持でき、光学接続構造として、十分使用可能なことが分った。
SD4590/BY24−741/SRX212/トルエン(=100/1.0/0.9/50(重量部))からなる付加型シリコーン系粘着材塗布液(いずれも東レ・ダウコーニング社製)(SD4590を主剤とし、BY24−741及びSRX212を硬化剤とする付加型シリコーン系粘着材である。)を用意した。この付加型シリコーン系粘着材を、離形材を塗布した厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの一面に、乾燥後の膜厚が50μmになるように塗工して付加型シリコーン粘着材層を製膜、ポリエチレンテレフタレートフィルムより剥離して粘着性接続部材を作製した。
得られた粘着性接続部材を用い、実施例1と同様にして光学接続構造を形成した。なお、突き合わされた後の粘着性接合部材の厚みは10μmであった。接続された光ファイバの接続損失を測定したところ0.4dB以下であり、良好な光学特性を示した。また、前記光学接続構造体を125±2℃環境下に放置する耐熱性試験(JIS C 0021に準拠)、及び−40℃から75℃、500回の温度サイクル試験を行ったところ、光損失変動は0.4dB以下であり、また光学接続を脱離後に粘着性接続部材を観察したところ、固化や黄変は見られず、光学接続部品として十分再使用できることが分った。
図14は4心光ファイバテープ心線を接続した光学接続構造を示す平面図である。4本の光ファイバ同士の光学接続を実現するにあたり、2本の4心光ファイバテープ心線7a(このテープ心線中の光ファイバは1a〜1d)と7b、およびガラス基板9上に固定された4本のV溝を持つ2つの整列部材を用いた以外は、実施例1と同様に接続操作を行った。この場合、一枚の粘着材フィルムからなる粘着性接続部材2を用いて、4本の光ファイバを簡単に光学接続することができた。また、カットした光ファイバの長さを計測したところ、4本の光ファイバ素線間で±10μm程度のばらつきがあったが、粘着性接続部材が柔軟に変形して各々の光ファイバに密着、固定できるので、光ファイバ素線間の光損失変動のばらつきも小さく、100回の着脱試験において、光損失変動は各心線で0.3dB以下であり、同一の粘着性接続部材を用いて、常に安定した出力を維持でき、光学接続構造として、十分使用可能なことが分った。
実施例1における石英系光ファイバ(古河電工製)と、それと同じコア径をもつプラスチック製光ファイバとを用い、実施例1と同様の方法で光学接続を行った。この実施例の場合、材料の異なる光ファイバ同士であっても、フィルム状の粘着性接続部材の濡れ性により、該接続部材が光ファイバを保持でき、安定して接続することができた。なお、100回の着脱試験を行い、光ファイバの接続損失を測定したところ、光損失変動は0.3dB以下であり、同一の粘着性接続部材を繰り返し用いて、常に安定した出力を維持でき、光学接続構造として、十分使用可能なことが分った。
図15(a)〜(c)は光ファイバとロッドレンズを接続する光学接続方法の工程図であって、実施例1で使用したものと同一の材料よりなる厚さ25μmのフィルム状の粘着性接続部材2を用いて、光ファイバ1とロッドレンズ11を接続する場合を示す。すなわち、実施例1と同様に光ファイバ素線1をガラス基板9上のV溝基板8のV溝に設置した。一方、ロッドレンズ11(mflends社製 外径2mmφ)を2.1mmφの貫通孔52を有する接続用整列部材5(サイズ5mm×5mm×10mm)に貫通させ、ロッドレンズ端面を接続用整列部材端面から適当な距離に位置させて接着剤で固定し、ロッドレンズ11がV溝と位置合わせされた状態にし、さらにガラス基板9のスリット91から0.05mmの位置にV溝基板8及び接続用整列部材5をガラス基板表面に接着剤で固定した。その後、粘着性接続部材2をスリット91に挿入して設置した(図15(a))。次に、光ファイバ1をV溝に這わせる様に移動させて、光ファイバ1の端面を粘着性接続部材2に突き当てた(図15(b))。更に光ファイバ1を移動させることにより、粘着性接続部材を変形させながらロッドレンズ11に接触させた。その後、光ファイバ1を平面板12とV溝基板8で挟みこみ、さらに光ファイバ固定ジグ14でそれらを挟み込み固定した(図15(c))。上記の場合、光ファイバとレンズのようにサイズの異なる光伝送媒体間の接続であっても、光ファイバを押し当てて粘着性接続部材を変形させることによって、レンズと該部材は最小限の面積で接触するので、両者の取り外し作業時には簡単に剥がすことが可能であった。
図16は、本実施例の光学接続構造を示す斜視図であり、図17(a)〜(c)は本実施例の光学接続方法を示す工程図である。図16および図17において、粘着性接続部材2を内包したカートリッジ13は、図6(f)に示したような形状のものであって、実施例1で使用したものと同一の材料よりなる厚さ25μmのフィルム状の粘着性接続部材2を、中央に空洞(2mm角)を有する透明のプラスチック樹脂の2つの支持枠(3mm角厚み0.1mm)41a、41bで挟み込んで作製したものであった。また、接続用整列部材5(サイズ10mm×20mm×42.1mm)は中央に0.25mmの溝50と1対の貫通孔52a、52b(φ0.125mm)を有するものであった。上記のカートリッジ13および接続用整列部材5を用いて2本の光ファイバ1a、1bを接続した。すなわち、接続用整列部材5の溝51に粘着性接続部材を内包したカートリッジ13を垂直に挿入した。次いで、先端25mmを被覆除去し、カットした2本の光ファイバ1a、1bを、貫通孔52a、52bにそれぞれ挿入した。そして片方の光ファイバ1bを貫通孔端部より適当な長さが突き出るように押し込み、接着剤10bを用いて接続用整列部材5の端部で固定した(図17(a))。次いで、他方の光ファイバ1aをゆっくり押し込んで粘着性接続部材内包カートリッジ13の中の粘着性接続部材2に突き当て(図17(b))、さらに押し込んで粘着性接続部材を変形させながら粘着性接続部材を上記固定された光ファイバ1bに接触させた。その後、接着剤10aを用いて光ファイバ1aを接続用整列部材5の端部で固定した(図17(c))。
上記の場合、粘着性接続部材をカートリッジに内包し、支持枠を介して接続用整列部材と一体化しているので、構造的に安定した光学接続が可能であった。また、支持枠を介するために、接続用整列部材と粘着性フィルムからなる粘着性接続部材の距離を一定に保つことができ、シート状の粘着性接続部材の変形をコントロールしやすくなり、取り扱い性、作業性を向上させることができた。さらに粘着性接続部材をカートリッジ化したことにより、光ファイバの位置合わせ用の接続用整列部材と接触することがなくなり、接続作業がさらに簡単になり、作業効率および生産効率が向上した。
本発明の接続構造の最も基本的な例を示す平面図である。
本発明の光学接続構造の一例を示す平面図である。
(a)〜(c)は、本発明の光学接続構造の一例を示す平面図、および光学接続方法を示す工程図である。
本発明の光ファイバと粘着性接続部材の接続部を光ファイバの軸と垂直の方向からみた平面図であり、光伝送媒体と粘着性接続部材が接する面の中心から粘着性接続部材の周縁部までの距離の最小値Dおよび光伝送媒体の半径Rを示している。
(a)〜(e)は、本発明における粘着性接続部材の種々の形状に対するDの値を説明する平面図である。
(a)〜(f)は、種々の支持部材により支持された粘着性接続部材の例を示す斜視図である。
(a)、(b)は、接続用整列部材を用いて本発明の光学接続構造を形成する光学接続方法の一例を示す工程図である。
(a)〜(c)は、光ファイバと光学部品を用いて本発明の光学接続構造を形成する光学接続方法の一例を示す工程図である。
本発明の多心接続の光学接続構造の一例を示す平面図である。
粘着保持距離の測定方法を説明するための説明図である。
図10(a)の斜視図である。
図10の一部の拡大図である。
(a)〜(c)は、実施例1の光学接続方法の工程図である。
実施例3の4心光ファイバテープ心線を接続した光学接続構造を示す平面図である。
(a)〜(c)は、実施例5の光学接続方法の工程図である。
実施例6の光学接続構造を示す斜視図である。
実施例6の光学接続方法の工程図である。
符号の説明
1,1a〜1d…光ファイバ、2…粘着性接続部材、4…支持部材、5…接続用整列部材、6…光学レンズ、7a,7b…光ファイバテープ心線、8,8a,8b…V溝基板、9…ガラス基板、10,10a,10b…接着剤、11…ロッドレンズ、12,12a,12b…平面板、13…粘着性接続部材内包カートリッジ、14…光ファイバ固定ジグ、20…光ファイバと粘着性接続部材が接する面、21…光ファイバと粘着性接続部材が接する面の中心(光ファイバ端面の中心)、22…粘着性接続部材の周縁部、30a,30b…MTフェルール、31a,31b…貫通孔、32,32a,32b…プラスチックフィルム、33a,33b…ガイドピン、41a,41b…支持枠、50…溝、51…スリット、52,52a,52b…貫通孔、61…ラッチ、91…スリット。