JP4331868B2 - 球状化炭化物を含有する耐摩耗レール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重荷重鉄道に要求される耐摩耗性を向上させた球状化炭化物を含有する耐摩耗レールに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
海外の重荷重鉄道では、鉄道輸送の高効率化の手段として、列車速度の向上や列車積載重量の増加が図られている。このような鉄道輸送の効率化はレール使用環境の過酷化を意味し、レール材質の一層の改善が要求されるに至っている。具体的には、曲線区間に敷設されたレールでは、G.C.(ゲージ・コーナー)部や頭側部の摩耗が急激に増加し、レールの使用寿命の点で問題視されるようになった。
【0003】
しかしながら、最近の高強度化熱処理技術の進歩により、共析炭素鋼を用いた微細パーライト組織を呈した下記に示すような高強度(高硬度)レールが発明され、重荷重鉄道の曲線区間のレール寿命を飛躍的に改善してきた。
▲1▼ 頭部がソルバイト組織、または微細なパーライト組織の超大荷重用の熱処理レール(特公昭54−25490号公報)。
▲2▼ 圧延終了後、あるいは再加熱したレール頭部を、オーステナイト域温度から850〜500℃間を1〜4℃/secで加速冷却する、130kgf/mm2 以上の高強度レールの製造法(特公昭63−23244号公報)。
これらのレールの特徴は、共析炭素含有鋼(炭素量:0.7〜0.8%)による微細パーライト組織を呈する高強度レールであり、その目的はパーライト組織中のラメラ間隔を微細化し、耐摩耗性を向上させるところにあった。
【0004】
近年、海外の重荷重鉄道ではより一層の鉄道輸送の高効率化のために、貨物の高積載化を強力に進めており、特に急曲線のレールでは前記開発のレールを用いてもG.C.部や頭側部の耐摩耗性が十分確保できず、摩耗によるレール寿命の低下が問題となってきた。このような背景から、現状の共析炭素鋼の高強度レール以上の耐摩耗性を有するレールの開発が求められるようになってきた。
【0005】
これらの問題を解決するため、本発明者らは下記に示すようなレールを開発した。
▲3▼ 過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト相の厚さを増加させた、耐摩耗性に優れたレール (特開平8−144016号公報)。
▲4▼ 過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織のラメラ中のセメンタイト相の厚さを増加させると同時に硬さを制御した、耐摩耗性に優れたレール(特開平8−246100号公報)。
これらのレールの特徴は、鋼の炭素量を増加し、パーライトラメラ中の耐摩耗性に優れたセメタイト相の厚さ(密度)を増加させ、さらに硬さを制御することにより、パーライト鋼の耐摩耗性を向上させるものであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これらの過共析鋼を用いたパーライト組織のレールは、共析鋼を用いたパーライト組織のレールと比べて耐摩耗性は向上する。しかし、より一層の耐摩耗性の改善を狙って鋼中の炭素量をさらに増加させると、レール製造時にオーステナイト粒界に粗大な初析セメンタイト組織が生成し、延性の低下によりスポーリング等の表面損傷が発生し、レールの使用寿命が低下することや、耐摩耗性に有効なパーライトラメラ中のセメンタイト相の厚さを増加させることが困難となり、耐摩耗性が十分に向上しない。
【0007】
そこで、過共析鋼を用いたパーライト組織のレールよりも安定的に耐摩耗性を向上させる新たな材料開発が求められるようになった。
すなわち本発明は、重荷重鉄道に要求される耐摩耗性を向上させた高強度レールを低コストで提供する目的でなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記目的を達成するものであって、その要旨とするところは次の通りである。
【0009】
(1)質量%で、
C :0.85〜2.00%、 Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.10〜3.00%
を含有し、さらに必要に応じて、
Cr:0.05〜3.00%、 Mo:0.01〜1.00%、
V :0.01〜0.50%、 Nb:0.002〜0.050%、
B :0.0001〜0.2000%、
Cu:0.05〜1.00%、 Ni:0.05〜2.00%、
Ti:0.0050〜0.0500%、
Mg:0.0010〜0.0100%
の1種または2種以上を含有し、レール頭部の少なくとも一部が、長径と短径の比が2以下の球状化炭化物が分散した組織を呈し、前記組織の任意断面において、長径と短径の平均値が50〜800nmの範囲である球状化炭化物が占有する面積の合計が、前記任意断面における前記組織の面積の20〜80%であることを特徴とする球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。
(2)レール頭部のコーナー部および頭頂部の表面を起点として少なくとも深さ20mmの範囲が、球状化炭化物が分散した組織を呈することを特徴とする前記(1)に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明について以下に詳細に説明する。
まず、本発明者らはレール鋼の摩耗機構を解明した。その結果、現行のパーライト組織のレールのころがり面直下では、パーライト組織のラメラが破砕され、フェライト相とセメンタイト相が細粒化していることが確認された。また鋼中の炭素量、すなわちパーライト組織中のセメンタイト相の増加により、フェライト相へ歪みが集中し、パーライト組織中のフェライト相の微細化(サブグレイン化)が促進され、フェライト相が強化されていることが明らかとなった。
【0011】
さらに詳細な調査の結果、ころがり面直下では、フェライト相の細粒化に加えて、強加工によりセメンタイト相の炭素が分解し、この炭素がフェライト相に過飽和に固溶し、フェライト相が固溶強化されていることが確認された。またこのフェライト相の強化は、パーライト組織中のセメンタイト相の増加により向上することが明らかとなった。
【0012】
このような観察結果から、耐摩耗性を向上させる方法として本発明者らは、鋼の生地組織をフェライトとし、フェライト組織中に炭化物を分散させると同時に、その密度(量)を増加させて生地フェライト相を強化することにより、レールに必要とされる耐表面損傷性を損なわず、耐摩耗性を向上させる方法を検討した。
その結果、鋼の炭素量をある一定量以上とし、さらにこれに熱処理を行い、多量な炭化物を微細分散させた組織とすることにより、耐摩耗性がより一層向上することを実験により確認した。
【0013】
さらに、炭化物が分散した組織において、耐摩耗性をより一層向上させると同時に、レール鋼として必要とされる耐表面損傷性を確保することが可能な炭化物の生成状態を検討した。その結果、炭化物の形態、サイズおよびその密度をある一定範囲内に制御することにより、スポーリング等の表面損傷が発生せず、耐摩耗性の向上が図れることを見出した。
すなわち本発明は、重荷重鉄道に要求される耐摩耗性を向上させた高強度レールを低コストで提供することを目的とするものである。
【0014】
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。
まず、図1に本発明の球状化炭化物が分散した組織の炭化物生成状態の一例を模式的に示す。図1において、白抜きで示した島状の部分が限定範囲内の炭化物を示す。斜線付きで示した島状の部分は限定範囲外の炭化物である。
また本発明レール鋼において、炭化物の長径および短径は、図1に示すとおり炭化物の最大径と最短径である。
【0015】
(1)炭化物の形態、サイズおよび任意断面における占有面積:
はじめに、球状化炭化物が分散した組織中の炭化物の形態、サイズおよび任意断面におけるその占有面積を前記特許請求の範囲に限定した理由について説明する。
球状化炭化物が分散した組織中の炭化物の形態は、球状化炭化物が分散した組織の耐表面損傷性を決定する重要な要素である。球状化炭化物が分散した組織のレールが車輪との接触により塑性変形を受けた場合には、柔らかい生地フェライト組織と硬いセメンタイト組織の変形量の違いにより、フェライト組織とセメンタイト組織の界面にボイドが発生する。この時に炭化物の長径と短径の比が2を超えると、界面のボイドからき裂が発生し易くなり、フレーキング等の塑性変形起因の表面損傷性が発生するため、炭化物の長径と短径の比を2以下に限定した。
【0016】
球状化炭化物が分散した組織中の炭化物のサイズは、球状化炭化物が分散した組織の耐摩耗性や耐表面損傷性を決定する重要な要素である。炭化物の長径と短径の平均値が800nmを超えると、炭化物の粗大化による延性の低下により、レール頭表面にスポーリング等の表面剥離損傷が多く発生するため、炭化物の長径を800nm以下とした。
また、炭化物の長径が50nm未満になると、フェライト地を強化して耐摩耗性に寄与する炭化物が、球状化炭化物が分散した組織中のフェライト素地と一緒に摩耗により取り去られてしまい、耐摩耗性が確保できなくなるため、炭化物の長径と短径の平均値を50nm以上とした。
【0017】
球状化炭化物が分散した組織中の炭化物(長径と短径の平均値が50〜800nmのもの)の占有面積は、球状化炭化物が分散した組織の耐摩耗性、耐表面損傷性を決定する重要な要素である。炭化物の占有面積が80%を超えると、球状化炭化物が分散した組織の延性が低下し、レール頭表面にスポーリング等の表面損傷が多く発生することや、ころがり面での炭化物のミクロ的な破砕およびこれに伴う素地の剥離が進み、耐摩耗性が低下する。さらに、レール自体の延性も低下するため、炭化物の占有面積を80%以下とした。
また、炭化物の占有面積が20%未満になると、炭化物の量が減少し、炭化物によるフェライト相の強化が不十分となり、耐摩耗性が確保できないため、炭化物の占有面積を20%以上とした。
なお、球状化炭化物が分散した組織の耐摩耗性や耐表面損傷性を最も向上させると同時に、レールに必要とされる延性を十分に確保するには、炭化物の占有面積を30〜60%とすることがより望ましい。
【0018】
球状化炭化物が分散した組織中の炭化物の大きさおよびその占有面積の測定は、ナイタールおよびピクラールなど所定の腐食液で鋼をエッチングし、これらを走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察し、各視野において各炭化物の長径(最大径)および短径(最短径)を測定し、炭化物の長径と短径の比および長径と短径の平均値を求める。さらに、炭化物の長径と短径の平均値が50〜800nmの炭化物を選び出し、円近似を行ってその占有面積を求める。
また、炭化物の長径および短径の測定、炭化物の占有面積の算出については、観察する視野によってばらつきが発生する。そこで、有効な値を得るには各鋼において最低限10視野以上の観察を行い、その平均値を算出することが望ましい。
【0019】
(2)球状化炭化物が分散した組織の望ましい範囲:
次に、前記球状化炭化物が分散した組織の呈する望ましい範囲を、頭部コーナー部および頭頂部の該頭部表面を起点として深さ20mmの範囲に限定した理由について説明する。
深さが20mm未満では、レール頭部に必要とされている耐摩耗性領域としては小さく、十分な寿命改善効果が得られないためである。また、前記球状化炭化物が分散した組織を呈する範囲が頭部コーナー部および頭頂部の該頭部表面を起点として深さ30mm以上であれば、寿命改善効果がさらに増し、より望ましい。
【0020】
ここで、図2に本発明の球状化炭化物を含有する耐摩耗レールの頭部断面表面位置での呼称および耐摩耗性が必要とされる領域を示す。
レール頭部において1は頭頂部、2は頭部コーナー部であり、頭部コーナー部2の一方は車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。前記球状化炭化物が分散した組織は少なくとも図中の斜線内に配置されていれば、レール使用寿命の向上が可能となる。
したがって、本球状化炭化物が分散した組織は、車輪とレールが主に接するレール頭部表面近傍に配置することが望ましく、それ以外の部分は球状化炭化物が分散した組織以外の組織であってもよい。
【0021】
なお、本発明レールの金属組織は、前記限定のような球状化炭化物が分散した組織であることが望ましいが、その製造方法によっては、球状化炭化物が分散した組織中にラメラ構造を有したパーライト組織やベイナイト組織、残留オーステナイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織がある程度混入しても、レールの耐摩耗性、耐表面損傷性等には大きな影響を及ぼさないため、球状化炭化物を含有する耐摩耗レールの組織としては、若干のパーライト組織やベイナイト組織、残留オーステナイト組織の混在も含んでもかまわない。
【0022】
(3)レール鋼の化学成分:
次に、レールの化学成分を限定した理由について説明する。成分含有量は質量%である。
Cは、球状化炭化物が分散した組織の炭化物密度を確保し、耐摩耗性を向上させるための必須元素であるが、0.85%未満では、球状化炭化物が分散した組織中の炭化物密度が低下し、前記限定範囲の炭化物密度の下限値を確保することが困難となる。これに伴いフェライト相への加工歪み量が低減し、炭化物の分解・固溶によるフェライト相の強化が不十分となり、耐摩耗性が低下する。
また2.00%を超えると、球状化炭化物が分散した組織中の炭化物密度が著しく増加し、前記限定範囲の炭化物密度の上限値を確保することが困難となる。これに伴い球状化炭化物が分散した組織の延性が低下し、レール頭表面にスポーリング等の表面損傷が多く発生するため、C量を0.85〜2.00%に限定した。
【0023】
また、通常はSi,Mnを以下の条件で含有させる。
Siは、脱酸材として必須の成分であり、固溶強化によりフェライト相の硬さを高め、球状化炭化物が分散した組織の強度(硬さ)を確保する元素であるが、0.10%未満ではその効果が期待できない。また2.00%を超えると、レールの延性や靭性が劣化することや、レール熱間圧延時に表面疵が発生しやすくなるため、Si量を0.10〜2.00%に限定した。
【0024】
Mnは、焼入れ性を高め、粗大な炭化物である初析セメンタイト組織の生成を抑制する。さらに、セメンタイトに固溶してセメンタイトを強化する元素であると同時に、その球状化を促進させる元素であるが、0.10%未満ではこれらの効果が少なく、炭化物の粗大化や強度低下により、球状化炭化物が分散した組織の強度と延性が低下し、耐表面損傷性や耐摩耗性を確保することが困難となる。また3.00%を超えると、炭化物の強化が過剰となり、レール頭表面にスポーリング等の表面損傷が多く発生するため、Mn量を0.10〜3.00%に限定した。
【0025】
また、前記の成分組成で製造されるレールには、強度、延性、靭性、さらには溶接時の材料劣化を防止する目的で、以下の元素の1種類または2種以上を必要に応じて添加する。
Cr:0.05〜3.00%、 Mo:0.01〜1.00%、
V :0.01〜0.50%、 Nb:0.002〜0.050%、
B :0.0001〜0.2000%、
Cu:0.05〜1.00%、 Ni:0.05〜2.00%、
Ti:0.0050〜0.0500%、
Mg:0.0010〜0.0100%。
【0026】
ここで、Crは焼入れ性を高め、粗大な炭化物である初析セメンタイト組織の生成を抑制し、さらに、セメンタイト相に固溶してセメンタイトを強化すると同時に、その球状化を促進させる。Moは焼入れ性を高め、粗大な炭化物である初析セメンタイト組織の生成量を抑制し、さらに独自の炭化物を形成し、炭化物の強化と球状化を促進させる。V,Nbは独自の炭化物を形成し、炭化物の球状化を促進させる。また、レール溶接熱時の熱影響部の軟化抵抗を高める。Bは鉄との化合物を生成し、パーライト変態を促進し、同時に炭化物の球状化を促進する。Cu,Niは、主に固溶強化により生地フェライト相の硬さを高め、球状化炭化物が分散した組織の強度(硬さ)を確保する。Ti,Mgは、レール溶接熱時にオーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織を微細化し、溶接継ぎ手部の脆化を防止する、ことが主な添加目的である。
【0027】
以下、添加元素の化学成分を前記特許請求の範囲に限定した理由について説明する。
Crは、Mnと同様に焼入れ性を高め、粗大な炭化物である初析セメンタイト組織の生成を抑制する。さらに、セメンタイト相に固溶してセメンタイトを強化し、同時にその球状化を促進させる元素であるが、0.05%未満ではその効果が少なく、炭化物の粗大化や強度低下により、球状化炭化物が分散した組織の強度と延性が低下し、耐表面損傷性や耐摩耗性を確保することが困難となる。
また3.00%を超えると、炭化物の強化が過剰となり、レール頭表面にスポーリング等の表面損傷が多く発生するため、Cr量を0.05〜3.00%に限定した。
【0028】
Moは、Crと同様に焼入れ性を高め、粗大な炭化物である初析セメンタイト組織の生成を抑制する。さらに、独自の炭化物を形成して炭化物の強化と球状化を促進させる元素であるが、0.01%未満ではその効果が十分でなく、炭化物の粗大化や強度低下により、球状化炭化物が分散した組織の強度と延性が低下し、耐表面損傷性や耐摩耗性を確保することが困難となる。
また1.00%を超えると、Crと同様に、炭化物の強化が過剰となり、レール頭表面にスポーリング等の表面損傷が多く発生するため、Mo量を0.01〜1.00%に限定した。
【0029】
Vは、独自の炭化物を形成し、炭化物の球状化を促進させる元素である。さらにレール溶接熱影響部では、焼戻し時にV炭化物が生成し、析出強化により軟化を防止する元素であるが、0.01%未満ではその効果が十分に期待できず、熱処理後の炭化物の粗大化により耐表面損傷性が低下し、溶接熱影響部の軟化が抑制できない。また0.50%を超えて添加してもそれ以上の効果が期待できず、鋼のコスト増加を招くことから、V量を0.01〜0.50%に限定した。
【0030】
Nbは、Vと同様に独自の炭化物を形成し、炭化物の球状化を促進させる元素である。さらにレール溶接熱影響部では、焼戻し時にNb炭化物が生成し、析出強化により軟化を防止する元素であるが、その効果は0.002%未満では期待できず、熱処理後の炭化物の粗大化により耐表面損傷性が低下し、溶接熱影響部の軟化が抑制できない。
また、0.050%を超える過剰な添加を行うと、Nbの金属間化合物や粗大析出物が生成して靭性を低下させることや、それ以上の効果が期待できず、鋼のコスト増加を招くことから、Nb量を0.002〜0.050%に限定した。
【0031】
Bは、Bの鉄化合物(Fe2 B)がセメンタイトの核生成サイトとして作用し、セメンタイトの球状化を促進させる元素である。しかし0.0001%未満ではその効果は弱く、また0.2000%を超えて添加すると、粗大な鉄炭ほう化物が生成してレールの延性や靭性を劣化させるため、B量を0.0001〜0.2000%に限定した。
【0032】
Cuは、固溶強化によりフェライト相の硬さを高め、球状化炭化物が分散した組織の強度(硬さ)を確保する元素であるが、その効果は0.05%未満では期待できず、また1.00%を超えると赤熱脆化を生じることから、Cu量を0.05〜1.00%に限定した。
【0033】
Niは、Cuと同様、固溶強化によりフェライト相の硬さを高め、球状化炭化物が分散した組織の強度(硬さ)を確保する元素である。さらに溶接熱影響部においては、Tiと複合でNi3 Tiの金属間化合物が微細に析出し、析出強化により軟化を抑制する元素であるが、0.05%未満ではその効果が著しく小さく、また2.00%を超える添加を行ってもその効果が飽和してしまうため、Ni量を0.05〜2.00%に限定した。
【0034】
Tiは、析出したTi炭化物、Ti窒化物が高温度域まで溶解しないことを利用して、レール溶接熱時にオーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織を微細化し、溶接継ぎ手部の脆化を防止するのに有効な成分である。また溶接熱影響部においては、Ti炭化物を生成し、さらに、Niと複合でNi3 Tiの金属間化合物が微細に析出し、析出強化により軟化を抑制する元素である。しかし0.0050%未満ではその効果が少なく、0.0500%を超えて添加すると、球状化する前組織中に粗大なTi炭化物、Ti窒化物が生成して、レール使用中の疲労損傷の起点となり、き裂を発生させるため、Ti量を0.0050〜0.050%に限定した。
【0035】
Mgは、O、またはSやAl等と結合して微細な酸化物を形成し、レール溶接熱時にオーステナイト域まで加熱される熱影響部の組織を微細化し、溶接継ぎ手部の脆化を防止するのに有効な成分である。しかし0.0010%未満ではその効果は弱く、0.0100%を超えて添加するとMgの粗大酸化物が生成して、レール延性や靭性を劣化させるため、Mg量を0.0010〜0.0100%に限定した。
【0036】
前記のような成分組成で構成されるレール鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、さらに熱間圧延を経てレールとして製造される。
次に、この熱間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるいは熱処理する目的で高温に加熱されたレールの頭部を放冷または加速冷却を施して、前組織をマルテンサイト組織、パーライト組織、ベイナイト組織、および初析セメンタイト組織、またはその混合組織とし、これをA1 点直下ないしA1 点以上の温度に再加熱し、さらにA1 点以下の温度域で保定し、その後冷却することにより、レール頭部に、長径と短径の比が2以下で、かつ長径と短径の平均値が50〜800nmの範囲である炭化物が分散した組織を安定的に生成させることが可能となる。
なお、球状化する前組織は特に限定するものではないが、球状化熱処理後の組織において炭化物を微細に分散させるためには、前組織はセメンタイト(炭化物)の厚さが微細なパーライト組織であることが望ましい。
【0037】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に本発明レール鋼の化学成分、ミクロ組織、および任意断面内における炭化物の長径と短径の平均値の範囲、炭化物の長径と短径の比の範囲、長径と短径の比が2以下、平均値粒界が50〜800nmである炭化物の占有面積を示す。
なお、各レール鋼は、表示した成分以外にFeおよび不可避的不純物を含有する。さらに表1には、図3に示す西原式摩耗試験機による本発明レール鋼の摩耗特性評価結果、および図4に示すレール・車輪の形状を1/4に縮尺加工した円盤試験片による水潤滑ころがり疲労損傷試験結果を併記した。
【0038】
また、表2に比較レール鋼の化学成分、ミクロ組織、および任意断面内における炭化物の長径と短径の平均値範囲、炭化物の長径と短径の比の範囲、長径と短径の比が2以下、平均値粒界が50〜800nmである炭化物の占有面積を示す。なお各レール鋼は、表示した成分以外にFeおよび不可避的不純物を含有する。さらに表2には、図3に示す西原式摩耗試験機による本発明レール鋼の摩耗特性評価結果、および図4に示すレール・車輪の形状を1/4に縮尺加工した円盤試験片による水潤滑ころがり疲労損傷試験の表面損傷発生寿命を示す。
【0039】
さらに、図5に本発明レール鋼:符号F、図6に本発明レール鋼:符号Iの10000倍のミクロ組織において、炭化物の生成状態の一例を示す模式図を示す。図5、6は本発明レール鋼を5%ナイタール液で腐食し、走査型電子顕微鏡により観察したものであり、図中の白い粒状および塊状の部分が本発明の限定範囲の球状化炭化物が分散した組織中の炭化物である。また斜線部は、本発明の限定外の炭化物である。
【0040】
なお、レールの構成は以下のとおりである。
・本発明レール鋼(12本)符号:A〜L
成分範囲が前記限定範囲内であり、球状化炭化物が分散した組織を呈し、任意断面内に含まれる炭化物において、長径と短径の比が2以下、平均値粒界が50〜800nmである炭化物の占有面積の合計が、前記任意断面の面積の20〜80%であるレール鋼。
・比較レール鋼(9本)符号:M〜U
共析炭素含有鋼によるパーライト組織を呈した現行のレール鋼(符号:M〜O)。
成分範囲が前記限定範囲外のレール鋼(符号:P〜R)。
成分範囲が前記限定範囲内であるが、任意断面内に含まれる炭化物において、炭化物のサイズ、形態およびその占有面積が前記限定範囲外であるレール(符号:S〜U)。
【0041】
摩耗試験及びころがり疲労試験の条件は以下のとおりとした。
[摩耗試験]
・試験機 :西原式摩耗試験機
・試験片形状:円盤状試験片(外径:30mm、厚さ:8mm)
・試験荷重 :686N
・すべり率 :20%
・相手材 :微細パーライト鋼(Hv390)
・雰囲気 :大気中
・冷却 :圧搾空気による強制冷却(流量:100Nl/min)
・繰返し回数:70万回
【0042】
【0043】
表1に示すように、球状化炭化物が分散した組織中の炭化物のサイズ、形態およびその炭化物の占有面積を制御した本発明レール鋼(符号:A〜L)は、パーライト組織を呈した比較レール鋼(現用レール、符号:M〜O)よりも摩耗量が少なく、耐摩耗性が大きく向上している。
また本発明レール鋼は、化学成分を限定範囲内に収めることにより、炭化物のサイズ、形態およびその占有面積を確保することが可能となり、比較レール鋼 (符号:P〜R)で確認された耐摩耗性の低下やスポーリング等の表面損傷の発生を防止しすることができた。
さらに本発明レール鋼は、炭化物のサイズ、形態およびその占有面積を制御することにより、比較レール鋼(符号:S〜U)と比べて、耐摩耗性や耐表面損傷性が大きく向上している。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【発明の効果】
上記ように本発明によれば、重荷重鉄道において耐摩耗性を向上させた高強度レールを、低コストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】球状化炭化物が分散した組織において炭化物の生成状態の一例を示す模式図。
【図2】 レール頭部断面表面位置の呼称を表示した図。
【図3】西原式摩耗試験機の概略図。
【図4】ころがり疲労損傷試験機の概略図。
【図5】本発明レール鋼の球状化炭化物が分散した組織において炭化物の生成状態の一例を示す模式図(符号:F)。
【図6】本発明レール鋼の球状化炭化物が分散した組織において炭化物の生成状態の一例を示す模式図(符号:I)。
【符号の説明】
1:頭頂部
2:頭部コーナー部
3:レール試験片
4:相手材
5:レール円盤試験片
6:車輪試験片
7:モーター(レール側)
8:モーター(車輪側)
9:水潤滑装置
Claims (8)
- 質量%で、
C :0.85〜2.00%、
Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.10〜3.00%
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、レール頭部の少なくとも一部が、長径と短径の比が2以下の球状化炭化物が分散した組織を呈し、前記組織の任意断面において、長径と短径の平均値が50〜800nmの範囲である球状化炭化物が占有する面積の合計が、前記任意断面における前記組織の面積の20〜80%であることを特徴とする球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
Cr:0.05〜3.00%
を含有することを特徴とする請求項1に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
Mo:0.01〜1.00%
を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
V :0.01〜0.50%、
Nb:0.002〜0.050%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
B :0.0001〜0.2000%
を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
Cu:0.05〜1.00%、
Ni:0.05〜2.00%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - 質量%で、さらに、
Ti:0.0050〜0.0500%、
Mg:0.0010〜0.0100%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。 - レール頭部のコーナー部および頭頂部の表面を起点として少なくとも深さ20mmの範囲が、球状化炭化物が分散した組織を呈することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の球状化炭化物を含有する耐摩耗レール。
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