JP3287495B2 - 耐表面損傷性に優れたベイナイト鋼レールの製造法 - Google Patents

耐表面損傷性に優れたベイナイト鋼レールの製造法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、旅客鉄道の高速運転区
間で要求されるレール頭表面のころがり疲労損傷抵抗性
の向上に有効なベイナイト組織を有するレールの製造法
に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、鉄道輸送の高効率化の手段とし
て、列車載荷重量の増加や列車運転速度の向上が図られ
ている。このような鉄道輸送の効率化はレール使用環境
の苛酷化を意味し、レール材質の一層の改善が要求され
るに至っている。具体的には、急曲線区間に敷設された
レールの摩耗が急激に増加し、また、レールと車輪の主
接触位置であるレールゲージ・コーナー(GC)部の内
部から発生する疲労損傷が頻発するようになり、この対
策として従来から下記に示す方法が採られてきた。C
r,Moなどの合金元素を多量に添加した圧延ままの合
金鋼レール(特開昭50−140316号公報)。合
金を添加せずに、レール頭部あるいは全体を加速冷却す
ることによって製造される熱処理レール(特昭55−
23885号公報)。比較的低い含有量の合金を添加
して、耐摩耗性、耐損傷性ばかりでなく、溶接部の硬度
低下を改善した低合金熱処理レール(特公昭59−19
173号公報)。これらレールの特徴は、高炭素の含有
鋼による微細パーライト組織を呈する高強度レールであ
り、その目的とするところは耐摩耗性を向上させ、か
つ、耐内部疲労損傷抵抗性を改善させるところにある。
【0003】一方、摩耗あるいは内部疲労損傷が問題と
ならない直線および緩曲線区間のレールでは、車輪とレ
ールの繰り返し接触によりレール頭表面にころがり疲労
損傷が発生し、剥離あるいはレール頭表面から生成した
疲労き裂がレール頭部内部で分岐し横裂損傷を引き起こ
す事例が散見される。この代表的な損傷が、新幹線など
の高速鉄道の主として直線区間に生成する「頭頂面シェ
リング」あるいは「ダークスポット損傷」と呼ばれる損
傷である。しかし、このような区間では、上記のような
損傷の発生が顕在化しているにもかかわらず、従来から
のパーライト組織を呈した圧延ままレールが使用されて
いる。
【0004】主として旅客鉄道における直線あるいは緩
和曲線区間のレールには、ある特定期間(列車通過トン
数)経過後にレール頭表面を起点とするころがり疲労損
傷が生成する。本発明者らは上記損傷の発生原因を調査
した結果、この原因は、車輪とレールの繰り返し接触に
よってもたらされた疲労ダメージ層がレール頭表部に蓄
積するためであることを確認した。この対策としては、
定期的にレール頭表面をグラインダーなどで研削する方
法があるが、グラインディング車およびその作業費が高
価である点や列車運転間隔上研削時間が十分にとれない
といった問題点があった。また、もう一つの解決策とし
てはレール頭表面の摩耗速度を向上させ、疲労ダメージ
が蓄積する前に摩耗によりこの疲労層を除去する方法が
考えられる。一般にレール鋼の摩耗特性はパーライト組
織の硬さによって支配されており、摩耗を促進させるた
めにはレール鋼の硬さを低下させればよい。しかし、硬
さを単純に低下させるとレール頭表部に塑性変形が生成
し、これに伴うき裂および剥離などのレール頭表面損傷
が多発するため、パーライト組織を呈するレール鋼では
上記損傷の発生を防止することが困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】これまで、レール鋼と
して用いられてきたパーライト組織は、硬さの低いフェ
ライト組織と板状の硬いセメンタイト組織の層状組織で
あり、車輪の通過する軌道面では柔らかなフェライト組
織が絞り出され、硬いセメンタイトのみが積み重なり、
加工硬化が加わって耐摩耗性が確保されている。しか
し、同時に軌道面では常にレール内部方向に層状の組織
の流れ(メタルフロー)が生成しており、潤滑および応
力条件によってはこのメタルフローに沿ってき裂損傷が
発生するという問題点があった。
【0006】一方、パーライト組織より摩耗量が大きい
フェライト組織およびフェライト・パーライト混合組織
では、レール材料としての強度を確保することが難し
く、同時に、頭部での耐摩耗性を維持することが困難で
あった。また、パーライト組織より摩耗量が多く、比較
的強度を確保しやすいベイナイト組織では、柔らかなフ
ェライト組織地に粒状の微細なセメンタイトが分散した
組織であるため、車輪の走行時にフェライト地と共にセ
メンタイトも摩耗により簡単に摘み取られ、摩耗促進に
よってレール頭表部での疲労ダメージ層を除去させるこ
とが可能である。しかし、圧延ままでベイナイト組織を
呈し、かつ、レール材料としての強度を確保するために
はCrなどの合金元素を多量に添加する必要があり、そ
のためレール成分コストを上昇するなどの問題点があっ
た。
【0007】そこで、本発明者らはこの問題を解決する
ために、熱間圧延した高温度の熱を保有するレール、あ
るいは熱処理する目的で高温に加熱されたレールの頭部
をオーステナイト域温度から常温までの間を加速冷却す
ることにより、低合金で、かつ、ベイナイト組織を呈す
るレールによりこの問題が解決できることを実験により
確認した。すなわち本発明は、上記製造プロセスを用い
て、耐表面損傷性に優れたレールを低コストで提供する
ことを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成
するものであって、その要旨とするところは、重量%で C :0.15〜0.45% Si:0.15
〜1.00% Mn:0.20〜2.00% Cr:0.20
〜2.00% を含有し、さらに、 Mo:0.01〜0.60% Cu:0.05
〜0.50% Ni:0.05〜2.00% Ti:0.01
〜0.05% V :0.03〜0.30% Nb:0.01
〜0.05% B :0.0005〜0.0050%の一種または二種
以上 を含有して、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼を
熱間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるいは熱
処理する目的で高温に加熱されたレールの頭部をオース
テナイト域温度から常温までの間を1〜10℃/secで加
速冷却することを特徴とする耐表面損傷性に優れたベイ
ナイト鋼レールの製造法である。
【0009】以下に本発明について詳細に説明する。ま
ず、レールの化学成分を上記のように定めた理由につい
て説明する。Cは一定の硬さを確保するための必須元素
であり、0.15%未満ではレール鋼としての耐摩耗性
を確保することが難しくなり、0.45%を超えると表
面損傷の発生に有害なパーライト組織が生成すること
や、また、ベイナイト変態速度が大きく低下し、完全に
ベイナイト変態を終了せずレールの靭性に有害なマルテ
ンサイト組織が生成するため、0.15〜0.45%に
限定した。
【0010】Siはベイナイト組織中のフェライト素地
に固溶することによって強度を向上させる元素である
が、0.15%未満では強度の向上が期待できない。ま
た、1.00%を超えるとレール圧延時に表面きずが発
生し易くなり、さらに、ベイナイト組織中に島状マルテ
ンサイト組織が生成し、レールの靭性を劣化させるた
め、0.15〜1.00%に限定した。
【0011】MnはC同様に鋼の焼入れ性を高めフェラ
イト粒を細かくし、強度と靭性を同時に向上させる効果
を持つが、0.20%未満ではその効果が少なく、ま
た、2.00%を超えるとベイナイト組織中に表面損傷
の発生に有害なパーライト組織が生成するため、0.2
0〜2.00%に限定した。
【0012】Crはベイナイト組織中のセメンタイトを
微細に分散させ強度を確保するために重要な元素である
が、0.20%未満ではベイナイト組織中にフェライト
組織およびフェライト・パーライト組織などの異種組織
が生成し、頭部での耐摩耗性が大きく低下する。また、
2.00%を超えるとベイナイト変態速度が大きく低下
し、完全にベイナイト変態を終了せずレールの靭性に有
害なマルテンサイト組織が生成するため、0.20〜
2.00%に限定した。
【0013】また、上記の成分組成で製造されるレール
は靭性、延性、強度、さらには溶接時の材料劣化を防止
する目的で以下の元素を必要に応じて一種または二種類
以上を添加する。 Mo:0.01〜0.60% Cu:0.05
〜0.50% Ni:0.05〜2.00% Ti:0.01
〜0.05% V :0.03〜0.30% Nb:0.01
〜0.05% B :0.0005〜0.0050%
【0014】次に、これらの化学成分を上記のように定
めた理由について説明する。MoはCr同様にベイナイ
ト組織の強化・安定、および溶接時の焼戻し脆化防止に
欠くことができない元素であるが、0.01%未満では
その効果が十分でなく、0.60%を超えるとベイナイ
ト変態速度が大きく低下し、完全にベイナイト変態を終
了せずレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成
するため、0.01〜0.60%に限定した。Cuは鋼
の靭性を損なわず強度を向上させる元素である。その効
果は0.05〜0.50%の範囲で最も大きく、また、
0.50%を超えると赤熱脆性を生じさせることから
0.05〜0.50%の範囲に限定した。Niはオース
テナイト粒を安定化させる元素であり、ベイナイト変態
温度を下げ、ベイナイト組織を微細化し、靭性を向上さ
せる効果を有するが、0.05%未満ではその効果が著
しく小さく、また、2.00%を超えるとベイナイト変
態速度が大きく低下し、レールの靭性に有害なマルテン
サイト組織を生成し易くするため、0.05〜2.00
%の範囲に限定した。
【0015】Tiは析出したTi(C,N)が高温でも
溶解しないことを利用して、レールの圧延加熱時のオー
ステナイト結晶粒の細粒化に寄与する。しかし、0.0
1%未満ではその効果が小さく、0.05%を超えると
TiNの粗大化が生じ、レール内部の疲労損傷の核とな
り有害であり、0.01〜0.05%に限定した。Vは
V(C,N)の析出によりベイナイト組織を強化するこ
とができるが、0.03%未満ではその効果が十分でな
く、0.30%を超えるとVの添加はV(C,N)の粗
大化によりかえって脆化を生じさせるため、0.03〜
0.30%に限定した。Nbはオーステナイト結晶粒微
細化元素であり、レール鋼の靭性および延性を向上させ
ることができるが、0.01%未満ではその効果が十分
でなく、0.05%を超えるとNbの金属間化合物が生
成し脆化を引き起こすため、0.01〜0.05%に限
定した。Bはオーステナイト粒界から生成するフェライ
トの生成を抑制する効果があり、ベイナイト組織を安定
的に生成させるためには有効な元素である。しかし、
0.0005%未満ではその効果が弱く、0.0050
を超えて添加するとBの粗大な化合物が生成し、レー
ル材質を劣化させるため0.0005〜0.0050%
に限定した。
【0016】上記のような成分組成で構成されるレール
鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製
を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、
さらに熱間圧延を経てレールとして製造される。次に、
冷却条件について前記のように定めた理由について説明
する。前記のような成分組成で構成されるレールは、転
炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、
造塊・分塊あるいは連続鋳造法においてレール圧延用素
材を熱間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるい
は熱処理する目的で高温に加熱されたレールの頭部をオ
ーステナイト域温度から常温までの間を1〜10℃/sec
で加速冷却することによって製造されるレールは、加速
冷却することにより、低合金で、かつ、ベイナイト組織
を安定に生成させることが可能となる。
【0017】冷却速度を上記のように定めた理由を詳細
に説明する。まず、オーステナイト域温度から常温まで
の間を1〜10℃/secの範囲で加速冷却する理由につい
て説明する。加速冷却速度を1〜10℃/secの範囲に限
定した理由は、上記成分系において1℃/sec未満で冷却
すると、ベイナイト組織中にフェライト組織およびパー
ライト組織などの異種組織が生成し、レールの強度、耐
摩耗性を確保することが困難となり、さらに、表面損傷
を誘発させるため1℃/sec以上に限定した。また、10
℃/secを超える速度で冷却すると、ベイナイト変態を完
全に終了せずにマルテンサイト変態を引き起こし、ベイ
ナイト組織中に硬いマルテンサイト組織が生成し、レー
ルの靭性に悪影響をおよぼすために10℃/sec以下に限
定した。すなわち、本発明においてオーステナイト域温
度から常温までの間を1〜10℃/secで加速冷却するこ
とにより、低合金で、かつ、安定したベイナイト組織が
得られる。加速冷却時の冷却媒体は空気あるいはミスト
などの気液混合物を用いる。上記のような本発明法によ
って製造されたベイナイト組織を呈するレールは、高速
旅客鉄道用のレールとして要求される耐表面損傷性を有
している。
【0018】
【実施例】次に、本発明の実施例について説明する。表
1に、本発明鋼と比較鋼の化学成分および冷却条件を示
す。表2に本発明鋼と比較鋼の硬さ、西原式摩耗試験に
おける乾燥条件下での50万回繰り返し後の摩耗量測定
結果およびレールおよび車輪の形状を1/4に縮尺加工
した円盤試験片による水潤滑ころがり疲労試験の表面損
傷発生寿命を示す。
【0019】なお、レールの構成材料の組織は以下のと
おりである。 ・本発明レール(8本) 符号A、符号B、符号C、符号D、符号E、符号F、符
号G、符号H: レール頭部を加速冷却することによって製造されるベイ
ナイト組織を呈するレール ・比較レール(3本) 符号I:圧延後自然放冷されたベイナイト組織を呈する
レール 符号J:圧延終了直後の熱片状態あるいは、圧延終了後
再加熱することによってレール頭部のみを熱処理したパ
ーライト組織を呈するレール 符号K:圧延後自然放冷されたパーライト組織を呈する
レール
【0020】また試験条件は次のとおりとした。 摩耗試験条件(全試験レール共通) ・試験機 :西原式摩耗試験機 ・試験片形状:円盤状試験片(外径:30mm、内径:1
6mm、厚さ:8mm) ・試験荷重 :490N ・すべり率 :9% ・相手材 :焼き戻しマルテンサイト鋼(Hv35
0) ・雰囲気 :大気中 ・繰返し回数:50万回
【0021】ころがり疲労試験 ・試験機 :ころがり疲労試験機 ・試験片形状:円盤状試験片(外径:200mm、レール
材断面形状:60Kレールの1/4モデル) ・試験荷重 :1.0トン(ラジアル荷重) ・雰囲気 :乾燥+水潤滑(60cc/min) ・回転数 :乾燥;100rpm 、水潤滑;300rpm ・繰返し回数:0〜5000回まで乾燥状態、その後水
潤滑により損傷発生まで
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】表2で明らかなように、本発明レールA,
B,C,D,E,F,G,Hは、従来のパーライト組織
を呈するレールJ,Kと比較して、摩耗量が多く、ころ
がり疲労損傷発生寿命が大きく改善する。また、圧延ま
まのベイナイト組織を呈するレールIと比較してもころ
がり疲労損傷発生寿命が大きく改善する。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば高速
運転区間で要求されるレール表面のころがり疲労損傷抵
抗性に優れたベイナイト組織を有するレールを提供で
き、その工業上の効果は極めて大きい。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平6−330175(JP,A) 特開 平2−282448(JP,A) 特開 平7−34133(JP,A) 特開 平6−316728(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 9/04 C22C 38/00 - 38/60

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で C :0.15〜0.45% Si:0.15〜1.00% Mn:0.20〜2.00% Cr:0.20〜2.00% を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼を熱
    間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるいは熱処
    理する目的で高温に加熱されたレールの頭部をオーステ
    ナイト域温度から常温までの間を1〜10℃/secで加速
    冷却することを特徴とする耐表面損傷性に優れたベイナ
    イト鋼レールの製造法。
  2. 【請求項2】 重量%で C :0.15〜0.45% Si:0.15〜1.00% Mn:0.20〜2.00% Cr:0.20〜2.00% を含有し、さらに、 Mo:0.01〜0.60% Cu:0.05〜0.50% Ni:0.05〜2.00% Ti:0.01〜0.05% V :0.03〜0.30% Nb:0.01〜0.05% B :0.0005〜0.0050%の一種または二種
    以上 を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼を熱
    間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるいは熱処
    理する目的で高温に加熱されたレールの頭部をオーステ
    ナイト域温度から常温までの間を1〜10℃/secで加速
    冷却することを特徴とする耐表面損傷性に優れたベイナ
    イト鋼レールの製造法。
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