JP3987616B2 - 耐表面損傷性および耐摩耗性に優れた高強度ベイナイト系レールの製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重荷重鉄道に要求されるレール頭表面での耐表面損傷性および耐摩耗性を向上させた高強度ベイナイト系レールの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
海外の重荷重鉄道では、鉄道輸送の高効率化の手段として、列車速度の向上や列車積載重量の増加が図られている。このような鉄道輸送の効率化はレール使用環境の過酷化を意味し、レール材質の一層の改善が要求されるに至っている。 具体的には、曲線区間に敷設されたレールでは、G.C.(ゲージ・コーナー)部や頭側部の摩耗が急激に増加し、レールの使用寿命の点で問題視されるようになった。
【0003】
しながら、最近の高強度化熱処理技術の進歩により、共析炭素鋼を用いた微細パーライト組織を呈した下記に示すような高強度(高硬度)レールが発明され、重荷重鉄道の曲線区間のレール寿命を飛躍的に改善してきた。
▲1▼ 頭部がソルバイト組織、または微細なパーライト組織の超大荷重用の熱処理レール(特公昭54−25490号公報)。
▲2▼ 圧延終了後あるいは、再加熱したレール頭部をオーステナイト域温度から850〜500℃間を1〜4℃/sec で加速冷却する130kgf/mm2 以上の高強度レールの製造法(特公昭63−23244号公報)。
これらのレールの特徴は、共析炭素含有鋼(炭素量:0.7〜0.8%)による微細パーライト組織を呈する高強度レールであり、その目的とするところは、パーライト組織中のラメラ間隔の微細化により耐摩耗性を向上させるところにあった。
【0004】
一方、摩耗があまり大きな問題とならない直線または緩曲線区間のレールでは、使用環境の過酷化により、レールと車輪の繰返し接触に伴うころがり疲労損傷の発生が見られる。その中でも近年注目されているのが、「ダークスポット損傷」と呼ばれているレール頭表面のき裂損傷である。この損傷の特徴は、頭表面から発生し、頭部内部まで伝播したき裂がレール底部に分岐して横裂損傷を引き起こすことであり、重荷重鉄道では列車走行の安全上注意する事項の一つとされている。
【0005】
しかし、上記のような直線または緩曲線区間においては、このような状況にあるにもかかわらず、従来からのパーライト組織を呈した圧延まま及び高強度熱処理レールが使用されている。このダークスポット損傷は、現在までの調査の結果、その発生原因はレールと車輪の繰返し接触によって生成した疲労ダメージ層がレール頭表部に蓄積するためであると考えられている。
【0006】
このような問題が発生した場合の対策としては、レール頭表面をグラインダーなどで研削し、疲労ダメージ層を除去する方法が考えられるが、グラインディング作業の費用が膨大となることや、貨車走行の合間での作業であるため、研削時間が十分にとれないといった問題がある。
【0007】
もう一つの対策としては、レール頭表部の硬さを低下させて、疲労ダメージが蓄積する前に摩耗によりこの疲労層を除去する方法がある。しかし、硬さを単純に低下させると、車輪走行面直下のレール頭表面に列車進行方向とは反対方向の塑性流動(メタルフロー)が生成し易くなり、パーライト組織の鋼ではこのフローに沿ってき裂損傷が発生することがある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは硬さを低下させず、摩耗のみを促進させることのできる鋼を実験により検証した。その結果、ベイナイト組織を呈した鋼は、柔らかなフェライト組織地に粒状の硬い炭化物が分散した組織であるために、フェライト地と共に炭化物も摩耗により簡単に摘み取られ、パーライト組織の鋼のように硬いセメンタイト相の集積により摩耗が抑制されることなく、摩耗が促進されることがわかった。
【0009】
しかし、合金添加量が少なく、圧延ままのベイナイト鋼はラス構造が粗く、また粒状の炭化物の分布も粗いため、高い強度が得られにくい。このため、摩耗は促進するものの、車輪走行面直下のレール頭表面に列車進行方向とは反対方向の塑性流動(メタルフロー)が生成し易く、このフローに沿ってき裂損傷が発生するという問題があった。
【0010】
また、この問題を解決する方法として、MnやCrなどの合金をさらに添加し、圧延ままで高強度のベイナイトレールを製造することも可能であるが、合金添加量が多くなると、焼入性が増し、溶接後の継ぎ手部にレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなることや、同時に成分コストも大きく上昇するといった問題があった。
【0011】
この対策として、下記に示すベイナイトレールの熱処理方法が発明され、高速旅客鉄道用レールの寿命を改善してきた。
▲1▼ レール頭部をオーステナイト域から500〜350℃の間を1〜10℃/ sec の冷却速度で加速冷却を行い、引き続き、常温までの間を1〜40℃/ min で制御冷却する熱処理方法(特開平6−330175号公報)。
▲2▼ レール頭部をオーステナイト域から400〜300℃の間を1〜10℃/ sec の冷却速度で加速冷却を行い、加速冷却終了後、レール頭部をレール内部からの復熱による温度上昇を50℃以下に抑える冷却を行い、復熱による温度上昇後、引き続き低温度域まで自然冷却する熱処理方法(特開平7−34132号公報)。
これらの熱処理方法の特徴は、レール頭部をオーステナイト域から加速冷却し、ベイナイト組織をできるだけ低温で変態させ、少ない合金量で高強度化、さらには高靭性化を達成させるところにあった。
【0012】
しかし、これらの熱処理方法ではある一定の高強度化は達成できるものの、加速冷却停止温度の選択によっては、その後の制御冷却および復熱領域で400℃以上の高温度でベイナイト変態が始まり、その結果、ラス構造が粗く、硬さの低いベイナイト組織が混入することがあり、従ってレール頭部のばらつきが発生し易く、頭表面の摩耗が不均一となる場合がある。
【0013】
また、海外の重荷重鉄道においても、近年、国内の高速鉄道と同様にダークスポット損傷の問題がある。これらの鉄道では貨物積載重量が大きいため、旅客鉄道と比較してレール/車輪の接触面圧や接線力が著しく高くなる。
このため、上記発明のベイナイトレールを使用しても、ダークスポット損傷のような表面損傷は防止できるものの、摩耗量の増加によりレール使用寿命が低下する場合があり、また、車輪走行面直下のレール頭表面に塑性流動が生成し易く、緩曲線などにおいてはG.C.部にフレーキングなど剥離損傷が発生するおそれがあるという問題もあった。
【0014】
そこで、本発明者らは重荷重鉄道での表面損傷を確実に防止し、同時に、耐摩耗性(硬さ)の確保が可能なベイナイトレールの熱処理方法を実験により検討した。その結果、高温度域で生成する、ラス構造の粗く、硬さの低いベイナイト組織の生成を防止するため、熱間圧延直後のレール、または再加熱により高温度の熱を保有したレールの頭部に、ベイナイト変態開始までの高温度域を14〜30℃/sec の冷却速度で加速冷却を行うことにより、硬さの低いベイナイト組織の生成を防止できることを実験により確認した。
【0015】
さらに、本発明者らは上記加速冷却後に、微細で、硬さの高いベイナイト組織を安定的に生成させる熱処理方法を検討した。その結果、レール頭部が400〜300℃に達した時点で加速冷却を停止し、引き続き、レール頭部を400〜300℃の温度範囲内で一定時間保定すること、さらに、この保定領域においてその温度変化を一定温度範囲に制御することにより、微細で、硬さの高いベイナイト組織が安定的に生成することを実験により確認した。
【0016】
以上の結果から、本発明者らは合金を多く添加することなく、ベイナイト鋼の高強度化を図るため、熱間圧延直後のレール、または再加熱により高温度の熱を保有したレールに加速冷却を行い、引き続き、所定の温度範囲で一定時間保定することにより、微細で硬さの高いベイナイト組織が安定的に生成し、耐表面損傷性および耐摩耗性に優れた高強度レールが製造できることを知見した。
すなわち本発明は、重荷重鉄道に要求される耐表面損傷性および耐摩耗性を大きく向上させた高強度レールを、熱処理により低コストで提供することを目的としてなされたものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するものであって、その要旨とするところは、質量%で、
C :0.15〜0.45%、 Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.20〜3.00%、 Cr:0.20〜3.00%
を含有し、さらに、
Mo:0.01〜1.00%、 V :0.01〜0.30%、
B :0.0005〜0.0050%
の1種または2種以上を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した、高温度の熱を保有する鋼レール、あるいは高温度に再加熱された鋼レールの頭部を、オーステナイト域温度から14〜30℃/sec の冷却速度で加速冷却し、該鋼レール頭部の温度が400〜300℃に達した時点で加速冷却を停止し、引き続き、400〜300℃の温度範囲で1〜30分の保定を行うことを特徴とする耐表面損傷性および耐磨耗性に優れた高強度ベイナイト系レールの製造法である。
【0018】
ここで、本発明の請求項およびその説明において用いている「高温度」、「レール頭部」、「保定」の用語は、以下の内容を有する。
「高温度」とは、鋼がオーステナイト化し、安定している温度域であり、具体的には、圧延直後のレール頭部においてはAr3 点以上の温度域であり、また、再加熱されたレール頭部ではAc3 点から約30℃以上の温度域を示すものである。
「レール頭部」とは、レール頭部の外郭表面近傍を示すものであり、具体的には、図2の符号1で示すレール頭頂面、および符号2で示すコーナー部表面から内部へ少なくとも1〜10mmの範囲を示すものである。
「保定」とは、レール頭部をある温度範囲内において、一定時間保持することを意味するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明について以下に詳細に説明する。
まず、レールの化学成分を上記の請求範囲に限定した理由について説明する。Cはベイナイト組織の強度と耐摩耗性を確保するための必須元素であるが、0.15%未満では、ベイナイトレールに必要とされる強度や耐摩耗性を確保することが難しくなる。また、0.45%を超えると、ベイナイト組織中に表面損傷の発生を促進するパーライト組織が多く生成し易くなることや、ベイナイト変態速度の低下により、加速冷却後の保定領域において完全にベイナイト変態が終了せず、その後の冷却中にレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成するため、C量を0.15〜0.45%に限定した。
【0020】
Siはベイナイト組織中のフェライト素地への固溶体硬化により強度を向上させる元素であるが、0.10%未満ではその効果が期待できない。また、2.00%を超えるとレール熱間圧延時に表面疵が発生し易くなることや、ベイナイト組織中に島状マルテンサイト組織が生成し、レールの靭性を劣化させるため、Si量を0.10〜2.00%に限定した。
【0021】
Mnはベイナイト組織を安定的に生成させ、ベイナイト変態温度を下げることにより高強度化に寄与する元素であるが、0.20%未満ではその効果が少なく、ベイナイトレールに必要とされる強度を確保することが難しくなる。また、3.00%を超えると、ベイナイト変態速度が低下し、加速冷却後の保定領域において完全にベイナイト変態が終了せず、その後の冷却中にレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成するため、Mn量を0.20〜3.00%に限定した。
【0022】
Crはベイナイト組織中のセメンタイトを微細に分散させる効果があり、強度を確保するために重要な元素であるが、0.20%未満ではその効果が少なく、ベイナイトレールに必要とされる強度を確保することが難しくなる。また、3.00%を超えると、ベイナイト変態速度が低下し、Mnと同様にレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成することや、ミクロ偏析が助長され、偏析部にマルテンサイト組織を生成し易くするため、Cr量を0.20〜3.00%に限定した。
【0023】
また、上記の成分組成で製造されるレールは強度、延性、靭性、さらには溶接時の材料劣化を防止する目的で、以下の元素を1種または2種以上添加する。
Mo:0.01〜1.00%、 V :0.01〜0.30%、
B :0.0005〜0.0050%
【0024】
次に、これらの化学成分を上記のように定めた理由について説明する。
MoはMnあるいはCrと同様に、ベイナイト変態温度を下げ、ベイナイト組織の強化および安定に寄与する元素であり、同時に、溶接時の焼戻し領域の軟化防止に欠くことが出来ない元素であるが、0.01%未満ではその効果が十分でなく、1.00%を超えると、ベイナイト変態速度が大きく低下し、加速冷却後の保定領域において完全にベイナイト変態が終了せず、その後の冷却中にレールの靭性に有害なマルテンサイト組織が生成することや、Crと同様にミクロ偏析が助長され、偏析部にマルテンサイト組織を生成し易くするため、Mo量を0.01〜1.00%に限定した。
【0028】
Vは熱間圧延時の冷却過程で生成したV炭・窒化物による析出硬化で強度を高め、さらに、高温度に加熱する熱処理が行われる際に結晶粒の成長を抑制する作用によりオーステナイト粒を微細化させ、ベイナイト組織の強度、靭性を向上させるのに有効な成分であるが、0.01%未満ではその効果が十分に期待できず、0.30%を超えて添加してもそれ以上の効果が期待できないことから、V量を0.01〜0.30%に限定した。
【0030】
Bは、旧オーステナイト粒界から生成するフェライト組織の生成を抑制し、ベイナイト組織を安定的に生成させる元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0050%を超えて添加するとBの粗大化合物が生成してレール材質を劣化させるため、B量を0.0005〜0.0050%に限定した。
【0031】
上記のような成分組成で構成されるレール鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、さらに熱間圧延を経てレールとして製造される。次に、この熱間圧延した高温度の熱を保有するレール、あるいは熱処理する目的で高温に再加熱されたレールの頭部、すなわちオーステナイト域温度にあるレール頭部を加速冷却し、引き続き、上記温度範囲において一定時間保定することにより、レール頭部に硬さの高いベイナイト組織を安定的に生成させることが可能となる。
【0032】
加速冷却速度および加速冷却停止温度範囲を上記のように定めた理由について、以下に詳細に説明する。
まず、オーステナイト域温度から14〜30℃/sec の冷却速度でレール頭部を加速冷却する理由について説明する。
加速冷却速度が14℃/sec 未満になると、成分系によっては加速冷却途中の高温度域でベイナイト変態が始まり、硬さの低いベイナイト組織が生成し、レールに必要とされる硬さ(強度)が確保できないため、14℃/sec 以上に限定した。 また、30℃/sec を超えると、空気およびミスト等のいずれの冷媒を用いても冷却速度が安定せず、冷却停止温度の制御が困難となり、過冷却によりレールの靭性や耐摩耗性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなることや、本成分系においては冷却速度が30℃/sec 以下であれば、十分に高温度域で生成する硬さの低いベイナイト組織の生成が抑制できるため、30℃/sec 以下に限定した。
【0033】
次に、レール頭部の温度が400〜300℃に達した時点で加速冷却を停止する理由について説明する。
オーステナイト域温度から14〜30℃/sec の冷却速度で加速冷却し、レール温度が400℃を超える温度域で加速冷却を停止すると、その後の保定領域において硬さの低いベイナイト組織が多く生成し、高強度化が困難となるため、400℃以下に限定した。また、300℃未満の温度域で加速冷却を停止すると、その後の保定領域においてレールの靭性や耐摩耗性に有害なマルテンサイト組織が生成し易くなるため、300℃以上に限定した。
【0034】
次に、加速冷却後に保定温度範囲を400〜300℃、および保定時間を1分以上30分以下に定めた理由について説明する。
保定温度が400℃を超えると、ラス構造が粗く、硬さの低いベイナイト組織が混入し、高強度化が困難となるため、400℃以下に限定した。また、300℃未満の温度域で保定すると、レールの靭性や耐摩耗性に有害なマルテンサイト組織が生成するため、300℃以上に限定した。
【0035】
保定時間については、それが1分未満になると、成分系や圧延後のオーステナイト粒度によっては、上記温度範囲内の保定中にベイナイト変態が完全に終了せず、その後の冷却方法によっては、ベイナイト組織中にレールの靭性や耐摩耗性に有害なマルテンサイト組織が生成するため、1分以上に限定した。また、保定時間が30分を超えると、保定温度の選択によっては保定中に生成した硬さの高いベイナイト組織が焼き戻され、硬さの低下により高強度化が困難となるため、30分以下に限定した。
【0036】
さらに、この保定領域において、望ましくはその温度変化の範囲を20℃以下に制御する理由について説明する。
その温度変化の範囲が20℃を超えると、成分系や加速冷却停止温度の選択によっては、変態したベイナイト組織の硬さにばらつきが発生し易くなり、頭表面の摩耗が不均一になり易いため、保定時の温度変化の範囲を20℃以下に限定した。
【0037】
すなわち、耐表面損傷性および耐摩耗性に優れた高強度ベイナイト系レールを製造するには、図1に示すように、加速冷却途中の高温度域において、硬さの低いベイナイト組織の生成を防止するため、レール頭部をオーステナイト域温度から400〜300℃までの間を14〜30℃/sec の冷却速度で加速冷却し、さらに、微細なベイナイト組織を安定的に生成させるため、400〜300℃の温度範囲で1分から30分の温度範囲に保定する。さらに、望ましくはこの保定領域においてその温度変化を20℃以下に制御することにより、低温度域で硬さの高いベイナイト組織を安定的に生成させる必要がある。
【0038】
また、冷却後の金属組織はベイナイト組織であることが望ましが、冷却停止温度および保定温度の選択によっては、ベイナイト組織中に微量なマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、ベイナイト組織中に微量なマルテンサイト組織が混入してもレールの耐表面損傷性、耐摩耗性および靭性に大きな影響を及ぼさないため、本ベイナイト系レールの組織としては若干のマルテンサイト組織の混在も含んでいる。
【0039】
加速冷却時の冷却媒体としては、エアーおよび水とエアーの混合噴射冷却、あるいはこれらの組み合わせ、および油、熱湯、ポリマー+水、ソルトバス等へのレール頭部あるいは全体を浸漬等を用いて、所定の冷却速度を得ることが可能である。
また、加速冷却後の保定領域での冷却媒体としては、ベイナイト変態発熱を抑制するため、エアーおよび水とエアーの混合噴射による緩冷却、あるいは、油、熱湯、ポリマー+水、ソルトバス等への浸漬等を行うことが望ましい。
さらに、保定領域における温度変化を制御する方法としては、熱処理レール表面の温度測定結果を基に上記冷却を精密にコントロールすることに加えて、過冷却による急激な温度低下を防止するため、冷却装置内に保温用のヒーター等を取り付けることが望ましい。
【0040】
保定後の冷却については、特に限定しないが、ベイナイト組織の焼き戻しによる硬さ低下を防止する目的から、水等の冷媒を用いてレールをできるだけ早く常温度域まで冷却することが望ましい。
【0041】
また、加速冷却、保定後のレール頭部の硬さについては、耐表面損傷性と耐摩耗性を両立させるためHv400〜500の範囲とすることが望ましい。また、Hv400〜500の硬さの領域は、レール寿命を確保する点で、図2に示すようにレールの頭頂部表面1および頭部コーナー部2(頭側部を含む)を起点として少なくとも深さ20mmの範囲であることが望ましい。
【0042】
上記のような本発明熱処理方法によって製造された高強度ベイナイト系レールは、海外重荷重鉄道用のレールとして要求される耐表面損傷性および耐摩耗性を十分満足するものである。
【0043】
【実施例】
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に本発明レール鋼、また表2に比較レール鋼の、それぞれの化学成分および熱処理条件を示す。さらに、表1,表2には熱処理後のレール頭部の硬さ、組織、および図3に示す西原氏摩耗試験機によるレール頭部材料の摩耗特性評価結果、および図4に示すレール・車輪の形状を1/4に縮尺加工した円盤試験片による水潤滑ころがり疲労試験の表面損傷発生寿命を示す。図3,図4の各部は後述の符号の説明の欄で説明している。
【0044】
なお、レールの構成は以下のとおりである。
・本発明レール鋼(4本) 符号:A,B,D,E
上記成分範囲でレール頭部に上記限定範囲内の加速冷却を行い、引き続き上記限定範囲内の温度と時間で保定熱処理を行ったベイナイト組織を呈した高強度レール鋼。
・比較レール鋼(11本) 符号:L〜V
共析炭素含有鋼によるパーライト組織を呈した現行の熱処理高強度レール鋼(符号:L,M)、上記成分範囲内で圧延および熱処理を行ったベイナイト組織を呈したレール鋼(符号:N〜P)、および上記成分範囲内でレール頭部に上記限定範囲外の加速冷却や保定熱処理を行ったレール鋼(符号:Q〜V)。
【0045】
摩耗試験条件は以下のとおりとした。
・試験機 :西原氏摩耗試験機(図3)
・試験片形状:円盤状試験片(外径:30mm、厚さ:8mm)
・試験荷重 :490N
・すべり率 :9%
・相手材 :焼き戻しマルテンサイト鋼(HV350)
・雰囲気 :大気中
・冷却 :なし
・繰返し回数:50万回
【0046】
ころがり疲労試験条件は以下のとおりとした。
・試験機 :ころがり疲労試験機(図4)
・試験片形状:円盤状試験片
(外径:200mm、レール材断面形状:60Kレールの1/4モデル)
・試験荷重 :2.0トン(ラジアル荷重)
・雰囲気 :乾燥十水潤滑(60cc/min )
・回転数 :乾燥:100rpm 、水潤滑:300rpm
・繰返し回数:0〜5000回まで乾燥状態、その後水潤滑により200万回または損傷発生まで。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1に示すように、本発明レール鋼(符号:A,B,D,E)は、適切な条件で熱処理を行うことにより、不適切な熱処理を行ったレール鋼(符号:Q〜V)で生成する、レールの靭性や耐摩耗性に有害なマルテンサイト組織の生成を防止し、同時に、硬さ(強度)の高いベイナイト組織を安定的に得ることが可能である。
さらに、保定領域において温度変化の範囲を20℃以下に制御したレール(符号:E)では、制御していないレール(符号:D)と比較して、レール頭部の硬さのばらつきが減少し、硬さの均一な高強度のベイナイト組織を得ることができる。
【0050】
また、本発明レール鋼は、パーライト組織を呈した現行の熱処理高強度レール鋼(符号:L,M)で発生するダークスポット損傷の発生は認められず、さらに、図5に示すように硬さの低いベイナイト組織を呈したレール鋼(符号:N〜P)と比べ、高硬度化により、耐摩耗性や耐フレーキング損傷(塑性変形起因の損傷)性が大きく向上している。
【0051】
【発明の効果】
上記のように、本発明によれば、重荷重鉄道において耐表面損傷性と耐摩耗性に優れたレールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明レール熱処理製造法の模式図。
【図2】レール頭部断面表面位置の呼称を表示した図。
【図3】西原氏摩耗試験機の概略図。
【図4】ころがり疲労試験機の概略図。
【図5】 表1に示す本発明レール鋼(符号:A,B,D,E)と、表2に示す比較レール鋼(符号:N〜P)の摩耗試験結果を、硬さと摩耗量の関係で比較した図。
【符号の説明】
1:頭頂部
2:頭部コーナー部
3:レール試験片
4:相手材
5:レール円盤試験片
6:車輪試験片
7:モーター(レール側)
8:モーター(車輪側)
9:水潤滑装置
Claims (2)
- 質量%で、
C :0.15〜0.45%、
Si:0.10〜2.00%、
Mn:0.20〜3.00%、
Cr:0.20〜3.00%
を含有し、さらに、
Mo:0.01〜1.00%、
V :0.01〜0.30%、
B:0.0005〜0.0050%
の1種または2種以上を含有し、
残部が鉄および不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した、高温度の熱を保有する鋼レール、あるいは高温度に再加熱された鋼レールの頭部を、オーステナイト域温度から14〜30℃/sec の冷却速度で加速冷却し、該鋼レール頭部の温度が400〜300℃に達した時点で加速冷却を停止し、引き続き、400〜300℃の温度範囲で1〜30分の保定を行うことを特徴とする耐表面損傷性および耐摩耗性に優れた高強度ベイナイト系レールの製造法。 - 400〜300℃の温度範囲で1〜30分の保定を行う際に、その温度変化の範囲を20℃以下に制御することを特徴とする請求項1記載の耐表面損傷性および耐摩耗性に優れた高強度ベイナイト系レールの製造法。
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