JP4324697B2 - イオン伝導性高分子組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン伝導性高分子電解質に係り、詳細には、メソ多孔体無機フィラー及びそれを含んだイオン伝導性高分子電解質のイオン伝導性高分子組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のイオン伝導性高分子は、主に、高分子量のポリエチレンオキサイド(PEO、Polyethylene Oxide)にアルカリ金属塩を配合して構成され、各種のPEO誘導体に各種のアルカリ金属塩を添加した複合体が提案されている。
【0003】
アルカリ金属塩を溶解させた高分子量のPEO複合体のイオン伝導性が1971年に初めて報告されて以来、ポリエーテルをベースとしたイオン伝導性高分子は、ポリマー2次電池などの次世代電気化学的デバイスには欠かせない材料となっている。
【0004】
これまでに報告されたイオン伝導度の有望な改善技術としては、ポリマー骨格の架橋化、グラフト化による分子設計及び極性溶媒の含浸によるゲル化等が挙げられる。これらの手法により、イオン伝導度は、室温で、10-4〜10-3S/cm程度にまで改善され、一部が電池の電解質材料として実用化されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ところが、前記ゲル化による方法では、溶媒の高い極性によりアルカリ金属塩の溶解性を促進させ、イオン拡散係数を増大させているに過ぎず、また、固体高分子電解質としての本来の特性が充分に活かされているとはいえなかった。そして、前記溶媒の蒸発や漏洩を防ぐことが必要になるため、安定性やコスト面、あるいは機械的強度の点で問題があった。
【0006】
一方、近年、TiO2、SiO2及びAl23などの微粒子からなる無機フィラー(以下、「微粒子無機フィラー」と称す)を高分子量のPEOに添加したイオン伝導性高分子の優れたイオン伝導特性が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。これについては、前記微粒子無機フィラーの充填により、PEOの結晶相が減少して非晶質相が増加し、さらに前記PEOと前記微粒子無機フィラー表面との間にイオン伝導パスが形成されたため、イオン移動度が向上したものと考えられる。ただし、前記微粒子無機フィラーを添加したPEOは、そのイオン伝導機構や耐久性等について、未だ研究段階であり、電池等の実用に供せられるレベルには達していない。
【0007】
ところで、金属酸化物の微粒子は、イオン伝導性高分子のみならず触媒や半導体分野でも用いられるものであり、新たな特性を求めて、そのミクロな構造についての研究が盛んに行われている。なかでも、メソ多孔体からなる無機フィラー(以下、「メソ多孔体無機フィラー」と称す)は、直径3nm〜30nmのメソ細孔と規則的配置構造とを有する金属酸化物の多孔体で構成され、その多孔性の状態を制御して合成することが比較的容易であることから、次世代の材料として有望視されている。
【0008】
とりわけ、SiO2を骨格とするメソ多孔体無機フィラー(いわゆる、SBA−15、MCM−41等)については、その製造方法と物性について詳細に研究がなされている(例えば、非特許文献3及び4参照)。ただし、現状では、それらをイオン伝導性高分子へ添加するという試みは極めて少なく、前記MCM−41をイオン伝導性高分子へ添加した場合、イオン伝導度は3〜4倍程度しか向上しないと報告されており、前記MCM−41のメソ細孔径やSiO2骨格の厚み等の最適化がさらに検討されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0009】
一方、超臨界状態のCO2流体を用いてPEO−Li塩の複合体を処理することで、特に低温域でのイオン伝導度が著しく向上することも報告されている(例えば、非特許文献5参照)。こうした超臨界状態のCO2流体による処理は、イオン伝導性高分子の組成を変えることなく、その製造後の後処理でイオン移動度を向上させることができるので、有効な方法の1つと考えられている。しかしながら、未だ、広範囲の用途に対応できる良好なイオン伝導度を有するイオン伝導性高分子は報告されていないのが現状である。
【0010】
【非特許文献1】
Shinji Takeoka、他2名、「Recent Advancement of Ion−conductive Polymers」、Polymers for Advanced Technologies、2002年、第4巻、p.53−73
【非特許文献2】
富永洋一、他2名「PEO−塩複合体の構造解析及びイオン伝導度の改善に関する最新研究」、材料の科学と工学、2002年、第39巻、第3号、p.34−38
【非特許文献3】
Dongyuan Zhao、他6名、「Triblock Copolymer Synthesis of Mesoporous Silica with Periodic 50 to 300 Angstrom Pores」Science、1998年、第279巻、p.548−552
【非特許文献4】
Peter P.Chu、他2名、「Novel composite polymer electrolyte comprising mesoporous structured SiO2 and PEO/Li」、Solid State Ionics、2002年、第156巻、p.141−153
【非特許文献5】
Yoichi Tominaga、他4名、「Improvementof the ionic conductivity for PEO−LiCF3SO3 complex by supercritical CO2 treatment」、Meterials Letter、2002年、第57巻、p.777−780
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、前記事情に鑑み、イオン伝導性高分子に係り、特に、イオン伝導度の優れたイオン伝導性電解質と、このイオン伝導性電解質に添加することでイオン伝導度をさらに向上させるフィラーとを用いて、広範囲の用途に適用できる高イオン伝導性を有するイオン伝導性高分子を製造するためのイオン伝導性高分子組成物を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく、従来のイオン伝導性高分子系において最も大きな問題点であった断続的なイオン伝導性パスの形成や無機フィラー添加によるイオン伝導度の限界の克服という観点から、特に、メソ多孔体無機フィラーの添加について鋭意研究を重ねた。その結果、均一なメソ細孔径と規則的配置構造とを有する金属酸化物の多孔体で構成される無機フィラーはイオン伝導パスの形成を促進し、イオン伝導度のさらなる向上に大きな効果があることを見い出し、本発明を創案するに到った。
【0013】
すなわち、本発明に係る請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物は、高分子に金属塩が配合されたイオン伝導性高分子と、イオン伝導性高分子用フィラーと、を含み、前記イオン伝導性高分子用フィラーは、直径3nm〜30nmのメソ細孔と規則的配置構造とを有する、SBA−15又はその未焼成体であるSBA−15Nからなり、前記イオン伝導性高分子用フィラーの添加量は、前記SBA−15の場合、10質量%、前記SBA−15Nの場合、15質量%であることを特徴とする。
【0014】
このように構成すれば、機械的強度、寸法安定性に優れ、かつ、広い温度範囲で高いイオン伝導度を有するイオン伝導性高分子を提供することができるようになる。
【0015】
請求項2に記載のイオン伝導性高分子組成物は、請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物において、前記高分子が、ポリエーテル結合を有する高分子であることを特徴とすることを特徴とする。
【0016】
このように構成すれば、支持電解質の金属塩から供給されるイオンのマトリックスとなる前記高分子が適切な極性を有するので、前記イオンの分散性又は相溶性が良好に保持されるとともに、このイオンの移動度が高くなり、前記イオン伝導性をさらに向上させたイオン伝導性高分子を提供できる。
【0017】
また、前記イオン伝導性高分子のマトリックスとなる高分子は、ポリエチレンオキサイド(PEO)またはポリプロピレンオキシド(PPO)を主鎖または側鎖に有する直鎖型、分岐型、架橋型等の誘導体が好ましい。中でも、PEOは、アルカリ金属塩と複合化したときに比較的高いイオン伝導度となるので、特に好ましい。
【0018】
請求項3に記載のイオン伝導性高分子組成物は、請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物において、前記金属塩が、1種又は2種以上のアルカリ金属塩であることを特徴とする。
【0019】
このように構成すれば、前記アルカリ金属塩によって前記イオン伝導性高分子のマトリックスに供給されるイオンが、このマトリックスの極性を有する基又は電荷を有する基と強い相互作用をするので、このイオンの解離度が高くなり、イオン伝導性をさらに向上させたイオン伝導性高分子組成物を提供できる。
【0020】
ここで、前記アルカリ金属塩は、前記イオン伝導性高分子のマトリックスとの分散性又は相溶性が良いものが好ましく、ナトリウム、リチウム又はカリウムの適当な塩を含み、より好ましくは、リチウム塩である。このような塩としては、たとえば、従来公知のLiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiAlCl4、LiI、LiCF3SO3、LiN(C25SO22、LiC(CF3SO22、及びこれらの誘導体等からなる群より選ばれた1種又は2種以上であることが、化学的安定性、高純度品の入手の容易さ、そしてコストの点でさらに好ましい。
【0021】
請求項4に記載のイオン伝導性高分子組成物は、請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物が、超臨界状態のCO2と、所定時間、接触されたことを特徴とする。
【0022】
このように構成すれば、各種の金属塩を含んで構成されるイオン伝導性高分子組成物を、超臨界状態のCO2を用いて処理することにより、前記金属塩から供給されるイオンの分散性が改善され、イオン伝導性が向上したイオン伝導性高分子を提供できる。また、この処理は、前記イオン伝導性高分子の製造条件を大幅に変えることなく簡便に施すことができるので、製造コストの低減に寄与できる。
【0023】
また、請求項に記載のイオン伝導性高分子用フィラーは、直径3nm〜30nmのメソ細孔と規則的配置構造とを有する、SBA−15又はその未焼成体であるSBA−15Nからなる。
【0024】
このように構成すれば、前記イオンの移動度がさらに高められて一段と高いイオン伝導性を発現するイオン伝導性高分子を提供できるようになる。
【0025】
前記メソ多孔体無機フィラーとしては、SiO2、Al23、TiO2等、及びそれらの複合酸化物を骨格とする従来公知の各種材料が使用できる。中でも、TiO2を骨格とするメソ多孔体無機フィラーが好ましく、SBA−15及びその未焼成体であるSBA−15N並びにMCM−41で知られる前記メソ多孔体無機フィラーであって、メソ細孔の直径が、3nm〜30nmであることが、より好ましい。
【0026】
通常、前記MCM−41は、アルキルアンモニウム塩を用いて合成され、また前記SBA−15は、非イオン性の界面活性剤であるポリエーテル系トリブロック共重合体を用いて合成される。一方、前記SBA−15は、前記界面活性剤自身が安価であり、非イオン性であり環境に優しく、無臭であり取扱いが容易であるなどの利点を有するため、工業的には、前記SBA−15を用いることが、より好ましい。更に、前記SBA−15の未焼成体であるSBA−15Nは、細孔内に界面活性剤であるポリエーテル系トリブロック共重合体を取り込んだままの状態である。ポリエーテル系トリブロック共重合体は、それ自体がイオン伝導体として機能し、細孔内を通じた高イオン伝導パスの形成が期待されるため、SBA−15およびSBA−15Nの適用がより好ましい。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明のイオン伝導性高分子組成物及びイオン伝導性高分子用フィラーの構成材料及びその製造方法について順次説明する。
【0029】
[イオン伝導性高分子]
本発明に係る一実施の形態のイオン伝導性高分子は、マトリックスとなる高分子と、支持電解質として作用する金属塩とを備えて構成される。そして、前記高分子には、PEOに代表されるポリエーテル結合を有する高分子が好適に用いられ、また、金属塩としては、高分子や有機溶媒への溶解度、安定性及びイオン伝導度を勘案すると、リチウム塩を用いることが好ましい。このように構成することで、前記イオン伝導性高分子に対し、比較的高いイオン伝導度、広い電位窓、薄膜形成性、柔軟性、軽量性、弾性及び透明性を付与することが容易となる。
【0030】
一例として、前記PEOは、分子量105〜107の範囲から選択され、これと相溶性の良い金属塩として、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiAlCl4、LiI、LiCF3SO3、LiN(C25SO22及びLiC(CF3SO22のうちの1種又は2種を用いることが、特に好ましい。そして、所定の分子量のPEOと、それと相溶性の良いリチウム塩のそれぞれの所定量を、有機溶媒に溶解し、充分に混合した後、前記有機溶媒を蒸発させることで、固体状のイオン伝導性電解質を製造することができる。ここで、前記有機溶媒は、前記高分子及び前記リチウム塩の溶解度が高く、蒸発し易いアセトンのような有機溶媒を使うことが好ましい。
【0031】
前記PEOと前記リチウム塩との配合割合は、前記PEOのエチレンオキサイド(EO)ユニットとLi+とのモル比を[Li+]/[EO]で表すと、[Li+]/[EO]=0.02〜0.2の範囲が好ましい。ただし、前記モル比の範囲は、前記PEO及び前記リチウム塩の種類により異なるので、得られるイオン伝導度が最も高くなるように、前記モル比の最適値を選ぶことがさらに好ましい。
【0032】
[イオン伝導性高分子用フィラー]
本発明に係る一実施の形態のイオン伝導性高分子用フィラーは、前記イオン伝導性高分子に添加され、そのイオン伝導度をさらに向上させる効果をもつ。これは、前記イオン伝導性高分子用フィラーが、均一なメソ細孔径と規則的配置構造とを有する金属酸化物の多孔体で構成されることで、前記イオン伝導性高分子中のイオン伝導パスの形成が促進され、イオン伝導度のさらなる向上が具現されたものと考えられる。
【0033】
前記イオン伝導性高分子用フィラーとしては、直径3nm〜30nmのメソ細孔と規則的配置構造とを有する金属酸化物の多孔体からなり、特に、SiO2を骨格とするメソ多孔体無機フィラーが好ましい。特に、メソ細孔の直径が、3nm〜30nmであるSBA−15及びその未焼成体であるSBA−15N並びにMCM−41で知られる前記メソ多孔体無機フィラーを用いることが、より好ましい。
【0034】
一例として、前記SBA−15を製造する場合、超分子鋳型として、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)から成り、EOn−POm−EOn型の構造(n、mは、1以上の自然数)を持つ、非イオン性界面活性剤を用いる。通常、前記EOn−POm−EOnを塩酸水溶液に溶解し、(C25O)4Si(通称、TEOS)を滴下し、この混合溶液を、所定時間撹拌後、乾燥してSiO2を骨格とするメソ多孔体無機フィラーを製造することができる。ここで、この混合溶液のモル比は、EOn−POm−EOn:TEOS:HCl:H2O=1:60:350:9400であることが合成条件の点で好ましい。
【0035】
[超臨界状態のCO2による処理]
前記イオン伝導性高分子組成物は、超臨界状態のCO2と、所定時間、接触されることにより、さらにイオン伝導性が向上する。この超臨界状態のCO2による処理を施すことにより、前記イオン伝導性高分子組成物中の金属塩のイオンの分散状態が改善され、前記イオンの移動度が向上することでイオン伝導性が向上すると考えられる。なお、CO2の超臨界状態は、温度31℃以上、かつ圧力7.4MPa以上で、生成させることが好ましく、特に、温度40〜100℃及び圧力10〜20MPaの範囲が好ましい。
【0036】
以下において、本発明のイオン伝導性高分子組成物及びイオン伝導性高分子用フィラーの実施例について説明する。
【0037】
【実施例】
(SBA−15及びSBA−15Nの製造方法)
まず、本発明の一実施の形態であるSiO2を骨格とするメソ多孔体無機フィラーとして、SBA−15及びSBA−15Nの製造方法について説明する。
【0038】
メソ細孔径が3〜30nmの前記SBA−15を製造する場合には、前記超分子鋳型として、EO20−PO70−EO20(BASF社製、商品名「P123」)の構造を有するトリブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0039】
最初に、前記P123を6Mの塩酸水溶液に室温で溶解し、(C25O)4Siをゆっくりと滴下し、この混合溶液を、35℃で24時間撹拌する。ここで、この混合溶液のモル比は、TEOS:P123:HCl:H2O=1:60:350:9400であることが合成条件の点で好ましい。そして、撹拌終了後、80℃で48時間保持し、得られた沈殿物を100℃で24時間真空乾燥してSBA−15Nの粉末を得る。前記SBA−15Nを、400℃で4時間焼成し、超分子鋳型である界面活性剤P123を除去し、メソ細孔を有する粉末状のSBA−15を得ることができる。
【0040】
図1は、本実施の形態に係るSBA−15Nの構造を視覚的に表す図面である。図1の(A)は、SBA−15のマクロ構造を示すTEM写真であり、図1の(B)は、その要部拡大TEM写真である。そして、図1の(C)はSBA−15Nのミクロ構造を模式的に表す図面である。図1の(A)に示すように、SBA−15は、麦の穂のようなマクロ構造をしており、拡大すると図1の(B)に示すように、六角形に近いミクロ構造となっている。
【0041】
ここでは、詳細な説明を省略するが、前記SBA−15のミクロ構造の解析により、図1の(C)に示すように、SBA−15Nは、SiO2で構成される断面が六角形の隔壁により仕切られた多数の貫通孔(メソ細孔)を有するハニカム構造であり、前記貫通孔の内部に、前記超分子鋳型に用いた前記EO及びPOユニットが入っていると考えられる。そして、前記SBA−15がイオン伝導性高分子に添加されると、前記メソ細孔の内部の前記EO及びPOユニットもイオン伝導に寄与すると考えられる。図1の(C)に示す前記メソ細孔の直径dporeは、約10nmであるが、この値は、EOn−POm−EOnの構造、すなわちn及びmの値、及びSBA−15の作製条件により制御することが可能であり、dporeは、概ね、3nm〜30nmの範囲で制御可能である。
【0042】
(無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子の製造方法)
図2は、無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子の製造方法の一例を示すフローチャートである。以下において、図2を参照しながら、一例として、従来公知のTiO2の微粒子無機フィラーを、イオン伝導性高分子PEO10LiCF3SO3に、10質量%添加する場合の製造方法について説明するが、他のPEOベースのイオン伝導性高分子、あるいは他の材料からなる無機フィラーで添加量が異なる場合についても、同様な手順で行うことができる。
【0043】
(1)まず、平均粒径30nm、表面pH3のTiO2からなる無機フィラー1.35gをアセトン100gに加え、撹拌してスラリを作製する(ステップS10)。
【0044】
(2)次に、分子量5×105のポリエチレンオキサイド(PEO)を9g、そしてLiCF3SO3を3.18g溶解させたアセトン300gを前記スラリに加えて、60℃で加熱・撹拌し、粘稠な液体を作製する(ステップS12)。
【0045】
ここで、PEOのエチレンオキサイド(EO)ユニットとLi+とのモル比を[Li+]/[EO]と表すと、[Li+]/[EO]=1/10となっている。また、このステップS12で、前記粘稠な液体は、PEO10LiCF3SO3で表されるイオン伝導性高分子を含み、無機フィラーの添加量は10質量%となっている。
【0046】
(3)続いて、前記粘稠な液体を窒素雰囲気中でテフロン(R)板にキャストし、1cm角で厚さ1mmのフィルムに成形する(ステップS14)。
【0047】
(4)前記フィルムを30℃で24時間真空乾燥し、前記無機フィラーが充填された固体状のイオン伝導性高分子フィルムが得られる(ステップS16)。
【0048】
(5)前記イオン伝導性高分子フィルムの物性(例えば、イオン伝導度、DSC等)を測定する(ステップS18)。
【0049】
前記したステップS10において、TiO2の微粒子無機フィラーの代わりに、平均粒径26nm、表面pH4のSiO2、又は平均粒径33nm、表面pH5のAl23からなる従来公知の微粒子無機フィラーを用いて、ステップS12〜S16を行うことにより、SiO2又はAl23の微粒子無機フィラーを添加した固体状のイオン伝導性高分子フィルムが得られる。なお、前記微粒子無機フィラーの充填効果を評価するために、前記微粒子無機フィラーを充填しない固体状のイオン伝導性高分子フィルム(PEO10LiCF3SO3)も作製した。
【0050】
図3は、従来公知の微粒子無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子におけるイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。ここでは、前記微粒子無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子は、前記微粒子無機フィラーとしてTiO2、SiO2又はAl23をイオン伝導性高分子の1つであるPEO10LiCF3SO3に各々10質量%添加したものである。また、前記微粒子無機フィラーを添加しないPEO10LiCF3SO3単味のものは比較サンプルである。
【0051】
図3のグラフは、このような従来公知の微粒子無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子に対し、約30℃〜約100℃の温度範囲でイオン伝導度σ(S/cm)を測定し、その常用対数値を縦軸にとり、測定温度の絶対温度をTとして1000/Tを横軸にとって作成されている。
【0052】
図3に示すように、前記微粒子無機フィラーを添加しないPEO10LiCF3SO3に比べ、従来公知の微粒子無機フィラー(TiO2、SiO2及びAl23)を添加することにより、特に低温域でのイオン伝導度σが向上すること、及びTiO2を添加したものが最も高いイオン伝導度σを示すことがわかる。
【0053】
図4は、従来公知の微粒子無機フィラーの添加効果が優れているTiO2のPEO10LiCF3SO3への添加量と、40℃におけるイオン伝導度σとの関係を示す。図4に示すように、前記TiO2を前記PEO10LiCF3SO3に添加すればするほど、イオン伝導度σが単調に増加するのではなく、約10質量%添加のところで最大ピークとなることが特徴的である。
【0054】
すなわち、図4において、前記TiO2を約10質量%まで添加していく過程では、前記TiO2のフィラーの充填により、前記PEOと前記TiO2のフィラー表面との間のイオン伝導パスの形成が促進されてイオン移動度が向上するが、前記TiO2フィラーの添加量が約10質量%を超えると、断続的なイオン伝導性パスが形成される、あるいはPEO中のイオン伝導が前記TiO2フィラーにより阻害される等の理由でイオン伝導度σが減少するものと考えられる。
【0055】
次に、図2のフローチャートに従って、本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15を、5、10、15質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムを作製し、各々のイオン伝導度σの温度依存性を測定した。
【0056】
図5は、本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15を添加したイオン伝導性高分子フィルムのイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。図5には、比較サンプルとして、従来公知の微粒子無機フィラーTiO2を10質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムを比較サンプルとして、そのイオン伝導度σの温度依存性も示してある。図5に示すように、SBA−15を10質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムが、測定全温度領域(約30℃〜100℃)で、前記比較サンプルを上回るイオン伝導度σを有することがわかる。
【0057】
次に、図2のフローチャートに従って、本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15Nを、10、15、20質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムを作製し、各々のイオン伝導度σの温度依存性を測定した。
【0058】
図6は、本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15Nを添加したイオン伝導性高分子フィルムのイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。図5には、比較サンプルとして、従来公知の微粒子無機フィラーTiO2を10質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムを比較サンプルとして、そのイオン伝導度σの温度依存性も示してある。図5に示すように、SBA−15Nを15質量%添加したイオン伝導性高分子フィルムが、測定全温度領域(約30℃〜100℃)で、前記比較サンプルを上回るイオン伝導度σを有することがわかる。
【0059】
図7は、本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15及びSBA−15N、並びに比較サンプルである従来公知の微粒子無機フィラーTiO2のイオン伝導性高分子への添加量とイオン伝導度σとの関係を示すグラフであり、図7の(A)及び(B)は、イオン伝導度σの測定温度がそれぞれ40℃及び90℃の場合を表す。
【0060】
図7に示すように、いずれの温度においても、SBA−15では、添加量が約10質量%の時に、そして、SBA−15Nでは添加量が約15質量%の時に、それぞれイオン伝導度σσが最大になることがわかる。SBA−15とSBA−15Nとでは、イオン伝導度σが最大となる無機フィラー添加量が異なり、SBA−15製造時の焼成の有無がイオン伝導機構に影響を及ぼしていると考えられる。また、比較サンプルのTiO2については、40℃及び90℃でのイオン伝導度σが最大になる添加量は、約10質量%である。
【0061】
従って、イオン伝導度σを最大にするための無機フィラー添加量の最適値は、前記無機フィラーの材料、製造条件によるミクロ構造の差、製造後の焼成条件等により異なるため、これまでに説明した以外の材料及びその製造条件を用いる時には、図3〜図7に示すような評価を行って、無機フィラー添加量の最適値を適宜決定することが好ましい。
【0062】
本発明に係るイオン伝導性高分子のフィルムを、超臨界CO2流体に所定時間接触させる超臨界処理を施してイオン伝導度σに対する影響の評価を行った。以下において、前記超臨界処理の方法の概略を説明する。
【0063】
すなわち、まず、本実施の形態に係るイオン伝導性高分子として、前記SBA−15Nの無機フィラーを各種質量%で添加したイオン伝導性高分子フィルムを作製し、それらを高圧反応容器に入れ、CO2を導入した。そして、前記高圧反応容器を密閉し、加熱及び加圧することで、100℃、20MPaの超臨界CO2流体状態を形成し、このCO2流体に前記イオン伝導性高分子フィルムの各試料を30分間接触させて超臨界処理を施した。
【0064】
その後、前記高圧反応容器内部が20℃になるまで冷却し、その内部に残留しているCO2ガスを速やかに放出させた。前記高圧反応容器の中から前記試料を取り出し、引き続いて30℃で24時間真空乾燥を施して、イオン伝導度σの測定サンプルとした。前記超臨界処理の効果を比較するための比較サンプルとして前記超臨界処理を施さなかったものについてもイオン伝導度σの測定サンプルとした。
【0065】
一方、前記超臨界処理の効果を比較するための他の比較サンプルとして、従来公知の微粒子無機フィラーTiO2を各種質量%で添加したイオン伝導性高分子のフィルムを作製し、その後、前記超臨界処理を施さなかったもの、及び前記超臨界処理を施したものに分別して、それぞれをイオン伝導度σの測定サンプルとした。
【0066】
図8は、前記した種々の無機フィラーを各種質量%で添加したイオン伝導性高分子フィルムに対する前記超臨界処理の有無によるイオン伝導度σへの影響を示すグラフである。図8の(A)は、無機フィラーが従来公知の微粒子無機フィラーTiO2の場合であり、図8の(B)は、無機フィラーが本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15Nの場合であり、それぞれ前記臨界処理をしたものと未処理のものについて、それぞれの無機フィラーの添加量とイオン伝導度σを40℃で測定した結果をプロットしてある。
【0067】
図8の(A)に示すように、無機フィラーが従来公知の微粒子無機フィラーTiO2の場合には、その添加量が0質量%から15質量%に増加すると、前記超臨界処理を施したサンプルのイオン伝導度σは急減する傾向にあり、前記超臨界処理は、イオン伝導度σを増加に寄与しないことがわかる。
【0068】
これに対し、図8の(B)に示すように、無機フィラーが本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15Nの場合には、その添加量の増加とともに、前記超臨界処理を施したサンプルのイオン伝導度σは漸増する傾向にあり、前記超臨界処理が、メソ多孔体無機フィラーの添加と相俟ってイオン伝導度σの増加に寄与することがわかる。
【0069】
以上説明したことを要約すると、次の通りである。まず、PEOをマトリックスとし、リチウム塩を含むイオン伝導性高分子(例えば、PEO10LiCF3SO3)に、従来公知の微粒子無機フィラーとしてTiO2、Al23及びSiO2を添加すると、イオン伝導度σは、添加しないものより明らかに向上する。中でも、TiO2の添加が、最も高いイオン伝導度σを与える。
【0070】
そして、本発明に係るメソ多孔体無機フィラーとしてSiO2を骨格とするSBA−15又はその未焼成体であるSBA−15Nのメソ多孔体無機フィラーを前記イオン伝導性高分子に添加すると、前記従来公知の微粒子無機フィラーが添加されたものより、さらにイオン伝導度σが高くなる。
【0071】
また、本発明に係るメソ多孔体無機フィラーとして前記SBA−15Nの無機フィラーを前記イオン伝導性高分子に添加したものに、さらにCO2による超臨界処理を施すと、イオン伝導度σが一段と向上することが明らかになった。
【0072】
以上の説明において、多くの事項が具体的に記載されているが、それらは発明の範囲を限定するものというより、好ましい実施の形態の例示として解釈さるべきである。例えば、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者ならば、本発明の技術的思想に基づいて、無機フィラーの組成の変更、そのマクロな形状、あるいはメソ細孔のミクロな構造を変形することができるであろう。また、イオン伝導性高分子に含まれるマトリックスの組成、あるいは支持電解質の金属塩の組成の変更をすることも容易に行うことができるであろう。ゆえに、本発明の範囲は、以上説明した実施の形態により定められるのではなく、特許請求範囲に記載された技術的思想により定められるべきである。
【0073】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明に係るメソ多孔体無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子は、以下に示すように優れた効果を奏する。
【0074】
請求項1に係る本発明のイオン伝導性高分子組成物によれば、機械的強度、寸法安定性に優れ、かつ、広い温度範囲で高いイオン伝導度σを確保できるという効果を有し、かつ、フィルム状に成形できるので、応用範囲の広いイオン伝導性高分子組成物を提供することができる。
【0075】
請求項2に係る本発明のイオン伝導性高分子のマトリックスとなる高分子によれば、支持電解質の金属塩から供給されるイオンのマトリックスとなる前記高分子が適切な極性を有するので、イオンの分散性が良好に保持され、このイオンの移動度が高くなるという効果を有し、イオン伝導性をさらに向上させたイオン伝導性高分子組成物を提供できる。また、マトリックスとなる高分子が、ポリエーテル結合を有する安価な高分子で構成されるので、製造コストを低減できるという効果も生まれる。
【0076】
請求項3に係る本発明のイオン伝導性高分子組成物において支持電解質としての作用をする金属塩によれば、イオン伝導性をさらに向上させたイオン伝導性高分子組成物を提供できるとともに、化学的安定性が良好で安価なため、製造コストを低減できる効果が生まれる。
【0077】
請求項4に係る本発明の超臨界状態のCO2流体中で処理されるイオン伝導性高分子組成物によれば、イオン伝導性高分子組成物中の金属塩のイオンの分散がさらに向上する効果が現れるので、高イオン伝導性を要求される分野への応用が拡大される。
【0078】
また、本発明のイオン伝導性高分子に添加されるイオン伝導性高分子用フィラーによれば、イオンの移動度がさらに高められて一段と高いイオン伝導性を発現するイオン伝導性高分子組成物を提供できるようになる。また、イオン伝導性高分子用フィラーとして、メソ多孔体無機フィラーをイオン電解質に添加することで、機械的性質の向上のみならず、電池等に応用する場合、正極と負極との電気的短絡を防止する効果も現れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係るSBA−15及びSBA−15Nの構造を視覚的に表す図面である。
【図2】無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】従来公知の微粒子無機フィラーを添加したイオン伝導性高分子におけるイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。
【図4】従来公知の微粒子無機フィラーの添加効果が優れているTiO2のPEO10LiCF3SO3への添加量と、40℃におけるイオン伝導度σとの関係を示す。
【図5】本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15を添加したイオン伝導性高分子フィルムのイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。
【図6】本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15Nを添加したイオン伝導性高分子フィルムのイオン伝導度σの温度依存性を示すグラフである。
【図7】本実施の形態に係るメソ多孔体無機フィラーSBA−15及びSBA−15N、並びに比較サンプルである従来公知の微粒子無機フィラーTiO2のイオン伝導性高分子への添加量とイオン伝導度σとの関係を示すグラフである。
【図8】種々の無機フィラーを各種質量%で添加したイオン伝導性高分子フィルムに対する前記超臨界処理の有無によるイオン伝導度σへの影響を示すグラフである。
【符号の説明】
pore…メソ細孔の直径

Claims (4)

  1. 高分子に金属塩が配合されたイオン伝導性高分子と、
    イオン伝導性高分子用フィラーと、を含み、
    前記イオン伝導性高分子用フィラーは、直径3nm〜30nmのメソ細孔と規則的配置構造とを有する、SBA−15又はその未焼成体であるSBA−15Nからなり、
    前記イオン伝導性高分子用フィラーの添加量は、前記SBA−15の場合、10質量%、前記SBA−15Nの場合、15質量%である
    ことを特徴とするイオン伝導性高分子組成物。
  2. 前記高分子は、ポリエーテル結合を有する高分子であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物。
  3. 前記金属塩は、1種又は2種以上のアルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物。
  4. 前記イオン伝導性高分子組成物は、超臨界状態のCOと、所定時間、接触されたことを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導性高分子組成物。
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