JP4321018B2 - ヘテロ接合バイポーラトランジスタ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)に関し、特にAlGaAs/GaAs系HBT及びInGaP/GaAs系HBTのベース層を改善し、通電後の電流増幅率βの低下を防止する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
HBTは、低歪みの信号増幅が可能で、単一電源での使用ができる等の優れた特徴を持つことから、デジタル通信、ミリ波システムなどのキーデバイスとして注目されている。
【0003】
従来、III −V族化合物半導体で構成されるHBTにおいてはエミッタ/ベース接合がAlGaAs/GaAsヘテロ接合により構成されるのが一般的である。
【0004】
しかし、AlGaAsとGaAsからなるHBTは高電流密度で動作している際、通電時間の増加に伴い素子内には多量の欠陥が発生し、例えば素子の電流利得が低下してゆき、ついには動作不能になってしまう問題がある。特に、ベースドーパントに高濃度のBeを用いた場合、周囲温度200℃程度の高温下で通電試験を行うと数10〜数100時間の内に電流増幅率が低下し、素子が劣化してしまうことが明らかになった。すなわち、素子寿命を表わす平均故障間隔(Mean Time to Failure; 以下MTTFという)が短いという欠点があった。ベースドーパントにBeの代わりにCあるいはZnを用いた場合でも程度の差はあるが、同様な結果が得られる。これらの結果は同素子が室温動作においても信頼性が乏しいことを意味している。
【0005】
そこで、最近は、デバイス特性向上或いは信頼性向上の観点から、エミッタ層をAlGaAs層からInGaP層に置き換えて、InGaP/GaAsヘテロ接合によりHBTを構成する傾向にある。これは、活性な原子であるAlを含むAlGaAs層をエミッタ層として用いた場合には、AlGaAs層に深い準位に起因する多くの非発光性再結合中心が形成され、この非発光性再結合中心を介してHBTの劣化が進行するためであり、Alを含まないInGaP層をエミッタ層として用いることによって劣化の問題を解決しようとするものである。
【0006】
従来のHBTのおおまかな構造を、本発明の実施の形態に係る図1を併用して説明する。
【0007】
図1はAlGaAs/GaAs系又はInGaP/GaAs系HBTの構造の一例を、測定回路の形で示したものである。このHBTは、図示してない半絶縁性基板上に、n+型GaAsコレクタコンタクト層9、n-型GaAsより成るコレクタ層8、及びp+型GaAsより成るベース層7を順次形成し、ベース層7の上にベース電極2と、n型AlGaAsまたはn型InGaPより成るエミッタ層6とを独立して形成し、そしてエミッタ層6の上にn+型GaAsからなるエミッタコンタクト層5とn+型InGaAsからなるノンアロイ層4を順次形成し、そのノンアロイ層4の上にエミッタ電極1を形成し、コレクタコンタクト層9の上にコレクタ電極3を形成したものである。このようにHBTは半絶縁性基板上にn-型GaAsより成るコレクタ層、p+型GaAsより成るベース層、n型AlGaAsまたはn型InGaPより成るエミッタ層により形成される。
【0008】
測定回路は、このHBTのエミッタ電極1とベース電極2との間にエミッタ電極1がアース側になるように可変電源Vbを接続し、可変電源Vbの陽極とベース電極2との間に電流計9を挿入し、可変電源Vbの陽極とコレクタ電極3との間に電流計10を挿入したものである。
【0009】
可変電源Vbによりエミッタ・ベース間の電圧を増加させれば、コレクタ電流Icはベース電流Ibで増幅される。この増幅率がHBTの基本的特性である電流増幅率βであり、コレクタ電流Icとベース電流Ibとの比(Ic/Ib)で表される。
【0010】
電流増幅率βはエピタキシャル層の結晶性に依るところが大きく、構造が全く同じでも成長の仕方によって電流増幅率βの値が大きく異なる。特にベース層の構造、成長方法に大きく依存すると言われており、結晶性の優れたp型ベース層が要求されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のHBTにおいては、HBTに通電を行っている間にベース層内に再結合中心となる欠陥が発生してしまい、このことが原因となって電流増幅率βが突発的に低下してしまう、という問題がある。この劣化は、AlGaAs/GaAs系又はInGaP/GaAs系HBTのいずれにおいても見られる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、ベース層の結晶性を向上させることで、HBTの通電中に電流増幅率βが突発的に低下するのを防止することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成したものである。
【0014】
請求項1の発明は、半絶縁性GaAs基板上に、GaAsのコレクタ層と、型GaAs結晶からなるベース層と、前記ベース層に対してヘテロ接合を形成する型のAlGaAs結晶からなるエミッタ層とを備えたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記ベース層は、ドーパントとしてCを含むと共に、キャリア濃度が4×10 19 /cm であり、前記ベース層のエミッタ層との界面には、前記ベース層の表面にInを2次元的に添加して形成され、In組成が0.02〜0.06のInGaAsからなるプレーナードープ層が形成されていることを特徴とする。
【0015】
ここで、ベース層のエミッタ層との界面に電気的に中性な不純物を2次元的に添加したプレーナードープ層を形成すると表現しているが、これは、ベース層のエミッタ層との界面に単原子層レベルでの不純物ドープ層であるプレーナードープ層が存在する意味であり、これはベース層中に例えばInを添加する形態の他、ベース層直上に臨界膜厚以下のInGaAsを挿入した形態をも含むものである。
【0020】
<発明の要点>
本発明の要点は、ベース層のエミッタ層との界面に電気的に中性な不純物、例えばInを2次元的に添加したプレーナードープ層を形成することにある。
【0021】
現在までのところ、HBTにおける通電試験での電流増幅率の低下の原因は完全に理解されていない。しかし高温動作時に、ベース層中の非発光性再結合中心による転位あるいは欠陥の増殖が電流増幅率の低下の原因となっていると考えられている。
【0022】
本発明者等が鋭意研究努力した結果、GaAs結晶、InGaAs結晶又はSiGe結晶のうちの1つからなるベース層に、ベース層の導電型(第二導電型)を決定している不純物(例えばp型不純物であるC)とは別の中性的な不純物であるInを添加することにより又はベース層直上に臨界膜厚以下のInGaAsを挿入することにより、格子歪みあるいは内部応力を緩和することが可能となることを見い出し、本発明に至ったものである。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態のHBT用エピタキシャルウェハは、半絶縁性基板上に、少なくとも第一導電型(ここではn型)のコレクタ層と、第二導電型(p型)のGaAs結晶、InGaAs結晶又はSiGe結晶のうちの1つからなるベース層と、前記ベース層に対してヘテロ接合を形成する第一導電型(n型)のAlGaAs結晶又はInGaP結晶からなるエミッタ層とを備えたヘテロ接合バイポーラトランジスタ用半導体エピタキシャルウェハにおいて、上記ベース層のエミッタ層との界面に、電気的に中性な不純物を2次元的に添加(プレーナードープ)したプレーナードープ層を形成したものである。
【0025】
図1に本実施形態に係るAlGaAs/GaAs系HBTのウェハ構造を、そのトランジスタ特性の測定回路n形で示す。
【0026】
このHBT用エピタキシャルウェハは、図示してない半絶縁性GaAs基板上に、n+型GaAsコレクタコンタクト層9(厚さ450nm、キャリア濃度4×1018cm-3)、n-型GaAsコレクタ層8(厚さ600nm、キャリア濃度1.5×1016cm-3)、p+型GaAsベース層7(厚さ80nm、キャリア濃度4×1019cm-3)、n型AlGaAsエミッタ層6(キャリア濃度4×1017cm-3、厚さ120nm)、n+型GaAsエミッタコンタクト層5(厚さ120nm、キャリア濃度5×1018cm-3)及びn+型InGaAsノンアロイ層4(厚さ100nm、キャリア濃度2×1019cm-3)を積層したものである。
【0027】
このHBT用エピタキシャルウェハの特異な点として、ベース層7のエミッタ層6との界面には、電気的に中性な不純物であるInを2次元的に添加して成るプレーナードープ層11が形成されている。
【0028】
上記HBT用エピタキシャルウェハは次のようにして作成される。
【0029】
ベース層の厚さを80nm、キャリア濃度を4×1019/cm3とした。P型のGaAsベース層7の成長は、減圧MOVPE法(有機金属気相成長法)により、原料ガスにトリメチルガリウム(以後TMGと略す)とアルシンガス(以後AsH3と略す)、CドーパントにCのハロゲン化物であるCCl3Brを用いて行った。
【0030】
また、本発明に従い、ベース層7のエミッタ層6との界面に単原子層レベルでの不純物ドープ層であるプレーナードープ層11を形成するが、その目的で、ベース層7の表面から5nmの箇所に、電気的に中性なInをプレーナードープする(プレーナードープとは、エピタキシャル層界面にのみ不純物を添加する方法である)。その方法は以下の通りである。
【0031】
(1)GaAsベース層7を厚さ75nmまで成長した時点で、GaAsの原料ガスの供給を一時中新する。
【0032】
(2)Inソースであるトリメチルインジウム(以後TMIと略す)のみを供給する(この間、結晶成長は行われず、TMIが熱分解することで生じたIn原子が表面に露呈したGaAs結晶と結合する)。
【0033】
(3)TMIの供給をやめ、GaAsベース層7の成長を開始する。
【0034】
このようにして、プレーナードープ層11を有するHBT用エピタキシャルウェハを作成した。
【0035】
次に本発明の作用効果を確認するため、試作例として、GaAsベース層7に添加するInの量を0〜10%(ここでは添加するIn流量をp+−InxGa1-xAsにした場合のIn組成xに換算した)まで変えて成長したエピタキシャルウェハを作成した。すなわち、添加するInの量を変えることでIn組成xを0〜0.1まで変化させて、GaAs〜In0.1Ga0.9Asのプレーナードープ層11を形成した。
【0036】
得られた試作例のエピタキシャルウェハについて、HBT素子を作製し通電試験を行った。その結果を図2に示す。図2の縦軸は、通電時間と電流増幅率βの変動の割合(これは、通電開始時の電流増幅率βとある時間通電した後の電流増幅率βの比率で表す、以後β/β@0hと略す)を示しており、横軸に通電時間をとってある。
【0037】
図中の曲線a〜fのうち、aは添加量0%(従来例)であり、bは添加量2%(実施例1)、cは添加量4%(実施例2)、dは添加量6%(実施例3)であり、eは添加量8%(比較例1)、fは添加量10%(比較例2)である。
【0038】
ここで、電流増幅率βが10%以上低下するまでの時間を特性の指標とする(以後、この特性を「信頼性」と呼ぶ)。Inを添加しない従来例aの場合は、通電時間が200時間程度でβが低下してしまう。これに対してInの添加量が2〜6%の範囲(曲線b〜d:実施例1〜3)では、通電時間が500〜600時間までは電流増幅率βが低下せず、信頼性を飛躍的に向上させることができた。そして、Inの添加量が8〜10%(曲線e〜f:比較例1〜2)では逆に通電時間が150時間程度で電流増幅率βが低下してしまい、上記した信頼性を劣化させてしまった。
【0039】
このことからInの添加量は、上記信頼性が向上する2〜6%の範囲が最適と考えられる。すなわち、上記InGaAsからなるプレーナードープ層11におけるIn組成が0.02〜0.06となる範囲とし、In0.02Ga0.98As〜In0.06Ga0.94Asのプレーナードープ層11とするのが好ましい。
【0040】
そして、このIn組成範囲でベース層にInを添加することにより、HBTの信頼性時間(βが通電初期と比較して10%低下するまでの総通電時間)を3倍程度向上させることが出来た。
【0041】
上記実施形態では、ベース層7のエミッタ層6との界面に電気的に中性な不純物であるInを2次元的に添加することによりプレーナードープ層11を形成しているが、要するに、ベース層7のエミッタ層6との界面に単原子層レベルでの不純物ドープ層であるプレーナードープ層11が存在すればよく、従ってベース層4の直上に臨界膜厚以下のInGaAsを挿入しても良い。
【0042】
また上記実施形態では、ベース層7のエミッタ層6との界面にのみプレーナードープ層11を形成しているが、ベース層の上下の界面にのみInを添加したプレーナードープ層11を形成しても良い。
【0043】
上記実施形態では、GaAsから成るベース層を例にして説明しているが、本発明はGaAsから成るベース層に限定されるものではなく、SiGe及びInGaAsから成るベース層に対しても適用することが可能である。
【0044】
さらにHBTに限定せず、水素パッシベーションによりアクセプタが不活性化する層を有するエピタキシャル層すべてに適用可能である。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、半絶縁性GaAs基板上に、GaAsのコレクタ層と、型GaAs結晶からなるベース層と、前記ベース層に対してヘテロ接合を形成する型のAlGaAs結晶からなるエミッタ層とを備えたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、前記ベース層は、ドーパントとしてCを含むと共に、キャリア濃度が4×10 19 /cm であり、前記ベース層のエミッタ層との界面には、前記ベース層の表面にInを2次元的に添加して形成され、In組成が0.02〜0.06のInGaAsからなるプレーナードープ層を形成したものである。このようにベース層のエミッタ層との界面に単原子層レベルでの不純物ドープ層であるプレーナードープ層を存在させることにより、格子歪みあるいは内部応力を緩和し、信頼性時間(βが通電初期と比較して10%低下するまでの総通電時間)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のHBTの構造とトランジスタ特性測定回路を示す図である。
【図2】図1に示したHBTの通電時間と、β/β@0h(通電開始時の電流増幅率βとある時間通電した後の電流増幅率β@0hの比率)との関係を示した図である。
【符号の説明】
1 エミッタ電極
2 ベース電極
3 コレクタ電極
4 ノンアロイ層(n+−InGaAs)
5 エミッタコンタクト層(n+−GaAs)
6 エミッタ層(n−AlGaAs)
7 ベース層(p+−GaAs)
8 コレクタ層(n−GaAs)
9 コレクタコンタクト層(n+−GaAs)

Claims (1)

  1. 半絶縁性GaAs基板上に、GaAsのコレクタ層と、型GaAs結晶からなるベース層と、前記ベース層に対してヘテロ接合を形成する型のAlGaAs結晶からなるエミッタ層とを備えたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、
    前記ベース層は、ドーパントとしてCを含むと共に、キャリア濃度が4×10 19 /cm であり、
    前記ベース層のエミッタ層との界面には、前記ベース層の表面にInを2次元的に添加して形成され、In組成が0.02〜0.06のInGaAsからなるプレーナードープ層が形成されていることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ
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