JP4318841B2 - 音響効果装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、音響効果装置に関し、さらに詳細には、オーディオ信号に残響効果を付加する音響効果装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ステレオ信号などの左チャンネルの左チャンネル・オーディオ信号と右チャンネルの右チャンネル・オーディオ信号との2チャンネルのオーディオ信号(2チャンネル・オーディオ信号)を2つのスピーカーで再生する際に、音場をより広く再生できるようにするために、クロストークを打ち消す手段を備えるようにすることがしばしば行われている。
【0003】
ここで、上記したクロストークとは、左チャンネルの左チャンネル・オーディオ信号と右チャンネルの右チャンネル・オーディオ信号との左右の2チャンネルのオーディオ信号を左右の2つのスピーカーで再生する際における、右側スピーカーから左側の耳に達するオーディオ信号ならびに左側スピーカーから右側の耳に達するオーディオ信号を意味する。
【0004】
ところで、このようなクロストーク打ち消し手段は、ある一点を受聴位置と想定して処理されるものであるので、クロストークを打ち消す効果が得られる範囲は狭いものであった。
【0005】
その結果として、音場を拡大する効果が得られる受聴位置が非常に狭いという問題点があった。
【0006】
そこで、上記したようなクロストークを打ち消す効果が得られる範囲が狭いという問題点を解決するためのものとして、例えば、特開平2−260800号公報に開示された発明が提案されていた。
【0007】
即ち、この特開平2−260800号公報には、クロストーク成分を打ち消す効果が得られる受聴位置を拡大して、立体音効果の得られる受聴位置を拡大した立体音再生装置に係る発明が開示されている。具体的には、受聴位置を複数箇所形成するようにして、キャンセル信号形成手段における遅延量を切り換えるように構成されている。
【0008】
しかしながら、上記した特開平2−260800号公報に開示された立体音再生装置に係る発明よっては、実際には良好な出力信号を得ることができないものであった。
【0009】
即ち、キャンセル信号形成手段における遅延量を切り換えると、波形信号が不連続になってノイズが発生してしまうため、ノイズが発生しないようにクロスフェード処理を施す必要があるが、クロスフェード処理をしてもクロスフェード処理部の不自然な変調音が生じてしまうという不具合があった。
【0010】
また、遅延時間を時間経過で変化させると、再生信号の音高の変化や信号同士の干渉により、音色の変化が生じてしまうという不具合があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、クロストーク打ち消し手段の遅延時間を切り換えることなしに、クロストーク成分をキャンセルする効果が得られる受聴位置を拡大することができ、それにより音場を拡大する効果を得ることができるようにした音響効果装置を提供しようとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、入力されたオーディオ信号に残響効果を付加して左チャンネル・オーディオ信号と右チャンネル・オーディオ信号との2チャンネル・オーディオ信号として出力する残響効果付加手段と、上記残響効果付加手段から出力された2チャンネル・オーディオ信号を入力し、それぞれ異なる複数の受聴位置における左スピーカーから右耳へのクロストークと右スピーカーから左耳へのクロストークとをそれぞれキャンセルする演算処理を施すための演算処理手段であって、入力された左チャンネル・オーディオ信号を入力し遅延を付加して左出力信号とする、遅延時間D1の第1遅延手段を有した第1閉ループ手段と、入力された右チャンネル・オーディオ信号を入力し遅延を付加して右出力信号とする、遅延時間D2の第2遅延手段を有した第2閉ループ手段と、上記入力された右チャンネル・オーディオ信号に周波数特性変化を付加する第1フィルタ手段と、上記第1フィルタ手段により周波数特性変化が付加された右チャンネル・オーディオ信号に遅延を付加して上記左出力信号に合成する、遅延時間D3の第3遅延手段を有した第3閉ループ手段と、上記入力された左チャンネル・オーディオ信号に周波数特性変化を付加する第2フィルタ手段と、上記第2フィルタ手段により周波数特性変化が付加された左チャンネル・オーディオ信号に遅延を付加して上記右出力信号に合成する、遅延時間D4の第4遅延手段を有した第4閉ループ手段とを有して構成され、上記各遅延手段の各遅延時間は、D4>D1=D2>D3 または D3>D1=D2>D4である演算処理手段とを有するようにしたものである。
【0020】
即ち、本発明のうち請求項1に記載の発明は、演算処理手段におけるクロストーク打ち消し演算処理の手段として、「発明の実施の形態」の項において説明する図8に示すように、遅延手段と乗算手段とを有した閉ループ手段で構成することにより、簡単な構成とすることができる。
【0021】
また、この本発明のうち請求項1に記載の発明は、残響効果を付与する音響効果装置として使用することにより、受聴位置を拡大する処理における遅延は残響効果にマスキングされて聴感上問題になることはない。
【0022】
また、本発明のうち請求項1に記載の発明によれば、大きな音場の残響効果を得ることができる受聴位置が従来の音響効果装置よりも拡大する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による音響効果装置の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0024】
なお、以下に説明する各図においてそれぞれ共通して使用される符号(参照数字や各種の記号を含む。)は、それぞれ同一の内容を意味するものとする。
【0025】
図1は、本発明による音響効果装置の実施の形態の一例の全体の構成を示すブロック構成図である。
【0026】
即ち、この音響効果装置10は、残響効果付加手段12と、演算処理手段14と、左スピーカー16と、右スピーカー18とを有して構成されている。
【0027】
なお、上記した残響効果付加手段12と演算処理手段14とは、デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)により構成されるものであり、本発明による音響効果装置は、ソフトウェアにより実現されるものである。
【0028】
図1において、符号PLは左チャンネル・オーディオ信号を表し、符号PRは右チャンネル・オーディオ信号を表し、符号SLはクロストーク打ち消し手段から出力される左チャンネルの左チャンネル・オーディオ信号を表し、符号SRは右チャンネルの右チャンネル・オーディオ信号を表している。
【0029】
ここで、本発明の理解を容易にするために、図2乃至図3を参照しながら、従来より公知のクロストーク打ち消し演算の一例を説明する。なお、図2は、従来より公知のクロストーク打ち消し演算手段によるクロストーク打ち消し処理の原理を示す説明図であり、また、図3は、図2に示すクロストーク打ち消し演算手段の具体的な構成を示すブロック構成図である。
【0030】
なお、「HEL」は、左スピーカー402を含め受聴位置LPに存在する受聴者Mの左耳までの伝達関数であり、また、「HXL」は、左スピーカー402を含め受聴位置LPに存在する受聴者Mの右耳までの伝達関数であり、また、「HXR」は、右スピーカー404を含め受聴位置LPに存在する受聴者Mの左耳までの伝達関数であり、また、「HER」は、右スピーカー404を含め受聴位置LPに存在する受聴者Mの右耳までの伝達関数である。
【0031】
即ち、従来より公知のクロストーク打ち消し演算においては、図2示すように、受聴位置LPを予め決定しておき、2チャンネル・ステレオ信号(ダミーヘッドを使って録音したようなバイノーラル信号も含む。)である左チャンネル・オーディオ信号PLと右チャンネル・オーディオ信号PRとを、左スピーカーと右スピーカーとの2つのスピーカーで再生したときに、右スピーカーから左の耳に伝達関数HXRで達するオーディオ信号および左スピーカーから右の耳に伝達関数HXLで達するオーディオ信号を打ち消す処理を行うものである。
【0032】
つまり、クロストーク打ち消し演算手段400において左チャンネル・オーディオ信号SLおよび右チャンネル・オーディオ信号SRを生成し、左スピーカー402と右スピーカー404とを介して放音すると、予め決められた受聴位置LPではクロストーク成分が打ち消される。
【0033】
次に、図4には、本発明による音響効果装置における受聴位置の変化の例を示している。
【0034】
この図4に示す説明図は、クロストーク打ち消し演算が干渉しない程度の短い遅延時間で、受聴位置を各受聴位置LP0,LP1,LP2,・・・と左から右に順次移動させる状態を示している。
【0035】
図4においては、受聴位置をLP0〜LP4の5点しか示していないが、実際にはもっと多くの受聴位置を設定しても良い。
【0036】
次に、図5には、本発明による音響効果装置10における演算処理手段14の第1の構成例を表すブロック構成図が示されている。
【0037】
即ち、この第1の構成例においては、演算処理手段14は、受聴位置LP0,LP1,・・・,LPnに対応したクロストーク打ち消し演算手段XTC0,XTC1,・・・,XTCnを備えている(nは、「0」を含む正の整数である。)。
【0038】
これらクロストーク打ち消し演算手段XTC0,XTC1,・・・,XTCnの前段には、左チャンネル・オーディオ信号PLが入力される第1遅延手段101と、右チャンネル・オーディオ信号PRが入力される第2遅延手段102とが設けられている。
【0039】
そして、
なお、第1遅延手段101は各受聴位置毎に遅延dL0,dL1,・・・dLnを付加し、第2遅延手段102は各受聴位置毎に遅延dR0,dR1・・・,dRnを付加している。
【0040】
なお、受聴位置によっては、「−HXRn/HELn」、「一HXLn/HERn」の遅延が負になる場合があるので、その場合はバイパス経路の遅延dBL0,・・・,dBLnならびに遅延dBR0,・・・,dBRnを挿入する。
【0041】
ここで、各遅延時間は、「dL0=dR0」、「dL1=dR1」,・・・,「dLn=dRn」に設定されている。
【0042】
なお、受聴位置は、図4を参照しながら左から右に順次移動するものとして説明したが、クロストーク打ち消し演算手段XTC0,・・・XTCnはそれぞれ独立して設けられているため、図4のように受聴位置が順番に隣に変化するものでなくても良い。即ち、受聴位置は、任意の順番および位置に変化させることができるものである。
【0043】
次に、図6に示す本発明による音響効果装置10における動作を示すタイミングチャートを参照しながら、音響効果装置10における動作を詳細に説明する。
【0044】
まず、打ち消し信号が無い場合の各スピーカーからの出力が示されている。図6(a)には左スピーカー16の出力が示されており、図6(c)には右スピーカー18の出力が示されている。
【0045】
ここで、受聴位置がD1(=D2)の時間間隔で図4に示すようにLP0,LP1,LP2,・・・と順次移動した場合に、インパルスをD1(=D2)の遅延で順次繰り返し発音するとき、左耳で受ける音信号は図6(e)に示すようなものとなり、右耳で受ける音信号は図6(f)に示すようなものになる。
【0046】
図6(e)に示す音信号のうち、R0,R1,R2,R3,R4がクロストーク信号である。また、図6(f)に示す音信号のうち、L0,L1,L2,L3,L4がクロストーク信号である。
【0047】
これらのクロストーク信号を打ち消すためには、左耳打ち消し信号として図6(b)に示すような信号の逆の位相の信号を左スピーカーから出力するとともに、右耳打ち消し信号として図6(d)に示すような信号の逆の位相の信号を右スピーカーから出力するようにすればよい。
【0048】
次に、図7には、本発明による音響効果装置10における演算処理手段14の第2の構成例を表すブロック構成図が示されている。
【0049】
即ち、この第2の構成例においては、演算処理手段14は、残響効果付加手段12から出力された右チャンネル・オーディオ信号PRを入力し、当該入力した右チャンネル・オーディオ信号PRに「−HXR/HEL」により決定される周波数特性の変化を付加する−HXR/HELのフィルタ部201と、残響効果付加手段12から出力された左チャンネル・オーディオ信号PLを入力し、当該入力した左チャンネル・オーディオ信号PLに「−HXL/HER」により決定される周波数特性の変化を付加する−HXL/HERのフィルタ部202と、左チャンネル・オーディオ信号PLが入力される第1遅延手段211と、右チャンネル・オーディオ信号PRが入力される第2遅延手段212と、−HXR/HELのフィルタ部201から出力された信号が入力される第3遅延手段213と、−HXL/HERのフィルタ部202から出力された信号が入力される第4遅延手段214とを有している。
【0050】
なお、第1遅延手段211は各受聴位置毎に遅延dl0,dl1,・・・dlnを付加し、第2遅延手段212は各受聴位置毎に遅延dr0,dr1,・・・drnを付加し、第3遅延手段213は各受聴位置毎に遅延dxl0,dxl1・・・,dxlnを付加し、第4遅延手段214は各受聴位置毎に遅延dxr0,dxr1・・・,dxrnを付加している。
【0051】
ここで、受聴位置による音色変化を付与する−HXR/HELのフィルタ部201ならびに−HXL/HERのフィルタ部202に関しては、ある一点の値で代表させておき(従って、この構成によれば受聴位置による音色変化は付与されない。)、クロストーク打ち消し演算は遅延成分のみに基づいて行うようにして、処理を簡略化している。
【0052】
この図7に示す演算処理手段14の第2の構成例によれば、上記したような図6(a)に示す信号と図6(b)に示す信号の逆の位相の信号とを合成した信号を左スピーカー16から出力することができ、また、図6(c)に示す信号と図6(d)に示す信号の逆の位相の信号とを合成した信号を右スピーカー18から出力できるようになる。
【0053】
ここで、各遅延手段における出力への乗数は、遅延時間が大きくなるに連れて小さくなるようにすれば、時間経過で次第に音量が小さくなる自然な信号を得ることができる。そして、これら乗数は、適宜に実験などを行って、最も好ましい値を決定すればよい。
【0054】
なお、上記した説明においては、受聴位置が左から右に移動するように設定しているが、受聴位置が右から左に移動するように設定してもよい。
【0055】
次に、図8には、本発明による音響効果装置10における演算処理手段14の第3の構成例を表すブロック構成図が示されている。
【0056】
即ち、この第3の構成例においては、演算処理手段14は、残響効果付加手段12から出力された右チャンネル・オーディオ信号PRを入力し、当該入力した右チャンネル・オーディオ信号PRに「−HXR/HEL」により決定される周波数特性の変化を付加する−HXR/HELのフィルタ部301と、残響効果付加手段12から出力された左チャンネル・オーディオ信号PLを入力し、当該入力した左チャンネル・オーディオ信号PLに「−HXL/HER」により決定される周波数特性の変化を付加する−HXL/HERのフィルタ部302と、左チャンネル・オーディオ信号PLが入力される第1遅延手段311を備えた第1閉ループ321と、右チャンネル・オーディオ信号PRが入力される第2遅延手段312を備えた第2閉ループ322と、−HXR/HELのフィルタ部301から出力された信号が入力される第3遅延手段313を備えた第3閉ループ323と、−HXL/HERのフィルタ部302から出力された信号が入力される第4遅延手段314を備えた第4閉ループ324とを有している。
【0057】
このこの第3の構成例においても、上記した第2の構成例と同様に、受聴位置による音色変化を付与する−HXR/HELのフィルタ部301ならびに−HXL/HERのフィルタ部302に関しては、ある一点の値で代表させておき(従って、この構成によれば受聴位置による音色変化は付与されない。)、クロストーク打ち消し演算は遅延成分のみに基づいて行うようにして、処理を簡略化している。
【0058】
ただし、第1遅延手段311を備えた第1閉ループ321、第2遅延手段312を備えた第2閉ループ322、第3遅延手段313を備えた第3閉ループ323ならびに第4遅延手段314を備えた第4閉ループ324を使用することにより、図7に示す第1遅延手段211乃至第4遅延手段214より小さな構成の遅延手段によって演算処理手段14を構成することができ、演算処理手段14の構成が簡単になる。
【0059】
この図8に示す演算処理手段14の第3の構成例によれば、上記したような図6(a)に示す信号と図6(b)に示す信号の逆の位相の信号とを合成した信号を左スピーカー16から出力することができ、また、図6(c)に示す信号と図6(d)に示す信号の逆の位相の信号とを合成した信号を右スピーカー18から出力できるようになる。
【0060】
ここで、図6(a)に示す左スピーカー出力が時間D1の周期で発生され、図6(c)に示す右スピーカー出力が時間D2の周期で発生され、図6(b)に示す左耳打ち消し信号が時間D3の周期で発生され、図6(d)に示す右耳打ち消し信号が時間D4の周期で発生されるように構成されている。
【0061】
さらに、受聴位置LPが左から右に移動する場合には、それぞれの遅延時間は、
D4>D1=D2>D3
のような関係に設定される。
【0062】
また、受聴位置LPが右から左に移動する場合には、それぞれの遅延時間は、
D3>D1=D2>D4
のような関係に設定される。
【0063】
なお、図8に示すように遅延手段を閉ループで構成する場合には、図6(b)におけるXL0,XL1,XL2,・・・は時間D3の周期で、また、図6(d)におけるXR0,XR1,XR2,・・・は時間D4の周期で、それぞれ周期的な関係で信号が出力されることになるが、このような関係となるのは受聴位置LPがある特定の経路で特定の移動をする場合である。以下、その一例について、さらに詳細に説明する。
【0064】
まず、図9において、受聴位置LPは頭部の真中であるとし、頭部の径に比べてスピーカーまでの距離が十分大きいと仮定すると、スピーカーからの音波は平面波とすることができる。
【0065】
また、左耳と右耳とのそれぞれと頭部の中心との距離をRhとし、正面方向を基準として、スピーカーからの音波の入射を左方向が正で右方向が負の値であるφとし、スピーカーから受聴位置LPまでの距離をrとすると、スピーカーから左耳までの距離rLLは、
rLL=r−Rh×sin(φ)
となり、スピーカーから右耳までの距離rLRは、
rLR=r+Rh×sin(φ)
となる。
【0066】
ここで、図10に示すように、受聴位置LPは、間隔Lsを開けて配置された左スピーカー16と右スピーカー18とを通る円周上を移動するものとする。
【0067】
また、頭部は、左スピーカー16と右スピーカー18とを通る線分の垂直二等分線(以下、「中心線」と適宜に称する。)と、左スピーカー16と右スピーカー18とを通る線分を境界として受聴位置LPが位置する側とは反対側の円周との交点の方向を向いているものとし、頭部の方向と中心線とのなす角度をαとする。そして、図10において、受聴位置LPが中心線の左側に位置する場合のαを正とし、受聴位置LPが中心線の右側に位置する場合のαを負として表す。
【0068】
このとき、受聴位置LPでのスピーカーとの角度φは、正弦定理よりαが変化しても変化しない。
【0069】
余弦定理を用いて、左スピーカー16から受聴位置LPまでの距離rLを求めると、
rL=Ls×cos(π/2−φ+α)+rR×cos(2φ)
となり、同様にして、右スピーカー18から受聴位置LPまでの距離rRを求めると、
rR=Ls×cos(π/2−φ−α)+rL×cos(2φ)
となる。
【0070】
上記した各式より、左スピーカー16から左耳までの距離rLLは、
rLL=rL−Rh×sin(φ)
となり、同様にして、左スピーカー16から右耳までの距離rLRは、
rLR=rL+Rh×sin(φ)
となり、同様にして、右スピーカー18から右耳までの距離rRRは、
rRR=rR−Rh×sin(φ)
となり、同様にして、右スピーカー18から左耳までの距離rRLは、
rRL=rR+Rh×sin(φ)
となる。
【0071】
上記した式より、右スピーカー18から左耳へのクロストーク信号のキャンセル信号を生成するための遅延値に当る距離となる(rRL−rLL)を求めると、
rRL−rLL=rR+Rh×sin(φ)−rL+Rh×sin(φ)
=rR−rL+2×Rh×sin(φ)
=Ls×cos(π/2−φ−α)−Ls×cos(π/2−φ+α)}/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
=Ls×{sin(φ+α)−sin(φ−α)}/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
=2×Ls×sin(α)×cos(φ)/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
となる。
【0072】
この遅延成分は、図3に示すブロック構成図においては、右スピーカー18から左耳へのクロストーク信号のキャンセル信号を生成する伝達関数−HXR/HELの部分に相当する。そして、この遅延成分をD3とする。
【0073】
即ち、
D3=2×Ls×sin(α)×cos(φ)/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ) ・・・ 式(1)
とする。
【0074】
同様に、左スピーカー16から右耳へのクロストーク信号のキャンセル信号を生成するための遅延値に当る距離となる(rLR−rRR)を求めると、
rLR−rRR=rL+Rh×sin(φ)−rR+Rh×sin(φ)
=rL−rR+2×Rh×sin(φ)
={Ls×cos(π/2−φ+α)−Ls×cos(π/2−φ−α)}/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
=Ls×{sin(φ−α)−sin(φ+α)}/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
=−2×Ls×sin(α)×cos(φ)/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ)
となる。
【0075】
この遅延成分は、図3に示すブロック構成図においては、左スピーカー16から右耳へのクロストーク信号のキャンセル信号を生成する伝達関数−HXL/HERの部分に相当する。そして、この遅延成分をD4とする。
【0076】
即ち、
D4=−2×Ls×sin(α)×cos(φ)/{1+cos(2φ)}+2×Rh×sin(φ) ・・・ 式(2)
とする。
【0077】
次に、上記した式(1)ならびに式(2)の右辺におけるsin(α)以外の項が定数なので、定数Aと定数Bとで置き換えると、
D3=A×sin(α)+B
D4=−A×sin(α)+B
となる。
【0078】
それぞれの受聴位置LP0,LP1,LP2,LP3,LP4における角度αをそれぞれでα0,α1,α2,α3,α4とすると、各受聴位置での遅延は、以下に示すようになる。
【0079】
即ち、
(1)受聴位置LP0での遅延
D3(0)=A×sin(α0)+B
D4(0)=−A×sin(α0)+B
(2)受聴位置LP1での遅延
D3(1)=A×sin(α1)+B
D4(1)=−A×sin(α1)+B
(3)受聴位置LP2での遅延
D3(2)=A×sin(α2)+B
D4(2)=−A×sin(α2)+B
(4)受聴位置LP3での遅延
D3(3)=A×sin(α3)+B
D4(3)=−A×sin(α3)+B
(5)受聴位置LP4での遅延
D3(4)=A×sin(α4)+B
D4(4)=−A×sin(α4)+B
となる。
【0080】
同時に、それぞれの受聴位置毎に同じ遅延時間Dごと増加する遅延を付加するものとし、図3において、入力信号(左チャンネル・オーディオ信号PL)から出力信号(左チャンネル・オーディオ信号SL)へ付加する遅延をD1とし、入力信号(右チャンネル・オーディオ信号PR)から出力信号(右チャンネル・オーディオ信号SR)へ付加する遅延をD2とすると、
(1)受聴位置LP0での遅延
D1(0)=0
D3(0)=A×sin(α0)+B
D4(0)=−A×sin(α0)+B
D2(0)=0
(2)受聴位置LP1での遅延
D1(1)=D
D3(1)=A×sin(α1)+B+D
D4(1)=−A×sin(α1)+B+D
D2(1)=D
(3)受聴位置LP2での遅延
D1(2)=D+D
D3(2)=A×sin(α2)+B+D+D
D4(2)=−A×sin(α2)+B+D+D
D2(2)=D+D
(4)受聴位置LP3での遅延
D1(3)=D+D+D
D3(3)=A×sin(α3)+B+D+D+D
D4(3)=−A×sin(α3)+B+D+D+D
D2(3)=D+D+D
(5)受聴位置LP4での遅延
D1(4)=D+D+D+D
D3(4)=A×sin(α4)+B+D+D+D+D
D4(4)=−A×sin(α4)+B+D+D+D+D
D2(4)=D+D+D+D
となる。
【0081】
以上に説明したことから、D1とD2とに関しては、次に示すように遅延時間が変化するものである。
【0082】
D1(n)=D2(n)=n×D (nは、「0」を含む正の整数である。)。
【0083】
また、D3については、
D3(1)−D3(0)=A{sin(α1)−sin(α0)}+D
D3(2)−D3(1)=A{sin(α2)−sin(α1)}+D
D3(3)−D3(2)=A{sin(α3)−sin(α2)}+D
D3(4)−D3(3)=A{sin(α4)−sin(α3)}+D
となる。
【0084】
そこで、
sin(α1)−sin(α0)=sin(α2)−sin(α1)=sin(α3)−sin(α2)=sin(α4)−sin(α3)=K (Kは定数)
と、一定値Kで変化するように各αnを設定すると、
D3(n)={A×sin(α0)+B}+n(A×K+D)
と式を変形できる。
【0085】
さらに、D4については、
D4(1)−D4(0)=A{sin(α0)−sin(α1)}+D
D4(2)−D4(1)=A{sin(α1)−sin(α2)}+D
D4(3)−D4(2)=A{sin(α2)−sin(α3)}+D
D4(4)−D4(3)=A{sin(α3)−sin(α4)}+D
となる。
【0086】
そこで、
sin(α0)−sin(α1)=sin(α1)−sin(α2)=sin(α2)−sin(α3)=sin(α3)一sin(α4)=−K (Kは定数)
と、一定値Kで変化するように各αnを設定すると、
D4(n)={−A×sin(α0)+B}+n{A×(−K)+D}
と式を変形することができる。
【0087】
以上において説明したことから、nが1増加する毎に等差で変化しており、遅延手段を備えた閉ループで構成することができることが分かるものである。
【0088】
ここで、nを閉ループを巡回する回数とし、図8において、閉ループの遅延D1,D2の遅延値をDになるようにし、遅延D3の遅延を(A×K+D)になるようにし、遅延D4の遅延を{A×(−K)+D}になるようにすると、図10の円周上の受聴位置LPnが順次移動するようなクロスフェード打ち消し演算手段を形成することができる。
【0089】
なお、遅延D1,D2は、「n=0」のときは便宜的に0としたが、受聴位置LP0によってはD3(0)またはD4(0)が負になる場合が有るので、その場合はD3(0)またはD4(0)が正になるようD1,D2,D3,D4に一定値を加算する。つまり、遅延手段の中間タップから出力するようにすればよい。
【0090】
なお、特開平2−260800号公報に開示されたものは、音高が変化したり不自然な変調音が生じるものであるが、図1の残響効果付加手段12の代わりにコーラス効果を付加する効果手段など、変調による効果を付加するものとすると、上記した欠点はそれほど気にならなくなる。そのときは、演算処理手段14は、図11に示すような構成としてもよい。
【0091】
そして、変調波発生手段より発生される変調信号により、遅延や係数を変調することにより受聴位置を変化させている。
【0092】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように構成されているので、クロストーク打ち消し手段の遅延時間を切り換えることなしに、クロストーク成分をキャンセルする効果が得られる受聴位置を拡大することができ、それにより音場を拡大する効果を得ることができるようにした音響効果装置を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による音響効果装置の実施の形態の一例の全体の構成を示すブロック構成図である。
【図2】従来より公知のクロストーク打ち消し演算手段によるクロストーク打ち消し処理の原理を示す説明図である。
【図3】図2に示すクロストーク打ち消し演算手段の具体的な構成を示すブロック構成図である。
【図4】本発明による音響効果装置における受聴位置の変化の例を示す説明図である。
【図5】本発明による音響効果装置における演算処理手段の第1の構成例を表すブロック構成図である。
【図6】本発明による音響効果装置における動作を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明による音響効果装置における演算処理手段の第2の構成例を表すブロック構成図である。
【図8】本発明による音響効果装置における演算処理手段の第3の構成例を表すブロック構成図である。
【図9】受聴位置とスピーカーとの位置関係を説明するための説明図である。
【図10】受聴位置とスピーカーとの位置関係を説明するための説明図である。
【図11】本発明による音響効果装置における演算処理手段の他の構成例を表すブロック構成図である。
【符号の説明】
10 音響効果装置
12 残響効果付加手段
14 演算処理手段
16、402 左スピーカー
18、404 右スピーカー
101 第1遅延手段
102 第2遅延手段
201、301 −HXR/HELのフィルタ部
202、302 −HXL/HERのフィルタ部
211、311 第1遅延手段
212、312 第2遅延手段
213、313 第3遅延手段
214、314 第4遅延手段
321 第1閉ループ
322 第2閉ループ
323 第3閉ループ
324 第4閉ループ
Claims (1)
- 入力されたオーディオ信号に残響効果を付加して左チャンネル・オーディオ信号と右チャンネル・オーディオ信号との2チャンネル・オーディオ信号として出力する残響効果付加手段と、
前記残響効果付加手段から出力された2チャンネル・オーディオ信号を入力し、それぞれ異なる複数の受聴位置における左スピーカーから右耳へのクロストークと右スピーカーから左耳へのクロストークとをそれぞれキャンセルする演算処理を施すための演算処理手段であって、
入力された左チャンネル・オーディオ信号を入力し遅延を付加して左出力信号とする、遅延時間D1の第1遅延手段を有した第1閉ループ手段と、
入力された右チャンネル・オーディオ信号を入力し遅延を付加して右出力信号とする、遅延時間D2の第2遅延手段を有した第2閉ループ手段と、
前記入力された右チャンネル・オーディオ信号に周波数特性変化を付加する第1フィルタ手段と、前記第1フィルタ手段により周波数特性変化が付加された右チャンネル・オーディオ信号に遅延を付加して前記左出力信号に合成する、遅延時間D3の第3遅延手段を有した第3閉ループ手段と、
前記入力された左チャンネル・オーディオ信号に周波数特性変化を付加する第2フィルタ手段と、前記第2フィルタ手段により周波数特性変化が付加された左チャンネル・オーディオ信号に遅延を付加して前記右出力信号に合成する、遅延時間D4の第4遅延手段を有した第4閉ループ手段と
を有して構成され、前記各遅延手段の各遅延時間は、
D4>D1=D2>D3 または D3>D1=D2>D4
である演算処理手段と
を有する音響効果装置。
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