JP3911714B2 - ヘッドホン用前方定位補正装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ヘッドホンにより得られる音像をリスナの前方に定位させるためのヘッドホン用前方定位補正装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘッドホン装置とスピーカ装置とは、入力される楽音信号を電気機械変換により音響信号(音声)として出力する点で共通しているが、聴き手に対する空間的配置が異なっている。このため、再生すべき音響信号がステレオ信号である場合、同一のステレオ信号が入力されても、ヘッドホン装置では、聴き手による音像の定位がスピーカ装置によって再生されるものと相違するという問題がある。この原因は主として、ヘッドホン装置では、左右の発音体から反対側の耳へ到達するクロクトークが生じないという点、及びリスニング環境で生じる反射音が存在しないという点にある。従来、図4に示すように、入力されるステレオ信号LIN,RINをディレイ回路21,22でそれぞれ遅延し、これらをクロストーク成分として相互に反対側のチャネルのステレオ信号LIN,RINに付加することにより、左右のセパレーションを補正する回路は知られている。
【0003】
しかし、上記装置では、音像の定位が聴き手に対して後方に位置し、前方の定位が不足するという問題がある。この問題を解決するものとして、音像の定位に関する心理的要因に着目し、図5に示すように、前方に感じやすい周波数帯域(2.5k〜5kHz,16kHz近傍)を強調して、後方または上方に感じやすい周波数帯域(7k〜12.5kHz)を抑制するピークディップフィルタ、及び反射音の伝搬周波数特性を持つ残響付加回路を使用する方式が提案されている(特開昭54−151401号)。また、図6に示すように、ステレオスピーカ再生において生じ、ステレオヘッドホン再生では生じない、左右チャネルの空間的なクロストーク成分及びリスニング環境での反射成分の周波数特性をヘッドホン再生時に補うことにより、音像の定位を前方に補正する方式が提案されている(特開平3−250900号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の補正装置は、いずれも音場を擬似的に再現するものであるから、ディジタルフィルタの設計が難しく、構成が複雑となり、高価であるという問題がある。しかも、構成が複雑な割には、両者は前方定位感が不十分であり、臨場感を欠くということが実験により確認されている。
【0005】
この発明は、このような問題点に鑑みなされたもので、ヘッドホン出力の前方定位を簡素、且つ安価に実現することができ、しかも十分な前方定位感が得られるヘッドホン用前方定位補正装置を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明に係るヘッドホン用前方定位補正装置は、音響信号によりヘッドホンを駆動して得られる音像をリスナの前方に定位させるためのヘッドホン用前方定位補正装置であって、各チャネルの音響信号をそれぞれ人間の各耳が受ける直接音とクロストーク成分との時間差だけ遅延させて他方のチャネルに対するクロストーク成分を生成するディレイ回路と、このディレイ回路で生成された各チャネルのクロストーク成分の位相をそれぞれシフトさせる移相フィルタであって、そのシフト量が略180°になる周波数が500〜800Hzの間に設定される移相フィルタと、この移相フィルタでそれぞれ位相シフトされた各チャネルの信号を他方のチャネルにそれぞれ加算する加算手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この発明のより具体的なヘッドホン用前方定位補正装置は、前記移相フィルタが、オールパスフィルタであることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、ディレイ回路と移相フィルタとによって、左右チャネルのクロストーク成分が生成される。発明者はクロストーク成分の伝搬経路の移相特性に着目し、移相フィルタの移相−周波数特性の遮断周波数を可聴帯域内で種々変化させて、20人による試聴を行った。また、ディレイ回路の遅延時間は、人間の頭の一方の耳から他方の耳へ音が伝わる時間(0.1m〜0.3ms)に設定した。この結果、移相フィルタの遮断周波数を500〜800Hzに設定したときに、前方定位感が非常に良好であることが判明した。これは、人間の両耳間での位相が高周波帯域では激しく変化するという点から、高周波帯域が位相シフトされることにより、高周波成分で位相の乱れが生じ、ヘッドホンをつけていない場合と同じ状態が再現されているからであると考えられる。このため、この発明によれば、簡素、且つ安価に前方定位の不足を補正することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施の形態について説明する。
図1は、この発明の一実施例に係るヘッドホン用前方定位補正装置の要部構成を示すブロック図である。
【0010】
図示しない再生装置で再生された2チャネルのステレオ信号LIN,RINは、ディレイ回路1,2でそれぞれ遅延され、移相フィルタ3,4で位相シフトされる。これらの信号は、加算器5,6により相互に他方のチャネルのステレオ信号LIN,RINに付加される。これにより、左右のセパレーションを補正する。得られたステレオ信号LOUT,ROUTは、図示しないD/A変換器(Digital to Analog converter)でD/A変換された後、図示しないヘッドホンを介して電気機械変換されることにより、ステレオ音響として出力される。なお、再生されたステレオ信号LIN,RINがアナログ信号である場合には、図示しないA/D変換器(Analog to Digital converter)でA/D変換された後、上述した補正処理が実行される。
【0011】
次に、このように構成されたヘッドホン用前方定位補正装置の動作について説明する。
図2は、同装置におけるディレイ回路1,2の遅延時間を説明するための図である。
【0012】
ディレイ回路1,2は、各耳が受ける直接音とクロストーク成分との時間差、即ち聴き手の両耳の間隔2hを音が伝播する時間τだけ各チャネルの信号LIN,RINを遅延させる。この時間は、0.1m〜0.3ms、好ましくは0.2msに設定すればよい。例えば、信号LIN,RINのサンプリング周波数fsが44.1kHzであれば、ディレイ回路1,2のメモリの遅延段数が10個で約0.2msとなる。なお、直接音については、仮想音源PS(例えば、直交座標系XYで表示される。)から各耳までの距離の差に基づく左右チャネルの伝播時間差Δtがステレオ信号LIN,RIN間に付加されることになる。
【0013】
図3は、同実施例における移相フィルタ3,4の構成を示す回路図である。
移相フィルタ3,4は、例えば1次IIR(巡回型)ディジタルフィルタにより構成されるオールパスフィルタである。即ち、入力される信号X(z)は、乗算器11、並びに遅延素子12及び乗算器13をそれぞれ介して加算器14の2つの入力端子にそれぞれ供給される。加算器14の他の入力端子には、出力端子から出力される信号Y(z)が遅延素子15及び乗算器16を介して帰還される。乗算器11,13,16には、図示しない係数メモリに格納された係数a〜cがそれぞれ与えられる。いま、サンプリング周波数をfs、位相がπだけシフトする遮断周波数をfとすると、この移相フィルタ3,4の伝達関数H(z)は、次式のようになる。
【0014】
【数1】
Figure 0003911714
【0015】
発明者は、サンプリング周波数fsが44.1kHzである場合について、遮断周波数fを可聴帯域内で変化させて、20人による試聴を行い、音像の前方定位を感じた人の人数を調べた。この結果、次表のような結果が得られた。
【0016】
【表1】
Figure 0003911714
【0017】
上表に示すように、遮断周波数fが500〜800Hzの間では、半数以上の聴き手が前方定位を感じた。特に、遮断周波数fを700Hzに設定したとき、すべての聴き手が音像の前方定位感を持ち、非常に良好であることが判明した。これにより、簡素、且つ安価に前方定位の不足を補正することができることが明らかになった。
【0018】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、ディレイ回路と移相フィルタとによって、左右チャネルのクロストーク成分を生成することにより、極めて簡単且つ安価に、前方定位感の不足を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の一実施例に係るヘッドホン用前方定位補正装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】 同装置におけるディレイ回路の遅延時間を説明するための図である。
【図3】 同実施例における移相フィルタの構成を示す回路図である。
【図4】 従来の補正装置の要部構成を示すブロック図である。
【図5】 従来の他のヘッドホン用前方定位補正装置を説明するための図である。
【図6】 従来の更に他のヘッドホン用前方定位補正装置を説明するための図である。
【符号の説明】
1,2,21,22…ディレイ回路、3,4…移相フィルタ、5,6,14…加算器、11,13,16…乗算器、12,15…遅延素子。

Claims (2)

  1. 音響信号によりヘッドホンを駆動して得られる音像をリスナの前方に定位させるためのヘッドホン用前方定位補正装置であって、
    各チャネルの音響信号をそれぞれ人間の各耳が受ける直接音とクロストーク成分との時間差だけ遅延させて他方のチャネルに対するクロストーク成分を生成するディレイ回路と、
    このディレイ回路で生成された各チャネルのクロストーク成分の位相をそれぞれシフトさせる移相フィルタであって、そのシフト量が略180°になる周波数が500〜800Hzの間に設定される移相フィルタと、
    この移相フィルタでそれぞれ位相シフトされた各チャネルの信号を他方のチャネルにそれぞれ加算する加算手段と
    を備えたことを特徴とするヘッドホン用前方定位補正装置。
  2. 前記移相フィルタは、オールパスフィルタであることを特徴とする請求項1記載のヘッドホン用前方定位補正装置。
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