本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置及びその除染方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第1実施形態を示す系統図である。
図1は、原子炉運転時に放射性物質が酸化被膜として付着した原子力発電所内設備10と、この原子力発電所内設備10の内部を除染する除染装置11とを示す。この除染装置11は、原子力発電所内設備10としての原子炉再循環系配管10aの内部の除染を実施するものである。
原子炉圧力容器12の内部には、原子炉運転時に使用された炉水(冷却材)aがそのまま保有されており、原子炉再循環系配管10aは、原子炉圧力容器12の内部から引出された炉水aを、原子炉圧力容器12の内部に配設されたジェットポンプ(図示しない)に導くように原子炉圧力容器12の壁面近傍に付設される。
原子炉再循環系配管10aは、原子炉再循環ポンプ13の出口側であって除染対象でない母管(以下、「非除染対象母管」という。)14と、除染対象である母管(以下、「除染対象母管」という。)15とを有し、さらに除染対象母管15は、高低差を有しない除染対象母管水平部15aと高低差を有する除染対象母管垂直部15bとを備える。
除染対象母管15に備える除染対象母管水平部15aの上流側には、除染作業における分解部位(取合い部位)、例えば炉水吐出弁としての取合いバルブ17が設けられ、この取合いバルブ17によって、除染対象母管水平部15aは上流側の非除染対象母管14と仕切られている。なお、分解部位は取合いバルブ17に限定されるものではなく、例えばフランジ又は小口径配管等でもよい。
原子炉運転時、原子炉圧力容器12の内部から引出された炉水aは、原子炉再循環系配管10aの上流側に有する原子炉再循環ポンプ13等から非除染対象母管14、取合いバルブ17、除染対象母管水平部15a、除染対象母管垂直部15b、非除染対象母管14を順に経由して再び原子炉圧力容器12の内部に戻る。原子炉運転時は、原子炉再循環系配管10aを介して炉水aを強制的に循環させ、炉水aの循環によって炉心の温度制御が行なわれる。
一方、除染装置11は、除染対象母管15の内表面に付着した酸化被膜cを物理的に剥離するための除染液bを調製して貯液する除染液収納タンク21と、この除染液収納タンク21からの除染液bを原子炉再循環系配管10aに供給する例えばホース状の除染液供給ライン22と、この除染液供給ライン22上にて除染液bを加熱する加熱手段、例えばヒータ23と、除染液供給ライン22の注入端であって除染液bを注入する挿入冶具24と、原子炉再循環系配管10aの内部の除染液bを外部に排出する除染液排出ライン25とが設けられる。挿入冶具24は、浮きとしての機能も有する。除染装置11の除染液排出ライン25上には、図示しない除染液循環ポンプ及び除染後液処理用のフィルタ・イオン交換樹脂等を有する。
次いで、配管装置11の除染作用について説明する。
例えば原子炉再循環系配管10aの改良や交換工事等に合わせ、原子炉再循環系配管10aの除染を実施する。まず、原子炉再循環系配管10aに除染装置11を取付ける。すなわち、取合いバルブ17の上流側を1箇所だけ分解して開放し、開放された取合いバルブ17の上流側に閉止冶具26を溶接して液密にシールする。そして、取合いバルブ17を除染座として、取合いバルブ17に供給側取合部27及び排出側取合部28をそれぞれ設ける。
取合いバルブ17に設けられた供給側取合部27に除染液供給ライン22を取付ける一方、取合いバルブ17に設けられた排出側取合部28に除染液排出ライン25を取付ける。例えば取合いバルブ17に除染液供給ライン22を挿着する一方、取合いバルブ17に除染液排出ライン25を挿着する。なお、除染時、取合いバルブ17の内部からのダストや飛沫が外部に飛散するのを防止するために、供給側取合部27及び排出側取合部28の外側に、ビニールカバー等のカバーを取付けてもよい。
除染装置11を稼動させると、除染装置11に設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bは加熱手段、例えばヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22の注入端に設けられる挿入冶具24から除染対象母管15の内部に注入される。
除染液bの注入が続けられると、除染対象母管水平部15aの内部には注入された除染液bが張られ、張られた除染液bの液位レベルは高低差を有する除染対象母管垂直部15bの内部を段階的に上昇する。除染対象母管垂直部15bの内部の除染液bの液位レベルが排出側取合部28の設置レベルより高くなると、除染液bは、除染対象母管15の内部から除染液排出ライン25を介して排出される。よって、除染対象母管15と除染装置11とによる除染液循環ループが形成される。なお、除染対象母管15の除染対象母管垂直部15bの内部の除染対象範囲に除染液bが十分に張られるように除染液bの液位レベルを制御するものとする。
また、除染液供給ライン22の注入端に設けられ浮きとしての機能を有する挿入冶具24は、除染液bの液位レベルの上昇と共に上昇する。そして、挿入冶具24のレベルが取合いバルブ17に設けられた供給側取合部27の設置レベルより高いレベルになるようにする。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、除染液bはヒータ23によって加熱され続け、所要の温度、例えば90℃以上の高温に加熱される。除染対象母管垂直部15bの内部に注入されたばかりの除染液bは高温となる。除染対象母管垂直部15bの内部に張られた除染液bとの温度差に基づく密度差によって、高温の除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部に張られた除染液b中を自然対流作用により昇流する。
ここで、除染対象母管15の下流側である非除染対象母管14は原子炉圧力容器12の壁面に付設されており、原子炉圧力容器12の内部の炉水aによって冷却されている。よって、除染対象母管垂直部15bの内部に注入されて液位レベル付近まで昇流する高温の除染液bは、非除染対象母管14の熱伝導による放熱により冷却される。冷却された除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部を自然対流作用により降流し、除染対象母管水平部15aの内部に進入する。
除染対象母管水平部15aの内部に進入した除染液bは、除染対象母管水平部15aを上流側に流動し、取合いバルブ17から除染液排出ライン25、フィルタ・イオン交換樹脂等(図示しない)を順に経由して除染液収納タンク21に戻る。
除染対象母管垂直部15bの内部における高温の除染液bの昇流、又は冷却された除染液bの降流が除染対象母管垂直部15bの内表面付近で起こり、除染対象母管垂直部15bの内表面に付着した酸化被膜cは、除染対象母管垂直部15bの内表面から物理的に剥離される。剥離された酸化被膜cは、降流する除染液bに従って取合いバルブ17に運ばれる。酸化被膜cは除染液bと共に、取合いバルブ17から除染液排出ライン25、フィルタ・イオン交換樹脂等を順に経由して除染液収納タンク21に移送される。除染後液中の酸化被膜cは、フィルタ・イオン交換樹脂によって捕獲される。
また、除染対象母管水平部15a及び取合いバルブ17の内表面付近では、除染対象母管水平部15aから取合いバルブ17に向かって除染液bの流動が起こり、除染対象母管水平部15a及び取合いバルブ17の内表面に付着された酸化被膜cが剥離される。
なお、高低差を有する除染対象母管垂直部15bまでを除染対象範囲としたが、除染対象母管垂直部15bの下流側に除染対象範囲を拡大してもよい。その場合、除染液bの供給量を増大させて液位レベルを上昇させ、原子炉圧力容器12の壁面外部又は内部の非除染対象母管14まで除染液bを張る。昇流した除染液bは、非除染対象母管14の外表面に接触する炉水aによって直接冷却される。
図1に示された除染装置11によって除染を実施することで、取合い部位が取合いバルブ17の1箇所に限られるので、分解作業や溶接作業に要した大きな負荷を軽減でき、取合い準備が縮小化され、除染対象母管15の点検及び補修が容易となる。さらに、分解作業や溶接作業時における作業従事者の被ばくを低減することができる。
また、除染装置11によって除染を実施することで、除染対象母管15の内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cを除染対象母管15の内表面から効率的に剥離させることができる。
図2は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第2実施形態を示す系統図である。
図2は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Aを示し、この除染装置11Aは、原子力発電所内設備10としての原子炉再循環系配管10aの内部の除染を実施するものである。図2に示された原子炉圧力容器12の内部から炉水aの一部又は全部が排出され、原子炉圧力容器12の内部には、原子炉運転時に使用された炉水aが殆ど保有されていない。
原子炉運転時、除染対象母管15の外表面には被覆具、例えば保温材29が備え付けられる。一方、除染装置11Aには、除染対象母管垂直部15bの外表面を冷却する冷却手段、例えば除染対象母管垂直部15bの外表面に向かって送風できるブロア30が設けられる。なお、除染対象母管垂直部15bの外表面を冷却する冷却手段として、除染対象母管垂直部15bの外表面を直接冷却するブロア30を設けたが、除染対象母管垂直部15bが備えられるエリアの空調を動作させ、エリア内の空気を流動させて除染対象母管垂直部15bを冷却させてもよい。
図2に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Aにおいて、図1に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11と同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Aの除染作用について説明する。
原子炉再循環系配管10aの除染を実施するために、原子炉再循環系配管10aに除染装置11Aを取付ける。
除染装置11Aを稼動させると、除染装置11Aに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22の注入端に設けられる挿入冶具24から除染対象母管15の内部に注入される。除染対象母管垂直部15bの内部の除染液bの液位レベルが排出側取合部28の設置レベルより高くなると、除染液bは、除染液排出ライン25を介して除染対象母管15の内部から排出される。よって、除染対象母管15と除染装置11とによる除染液循環ループが形成される。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、注入される除染液bは高温となる。除染対象母管垂直部15bの内部に張られた除染液bとの温度差に基づく密度差によって、高温の除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部を自然対流作用により昇流する。
除染対象母管垂直部15bの外表面を被覆する被覆具、例えば保温材29を取り外して、除染対象母管垂直部15bの外表面に向かってブロア30から送風を行なう。除染対象母管垂直部15bの内部に注入されて液位レベル付近まで昇流する高温の除染液bは、除染対象母管垂直部15bの熱伝導による放熱により冷却される。冷却された除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部を自然対流作用により降流し、除染対象母管水平部15aから除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に戻る。
除染対象母管垂直部15bの内部における高温の除染液bの昇流、又は冷却された除染液bの降流が除染対象母管垂直部15bの内表面付近で起こり、除染対象母管垂直部15bの内表面に付着された酸化被膜cは、除染対象母管垂直部15bの内表面から剥離される。剥離された酸化被膜cは、降流する除染液bに従って取合いバルブ17に運ばれる。酸化被膜cは除染液bと共に、取合いバルブ17から除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に移送される。
図2に示された除染装置11Aによって除染を実施することで、取合い部位が取合いバルブ17の1箇所に限られるので、分解作業や溶接作業に要した大きな負荷を軽減でき、取合い準備が縮小化され、除染対象母管15の点検及び補修が容易となる。さらに、分解作業や溶接作業時における作業従事者の被ばくを低減することができる。
また、除染装置11Aによって除染を実施することで、除染対象母管15の内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。原子炉圧力容器12の内部に炉水aが保有されない場合でも、除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することができ、付着力の弱まった酸化被膜cを除染対象母管15の内表面から効率的に剥離させることができる。
図3は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第3実施形態を示す系統図である。
図3は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Bを示し、この除染装置11Bは、原子力発電所内設備10としての原子炉再循環系配管10aの内部の除染を実施するものである。
図3に示された除染装置11Bは、除染液供給ライン22のヒータ23の下流側にヒータ出口バルブ31が、除染液排出ライン25に除染液収納タンク入口バルブ32がそれぞれ設けられる。さらに、除染液一時保管タンク33を備え、この除染液一時保管タンク33には、ヒータ23の下流側かつヒータ出口バルブ31の上流側から分岐された除染液一時保管タンク導入ライン34が、除染液収納タンク21に接続される除染液一時保管タンク導出ライン35がそれぞれ備えられる。また、除染液一時保管タンク導入ライン34及び除染液一時保管タンク導出ライン35には、除染液一時保管タンク入口バルブ37及び除染液一時保管タンク出口バルブ38がそれぞれ設けられる。
図3に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Bにおいて、図1に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11と同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Bの除染作用について説明する。
原子炉再循環系配管10aの除染を実施するために、原子炉再循環系配管10aに除染装置11Bを取付ける。
ヒータ23の下流側に設けられるヒータ出口バルブ31と、除染液排出ライン25に設けられる除染液収納タンク入口バルブ32とをそれぞれ開く一方、除染液一時保管タンク導入ライン34に設けられる除染液一時保管タンク入口バルブ37と、除染液一時保管タンク導出ライン35に設けられる除染液一時保管タンク出口バルブ38とをそれぞれ閉じる。
除染装置11Bに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22の注入端に設けられる挿入冶具24から除染対象母管15の内部に注入される。除染対象母管垂直部15bの内部の除染液bの液位レベルが排出側取合部28の設置レベルより高くなると、除染液bは、除染対象母管15の内部から除染液排出ライン25を介して排出される。よって、除染対象母管15と除染装置11Bとによる除染液循環ループが形成される。
除染対象母管垂直部15bの内部における通常の除染液bの液位レベルは、除染対象母管垂直部15bの除染対象範囲を十分に満たすように除染対象母管垂直部15b上部の位置、例えば液位レベルL1の位置である。
除染対象母管15と除染装置11Bとによる除染液循環ループを循環する除染液bは、ヒータ23によって繰返し加熱される一方、炉水a等によって冷却された除染対象母管垂直部15bによって冷却される。よって、除染液循環ループを循環する除染液bが所要の温度に加熱されるまでには相当の時間を有する。そこで、除染準備(除染液加熱)時間及び除染時間の短縮のために、除染初期には、除染液bの液位レベルを下げるものとする。
除染液bの液位レベルが、例えば液位レベルL2の位置になった時、図3に示されるように、除染液一時保管タンク導入ライン34に設けられる除染液一時保管タンク入口バルブ37と、除染液一時保管タンク導出ライン35に設けられる除染液一時保管タンク出口バルブ38とをそれぞれ開く一方、除染液供給ライン22のヒータ23の下流側に設けられるヒータ出口バルブ31と、除染液排出ライン25に設けられる除染液収納タンク入口バルブ32とをそれぞれ閉じる。
除染対象母管垂直部15bの内部の除染液bの液位レベルは液位レベルL2に維持されるので、除染対象母管垂直部15bの内部の液位レベルL1〜液位レベルL2に相当する除染液b分が、除染液一時保管タンク導入ライン34を介して除染液一時保管タンク33に移送される。除染液一時保管タンク33にはヒータ23によって加熱された除染液bが張り込まれる。張り込まれた除染液bは、除染液一時保管タンク導出ライン35を介して除染液収納タンク21に戻され、除染液収納タンク21からヒータ23、除染液一時保管タンク33、除染液収納タンク21による閉じた循環回路を形成する。
閉じた循環回路によって除染液bが急速に所要の温度、例えば約90℃以上に加熱された後、除染液供給ライン22のヒータ23の下流側に設けられるヒータ出口バルブ31と、除染液排出ライン25に設けられる除染液収納タンク入口バルブ32とをそれぞれ開く一方、除染液一時保管タンク導入ライン34に設けられる除染液一時保管タンク入口バルブ37を閉じる。除染液供給ライン22の注入端に設けられる挿入冶具24から高温の除染液bが注入され、除染対象母管垂直部15bの内部の除染液bの液位レベルが、液位レベルL2から液位レベルL1に段階的に上昇する。
図3に示された除染装置11Bによって除染を実施することで、取合い部位が取合いバルブ17の1箇所に限られるので、分解作業や溶接作業に要した大きな負荷を軽減でき、取合い準備が縮小化され、除染対象母管15の点検及び補修が容易となる。さらに、分解作業や溶接作業時における作業従事者の被ばくを低減することができる。
また、除染装置11Bによって除染を実施することで、除染対象母管15の内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cを除染対象母管15の内表面から効率的に剥離させることができる。
さらに、除染装置11Bによって除染を実施することで、予め除染液収納タンク21とヒータ23と除染液一時保管タンク33との閉じた循環回路にて循環される除染液bを所要温度まで急速に加熱すると、所要温度に達した高温の除染液bを除染対象母管15に供給でき、除染準備時間及び除染時間の短縮が図れる。
図4は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第4実施形態を示す系統図である。
図4は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Cを示し、この除染装置11Cは、原子力発電所内設備10としての原子炉再循環系配管10aの内部の除染を実施するものである。
図4に示された除染装置11Cは、洗浄液、例えば水dを貯液する洗浄液収納タンク41と、この洗浄液収納タンク41からの水dを原子炉再循環系配管10aに供給する例えばホース状の洗浄液供給ライン42と、この洗浄液供給ライン42上に水dを加圧する高圧ポンプ43と、洗浄液供給ライン42の注入端であって水dを噴射するジェットノズル44と、除染液b、酸化被膜c及び水d等を含む排液eを原子炉再循環系配管10aの内部から排出する排液ライン45と、この排液ライン45上に排液eを吸引する吸引ポンプ46と、排液ライン45の下流側に排液e中の酸化被膜cのみを捕獲する酸化被膜捕獲手段、例えばフィルタ47とが設けられる。このフィルタ47の下流側は、フィルタ47を通過した排液eを処理するための既設の排液処理設備に接続される。
ジェットノズル44は、除染対象母管垂直部15bの内部にて斜め後方(下方)に水dを噴射し、その反力によって前方(上方)に自走する。噴射位置を後方へ移動させる場合は、ホース状の洗浄液供給ライン42を、反力より大きな力で外部に引出すものとする。
図4に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Cにおいて、図1に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11と同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Cの除染作用について説明する。
図1に示された除染装置11、図2に示された除染装置11A又は図3に示された除染装置11Bによって除染対象母管15の一次的な除染を実施した後、除染液bの注入を停止する。除染液b及び除染対象母管15の内表面から剥離した酸化被膜cを含む排液eは、除染液排出ライン23を介して除染対象配管水平部15aからドレンされる。排液eの液位レベルは、排出側取合部28の設置レベルと同じレベルになるまで除染対象母管垂直部15bの内部を下降する。
除染装置11、除染装置11A又は除染装置11Bを取外し、原子炉再循環系配管10aに除染装置11Cを取付ける。例えば取合いバルブ17に洗浄液供給ライン42を挿着する一方、取合いバルブ17に排液ライン45を挿着する。なお、排水回収時、取合いバルブ17の内部からのダストや飛沫が外部に飛散するのを防止するために、供給側取合部27及び排出側取合部28の外側に、ビニールカバー等のカバーを取付けてもよい。
除染装置11Cに設けられる高圧ポンプ43を稼動させると、除染装置11Cに設けられる洗浄液収納タンク41から洗浄液供給ライン42を介して汲み出され加圧された水dは、洗浄液供給ライン42の注入端に設けられるジェットノズル44から除染対象母管垂直部15bの内表面に噴射される。
高圧ポンプ43にて加圧され、除染対象母管垂直部15b内表面に噴射された水dによって、除染により付着力の弱まった酸化被膜cは、除染対象母管垂直部15bから効果的に剥離される。水dのジェット洗浄により剥離された酸化被膜cは、除染対象母管15下部の除染対象母管水平部15aに流れ落ちる。流れ落ちた酸化被膜cは、残存する除染液b及び水dと混合され排液eとなる。
除染装置11Cに設けられる吸引ポンプ46を稼動させると、除染対象母管15の内部から排液ライン45を介して排液eが吸引され排出される。酸化被膜cを含む排液eは、酸化被膜cのみを捕獲するフィルタ47にて捕獲された後、既設の排液処理設備に排水される。
図4に示された除染装置11Cによって除染を実施することで、取合い部位が取合いバルブ17の1箇所に限られるので、分解作業や溶接作業に要した大きな負荷を軽減でき、取合い準備が縮小化され、除染対象母管15の点検及び補修が容易となる。さらに、分解作業や溶接作業時における作業従事者の被ばくを低減することができる。
また、図1に示された除染装置11、図2に示された除染装置11A又は図3に示された除染装置11Bによって温度差を利用した自然対流作用にて除染対象母管15を除染する場合は、除染対象母管15の内部の除染液bの自然対流が緩やかであるため除染中の酸化被膜cの剥離が十分でない場合がある。そこで、除染装置11による除染の実施後、図4に示された除染装置11Cによって二次的な除染を実施すると、付着力の弱まった酸化被膜cをジェット洗浄でき、除染対象母管垂直部15bの内表面に付着する酸化被膜cを効果的に剥離することができ、除染性能を向上できる。
なお、図9に示された従来の除染装置84等によって除染対象母管15を除染した後に、図4に示された除染装置11Cを取付けて二次的な除染を実施することも可能である。
図5は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第5実施形態を示す系統図である。
図5は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Dを示し、この除染装置11Dは、原子力発電所内設備10としての原子炉再循環系配管10aの内部の除染を実施するものである。図5に示された原子炉圧力容器12の内部には、原子炉運転時に使用された炉水aがそのまま保有されている。
図5に示された原子炉再循環系配管10aは、原子炉再循環ポンプ13の出口側の非除染対象母管14と、除染対象母管15と、除染対象であるヘッダ管(以下、「除染対象ヘッダ管」という。)51と、除染対象であるライザー管(以下、「除染対象ライザー管」という。)52(52a〜52e)とを有する。除染対象ヘッダ管51は除染対象母管15から除染液bを分配させるもので、除染対象ライザー管52a〜52eは除染対象ヘッダ管51にて分配された除染液bをそれぞれ原子炉圧力容器12の内部に案内するものである。除染対象ライザー管52a〜52eは、原子炉圧力容器12の内部の炉心を囲むように配置される。
非除染対象母管14の下流側には炉水吐出弁としての取合いバルブ17aが設けられ、この取合いバルブ17aによって除染対象母管15は上流側の非除染対象母管14と仕切られている。取合いバルブ17aには取合いバルブ17aの内部に除染液bを排出する排出側取合部28が設けられる。また、取合いバルブ17aの設置レベルより高い設置レベルの他の分解部位、例えば残留熱除去系等から除染対象母管15に合流する残留熱除去系配管53に設けられる取合いバルブ17bには、取合いバルブ17bの内部に除染液bを供給する供給側取合部27が設けられる。
原子炉運転時、原子炉圧力容器12の内部から引出された炉水aは、原子炉再循環系配管10aの上流側に有する原子炉再循環ポンプ13等から非除染対象母管14、除染対象母管15、除染対象ヘッダ管51、除染対象ライザー管52a〜52eを順に経由して再び原子炉圧力容器12の内部に戻る。原子炉運転時は、原子炉再循環系配管10aを介して炉水aを強制的に循環させ、炉水aの循環によって炉心の温度制御が行なわれる。
図5に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Dにおいて、図1に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11と同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Dの除染作用について説明する。
原子炉再循環系配管10aの除染を実施するために、原子炉再循環系配管10aに除染装置11Dを取付ける。
除染装置11Dを稼動させると、除染装置11Dに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22の注入端から除染対象母管15の内部に注入される。除染対象母管15の内部に注入された除染液bの液位レベルが排出側取合部28の設置レベルより高くなると、除染液bは、除染液排出ライン25を介して除染対象母管15の内部から排出される。よって、除染対象母管15と除染装置11とによる除染液循環ループが構成される。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、注入される除染液bは高温となる。除染対象母管垂直部15bの内部に張られた除染液bとの温度差に基づく密度差によって、高温の除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部を自然対流作用により昇流し、除染対象ヘッダ管51にて分配され、除染対象ライザー管52a〜52eの内部を昇流する。
ここで、除染対象ライザー管52a〜52eの下流側は原子炉圧力容器12の壁面に付設されており、原子炉圧力容器12の内部の炉水aによって冷却されている。よって、除染対象ライザー管52a〜52eの内部の液位レベル付近まで昇流する高温の除染液bは、除染対象ライザー管52a〜52eの熱伝導による放熱により冷却される。冷却された除染液bは、除染対象ライザー管52a〜52eの内部を降流し、除染対象ライザー管52a〜52eから除染対象ヘッダ管51にて合流し、除染対象母管15、取合いバルブ17a、除染液排出ライン25を経由して除染液収納タンク21に戻る。
除染対象母管垂直部15b及び除染対象ライザー管52a〜52eの内部における高温の除染液bの昇流、又は冷却された除染液bの降流が除染対象母管垂直部15b及び除染対象ライザー管52a〜52eの内表面付近で起こる。除染対象母管垂直部15b及び除染対象ライザー管52a〜52eの内表面に付着された酸化被膜cは、除染対象母管垂直部15b及び除染対象ライザー管52a〜52eの内表面から剥離される。剥離された酸化被膜cは、降流する除染液bに従って取合いバルブ17aに運ばれる。酸化被膜cは除染液bと共に、取合いバルブ17aから除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に移送される。
また、取合いバルブ17b、残留熱除去系配管53、除染対象ヘッダ管51、除染対象母管水平部15a及び取合いバルブ17aの内表面付近では除染液bの流動が起こり、取合いバルブ17b、残留熱除去系配管53、除染対象ヘッダ管51、除染対象母管水平部15a及び取合いバルブ17aの内表面に付着された酸化被膜cが剥離される。
図5に示された除染装置11Dによって除染を実施することで、取合いバルブ17b、残留熱除去系配管53、除染対象母管垂直部15b、除染対象ヘッダ管51、除染対象ライザー管52a〜52e、除染対象母管水平部15a及び取合いバルブ17aの内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cを効率的に剥離させることができる。
なお、除染液bの温度差に基づく自然対流は緩やかであるため、除染対象ライザー管52a〜52eの内表面から剥離した酸化被膜cは、水平部分である除染対象ヘッダ管51に堆積する可能性がある。この場合は、除染装置11Dによる除染を実施した後に、図4に示された除染装置11Cを用いて、除染対象ヘッダ管51の内部をジェット洗浄することで、除染対象ヘッダ管51の内部に堆積する酸化被膜cを効果的に回収できる。
図6は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第6実施形態を示す系統図である。
図6は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Eを示し、この除染装置11Eは、高低差を有する原子力発電所内設備10としての制御棒駆動機構(Control Rod Drive、以下、「CRD」という。)ハウジング10bの除染を実施するものである。このCRDハウジング10bは、原子炉圧力容器12の下鏡55のCRDペネトレーション(図示しない)を介して原子炉圧力容器12に溶接され、制御棒、CRD、制御棒案内管、燃料支持金具及び燃料集合体(すべて図示しない)の重量を下鏡55に支持するものである。図6に示された原子炉圧力容器12の内部から炉水aの一部又は全部が排出され、原子炉圧力容器12の内部には、原子炉運転時に使用された炉水aが殆ど保有されていない。また、炉水aの液位レベルがCRDハウジング10bの上端開口部より低い状態である。
一方、除染装置11Eは、除染液供給ライン22の下流側であって除染液bを分配する流入ヘッダ56と、この流入ヘッダ56からそれぞれのCRDハウジング10bに除染液bが注入できるような除染液供給分配ライン57と、この除染液供給分配ライン57の注入端であって除染液bを注入して除染液bの流動を容易にするための挿入冶具24aと、それぞれのCRDハウジング10bから除染液bを排出する除染液排出分配ライン58と、それぞれの除染液排出分配ライン58から排出される低温の除染液bを合流する流出ヘッダ59とがそれぞれ設けられる。流出ヘッダの下流側は、除染液排出ライン25に接続される。なお、挿入冶具24aの除染液bの注入端の位置は、除染液bの液位レベルより低いものとする。
なお、図6に示された流入ヘッダ56は、1つの除染液供給ライン22から2つのCRDハウジング10bに除染液bを供給する場合を示したが、2つのCRDハウジング10bに限定されることなく、3つ以上のCRDハウジング10bに除染液bを供給してもよい。また、流入ヘッダ56及び流出ヘッダ59を備えずに、除染液供給ライン22から1つのCRDハウジング10bの内部に直接除染液bを注入して、1つのCRDハウジング10bの内部から除染液排出ライン25に直接排出してもよい。
図6に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Eにおいて、図1に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11と同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Eの除染作用について説明する。
CRDハウジング10bの除染作業時は、予め原子炉圧力容器12の内部に保有する炉水aの一部を排出させ、液位レベルをCRDハウジング10bの上端開口部より下げ、CRDハウジング10bに除染装置11Eを取付ける。すなわち、取合冶具62に供給側取合部27及び排出側取合部28をそれぞれ設け、CRDハウジング10bの下部フランジ61を除染座として、取合冶具62が下部フランジ61に接続される。供給側取合部27に除染液供給分配ライン57を取付ける一方、排出側取合部28に除染液排出分配ライン58を取付ける。
除染装置11Eを稼動させると、除染装置11Eに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22から流入ヘッダ59へ導かれ、この流入ヘッダ59にて分配される。分配された高温の除染液bは、除染液供給分配ライン57をそれぞれ介して、挿入冶具24aの上端開口部からCRDハウジング10bの内部に注入される。注入された除染液bは、CRDハウジング10bの内部から除染液排出分配ライン58を介して排出される。よって、CRDハウジング10bと除染装置11Eとによる除染液循環ループが形成される。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、注入される除染液bは高温となる。CRDハウジング10bの内部に張られた除染液bとの温度差に基づく密度差によって、高温の除染液bは、CRDハウジング10bの内部を自然対流作用により昇流する。
ここで、原子炉圧力容器12には炉水aの一部が保有されているので、CRDハウジング10bは、原子炉圧力容器12の内部の炉水aにより冷却されている。よって、CRDハウジング10bの内部に注入されて液位レベル付近まで昇流する高温の除染液bは、CRDハウジング10bの熱伝導による放熱により冷却される。冷却された除染液bは、CRDハウジング10bの内部を降流し、除染液排出分配ライン58から流出ヘッダ59へそれぞれ導かれ、この流出ヘッダ59にて合流される。合流された低温の除染液bは、除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に戻る。
CRDハウジング10bの内部における高温の除染液bの昇流、又は冷却された除染液bの降流がCRDハウジング10bの内表面付近で起こり、CRDハウジング10bの内表面に付着された酸化被膜cは、CRDハウジング10bの内表面から剥離される。剥離された酸化被膜cは、降流する除染液bに従ってCRDハウジング10bの底部に運ばれる。酸化被膜cは除染液bと共に、CRDハウジング10bの底部から除染液排出分配ライン58及び除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に移送される。
図6に示された除染装置11Eによって除染を実施することで、CRDハウジング10bの内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cをCRDハウジング10bの内表面から効率的に剥離させることができる。
なお、図6に示された原子炉圧力容器12の内部に炉水aを有しなくてもよい。その場合、CRDハウジング10bを直接冷却させるために、CRDハウジング10bの外表面を図2に示されるようなブロア30にて冷却することが効果的である。
図7は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第7実施形態を示す系統図である。
図7は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Fを示し、この除染装置11Fは、原子力発電所内設備としてのCRDハウジング10bの除染を実施するものである。図7に示された原子炉圧力容器12の内部には、原子炉運転時に使用された炉水(冷却材)aがそのまま保有される。また、炉水aの液位レベルは、CRDハウジング10bの上端開口部より高い状態である。
除染装置11Fは、除染液供給分配ライン57の注入端であって除染液bを注入するための長尺状挿入冶具24bがそれぞれ設けられる。なお、長尺状挿入冶具24bの除染液bの注入端の位置は、除染液bの液位レベルより高いものとする。
また、CRDハウジング10bの内部に発生したガスを外部に排出するガス排気ライン64と、ガス排気ライン64上にガスを処理するガス処理設備65とを備える。ガス排気ライン64のガスの入口端の位置は、除染液bの液位レベルより高いものとする。
図7に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Fにおいて、図6に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Eと同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Fの除染作用について説明する。
CRDハウジング10bの除染作業時は、CRDハウジング10bに除染装置11Fを取付ける。すなわち、取合冶具67に供給側取合部27、排出側取合部28及びガス排気側取合部66をそれぞれ設け、取合冶具67がCRDハウジング10bの下部フランジ61に接続される。供給側取合部27に除染液供給分配ライン57を、排出側取合部28に除染液排出分配ライン58を、ガス排気側取合部66にガス排気ライン64をそれぞれ取付ける。
除染対象となるCRDハウジング10bの上端開口部に内部閉止冶具68を設置して液密にシールする。
除染装置11Fを稼動させると、除染装置11Fに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22から流入ヘッダ59へ導かれ、この流入ヘッダ59にて分配される。分配された高温の除染液bは、除染液供給分配ライン57をそれぞれ介して、挿入冶具24bの上端開口部からCRDハウジング10bの内部にほぼ同時にオーバーフローされる。オーバーフローされた除染液bは、CRDハウジング10bの内部に供給され、除染液bは、除染液排出分配ライン58を介してCRDハウジング10bの内部から排出される。よって、CRDハウジング10bと除染装置11Fとによる除染液循環ループが形成される。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、オーバーフローされたCRDハウジング10bの内部の除染液bは、CRDハウジング10bの内部に張られた除染液bの液位レベル上方から落下され、CRDハウジング10bの内部に張られた除染液b中を急速に降流する。一方、除染液bの降流に反して、CRDハウジング10bの内部に張られた除染液bの一部は、CRDハウジング10bの内部を急速に昇流する。また、CRDハウジング10bの内部に張られた除染液bの一部は、除染液排出分配ライン58から流出ヘッダ59へ導かれ、この流出ヘッダ59にて合流される。合流された低温の除染液bは、除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に戻る。
CRDハウジング10bの内部における除染液bの落下に基づく急速な降流、又は降流に反する急速な昇流がCRDハウジング10bの内表面付近で起こる。除染液bの落下に基づく自然対流作用によって、CRDハウジング10bの内表面に付着された酸化被膜cは、CRDハウジング10bの内表面から剥離される。剥離された酸化被膜cは、降流する除染液bに従ってCRDハウジング10bの底部に運ばれる。酸化被膜cは除染液bと共に、CRDハウジング10bの底部から除染液排出分配ライン58及び除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に移送される。
また、除染時にCRDハウジング10bの内部に発生するガスを処理するために、CRDハウジング10bの内部に発生したガスは、下部フランジ61に挿着されたガス抜ライン64を介してCRDハウジング10bの内部から排気され、ガス処理装置65にて無害化され放出される。
図7に示された除染装置11Fによって除染を実施すると、CRDハウジング10bの内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの落下に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cをCRDハウジング10bの内表面から効率的に剥離させることができる。
また、原子炉圧力容器12から炉水aを排出して、炉水aの液位レベルを原子炉圧力容器12の底部まで下げた場合は、原子炉圧力容器12の内部の放射線量や除染により発生するガスの問題から内部にアクセスすることはできない。除染装置11Fによって除染を実施すると、炉水aを排出し、炉水aの液位レベルを原子炉圧力容器12の底部まで下げる必要がなく、除染作業と並行して原子炉内部の点検や補修作業を実施することが可能となる。
図8は、本発明に係る原子力発電所内設備の除染装置の第8実施形態を示す系統図である。
図8は、原子力発電所内設備10を除染する除染装置11Gを示し、この除染装置11Gは、原子力発電所内設備10としてのCRDハウジング10bの除染を実施するものである。図8に示された原子炉圧力容器12の内部からは原子炉運転時に使用された炉水aの一部又は全部が排出される。
CRDハウジング10bは、下鏡55に支持され高低差を有し、CRDハウジング10bの高部、すなわち上端が開口されている。
一方、除染装置11Gは、途中に弁70が備わったボトムドレンライン71を有し、このボトムドレンライン71を流出ヘッダ59に接続する。また、弁70にはボトムドレンライン71から分岐される排液ライン75が設けられる。
図8に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Gにおいて、図6に示された原子力発電所内設備10及び除染装置11Eと同一の構成要素には同一符号を付して重複した説明を省略する。
次いで、除染装置11Gの除染作用について説明する。
CRDハウジング10bの除染作業時は、CRDハウジング10bに除染装置11Gを取付ける。すなわち、取合冶具77に供給側取合部27を設け、取合冶具77が除染液注入側のCRDハウジング10b1の下部フランジ61に接続される。一方、取合冶具78に排出側取合部28を設け、取合冶具78が除染液排出側のCRDハウジング10b2の下部フランジ61に接続される。供給側取合部27に除染液供給分配ライン57を取付ける一方、排出側取合部28に除染液排出分配ライン58を取付ける。
原子炉圧力容器12の底部に、ボトムドレンライン71の一端を接続する。
除染装置11Gを稼動させると、除染装置11Gに設けられる除染液収納タンク21から除染液供給ライン22を介して汲み出された除染液bはヒータ23にて加熱された後に、除染液供給ライン22から流入ヘッダ59へ導かれ、この流入ヘッダ59にて分配される。分配された高温の除染液bは、除染液供給分配ライン57をそれぞれ介して、CRDハウジング10b1の内部に注入される。注入された除染液bは、CRDハウジング10b1の上端開口部から原子炉圧力容器12の内部にオーバーフローする。
CRDハウジング10b1の上端開口部からのオーバーフローが続けられると、原子炉圧力容器12の内部の除染液bの液位レベルが上昇し、除染液bの液位レベルは、CRDハウジング10bの上端開口部と同じレベルとなる。除染液bは、CRDハウジング10b2の上端開口部からCRDハウジング10b2の内部に流入し、CRDハウジング10b2の底部から除染液排出分配ライン58を介して排出される。よって、CRDハウジング10bと除染装置11Eとによる除染液循環ループが形成される。
除染液循環ループによる除染液bの循環が続けられると、CRDハウジング10b1に注入される除染液bは高温となる。除染対象母管垂直部15bの内部に張られた除染液bとの温度差に基づく密度差によって、高温の除染液bは、除染対象母管垂直部15bの内部を自然対流作用により昇流する。
CRDハウジング10b1の内部を上端開口部まで昇流した除染液bは、CRDハウジング10b1から原子炉圧力容器12に進入する。原子炉圧力容器12の除染液bは、CRDハウジング10b2に流入し、CRDハウジング10b2の内部を降流して除染液排出分配ライン58から流出ヘッダ59へそれぞれ導かれ、この流出ヘッダ59にて合流される。合流された低温の除染液bは、除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に戻る。
CRDハウジング10b1の内部における除染液bの昇流、及びCRDハウジング10b2の内部における除染液bの降流がCRDハウジング10b1,10b2の内表面付近でそれぞれ起こり、CRDハウジング10b1,10b2の内表面に付着された酸化被膜cは、CRDハウジング10b1,10b2の内表面からそれぞれ剥離される。剥離された酸化被膜cは、昇流する除染液b及び降流する除染液bに従ってCRDハウジング10b2又は原子炉圧力容器12の底部に運ばれる。CRDハウジング10b2の底部の酸化被膜cは除染液bと共に、CRDハウジング10b2の底部から除染液排出分配ライン58及び除染液排出ライン25を介して除染液収納タンク21に移送される。
一方、原子炉圧力容器12の底部の除染液bは、原子炉圧力容器12の底部のボトムドレンライン71から流出ヘッダ59へ導かれる。また、弁70を排液処理設備側に切り替えると、原子炉圧力容器12の底部の除染液bは、ボトムドレンライン71から排水処理設備に導かれる。
図8に示された除染装置11Gによって除染を実施すると、CRDハウジング10b1,10b2の内表面に付着する酸化被膜cの付着力を弱める。除染液bの温度差に基づく自然対流作用を利用することで、付着力の弱まった酸化被膜cをCRDハウジング10b1,10b2の内表面から効率的に剥離させることができる。
また、図8に示された除染装置11Gによって除染を実施すると、原子炉圧力容器12の底部から除染液bを引き抜いて、除染液bをボトムドレンライン71から除染液循環ループに戻すことによって、原子炉圧力容器12の底部に除染液bを張ることができ、原子炉圧力容器12の底部内表面を除染することができる。