JP4313542B2 - 位相差フィルム及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、位相差フィルムおよびその製造方法に関する。より詳しくは、液晶表示装置、発光素子、防眩フィルム、光記録装置、偏光ビームスプリッター等の光学素子において有用な、位相差値が波長400〜700nmにおいて短波長ほど小さい位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
位相差フィルムは液晶表示装置のSTN(スーパーツイステッドネマチック方式)等に用いられ、色補償、視野角拡大等の問題を解決するために用いられている。一般に、色補償用の位相差フィルムの材料としてはポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アモルファスポリオレフィン等が用いられ、視野角拡大用の位相差フィルム材料としては前記した材料に加えて高分子液晶、配向硬化されたディスコチック液晶等が用いられる。
【0003】
位相差フィルムの1つである4分の1波長板は、円偏光を直線偏光に、直線偏光を円偏光に変換することが出来る。これは、液晶表示装置特に観測者側から見て裏面側の電極を反射電極とした偏光板1枚板の反射型液晶表示装置や、偏光板と4分の1波長板とを組み合わせたことからなる反射防止フィルム、また、コレステリック液晶等からなる右回り左回りのどちらか一方の円偏光のみを反射する反射型偏光板と組み合わされて用いられる。
【0004】
上記した偏光板1枚型の反射型液晶表示装置や反射型偏光板において用いられる位相差フィルムは、可視光領域である測定波長400〜700nm好ましくは400〜780nmにおいて直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換する作用を有する必要がある。これを位相差フィルム1枚で実現しようとすると、測定波長λ=400〜700nm好ましくは400〜780nmにおいて位相差がλ/4(nm)となることがその位相差フィルムの理想である。
【0005】
一般に4分の1波長板としては、上記した色補償用の位相差フィルム材料等が用いられるが、これらの材料は複屈折に波長分散を持っている。一般に位相差フィルムとして用いる高分子配向フィルムの複屈折(位相差)は測定波長が短波長ほど大きく、長波長ほど小さくなる。そのため、高分子配向フィルム1枚だけで測定波長λ=400〜700nmにおいて、前記した理想的な4分の1波長板のように測定波長が短いほど複屈折が小さくなるものを得ることは困難であった。
【0006】
理想的な4分の1波長板のように測定波長が短いほど複屈折が小さくなるフィルムを得るために、特開平10-68816号公報には4分の1波長板と2分の1波長板を適当な角度で貼り合わせて用いるといった技術等がある。この方法によれば、理想に近い広帯域性を有する4分の1波長板、2分の1波長板を得ることが出来るが、2枚以上のフィルムの角度、位相差を厳密に調整しながら積層する必要があることと、粘着加工工程を有さなければならない。また、1枚のポリマーフィルムを用いて4分の1波長板を達成するものとして、特開2001-91743号公報、特開2001-208913号公報において、セルロースエステルフィルムにおいて広い波長領域にて、λ/4、λ/2を達成する技術が記載されている。しかし、セルロースエステルフィルムでは、その吸水性のために加水分解、寸法変形、配向緩和等が生じ、位相差及びその位相差波長分散を実用レベルで長期間保持することが出来ず、光学的な位相差フィルムとして耐久性に問題が挙げられる部材である。
【0007】
合成高分子配向フィルムに関する技術としては、ノルボルネン鎖とスチレン鎖からなる合成高分子による配向フィルムが、特開2001-235622号公報、特開2001-194527号公報に示されている。しかし、これは2成分系から構成されるポリマーによる技術であり、確かに通常の単独ポリマーにおける波長分散よりも広帯域にλ/4、λ/2を達成することは出来るが、波長450nmの位相差をλ/4とした時、波長650nmの位相差はλ/4よりずれた低い位相差を示し、逆に、波長650nmの位相差をλ/4とした時、波長450nmの位相差はよりずれた高い位相差を示すこととなる。これは、広帯域のλ/2の位相差を得ようとしたときも同様であり、短波長と長波長の両方において同時にλ/4、λ/2を満たすことは困難である。さらに、これではノルボルネン鎖とスチレン鎖を有する2成分からなるモノマーで構成される合成高分子であり、3成分系以上のモノマーにより構成されるポリマーによる広帯域性を有する位相差板の設計は一切行われていない。他のものとしては、国際公開番号WO00/26705号公報には、ポリカーボネートを主体とする高分子配向フィルムに関する技術が記載されているが、3成分系以上のモノマーから構成される合成高分子によって設計するより広帯域性を有する位相差フィルムについては記載されていない。また、特開2001-42121号公報では、ポリフェニレンオキサイドとポリスチレンとからなる1枚の高分子ブレンドフィルムからなる位相差フィルムが記されている。しかし、より広帯域な位相差波長分散特性を有する位相差フィルムについての具体的な記載がない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、特開平10−68816号公報には2枚以上のポリマーフィルムを積層することで、位相差が広い領域でλ/4またはλ/2を達成することが出来ることが記載されている。しかし、例えば2枚以上のポリマーフィルムで、位相差が広い領域でλ/4またはλ/2を得るためには、2枚以上のフィルムの角度、位相差を厳密に調整しながら積層する必要がある。
【0009】
これに対して、1枚のポリマーフィルムからなるλ/4板または、λ/2板も提案されている。しかし、位相差が広い波長領域でλ/4またはλ/2が達成されているフィルムで耐候性に優れて、リタデーション変化が生じ難い実用されているフィルムはほとんど無い。
【0010】
また、そのポリマーフィルムにおいて、3成分系以上のモノマーにより構成される合成高分子配向フィルムで、位相差における波長分散をより広い領域でλ/4またはλ/2が得られる技術は知られていない。
【0011】
本発明の主な目的は、1枚のポリマーフィルムのみで相差がλ/4またはλ/2等の広帯域性を有するような理想に近い位相差フィルムとなるフィルム製造する方法を、提供することである。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、耐候性及び実用性が高く、理想的な広帯域性を有する位相差フィルムを製造する新規な製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために位相差フィルムとしての高分子材料等を鋭意検討し、特定の条件を満足するように選択された少なくとも3種類のモノマー成分から構成された合成高分子を位相差フィルムの材料として用いることにより、単層(1枚)の位相差フィルムであって、該位相差フィルム波長450nm、550nm、650nmにおける位相差が下記式(5)及び(6)
R(450)<R(550)<R(650) (5)
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))2〕1/2<0.1
(6)
(式中、R(450)、R(550)、R(650)は、それぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である)を満たす位相差フィルムが得られることを見出した
【0014】
すなわち本発明は、下記の[1]〜[4]により達成することが出来た。
[1] 単層にてλ/n(n>0)を広い波長領域で満たす位相差フィルムを製造する方法であって、下記条件(i)及び(ii)を満足するように選択された少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子のフィルムを配向させることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
(i)上記モノマー成分のうち2つの成分は、そのモノマー成分からそれぞれ実質的に構成されるポリマーPab及びQcdがいずれも正の屈折率異方性を示し、他のモノマー成分から構成されるポリマーXefの屈折率異方性が負を示す。
(ii)上記Pab及びQcdの位相差波長分散値をそれぞれ(a、b)、(c、d)としたとき、ポリマーXefの位相差波長分散値(e、f)が下記式(1)または(2)を満たす。
(650/550-b)/(450/550-a)>(650/550-f)/(450/550-e)>(650/550-d)/(450/550-c)
(1)
(650/550-b)/(450/550-a)<(650/550-f)/(450/550-e)<(650/550-d)/(450/550-c)
(2)
(ここで、位相差波長分散値(a、b)(c、d)及び(e、f)は、波長450nm、550nm、650nmにおける位相差フィルムの面内位相差をR(450)、R(550)、R(650)としたときの(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))を示す。)
【0015】
[2] 単層にてλ/n(n>0)を広い波長領域で満たす位相差フィルムを製造する方法であって、下記条件(iii)及び(iv)を満足するように選択された少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子のフィルムを配向させることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
(iii)上記モノマー成分のうち2つの成分は、そのモノマー成分からそれぞれ実質的に構成されるポリマーP’ab及びQ’cdがいずれも負の屈折率異方性を示し、他のモノマー成分から構成されるポリマーX’efの屈折率異方性が正を示す。
(iv)上記P’ab及びQ’cdの位相差波長分散値をそれぞれ(a’、b’)、(c’、d’)としたとき、ポリマーX’efの位相差波長分散値(e’、f’)が下記式(3)または(4)を満たす。
Figure 0004313542
(ここで、位相差波長分散値(a’、b’)(c’、d’)及び(e’、f’)は、波長450nm、550nm、650nmにおける位相差フィルムの面内位相差をR(450)、R(550)、R(650)としたときの(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))を示す。)
【0016】
[3] 少なくとも3種類のモノマー成分のうちの1つのモノマー成分が、フルオレン環を有するものである、上記[1]または[2]の位相差フィルムの製造方法。
【0017】
[4] 合成高分子がポリカーボネートである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【0022】
本発明者は、鋭意研究の結果、ポリマーフィルムの材料を探索することにより、広い波長領域においてλ/4またはλ/2等の広帯域性を有する位相差フィルムを製造することに成功した。1枚のポリマーフィルムで構成される位相差フィルムの位相差波長分散は、ポリマーを構成するモノマーの光学異方性に起因すると考え、少なくとも3種類のモノマー成分からなるポリマーの配向フィルムにおいて、その成分となるモノマー単位から実質的に構成されるポリマーの波長分散値を選択することで、位相差における波長分散のコントロールが可能となり、より広帯域性を有する1枚の位相差フィルムにすることが出来た。つまり、位相差フィルムを形成するポリマーを、光学異方性を考慮して少なくとも3成分のモノマーを選択することにより、位相差フィルムの位相差波長分散特性をコントロールでき、理想的な広帯域位相差フィルムを得ることができる。
【0023】
この結果、液晶表示装置において、従来は、広帯域性を持たせるために少なくとも2枚の位相差フィルムを積層して使用していたのに対して、本発明の位相差フィルム1枚で用いることが可能となり、1枚の位相差フィルムで2枚以上の位相差フィルムと同等の色彩表示を行うことが出来るようになった。さらに、2枚以上のポリマーフィルムを用いる際の角度の厳密な調整、貼り合せ工程が不要となった。このように本発明の位相差フィルムは、1枚で広い波長領域でλ/4またはλ/2等の広帯域性を達成できる。
【0024】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明は単層の合成高分子の配向フィルムにおいて、可視領域において波長に依存しない極めて理想的に近いλ/4板およびλ/2板を得ることを探求する過程で、位相差が短波長ほど小さい1枚の合成高分子の配向フィルムを提供することに成功し、上記目的を達成するとともに、従来に無い特性を持つ位相差フィルムを提供するに至ったものである。
【0025】
また、本発明者は2種類のモノマー成分からなる1枚の高分子配向フィルムで、上記式(5)を満足することは可能であることを見出しているが、本発明によれば、3種類以上のモノマー成分からなる1枚の高分子配向フィルムとすることで、位相差波長分散を目的値に応じて容易に制御することが可能であり、またさらに広い波長領域でλ/4またはλ/2等の広帯域性を達成できる理想の位相差波長分散を見出すことができる。
【0026】
本発明における位相差(リタデーション)とは、位相差測定における位相差値のことを指し、光が厚さdのフィルムを透過したときにフィルムの配向方向とそれに垂直な方向の光の進行速度(屈折率)の差に基づく位相の差をいい、配向方向とそれに垂直な方向の屈折率の差Δnとフィルムの厚さdとの積Δn・dで表されることは知られている。また、位相差Δn・dはフィルムが同一であれば複屈折Δnに比例するので、位相差の波長分散(波長依存性)は複屈折Δnの波長分散(波長依存性)で表すことが出来る。
【0027】
本発明における合成高分子の配向フィルムの配向とは、高分子鎖が主として特定の方向に並んだ状態を示す。この配向は、通常合成高分子から形成されたフィルムの延伸等によって生じる。
【0028】
本発明の位相差フィルムは、少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子から形成されたフィルムを延伸等により配向処理したものである。少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子とは、1種類のコポリマー、1種類以上のホモポリマー同士または1種類以上のコポリマー同士の混合物、1種類以上のホモポリマーと1種類以上のコポリマーとの混合物が含まれる。ただし、少なくとも3種類のモノマー成分は、正の屈折率異方性(光学異方性ということがある)を有するモノマー成分と負の屈折率異方性(光学異方性)を有するモノマー成分を含み、かつそれらは異なる位相差波長分散特性を有するモノマー成分である。そのようなモノマー成分を適宜3種類以上選ぶことで、得られる位相差フィルムの位相差における波長分散特性(位相差波長分散特性)を制御することが可能となる。
【0029】
なお、ここで用いるモノマー成分とは、ポリマーを形成するために必要な最小単位の構造(繰り返し単位)を表すものである。例えば、ポリスチレンであれば、スチレン骨格(−CH2 (C65)CH2−)がモノマー成分となり、ポリエチレンテレフタレートであれば、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールの重縮合で形成される単位ユニット(−OCH2CH2OCOC64CO−)となる。2価フェノール(例えばビスフェノールA)とホスゲンまたは炭酸エステルとを反応して得られるポリカーボネートの場合には、炭酸エステル結合を含む繰り返し単位(−OC64C(CH3)264OCO−)をモノマー成分とする。
【0030】
さらに、正の光学異方性を有するモノマー成分とは、そのモノマー成分から実質的になるポリマーから形成されたフィルムを配向させた位相差フィルムが、正の屈折率異方性、つまりフィルムの平面内において正の屈折率異方性を有するようなフィルムを与えるモノマーの成分をいう。フィルムを一軸方向に延伸により配向させた場合、その延伸方向の屈折率が、フィルム面内の延伸方向と直交する方向の屈折率に対し大きければ正、小さければ負とした。
【0031】
また、位相差波長分散特性とは、位相差フィルムにおいて広い波長領域、例えば400〜700nmに対する位相差の分散(変化)の性質(挙動)をいう。後述で詳細するが、本発明では、かかる特性を位相差波長分散値として、特定波長における位相差フィルム面内の位相差値と、別の波長におけるそれとの比で表す。
【0032】
なお、モノマー成分から実質的に構成されるポリマーが正または負の屈折率異方性を示すとは、かかるポリマーから形成された配向フィルムの屈折率異方性が、正または負であることをいう。正、負の定義は上記と同じである。
【0033】
合成高分子の配向フィルムにおいて、3種類以上のモノマー成分を組み合わせることの目的は、光学異方性、特に位相差フィルムの位相差波長分散特性の制御である。この目的のためには、正の光学異方性を有するモノマー成分と負の光学異方性を有するモノマー成分を有する材料が少なくとも各1種類以上必要であり、かつ、位相差波長分散特性がすべて異なる少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子は、位相差フィルムの位相差波長分散を制御するのに適する材料である。
【0034】
このように、本発明ではモノマー成分の光学異方性が正、又は負であるものがそれぞれ存在し、且つ、モノマー成分が3種類以上であることが重要となる。これは、WO00/26705号公報では、(高分子配向フィルムの面内における配向方向の屈折率がそれと直交な方向の屈折率より大きい場合を、光学異方性が正、逆方向の場合を光学異方性が負というが)、高分子配向フィルムにおいて、光学異方性が正と負の高分子の組み合わせにおいて、R(450) < R(550) < R(650)(R(450)、R(550)、R(650)は、それぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差)となるための条件が示されている。この場合には、正の光学異方性を有する高分子に対して、負の光学異方性を有する高分子が同時に存在することが必須条件となる(負の光学異方性を有する高分子に対しては、正の光学異方性を有する高分子が必須条件)。
【0035】
ここで、本発明における3種類以上のモノマー成分を特定の条件で組み合わせる場合を説明する前に、まず、2種類のモノマー成分からなる場合について説明する。
【0036】
光学異方性が正のモノマー成分からなる高分子(ホモポリマー)Pと負のモノマー成分からなる高分子(ホモポリマー)Qを用いた位相差フィルム(高分子配向フィルムということがある)の位相差波長分散値の取り得る値に関して示す。
【0037】
まず、一般に、高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドの複屈折Δnは、以下のように表されることが知られている。(H.Saito and T.Inoue, J.Pol. Sci. Part B, 25, 1629(1987))
Δn = Δn0 p・fp・Φp + Δn0 q・fq・Φq + ΔnF (a)
ここで、Δn0 p:高分子Pの固有複屈折、Δn0 q:高分子Qの固有複屈折、fp:高分子Pの配向関数、fq:高分子Qの配向関数、Φp:高分子Pの体積分率、Φq:高分子Qの体積分率(=1-Φp)、ΔnF:構造性複屈折である。一般に、複屈折ΔnはΔn=f・Δn0で表される。また、Δnは二色性赤外分光法と位相差測定を組み合わせて求めることが出来る。
【0038】
(a)式はポリマーP、Q間の電子的な相互作用による分極率の変化は完全に無視しているが、以下でもこの仮定を採用する。また、本発明のような位相差フィルム用途では、光学的に透明であることが要求されることから、ブレンドは相溶ブレンドであることが好ましく、この場合には、ΔnFは非常に小さく無視することが出来る。
【0039】
これより、測定波長を450、550、650nmとすると(a)式は次の通りとなる。
Δn(450) = Δn0 p(450)・fp・Φp + Δn0 q(450)・fq・Φq
Δn(550) = Δn0 p(550)・fp・Φp + Δn0 q(550)・fq・Φq
Δn(650) = Δn0 p(650)・fp・Φp + Δn0 q(650)・fq・Φq
ここで、測定波長550nmにおいて規格化を行い、Δn(450)/Δn(550)、Δn(650)/Δn(550)を取ると以下のようになる。
Figure 0004313542
相溶ブレンドであるので、fp = fqと仮定して、α=Φqpとすると、上記2式は以下のとなる。
Figure 0004313542
ここで、(b)、(c)式よりαを消去すると、下記式となる。
Figure 0004313542
【0040】
この式において、Δn0 p(450)、Δn0 p(550)、Δn0 p(650)、Δn0 q(450)、Δn0 q(550)、Δn0 q(650)は、各波長における高分子の固有複屈折であり、定数項として取り扱うことが出来る。
【0041】
Figure 0004313542
【0042】
M、Nに関して、分子分母をΔn0 p(550)・Δn0 q(550)で割ると、M'、N’となり、それぞれの高分子における固有複屈折の550nmの波長で規格化した値、Δn0 p(450)/Δn0 p(550)、Δn0 p(650)/Δn0 p(550)、Δn0 q(450)/Δn0 q(550)、Δn0 q(650)/Δn0 q(550)で表記することが可能となる。
Figure 0004313542
【0043】
高分子配向フィルムの位相差(リタデーション)は、配向方向とそれに垂直な方向の屈折率の差Δnとフィルムの厚さdとの積Δn・dで表されることより、2成分系における合成高分子による配向フィルムの位相差における波長分散値R(450)、R(550)、R(650)の関係は、下記式(e)として表記することが出来る。
R(650)/R(550) = M'×R(450)/R(550)+N' (e)
【0044】
ここで、
Figure 0004313542
(但し、Rp(450)、Rp(550)、Rp(650)、Rq(450)、Rq(550)、Rq(650)は、高分子配向フィルム内における高分子P、高分子Qの面内位相差を示す。)
この上記式(e)における境界条件は、α=Φqp=(1-Φp)/ Φp(:0≦Φp≦1)の範囲が0≦α≦∞であるので、上記式(b)によりΔn(450)/Δn(550)が与えられており、これは分子分母に膜厚dを乗じると、R(450)/R(550)に変形することが出来るので、αの範囲により、R(450)/R(550)の範囲を求めることが可能である。
Figure 0004313542
上記式(b)において、Δn0 p(450)、Δn0 p(550)、Δn0 q(450)、Δn0 q(550)の値の取り得る条件に分類して、位相差における波長分散値に関して検討した。表1に2成分系における固有複屈折の正と負の分類、pRとqRの大小関係(但し、pR=Δn0 p(450)/Δn0 p(550) = Rp(450)/Rp(550)、qR=Δn0 q(450)/Δn0 q(550) = Rq(450)/Rq(550)とする。)、また、そのときの体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を図1〜8に示し、取りうるR(450)/R(550)の範囲を示す。さらに、R(450)/R(550)の範囲に対して、描かれる上記式(e)の軌跡を、縦軸R(650)/R(550)、横軸R(450)/R(550)にて図9〜図11に示す。
【0045】
【表1】
Figure 0004313542
【0046】
(但し、pR=Δn0 p(450)/Δn0 p(550) = Rp(450)/Rp(550)、qR=Δn0 q(450)/Δn0 q(550) = Rq(450)/Rq(550)とする。)
具体例として、表1でのcase1:高分子の光学異方性が正と正の2つ組み合わせと、case5:高分子の光学異方性が正と負の2つの組み合わせについて説明する。
【0047】
case1においては、高分子PとQの光学異方性が正と正である。高分子PとQのR(450)/R(550)の大小関係は、pR > qRのとき、高分子PとQからなる合成高分子における体積分率α=Φqpに対するR(450)/R(550)の変化は、上記式(b)より図1となる。このとき、α=0のとき正(高分子P)、α=∞のときも正(高分子Q)であり、合成高分子の光学異方性は光学異方性が正の高分子PとQの組み合わせで得られることより、光学異方性が正を示した領域内のみで、位相差波長分散値R(450)/R(550)は変化する。このとき、高分子PとQによる合成高分子のR(450)/R(550)の変化の領域は図1より、qR < R(450)/R(550) < pRとなる。このとき、描かれる上記式(e)の軌跡は、縦軸R(650)/R(550)、横軸R(450)/R(550)にて示した図9として示され、元となる高分子Pと高分子Qの位相差波長分散値を直線で結んだ直線上の点となることが分かる(但し、qR <
R(450)/R(550) < pR)。
【0048】
次に、表1のcase5においては、高分子PとQの光学異方性が正と負である。高分子PとQのR(450)/R(550)の大小関係は、pR > qRのとき、高分子PとQからなる合成高分子における体積分率α=Φqpに対するR(450)/R(550)の変化は、上記式(b)より図5のようにとなる。このとき、α=0のとき正(高分子P)、α=∞のとき負(高分子Q)であり、合成高分子の光学異方性は、体積分率のある比率で正から負、負から正に反転することが分かる。図5を見てみると、ある比率αにてR(450)/R(550)が発散していることが明らかであり、その比率の前後で光学異方性が反転することが分かる。これより、高分子PとQによる合成高分子のR(450)/R(550)の変化の領域は、合成高分子の光学異方性が正の時は、R(450)/R(550) < pRとなり、光学異方性が負の時は、R(450)/R(550) < qRとなる。このとき、描かれる上記式(e)の軌跡は、縦軸R(650)/R(550)、横軸R(450)/R(550)にて示した図11として示され、元となる高分子Pと高分子Qの位相差波長分散値を直線で結んだ直線上の点となることが分かる(但し、光学異方性:正 R(450)/R(550) < pR 、光学異方性:負 R(450)/R(550) < qR)。
【0049】
その他のcase1から8においても、上記同様により2成分系においては説明することができる。
【0050】
これより、2種類のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルムでは、その取り得る位相差波長分散は、元となる2種類のモノマー成分から構成される高分子の位相差波長分散特性により決定されることがわかる。特に、縦軸R(650)/R(550)、横軸R(450)/R(550)にて示した図9〜11においては、元となる2種類の高分子の位相差波長分散値を結んだ直線上の点が、合成高分子配向フィルムの取り得る位相差波長分散特性であることが明らかとなった。
【0051】
本発明では、この2成分系の考え方を、3成分系以上に拡張して考える。特に、簡易的に考えるために、視覚的に捉えた縦軸R(650)/R(550)、横軸R(450)/R(550)にて示した図9〜11(以降、この軸の設定にて位相差波長分散値をプロットすることを分散プロットと呼ぶ)で、位相差波長分散値の変化をプロットした軌跡における説明を主体とする。
【0052】
前記から、2種類のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルムでは、分散プロットにおいて、元となる2種類のモノマー単位からなる高分子の位相差波長分散値を結んだ直線上の点しか取り得ることができないことがわかる。ここで、合成高分子配向フィルムが例えば3種類のモノマー成分からなるとすると、3種類のうち屈折率異方性が正と正または負と負の組み合わせとなる2種類のモノマー成分からなる合成高分子の位相差波長分散値は、前述の如く図9で示したような分散プロットにて直線上の点となる。これに対して、モノマー成分は1種類が残されているので、3種類のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルムの位相差波長分散値の取り得る範囲は、分散プロットにおいて、2種類のモノマー成分から得られている位相差波長分散値の直線上の任意の点と、残り1種類のモノマー単位からなる高分子の位相差波長分散値の点とを結ぶ直線上の点となる。したがって、3成分系の合成高分子で得られる位相差波長分散値の取り得る領域は、分散プロット上で直線と点を結ぶ領域すなわち面で表される領域上の点で与えられる。つまり、3種類以上のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルムにおいては、分散プロットにて、その内の2種類のモノマー単位からなる高分子が取り得る位相差波長分散値の直線上の1点と、残り1成分の位相差波長分散値を結ぶ直線上にて位相差波長分散値を取り得ることが可能となり、光学異方性が異符号を必ず含む3種類のモノマー成分からなる高分子であれば、その取り得る位相差波長分散特性の領域は直線上に限定されず、分散プロットにおける面内の領域を取ることが可能となることを示す。これは、合成高分子配向フィルムにおいて、3種類以上のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルムにおいては、2成分系よりもさらに広い領域にて位相差波長分散特性をコントロールすることを可能とする技術であることを示している。
【0053】
本発明では、特に円偏光板または楕円偏光板に好適に用いることができるλ/4、λ/2等の位相差フィルム1枚で達成するために、必要となる3種類以上のモノマー単位の組み合わせ方法を明確に明示したものである。
【0054】
λ/4、λ/2等の理想の位相差フィルムが取るR(650)/R(550)およびR(450)/R(550)の値は、その波長650nm、450nmをそのまま550nmで割った値となる。
R(450)/R(550) = 450 / 550 = 0.8181・・・ (λ/4、λ/2 etc、λ/n:n>0)
R(450)/R(550) = 650 / 550 = 1.18181・・・
3種類以上のモノマー成分からなる合成高分子配向フィルム1枚(単層)で、λ/4フィルムまたはλ/2フィルム等の理想の位相差フィルムに近づくためには、この位相差波長分散値を取り得る3種類以上のモノマー成分からなる高分子の組み合わせを見出すことが必要不可欠となる。例えば3種類のモノマー成分の組み合わせを、光学異方性で分けた場合、正+正+負、もしくは正+負+負である場合が考えられる。ここで、λ/4、λ/2等の理想の位相差フィルムを得るために必要となるモノマー成分の位相差波長分散値が満たさなければならない条件を、モデル化した分散プロットを図12に示す。まず、正+正、もしくは、負+負による2成分系による合成高分子配向フィルムの取り得る領域は、上述の説明により図12に示す通り、2種類のモノマー成分からなる高分子の位相差波長分散値P点、Q点を結ぶ直線上の点となる。このとき、得られる合成高分子配向フィルムの光学異方性はモノマー成分の光学異方性と一致する。ここで、λ/4、λ/2等の理想の位相差フィルムとなり得るためには、分散プロットにおいて理想点Iと2種類のモノマー単位からなるそれぞれの高分子の位相差波長分散値P点とQ点を結ぶ直線上の1点を結ぶ直線上に、2種類のモノマー成分と光学異方性が異符号となる3種類目となるモノマー成分の位相差波長分散値(X点)が存在しなければならないこととなる。ここで、この3種類目となるモノマー成分の位相差波長分散値X点が満たさなければならない条件は、理想点Iが固定点であることより、理想点IとP点を結ぶ直線I−Pの傾きより、理想点IとX点を結ぶ直線の傾きI−Xの傾きが大きく、且つ、理想点IとQ点を結ぶ直線I−Qの傾きより小さければよいことになる。
【0055】
直線I−Pの傾き > 直線I−Xの傾き > 直線I−Qの傾き (f)
モノマー成分から構成されるポリマーP、Q、Xの位相差波長分散値における(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))の値を、それぞれP(a、b)、Q(c、d)、X(e、f)とすると、理想点Iは、I(450/550、650/550)で与えられるので、上記式(f)を書き換えると、下記式(g)となる
Figure 0004313542
モデル図12では、直線I−Pの傾き>直線I−Qの傾きと図示されているが、P点、Q点の取りうる位置によっては、直線I−Pの傾き>直線I−Qの傾きとなる場合もある。この場合には、次の下記式(h)、(i)を満たせば良い。
【0056】
直線I−Pの傾き<直線I−Xの傾き<直線I−Qの傾き (h)
Figure 0004313542
つまり、3成分系以上に関してλ/4、λ/2等の理想の位相差フィルムとなり得るためには、3種類以上のモノマー成分の組み合わせを、光学異方性で分けた場合、正+正+負、もしくは正+負+負であり、且つ、上記式(g)、または(i)を同時に満たすことが必要となる。
【0057】
この条件を詳細に記述すると、次の2つとなる。
(I) 3つのモノマー成分のうち2つの成分は、そのモノマー成分から実質的に構成される2つのポリマーがそれぞれ正の屈折率異方性を示し、3つ目にあたる残りのモノマー成分により構成されるポリマーの屈折率異方性が負を示し、且つ、負の屈折率異方性を有するポリマーの波長分散値(e,f)が下記式(1)、または(2)を満たす領域に存在する。
【0058】
Figure 0004313542
〔ただし、式中、(a、b)、(c、d)は正の複屈折異方性を有する2つの成分のモノマー単位から構成されるポリマーの位相差波長分散値における(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))の値を示し、(e、f)は残りの成分により構成される負の屈折率異方性を有するポリマーの位相差波長分散値(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))を示しており、ここで、R(450)、R(550)、R(650)は、ぞれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表す。〕
【0059】
(II) 3つのモノマー成分のうち2つの成分は、そのモノマー成分から実質的に構成されるポリマーが負の屈折率異方性を示し、3つ目にあたる残りのモノマー成分により構成されるポリマーの屈折率異方性が正を示し、且つ、正の屈折率異方性を有するポリマーの波長分散値(e'、f')が下記式(3)、または(4)を満たす領域に存在する。
【0060】
Figure 0004313542
〔ただし、式中、(a'、b')、(c'、d')は正の複屈折異方性を有する2つの成分のモノマー成分から実質的に構成されるポリマーの位相差波長分散値における(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))の値を示し、(e'、f')は残りの成分により構成される負の屈折率異方性を有するポリマーの位相差波長分散値(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))を示しており、ここで、R(450)、R(550)、R(650)は、ぞれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表す。〕
これらの組み合わせをそれぞれ分散プロットによる図によりこの領域を示すと、光学異方性の組み合わせが、(I)正+正+負の場合は図13に、(II)負+負+正の場合は図14に表すことが出来る。
【0061】
これは、R(450)/R(550) = 450 / 550、R(450)/R(550) = 650 / 550を固定点として捉えた場合において、λ/4、λ/2等理想の位相差フィルムを、単層の合成高分子で満たすために、上記式(e)の傾きとなるM'において規定したことであり、つまり、分散プロットにおいて位相差フィルムとしての理想点を通る直線として上記式(e)を見た場合、λ/4、λ/2等の理想の位相差フィルムの位相差波長分散値を取り得る領域は、R(450)/R(550)=450/550、R(450)/R(550)=650/550を支点とした直線となり、その傾きM'の範囲を指定することで、λ/4、λ/2等理想の位相差板の位相差波長分散値を取り得る領域が決められる。つまり、3成分系の場合には、この条件を満たす領域のモノマー成分を選べばλ/4、λ/2等理想の位相差フィルムを単層で与えることができる合成高分子を得られることを表している。
【0062】
このように、3種類のモノマー成分からなる合成高分子を用いた場合には、元となるモノマー成分が特定条件を満足するように選択することにより、単層のポリマーフィルムにおいて、広い波長領域で、λ/4またはλ/2を達成する位相差フィルムを提供することが可能となる。
【0063】
3種類からなるモノマー成分の光学異方性の組み合わせとしては、(正、正、負)、或いは、(負、負、正)の組み合わせが考えられる。ここで、3種類の成分である場合は、光学異方性が正2種類、負1種類、または、正1種類、負2種類の組み合わせがあり、そのいずれであっても構わない。
【0064】
4種類以上からなるモノマー成分の光学異方性の組み合わせとしては、(正、正、負)、或いは、(負、負、正)を含む4種類以上からなる複数成分の組み合わせが考えられる。このとき、4種類以上からなるモノマー成分の光学異方性に関しても、上記の考え方を適用して、得られる合成高分子配向フィルムがλ/4、λ/2等理想の位相差フィルムの位相差波長分散値を取り得るための条件を見出すことも十分可能であり、n(nは自然数)成分の時、(n−1)成分が分かった場合の残りの1成分が満たすべき特定条件を導きだすこともできる。しかしながら、n成分において、その特定条件を示すことは、(n−1)成分が取り得る場合を数多く分けて示すことが必要となり、非常に煩雑な条件となってしまうと共に、(n−1)成分のそれぞれのモノマー成分から実質的に構成されるポリマーの位相差波長分散値を特定することも、単一成分で透明なポリマーフィルムとすることが出来ないような場合も存在するので、困難な場合も存在する。
【0065】
ところで、合成高分子においてコポリマー、もしくは混合物にて組成比率が一定であるものは、位相差波長分散値も一定となる。このことを利用して、4種類以上からなるモノマー成分の光学異方性において、合成高分子における組成比率が一定とした成分を1成分として見なし、4種類以上からなるモノマー成分も擬似的に3種類からなるモノマー成分として取り扱うことで、簡略的に3種類からなるモノマー成分の系に適用する。例えば、合成高分子がA、B、C、Dの4種類のモノマー成分からなる場合は、次の12通りの場合わけとして考えることができる。この考え方を用いた具体例として、実施例1を用いて以下に詳細に説明する。
【0066】
【表2】
Figure 0004313542
【0067】
実施例1には、合成高分子を構成するモノマー成分の光学異方性の組み合わせとして、正、負、負の組み合わせが示されている。この場合、上記記載のモノマー成分の定義に従い、モノマー成分をポリマーを形成するために必要な最小単位の構造を表すものとすると、モノマー成分は[A]、[B]、[C]及び[D]の4成分と考えることができる。ここで、上記に従い、この4成分を擬似的に3成分(3種類)のモノマー成分として取り扱って考える。ここでは、[A]+[B]の共重合体、または、[C]+[D]の共重合体を得ることは現実的に容易であり、どちらの共重合体を1成分として見なしても結果は同等となるので、ここでは、擬似的な3種類の成分を、[A]、[B]、及び[C]+[D]の組み合わせとして考えた。(このとき、[C]+[D]の共重合比は、合成高分子フィルム内で存在する[C]と[D]の存在比率と一致させる。)これにより、ポリマー[A]の光学異方性は正、ポリマー[B]の光学異方性は負、スチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]+[D]の光学異方性が負と分類されるので、3種類からなる成分の光学異方性の組み合わせとしては、(負、負、正)の組み合わせとなる。
【0068】
尚、上記式(b)、(c)より考察すると、正と負の高分子の位相差波長分散係数が完全に等しい場合には、本発明を適用することはできない。
【0069】
上記考察は、上記式(a)を基にした考察であるが、後述する実施例のように実際の系でもこの考え方は非常によく成り立つので、この考え方が正しいことは実施例でも証明される。
〔合成高分子に関して〕
本発明における位相差フィルムは、合成高分子のフィルムを延伸等により配向した配向フィルムからなる。ところで、本発明者らの検討では天然高分子であるTAC(トリアセチルセルロース系高分子)は位相差フィルムとして有用であると考えられるが、実用上の耐候性において難点があり、この耐候性を保持したままで位相差が変化しないことが困難である。しかしながら本発明では上記関係を満たすものであって、少なくとも3種類のモノマー成分から構成される合成高分子を用いることができる。かかる合成高分子は、例えば2種類以上の高分子の混合物(ブレンド)でも1種類以上の共重合体でも、それらの混合物でもよい。
【0070】
高分子ブレンドであれば、光学的に透明である必要があることから2種類以上のポリマーの混合物(相溶ブレンド系)または、用いる各々のポリマーの屈折率が略等しいことが好ましい。高分子ブレンドの具体的な組み合わせとしては、負の光学異方性を有する高分子としてポリ(メチルメタクリレート)と、正の光学異方性を有する高分子としてポリ(ビニリデンフロライド)、ポリ(エチレンオキサイド)、ポリ(ビニリデンフロライド―コ―トリフルオロエチレン)の組み合わせ、正の光学異方性を有する高分子としてポリ(フェニレンオキサイド)と、負の光学異方性を有するポリスチレン、ポリ(スチレン―コ―ラウロイルマレイミド)、ポリ(スチレン―コ―シクロヘキシルマレイミド)、ポリ(スチレン―コ―フェニルマレイミド)の組み合わせ、負の光学異方性を有するポリ(スチレン―コ―マレイン酸無水物)と正の光学異方性を有するポリカーボネート、また、正の光学異方性を有するポリ(アクリロニトリル―コ―ブタジエン)と負の光学異方性を有するポリ(アクリロニトリル―コ―スチレン)等が好適に用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
また、共重合体としては、負の屈折率異方性を示すポリマーとして、例えばポリスチレン系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート系ポリマー、セルロースエステル系ポリマー(固有複屈折が正であるものを除く)等が挙げられるが、例としてポリ(ブタジエン―コ―ポリスチレン)、ポリ(エチレン―コ―ポリスチレン)、ポリ(アクリロニトリル―コ―ブタジエン)、ポリ(アクリロニトリル―コ―ブタジエン―コ―スチレン)などが挙げられる。また、フルオレン環をポリマー骨格として有するセグメントは負の光学異方性を示すポリマーとなり得るため好ましい。例えば、フルオレン環を有するポリカーボネート共重合体、ポリエステル共重合体、ポリエステルカーボネート共重合体、ポリアリレート共重合体等であり固有複屈折が負であるものはより好ましく用いられる。また正の光学異方性を示すポリマーとしては、固有複屈折が正であるポリカーボネート共重合体、ポリエステル共重合体、ポリエステルカーボネート共重合体、ポリアリレート共重合体等を用いることが出来る。
【0072】
ビスフェノール類とホスゲンあるいは炭酸ジフェニルなどの炭酸エステル形成性化合物と反応させて製造されるポリカーボネート共重合体は透明性、耐熱性、生産性に優れており特に好ましく用いることが出来る。ポリカーボネート共重合体としては、下記式(I)で表される繰り返し単位をもつフルオレン骨格を有する構造(I)と下記式(II)で表される繰り返し単位を含む共重合体であることが好ましい。また、(I)の成分は1〜99mol%含まれていることが好ましい。
【0073】
【化1】
Figure 0004313542
【0074】
上記式(I)において、R1〜R8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれ、
Xは下記式
【0075】
【化2】
Figure 0004313542
【0076】
である。
【0077】
【化3】
Figure 0004313542
【0078】
上記式(II)において、R9〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれ、Yは下記式群から選ばれる。
【0079】
【化4】
Figure 0004313542
【0080】
ここで、Y中のR17〜R19、R21,R22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から、R20、R23は炭素数1〜20の炭化水素基から、また、Arは炭素数6〜10のアリール基からそれぞれ選ばれる。
【0081】
上記合成高分子は公知の方法によって製造し得る。ポリカーボネート共重合体はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの重縮合による方法、溶融重縮合法等が好適に用いられる。
【0082】
上記合成高分子の具体例としては、例えば、フルオレン環をポリマー骨格として有するビスフェノールをモノマー成分として含むポリカーボネートが好ましく挙げられる。また該ポリカーボネートとして、スチレンあるいはスチレン誘導体をモノマー成分として用いブロック成分として含むようなポリカーボネートが例示できる。
【0083】
また、本発明の位相差フィルムにおいては、耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、透明核剤、永久帯電防止剤、蛍光増白剤等のポリマー改質剤が同時にフィルム中に存在しても良い。
【0084】
本発明の位相差フィルムは透明であることが好ましく、へーズ値は5%以下、全光線透過率は85%以上であることが好ましい。また、ガラス転移点温度は90℃以上であることが好ましい。
【0085】
〔位相差フィルムの製造方法〕
本発明の位相差フィルムの製造方法について説明する。本発明では、上記合成高分子をフィルムに製膜するフィルムの作成工程に付し、ついで延伸操作等により面方向の配向を増す延伸工程に供される。
【0086】
フィルムの作成工程において、作成方法は既存のいずれの製膜方法を用いてもよい。例えば、溶剤に溶かしキャストする溶剤キャスト法、固体状態で混練してダイなどから押し出しフィルムにする押し出し成型法、固体状態で混練した後カレンダーロールでフィルムにするカレンダー法、プレスなどでフィルムにするプレス成型法などが挙げられる。この中でも、膜厚精度に優れている溶剤キャスト法が特に好ましい。溶剤キャスト法における溶剤としては、メチレンクロライド、ジオキソラン等が用いられるが、これに限定するものではない。成膜後のフィルムの厚みに制限は無いが、フィルムのハンドリング面、コスト面から20〜300μmが好ましく、さらに好ましくは50〜150μmである。溶剤キャストにおける特定の化合物の添加は、均一混合の観点から、製膜溶液の作成時に行うことが好ましい。
【0087】
上記で得られたフィルムはついで延伸工程において通常一軸延伸される。延伸方法は、公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、テンター延伸法、ロール間圧縮延伸法などの方法が例示される。厚み方向の屈折率の制御性及びフィルム面内レターデーションの均一性等の点で、ロール間延伸法または、テンター延伸法により1軸延伸する方法がのぞましい。延伸倍率としては、目的の位相差を得るように適宜決められる。(例えばポリカーボネートであれば、延伸温度は、通常150〜170℃であり、延伸倍率は1.01〜1.10倍である。おおよそ位相差フィルムを得るための高分子フィルムの延伸温度は、ポリマーのガラス転移温度を中心とした±50℃であり、延伸倍率は1.01〜4.0倍である。)位相差フィルムの中には、延伸性を向上させる目的で、公知の可塑剤であるジメチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル、トリブチルフォスフェート等のリン酸エステル、脂肪族2塩基エステル、グリセリン誘導体、グリコール誘導体等を含有しても良く、またこれらに限定するものではない。先述のフィルム製膜時に用いた有機溶剤をフィルム中に残留させ、延伸しても良い。この有機溶剤としては、ポリマー固形分対比1〜20重量%であることが好ましい。
【0088】
〔位相差フィルム、円偏光フィルム、楕円偏光フィルム、及びそれらを用いた液晶表示素子、または光学装置〕
かくして本発明によれば、理想的な広帯域位相差フィルムが提供される。かかる位相差フィルムは、特に1枚の合成高分子を配向したフィルム(配向フィルム)をもって波長依存性が少ない良好なn分の1波長板(λ/n板)、特に好ましくは4分の1波長板(λ/4板)あるいは2分の1波長板(λ/2板)を構成することができるものであるが、λ/4板として用いるためには 100nm≦R(550) ≦ 180nmであること、λ/2板として用いるためには 220≦R(550) ≦ 330nmであることが好ましい。
【0089】
本発明の位相差フィルムは、1枚で広帯域λ/4板、広帯域λ/2板として用いることができるためには、位相差波長分散が、下記式
0.60<R(450)/R(550)<0.97かつ1.01<R(650)/R(550)<1.40
より好ましくは
0.65<R(450)/R(550)<0.92かつ1.03<R(650)/R(550)<1.30
さらに好ましくは
0.70<R(450)/R(550)<0.87かつ1.04<R(650)/R(550)<1.25
の範囲内であることが好ましい。
【0090】
さらに、特に位相差フィルムは、上記の考え方に従って得ることができるものであり、R(450)/R(550)、R(650)/R(550)の2点の満たす領域が、
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2<0.1
である理想に近いことが特徴である。より好ましくは
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2<0.07
さらに好ましくは
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2<0.05
の範囲内である。
【0091】
本発明の位相差フィルムをλ/4板として用いる場合、例えば、偏光板1枚だけを使用し裏面電極を反射電極と兼ねた構成である反射型液晶表示装置に用いることにより、画質に優れた反射型表示装置を得ることが可能である。また、ゲストホスト型の液晶層の観測者に対して裏面側にこの位相差フィルムを用いることも可能である。これらの場合、位相差フィルムの役割は、直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に可視光領域において変換することであるが、本発明の位相差フィルムはこのような目的を満足させることが可能である。
【0092】
こうして、本発明の好適な態様の1つとして、偏光板、λ/4板、及び透明電極を有する2枚の基板間に液晶層を含む液晶セルをこの順で具備する反射型液晶表示装置であって、かかるλ/4板として、1枚の高分子配向フィルムからなる位相差フィルムであって、波長 450nm及び 550nmにおける位相差が下記式(5)、(6)
R(450)<R(550)<R(650) (5)
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2<0.1 (6)
〔式中、R(450) 、R(550)、R(650) はそれぞれ波長 450nm、 550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。〕
を満たし、かつR(550) が 100〜180 nmである位相差フィルムを用いた反射型液晶表示装置を提供する。
【0093】
また、左右どちらか一方の円偏光のみを反射するコレステリック液晶等から構成される反射型偏光板の円偏光を直線偏光に変換する素子としても、同様に使用することが出来る。
【0094】
また、本発明の位相差フィルムは、粘着層、接着層を介して偏光フィルムと貼り合わせて円偏光フィルムまたは楕円偏光フィルムとしたり、また、位相差フィルム上に何らかの材料をコーティングして湿熱耐久性を向上させたり、耐溶剤性を改良したりしても良い。
【0095】
本発明の位相差フィルムは、波長が短いほど複屈折が小さい理想的なλ/4板やλ/2板を1枚の高分子配向フィルムで得るために特に開発されたものであるが、波長が短いほど複屈折が小さい高分子配向フィルムが新規に提供されるので、本発明の位相差フィルムどうしを積層して、あるいは本発明の位相差フィルムと他の光学フィルム(透明フィルム、透明導電性フィルム、位相差フィルム、偏光板、光学補償板等)とを積層することにより、例えばより広範囲の波長域で理想的なλ/4板やλ/2板を製作するなどより幅広く各種の用途に適合した位相差フィルムあるいは光学フィルムを得ることができるものである。
【0096】
K値は位相差フィルムの3次元的な屈折率異方性の指標であるが、R値、膜厚によっても変化し、さらに用途によっても最適な値は異なる。ここでは、K値の代わりに別の3次元屈折率異方性の指標であるNz=(nx−nz)/(nx−ny)で好ましい範囲を記述すると、λ/4板やλ/2板のような位相差フィルムであれば、 0.3〜1.5 の間であることが好ましい。特にNz=0.5のとき、位相差フィルムに入射する角度が正面入射から変化してもほとんど位相差が変化しない。2軸延伸品であれば、−100〜100であることが好ましい。このNzの3次元屈折率nx,ny,nzは前記K値の計算で使用したものを使うものとする。
【0097】
また、このような位相差フィルムを液晶表示装置特に偏光板1枚型反射型液晶表示装置に用いることにより、画質に優れた表示装置を得ることが出来る。この反射型液晶表示装置とは、偏光板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、散乱反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光板、散乱板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、鏡面反射電極付基板の順に構成されているもの、偏光板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、透明電極付基板、反射層の順に構成されているもの等である。さらに、該λ/4板は透過型と反射型の両方を兼ね備えた液晶表示装置においても使用し得る。該液晶表示装置の構成としては例えば、偏光板、位相差フィルム、透明電極付基板、液晶層、反射透過兼用電極付基板、位相差フィルム、偏光板、バックライトシステム等である。さらに、例えばコレステリック液晶よりなる左右どちらかの円偏光のみ反射する反射型偏光板において、円偏光を直線偏光に変換する素子として使用すれば、広帯域で良好な直線偏光が得られる。
【0098】
さらにまた、本発明の位相差フィルムは、光記録装置の光ヘッドにおいて用いられるλ/4板としても用いることができる。特に、かかる位相差フィルムは、多波長に対して4分の1波長との位相差を与えることができるので、複数のレーザー光源を使う光ヘッドにおいて、位相差板の数を減らすことに寄与することができる。
【0099】
また、液晶プロジェクター等に於ける光学部材として、例えば、λ/4板、λ/2板等として偏光変換素子や偏光ビームスプリッター等に本発明の位相差フィルムを用いても良い。
【0100】
また、発光素子である有機または無機エレクトロルミネッセンス素子は、発光層の裏側に金属電極を用いているが、この金属電極は光を反射するので、外光存在下ではコントラストが低下する等、著しく視認性が低下する。これを防ぐために、本発明の位相差フィルムと偏光フィルムを組み合わせて円偏光フィルムとし、反射防止フィルムとして用いてもよい。この円偏光フィルムは、可視光の広い波長範囲で位相差を4分の1波長とすることが可能な本発明の位相差フィルムを用いているので、広帯域の波長において反射を防止できるため、反射光に着色が少なく視認性に優れた素子を提供することが出来る。また、タッチパネルとして用いても良く、CRT、PDPに用いても良い。
【0101】
さらに、本発明の位相差フィルムを、透過型液晶表示装置の色調改善や視野角拡大等の画質向上フィルムとして用いることが出来る。液晶表示装置としては例えば、ツイストネマチックモード、垂直配向モード、OCB(Optically compensated bend)配向モード、インプレインスイッチングモード等を挙げることが出来る。
【0102】
本発明の位相差フィルムは、用途により、例えば液晶表示装置において目的に応じて2枚以上使用しても良い。また、他の位相差フィルムや視野角拡大フィルムのような光学補償フィルムと同時に使用しても良い(例えば、ディスコチック液晶や高分子液晶層をフィルムの膜厚方向に配向させた視野角拡大フィルムなど、)。さらに、液晶表示装置として、強誘電性液晶、反強誘電性液晶を用いたものに、本発明の位相差フィルムを使用しても良い。
【0103】
【実施例】
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
(1)R値の測定
複屈折Δnと膜厚dの積である位相差値Rは、分光エリプソメータである日本分光(株)製の商品名『JASCO M-150 Polarization Modulated Spectroscopic Ellipsometer』により測定されたものである。Rは入射光線とフィルムの表面が垂直する状態で測定しており、R=Δn・d=(nx−ny)・dである。R値の単位は、nmである。nx、ny、nzは、ここでは以下のように定義される。
nx:フィルム面内における主延伸方向の屈折率
ny:フィルム面内における主延伸方向に直交する方位の屈折率
nz:フィルム表面の法線方向の屈折率
(主延伸方向とは1軸延伸の場合には延伸方向、2軸延伸の場合には配向度が上がるように延伸した方向を意味しており、化学構造的には高分子主鎖の配向方向を指す。)
(2)全光線透過率及びヘイズの測定
日本工業規格JIS K 7105『プラスチックに光学的特性試験方法』に準じて、積分球式光線透過率測定装置により測定した。評価装置としては、日本電色工業(株)製の色差・濁度測定器:商品名『COH-300A』を用いた。
(3)高分子共重合比の測定
日本電子社製の商品名『JNM-alpha600』のプロトンNMRにより測定した。特にビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの共重合体の場合には、溶媒として重ベンゼンを用い、それぞれのメチル基のプロトン強度比から算出した。
(4)ポリマーの重合方法
以下に実施例、参考例で用いたポリカーボネートを構成するモノマー成分(繰り返し単位)、及び、ポリスチレン、ポリイソプロペニルフェノール、およびスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体の構成するモノマー成分(繰り返し単位)を示す。
【0104】
【化5】
Figure 0004313542
【0105】
【化6】
Figure 0004313542
【0106】
【化7】
Figure 0004313542
【0107】
【化8】
Figure 0004313542
【0108】
【化9】
Figure 0004313542
【0109】
上記構造を有するスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]+[D]は、モル比率において、スチレン:イソプロペニル=50:50(モル%)の共重合体であり、組成比はモノマー仕込み量とほぼ同等であった。
【0110】
次に、上記構造を有するモノマー成分[A]、[B]とスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]+[D]を、それぞれX:Y:Z(モル%、X+Y+Z=100、但し、X、Y、Zはモノマー成分のモル比を示すものであり、Zに関しては、合成時に用いたポリスチレンモノマー成分[C]とポリイソプロペニルモノマー成分[D]の総量[C]+[D]をモノマー成分の量として扱う)の比率で、ホスゲン法により共重合を行い、ポリカーボネート−ポリスチレン共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマーの仕込み量と同等であった。
【0111】
[実施例1]
モノマー成分[A]と[B]とモノマー成分(スチレン-イソプロペニルフェノール共重合体)[C]+[D]とを、X:Y;Z=40:30:30(モル%)の比率で共重合させたポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を用いた。このポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度175度で、2.6倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0112】
このフィルムは、測定波長において短波長ほど位相差が小さくなり、且つ延伸方向が面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は正であることを確認した。尚、R(550)=137.3nm、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ0.82、1.14であった。また、下記式において、不等号を満たす。
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.04<0.1
【0113】
また、このポリマーの組み合わせは、下記の通り負+負+正となる。
モノマー成分[A] 光学異方性:正
モノマー成分[B] 光学異方性:負
モノマー成分[C]+[D] 光学異方性:負
さらに、位相差波長分散等式(4)を満たす。
Figure 0004313542
モノマー成分 [C]+[D]-0.88<モノマー成分[A]-0.85<モノマー成分[B]-0.73
【0114】
これにより、特定の条件を満たす3種類以上のモノマー成分からなる合成高分子を用いると、光学異方性が正+負の2種類のモノマー成分からなる合成高分子を用いた場合にはまず達成することの出来ない、広帯域性を有するλ/4またはλ/2等を達成する位相差フィルムが得られることが確認できた。
【0115】
なお、この位相差フィルムの耐候性試験として、60℃湿度90%、90℃湿度DRYにて、1000時間保持を実施したが、位相差変化、位相差波長分散特性の変化は見られず、耐候性の良い位相差フィルムとして使用できることが確認できた。
【0116】
また、この位相差フィルムを、偏光板の透過軸に対して、位相差フィルムの遅相軸を45°傾けて積層して、円偏光板を作成したが、400〜700nmにおける可視領域において、極めて良好な円偏光特性が得られた。
【0117】
[実施例2]
モノマー成分[A]と[B]とスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]を、X:Y;Z=40:30:30(モル%)の比率で共重合させたポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を用いた。このポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度175度で、1.5倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0118】
このフィルムは、測定波長において短波長ほど位相差が小さくなり、且つ延伸方向が面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は正であることを確認した。尚、R(550)=18.5nm、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ0.82、1.14であった。また、下記に示すLの値は0.04であった。式において、不等号を満たす。
L =〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.04<0.1
【0119】
また、このポリマーの組み合わせは、下記の通り負+負+正となる。
モノマー[A] 光学異方性:正
モノマー[B] 光学異方性:負
モノマー成分 [C]+[D] 光学異方性:負
この結果、位相差値がR(550)=18.5nmの低い値においても、位相差波長分散値に変化は見られず、広帯域性を有するλ/nを達成する位相差フィルムが得られることが確認できた。
【0120】
これにより、特定の条件を満たす3種類以上のモノマー成分からなる合成高分子を用いると、光学異方性が正+負の2種類のモノマー成分からなる合成高分子を用いた場合にはまず達成することの出来ない、広帯域性を有するλ/4またはλ/2等を達成する位相差フィルムが得られることが確認できた。
【0121】
なお、この位相差フィルムの耐候性試験として、60℃湿度90%、90℃湿度DRYにて、1000時間保持を実施したが、位相差変化、位相差波長分散特性の変化は見られず、耐候性の良い位相差フィルムとして使用できることが確認できた。
【0122】
[参考例1]
モノマー成分[A]100(モル%)で重合させたポリカーボネートを用いた。このポリカーボネートを塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度165度で、1.8倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0123】
このフィルムは、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ1.08、0.96であった。
【0124】
このフィルムは、延伸方向で面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は正であることを確認した。測定波長において短波長ほど位相差が大きくなった。
【0125】
さらにこのフィルムは下記式において、不等号は当てはまらなかった。
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.34>0.1
【0126】
この結果は、上記単独モノマーからなるホモポリマーでは、位相差波長分散が広帯域性を有するλ/4、λ/2等の位相差フィルムを満たすことが出来ないことを示している。
【0127】
[参考例2]
モノマー成分[B]100(モル%)で重合させた合成高分子を用いた。この合成高分子をクロロホルムに溶解させて10wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度245度で、1.8倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0128】
このフィルムは、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ1.15、0.94であった。
【0129】
このフィルムは、延伸方向に対して垂直方向が面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は負であることを確認した。測定波長において短波長ほど位相差が大きくなった。
【0130】
下記式において、不等号は当てはまらなかった。
L =〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.41>0.1
【0131】
上記参考例1同様、この結果は、上記単独モノマーからなるホモポリマーでは、位相差波長分散が広帯域性を有するλ/4、λ/2等の位相差フィルムを満たすことが出来ないことを示している。
【0132】
[参考例3]
モノマー成分としてスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]+[D]を用いた。この共重合体を塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度110度で、1.8倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0133】
このフィルムは、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ1.07、0.96であった。
【0134】
このフィルムは、延伸方向に対して垂直方向が面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は負であることを確認した。測定波長において短波長ほど位相差が大きくなった。
【0135】
下記式において、不等号は当てはまらなかった。
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.34>0.1
【0136】
上記参考例1同様、この結果は、上記単独モノマーからなるホモポリマーでは、位相差波長分散が広帯域性を有するλ/4、λ/2等の位相差フィルムを満たすことが出来ないことを示している。
【0137】
[参考例4]
モノマー成分[A]と[B]を33:67(モル%)の比率で共重合させたポリカーボネート共重合体を用いた。この変性ポリカーボネート共重合体を塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度230度で、1.8倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0138】
このフィルムは、測定波長において短波長ほど位相差が小さくなり、且つ延伸方向が面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は正であることを確認した。尚、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ0.81、1.06であった。
【0139】
このフィルムは上記参考例と同様に、下記式において、不等号は当てはまらなかった。
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.12>0.1
【0140】
この結果は、この2種類の正と負のポリマーでは、λ/4、λ/2等の位相差フィルムとして広帯域性が極めて高いレベルにあるとはいえないことを示している。
【0141】
[参考例5]
モノマー成分としてスチレン-イソプロペニルフェノール共重合体[C]+[D]とモノマー成分[A]をα:β=40:60の比率で共重合させたポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を用いた。このポリカーボネート-ポリスチレン共重合体を塩化メチレンに溶解させて18wt%のドープを作成した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、温度130度で、1.8倍で幅自由1軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0142】
このフィルムは、延伸方向で面内の屈折率がもっとも大きくなり、屈折率異方性は正であることを確認した。測定波長において短波長ほど位相差が大きくなった。尚、R(450)/R(550)及びR(650)/R(550)の値はそれぞれ1.09、0.97であった。
【0143】
このフィルムは下記式において、不等号は当てはまらなかった。
L=〔((450/550)-R(450)/R(550))2+((650/550)-R(650)/R(550))21/2=0.34>0.1
この結果は、この2種類の正と負のポリマーでは、λ/4、λ/2位相差等のフィルムとして広帯域性が十分高いものではないことを示している。
【0144】
【表3】
Figure 0004313542
【0145】
【発明の効果】
本発明によれば、短波長ほど位相差が小さい位相差フィルムを容易に得ることができ、λ/4、λ/2等の位相差フィルム、或いはλ/n(n>0)としてより理想的な広帯域性を1枚の位相差フィルムで得ることが可能となった。この位相差フィルムは、その材料を与える合成高分子として、3種類以上のモノマー成分の位相差波長分散値を選択することにより、位相差の波長分散特性を容易に制御しうるものである。そのような位相差波長分散性を有し且つ位相差をλ/4にした位相差フィルムは、偏光フィルムと組み合わされて優れた反射防止特性を有する円偏光フィルムを提供可能であり、また、反射型液晶表示装置、反透過反射型液晶表示装置、透過型液晶表示装置等と組み合わせて画質の向上に寄与することが出来るという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子P、高分子Qが共に正の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) > Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子P、高分子Q単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図2】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子P、高分子Qが共に正の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) < Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子P、高分子Q単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図3】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子P、高分子Qが共に負の光学異方性を示示し、且つRp(450)/Rp(550) > Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子P、高分子Q単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図4】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子P、高分子Qが共に負の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) < Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子P、高分子Q単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図5】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが正の光学異方性を示し、高分子Qが負の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) > Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子PとQ単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図6】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが正の光学異方性を示し、高分子Qが負の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) < Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子PとQ単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図7】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが負の光学異方性を示し、高分子Qが正の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) > Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子PとQ単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図8】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、体積分率αに対するR(450)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが負の光学異方性を示し、高分子Qが正の光学異方性を示し、且つRp(450)/Rp(550) < Rq(450)/Rq(550)の大小関係にある場合。ここで、Rp(450)、Rp(550)、Rq(450)、Rq(550)は、高分子PとQ単独でのそれぞれの波長450nm、550nm、650nmにおける高分子配向フィルムの面内位相差である。)
【図9】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、R(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子P、高分子Qが共に正、または負の光学異方性を示す場合。)
【図10】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、R(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが正の光学異方性を示し、高分子Qが負の光学異方性を示す場合。)
【図11】高分子Pと高分子Qの2成分からなる高分子ブレンドにおいて、R(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の変化を表す相関図。(高分子Pが負の光学異方性を示し、高分子Qが正の光学異方性を示す場合。)
【図12】高分子Pと高分子Q、高分子Xの3成分からなる高分子ブレンドにおいて、理想点Iを取りえるための高分子Xに必要とされるR(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の領域を表すモデル図。(高分子P、高分子Qが共に正、または負の光学異方性を示す場合。)
【図13】高分子Pと高分子Q、高分子Xの3成分からなる高分子ブレンドにおいて、理想点Iを取りえるための高分子Xに必要とされるR(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の領域を表す図。(高分子P、高分子Qが共に正の光学異方性を示し、高分子Xが負の光学異方性示す場合。)
【図14】高分子Pと高分子Q、高分子Xの3成分からなる高分子ブレンドにおいて、理想点Iを取りえるための高分子Xに必要とされるR(450)/R(550)の値とR(650)/R(550)の値の領域を表す図。(高分子P、高分子Qが共に負の光学異方性を示し、高分子Xが正の光学異方性示す場合。)

Claims (3)

  1. 単層にてλ/n(n>0)を広い波長領域で満たす位相差フィルムを製造する方法であって、
    下記条件(iii)及び(iv)を満足するように選択された少なくとも3種類のモノマー成分からなる合成高分子のフィルムを配向させることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
    (iii)上記モノマー成分のうち2つの成分は、そのモノマー成分からそれぞれ実質的に構成されるポリマーP’ab及びQ’cdがいずれも負の屈折率異方性を示し、他のモノマー成分から構成されるポリマーX’efの屈折率異方性が正を示す。
    (iv)上記P’ab及びQ’cdの位相差波長分散値をそれぞれ(a’、b’)、(c’、d’)としたとき、ポリマーX’efの位相差波長分散値(e’、f’)が下記式(3)または(4)を満たす。
    (650/550-b')/(450/550-a')>(650/550-f')/(450/550-e')>(650/550-d')/(450/550-c')
    (3)
    (650/550-b')/(450/550-a')<(650/550-f')/(450/550-e')<(650/550-d')/(450/550-c')
    (4)
    (ここで、位相差波長分散値(a’、b’)(c’、d’)及び(e’、f’)は、波長450nm、550nm、650nmにおける位相差フィルムの面内位相差をR(450)、R(550)、R(650)としたときの(R(450)/R(550)、R(650)/R(550))を示す。)
  2. 少なくとも3種類のモノマー成分のうちの1つのモノマー成分が、フルオレン環を有するものである、請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
  3. 合成高分子がポリカーボネートである、請求項1または2記載の位相差フィルムの製造方法。
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