JP4313045B2 - 蛋白質毒素中和剤 - Google Patents
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Description
本発明は、ホップより得られるプロアントシアニジン類を有効成分として含有する蛋白質毒素中和剤に関する。
背景技術
ホップはアサ科の多年生植物であり、その毬花(未受精の雌花が成熟したもの)を一般にホップと呼んでいる。ホップにはこの花部の他、葉、蔓、根などの各部が存在する。ホップの毬花に存在するルプリン部分(球果の内苞の根元に形成される黄色の顆粒)は、ホップの苦味、芳香の本体であり、ビール醸造において酵母、麦芽と並んで重要なビール原料である。またホップは、民間療法では鎮静剤や抗催淫剤として通用している。ホップ苞はホップ毬花よりルプリン部分を除いたものであり、ビール醸造には有用とされず、場合によってはビール醸造の際に取り除かれ、副産物として生じる。その際、ホップ苞は土壌改良用の肥料として用いられる他に特に有効な利用法は見い出されておらず、より付加価値の高い利用法の開発が望まれている。
なお、本出願人の出願にかかる特開平09−2971号、特願平09−163969号、特開平09−295944号、特開平10−25232号、特開2000−327582号、特開2001−39886号公報ではホップ、特にホップ苞由来のポリフェノール類について、抗酸化作用、発泡麦芽飲料に対する泡安定化作用、抗う蝕作用、消臭作用、癌細胞転移抑制作用、トポイソメラーゼ阻害作用を有することを確認している。
しかし、ホップ由来のプロアントシアニジン類について、蛋白質毒素の中和効果を明らかにした例はこれまでに見あたらない。ここでいう蛋白質毒素とは、コレラ菌が産生するコレラ毒素、O−157などの腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素などの、病原性菌が産生する細菌性毒素や、ハブ、マムシなどの蛇毒素、リシンなどの植物毒素などが相当し、その毒素本体が蛋白質であるものであれば、特にこれを限定しない。
発明が解決しようとする課題
WHOの報告によると、感染症による死者は全世界で年間2000万人にも達するとされ、20世紀における医療技術の大きな進展にもかかわらず、感染症は人類に対する最大の脅威のひとつとなっている。
感染症の中でも、コレラ、百日咳、ジフテリア、毒素原性大腸菌による下痢症、緑膿菌による日和見感染症などは、各々の病因菌がADP−リボシルトランスフェラーゼ作用を有する菌体外毒素を産生し、それらの菌体外毒素が生体内の機能性蛋白質を修飾することによりその本来の機能を失わせ、病態を発現させることが知られている。すなわち、コレラ菌が産生するコレラ毒素、百日咳菌が産生する百日咳毒素、毒素原性大腸菌が産生する易熱性腸管毒(LT)、緑膿菌が産生するエクソトキシン、ボツリヌス菌が産生するボツリヌスC2毒素、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が産生するイオタ毒素などは、ADP−リボシルトランスフェラーゼ作用を有する蛋白質毒素(ADP−リボシル化毒素)である。
ADP−リボシルトランスフェラーゼ作用とは、生体内補酵素であるNADよりニコチンアミドを切り出し、残りのADP−リボース部分を標的蛋白質に不可逆的に転移させる作用であり、ADP−リボース部分を転移された標的蛋白質は、その生体内機能を不可逆的に失うこととなる。例えば、ジフテリア毒素、緑膿菌のエクソトキシンAはペプチド伸長因子EF−2をADP−リボシル化し、コレラ毒素、毒素原性大腸菌のLTはGsαをADP−リボシル化することが知られている。
ADP−リボシル化毒素を病原因子とする感染症による疾病は、全世界で多発しており、例えばWHOの報告によると、コレラの感染者数は一年に十数万人に及ぶ。すなわち、ADP−リボシル化毒素を病原因子とする感染症は今日でもなお人類に対する大きな脅威となっている。
また一方、赤痢、ベロ毒素産生性大腸菌(VTEC)による出血性大腸炎などは、各々の病因菌がRNA N−グリコシダーゼ作用を有する菌体外毒素を産生し、それらの菌体外毒素が生体内の機能性蛋白質を修飾することによりその本来の機能を失わせ、病態を発現させることが知られている。すなわち、赤痢菌が産生する志賀毒素、VTECが産生するベロ毒素(あるいは志賀様毒素とも称される)などは、RNA N−グリコシダーゼ作用を有する蛋白質毒素(RNA N−グリコシル化毒素)である。
RNA N−グリコシダーゼ作用とは、RNAのN−グリコシド結合を酵素的に加水分解する作用であり、この作用を持つ蛋白質毒素は、細胞の持つ蛋白質合成装置であるリボゾーム中のリボゾーマルRNAを修飾し、不可逆的に不活化することによって細胞の蛋白質合成を停止させ、毒性を発現することが知られている。例えば、志賀毒素、ベロ毒素などは28SリボゾーマルRNAの5’末端から4324番目のアデノシンのN−グリコシド結合を特異的に加水分解する。
RNA N−グリコシル化毒素を病原因子とする感染症の中でも、VTECによる感染症は近年先進国、発展途上国を問わず世界的に頻発しており、特にベロ毒素が血中に移行してしまった場合には、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症を発症し、死亡あるいは後遺症が残る場合もある、恐ろしい感染症である。日本でも、1996年に大阪府で6,000名を超える感染者を出す空前の食中毒事件が起こった事は記憶に新しい。
現在、ADP−リボシル化毒素、あるいはRNA N−グリコシル化毒素を病原因子とする感染症の治療には、病原菌に対する抗菌作用を持つ抗生物質が一般に用いられているが、抗生物質の投与によりその抗生物質に耐性の、より強力な病原菌が出現することが実際の医療現場では大きな問題となっており、抗生物質を用いない新たな治療法の開発が求められている。特にVTECによる感染症の場合、抗生物質の投与によりむしろ大量のベロ毒素がVTECによって生産され、症状をより重篤化させる(Matsushiro et al.,J.Bacteriol.,181,2257−2260(1999))とも言われており、抗生物質の投与に対する否定的な意見も多い。すなわち、抗生物質など、菌を死滅させる物質を用いない新たな医療方法の確立が早急に求められているのが実情である。
本発明者らは、これらの現状に鑑み、感染症を引き起こす菌を死滅させるのではなく、感染症を引き起こす菌が産生する蛋白質毒素を中和解毒する因子を見出すことにより、問題を解決することを試みた。もしも蛋白質毒素の効果的な中和因子、特にADP−リボシルトランスフェラーゼ作用、およびRNA N−グリコシダーゼ作用を持つ蛋白質毒素の効果的な中和因子が見出されれば、その医学、産業上の意義には測り知れないものがある。
発明の開示
本発明者らは、鋭意検討の結果、ホップ中に存在するポリフェノールの一種が、ADP−リボシルトランスフェラーゼ作用およびRNA N−グリコシダーゼ作用を持つ蛋白質毒素を効果的に無毒化することを見出し、本発明を完成した。このポリフェノールは、ホップの茎および苞部分に含有され、特に苞部分に大量に含有される。このポリフェノールは、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂などのポリフェノールと親和性を示す樹脂に吸着され、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない性質を持ち、さらに5%程度の塩酸を含むアルコール溶液中で加熱した際には加水分解されシアニジンを生じる、プロアントシアニジン類である。
またこのプロアントシアニジン類は、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析において図1のようなクロマトグラムを与え、一方、吸光度分析において図2のような吸光度分布を与える。
すなわち、本発明は、ホップ、好ましくはホップ苞部分に含有されるプロアントシアニジン類を有効成分として含有する蛋白質毒素中和剤に関する。
発明を実施するための最良の形態
本発明の蛋白質毒素中和剤の原料としては、ホップの蔓や苞部分が好適であるが、特にホップの各部を分離せずに、全体を使用することもできる。ホップ苞とは、ホップ毬果よりルプリン部分を取り除いて得られるものであり、一般に、ホップ毬果を粉砕後、ふるい分けによってルプリン部分を除くことによってホップ苞を得る。しかし、最近のビール醸造において、ホップ苞をふるい分けして除去する手間を省くために、ビール醸造に有用でないホップ苞を取り除かずにホップ毬果をそのままペレット状に成形し、ホップペレットとして、ビール醸造に利用する傾向にある。従って、本発明の原料として、ホップの蔓や苞を含むものであれば特に限定せず、ホップ苞を含むホップ毬果やホップペレットを原料としてもなんら問題ない。
蛋白質毒素中和剤の製造法としては、ホップ蔓、苞、またはホップ苞を含むホップ毬果やホップペレット、あるいはそれらのホップ植物体の部分を含むものを原料とし、これを水または80v/v%以下のアルコール、アセトン、アセトニトリルなどの水と混和する有機溶媒の水溶液で抽出する。好適な例としては、エタノール50v/v%以下の含水エタノールが挙げられる。原料と抽出溶媒の割合は、1:20〜100(重量比)程度が望ましく、また抽出は4〜95℃、撹拌下、20〜60分間程度行われることが望ましい。濾過により抽出液を得るが、その際必要があればパーライトなどの濾過助材を用いることもできる。
かくして得られた抽出液より溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、蛋白質毒素中和剤を粉末として得ることができる。ここで得られた蛋白質毒素中和剤は十分に実用に供しうるが、必要があれば以下に述べる吸着樹脂を用いる方法によってさらにその精製度を上げることもできる。ただしこの過程はあくまで蛋白質毒素中和剤の精製度を上げるための工程であり、必要がなければ省略することもできる。
上記抽出液をポリフェノール類と親和性を持つ合成樹脂を粒状にしたものにより処理し、蛋白質毒素中和剤を濃縮する。この工程は、粒状の合成樹脂を充填したカラムにホップ抽出液を通液し、カラムを十分に洗浄した後、カラムに吸着された蛋白質毒素中和剤を溶出してもよいし、粒状の樹脂をホップ抽出液に浸漬し、バッチ処理して行う事も出来る。
合成樹脂に蛋白質毒素中和剤を吸着させる際には、ホップ抽出液を15〜30℃の室温程度まで冷却した後、必要があれば、吸着効率を上げるために、減圧濃縮などによりあらかじめ抽出液の有機溶媒濃度を下げておくことが望ましい。合成吸着剤の材質としては、ヒドロキシプロピル化デキストラン、親水性ビニルポリマー、スチレン−ジビニルベンゼン重合体などを用いる事も出来る。
次いで合成樹脂を洗浄し、蛋白質毒素中和剤の精製度をよりあげることができる。洗浄に用いる溶媒としては、水ないし1〜10w/w%のエタノール水溶液が好適であり、樹脂量の1〜10倍程度の溶媒量を用い、洗浄することが望ましい。
続いて、ポリフェノール類を吸着した合成樹脂より蛋白質毒素中和剤を脱離溶出する。溶出に用いる溶媒としては含水アルコール、含水アセトン、含水アセトニトリルなどを用いることができ、特に好適な例としては30w/w%以上のエタノール水溶液またはエタノールが挙げられる。溶出溶媒の通液量は樹脂量の2〜6倍程度が望ましい。
得られた溶出液より溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、蛋白質毒素中和剤を粉末として得ることができる。また減圧濃縮の際、アルコール、アセトン、アセトニトリルなどを回収し、再利用することもできる。使用した合成樹脂は80v/v%以上のアルコール水溶液、0.05N程度の水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄した後、繰り返し使用することが可能である。
かくして得られた蛋白質毒素中和剤は、そのまま実用に供する事も出来るが、以下に述べるような限外ろ過膜を用いる方法によって、さらに精製度を上げる事も出来る。ただしこの過程はあくまで蛋白質毒素中和剤の精製度を上げるための工程であり、必要がなければ省略することもできる。
上記方法で得られた蛋白質毒素中和剤を、水、あるいは水と混和する有機溶媒に溶解し、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜で処理する。膜の素材としては、セルロース、セルロースアセテート、ポリサルフォン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、PVDFなど、通常限外ろ過膜の材質として使用するものであれば、特に制限なく用いることができる。また分画分子量は1,000以上であれば特に問題なく用いることができるが、あまり分画分子量の大きい膜を用いると、収量が極端に下がり、また分画分子量が小さい場合は、処理に要する時間が長くなるので、分画分子量5,000〜50,000程度の限外ろ過膜が好適である。また処理は、抽出溶媒の種類や抽出溶媒とホップまたはホップ苞の割合にもよるが、およそ上残り液の量が処理開始時の1/10〜1/100程度になるまで行うのが望ましい。その際の圧力は、限外ろ過膜やろ過装置にもよるが、およそ0.1〜10.0kg/cm2であることが望ましい。また必要があれば、一度処理した上残り液を再び水などの適当な溶媒で薄め、同様に再処理して精製度を高めることもできる。
得られた上残り液の溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、蛋白質毒素中和剤を粉末として得ることができる。また減圧濃縮の際、アルコール、アセトン、アセトニトリルなどを回収し、再利用することもできる。
このようにして得られた蛋白質毒素中和剤は、かすかに苦味を呈した無臭の肌色、褐色ないし淡黄色の粉末であり、ポリフェノールと親和性を持つ合成樹脂に吸着し、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しないプロアントシアニジンである。
なお収率は、ホップ苞重量換算で0.5〜20.0w/w%、ホップ毬果重量換算で0.5〜15.0w/w%である。
得られた蛋白質毒素中和剤は、一般に使用される担体、助剤、添加剤等とともに製剤化することができ、常法に従って経口、非経口の製品として医薬品として用いることができ、また食品素材と混合して飲食品とすることができる。
医薬品は経口剤として錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シラップ剤などが、非経口剤として軟膏剤、クリーム、水剤などの外用剤、無菌溶液剤や懸濁剤などの注射剤などがある。これらの製品を医薬として人体に投与するときは、2〜500mgを1日に1ないしは数回、すなわち2〜1,000mgの全日量で投与し、十分にその効果を奏しうるものである。
本発明の蛋白質毒素中和剤を含有する医薬品は、生理的に認めうるベヒクル、担体、賦形剤、統合剤、安定剤、香味剤などとともに要求される単位容量形態をとることができる。錠剤、カプセル剤に混和される佐薬は次のようなものである。トラガント、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチンのような結合剤、微晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、全ゼラチン化澱粉、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、ショ糖、乳糖、サッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油、チェリーのような香味剤など。また、カプセル剤の場合は上記の材料に更に油脂のような液体担体を含有することができ、また、他の材料は被覆剤として、または製剤の物理的形態を別な方法で変化させることができる。例えば、錠剤はシェラック、砂糖で被覆することができる。シロップまたはエリキシル剤は、甘味剤としてショ糖、防腐剤としてメチルまたはプロピルパラベン、色素およびチェリーまたはオレンジ香味のような香味剤を含有することができる。
注射剤のための無菌組成物は、注射用水のようなベヒクル中の活性物質、ゴマ油、ヤシ油、落花生油、綿実油のような天然産出植物油、またはエチルオレートのような合成脂肪ベヒクルを溶解または懸濁させる通常の方法によって処方することができる。また、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤などを必要に応じて配合することができる。外用剤としては基材としてワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールなどを用い、通常の方法によって軟膏剤、クリーム剤などとすることができる。
本発明の蛋白質毒素中和剤を含有した飲食品は、上記製剤の形態でもよいが、あめ、せんべい、クッキー、飲料などの形態でそれぞれの食品原料に所要量を加えて、一般の製造法により加工製造することもできる。健康食品、機能性食品としての摂取は、病気予防、健康維持に用いられるので、経口摂取として1日数回に分けて、全日量として5〜500mgを含む加工品として摂取される。
これらの飲食品に蛋白質毒素中和剤を添加する際には、蛋白質毒素中和剤を粉末のまま添加してもよいが、好ましくは蛋白質毒素中和剤を1〜2%の水溶液またはアルコール水溶液の溶液あるいはアルコール溶液とし、飲食品に対し最終濃度が1〜500ppm、好ましくは10〜100ppmとなるように添加することが望ましい。
実施例
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1(ゲル型合成吸着剤によるホップ毬果からの蛋白質毒素中和剤の調製)
ホップ毬果20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で撹拌下、95℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を親水性ビニルポリマー樹脂80mlを充填したカラムに通液し、次いで400mlの5%エタノール水溶液で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mlを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して、蛋白質毒素中和剤800mgを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップからの収率は4%であった。
実施例2(ゲル型合成吸着剤によるホップ苞からの蛋白質毒素中和剤の調製)
ホップ苞20gを600mlの50%エタノール水溶液で撹拌下、30℃、20分間抽出した。ろ過後、減圧濃縮し、その濃縮液をスチレン−ジビニルベンゼン樹脂80mlを充填したカラムに通液し、次いで400mlの水で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mlを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して、蛋白質毒素中和剤1.6gを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップ苞からの収率は8%であった。
実施例3(限外ろ過膜によるホップ毬果からの蛋白質毒素中和剤の調製)
ホップ毬果20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で撹拌下、95℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を分画分子量が50,000の限外ろ過膜により、1.0kg/cm2、室温下、20mlになるまで処理した。得られた上残り液を減圧乾固し、蛋白質毒素中和剤200mgを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップからの収率は1%であった。
実施例4(限外ろ過膜によるホップ苞からの蛋白質毒素中和剤の調製)
ホップ苞20gを600mlの50%エタノール水溶液で撹拌下、80℃、40分間抽出した。ろ過後、抽出液を分画分子量が1,000の限外ろ過膜により、3.0kg/cm2、室温下、60mlになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して、蛋白質毒素中和剤0.8gを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップ苞からの収率は4%であった。
実施例5(蛋白質毒素中和剤のさらなる精製および定性分析)
実施例2で得た蛋白質毒素中和剤0.8gを、500mlの10%エタノール水溶液に溶解し、分画分子量が5,000の限外ろ過膜により、1.0kg/cm2、室温下、20mlになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して、蛋白質毒素中和剤0.4gを無臭のかすかに苦味を呈した肌色の粉末として得た。この粉末を下記に示すような条件でHPLC分析すると、図3に示すような特徴的なクロマトグラムとなり、また一般的なポリフェノール類の定量法のひとつであるカテキン定量(食品公定分析法)を行ったところカテキン含量に換算して40.6%の値を得た。
(HPLC条件)装置:島津LC−10Aシステム、カラム:ODS−80TM(東ソー、4.6mmI.D.×25cm)、移動相:(A液:B液)=(100:0)から同(50:50)まで30分間の直線グラディエント、A液:5%アセトニトリル(0.1%HCl含有)、B液:アセトニトリル、サンプル注入量:20μg、検出:200−300nmでの多波長検出。
実施例6(錠剤、カプセル剤)
実施例5に従って得た物質 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加した錠剤、カプセル剤も同様に得た。
実施例7(散剤、顆粒剤)
実施例5に従って得た物質 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加した散剤、顆粒剤も同様に得た。
実施例8(注射剤)
実施例5に従って得た物質 1.0g
界面活性剤 9.0g
生理食塩水 90.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を加熱混合、滅菌して注射剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加した散剤、顆粒剤も同様に得た。
実施例9(飴)
ショ糖 20.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
着色料 0.45g
香 料 0.045g
実施例5に従って得た物質 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加した飴も同様に得た。
実施例10(ジュース)
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 5.0g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5に従って得た物質 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加したジュースも同様に得た。
実施例11(クッキー)
薄力粉 32.0g
全 卵 16.0g
バター 16.0g
砂 糖 25.0g
水 10.8g
ベーキングパウダー 0.198g
実施例5に従って得た物質 0.002g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってクッキーとした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4に従って得た物質を添加したクッキーも同様に得た。
比較例1
服部らの方法(M.Hattori et al.,Chem.Pharm.Bull.,38,717−720(1990))を参考にして緑茶よりポリフェノール画分を調整した。静岡県産緑茶葉10gを200mlの沸騰した湯で抽出した。抽出液を凍結乾燥し(2.7g)、30%のメタノールに溶解した後ODSカラム(15mmI.D.×10cm)に通液した。溶出液を凍結乾燥しポリフェノール画分2.4gを黄色粉末として得た。
実施例12 コレラ毒素のADPリボシルトランスフェラーゼ作用の抑制効果 アッセイはノダらの方法(Noda M.et al.,Biochemistry,28,7936(1989))を基にして行った。はじめに下記組成のコレラ毒素溶液、およびNAD反応溶液を調製した。このコレラ毒素溶液20μl、各種濃度の実施例5に従って得た物質を含むPBS溶液20μl、蒸留水60μlの混合液に、NAD反応溶液100μlを加え、30℃、90分間インキュベートした。インキュベート後、この反応液から150μlを採取し、0.5cm×4cmのカラムに集めたダウエックスAG1−X2(Bio−Rad社)に通液して未反応のアデニン−14C NADを除き、形成されるアデニン−14C ADP−リボシル化アグマチン量を液体シンチレーションカウンタ(ベックマンLS6500)にて測定した。アデニン−14C ADP−リボシル化アグマチンの形成量を指標に、ADP−リボシルトランスフェラーゼ活性を測定した。その結果を図4に示す。実施例5に従って得た物質はコレラ毒素の持つADP−リボシルトランスフェラーゼ作用を濃度依存的に中和した。
コレラ毒素溶液の組成:1mg/mlコレラ毒素180μl、1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)60μl、1Mジチオトレイトール水溶液120μl、蒸留水840μlを混合し、37℃で20分間インキュベートし、コレラ毒素溶液とした。
NAD反応溶液の組成:1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.5)190μl、0.1M MgCl2水溶液190μl、1Mジチオトレイトール水溶液76μl、10mg/mlオボアルブミン38μl、1Mアグマチン76μl、14C NAD(25uCi/ml)19μl、蒸留水1311μlを混合し、14C NAD反応溶液とした。
実施例13 マウス腸管におけるコレラ毒素の液体貯留毒性の中和効果
生後5〜6週齢、体重19−21gの雌ddYマウスを麻酔下開腹し、その回腸部約5cmを結紮し、袋状のループを作成した。ループ中に、一定量(2μg)のコレラ毒素と各種濃度の実施例5に従って得た物質を含有する溶液200μlずつを注入した。マウスを閉腹し、6時間安静に保ったのち、安楽死させてループ中に貯留した液体の重量とループ長さを測定した。ループ長さ当たりの液体の重量(mg/cm)を算出し、コレラ毒素による毒性の指標とした。結果を図5に示す。実施例5に従って得た物質はコレラ毒素による液体貯留を濃度依存的に中和した。
実施例14 ベロ毒素によるRNA N−グリコシダーゼ作用の抑制効果
一定濃度(240nM)のベロ毒素水溶液5μl、240−2400μg/mlの実施例5に従って得た物質の水溶液5μlを混合し、室温で1時間放置した。放置後、混合液に以下の組成に調製したウサギ網状赤血球溶解液50μlを加え、30℃水浴上で20分間蛋白質合成反応を行わせた。反応後、サンプルを氷上に移し、10%トリクロロ酢酸水溶液1mlを加え、さらに沸騰水上で10分間煮沸して反応を停止した。試料を氷冷後、合成された蛋白質をニトロセルロースフィルタに吸着させ、10%トリクロロ酢酸水溶液1mlで2回洗浄し、乾燥後シンチレーションカウンタにて放射活性を測定した。
その結果を図6に示す。実施例5に従って得た物質はベロ毒素による蛋白質合成阻害を濃度依存的に抑制した。これは実施例5に従って得た物質がベロ毒素によるRNA N−グリコシダーゼ作用を抑制したことを示す。
ウサギ網状赤血球溶解液の組成:50mMアデノシン−3リン酸水溶液15μl、10mMグアノシン−3リン酸水溶液15μl、300mMクレアチンリン酸水溶液30μl、1mg/mlクレアチンキナーゼ水溶液10μl、1Mジチオトレイトール水溶液4μl、1M HEPES緩衝液(pH7.5)10μl,3M塩化カリウム水溶液15μl、100mM酢酸マグネシウム水溶液15μl、Leu以外のアミノ酸を各々5mM含む水溶液15μl、100uCi/ml 14C−Leu水溶液50μl、4mg/mlヘミン水溶液4μl、ウサギ網状赤血球溶血液500μl。
実施例15 ベロ細胞に対するベロ毒素の細胞毒性の中和効果
あらかじめ、2.0×105cells/mlに調整したベロ細胞懸濁液100μlを96穴プレートに分注し、一晩放置してベロ細胞の単層膜を調製した。これに一定濃度のベロ毒素と、各種濃度の実施例5または比較例1に従って得た物質を含むPBS溶液トータル80μlを10μl加え、5%CO2、37℃インキュベータ中48時間培養した。培養後、Cell Counting Kit(同仁化学)にてベロ細胞の生存率を測定した。その結果を図7に示す。比較例1に従って得た物質が全く効果を示さなかったのに対し、実施例5に従って得た物質はベロ毒素のベロ細胞に対する細胞毒性を濃度依存的に中和した。
実施例16 ウサギ腸管におけるベロ毒素の液体貯留毒性の中和効果
生後11−13週齢、体重約2kgの雄日本白色ウサギを麻酔下開腹し、その回腸部約10cmを結紮し、袋状のループを作成した。ループ中に、一定量のベロ毒素と各種量の実施例5に従って得た物質を含有するPBS溶液1mlずつを注入した。ウサギを閉腹し、1昼夜安静に保ったのち、安楽死させ、ループ中に貯留した液体の体積とループ長さを測定した。ループ長さ当たりの液体の重量(ml/cm)を算出し、ベロ毒素による毒性の指標とした。結果を図8に示す。実施例5に従って得た物質はベロ毒素の細胞毒性を濃度依存的に中和した。
産業上の利用の可能性
本発明の蛋白質毒素中和剤は、ホップ由来のプロアントシアニジン類を有効性分として含有し、ADP−リボシルトランスフェラーゼ作用またはRNA N−グリコシダーゼ作用を持つ細菌毒素を中和することにより、ADP−リボシルトランスフェラーゼ産生菌またはRNA N−グリコシダーゼ産生菌による感染症の予防/治療に優れた効果を表す。
【図面の簡単な説明】
図1はホップ由来のプロアントシアニジン類のGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析結果を示す図である。
図2はホップ由来のプロアントシアニジン類の吸光度分布を示す図である。
図3はホップ由来のプロアントシアニジン類のHPLC分析結果を示す図である。
図4は実施例12の結果を示す図である。縦軸は放射活性を表す。対照はコレラ毒素無添加時の実験結果を示す。カラムの高さは実験値(n=3)の平均値であり、エラーバーはその標準誤差を示す。
図5は実施例13の結果を示す図である。縦軸はマウス腸管ループ内に貯留した液体の単位長さあたりの重量(mg/cm)を表す。カラムの高さは実験値(n=3)の平均値であり、エラーバーはその標準誤差を示す。
図6は実施例14の結果を示す図である。縦軸には放射活性を、ベロ毒素無添加時を100%として表す。カラムの高さは実験値(n=3)の平均値であり、エラーバーはその標準誤差を示す。
図7は実施例15の結果を示す図である。縦軸に生存した細胞の割合を、横軸に実施例5または比較例1に従って得た物質の添加量(μg/ml)を示す。ベロ毒素の添加量は最終濃度で62pg/mlである。◆は実施例5に従って得た物質、■は比較例1に従って得た物質の実験結果をそれぞれ示す。縦軸の数値は各々実験値(n=3)の平均値であり、エラーバーはその標準誤差を示す。
図8は実施例16の結果を示す図である。縦軸はループ長さ当たりの液体の重量(ml/cm)を示す。横軸の「PBS」はループ中にPBSのみを加えたもの、「HBT500」は実施例5のみを500μg加えたもの、「VT」はベロ毒素のみを100ng加えたもの、「VT+HBT0.8〜500」は、ベロ毒素100ngと実施例5に従って得た物質を各々0.8〜500μgずつ加えたものの実験結果を示す。縦軸の数値は各々実験値(n=3)の平均値であり、エラーバーはその標準誤差を示す。
Claims (2)
- ホップ又はホップ苞に含有される分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜を透過しないプロアントシアニジンを有効成分として含有する、RNA N−グリコシダーゼ活性を持つ蛋白質毒素の中和剤。
- 前記蛋白質毒素がベロ毒素である請求項1記載の蛋白質毒素の中和剤。
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