JP4304655B2 - 熱可塑性エラストマ樹脂組成物、その製造方法および成形体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、柔軟で、耐熱性や機械的性質に優れるばかりか、射出成形などの成形性が良好で、成形品の表面外観が美しく、硬質樹脂との接着性にも優れた熱可塑性エラストマ樹脂組成物、その製造方法、およびそれを使用した成形体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位またはポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体は、柔軟でゴム的性質を有し、機械的物性が高く、高温特性、低温特性、耐油性、および耐薬品性などの多くの特性が優れる成形用材料であり、これらの物性バランスが良いことから、その用途を、シート、フィルム、繊維などの産業資材や自動車および電気・電子部品に拡大してきた。
【0003】
しかし、このようなポリエステルブロック共重合体の特長を保持したままで、これをより柔軟化することを試みた場合には限界があり、その用途展開に制限を受けていた。また、柔軟なポリエステルブロック共重合体では、硬質樹脂との接着性も不十分であった。
【0004】
ポリエステルブロック共重合体の柔軟性を改良する従来の試みとしては、水添SBSブロックコポリマーなどの熱可塑性弾性体とポリエステル系熱可塑性エラストマからなる組成物(例えば、特許文献1参照)、およびスチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体とゴム用軟化剤とポリエステル系エラストマとからなる組成物(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【0005】
一方、ポリエステルブロック共重合体に可塑剤を配合した組成物(例えば、特許文献3および4参照)、ポリエステルブロック共重合体に変性された水添スチレン−ブタジエンブロック共重合体と可塑剤を配合した組成物およびポリエステルブロック共重合体に水添スチレン−イソプレンブロック共重合体と可塑剤を配合した組成物(例えば、特許文献5参照)、および熱可塑性ポリエステルエラストマーに水添ジエン系共重合体と可塑剤を配合した組成物(例えば、特許文献6参照)もすでに提案されている。
【0006】
上記した従来の提案によれば、確かに従来のポリエステルブロック共重合体に比べて柔軟な樹脂組成物を得ることができるが、これらの技術をもってしても柔軟化できる範囲には限界があり、より柔軟なものを得ようとすると、耐熱性や機械的性質が大きく低下したり、表層剥離が生じて成形品表面が剥がれてきたり、激しいブリードアウトが起きて成形品表面外観が著しく低下したりするため、実際の製品として使用する際に問題となる現状にあった。
【0007】
また、上記した従来技術を実際に用いた場合には、樹脂組成物の溶融流動性が不足していて射出成形しにくいことが多く、これを解消するために可塑剤あるいはゴム用軟化剤を単独で配合すると、十分な溶融流動性を得ようとした際には、成形品がブリードアウトを生じて外観不良をきたすという不都合があった。さらに、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と呼ぶ)およびポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂(以下、PCTA樹脂と呼ぶ)のような硬質樹脂と接着させた場合には、それらとの接着力が十分に高いとはいえないという問題もあった。
【0008】
【特許文献1】
特開平3−100045号公報
【特許文献2】
特開平1−193352号公報
【特許文献3】
特開平2−043251号公報
【特許文献4】
特開平3−109458号公報
【特許文献5】
特開平8−277359号公報
【特許文献6】
特開平4−323250号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、柔軟で、耐熱性や機械的性質に優れるばかりか、溶融流動性が良好で射出成形性が優れ、成形品に表層剥離がなく、ブリードアウトも起こらないことにより成形品表面外観に優れ、しかもポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PBT樹脂、PCTA樹脂のような硬質樹脂と接着させた場合の接着力が十分に高い熱可塑性エラストマ樹脂組成物、その製造方法、およびそれを使用した成形体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステルブロック共重合体に対し、水素添加されたスチレン系エラストマとエステル系可塑剤とパラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイルとを配合した組成物により、上記の目的が効果的に達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10〜95重量%と、水素添加されたスチレン系エラストマ(B)90〜5重量%との合計100重量部に対し、ベンゾエート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、およびピロメリット酸エステル系可塑剤から選ばれた1種以上の化合物であるエステル系可塑剤(C)1〜100重量部と、パラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイル(D)1〜100重量部とを配合したことを特徴とする。
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物においては、
前記ポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a)が、ポリブチレンテレフタレート単位、またはポリブチレンテレフタレート単位とポリブチレンイソフタレート単位からなること、
前記ポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体からなり、その共重合量が40〜80重量%であるであること、
前記水素添加されたスチレン系エラストマ(B)が、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン/ブタジエンブロック共重合体、および水素添加スチレンブタジエンラバーから選ばれた1種以上であること、
前記水素添加されたスチレン系エラストマ(B)が変性されたものであること、
が、いずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用することにより、一層優れた効果の取得を期待することができる。
【0013】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の製造方法は、前記エステル系可塑剤(C)をポリエステルブロック共重合体(A)に予め配合させ、別途、前記パラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイル(D)を水素添加されたスチレン系エラストマ(B)に予め配合させ、次いで、それらを含む材料を溶融混合することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の成形体は、上記熱可塑性エラストマ樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とし、
硬質樹脂と上記熱可塑性エラストマ樹脂組成物とからなる複合成形体であること、および
ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PBT樹脂、およびPCTA樹脂から選ばれた硬質樹脂の1種以上と上記熱可塑性エラストマ樹脂組成物とからなる複合成形体であること、
がいずれも好ましい条件として挙げられる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0017】
上記ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル,4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0018】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール、およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。そして、好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a)の例としては、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0019】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルであり、脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。
【0020】
また、上記脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、およびポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましい。また、これらの低融点重合体セグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0021】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)の共重合量は、通常、10〜90重量%、好ましくは20〜85重量%、さらに好ましくは40〜80重量%である。
【0022】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができ、その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、および低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、および高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法などが挙げられる。また、ポリ(ε−カプロラクトン)を低融点重合体セグメントに用いる場合は、高融点結晶性セグメントにε−カプロラクトンモノマを付加反応させるなど、いずれの方法をとってもよい。
【0023】
本発明に用いられる水素添加されたスチレン系エラストマ(B)は、芳香族ビニル系単量体からなるブロックと、共役ジエンからなるブロックから形成されるスチレン系ブロック共重合体や、芳香族ビニル系単量体と共役ジエンからなるスチレンブタジエンラバーを水素添加して得られるものである。
【0024】
上記芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、およびo,p−ジクロルスチレンなどが挙げられる。
【0025】
また、共役ジエンの具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ブタジエン/イソプレン共重合体、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、およびクロロプレンなどが挙げられる。
【0026】
これらの中でも、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン/ブタジエンブロック共重合体、および水素添加スチレンブタジエンラバーが好ましい。
【0027】
本発明に用いられる水素添加されたスチレン系ブロック共重合体(B)は、変性されていてもよい。変性はカルボキシル基含有不飽和化合物または酸無水物含有不飽和化合物、あるいはエポキシ基含有モノマーによって行われる。カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、およびマレイン酸などが挙げられる。酸無水物含有不飽和化合物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ブテニル無水コハク酸、およびテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。エポキシ基含有モノマーの具体例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
変性された水素添加スチレン系ブロック共重合体の中でも、特に変性された水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、変性された水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、変性された水素添加スチレン−イソプレン/ブタジエン共重合体、および変性された水素添加スチレンブタジエンラバーが好ましい。
【0029】
本発明においては、ポリエステルブロック共重合体(A)10〜95重量%に対し、水素添加されたスチレン系エラストマ(B)を90〜5重量%、好ましくは85〜7重量%、さらに好ましくは80〜10重量%配合する。ポリエステルブロック共重合体(A)の配合量が上記の範囲未満では、樹脂組成物の耐熱性、耐薬品性、成形性などが不十分となるため好ましくない。また、ポリエステルブロック共重合体(A)の配合量が上記の範囲を越えると、樹脂組成物の柔軟性が不十分となるため好ましくない。
【0030】
本発明に用いられるエステル系可塑剤(C)の具体例としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸イソデシルエステルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸オクチルエステルなどのピロメリット酸エステル系可塑剤、ジエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、グリセリルトリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールエタントリベンゾエートなどのベンゾエート系可塑剤などを挙げることができ、これらの中でもベンゾエート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤から選ばれる1種以上の化合物であることが好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物において、エステル系可塑剤(C)は、ポリエステルブロック共重合体(A)と水素添加されたスチレン系エラストマ(B)との合計100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは3〜50重量部が配合される。エステル系可塑剤(C)の配合量が上記の範囲に満たない場合は、柔軟性や溶融流動性や表層剥離の改良が十分でなく、またエステル系可塑剤(C)の配合量が上記の範囲を越えると、ブリードアウトが発生するため好ましくない。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物において、パラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイル(D)(以下、オイル(D)と呼ぶこともある)は、ポリエステルブロック共重合体(A)と水素添加されたスチレン系エラストマ(B)との合計100重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは3〜50重量部を配合される。オイル(D)の配合量が上記の範囲に満たない場合は、柔軟性の改良が十分でなく、またオイル(D)の配合量が上記の範囲を越えると、ブリードアウトが発生するため好ましくない。
【0034】
上記(B),(C),(D)の化合物をポリエステルブロック共重合体(A)に配合する方法については特に限定されるものではなく、ポリエステルブロック共重合体に重合反応終了直後の溶融状態で混合する方法、および生成したポリエステルブロック共重合体チップに配合し、加熱溶融混合する方法などが挙げられるが、なかでもエステル系可塑剤(C)をポリエステルブロック共重合体(A)に予め配合させ、別途、オイル(D)を水素添加されたスチレン系エラストマ(B)に予め配合させ、次いで、それらを含む材料を溶融混合する方法が、特に好ましく用いられる。
【0035】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、公知のヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系、アミン系などの酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系などの耐光剤、染料や顔料などの着色剤、酸化チタン、カーボンブラックなどの紫外線遮断剤、ガラス繊維やカーボンファイバー、チタン酸カリウムウィスカーなどの補強剤、難燃剤、発泡剤、接着剤、接着助剤、蛍光剤、架橋剤、および界面活性剤などを任意に含有せしめることができる。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、射出成形などにより成形され、柔軟で、融点が高くて耐熱性に優れ、破断強度や破断伸度などの機械的物性が高く、ブリードアウトや表層剥離がなく表面外観の美しい成形品を与える。このため自動車、電子・電気機器、精密機器、一般消費財用途の各種成形品などに有用である。さらに、グリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、シートなどにも適している。
【0037】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物からなる層と硬質樹脂層とを積層させてなる複合成形体を得ることも有用である。この場合に硬質樹脂層を構成する硬質樹脂としては、複合成形体としての剛性を保持し、目的とする機械的強度を有する樹脂であれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、およびポリプロピレン樹脂などが挙げられ、これらの中でもポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PBT樹脂、PCTA樹脂が特に好ましい。
【0038】
複合成形体は、共押出成形法や二色成形をはじめとする多色射出成形法、インサート成形法によるオーバーモールドなどによって製造される。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、これらの硬質樹脂との接着性に優れていることから、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物と硬質樹脂とからなる複合成形体は、各種筐体、アンテナカバー、コネクター、グリップ、ローラー、キャスター、ホース、多層チューブなどに使用することができる。
【0039】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される物性は次のように測定した。
[融点]
差動走査熱量計(Du Pont社製DSC−910型)を使用して、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱した時の融解ピークの頂上温度を測定した。
[溶融粘度指数(MFR)]
ASTM D−1238にしたがって温度200℃、荷重2160gで測定した。
[硬度(デュロメーターA)]
ASTM D−2240にしたがって測定した。
[機械的特性]
JIS K7113にしたがって、引張破断強度と引張破断伸度を測定した。
[表層剥離]
80℃で3時間乾燥したペレットを、温度200℃で射出成形することによって、長さ115mm、幅60mm、厚さ2mmの成形品を得た。成形品の表面に表層剥離が発生していないかどうかを肉眼で観察した。
[ブリードアウト]
80℃で3時間真空乾燥した各ペレットを、温度200℃でプレス成形して、厚さ2mmのシートを作成した。このシート上に上質紙を挟み、1平方cm当たり55gの荷重をかけて40℃の恒温槽に100時間放置し、上質紙シートへの滲みだしの有無について確認した。
[参考例]
[ポリエステルブロック共重合体(A−1)の製造]
テレフタル酸208部、1,4−ブタンジオール228部、および数平均分子量約2000のエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体(EOとTHFのモル比40/60)720部を、チタンテトラブトキシド2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行った。この反応混合物に、“イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.5部を添加した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。
[ポリエステルブロック共重合体(A−2)の製造]
テレフタル酸293部、イソフタル酸85部、および1,4−ブタンジオール415部、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(数平均分子量約1400)467部を、チタンテトラブトキシド1.5部およびトリメリット酸無水物3部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、210℃で2時間30分加熱して、理論メタノール量の95%のメタノールを系外に留出させた。反応混合物に、“イルガノックス”1010を0.75部添加した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間40分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。
[ポリエステルブロック共重合体(A−3)の製造]
ジメチルテレフタレート320部、ジメチルイソフタレート93部、1,4−ブタンジオール345部、およびエチレンオキシドで末端をキャッピングしたポリ(プロピレンオキシド)グリコール(数平均分子量2200、EO含量26.8%)550部を、チタンテトラブトキシド2部およびトリメリット酸無水物3部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、210℃で2時間30分加熱して、理論メタノール量の95%のメタノールを系外に留出させた。反応混合物に“イルガノックス”1010を0.75部添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で1時間50分重合を行った。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。
【0040】
表1に、ポリエステルブロック共重合体A−1、A−2、A−3の組成と物性を示す。なお、表中、低融点重合体セグメントの種類で、EO−THFはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体を、PTMGはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを、EO−PPGは末端をエチレンオキシドでキャッピングしたポリ(プロピレンオキシド)グリコールを表し、数字は数平均分子量を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[水素添加されたスチレン系エラストマ]
下記実施例において使用した水素添加されたスチレン系エラストマの内容と商品名とを表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
[可塑剤]
下記実施例において使用した可塑剤の内容を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
[オイル]
下記実施例において使用したオイルの内容と商品名とを表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
[実施例1〜5]
参考例で得られたポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)、(A−3)に、水素添加されたスチレン系エラストマ(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)、エステル系可塑剤(C−1)、(C−2)、(C−3)、およびオイル(D−1)、(D−2)を、表5に示す配合比率(部)で、V−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いて、200℃で溶融混練し、ペレット化した。
【0049】
これらのペレットを用いて、融点、溶融粘度指数(MFR)、硬度、引張破断強度、引張破断伸度、表層剥離、ブリードアウトを評価した結果を表6に示す。
[実施例6]
参考例1で得られたポリエステルブロック共重合体(A−1)に、可塑剤(C−1)を表5に示す配合比率(部)で、V−ブレンダーを用いて混合した。一方、水素添加されたスチレン系エラストマ(B−1)に、ゴム用軟化剤(D−1)を表5に示す配合比率でV−ブレンダーを用いて混合した。以上のように各々、別個に混合したものを同一のV−ブレンダーに入れ、実施例1〜5と同様に溶融混練してペレット化し、物性を評価した結果を表5に示す。
[比較例1〜15]
ポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)、(A−3)に、水素添加されたスチレン系エラストマ(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)、エステル系可塑剤(C−1)、(C−2)、(C−3)、およびオイル(D−1)、(D−2)を、表5に示す配合比率(部)で、実施例1〜5と同様に溶融混練し、ペレット化した。実施例1〜5と同様に物性を評価した結果を表6に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6】
【0052】
[実施例7]
硬質樹脂としてPBT樹脂(東レ(株)製“トレコン”1401X06)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を、80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、実施例1で製造した配合組成物No.1を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面に表層剥離は観察されなかった。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は100Nであった。
[実施例8]
硬質樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンプラ(株)製“ユ−ピロン”S3000)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、実施例2で製造した配合組成物No.2を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面に表層剥離は観察されなかった。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は110Nであった。
[実施例9]
硬質樹脂としてABS樹脂(東レ(株)製“トヨラック”T−500)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、実施例4で製造した配合組成物No.4を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面に表層剥離は観察されなかった。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は125Nであった。
[実施例10]
硬質樹脂としてPCTA樹脂(イーストマン社製“イースター”AN004)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、実施例5で製造した配合組成物No.5を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面に表層剥離は観察されなかった。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は135Nであった。
[比較例16]
硬質樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンプラ(株)製“ユ−ピロン”S3000)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、比較例3で製造した配合組成物No.9を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面には表層剥離が観察された。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は70Nであった。
[比較例17]
硬質樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンプラ(株)製“ユ−ピロン”S3000)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、比較例4で製造した配合組成物No.10を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面には表層剥離が観察された。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は60Nであった。
[比較例18]
硬質樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンプラ(株)製“ユ−ピロン”S3000)を射出成形することにより、一次側成形品としての80mm角で厚さ2mmの角板を成形した。次に、この角板を80mm角で深さ4mmのキャビティーに装着し、比較例12で製造した配合組成物No.18を二次材料として用いて二次成形を行い、平板状の複合成形品を成形した。この複合成形品表面には表層剥離が観察された。この複合成形品を幅10mmに切断し、その一端の接合界面を一定の長さだけカッターナイフで強制剥離し、その各々の端をテンシロン引張試験機の固定具にセットして引張り、剥離強度を測定した。剥離強度は80Nであった。
【0053】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で、融点が高く耐熱性に優れ、機械的物性も高いばかりか、溶融時の流動性が良好で、表層剥離やブリードアウトのない優れた外観を有する成形品を射出成形などにより与えることができる。しかも、ポリカーボネート樹脂をはじめとする硬質樹脂との接着力が高く、手に馴染みがよく、触感に優れた複合成形体を与えることができる。
Claims (9)
- 主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10〜95重量%と、水素添加されたスチレン系エラストマ(B)90〜5重量%との合計100重量部に対し、ベンゾエート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、およびピロメリット酸エステル系可塑剤から選ばれた1種以上の化合物であるエステル系可塑剤(C)1〜100重量部と、パラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイル(D)1〜100重量部とを配合した熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
- 前記ポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a)が、ポリブチレンテレフタレート単位、またはポリブチレンテレフタレート単位とポリブチレンイソフタレート単位で構成される請求項1に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
- 前記ポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)が、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体からなり、その共重合量が40〜80重量%である請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
- 前記水素添加されたスチレン系エラストマ(B)が、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン−イソプレン/ブタジエンブロック共重合体、および水素添加スチレンブタジエンラバーから選ばれた1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
- 前記水素添加されたスチレン系エラストマ(B)が、変性されたものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
- 前記エステル系可塑剤(C)をポリエステルブロック共重合体(A)に予め配合させ、別途、前記パラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイル(D)を水素添加されたスチレン系エラストマ(B)に予め配合させ、次いで、それらを含む材料を溶融混合する請求項1〜5いずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の製造方法。
- 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
- 硬質樹脂と、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物とからなる複合成形体である請求項7に記載の成形体。
- 前記硬質樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、およびポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂から選ばれた1種以上である請求項8に記載の成形体。
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