以下、本発明のピストン装置を適用した排気熱回収装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
本実施形態の目的は、α型スターリングエンジンの作動空間内で圧縮された作動流体をピストン内部に導入し、ピストンの外周部に設けられた複数の孔からピストンとシリンダとの間のクリアランス部に噴射することで、気体軸受を構成する場合に、所定の耐圧性能(高い剛性)を確保しつつ軽量化を実現可能なピストン装置が適用されるスターリングエンジンからなる排気熱回収装置を提供することである。
本発明の他の目的は、α型スターリングエンジンの作動空間内で圧縮された作動流体をピストン内部に導入し、ピストンの外周部に設けられた複数の孔からピストンとシリンダとの間のクリアランス部に噴射することで、気体軸受を構成する場合に、上記複数の孔からピストン外周部の周方向に偏りなく均一に作動流体が噴射されることが可能なピストン装置が適用されるスターリングエンジンからなる排気熱回収装置を提供することである。
本実施形態では、特に、スターリングエンジンが例えば車両の内燃機関の排気ガスのような排熱を熱源として作動する場合には、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジンを効果的に作動させる必要があることから、ピストンの軽量化が求められている。また、本実施形態では、スターリングエンジンの装置規模(全体構成)の小型化が要求されている。特に、スターリングエンジンが例えば車両の内燃機関の排気ガスのような排熱を熱源として作動する場合には、車両の床下に配される内燃機関の排気管に隣接するスペースのように、限られた空間にスターリングエンジンを搭載しなくてはならない場合があるためである。以下に説明するスターリングエンジンでは、ピストンの軽量化と装置規模のコンパクト化が実現されている。
図3は、本実施形態のスターリングエンジンを示す正面図である。図3に示すように、本実施形態のスターリングエンジン10は、α型(2ピストン形)のスターリングエンジンであり、二つのパワーピストン20、30を備えている。二つのパワーピストン20、30は、直列並行に配置されている。低温側パワーピストン30のピストン31は、図4に示すように、高温側パワーピストン20のピストン21に対して、クランク角で90°程度遅れて動くように位相差がつけられている。
高温側パワーピストン20のシリンダ(以下高温側シリンダという)22の上部の空間(膨張空間)には、加熱器47によって加熱された作動流体が流入する。低温側パワーピストン30のシリンダ(以下低温側シリンダという)32の上部の空間(圧縮空間)には、冷却器45によって冷却された作動流体が流入する。
再生器(再生熱交換器)46は、膨張空間と圧縮空間を作動流体が往復する際に熱を蓄える。即ち、膨張空間から圧縮空間へと作動流体が流れる時には、再生器46は、作動流体より熱を受け取り、圧縮空間から膨張空間へと作動流体が流れる時には、蓄えられた熱を作動流体に渡す。
2つのピストン21、31の往復動に伴い、作動ガスの往復流動が生じて高温側シリンダ22の膨張空間と低温側シリンダ32の圧縮空間にある作動流体の割合が変化するとともに、全内容積も変わるため、圧力の変動が生じる。2つのピストン21、31がそれぞれ同位置にある場合の圧力を比較すると、膨張ピストン21についてはその上昇時より下降時の方がかなり高く、圧縮ピストン31については逆に低くなる。このため、膨張ピストン21は外部に対し大きな正の仕事(膨張仕事)を行い、圧縮ピストン31は外部から仕事(圧縮仕事)を受ける必要がある。膨張仕事は、一部が圧縮仕事に使われ、残りが駆動軸40を介して出力として取り出される。
本実施形態のスターリングエンジン10は、車両においてガソリンエンジン(内燃機関)と共に用いられてハイブリッドシステムを構成する。即ち、スターリングエンジン10は、ガソリンエンジンの排気ガスを熱源として用いる。スターリングエンジン10の加熱器47が車両のガソリンエンジンの排気管100の内部に配置され、排気ガスから回収した熱エネルギーにより作動流体が加熱されてスターリングエンジン10が作動する。
本実施形態のスターリングエンジン10は、排気管100の内部にその加熱器47が収容されるというように車両内の限られたスペースに設置されるため、装置全体がコンパクトである方が設置の自由度が増す。そのために、スターリングエンジン10では、2つのシリンダ22、32をV字形ではなく、直列並行に配置した構成を採用している。
加熱器47が排気管100の内部に配置されるに際しては、排気管100の内部において相対的に高温の排気ガスが流れる排気ガスの上流側(ガソリンエンジンに近い側)100aに、加熱器47の高温側シリンダ22側が位置し、相対的に低温の排気ガスが流れる下流側(ガソリンエンジンから遠い側)100bに加熱器47の低温側シリンダ32側が位置するように配置される。加熱器47の高温側シリンダ22側をより多く加熱するためである。
高温側シリンダ22及び低温側シリンダ32のそれぞれは、円筒状に形成されており、基準体である基板42に支持されている。本実施形態においては、この基板42が、スターリングエンジン10の各構成要素の位置基準となる。このように構成されることで、スターリングエンジン10の各構成要素の相対的位置精度が確保される。また、この基板42は、スターリングエンジン10が排熱回収対象である排気管(排気通路)100等に取り付けられるときの基準として用いられることができる。
排気管100のフランジ100fに対して、断熱材(スペーサ、図示せず)を介して、基板42が固定されている。排気管100と基板42とは、相対的位置精度が確保された状態で固定されるため、基板42は、固定的構造物として排気管100が備えた装置取付面であると捉えることができる。基板42には、高温側シリンダ22の側面(外周面)に設けられたフランジ22fが固定されている。また、基板42には、再生器46の側面(外周面)46cに設けられたフランジ46fが、断熱材(スペーサ、図示せず)を介して固定されている。また、基板42には、後述する隔壁70が固定されている。
基板42に対して、スターリングエンジン10の全ての構造部材が支持されている。このことから、基板42が排気管100内の排気ガスの熱により変形すると、その変形の影響がスターリングエンジン10の全ての構造部材に及ぶ。そのため、排気管100のフランジ100fとの間に上記断熱材を設けるとともに、シュラウド90により、排気管100内の排気ガスの熱が基板42に伝わることが最小限に抑制されている。
排気管100とスターリングエンジン10とは、基板42を介して取り付けられる。このとき、基板42と、高温側シリンダ22において加熱器47が接続される側の端面(頂部22bの上面)、及び低温側シリンダ32において冷却器45が接続される側の端面(頂面32a)とが実質的に平行になるように、スターリングエンジン10が基板42に取り付けられる。あるいは、基板42とクランクシャフト43(又は駆動軸40)の回転軸とが平行になるように、もしくは排気管100の中心軸とクランクシャフト43の回転軸とが平行になるように、スターリングエンジン10が基板42に取り付けられる。これにより、既存の排気管100に大幅な設計変更を加えることなく、容易に排気管100にスターリングエンジン10を取り付けることができる。その結果、排熱回収対象である車両の内燃機関本体の性能や搭載性、騒音等の機能を損なうことなくスターリングエンジン10を排気管100に搭載することができる。また、同一仕様のスターリングエンジン10を異なる排気管に取り付ける場合でも、加熱器47の仕様を変更するだけで対応できるので、汎用性を向上させることができる。
スターリングエンジン10は、車両の床下に配された排気管100に隣接するスペースに、横置き、即ち、車両の床面(図示せず)に対して、高温側シリンダ22及び低温側シリンダ32のそれぞれの軸線方向が概ね平行になるように配置され、2つのピストン21、31は、水平方向に往復動される。本実施形態では、説明の便宜上、2つのピストン21、31の上死点側を上方向、下死点側を下方向であるとして説明する。
作動流体は、その平均圧力が高い程、冷却器45や加熱器47による同じ温度差に対しての圧力差が大きくなるので高い出力が得られる。そのため、上記のように、高温側シリンダ22、低温側シリンダ32内の作動流体は高圧に保持されている。
ピストン(ピストン装置)21,31は、円柱状に形成されている。ピストン21、31の外周面とシリンダ22、32の内周面との間には、それぞれ数十μmの微小クリアランスが設けられており、そのクリアランスには、スターリングエンジン10の作動流体(空気)が介在している。ピストン21,31は、それぞれシリンダ22、32に対して空気軸受48により非接触の状態で支持されている。したがって、ピストン21,31の周囲には、ピストンリングは設けられておらず、また、一般にピストンリングと共に使用される潤滑油も使用されていない。但し、シリンダ22、32の内周面には、固定潤滑材が付されている。空気軸受48の作動流体の摺動抵抗は元々極めて低いが、更に低減するために、固定潤滑材が付されている。上記のように、空気軸受48は、作動流体(気体)により膨張空間、圧縮空間それぞれの気密を保ち、リングレスかつオイルレスでクリアランスシールを行う。
空気軸受48は、図1を参照して、後述するように、スターリングエンジン10の作動空間内で圧縮された作動流体をピストン21,31の内部に導入し、ピストン21,31の外周部に設けられた複数の孔からピストン21,31とシリンダ22,32との間のクリアランス部に噴射することで構成される、静圧気体軸受である。
本実施形態では、スターリングエンジン10の熱源が車両の内燃機関の排気ガスであることから、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10を効果的に作動させる必要がある。そのため、膨張空間に、なるべく高温の作動流体が流れるべく、高温側シリンダ22の頂部(上部)22b及び高温側シリンダ22の側面22cの上部が、排気管100の内部に配設されている。これにより、上死点近傍での膨張ピストン21の上部は、排気管100の内部に位置することになり、膨張ピストン21の上部が効果的に加熱される。
次に、図1及び図2を参照して、ピストン21,31の構成について詳細に説明する。
図1は、ピストン21の構成を示す正面図である。図2は、ピストン21の正断面図である。図3に示すように、ピストン21,31の大きさは異なっているが、その構造は共通である。図1及び図2では、ピストン21,31に共通の構造が示されている。以下では、図1及び図2をピストン21の構成として説明する(同様の構成のピストン31についての説明は省略する)。
ピストン21は、ピストン本体211と、そのピストン本体211の内部に形成された中空部(蓄圧室)212と、プレート213とを備えている。ピストン本体211は、上部及び下部が塞がれた円筒状に形成されている。ピストン本体211の下部には、プレート213が設けられている。プレート213には、ピストンピン60(図3)を取り付けるピン(図示せず)を通すためのピン穴(図示せず)が設けられている。
ピストン本体211は、高温側シリンダ22(図3)と摺動する側周部(摺動部)211aと、側周部211aと一体として(連続的に)蓋状に設けられた頂面部211bとを有している。頂面部211bには、高温側シリンダ22内の作動空間と中空部212とを連通する連絡流路214が形成されている。中空部212において連絡流路214に臨む位置には、逆止弁215が設けられている。
逆止弁215は、連絡流路214を通る作動流体の流れの向きを下方に向かう方向(作動空間側から中空部212に向かう方向)に限定する、作動流体導入手段/加圧状態保持手段として機能する。逆止弁215は、ピストン21の動きにより高温側シリンダ22内の作動空間の作動流体の圧力が下がったときに、中空部212内の作動流体が高温側シリンダ22内の作動空間へ逆流を防ぐために設けられている。
側周部211aには、周方向に等間隔に複数の給気孔216が設けられている。ピストン21の上昇に伴い、高温側シリンダ22の作動空間の作動流体が圧縮されて、その作動流体の圧力が中空部212の圧力より高くなると、逆止弁215が開いて、連絡流路214を介して、作動空間の作動流体の一部が中空部212に導入される。連絡流路214を介して作動流体が中空部212に導入されると、中空部212の作動流体の一部が、給気孔216を介して、ピストン21とシリンダ31との間のクリアランスに噴出する。
頂面部211bは、後述する理由から概ねフラット面に形成されている。連絡流路214は、その頂面部211bの面上において中央部に形成されている。これにより、連絡流路214と、複数の給気孔216との距離が等しくなる。作動空間の作動流体が連絡流路214を介して中空部212に導入されたときに、複数の給気孔216からそれぞれ噴射される作動流体の噴射状態(噴射量・噴射圧)が等しくなり易く、クリアランスに作動流体が噴射されるときに、周方向において噴射に関して偏りを生じるおそれが少ない。これにより、空気軸受48がより安定的に機能する。弁215などの構造物がピストン21の中央部に配置されることは、ピストン21の重心位置との関係で好ましい。特に、空気軸受48が使用されているので、ピストン21の往復運動の軌跡を直線に近似することが重要になり、そのような観点からも、弁215などの構造物がピストン21の中央部に配置されることが好ましい。
本実施形態のピストン21では、可能な限りの軽量化を実現するため、以下の特徴(1)、(2)を有している。
(1)給気孔216の近傍の部分を除いて、側周部211aの肉厚は、可能な限り薄く形成されている。中空部212の作動流体の一部が噴出する給気孔216の近傍は、側周部211aのうち、給気孔216が設けられていない部分に比べて、強度が必要とされる。このことから、側周部211aのうち給気孔216が設けられている部分(以下、厚肉部とも称する)211Pの肉厚は、上記の強度に必要な大きさに形成される。
このように、側周部211aにおいて、給気孔216の近傍の部分と、給気孔216が設けられていない部分には肉厚に差が設けられる。給気孔216の近傍以外の側周部211a(以下、薄肉部とも称する)211Qの肉厚が小さくされても、必要とされる剛性が確保されるために、次の(2)に述べるように、中空部212の圧力が高く設定されている。
(2)中空部212の作動流体の圧力は、十分に高く設定されている。中空部212において、十分に加圧された作動流体により、ピストン21の外部に対する耐圧性能が確保・維持される。これにより、ピストン本体211(特に側周部211a。給気孔216が形成された部分211Pは除く)の薄肉化が可能となり、ピストン21の軽量化が実現される。
この場合、その中空部212の作動流体の圧力は、運転開始直後に逆止弁215が開いて中空部212に高温側シリンダ22の作動空間の流体の一部が導入される前の状態(初期状態)、又は、運転中において逆止弁215が閉じている状態において、例えば、圧縮工程時の筒内圧の最大値(最大圧縮圧力、後述する)よりも僅かに低い値であることが好ましい。以下に、中空部212の作動流体の圧力と、側周部211aの肉厚との関係について説明する。
ピストン21(特に頂面部211b)には、高温側シリンダ22の膨張空間において高圧の作動流体が当たることから、ピストン21は、所定の耐圧性能(強度・剛性)を備えた耐圧容器であることが要求される。ここで、側周部211aを薄肉化(軽量化)することによって、ピストン21の耐圧性能が、本来必要とされる所定値を下回ることは許されない。ピストン21の耐圧性能が所定値を下回り、作動流体の圧力によって、ピストン本体211が変形するとすると、空気軸受48のための微小クリアランスが維持できなくなる。
また、側周部211aを薄肉化(軽量化)することによって、仮に側周部211aが剛性不足となり、小さな衝撃により変形したり、製作工程で扱い難く製作誤差が生じるとすると、空気軸受48のための微小クリアランスが維持できなくなる。
そこで、本実施形態のピストン21では、中空部212に対し、加圧された作動流体がが封入されている。ピストン21の外部に対する耐圧性能が、中空部212に封入された作動流体により確保・維持されるので、ピストン本体211(特に側周部211a。給気孔216が形成されている部分を除く)の薄肉化が可能となり、ピストン21の軽量化が実現される。
中空部212に封入される作動流体の圧力は、作動流体の最大圧縮圧力よりも僅かに低い値とされることが望ましい。図4は、高温側ピストン21の頂面位置と低温側ピストン31の頂面位置の変化を示している。上述したように、低温側ピストン31は、高温側ピストン21に対して、クランク角で90°遅れて動くように位相差がつけられている。
図4において、高温側ピストン21の波形と、低温側ピストン31の波形の合成波Wが筒内圧を示している。図4において、符号Pmaxは、圧縮工程時の筒内圧の最大値(最大圧縮圧力)を示している。ピストン21の作動時、ピストン本体211には、最大で、最大圧縮圧力Pmaxが作用する。そのため、中空部212に対し、作動流体の最大圧縮圧力Pmaxよりも僅かに低い圧力の作動流体を封入しておくことにより、ピストン本体211に最大圧縮圧力Pmaxよりも所定値以上低い筒内圧(中空部212の圧力よりも低い圧力)が作用している場合(ピストン21が圧縮工程時の上死点近傍にあるとき以外)には、ピストン本体211は、筒内圧に対して十分な耐圧性能(剛性)を有することになる。これにより、ピストン本体211(特に、側周部211aのうち給気孔216が形成された部分以外)の肉厚は、筒内圧に対する耐圧性能の確保を考慮することなく、薄く形成することができ、軽量化が実現される。
中空部212に対し、作動流体の最大圧縮圧力Pmaxよりも僅かに低い圧力の作動流体が封入されている場合の動作は、次の通りである。即ち、圧縮工程時において、ピストン21が上死点近傍の位置にあるときに、中空部212の圧力よりも高温側シリンダ22の作動空間の圧力が上回って、逆止弁215が開いて連絡流路214から作動空間の作動流体の一部が導入されるとともに、中空部212の作動流体の一部が給気孔216からピストン21の外部に噴出され、また、ピストン21が上記位置にあるとき以外は、中空部212の圧力の方が高温側シリンダ22の作動空間の圧力よりも高く、逆止弁215は閉じられていることになる。
但し、中空部212に対して作動流体の最大圧縮圧力Pmaxよりも十分に低い圧力の作動流体が封入されていても、ピストン本体211が作動空間の作動流体に対して十分な耐圧性能を有する場合がある。例えば、作動流体の圧力を直接受ける頂面部211bが、機械的構造物として、十分な強度・剛性を有するように構成されていれば、中空部212に作動流体の最大圧縮圧力Pmaxよりも十分に低い作動流体が封入されている場合であっても、十分な耐圧性能を有することになる。
ピストン21の外周面において、給気孔216が形成された箇所には、ピストン21の周方向全周に亘って凹部217が形成されている。複数の給気孔216は、ピストン21の周方向全周に亘って形成された凹部217に形成されているので、複数の給気孔216から中空部212の作動流体の一部が噴射されると、全周方向に亘る凹部217内の圧力が直ちに平衡(バランス)する。このことから、複数の給気孔216からの作動流体の噴射状態にばらつきが生じたときでも、直ちに凹部217の圧力が平衡するので、周方向において、クリアランス(ピストン21の外周面と高温側シリンダ22の内周面との距離)の大きさにばらつきが生じることが抑えられる。
凹部217は、側周部211aの上記の薄肉部(給気孔216の形成位置の近傍の上記の厚肉部211P以外)211Qが中空部212の圧力によって、径方向外側に膨らむことによって、膨らまない厚肉部211Pとの間に生じた段差として形成されることができる。中空部212の圧力によって、薄肉部211Qが径方向外側に膨らむ量を調整しすることで、所望のクリアランスを得ることができる。これに代えて、側周部211aの上記薄肉部211Qが膨らむこととは無関係に(膨らむ場合と膨らまない場合のいずれをも含む)、凹部217が形成されている構成でもよい。
給気孔216は、ピストン21の上下方向の長さの中間位置を挟んで上下に少なくとも1つずつ(図2では2つずつ、計4つが図示されている)設けられている。高温側シリンダ22内でピストン21の位置をバランスさせるために有効である。
上記のように、本実施形態では、側周部211aのうち、複数の給気孔216が形成された列部分(厚肉部211P)のみを肉厚にして強度を確保し、その他(薄肉部211Q)はできるだけ薄肉にして軽量化を図りつつ、中空部212に内圧をかけることで、剛性を満足させる。
ピストン本体211の頂面部211bには、高温側シリンダ22の膨張空間において作動流体の圧力を直接受ける。このことから、頂面部211bに対して、より高い耐圧性能を付与すべく、頂面部211bの肉厚は、側周部211aに比べて厚く形成されている。頂面部211bは、後述する理由からフラット面に形成される。また、上記のように側周部211aと頂面部211bには肉厚に差がある。
上記のことから、側周部211aと頂面部211bとの間は(境界部、角部)211cは、丸みをつけるように(円弧状となるように)形成されるとともに、その肉厚が徐々に変化する(特に頂面部211b側において比較的大きな変化をする)ように構成される。境界部211c(頂面部211bの周縁部)に丸みをつけるとともに、肉厚を徐々に変化させるのは、エッジの部分を無くして、応力集中を防ぐためである。
上記において、頂面部211bがフラット面に形成されているのは、高温側シリンダ22の上部(頂面22a側の端面)22bがフラット面に形成されていることに合わせたものである。即ち、ピストン21の圧縮工程時に高温側シリンダ22の頂面22aとの間にデッドボリュームが形成されないようにするためである。次に、高温側シリンダ22の上部22bがフラット面に形成されている理由について説明する。
本実施形態では、スターリングエンジン10の熱源が車両の内燃機関の排気ガスであることから、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10を効果的に作動させる必要がある。ここで、排気管100内を流れる排気ガスの流動抵抗の増大や、よどみの発生を抑制するため、高温側シリンダ22の上部22bがフラット面に形成されている。即ち、排気ガスが、排気管100の延在方向(図中左右方向)に沿うように直線状に円滑に流れるようにするため、高温側シリンダ22の頂部22bは、排気管100の延在方向に平行なフラット面に形成されている。
加熱器47は、複数の伝熱管(管群)47tを有し、それらの複数の伝熱管47tが概ねU字形の形状に形成されてなるものである。各伝熱管47tの第1端部47aが高温側シリンダ22の上部(頂面22a側の端面)22bに接続されている。複数の伝熱管47tの第1端部47aがそれぞれ概ね同一面(フラット面)上に配置されるように設けられている。その概ねフラット面上に配される複数の伝熱管47tの第1端部47aは、それぞれ、概ねフラット面に形成された高温側シリンダ22の上部22bに接続される。これらのことから、複数の伝熱管47tの第1端部47a側の加工及び接続作業が容易となる。一方、各伝熱管47tの第2端部47bが再生器46の上部(加熱器47側の端面)46aに接続されている。上記のように、加熱器47が概ねU字形に形成されている理由については後述する。
再生器46は、蓄熱材(マトリックス、図示せず)と、その蓄熱材が収容される再生器ハウジング46hとを備えている。再生器ハウジング46hは、低温側シリンダ32の上部と概ね同じ断面形状を有する概ね円柱状の蓄熱材を収容する。そのため、再生器ハウジング46hは、低温側シリンダ32の上部の断面形状と概ね同じ形の底面及び上面を有する円筒形(中空円柱状)に形成されている。
再生器46の側面(外周面)46cには、フランジ46fが設けられており、そのフランジ46fが断熱材を介して基板42に固定されている。再生器46では、蓄熱材として、積層された金網(積層形材料)が用いられている。金網は、作動流体が流れる方向に沿って積層され、複数の金網が互いに熱伝達を起こし難い状態で設けられている。
作動流体が膨張空間から圧縮空間へと流れるときに、蓄熱材が作動流体から受熱する場合、まず上記積層された複数の金網のうち最も加熱器47に近い最上部の金網が受熱することで作動流体の温度が低下し、次に加熱器47に近い金網が受熱することで作動流体の温度が更に低下し、更に次に加熱器47に近い金網が受熱することで更に作動流体の温度が低下するというように、再生器46において上方から下方に向けて金網の層を通過する度に、作動流体の温度が低下していく。
再生器46には、上述した機能から、以下の条件が要求される。即ち、伝熱性能と蓄熱容量が高く、流動抵抗(流動損失、圧力損失)が小さいことのほか、作動流体の流れ方向の熱伝導率が小さく、温度勾配を大きくとれることが要求される。このことから、複数の金網同士の間の熱伝導は極力小さいことが求められる。その金網の材料は、ステンレス鋼であることができる。
排気管100の内部に配置された再生器46においては、再生器ハウジング46hの作動流体の流れ方向への熱伝導の悪影響を抑制する必要性が非常に高い。このことから、本実施形態では、再生器ハウジング46hに、シュラウド90が設けられている。シュラウド90は、排気管100の内部の熱(例えば約600〜800℃)が、再生器ハウジング46hに伝達されないようにすることを目的としている。この場合、シュラウド90は、特に、再生器ハウジング46hの上面46aを除く面(側面46c及びフランジ46f)に伝達されないようにすることを目的としている。
なお、上記において、膨張ピストン21の上下方向の長さが圧縮ピストン31に比べて大きく形成され、また、高温側シリンダ22の上下方向の長さが低温側シリンダ32に比べて大きく形成されている理由は、以下の通りである。
スターリングエンジン10の効率の低下を抑制するため、高温側パワーピストン20における膨張空間以外の空間及び低温側のパワーピストン30における圧縮空間以外の空間、即ち、高温側パワーピストン20及び低温側のパワーピストン30のそれぞれにおけるクランクシャフト43の周辺の空間は、常温に保たれる必要がある。そのため、膨張空間の高温の作動流体がクランクシャフト43の高温側パワーピストン20側の周辺の空間に流入したり、圧縮空間の低温の作動流体がクランクシャフト43の低温側のパワーピストン30側の周辺の空間に流入することがないように、高温側シリンダ22と膨張ピストン21とのシール及び低温側シリンダ32と圧縮ピストン31とのシールが確実に行われる必要がある(後述のように、そのシールには空気軸受48が使用されている)。
一方で、上記のように、膨張空間を高温にすべく、高温側シリンダ22の頂部22b及び側面22cの上部は、排気管100の内部に収容されるため、高温側シリンダ22の上部及び膨張ピストン21の上部が熱膨張する。高温側シリンダ22及び膨張ピストン21のそれぞれの上部の熱膨張する部分では、シールが確実に行えないおそれがある。このことから、本実施形態では、膨張ピストン21及び高温側シリンダ22の上下方向の長さを長く設定し、これにより、膨張ピストン21の上下方向に温度勾配を持たせて、熱膨張の影響を受けない部分(膨張ピストン21の下部)にてシールが確実に行えるようにしている。また、高温側シリンダ22と膨張ピストン21との間は、膨張ピストン21の下部(熱膨張の影響を受けない部分)にてシールされるので、そのシール部の移動距離を十分に確保して膨張空間を十分に圧縮するために、高温側シリンダ22の上下方向の長さが長く設定されている。
次に、冷却器45の構成について説明する。
図3においては、冷却器45の複数の伝熱管45tのうち一部の伝熱管45tのみが図示され、それ以外の伝熱管45tの図示は省略されている。
再生器46と低温側シリンダ32との間には、上記隔壁(部材)70が設けられている。隔壁70は、熱伝導率の低い材質で形成されている。隔壁70において、低温側シリンダ32の軸線方向(上下方向)の長さ寸法は、後述する伝熱管45tの引き回しの機能を果たすために十分な大きさを確保しつつなるべく小さく設計されている。スターリングエンジン10の小型化に寄与するためである。
上記のように、隔壁70は、基板42に固定されている。隔壁70の上面70aは、再生器46の下面(加熱器47側の上記端面46aと反対側の端面)46bに、直接接触するように設けられている。隔壁70の下面70bは、低温側シリンダ32の頂面32aを兼ねている。隔壁70の側面(外周面)70cには、冷却器45のクーラ容器45cが固定されている。
冷却器45は、水冷の多管式熱交換器(shell-and-tube exchanger, tubular exchanger)により構成されている。冷却器45は、複数の伝熱管(管群)45tと、クーラ容器45cとを有している。冷却器45の複数の伝熱管45tの大部分は、クーラ容器45cに収容されている。伝熱管45tのクーラ容器45cに収容された部分は、クーラ容器45cに供給された冷却水(冷媒)Wと接触し、これにより、伝熱管45tを流れる作動流体が冷却される。
上記のように、クーラ容器45cは、隔壁70の外周面70cに固定されている。クーラ容器45cは、外周面70cの周方向に亘ってリング状に設けられている。このクーラ容器45cは、低温側シリンダ32の外周部32kの上部(圧縮空間に対応する部分)を周方向に囲むようなリング状に形成されている。クーラ容器45cは、低温側シリンダ32の外周部32kの周方向の全周に亘って設けられている。または、これに代えて、クーラ容器45cは、低温側シリンダ32の外周部32kの周方向の一部を囲むように設けられることができる。
次に、ピストン・シリンダのシール構造及びピストン・クランク部の機構について説明する。
上記のように、スターリングエンジン10の熱源が車両の内燃機関の排気ガスであることから、得られる熱量に制約があり、その得られる熱量の範囲でスターリングエンジン10を作動させる必要がある。そこで、本実施形態では、スターリングエンジン10の内部フリクションを可能な限り低減させることとしている。本実施形態では、スターリングエンジンの内部フリクションのうち最も摩擦損失が大きいピストンリングによる摩擦損失を無くすため、ピストンリングを使用せずに、その代わりに、シリンダ22、32とピストン21、31との間には、それぞれ空気軸受(エアベアリング)48が設けられる。
空気軸受48は、摺動抵抗が極めて小さいため、スターリングエンジン10の内部フリクションを大幅に低減させることができる。空気軸受48を用いても、シリンダ22、32とピストン21、31との間の気密は確保されるため、高圧の作動流体が膨張・収縮の際に漏れるという問題は生じない。
空気軸受48は、シリンダ22、32とピストン21、31の間の微小なクリアランスで発生する空気の圧力(分布)を利用して,ピストン21、31が空中に浮いた形となる軸受である。本実施形態の空気軸受48では、シリンダ22、32とピストン21、31との間の直径クリアランスは数十μmである。空中に物体を浮上させる空気軸受を実現するに際しては、上記静圧気体軸受が適用される。静圧気体軸受とは、加圧流体を噴出させ、発生した静圧によって物体(本実施形態ではピストン21、31)を浮上させるものである。
また、空気軸受48を使用することで、ピストンリングで用いる潤滑油が不要となるので、潤滑油によりスターリングエンジン10の熱交換器(再生器46,加熱器47)が劣化するという問題が発生しない。
空気軸受48を用いて、ピストン21、31をシリンダ22、32内で往復運動させる際には、直線運動精度を空気軸受48の直径クリアランス未満にしなくてはならない。また、空気軸受48の負荷能力が小さいため、ピストン21、31のサイドフォースを実質的にゼロにしなくてはならない。即ち、空気軸受48は、シリンダ22、32の直径方向(横方向,スラスト方向)の力に耐える能力(耐圧能力)が低いため、シリンダ22、32の軸線に対するピストン21、31の直線運動精度が高い必要がある。特に、本実施形態で採用する、微小クリアランスの空気圧を用いて浮上させて支持するタイプの空気軸受48は、高圧の空気を吹き付けるタイプに比べても、スラスト方向の力に対する耐圧能力が低いため、その分だけ高いピストンの直線運動精度が要求される。
上記の理由から、本実施形態では、ピストン・クランク部にグラスホッパの機構(近似直線リンク)50を採用する。グラスホッパの機構50は、他の直線近似機構(例えばワットの機構)に比べて、同じ直線運動精度を得るために必要な機構のサイズが小さくて済むため、装置全体がコンパクトになるという効果が得られる。特に、本実施形態のスターリングエンジン10は、自動車の排気管の内部にその加熱器47が収容されるというように限られたスペースに設置されるため、装置全体がコンパクトである方が設置の自由度が増す。また、グラスホッパの機構50は、同じ直線運動精度を得るために必要な機構の重量が他の機構よりも軽量で済むため、燃費の点で有利である。さらに、グラスホッパの機構50は、機構の構成が比較的簡単であるため、構成(製造・組み立て)し易い。
図5は、スターリングエンジン10のピストン・クランク機構の概略構成を示している。本実施形態において、ピストン・クランク機構は、高温側パワーピストン20側と低温側パワーピストン30側とで共通の構成を採用しているため、以下では、低温側パワーピストン30側についてのみ説明し、高温側パワーピストン20側についての説明は省略する。
図5及び図3に示すように、圧縮ピストン31の往復運動は、コネクティングロッド109によって駆動軸40に伝達され、ここで、回転運動に変換される。コネクティングロッド109は、図5に示す近似直線機構50によって支持されており、低温側シリンダ32を直線状に往復運動させる。このように、コネクティングロッド109を近似直線機構50によって支持することにより、圧縮ピストン31のサイドフォースFがほとんどゼロになるので、負荷能力の小さい空気軸受48によって十分に圧縮ピストン31を支持することができる。
次に、上記のように、加熱器47が概ねU字形(カーブ形状)に形成される理由について説明する。
スターリングエンジン10の熱源は、上記のように車両のガソリンエンジンの排気ガスであり、スターリングエンジンに専用に用意された熱源ではない。そのため、それほど高い熱量が得られるわけではなく、排気ガスの例えば約800℃程度の熱量でスターリングエンジン10が作動する必要がある。そのために、スターリングエンジン10の加熱器47は排気管100内の排ガスから効率的に受熱する必要がある。
加熱器47、再生器46、冷却器45からなる熱交換器の体積は、出力に直接的には関与しない無効容積となっており、熱交換器の体積が増えると、スターリングエンジン10の出力が減少する。一方で、熱交換器の体積をコンパクトにすると、その分、熱交換が困難となり受熱量が減少し、スターリングエンジン10の出力が減少する。これらのことから、無効容積の減少と受熱量の増加とを両立させるためには、熱交換器の効率を上げる必要がある。そのために、加熱器47は効率的に受熱する必要がある。
熱源の種類を問わず、その熱源から効率的に受熱し、かつ効率的に熱交換するためには、加熱器は、熱エネルギーを受熱するための伝熱面積がなるべく大きく、かつ冷却器が受熱しない場所に配置可能であるという意味において、上記実施形態の構成が望ましい。
特に、排熱を利用する場合には熱エネルギーは管を介して排ガスとして供給される場合が殆どであることとも相俟って、例えば管の内部のように受熱可能な領域が限定されている場合に、伝熱面積が極力大きく、かつ冷却器が受熱しない場所に配置される構成としては、上述したスターリングエンジン10の構成が優れている。以下に、スターリングエンジン10の構成の技術的意義について更に述べる。
無効容積部分(冷却器、再生器、加熱器)が小さい方が良いことは前述の通りであるが、無効容積部分に湾曲した形状を有している場合、湾曲部の数が多いと流路抵抗が大きくなり、また湾曲部の曲率が小さいと流路抵抗は大きくなる。即ち、作動流体の圧力損失を考慮すると、湾曲部の数は単一であり曲率は大きい方が良い。この点に関し、加熱器47は概ねU字形であり、湾曲形状となっているが、湾曲部の数は1つである。また、冷却器45は、スターリングエンジン10の小型化(上下寸法の短縮)のために、湾曲部を有した構成とされており、上記のような特徴を有する構成とされている。
また、図3に示すように、上記実施形態の無効容積部分の曲率に関しては、直列並行に配置された2つのシリンダ22、32の上部同士を連結し、かつ排気管100の内部において作動流体の流動抵抗の増大を抑制すべく概ね同一面上に設定された高温側シリンダ22の頂部22b及び再生器46の上面46aと、排気管100の上部内面との間の上下方向の高さと、加熱器47の端部47a、47bと中央部47cの最上部との間の高さが概ね同じ高さhになる構成に合わせて、その曲率(カーブ形状)が設定されている。排気管100の内部のような限定された空間内で排気ガスのような流体の熱源との接触面積を大きく確保するためには、上記のようなカーブ形状が望ましい。
以上の観点からすると、無効容積部分のうち加熱器は、その全体が排気管の内部のような熱源からの熱を受ける限定された空間(受熱空間)内に収容されるとともに、その受熱空間内で、熱源からの伝熱面積を最大限に確保可能でかつ流路抵抗が最小となるように、例えばU字形やJ字形のようなカーブ形状に構成されるのがよい。
再生器46は、作動流体の流路抵抗を最小限にしつつ配置するために、低温側シリンダ32の延在方向(軸線方向)に沿って(同一軸線上に)直線状に構成される。このように、加熱器47の第2端部47bに連結される再生器46は、低温側シリンダ32の延在方向に沿って設けられる。加熱器47の第1端部47aは、高温側シリンダ22の上部に隙間無く接続される。これらのことから、少なくとも加熱器47の第1端部47a及び第2端部47b側には、それぞれ高温側シリンダ22、低温側シリンダ32の延在方向に沿う部分を有し、加熱器47の中央部47cは、上述したようなカーブ形状を有する場合が多いことになる。
上述した技術的理由から、加熱器47は、直列並行に配置された2つのシリンダ22,32間で、途中で方向変換(ターン)する形状に構成されている。加熱器47は、直列並行に配置された2つのシリンダ22,32間を連結する曲線部分とを有している。
以上に述べた各実施形態では、スターリングエンジン10は、車両の内燃機関の排ガスを熱源とすべく排気管100に取り付けた構成について説明した。但し、本発明のスターリングエンジンは、車両の内燃機関の排気管に取り付けられる形式のものに限定されるものではない。
なお、上記においては、ピストン装置がスターリングエンジンのピストンに適用された例を用いて、その構成、作用、効果を説明したが、そのピストン装置は、スターリングエンジンのピストン以外の外燃機関に対する用途にも容易に適用可能であり、適用された場合には、上記と同様の有用性を有する。